痛風または偽痛風の新規な治療法
本発明は、IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤の有効量を投与することを含んでなる、痛風または偽痛風の治療のための新規な方法、および薬剤の製造方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL−1、またはNALP3インフラマソーム(inflammasome)によるその成熟を遮断する阻害剤の有効量を投与することを含む、痛風または偽痛風の治療のための新規な方法、および薬剤の製造方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
痛風および偽痛風として知られる急性および慢性炎症性応答の発症はそれぞれ関節および関節周囲の組織における尿酸一ナトリウム(MSU)またはピロリン酸カルシウム二水和物(CPPD)結晶の沈着に関連している。MSU結晶はまず18世紀に痛風の病因因子として確認され1、最近では、死にかけている(dying)細胞から放出される「危険シグナル」であることも確認された2が、MSUまたはCPPDにより誘発される炎症の基礎をなす分子機構についてはほとんど知られていない。
【0003】
痛風または偽痛風の症状に苦しむ患者にとって、痛風または偽痛風の治療のために今日利用できる療法は少ない。これらの治療は一般にコルヒチンおよび他の化合物を用いる。しかしながら、このような治療は満足のいくものではない。一例として、経口コルヒチンの使用は吐き気や腹痛などの副作用により制限される。通常の痛風治療と副作用に関する情報は、Cannella & Mikuls (The American Journal of Managed Care, Nov. 2005, Vol. 11, NO. 15, SUP., S541-S458)およびウェブサイトhttp://www.arthritis.ca/tvpes%20of%20arthritis/gout/default.asp?s=1に示されている。
【0004】
痛風は「自己炎症性疾患」と総称される病態群である。これらには、感染または自己免疫的原因が存在しない自発的周期的炎症と発熱を特徴とする不均質な病態群を含む3。そのような炎症性疾患として、遺伝性周期性発熱(HPF)、マックル・ウェルズ症候群、家族性地中海熱(FMF)、家族性寒冷誘導自己炎症症候群(FCAS)および代謝症候群障害である痛風や偽痛風などが挙げられる。痛風と、関節リウマチ、変形性関節症または全身型若年性特発性関節炎(SoJIA)のような自己免疫疾患との間には違いがある。実際、自己免疫疾患は、再配列され、クローン的に選択される受容体(抗体およびT細胞受容体)による自己成分の認識を担う適応免疫成分(B細胞およびT細胞)を含むと考えられている。それは感染により誘発される場合があり、自己の抗原と交差反応をもたらす。あるいは、遺伝的素因のバックグラウンドがこれらの病態をもたらす場合もある。これに対し、痛風は生得的免疫系成分、特にNOD様受容体が関与するだけで、適応免疫成分は関与しない。痛風は病原体により誘発されないと思われる。むしろ、痛風は代謝不全、すなわち、体内のある領域でのMSU結晶の増加から起こる(Choi, HK et al. 2005. Pathogenesis of gout. Ann. Intern. Med. 143:499)。
【0005】
内因性発熱物質として知られるIL−1βは炎症性の高いサイトカインであり、その産生は少なくとも3つの異なる段階で厳格に制御されている9。
【0006】
第一段階はプロIL−1βタンパク質(p35)の産生を含む。第二段階は前駆体プロIL−1βの切断による活性型IL−1βタンパク質(p17)の産生を含む。この反応はカスパーゼ−1活性化複合体の活性化によるものであり、最も特徴的なのはインフラマソームである10,11。第三段階で、IL−1βは細胞外環境へ放出される。
【0007】
活性化すると、NALP1、NALP2、NALP3/CryopyrinまたはIpafなどのNOD−LRR(ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン−ロイシンリッチリピート)タンパク質ファミリーのいくつかのものと、そのNOD−LRRタンパク質とカスパーゼ−1とをつなぐアダプタータンパク質ASCによりインフラマソームが形成される12。インフラマソームの活性化をもたらすシグナルおよび機構はまだあまり理解されていない。最近、細菌の細胞壁成分であるペプチドグリカンの分解産物であるムラミルジペプチド(MDP)および粗LPSの夾雑物が、NALP3のLRRドメインを介してNALP3インフラマソームを活性化することが示され13、このことはトル様(Toll-like)受容体(TLR)のようにNALPが微生物検出の基礎であることを示唆する。しかしながら、インフラマソームはまた、細胞外ATPもしくは低張ストレスなどのストレスまたは内因性の「危険シグナル」の検知にも長けている10,11,15。最近、MSU結晶が死にかけている細胞からの尿酸の放出後に形成される「危険シグナル」として特定された。
【0008】
発明者らは、MSUおよびCPPDがNALP3インフラマソームと関与し、活性型IL−1α、IL−1βおよびIL−18の産生をもたらすことを示した。
【0009】
カスパーゼ−1、ASCおよびNALP3など、インフラマソームの種々の成分を欠いたマウスのマクロファージは結晶により誘発されるIL−1の活性化および次の好中球の流入に欠陥がある。同様に、IL−1受容体I型(IL−1RI)が欠損すると、MSUまたはCPPDにより誘発される炎症で好中球の動員が上手くいかない。同系列の証拠で、同じことで、IL−1受容体I型に対する遮断型モノクローナル抗体またはアナキンラ(Kineret,IL−1Ra)を投与すると、TNFに対する遮断型モノクローナル抗体を投与する場合と違い、マウスにおいてMSUにより誘発される好中球の動員が排除される。同様に、HSP90シャペロンの阻害剤はNALP3インフラマソームの形成を阻害する。これらの阻害剤はまた、ヒト単球およびマウスマクロファージによるIL−1分泌も遮断し、マウスにおいてMSUにより誘発される好中球動員も阻害する。
【0010】
これらの知見は痛風および偽痛風の炎症症状の基礎にある分子プロセスに洞察をもたらし、このような症状の治療に好適な新たな薬剤および医薬を特定する。
【発明の簡単な説明】
【0011】
本発明は、痛風または偽痛風の治療のための新規な方法であって、IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤の有効量を投与することを含んでなる方法に関する。
【0012】
NALP3インフラマソームはカスパーゼ−1、ASCおよびNALP3の結合体(conjugate)である。
【0013】
本発明によれば、NALP3インフラマソームによるIL−1成熟を遮断する阻害剤は、NALP3インフラマソームの形成の阻害剤および/またはNALP3インフラマソームの活性の阻害剤を含む。
【0014】
NALP3インフラマソームの形成の阻害剤としては、特に、カスパーゼ−1および/またはASCおよび/またはNALP3の発現および/または活性の阻害剤がある。
【0015】
さらに、本発明者らは、NALP3インフラマソームの集合にはNALP3と熱ショックタンパク質HSP90、さらにはクライアントタンパク質Sgt1との一時的会合を必要とすることを見出した。従って、NALP3インフラマソームの形成の阻害剤はまた、HSP90および/またはSgt1の発現および/または活性の阻害剤、より詳しくは、HSP90の阻害剤を含む。
【0016】
本発明によれば、NALP3インフラマソームの活性の阻害剤は、NALP3インフラマソームによるプロIL−1βのIL−1βへのプロセシングを阻害してもよい。
【0017】
IL−1を遮断する阻害剤は好ましくはIL−1αおよび/またはIL−1βを遮断する阻害剤である。
【0018】
これらの阻害剤は好ましくは、IL−1の活性の阻害剤、IL−1受容体の阻害剤およびIL−1受容体アンタゴニストから選択される。
【発明の詳細な説明】
【0019】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤は、小分子、DNAまたはRNA配列、タンパク質、抗体など、その作用がIL−1の形成、および/または同IL−1の活性、および/またはNALP3インフラマソームによるIL−1の成熟、を阻害する物質の組成物である。
【0020】
小分子量化合物は約500Da未満の分子量の化学化合物である。これらの化学化合物は天然源のもの、修飾天然化合物または完全合成化合物由来である。天然化合物は植物、植物抽出物または生体材料を含むその他媒体など、生体材料の抽出により得ることができる。それらはまた、完全または部分的合成によって得ることもできる。それらは単独で用いることもできるし、既知の薬学上許容される塩を含む生理食塩水形態で使用することもできる。
【0021】
例えば、NALP3のATP結合部位に適合する小分子量化合物は、NALP3インフラマソームの阻害剤として用いることができる。NALP3の配列解析によれば、推定ATP結合部位の存在が明らかになっている。関連のATP結合部位を有する他のタンパク質(すなわち、キナーゼ、ホスファターゼおよびホスホジエステラーゼ)に関して小分子量化合物阻害剤の開発に成功しているが、このようなNALP3の阻害剤の特定が合理的に推定できることが示唆される。
【0022】
ゲルダナマイシンなどのHSP90を特異的に遮断する小分子量化合物、または17−AAG(17−(アリルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン)もしくは17−DMAG(17−(ジメチルアミノエチルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン)およびそれらの薬学上許容される塩などの毒性の低い誘導体の開発に成功している。これらの化合物は癌の治療に関して評価されている。これらの阻害剤はまた、HSP90依存型のNALP3インフラマソームの集合にも有効であり、痛風または偽痛風を治療するための薬剤を製造するのに有効な量で使用することができる。
【0023】
他のゲルダナマイシン誘導体は、その内容が引用することにより本明細書の一部とされる米国特許第4,261,989号、US2004−0235813、WO02/36574、WO02/079167、WO03/02671およびWO2005/095347に開示されている化合物など、当技術分野で公知である。
【0024】
HSP90の他の阻害剤も、その内容が引用することにより本明細書の一部とされるWO2006/095783、WO2006/092202、WO2006/090094、WO2006/087077、WO2006/084030、WO2005/028434、WO2004/072051、WO2006/079789、US2006−0167070、WO2006/075095、US2006−0148817、WO2006/057396、WO2006/055760、WO02/069900、WO2006/052795、WO2006/050373、WO2006/051808、WO2006/039977、US2006−0073151、EP1642880、EP1631267、EP1628667、US2006−0035837、WO2006/008503、WO2006/010595、WO2006/010594、WO2006/003384、WO2005/115431、EP1620090、WO2005/061461、WO2005/063222、US2005−0049263、WO2004/050087、WO2004/024142、WO2004/024141、WO03/067262、WO03/055860、WO03/041643、WO03/037860に開示されている化合物など、当技術分野で開示されている。
【0025】
インターロイキン−1阻害剤は、WO89/11540、またはNishiharaら(Infect Immun. 1988 November; 56(11): 2801-2807)もしくはPeledら(blood, Volume 79, Issue 5, pp. 1172-1177)などの多くの科学文献に開示されている阻害剤など、当技術分野で公知である。他のインターロイキンアンタゴニストも、米国特許第6,417,202号に開示されている小分子など、当技術分野で公知である。上記公報の内容は引用することにより本明細書の一部とされる。
【0026】
本発明によれば、IL−1の阻害剤は好ましくは、IL−1αを遮断する阻害剤およびIL−1βを遮断する阻害剤からなる群から選択される。
【0027】
好ましい実施形態では、IL−1の阻害剤はIL−1受容体I型(IL−1RI)アンタゴニスト(天然または合成)、特に、Kineret(登録商標)の名称で市販されているアナキンラとしても知られるIL−1Raである。
【0028】
別の好ましい実施形態では、IL−1の阻害剤はIL−1αおよび/またはIL−1βの活性を阻害する抗体から選択される。このような抗IL−1αおよび/またはβ抗体はポリクローナルまたはモノクローナル抗体であり、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0029】
別の好ましい実施形態では、IL−1の阻害剤はIL−1αまたはIL−1βとその受容体との結合を妨げる抗体から選択される。このような抗IL−1RI抗体はポリクローナルまたはモノクローナル抗体、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0030】
このような抗体は当技術分野で公知であり、関節リウマチおよび変形性関節症などの他の疾病の治療にための療法での使用が開示されているものものある(例えば、引用することにより本明細書の一部とされるWO03/073982参照)。
【0031】
さらに、当業者ならば、標準的な技術により新たな抗体を同定および作製することができる。
【0032】
好ましい実施形態では、抗体はヒト化抗体、すなわち、完全にまたは部分的に、ヒト抗体生殖系に由来するアミノ酸配列または再配列配列からなり、非ヒト相補性決定領域(CDR)を有する抗体の配列を変更することにより製造される抗体である。
【0033】
可変領域のフレームワーク領域は対応するヒトフレームワーク領域により置換され、非ヒトCDRは実質的にそのまま残る。このフレームワーク領域は完全にヒトであってもよいし、あるいは抗体と標的抗原との結合に影響を及ぼす領域に置換を含んでもよい。これらの領域は対応する非ヒトアミノ酸で置換されていてもよい。
【0034】
ヒト化抗体は、ヒトの療法における使用に、より詳しくはヒト免疫系により認識されないこと、また、非ヒト抗体よりも循環中での半減期が長いことから、いくつかの潜在的な利点を有する。
【0035】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤は、標準的な手順に従い、標準的な医薬組成物を用いて投与される。
【0036】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤は、標準的な投与技術を用い、好ましくは、注射もしくは注入、静脈投与、腹腔内投与、筋肉内投与または皮下投与による末梢投与により、また、肺投与、鼻腔投与、口内投与、舌下投与、経皮投与、経口投与または坐薬投与などの他の経路により投与される。
【0037】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤としての医薬組成物は当技術分野で公知であり、選択された投与様式に適するように設計される。薬学上許容される担体、賦形剤ならびにバッファー、界面活性剤、保存剤、可溶化剤、安定剤は既知の実務に従って用いられる。
【0038】
好ましい実施形態では、好ましいIL−1Raまたは抗IL−1αおよびβまたは抗IL−1RI抗体は1日1回、好ましくは1週間に1回、いっそうより好ましくは1か月に1回、IL−1αおよびβ活性を阻害するのに十分な用量で投与される。
【0039】
当業者、より詳しくは痛風または偽痛風の治療を指示する医師であれば、とりわけ、疾病の病期、患者の年齢、体重および健康状態を考慮に入れてこの用量を決定することができる。
【0040】
抗IL−1αおよびβ抗体の推奨用量は1〜20mg/kgの間、好ましくは2〜10mg/kgの間、より好ましくは3〜5mg/kgの間からなる。好ましい投与経路は静脈注入である。
【0041】
注入は医師が決定する特定の投与プログラムで投与される。このようなプログラムは最初の注入後、1または2および5または6週目に追加注入し、その後、8〜10週ごとにさらなる注入を行うことを含んでもよい。
【0042】
IL−1Raの推奨用量は50〜150mg/日の間の1日投与量を含む。好ましい投与経路は皮下注射である。
【0043】
本発明の方法では、NALP3インフラマソーム阻害剤は、既知の抗痛風化合物または組成物および既知の抗炎症性化合物または組成物などの他の治療薬と併用してもよい。
【0044】
既知の抗痛風化合物および組成物はコルヒチン、またはアロプリノールもしくはウリカーゼなどの、尿酸の蓄積を防ぐ組成物から選択される。
【0045】
既知の抗炎症性化合物および組成物はプレドニゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、コルチバゾール、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロンなどのコルチコイド類、ならびにインドメタシン、スリンダック、チアプロフェン酸、アルミノプロフェン、ジクロフェナク、エトドラック、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナブメトン、ナプロキセン、メロキシカム、ピロキシカム、テノキシカム、セレコキシブ、レフェコキシブなどの非ステロイド類、および薬局方に挙げられている他の抗炎症性化合物から選択される。
【0046】
本発明はまた、上記に開示される痛風または偽痛風の治療に用いられる薬剤の製造のための、IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤の使用に関する。
【0047】
本発明はまた、哺乳類における炎症性障害の治療、特に、インフラマソームの形成に関連する炎症性障害、より詳しくはNALP3インフラマソーム形成に関連する障害の治療のための、17−AAGまたは17−DMAGをはじめとする、上記に開示されるようなHSP90阻害剤の使用に関する。
【0048】
本発明はまた、哺乳類における炎症性障害の治療、特に、インフラマソームの形成に関連する炎症性障害、より詳しくはNALP3インフラマソーム形成に関連する障害の治療に用いられる薬剤の製造のための、17−AAGまたは17−DMAGをはじめとする、上記に開示されるようなHSP90阻害剤の使用に関する。
【0049】
このような炎症性障害はより詳しくは、痛風、偽痛風、マックル−ウェルズ症候群、遺伝性周期性発熱、家族性地中海熱、家族性寒冷誘導自己炎症症候群、ブラウ症候群、関節リウマチ、変形性関節症、全身型若年性特発性関節炎、乾癬、狼瘡、多発性硬化症、喘息、慢性閉塞性肺疾患、炎症性腸疾患、クローン病、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病などの自己免疫および自己炎症性疾患から選択される。
【0050】
このようなHSP90の阻害剤は全く単独で用いてもよいし、あるいは上記に開示される他の抗炎症性化合物および組成物と併用してもよい。
【0051】
材料および方法
結晶の作製
MSU結晶を記載のようにして作製した31。要すると、0.01M NaOH中、1.68gの尿酸を70℃まで加熱した。必要に応じてNaOHを加え、pHを7.1〜7.2の間に維持し、溶液を濾過し、室温でゆっくり弱い攪拌をしながら連続的に24時間インキュベートした。硝酸カルシウム溶液(終濃度0.1M)とピロリン酸ナトリウムの酸性溶液(終濃度,25mM Na2P2O7および30mM HNO3)を混合することによりCPPDを得た。この乳白色沈殿は、濾過し、50〜60℃で24時間インキュベーションした後、CPPD結晶を形成した32。アロプリノール結晶は従前に記載されているように作製した2。ダイアモンド結晶(1〜3ミクロン)はmicrodiamant AG, Lengwil (Switzerland)から厚意により提供されたものである。結晶は総て無菌状態で維持し、エタノールで洗浄し、乾燥させ、オートクレーブにかけ、音波処理によりPBS中に再懸濁させ、位相差偏光顕微鏡で観察した。
【0052】
一次ヒト単球およびTHP1の調製および刺激
THP1を記載のように10、刺激の前日に0.5μMのPMAで3時間刺激した。この処理により細胞の食作用が高まり、プロIL−1βの構成的産生が誘導された33。ヒト単球を従前に記載されているように精製した30。総ての細胞を示されているようにOptiMEM培地で刺激した。ヒト成熟IL−1βを、Cell Signallingからの切断型エピトープ(D116)に対する特異的抗体で、またはBD bioscienceからの酵素結合免疫吸着法(ELISA)で検出した。TNFおよびIL−6はImmunoToolsからのELISAにより、カスパーゼ−1はAlexisのELISAにより検出した。IL−18はMBLからの抗体(D044−3)で、カスパーゼ−1はSanta Cruz Biotechnologyからの抗体(sc−622)で検出した。ヒトIL−1βに対する抗体はRoberto Solari, Glaxからの譲渡品であり、z−YVAD−fmkはAlexis Biochemicalsから購入した。IL−1ra(アナキンラ,Kineret)はAmgen (thousand Oaks, USA)から入手した。
【0053】
マウス
NALP3ターゲティングベクター(図5)をC57BL/6ES細胞(Ozgene)にエレクトロポレーションした。相同組換えES細胞をサザンブロット分析により同定し、C57BL/6胚盤胞にマイクロインジェクションした。後代をC57BL/6マウスと戻し交配し、生殖細胞系の伝達をテールゲノムDNAのPCRにより確認した(図5b)。テールゲノムDNA上の次のプライマー:5’GCTCAGGACATACGTCTGGA(フォワード、イントロン1)、5’TGAGGTCCACATCTTCAAGG(リバース、エキソン2)および5’TTGTAGTTGCCGTCGTCCTT(リバース、EGFPカセット)を用い、PCRジェノタイピングにより、NALP3欠損マウスのスクリーニングを行った。NALP3+/+およびNALP3−/−マクロファージから単離されたcDNAのRT−PCR分析により、NALP3が存在しないことを確認した。ASC欠損マウスはVishva Dixit (Genentech, San Francisco)の厚意による譲渡品であり、従前に記載の通りである11。カスパーゼ−1−欠損マウス(C57BL/6)はRichard Flavell (Yale University, School of Medecine)の厚意による譲渡品であり、MyD88欠損マウス(C57BL/6)はShizuo Akira (Research Institute of Microbial Diseases, Osaka University)から入手し、IL−1R(BALB/C)欠損マウスはManfred Kopf (ETH, Zurich)から入手した。本試験に用いる手順は米国ガイドラインに従った。
【0054】
マウスマクロファージの調製
示された遺伝子型の8〜12週齢マウスに4%チオグリコレート溶液を腹腔内注射し、3〜6日後に腹腔洗浄によりマクロファージを採取した。細胞を12穴ディッシュに7×105細胞の密度でプレーティングし、3時間後に非接着細胞を除去した。細胞を、10%FCS、ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン/ストレプトマイシンおよびL−グルタミンを添加したRPMIで培養した。総ての細胞を上記のようにOptiMEM培地で刺激した。カスパーゼ−1はSanta Cruz Biotechnologyからの抗体(sc−514)を用い、ASCは従前に記載されている34ような抗体を用いて分析した。マウスIL−1βに対する抗体はRoberto Solari, Glaxoからの譲渡品であった。次のマウスELISAキットを用いた:TNFおよびIL−1βはR&D systems、IL−6はBD biosciences。
【0055】
in vivoマウス腹膜炎モデル
0.5ml無菌PBS中、MSU結晶またはチモサン(zymosan)を注射することにより腹膜炎を誘発した。6時間後、マウスをCO2曝露により安楽死させ、腹腔を10mlのPBSで洗浄した。洗液を、好中球マーカー Ly−6GおよびCD11b(BD Pharmingen)を用いるFACSにより、PMN動員に関して分析した。
【実施例】
【0056】
以下の実施例は特定の実施形態を示すことを意図するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0057】
実施例1
本実施例はMSUまたはCPPD結晶に応答したヒト起源(THP1)細胞の単球細胞系統による、および、ヒト単球による成熟IL−1βの産生について記載する。THP1細胞をMSU結晶とともにインキュベートし、10μg/mlといった少ない結晶で刺激した後にIL−1βの成熟を実際に検出した(図1a)。カスパーゼ−1活性化の既知の阻害剤であるzYVAD−fmkを添加すると、MSUによる誘発されるIL−1βの活性化が完全に遮断されたが、このことはプロIL−1β切断がカスパーゼ−1に依存することを示唆する(図1a)。偽痛風としても知られるピロリン酸カルシウム沈着疾患に関与する別の種類の病原結晶CPPDはMSUと同様の活性であった(図1b)。非炎症性アロプリノールまたはダイアモンド結晶およびチモサンやアルミニウム粉末などの特定の要素は、同様の大きさおよび/または化学組成であるにもかかわらず、プロIL−1βプロセシングを誘発することができない(図1c)ので、結晶により誘発されるIL−1βプロセシングはこれらの構造に特異的であった。インフラマソームの既知のアクチベーターに比べ、粗LPSおよびATP、MSUおよびCPPDはより活性が高かった11,13(図1c)。この優れた能力は、カスパーゼ−1の第二の既知基質であるプロIL−18のプロセシングを分析する場合に特に明白であった(図1c)。従前に本発明者らは、インフラマソームの活性化の後、炎症性カスパーゼが切断され、活性なIL−1βとともに放出されることを実証している13。このことは細胞をMSUおよびCPPDで処理した場合にも見られた(図1c,d)。結晶が介在するカスパーゼ−1の活性化はTHP1細胞系統の独特な特性であるということを排除するため、MSUおよびCPPDを精製ヒト単球に加えた。図1dに示されるように、一次細胞では両病原結晶に対する強い応答も惹起された。
【0058】
実施例2
本実施例は結晶により誘発される炎症におけるNALP3インフラマソームの直接的関与を示す。本発明者らは、インフラマソーム複合体または他のプロ炎症性経路の種々の鍵タンパク質を欠損したマウスに由来する腹腔マクロファージ(PMΦ)を分析した。ex vivoではPMΦ中のプロIL−1βは存在しない、かつ/または急速に分解されることを考えると、また、本発明者らはMSUまたはCPPDによりプロIL−1βの転写または翻訳の直接的誘発を認めることはできなかったので、サイトカインの合成を誘導するためPMΦ中のTLR4を純粋なLPSで刺激した11,13。ヒト単球における本発明者らのこれまでの知見と一致し、MSUまたはCPPDで刺激されたマウスPMΦはカスパーゼ−1を活性化し、成熟IL−1βを分泌した(図2a)。成熟はカスパーゼ−1欠損マウス由来のPMΦでは無効であり、この活性化の特異性が確認された。予測されたように、MyD88欠損PMΦは、それらのTLRシグナル伝達欠陥のために成熟IL−1βを産生せず、その結果、LPS予備刺激後にプロIL−1βを産生することができなかった(図2a)。それでもなお、MyD88−/−PMΦはカスパーゼ−1を活性化した(図2a)ので、さらに、この活性化はTLRに依存せず、インフラマソームの関与の可能性と一致することが示唆される13,15。ASCはNALPインフラマソーム複合体へのカスパーゼ−1の動員に必要とされる重要なアダプタータンパク質である12。ASC欠損PMΦは、MSU結晶およびCPPD結晶による刺激後に成熟IL−1βを産生しなかった(図2b)。
【0059】
ヒトゲノムは14種類のNALPのレパートリーを持っている。そのうちいくつがインフラマソームを形成するのかは現在のところ明らかでない。NALP3は単球とマクロファージの双方で発現し、ヒトおよびマウスでよく保存されている。本発明者らは、NALP3インフラマソームが結晶により誘発されるカスパーゼ−1の活性化に関与している可能性があると考えたことから、NALP3欠損マウスを作出した(図3)。ASC−/−マウス由来のPMΦと同様、MSUおよびCPPD曝露時にNALP3欠損PMΦではIL−1βの放出が損なわれた(図2c)。同様に、MSU曝露時のNALP3欠損マウスマクロファージではIL−1αの放出が損なわれたが、TNFαは損なわれなかった(図2d)。インフラマソームの他の既知の非微生物刺激であるATPによるIL−1βの誘導もNALP3に依存していた(図2c)。ATP受容体P2X7の遮断はATPにより駆動されるインフラマソームの活性化を阻害したが、それはMSUにより誘発される活性化には効果が無く、このことはこの2つのインフラマソーム活性化経路が独立に働いていることを示す(図4)。
【0060】
実施例3
本実施例は、MSUまたはCPPD結晶に応答したTNFの産生が、IL−1の分泌に依存することを示す。その活性がカスパーゼ−1の活性化に依存するサイトカインの他、MSUおよびCPPDもTNF−αなどの他のサイトカインを誘導することが知られており17,18、さらに、結晶のインフラマソームに依存しない活性が示唆されている。TNF−αの放出をアッセイした際、本発明者らは、TNF−αの産生が比較的緩慢で、IL−1βの放出が先行したことを認めた19(図5a)。従って、TNF−αの分泌は少なくとも部分的に、放出された成熟IL−1βにより開始される可能性があった。実際に、IL−1βの成熟をzYVAD−fmkで遮断したところ、TLR2アゴニストのチモサンによるTNF−α産生に影響を及ぼさずに、MSUおよびCPPDにより誘導されるTNF−αの産生が50%を超えて低下した(図5a)。同様に、IL−1シグナル伝達の天然阻害剤であるIL−1Raは、ヒト単球によるTNF−αおよびIL−6産生に有意に影響を及ぼした(図5b)。
【0061】
実施例4
本実施例は、MSU結晶またはCPPD結晶の接種によるIL−1β放出には無傷な細胞骨格が必要であること、およびコルヒチン(微小管の適正な集合を妨げる薬剤)はNALP3インフラマソームの活性化を阻害することを示す。関節内MSU注射前にコルヒチンで静脈内処理すると炎症が著しく低減するが23、このことはコルヒチンが炎症の初期段階を標的とすることを示唆している。従って、本発明者らは、結晶により誘発されるIL−1βの成熟にけるコルヒチンの役割を調べた。図6に示されるように、コルヒチン(その溶媒エタノールではない)で前処理すると、IL−1βのプロセシングが完全に遮断された。これに対し、コルヒチンは細胞外ATPによるIL−1βの活性化には影響を及ぼさず、この薬剤がインフラマソームの活性化の上流で働くことが示唆される。
【0062】
実施例5
本実施例は、痛風または偽痛風の治療のためのNALP3インフラマソームの形成を阻害する小分子化合物について記載する。多くの場合、多タンパク質構造の集合は、最終的なタンパク質多量体の個々の成分と熱ショックタンパク質などのシャペロンタンパク質との間の複合体の形成による。植物で行われている研究からも、NALPタンパク質と構造的に関連のある植物病害耐性タンパク質(Rタンパク質)の活性がHSP90クライアントタンパク質Sgt1により制御されることが知られている。この実験では、尿酸一ナトリウム(MSU)結晶で刺激されたヒト単球による成熟IL−1βの産生が培養培地に既知のHSP90阻害剤であるゲルダナマイシンを添加することにより排除されることが示された。また、ゲルダナマイシンはPGNおよびATPなどの他の刺激によって誘導されるIL−1βの産生も阻害した(図7)。同様に、ゲルダナマイシンの低毒性誘導体である17−AAGも、ATP(図8b)またはMSU結晶(図8c)により刺激されたマウスマクロファージによるIL−1βの産生をほぼ完全に阻害したが、TNFα産生の低下は50%未満であった(図8a)。また同様に、ゲルダナマイシンの水溶性誘導体である17−DMAGも、MSU結晶により刺激されたマウスマクロファージ(図8d)またはヒト血液単球(図8e)によるIL−1βの産生を阻害した。
【0063】
ゲルダナマイシンによるこの成熟IL−1β分泌の低下は、IL−1の転写レベル、インフラマソームの集合、インフラマソームの活性または成熟IL−1βの分泌における阻害作用によるものである可能性がある。ゲルダナマイシンがMSU刺激単球による成熟IL−1βの分泌をどのように妨げるかを解明するため(上記図7参照)、ゲルダナマイシン処理の後にNALP3の発現が損なわれたかどうか検討した。Sgt1発現はSgt1特異的siRNA処理により排除され、NALP3発現は維持されたことから、NALP3発現はSgt1の存在に依存しないことが示された。培養培地にゲルダナマイシンを添加すると、Sgt1の存在または不在にかかわらずにNALP3発現が排除された(図9)。これらの結果は、成熟IL−1βの分泌に対するゲルダナマイシンの阻害作用を説明する。
【0064】
これらの結果を合わせると、NALP3インフラマソームの集合に対する、それゆえ成熟IL−1βの分泌に対するゲルダナマイシンまたはその誘導体17−AAGおよび17−DMAGの作用が示される。これらの結果は、NALP3インフラマソームの形成を阻害する分子が痛風または偽痛風に治療に使用可能であるという考えを裏付けるものである。
【0065】
実施例6
本実施例は、インフラマソーム成分に欠損があるマウスにおける、MSU結晶に応答するin vivo炎症性浸潤物の減少について記載する。臨床上、痛風および偽痛風は、関節内および関節周囲の空間における好中球の著しい浸潤を伴う症状である関節の浮腫および紅斑に関連し、結果として激しい痛みを伴う。この顕著な好中球流入は、結晶の腹腔内注射によりマウスで実験的に再現することができる24。本発明者らは、結晶により誘発される炎症におけるインフラマソームのin vivoでの役割を検討するため、この十分確立されたモデルを用いた。MSU、CPPDまたはアロプリノール結晶を注射し、6時間後に好中球の腹腔動員を分析した。MSUおよびCPPDは双方とも、野生型C57BL/6マウスに注射した場合、PBSまたはアロプリノールに比べて好中球の動員の顕著な増加を誘発した(図10a)。重要なこととしては、病原結晶をカスパーゼ−1またはASC欠損マウスに注射した場合には好中球流入が60%低下したことであり(図10bおよびc)、このことはこのプロセスにおけるインフラマソームおよびIL−1βの主要な役割を示唆している。特に、ASC欠損マウスでは、チモサンにより誘発される好中球流入は影響を受けなかった(図10c)。
【0066】
実施例7
本実施例は、マウスモデルにおいてIL−1Rの関与/誘発が痛風症状に決定的な役割を果たしていることを示す。WTまたはIL−1RI欠損マウスの腹腔にMSU結晶、またはIL−1RIに対する遮断型モノクローナル抗体と、もしくはIL−1Ra(アナキンラ,Kineret)と組み合わせて、またはIL−1αおよびIL−1βに対する遮断型モノクローナル抗体と組み合わせて注射することにより、無菌性腹膜炎を誘発した。注射6時間後に炎症性細胞の動員を測定した。IL−1R欠損マウスは、MSUおよびCPPDは後の好中球の動員の完全な低下を示した(図11)。同系列の証拠として、KineretまたはIL−1RIに対するモノクローナル抗体またはIL−1αおよびIL−1βに対するモノクローナル抗体を投与すると、好中球流入がほぼ完全に妨げられた(図12)。これに対し、IL−1R欠損マウスでは、チモサンにより誘発される好中球流入は影響を受けなかった(図11)。
【0067】
実施例8
この実施例は、マウスモデルにおいて、TNFの遮断は痛風の臨床症状を緩和しないことを示す。マウスの腹腔にMSU結晶を、TNFαに対する遮断型モノクローナル抗体とともに、または伴わずに、あるいはIL−Ra(アナキンラ,Kineret)とともに注射することにより無菌性腹膜炎を誘発した。注射6時間後に炎症性細胞の動員を測定した。図13に示されるように、TNFαに対する遮断型モノクローナル抗体を投与しても好中球流入は低下せず、Kineretの場合は低下した。
【0068】
実施例9
本実施例は、マウスモデルにおいて、水溶性で経口投与可能なHSP90阻害剤である17−DMAGを投与すると、痛風の臨床症状が緩和されることを示す。BALB/Cマウスの腹腔にMSU結晶を単独または25mg/kgの17−DMAGと組み合わせて注射することにより無菌性腹膜炎を誘発した。注射6時間後に炎症性細胞の動員を測定した。図14に示されるように、17−DMAGを投与すると、MSUに応答する好中球流入が低下した。
【0069】
実施例10
本実施例は、急性痛風患者においてIL−1の阻害により痛風の臨床症状が改善されることを示す。痛風であることが分かっている4名の患者をアナキンラ(Kineret)で処置した。
【0070】
症例1
慢性結節性痛風病歴13年の72歳の女性に対し、組換えウリカーゼによる治療の評価を行った。これまでにこの患者はアロプリノールに対して重篤な皮膚反応を示し、ベンズブロマゾンによる尿酸排泄処置は腎臓結石を招いた。これまでの痛風発作の際には、医学的治療は満足のいくものではなかった。高用量では胃腸管出血事例1回を含む胃腸管副作用が引き起こされたため、この患者には低用量のジクロフェナク(50〜100mg/日)にしか耐性がない可能性があった。コルヒチン1mg/日では耐え難い下痢が起こり、経口コルチコステロイドでは激しい腹痛が生じた。ウリカーゼ治療(5日間、毎日14mg iv)を開始すると尿酸レベルの急速な低下が見られた。治療4日目、手足の関節に関節炎が発症した。過去の発作時にジクロフェナクで処置しても症状の緩和に1週間以上かかったことから、アナキンラ治療が提案された。アナキンラを2日間、1日100mg投与した。患者の関節炎はすぐに応答し、48時間で関節痛は急速に軽減された。この患者はウリカーゼの方針を継続することができた。その後2か月は急な発作は見られなかった。
【0071】
症例2
慢性結節性痛風病歴8年の70歳の男性に対し、尿酸値低下治療を評価した。過去の病歴としては、うっ血性心不全、重篤な虚血性心疾患、高血圧症および腎不全(血清クレアチニン202μmol/L、正常範囲44〜80μmol/L)があった。それまでのアロプリノール治療の試みは、初回投与後に急性痛風が発症し、これは低用量NSAIDに応答しなかったことから棄却された。高用量NSAIDは腎不全のために禁忌であった。低用量コルヒチン(<1mg/日)はすぐに下痢を引き起こした。この患者に再び低用量アロプリノール(100mg)を開始したが、初回の投与後に右足および足首に急性関節炎が発症した。アナキンラ1日100mgを3日間投与したところ、関節炎の徴候および症状が急速に軽減された。この患者のアロプリノール1日100mgを続け、1か月後の追跡調査時には、同じ用量のアロプリノールを続けているにもかかわらず、さらなる発作は見られなかった。
【0072】
症例3
糖尿病、高血圧症、腎不全および虚血性心疾患の病歴を持つ72歳の男性は多関節性痛風を呈していた。関節炎は膝、右足首および右足根骨関節を含んでいた。膝関節穿刺液にはMSU結晶が検出され、この液体は炎症性であった(白血球総数22.5G/L、98%多形核)。腎不全とコルヒチンによる直腸出血歴のため、経口プレドニゾン1日30mgによる治療を7日間漸減用量で開始した。ステロイドであるにもかかわらず、関節炎は続き、患者は歩行できなかった。ステロイドを中断した後、アナキンラの3日コースを患者に行ったところ、2日までに関節炎の完全緩解が見られた。1か月後の追跡調査時には関節炎の再発は見られなかった。
【0073】
症例4
主として右足首と親指を含む多関節性痛風病歴20年の50歳の男性は、ますます頻発する痛風発作のために医学的助言を求めていた。この患者はアロプリノールを始めていたが、それが関節炎の発作を誘発するために治療の継続はできなかった。NSAIDは重篤な胃腸管疼痛を引き起こし、コルヒチン1日1mgは効果がなかった。高用量コルヒチンは下痢を起こした。診察時、この患者には右足首の関節に関節炎を有し、関節穿刺液でMSU結晶が確認された。アロプリノール(300mg/日)の開始と同時にアナキンラの試みを開始した。この患者の関節炎は急速に応答し、アロプリノールを継続した。この患者は2か月後、無症候であった。
【参照文献】
【0074】
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】尿酸一ナトリウム結晶(MSU)およびピロリン酸カルシウム二水和物(CPPD)はIL−1βの切断および放出を活性化する。 a−c,THP1細胞を示された量/mlのMSU結晶(a)、CPPD(b)または示されるように50μg/mlの純粋なLPS、MSU、アロプリノール結晶、CPPD結晶、ダイアモンド結晶、アルミニウム粒子、チモサン、LPSの粗調製物、または5mMの細胞外ATP(c)で6時間刺激した。上清(SN)を成熟IL−1β、IL−18またはカスパーゼ−1の存在に関して分析し、細胞抽出物(Cell)をプロIL−1βおよびプロIL−18の存在に関して分析した。d,ヒト単球を50μg/mlの示された結晶で6時間刺激し、ウエスタンブロットでIL−1β活性化に関して、またはELISAで放出されたカスパーゼ−1およびIL−1βに関して分析した。
【図2】NALP3インフラマソームはIL−1αおよびβの成熟に必要である。 前駆体プロIL−1βの合成を誘導するために、野生型(+/+)、カスパーゼ−1(Casp1)またはMyD88欠損マウス(a)、ASC欠損マウスまたは同腹子対照(b)、およびNALP3欠損マウスまたは同腹子対照(c)由来のマウスマクロファージを示されたように超純粋LPS(1μg/ml,AlexisまたはInvivogen)の存在下を刺激した。(c)では、超純粋LPSを刺激の1時間前に加えた。上清(SN)または細胞抽出物(Cell)を示されたようにウエスタンブロットで分析し、(d)WTまたはNALP3 KO由来のマクロファージをLPSでプライミングした後、MSU結晶で活性化した。SNをIL1に関して試験し、ELISAでTNF含量を調べた。
【図3】マウスNALP3遺伝子の破壊のための遺伝子ターゲティング戦略 a,EGFPカセットをエキソン2のATGと同一フレーム内に挿入した。このEGFPカセットの後にSV40ポリ(A)テールを続けると、NALP3遺伝子が破壊された。2つのloxP部位によりフランキングされた選択カセットPGK−neoをイントロン2に挿入した。このneoカセットを、このマウスとCre発現欠失系統(C57BL/6)と戻し交雑することにより欠失させた。b,KO、WTおよびヘテロ接合マウスのPCRジェノタイピング。
【図4】尿酸一ナトリウム結晶(MSU)が媒介するIL−1βの活性化はATP−受容体P2X7と独立に起こる。 THP1細胞をP2Xアンタゴニストであるピリドキサール−ホスフェート−6−アゾフェニル−2’,4’−ジスルホン酸(PPADS,Alexis)で30分間前処理した後、MSU結晶(50μg/ml)で6時間刺激した。上清(SN)を成熟IL−1βの存在に関して分析し、細胞抽出物(Cell)をプロIL−1βの存在に関して分析した。
【図5】IL−1βの成熟はMSUおよびCPPD刺激後すぐに起こる事象である。 a,THP1細胞をカスパーゼ−1阻害剤zYVAD−fmkの存在下または不在下で示された時間、MSU、CPPDまたはチモサン(Zym)で刺激した。上清をELISAによりTNF−α(グレーのバー)およびIL−1β(黒いバー)産生に関して分析した。b,ヒト単球を2種類の濃度のIL−1Raの存在下でMSUまたはCPPDとともにインキュベートした。TNF−αおよびIL−6の産生をELISAでモニタリングした。
【図6】IL−1βの成熟はコルヒチンにより遮断される。 THP1細胞をコルヒチン(colch)の存在下または不在下で、MSU、CPPDまたはATPで刺激した。IL−1βの成熟をウエスタンブロットで分析した。
【図7】一次マクロファージにおけるIL−1βの成熟はゲルダナマイシンにより遮断される。 ヒト一次単球を一晩200nMゲルダナマイシン(GA)で処理した後、MSU(100μg/ml)、PGN(50μg/ml)または5mM(ATP)で6時間刺激した。上清を採取し、IL−1βプロセシングに関して評価した。
【図8】尿酸一ナトリウム結晶で刺激したマウス腹腔浸出細胞およびヒト血液単球によるIL−1β産生に対する17−AAGおよび17−DMAGの作用 BALB/Cマウスにチオグリコレート4%溶液を腹膜内注射した。6日後、腹腔をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄することにより腹腔浸出細胞(PEC)を採取した。細胞を組織培養12穴プレートの穴に分注した(106細胞/穴)。非接着細胞を洗浄し、接着細胞を200nMの17−AAG(Invivogen)の存在下または不在下、1μg/mlのUltrapure LPS(Invivogen)で処理した。(a)一晩培養した後、上清を採取し、ELISAによるTNFの測定に用いた。(b,c)新鮮培地を2mMのATPまたは100μg/ml MSUの存在下または不在下の細胞に加えた。5時間後、上清を採取し、IL−1βをELISAにより測定した。(d)マウス腹腔マクロファージを50nMの17−DMAG(Invivogen)の存在下または不在下、500ng/mlのUltrapure LPS(Invivogen)で処理した。2時間後、細胞を500μg/ml MSUで刺激した。4時間後、上清を採取し、IL−1βをELISAにより測定した。(e)ヒト血液単球を段階的用量の17−DMAG(Invivogen)の存在下または不在下、1μg/mlのUltrapure LPS(Invivogen)で処理した。一晩培養した後、細胞を100μg/ml MSUで刺激した。6時間後、上清を採取し、IL−1βをELISAにより測定した。
【図9】ゲルダナマイシン処理時のNALP3の分解 Flagタグの付いたNALP3 T−rex細胞をSgt1に対するsiRNAまたはスクランブルsiRNAでトランスフェクトした。トランスフェクション48時間後、NALP3をドキシサイクリンで誘導した。細胞をゲルダナマイシン1μMで8時間処理した。細胞溶解液中のNALP3の分解をウエスタンブロットで分析した。
【図10】結晶により媒介される腹膜炎のマウスモデルにおけるインフラマソームの役割 (a−c)示された野生型または変異型マウスに0.5ml i.p.の無菌PBS単独、または1mgの示された結晶もしくは0.2mgのチモサンを添加したものを投与した。6時間後に好中球流入を定量した(値は各群n=4〜6マウスの±S.E.Mである)。片側スチューデントのt検定を用いてp値を算出した。
【図11】マウスモデルにおいてIL−1R結合/惹起は痛風症状に決定的役割を果たす。 示された野生型または変異型マウスに0.5ml i.p.の無菌PBS単独、または1mgの示された結晶もしくは0.2mgのチモサンを添加したものを投与した。6時間後に好中球流入を定量した(値は各群n=4〜6マウスの±S.E.Mである)。片側スチューデントのt検定を用いてp値を算出した。
【図12】マウスにおける尿酸一ナトリウム結晶により誘発される炎症に対するアナキンラ(Kineret)および抗IL−1受容体1型(IL−1RI)モノクローナル抗体の作用 雌C57BL/6マウスに、500μg尿酸一ナトリウム結晶(MSU)とPBS、200μgアナキンラ(Kineret, Amgen Inc., Thousand Oaks, USA)、200μg抗IL−1 RIモノクローナル抗体(BD Pharmingen, San Jose, USA)、200μg抗IL−1αモノクローナル抗体(Biolegend, San Diego, USA)、200μg抗IL−1βモノクローナル抗体(Biolegend, San Diego, USA)、または200μg抗IL−1αモノクローナル抗体と200μg抗IL−1βモノクローナル抗体の組合せを注射することにより無菌性腹膜炎を誘発した。6時間後、マウスを屠殺し、腹腔を10mlの冷PBSで洗浄した。好中球マーカーCD11bおよびGr1(Ly−6G)を用いるFACSにより、この洗液を好中球動員に関して分析した。値は各群4〜5匹の好中球総数の±s.e.m.である。片側スチューデントのt検定を用いてp値を算出した。
【図13】抗TNFαモノクローナル抗体による、MSUにより誘発される好中球動員の阻害は見られない。 雌BALB/Cマウスに、500μg尿酸一ナトリウム結晶(MSU)とPBS、200μgアナキンラ(Kineret, Amgen Inc., Thousand Oaks, USA)または200μg抗TNFαモノクローナル抗体(BD Pharmingen, San Jose, USA)を注射することにより無菌性腹膜炎を誘発した。6時間後、マウスを屠殺し、腹腔を10mlの冷PBSで洗浄した。好中球マーカーCD11bおよびGr1(Ly−6G)を用いるFACSにより、この洗液を好中球動員に関して分析した。値は各群4〜5匹の好中球総数の±s.e.m.である。片側スチューデントのt検定を用いてp値を算出した。
【図14】マウスにおける尿酸一ナトリウム結晶により誘発される炎症に対するゲルダナマイシンの水溶性類似体である17−DMAGの作用 雌BALB/CマウスをNaCl 0.9%または25mg/kg 17−DMAGで腹膜内処理した。1時間後、500μg尿酸一ナトリウム結晶(MSU)を注射することにより無菌性腹膜炎を誘発した。5時間後、マウスを屠殺し、腹腔を10mlの冷PBSで洗浄した。好中球マーカーCD11bおよびGr1(Ly−6G)を用いるFACSにより、この洗液を好中球動員に関して分析した。値は各群5匹の好中球総数の±s.e.m.である。片側スチューデントのt検定を用いてp値を算出した。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3a】
【図3b】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL−1、またはNALP3インフラマソーム(inflammasome)によるその成熟を遮断する阻害剤の有効量を投与することを含む、痛風または偽痛風の治療のための新規な方法、および薬剤の製造方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
痛風および偽痛風として知られる急性および慢性炎症性応答の発症はそれぞれ関節および関節周囲の組織における尿酸一ナトリウム(MSU)またはピロリン酸カルシウム二水和物(CPPD)結晶の沈着に関連している。MSU結晶はまず18世紀に痛風の病因因子として確認され1、最近では、死にかけている(dying)細胞から放出される「危険シグナル」であることも確認された2が、MSUまたはCPPDにより誘発される炎症の基礎をなす分子機構についてはほとんど知られていない。
【0003】
痛風または偽痛風の症状に苦しむ患者にとって、痛風または偽痛風の治療のために今日利用できる療法は少ない。これらの治療は一般にコルヒチンおよび他の化合物を用いる。しかしながら、このような治療は満足のいくものではない。一例として、経口コルヒチンの使用は吐き気や腹痛などの副作用により制限される。通常の痛風治療と副作用に関する情報は、Cannella & Mikuls (The American Journal of Managed Care, Nov. 2005, Vol. 11, NO. 15, SUP., S541-S458)およびウェブサイトhttp://www.arthritis.ca/tvpes%20of%20arthritis/gout/default.asp?s=1に示されている。
【0004】
痛風は「自己炎症性疾患」と総称される病態群である。これらには、感染または自己免疫的原因が存在しない自発的周期的炎症と発熱を特徴とする不均質な病態群を含む3。そのような炎症性疾患として、遺伝性周期性発熱(HPF)、マックル・ウェルズ症候群、家族性地中海熱(FMF)、家族性寒冷誘導自己炎症症候群(FCAS)および代謝症候群障害である痛風や偽痛風などが挙げられる。痛風と、関節リウマチ、変形性関節症または全身型若年性特発性関節炎(SoJIA)のような自己免疫疾患との間には違いがある。実際、自己免疫疾患は、再配列され、クローン的に選択される受容体(抗体およびT細胞受容体)による自己成分の認識を担う適応免疫成分(B細胞およびT細胞)を含むと考えられている。それは感染により誘発される場合があり、自己の抗原と交差反応をもたらす。あるいは、遺伝的素因のバックグラウンドがこれらの病態をもたらす場合もある。これに対し、痛風は生得的免疫系成分、特にNOD様受容体が関与するだけで、適応免疫成分は関与しない。痛風は病原体により誘発されないと思われる。むしろ、痛風は代謝不全、すなわち、体内のある領域でのMSU結晶の増加から起こる(Choi, HK et al. 2005. Pathogenesis of gout. Ann. Intern. Med. 143:499)。
【0005】
内因性発熱物質として知られるIL−1βは炎症性の高いサイトカインであり、その産生は少なくとも3つの異なる段階で厳格に制御されている9。
【0006】
第一段階はプロIL−1βタンパク質(p35)の産生を含む。第二段階は前駆体プロIL−1βの切断による活性型IL−1βタンパク質(p17)の産生を含む。この反応はカスパーゼ−1活性化複合体の活性化によるものであり、最も特徴的なのはインフラマソームである10,11。第三段階で、IL−1βは細胞外環境へ放出される。
【0007】
活性化すると、NALP1、NALP2、NALP3/CryopyrinまたはIpafなどのNOD−LRR(ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン−ロイシンリッチリピート)タンパク質ファミリーのいくつかのものと、そのNOD−LRRタンパク質とカスパーゼ−1とをつなぐアダプタータンパク質ASCによりインフラマソームが形成される12。インフラマソームの活性化をもたらすシグナルおよび機構はまだあまり理解されていない。最近、細菌の細胞壁成分であるペプチドグリカンの分解産物であるムラミルジペプチド(MDP)および粗LPSの夾雑物が、NALP3のLRRドメインを介してNALP3インフラマソームを活性化することが示され13、このことはトル様(Toll-like)受容体(TLR)のようにNALPが微生物検出の基礎であることを示唆する。しかしながら、インフラマソームはまた、細胞外ATPもしくは低張ストレスなどのストレスまたは内因性の「危険シグナル」の検知にも長けている10,11,15。最近、MSU結晶が死にかけている細胞からの尿酸の放出後に形成される「危険シグナル」として特定された。
【0008】
発明者らは、MSUおよびCPPDがNALP3インフラマソームと関与し、活性型IL−1α、IL−1βおよびIL−18の産生をもたらすことを示した。
【0009】
カスパーゼ−1、ASCおよびNALP3など、インフラマソームの種々の成分を欠いたマウスのマクロファージは結晶により誘発されるIL−1の活性化および次の好中球の流入に欠陥がある。同様に、IL−1受容体I型(IL−1RI)が欠損すると、MSUまたはCPPDにより誘発される炎症で好中球の動員が上手くいかない。同系列の証拠で、同じことで、IL−1受容体I型に対する遮断型モノクローナル抗体またはアナキンラ(Kineret,IL−1Ra)を投与すると、TNFに対する遮断型モノクローナル抗体を投与する場合と違い、マウスにおいてMSUにより誘発される好中球の動員が排除される。同様に、HSP90シャペロンの阻害剤はNALP3インフラマソームの形成を阻害する。これらの阻害剤はまた、ヒト単球およびマウスマクロファージによるIL−1分泌も遮断し、マウスにおいてMSUにより誘発される好中球動員も阻害する。
【0010】
これらの知見は痛風および偽痛風の炎症症状の基礎にある分子プロセスに洞察をもたらし、このような症状の治療に好適な新たな薬剤および医薬を特定する。
【発明の簡単な説明】
【0011】
本発明は、痛風または偽痛風の治療のための新規な方法であって、IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤の有効量を投与することを含んでなる方法に関する。
【0012】
NALP3インフラマソームはカスパーゼ−1、ASCおよびNALP3の結合体(conjugate)である。
【0013】
本発明によれば、NALP3インフラマソームによるIL−1成熟を遮断する阻害剤は、NALP3インフラマソームの形成の阻害剤および/またはNALP3インフラマソームの活性の阻害剤を含む。
【0014】
NALP3インフラマソームの形成の阻害剤としては、特に、カスパーゼ−1および/またはASCおよび/またはNALP3の発現および/または活性の阻害剤がある。
【0015】
さらに、本発明者らは、NALP3インフラマソームの集合にはNALP3と熱ショックタンパク質HSP90、さらにはクライアントタンパク質Sgt1との一時的会合を必要とすることを見出した。従って、NALP3インフラマソームの形成の阻害剤はまた、HSP90および/またはSgt1の発現および/または活性の阻害剤、より詳しくは、HSP90の阻害剤を含む。
【0016】
本発明によれば、NALP3インフラマソームの活性の阻害剤は、NALP3インフラマソームによるプロIL−1βのIL−1βへのプロセシングを阻害してもよい。
【0017】
IL−1を遮断する阻害剤は好ましくはIL−1αおよび/またはIL−1βを遮断する阻害剤である。
【0018】
これらの阻害剤は好ましくは、IL−1の活性の阻害剤、IL−1受容体の阻害剤およびIL−1受容体アンタゴニストから選択される。
【発明の詳細な説明】
【0019】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤は、小分子、DNAまたはRNA配列、タンパク質、抗体など、その作用がIL−1の形成、および/または同IL−1の活性、および/またはNALP3インフラマソームによるIL−1の成熟、を阻害する物質の組成物である。
【0020】
小分子量化合物は約500Da未満の分子量の化学化合物である。これらの化学化合物は天然源のもの、修飾天然化合物または完全合成化合物由来である。天然化合物は植物、植物抽出物または生体材料を含むその他媒体など、生体材料の抽出により得ることができる。それらはまた、完全または部分的合成によって得ることもできる。それらは単独で用いることもできるし、既知の薬学上許容される塩を含む生理食塩水形態で使用することもできる。
【0021】
例えば、NALP3のATP結合部位に適合する小分子量化合物は、NALP3インフラマソームの阻害剤として用いることができる。NALP3の配列解析によれば、推定ATP結合部位の存在が明らかになっている。関連のATP結合部位を有する他のタンパク質(すなわち、キナーゼ、ホスファターゼおよびホスホジエステラーゼ)に関して小分子量化合物阻害剤の開発に成功しているが、このようなNALP3の阻害剤の特定が合理的に推定できることが示唆される。
【0022】
ゲルダナマイシンなどのHSP90を特異的に遮断する小分子量化合物、または17−AAG(17−(アリルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン)もしくは17−DMAG(17−(ジメチルアミノエチルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン)およびそれらの薬学上許容される塩などの毒性の低い誘導体の開発に成功している。これらの化合物は癌の治療に関して評価されている。これらの阻害剤はまた、HSP90依存型のNALP3インフラマソームの集合にも有効であり、痛風または偽痛風を治療するための薬剤を製造するのに有効な量で使用することができる。
【0023】
他のゲルダナマイシン誘導体は、その内容が引用することにより本明細書の一部とされる米国特許第4,261,989号、US2004−0235813、WO02/36574、WO02/079167、WO03/02671およびWO2005/095347に開示されている化合物など、当技術分野で公知である。
【0024】
HSP90の他の阻害剤も、その内容が引用することにより本明細書の一部とされるWO2006/095783、WO2006/092202、WO2006/090094、WO2006/087077、WO2006/084030、WO2005/028434、WO2004/072051、WO2006/079789、US2006−0167070、WO2006/075095、US2006−0148817、WO2006/057396、WO2006/055760、WO02/069900、WO2006/052795、WO2006/050373、WO2006/051808、WO2006/039977、US2006−0073151、EP1642880、EP1631267、EP1628667、US2006−0035837、WO2006/008503、WO2006/010595、WO2006/010594、WO2006/003384、WO2005/115431、EP1620090、WO2005/061461、WO2005/063222、US2005−0049263、WO2004/050087、WO2004/024142、WO2004/024141、WO03/067262、WO03/055860、WO03/041643、WO03/037860に開示されている化合物など、当技術分野で開示されている。
【0025】
インターロイキン−1阻害剤は、WO89/11540、またはNishiharaら(Infect Immun. 1988 November; 56(11): 2801-2807)もしくはPeledら(blood, Volume 79, Issue 5, pp. 1172-1177)などの多くの科学文献に開示されている阻害剤など、当技術分野で公知である。他のインターロイキンアンタゴニストも、米国特許第6,417,202号に開示されている小分子など、当技術分野で公知である。上記公報の内容は引用することにより本明細書の一部とされる。
【0026】
本発明によれば、IL−1の阻害剤は好ましくは、IL−1αを遮断する阻害剤およびIL−1βを遮断する阻害剤からなる群から選択される。
【0027】
好ましい実施形態では、IL−1の阻害剤はIL−1受容体I型(IL−1RI)アンタゴニスト(天然または合成)、特に、Kineret(登録商標)の名称で市販されているアナキンラとしても知られるIL−1Raである。
【0028】
別の好ましい実施形態では、IL−1の阻害剤はIL−1αおよび/またはIL−1βの活性を阻害する抗体から選択される。このような抗IL−1αおよび/またはβ抗体はポリクローナルまたはモノクローナル抗体であり、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0029】
別の好ましい実施形態では、IL−1の阻害剤はIL−1αまたはIL−1βとその受容体との結合を妨げる抗体から選択される。このような抗IL−1RI抗体はポリクローナルまたはモノクローナル抗体、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0030】
このような抗体は当技術分野で公知であり、関節リウマチおよび変形性関節症などの他の疾病の治療にための療法での使用が開示されているものものある(例えば、引用することにより本明細書の一部とされるWO03/073982参照)。
【0031】
さらに、当業者ならば、標準的な技術により新たな抗体を同定および作製することができる。
【0032】
好ましい実施形態では、抗体はヒト化抗体、すなわち、完全にまたは部分的に、ヒト抗体生殖系に由来するアミノ酸配列または再配列配列からなり、非ヒト相補性決定領域(CDR)を有する抗体の配列を変更することにより製造される抗体である。
【0033】
可変領域のフレームワーク領域は対応するヒトフレームワーク領域により置換され、非ヒトCDRは実質的にそのまま残る。このフレームワーク領域は完全にヒトであってもよいし、あるいは抗体と標的抗原との結合に影響を及ぼす領域に置換を含んでもよい。これらの領域は対応する非ヒトアミノ酸で置換されていてもよい。
【0034】
ヒト化抗体は、ヒトの療法における使用に、より詳しくはヒト免疫系により認識されないこと、また、非ヒト抗体よりも循環中での半減期が長いことから、いくつかの潜在的な利点を有する。
【0035】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤は、標準的な手順に従い、標準的な医薬組成物を用いて投与される。
【0036】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤は、標準的な投与技術を用い、好ましくは、注射もしくは注入、静脈投与、腹腔内投与、筋肉内投与または皮下投与による末梢投与により、また、肺投与、鼻腔投与、口内投与、舌下投与、経皮投与、経口投与または坐薬投与などの他の経路により投与される。
【0037】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤としての医薬組成物は当技術分野で公知であり、選択された投与様式に適するように設計される。薬学上許容される担体、賦形剤ならびにバッファー、界面活性剤、保存剤、可溶化剤、安定剤は既知の実務に従って用いられる。
【0038】
好ましい実施形態では、好ましいIL−1Raまたは抗IL−1αおよびβまたは抗IL−1RI抗体は1日1回、好ましくは1週間に1回、いっそうより好ましくは1か月に1回、IL−1αおよびβ活性を阻害するのに十分な用量で投与される。
【0039】
当業者、より詳しくは痛風または偽痛風の治療を指示する医師であれば、とりわけ、疾病の病期、患者の年齢、体重および健康状態を考慮に入れてこの用量を決定することができる。
【0040】
抗IL−1αおよびβ抗体の推奨用量は1〜20mg/kgの間、好ましくは2〜10mg/kgの間、より好ましくは3〜5mg/kgの間からなる。好ましい投与経路は静脈注入である。
【0041】
注入は医師が決定する特定の投与プログラムで投与される。このようなプログラムは最初の注入後、1または2および5または6週目に追加注入し、その後、8〜10週ごとにさらなる注入を行うことを含んでもよい。
【0042】
IL−1Raの推奨用量は50〜150mg/日の間の1日投与量を含む。好ましい投与経路は皮下注射である。
【0043】
本発明の方法では、NALP3インフラマソーム阻害剤は、既知の抗痛風化合物または組成物および既知の抗炎症性化合物または組成物などの他の治療薬と併用してもよい。
【0044】
既知の抗痛風化合物および組成物はコルヒチン、またはアロプリノールもしくはウリカーゼなどの、尿酸の蓄積を防ぐ組成物から選択される。
【0045】
既知の抗炎症性化合物および組成物はプレドニゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、コルチバゾール、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロンなどのコルチコイド類、ならびにインドメタシン、スリンダック、チアプロフェン酸、アルミノプロフェン、ジクロフェナク、エトドラック、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナブメトン、ナプロキセン、メロキシカム、ピロキシカム、テノキシカム、セレコキシブ、レフェコキシブなどの非ステロイド類、および薬局方に挙げられている他の抗炎症性化合物から選択される。
【0046】
本発明はまた、上記に開示される痛風または偽痛風の治療に用いられる薬剤の製造のための、IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤の使用に関する。
【0047】
本発明はまた、哺乳類における炎症性障害の治療、特に、インフラマソームの形成に関連する炎症性障害、より詳しくはNALP3インフラマソーム形成に関連する障害の治療のための、17−AAGまたは17−DMAGをはじめとする、上記に開示されるようなHSP90阻害剤の使用に関する。
【0048】
本発明はまた、哺乳類における炎症性障害の治療、特に、インフラマソームの形成に関連する炎症性障害、より詳しくはNALP3インフラマソーム形成に関連する障害の治療に用いられる薬剤の製造のための、17−AAGまたは17−DMAGをはじめとする、上記に開示されるようなHSP90阻害剤の使用に関する。
【0049】
このような炎症性障害はより詳しくは、痛風、偽痛風、マックル−ウェルズ症候群、遺伝性周期性発熱、家族性地中海熱、家族性寒冷誘導自己炎症症候群、ブラウ症候群、関節リウマチ、変形性関節症、全身型若年性特発性関節炎、乾癬、狼瘡、多発性硬化症、喘息、慢性閉塞性肺疾患、炎症性腸疾患、クローン病、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病などの自己免疫および自己炎症性疾患から選択される。
【0050】
このようなHSP90の阻害剤は全く単独で用いてもよいし、あるいは上記に開示される他の抗炎症性化合物および組成物と併用してもよい。
【0051】
材料および方法
結晶の作製
MSU結晶を記載のようにして作製した31。要すると、0.01M NaOH中、1.68gの尿酸を70℃まで加熱した。必要に応じてNaOHを加え、pHを7.1〜7.2の間に維持し、溶液を濾過し、室温でゆっくり弱い攪拌をしながら連続的に24時間インキュベートした。硝酸カルシウム溶液(終濃度0.1M)とピロリン酸ナトリウムの酸性溶液(終濃度,25mM Na2P2O7および30mM HNO3)を混合することによりCPPDを得た。この乳白色沈殿は、濾過し、50〜60℃で24時間インキュベーションした後、CPPD結晶を形成した32。アロプリノール結晶は従前に記載されているように作製した2。ダイアモンド結晶(1〜3ミクロン)はmicrodiamant AG, Lengwil (Switzerland)から厚意により提供されたものである。結晶は総て無菌状態で維持し、エタノールで洗浄し、乾燥させ、オートクレーブにかけ、音波処理によりPBS中に再懸濁させ、位相差偏光顕微鏡で観察した。
【0052】
一次ヒト単球およびTHP1の調製および刺激
THP1を記載のように10、刺激の前日に0.5μMのPMAで3時間刺激した。この処理により細胞の食作用が高まり、プロIL−1βの構成的産生が誘導された33。ヒト単球を従前に記載されているように精製した30。総ての細胞を示されているようにOptiMEM培地で刺激した。ヒト成熟IL−1βを、Cell Signallingからの切断型エピトープ(D116)に対する特異的抗体で、またはBD bioscienceからの酵素結合免疫吸着法(ELISA)で検出した。TNFおよびIL−6はImmunoToolsからのELISAにより、カスパーゼ−1はAlexisのELISAにより検出した。IL−18はMBLからの抗体(D044−3)で、カスパーゼ−1はSanta Cruz Biotechnologyからの抗体(sc−622)で検出した。ヒトIL−1βに対する抗体はRoberto Solari, Glaxからの譲渡品であり、z−YVAD−fmkはAlexis Biochemicalsから購入した。IL−1ra(アナキンラ,Kineret)はAmgen (thousand Oaks, USA)から入手した。
【0053】
マウス
NALP3ターゲティングベクター(図5)をC57BL/6ES細胞(Ozgene)にエレクトロポレーションした。相同組換えES細胞をサザンブロット分析により同定し、C57BL/6胚盤胞にマイクロインジェクションした。後代をC57BL/6マウスと戻し交配し、生殖細胞系の伝達をテールゲノムDNAのPCRにより確認した(図5b)。テールゲノムDNA上の次のプライマー:5’GCTCAGGACATACGTCTGGA(フォワード、イントロン1)、5’TGAGGTCCACATCTTCAAGG(リバース、エキソン2)および5’TTGTAGTTGCCGTCGTCCTT(リバース、EGFPカセット)を用い、PCRジェノタイピングにより、NALP3欠損マウスのスクリーニングを行った。NALP3+/+およびNALP3−/−マクロファージから単離されたcDNAのRT−PCR分析により、NALP3が存在しないことを確認した。ASC欠損マウスはVishva Dixit (Genentech, San Francisco)の厚意による譲渡品であり、従前に記載の通りである11。カスパーゼ−1−欠損マウス(C57BL/6)はRichard Flavell (Yale University, School of Medecine)の厚意による譲渡品であり、MyD88欠損マウス(C57BL/6)はShizuo Akira (Research Institute of Microbial Diseases, Osaka University)から入手し、IL−1R(BALB/C)欠損マウスはManfred Kopf (ETH, Zurich)から入手した。本試験に用いる手順は米国ガイドラインに従った。
【0054】
マウスマクロファージの調製
示された遺伝子型の8〜12週齢マウスに4%チオグリコレート溶液を腹腔内注射し、3〜6日後に腹腔洗浄によりマクロファージを採取した。細胞を12穴ディッシュに7×105細胞の密度でプレーティングし、3時間後に非接着細胞を除去した。細胞を、10%FCS、ピルビン酸ナトリウム、ペニシリン/ストレプトマイシンおよびL−グルタミンを添加したRPMIで培養した。総ての細胞を上記のようにOptiMEM培地で刺激した。カスパーゼ−1はSanta Cruz Biotechnologyからの抗体(sc−514)を用い、ASCは従前に記載されている34ような抗体を用いて分析した。マウスIL−1βに対する抗体はRoberto Solari, Glaxoからの譲渡品であった。次のマウスELISAキットを用いた:TNFおよびIL−1βはR&D systems、IL−6はBD biosciences。
【0055】
in vivoマウス腹膜炎モデル
0.5ml無菌PBS中、MSU結晶またはチモサン(zymosan)を注射することにより腹膜炎を誘発した。6時間後、マウスをCO2曝露により安楽死させ、腹腔を10mlのPBSで洗浄した。洗液を、好中球マーカー Ly−6GおよびCD11b(BD Pharmingen)を用いるFACSにより、PMN動員に関して分析した。
【実施例】
【0056】
以下の実施例は特定の実施形態を示すことを意図するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0057】
実施例1
本実施例はMSUまたはCPPD結晶に応答したヒト起源(THP1)細胞の単球細胞系統による、および、ヒト単球による成熟IL−1βの産生について記載する。THP1細胞をMSU結晶とともにインキュベートし、10μg/mlといった少ない結晶で刺激した後にIL−1βの成熟を実際に検出した(図1a)。カスパーゼ−1活性化の既知の阻害剤であるzYVAD−fmkを添加すると、MSUによる誘発されるIL−1βの活性化が完全に遮断されたが、このことはプロIL−1β切断がカスパーゼ−1に依存することを示唆する(図1a)。偽痛風としても知られるピロリン酸カルシウム沈着疾患に関与する別の種類の病原結晶CPPDはMSUと同様の活性であった(図1b)。非炎症性アロプリノールまたはダイアモンド結晶およびチモサンやアルミニウム粉末などの特定の要素は、同様の大きさおよび/または化学組成であるにもかかわらず、プロIL−1βプロセシングを誘発することができない(図1c)ので、結晶により誘発されるIL−1βプロセシングはこれらの構造に特異的であった。インフラマソームの既知のアクチベーターに比べ、粗LPSおよびATP、MSUおよびCPPDはより活性が高かった11,13(図1c)。この優れた能力は、カスパーゼ−1の第二の既知基質であるプロIL−18のプロセシングを分析する場合に特に明白であった(図1c)。従前に本発明者らは、インフラマソームの活性化の後、炎症性カスパーゼが切断され、活性なIL−1βとともに放出されることを実証している13。このことは細胞をMSUおよびCPPDで処理した場合にも見られた(図1c,d)。結晶が介在するカスパーゼ−1の活性化はTHP1細胞系統の独特な特性であるということを排除するため、MSUおよびCPPDを精製ヒト単球に加えた。図1dに示されるように、一次細胞では両病原結晶に対する強い応答も惹起された。
【0058】
実施例2
本実施例は結晶により誘発される炎症におけるNALP3インフラマソームの直接的関与を示す。本発明者らは、インフラマソーム複合体または他のプロ炎症性経路の種々の鍵タンパク質を欠損したマウスに由来する腹腔マクロファージ(PMΦ)を分析した。ex vivoではPMΦ中のプロIL−1βは存在しない、かつ/または急速に分解されることを考えると、また、本発明者らはMSUまたはCPPDによりプロIL−1βの転写または翻訳の直接的誘発を認めることはできなかったので、サイトカインの合成を誘導するためPMΦ中のTLR4を純粋なLPSで刺激した11,13。ヒト単球における本発明者らのこれまでの知見と一致し、MSUまたはCPPDで刺激されたマウスPMΦはカスパーゼ−1を活性化し、成熟IL−1βを分泌した(図2a)。成熟はカスパーゼ−1欠損マウス由来のPMΦでは無効であり、この活性化の特異性が確認された。予測されたように、MyD88欠損PMΦは、それらのTLRシグナル伝達欠陥のために成熟IL−1βを産生せず、その結果、LPS予備刺激後にプロIL−1βを産生することができなかった(図2a)。それでもなお、MyD88−/−PMΦはカスパーゼ−1を活性化した(図2a)ので、さらに、この活性化はTLRに依存せず、インフラマソームの関与の可能性と一致することが示唆される13,15。ASCはNALPインフラマソーム複合体へのカスパーゼ−1の動員に必要とされる重要なアダプタータンパク質である12。ASC欠損PMΦは、MSU結晶およびCPPD結晶による刺激後に成熟IL−1βを産生しなかった(図2b)。
【0059】
ヒトゲノムは14種類のNALPのレパートリーを持っている。そのうちいくつがインフラマソームを形成するのかは現在のところ明らかでない。NALP3は単球とマクロファージの双方で発現し、ヒトおよびマウスでよく保存されている。本発明者らは、NALP3インフラマソームが結晶により誘発されるカスパーゼ−1の活性化に関与している可能性があると考えたことから、NALP3欠損マウスを作出した(図3)。ASC−/−マウス由来のPMΦと同様、MSUおよびCPPD曝露時にNALP3欠損PMΦではIL−1βの放出が損なわれた(図2c)。同様に、MSU曝露時のNALP3欠損マウスマクロファージではIL−1αの放出が損なわれたが、TNFαは損なわれなかった(図2d)。インフラマソームの他の既知の非微生物刺激であるATPによるIL−1βの誘導もNALP3に依存していた(図2c)。ATP受容体P2X7の遮断はATPにより駆動されるインフラマソームの活性化を阻害したが、それはMSUにより誘発される活性化には効果が無く、このことはこの2つのインフラマソーム活性化経路が独立に働いていることを示す(図4)。
【0060】
実施例3
本実施例は、MSUまたはCPPD結晶に応答したTNFの産生が、IL−1の分泌に依存することを示す。その活性がカスパーゼ−1の活性化に依存するサイトカインの他、MSUおよびCPPDもTNF−αなどの他のサイトカインを誘導することが知られており17,18、さらに、結晶のインフラマソームに依存しない活性が示唆されている。TNF−αの放出をアッセイした際、本発明者らは、TNF−αの産生が比較的緩慢で、IL−1βの放出が先行したことを認めた19(図5a)。従って、TNF−αの分泌は少なくとも部分的に、放出された成熟IL−1βにより開始される可能性があった。実際に、IL−1βの成熟をzYVAD−fmkで遮断したところ、TLR2アゴニストのチモサンによるTNF−α産生に影響を及ぼさずに、MSUおよびCPPDにより誘導されるTNF−αの産生が50%を超えて低下した(図5a)。同様に、IL−1シグナル伝達の天然阻害剤であるIL−1Raは、ヒト単球によるTNF−αおよびIL−6産生に有意に影響を及ぼした(図5b)。
【0061】
実施例4
本実施例は、MSU結晶またはCPPD結晶の接種によるIL−1β放出には無傷な細胞骨格が必要であること、およびコルヒチン(微小管の適正な集合を妨げる薬剤)はNALP3インフラマソームの活性化を阻害することを示す。関節内MSU注射前にコルヒチンで静脈内処理すると炎症が著しく低減するが23、このことはコルヒチンが炎症の初期段階を標的とすることを示唆している。従って、本発明者らは、結晶により誘発されるIL−1βの成熟にけるコルヒチンの役割を調べた。図6に示されるように、コルヒチン(その溶媒エタノールではない)で前処理すると、IL−1βのプロセシングが完全に遮断された。これに対し、コルヒチンは細胞外ATPによるIL−1βの活性化には影響を及ぼさず、この薬剤がインフラマソームの活性化の上流で働くことが示唆される。
【0062】
実施例5
本実施例は、痛風または偽痛風の治療のためのNALP3インフラマソームの形成を阻害する小分子化合物について記載する。多くの場合、多タンパク質構造の集合は、最終的なタンパク質多量体の個々の成分と熱ショックタンパク質などのシャペロンタンパク質との間の複合体の形成による。植物で行われている研究からも、NALPタンパク質と構造的に関連のある植物病害耐性タンパク質(Rタンパク質)の活性がHSP90クライアントタンパク質Sgt1により制御されることが知られている。この実験では、尿酸一ナトリウム(MSU)結晶で刺激されたヒト単球による成熟IL−1βの産生が培養培地に既知のHSP90阻害剤であるゲルダナマイシンを添加することにより排除されることが示された。また、ゲルダナマイシンはPGNおよびATPなどの他の刺激によって誘導されるIL−1βの産生も阻害した(図7)。同様に、ゲルダナマイシンの低毒性誘導体である17−AAGも、ATP(図8b)またはMSU結晶(図8c)により刺激されたマウスマクロファージによるIL−1βの産生をほぼ完全に阻害したが、TNFα産生の低下は50%未満であった(図8a)。また同様に、ゲルダナマイシンの水溶性誘導体である17−DMAGも、MSU結晶により刺激されたマウスマクロファージ(図8d)またはヒト血液単球(図8e)によるIL−1βの産生を阻害した。
【0063】
ゲルダナマイシンによるこの成熟IL−1β分泌の低下は、IL−1の転写レベル、インフラマソームの集合、インフラマソームの活性または成熟IL−1βの分泌における阻害作用によるものである可能性がある。ゲルダナマイシンがMSU刺激単球による成熟IL−1βの分泌をどのように妨げるかを解明するため(上記図7参照)、ゲルダナマイシン処理の後にNALP3の発現が損なわれたかどうか検討した。Sgt1発現はSgt1特異的siRNA処理により排除され、NALP3発現は維持されたことから、NALP3発現はSgt1の存在に依存しないことが示された。培養培地にゲルダナマイシンを添加すると、Sgt1の存在または不在にかかわらずにNALP3発現が排除された(図9)。これらの結果は、成熟IL−1βの分泌に対するゲルダナマイシンの阻害作用を説明する。
【0064】
これらの結果を合わせると、NALP3インフラマソームの集合に対する、それゆえ成熟IL−1βの分泌に対するゲルダナマイシンまたはその誘導体17−AAGおよび17−DMAGの作用が示される。これらの結果は、NALP3インフラマソームの形成を阻害する分子が痛風または偽痛風に治療に使用可能であるという考えを裏付けるものである。
【0065】
実施例6
本実施例は、インフラマソーム成分に欠損があるマウスにおける、MSU結晶に応答するin vivo炎症性浸潤物の減少について記載する。臨床上、痛風および偽痛風は、関節内および関節周囲の空間における好中球の著しい浸潤を伴う症状である関節の浮腫および紅斑に関連し、結果として激しい痛みを伴う。この顕著な好中球流入は、結晶の腹腔内注射によりマウスで実験的に再現することができる24。本発明者らは、結晶により誘発される炎症におけるインフラマソームのin vivoでの役割を検討するため、この十分確立されたモデルを用いた。MSU、CPPDまたはアロプリノール結晶を注射し、6時間後に好中球の腹腔動員を分析した。MSUおよびCPPDは双方とも、野生型C57BL/6マウスに注射した場合、PBSまたはアロプリノールに比べて好中球の動員の顕著な増加を誘発した(図10a)。重要なこととしては、病原結晶をカスパーゼ−1またはASC欠損マウスに注射した場合には好中球流入が60%低下したことであり(図10bおよびc)、このことはこのプロセスにおけるインフラマソームおよびIL−1βの主要な役割を示唆している。特に、ASC欠損マウスでは、チモサンにより誘発される好中球流入は影響を受けなかった(図10c)。
【0066】
実施例7
本実施例は、マウスモデルにおいてIL−1Rの関与/誘発が痛風症状に決定的な役割を果たしていることを示す。WTまたはIL−1RI欠損マウスの腹腔にMSU結晶、またはIL−1RIに対する遮断型モノクローナル抗体と、もしくはIL−1Ra(アナキンラ,Kineret)と組み合わせて、またはIL−1αおよびIL−1βに対する遮断型モノクローナル抗体と組み合わせて注射することにより、無菌性腹膜炎を誘発した。注射6時間後に炎症性細胞の動員を測定した。IL−1R欠損マウスは、MSUおよびCPPDは後の好中球の動員の完全な低下を示した(図11)。同系列の証拠として、KineretまたはIL−1RIに対するモノクローナル抗体またはIL−1αおよびIL−1βに対するモノクローナル抗体を投与すると、好中球流入がほぼ完全に妨げられた(図12)。これに対し、IL−1R欠損マウスでは、チモサンにより誘発される好中球流入は影響を受けなかった(図11)。
【0067】
実施例8
この実施例は、マウスモデルにおいて、TNFの遮断は痛風の臨床症状を緩和しないことを示す。マウスの腹腔にMSU結晶を、TNFαに対する遮断型モノクローナル抗体とともに、または伴わずに、あるいはIL−Ra(アナキンラ,Kineret)とともに注射することにより無菌性腹膜炎を誘発した。注射6時間後に炎症性細胞の動員を測定した。図13に示されるように、TNFαに対する遮断型モノクローナル抗体を投与しても好中球流入は低下せず、Kineretの場合は低下した。
【0068】
実施例9
本実施例は、マウスモデルにおいて、水溶性で経口投与可能なHSP90阻害剤である17−DMAGを投与すると、痛風の臨床症状が緩和されることを示す。BALB/Cマウスの腹腔にMSU結晶を単独または25mg/kgの17−DMAGと組み合わせて注射することにより無菌性腹膜炎を誘発した。注射6時間後に炎症性細胞の動員を測定した。図14に示されるように、17−DMAGを投与すると、MSUに応答する好中球流入が低下した。
【0069】
実施例10
本実施例は、急性痛風患者においてIL−1の阻害により痛風の臨床症状が改善されることを示す。痛風であることが分かっている4名の患者をアナキンラ(Kineret)で処置した。
【0070】
症例1
慢性結節性痛風病歴13年の72歳の女性に対し、組換えウリカーゼによる治療の評価を行った。これまでにこの患者はアロプリノールに対して重篤な皮膚反応を示し、ベンズブロマゾンによる尿酸排泄処置は腎臓結石を招いた。これまでの痛風発作の際には、医学的治療は満足のいくものではなかった。高用量では胃腸管出血事例1回を含む胃腸管副作用が引き起こされたため、この患者には低用量のジクロフェナク(50〜100mg/日)にしか耐性がない可能性があった。コルヒチン1mg/日では耐え難い下痢が起こり、経口コルチコステロイドでは激しい腹痛が生じた。ウリカーゼ治療(5日間、毎日14mg iv)を開始すると尿酸レベルの急速な低下が見られた。治療4日目、手足の関節に関節炎が発症した。過去の発作時にジクロフェナクで処置しても症状の緩和に1週間以上かかったことから、アナキンラ治療が提案された。アナキンラを2日間、1日100mg投与した。患者の関節炎はすぐに応答し、48時間で関節痛は急速に軽減された。この患者はウリカーゼの方針を継続することができた。その後2か月は急な発作は見られなかった。
【0071】
症例2
慢性結節性痛風病歴8年の70歳の男性に対し、尿酸値低下治療を評価した。過去の病歴としては、うっ血性心不全、重篤な虚血性心疾患、高血圧症および腎不全(血清クレアチニン202μmol/L、正常範囲44〜80μmol/L)があった。それまでのアロプリノール治療の試みは、初回投与後に急性痛風が発症し、これは低用量NSAIDに応答しなかったことから棄却された。高用量NSAIDは腎不全のために禁忌であった。低用量コルヒチン(<1mg/日)はすぐに下痢を引き起こした。この患者に再び低用量アロプリノール(100mg)を開始したが、初回の投与後に右足および足首に急性関節炎が発症した。アナキンラ1日100mgを3日間投与したところ、関節炎の徴候および症状が急速に軽減された。この患者のアロプリノール1日100mgを続け、1か月後の追跡調査時には、同じ用量のアロプリノールを続けているにもかかわらず、さらなる発作は見られなかった。
【0072】
症例3
糖尿病、高血圧症、腎不全および虚血性心疾患の病歴を持つ72歳の男性は多関節性痛風を呈していた。関節炎は膝、右足首および右足根骨関節を含んでいた。膝関節穿刺液にはMSU結晶が検出され、この液体は炎症性であった(白血球総数22.5G/L、98%多形核)。腎不全とコルヒチンによる直腸出血歴のため、経口プレドニゾン1日30mgによる治療を7日間漸減用量で開始した。ステロイドであるにもかかわらず、関節炎は続き、患者は歩行できなかった。ステロイドを中断した後、アナキンラの3日コースを患者に行ったところ、2日までに関節炎の完全緩解が見られた。1か月後の追跡調査時には関節炎の再発は見られなかった。
【0073】
症例4
主として右足首と親指を含む多関節性痛風病歴20年の50歳の男性は、ますます頻発する痛風発作のために医学的助言を求めていた。この患者はアロプリノールを始めていたが、それが関節炎の発作を誘発するために治療の継続はできなかった。NSAIDは重篤な胃腸管疼痛を引き起こし、コルヒチン1日1mgは効果がなかった。高用量コルヒチンは下痢を起こした。診察時、この患者には右足首の関節に関節炎を有し、関節穿刺液でMSU結晶が確認された。アロプリノール(300mg/日)の開始と同時にアナキンラの試みを開始した。この患者の関節炎は急速に応答し、アロプリノールを継続した。この患者は2か月後、無症候であった。
【参照文献】
【0074】
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】尿酸一ナトリウム結晶(MSU)およびピロリン酸カルシウム二水和物(CPPD)はIL−1βの切断および放出を活性化する。 a−c,THP1細胞を示された量/mlのMSU結晶(a)、CPPD(b)または示されるように50μg/mlの純粋なLPS、MSU、アロプリノール結晶、CPPD結晶、ダイアモンド結晶、アルミニウム粒子、チモサン、LPSの粗調製物、または5mMの細胞外ATP(c)で6時間刺激した。上清(SN)を成熟IL−1β、IL−18またはカスパーゼ−1の存在に関して分析し、細胞抽出物(Cell)をプロIL−1βおよびプロIL−18の存在に関して分析した。d,ヒト単球を50μg/mlの示された結晶で6時間刺激し、ウエスタンブロットでIL−1β活性化に関して、またはELISAで放出されたカスパーゼ−1およびIL−1βに関して分析した。
【図2】NALP3インフラマソームはIL−1αおよびβの成熟に必要である。 前駆体プロIL−1βの合成を誘導するために、野生型(+/+)、カスパーゼ−1(Casp1)またはMyD88欠損マウス(a)、ASC欠損マウスまたは同腹子対照(b)、およびNALP3欠損マウスまたは同腹子対照(c)由来のマウスマクロファージを示されたように超純粋LPS(1μg/ml,AlexisまたはInvivogen)の存在下を刺激した。(c)では、超純粋LPSを刺激の1時間前に加えた。上清(SN)または細胞抽出物(Cell)を示されたようにウエスタンブロットで分析し、(d)WTまたはNALP3 KO由来のマクロファージをLPSでプライミングした後、MSU結晶で活性化した。SNをIL1に関して試験し、ELISAでTNF含量を調べた。
【図3】マウスNALP3遺伝子の破壊のための遺伝子ターゲティング戦略 a,EGFPカセットをエキソン2のATGと同一フレーム内に挿入した。このEGFPカセットの後にSV40ポリ(A)テールを続けると、NALP3遺伝子が破壊された。2つのloxP部位によりフランキングされた選択カセットPGK−neoをイントロン2に挿入した。このneoカセットを、このマウスとCre発現欠失系統(C57BL/6)と戻し交雑することにより欠失させた。b,KO、WTおよびヘテロ接合マウスのPCRジェノタイピング。
【図4】尿酸一ナトリウム結晶(MSU)が媒介するIL−1βの活性化はATP−受容体P2X7と独立に起こる。 THP1細胞をP2Xアンタゴニストであるピリドキサール−ホスフェート−6−アゾフェニル−2’,4’−ジスルホン酸(PPADS,Alexis)で30分間前処理した後、MSU結晶(50μg/ml)で6時間刺激した。上清(SN)を成熟IL−1βの存在に関して分析し、細胞抽出物(Cell)をプロIL−1βの存在に関して分析した。
【図5】IL−1βの成熟はMSUおよびCPPD刺激後すぐに起こる事象である。 a,THP1細胞をカスパーゼ−1阻害剤zYVAD−fmkの存在下または不在下で示された時間、MSU、CPPDまたはチモサン(Zym)で刺激した。上清をELISAによりTNF−α(グレーのバー)およびIL−1β(黒いバー)産生に関して分析した。b,ヒト単球を2種類の濃度のIL−1Raの存在下でMSUまたはCPPDとともにインキュベートした。TNF−αおよびIL−6の産生をELISAでモニタリングした。
【図6】IL−1βの成熟はコルヒチンにより遮断される。 THP1細胞をコルヒチン(colch)の存在下または不在下で、MSU、CPPDまたはATPで刺激した。IL−1βの成熟をウエスタンブロットで分析した。
【図7】一次マクロファージにおけるIL−1βの成熟はゲルダナマイシンにより遮断される。 ヒト一次単球を一晩200nMゲルダナマイシン(GA)で処理した後、MSU(100μg/ml)、PGN(50μg/ml)または5mM(ATP)で6時間刺激した。上清を採取し、IL−1βプロセシングに関して評価した。
【図8】尿酸一ナトリウム結晶で刺激したマウス腹腔浸出細胞およびヒト血液単球によるIL−1β産生に対する17−AAGおよび17−DMAGの作用 BALB/Cマウスにチオグリコレート4%溶液を腹膜内注射した。6日後、腹腔をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄することにより腹腔浸出細胞(PEC)を採取した。細胞を組織培養12穴プレートの穴に分注した(106細胞/穴)。非接着細胞を洗浄し、接着細胞を200nMの17−AAG(Invivogen)の存在下または不在下、1μg/mlのUltrapure LPS(Invivogen)で処理した。(a)一晩培養した後、上清を採取し、ELISAによるTNFの測定に用いた。(b,c)新鮮培地を2mMのATPまたは100μg/ml MSUの存在下または不在下の細胞に加えた。5時間後、上清を採取し、IL−1βをELISAにより測定した。(d)マウス腹腔マクロファージを50nMの17−DMAG(Invivogen)の存在下または不在下、500ng/mlのUltrapure LPS(Invivogen)で処理した。2時間後、細胞を500μg/ml MSUで刺激した。4時間後、上清を採取し、IL−1βをELISAにより測定した。(e)ヒト血液単球を段階的用量の17−DMAG(Invivogen)の存在下または不在下、1μg/mlのUltrapure LPS(Invivogen)で処理した。一晩培養した後、細胞を100μg/ml MSUで刺激した。6時間後、上清を採取し、IL−1βをELISAにより測定した。
【図9】ゲルダナマイシン処理時のNALP3の分解 Flagタグの付いたNALP3 T−rex細胞をSgt1に対するsiRNAまたはスクランブルsiRNAでトランスフェクトした。トランスフェクション48時間後、NALP3をドキシサイクリンで誘導した。細胞をゲルダナマイシン1μMで8時間処理した。細胞溶解液中のNALP3の分解をウエスタンブロットで分析した。
【図10】結晶により媒介される腹膜炎のマウスモデルにおけるインフラマソームの役割 (a−c)示された野生型または変異型マウスに0.5ml i.p.の無菌PBS単独、または1mgの示された結晶もしくは0.2mgのチモサンを添加したものを投与した。6時間後に好中球流入を定量した(値は各群n=4〜6マウスの±S.E.Mである)。片側スチューデントのt検定を用いてp値を算出した。
【図11】マウスモデルにおいてIL−1R結合/惹起は痛風症状に決定的役割を果たす。 示された野生型または変異型マウスに0.5ml i.p.の無菌PBS単独、または1mgの示された結晶もしくは0.2mgのチモサンを添加したものを投与した。6時間後に好中球流入を定量した(値は各群n=4〜6マウスの±S.E.Mである)。片側スチューデントのt検定を用いてp値を算出した。
【図12】マウスにおける尿酸一ナトリウム結晶により誘発される炎症に対するアナキンラ(Kineret)および抗IL−1受容体1型(IL−1RI)モノクローナル抗体の作用 雌C57BL/6マウスに、500μg尿酸一ナトリウム結晶(MSU)とPBS、200μgアナキンラ(Kineret, Amgen Inc., Thousand Oaks, USA)、200μg抗IL−1 RIモノクローナル抗体(BD Pharmingen, San Jose, USA)、200μg抗IL−1αモノクローナル抗体(Biolegend, San Diego, USA)、200μg抗IL−1βモノクローナル抗体(Biolegend, San Diego, USA)、または200μg抗IL−1αモノクローナル抗体と200μg抗IL−1βモノクローナル抗体の組合せを注射することにより無菌性腹膜炎を誘発した。6時間後、マウスを屠殺し、腹腔を10mlの冷PBSで洗浄した。好中球マーカーCD11bおよびGr1(Ly−6G)を用いるFACSにより、この洗液を好中球動員に関して分析した。値は各群4〜5匹の好中球総数の±s.e.m.である。片側スチューデントのt検定を用いてp値を算出した。
【図13】抗TNFαモノクローナル抗体による、MSUにより誘発される好中球動員の阻害は見られない。 雌BALB/Cマウスに、500μg尿酸一ナトリウム結晶(MSU)とPBS、200μgアナキンラ(Kineret, Amgen Inc., Thousand Oaks, USA)または200μg抗TNFαモノクローナル抗体(BD Pharmingen, San Jose, USA)を注射することにより無菌性腹膜炎を誘発した。6時間後、マウスを屠殺し、腹腔を10mlの冷PBSで洗浄した。好中球マーカーCD11bおよびGr1(Ly−6G)を用いるFACSにより、この洗液を好中球動員に関して分析した。値は各群4〜5匹の好中球総数の±s.e.m.である。片側スチューデントのt検定を用いてp値を算出した。
【図14】マウスにおける尿酸一ナトリウム結晶により誘発される炎症に対するゲルダナマイシンの水溶性類似体である17−DMAGの作用 雌BALB/CマウスをNaCl 0.9%または25mg/kg 17−DMAGで腹膜内処理した。1時間後、500μg尿酸一ナトリウム結晶(MSU)を注射することにより無菌性腹膜炎を誘発した。5時間後、マウスを屠殺し、腹腔を10mlの冷PBSで洗浄した。好中球マーカーCD11bおよびGr1(Ly−6G)を用いるFACSにより、この洗液を好中球動員に関して分析した。値は各群5匹の好中球総数の±s.e.m.である。片側スチューデントのt検定を用いてp値を算出した。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3a】
【図3b】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
痛風または偽痛風の治療に用いられる薬剤の製造のための、IL−I、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤の使用。
【請求項2】
IL−Iが、IL−1αおよびIL−1βからなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
NALP3インフラマソームによるIL−1の成熟を遮断する阻害剤が、NALP3インフラマソーム形成の阻害剤およびNALP3インフラマソーム活性の阻害剤からなる群から選択される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
NALP3インフラマソーム形成の阻害剤が、HSP90の阻害剤である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
HSP90の阻害剤が、ゲルダナマイシン、17−AAG(17−(アリルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン)および17−DMAG(17−(ジメチルアミノエチルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン)からなる群から選択される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
IL−1を遮断する阻害剤が、IL−1の活性を阻害する抗体から選択される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項7】
抗IL−1抗体が、モノクローナル抗体である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
IL−1を遮断する阻害剤が、IL−1とその受容体(IL−1R I型)との結合を阻害する抗体から選択される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項9】
抗体が、抗IL−1RI抗体である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
抗IL−1RI抗体が、モノクローナル抗体である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
IL−1を遮断する阻害剤が、IL−1受容体アンタゴニスト(IL−1 Ra)である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項12】
IL−1Raが、アナキンラである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤が、1日1回、IL−1活性を阻害するのに十分な用量で投与される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤が、1週間に1回、IL−1活性を阻害するのに十分な用量で投与される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤が、1か月に1回、IL−1活性を阻害するのに十分な用量で投与される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
アナキンラが、1日1回、100mg/日の用量で1、2または3日間投与される、請求項12に記載の使用。
【請求項17】
IL−1、またはNALP3によるその成熟を遮断する阻害剤が、少なくとも1種の第二の抗痛風化合物と併用される、請求項1〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
第二の抗痛風化合物が、コルヒチン、アロプリノールおよびウリカーゼからなる群から選択される、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤が、少なくとも1種の抗炎症性化合物または組成物と併用される、請求項1〜18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
抗炎症性化合物または組成物が、プレドニゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、コルチバゾール、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、インドメタシン、スリンダック、チアプロフェン酸、アルミノプロフェン、ジクロフェナク、エトドラック、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナブメトン、ナプロキセン、メロキシカム、ピロキシカム、テノキシカム、セレコキシブおよびレフェコキシブからなる群から選択される、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
炎症性障害の治療に用いられる薬剤の製造のための、HSP90の阻害剤の使用。
【請求項22】
HSP90の阻害剤が、ゲルダナマイシン、17−AAG(17−(アリルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン)および17−DMAG(17−(ジメチルアミノエチルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン)からなる群から選択される、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
炎症性障害が、痛風、偽痛風、マックル・ウェルズ症候群、遺伝性周期性発熱、家族性地中海熱、家族性寒冷誘導自己炎症症候群、ブラウ症候群、関節リウマチ、変形性関節症、全身型若年性特発性関節炎、乾癬、狼瘡、多発性硬化症、喘息、慢性閉塞性肺疾患、炎症性腸疾患、クローン病、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病などの自己免疫および自己炎症性疾患からなる群から選択される、請求項21または22に記載の使用。
【請求項1】
痛風または偽痛風の治療に用いられる薬剤の製造のための、IL−I、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤の使用。
【請求項2】
IL−Iが、IL−1αおよびIL−1βからなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
NALP3インフラマソームによるIL−1の成熟を遮断する阻害剤が、NALP3インフラマソーム形成の阻害剤およびNALP3インフラマソーム活性の阻害剤からなる群から選択される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
NALP3インフラマソーム形成の阻害剤が、HSP90の阻害剤である、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
HSP90の阻害剤が、ゲルダナマイシン、17−AAG(17−(アリルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン)および17−DMAG(17−(ジメチルアミノエチルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン)からなる群から選択される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
IL−1を遮断する阻害剤が、IL−1の活性を阻害する抗体から選択される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項7】
抗IL−1抗体が、モノクローナル抗体である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
IL−1を遮断する阻害剤が、IL−1とその受容体(IL−1R I型)との結合を阻害する抗体から選択される、請求項1または2に記載の使用。
【請求項9】
抗体が、抗IL−1RI抗体である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
抗IL−1RI抗体が、モノクローナル抗体である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
IL−1を遮断する阻害剤が、IL−1受容体アンタゴニスト(IL−1 Ra)である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項12】
IL−1Raが、アナキンラである、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤が、1日1回、IL−1活性を阻害するのに十分な用量で投与される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤が、1週間に1回、IL−1活性を阻害するのに十分な用量で投与される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤が、1か月に1回、IL−1活性を阻害するのに十分な用量で投与される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
アナキンラが、1日1回、100mg/日の用量で1、2または3日間投与される、請求項12に記載の使用。
【請求項17】
IL−1、またはNALP3によるその成熟を遮断する阻害剤が、少なくとも1種の第二の抗痛風化合物と併用される、請求項1〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
第二の抗痛風化合物が、コルヒチン、アロプリノールおよびウリカーゼからなる群から選択される、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
IL−1、またはNALP3インフラマソームによるその成熟を遮断する阻害剤が、少なくとも1種の抗炎症性化合物または組成物と併用される、請求項1〜18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
抗炎症性化合物または組成物が、プレドニゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、コルチバゾール、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、インドメタシン、スリンダック、チアプロフェン酸、アルミノプロフェン、ジクロフェナク、エトドラック、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナブメトン、ナプロキセン、メロキシカム、ピロキシカム、テノキシカム、セレコキシブおよびレフェコキシブからなる群から選択される、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
炎症性障害の治療に用いられる薬剤の製造のための、HSP90の阻害剤の使用。
【請求項22】
HSP90の阻害剤が、ゲルダナマイシン、17−AAG(17−(アリルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン)および17−DMAG(17−(ジメチルアミノエチルアミノ)−17−デメトキシゲルダナマイシン)からなる群から選択される、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
炎症性障害が、痛風、偽痛風、マックル・ウェルズ症候群、遺伝性周期性発熱、家族性地中海熱、家族性寒冷誘導自己炎症症候群、ブラウ症候群、関節リウマチ、変形性関節症、全身型若年性特発性関節炎、乾癬、狼瘡、多発性硬化症、喘息、慢性閉塞性肺疾患、炎症性腸疾患、クローン病、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病などの自己免疫および自己炎症性疾患からなる群から選択される、請求項21または22に記載の使用。
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図8e】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図8d】
【図8e】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2009−522339(P2009−522339A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549020(P2008−549020)
【出願日】平成19年1月8日(2007.1.8)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050143
【国際公開番号】WO2007/077261
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(508204490)トポターゲット、スウィッツァランド、ソシエテ、アノニム (2)
【氏名又は名称原語表記】TOPOTARGET SWITZERLAND SA
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月8日(2007.1.8)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050143
【国際公開番号】WO2007/077261
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(508204490)トポターゲット、スウィッツァランド、ソシエテ、アノニム (2)
【氏名又は名称原語表記】TOPOTARGET SWITZERLAND SA
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]