説明

異形品用熱処理炉、異形品用製造装置、及び異形品製造方法

【課題】より短時間で、優れた機械的性質を備えた異形品を得ることが可能な、異形品の熱処理手段乃至製造手段を提供すること。
【解決手段】入口部12及び出口部16を有する炉体19と、その炉体19の中で熱風の吹き込みによって粉粒体24が熱せられ流動して形成される流動層20と、その流動層20の中を入口部12から出口部16にかけて異形品を移動させるコンベア22と、を具備し、コンベア22が異形品の保持機能を有することにより、異形品をジグを用いずに素のまま熱処理可能とした異形品用熱処理炉10の提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム(Al)合金、マグネシウム(Mg)合金等の軽合金からなる異形品の熱処理に使用される熱処理炉、及びそれを用いた異形品の製造手段に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境問題の1つである地球温暖化を防止するために、自動車の燃費改善は重要な課題と認識されている。自動車の燃費を改善する手段は、電気等の新しい動力源の利用等、種々存在するが、最も効果があり、他のどの技術とも併用して適用可能なのが自動車重量の軽量化である。自動車そのものを軽量化すれば動力源への負荷が減り、燃料の使用量を減らすことが可能となる。そして、自動車の軽量化技術として、より取り組み易い軽量化材料の使用が好適に採用される。このような事情により、エンジン周り部品、足周り部品等の自動車部品について、より低廉な軽量化材料であるアルミニウム合金、マグネシウム合金等の軽合金材料の使用が広く普及している。
【0003】
一方、自動車部品では、その使用箇所によって特に高い強度が要求される場合がある。例えば、足周り部品であるウィッシュボーンサスペンションのロアアーム及びアッパーアームや、ステアリングに連動してタイヤを操るナックル、あるいは各種ブラケット等では、強度不足による破損が、安全に係わる重要な問題に直結し得るため、強度が充分で、欠陥が少なく、耐腐食性に優れ、且つ軽いもの、が求められる。そのため、多くの場合、成形した後に熱処理を施して、機械的性質の向上を図ることが多い。尚、自動車部品を含む軽合金製品の熱処理に関する先行技術文献であって、次に示す課題を、本発明と共通にする文献は、存在しないようである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、熱処理は、空気を熱媒体としたトンネル炉等の大気炉を用いて行われている。しかし、大気炉は、例えば熱処理のうち溶体化処理を行う際に、溶体化処理温度までの昇温速度が遅く昇温に時間がかかり、しかも、温度の振れが約±5℃以上と大きいことから、より高い温度での溶体化処理が行えずに、処理に数時間以上を要するという問題があった。
【0005】
近年においては、自動車業界に限らず、製造業では、必要な品質の製品(部品)を、必要な時に、必要な量だけ求められる。たとえ製品(部品)の成形が短時間に出来ても、それだけでは強度の要求に応えられないため、品質の要望に応えるために熱処理を行うことになる。しかし、従来は成形工程及び熱処理工程を含めて1日以上を要しており、必要な時に必要な量だけという、所謂ジャストインタイムな供給に応えることが困難であった。そのため、一定の在庫を抱えなければならず、在庫リスクが生じる問題に波及していた。
【0006】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、より短時間で、優れた機械的性質を備えた異形品を得ることが可能な、異形品の熱処理手段乃至製造手段を提供することにある。そこで、鋭意検討がなされ、研究が重ねられた結果、以下に示す手段によって、上記目的を達成出来ることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明によれば、軽合金からなる異形品の熱処理に用いられる熱処理炉であって、異形品を搬入するための開口が設けられた入口部及び異形品を搬出するための開口が設けられた出口部を有する炉体と、その炉体の中で熱風の吹き込みによって粉粒体が熱せられ流動して形成される流動層と、その流動層の中を入口部から出口部にかけて異形品を移動させるコンベアと、を具備し、そのコンベアが異形品の保持機能を有することにより、異形品をジグを用いずに素のまま熱処理可能とした異形品用熱処理炉が提供される。
【0008】
コンベアが有する保持機能は、熱処理中に異形品を保持可能なものであれば限定されない。例えば、コンベアの搬送部(被搬送品(異形品)の載置部、ベルトやキャタピラに相当する部分)を網目状にする手段、コンベアの搬送部の幅を炉体の幅に合わせ被搬送品の落下の隙間をなくす手段、コンベアの搬送部の両端に柵を形成したものを用いる手段、等が挙げられる。
【0009】
本発明に係る異形品用熱処理炉においては、コンベアが、少なくとも出口部において、その片端を炉体の外まで延長して敷設されていることが好ましい。コンベアは、入口部においても、その片端を炉体の外まで延長して敷設されていてもよい。
【0010】
又、炉体に集塵機及び誘引ファンを備えることが好ましい。
【0011】
本発明に係る異形品用熱処理炉は、熱処理の具体的内容を限定するものではないが、溶体化処理乃至時効処理である場合に好適である。
【0012】
次に、本発明によれば、上記した異形品用熱処理炉と、その前段に設けられた成形機とを含む異形品の製造装置であって、成形機が、鋳造成形機又は鍛造プレス成形機である異形品用製造装置が提供される。
【0013】
更に、本発明によれば、鋳造成形機又は鍛造プレス成形機を用いて軽合金を成形し成形体を得て、その成形体を、上記した異形品用熱処理炉を用いて溶体化処理した後に、冷却し、自然時効処理を施す工程を有する異形品製造方法が提供される(第1の異形品製造方法ともいう)。
【0014】
尚更に、本発明によれば、鋳造成形機又は鍛造プレス成形機を用いて軽合金を成形し成形体を得て、その成形体を上記した異形品用熱処理炉を用いて昇温し溶体化処理した後に、冷却し、上記した異形品用熱処理炉を用いて昇温し人工時効処理を施す工程を有する異形品製造方法が提供される(第2の異形品製造方法ともいう)。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る異形品用熱処理炉は、熱風の吹き込みによって粉粒体が熱せられ流動して形成される流動層を具備し、その流動層の中をコンベアで異形品を移動させながら熱処理し得るものである。流動層は、従来の大気炉に比較して、温度分布がより均一で、より伝熱効率が高く、例えば熱処理のうち溶体化処理を行う際に、溶体化処理温度まで迅速に昇温することが出来、且つ、温度の振れが約±2℃以下と極小さいことから、異形品を構成する軽合金材料の融解温度と同じかあるいはその前後という従来より高い温度で溶体化処理を行えるため、処理に要する時間を短縮出来る。
【0016】
加えて、本発明に係る異形品用熱処理炉は、流動層の中を移動させるコンベアに異形品の保持機能を有することにより、異形品をジグを用いずに素のまま熱処理可能としたものであるから、熱処理するためにジグに収容し、再度取り出す、という作業が不要であり、熱処理にかかる時間が更に短縮されるとともに、その収容及び取出にかかる手段を必要としない。被熱処理品が異形品である場合に、即ち一定の形状ではない製品の場合に、これを熱処理炉の中へ送り、再度熱処理炉から取り出す際には、従来、例えば籠のようなジグに収容して行っている。ジグに収容し、再度取り出す作業は、本来的に熱処理の効果と関係ないものであるが、必須の作業となっている。これは、異形品であることから、熱処理炉の中で落下しないように、その態勢を保持するため、と考えられる。本発明に係る異形品用熱処理炉は、コンベア側に保持機能を持たせることにより、熱処理に際しジグを使用せず、ジグへの収容及び取出にかかる作業を不要とし、それにかかる時間を削減している。
【0017】
特に、本発明に係る異形品用熱処理炉の好ましい態様では、コンベアが、少なくとも出口部において、その片端を炉体の外まで延長して敷設されているため、熱処理された異形品を、そのコンベアで、次工程あるいは出荷用配設場所へ搬送することが可能になる。例えば、次工程を冷却とした場合に、冷却槽にそのまま落とし込む等の対応が可能である。従って、ジグ、及び、異形品をジグへ収容し取出する手段のみならず、異形品自体を熱処理炉から取り出す手段も不要となる。異形品は、定形ではないため、一の手段で把持することが容易ではなく、あらゆる異形品に対応した熱処理炉からの取り出し手段を実現することは困難であったが、本発明に係る異形品用熱処理炉の好ましい態様では、そのような問題が生じない。尚、限定されるものではないが、コンベアは、入口部においても、その片端を炉体の外まで延長して敷設されていてもよい。異形品を熱処理炉の中へ送り込むことが容易になるからである。
【0018】
又、本発明に係る異形品用熱処理炉の好ましい態様では、炉体に集塵機及び誘引ファンを備えているため、炉体の中の流動層の粉粒体に起因して粉塵が発生しても、入口部及び出口部において、その排出が抑制される。
【0019】
本発明に係る異形品用製造装置は、熱処理に際し上記した異形品用熱処理炉を用い、その前段に、鋳造成形機又は鍛造プレス成形機を設けて構成されるため、極短時間で、優れた機械的性質を備えた異形品を得ることが出来る。成形機として、鋳造成形機及び鍛造プレス成形機の何れかを採用するかは、異形品に求められる強度、コスト等を勘案して決定すればよい。但し、本発明に係る異形品用熱処理炉は、熱処理対象となる成形体(異形品)を作製する成形機を限定するものではない。重力式鋳造機、低圧鋳造成形機、スクイーズ成形機等であっても、上記した本発明に係る異形品用熱処理炉の効果は失われない。
【0020】
本発明に係る第1の異形品製造方法は、鋳造成形機又は鍛造プレス成形機による成形工程、上記した異形品用熱処理炉を用いた溶体化処理工程、冷却工程、自然時効処理工程、を有するものであるため、極短時間で、優れた機械的性質を備えた異形品を得ることが出来る。従来は、熱処理の溶体化処理に数時間以上かかること、及び熱処理にかかる収容、取出の作業があること等により、時効処理に人工時効を行う場合を想定すると、早くても20時間以上を要していた。しかし、本発明に係る第1の異形品製造方法によれば、出荷後の移送中に自然時効が期待出来、又、成形機と異形品用熱処理炉を隣接させ、その間もコンベア等で移動させること等により、軽合金材料を成形機に投入してから、出荷までの時間を、数十分単位(60分以下)にすることが可能である。又、本発明に係る第2の異形品製造方法は、人工時効処理を行うため、本発明に係る第1の異形品製造方法より時間を要するが、従来の異形品を成形し熱処理する製造方法に比較すれば時間は短縮出来、人工時効処理を行うため、より異形品の機械的性質を向上出来る。
【0021】
本発明の異形品用熱処理炉、異形品用製造装置、及び異形品製造方法によれば、必要な品質の製品(部品)を、必要な時に、必要な量だけ供給することが容易であり、顧客要望に応えつつ、在庫リスクの問題を回避することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、適宜、図面を参酌しながら説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。
【0023】
先ず、異形品について説明する。本明細書において、異形品とは、例えばホイールのような定形の製品ではなく、種々の形状がある製品を意味し、異形品用とは、そのような一定の形状ではない種々の形状の製品に好適である、ことを意味する。図4(a)〜図4(e)は、異形品を例示した斜視図であり、図4(a)はハンドルバーであり、図4(b)は自転車用クランクであり、図4(c)は二輪車用ペダルであり、図4(d)はアンダーブラケットであり、図4(e)はキックペダルである。
【0024】
次に、本発明に係る異形品用熱処理炉について、図面に基づいて説明する。図1(a)、図1(b)、図1(c)は、本発明に係る異形品用熱処理炉の一実施形態を示す図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)のX−X断面図、図1(c)は図1(b)のY−Y断面図である。図1(a)、図1(b)、図1(c)において、異形品用熱処理炉10は、炉体19の中に流動層20を形成してなるものであり、入口部12、その入口部12に続く熱処理帯部14、及びその熱処理帯部14に続く出口部16から構成されている。流動層20は、熱風が分散パイプ30から吹き込まれ、粉粒体24が熱せられ流動化して形成されるものであり、炉体19の内部において、入口部12、熱処理帯部14及び出口部16を通じて、一体的連続的に存在する。
【0025】
入口部12から熱処理帯部14、出口部16に至る流動層20中には、コンベア22が敷設されており、コンベア22上に、被熱処理品である異形品が、ジグに収容されることなく素のまま載置され、熱処理炉の入口部12から出口部16まで流動層20中を移動しながら熱処理されるようになっている。コンベア22の搬送部23は網目状になっており、流動層20中を移動する間に異形品をしっかり保持する。又、コンベア22の搬送部23は、その両端が垂直にはね上がった柵21が形成されており(図1(c)参照)、搬送部23上における異形品の移動範囲を制限する。更には、図1(c)に明示されるように、コンベア22の搬送部23の幅は、動作に支障ない範囲で炉体19の幅いっぱいに設けられており、異形品が分散パイプ30側(下側)に落下することがない。
【0026】
図1(b)において、異形品(被熱処理品)の動きを白抜き矢印で示す。異形品は、入口部12において、例えば前段の鋳造成形機(図示しない)で成形された後に連絡用コンベア(図示しない)に載せられ、異形品用熱処理炉10の入口部12の上に移送される。そうすると、例えば近接センサ(図示しない)により自動で入口部12の開口32が開き、異形品は連絡用コンベアから落とされるように流動層20中に投入され、コンベア22上に載せられる。
【0027】
入口部12に投入された異形品は、コンベア22の移動に伴って入口部12から熱処理帯部14を通過し、出口部16まで流動層20中を移動する。異形品は、入口部12から熱処理帯部14を経由し出口部16に至る間に、所望の熱処理がなされることになる。従って、入口部12から熱処理帯部14を経由し出口部16に至る異形品用熱処理炉10の長さ及び寸法、及び処理時間(移動速度)は、対象とする異形品の大きさ、熱処理の種類金属(軽合金)の種類等に依存して決定される。
【0028】
所定の熱処理がなされ、出口部16まで到達した異形品は、例えばタイマー又は近接センサ(図示しない)等により自動で開く出口部16の開口36を通じて、出口部16においてその片端を炉体19の外まで延長して敷設されているコンベア22に載ったまま、異形品用熱処理炉10の外に排出される。そして、異形品は、例えばコンベア22から落とされるように出荷用配設場所へ並べられ、出荷を待つと同時に自然時効処理が進むことになる(第1の異形品製造方法)。勿論、異形品を、例えばコンベア22から冷却槽へ落として冷却し、再度、例えば同じ異形品用熱処理炉10を使用して昇温し、人工時効処理を行うことも出来る(第2の異形品製造方法)。
【0029】
尚、異形品が連続的に熱処理される場合には、入口部12の開口32、及び出口部16の開口36は開いたままになり、入口部12及び出口部16において、流動層20の粉粒体24に由来した粉塵が排出し周囲の環境を悪化させるおそれがある。この問題を解決するため、異形品用熱処理炉10では、炉体19に通じたダクト27を介して集塵機28と誘引ファン29が設けられている。これらを運転して炉体19の入口部及び出口部における粉塵の排出を抑制することが出来る。
【0030】
又、流動層を備える熱処理炉は、一般に、炉体の外部から加熱する方式や、ラジアントチューブを流動層中に内蔵する方式等の間接加熱方式の他、熱風の直接吹込みによる直接加熱方式が知られているが、図1(a)〜図1(c)に示す至る異形品用熱処理炉10では、流動層の中の温度分布が良好になることから、熱風の直接吹込みによる直接加熱方式を採用している。但し、本発明に係る異形品用熱処理炉は、直接加熱方式に限定されず、上記した他の方式を用いてもよく、併用しても構わない。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づき、更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)図5に示される製造工程によって、異形品の製造を行った。製造工程は、成形工程51と熱処理工程とからなり、熱処理工程は、溶体化処理工程52と時効処理工程53とからなる。
【0033】
先ず、成形工程51において、A2017を使用し、その素材(丸棒)から図示しない鍛造プレス成形機により、異形品を10体成形した。異形品を作製するための材料であるA2017は、日本工業規格によるAl−Cu系展伸材用アルミニウム合金であり、その組成は、Cuを3.5〜5.0質量%の他、少量のMg、Fe、Siが含まれ、残部がAlである。尚、成形した異形品は、図4(e)に示されるキックペダルである。これは二輪車用の部品であり、高い強度が要求されるものである。
【0034】
次に、得られた異形品に熱処理を施した。熱処理工程のうち溶体化処理工程52における熱処理条件は、図3のヒートスケジュールに示されるように、溶体化処理温度を530℃、溶体化処理温度までの昇温時間を10分、溶体化処理温度での保持時間を5分とした。又、時効処理工程53は、自然時効とし、時効処理温度は常温とした。即ち、溶体化処理工程52の後に、図5に示されない冷却を行い、その後は実質的には常温下における放置とした。時効処理時間は、出荷までの2時間とし、出荷前に配設される場所においては特段の作業は行わないこととした。
【0035】
溶体化処理温度を530℃に定めるにあたっては、予め、A2017合金の融解温度を確認する試験を行った。この試験は、示差走査熱量測定装置(DSC、Differential Scanning Calorimetry、DSC3100)を用いて、加熱中の試料の熱量の変化を観察し、試料の中で融解が生じることにより周りから熱が奪われる吸熱現象のピークを見出すことで、融解温度を特定するものである。試料としてA2017合金小片(約15mg)を用意し、これをアルゴンガスによる不活性雰囲気中で5℃/minの昇温速度で昇温し、示差走査熱量を測定した。結果を、図8に示す。図8に示されているように、533.9℃で吸熱現象のピークが観察され、A2017合金の融解温度の1つが確認出来た。尚、A2017合金は多元系の合金であるから吸熱現象のピークは複数観察され得るが、図8の結果は、それらのうち最も低い温度のピークである。この結果に基づいて、実施例1の溶体化処理温度を530℃とした。
【0036】
溶体化処理で用いた熱処理炉は、図1(a)〜図1(c)に示される異形品用熱処理炉10であり、これを上記鍛造プレス成形機に隣接して配置して使用し、成形した異形品を直ぐに熱処理出来るようにした。異形品用熱処理炉10は、図2に示される平面寸法を有しており、全長は5.0mであり、横幅は0.8mであり、高さは1.5mである。そして、異形品用熱処理炉10において、図示しない熱風製造装置から熱風を送り、炉体19の内部の分散パイプ30から熱風を吹き出させ、平均粒径が50〜500μmの粉粒体24(砂)を流動させて、流動層20を形成した。炉体19内の流動層20における温度分布を測定したところ、30箇所において±2℃の範囲内であることが確認出来た。そして、10体の異形品を、流動層20を形成した異形品用熱処理炉10の入口部12に入れ、入口部12から熱処理帯部14、出口部16に至る流動層20中に敷設されたコンベア22上に載置して、流動層20中を移動させ、熱処理した。このとき、コンベア22はピッチ送りとし、保持時間が上記条件(5分)になるように、ピッチ送りを調節した。
【0037】
次に、上記時効処理を施し、熱処理された異形品を得た。そして、熱処理された異形品から試験片を切り出し、引張試験(引張強さ、0.2%耐力)、硬さ試験(ロックウェル硬さ)を行った。得られた結果を、図6、図7(a)、図7(b)に示す。尚、図に示される結果は、10体の異形品の平均値である。又、引張試験は、JIS Z2241で規定されている試験法に従って行った。又、硬さ試験は、JIS Z2245に規定された試験法を用いた。
【0038】
(実施例2〜8)熱処理工程において、溶体化処理温度での保持時間を、10分(実施例2)、15分(実施例3)、30分(実施例4)、60分(実施例5)、120分(実施例6)、180分(実施例7)、360分(実施例8)とした以外は、実施例1と同様にして、鍛造プレス成形機により異形品を成形し、次いで熱処理(溶体化処理、時効処理)を行い、熱処理されたものから試験片を切り出し、引張試験(引張強さ、0.2%耐力)、硬さ試験(ロックウェル硬さ)を行った。得られた結果を、図6、図7(a)、図7(b)に示す。
【0039】
又、実施例3、実施例4、実施例7、実施例8については、試験片の金属ミクロ組織を光学顕微鏡で拡大し、観察した。その写真を、図9(a)(実施例3)、図9(b)(実施例4)、図9(c)(実施例7)、図9(d)(実施例8)に示す。
【0040】
(比較例1)熱処理工程において、従来の大気炉を用いて、溶体化処理温度を510℃とし、昇温時間、保持時間を合わせて240分(4時間)の溶体化処理を実施した以外は、実施例1と同様にして、鍛造プレス成形機により異形品を成形し、次いで熱処理(溶体化処理、時効処理)を行い、熱処理されたものから試験片を切り出し、引張試験(引張強さ、0.2%耐力)、硬さ試験(ロックウェル硬さ)を行った。得られた結果を、図6、図7(a)、図7(b)に示す。
【0041】
(考察)実施例1〜8、比較例1の結果を表した図6、図7(a)、図7(b)より、先ず、引張強さ、0.2%耐力は、溶体化処理の保持時間5分(実施例1)でも従来(比較例1)より優れた値を示しており、溶体化処理の保持時間5分〜60分(実施例1〜5)で、比較例1(溶体化処理の昇温・保持時間240分)と概ね同等以上の強度(引張強さ、0.2%耐力)を得ることが出来ることがわかる。硬さは、溶体化処理の保持時間15分(実施例3)で最高値を示し、溶体化処理の保持時間10分〜30分(実施例2〜4)で、比較例1(溶体化処理の昇温・保持時間240分)と概ね同等以上の硬さを得ることが出来ることがわかる。硬さ、引張強さ、0.2%耐力の何れも比較例1と同等以上の値とするには、図6、図7(a)、図7(b)より、概ね保持時間が10〜30分の溶体化処理が最適と推定され、比較例1に対して大幅に溶体化処理時間を短縮出来る。又、図9(a)、図9(b)、図9(c)、図9(d)(溶体化処理の保持時間15分、30分、180分、360分)に表されたミクロ組織より、より短い時間の溶体化処理を行うことにより、再結晶粒粗大化が抑制されていることがわかる。
【0042】
鍛造プレス成形機を駆動させ成形工程を開始してから、熱処理工程のうち溶体化処理を終えるまでに要した時間は、最短の実施例1において20分であった。この後、直ぐに出荷することが可能であり、実施例1では、出荷後の移送時間に含めることが可能な自然時効処理時間を加えても、全工程を2時間20分で終えることが出来た。又、溶体化処理の保持時間を例えば30分とした場合でも、成形開始から出荷までに要する時間は60分未満、自然時効処理を含む全工程を終えるまでに要する時間は3時間未満、と考えられ半日以下で対応出来る。従って、多くの在庫を抱えることなく、必要な時に必要な量だけというジャストインタイムな供給に応えることが可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の異形品用熱処理炉、異形品用製造装置、及び異形品製造方法は、あらゆる軽合金からなる異形品を熱処理する手段乃至製造する手段として、有用である。特に、ジャストインタイムな供給が求められる、二輪乃至四輪の自動車用部品、あるいは自転車用部品等を熱処理する手段乃至製造する手段として好適に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る異形品用熱処理炉の一実施形態を示すもので、図1(a)は平面図、図1(b)は図1(a)のX−X断面図、図1(c)は図1(b)のY−Y断面図である。
【図2】実施例で用いた異形品用熱処理炉の平面寸法を示す説明図である。
【図3】実施例のヒートスケジュールを示すグラフである。
【図4】図4(a)〜図4(e)は、異形品を例示した斜視図である。
【図5】実施例における異形品の製造工程を示すブロックフローである。
【図6】実施例における硬さ試験の結果を示すグラフであり、ロックウェル硬さと溶体化時間との関係を示すグラフである。
【図7(a)】実施例における引張試験の結果を示すグラフであり、引張強さと溶体化時間との関係を示すグラフである。
【図7(b)】実施例における引張試験の結果を示すグラフであり、0.2%耐力と溶体化時間との関係を示すグラフである。
【図8】示差走査熱量測定(DSC、Differential Scanning Calorimetry)の結果を示すグラフである。
【図9】図9(a)〜図9(d)は実施例の結果を示す写真であり、試験片の金属ミクロ組織を拡大した写真である。
【符号の説明】
【0045】
10…異形品用熱処理炉、12…入口部、14…熱処理帯部、16…出口部、19…炉体、20…流動層、21…柵、22…コンベア、23…搬送部、24…粉粒体、27…ダクト、28…集塵機、29…誘引ファン、30…分散パイプ、32…開口、36…開口、51…成形工程、52…溶体化処理工程、53…時効処理工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽合金からなる異形品の熱処理に用いられる熱処理炉であって、
前記異形品を搬入するための開口が設けられた入口部、及び前記異形品を搬出するための開口が設けられた出口部、を有する炉体と、前記炉体の中で熱風の吹き込みによって粉粒体が熱せられ流動して形成される流動層と、前記流動層の中を前記入口部から出口部にかけて前記異形品を移動させるコンベアと、を具備し、
前記コンベアが前記異形品の保持機能を有することにより、前記異形品をジグを用いずに素のまま熱処理可能とした異形品用熱処理炉。
【請求項2】
前記コンベアが、少なくとも前記出口部において、その片端を前記炉体の外まで延長して敷設されている請求項1に記載の異形品用熱処理炉。
【請求項3】
前記炉体に集塵機及び誘引ファンを備える請求項1又は2に記載の異形品用熱処理炉。
【請求項4】
前記熱処理が、溶体化処理乃至時効処理である請求項1〜3の何れか一項に記載の異形品用熱処理炉。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の異形品用熱処理炉と、その前段に設けられた成形機とを含む異形品の製造装置であって、
前記成形機が、鋳造成形機又は鍛造プレス成形機である異形品用製造装置。
【請求項6】
鋳造成形機又は鍛造プレス成形機を用いて軽合金を成形し成形体を得て、前記成形体を請求項1〜4の何れか一項に記載の異形品用熱処理炉を用いて溶体化処理した後に、冷却し、自然時効処理を施す工程を有する異形品製造方法。
【請求項7】
鋳造成形機又は鍛造プレス成形機を用いて軽合金を成形し成形体を得て、前記成形体を請求項1〜4の何れか一項に記載の異形品用熱処理炉を用いて昇温し溶体化処理した後に、冷却し、請求項1〜4の何れか一項に記載の異形品用熱処理炉を用いて昇温し人工時効処理を施す工程を有する異形品製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7(a)】
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【図7(b)】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−226646(P2006−226646A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43563(P2005−43563)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000116873)旭テック株式会社 (144)
【Fターム(参考)】