疎水性弁
本発明は、磁性粒子を含み相当の表面張力を有する液体用の疎水性弁に関するものである。このデバイスは、各々が機能化された表面を備える少なくとも2つの平坦な固体基板を有し、少なくとも第1の固体基板は少なくとも1つの疎水性領域により互いに分離された少なくとも2つの親水性領域を持つパターン化された表面を有する。上記2つの平坦な基板は互いに或る距離を隔てて、前記機能化された表面が互いに対面するようにサンドイッチ状に平行な態様で配置される。当該弁は更に磁気アクチュエータを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体デバイス上の疎水性弁に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の二、三十年のうちに、小型化された試料準備及び分析ユニット、所謂"ラボオンチップ(LOC)"が導入された。これらのデバイスは、1つ又は数個の実験室機能を、僅か数ミリから数平方センチメートルの大きさの単一チップ上に集積したものである。これらの導入は、少なくとも部分的に、診断、分析及び法医学的目的のための核酸ハイブリダイゼーション技術の導入により、及び益々大量の試料数により必要とされた高スループットに対する増大する要求により動機付けされた。これらのデバイスの開発は、リソグラフに基づく技術の進歩により、及び表面コーティング技術の新たな進展により後押しされている。
【0003】
しかしながら、液体の流れ及び/又は液体の分散の制御は、製造の問題並びにマイクロ及びナノスケールでの液体の挙動の制御可能性の不足により、ラボオンチップデバイスにおいては依然として課題である。
【0004】
Lie他の文献(2004年)は、"閉/開"機能を有する、即ち一度だけ開くことが可能な(非ピンチオフ又はトニック作動モード)マイクロ流体用途用の使い捨ての、熱的に作動されるパラフィン弁を記載している。しかしながら、このような弁は、熱の使用を必要とする一方、融解したパラフィンが当該デバイス上に位置する試料を汚染するか、又は該デバイス上のマイクロチャンネルを詰まらせ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、マイクロ流体デバイスにおける液体の流れ及び/又は液体の分散の制御を、上述した欠点なしに可能にするデバイスを提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、作動されると不可逆的に開放され得る、マイクロ流体デバイスにおいて使用するための弁を提供することにある。
【0007】
本発明の更に他の目的は、このようなデバイスを製造する方法及び使用する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、独立請求項に記載されたデバイス、弁及び方法により達成される。従属請求項は、好ましい実施例を示す。この前後関係において、以下に示される全ての範囲は、これらの範囲を画定する値を含むものと理解されるべきであることの言及しておく。
【0009】
本発明の目的の更なる詳細、フィーチャ、特徴及び利点は、従属請求項、図面及び各図及び例の下記の説明に開示されるが、上記各図及び例は本発明による好ましい実施例を例示的に示す。尚、これらの実施例は本発明の範囲を決して限定することを意味するものではないと理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、固体表面上における流体/流体(例えば、液体/気体又は液体/液体)界面の接触角を示す。
【図2】図2は、本発明によるデバイスの概略図を示す。
【図3a】図3aは、異なる基板間に配置された水/空気(又は水/油)界面の接触角を示す。
【図3b】図3bは、異なる基板間に配置された水/空気(又は水/油)界面の接触角を示す。
【図4】図4は、本発明による他のデバイスの概略図を示す。
【図5】図5は、図4によるデバイスの断面を示す。
【図6】図6は、本発明によるデバイスを示す、動画ファイルからの系列を示す。
【図7】図7は、図4による他のデバイスの断面を示す。
【図8】図8は、本発明による他のデバイスを示す、動画ファイルからの系列を示す。
【図9】図9は、本発明によるデバイスの別の実施例を示す。
【図10a】図10aは、本発明によるデバイスの磁気アクチュエータの一実施例を示す。
【図10b】図10bは、本発明によるデバイスの磁気アクチュエータの他の実施例を示す。
【図10c】図10cは、本発明によるデバイスの磁気アクチュエータの他の実施例を示す。
【図11】図11は、本発明によるデバイスを分解図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によれば、磁性粒子を含み、相当の(appreciable)表面張力を持つ液体用の疎水性弁が提供され、該弁は、
a)各々が機能化された(functionalized)表面を備える少なくとも2つの平坦な固体基板を有し、
b)少なくとも第1の固体基板は、少なくとも1つの疎水性領域により互いに分離された少なくとも2つの親水性領域を持つパターン化された表面を有し、
c)前記2つの平坦な基板は、前記機能化された表面が相互に対面するように、互いに或る距離を隔ててサンドイッチ状の平行な態様で配置され、
d)当該弁は更に磁気アクチュエータを有する。
【0012】
本出願で使用される場合、"相当の表面張力を持つ液体"とは、種々の分子間力による当該液体分子間の引力により特徴付けられる液体を指す。これは、例えば極性分子からなる液体に当てはまる。液体の塊内において、各分子は隣接する液体分子により全方向に等しく引かれ、結果として零の正味の力となる。該液体の表面においては、分子は当該液体の一層深い内部の他の分子により内側に引っ張られ、隣接する媒体(真空、空気又は液体のいずれにせよ)における分子によっては強くは吸引されない。従って、表面における分子の全ては、分子引力の内側への力を受け、該力は圧縮に対する当該液体の抗力によってのみ平衡化されるので、これは正味の内側への力は存在しないことを意味する。
【0013】
このような液体は、可能な限り小さな表面積を達成しようとして、滴を形成する傾向がある。これらの液体の例は、これらに限定されるものではないが、水及び水性液体(下記参照)、並びに官能基を備える有機液体、特に有機酸(organic acids)、ケトン(ketons)、アルデヒド(aldehydes)及びアルコール、例えばエタノール、グリセロール(glycerol)、アセトン(acetone)、アセトニトリル(acetonitrile)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide)、酢酸(acetic acid)、n−ブタノール(n-butanol)、イソプロパノール(isopropanol)、n−プロパノール(n-propanol)、エタノール(ethanol)、メタノール(methanol)、及びギ酸(formic acid)のみならず、1,4ジオキサン(1,4-dioxane)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、ジクロロメタン(dichloromethane)又はジメチル・スルホキシド(dimethyl sulfoxide)等の他の有機液体も含む。
【0014】
本出願で使用される場合、"疎水性"なる用語は、90°より大きな接触角を持つ基板表面を指す。また、"超疎水性"なる用語は、150°より大きな接触角を持つ基板表面を指す。
【0015】
本出願で使用される場合、"親水性"なる用語は、90°未満の接触角を持つ基板表面を指す。
【0016】
本出願で使用される場合、"接触角"なる用語は、流体/流体(例えば、液体/気体又は液体/液体)界面が固体表面となす角度を指す。この文脈において、"気体"なる用語は、空気、蒸気又は何らかの他の気体等のガス状流体を含む。"液体/液体界面"なる用語は、表面張力の差により混合することのできない2つの液体間に形成される界面を指す。好ましい実施例において、"液体/液体界面"なる用語は、極性液体(polar liquid)と無極性液体(non polar liquid)との間、好ましくは水性液体と油との間に形成される界面を指す。
【0017】
接触角は、如何なる所与の系に対しても固有であり、3つの界面にまたがる相互作用により決定される。殆どの場合において、接触角の概念は、平らな水平な固体表面上に留まる小さな液滴により説明される。斯かる滴の形状は、ヤング・ラプラス式により決定される。液体が固体表面に非常に強く引かれる場合(例えば、強く親水性の固体上の水)、滴は該固体表面上に完全に広げられ、接触角は0°に近くなるであろう。余り強くない親水性の固体は、90°までの接触角を有するであろう。多くの高度に親水性の表面上では、水滴は0°〜30°の接触角を呈する。固体表面が疎水性の場合、接触角は90°より大きくなるであろう。高度に疎水性の表面上では、これら表面は150°もの高くの又は約180°さえもの水接触角を有する。これらの表面上では、水滴は、如何なる大きな程度にも実際に濡らすことなく、当該表面上に単に留まる。
【0018】
本発明の好ましい実施例において、上記液体は水性液体とされる。本出願で使用される場合、"水性液体"なる用語は、主溶媒として水を有する液体を指す。
【0019】
前述した疎水性領域は、前記少なくとも2つの親水性領域の間の自由な液体の流れを防止するための障壁として作用する。
【0020】
前記磁気アクチュエータは、休止位置において、第1親水性領域及び疎水性領域(分離領域)の境界の下に配置される。このアクチュエータの存在は、前記磁性粒子を該磁気アクチュエータが配置された領域に集合させる。
【0021】
上記磁気アクチュエータの駆動に際して、該アクチュエータは第2親水性領域の方向に進行する。このように、磁性粒子を含む水性液体は、後述するような態様で上記疎水性領域を跨ぎ、従って上記2つの親水性領域を接続する水性液体の通路を形成するように強制される。上記通路が確立されている限り、当該疎水性弁は"開"位置にある。
【0022】
上記アクチュエータが上記疎水性領域を通過して、第2親水性領域内に落ち着くようになった場合、当該疎水性弁が"閉"位置に戻るか否かは、第2固体基板の前記機能化に依存する。
【0023】
第2固体基板が親水性表面を有する場合、前記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路は、そのまま残る(弁は"開"位置に留まる)が、該第2固体基板が疎水性表面を有する場合、上記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路は崩壊する("閉"位置に戻る)。後者は、"ピンチオフ動作"と呼ばれる。
【0024】
これらの挙動の差の理由は、接触角の異なる和である。親水性基板と疎水性基板との間に配置された水性液体の接触角の和は、約180°である。両角度から生じる毛管力は、互いに中和し、このことは、当該液滴のメニスカスに対して正味の力は作用しないことを意味する。従って、該メニスカスは移動せず、安定した状態が生成される。
【0025】
これとは対照的に、2つの疎水性基板の間に配置された水性液体の接触角の和は、常に>180°となる。このことは、当該メニスカスに毛管力が作用し、その結果、ピンチオフが生じることを意味する。これらの現象の説明に関しては、図3を参照されたい。
【0026】
本出願で使用される場合、"機能化された表面"なる用語は、所与の機能、例えば疎水性又は親水性の表面が付与された表面を指す。
【0027】
疎水性特性を有する機能化された表面に関しては、最も容易な実施例は、多くの基板が本来の状態において疎水性であるので、特別な機能化が実施されていないというものである。例えば、ポリプロピレン(polypropylene)は約105°の接触角を有する。この場合、斯様な基板上には親水性パターンを形成することができる。
【0028】
しかしながら、元来の疎水性特性が十分に良好でないか、又は何らかの理由により親水性特性を持つ基板が使用されている場合、例えば疎水性コーティングの被着により疎水性機能化を達成することができる。このようにして得られる機能化された表面の例は、
・シラン処理された(silanized)基板、
・フルオロカーボン(fluorocarbon)でコーティングされた基板、
・ロータス(蓮)効果が付与された基板、
・チオールでコーティングされた(thiol-coated)基板、及び/又は
・自己組織化単層膜(self-assembled monolayers)、
を含む。
【0029】
本出願で使用される"自己組織化単層膜(SAM)"なる用語は、基板上の分子の単一層からなる表面を指す。自己組織化単層膜は、単に、所望の分子の溶液を基板表面上に加えると共に余剰分を洗い流すことにより、又は蒸着(evaporation)により準備することができる。
【0030】
幾つかの普通に使用されるSAMは、8アミノ1オクタンチオール(8-Amino-1-octanethiol)、塩酸塩(hydrochloride)、6アミノ1ヘキサンチオール(6-Amino-1-hexanethiol)、塩酸塩(hydrochloride)、10カルボキシ1デカンチオール(10-Carboxy-1-decanethiol)、7カルボキシ1ヘプタンチオール(7-Carboxy-1-heptanethiol)を含む。好ましくは、チオール系のSAMは金の表面上に形成される一方、シラン系のSAMはガラス表面上に形成される。両方の場合において、各SAM形成分子の残留物が親水性又は疎水性を決定する。例えば、シランはフッ化炭素(fluorcarbon)鎖を含み、従って疎水性となることができるか、又はシランが炭素酸素鎖(例えば、ポリエチレングリコール:polyethyleneglycol)を含み、従って親水性となる。
【0031】
チオール・コーティングは、例えば金又は銀の基板に使用することができる。この前後関係において、好ましいチオールは、約110°の接触角を持つオクタデカンチオール(Octadecanethiol)である。
【0032】
本出願において使用される場合、"ロータス効果"なる用語は、表面の複雑な顕微鏡的アーキテクチャによる超疎水性特性を持つ基板を指し、該表面は高さ5〜40μm及び幅5〜30μmの突起のパターンを有する。このような備えの表面は、170°までの接触角を示す。
【0033】
ガラス又はSiOxの疎水性機能化を担う薬剤は、例えばペルフルオロデシル・トリ・エトキシシラン(perfluorodecyl-tri-etoxysilane)等のフッ素化されたシランである。この場合、シラン基はガラス表面に結合し、フルオロカーボン尾部が疎水性環境を生成する。このようなフッ素に富んだ(fluor-rich)SAMは約105°の接触角を有する。当業者であれば、一般知識から又は参考書及びデータベースから、発明的ステップを要することなしに他のフッ素化されたシランを選択することができる。この前後関係において有用な他のシランは、
・1H,1H,2H,2Hペルフルオロヘキシルトリクロロシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorohexyltrichlorosilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロヘキシルトリメトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorohexyltrimethoxysilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロヘキシルトリエトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorohexyltriethoxysilane)、
・1H,1H,2H,2Hペルフルオロオクチルトリクロロシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorooctyltrichlorosilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロオクチルトリメトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorooctyltrimethoxysilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロオクチルトリエトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorooctyltriethoxysilane)、
・1H,1H,2H,2Hペルフルオロデシルトリクロロシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorodecyltrichlorosilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロデシルトリメトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorodecyltrimethoxysilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロデシルトリエトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorodecyltriethoxysilane)、
・1H,1H,2H,2Hペルフルオロドデシルトリクロロシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorododecyltrichlorosilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロドデシルトリメトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorododecyltrimethoxysilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロドデシルトリエトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorododecyltriethoxysilane)、
を含む。
【0034】
更に、この前後関係において、エトキシシランが有用である。このグループは、なかでも、アルキル(ジメチル)エトキシシラン(Alkyl(dimethyl)ethoxysilanes)、テトラエトキシシラン(Tetraethoxysilane)、メチルトリエトキシシラン(methyltriethoxysilane)及びジメチルジエトキシシラン(dimethyldiethoxysilane)を含む。
【0035】
フルオロカーボンでコーティングされた基板の例は、テトラフルオエチレン("テフロン(登録商標)"、例えばテフロン(登録商標)AF1600)でスピンコーティングされたポリメチルメタクリレート(PMMA)スライドである。このような表面は、約115°の接触角を有する。他の例は、テトラフルオルメタン(Tetrafluormethane:CF4)である。テフロン(登録商標)コーティングはスピンコーティング又はディップコーティングにより達成されるが、テトラフルオルメタンのコーティングはプラズマ蒸着により達成される。
【0036】
親水性特性を持つ機能化表面に関しては、多くの基板が、元来の状態において、親水性であるので(ガラス、金属、多くのポリマ等)、最も容易な実施例は、特別な機能化が実施されないというものである。例えば、ガラス基板は約45°の接触角を有する一方、ポリメチルメタクリレートの基板は約75°の接触角を有する。この場合、斯様な基板上には疎水性パターンを形成することができる。
【0037】
しかしながら、元来の親水性特性が十分に良好でないか、何らかの理由により疎水性特性を有する基板が使用されている場合、親水性機能化を例えば、
・ポリ(エチレングリコール)シラン処理("PEGシラン"、シラン基が、なかでも、ガラス表面に結合し、PEG基が親水性環境を生成する)、又は
・プラズマ重合、
により達成することができる。
【0038】
プラズマ重合は、ガス放電を発生するためにプラズマ源を使用し、該ガス放電が重合を開始すべく、時にはビニル基を含むガス状又は液体のモノマを活性化又は断片化するためのエネルギを供給するような処理である。該処理は、表面上に薄い高分子膜を堆積するために使用することができる。上記モノマのタイプ及びモノマ当たりのエネルギ密度(ヤスダパラメータとして知られている)を選択することにより、結果として得られる薄膜の化学組成及び構造を広い範囲で変化させることができる。親水性ポリマ組成物は、例えばヘキサン(hexane)から重合された薄膜を生成することにより得ることができ、該ヘキサンはNビニル2ピロリドン(N-vinyl-2-pyrrolidone)から重合される外層のための共有結合サイトを提供する。
【0039】
前記第1固体基板上に設けられる疎水性及び親水性領域のパターンは、例えば、
1)当該基板を、疎水性特性を提供する薬剤で、例えばスピンコーティング、ディップコーティング、化学蒸着又はSAMを成長させることによりコーティングし、
2)上記薬剤を、親水性特性を有さねばならない領域から、例えばプラズマエッチングによりパターン化された態様で除去する、
ことにより達成することができる。
【0040】
上記ステップ1)に関しては、SAMを成長させることが好ましい。何故なら、このようにして得られた表面は、プラズマエッチングによりパターン化された態様で除去することが容易であるからである。
【0041】
スピンコーティング又はディップコーティングは、例えば、テフロン(登録商標)でコーティングされた表面(前記参照)を生成するために使用することができる。
【0042】
化学蒸着(CVD)技術も、好適である。この方法は、当業者により良く知られた、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)等の技術を含む。これにより得られた表面コーティングも、プラズマエッチングによりパターン化された態様で除去することができる。SiOCを含むコーティングは、例えば、PECVDにより形成することができるが、テフロン(登録商標)コーティングも同様に形成することができる。
【0043】
本出願で使用される場合、"プラズマエッチング"なる用語は、プラズマから物質の除去を達成するような如何なる処理も指す。これらは、例えば、イオン衝突に加えて、使用されるガス雰囲気の反応性成分も能動的となる反応性イオンエッチング(RIE)も含む。反応性イオンエッチングは、特に、異方性エッチングを可能にする。プラズマエッチングなる用語には、ICP(誘導結合プラズマ)処理も含まれる。更に、RIE処理とICP処理との組み合わせも可能である。
【0044】
疎水性及び親水性領域のパターンを形成する他の可能性は、元来親水性の基板上に、パターン化された態様で、疎水性の表面の改変(例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、化学蒸着又はSAMを成長させることにより)を局部的にのみ適用すること、又はその逆を行うことである。
【0045】
更に他の可能性は、フォトレジストによりパターンを画定するフォトリソグラフィック技術の使用である。基板全体にコーティングを被着した後、非パターン領域のコーティング物質をリフトオフ処理により除去することができる。
【0046】
磁性ビーズは、マイクロ流体デバイスの前後関係においてしばしば使用され、斯かるデバイスにおいて磁性ビーズは多数の役割を果たす。
・磁性ビーズは、スプレプトアビジン(streptavidin)、キチン(chitin)、オリゴヌクレオチド(olignucleotide)プローブ又は抗体等の捕捉剤でコーティングすることができ、斯かる捕捉剤は、細胞(磁性ビーズに基づく細胞分離)、核酸又はタンパク質(磁性ビーズに基づく免疫沈降)等の生物学的主体の結合を可能にする。後に、上記生物学的主体を担持する磁性ビーズは磁力により収集される。
・同様の方法が、シリカによりコーティングされた磁性ビーズにより実行されている。これらのビーズはカオトロピック塩の存在の下で核酸を固定する("ブーム法則(boom principle)")。
・磁性ビーズは、マイクロ流体デバイス内の液体を磁力により攪拌するために使用することができる。このことは、反応室をかき混ぜるか、又は含有物を解放するために溶解されるべき細胞を崩壊させる助けとなる。
【0047】
本出願で使用される場合、"磁性"なる用語は、
・磁性(即ち、磁界を生成する、強磁性とも称される)、
・常磁性(即ち、自身では磁界を生成しないが、磁界により吸引される、即ち1より大きな比透磁率を有する)、
・超常磁性(即ち、当該材料が全体として外部から印加された磁界内を除き磁化されないような態様で、熱変動下でランダムに方向を反転し得る小さな強磁性クラスタからなる)及び/又は
・反磁性(即ち、外部から印加された磁界とは反対の磁界を生成する)
である物質を指す。
【0048】
上記ビーズは、他の実施例では、例えばマグネタイト(Fe3O4)又は磁赤鉄鉱(ガンマFe2O3、両者とも超常磁性か若しくは強磁性の何れかである)等の酸化鉄を含むことができる。
【0049】
好ましい実施例において、上記ビーズの直径は≧3nmと≦1000μmとの範囲内である。特に好ましくは、上記ビーズの直径は≧10nmと≦100μmとの範囲内である。更に好ましくは、上記ビーズの直径は≧50nmと≦10μmとの範囲内である。
【0050】
好ましい実施例において、前記磁気アクチュエータは、
・少なくとも1つの永久磁石、
・少なくとも1つの電磁石、
からなる群から選択される。
【0051】
通常、電磁石は、単に、電流が通過された場合に磁界を発生するワイヤを有する。幾つかの一層複雑な場合においては、上記ワイヤは磁性材料のコア、好ましくは金属コアに巻回される。斯かるコアは、磁界を向上させる。
【0052】
好ましい実施例において、上記磁気アクチュエータは、該アクチュエータを前記固体基板に対して平行に移動(進行)させるのを可能にする移動機構を有する。斯かる移動機構に関する幾つかの好ましい実施例は、後述する。
【0053】
他の好ましい実施例において、上記磁気アクチュエータは、移動する磁界を得るために協調された態様でオン及びオフされる電磁石のアレイからなる。この実施例においては、該磁気アクチュエータは可動部品を有さない。この結果、保守の問題が少なくなり、低価格で高精度につながる一方、切換(スイッチング)速度が上昇すると共に製造コストが低下する。
【0054】
他の好ましい実施例においては、静止磁界を形成するために、静止磁界を形成する少なくとも1つの強い永久磁石及び/又は少なくとも1つの強い電磁石が使用される一方、より小さな磁石(永久磁石、電磁石、電磁石又はコイルのアレイ)が前記磁性ビーズを駆動して当該疎水性弁を開放及び/又は閉塞する。
【0055】
上記の場合、永久的な一様な磁界が当該常磁性又は超常磁性ビーズの最大の磁化を付与する一方、非均一な磁界が当該磁界の一層大きな勾配を付与する。
【0056】
他の好ましい実施例において、前記第2固体基板は親水性表面を有する。このような実施例においては(実施例1のデバイス2参照)、アクチュエータが疎水性領域を通過し、第2親水性領域に留まるようになっても、当該疎水性弁は"開"位置のままとなる。この場合、上記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路は安定したままであり、ピンチオフは見られない。この弁作動モードは、"トニック(緊張)弁作動モード"とも呼ばれる。このモードは、例えば2つのチェンバの内容物が混合されるべき場合に、特に有用である。
【0057】
更に他の実施例では、第2固体基板は疎水性表面を有する。基本的に、このような実施例においては(実施例1のデバイス1参照)、当該疎水性弁は、アクチュエータが2つの隣接する親水性領域を分離する疎水性領域の近傍の位置に留まる限り、"開"位置に留まる。該アクチュエータが上記疎水性領域を通過し、第2親水性領域内に留まるようになると、上記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路は壊れて、該弁は"閉"位置に戻り、ピンチオフが見られる。この弁作動モードは、"一過性(phasic)弁作動モード"又は"ピンチオフモード"とも呼ばれる。このモードは、例えば磁性粒子又は斯かる磁性粒子に結合された化合物若しくは物質が或るチェンバから他のチェンバに、これらチェンバの内容物を混合することなしに、従って相互汚染を最少にして、供給されるべき場合に、特に有用である。
【0058】
前記第1固体基板及び/又は第2固体基板の少なくとも1つの疎水性表面は、該疎水性表面が大きな接触角ヒステリシスを有するように、選択されることが特に好ましい。この実施例は、前述した"トニック弁作動モード"を下記のような理由で支援する。
【0059】
液滴の接触角を、該液滴の体積が増加している間に測定する場合(これは、特に、濡れ線が進み始める直前になされる)、所謂"前進接触角(θA)"が得られる。既に表面を濡らした滴の体積を減少させ、濡れ線が後退する直前の接触角を決定する場合、所謂"後退接触角(θR)"を測定することになる。一般的に、θAはθRよりも著しく大きい。差θA−θR(又はΔθ)は、接触角ヒステリシスと呼ばれる。平衡接触角(θ0)は、下記の式に基づいてθA及びθRから計算することができる。
【数1】
ここで、
【数2】
及び
【数3】
である。
【0060】
機能化された領域への液体の閉じ込めは主に前進接触角により決定される一方、ピンチオフ作用は後退接触角により支配される。
【0061】
このことは、ピンチオフ動作を示すことを意図しない疎水性弁("一過性弁")は第1固体基板の大きな接触角ヒステリシスから利益を受けることを意味する。大きな前進接触角θAは結果的に当該液体の一層良好な閉じ込めを生じる一方、小さな後退接触角θRはピンチオフ作用を良好に防止する。大きなヒステリシスによれば、これらの両者を達成することができる。
【0062】
下記の表は、幾つかの選択されたコーティングに対する総覧的な接触角ヒステリシス値を示す。
【表1】
【0063】
表2には、上記現象が要約されている。
【表2】
【0064】
上述した接触角は大凡の推定値に過ぎない。というのは、接触角は、殆どの場合、決して固定数にならないからである。一般的に、前進接触角と後退接触角との間には差が存在する。
【0065】
本発明は、更に、本発明による上記弁を有するマイクロ流体デバイスも提供する。
【0066】
本出願で使用される場合、"マイクロ流体デバイス"なる用語は、マイクロ寸法の流体の処理及び操作のためのデバイスを指し、該流体は幾何学的に小さな、典型的にはミリメートル未満の規模(ナノ、ピコ又はフェムトリットル)に制約される。このような流体の挙動は、"マクロ流体"の挙動とは、表面張力、エネルギ放散及び流体抵抗等の要因が当該系を支配し始めるという点で相違する。マイクロ流体デバイスは、しばしば、僅かに少量で利用可能な、液体の生物学的サンプルの処理及び操作において役割を果たす。これらデバイスは、しばしば、ラボオンチップ環境の一部となる。
【0067】
本出願で使用される場合、"ラボオンチップ(LOC)"なる用語は、僅か数ミリメートルから数平方センチメートルのサイズの単一チップ上に1個又は数個の実験室機能を集積したデバイスを指す。上記機能は、リアルタイムPCR、生化学検定(アッセイ)、免疫学的検定、誘電泳動、細胞サンプルの準備等を含む。
【0068】
上述した種類のマイクロ流体デバイスにおいては、液体の移送は時には毛管力により生じる、即ち能動的なポンプ送りは必要とされないことに言及することには価値がある。このことは、チェンバ内に配置された液体が他のチェンバに、これら2つのチェンバ間の通路が例えば本出願で述べる親水性弁等の弁(バルブ)により開かれた場合に自動的に流れることを意味する。
【0069】
しかしながら、特定の状況下ではポンプ送りが必要となり得る。当業者であれば、発明的ステップを用いることなく従来技術から如何なる好適なポンプを選択することもできる。
【0070】
特に好ましくは、ポンプ送りは、
・蠕動ポンプ、
・圧電駆動ポンプ、及び/又は
・シリンジポンプ、
により実施することができる。
【0071】
好ましい実施例において、当該マイクロ流体デバイスの少なくとも1つの疎水性領域の幅は、該領域に隣接する親水性領域の幅より小さいものとされる。一般的に、上記疎水性領域は、本出願で"疎水性障壁"又は"分離領域"と呼ばれるものを形成する。この領域は、≧0.02mm且つ≦10mmの、好ましくは≧0.05mm且つ≦3mmの、より好ましくは≧0.5mm且つ≦3mmの幅を有することができる。
【0072】
他の好ましい実施例においては、当該マイクロ流体デバイスがラボオンチップ環境の一部であるとされる。
【0073】
本発明は、更に、ラボオンチップデバイスを提供し、該デバイスは本発明によるマイクロ流体デバイスを有する。
【0074】
好ましい実施例において、本発明によるラボオンチップデバイスは、更に、
・細胞サンプル準備デバイス
・サンプラ攪拌ユニット(攪拌器)
・核酸分離デバイス
・核酸精製デバイス
・核酸抽出デバイス
・サンプル準備デバイス
・免疫学的検定器
・電気泳動デバイス
・核酸ハイブリダイゼーションユニット
・PCR温度サイクラ
・蛍光読出ユニット
・オンチップ化学反応アプリケーション
からなる群から選択される少なくとも1つのデバイスを有する。
【0075】
本発明は、更に、本発明によるマイクロ流体デバイスにおける液体の流れを制御する方法を提供し、該デバイスにおいて少なくとも1つの親水性領域には磁性粒子を含む水性液体が装填され、該方法は、
a)第1親水性領域の近傍の位置において磁界を形成するステップと、
b)上記磁界を、第1親水性領域の近傍の位置から第2親水性領域の近傍の位置へ前記2つの平坦な固体基板の方向と平行な方向に進行させるステップと、
c)前記進行する磁界が、途中で、前記親水性領域を分離する疎水性領域の近傍の位置を通過するステップと、
d)これにより、前記親水性領域を分離する前記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路を少なくとも一時的に形成し、水性液体が前記第1親水性領域から前記第2親水性領域へ少なくとも一時的に通過することができるようにするステップと、
を有する。
【図面に基づく説明】
【0076】
以下の図は、本発明の幾つかの本質的な態様を概略図示する。
【0077】
図1は、どのような接触角で流体/流体(例えば、液体/気体又は液体/液体)界面が固体表面と接触することができるかを示している。親水性基板上の水/空気界面の場合、水は固体表面に強く引かれ、滴は該表面上に広がるであろう。同じことが、水/油界面にも当てはまる。
【0078】
このように、水性液体と親水性固体基板(灰色の陰影領域)との間の接触角は、典型的には<90°である。対照的に、疎水性基板上では、親水性溶液は90°より大きな接触角を有する。
【0079】
図2は、本発明によるデバイスの概略図を示し、該デバイスは機能化された表面20を備える平坦な固体基板を有している。上記表面20は、1つの疎水性領域22により互いに分離された2つの親水性領域21を有するようにパターン化されている。該デバイスは、本発明による磁気アクチュエータ23として、可動永久磁石を有している。
【0080】
図3aは親水性基板と疎水性基板との間に配置された水/空気(又は水/油)界面の接触角の和が約180°であることを示す一方、図3bは2つの疎水性基板の間に配置された水/空気(又は水/油)界面の接触角の和が常に>180°であることを示している。
【0081】
図3aに示された原理は、本発明による非ピンチオフ弁(トニック作動モード)の基礎となるものである。ここでは、第1基板の少なくとも1つの疎水性領域は、非ピンチオフ動作を支援するために大きな接触角ヒステリシスを有するように選択されるものとされ得る。その説明に関しては、テキストを参照されたい。図3bに示された原理は、本発明によるピンチオフ弁(一過性作動モード)の基礎となるものである。
【0082】
図4は、本発明によるデバイスの概略図を示し、該デバイスは、互いから距離42に配置されると共に互いに対面する2つの平らな固体基板40、41の平行配置を有する。下側の基板は、2つの親水性領域43を備えるパターン化された表面を有している。
【0083】
図5は、図4のA−A'線に沿う疎水性弁の断面を示す。この例において、第1固体基板50は疎水性表面内に親水性領域52(灰色の陰影)を備えるパターン化された表面を有する一方、第2固体基板51は完全に疎水性の表面を有している。このようにして、第1基板50の親水性領域52の間には、分離領域53が形成される。
【0084】
第1基板50の上記親水性領域により描かれる空間は水性液体54により満たされ、該水性液体は、疎水性表面により取り囲まれているので、その位置に保持される。これら滴の一方は、磁性粒子の群55を含む。図5及び残りの図において、当該デバイスにおける残りの空間は空気(水/空気界面)若しくは他の気体、又は油(水/油界面)又は他の非極性液体により満たされ得ることに言及する価値がある。
【0085】
永久磁石56からなる磁気アクチュエータは、第1親水性領域と疎水性領域(分離領域53)との境界の下に配置される。該磁気アクチュエータの存在は、上記磁性粒子を当該滴の該領域に集合させる。磁気アクチュエータ56を動かすことにより、これら磁性粒子は、この動きに従うようにされ、疎水性分離領域53を跨いで、一方の親水性領域から他方のものへの通路を形成する。当該磁気アクチュエータが上記疎水性領域の下に位置される限り、この通路は維持され、当該疎水性弁は"開"位置にある。当該磁気アクチュエータが更に移動すると、当該弁における液体の接続は壊れ、上記分離領域から親水性領域へと退く。言い換えると、ピンチオフが観測される。
【0086】
図6は、動画ファイルのシーケンスを図示しており、該動画ファイルは液体により満たされたデバイス1(即ち、第2固体基板が疎水性である)によるチェンバを示し、これらの一方は一群の磁性粒子を含んでいる。これらの磁性粒子は、疎水性障壁を介して左側のチェンバから右側のチェンバへ移送される。斯かる粒子の通過の後、当該弁における液体の接続は壊れ、弁の領域から前記チェンバへ後退する。言い換えると、良好なピンチオフが観測される。上記粒子の通過の後で当該弁において見られる透明度の増加は、凝縮物の除去により生じる光学的アーチファクトである。
【0087】
図7は、図4のA−A'線に沿う疎水性弁の断面を示す。この例において、第1固体基板70は疎水性表面内に親水性領域72(灰色の陰影)を備えるパターン化された表面を有する一方、第2固体基板71は完全に親水性(灰色の陰影)である。このようにして、第1基板70の親水性領域の間には、分離領域73が形成される。
【0088】
第1基板70の上記親水性領域により描かれる空間は水性液体74により満たされ、これらは、疎水性分離領域73に隣接しているので、その位置に保持される。これら滴の一方は、磁性粒子の群75を含んでいる。
【0089】
永久磁石76からなる磁気アクチュエータは、第1親水性領域と疎水性領域(分離領域73)との境界の下に配置される。該磁気アクチュエータの存在は、上記磁性粒子を当該滴の該領域に集合させる。磁気アクチュエータ76を動かすことにより、これら磁性粒子は、この動きに従うようにされ、疎水性障壁73を跨いで、一方の親水性領域から他方のものへの通路を形成する。デバイス1とは対照的に、上記磁性粒子が第1基板の右側の親水性領域へ通過し、磁気アクチュエータ76が第1基板の該親水性領域の下へ移動された後においても、当該弁における上記液体の接続は壊れることはなく、存在したままとなる。言い換えると、トニック弁作動が観測される。
【0090】
図8は、動画ファイルのシーケンスを図示しており、該動画ファイルは液体により満たされたデバイス2(即ち、第2固体基板が親水性である)によるチェンバを示し、これらの一方は一群の磁性粒子を含んでいる。これらの磁性粒子は、疎水性障壁を介して左側のチェンバから右側のチェンバへ移送される。斯かる粒子の通過の後、当該弁における液体の接続は壊れることはなく、存在したままとなる。特に最後の画像は、これを明瞭に示している。何故なら、磁性粒子が、当該弁領域に残存する液体接続部へと逆流しているのが見られるからである。言い換えると、ピンチオフは観測されない。
【0091】
図9は、本発明によるデバイスの異なる実施例を示し、これらは親水性領域90の構成が互いに異なっている。これら全ての場合において、少なくとも1つの疎水性領域91の幅は、該疎水性領域に隣接する親水性領域90の幅より小さくなっている。前記第2固体基板及び磁気アクチュエータは、明瞭化のために図示されていない。
【0092】
図10は、前述した磁気アクチュエータの異なる実施例を示している。図10aにおいて、磁気アクチュエータ100は移動機構101(例えば、レイル)を有し、該移動機構は当該磁気アクチュエータが固体基板に対して平行に移動するのを可能にし、これにより磁界103を、従って当該液体内の磁性粒子を移動させる。
【0093】
図10bにおいて、当該磁気アクチュエータは電磁石105のアレイからなり、これら電磁石は協調された態様でオン及びオフすることができる。かくして、磁界は、個々の電磁石を協調された態様で駆動及び非駆動することにより進行する。スイッチ106は斯かるスイッチング機構を記号化したもので、該スイッチング機構は、機械式スイッチに限定されるものではなく、トランジスタ等の半導体スイッチ、論理スイッチ又は電磁石のアレイにおいて磁界の協調された進行を可能にするような従来から知られた如何なる他のデバイスとすることもできる。
【0094】
図10cにおいて、当該磁気アクチュエータは印刷回路基板108上に配置された電磁コイル107のアレイからなる。図10cに示したもの以外として、当該電磁コイルのアレイは多層化することもできる。これら電磁コイルは、協調された態様でオン及びオフすることができる。かくして、磁界は、個々のコイルを協調された態様で駆動及び非駆動することにより進行する。更に、当該磁界は、静止磁界を形成する強力な永久磁石109により高められる。該永久磁石は、電磁石により置換することもできる。後者のものは、進行する磁界の強度を高めるのみならず、必要なら、前記磁性ビーズを磁化するように作用する。
【0095】
図11は、本発明によるデバイスを分解図で示す。該デバイスは、疎水性領域112により互いに分離された親水性領域111を有する。更に、該デバイスは電磁コイルのアレイを備える印刷回路基板113を有し、これら電磁コイルは進行磁界を形成するために協調された態様でオン及びオフすることができる。静止磁界を形成するための永久磁石又は磁性ビーズを含む液滴等の他の構成部分は図11には図示されていない。
【実施例1】
【0096】
2種類のデバイスにより実験が行われた。両デバイスは第1固体基板と第2固体基板とからなり、これら基板はスペーサ(この場合には、100μm厚の両面接着テープ)により互いに分離された。第1固体基板は、少なくとも1つの疎水性領域により互いに分離された少なくとも2つの親水性領域を含むパターン化された表面を有するものである。
【0097】
デバイス1においては、第2固体基板は疎水性表面を有する一方、デバイス2においては、第2固体基板は親水性表面を有する。
【0098】
両デバイスの第1固体基板は顕微鏡のスライドガラスであり、該スライドガラス上にはペルフルオロデシル・トリ・エトキシシラン(perfluorodecyl-tri-etoxysilane)の自己組織化単層膜(SAM)が塗布される。このSAMは酸素プラズマ処理により部分的に除去され、親水性チェンバのパターンを疎水性バックグラウンド内のアイランドとして残存させる。デバイス1の場合、第2固体基板は、テフロン(登録商標)AF1600中でディップコーティングされたPMMAのスライドである。デバイス2の場合、第2固体基板はPMMAの処理されていないスライドである。
【0099】
フッ素に富んだ(fluor-rich)SAMは、約105°の接触角を有する。処理されていないPMMAは約75°の接触角を有する一方、テフロン(登録商標)AF1600中でディップコーティングされたPMMAは約115°の接触角を有する。
【0100】
上記第2固体基板は第1固体基板上にスペーサ、即ち100μm厚の両面接着テープにより配置される。該第2基板は親水性領域の直上に充填孔を有する。
【0101】
両デバイスにおいて、磁性粒子(Dynal M270ビーズ、2.7μm径)を含む水滴(10μl)が充填孔を介して注入されて、該水滴は第1親水性領域に集まる一方、他方の親水性領域には磁性粒子を含まない水滴が注入される。
【0102】
次いで、磁気アクチュエータが、当該デバイスの下であって、上記第1親水性領域と疎水性領域(分離領域)との境界の下に配置される。即座に、上記磁性粒子は該磁気アクチュエータが配置された領域に集合する。
【0103】
次いで、該磁気アクチュエータは第2親水性領域の方向に進行し、かくして、上記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路を形成する。該アクチュエータが上記疎水性領域を通過し、第2親水性領域に留まるようになると、
i.デバイス1では、上記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路は壊れる一方、
ii.デバイス2では、上記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路は安定したままとなる。
【0104】
上記第1モードの弁作動は"一過性弁作動モード"又は"ピンチオフモード"とも呼ばれる一方、第2モードの弁動作は"トニック弁作動モード"とも呼ばれる。
【0105】
この理由は、デバイス1においては、第2固体基板が疎水性表面を有するが、デバイス2では、第2固体基板は親水性表面を有するからである(上記参照)。
【参考文献】
【0106】
Liu R H, Bonanno J Yang J, Lenigk R, Grodzinski P (2004):使い捨ての熱的に作動されるパラフィン弁、センサ及びアクチュエータB 98; 328-336
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体デバイス上の疎水性弁に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の二、三十年のうちに、小型化された試料準備及び分析ユニット、所謂"ラボオンチップ(LOC)"が導入された。これらのデバイスは、1つ又は数個の実験室機能を、僅か数ミリから数平方センチメートルの大きさの単一チップ上に集積したものである。これらの導入は、少なくとも部分的に、診断、分析及び法医学的目的のための核酸ハイブリダイゼーション技術の導入により、及び益々大量の試料数により必要とされた高スループットに対する増大する要求により動機付けされた。これらのデバイスの開発は、リソグラフに基づく技術の進歩により、及び表面コーティング技術の新たな進展により後押しされている。
【0003】
しかしながら、液体の流れ及び/又は液体の分散の制御は、製造の問題並びにマイクロ及びナノスケールでの液体の挙動の制御可能性の不足により、ラボオンチップデバイスにおいては依然として課題である。
【0004】
Lie他の文献(2004年)は、"閉/開"機能を有する、即ち一度だけ開くことが可能な(非ピンチオフ又はトニック作動モード)マイクロ流体用途用の使い捨ての、熱的に作動されるパラフィン弁を記載している。しかしながら、このような弁は、熱の使用を必要とする一方、融解したパラフィンが当該デバイス上に位置する試料を汚染するか、又は該デバイス上のマイクロチャンネルを詰まらせ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、マイクロ流体デバイスにおける液体の流れ及び/又は液体の分散の制御を、上述した欠点なしに可能にするデバイスを提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、作動されると不可逆的に開放され得る、マイクロ流体デバイスにおいて使用するための弁を提供することにある。
【0007】
本発明の更に他の目的は、このようなデバイスを製造する方法及び使用する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、独立請求項に記載されたデバイス、弁及び方法により達成される。従属請求項は、好ましい実施例を示す。この前後関係において、以下に示される全ての範囲は、これらの範囲を画定する値を含むものと理解されるべきであることの言及しておく。
【0009】
本発明の目的の更なる詳細、フィーチャ、特徴及び利点は、従属請求項、図面及び各図及び例の下記の説明に開示されるが、上記各図及び例は本発明による好ましい実施例を例示的に示す。尚、これらの実施例は本発明の範囲を決して限定することを意味するものではないと理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、固体表面上における流体/流体(例えば、液体/気体又は液体/液体)界面の接触角を示す。
【図2】図2は、本発明によるデバイスの概略図を示す。
【図3a】図3aは、異なる基板間に配置された水/空気(又は水/油)界面の接触角を示す。
【図3b】図3bは、異なる基板間に配置された水/空気(又は水/油)界面の接触角を示す。
【図4】図4は、本発明による他のデバイスの概略図を示す。
【図5】図5は、図4によるデバイスの断面を示す。
【図6】図6は、本発明によるデバイスを示す、動画ファイルからの系列を示す。
【図7】図7は、図4による他のデバイスの断面を示す。
【図8】図8は、本発明による他のデバイスを示す、動画ファイルからの系列を示す。
【図9】図9は、本発明によるデバイスの別の実施例を示す。
【図10a】図10aは、本発明によるデバイスの磁気アクチュエータの一実施例を示す。
【図10b】図10bは、本発明によるデバイスの磁気アクチュエータの他の実施例を示す。
【図10c】図10cは、本発明によるデバイスの磁気アクチュエータの他の実施例を示す。
【図11】図11は、本発明によるデバイスを分解図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によれば、磁性粒子を含み、相当の(appreciable)表面張力を持つ液体用の疎水性弁が提供され、該弁は、
a)各々が機能化された(functionalized)表面を備える少なくとも2つの平坦な固体基板を有し、
b)少なくとも第1の固体基板は、少なくとも1つの疎水性領域により互いに分離された少なくとも2つの親水性領域を持つパターン化された表面を有し、
c)前記2つの平坦な基板は、前記機能化された表面が相互に対面するように、互いに或る距離を隔ててサンドイッチ状の平行な態様で配置され、
d)当該弁は更に磁気アクチュエータを有する。
【0012】
本出願で使用される場合、"相当の表面張力を持つ液体"とは、種々の分子間力による当該液体分子間の引力により特徴付けられる液体を指す。これは、例えば極性分子からなる液体に当てはまる。液体の塊内において、各分子は隣接する液体分子により全方向に等しく引かれ、結果として零の正味の力となる。該液体の表面においては、分子は当該液体の一層深い内部の他の分子により内側に引っ張られ、隣接する媒体(真空、空気又は液体のいずれにせよ)における分子によっては強くは吸引されない。従って、表面における分子の全ては、分子引力の内側への力を受け、該力は圧縮に対する当該液体の抗力によってのみ平衡化されるので、これは正味の内側への力は存在しないことを意味する。
【0013】
このような液体は、可能な限り小さな表面積を達成しようとして、滴を形成する傾向がある。これらの液体の例は、これらに限定されるものではないが、水及び水性液体(下記参照)、並びに官能基を備える有機液体、特に有機酸(organic acids)、ケトン(ketons)、アルデヒド(aldehydes)及びアルコール、例えばエタノール、グリセロール(glycerol)、アセトン(acetone)、アセトニトリル(acetonitrile)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide)、酢酸(acetic acid)、n−ブタノール(n-butanol)、イソプロパノール(isopropanol)、n−プロパノール(n-propanol)、エタノール(ethanol)、メタノール(methanol)、及びギ酸(formic acid)のみならず、1,4ジオキサン(1,4-dioxane)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、ジクロロメタン(dichloromethane)又はジメチル・スルホキシド(dimethyl sulfoxide)等の他の有機液体も含む。
【0014】
本出願で使用される場合、"疎水性"なる用語は、90°より大きな接触角を持つ基板表面を指す。また、"超疎水性"なる用語は、150°より大きな接触角を持つ基板表面を指す。
【0015】
本出願で使用される場合、"親水性"なる用語は、90°未満の接触角を持つ基板表面を指す。
【0016】
本出願で使用される場合、"接触角"なる用語は、流体/流体(例えば、液体/気体又は液体/液体)界面が固体表面となす角度を指す。この文脈において、"気体"なる用語は、空気、蒸気又は何らかの他の気体等のガス状流体を含む。"液体/液体界面"なる用語は、表面張力の差により混合することのできない2つの液体間に形成される界面を指す。好ましい実施例において、"液体/液体界面"なる用語は、極性液体(polar liquid)と無極性液体(non polar liquid)との間、好ましくは水性液体と油との間に形成される界面を指す。
【0017】
接触角は、如何なる所与の系に対しても固有であり、3つの界面にまたがる相互作用により決定される。殆どの場合において、接触角の概念は、平らな水平な固体表面上に留まる小さな液滴により説明される。斯かる滴の形状は、ヤング・ラプラス式により決定される。液体が固体表面に非常に強く引かれる場合(例えば、強く親水性の固体上の水)、滴は該固体表面上に完全に広げられ、接触角は0°に近くなるであろう。余り強くない親水性の固体は、90°までの接触角を有するであろう。多くの高度に親水性の表面上では、水滴は0°〜30°の接触角を呈する。固体表面が疎水性の場合、接触角は90°より大きくなるであろう。高度に疎水性の表面上では、これら表面は150°もの高くの又は約180°さえもの水接触角を有する。これらの表面上では、水滴は、如何なる大きな程度にも実際に濡らすことなく、当該表面上に単に留まる。
【0018】
本発明の好ましい実施例において、上記液体は水性液体とされる。本出願で使用される場合、"水性液体"なる用語は、主溶媒として水を有する液体を指す。
【0019】
前述した疎水性領域は、前記少なくとも2つの親水性領域の間の自由な液体の流れを防止するための障壁として作用する。
【0020】
前記磁気アクチュエータは、休止位置において、第1親水性領域及び疎水性領域(分離領域)の境界の下に配置される。このアクチュエータの存在は、前記磁性粒子を該磁気アクチュエータが配置された領域に集合させる。
【0021】
上記磁気アクチュエータの駆動に際して、該アクチュエータは第2親水性領域の方向に進行する。このように、磁性粒子を含む水性液体は、後述するような態様で上記疎水性領域を跨ぎ、従って上記2つの親水性領域を接続する水性液体の通路を形成するように強制される。上記通路が確立されている限り、当該疎水性弁は"開"位置にある。
【0022】
上記アクチュエータが上記疎水性領域を通過して、第2親水性領域内に落ち着くようになった場合、当該疎水性弁が"閉"位置に戻るか否かは、第2固体基板の前記機能化に依存する。
【0023】
第2固体基板が親水性表面を有する場合、前記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路は、そのまま残る(弁は"開"位置に留まる)が、該第2固体基板が疎水性表面を有する場合、上記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路は崩壊する("閉"位置に戻る)。後者は、"ピンチオフ動作"と呼ばれる。
【0024】
これらの挙動の差の理由は、接触角の異なる和である。親水性基板と疎水性基板との間に配置された水性液体の接触角の和は、約180°である。両角度から生じる毛管力は、互いに中和し、このことは、当該液滴のメニスカスに対して正味の力は作用しないことを意味する。従って、該メニスカスは移動せず、安定した状態が生成される。
【0025】
これとは対照的に、2つの疎水性基板の間に配置された水性液体の接触角の和は、常に>180°となる。このことは、当該メニスカスに毛管力が作用し、その結果、ピンチオフが生じることを意味する。これらの現象の説明に関しては、図3を参照されたい。
【0026】
本出願で使用される場合、"機能化された表面"なる用語は、所与の機能、例えば疎水性又は親水性の表面が付与された表面を指す。
【0027】
疎水性特性を有する機能化された表面に関しては、最も容易な実施例は、多くの基板が本来の状態において疎水性であるので、特別な機能化が実施されていないというものである。例えば、ポリプロピレン(polypropylene)は約105°の接触角を有する。この場合、斯様な基板上には親水性パターンを形成することができる。
【0028】
しかしながら、元来の疎水性特性が十分に良好でないか、又は何らかの理由により親水性特性を持つ基板が使用されている場合、例えば疎水性コーティングの被着により疎水性機能化を達成することができる。このようにして得られる機能化された表面の例は、
・シラン処理された(silanized)基板、
・フルオロカーボン(fluorocarbon)でコーティングされた基板、
・ロータス(蓮)効果が付与された基板、
・チオールでコーティングされた(thiol-coated)基板、及び/又は
・自己組織化単層膜(self-assembled monolayers)、
を含む。
【0029】
本出願で使用される"自己組織化単層膜(SAM)"なる用語は、基板上の分子の単一層からなる表面を指す。自己組織化単層膜は、単に、所望の分子の溶液を基板表面上に加えると共に余剰分を洗い流すことにより、又は蒸着(evaporation)により準備することができる。
【0030】
幾つかの普通に使用されるSAMは、8アミノ1オクタンチオール(8-Amino-1-octanethiol)、塩酸塩(hydrochloride)、6アミノ1ヘキサンチオール(6-Amino-1-hexanethiol)、塩酸塩(hydrochloride)、10カルボキシ1デカンチオール(10-Carboxy-1-decanethiol)、7カルボキシ1ヘプタンチオール(7-Carboxy-1-heptanethiol)を含む。好ましくは、チオール系のSAMは金の表面上に形成される一方、シラン系のSAMはガラス表面上に形成される。両方の場合において、各SAM形成分子の残留物が親水性又は疎水性を決定する。例えば、シランはフッ化炭素(fluorcarbon)鎖を含み、従って疎水性となることができるか、又はシランが炭素酸素鎖(例えば、ポリエチレングリコール:polyethyleneglycol)を含み、従って親水性となる。
【0031】
チオール・コーティングは、例えば金又は銀の基板に使用することができる。この前後関係において、好ましいチオールは、約110°の接触角を持つオクタデカンチオール(Octadecanethiol)である。
【0032】
本出願において使用される場合、"ロータス効果"なる用語は、表面の複雑な顕微鏡的アーキテクチャによる超疎水性特性を持つ基板を指し、該表面は高さ5〜40μm及び幅5〜30μmの突起のパターンを有する。このような備えの表面は、170°までの接触角を示す。
【0033】
ガラス又はSiOxの疎水性機能化を担う薬剤は、例えばペルフルオロデシル・トリ・エトキシシラン(perfluorodecyl-tri-etoxysilane)等のフッ素化されたシランである。この場合、シラン基はガラス表面に結合し、フルオロカーボン尾部が疎水性環境を生成する。このようなフッ素に富んだ(fluor-rich)SAMは約105°の接触角を有する。当業者であれば、一般知識から又は参考書及びデータベースから、発明的ステップを要することなしに他のフッ素化されたシランを選択することができる。この前後関係において有用な他のシランは、
・1H,1H,2H,2Hペルフルオロヘキシルトリクロロシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorohexyltrichlorosilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロヘキシルトリメトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorohexyltrimethoxysilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロヘキシルトリエトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorohexyltriethoxysilane)、
・1H,1H,2H,2Hペルフルオロオクチルトリクロロシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorooctyltrichlorosilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロオクチルトリメトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorooctyltrimethoxysilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロオクチルトリエトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorooctyltriethoxysilane)、
・1H,1H,2H,2Hペルフルオロデシルトリクロロシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorodecyltrichlorosilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロデシルトリメトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorodecyltrimethoxysilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロデシルトリエトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorodecyltriethoxysilane)、
・1H,1H,2H,2Hペルフルオロドデシルトリクロロシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorododecyltrichlorosilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロドデシルトリメトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorododecyltrimethoxysilane)、1H,1H,2H,2Hペルフルオロドデシルトリエトキシシラン(1H,1H,2H,2H-perfluorododecyltriethoxysilane)、
を含む。
【0034】
更に、この前後関係において、エトキシシランが有用である。このグループは、なかでも、アルキル(ジメチル)エトキシシラン(Alkyl(dimethyl)ethoxysilanes)、テトラエトキシシラン(Tetraethoxysilane)、メチルトリエトキシシラン(methyltriethoxysilane)及びジメチルジエトキシシラン(dimethyldiethoxysilane)を含む。
【0035】
フルオロカーボンでコーティングされた基板の例は、テトラフルオエチレン("テフロン(登録商標)"、例えばテフロン(登録商標)AF1600)でスピンコーティングされたポリメチルメタクリレート(PMMA)スライドである。このような表面は、約115°の接触角を有する。他の例は、テトラフルオルメタン(Tetrafluormethane:CF4)である。テフロン(登録商標)コーティングはスピンコーティング又はディップコーティングにより達成されるが、テトラフルオルメタンのコーティングはプラズマ蒸着により達成される。
【0036】
親水性特性を持つ機能化表面に関しては、多くの基板が、元来の状態において、親水性であるので(ガラス、金属、多くのポリマ等)、最も容易な実施例は、特別な機能化が実施されないというものである。例えば、ガラス基板は約45°の接触角を有する一方、ポリメチルメタクリレートの基板は約75°の接触角を有する。この場合、斯様な基板上には疎水性パターンを形成することができる。
【0037】
しかしながら、元来の親水性特性が十分に良好でないか、何らかの理由により疎水性特性を有する基板が使用されている場合、親水性機能化を例えば、
・ポリ(エチレングリコール)シラン処理("PEGシラン"、シラン基が、なかでも、ガラス表面に結合し、PEG基が親水性環境を生成する)、又は
・プラズマ重合、
により達成することができる。
【0038】
プラズマ重合は、ガス放電を発生するためにプラズマ源を使用し、該ガス放電が重合を開始すべく、時にはビニル基を含むガス状又は液体のモノマを活性化又は断片化するためのエネルギを供給するような処理である。該処理は、表面上に薄い高分子膜を堆積するために使用することができる。上記モノマのタイプ及びモノマ当たりのエネルギ密度(ヤスダパラメータとして知られている)を選択することにより、結果として得られる薄膜の化学組成及び構造を広い範囲で変化させることができる。親水性ポリマ組成物は、例えばヘキサン(hexane)から重合された薄膜を生成することにより得ることができ、該ヘキサンはNビニル2ピロリドン(N-vinyl-2-pyrrolidone)から重合される外層のための共有結合サイトを提供する。
【0039】
前記第1固体基板上に設けられる疎水性及び親水性領域のパターンは、例えば、
1)当該基板を、疎水性特性を提供する薬剤で、例えばスピンコーティング、ディップコーティング、化学蒸着又はSAMを成長させることによりコーティングし、
2)上記薬剤を、親水性特性を有さねばならない領域から、例えばプラズマエッチングによりパターン化された態様で除去する、
ことにより達成することができる。
【0040】
上記ステップ1)に関しては、SAMを成長させることが好ましい。何故なら、このようにして得られた表面は、プラズマエッチングによりパターン化された態様で除去することが容易であるからである。
【0041】
スピンコーティング又はディップコーティングは、例えば、テフロン(登録商標)でコーティングされた表面(前記参照)を生成するために使用することができる。
【0042】
化学蒸着(CVD)技術も、好適である。この方法は、当業者により良く知られた、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)等の技術を含む。これにより得られた表面コーティングも、プラズマエッチングによりパターン化された態様で除去することができる。SiOCを含むコーティングは、例えば、PECVDにより形成することができるが、テフロン(登録商標)コーティングも同様に形成することができる。
【0043】
本出願で使用される場合、"プラズマエッチング"なる用語は、プラズマから物質の除去を達成するような如何なる処理も指す。これらは、例えば、イオン衝突に加えて、使用されるガス雰囲気の反応性成分も能動的となる反応性イオンエッチング(RIE)も含む。反応性イオンエッチングは、特に、異方性エッチングを可能にする。プラズマエッチングなる用語には、ICP(誘導結合プラズマ)処理も含まれる。更に、RIE処理とICP処理との組み合わせも可能である。
【0044】
疎水性及び親水性領域のパターンを形成する他の可能性は、元来親水性の基板上に、パターン化された態様で、疎水性の表面の改変(例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、化学蒸着又はSAMを成長させることにより)を局部的にのみ適用すること、又はその逆を行うことである。
【0045】
更に他の可能性は、フォトレジストによりパターンを画定するフォトリソグラフィック技術の使用である。基板全体にコーティングを被着した後、非パターン領域のコーティング物質をリフトオフ処理により除去することができる。
【0046】
磁性ビーズは、マイクロ流体デバイスの前後関係においてしばしば使用され、斯かるデバイスにおいて磁性ビーズは多数の役割を果たす。
・磁性ビーズは、スプレプトアビジン(streptavidin)、キチン(chitin)、オリゴヌクレオチド(olignucleotide)プローブ又は抗体等の捕捉剤でコーティングすることができ、斯かる捕捉剤は、細胞(磁性ビーズに基づく細胞分離)、核酸又はタンパク質(磁性ビーズに基づく免疫沈降)等の生物学的主体の結合を可能にする。後に、上記生物学的主体を担持する磁性ビーズは磁力により収集される。
・同様の方法が、シリカによりコーティングされた磁性ビーズにより実行されている。これらのビーズはカオトロピック塩の存在の下で核酸を固定する("ブーム法則(boom principle)")。
・磁性ビーズは、マイクロ流体デバイス内の液体を磁力により攪拌するために使用することができる。このことは、反応室をかき混ぜるか、又は含有物を解放するために溶解されるべき細胞を崩壊させる助けとなる。
【0047】
本出願で使用される場合、"磁性"なる用語は、
・磁性(即ち、磁界を生成する、強磁性とも称される)、
・常磁性(即ち、自身では磁界を生成しないが、磁界により吸引される、即ち1より大きな比透磁率を有する)、
・超常磁性(即ち、当該材料が全体として外部から印加された磁界内を除き磁化されないような態様で、熱変動下でランダムに方向を反転し得る小さな強磁性クラスタからなる)及び/又は
・反磁性(即ち、外部から印加された磁界とは反対の磁界を生成する)
である物質を指す。
【0048】
上記ビーズは、他の実施例では、例えばマグネタイト(Fe3O4)又は磁赤鉄鉱(ガンマFe2O3、両者とも超常磁性か若しくは強磁性の何れかである)等の酸化鉄を含むことができる。
【0049】
好ましい実施例において、上記ビーズの直径は≧3nmと≦1000μmとの範囲内である。特に好ましくは、上記ビーズの直径は≧10nmと≦100μmとの範囲内である。更に好ましくは、上記ビーズの直径は≧50nmと≦10μmとの範囲内である。
【0050】
好ましい実施例において、前記磁気アクチュエータは、
・少なくとも1つの永久磁石、
・少なくとも1つの電磁石、
からなる群から選択される。
【0051】
通常、電磁石は、単に、電流が通過された場合に磁界を発生するワイヤを有する。幾つかの一層複雑な場合においては、上記ワイヤは磁性材料のコア、好ましくは金属コアに巻回される。斯かるコアは、磁界を向上させる。
【0052】
好ましい実施例において、上記磁気アクチュエータは、該アクチュエータを前記固体基板に対して平行に移動(進行)させるのを可能にする移動機構を有する。斯かる移動機構に関する幾つかの好ましい実施例は、後述する。
【0053】
他の好ましい実施例において、上記磁気アクチュエータは、移動する磁界を得るために協調された態様でオン及びオフされる電磁石のアレイからなる。この実施例においては、該磁気アクチュエータは可動部品を有さない。この結果、保守の問題が少なくなり、低価格で高精度につながる一方、切換(スイッチング)速度が上昇すると共に製造コストが低下する。
【0054】
他の好ましい実施例においては、静止磁界を形成するために、静止磁界を形成する少なくとも1つの強い永久磁石及び/又は少なくとも1つの強い電磁石が使用される一方、より小さな磁石(永久磁石、電磁石、電磁石又はコイルのアレイ)が前記磁性ビーズを駆動して当該疎水性弁を開放及び/又は閉塞する。
【0055】
上記の場合、永久的な一様な磁界が当該常磁性又は超常磁性ビーズの最大の磁化を付与する一方、非均一な磁界が当該磁界の一層大きな勾配を付与する。
【0056】
他の好ましい実施例において、前記第2固体基板は親水性表面を有する。このような実施例においては(実施例1のデバイス2参照)、アクチュエータが疎水性領域を通過し、第2親水性領域に留まるようになっても、当該疎水性弁は"開"位置のままとなる。この場合、上記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路は安定したままであり、ピンチオフは見られない。この弁作動モードは、"トニック(緊張)弁作動モード"とも呼ばれる。このモードは、例えば2つのチェンバの内容物が混合されるべき場合に、特に有用である。
【0057】
更に他の実施例では、第2固体基板は疎水性表面を有する。基本的に、このような実施例においては(実施例1のデバイス1参照)、当該疎水性弁は、アクチュエータが2つの隣接する親水性領域を分離する疎水性領域の近傍の位置に留まる限り、"開"位置に留まる。該アクチュエータが上記疎水性領域を通過し、第2親水性領域内に留まるようになると、上記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路は壊れて、該弁は"閉"位置に戻り、ピンチオフが見られる。この弁作動モードは、"一過性(phasic)弁作動モード"又は"ピンチオフモード"とも呼ばれる。このモードは、例えば磁性粒子又は斯かる磁性粒子に結合された化合物若しくは物質が或るチェンバから他のチェンバに、これらチェンバの内容物を混合することなしに、従って相互汚染を最少にして、供給されるべき場合に、特に有用である。
【0058】
前記第1固体基板及び/又は第2固体基板の少なくとも1つの疎水性表面は、該疎水性表面が大きな接触角ヒステリシスを有するように、選択されることが特に好ましい。この実施例は、前述した"トニック弁作動モード"を下記のような理由で支援する。
【0059】
液滴の接触角を、該液滴の体積が増加している間に測定する場合(これは、特に、濡れ線が進み始める直前になされる)、所謂"前進接触角(θA)"が得られる。既に表面を濡らした滴の体積を減少させ、濡れ線が後退する直前の接触角を決定する場合、所謂"後退接触角(θR)"を測定することになる。一般的に、θAはθRよりも著しく大きい。差θA−θR(又はΔθ)は、接触角ヒステリシスと呼ばれる。平衡接触角(θ0)は、下記の式に基づいてθA及びθRから計算することができる。
【数1】
ここで、
【数2】
及び
【数3】
である。
【0060】
機能化された領域への液体の閉じ込めは主に前進接触角により決定される一方、ピンチオフ作用は後退接触角により支配される。
【0061】
このことは、ピンチオフ動作を示すことを意図しない疎水性弁("一過性弁")は第1固体基板の大きな接触角ヒステリシスから利益を受けることを意味する。大きな前進接触角θAは結果的に当該液体の一層良好な閉じ込めを生じる一方、小さな後退接触角θRはピンチオフ作用を良好に防止する。大きなヒステリシスによれば、これらの両者を達成することができる。
【0062】
下記の表は、幾つかの選択されたコーティングに対する総覧的な接触角ヒステリシス値を示す。
【表1】
【0063】
表2には、上記現象が要約されている。
【表2】
【0064】
上述した接触角は大凡の推定値に過ぎない。というのは、接触角は、殆どの場合、決して固定数にならないからである。一般的に、前進接触角と後退接触角との間には差が存在する。
【0065】
本発明は、更に、本発明による上記弁を有するマイクロ流体デバイスも提供する。
【0066】
本出願で使用される場合、"マイクロ流体デバイス"なる用語は、マイクロ寸法の流体の処理及び操作のためのデバイスを指し、該流体は幾何学的に小さな、典型的にはミリメートル未満の規模(ナノ、ピコ又はフェムトリットル)に制約される。このような流体の挙動は、"マクロ流体"の挙動とは、表面張力、エネルギ放散及び流体抵抗等の要因が当該系を支配し始めるという点で相違する。マイクロ流体デバイスは、しばしば、僅かに少量で利用可能な、液体の生物学的サンプルの処理及び操作において役割を果たす。これらデバイスは、しばしば、ラボオンチップ環境の一部となる。
【0067】
本出願で使用される場合、"ラボオンチップ(LOC)"なる用語は、僅か数ミリメートルから数平方センチメートルのサイズの単一チップ上に1個又は数個の実験室機能を集積したデバイスを指す。上記機能は、リアルタイムPCR、生化学検定(アッセイ)、免疫学的検定、誘電泳動、細胞サンプルの準備等を含む。
【0068】
上述した種類のマイクロ流体デバイスにおいては、液体の移送は時には毛管力により生じる、即ち能動的なポンプ送りは必要とされないことに言及することには価値がある。このことは、チェンバ内に配置された液体が他のチェンバに、これら2つのチェンバ間の通路が例えば本出願で述べる親水性弁等の弁(バルブ)により開かれた場合に自動的に流れることを意味する。
【0069】
しかしながら、特定の状況下ではポンプ送りが必要となり得る。当業者であれば、発明的ステップを用いることなく従来技術から如何なる好適なポンプを選択することもできる。
【0070】
特に好ましくは、ポンプ送りは、
・蠕動ポンプ、
・圧電駆動ポンプ、及び/又は
・シリンジポンプ、
により実施することができる。
【0071】
好ましい実施例において、当該マイクロ流体デバイスの少なくとも1つの疎水性領域の幅は、該領域に隣接する親水性領域の幅より小さいものとされる。一般的に、上記疎水性領域は、本出願で"疎水性障壁"又は"分離領域"と呼ばれるものを形成する。この領域は、≧0.02mm且つ≦10mmの、好ましくは≧0.05mm且つ≦3mmの、より好ましくは≧0.5mm且つ≦3mmの幅を有することができる。
【0072】
他の好ましい実施例においては、当該マイクロ流体デバイスがラボオンチップ環境の一部であるとされる。
【0073】
本発明は、更に、ラボオンチップデバイスを提供し、該デバイスは本発明によるマイクロ流体デバイスを有する。
【0074】
好ましい実施例において、本発明によるラボオンチップデバイスは、更に、
・細胞サンプル準備デバイス
・サンプラ攪拌ユニット(攪拌器)
・核酸分離デバイス
・核酸精製デバイス
・核酸抽出デバイス
・サンプル準備デバイス
・免疫学的検定器
・電気泳動デバイス
・核酸ハイブリダイゼーションユニット
・PCR温度サイクラ
・蛍光読出ユニット
・オンチップ化学反応アプリケーション
からなる群から選択される少なくとも1つのデバイスを有する。
【0075】
本発明は、更に、本発明によるマイクロ流体デバイスにおける液体の流れを制御する方法を提供し、該デバイスにおいて少なくとも1つの親水性領域には磁性粒子を含む水性液体が装填され、該方法は、
a)第1親水性領域の近傍の位置において磁界を形成するステップと、
b)上記磁界を、第1親水性領域の近傍の位置から第2親水性領域の近傍の位置へ前記2つの平坦な固体基板の方向と平行な方向に進行させるステップと、
c)前記進行する磁界が、途中で、前記親水性領域を分離する疎水性領域の近傍の位置を通過するステップと、
d)これにより、前記親水性領域を分離する前記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路を少なくとも一時的に形成し、水性液体が前記第1親水性領域から前記第2親水性領域へ少なくとも一時的に通過することができるようにするステップと、
を有する。
【図面に基づく説明】
【0076】
以下の図は、本発明の幾つかの本質的な態様を概略図示する。
【0077】
図1は、どのような接触角で流体/流体(例えば、液体/気体又は液体/液体)界面が固体表面と接触することができるかを示している。親水性基板上の水/空気界面の場合、水は固体表面に強く引かれ、滴は該表面上に広がるであろう。同じことが、水/油界面にも当てはまる。
【0078】
このように、水性液体と親水性固体基板(灰色の陰影領域)との間の接触角は、典型的には<90°である。対照的に、疎水性基板上では、親水性溶液は90°より大きな接触角を有する。
【0079】
図2は、本発明によるデバイスの概略図を示し、該デバイスは機能化された表面20を備える平坦な固体基板を有している。上記表面20は、1つの疎水性領域22により互いに分離された2つの親水性領域21を有するようにパターン化されている。該デバイスは、本発明による磁気アクチュエータ23として、可動永久磁石を有している。
【0080】
図3aは親水性基板と疎水性基板との間に配置された水/空気(又は水/油)界面の接触角の和が約180°であることを示す一方、図3bは2つの疎水性基板の間に配置された水/空気(又は水/油)界面の接触角の和が常に>180°であることを示している。
【0081】
図3aに示された原理は、本発明による非ピンチオフ弁(トニック作動モード)の基礎となるものである。ここでは、第1基板の少なくとも1つの疎水性領域は、非ピンチオフ動作を支援するために大きな接触角ヒステリシスを有するように選択されるものとされ得る。その説明に関しては、テキストを参照されたい。図3bに示された原理は、本発明によるピンチオフ弁(一過性作動モード)の基礎となるものである。
【0082】
図4は、本発明によるデバイスの概略図を示し、該デバイスは、互いから距離42に配置されると共に互いに対面する2つの平らな固体基板40、41の平行配置を有する。下側の基板は、2つの親水性領域43を備えるパターン化された表面を有している。
【0083】
図5は、図4のA−A'線に沿う疎水性弁の断面を示す。この例において、第1固体基板50は疎水性表面内に親水性領域52(灰色の陰影)を備えるパターン化された表面を有する一方、第2固体基板51は完全に疎水性の表面を有している。このようにして、第1基板50の親水性領域52の間には、分離領域53が形成される。
【0084】
第1基板50の上記親水性領域により描かれる空間は水性液体54により満たされ、該水性液体は、疎水性表面により取り囲まれているので、その位置に保持される。これら滴の一方は、磁性粒子の群55を含む。図5及び残りの図において、当該デバイスにおける残りの空間は空気(水/空気界面)若しくは他の気体、又は油(水/油界面)又は他の非極性液体により満たされ得ることに言及する価値がある。
【0085】
永久磁石56からなる磁気アクチュエータは、第1親水性領域と疎水性領域(分離領域53)との境界の下に配置される。該磁気アクチュエータの存在は、上記磁性粒子を当該滴の該領域に集合させる。磁気アクチュエータ56を動かすことにより、これら磁性粒子は、この動きに従うようにされ、疎水性分離領域53を跨いで、一方の親水性領域から他方のものへの通路を形成する。当該磁気アクチュエータが上記疎水性領域の下に位置される限り、この通路は維持され、当該疎水性弁は"開"位置にある。当該磁気アクチュエータが更に移動すると、当該弁における液体の接続は壊れ、上記分離領域から親水性領域へと退く。言い換えると、ピンチオフが観測される。
【0086】
図6は、動画ファイルのシーケンスを図示しており、該動画ファイルは液体により満たされたデバイス1(即ち、第2固体基板が疎水性である)によるチェンバを示し、これらの一方は一群の磁性粒子を含んでいる。これらの磁性粒子は、疎水性障壁を介して左側のチェンバから右側のチェンバへ移送される。斯かる粒子の通過の後、当該弁における液体の接続は壊れ、弁の領域から前記チェンバへ後退する。言い換えると、良好なピンチオフが観測される。上記粒子の通過の後で当該弁において見られる透明度の増加は、凝縮物の除去により生じる光学的アーチファクトである。
【0087】
図7は、図4のA−A'線に沿う疎水性弁の断面を示す。この例において、第1固体基板70は疎水性表面内に親水性領域72(灰色の陰影)を備えるパターン化された表面を有する一方、第2固体基板71は完全に親水性(灰色の陰影)である。このようにして、第1基板70の親水性領域の間には、分離領域73が形成される。
【0088】
第1基板70の上記親水性領域により描かれる空間は水性液体74により満たされ、これらは、疎水性分離領域73に隣接しているので、その位置に保持される。これら滴の一方は、磁性粒子の群75を含んでいる。
【0089】
永久磁石76からなる磁気アクチュエータは、第1親水性領域と疎水性領域(分離領域73)との境界の下に配置される。該磁気アクチュエータの存在は、上記磁性粒子を当該滴の該領域に集合させる。磁気アクチュエータ76を動かすことにより、これら磁性粒子は、この動きに従うようにされ、疎水性障壁73を跨いで、一方の親水性領域から他方のものへの通路を形成する。デバイス1とは対照的に、上記磁性粒子が第1基板の右側の親水性領域へ通過し、磁気アクチュエータ76が第1基板の該親水性領域の下へ移動された後においても、当該弁における上記液体の接続は壊れることはなく、存在したままとなる。言い換えると、トニック弁作動が観測される。
【0090】
図8は、動画ファイルのシーケンスを図示しており、該動画ファイルは液体により満たされたデバイス2(即ち、第2固体基板が親水性である)によるチェンバを示し、これらの一方は一群の磁性粒子を含んでいる。これらの磁性粒子は、疎水性障壁を介して左側のチェンバから右側のチェンバへ移送される。斯かる粒子の通過の後、当該弁における液体の接続は壊れることはなく、存在したままとなる。特に最後の画像は、これを明瞭に示している。何故なら、磁性粒子が、当該弁領域に残存する液体接続部へと逆流しているのが見られるからである。言い換えると、ピンチオフは観測されない。
【0091】
図9は、本発明によるデバイスの異なる実施例を示し、これらは親水性領域90の構成が互いに異なっている。これら全ての場合において、少なくとも1つの疎水性領域91の幅は、該疎水性領域に隣接する親水性領域90の幅より小さくなっている。前記第2固体基板及び磁気アクチュエータは、明瞭化のために図示されていない。
【0092】
図10は、前述した磁気アクチュエータの異なる実施例を示している。図10aにおいて、磁気アクチュエータ100は移動機構101(例えば、レイル)を有し、該移動機構は当該磁気アクチュエータが固体基板に対して平行に移動するのを可能にし、これにより磁界103を、従って当該液体内の磁性粒子を移動させる。
【0093】
図10bにおいて、当該磁気アクチュエータは電磁石105のアレイからなり、これら電磁石は協調された態様でオン及びオフすることができる。かくして、磁界は、個々の電磁石を協調された態様で駆動及び非駆動することにより進行する。スイッチ106は斯かるスイッチング機構を記号化したもので、該スイッチング機構は、機械式スイッチに限定されるものではなく、トランジスタ等の半導体スイッチ、論理スイッチ又は電磁石のアレイにおいて磁界の協調された進行を可能にするような従来から知られた如何なる他のデバイスとすることもできる。
【0094】
図10cにおいて、当該磁気アクチュエータは印刷回路基板108上に配置された電磁コイル107のアレイからなる。図10cに示したもの以外として、当該電磁コイルのアレイは多層化することもできる。これら電磁コイルは、協調された態様でオン及びオフすることができる。かくして、磁界は、個々のコイルを協調された態様で駆動及び非駆動することにより進行する。更に、当該磁界は、静止磁界を形成する強力な永久磁石109により高められる。該永久磁石は、電磁石により置換することもできる。後者のものは、進行する磁界の強度を高めるのみならず、必要なら、前記磁性ビーズを磁化するように作用する。
【0095】
図11は、本発明によるデバイスを分解図で示す。該デバイスは、疎水性領域112により互いに分離された親水性領域111を有する。更に、該デバイスは電磁コイルのアレイを備える印刷回路基板113を有し、これら電磁コイルは進行磁界を形成するために協調された態様でオン及びオフすることができる。静止磁界を形成するための永久磁石又は磁性ビーズを含む液滴等の他の構成部分は図11には図示されていない。
【実施例1】
【0096】
2種類のデバイスにより実験が行われた。両デバイスは第1固体基板と第2固体基板とからなり、これら基板はスペーサ(この場合には、100μm厚の両面接着テープ)により互いに分離された。第1固体基板は、少なくとも1つの疎水性領域により互いに分離された少なくとも2つの親水性領域を含むパターン化された表面を有するものである。
【0097】
デバイス1においては、第2固体基板は疎水性表面を有する一方、デバイス2においては、第2固体基板は親水性表面を有する。
【0098】
両デバイスの第1固体基板は顕微鏡のスライドガラスであり、該スライドガラス上にはペルフルオロデシル・トリ・エトキシシラン(perfluorodecyl-tri-etoxysilane)の自己組織化単層膜(SAM)が塗布される。このSAMは酸素プラズマ処理により部分的に除去され、親水性チェンバのパターンを疎水性バックグラウンド内のアイランドとして残存させる。デバイス1の場合、第2固体基板は、テフロン(登録商標)AF1600中でディップコーティングされたPMMAのスライドである。デバイス2の場合、第2固体基板はPMMAの処理されていないスライドである。
【0099】
フッ素に富んだ(fluor-rich)SAMは、約105°の接触角を有する。処理されていないPMMAは約75°の接触角を有する一方、テフロン(登録商標)AF1600中でディップコーティングされたPMMAは約115°の接触角を有する。
【0100】
上記第2固体基板は第1固体基板上にスペーサ、即ち100μm厚の両面接着テープにより配置される。該第2基板は親水性領域の直上に充填孔を有する。
【0101】
両デバイスにおいて、磁性粒子(Dynal M270ビーズ、2.7μm径)を含む水滴(10μl)が充填孔を介して注入されて、該水滴は第1親水性領域に集まる一方、他方の親水性領域には磁性粒子を含まない水滴が注入される。
【0102】
次いで、磁気アクチュエータが、当該デバイスの下であって、上記第1親水性領域と疎水性領域(分離領域)との境界の下に配置される。即座に、上記磁性粒子は該磁気アクチュエータが配置された領域に集合する。
【0103】
次いで、該磁気アクチュエータは第2親水性領域の方向に進行し、かくして、上記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路を形成する。該アクチュエータが上記疎水性領域を通過し、第2親水性領域に留まるようになると、
i.デバイス1では、上記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路は壊れる一方、
ii.デバイス2では、上記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路は安定したままとなる。
【0104】
上記第1モードの弁作動は"一過性弁作動モード"又は"ピンチオフモード"とも呼ばれる一方、第2モードの弁動作は"トニック弁作動モード"とも呼ばれる。
【0105】
この理由は、デバイス1においては、第2固体基板が疎水性表面を有するが、デバイス2では、第2固体基板は親水性表面を有するからである(上記参照)。
【参考文献】
【0106】
Liu R H, Bonanno J Yang J, Lenigk R, Grodzinski P (2004):使い捨ての熱的に作動されるパラフィン弁、センサ及びアクチュエータB 98; 328-336
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子を含み、相当の表面張力を有する液体のための疎水性弁であって、
a)各々が機能化された表面を備える少なくとも2つの平坦な固体基板を有し、
b)少なくとも第1の固体基板は、少なくとも1つの疎水性領域により互いに分離された少なくとも2つの親水性領域を備えるパターン化された表面を有し、
c)前記2つの平坦な基板は、前記機能化された表面が互いに対面するように、互いに或る距離を隔ててサンドイッチ状の平行な態様で配置され、
d)前記弁が更に磁気アクチュエータを有する、
疎水性弁。
【請求項2】
疎水性特性を有する少なくとも1つの表面が、
・シラン処理された基板、
・フルオロカーボンでコーティングされた基板、
・ロータス効果を備える基板、
・チオールでコーティングされた基板、
・自己組織化単層膜、
・ポリテトラフルオルエチレン(PTFE)、
・構造アモルファス金属(SAM)、
からなる群から選択される少なくとも1つの材料を有する請求項1に記載の疎水性弁。
【請求項3】
前記液体が水性液体である請求項1に記載の疎水性弁。
【請求項4】
前記磁気アクチュエータが、
・少なくとも1つの永久磁石、
・少なくとも1つの電磁石、
・少なくとも1つの金属ワイヤ又はコイル、
からなる群から選択される請求項1に記載の疎水性弁。
【請求項5】
第2の固体基板が親水性表面を有する請求項1に記載の疎水性弁。
【請求項6】
第2の固体基板が疎水性表面を有する請求項1に記載の疎水性弁。
【請求項7】
前記第1の固体基板及び/又は前記第2の固体基板における少なくとも1つの疎水性表面が、大きな接触角ヒステリシスを有するように選択される請求項5又は請求項6に記載の疎水性弁。
【請求項8】
請求項1に記載の弁を有するマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
少なくとも1つの疎水性領域の幅が、該疎水性領域に隣接する親水性領域の幅より小さい請求項8に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
当該デバイスがラボオンチップ環境の一部である請求項8に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
請求項8に記載のマイクロ流体デバイス及び/又は請求項1に記載の弁を有するラボオンチップデバイス。
【請求項12】
当該ラボオンチップデバイスが、
・細胞サンプル準備デバイス、
・サンプラ攪拌ユニット(攪拌器)、
・核酸分離デバイス、
・核酸精製デバイス、
・核酸抽出デバイス、
・サンプル準備デバイス、
・免疫学的検定器、
・電気泳動デバイス、
・核酸ハイブリダイゼーションユニット、
・PCR温度サイクラ、
・蛍光読出ユニット、
・オンチップ化学反応アプリケーション、
からなる群から選択される少なくとも1つのデバイスを更に有する請求項11に記載のラボオンチップデバイス。
【請求項13】
請求項8に記載のマイクロ流体デバイス及び/又は請求項11に記載のラボオンチップデバイスにおける液体の流れを制御する方法であって、少なくとも1つの第1親水性領域が磁性粒子を含む水性液体により装填され、当該方法が、
a)第1親水性領域の近傍の位置において磁界を形成するステップと、
b)前記磁界を、第1親水性領域の近傍の位置から第2親水性領域の近傍の位置へ前記2つの平坦な固体基板の方向と平行な方向に進行させるステップと、
c)前記進行する磁界が、途中で、前記親水性領域を分離する疎水性領域の近傍の位置を通過するステップと、
d)これにより、前記親水性領域を分離する前記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路を少なくとも一時的に形成し、水性液体が前記第1親水性領域から前記第2親水性領域へ少なくとも一時的に通過することができるようにするステップと、
を有する方法。
【請求項1】
磁性粒子を含み、相当の表面張力を有する液体のための疎水性弁であって、
a)各々が機能化された表面を備える少なくとも2つの平坦な固体基板を有し、
b)少なくとも第1の固体基板は、少なくとも1つの疎水性領域により互いに分離された少なくとも2つの親水性領域を備えるパターン化された表面を有し、
c)前記2つの平坦な基板は、前記機能化された表面が互いに対面するように、互いに或る距離を隔ててサンドイッチ状の平行な態様で配置され、
d)前記弁が更に磁気アクチュエータを有する、
疎水性弁。
【請求項2】
疎水性特性を有する少なくとも1つの表面が、
・シラン処理された基板、
・フルオロカーボンでコーティングされた基板、
・ロータス効果を備える基板、
・チオールでコーティングされた基板、
・自己組織化単層膜、
・ポリテトラフルオルエチレン(PTFE)、
・構造アモルファス金属(SAM)、
からなる群から選択される少なくとも1つの材料を有する請求項1に記載の疎水性弁。
【請求項3】
前記液体が水性液体である請求項1に記載の疎水性弁。
【請求項4】
前記磁気アクチュエータが、
・少なくとも1つの永久磁石、
・少なくとも1つの電磁石、
・少なくとも1つの金属ワイヤ又はコイル、
からなる群から選択される請求項1に記載の疎水性弁。
【請求項5】
第2の固体基板が親水性表面を有する請求項1に記載の疎水性弁。
【請求項6】
第2の固体基板が疎水性表面を有する請求項1に記載の疎水性弁。
【請求項7】
前記第1の固体基板及び/又は前記第2の固体基板における少なくとも1つの疎水性表面が、大きな接触角ヒステリシスを有するように選択される請求項5又は請求項6に記載の疎水性弁。
【請求項8】
請求項1に記載の弁を有するマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
少なくとも1つの疎水性領域の幅が、該疎水性領域に隣接する親水性領域の幅より小さい請求項8に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
当該デバイスがラボオンチップ環境の一部である請求項8に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
請求項8に記載のマイクロ流体デバイス及び/又は請求項1に記載の弁を有するラボオンチップデバイス。
【請求項12】
当該ラボオンチップデバイスが、
・細胞サンプル準備デバイス、
・サンプラ攪拌ユニット(攪拌器)、
・核酸分離デバイス、
・核酸精製デバイス、
・核酸抽出デバイス、
・サンプル準備デバイス、
・免疫学的検定器、
・電気泳動デバイス、
・核酸ハイブリダイゼーションユニット、
・PCR温度サイクラ、
・蛍光読出ユニット、
・オンチップ化学反応アプリケーション、
からなる群から選択される少なくとも1つのデバイスを更に有する請求項11に記載のラボオンチップデバイス。
【請求項13】
請求項8に記載のマイクロ流体デバイス及び/又は請求項11に記載のラボオンチップデバイスにおける液体の流れを制御する方法であって、少なくとも1つの第1親水性領域が磁性粒子を含む水性液体により装填され、当該方法が、
a)第1親水性領域の近傍の位置において磁界を形成するステップと、
b)前記磁界を、第1親水性領域の近傍の位置から第2親水性領域の近傍の位置へ前記2つの平坦な固体基板の方向と平行な方向に進行させるステップと、
c)前記進行する磁界が、途中で、前記親水性領域を分離する疎水性領域の近傍の位置を通過するステップと、
d)これにより、前記親水性領域を分離する前記疎水性領域を跨ぐ水性液体の通路を少なくとも一時的に形成し、水性液体が前記第1親水性領域から前記第2親水性領域へ少なくとも一時的に通過することができるようにするステップと、
を有する方法。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図11】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図11】
【公表番号】特表2012−512390(P2012−512390A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540237(P2011−540237)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【国際出願番号】PCT/IB2009/052561
【国際公開番号】WO2010/070461
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【国際出願番号】PCT/IB2009/052561
【国際公開番号】WO2010/070461
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
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