説明

画像形成装置及び該画像形成装置に対する帯電バイアスキャリブレーション方法

【課題】クリーニングブレードの損傷を好適に抑止する画像形成装置及び帯電バイアスキャリブレーション方法を提供することが課題である。
【解決手段】像担持体と、像担持体にトナーを供給するトナー供給部と、帯電バイアスが与えられる帯電部材と、像担持体の面に残留するトナーを除去するクリーニングブレードと、直流電圧と交流電圧を重畳させてなる帯電バイアスを印加する高圧発生回路と、交流電圧のピーク間電圧を所定の値に制御する電圧制御手段と、帯電バイアスのキャリブレーション制御を行なう制御手段を備え、帯電部材により帯電された像担持体の帯電周面の少なくとも一部がトナーに覆われた状態で、帯電周面を前記クリーニングブレードに向かわせることを特徴とする画像形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ、複写機、ファクシミリ装置、これらの機能を併せ持つ複合機などの画像形成装置の像担持体上の残留トナーを除去するクリーニングブレードを損傷させることなく、像担持体表面を均一に帯電させるための帯電バイアス(振動電圧)を定める帯電バイアスキャリブレーションを実行する画像形成装置及び帯電バイアスキャリブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタ、複写機、ファクシミリ装置、これらの機能を併せ持つ複合機などの画像形成装置の像担持体表面を帯電させる手法として、接触帯電方式が数多く採用されている。接触帯電方式は、ローラ型或いはブレード型等の帯電部材を像担持体表面に接触配置又は近接配置し、帯電部材に、直流電圧と交流電圧が重畳された帯電バイアスを印加し、像担持体表面を均一に帯電させる手法である。接触帯電方式は、低圧プロセスであり、オゾンの発生量を削減できるとともに、低コストに実現可能であるという利点を備える。
【0003】
特許文献1は、印加される交流電圧と帯電電位の関係を開示する。特許文献1は、帯電バイアスを構成する交流電圧のピーク間電圧値を昇圧させると、像担持体の帯電バイアスが、交流電圧値の増加に対して、比例して増加すること並びに帯電バイアスを構成する直流電圧による帯電開始電圧の約2倍の電圧にピーク間電圧値が達すると、帯電電位が飽和し、ピーク間電圧を更に昇圧させても、帯電電位が変化しないことを開示する。特許文献1は、帯電の均一性を確保するためには、像担持体の諸特性等により決定される直流電圧印加時の帯電開始電圧の2倍以上のピーク間電圧を有する帯電バイアスを印加する必要があると結論付けるとともに、帯電バイアスの印加により得られる帯電バイアスは、印加電圧の直流成分に依存するということに言及する。
【0004】
特許文献1の示唆に基づき、接触帯電方式に用いられる帯電部材には、変曲点(交流電圧のピーク間電圧をそれ以上昇圧しても、帯電電位が変化しない値)以上の値にピーク間電圧の設定がなされた帯電バイアスの印加がなされる。
【0005】
変曲点は、帯電部材の抵抗値、使用環境(温度等)及び経時変化などの諸条件により変動する。変曲点を超えるピーク間電圧が増加すると、逆放電による放電量が増加し、像担持体上に付着する放電生成物(NOxなど)の量が増加することとなる。この結果、像担持体表面の動摩擦抵抗が増大し、トナーのすり抜け(クリーニング不良)やブレードの捲れなどの不具合を引き起こすこととなる。これらの不具合を防止するため、帯電バイアスのキャリブレーションと呼ばれるバイアス制御を実行し、ピーク間電圧を必要最低限の電圧値(変曲点以上且つ変曲点近傍の電圧値)に設定している。
【0006】
特許文献2は、帯電バイアスキャリブレーションの一実施例を開示する。特許文献2の帯電バイアスキャリブレーションは、電流検出手段を用いて、像担持体と帯電部材間の直流電流値を検出する段階と、検出される直流電流値が所定値以下になるまで、ピーク間電圧を徐々に増加させ、目標電圧を決定する段階を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−149668号公報
【特許文献2】特開2008−216753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の帯電バイアスキャリブレーションは、目標電圧を定めるために、ピーク間電圧を、変曲点を超える値にする段階を含む。この段階を実行している間、一時的に過剰放電を生じ、像担持体周面の一部の領域に過剰な放電生成物が付着することとなる。この結果、過剰な放電生成物が付着した領域の動摩擦係数は増加し、クリーニングブレードのエッジが損傷する(例えば、エッジの欠損やブレードの捲れなど)という問題を招来することとなる。
【0009】
低温環境下で、特許文献2の帯電バイアスキャリブレーションを実行する場合には、帯電部材の抵抗値が、常温時と比べて、高くなるため、帯電バイアスキャリブレーションに用いられるピーク印加電圧は、通常よりも高めに設定される。このため、帯電バイアスキャリブレーションに温度センサが用いられるが、温度センサが検出する温度と、帯電部材の実際の温度に差異を生じ、帯電部材の実際の温度が検出温度よりも高い場合には、上述したピーク間電圧の過剰印加の問題は更に顕著となる。
【0010】
本発明は、上述した問題を鑑みてなされたものであり、帯電バイアスキャリブレーションを実行している間の過剰なピーク間電圧の印加に起因するクリーニングブレードの損傷を好適に抑止する画像形成装置及び帯電バイアスキャリブレーション方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成する本発明の一局面に係る画像形成装置は、像担持体と、該像担持体近傍に配される現像ローラを介して、前記像担持体にトナーを供給するトナー供給部と、前記像担持体に接触又は近接して配置され、帯電バイアスが与えられる帯電部材と、前記像担持体の面に残留するトナーを除去するクリーニングブレードと、直流電圧と交流電圧を重畳させてなる帯電バイアスを印加する高圧発生回路と、前記交流電圧のピーク間電圧を所定の値に制御する電圧制御手段と、帯電バイアスのキャリブレーション制御を行なう制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記電圧制御手段に、前記交流電圧のピーク間電圧を変化させながら、前記高圧発生回路から前記帯電バイアスを前記帯電部材に対して印加させ、更に、前記制御手段は、前記像担持体を回転させるとともに、前記トナー供給部に前記像担持体へのトナーの供給を開始させ、前記帯電部材により帯電された前記像担持体の帯電周面の少なくとも一部が前記トナーに覆われた状態で、前記帯電周面を前記クリーニングブレードに向かわせることを特徴とする(請求項1)。上記構成において、前記現像ローラがバイアスを印加するバイアス印加手段を備え、該バイアス印加手段が、前記現像ローラに現像バイアスを印加することにより、前記トナーが前記像担持体に供給される(請求項2)。
【0012】
上記構成によれば、像担持体に供給されたトナーが、帯電バイアスキャリブレーションの間に生じた一時的な過剰なピーク間電圧に起因する高い動摩擦係数の領域を覆うため、クリーニングブレードと像担持体の間の摩擦力が低減し、好適に、クリーニングブレードの損傷を防止することができる。
【0013】
上記構成において、画像形成装置は、電流検出手段を更に備え、該電流検出手段が、前記帯電バイアスが印加されている間、前記像担持体と前記帯電部材間を流れる直流電流を検出する(請求項3)。この構成において、前記電圧制御手段が、メモリを備え、該メモリ内に、予め定められた第1のピーク間電圧の値と、第2のピーク間電圧の値と、第3のピーク間電圧の値を格納し、前記第1のピーク間電圧の値及び前記第2のピーク間電圧の値は、所定の基準ピーク間電圧の値よりも低い値であり、前記第3のピーク間電圧の値は、前記基準ピーク間電圧よりも高い値である(請求項4)。尚、所定の基準ピーク間電圧を、例えば、像担持体の帯電電位を飽和させるピーク間電圧とすることができる。また、前記電圧制御手段のメモリは、互いに異なる複数の温度に対応する複数の前記第1のピーク間電圧の値、前記第2のピーク間電圧の値及び前記第3のピーク間電圧の値を格納する(請求項5)。
【0014】
上記構成において、前記帯電部材の温度を検出するとともに該検出された温度に対応する信号を前記電圧制御手段に送信する検出センサを更に備え、前記電圧制御手段は、前記検出センサからの信号に基づき、前記検出センサが検出した温度に対応する前記第1のピーク間電圧の値、前記第2のピーク間電圧の値及び前記第3のピーク間電圧の値を読み出す段階と、前記帯電キャリブレーションの間、前記交流電圧のピーク間電圧を、前記読み出された第1のピーク間電圧の値、前記読み出された第2のピーク間電圧の値、前記読み出された第3のピーク間電圧に変化させる段階を実行し、前記電流検出手段が、前記第1のピーク間電圧の交流電圧を含む帯電バイアスを印加している間の第1の直流電流の値と、前記第2のピーク間電圧の交流電圧を含む帯電バイアスを印加している間の第2の直流電流の値と、前記第3のピーク間電圧の交流電圧を含む帯電バイアスを印加している間の第3の直流電流の値を検出する(請求項6)。
【0015】
上記構成において、目的とする帯電バイアスを算出する手法は、様々であるが、ある特定の構成では、前記電流検出手段が、前記電圧制御手段に、前記第1の直流電流の値に関する信号と、前記第2の直流電流の値に関する信号と、前記第3の直流電流の値に関する信号を送信し、前記電圧制御手段が、前記読み出された第1のピーク間電圧、前記読み出された第2のピーク間電圧、前記送信された前記第1の直流電流の値に関する信号及び前記第2の直流電流の値に関する信号に基づき、回帰直線を算出する段階と、該算出された回帰直線の値が、前記第3の直流電流の値と等しくなるピーク間電圧の値を算出する段階を実行する(請求項7)。この特定の構成において、前記電圧制御手段が、前記回帰直線に基づき算出されたピーク間電圧の値に所定の補正値を加算する段階と、前記所定の補正値を加算して得られたピーク間電圧の値を帯電バイアスとして、前記メモリに記憶させる段階を実行する(請求項8)。
【0016】
本発明の他の曲面に係る帯電バイアスキャリブレーション方法は、所定の基準ピーク間電圧よりも低いピーク間電圧を有する第1の交流電圧と直流電圧を重畳させてなる第1の帯電バイアスを、前記像担持体に接触又は近接して配置される帯電部材に印加する段階と、前記第1の交流電圧のピーク間電圧とは異なるピーク間電圧であるとともに前記基準ピーク間電圧よりも低いピーク間電圧を有する第1の交流電圧と前記直流電圧を重畳させてなる第2の帯電バイアスを前記帯電部材印加する段階と、前記基準ピーク間電圧よりも高いピーク間電圧を有する第3の交流電圧と前記直流電圧を重畳させてなる第3の帯電バイアスを前記帯電部材に印加する段階と、前記第1の帯電バイアス、前記第2の帯電バイアス及び前記第3の帯電バイアスを印加している間、前記帯電部材により帯電された前記像担持体の面にトナー層を形成する段階と、前記トナー層に前記像担持体と該像担持体の面に残留するトナーを除去するクリーニングブレードの間に供給する段階からなることを特徴とする(請求項9)。上記構成によれば、像担持体に供給されたトナーが、帯電バイアスキャリブレーションの間に生じた一時的な過剰なピーク間電圧に起因する高い動摩擦係数の領域を覆うため、クリーニングブレードと像担持体の間の摩擦力が低減し、好適に、クリーニングブレードの損傷を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
上述の如く、本発明に係る画像形成装置並びに帯電バイアスキャリブレーション方法は、好適にクリーニングブレードの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用したデジタル複写機の外観図である。
【図2】本発明を適用したデジタル複写機の内部構造を示す概略図である。
【図3】デジタル複写機の制御手段のブロック構成図である。
【図4】本発明を適用した帯電制御装置のブロック構成図である。
【図5】帯電バイアスキャリブレーションに用いる交流電圧波形の一例を示す図である。
【図6】帯電バイアスキャリブレーションの一例を示すフローチャートである。
【図7】図6に示す帯電バイアスキャリブレーションを実行した後の像担持体を概略的に示す図である。
【図8】初期電圧調整手段95による割込み作動について説明するためのフローチャートである。
【図9】初期電圧調整手段95による割込み作動について説明するためのフローチャートである。
【図10】図6に示す帯電バイアスキャリブレーションを実行して得られたキャリブレーション曲線を示す図である。
【図11】帯電バイアスキャリブレーション曲線を利用して、目標とするピーク間電圧値を決定する手法を説明する図である。
【図12】初期電圧調整手段のメモリ内に構築されたデータ構造を示す図である。
【図13】図11に関連して説明する帯電バイアスキャリブレーションのフローチャートである。
【図14】図13に関連して説明する帯電バイアスキャリブレーションを実行した後の像担持体を概略的に示す図である。
【図15】トナー層の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の例示的な実施例を詳しく説明する。尚、本発明の一実施形態として、以下の説明では、デジタル複写機を示すが、本発明は、これに限定されるものではなく、プリンタ、ファクシミリ装置、これらの機能を併せ持つ複合機などの他の画像形成装置にも適用可能である。
【0020】
図1は、デジタル複写機の斜視図である。図2は、デジタル複写機の内部構造を概略的に示す図である。デジタル複写機1は、原稿として用いられる用紙をセットする原稿載置部2と、原稿から読み込んだデータを電子データに変換する画像読取部3と、画像読取部3によって電子データに変換された画像データに基づいて用紙上にトナー像を形成して出力する画像形成部4と、用紙上に出力されたトナー像を加熱して用紙上に定着させる定着部5と、用紙を搬送する搬送部6と、夫々異なるサイズまたは種類の用紙が収容された複数の給紙カセット7(7a〜7d)及び機械左側部に設けられた手差し給紙口(図示せず)と、各種のメニューを設定する複数のメニュー設定キー等が配置された操作部8を備える。
【0021】
画像形成部4は、像担持体41と、像担持体41に接触配置されるとともに帯電処理を実行する帯電部材42と、帯電された像担持体41を露光し、静電潜像を形成するプリントヘッド43と、像担持体41に形成された静電潜像にトナーを静電付着させ、トナー像を顕像化する現像部44(現像ローラ)と、内部に充填されたトナーを現像部44へ供給するトナーカートリッジ45と、現像されたトナー像を用紙に転写する転写部46と、転写の後に像担持体41に残留するトナーを除去並びに回収するクリーナ部47(クリーニングブレード)と、像担持体41表面の残留電位を落とすとともに均一化する除電ランプ48を備える。尚、像担持体41は、アルミニウム製シリンダの表面に正帯電性光導電体であるアモルファスシリコン層が蒸着された感光体を有する感光体ドラムからなり、駆動装置(図示せず)により中心支軸を中心に回転駆動される。また、帯電部材42は、帯電ローラであり、芯金421と、芯金421を被覆するエピクロルヒドリンゴム層422から構成される。尚、エピクロルヒドリンゴム層422は、導電性を有する弾性層である。トナーカートリッジ45は、交換ユニットであり、トナーが消費されたときに、新たなトナーカートリッジ45に交換される。画像形成部4は、更に、帯電制御装置9を備える。帯電制御装置9は、帯電部材42に接続する。帯電制御装置9は、帯電部材42に電圧を印加することで、像担持体41の帯電を制御する役割を担う。
【0022】
図3は、デジタル複写機1の制御手段を示す概略的なブロック線図である。デジタル複写機1は、画像読取部3による原稿やデータに対する読取動作を制御する画像読取制御手段100と、デジタル複写機1のシステムを統括するとともに、画像形成部4、定着部5、搬送部6及び給紙カセット7を制御する画像出力制御手段200と、操作部8の入出力信号を制御する操作制御手段300を備える。
【0023】
制御手段100、200、300それぞれは、単一または複数の制御基板と、制御基板に固定された単一または複数のCPUと、CPUにより実行される制御プログラム等が格納されたROMと、制御データを格納するRAMと、制御対象である各種の負荷に信号を出力し、各種のセンサからの検出値を入力する入出力インタフェース回路を備える。各CPUは相互にシリアル通信ライン400により接続され、分散型の制御システムが構築される。各CPUにより実行される制御プログラム及び関連するハードウェアにより、デジタル複写機1に画像形成動作を実行させるための所定の機能が実現される。
【0024】
図4は、帯電制御装置9の構成を示す概略図である。帯電制御装置9は、像担持体41に接触配置された帯電部材42に、直流電圧と交流電圧が重畳された帯電バイアスを印加する高圧発生回路91と、像担持体41と帯電部材42間の直流電流値を検出する電流検出手段92と、交流電圧のピーク間電圧値Vppを目標電圧に制御する電圧制御手段96を備える。
【0025】
電圧制御手段96は、初期電圧調整手段95と、交流電圧手段94と、直流電圧制御手段93を備える。高圧発生回路91は、直流電圧電源911と、交流電圧電源912を備える。直流電圧電源911は、直流電圧制御手段93の制御下において、パルストランス(図示せず)により、任意の直流電圧を出力する。また、交流電圧電源912は、交流電圧制御手段94の制御下において、パルストランス(図示せず)により、交流電圧を出力する。交流電圧電源912からの交流電圧は、所定周波数の正弦波からなり、任意のピーク間電圧値Vppを有することができる。
【0026】
電流検出手段92は、高圧発生回路91から帯電部材42に印加された帯電バイアスにより発生する像担持体41と帯電部材42との間に流れる直流電流値を検出する。
【0027】
電圧制御手段96は、交流電圧のピーク間電圧値Vppを目標電圧に制御する。電圧制御手段96は、上述の如く、直流電圧を制御する直流電圧制御手段93と、交流電圧を制御する交流電圧制御手段94と、初期電圧調整手段95を備える。初期電圧調整手段95は、電流検出手段92により検出された直流電流値の増加量が所定値以下となるまで、ピーク間電圧を次第に上昇させ、目標電圧を求める役割を担う。直流電圧制御手段93は、初期電圧調整手段95によって指示された値の直流電圧を、帯電部材42に印加させるように直流電圧電源911を制御する。交流電圧制御手段94は、初期電圧調整手段95によって指示された値のピーク間電圧値Vppの交流電圧を、帯電部材42に印加させるように交流電圧電源912を制御する。なお、電圧制御手段96の機能は、画像出力制御手段200において、制御プログラムが実行されることによって実現されている。
【0028】
以下、初期電圧調整手段95について詳述する。初期電圧調整手段95は、デジタル複写機1への電源投入時または省電力モードからの復帰時に作動する。初期電圧調整手段95は、操作制御手段300から電源投入された旨の信号または省電力モードから復帰した旨の信号を受け取ると、直流電圧制御手段93を制御し、所定の直流電圧を高圧発生回路91から出力させる。ここで、所定の直流電圧とは、デジタル複写機1の組立時において、デジタル複写機1に搭載される像担持体41の帯電電位が所定値(例えば、300V)となるように調整した場合の直流電圧値(例えば、400V)である。
【0029】
図5は、初期電圧調整手段95による制御下で、高圧発生回路91から出力される交流電圧の一例を示す図である。初期電圧調整手段95は、操作制御手段300から電源投入された旨の信号または省電力モードから復帰した旨の信号を受け取ると、交流電圧制御手段94を制御し、所定の交流電圧を高圧発生回路91から出力させる。ここで、所定の交流電圧とは、図5に示す如く、時間経過に伴い、ピーク間電圧値Vpp(正弦波の振幅に相当する電圧値)の値が増加していく交流電圧である。例えば、所定の交流電圧は、ピーク間電圧値Vppを400Vから1500Vまで100Vずつ増加させながら、各ピーク間電圧値Vppの交流電圧が0.5秒間出力されるような交流電圧である。
【0030】
初期電圧調整手段95は、交流電圧制御手段94を制御し、ピーク間電圧値Vppを次第に増加させる。また、各値のピーク間電圧値Vppが帯電部材42に印加されたときの直流電流値を電流検出手段92から受け取る。更に、受け取った直流電流値の増加量が所定値以下となったとき、初期電圧調整手段95は、所定値以下の増分を生じさせたピーク間電圧を目標電圧に定める。
【0031】
初期電圧調整手段95は、検出された直流電流値を、画像出力制御手段200に設けられているRAMに記憶させる。電流検出手段92から送られてきた最新の直流電流値と、RAMに記憶されているそれまで最新であった直流電流値との差分を算出する。初期電圧調整手段95によって算出された差分が予め設定された所定値以下となった場合、電圧制御手段96は、最新の直流電流値を検出した時のピーク間電圧値Vppを新たなピーク間電圧値Vppに定める。新たに定められたピーク間電圧Vppは、その後、帯電制御装置9が、帯電部材42に帯電バイアスを印加する際の目標電圧値となる。この目標電圧値は、RAMに記憶される。なお、初期電圧調整手段95は、目標電圧値を記憶する際に、計算誤差等を考慮して、上述した目標電圧値より所定割合(例えば5〜10%)だけ大きいピーク間電圧値Vppを目標電圧値として記憶することもできる。一方、初期電圧調整手段95によって算出された差分が、予め設定された値より大きい場合、電圧制御手段96は、算出された差分が予め設定された値以下となるまで、または、ピーク間電圧値Vppが最大値(本実施形態では、上述した所定の交流電圧の最大値である1500V)より大きくなるまで、直流電圧制御手段93と交流電圧制御手段94を制御し、帯電バイアスの印加を続行させる。
【0032】
デジタル複写機1への電源投入時または省電力モードからの復帰時において、初期電圧調整手段95は、上述の如く、作動する。
【0033】
図4に示す如く、デジタル複写機1は、環境センサ10を備える。図4に示す例では、環境センサ10は、帯電部材42の上方に配されるが、本実施例はこれに限定されるものではなく、帯電部材42の環境温度及び環境湿度を検出することができる任意の位置(帯電部材42の近傍位置)に配される。環境センサ10が検出する環境温度並びに環境湿度が所定の大きさの範囲であり、且つ、初期電圧調整手段95により求められた目標電圧が所定の電圧以上である場合には、画像形成動作中に、初期電圧調整手段95が割込み作動する。
【0034】
初期電圧調整手段95の割込み作動は、画像形成動作中に所定のインターバルを以って実行される。また、画像形成動作が所定時間継続すると、初期電圧調整手段95の割込み作動は終了する。
【0035】
初期電圧調整手段95の割込み作動が実行されるとき、初期電圧調整手段95は、デジタル複写機1の電源投入時または省電力モードからの復帰時に行なわれる目標電圧を求める処理中に、環境センサ10によって検出された温度が予め設定された範囲(本実施例では15度以下)、且つ、環境センサ10によって検出された湿度が予め設定された範囲(本実施例では60%RH以上)であるか否かを判断する。
【0036】
上述の条件が満たされている場合、初期電圧調整手段95は、特殊モード予備フラグを立てる。特殊モード予備フラグは、例えば、画像出力制御手段200のRAMに割り当てられた所定アドレスを0から1に変化させることによって立てられる。一方、上述の条件が満たされていない場合、初期電圧調整手段95は、特殊モード予備フラグを立てない。
【0037】
特殊モード予備フラグが立てられ、デジタル複写機1の電源投入時または省電力モードからの復帰時に行なわれる目標電圧を求める処理の結果、画像出力制御手段200に設けられているRAMに記憶された目標電圧値が予め設定された値(例えば、本実施例では1400V)以上であるとき、初期電圧調整手段95は、特殊モードフラグを立てる。特殊モードフラグは、特殊モード予備フラグと同様、画像出力制御手段200のRAMに割り当てられた所定アドレス(但し前記特殊モード予備フラグとは異なるアドレス)を0から1に変化させることによって立てられる。なお、特殊モード予備フラグは、特殊モードフラグが立てられた後に、初期電圧調整手段95よって下ろされる(1から0へ戻される)。一方、目標電圧値が予め設定された値である1400V未満である場合、または、特殊モード予備フラグが立てられていない場合、初期電圧調整手段95は特殊モードフラグを立てない。
【0038】
特殊モードフラグが立てられているとき、初期電圧調整手段95は、デジタル複写機1の画像形成動作中に割込み作動して、特殊モードの動作を実行させる。一方、特殊モードフラグが立てられていないとき、初期電圧調整手段95によって特殊モードの動作が実行させられることはなく、画像出力制御手段200によって通常の画像形成動作が実行される。
【0039】
特殊モードフラグが立てられた状態で画像形成動作が始まると、初期電圧調整手段95は、一定時間毎(本実施例では60秒毎)に、画像出力制御手段200に中断信号を送り、画像出力制御手段200の制御下にある画像形成動作を中断させる。その後、デジタル複写機1の電源投入時または省電力モードからの復帰時と同様に、初期電圧調整手段95は、目標電圧を求める処理を実行する。
【0040】
目標電圧を求める処理の実行が終了すると、初期電圧調整手段95は、新たに求められた目標電圧値が予め設定された値(例えば、本実施形態では1400V)以上である場合は、特殊モードフラグを立てられた状態を維持し、画像出力制御手段200に画像形成動作を再開させる。画像出力制御手段200によって再開された画像形成動作は、特殊モードフラグが立てられている状態であるので、初期電圧調整手段95によって60秒後に再び中断させられる。一方、新たに求められた目標電圧値が予め設定された値(例えば、本実施例では1400V)未満である場合は、初期電圧調整手段95は、特殊モードフラグを下ろし(1から0へ戻す)、画像出力制御手段200に画像形成動作を再開させる。
【0041】
上述の画像形成動作の中断を伴う目標電圧を求める処理が所定回数(例えば、本実施例では10回)、即ち、合計で10分間繰り返された場合には、初期電圧調整手段95は特殊モードフラグを強制的に下ろし、画像出力制御手段200による画像形成動作を中断または再開させる。
【0042】
図6は、帯電バイアスキャリブレーションを実行し、帯電バイアスを決定する工程を説明するフローチャートである。デジタル複写機1の電源が投入されるとき或いはデジタル複写機1が省電力モードから復帰すると(S100)、操作制御手段300は、画像出力制御手段200に帯電バイアスキャリブレーションを開始させるトリガー信号を送信する。画像出力制御手段200が画像形成部4を動作させ、像担持体41が回転する(S101)。同時に或いはその後、画像出力制御手段200は、現像部44が備えるバイアス用電源に作動信号を送信し、バイアス用電源が、現像ローラに現像バイアスを印加する。これにより、現像部44からトナーを像担持体41に付着させる(S102)。尚、このとき、画像出力制御手段200は、転写部46が備えるバイアス用電源に作動信号を送信し、転写部46のバイアス用電源は、転写部に通常印字時の逆の極性バイアスを印加する。これにより、像担持体41に付着したトナーがクリーナ部47に到達することとなる。初期電圧調整手段95は、直流電圧制御手段93と交流電圧制御手段94を制御し、直流電圧電源911から直流電圧を出力するとともに交流電圧電源912から所定のピーク間電圧値Vpp(初期値)の交流電圧を出力し、帯電部材42にこれら直流電圧及び交流電圧を重畳させてなる帯電バイアスを印加する(S103)。尚、図2に示す如く、現像部44は、像担持体41の回転方向において、帯電部材42よりも下流に位置するので、帯電バイアスの印加が、現像バイアスの印加よりも前に行なわれてもよい。ただし、この場合には、帯電バイアスの印加がなされた像担持体41の周面領域が、現像部44を通過する前に、現像バイアスの印加がなされる。
【0043】
電流検出手段92は、帯電バイアスの印加によって帯電部材42に流れる直流電流値を検出し、検出された直流電流値を初期電圧調整手段95に送る(S104)。初期電圧調整手段95は、送られてきた直流電流値と以前に送られてきて記憶されている直流電流値との差分を算出する(S105)。
【0044】
初期電圧調整手段95において算出された差分が予め設定された所定値(例えば略零以下)となった場合(S106)、初期電圧調整手段95は、送られてきた直流電流値を検出した時のピーク間電圧値Vppを目標電圧値として記憶する(S107)。一方、初期電圧調整手段95において算出された差分が所定値より大きく(S106)、送られてきた直流電流値を検出した時のピーク間電圧値Vppが最大値(例えば1500V)以下である場合は(S108)、初期電圧調整手段95は交流電圧制御手段94を制御し、ピーク間電圧値Vppを一定値(例えば、100V)増加させ(S109)、増加したピーク間電圧値Vppを用いて、帯電部材42に帯電バイアスを印加させる(S110)。初期電圧調整手段95において算出された差分が所定値より大きく(S106)、送られてきた直流電流値を検出した時のピーク間電圧値Vppが最大値(例えば1500V)より大きい場合(S108)は、初期電圧調整手段95は、例えば、操作制御手段300を制御し、デジタル複写機1の操作部8に設けられた液晶タッチパネル等へ警告メッセージを表示させた後、処理を終了する(S111)。
【0045】
図7は、図6に示すフローチャートに従い目標電圧値を定める工程において、最初に帯電バイアスを印加された像担持体41上の領域が、クリーナ部47に到達した状態を示す模式図である。図7中、符号410で示す領域は、帯電部材42により帯電された像担持体41の周面領域である。図7中、符号411で示す層は、現像部44からのトナーが像担持体41の周面上に形成したトナー層である。上述の如く、帯電部材42により帯電された先頭の領域が、現像部44を通過する前に、現像バイアスが印加され、像担持体41周面上にトナー層411が形成される。したがって、トナー層は、帯電部材42により帯電された領域を被覆する。この結果、帯電部材42により帯電された領域が、クリーナ部47を通過するとき、クリーナ部47と像担持体41の間には、トナー層411が存在することとなる。トナー層411は、潤滑層としての役割を果たす。したがって、帯電バイアスの印加に起因して像担持体41周面の動摩擦係数が局所的に増加したとしても、動摩擦係数が高い領域をトナー層が被覆するため、クリーナ部47の損傷が防止されることとなる。
【0046】
図8及び図9は、初期電圧調整手段95による割込み作動を示すフローチャートである。デジタル複写機1の電源投入時又はデジタル複写機1が省電力モードから復帰すると(S200)、初期電圧調整手段95は、環境センサ10によって検出された温度が予め設定された範囲、且つ、環境センサ10によって検出された湿度が予め設定された範囲であるか否かを判断する(S201)。検出された温度並びに湿度がともに予め設定された範囲内の値であるとき、初期電圧調整手段95は、特殊モード予備フラグを立てる(S202)。
【0047】
その後、図6に示すフローチャートを用いて説明された目標電圧算出処理が行なわれ(S203)、初期電圧調整手段95は、ステップS203で求められた目標電圧値が所定値以上であるか否かを判断する(S204)。求められた目標電圧値が予め設定された値(例えば、1400V)以上であり、且つ、ステップS202にて特殊モード予備フラグが立てられている場合は、初期電圧調整手段95は、特殊モードフラグを立てる(S205)。
【0048】
デジタル複写機1が、画像形成動作を開始していない場合(S206)、デジタル複写機1の電源がオフされるかデジタル複写機1が省電力モードになると(S207)、デジタル複写機1の電源が投入されるかデジタル複写機1が省電力モードから復帰したときにステップS200からの処理が再度繰り返される。
【0049】
一方、デジタル複写機1が画像形成動作を開始している場合(S206)であって、且つ、特殊モードフラグが立てられていない場合には(S208)、画像出力制御手段200によって通常の画像形成動作が実行される(S213)。デジタル複写機1が画像形成動作を開始している場合(S206)であって、且つ、特殊モードフラグが立てられている場合には(S208)、初期電圧調整手段95によって画像形成動作の中断がなされ、ステップS203と同様の目標電圧算出処理が行なわれる(S210)。
【0050】
初期電圧調整手段95は、ステップS210における目標電圧算出処理で求められた目標電圧値が1400V未満である場合(S211)、特殊モードフラグを下ろし(S212)、画像出力制御手段200に画像形成動作を再開させる(S213)。
【0051】
一方、ステップS210における目標電圧算出処理で求められた目標電圧値が1400V以上であるが(S211)、60秒間の画像形成動作の実行回数が10回に達していない場合は(S214)、初期電圧調整手段95は、画像出力制御手段200に60秒間の画像形成動作を実行させる(S209)。なお、初期電圧調整手段95は、実行回数を1カウント増加させて記憶しておく。
【0052】
ステップS210における目標電圧算出処理で求められた目標電圧値が1400V以上であり(S211)、且つ、ステップS209における60秒間の画像形成動作の実行回数が10回に達している場合は(S214)、初期電圧調整手段95は、特殊モードフラグを下ろしてから(S215)、例えば、操作制御手段300を制御して、デジタル複写機1の操作部8に設けられた液晶タッチパネル等へ警告メッセージを表示させて処理を終了する(S216)。
【0053】
図10は、上述の如く、交流ピーク間電圧値Vppを変化させて得られたキャリブレーション曲線を示すグラフであり、横軸は、交流ピーク間電圧Vppを示し、縦軸は、直流電流検出値を示す。図10に示す曲線のうち、低い交流ピーク間電圧Vppでの直流電流検出値の増加を示す曲線は、23℃の温度環境下で得られた曲線であり、高い交流ピーク間電圧Vppでの直流電流検出値の増加を示す曲線は、10℃の温度環境下で得られた曲線である。図10に示すキャリブレーション曲線は、例えば、交流電圧電源912の出力信号、電流検出手段92の出力信号並びに環境センサ10の出力信号を、メモリ等の適切な記憶媒体或いはプロッタ等の記録媒体に出力することにより得ることができる。図10に示す例では、23℃の環境下において、直流電流検出値の曲線は、約1000Vの交流ピーク間電圧で変曲点を迎え、10℃の環境下において、約1600Vの交流ピーク間電圧で変曲点を迎えることが分かる。
【0054】
図11は、図6に関連して詳述した目標電圧算出手法よりも簡便に目標電圧を算出する手法を説明する図である。図10に示すようなキャリブレーション曲線が得られている場合或いは各環境温度に関して、直流電流検出値の増加率の減少が開始するピーク間電圧Vppの大凡の値(即ち、変曲点)が経験則上判明している場合(即ち、像担持体41の帯電電位が飽和するピーク間電圧Vppの値が予測できる場合)、目標とするピーク間電圧Vppを簡単に定めることができる。まず、変曲点に対応する交流ピーク間電圧Vfを下回る2つの電圧値V1及びV2並びに交流ピーク間電圧Vfを上回る1つの電圧値V3を任意に定める。図11に示す例では、交流ピーク間電圧Vfを下回る2つの電圧値V1は、電圧値V2よりも低い交流ピーク間電圧である。尚、キャリブレーション曲線が既に得られている場合には、直流電流検出値の増加率が略一定になっている交流ピーク間電圧の範囲から電圧値V1及びV2を決定することが好ましい。
【0055】
画像出力制御手段200を用いて、画像形成部4の像担持体41を回転させながら、現像バイアスを印加し、像担持体41周面上へのトナー層の形成を開始する。トナー層を形成しながら、更に、初期電圧調整手段95の制御下で、選択されたピーク間電圧V1,V2,V3を有する交流電圧成分を含む帯電バイアスを帯電部材42に印加する。その後、選択されたピーク間電圧V1,V2,V3により生じる帯電部材42と像担持体41間の直流電流I1,I2,I3を、電流検出手段92を用いて、それぞれ検出する。尚、図11に示す例において、直流電流I1は、ピーク間電圧V1に対応し、直流電流I2は、ピーク間電圧V2に対応し、直流電流I3は、ピーク間電圧V3に対応する。この操作により、2次元座標中に点P1(V1,I1)、P2(V2,I2)を定めることができる。ここで、点P1、P2を通過する一次関数F(Vpp)を算出し、関数F(Vpp)の値が、I3となるピーク間電圧Vgを算出する。更に、使用したキャリブレーション曲線と、交流電圧Vpp−直流電流検出値間の実際の関係との誤差を考慮し、得られたピーク間電圧Vgに任意の補正値ΔV(例えば、100V)を足し、これを目標とする帯電バイアスVtとすることができる。
【0056】
図12は、初期電圧調整手段95のメモリ内に格納されたデータ構造を示す。初期電圧調整手段95内には、複数の温度に対応する3つのピーク間電圧値V1,V2,V3が格納されている。図12に示す例においては、10℃の温度に対応するキャリブレーション曲線に基づき定められた3つのピーク間電圧と23℃の温度に対応するキャリブレーション曲線に基づき定められた3つのピーク間電圧が示されている。環境センサ10により、帯電部材42の温度が検出され、検出された温度に対応する信号が初期電圧調整手段95に送られると、初期電圧調整手段95は、メモリ内のデータ構造を参照し、メモリに格納されたデータ構造から対応する3つの温度を読み出す。例えば、環境センサ10が、23℃の温度を検出すると、初期電圧調整手段95は、23℃の温度に対応するピーク間電圧V1(500V)、V2(800V)、V3(1400V)を読み出す。初期電圧調整手段95は、これら読み出された3つの電圧を順次印加するように交流電圧制御手段94に信号を送る。この結果、500Vのピーク間電圧の交流電圧成分を有する帯電バイアス、800Vのピーク間電圧の交流電圧成分を有する帯電バイアス及び1400Vのピーク間電圧の交流電圧成分を有する帯電バイアスが、順次、帯電部材42に印加されることとなる。その後、図11に関連して説明した原理に基づき、目標電圧の決定がなされる。
【0057】
図13は、図11に関連した目標電圧算出手法を用いた場合のデジタル複写機1の作動を示すフローチャートである。デジタル複写機1の電源が投入されるとき或いはデジタル複写機1が省電力モードから復帰すると(S300)、操作制御手段300は、画像出力制御手段200に帯電バイアスキャリブレーションを開始させるトリガー信号を送信する。環境センサ10が帯電部材42の温度を検出し、検出された温度に係る信号を初期電圧調整手段95に送信する(S301)。初期電圧調整手段95は、図12に関連して説明したように、メモリ内のデータ構造を参照し、印加される3つのピーク間電圧V1,V2,V3を決定する(S302)。その後、画像出力制御手段200が画像形成部4を動作させ、像担持体41が回転する(S303)。同時に或いはその後、画像出力制御手段200は、現像部44が備えるバイアス用電源に作動信号を送信し、バイアス用電源が、現像ローラに現像バイアスを印加する。これにより、現像部44からトナーを像担持体41に付着させる(S304)。尚、このとき、画像出力制御手段200は、転写部46が備えるバイアス用電源に作動信号を送信し、転写部46のバイアス用電源は、転写部に通常印字時の逆の極性バイアスを印加する。これにより、像担持体41に付着したトナーがクリーナ部47に到達することとなる。初期電圧調整手段95は、直流電圧制御手段93と交流電圧制御手段94を制御し、直流電圧電源911から直流電圧を出力するとともに交流電圧電源912から、ステップ302で決定された3つのピーク間電圧値Vppの交流電圧を、順次、出力し、帯電部材42にこれら直流電圧及び交流電圧を重畳させてなる帯電バイアスを印加する(S305)。尚、図2に示す如く、現像部44は、像担持体41の回転方向において、帯電部材42よりも下流に位置するので、帯電バイアスの印加が、現像バイアスの印加よりも前に行なわれてもよい。ただし、この場合には、帯電バイアスの印加がなされた像担持体41の周面領域が、現像部44を通過する前に、現像バイアスの印加がなされる。
【0058】
電流検出手段92は、帯電バイアスの印加によって帯電部材42に流れる直流電流値を検出し、検出された直流電流値を初期電圧調整手段95に送る(S306)。初期電圧調整手段95は、図11に関連した手法を用いて、目標とするピーク間電圧値(目標電圧値)を決定する(S307)。
【0059】
決定された目標電圧値が、ピーク間電圧Vppに割り当てられた最大値(例えば1500V)以下である場合は(S308)、決定された目標電圧値は、初期電圧調整手段95のメモリ内に記憶される(S309)。一方、決定された目標電圧値が、ピーク間電圧Vppに割り当てられた最大値(例えば1500V)を超える場合(S308)、初期電圧調整手段95は、例えば、操作制御手段300を制御し、デジタル複写機1の操作部8に設けられた液晶タッチパネル等へ警告メッセージを表示させた後、処理を終了する(S310)。
【0060】
図14は、図13に示すフローチャートに従い目標電圧値を定める工程を完了した状態を示す概略図である。図14に示す例において、帯電部材42により帯電された像担持体41上の3つの領域410が示されている。図14中、符号411で示す層は、現像部44からのトナーが像担持体41の周面上に形成したトナー層である。上述の如く、帯電部材42により帯電された先頭の領域が、現像部44を通過する前に、現像バイアスが印加され、像担持体41周面上にトナー層411が形成される。したがって、トナー層は、帯電部材42により帯電された領域を被覆する。この結果、帯電バイアスが印加された領域が、クリーナ部47を通過するとき、クリーナ部47と像担持体41の間には、トナー層411が存在することとなる。トナー層411は、潤滑層としての役割を果たす。したがって、帯電バイアスの印加に起因して像担持体41周面の動摩擦係数が局所的に増加したとしても、動摩擦係数が高い領域をトナー層が被覆するため、クリーナ部47の損傷が防止されることとなる。また、図7に示す例と比較すると明らかであるが、図13に示す手順に従って目標電圧を決定した場合、異なる大きさのピーク間電圧を用いて帯電された領域は3つしか存在せず、これら領域を被覆するトナーの量を格段に低減させることが可能となる。
【0061】
図11乃至図14に関連して説明した実施例において、帯電部材42の温度を利用して、目標値とするピーク間電圧Vppを決定したが、帯電部材42の温度に代えて、帯電部材42周囲の湿度に基づいても、同様の手法を採用することができる。或いは、帯電部材42の温度及び帯電部材42周囲の湿度を用いて、3次元系のキャリブレーション曲線を利用することや3次元のデータ構造を用いることも、本実施形態に含まれる。
【0062】
(試験例1)
図15は、トナー層411の効果を示す図である。図15(a)は、図13に示すフローチャート中、現像バイアス印加を行なわず、トナー層411を形成することなく帯電バイアスキャリブレーションを実行したときの像担持体41の回転トルクの変動を示し、図15(a)は、図13に示すフローチャートに示す手順に完全にしたがって、帯電バイアスキャリブレーションを実行したときの像担持体41の回転トルクの変動を示す。尚、像担持体41の回転トルクは、像担持体41の駆動モータの電流値として測定された。
【0063】
本試験例において、像担持体は、帯電バイアスキャリブレーションを実行している間、300mm/secの線速度で回転された。また、本試験例に用いられたクリーニングブレードは、新品のものであり、反発弾性率15%、硬度73度、300%モジュラス500kgf/cm、tanδピーク温度9℃の特性を有していた。更に、逆放電を生じやすい環境とすべく、10℃の低温環境にて、本試験例は実行された。3つのピーク間電圧V1,V2,V3はそれぞれ、800V、1300V、2200Vとされ、各ピーク間電圧を用いた帯電バイアスの各印加時間は、400msecとされた。
【0064】
現像バイアスの印加時間は、50msecに設定された。また、トナー層411を形成するときの、トナーの消費量は、0.20mg/cmであり、この消費量は、通常の印字時のトナーの消費量の約半分の値であった。したがって、図15(b)に示す試験例に用いられたトナーの総消費量は、8.9mg(0.20mg/cm×300mm/sec×50msec×用紙幅(A3)297mm)であった。
【0065】
図15(a)を参照すると、トナー層411が形成されない場合には、変曲点を超えるピーク間電圧の交流電圧成分を含む帯電バイアスが印加されると、像担持体41の回転トルクが顕著に増大することが分かる。このことは、変曲点を超えるピーク間電圧の交流電圧成分を含む帯電バイアスが印加された結果、像担持体41上に放電生成物が付着したことを意味する。また、放電生成物が像担持体41の周面の動摩擦係数を増大させ、クリーニングブレード47と像担持体41間に生ずる摩擦抵抗力を増加させたことを意味する。このことは、同時に、クリーニングブレード47に対して、物理的な負荷(応力)が生じていることを意味する。一方、図15(b)を参照すると、図15(a)で観察されたような、像担持体41の回転トルクの増大は観察されない。このことは、トナー層411が、帯電部材42により帯電された像担持体41の周面領域を好適に被覆するとともに、潤滑層として機能していることを意味する。
【0066】
(試験例2)
本試験例では、図15(a)に関連して説明したトナー層411を形成せずに帯電バイアスキャリブレーションを複数回実行した後の全面ハーフ濃度画像の画像不良発生と、図15(b)に関連して説明したトナー層411を形成し、帯電バイアスキャリブレーションを複数回実行した後の全面ハーフ濃度画像の画像不良発生を比較した。表1に試験結果を示す。尚、画像不良は、帯電バイアスキャリブレーションの各実施回数において、3枚の画像を確認することにより判定された。
【0067】
【表1】

【0068】
トナー層411を形成しない場合、帯電バイアスキャリブレーションを5回以上実行すると、画像不良が現れた。帯電バイアスキャリブレーションを5回実施した後、画像を確認すると、2枚目の途中から、1本の縦筋画像が現れた。帯電バイアスキャリブレーションを10回実施した後では、2本の縦筋画像を確認することができ、帯電バイアスキャリブレーションを15回実施した後では、4本の縦筋画像を確認することができた。一方、トナー層411を形成した場合では、縦筋画像に係る画像不良は確認されなかった。
【0069】
上記の画像不良の原因を検証するために、帯電バイアスキャリブレーションを5回繰り返し、1本の縦筋画像を確認した後に、クリーニングブレードのエッジを、顕微鏡を用いて観察した。この結果、長さ約100μm、深さ約25μmの欠けが確認された。このことから、上述した高い動摩擦係数の領域が、クリーニングブレード47に損傷を与えることが分かる。また、トナー層411が好適に、クリーニングブレード47の損傷を防止していることが分かる。
【0070】
上述の実施例では、像担持体41として、アルミニウム製シリンダの表面に正帯電性光導電体であるアモルファスシリコン層が蒸着された感光体を有する感光体ドラムを採用したが、感光体が有機光導電体であるOPCドラムや、感光体がセレンなどであるその他の種類の光導電性半導体ドラムを採用する構成であってもよい。
【0071】
更に、上述の実施例では、帯電部材42が芯金421に導電性のある弾性材料であるエクロルヒドリンゴム層422を被覆した帯電ローラとして構成したものを説明したが、ファーブラシ・フェルト・布などの形状・材質のもので構成したものであってもよい。また、上述の実施形態では、帯電部材42は像担持体41に接触配置されている構成について説明したが、前記帯電部材42は前記像担持体41に近接配置されている構成であってもよい。
【0072】
上述の実施例では、電流検出手段92が高圧発生回路91の外部に備えられた構成について説明したが、高圧発生回路91の内部に備えられた構成であってもよい。
【0073】
上述の実施例では、帯電バイアスの交流電圧の波形は正弦波であるものについて説明したが、矩形波や、三角波、パルス波等であってもよい。
【0074】
なお、上述の実施例は何れも本発明の一実施例に過ぎず、上述の記載により本発明の範囲が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、上記したデジタル複写機の他、プリンタ、複写機、ファクシミリ装置、これらの機能を併せ持つ複合機などの各種の画像形成装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1・・・・・デジタル複写機(画像形成装置)
10・・・・環境センサ(検出センサ)
41・・・・像担持体
42・・・・帯電部材
44・・・・現像部(現像ローラ)
47・・・・クリーニングブレード
91・・・・高圧発生回路
92・・・・電流検出手段
96・・・・電圧制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体と、
該像担持体近傍に配される現像ローラを介して、前記像担持体にトナーを供給するトナー供給部と、
前記像担持体に接触又は近接して配置され、帯電バイアスが与えられる帯電部材と、
前記像担持体の面に残留するトナーを除去するクリーニングブレードと、
直流電圧と交流電圧を重畳させてなる帯電バイアスを印加する高圧発生回路と、
前記交流電圧のピーク間電圧を所定の値に制御する電圧制御手段と、
帯電バイアスのキャリブレーション制御を行なう制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記電圧制御手段に、前記交流電圧のピーク間電圧を変化させながら、前記高圧発生回路から前記帯電バイアスを前記帯電部材に対して印加させ、更に、前記制御手段は、前記像担持体を回転させるとともに、前記トナー供給部に前記像担持体へのトナーの供給を開始させ、
前記帯電部材により帯電された前記像担持体の帯電周面の少なくとも一部が前記トナーに覆われた状態で、前記帯電周面を前記クリーニングブレードに向かわせることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記現像ローラがバイアスを印加するバイアス印加手段を備え、
該バイアス印加手段が、前記現像ローラに現像バイアスを印加することにより、前記トナーが前記像担持体に供給されることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記画像出力制御手段が、電流検出手段を更に備え、
該電流検出手段が、前記帯電バイアスが印加されている間、前記像担持体と前記帯電部材間を流れる直流電流を検出することを特徴とする請求項1又は2記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記電圧制御手段が、メモリを備え、
該メモリ内に、予め定められた第1のピーク間電圧の値と、第2のピーク間電圧の値と、第3のピーク間電圧の値を格納し、
前記第1のピーク間電圧の値及び前記第2のピーク間電圧の値は、所定の基準ピーク間電圧の値よりも低い値であり、
前記第3のピーク間電圧の値は、前記基準ピーク間電圧よりも高い値であることを特徴とする請求項3記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記電圧制御手段のメモリは、互いに異なる複数の温度に対応する複数の前記第1のピーク間電圧の値、前記第2のピーク間電圧の値及び前記第3のピーク間電圧の値を格納することを特徴とする請求項4記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記画像出力制御手段が、前記帯電部材の温度を検出するとともに該検出された温度に対応する信号を前記電圧制御手段に送信する検出センサを更に備え、
前記電圧制御手段は、前記検出センサからの信号に基づき、前記検出センサが検出した温度に対応する前記第1のピーク間電圧の値、前記第2のピーク間電圧の値及び前記第3のピーク間電圧の値を読み出す段階と、
前記帯電キャリブレーションの間、前記交流電圧のピーク間電圧を、前記読み出された第1のピーク間電圧の値、前記読み出された第2のピーク間電圧の値、前記読み出された第3のピーク間電圧に変化させる段階を実行し、
前記電流検出手段が、前記第1のピーク間電圧の交流電圧を含む帯電バイアスを印加している間の第1の直流電流の値と、前記第2のピーク間電圧の交流電圧を含む帯電バイアスを印加している間の第2の直流電流の値と、前記第3のピーク間電圧の交流電圧を含む帯電バイアスを印加している間の第3の直流電流の値を検出することを特徴とする請求項5記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記電流検出手段が、前記電圧制御手段に、前記第1の直流電流の値に関する信号と、前記第2の直流電流の値に関する信号と、前記第3の直流電流の値に関する信号を送信し、
前記電圧制御手段が、前記読み出された第1のピーク間電圧、前記読み出された第2のピーク間電圧、前記送信された前記第1の直流電流の値に関する信号及び前記第2の直流電流の値に関する信号に基づき、回帰直線を算出する段階と、
該算出された回帰直線の値が、前記第3の直流電流の値と等しくなるピーク間電圧の値を算出する段階を実行することを特徴とする請求項6記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記電圧制御手段が、前記回帰直線に基づき算出されたピーク間電圧の値に所定の補正値を加算する段階と、
前記所定の補正値を加算して得られたピーク間電圧の値を帯電バイアスに用いるピーク間電圧として、前記メモリに記憶させる段階を実行することを特徴とする請求項7記載の画像形成装置。
【請求項9】
所定の基準ピーク間電圧よりも低いピーク間電圧を有する第1の交流電圧と直流電圧を重畳させてなる第1の帯電バイアスを、前記像担持体に接触又は近接して配置される帯電部材に印加する段階と、
前記第1の交流電圧のピーク間電圧とは異なるピーク間電圧であるとともに前記基準ピーク間電圧よりも低いピーク間電圧を有する第1の交流電圧と前記直流電圧を重畳させてなる第2の帯電バイアスを前記帯電部材印加する段階と、
前記基準ピーク間電圧よりも高いピーク間電圧を有する第3の交流電圧と前記直流電圧を重畳させてなる第3の帯電バイアスを前記帯電部材に印加する段階と、
前記第1の帯電バイアス、前記第2の帯電バイアス及び前記第3の帯電バイアスを印加している間、前記帯電部材により帯電された前記像担持体の面にトナー層を形成する段階と、
前記トナー層に前記像担持体と該像担持体の面に残留するトナーを除去するクリーニングブレードの間に供給する段階からなることを特徴とする帯電バイアスキャリブレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−286767(P2010−286767A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142160(P2009−142160)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】