説明

異方性導電フィルム

【課題】熱硬化性エポキシ樹脂よりも比較的低温・短時間での硬化が可能な重合性アクリル系化合物をフィルム形成樹脂と共に含有する導電性粒子含有層が絶縁性接着層に積層された2層構造の異方性導電フィルムについて、被着体に対する接着強度を低下させずに接続信頼性をより向上させる。
【解決手段】重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂及び重合開始剤を含有する絶縁性接着層と、重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂、重合開始剤及び導電性粒子を含有する導電性粒子含有層とが積層されてなる異方性導電フィルムにおいて、絶縁性接着層及び導電性粒子含有層のそれぞれにチオール化合物を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
液晶パネルとテープキャリアパッケージ(TCP)基板あるいはチップオンフィルム(COF)基板とを熱硬化型の異方性導電フィルムを介して接続する場合や、TCP基板あるいはCOF基板とプリント配線板(PWB)とを熱硬化型の異方性導電フィルムで接続する場合、熱圧着時間を短縮するために、異方性導電フィルムに使用するバインダー樹脂組成物を、比較的低温・短時間での硬化が可能な重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂、重合開始剤として有機過酸化物等から構成することが提案されている(特許文献1)。
【0002】
しかし、重合性アクリル系化合物と上述したような有機過酸化物とを含有する異方性導電フィルムで異方性導電接続を比較的低温・短時間の条件で行った場合、電子部品やフレキシブル基板に対する異方性導電フィルムの接着強度が不十分となり、そのため、接続信頼性が充分ではないという問題があった。
【0003】
また、TCP基板は、COF基板に比べて実装密度も入手コストも共に低く、しかもCOF基板に対し表1に示すような相違点を有する。特に、TCP基板がCuをポリイミドベースに接着剤を介して積層して作製されているのに対し、COF基板がCuをポリイミドベースに接着剤を介さずに積層して作製されている点で相違する。たとえば、COF基板とPWBとを異方性導電フィルムで接合する場合、異方性導電フィルムと基板のポリイミドベースとが直接接触することになるという点で、TCP基板とPWBとを異方性導電フィルムで接合する場合とは相違することになる。この相違のため、COF基板と異方性導電フィルムとの間の接着強度(ピール強度)が、TCP基板と異方性導電フィルムとの間の接着強度よりも小さくなるという問題がある。従って、実際の実装の場面では、TCP基板用異方性導電フィルムとCOF基板用異方性導電フィルムとを使い分けざるを得ず、単一の異方性導電フィルムでTCP基板とCOF基板とに対応できないという問題もあった。
【0004】
【表1】

【0005】
これらの問題を解決するために、異方性導電フィルムの構造を、導電性粒子含有層と絶縁性接着層とを積層させた2層構造とし、さらにそれぞれの層に配合する重合開始剤として、一分間半減期温度の異なる2種類の有機過酸化物を使用し、その2種類の有機過酸化物のうち、一分間半減期温度の高い有機過酸化物として、分解により安息香酸を発生するものを使用することが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−199825号公報
【特許文献2】特開2010−37539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献2に提案された2層構造の異方性導電フィルムの場合、当初意図した接着力を示したものの、接続信頼性、特にエージング後の接続信頼性が不十分であるという問題があった。
【0008】
本発明は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、熱硬化性エポキシ樹脂よりも比較的低温・短時間での硬化が可能な重合性アクリル系化合物をフィルム形成樹脂と共に含有する導電性粒子含有層に、重合性アクリル系化合物をフィルム形成樹脂と共に含有する絶縁性接着層を積層させた2層タイプの異方性導電フィルムについて、被着体に対する接着強度を低下させずに接続信頼性をより向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、異方性導電フィルムを構成する導電性粒子含有層及び絶縁性接着層のそれぞれにラジカルの連鎖移動剤として機能し得るチオール化合物を含有させることにより、上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂及び重合開始剤を含有する絶縁性接着層と、重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂、重合開始剤及び導電性粒子を含有する導電性粒子含有層とが積層されてなる異方性導電フィルムにおいて、
該絶縁性接着層及び該導電性粒子含有層が、それぞれチオール化合物を含有することを特徴とする異方性導電フィルムを提供する。
【0011】
また、本発明は、第1の配線基板の接続部と第2の配線基板の接続部との間を、上述の異方性導電フィルムで異方性導電接続した接続構造体を提供する。
【0012】
更に、本発明は、第1の配線基板の接続部と第2の配線基板の接続部との間に上述の異方性導電フィルムを挟持させ、一分間半減期温度の低い有機過酸化物が分解しない第1の温度で仮貼りした後、一分間半減期温度の高い有機過酸化物が分解する第2の温度で熱圧着することを特徴とする接続構造体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の異方性導電フィルムは、それぞれ重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂及び重合開始剤を含有する導電性粒子含有層と絶縁性接着層との積層構造を有し、両層のそれぞれにチオール化合物を含有している。チオール化合物は、ラジカルの連鎖移動剤として機能するため、比較的低温で生ずる重合の初期段階においては、生じるラジカルも比較的少ないため、ラジカルを捕捉して重合を緩やかにする作用を有する。この結果、異方性導電フィルムの熱圧着処理により、被接着体の間隙から過剰のバインダー樹脂を硬化前に比較的容易に押し出すことが可能となる。よって、接着強度を低下させずに、接続信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の異方性導電フィルムは、絶縁性接着層及び導電性粒子含有層が積層された2層構造を有するものである。絶縁性接着層及び導電性粒子含有層は、それぞれ重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂及び重合開始剤を含有する。導電性粒子含有層は更に導電性粒子を含有する。ここで、絶縁性接着層及び導電性粒子含有層のそれぞれは、チオール化合物を含有する。これにより、接着強度を維持または向上させつつ、接続信頼性、特にエージング後の接続信頼性を向上させることができる。
【0015】
本発明の異方性導電フィルムにおいて、絶縁性接着層及び導電性粒子含有層はそれぞれ、チオール化合物を一種以上含有する。また、それらの層に含有されるチオール化合物は、同一でもよく異なっていてもよい。このようなチオール化合物としては、連鎖移動剤として公知のチオール化合物を使用することができる。なお、連鎖移動剤として機能するチオール化合物を使用することにより、異方性導電フィルムを形成する際に使用するアクリル系樹脂組成物、即ち絶縁性接着層形成用組成物並びに導電性粒子含有層形成組成物の保存中に生ずる遊離ラジカルによる粘度上昇現象を抑制することができる。このようなチオール化合物の特に好ましい具体例としては、ペンタエリスリトール テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、トリメチロールプロパン トリス(3−メルカプトプロピオネート)、及びジペンタエリスリトール ヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)からなる群より選択される化合物を挙げることができる。
【0016】
異方性導電フィルムの絶縁性接着層中のチオール化合物の含有量は、少なすぎると初期の接続抵抗が増加する傾向があり、多すぎると接着強度が低下する傾向があるので、好ましくは0.5〜5質量%、より好ましくは0.5〜2質量%である。他方、異方性導電フィルムの導電性粒子含有層中のチオール化合物の含有量は、少なすぎると初期の接続抵抗が増加する傾向があり、多すぎると接続信頼性が低下する傾向があるので、好ましくは0.3〜4質量%、より好ましくは0.5〜2質量%である。
【0017】
なお、絶縁性接着層中のチオール化合物の含有量は、導電性粒子含有層中のチオール化合物の含有量以上であることが好ましい。これにより、高い接着強度、良好な接続信頼性を示す異方性導電フィルムが得られる。
【0018】
また、異方性導電フィルムが、上述したような絶縁性接着層と導電性粒子含有層との積層構造を有することから、TCP基板とCOF基板とに対して共用できるものとなる。この理由は明確ではないが、以下のように推察される。
【0019】
即ち、絶縁性接着層は、導電性粒子含有層に比べ一般的に低いガラス転移温度を示すため、COF基板もしくはTCP基板が異方性導電フィルムに押し込まれる際に排除され易く、接合時には面方向の隣接する電極間に遍在する傾向がある。この絶縁性接着層は接合時に低温でラジカル重合により硬化し、更により高温でラジカル重合により硬化すると共に安息香酸を発生する。従って、発生した安息香酸のために、絶縁性接着層は、COF基板又はTCP基板との接触面(金属電極表面、ポリイミド表面、導電性粒子含有層表面)と強く接合して硬化する。導電性粒子含有層は、絶縁性接着層よりも高いガラス転移温度を有するため、COF基板もしくはTCP基板が異方性導電フィルムに押し込まれる際に相対向する電極間に導電性粒子が存在しやすくなるが、絶縁性接着層と同様に、低温でラジカル重合により硬化し、更により高温でラジカル重合により硬化すると共に安息香酸を発生する。従って、導電性粒子含有層はPWB及びCOF基板又はTCP基板との接触面と強く接合して硬化する。このように、絶縁性接着層は、応力緩和及びCOF基板又はTCP基板との強固な接着性を発現し、導電性粒子含有層は、その強い凝集力によりCOF基板又はTCP基板とPWBとの良好な接続信頼性を発現する。
【0020】
本発明の異方性導電フィルムを構成する重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を使用することができ、公知の有機過酸化物やアゾ化合物を挙げることができ、有機過酸化物をより好ましく使用することができる。
【0021】
本発明の異方性導電フィルムの導電性粒子含有層においては、特に、重合開始剤として、分解温度の異なる2種類の有機過酸化物を含有することが好ましい。この場合、その2種類の有機過酸化物のうち、一分間半減期温度の高い有機過酸化物が分解により安息香酸またはその誘導体を発生するものを好ましく使用できる。ここで安息香酸の誘導体としては、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸t−ブチル等を挙げることができる。なお、2種類の有機過酸化物は、絶縁性接着層及び導電性粒子含有層で全く同じ具体的な組み合わせでもよいし、異なる組み合わせであってもよい。
【0022】
なお、本発明の異方性導電フィルムの絶縁性接着層は、重合開始剤として、導電性粒子含有層と同様に2種類の有機過酸化物を含有してもよいが、流動性の点から高温分解過酸化物だけを含有することが好ましい。
【0023】
このように、重合性アクリル系化合物の重合開始剤として、一分間半減期温度の異なる2種類の有機過酸化物を使用し、そのうちの一分間半減期温度の高い有機過酸化物として、分解により安息香酸若しくはその誘導体を発生するものを使用すると、以下に説明する効果を得ることができる。即ち、相対的に一分間半減期温度の低い有機過酸化物の存在により、高温分解過酸化物の分解を促進させる相対的に高い温度での短時間の熱圧着の際に、加熱温度の上昇に伴って、熱ストレスを考慮する必要がない相対的に低い温度から低温分解過酸化物を分解させて、重合性アクリル系化合物を十分に重合硬化させることが可能となる。そして、最終的に高温分解過酸化物を分解させ、重合性アクリル系化合物の重合硬化を完了させると共に、安息香酸を生じさせる。生じた安息香酸の一部は、硬化した異方性導電フィルムと被接続物との界面及びその近傍に存在することになるため、接着強度を向上させることが可能となる。
【0024】
本発明の異方性導電フィルムにおいて、重合開始剤として2種類の有機過酸化物を含有する場合、そのうち、一分間半減期温度が低い有機過酸化物(以下、低温分解過酸化物と称する場合がある)の一分間半減期温度は、低すぎると硬化前の保存安定性が低下し、高すぎると異方性導電フィルムの硬化が不十分となる傾向があるので、好ましくは80℃以上120℃未満、より好ましくは90℃以上120℃未満である。他方、一分間半減期温度の高い有機過酸化物(以下、高温分解過酸化物と称する場合がある)の一分間半減期温度は、低いものが上市されておらず、高すぎるとそもそも想定した熱圧着温度では安息香酸またはその誘導体を発生させない傾向があるので、好ましくは120℃以上150℃以下である。
【0025】
また、低温分解過酸化物と高温分解過酸化物の間の一分間半減期温度差は、その差が小さすぎると低温分解過酸化物と高温分解過酸化物とが重合性アクリレート化合物と反応してしまい、接着強度の向上に寄与する安息香酸量が減少してしまう結果となり、大きすぎると異方性導電フィルムの低温での硬化反応性が低下する傾向があるので、好ましくは10℃以上30℃以下である。
【0026】
このような低温分解過酸化物と高温分解過酸化物との質量比は、前者が後者に対し相対的に少なすぎると異方性導電フィルムの低温での硬化反応性が低下し、逆に多すぎると接着強度が低下する傾向があるので、好ましくは10:1〜1:5である。
【0027】
本発明で使用し得る低温分解過酸化物の具体例としては、ジイソブチリル パーオキサイド(一分間半減期温度 85.1℃)、1,1,3,3−テトラメチルブチル パーオキシ−2−エチルヘキサノエート(一分間半減期温度 124.3℃)、ジラウロイル パーオキサイド(一分間半減期温度 116.4℃)、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド(一分間半減期温度 112.6℃)、t−ブチル パーオキシピバレート(一分間半減期温度 110.3℃)、t−ヘキシル パーオキシピバレート(一分間半減期温度 109.1℃)、t−ブチル パーオキシネオヘプタノエート(一分間半減期温度 104.6℃)、t−ブチル パーオキシネオデカノエート(一分間半減期温度 103.5℃)、t−ヘキシル パーオキシネオデカノエート(一分間半減期温度 100.9℃)、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート(一分間半減期温度 90.6℃)、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(一分間半減期温度 92.1℃)、1,1,3,3−テトラメチルブチル パーオキシネオデカノエート(一分間半減期温度 92.1℃)、ジ−sec−ブチル パーオキシジカーボネート(一分間半減期温度 85.1℃)、ジ−n−プロピル パーオキシジカーボネート(一分間半減期温度 85.1℃)、クミル パーオキシネオデカノエート(一分間半減期温度 85.1℃)等を挙げることができる。これらは、2種以上を併用することができる。
【0028】
また、高温分解過酸化物の具体例としては、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド(一分間半減期温度128.2℃)、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド(一分間半減期温度131.1℃)、ジベンゾイル パーオキサイド(一分間半減期温度 130.0℃)、t−ヘキシル パーオキシベンゾエート(一分間半減期温度 160.3℃)、t−ブチル パーオキシベンゾエート(一分間半減期温度 166.8℃)等を挙げることができる。これらは、2種以上を併用することができる。また、フェニル環を有するこれらの高温分解過酸化物を使用することにより、異方性導電フィルムの凝集力を向上させることができるので接着強度を更に向上させることができる。
【0029】
低温分解過酸化物と高温分解過酸化物との組み合わせとしては、前者がジラウロイルパーオキサイドであり、後者がジベンゾイルパーオキサイドである組み合わせが、保存安定性と接着強度の点で好ましい。
【0030】
本発明の異方性導電フィルムにおける、このような異なる2種類の有機過酸化物等の重合開始剤の絶縁性接着層又は導電性粒子含有層のそれぞれにおける使用量は、少なすぎると反応性が無くなり、多すぎると異方性導電フィルムの凝集力が低下する傾向があるので、重合性アクリル系化合物100質量部に対し、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは3〜7質量部である。
【0031】
本発明の異方性導電フィルムの絶縁性接着層及び導電性粒子含有層のそれぞれが含有する重合性アクリル系化合物としては、アクロイル基またはメタクロイル基(以下(メタ)アクロイル基と称する)を1つ以上、導通信頼性向上のために好ましくは2つ以上、特に2つ有する化合物である。なお、重合性アクリル系化合物は、絶縁性接着層及び導電性粒子含有層で、全く同じ具体的な化合物であってもよいし、異なっていてもよい。
【0032】
重合性アクリル系化合物の具体的な例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、リン酸エステル型アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、o−フタル酸ジグリシジルエーテルアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、ビスフェノールA型エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート等、及びこれらに相当する(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0033】
なお、重合性アクリル系化合物として、高い接着強度と導通信頼性とを得る点から、2官能アクリレート5〜40質量部と、ウレタンアクリレート10〜40質量部と、リン酸エステル型アクリレート0.5〜5質量部とを併用することが好ましい。ここで、2官能アクリレートは硬化物の凝集力を向上させ、導通信頼性を向上させるために配合され、ウレタンアクリレートはポリイミドに対する接着性向上のために配合され、そしてリン酸エステル型アクリレートは金属に対する接着性向上のために配合される。
【0034】
重合性アクリル系化合物の絶縁性接着層及び導電性粒子含有層のそれぞれにおける使用量は、少なすぎると導通信頼性が低くなり、多すぎると接着強度が低くなる傾向があるので、好ましくは樹脂固形分(重合性アクリル系化合物とフィルム形成樹脂との合計)の20〜70質量%、より好ましくは30〜60質量%である。
【0035】
本発明の異方性導電フィルムの絶縁性接着層及び導電性粒子含有層のそれぞれが使用するフィルム形成樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、EVA等の熱可塑性エラストマー等を使用することができる。中でも、耐熱性、接着性のために、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、特にフェノキシ樹脂、例えばビスA型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するフェノキシ樹脂を挙げることができる。ここで、フルオレン骨格を有するフェノキシ樹脂は、硬化物のガラス転移点を上昇させる特性を有する。従って、絶縁性接着層ではなく導電性粒子含有層だけに配合することが好ましい。その場合、フィルム形成樹脂中のフルオレン骨格を有するフェノキシ樹脂の割合は、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは5〜25質量%である。
【0036】
また、フィルム形成樹脂としてエポキシ樹脂を使用した場合、エポキシ樹脂とチオール化合物との反応を抑制するため、エポキシ当量が15000以上のものを使用することが好ましい。
【0037】
なお、本発明の異方性導電フィルムの絶縁性接着層及び導電性粒子含有層のそれぞれにおけるフィルム形成樹脂の使用量は、少なすぎるとフィルムを形成せず、多すぎると電気接続を得るための樹脂の排除性が低くなる傾向があるので、樹脂固形分(重合性アクリル系化合物とフィルム形成樹脂との合計)の80〜30質量%、より好ましくは70〜40質量%である。
【0038】
本発明の異方性導電フィルムの導電性粒子含有層で使用する導電性粒子としては、従来の異方性導電フィルムで用いられているような導電性粒子を使用することができ、例えば、金粒子、銀粒子、ニッケル粒子等の金属粒子、ベンゾグアナミン樹脂やスチレン樹脂等の樹脂粒子の表面を金、ニッケル、亜鉛等の金属で被覆した金属被覆樹脂粒子等を使用することができる。このような導電性粒子の平均粒径としては、通常1〜10μm、より好ましくは2〜6μmである。
【0039】
導電性粒子の異方性導電フィルムの導電性粒子含有層における使用量は、少なすぎると導通不良が生ずる可能性が高まり、多すぎると短絡が生ずる可能性が高まるので、樹脂固形分100質量部に対し、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.2〜10質量部である。
【0040】
本発明の異方性導電フィルムの絶縁性接着層及び導電性粒子含有層のそれぞれは、必要に応じて、各種アクリルモノマー等の希釈用モノマー、充填剤、軟化剤、着色剤、難燃化剤、チキソトロピック剤、カップリング剤等を含有することができる。
【0041】
本発明の異方性導電フィルムの絶縁性接着層の層厚は、薄すぎると接着強度が低下する傾向があり、厚すぎると導通信頼性が低下する傾向があるので、好ましくは10〜25μm、より好ましくは16〜21μmである。他方、導電性粒子含有層の層厚は、薄すぎると導通信頼性が低下する傾向があり、厚すぎると接着強度が低下する傾向があるので、好ましくは10〜25μm、より好ましくは15〜20μmである。なお、絶縁性接着層及び導電性粒子含有層を合わせた異方性導電フィルムの厚みは、薄すぎると充填不足により接着強度が低下する傾向があり、厚すぎると押し込み不足により導通不良が生ずる可能性が高まるので、好ましくは25〜50μm、より好ましくは30〜45μmである。
【0042】
本発明の異方性導電フィルムの絶縁性接着層及び導電性粒子含有層のそれぞれの硬化物のガラス転移温度は、異方性導電フィルムをアンダーフィル剤として機能させるために重要な要素となる。この点等から、絶縁性接着層の硬化物のガラス転移温度は、好ましくは50〜100℃、より好ましくは65〜100℃であり、他方、導電性粒子含有層の硬化物のガラス転移温度は、好ましくは80〜130℃、より好ましくは85〜130℃である。この場合、絶縁性接着層の硬化物のガラス転移温度よりも、導電性粒子含有層の硬化物のガラス転移温度を高く設定することが好ましい。これにより、絶縁性接着層をいち早く流動化させて、接続操作の際に相対向する電極間から排除されるようにすることができる。具体的には、好ましくは0〜25℃、より好ましくは10〜20℃高くなるようにする。
【0043】
本発明の異方性導電フィルムは、従来の異方性導電フィルムと同様の方法に準じて製造することができる。例えば、重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂、重合開始剤及び必要に応じて他の添加剤、更にメチルエチルケトンなどの溶媒を均一に混合して得た絶縁性接着層形成用組成物を、剥離処理が施された剥離シート表面に塗布し、乾燥することにより絶縁性接着層を形成し、その上に、重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂、導電性粒子、重合開始剤及び必要に応じて他の添加剤、更にメチルエチルケトンなどの溶媒を均一に混合して得た導電性粒子含有層形成用組成物を塗布し、乾燥させることで導電性粒子含有層を形成し、それにより本発明の異方性導電フィルムを得ることができる。
【0044】
本発明の異方性導電フィルムは、第1の配線基板の接続部と第2の配線基板の接続部との間を異方性接続してなる接続構造体に好ましく適用できる。ここで、第1の配線基板及び第2の配線基板には特に限定はなく、液晶パネルのガラス基板や、フレキシブル配線基板等を挙げることができる。また、それぞれの基板の接続部についても特に限定はないが、従来の異方性導電フィルムが適用される接続部でかまわない。
【0045】
このように、本発明の異方性導電フィルムは、様々な場面で使用することができるが、中でも、第1の配線基板が2層もしくは3層フレキシブル印刷回路基板、COF基板またはTCP基板であり、第2の配線基板がPWBである場合に好ましく適用できる。これは、本発明の異方性導電フィルムが、TCP基板とCOF基板とに対して共用できるからある。この場合、導電性粒子含有層中のフィルム形成樹脂が、フルオレン骨格を有するフェノキシ樹脂を含有することが好ましい。これにより、導電性粒子含有層の硬化物のガラス転移温度を、絶縁性接着層のガラス転移温度よりも高くすることができ、異方性導電フィルムの接続信頼性を向上させることができる。
【0046】
また、上述した接続構造体においては、異方性導電フィルムの絶縁性接着層が第1の配線基板側に配されていることが好ましい。これにより、接着剤層が形成されていないポリイミド表面に対する接着強度を向上させることができる。
【0047】
このような接続構造体は、第1の配線基板の接続部と第2の配線基板の接続部との間に本発明の異方性導電フィルムを、通常は第1の配線基板側に絶縁性接着層が配置されるように挟持させ、一分間半減期温度の低い有機過酸化物が分解しない第1の温度で仮貼りし、一分間半減期温度の高い有機過酸化物が分解する第2の温度で熱圧着することにより製造することができる。ここで、一分間半減期温度の低い有機過酸化物、一分間半減期温度の高い有機過酸化物、それらの好ましい一分間半減期温度、それらの好ましい温度差については、既に説明したとおりである。また、第1の温度としては、一分間半減期温度の低い有機過酸化物の当該一分間半減期温度の−20℃以下の温度が好ましく、第2の温度としては、一分間半減期温度の高い有機過酸化物の当該一分間半減期温度の−20℃以上の温度が好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0049】
実施例1〜12、比較例1〜6
表2の配合組成をそれぞれ常法により均一に混合することにより導電性粒子含有層形成用組成物及び絶縁性接着層形成用組成物を調製した。続いて、剥離処理ポリエステルフィルムに、絶縁性接着層形成用組成物を乾燥厚が18μmとなるようにバーコーターにより塗布し、70℃の熱風を5分間吹き掛けて乾燥させることにより絶縁性接着層を形成した。次に、絶縁性接着層上に、導電性粒子含有層形成用組成物を、乾燥厚が17μmとなるようにバーコーターにより塗布し、70℃の熱風を5分間吹き掛けて乾燥させることにより導電性粒子含有層を形成した。これにより、異方性導電フィルムを得た。
【0050】
【表2】

【0051】
<表2注(チオール化合物)>
PEMP: ペンタエリスリトール テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、SC有機化学(株)
TEMPIC: トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、SC有機化学(株)
TMMP: トリメチロールプロパン トリス(3−メルカプトプロピオネート)、SC有機化学(株)
DPMP: ジペンタエリスリトール ヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、SC有機化学(株)
EHMP: 2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネート、SC有機化学(株)
EGMP−4: テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、SC有機化学(株)
【0052】
得られた異方性導電フィルムの接着強度と接続信頼性(初期、エージング後)とを試験評価するために、まず、以下に説明するように、異方性導電フィルムを用いて接続構造体を作製した。
【0053】
<接続構造体の作製>
ガラスエポキシ基板表面の35μm厚の銅箔に200μmピッチの配線が形成されたプリント配線板(PWB)に対し、異方性導電フィルムを、その導電性粒子含有層側がPWB側になるように配し、80℃、1MPa、2秒という条件で加熱圧着し、剥離PETフィルムを引き剥がし、PWB表面に異方性導電フィルムを仮接着した。この異方性導電フィルムに対し、COF基板(厚さ38μmのポリイミドフィルムに200μmピッチの厚さ8μmの銅配線を形成した配線基板)の銅配線部分を載せ、130℃、3MPa、3秒又は190℃、3MPa、5秒という条件で圧着して評価用の接続構造体を得た。
【0054】
<接続強度試験>
得られた接続構造体のPWBに対しCOF基板を、剥離試験機((株)エー・アンド・デイ)を用いて、剥離速度50mm/分で90度剥離試験(JIS K6854−1)を行い、ピール強度を接着強度として測定し、以下の基準で評価した。実用上、AAもしくはA評価であることが望まれる。
【0055】
ランク 基準
AA: 10[N/5cm]以上
A: 7[N/5cm]以上10[N/5cm]未満
B: 5[N/5cm]以上7[N/5cm]未満
C: 5[N/5cm]未満
【0056】
<接続信頼性試験>
得られた接続構造体について、4端子法(JIS K7194)に従って初期導通抵抗(Ω:max値)と、温度85℃、湿度85%RHの恒温槽中に500時間保持した後のエージング後導通抵抗(Ω:max値)とをマルチメータ(品番34401A、Agilent社)で測定し、以下の基準で評価した。実用上、初期及びエージング後の双方において、悪くてもB評価であることが望まれる。
【0057】
ランク 基準
AA: 0.7Ω以下
A: 0.7Ωより大1.5Ω以下
B: 1.5Ωより大2Ω以下
C: 2Ωより大
【0058】
【表3】

【0059】
表3からわかるように、導電性粒子含有層及び絶縁性接着層の双方にチオール化合物が配合されている実施例1〜12の異方性導電フィルムは、接着強度並びに接続信頼性について実用上好ましい結果を示した。それに対し、導電性粒子含有層及び絶縁性接着層の少なくとも一方にはチオール化合物が配合されていない比較例1〜6の異方性導電フィルムは、接続信頼性に問題があった。
【0060】
なお、実施例1の異方性導電フィルムのエージング後接続信頼性が「B」評価である理由は、導電性粒子含有層及び絶縁性接着層のそれぞれに配合されるチオール化合物の量が比較的少ないためであると考えられる。
【0061】
実施例6及び9の異方性導電フィルムの初期接続信頼性及びエージング後接続信頼性の評価がいずれも「B」である評価である理由は、導電性粒子含有層にチオール化合物としてDPMPを使用したためであると考えられる。
【0062】
比較例4〜6の異方性導電フィルムの接着強度が「C」評価であり、初期接続信頼性及びエージング後接続信頼性の評価がいずれも「D」である評価である理由は、チオール化合物が導電性粒子含有層にのみ添加され、更にその添加量が実施例に比べて多いためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の異方性導電フィルムは、重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂、重合開始剤及び導電性粒子を含有する導電性粒子含有層に、重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂及び重合開始剤を含有する絶縁性接着層が積層された2層構造を有し、両層のそれぞれにチオール化合物を含有しているので、接着強度を低下させずに、接続信頼性を向上させることができる。従って、精密電子部品の高信頼性の異方性接続に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂及び重合開始剤を含有する絶縁性接着層と、重合性アクリル系化合物、フィルム形成樹脂、重合開始剤及び導電性粒子を含有する導電性粒子含有層とが積層されてなる異方性導電フィルムにおいて、
該絶縁性接着層及び該導電性粒子含有層が、それぞれチオール化合物を含有することを特徴とする異方性導電フィルム。
【請求項2】
該絶縁性接着層及び該導電性粒子含有層のチオール化合物の含有量が、それぞれ0.5〜5質量%及び0.3〜4質量%である請求項1記載の異方性導電フィルム。
【請求項3】
該絶縁性接着層中のチオール化合物の含有量が、該導電性粒子含有層のチオール化合物の含有量以上である請求項1又は2記載の異方性導電フィルム。
【請求項4】
該絶縁性接着層及び該導電性粒子含有層のチオール化合物が、それぞれ独立的にペンタエリスリトール テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、トリメチロールプロパン トリス(3−メルカプトプロピオネート)、及びジペンタエリスリトール ヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)からなる群より選択される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の異方性導電フィルム。
【請求項5】
該重合開始剤が、有機過酸化物である請求項1〜4のいずれかに記載の異方性導電フィルム。
【請求項6】
該導電性粒子含有層に含まれる重合開始剤が、一分間半減期温度の異なる2種類の有機過酸化物を含有し、該2種類の有機過酸化物のうち、一分間半減期温度の高い有機過酸化物が分解により安息香酸又はその誘導体を発生するものであり、該絶縁性接着層に含まれる重合開始剤が、一分間半減期温度の高い該有機過酸化物である請求項5記載の異方性導電フィルム。
【請求項7】
該2種類の有機過酸化物のうち、一分間半減期温度の低い有機過酸化物がジラウロイルパーオキサイドであり、一分間半減期温度の高い有機過酸化物がジベンゾイルパーオキサイドである請求項6記載の異方性導電フィルム。
【請求項8】
重合性アクリル系化合物が、リン酸エステル型アクリレートを含有し、フィルム形成樹脂が、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂又はフェノキシ樹脂を含有する請求項1〜7のいずれかに記載の異方性導電フィルム。
【請求項9】
第1の配線基板の接続部と第2の配線基板の接続部との間を、請求項1〜8のいずれかに記載の異方性導電フィルムで異方性導電接続した接続構造体。
【請求項10】
該第1の配線基板が、チップオンフィルム基板またはテープキャリアパッケージ基板であり、第2の配線基板がプリント配線板であり、異方性導電フィルムが請求項7記載の異方性導電フィルムであり、該異方性導電フィルムの絶縁性接着層が第1の配線基板側に配されている請求項9記載の接続構造体。
【請求項11】
第1の配線基板の接続部と第2の配線基板の接続部との間に請求項1〜8のいずれかに記載の異方性導電フィルムを挟持させ、一分間半減期温度の低い有機過酸化物が分解しない第1の温度で仮貼りした後、一分間半減期温度の高い有機過酸化物が分解する第2の温度で熱圧着することを特徴とする接続構造体の製造方法。

【公開番号】特開2011−32491(P2011−32491A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2010−250517(P2010−250517)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】