説明

癌およびその他の疾患の予防および治療

ヌクレオシド化合物であって、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)の特定の構造と相互作用するものを開示する。該化合物はテロメラーゼおよび逆転写酵素の活性に干渉し、抗ウイルス剤、抗菌剤、および抗癌剤として有用である。患者において癌を治療または予防する方法であって、該患者の細胞内で発現される逆転写酵素(RT)のインヒビターまたはアンタゴニストを有する組成物の治療上有効な量の投与を含む該方法も開示される。種々の癌の治療のために、ヌクレオシド類似体およびその他のRTのインヒビターを、遺伝子毒性薬剤等のDNA損傷薬剤または放射線療法もしくは光線力学的療法あるいはそれらの組み合わせと共に用いる方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年3月14日出願の米国特許仮出願第60/782,559号、2006年5月18日出願の米国特許仮出願第60/801,693号、および2006年11月21日出願の米国特許仮出願第60/860,518号の優先権を主張するもので、2006年5月18日出願のPCT/US2006/019488の一部継続出願であり、出願第60/782,559号、第60/801,693号、第60/860,518号、およびPCT/US2006/019488の本文はその全体を本明細書中に参照により組み入れる。
【0002】
本発明は癌治療の分野に関し、特に、癌細胞の成長の阻害のための逆転写酵素(RT)のインヒビターと、癌の治療と予防とを組み合わせて用いる方法に関する。本発明はまた、種々の癌の治療のための、ヌクレオシド類似体およびその他のRTのインヒビターを、DNA損傷剤、例えば遺伝子毒性剤もしくは放射線療法もしくは光線力学療法と共に用いる方法、またはそれらの組み合わせを用いる方法にも関する。本発明はまた、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)の特定の構造と相互作用する新規のヌクレオシド化合物にも関する。より具体的には、本発明の化合物はテロメラーゼと逆転写酵素の活性に干渉し、抗ウイルス剤、抗寄生虫剤、抗菌剤、および抗癌剤として有用である。
【背景技術】
【0003】
細胞分裂(増殖)はほぼ全ての組織内で多くの状況下で起こる生理学的プロセスである。細胞サイクルの進行は、タンパク質パートナリングによってメディエートされるキナーゼ、ホスファターゼ、阻害性タンパク質ならびにポジティブにおよびネガティブに作用するリン酸化を組み合わせた作用によって調節されている。細胞サイクルの進行は、細胞が次のステップへと進んでいく前にその前のステップを成功裡に完了したか否かを決定するチェックポイントによって特徴付けられる。多くの細胞ではその細胞が死に至るまでに行われる細胞分裂の回数は固定されている(約50回)。PCT出願公開WO2005/069880では、細胞がどのように死滅段階(M1およびM2)に入っていき、またどのような状況下ではいくらかの細胞がその死滅段階を逃れ、テロメアの保持を通じて制御しえない状態で急速に分裂する能力を維持するのかについて、述べられている。
【0004】
細胞の増殖が制御されずしばしば急速なものとなると、腫瘍の形成(良性または悪性)をもたらしうる。良性腫瘍は生体の別の部分に拡散したり、他の組織に侵入することはなく、腫瘍細胞が生体の構造を圧迫したり、生理学的に活動性(例えば、エストロゲンなどのホルモンを産生するなど)であったりしない限りは、生命を脅かすことはまれである。悪性腫瘍は他の臓器に侵入し、遠く離れた位置に拡散し(転移)、生命を脅かすものとなりうる。悪性腫瘍を形成することのできる細胞は、その分裂能が制御しえない状態となり(すなわち、それらの細胞は不死状態となり)、健康な組織、さらには良性の腫瘍と比較しても、その分裂の速度が増大していることが多い。従って、癌治療は悪性の細胞を排除することに焦点を当てていることが多い。
【0005】
伝統的には、多くの癌治療法の有効性は、化学療法で誘発される、および/または放射線照射で誘発されるDNAの損傷に由来する細胞傷害性から生じていると考えられてきた。そのようなDNAの損傷がアポトーシスの応答を引き起こすものと考えられていた。例えば、カペシタビン(Xeloda(登録商標)とも呼ばれている)およびアントラサイクリン系のダウノルビシン(DNRとも呼ばれている)療法は、薬剤によって誘発されるDNAの損傷の結果として細胞傷害性を誘発するものと考えられてきた。
【0006】
近年、テロメアの保持に干渉して癌細胞の細胞サイクルアレストとアポトーシスを生じさせる、より標的を定めたアプローチが確立された。短くなったテロメアのテロメラーゼによる伸長は、ヒト癌細胞内でのテロメアの保持のよく知られた機作である。テロメラーゼはテロメアDNAを維持し、腫瘍細胞の不死性に極めて重要な役割を果たしている。ヒトテロメラーゼは、正常な体細胞中では抑制されているかまたは一過性に活動的になり、テロメアは何十年もかけて徐々に短くなる。多くの癌ではテロメアは(短くはあるが)テロメラーゼによって維持されていることが報告されている。テロメラーゼの活性化と腫瘍の進行との相関性が示されている。このことから、当業者は、テロメラーゼの阻害を癌治療の見込みのあるアプローチとして考えるようになった。しかし、様々なタイプのヒトの腫瘍の30%までもがテロメラーゼを発現していない。テロメラーゼでメディエートされるものではないテロメアの維持またはテロメアの代替的な伸長が、様々なタイプのヒト腫瘍の30%、腫瘍由来の細胞系統、およびin vitroで不死化させた細胞系統にも見られることが報告されており(Bryanら, Nat. Med. 3:1271-1274, 1007;Reddelら, Radiat. Res. 155:194-200, 2001;Bryanら, Eur.J.Cancer 33:767-773, 1997;Bryanら, EMBO J. 14:42404248, 1995)、また何種類かの腫瘍のサブセットおよび不死化細胞系統では50%にもおよぶことが報告されている(Guptaら, J. Natl. Cancer Inst. 88:1152-1157, 1996)。
【0007】
PCT出願公開WO 2005/069880ではある種のヌクレオシド類似体がテロメラーゼ陰性の癌細胞においてアポトーシスを誘導しうることを報告している。たとえば、U-2 OSおよびSaos-2 骨肉腫細胞を治療濃度のAZTまたはガンシクロビル(GCV)で処理すると、これらのヌクレオシド類似体は、処理の14日後にこれらの癌細胞でテロメアの短縮、G2アレスト、および多量のアポトーシスを誘導した。同様に、米国特許第6,723,712号は、癌治療に用いるためのある種のヌクレオシド類似体について報告している。特にこの特許では抗ウイルス作用のあるヌクレオシドリン酸類似体のシドフォビルと、放射線照射との組み合わせを、ヒトの癌治療への1つのアプローチとして行うことを報告している。とりわけこの特許では、Ramos(リンパ腫)HTB31細胞およびSCC97(癌)細胞を放射線照射単独とシドフォビル単独で処理すると、放射線単独およびシドフォビル単独の双方とも弱い増殖遅延を誘導したが、これら2つを同時に行うと、対象とした腫瘍細胞に劇的な増殖遅延を誘導することを報告している。さらに、Sciamannaら, 2005, Oncogene 24:3923は動物実験で、内在性の逆転写酵素(RT)またはテロメラーゼでないRTは細胞増殖のエピジェネティックな(後成的な)レギュレーターとなりうるものであり、in vivoでのRT活性の阻害は腫瘍増殖をアンタゴナイズする、と報告している。
【0008】
これらの報告は癌細胞増殖を阻害しようとする治療法が徐々に進化していることを示唆している。しかし、現在の治療法で最も良いものであっても有効性が必ずしも十分でない、および/または治療後に無効となる頻度が高く、また、著しい副作用を伴うことが多いので、改良された癌治療法は常に探し求められてきた。合成ヌクレオシド類似体は治療上有用であることが知られており、特に、抗ウイルス剤、抗生物質、および抗癌剤として有用であることが知られている。これらのヌクレオシド類似体の多くは販売されている。しかし、医薬品化学の研究が詳細に行われているにもかかわらず、化学療法では病原体の耐性が増大し、ヌクレオシドの重篤な副作用がよく見られることから、多種多様なヌクレオシド類似体の必要性が重要視されている。特に、癌細胞の異常な増殖能を含む細胞の異常増殖を十分に制御し癌の治癒を行いうる方法と作用物に対する必要性は依然として存在している。
【発明の開示】
【0009】
本発明はこのような必要性を異常な細胞増殖を特徴とする症状を治療するための方法と関連化合物の特定の組み合わせを提供することによって満たそうとするものであり、そのような異常な細胞増殖としては、限定はされないが、癌および転移が含まれる。
【0010】
本発明はまた、酵素的核酸合成/伸長反応の連鎖の終結剤として有用な新規の非環状ヌクレオシド類似体をも開示する。
【0011】
本発明は、部分的には、複数のテロメア維持メカニズム(TMM)の同時阻害が、癌細胞における進行性のテロメアの短縮と細胞サイクルのG2/M期でのアレストをもたらし、それによって細胞の増殖能を制限する、との発見に基づいたものである。そのような同時阻害のない場合には、細胞は1つのテロメア維持メカニズムから別のメカニズムへとスイッチすることによって異常な増殖を続けていくことも示されている。テロメア維持メカニズムを同時阻害するためには、化合物の組み合わせ(いくつかの逆転写酵素のインヒビター)が用いられる。さらに、本発明の発明者は複数のTMMの同時阻害が癌細胞を全ての種類のDNA損傷療法(例えば、遺伝子毒性化学療法、放射線療法、光線力学療法など)に対してより感受性を高めることをも見出した。より具体的には、テロメアの維持を阻害することは、癌細胞でテロメアの短縮とG2/M期アレストをもたらすが、それは細胞の異常増殖を制限するのみならず、癌細胞がおそらくG2/M期アレストによってそのような薬剤に対して最も感受性が高くなるのでDNA損傷剤の有効性をも高めることが見出されている。
【0012】
1態様においては、本発明は、異常な哺乳類細胞の増殖を特徴とする症状を有する被験者を治療するための方法を提供する。その方法は、そのような治療を必要としている被験者に、テロメア維持に影響を及ぼす(すなわちテロメアを短縮する)化合物の組み合わせをその増殖を阻害するために有効な量投与することを含んでなり、その組み合わせとは2剤の(ダブル)カクテル組み合わせまたは3剤の(トリプル)カクテル組み合わせである。
【0013】
1実施形態では、該被験者は、化合物の特定のカクテルを、全身性の毒性、特に他のDNA損傷剤の使用によって生ずる毒性の可能性を最小限に止めつつ、原発性腫瘍の増殖を阻害するような、または転移による拡散もしくは増殖を阻害するような方法および量を用いて治療される。特定の実施形態においては、異常な哺乳類細胞の増殖は腫瘍として現れる。本発明の方法によって治療することを意図しているいくつかの状態としては、良性(すなわち癌でない)、前癌状態、および悪性(すなわち、癌)の腫瘍が挙げられる。いくつかの実施形態においては、異常な哺乳類細胞の増殖を特徴とするそのような症状はさらに、そのような細胞と対をなす正常細胞で連続的な細胞分裂を経てきたものと比較すると長いテロメアを有する細胞が存在することが特徴である。
【0014】
別の実施形態においては、異常な哺乳類細胞の増殖を、癌、肉腫、および悪性黒色腫と診断される症状とすることができる。別の実施形態においては、そのような症状とは、結腸直腸癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、腎癌、黒色腫、および線維肉腫である。またさらに別の実施形態においては、そのような症状とは、骨や結合組織の肉腫に関連する症状とすることができ、そのような症状の例としては、限定はされないが、骨肉腫および線維肉腫が挙げられる。
【0015】
いくつかの他の実施形態においては、そのような異常な哺乳類細胞の増殖は上皮細胞で起こる。異常な哺乳類の上皮細胞の増殖を特徴とするいくつかの症状としては、上皮組織の腺腫、例えば乳房、結腸、および前立腺の腺腫、ならびに悪性腫瘍が挙げられる。本発明の他の実施形態では、上皮由来の転移を有する被験者を治療するための方法が提供される。
【0016】
上述のとおり、治療されることとなる被験者は異常な哺乳類細胞増殖を特徴とする症状、または癌を有する被験者である。しかし、特定の実施形態においては、該被験者は異常な哺乳類細胞増殖や癌を持ってはいないが、そのような状態を発症する可能性が高く(特定の生物マーカーまたは遺伝的欠損に基づいて)、そのためテロメアの短縮およびG2/M期アレストのために化合物の組み合わせを用いた治療を必要としている被験者である。
【0017】
本発明の別の1態様においては、テロメアの維持に影響を及ぼしうる化合物の組み合わせを、1種以上のDNA損傷剤、例えば遺伝子毒性化学療法剤などと組み合わせて投与する方法が提供される。別の1実施形態においては、DNA損傷剤とともに、またはそれを伴わずに、化合物の組み合わせが、異常増殖を示している細胞塊を除去するための手術と組み合わせて投与される。関連する1実施形態においては、DNA損傷剤とともに、またはそれを伴わずに、化合物の組み合わせが、異常増殖を示している細胞塊を除去するための手術を受けた患者に投与される。
【0018】
いくつかの実施形態においては、該異常哺乳類細胞増殖は腫瘍として現れる。別の1実施形態においては、該異常哺乳類細胞増殖は、癌、肉腫、および悪性黒色腫からなる群から選択されたものである。また別の1実施形態においては、異常哺乳類細胞増殖を特徴とする症状は転移である。別の実施形態においては、該症状は、乳癌、結腸直腸癌、卵巣癌、前立腺癌、膵臓癌、腎癌、肺癌、黒色腫、および線維肉腫からなる群から選択されたものである。別の1実施形態においては、該異常哺乳類細胞増殖は上皮細胞で起こり、そのことは上皮細胞が異常に増殖していることを意味する。
【0019】
該化合物の組み合わせまたはそれらの組成物は全て全身的に投与することができ、その際の投与経路は、例えば、限定はされないが、経口、静脈内、筋肉内、および腹腔内投与とすることができる。しかし、場合によっては、3種類の異なる化合物を含有している組み合わせで、2種類を全身的に投与し、3番目の薬剤を他の投与経路で投与することができる。例えば、被験者が転移性の病変を有する場合には、全身投与経路が好ましい。
【0020】
所与の組み合わせの化合物のいくつかまたは全てを、局所的に投与することもできる。いくつかの実施形態においては、該化合物または該化合物を含有している組成物は腫瘍を標的としている。このことは特別な投与様式によって達成することができる。例えば、乳腺腫瘍や前立腺腫瘍などの容易に接近しうる腫瘍は、病変部位への直接的な穿刺による注射によって、腫瘍に到達させることができる。肺腫瘍は投与経路として吸入を用いることによって腫瘍に到達させることができる。
【0021】
必ずしも必要とは言えないが、いくつかの実施形態においては、ある組み合わせの1種以上の化合物を、特定の組織または腫瘍のタイプに特異的な標的化化合物の使用によって、細胞塊(例えば腫瘍)を標的とすることができる。いくつかの実施形態においては、該化合物は、細胞表面マーカーを選択的に認識することのできるターゲティング化合物を用いることによって原発性の病変または、場合によっては二次性の(すなわち転移した)病変を標的とすることができる。他の実施形態においては、ある組み合わせの1種以上の化合物を徐放性の剤型で投与することもできる。
【0022】
従って、本発明の1態様においては、式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、および(VI)のチミンおよびアデニン誘導体が開示される。式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、および(VI)の生理学的に許容される塩、光学異性体、およびプロドラッグが開示される。1実施形態においては、該チミン誘導体は1-(2-ヒドロキシエトキシメチル)チミン、該アデニン誘導体は9-(2-ヒドロキシエトキシメチル)アデニンである。
【0023】
有効成分として式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、または(VI)の化合物を製薬上許容される担体とともに含んでいる医薬製剤も開示される。
【0024】
本発明の別の1態様においては、動物またはヒトの患者の癌を治療する方法が開示される。その方法には、製薬上許容される担体中に、有効成分として式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、もしくは(VI)の化合物、またはその化合物の生理学的に許容される塩もしくは光学異性体を、アジド-2',3'-ジデオキシチミジン(AZT)および2',3'-ジデオキシイノシン(ジダノシンもしくはddI)とともに含んでいる組成物の治療上有効な量を投与することを含んでいる。さらにその組成物には、例えばシクロホスファミド、カペシタビン、タキソール、シスプラチン、カルボプラチン、カンプトテシン、および/またはドキソルビシンなどの抗癌剤を含有する組成物の治療上有効な量を含むことができる。
【0025】
非環状で、抗テロメラーゼ、抗L1RT、および抗腫瘍性であるヌクレオシド類似体の使用に基づいた治療的態様に加えて、本発明はまた、テロメラーゼまたはL1RTを発現し病的な増殖を行っている細胞を検出するための診断方法とキットをも提供する。本発明のこれらの態様およびその他の態様はより詳細に下記で説明する。本開示全体を通じて、技術用語および科学用語は全て、別途定義していない限りは、本発明が関係している業界の当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は増殖している細胞内でテロメアを短縮させるための方法と組成物に関する。本発明はまた、増殖している細胞の増殖を阻害するための方法と組成物にも関する。テロメアの短縮または細胞増殖の阻害は、テロメア維持メカニズムに干渉すること、より具体的にはそのような細胞中の逆転写酵素(RT)の活性に干渉することによって、行われる。これらの目的には化合物の組み合わせが用いられる。該化合物はテロメアを短縮させるか、またはテロメア維持に影響を及ぼし、その結果として病的に増殖している細胞(例えば癌細胞)の増殖性に影響を与え、および/または細胞死を生じさせる。
【0027】
テロメアは染色体DNAの各鎖の5'末端にあって、直鎖状の染色体DNAの末端の塩基を失うことなく完全に複製されるようにすることにおいて役割を果たしている。不死細胞および急速に増殖している細胞はテロメアDNAのリピートであるTTAGGGを染色体の末端に付加するためにRTを用いる。RTを阻害すると増殖している細胞がテロメアを付加できなくなり、やがてはそれ以上増殖することを止めるはずである。本発明で用いている化合物の組み合わせは、癌細胞においてテロメアの維持に影響を及ぼすか、またはテロメアの短縮、G2/Mアレスト、および/もしくは多量のアポトーシスを誘導するはずである。当業者であれば明白であろうが、テロメア維持に影響を及ぼし細胞の増殖能を阻害するためのこのような方法は、癌などの細胞増殖を伴う状態の治療、または生殖細胞系の処理、これはおそらく避妊の用途に有用であろうが、これらに有用である。
【0028】
癌細胞に関しては、上述のとおり、テロメラーゼ活性がテロメアの維持と細胞の不死化に関連していることは既に知られているが、癌細胞はテロメラーゼ陽性またはテロメラーゼ陰性となりうる。また、テロメラーゼ陰性の癌細胞がそのテロメアと不死性を別のテロメア伸長メカニズム(ALT)によって維持していることも当業界では知られている。最近、L1(LINE-1)レトロトランスポゾン逆転写酵素(L1RT)がその伸長に関与し、それ故にテロメラーゼ陰性の癌細胞中でのテロメアの維持に関与していることが報告されている(WO 2005/069880を参照せよ)。このようにL1RTはテロメラーゼ陰性癌細胞中でのテロメアの伸長のテロメラーゼとは別のメカニズムの1つである。これらの報告は、細胞の不死化には、テロメラーゼ陽性細胞ではテロメラーゼの活性化(例えば、hTERT)が、テロメラーゼ陰性細胞ではL1RTが関与していることを示唆している。テロメラーゼまたはL1RTを標的としたターゲット療法は、癌細胞の増殖もしくは腫瘍の増殖を劇的に低減させてある程度の有効性を示す可能性がある。しかし、現在までのところ、テロメラーゼのインヒビターまたはL1RTのインヒビターとして特定された薬剤でヒトの患者で抗癌剤として試験されたものはない。
【0029】
今日、癌治療における主な難題の1つは、一定の癌の有効な治療法である。癌に対してより一層有効な治療法を見つけようと非常に多大な努力が注がれている。そのような考え方で本発明の発明者は、テロメラーゼまたはL1RTに対するターゲット療法は、癌細胞にテロメア維持メカニズムをスイッチする能力があるため、またはある特定のテロメア維持メカニズムを活性化させる能力があるため、腫瘍の治療に十分に有効ではない可能性があることを見出した。このスイッチまたは活性化は自発的に起こりうる、特定のテロメア維持メカニズムおよび/もしくはゲノム外の(extra genomic)不安定性を標的とした、基礎となる癌治療によって誘導されうる。例えば、L1RTのインヒビターを用いた癌治療はこの酵素の活性を阻害することができ、この阻害はまず癌細胞の増殖を停止させることができる。しかし、本明細書の開示からわかるとおり、癌細胞は他のテロメア維持メカニズムに依存またはそのメカニズムを活性化することができ、制御されない様式で増殖を開始する。このことは伝統的な癌治療で遭遇する薬剤耐性とやや似ている。
【0030】
本発明においては、癌細胞増殖の阻害は、癌細胞の増殖性に影響を及ぼすことができる化合物、および/または癌細胞の死を生じさせる化合物の組み合わせを用いることによって行われる。何らかの理論に束縛されることは望まないが、時に応じて癌細胞によって活性化される2つ以上のテロメア維持メカニズム(TMM)の同時阻害はどのような癌にも有効となりうるものと考えられている。該化合物は癌細胞中に認められる数種の逆転写酵素(RT)分子の活性または発現を特異的に妨げ、そのことによって多くの種類の悪性腫瘍の予防または治療に有用である。そのようなRTとしては、テロメラーゼおよびL1(LINE-1)レトロトランスポゾンがコードする逆転写酵素(L1RT)が挙げられる。さらに、癌細胞はテロメアの伸長のためのL1RT以外の逆転写酵素(ALTの1タイプ)を活性化することができるものと考えられている。そのような非L1RTのものとしては、LTR(長末端反復配列)レトロトランスポゾンがコードするRT(すなわちLTR RT)、およびレトロウイルス起原のRTが挙げられ、それらは癌細胞に対して内因性でも外因性であってもよい。
【0031】
本発明で用いている化合物の組み合わせは、1種以上のRTに干渉することによって、テロメア維持に影響を及ぼすか、または癌細胞におけるテロメア短縮、G2/M期アレスト(本明細書ではG2アレストとも呼ぶ)、および/または多量のアポトーシスを誘導する。特に、本発明の化合物は、テロメラーゼ陽性およびテロメラーゼ陰性のヒト腫瘍細胞系統、およびいくつかのタイプのRTを発現する腫瘍の双方を阻害する能力のあることによって示されるとおり、悪性腫瘍を予防または治療する非常に一般的な方法を提供することができる。より重要なのは、本発明で述べているインヒビターは腫瘍細胞系統での細胞分裂の際にはテロメアの低減を誘導するが正常細胞中では誘導しないことである。これらのインヒビターはまた、その考えられている用途でのRT阻害濃度では正常細胞に著しい細胞傷害性作用を示さないものと期待される。その結果、これらのインヒビターは悪性腫瘍細胞を選択的に標的とする治療法の提供において有効となりうるものであり、従って細胞傷害性の化学療法剤に通常は伴うような望ましくない副作用の多くが避けられる。
【0032】
このように、本発明の化合物の組み合わせを用いる癌治療は、組み合わせをベースとした分子標的癌治療であるということができる。テロメア維持に影響を及ぼす、またはテロメア短縮を誘導するためにこの組み合わせを用いるこの治療法は、本明細書中ではテロメア短縮療法またはバックグラウンド療法と呼ぶ。この分子標的癌治療は1種以上の既知の抗癌療法と組み合わせることができ、そのような抗癌療法としては細胞傷害性の化学療法、生物学的療法、光線力学的療法、および放射線療法が含まれ、癌の有効な治療法として用いられている。
【0033】
テロメア維持に影響を及ぼす(すなわちテロメアを短縮させる)化合物の組み合わせとは、TERT(テロメラーゼとも呼ばれる)のインヒビターとL1RTインヒビターとの組み合わせ(この組み合わせはダブルカクテルと呼ばれる)、またはテロメラーゼRTインヒビター、L1RTインヒビター、および非L1RTインヒビターの組み合わせ(この組み合わせはトリプルカクテルと呼ばれる)を意味する。ダブルカクテルまたはトリプルカクテルの投与による治療法は、本明細書中ではバックグラウンド療法と呼ぶ。
【0034】
本発明で化合物の組み合わせの一部分として用いられるインヒビターもしくはアンタゴニストは、(1)ある特定のRTと特異的に相互作用もしくは結合して(その酵素のmRNAまたはタンパク質または鋳型RNAの位置で)、RTの発現または活性を阻害することができる、および/または(2)テロメアDNAリピート中に組み込まれ、そのことによって細胞内のテロメア維持もしくはテロメアの長さに影響を及ぼすことができるインヒビターまたはアンタゴニストである。例えば、テロメアリピート配列であるTTAGGG中に見られる1つ以上のヌクレオチドに対応するヌクレオシド類似体は、伸長するテロメア中に取り込まれて、細胞が数ラウンドの細胞増殖過程を経るにつれて、テロメア維持に影響を及ぼすかまたはテロメアの長さを徐々に壊すことができる。
【0035】
インヒビターは、当業者には既知の、小分子、ペプチド、ドミナントネガティブ(優性阻害)変異タンパク質、抗体もしくは抗体フラグメント、および核酸構築物、アンチセンス構築物、選択されたRT内のある定められた標的領域に対応するdsRNA、オリゴヌクレオチドのいずれか1種とすることができる。用いられるインヒビターはRTの阻害、またはある特定のRTの阻害をもたらすものでなければならない。本明細書で用いている「RTの阻害」という用語は、逆転写酵素テロメラーゼ、L1RT、および/または非L1RTの、直接的に測定可能な阻害を意味し、それは例えば、Spedding, G. 1996, J. Mol. Recongnit., 9(5-6):499-502で報告されている放射性物質を用いないアッセイシステムを用いることにより、またはWegeら, 2003,「テロメラーゼ活性の迅速定量のためのSYBR Green リアルタイムテロメアリピート増幅プロトコール」" SYBR Green real-time telomeric repeat amplification protocol for the rapid quantification of telomerase activity ", Nucleic Acids Res. 31(2):E3-3で報告されているTRAPアッセイを用いて示される全ての細胞内での平均テロメア長の低減、公表文献(Hultdin, M.ら, 1998, 「経口、in situハイブリダイゼーション、およびフローサイトメトリーによるテロメアの分析」" Telomere analysis by fluorescence in situ hybridization and flow cytometry "Nucleic Acids Res., 26(16):3651-3656を参照せよ)で報告されているFISHアッセイを用いて調べた個々のテロメアの崩壊(Lansdorp, P.M., 「ヒト染色体のテロメア長の不均質性」" Heterogeneity in telomere length of human chromosomes", Hum. Mol. Genet., 1996, 5(5):685-91)または個々の細胞中のテロメアの崩壊の程度に基づいて測定することができる。
【0036】
同様にして当業者であれば特定のカクテルが細胞内でテロメアの短縮を誘導させるか否かを確認する方法を知りうるであろう。例えば、末端制限酵素切断断片(TRF)分析を行うことができ、この分析では腫瘍細胞から得たDNAを特定の配列に特異的な制限酵素を用いて消化することによって分析する。そのような分析の1例は、Vaziri,H.. 1993, 「正常およびトリソミー21のヒトリンパ球の老化の間のテロメアDNAの消失」"Loss of telomeric DNA during aging of normal and trisomy 21 human lymphocytes", Am. J. Hum. Genet., 52(4):661-7で報告されている。例えば、DNAの消化後に、制限酵素切断断片をサイズによって分離するためにゲル電気泳動を行う。次いで分離した断片をテロメア配列に特異的な核酸プローブを用いて調べて、サンプル中の細胞のテロメアDNAを含んでいる末端の断片の長さを測定する。テロメアDNAの長さを測定することによって、ある特定のカクテルがテロメアの短縮を誘導するか否か、およびどのくらいの期間そのカクテルを投与すべきかを推定することができる。さらに、治療の間に、細胞分裂の進行につれてテロメア長の短縮が生じているか否かを調べて治療の有効性を示すことができる。
【0037】
最近、生物学的サンプル中の逆転写酵素(テロメラーゼ)活性の迅速スクリーニング用に新しいナノセンサーを用いる方法が開発された(Grimmら, 2004, Cancer Research 64:639-643)。この技法は磁気を帯びたナノ粒子を、テロメラーゼで合成されたTTAGGGリピートとアニールさせるとその磁性状態が転換することに基づいたもので、その現象は磁気読み取り装置で容易に検出しうる。この技法を核磁気共鳴イメージング(MRI)によって高スループットなものとすると何百ものサンプルを数十分以内に超高感度で測定して逆転写酵素活性の定量ができると報告されている。これらを併せて考慮すると、これらの研究は、生物学的サンプル(腫瘍細胞と腫瘍組織を含む)中の逆転写酵素活性を迅速に検出して阻害剤での治療の効果を定量するアッセイ法と道具を確立するものである。
【0038】
本質的には、本発明では、インヒビターは細胞の増殖を阻害するために用いられる。例えば、患者がある特定のインヒビターの組み合わせの投与を受けると、それらのインヒビターはテロメア維持に影響を及ぼすことによって、または細胞内でのテロメア短縮の進行、細胞サイクルアレスト、および/または細胞の多量のアポトーシスを生じさせることによって癌細胞の増殖を阻害する。トリプルカクテルの組み合わせはダブルカクテルの組み合わせよりも癌細胞の増殖阻害により有効であろうと考えられているが、それは本明細書中で示すとおり、ダブルカクテルの組み合わせの存在下でも増殖し続ける細胞を、トリプルカクテルの組み合わせを構成するもう一つのインヒビターを添加することによって阻害しうるからである。
【0039】
テロメラーゼのインヒビターとして好ましいものは、ヌクレオシド類似体である。事実、ヌクレオシド類似体はウイルス感染に対して有効性を示した最初の化合物群に含まれていた。アシクロビルはヘルペス感染の治療に広く用いられている。抗HIV剤として最初に承認された4種の薬剤、AZT、ddI、ddC、およびD4Tもヌクレオシド類似体である。これらのヌクレオシド類似体は順次リン酸化されて5'-トリリン酸塩となり、次いでそれが逆転写酵素(RT)反応において連鎖の停止因子として作用する。
【0040】
本発明では、特定の新規のチミジン誘導体およびアデニン誘導体がデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)の特異的構造と相互作用することが見出された。例えば、これらの誘導体は増殖している細胞中のテロメアリピート中に組み込ませることができ、それによってテロメア維持に干渉する。テロメラーゼは癌細胞に対する治療法として非常に魅力的な標的である。このように、本発明の化合物の治療の観点から見た1つの利点は、病的に増殖している細胞中のテロメラーゼ活性をブロックすることである。
【0041】
従って、1態様においては、本発明はテロメラーゼ陽性細胞中でのテロメアの伸長に干渉することのできる、非環状ヌクレオシド類似体の使用を含んでいる組成物と方法を提供する。本発明のいくつかの実施形態中では本発明の非環状ヌクレオシド類似体は、テイル部分(例えば、9-(1,3-ジヒドロキシ-2-プロポキシメチル基)を持つプリン(またはピリミジン)骨格を有するがヒドロキシルの環(ペントース)を欠いたものである。1実施形態においては、本発明の非環状ヌクレオシド類似体は、テイル部分(例えば、9-(1,3-ジヒドロキシ-2-プロポキシメチル基)を持つアデニン骨格またはチミン骨格を有するがヒドロキシルの環(ペントース)を欠いたものである。いくつかの実施形態においては、本発明のプリンをベースとしたヌクレオシド類似体は、グアニン骨格の2の位置のNH2基を欠いている。当業界では多数の非環状ヌクレオシド類似体が既知である。それらは例えば、アシクロビル、ガンシクロビル、ペンシクロビル、および対応するプロドラッグ、すなわち、それぞれバラシクロビル、バルガンシクロビル、およびファムシクロビルである。アシクロビル12は細胞のDNA構成成分であるグアニンを模倣することによって作用する。グアニンとはDNAのAT-CG中の"G"である。アシクロビル(9-[2(ヒドロメトキシ)-メチル]グアニン)は、構造的には"G"と類似しているが、そのテイル部分−ヒドロキシル基を有する環(ペントース)を持たず、そのためこれは「非環状」である。ガンシクロビルとペンシクロビルもヒドロキシル基を有する環を持っていないので「非環状」である。
【0042】
本発明の1実施形態においては、本発明の非環状ヌクレオシド類似体のテイル部分は、ヌクレオシドの2-デオキシリボース部分の3'-および5'-ヒドロキシル基を模倣した少なくとも1つのヒドロキシル基を有する。本発明の非環状ヌクレオシド類似体は、臨床的に許容される投与量で抗テロメラーゼ性および抗腫瘍性を示し、毒性は臨床的に許容しうる程度にすぎないことが見出された。
【0043】
意図している目的に合致する、より正確には、癌細胞中の伸長しているテロメア中に組み込まれることによってDNAと相互作用し、そのことによってテロメラーゼ阻害活性を示す本発明の化合物はテロメラーゼインヒビターであり、上述のとおりテロメラーゼに対する特異性を有する非環状ヌクレオシド類似体である。本発明の好ましい非環状ヌクレオシド類似体は、下記の式のもの、およびそれらの製薬上許容される塩またはそれらのエステルである:
【化1】

【0044】
例えば、テイル部分(すなわち、2-ヒドロキシエトキシメチル基)がチミンの1の位置で置換されている、またはアデニンの9の位置で置換されている、式(I)または(II)の非環状ヌクレオシド類似体は、テロメアの伸長に対して非常に特異的な作用機作を有している。これらの化合物がテロメラーゼがメディエートするテロメアの伸長を阻害するがL1(LINE-1)レトロトランスポゾンがコードする逆転写酵素(L1RT)がメディエートするテロメアの伸長は、少なくともある特定の臨床的に許容される濃度においては阻害しないという点において、これらの化合物は特異的インヒビターである。本質的には、本発明の化合物は連鎖停止因子(chain terminator)である。「連鎖停止因子」という用語は核酸ポリメラーゼの基質となるヌクレオチド類似体を意味するが、伸長しつつあるポリヌクレオチド鎖の末端に組み入れられると、その類似体はそれ自体をその後に続くヌクレオチド残基の付着への基質となることはできない。
【0045】
従って、それらの化合物には細胞やウイルスのDNAおよびRNAの特異的構造中に組み込まれ、それによって細胞内の酵素(例えば、テロメラーゼ)およびウイルスの酵素に干渉する能力があるので、本発明の化合物(連鎖停止因子)は、抗癌剤、抗ウイルス剤、抗生物質、抗精神病剤、鎮痛剤、抗炎症剤、降圧剤として治療上有用なものとなりうる。
【0046】
本発明の化合物は光学的に活性な形態、すなわち、平面偏光の偏光面を回転させる能力がある。そのような化合物としては、dおよびl、または(+)および(−)型のもの(立体異性体、エナンチオマー、またはエナンチオマーの混合物を含む)が含まれる。(R)または(S)が用いられる場合に関しては、分子全体における置換基の絶対的な立体配置を示しており、置換基単独の配置を示したものではない。
【0047】
本発明にはプロドラッグも含まれる。本発明では、プロドラッグは活性のある薬剤である親の薬剤(例えば、SNI)を本質的に不活性の誘導体へ化学的に構造を変えたもので、生理学的環境で(生体内で)化学的攻撃または酵素的攻撃によって、作用部位へ到達する前または後に親の薬剤へと転換する。特に断らない限りは、それらのプロドラッグは、化学的に、または代謝によって切断可能な基を有し、生理学的条件下で、in vivoで薬剤として活性のある本発明の化合物となる、本発明の化合物の誘導体である。
【0048】
従って、プロドラッグの調製には活性のある薬剤を不活性型へと変換する工程が含まれる。そのような工程は当業者にはよく知られている。本発明のプロドラッグは担体に連結させたプロドラッグであり、生物学的な前駆体ではない。担体に連結させたプロドラッグは活性分子を一時的に運搬部分と連結させて作製することができる。そのようなプロドラッグは活性のある親の薬剤と比較すると活性が低いかまたは不活性である。運搬部分は何らかの特定の化学物質または基に限定されてはおらず、毒性がなく、高効率な速度で活性部分の放出を確保しうるものを選択する。プロドラッグは、例えば、当業者には既知のとおり、活性薬剤のエステル、ヘミエステル、硝酸エステル、アミド、炭酸エステル、カルバメート、イミンの形成によって、またはその活性薬剤をアゾ、グリコシド、ペプチド、およびエーテル官能基で官能基化して、またはポリマーを用いて調製することができる。
【0049】
プロドラッグは薬剤の薬物動態を変え、薬剤の吸収と分布を増加させてバイオアベイラビリティーを改善し、毒性を低減させ、薬剤の薬理学的作用の持続時間を増加させるために調製される。プロドラッグのデザインに際しては、各種の因子、例えば担体と薬剤の間の連結が通常は共有結合であること、そのプロドラッグが活性のある親の薬剤よりも活性が低いか不活性であること、そのプロドラッグが親の薬剤の可逆性の誘導体または生物可逆性の誘導体であること、および担体部分が放出された場合に無毒で不活性であることなどを考慮することができる。
【0050】
1実施形態においては、プロドラッグは、活性薬剤のエステル(例えば、バリンエステル)または式IからVIの化合物のエステル形成によって調製される。担体部分(例えば、バリン)は、対象の化合物のテイル部分に付加することができる。これらのバリンエステル化合物は、in vitroまたはin vivoで細胞に投与された場合に、活性化合物、それは式(I)から(VI)のいずれかであるが、そのような活性化合物に転換される。
【0051】
本発明では、該非環状ヌクレオシド類似体が哺乳類の細胞内でテロメラーゼを標的としテロメアの伸長に影響を及ぼしうる(またはテロメアに損傷を与えうる)ことが示されている(下記の実施例参照)。哺乳類の細胞内でL1RTまたはテロメラーゼでないその他の酵素を標的としテロメアの伸長に影響を及ぼす(またはテロメアに損傷を与える)ために、非環状ヌクレオシド類似体を用いることができ、そのような非環状ヌクレオシド類似体としてはアシクロビル、ガンシクロビル、ペンシクロビル、および/または式IからVIの化合物もしくは対応するプロドラッグ(例えば、活性薬剤のバリンエステル、すなわちバラシクロビル、バルガンシクロビル、およびファムシクロビルエステルなど)、および/またはその他のヌクレオシド類似体、例えばAZTやddIなどが挙げられる。
【0052】
アシクロビル、ガンシクロビル、ペンシクロビルなどのヌクレオシド類似体およびその対応するプロドラッグ、すなわちバラシクロビル、バルガンシクロビル、およびファムシクロビルなどはすべて、抗ウイルス剤として臨床使用を承認されたものである。例えば、アシクロビル、ガンシクロビル、ペンシクロビルおよびその対応するプロドラッグは、ヘルペスウイルス感染症および/またはCMV感染症の治療または軽減に用いる医薬品としてよく知られているが、腫瘍の治療としてのそれらの使用は未知数である。ペンシクロビルは、単純ヘルペスウイルスによって生ずる単純疱疹の治療のために人の口唇や顔面に用いられる。また、当業界では、これらのヌクレオシド類似体が標的とする酵素がDNAポリメラーゼであることも既知である。それらのヌクレオシド類似体の化学構造およびウイルス感染症と闘うための投与のレジメンは当業者にはよく知られている。
【0053】
ヌクレオシド類似体は、ひとたび増殖している細胞内部に入ると、リン酸化され(例えば、二リン酸塩、および三リン酸塩の形に)、テロメラーゼ反応の天然の基質(例えば、dGTP)と競合する。そのリン酸化された類似体は、伸長しつつあるテロメアDNA鎖中に天然の基質が組み込まれることを阻害することができ、またはその類似体自身がDNA中に組み込まれてテロメラーゼまたはL1RTがメディエートするポリマー化活性に干渉し、それはやがては鎖の伸長の終了をもたらす。本質的には、これらのヌクレオシド類似体は、鎖の伸長の終了によって、テロメアDNAを損傷し、テロメアを短縮し、アポトーシスを引き起こす。テロメアの損傷は正常細胞よりも急速に増殖している細胞(例えば、腫瘍)に対してより有害である。
【0054】
本発明の非環状ヌクレオシド類似体は、AZTなどの従来技術のヌクレオシド類似体よりも強力で選択性の高いテロメア伸長インヒビターである。臨床的に許容される投与量は、AZTなどのヌクレオシド類似体と比較するとき、テロメラーゼ陽性細胞のテロメア長の短縮およびアポトーシスもしくは細胞死を起こさせるのに十分な量である。
【0055】
テロメラーゼのその他のインヒビターとしては、2,6-ジアミドアントラキノン、およびカルボシアニン染料である3,3'-ジエチルオキサジカルボシアニン(DODC)などの化学物質(およびその他のテロメアDNA相互作用剤)、テロメラーゼ鋳型アンタゴニスト(例えば、テロメラーゼのRNAの鋳型領域をカバーするアンチセンスオリゴヌクレオチド、特に、例えば、脂質と結合したチオホスフォラミデートである、N3'-P5'、RTのRNAコンポーネントと共に含まれている鋳型配列に対して相補的なオリゴヌクレオチド配列)、テロメラーゼRNAに対するアンチセンス構築物、テロメラーゼRNAに対して作製された配列特異的ペプチド-核酸などが挙げられる。本発明の意図するところとしては、またAZTをテロメラーゼインヒビターとした先行開示はあるが、AZTはテロメラーゼインヒビターではない。好ましい1実施形態においては、阻害されることとなるテロメラーゼは、ヒトのテロメラーゼなどの哺乳類のテロメラーゼである。
【0056】
L1RTのインヒビターとして好ましいものは、ヌクレオシド類似体であるAZT、アシクロビル、ガンシクロビル、ペンシクロビル、およびそれらのプロドラッグである。プロドラッグとして好ましいものは、バラシクロビル、バルガンシクロビル、およびファムシクロビルである。L1RTのその他のインヒビターとしては、アンチセンス構築物およびオリゴヌクレオチドを挙げることができる(WO 2005/069880を参照せよ、この開示は本明細書中に参照により組み入れる)。例えば、ヒトL1レトロトランスポゾン(GenBank GI:5070620)の1987-2800の位置のヌクレオチドに対応するアンチセンス配列を用いることができる。核酸残基のそのような長い配列の一部である核酸残基またはヌクレオチドの配列は、オリゴヌクレオチドとしての用いることができる。そのような配列としては、例えば、5'-CCA GAG ATT CTG GTA TGT GGT GTC TTT GTT-3’、5’-CTT TCT CTT GTA GGC ATT TAG TGC TAT AAA-3’、5’-CTC TTG CTT TTC TAG TTC TTT TAA TTG TGA-3’、5’-CTT CAG TTC TGC TCT GAT TTT AGT TAT TTC-3’、および5’- TCC TGC TTT CTC TTG TAG GCA-3'が挙げられる。
【0057】
TERTでなくL1RTでもないインヒビターとして好ましいものは、ヌクレオシド類似体であるAZT及びddIである。その他のTERTでなくL1RTでもないインヒビターとしては、アンチセンス構築物およびオリゴヌクレオチドがある。好ましい1実施形態においては、阻害されることとなる非L1RTはヒトおよび/またはレトロウイルス起原の非L1RTである。
【0058】
本発明のインヒビターとそれらの製造方法の多くはこれまでに既に開示されている。例えば、化合物ddIは米国特許第5,011,714号で開示された方法で合成され、ペンシクロビルは米国特許第5,075,445号に開示されている。
【0059】
好ましいダブルカクテルはAZTとACVまたはPCVの組み合わせである。好ましいトリプルカクテルはAZTおよび非環状ヌクレオシド類似体およびddIの組み合わせであり、最も好ましいトリプルカクテルはAZTとACVもしくはそのプロドラッグおよびddIである。非小細胞癌(NSCLC)(例えば、SK-LU-1細胞、この細胞はテロメラーゼ陰性でL1RTも陰性であると考えられている)の治療用の好ましいトリプルカクテルは、AZTおよびPCVおよびddIである。
【0060】
本発明で説明している化合物の組み合わせは、細胞抽出物中、培養細胞中、およびin vivoで逆転写酵素を阻害する。本発明のダブルカクテルを用いた癌細胞増殖を阻害する方法は、ウイルス関連の癌(例えば、カポジ肉腫)の治療を含んでおらず、そのような癌では癌の発生は、ヘルペスウイルス、アデノウイルス(21)、ポリオーマウイルス、パピローマウイルス(HPV)、Epstein-Barr(EB)ウイルス、肝炎DNAウイルス(HBVまたはHCV)のうちの1種のウイルスによる感染と関連している。
【0061】
本発明では、「治療する」または「治療」という用語は、増殖する細胞、とりわけ、不適切にもしくは病的に増殖する細胞、または不死細胞が関与する症状もしくは疾患の、in vitro、ex vivo 、または被験者の体内でのいかなる治療をも意味するか、または癌の治療を意味する。骨髄のパージングはex vivoでの治療の1例である。この用語には、該症状もしくは疾患を阻止すること(例えば、その進行を停止させること)、または該症状もしくは疾患を軽減させること(例えば、退行させること)、または増殖する細胞の増殖を遅延させること、またはアポトーシスすなわちプログラムされた細胞死を誘導させることが含まれる。本発明の方法での治療を意図しているいくつかの症状としては、良性(すなわち、癌性でない)腫瘍、前癌状態および悪性(すなわち、癌)腫瘍が挙げられる。
【0062】
「哺乳類細胞の異常な増殖」という用語は本明細書中で用いられており、その用語は、細胞が集まった限局された領域(例えば、腫瘍)が、それらの正常な組織内の対応する領域と比較して異常な(例えば、増大した)分裂速度を示す症状もしくは疾患を意味する。本明細書中で用いている哺乳類細胞の異常な増殖を特徴とする症状としては、限定はされないが、良性、前癌状態、もしくは悪性の固形腫瘍塊が関与している症状が挙げられる。事実、正常細胞は時に不適切もしくは病的に増殖する細胞、または不死細胞(例えば、p53の欠損もしくは変異によって)となり、細胞の正常な調節メカニズムとは無関係に増殖する。それらの細胞は、細胞性のエレメント、つまり上述のRTの活性の結果として正常細胞の表現型とは異なっているので、不適切もしくは病的に増殖する細胞または不死細胞と見なされる。当然のことながら、本明細書で用いている「不適切に増殖する細胞」という用語は良性の過増殖する細胞であってもよいが、特に断らない限りは、それらの細胞は多種多様な腫瘍および癌を特徴付けている悪性の過増殖する細胞を意味し、そのような腫瘍および癌としては、胃癌、骨肉腫、肺癌、膵臓癌、副腎皮質癌もしくは黒色腫、脂肪細胞癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、皮膚癌、結合素子祈願、子宮体癌、肛門性器癌、中枢神経系の癌、網膜癌、血液およびリンパの癌、腎癌、膀胱癌、結腸癌、および前立腺癌が挙げられる。
【0063】
被験者もしくは哺乳類もしくはヒトにおいて癌を「治療すること」または「治療」という用語には、次のものの1つ以上が含まれる:アポトーシスを誘導する、もしくは癌の増殖を阻害する、すなわち癌の発達を停止させ、癌の拡散すなわち転移を防止し、癌を軽減させ、すなわち癌の退行を生じさせ、癌の再発を防止し、癌の症状を一時的に緩和する(例えば、細胞傷害剤を用いた治療での有害事象の改善、これはそのような治療法の停止を、癌が著しく進行する危険性なしに行えることによるものである)。「癌細胞の増殖を阻害すること」または「細胞増殖の阻害」という用語は細胞分裂を低減させる、または防ぐことをも意味する。
【0064】
従って、1態様においては、本発明は、被験者に対してテロメアの維持に影響を及ぼすのに有効な量投与されたとき、ダブルカクテルまたはトリプルカクテルは腫瘍中のテロメア長を短縮させることができるという発見である。本発明のこの態様には、テロメア維持がメディエートする症状もしくは疾患に罹患している被験者(すなわち、患者)、好ましくはヒトの体内でのテロメア維持に干渉することを含んでいる。
【0065】
このように、本発明のこの態様に従って、テロメア維持がメディエートする症状もしくは疾患を治療するための治療方法および医薬組成物が提供される。この治療には、そのような治療を必要としている患者に、製薬に用いる担体ならびに本発明の組み合わせ中の各化合物の治療上有効な量、すなわちダブルカクテルもしくはトリプルカクテルの治療上有効な量を含んでなる医薬組成物を投与することが含まれる。
【0066】
ダブルカクテルおよびトリプルカクテルに関しては、本発明の化合物の組み合わせは、それが適切であるならば下記の形態のいずれかで存在しうるということに留意すべきである:(i)個々の化合物またはコンポーネントとして(例えば、トリプルカクテルの場合、少なくとも3種類の異なる錠剤)、それには個々のコンポーネントのうちの少なくとも1つが、製薬上許容される塩の形態であること、または(ii)個々の化合物を併せて1つのコンポーネントとすること(例えば、少なくともトリプルカクテルの3種の異なるインヒビターを1錠中に含有している錠剤)、それには製薬上許容される組み合わせた化合物の塩(すなわち、組み合わせの塩)が含まれ、または(iii)トリプルカクテルの場合には2種類の異なるコンポーネントの形で、そのれはそれらの製薬上許容される塩が含まれる。さらに、本発明の方法を行う際には、該組み合わせの個々のコンポーネントを治療のコースの間の異なる時点で別々にまたは同時に、組み合わせを分けた形態または単一の形態で、投与することができる。例えば、コンポーネントが2つの組み合わせ(すなわちダブルカクテル)、これはTERTのインヒビターおよびL1RTのインヒビターであるが、そのような組み合わせにおいては、L1RTのインヒビターを用いた治療を、TERTのインヒビターを用いた治療の開始の前、その後、または同時に、開始することができる。同様に、トリプルカクテルの組み合わせによる治療も同時に、交互に、または同時と交互の双方で行うことができる。従って、本発明は、同時または交互治療のそのようなレジメン全てを包含するものと理解されるべきで、「投与すること」または「投与された」という用語は、そのように解釈されるべきものである。
【0067】
テロメア維持に影響を及ぼす(またはテロメアを短縮させる)化合物の組み合わせとは、TERT(テロメラーゼとも呼ばれる)のインヒビター、およびL1RTのインヒビターの組み合わせ(この組み合わせはダブルカクテルと呼ぶ)、またはテロメラーゼRT、L1RTのインヒビター、およびL1RTでない酵素のインヒビターの組み合わせ(この組み合わせはトリプルカクテルと呼ぶ)を意味する。ダブルカクテルまたはトリプルカクテルの投与による治療のことを本明細書ではバックグラウンド療法と呼ぶ。
【0068】
本明細書で用いている被験者とは、哺乳類を意味し、その哺乳類としては、ヒト、ヒト以外の霊長類、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ、ブタ、およびその他の獣医学的に対象となるヒト以外の哺乳類が挙げられる。「治療上有効な量」とは、アポトーシスを誘導するためまたは癌を治療もしくは予防するために、哺乳類、特にヒトに投与したときに、癌の治療を有効なものとするために十分な、化合物、化合物の組み合わせ、もしくは組成物、ダブルカクテルもしくはトリプルカクテルの量を意味する。「有効量」とは、非処理の細胞と比較してアッセイしたときに、テロメアの短縮、G2アレスト、および/もしくは多量のアポトーシスを癌細胞中に再現性を持って誘導するために有効な、化合物、化合物の組み合わせ、もしくは組成物、ダブルカクテルもしくはトリプルカクテルの量である。また、「有効量」とは、癌細胞の増殖を減少、低下、阻害、またはそうでなければ停止させる、化合物、化合物の組み合わせ、もしくは組成物、ダブルカクテルもしくはトリプルカクテルの量のことをも意味する。
【0069】
別の1態様においては、本発明は病的に増殖する細胞、例えば腫瘍細胞を、ダブルカクテルもしくはトリプルカクテルと接触させることによって、それらの細胞を阻害する方法に関する。一般的には、それらの方法は、病的に増殖する細胞(例えば、癌細胞)を、その細胞の増殖を低下もしくは阻害、またはプログラムされた細胞死を誘導するのに有効な量のダブルカクテルもしくはトリプルカクテルと接触させるステップを含んでいる。本発明の方法は、培養中の、例えばin vitroもしくはex vivoの細胞に対して行うことができ、または被験者の体内に存在する細胞に対して、例えばin vivo治療プロトコールの一環として行うことができる。その治療レジメンは、そのような治療を必要としているヒトに対して、またはその他の動物に対して行うことができる。本発明中で開示されているバックグラウンド療法の治療上の特異性は、この治療法が従来の非常に毒性の強い細胞傷害性の抗癌剤、例えば従来の細胞傷害性化学療法やさらにはDNA損傷療法などに対して有望な代替法であることを示している。
【0070】
上述のことから、当業者であれば、多くの場合において本発明は、そのような症状の治療のための現行の治療法の有効性を改善し、および/もしくは毒性作用を軽減することに有用ではあるが、一定の場合においては、本発明のインヒビターの組み合わせおよび方法が現行の手術や薬剤療法の代替として有用であることが容易に理解できよう。特に、本発明のインヒビターの組み合わせおよび方法を用いることにより、異常に増殖している細胞(例えば、腫瘍細胞)を種々のDNA損傷剤に対して感受性にするかまたは感受性を高めることによって、現行の治療法の有効性を改善し、および/もしくは毒性作用を軽減することができる。
【0071】
従って、本明細書に記載のバックグラウンド療法は、他の抗癌療法を組み合わせて被験者の治療に用いることができる。例えば、ある選択されたバックグラウンド療法を被験者に他の抗増殖性の(例えば、抗癌)治療法と組み合わせて施すことができる。本明細書で用いる「他の抗増殖療法(単数または複数)と組み合わせて」とは、該バックグラウンド療法が他の抗増殖療法(単数または複数)の前、その療法中、またはその後に施されることを意味する。適切な抗癌療法としては、腫瘍塊を除去するための手術、または放射線局所照射を含むDNA損傷療法(下記により詳細に説明する)が含まれる。そのような他の抗増殖療法は、本発明のインヒビターの組み合わせでの治療の前、同時、または治療後に施すことができる。また、治療法が異なる場合のそれらの投与の間隔は、バックグラウンド療法が他の治療法の前または後に行いうるように、数時間、数日、および場合によっては数週間の遅れがあってもよい。
【0072】
1例として、該バックグラウンド療法は異常な増殖をする細胞塊を除去する手術と組み合わせて行うことができる。消化管の腫瘍を治療するための外科的方法には結腸全切除術および胃切除術などの腹腔内手術が含まれる。それらの実施形態においては、該バックグラウンド療法の化合物は持続点滴注入または単回ボーラス注射のいずれかで投与することができる。手術の間またはその直後に行われる治療法には、腫瘍切除部位を、製薬上許容される担体中に該インヒビターを入れた製剤で洗浄、浸漬、または灌流することが含まれる。いくつかの実施形態においては、インヒビターの組み合わせは手術と同時に投与され、また、転移性の病変の形成と拡大を阻害するために手術後に投与される。薬剤の投与は腫瘍塊を除去するための手術の後、数時間、数日間、数週間、または場合によっては数ヶ月間続けることができる。
【0073】
既に述べたように、該バックグラウンド療法は単独で用いることもできるが、この療法は、DNA損傷療法単独で期待される治療効果よりも大きな効果を得るためにDNA損傷療法と組み合わせることもできる。このことは細胞サイクルのG2/M期でアレストされた細胞が通常はDNA損傷療法に対して感受性が非常に高いからである。DNA損傷療法としては、遺伝子毒性化学療法(遺伝子毒性剤を用いて)、放射線療法(γ線照射、X線、放射性同位体および類似のものを用いて)、および/または光線力学療法(例えば、5-アミノレブリン酸を用いて)が挙げられる。DNAを損傷させる薬剤は当業者にはよく知られており、腫瘍の治療用に臨床の場で広く用いられている。例えば、遺伝子毒性薬剤は、核酸に作用してその機能を変化させる化学療法剤である。それらの薬剤は直接的にDNAに結合するか、またはDNA複製に関与する酵素に作用することによって間接的にDNAの損傷をもたらす。急速に分裂している細胞は特に遺伝子毒性薬剤に対して感受性が高いが、それはそれらの細胞が活発に新しいDNAを合成しているからである。ある細胞のDNAに対して十分に損傷を与えた場合には、その細胞はアポトーシス、それは細胞の自殺に等しいものであるが、そのアポトーシスに至ることが多い。遺伝子毒性化学療法としては次のものが挙げられる:(1)アルキル化剤:使用される第1のクラスの化学療法剤。それらの薬剤はDNAの塩基を修飾し、DNAの複製および転写に干渉して変異に至らしめる;(2)挿入剤(intercalating agent):この薬剤はDNAの二重らせん中のヌクレオチド間のスペースに割り込む。この薬剤は転写、複製に干渉し、変異を誘発する;ならびに(3)酵素インヒビター:酵素インヒビターはDNAの複製に関与する重要な酵素、例えばトポイソメラーゼなどを阻害してDNAの損傷を誘導する。
【0074】
そのような薬剤が多数開発され、特に有用なのは詳細に臨床試験が行われ容易に入手しうる薬剤である。5-フルオロウラシル(5-FU)(または関連薬剤であるカペシタビン)は、腫瘍組織によって選択的に用いられる薬剤の1つで、そのことがこの薬剤を腫瘍細胞を標的とすることに有用なものとしている。従って、5-FUは毒性は非常に強いが、多様な担体と共に適用することができ、その適用法としては局所投与や、静脈内投与すらも含まれる。白金化合物であるシスプラチンも癌治療に広く用いられており、その臨床適用に用いられる有効投与量は3週間毎に20 mg/m2を5日間、合計3コースで、シスプラチンは経口投与では吸収されず、そのため、静脈内、皮下、腫瘍内、または腹腔内への注射で送達しなければならない。本発明で用いるいことを意図しているその他のDNA損傷剤としては、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、シクロホスファミド、オキサリプラチン、ブスルファン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、テモゾロマイド、イホスファミド、ロムスチン、ダカルバジン、メクロレタミン、メルファラン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、イリノテカン、およびトポテカン、ならびに類似のものが挙げられる。
【0075】
これらの薬剤は種々の固形癌および血液細胞の癌の治療に用いられている。これらの薬剤のいずれについてもその治療のゴールは、癌細胞内におけるDNA損傷の誘発である。DNAの損傷は、非常に重度な場合には、細胞がアポトーシスを起こすことを誘導するが、アポトーシスとは細胞の自殺に等しい。しかし、DNA損傷剤は正常細胞と癌細胞の双方に作用する。薬剤の作用の選択性は急速に分裂している細胞、例えば癌細胞の、DNAを損傷する治療法に対する感受性に基づいたものである。これらの薬剤の作用機作によって治療に伴う副作用の多くも説明しうる。しかし、癌細胞以外の分裂している細胞、例えば腸の内壁の細胞や骨髄幹細胞なども、薬剤と癌細胞でない細胞のDNAとの非特異的な相互作用(それは直接的なこともあり、また間接的な相互作用のこともある)の結果として癌細胞と共に殺されることも多い。細胞傷害性であることに加えて、これらの薬剤は、変異原性(突然変異を生じさせる)および発癌性(癌を生じさせる)物質でもある。これらの薬剤での治療は、おそらくは基礎となっているDNA損傷療法に対する抵抗性の発達によるものと思われる白血病などの二次的な腫瘍発生の危険性を伴う。さらに、致死量よりもやや低い量の化学療法剤に暴露された癌細胞がその薬剤に対して抵抗性を示すようになることは多く、他の数種の遺伝子毒性薬剤に対しても交差抵抗性を示すようになることも非常に多い。ある1種の遺伝子毒性剤療法に抵抗性の患者が抵抗性の細胞の制御されない増殖によって生存期間が非常に短縮されることも多い。
【0076】
上記で既に説明したとおり、TERTおよび/またはその他のRTによるテロメアの維持を介する制御されない増殖は癌細胞の特徴である。バックグラウンド療法に用いられる化合物または化合物の組み合わせはテロメア維持に影響を与えるので、ダブルまたはトリプルカクテルは制御不可能な増殖する細胞すなわち癌細胞内でのみ、選択的にテロメアDNAに損傷を与え、進行性のテロメアの短縮を誘導するはずである。ダブルまたはトリプルカクテルにこのような選択性があるので、悪性でない細胞に対するそれらの毒性に対して高い治療係数を実現しうる。これに対して、DNA損傷療法に用いられている薬剤によるDNA損傷の誘導はテロメアDNAに限定されておらず、従って非特異的なものである。この点に関しては、DNA損傷療法に用いられる薬剤によるDNA損傷は範囲が広く、上述のとおり、多くの副作用と白血病発症の危険性を伴う。
【0077】
白血病が骨髄(これは赤血球、白血球、および血小板などの様々な血液細胞全ての工場である)および血液の癌であることは当業界では既知である。特に白血病は悪性の癌で血液細胞(例えば白血球)の制御されない増殖を特徴とする。ダブルおよびトリプルカクテルは、白血病が原発性の癌としてまたは二次癌として生じたものであるかにかかわらず、白血病との戦いにおいて極めて貴重なプレイヤーおよび/または同盟の一因となるものと考えられる。これらのカクテルはテロメアのDNAを損傷することにより悪性腫瘍細胞全てに対して有効性を示すはずである。これらのカクテルへの長期にわたる暴露の後でも、これらのカクテルは、テロメアDNAの損傷とG2アレストの誘導によって全ての悪性腫瘍細胞(白血病細胞および白血病でない細胞)に対して有効性を保持しているはずである。言い替えれば、基礎となるDNA損傷剤に対する抵抗性となることによってDNA損傷剤による攻撃から逃れうるような悪性腫瘍細胞が、ダブルまたはトリプルカクテルが存在するとテロメアDNA損傷およびG2アレストを受けやすい状態のままとなり、やがてはそれらの細胞は死に至る。
【0078】
従って、本発明の別の1態様においては、腫瘍細胞をDNA損傷療法に対して感受性とする方法が提供される。この方法には、感受性化するために有効な量のダブルカクテルまたはトリプルカクテルを投与して、DNA損傷療法の前またはその治療の間に腫瘍細胞を感受性とすることが含まれる。感受性化に有効な量とは、G2/M期アレストの誘導に有効な量である。好ましくは、該バックグラウンド療法はまず最初に少なくとも増殖の数サイクルの間投与して腫瘍細胞をダブルカクテルまたはトリプルカクテルに対して暴露させるが、より好ましくは、少なくとも14日間の増殖の間投与する。次いで、DNA損傷療法をバックグラウンド療法に加えてある程度の期間(例えば、そのDNA損傷療法が臨床的に好ましくない毒性を示すようになるまで、またはそのようになる直前まで)行い、そのDNA損傷療法は担当医の判断によって中断または中止する。該バックグラウンド療法の施行はDNA損傷療法の少なくとも1つの態様(例えば、遺伝子毒性を有する化学療法剤、生物学的療法剤、放射線療法の少なくとも1回を行うことなど)に先行させることができ、それは2、3分という短さ(例えば同じ日のうちに、または同じ来院時に)から数週間、例えば1週間から5週間、例えば1週間から3週間先行させることができる。
【0079】
あるいはまた、別の好ましい方法は、DNA損傷レジメンの実施中にバックグラウンド療法を行うことである。このことは、DNA損傷療法が既に行われているが、G2/M期アレストを誘導するためにバックグラウンド療法を行って、それによって病的に増殖する細胞(例えば、腫瘍細胞)を感受性とすることが要求されている状況がそれにあたる。
【0080】
いずれにしても、選択されたバックグラウンド療法がDNA損傷レジメンが終了した後も継続されることが好ましく、少なくとも数週間、数ヶ月間、数年間もしくはそれ以上継続する。臨床の場においては、該バックグラウンド療法は、癌が再発したり他の治療法に対して難治性であることが示されたりした場合には、本質的には担当医が患者の癌と効果的に闘うことを可能とするであろう。このことは、患者に対して毒性が最小限であるかまたは全くない本発明のカクテルの組み合わせについて特にそうであるが、それはそのような組み合わせが好ましいリスク-ベネフィット比を提供するからである。例えば、RTを阻害するために必要な少ない量のヌクレオシド類似体(AZTおよびACV、またはAZT、ACV/PCVおよびddI)のダブルおよびトリプルカクテルは、患者に対して毒性が最小限かまたは全くなく、そのような好ましいリスク-ベネフィット比を提供する。
【0081】
上述の、DNA損傷療法を組み入れた連続的バックグラウンド療法という、被験者(例えば、ヒト)に対しての方策は、DNA損傷療法の期間を短縮しうるのみならず、臨床的に認められている細胞傷害剤の投与量をより低くすることができ、従って被験者、例えばヒトの癌患者における有害事象の誘発を低減させうるであろう。例えば、カペシタビン(Xeloda(登録商標))単独療法と臨床的に関連する有害事象は当業界ではよく知られている。そのような有害事象としては、手足症候群、心毒性、口内炎、下痢、悪心、嘔吐、好中球減少症、電解質不均衡神経毒性、および高ビリルビン血症が挙げられる。しかし、バックグラウンド療法を行うと(この療法はG2/Mアレストを介してプログラムされた細胞死を誘導することができる)、もともと処方されていたそれらの細胞傷害性の薬剤の投与量を低減させ、それらの感受性を高めた細胞に対する有効性を増強させ、それによって改善された治療を提供する。最終的な結果として、DNA損傷療法によって生ずる毒性の軽減(単にその細胞傷害剤を中断するかまたは毒性を示す投与量を低減することにより)、腫瘍縮小の程度が強まること、腫瘍増殖の遅延および/または癌の排除、ならびにヒトの癌患者における生存期間の延長が、バックグラウンド療法の実施後に期待される。当然のことながら、上述のとおり、外科的でない治療に加えてまたはその替わりに、腫瘍の外科的切除を行うこともできる。
【0082】
該医薬カクテルはまた、癌の素因を有する可能性があるがまだ癌の症状を示していない動物で癌が生じることを予防するために用いることもできる、すなわち癌の発症を低減させるために用いることができる。従って、別の1態様においては、本発明は癌になりやすい患者および/または悪性になりうる細胞を有している患者、それらの患者は双方とも従来の方法(検診)では検出が困難であるが、それらの患者を同定することによって癌を予防するための方法を開示する。その方法には、そのような患者にバックグラウンド療法を行って癌の発症を予防することが含まれる。例として、腫瘍を検出するための従来法のいくつかを挙げれば、身体的方法(例えば、触診)、病理学的方法(例えば、尿中または糞便中の血液)、または造影法(例えば、X線、CTスキャン、PETスキャン、超音波検査など)がある。癌に罹患しそうな、または検出し得ない癌細胞を有している患者の同定は、生物マーカーや遺伝的欠損を調べることによって行うことができる。
【0083】
例えば、野生型p53(wt-p53)機能が失われると、通常は、制御されない細胞サイクルと複製、非効率なDNA複製、増殖が優位となる細胞が選択されること、およびその結果、腫瘍の形成がもたらされることが、当業界で走られている。事実、腫瘍の50%以上でp53遺伝子に変異があることが報告されている。別の1例としては、その時点で腫瘍の検出されない女性患者がBRCA1またはBRCA2遺伝子に変異を有している場合は、乳癌または卵巣癌発生の強い素因があることを示している。同様に、乳癌の生物マーカーである、腫瘍サプレッサーオンコジーンタンパク質53、オンコジーンc-erbB-2およびそれらの組み合わせが唾液中に見出されている。分子マーカーが報告されている別の1例としては、肺癌がある。小細胞肺癌および非小細胞肺ガン(NSCLC)(腺癌、扁平上皮細胞肺癌、および大細胞癌)を含む肺癌は世界中で癌による死亡の死因として最も多いものの1つとなっている。NSCLCは肺の悪性腫瘍のほぼ80%を占め、その予後は不良である。肺癌は細胞内の分子的変化の結果であり、正常な細胞の増殖を制御している経路の制御が失われ、分化、およびアポトーシスをもたらすことは当業界では既知である。肺癌では種々の遺伝子、例えばプロトオンコジーンや腫瘍サプレッサー遺伝子などが変異しているか、または異常な発現パターンを有していることが見出されている。事実、肺癌細胞内ではRb2/p130 によって変調された分子特性のセットがあることが報告されている。このような分子特性としては、次の遺伝子の1種以上の発現産物が挙げられる:B-MYB、PCSK7、STK15、ELK1、NOL1、MAGEA3/6、PIM1、CCND1、CDR2、およびRAF1、これらの全てはRB2/p130によって変調されうるものである。従って、様々な組織サンプル中の分子特性またはマーカーを同定することによって、患者の腫瘍発生の可能性を評価する基盤が提供されうる。そのような患者を、細胞傷害剤と併用してまたは併用せずに、上述のバックグラウンド療法を行うことは癌の予防に有効であろう。
【0084】
本発明はテロメラーゼインヒビターをベースとした癌治療を、皮膚癌、結合組織の癌、脂肪細胞の癌、乳癌、肺の小細胞肺癌と非小細胞肺癌(NSCLC)、胃癌、膵臓癌、卵巣癌、子宮頚部癌、子宮体癌、腎癌、膀胱癌、結腸癌、前立腺癌、肛門性器癌、中枢神経(CNS)の癌、網膜の、血液およびリンパの癌(前駆T細胞、前駆B細胞、胚中心細胞、活性化T細胞、またはReed-Sternberg細胞の中のCDK9/CYCLIN T1の発現の結果起こるリンパ腫)、ならびに本開示中の他の場所で言及しているその他の多数の癌などの広範な腫瘍および癌に用いることを包含している。
【0085】
該化合物を上述の用途および適応症に用いる際に単独で投与することは可能であるが、それらの化合物を医薬製剤とすることが好ましい。特に、薬事上のガイドラインに従って臨床適用を意図しているような状況においては、医薬組成物もしくは医薬製剤を、意図した適用法にとって適切な形態に調製することがおそらく必要であろう。一般的には、このことは本質的に発熱性物質およびヒトもしくは動物に有害となりうるその他の不純物を含まない組成物を調製することを必要とすることとなろう。本発明で用いるインヒビターは水(好ましくは無菌の飲料水)に溶解させることができ、または製薬上もしくは薬理学上許容される担体中に溶解させることができる。「製薬上もしくは薬理学上許容される」という用語は、動物またはヒトに投与したときに有害反応、アレルギー反応、またはその他の望ましくない反応を起こさない担体および組成物を意味する。組成物には全ての種類の溶剤、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤、および類似のものが含まれる。製薬上活性を有する物質としてそのような媒体および作用物を用いることは当業界ではよく知られている。
【0086】
ダブルカクテルの組み合わせでは、上述のとおり、少なくとも1種のテロメラーゼインヒビターと、そのテロメラーゼのインヒビターとは異なるL1RTのインヒビターとが入っていなければならない。それらのインヒビターは単一の組成物中に共存させることができ、または2種類の個別の組成物または製剤中に別々に入った形とすることができる。トリプルカクテルの組み合わせでは、少なくとも1種のテロメラーゼインヒビター、そのテロメラーゼのインヒビターとは異なるL1RTのインヒビター、およびテロメラーゼとL1RTのインヒビターとは異なる非L1RTのインヒビターが入ったものでなければならない。これらのインヒビターも単一の組成物もしくは製剤中に一緒に入った形、または3種類の個別の組成物もしくは製剤の形のいずれかとすることができる。
【0087】
これらの医薬組成物は何らかの適切な形態をとることができ、そのような形態としては経口投与可能な懸濁液もしくは錠剤;鼻腔スプレー;無菌の注射可能な剤型、例えば、無菌の注射可能な水性もしくは油性の懸濁液もしくは坐剤とすることができる。
【0088】
本発明の化合物および組成物の投与は一般的で適切な経路であって標的組織にその経路で到達しうるのであればいかなる経路を経由しても行える。このような経路としては、経口、経鼻、バッカル、もしくは皮膚局所が挙げられる。あるいはまた、投与は同所投与(orthotopic injection)、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、もしくは静脈内注射によるものとすることができる。いくつかの実施形態においては、該化合物または組成物は、例えば限定はされないが、経口、静脈内、筋肉内、および腹腔内投与などの投与経路を介して全身投与として投与することができる。例えば、被験者が転移性の病変を有していることが既知であるかまたはそれが疑われる場合には、全身投与の経路がおそらく好ましいであろう。そうすることによって、腫瘍部位は全て、それが原発性のものであれ二次性(転移性)のものであれ、薬剤を受け取ることとなろう。
【0089】
他の実施形態においては、該化合物と組成物は徐放性製剤の形態で投与され、そのために患者への反復投与や不都合を避けることができる。ペプチド製剤は急速に拡大しているクラスであるが、それらおよび非ペプチド治療剤、または薬理学的製剤のための送達システムとして、種々の形態の徐放性マイクロスフェアやマイクロカプセルも利用できるか、または開発されている。例えば、抗腫瘍剤、ペプチド、およびチオリダジンやケトチフェンなどの単純な基礎化合物の投与において、徐放性のマイクロスフェアやマイクロカプセルを用いうることは知られており、それらには生物分解性のポリマー材料が用いられている。さらに、例えば、種々の注射用デポ製剤で、生物分解性のポリマーで作られたマイクロスフェア中に治療用薬剤が被包され、そこから徐々に放出されるものが近年報告されている(米国特許第5,478,564号、第5,540,973号、第5,609,886号、第5,876,761号、第5,688,530号、第5,631,020号、第5,631,021号、および第5,716,640号)。事実、GnRH類似体(アゴニストとアンタゴニスト)の活性持続型の注射用デポ製剤が、哺乳類、特にヒトの種々の病的および生理学的状態の治療用として用いられているか、または現在試験されている(Kostanskiら, 2001, BMC Cancer, 1:18-24)。それらの治療法は、とりわけ、性ホルモン依存性疾患、例えば前立腺癌および子宮内膜症などの管理、ならびに男性不妊のコントロールのためのものである。従って、本発明の化合物またはカクテルの動物での持続的な放出は、生物分解性で生体適合性のポリマーを含有する組成物を用いて行うことができる。これらのポリマー性組成物の全てにおいて明白なゴールの1つは、ポリマーを用いずに溶液として製剤化した場合と比較して、対象の生物活性物質(例えば、ペプチドまたはタンパク質)の投与をより低頻度とすることができ、時には総投与量でもより低くすることができることである。長期徐放性製剤またはインプラントを使用することは、慢性の症状、例えば休眠中の転移病巣の存在が疑われる場合などの治療に特に好適である。本明細書中で長期の放出とは、製剤またはインプラントが上述のダブルもしくはトリプルカクテルの治療レベルを少なくとも30日間、少なくとも60日間以上、より好ましくは数ヶ月間送達するように作製されアレンジされることを意味する。
【0090】
被験者への本発明の化合物の投与においては、投与量、投与スケジュール、投与経路、および類似の事項は、これらの化合物の他の既知の活性に影響を及ぼすように選択される。例えば、投与量、投与スケジュール、および投与経路は本明細書に説明しているように選択することができ、それによって治療として細胞増殖を阻害するために有効なレベルが提供される。
【0091】
しかし、本発明のいくつかの実施形態では、該化合物または組成物は局所に投与される。いくつかの実施形態においては、該化合物または組成物は腫瘍を標的としている。このことは、特別な投与方法によって達成されうる。例えば、乳房の腫瘍や前立腺腫瘍などの容易に接近しうる腫瘍は、病変部位に直接的に穿刺して注射することにより標的とすることができる。肺腫瘍は投与経路として吸入を用いることにより標的とすることができる。吸入は全身的または局所送達のいずれにも用いることができる。好ましい経路は腫瘍内への直接注射、腫瘍血管系内への注射、または腫瘍部位が関連する局所もしくは領域への投与である。
【0092】
本発明の方法で用いられる化合物は、各化合物に特有の投与量範囲で哺乳類(例えば、ヒト)に投与することができる。RTのインヒビターとしてアンチセンスオリゴヌクレオチドが用いられる場合には、5〜50 μMの投与量で、好ましくは2'-o-メチルRNAの場合には30μM、またはアンチセンスオリゴヌクレオチドの場合には10μMで(Pittsら, 「ヒトテロメラーゼの2'-o-メチルRNAによる阻害」"Inhibition of human telomerase by 2'-O-methyl-RNA", Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95:11549-11554, 1998)、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドの場合には10μMで、またはヘキサマーのホスホロチオエートオリゴヌクレオチドの場合は10μMで投与することができ、この場合は3つの塩基からなるペアが炭素原子9個のホスホルアミダイトスペーサーで離されている(Mataら, 「ヘキサマー性のホスホロチオエートオリゴヌクレオチドテロメラーゼインヒビターはバーキットリンパ腫細胞のin vivoおよびin vitroでの増殖を停止させる」, "A hexameric phosphorothioate oligonucleotide telomerase inhibitor arrests growth of Burkitt’s lymphoma cells in vitro and in vivo", ppl. Pharmacol., 144:189-197, 1997;Pageら, 「一本鎖テロメア模倣体のOMA-BL1細胞に及ぼす作用」"The cytotoxic effects of single-stranded telomere mimics on OMA-BL1 cells", Cell Res., 252:41-49, 1999)。ジアミノアントラキノン誘導体などの小分子のRTインヒビターを例えば10μMで用いることができる(Perryら, 1998, 「ヒトテロメラーゼのインヒビターとしての1,4-および2,6-二置換アミドアントラセン-9,10-ジオン誘導体」"1,4- and 2,6-Disubstituted amidoanthracene-9,10-dione derivatives as inhibitors of human telomerase", J. Med. Chem., 41:3252-3260)。
【0093】
例えば、ヌクレオシド類似体をRTのインヒビターとして用いる場合には、1種のヌクレオシド類似体またはそれの製薬上許容される塩を、適切な投与経路で(例えば、経口または腸管外で)、1日あたり約10 mgから約4000 mgの間の投与量範囲の量を1日に1回から4回に分けて投与することができる。好ましい1回の投与量範囲は、約200 mgから約1200 mgでそれを8時間毎に投与することである。
【0094】
しかし、一般的には、適切な有効投与量は、1日あたりレシピエントの体重1 kgあたり0.1から250 mgの範囲であり、好ましくは1日あたり体重1 kgあたり1から100 mgの範囲、最も好ましくは1日あたり体重1 kgあたり5から20 mgであり、最適投与量は1日あたり体重1 kgあたり約10 mgである。所望の投与量は好ましくは、適切な間隔をおいて1日に2回、3回、4回以上のサブドーズ(sub-dose)に分けておく。それらのサブドーズは単位剤形、例えば10から1000 mgを含有する形態で投与することができる。
【0095】
例えば、アシクロビルまたはそのプロドラッグであるValtrex(登録商標)の好ましい投与量範囲は、1単位剤形あたり活性成分が100から400 mgである。プロドラッグの様々な投与形態は異なる投与量範囲を必要とする可能性があり、通常は代謝産物(例えばプロドラッグがValtrex(登録商標)である場合はアシクロビル)の血中濃度を測定することによって確立される。
【0096】
同様にして、例えば、ガンシクロビルまたはそのプロドラッグであるValcyte(登録商標)の経口製剤では治療上有効な量は、1日あたり体重1 kgあたり約1から250 mg、好ましくは約7から100 mg/kg体重/日までと様々である。従って、70 kgのヒトでは、治療上有効な量は約70 mg/日から約7 g/日、好ましくは約500 mg/日から約5 g/日である。ペンシクロビルとそのプロドラッグであるファムビルは一般的には1日あたり1から20 mg/kg体重で、より一般的には、2.0から10 mg/kg体重/日である。AZT(ジドブジン)の好ましい投与量範囲は、8時間毎に約50 mgから約600 mgの間である。ddIの好ましい投与量範囲は、1日2回約10 mgから約500 mgである。遺伝子毒性化学療法剤の投与量はある特定の疾患の治療について製造者によって推奨されている投与量とすることができる。
【0097】
上述のRTの種々のインヒビター(アシクロビル、Valtrex(登録商標)、ガンシクロビル、Valcyte(登録商標)、ファムビル、Retrovir(登録商標)、AZTすなわちジドブジン、およびVidex、Xeloda(登録商標)、シスプラチンその他)の投与量と投与方法のさらに詳細な説明は、Physician's Desk Reference, PDR, 第58版, 2004に記載されており、この内容は本明細書中に参照により組み入れる。
【0098】
本発明はまた、種々の動物モデルの使用をも包含している。テロメラーゼを発現する細胞系統を開発または単離することによって、種々の実験動物に疾患モデルを作ることができる。これらのモデルでは、様々な疾病の状態を模倣するために、皮下投与、同所性投与、または全身的な細胞投与を用いることができる。例えば、HeLa細胞系統はヌードマウスの皮下に注射してテロメラーゼ陽性の腫瘍を作ることができる。この結果得られた腫瘍はテロメアリピート増幅プロトコール(TRAP)アッセイでテロメラーゼ活性を示すはずである。このような動物モデルはヌクレオシド類似体を個々に、および組み合わせて試験するための有用なビヒクルを提供する。
【0099】
一般的には、ある細胞中のテロメラーゼ活性またはL1RT活性のレベルは、例えば、本出願の出願者らの「癌治療のためのテロメラーゼ陽性細胞中のテロメア長の調節」"Modulation of Telomere Length in Telomerase Positive Cells For Canther Cancer Therapy"というタイトルの2005年3月25日出願の米国特許出願60/655,105、および「Line-1逆転写酵素の調節」"Modulation Of Line-1 Reverse Transcriptase"というタイトルの2005年1月18日出願の国際特許出願PCT/US05/001319で説明されているとおりに測定することができ、これらの特許出願は本明細書中に参照により組み入れる。ある細胞中のテロメラーゼ活性(またはL1RT活性)のレベルは、現在用いられている他の何らかの方法または同等の方法によって測定することもできる。テロメラーゼ活性またはL1RT活性が「上昇している」とは、ある特定の細胞内のテロメラーゼ活性またはL1RT活性の絶対レベルが、その細胞が由来した被験者もしくは個体の正常な細胞と比較するとき、またはそれ以外の該症状に罹患していない被験者もしくは個体中の正常細胞と比較するとき、上昇していることを意味する。そのような症状の例としては、癌、または正常な状態ではその個体に存在しない細胞が存在していることに伴う症状が挙げられる。
【0100】
ある化合物の有効性をin vivoで調べることには、種々の判断事項が関わり、それらとしては、限定はされないが、生存度、腫瘍の退縮、腫瘍増殖の停止もしくは減速、腫瘍の排除、および転移の阻害もしくは予防が挙げられる。
【0101】
供試化合物を用いて動物の治療を行うということには、適切な形態の該化合物または組成物をその動物に投与することが含まれる。本発明の医薬組成物、阻害剤もしくはアンタゴニストの性質を有する薬剤は、様々な方法で投与することができ、そのような方法としては、限定はされないが、経口、腸管外、経鼻、バッカル、直腸、経膣、または皮膚局所への投与が含まれる。あるいはまた、投与は気道内注入、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、または静脈内注射によるものとすることができる。特に意図している方法は全身的静脈内投与、血液またはリンパ液を介する、領域への投与、および腫瘍内注射である。
【0102】
本発明の非環状ヌクレオシド類似体および/または組成物(この組成物は従来技術の非環状および非環状ではないヌクレオシド類似体を含めることができる)は、多数の態様において重要となろう。それらは選択的インヒビターとして有用であり、テロメア伸長の機作を切り換えるために細胞に選択的な圧力をかけることに有用である。それらはテロメラーゼ/L1RT関連の癌の治療のためのレジメンにおいて、単独で、または癌治療の分野の当業者には既知の化学療法および/または放射線療法のレジメンと組み合わせて、重要なものとなろう。あるいはまた、テロメラーゼまたはL1RTの活性を単純に低下させることによって、これらの化合物は癌細胞の多量のアポトーシスを選択的に誘導する手段となるであろう。
【0103】
該ヌクレオシド類似体は、増殖性疾患その他の治療のために、その疾患を有している宿主に生理学的または製薬上許容される担体中に入った形で投与することができる。製薬上許容される担体の決定は、部分的には投与される特定の組成物を考慮することによって、ならびにその組成物を投与するために用いる特定の方法を考慮することによって、行われる。
【0104】
本発明の1態様においては、哺乳類で不適切にまたは病的に増殖している細胞、または不死細胞の存在に起因する障害を予防または治療するための方法が提供される。その不適切にもしくは病的に増殖する細胞、または不死細胞は、細胞の正常な調節メカニズムとは独立に存在し、増殖する。これらの細胞は、細胞性のエレメント、すなわちテロメラーゼの活性の結果として正常細胞からは逸脱したものとなるので、病的な細胞である。当然のことながら、本明細書で用いている、不適切に増殖している細胞には良性の過増殖している細胞もあるが、特別に断らない限りは、不適切に増殖している細胞とは、悪性の過増殖している細胞、例えば、全ての種類の癌細胞などを意味し、そのような細胞としては、例えば、骨肉腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、副腎皮質癌、黒色腫などが挙げられる。本発明の1実施形態においては、移植後リンパ増殖病(PTLD)、これは血液の癌であるが、この疾患は本明細書で意図している癌の範囲から除かれる。
【0105】
とりわけ、テロメラーゼを発現していることが特徴であるヒトの腫瘍の予防または治療のための方法が提供される。このような疾患の予防または治療は、本発明に従えば、本発明の非環状ヌクレオシド類似体(テロメラーゼのインヒビターまたはアンタゴニスト)の使用によって行いうる。本発明の1実施形態においては、本発明で用いられるインヒビターまたはアンタゴニストは、テロメアの伸長に関与しているテロメラーゼと直接的に相互作用してその活性を阻害する非環状ヌクレオシド類似体、および/またはテロメア中に組み込まれてテロメラーゼが機能していてもテロメアがさらに伸長することを防ぎ、それによってテロメラーゼを発現している細胞の増殖を阻害するものである。従って、テロメラーゼのインヒビターまたはアンタゴニストは細胞の増殖の阻害のために用いられる。例えば、テロメラーゼのインヒビターまたはアンタゴニストが患者に投与される際には、それらは細胞内での進行性のテロメア短縮、細胞サイクルアレスト、および/またはテロメラーゼを発現している細胞の多量のアポトーシスを生じさせる。本発明では、「増殖を阻害する」または「増殖の阻害」とは細胞分裂を低減させる、または妨げることをも意味する。本発明でのテロメラーゼを発現している細胞の増殖の阻害は、約100%かそれより低い値だが0%ではない。例えば、その阻害は対照の細胞の阻害と比較して(対照の細胞はテロメラーゼを発現するがインヒビターまたはアンタゴニストで処理されていない細胞である)、約10%から約100%であり、好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約50%、さらにより好ましくは約90&、95%、または正確に100%である。増殖の阻害は当業界で既知の何らかの方法によっても測定することができる。例えば、処理したサンプル中の生細胞数を、インキュベーション後に生体染色法を用いて測定して、対照のサンプル中の生細胞数と比較することができる。さらに、増殖阻害は、トリチウム取り込みアッセイ、BdU取り込みアッセイ、MTTアッセイ、細胞巣形成能の変化、細胞固定依存性、または不死化喪失、腫瘍特異的マーカーの喪失、および/または動物宿主中の注射した場合に腫瘍を形成または抑制する能力がない、などで、in vitroまたはin vivoで細胞増殖の低減を検出することのできるアッセイ法で測定することができる(Dorafsharら, 2003, J. Surg. Res., 114:179-186;Yangら, 2004, Acta Pharmacol. Sin., 25:68-75)。
【0106】
単一の不死化した細胞または数個のそのような細胞からの癌性の腫瘍への発達は、ヒトでは数ヶ月から数年を要する。しかし、本発明を行うことによって、1種以上の非環状ヌクレオシド類似体を含有する組成物で処理した腫瘍性細胞が腫瘍にまで増殖してしまう前にその増殖能を失うので、癌を防ぐことができる。さらに、癌が臨床的に顕在化する前に腫瘍の進行を止めるためにリスクグループに定期的にインヒビターやアンタゴニストを予防的投与すれば、癌の新規患者数の比率を著しく低減しうるであろう。
【0107】
該ヌクレオシド化合物は単独でまたは他の異なるヌクレオシド類似体と組み合わせて、経口投与を含む全ての投与経路で投与することができる。非環状ヌクレオシド類似体SN1、SN2は好ましいヌクレオシド類似体で、SN1は最も好ましい。従来技術で既知の非環状ヌクレオシド類似体であるACV、GCV、またはそれらのL-バリルエステルであるバルガンシクロビル(V-GCV)およびバラシクロビル(V-ACV)は好ましいヌクレオシド類似体である。これらは全て市販されており、製剤については多数の特許および出版物中で述べられている。
【0108】
テロメラーゼ活性および/またはL1RT活性を有する細胞は選択的に標的となるはずであるが、それはこれらの細胞がテロメアの伸長や維持をテロメラーゼおよび/またはL1RTに依存しており、また、テロメアの伸長や維持にはヌクレオシドおよび/もしくはそれらの類似体とテロメラーゼもしくはL1RTとの相互作用を必要とするからである。該類似体を送達して抗癌作用を発揮させるために何らかの特異的標的剤が所望されるのであれば、式(I)から(VI)の化合物、PCVもしくはACVもしくはGCV、および/またはその他の類似体を使用することを意図している。従って、いくつかの実施形態においては、医薬組成物は活性化合物、この場合には式(I)から(VI)、PCV、ACV、およびGCVの化合物のいずれかを、特定の標的細胞または細胞内の核酸部分への特異的な送達のためのターゲティング剤(例えば、ペプチド)と結合させたものを含んだものとすることができる。
【0109】
テロメラーゼおよびL1RTのインヒビターまたはアンタゴニストの投与量は当業者であれば日常的に行っている実験によって定めることができる。患者への投与前に、標準的な実験動物モデルで有効性を示すことができる。この点に関しては、テロメラーゼで誘導される癌の動物モデルとして当業界で既知のどのような動物も用いることができる(Hahanら, 1999, Nature Medicine, 5(10):1164-1170;Yeagerら, 1999, Cancer Research, 59(17):4175-4179)。本発明の方法を用いて治療を受けることとなる被験者、または患者は、好ましくはヒトであり、胎児、小児、または成人のいずれであってもよい。治療しうるその他の哺乳類としては、マウス、ラット、ウサギ、サル、およびブタを挙げることができる。
【0110】
本発明の非環状ヌクレオシド類似体、インヒビター、またはアンタゴニストは単独で、または他の化学療法剤と組み合わせて用いることができる。例えば、テロメラーゼで誘導された癌の治療は、テロメラーゼまたはいくつかの他の要因によって誘導された癌を治療するための化学療法および/または放射線療法と組み合わせることができる。当業者には既知の化学療法剤の例としては、限定はされないが、ブレオマイシン、マイトマイシン、ナイトロジェンマスタード、クロラムブシル、5-フルオロウラシル(5-FU)、フロクスウリジン(5-FUdR)、メトトレキセート(MTX)、コルヒチン、およびジエチルスチルベストロールなどの抗癌剤が挙げられる。組み合わせ治療を行うには、本発明のインヒビターコンポーネントを別の抗癌剤(化学療法剤または放射線)と組み合わせて、動物または患者の体内で抗癌作用が組み合わされてもたらされるように、動物にそのまま投与する。従って、それらの薬剤は、標的の細胞のある領域にそれらが組み合わされて存在することとなるような量と回数で提供される。このゴールを達成するために、それらの薬剤は同時に投与することができ、また化学療法剤の場合には、単一の組成物とするかまたは2つの別々の組成物として異なる投与経路を用いることができる。あるいはまた、2種類の治療法をお互いが先行、または後を追って、例えばその間隔を数分から数時間または数日間とすることができる。例として、限定するものではないが、成人の全身投与用のGCVの一日量の平均を100 mg/kg/日とし、マウスおよびヒトの幼児には50 mg/kg/日とすることができる。
【0111】
治療しようとする被験者の症状によっては投与量にいくらかの変動があってもよい。投与について責任を持つ担当医は個々の患者について適切な投与量を決めることができ、その投与量は対象となる患者の種々の因子、例えば、年齢、病状、病歴、その他によって変わりうる。
【0112】
従って、本発明の方法は、テロメラーゼが誘導する病的な細胞の増殖を伴う症状と疾患のための治療に用いることができる。本発明を治療に用いることで利益のある疾患としては、細胞の過剰増殖を特徴とする全ての疾患が含まれ、例えば、固形癌および白血病、ならびに癌でない状態(non-cancer condition)が挙げられる。さらに、本発明の方法を、in vivoの状態のみならずex vivoの状況においても、癌細胞の増殖の阻害に用いることも意図している。本発明の方法は病的に増殖しているヒト細胞の増殖をex vivoで阻害するために特に有用であり、そのような細胞としては限定はされないが、ヒトの癌細胞−骨肉腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、副腎皮質癌、または黒色腫が挙げられる。
【0113】
本発明は、細胞内でのテロメラーゼの発現によって、不適切に、病的に、または異常に増殖している細胞を同定するための方法とキットを提供する。それらの方法は、患者の体内の癌細胞または腫瘍の存在の診断を、その患者から得られた組織中のテロメラーゼ発現の存在(および/またはそのレベル)を測定することによって行うスクリーニング方法として用いることができ、テロメラーゼの発現が高いレベルで存在することは癌細胞または患者の体内の病的な細胞増殖を示すものである。
【0114】
例えば、癌性の腫瘍サンプルは、本発明の非環状ヌクレオシド類似体の存在下で増殖できないことによって、診断することができる。この診断法はさらに、テロメラーゼ特異的mRNA発現の検出にも関係し、それは種々の方法で測定することができ、そのような方法としては、限定されないが、核酸を用いたハイブリダイゼーション、ノーザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、RNAマイクロアレイ、RNAプロテクションアッセイ、RT-PCR、リアルタイムRT-PCR、または様々な方法で測定しうるテロメラーゼ触媒サブユニットをコードするタンパク質の存在が挙げられ、そのタンパク質の測定法としては限定されないが、ウエスタンブロッティング、免疫沈降法、もしくは免疫組織化学的方法、またはテロメラーゼの酵素活性(TRAPアッセイおよびその変法4,26,27)が挙げられる。
【0115】
好ましい1実施形態においては、急速に増殖している組織、例えば原発性癌細胞、それらにはヒト骨肉腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、副腎皮質癌、または黒色腫が含まれるが、それらテロメラーゼ触媒サブユニットRNAのmRNAレベルの存在および/または増加を検出ために、テロメラーゼ触媒サブユニットRNAに対して方向付けられた核酸プローブを用いることができる。従って、本発明は、癌細胞を含む病的に増殖している細胞を検出し同定するために、テロメラーゼの部分配列に対して相補的な核酸プローブを用いる方法を提供する。例えば、病的に増殖している細胞を同定するための方法には、hTERT mRNAまたはL1RT mRNAに対して方向付けられた核酸プローブを用いて、供試細胞中のhTERT mRNAまたはL1RT mRNAの発現レベルと対照の細胞中でのhTERT mRNAまたはL1RT mRNAの発現レベルとを比較することが含まれる。hTERTまたはL1RTの発現レベルが対照の細胞と同様に観察された場合に病的に増殖している細胞と同定される。しかし本発明で用いられる核酸プローブはヒト、マウス、またはその他の哺乳類のhTERT mRNA配列またはL1RT mRNA配列と実質的に相補的なものとすることもできる。
【0116】
当業者であれば、該核酸プローブが病的に増殖している細胞(例えば、癌細胞)中のhTERT mRNAまたはL1RT mRNAを効果的に検出する能力に影響を与えずに、そのプローブ中に置換部分を作ることができ、そのような置換が本発明の範囲内に包含されることは明白に理解できるであろう。本発明の方法で用いる核酸プローブは、DNAプローブ、またはペプチド核酸プローブ、ホスホロチオエートプローブ、もしくは2'-o-メチルプローブなどの修飾プローブとすることができる。核酸プローブの長さは、約8個または10個から50 個のヌクレオチド、好ましくは約15個から25個のヌクレオチドの長さである。本発明の方法は、ヒト、哺乳類、またはその他の脊椎動物から得た細胞抽出物、培養細胞、または組織サンプルで容易に行うことができる。
【0117】
本発明の方法は、in vitroの細胞、細胞培養中、およびヒトの細胞や組織、例えば固形腫瘍と癌(例えば、ヒトの骨肉腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、副腎皮質癌、または黒色腫)などの細胞中のテロメラーゼの発現によって不適切に、病的に、または異常に増殖している細胞を検出するために有用である。
【0118】
本発明はまた、過剰に増殖している細胞または癌細胞を検出および/または阻害するためのキットをも提供する。そのキットは式(I)から(VI)の化合物、および任意でPCV、ACV、GCV、バルガンシクロビル、バラシクロビル、またはその他の非環状ヌクレオシド類似体を有するものとすることができ、および/またはhTERT mRNAまたはL1RT mRNAの部分配列に対して完全にもしくは実質的に相補的な核酸プローブを有するものとすることができる。
【0119】
本発明の医薬組成物、阻害剤もしくはアンタゴニストは、様々な方法で投与することができ、そのような方法としては、経口、皮膚局所、腸管外例えば皮下、腹腔内、ウイルス感染によって、血管内、その他が挙げられる。導入方法の如何によって、該化合物は様々な方法で製剤化することができる。経口投与に適した製剤は液状溶液とすることができる。腸管外投与(例えば、関節内、心室内、鼻腔内、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、および皮下経路)に適した製剤としては、水性および非水性、等張の滅菌注射溶液が挙げられる。本発明の実施においては、組成物を例えば静脈内輸注、経口、皮膚局所、腸管外、または腹腔内投与によって投与することができる。経口投与と腸管外投与が好ましい投与方法である。製剤化と投与のための技法は当業界では日常的に行われていることであり、さらに詳細な説明は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (2000), Gennaro AR(編), 第20版, Maack Publishing Company, Easton, PA中に記載されている。
【0120】
治療上有効な量または薬理学上有効な量は当業界ではよく知られたフレーズであり、ある作用剤が意図している薬理学的結果を生み出す量を意味する。例えば、治療上有効な量とは、時が経つにつれて患者が有益な治療的応答を示すために(すなわち、患者の疾患または症状を治療するため、または治療しようとしている疾患の症状を軽減させるために)十分な量である。実際に投与される量は治療が行われる個人によって変わることとなり、好ましくは、重大な副作用がなく所望の効果が達成されるような最適な量である。下記にさらに詳述するとおり、投与量は用いる特定のインヒビターまたはアンタゴニストの有効性および当該患者の病状、ならびに治療を受ける患者の体重や体表面積によっても定めることができる。該投与量のサイズも、例えば、ある特定の作用物、ベクター、または形質導入された細胞のある特定の患者への投与に伴う副作用の存在、性質、およびその程度によっても定められる。
【0121】
テロメラーゼ/L1RTがメディエートする癌の発生を予防、阻害、または低減させることのできる作用物の治療上有効な投与量は、本明細書で開示した細胞培養アッセイから、および/または動物モデルを用いたin vivoアッセイから得られるデータを用いて容易に定められる。その動物モデルはヒトにおける適切な投与量範囲および投与経路の決定にも用いることができる。臨床環境での投与量を定める前に、適切な治療的投与量を最適化するために、ヒト由来の固形腫瘍を有する実験動物(または業界で受容されている動物モデル)がよく用いられている。そのようなモデルは効果的な抗癌治療の方策を予言することにおいて非常に信頼しうるものであることが知られている。例えば、固形腫瘍を有しているマウス、または業界で受容されているマウスモデルは、毒性を最小限に抑えつつ有益な抗腫瘍効果をもたらすような治療用剤の使用範囲を定めるための前臨床試験において広く用いられている。業界で受容されているモデルにおいて既に示されている安全性から、少なくとも本明細書で例示しているヌクレオシド類似体については、本発明の前臨床試験はルーティンの実験以上のものとなろう。in vivoでの有効性は、腫瘍形成(進行)の阻害、腫瘍の縮退、または転移、および類似の事項を測定するようなアッセイを用いて予言することができる。
【0122】
癌のモデルとしてヒトHeLa癌細胞系統から増殖させて皮下腫瘍を有するヌードマウス(すなわち、異種移植片を有するマウス)を用いて式(I)から(VI)の化合物、ACV、PCV、および/またはGCVの抗腫瘍性を調べるためのin vivoアッセイの代表的な例を以下に説明する。
【0123】
in vivoアッセイに必要なヒトの癌細胞は例えば、次のように調製することができる:テロメラーゼ陽性HeLaヒト細胞系統およびテロメラーゼ陰性のU-2 OSヒト細胞系統を公的なソースから入手する。5% CO2、加湿雰囲気下で、10%ウシ胎児血清を添加したD-MEM培地中で37℃で維持する。
【0124】
in vivoアッセイには適切な宿主、例えば約5〜7週齢のヌードマウス(nu/nu)を入手して病原体のない条件下で維持する。メトファンで簡易麻酔したマウスの全てに200μLの無血清培地中に約1 x 106個のHeLa細胞(および/またはU2 OS細胞)を含んだものを、側面の皮下(s.c.)に入れる。次いで、それらのマウスを実験群と対照群に分ける。適切な濃度の、式(I)から(VI)の化合物、ACV、PCV、および/またはGCVが腫瘍増殖進行または縮退アッセイに用いられる。
【0125】
1実施形態においては、既に発生した腫瘍の大きさの減少(縮退)ではなく、皮下の腫瘍増殖の減弱、または進行への時間が評価される。この実施形態においては、0日目から、実験群のマウスはGCVを入れた飲料水の投与は、その飲料水を自由に摂取させることによって開始される。水中のGCVの濃度は2 mg/mLとすることができる。GCVの新しい溶液は3日毎に供給される。対照群のマウスは飲料水のみを摂取する。腫瘍は2〜3日毎に測定する。腫瘍が1 cm3を超える大きさとなった場合にはマウスを屠殺する。腫瘍体積は腫瘍の半径をrとして4/3πr3で計算する。対照群のマウスは全て腫瘍を発生するはずであり、実験群のマウスは腫瘍が発生していないはずである。
【0126】
別の1実施形態においては、本発明の薬剤と方法を、あらかじめ腫瘍が発生している免疫機能が正常な動物でのin vivoでの腫瘍の縮退を促進するために用いることができる;すなわち、本発明の薬剤は既に存在している腫瘍を有する動物の治療に用いることができる。この場合には、106個のマウスヘパトーマMH-22細胞または類似の細胞を、C3HAマウスの側面に皮下注射して腫瘍を発生させる。腫瘍細胞移植後に腫瘍の発生していれば、実験群のマウスには飲料水中にファムビルi.g.を含んだ組成物を自由に摂取させて投与し、対照群のマウスには同じ組成物でが薬剤を含まないもの(例えば、蒸留水)を投与する。腫瘍の増殖は2〜3日毎に調べる。腫瘍を有しているこれらのマウスに対して式(I)から(VI)の化合物のいずれかを約30日間投与すると、腫瘍増殖の遅延を観察することができる。このような腫瘍細胞増殖の阻害は対照群では見られない。治療開始から2〜3週間後では、式(I)から(VI)の化合物のうちの少なくとも1種を含有する組成物で治療を受けた動物のみ、腫瘍を発生した動物のうち非常に多い数の動物で完全な腫瘍の縮退が見られるはずである。
【0127】
別の1実施形態においては、アポトーシスの促進を調べるin vivoアッセイ法も用いることができる。この実施形態においては、異種移植片を有している動物を治療用組成物で治療し、その動物についてアポトーシスを起こしている細胞巣の存在を調べ、異種移植片を有しているが治療を行わなかった対照の動物と比較する。治療した動物の腫瘍内で見出されるアポトーシスを起こしている細胞巣の程度は、その組成物の治療上の有効性を示している。
【0128】
ヒトのテロメラーゼでメディエートされる癌(早期の腫瘍および血管の通った腫瘍の双方)の治療のための薬剤の適切な投与量をデザインする際には、臨床での投与に適切な投与量を定めるために、本明細書に記載の動物での研究から容易に外挿することができる。このような変換を行うには、実験動物の単位体重あたりで投与された薬剤の量で説明することができ、好ましくは、実験動物とヒトの患者の間の体表面積の差で説明することができる。このような計算は全て当業者にはよく知られており、日常的に行われているものである。従って、治療上有効な投与量の決定は当業者であれば、十分に行うことのできる範囲のことである。
【0129】
例えば、細胞培養アッセイおよびマウスでの研究で、式(I)から(VI)の化合物の成功を収める投与量を求め、体重と体表面積に基づいた標準的な計算法を適用すると、成人患者における有効投与量は、1日に1人の患者あたり、式(I)から(VI)の化合物の約1000 mgから約6000 mgの間となり、好ましくは1日に1人の患者あたり約500 mgから約1000 mgの間となる。この情報を用いて、本明細書では、ヒトへの投与用の低投与量の治療用剤(例えば、SN1、SN2、アシクロビル、ガンシクロビル、ペンシクロビル、および対応するプロドラッグ、すなわち、バラシクロビル、バルガンシクロビル、およびファムシクロビル)の投与量は、1日1患者あたり約1、5、10、20、25、または約30 mg程度、ヒトへの投与用に有用な高投与量の治療用剤の量は、1日1患者あたり約250、300、400、450、500、または約600 mg程度の量を意図している。有用な中間的投与量は、1患者あたり約40 mgから約200 mg程度までの範囲とすることができる。
【0130】
ここで述べた投与量の範囲にかかわらず、本明細書に示したパラメーターと詳細なガイダンスがあれば、活性を示す、または最適な投与量範囲をさらに変えることが、本発明の範囲内に包含されることは理解されよう。本発明の治療レジメンの意図するところは、一般的には、許容しえない毒性を伴うような量未満の投与量を保ちつつ、顕著な抗腫瘍作用を生み出すことである。投与量そのものを変えることに加えて、投与レジメンは治療のストラテジーを最適化するために改変させることもできる。現在のところ好ましい治療のストラテジーは、約1〜500 mgの間の量、好ましくは約10〜100 mgの間の量のテロメラーゼのインヒビターもしくはアンタゴニスト、またはそのようなものを含んでいる治療用カクテルを、約60日間以内に約4回投与することである。例えば、投与は第1日目、第3もしくは4日目、および第6もしくは7日目に行われる。投与は単回もしくは数回に分けた投与を、経口で、または、例えば固形腫瘍の部位への直接投与もしくは徐放性製剤で行うことができる。投与に責任を持つ医師は、本開示を考慮して、個々の被験者、投与剤型と投与経路に適切な投与量を決定することができよう。このような最適化と調整は当業界では日常的に行われており、過大な量の実験を行ってそれを反映させる必要はない。ある特定の投与形態のものを投与するに際しては、それが無菌性、発熱性物質不含、高純度、一般的な高安全性などの薬事上のスタンダードに従った、製薬上許容される組成物という形でヒトの患者の全身用として提供されることが好ましい。検診、腫瘍の測定、および臨床検査は、当然のことながら、治療前と治療後1から2、3ヶ月目まで一定の間隔で行うべきであり、当業者であればそのような日常的な手順をどのように行うか承知しているであろう。臨床的な患者の応答は何らかの許容される尺度によって定義することができる。例えば、完全な応答とは、治療後のある一定の期間内に測定可能な腫瘍の全てが消失していることと定義することができる。
【0131】
しかし、ある特定の患者についてのその患者に特有の投与量レベルおよび投与頻度は様々であり、用いた特定の化合物の活性、その化合物の作用の代謝での安定性と作用時間、年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事の状態、投与方法と時間、排泄速度、薬剤の組み合わせ、その患者の病状の重症度、および患者が受けている治療法の如何によって変わる。究極的には担当医または担当獣医の裁量によることとなろう。
【実施例】
【0132】
下記の実施例は本発明の好ましい実施形態を説明するために提示するものであるが、当然のことながら、いかなる形であろうとも本発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。下記の実施例は特に詳細に断らない限りは、当業者にはよく知られ日常的に用いられている従来の技術を用いて行ったものである。さらに、実施例中に開示した技術は、本発明の実施においてうまく機能するように発明者によって見出された技術を代表するものであり、従って本発明の実施のための好ましい様式を構成するものと考えうることは当業者には理解されるべきである。しかし、当業者は、本発明の開示を見れば、開示されている特定の実施形態に多数の変更を行うことができ、また本発明の精神と範囲から逸脱することなく類似のまたは同様な結果を得ることができることは、理解すべきである。
【0133】
〔実施例1〕非環状ヌクレオシド類似体のトリホスホエートによるin vitroでのテロメラーゼの直接的阻害
非環状ヌクレオシド類似体3リン酸の生合成と単離については既に報告されているとおりに行った(Agbaria, R. ら, 「ガンシクロビル3リン酸の生合成:ガンシクロビルで処理した単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼで変換されたマウス細胞からの単離と特性の検討」"Biosynthetic ganciclovir triphosphate: its isolation and characterization from ganciclovir-treated herpes simplex thymidine kinase-transduced murine cells", Biochem Biophys Res Commun, 2001, 289:525-30)。
【0134】
簡潔に記せば、107個のU-2 OS細胞を90 mMのACV、または45 mMのGCV、または45 mMのPCVと48時間インキュベートした。細胞をPBSで洗い、トリプシン処理して採取した。遠心後、細胞ペレットを60%メタノールを用いて抽出した。抽出液を95℃で2分間加熱した後、真空下で蒸発させた。乾燥ペレットを100 μLのPCRグレードの水に溶解した。
【0135】
HeLa細胞抽出物を用いてリアルタイムTRAPアッセイを上述のとおり行った。非環状ヌクレオシド類似体のトリホスホエートによるテロメラーゼの直接的阻害を示すために、TRAPアッセイ用のマスターミックス中に5μLの非環状ヌクレオシドで処理したU-2 OS細胞から得た粗抽出物を添加した。
【0136】
この結果、PCV-TP、GCV-TP、およびACV-TPはこれらの条件下でテロメラーゼを10倍から100倍、直接的に阻害することを示した。
【0137】
〔実施例2〕テロメラーゼ陰性のALT細胞およびテロメラーゼ陽性細胞におけるテロメアの短縮、G2アレスト、およびアポトーシスの誘導
(a)AZT処理またはガンシクロビル処理後のテロメラーゼ陰性ALT細胞中でのテロメラーゼ短縮、G2アレスト、およびアポトーシスの誘導は次のように行った:
ALTの機作によってテロメアが維持されることが報告されている、2種類の細胞系統(U-2 OSおよびSaos-2骨肉腫)中のL1特異的RNAを検出するために、総mRNAをL1レトロトランスポゾン特異的プローブを用いてドットブロッティングで分析した。テロメラーゼが陽性であることが報告されている細胞系統(HEC-1およびHeLa)を比較のために用いた。ALT細胞系統(U-2 OSおよびSaos-2骨肉腫)のどちらもこの試験で陽性を示した。これまでに報告されているとおり、HEC-1細胞は完全に陰性で、HeLa細胞ではL1転写産物の痕跡のみが認められた。
【0138】
ALT細胞系統をAZTの治療に用いられる濃度で処理し、テロメアDNA合成の低下がAZT-TPによって阻害され、それによってテロメアの短縮が誘導されうるか調べた。AZT処理および非処理の細胞系統をテロメア特異的ペプチド核酸(PAN)プローブを用いてフローサイトメトリーで測定した。細胞サイクルの分布を調べるために、細胞をヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。14日間のAZT処理の後、2種のALT細胞系統はどちらもテロメアの短縮、多量のアポトーシス、およびG2アレストが見られた。ALT細胞系統についてAZTによって誘導されるテロメア短縮の特異性を確認するために、テロメラーゼが陽性であることが既知であるHeLa細胞を同一条件下でAZTで処理した。選択した濃度でAZTはHeLa細胞集団内のテロメアの長さや細胞サイクルの分布に影響を及ぼさなかった。
【0139】
テロメア短縮およびDNA合成速度、動態の変化を示すために、U-2 OS細胞をAZTの様々な量と処理時間で処理し、同時にフローサイトメトリーで分析した。DNA合成速度は、5-ブロモデオキシウリジン(BdU)の取り込みで測定した。結果は進行性のテロメア短縮およびDNA合成の低下を示していた。特記すべきは、細胞サイクルの分布、DNA合成、およびテロメア長の変化が急速であり、AZT処理後わずか10日間後には検出できたことである。
【0140】
同時に、PI染色では、非処理の細胞と比較すると、処理の後期のステージではAZT処理した細胞内の方がDNA含量が高いことを示していた。この事実の合理的な説明は、短いテロメアが誘発した染色体の末端から末端への結合である。AZT処理したALT細胞におけるアポトーシスの誘導はp53とは無関係と思われるが、それはU-2 OSおよびSaos-2は、p53+/+およびp53-/-の癌細胞系統をそれぞれ代表するものだからである。
【0141】
別に、U-2 OS細胞でも、テロメアDNAの合成の低下をGCV-TPが阻害することができテロメアの短縮が誘導されうることを示すために、グアニン類似体であるガンシクロビル(GCV)の治療濃度を用いて処理した。非処理の細胞とGCV処理細胞のテロメアの長さを上述のテロメア特異的PNAプローブを用いてフローサイトメトリーで測定した。
【0142】
細胞サイクルのどの位置に分布しているか調べるために、細胞をヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。0.3 μg/mLの濃度のGCVでU-2 OS細胞を14日間処理した後、それらの細胞はテロメアの短縮、多量のアポトーシス(プログラムされた細胞死)およびG2アレストを示した。
【0143】
(b)テロメラーゼ陽性の癌細胞を、ガンシクロビル(GCV)およびアシクロビル(ACV)で処理した後の、細胞内でのテロメアの短縮、G2アレスト、およびアポトーシスの誘導は、下記のように行った。
【0144】
2種類の細胞系統(HeLaおよびNuTu-19)内のテロメラーゼ特異的活性の検出のために、リアルタイムTRAPアッセイを行った。テロメラーゼが陽性であることを知られている細胞系統(HeLa)を比較のために用いた。2つの細胞系統は双方ともこの試験で陽性であった。
【0145】
これらのテロメラーゼ陽性細胞系統の細胞内部でテロメアDNA合成が阻害されうること、およびそれによってテロメアの短縮が誘導されることを調べるために、これらの細胞系統を治療濃度のGCV(1.5μM)またはACV(3.0μM)で処理した。GCVおよびACV処理細胞系統と非処理の細胞のテロメアの長さをテロメア特異的ペプチド核酸(PNA)プローブを用いてフローサイトメトリーで測定した。細胞サイクルのどの位置に分布しているか調べるために、細胞をヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。2種の薬剤でそれぞれ14日間処理した後、2つの細胞系統は双方ともテロメアの短縮、多量のアポトーシスおよびG2アレストを示した。
【0146】
細胞サイクルの分布の変化を調べるために、HeLa細胞およびNuTu-19細胞をGCVまたはACVで14日間処理し、PIで染色し、フローサイトメトリーで同時に分析した。その結果は、細胞サイクルがG2で停止していることを示していた。変化は急速で14日間にすぎないACV処理後でも検出しえたことに注目するのは重要なことである。これに対して、ヌクレオシド類似体AZTは、例えば100μMのような高い濃度であっても、テロメラーゼ陽性細胞HeLaおよびNuTu-19の細胞内でテロメア長や細胞サイクルの分布の影響がなかった。
【0147】
同時に、PI染色では、非処理の細胞と比較すると、処理の後期のステージではGCVまたはACVで処理した細胞内の方がDNA含量が高いことを示していた。この事実の合理的な説明は、短いテロメアが誘発した染色体の末端から末端への結合である。
【0148】
これらの細胞系統の起源は子宮頚癌(HeLa)および上皮性卵巣癌(NuTu-19)である。細胞は10%ウシ胎児血清を添加したD-MEM培地中で5% CO2の加湿雰囲気下で37℃で培養した。細胞のGCVでの処理は、培地に1.5μMのGCV(Cymevene, Hoffman-La Roche)を添加して行った。細胞のACVでの処理は、培地に3μMのアシクロビル(Acyclovie, TEVA Pharm. Ind. Ltd. Israel)を添加して行った。
【0149】
リアルタイムTRAPアッセイは既に報告されているとおり行った(Wegeら, 「テロメラーゼ活性の迅速定量のためのSYBR Green リアルタイムテロメア性反復配列増幅プロトコール」"SYBR Green real-time telomeric repeat amplification protocol for the rapid quantification of telomerase activity", Nucleic Acids Res. 2003; 31(2):E3-3)。フローサイトメトリーによるテロメア長の測定は、既に報告されているとおり(Rufer, N., Dragowska, W., Thombury, G., Roosnek, E., Lansdorp, P.M., 「ヒトリンパ球サブポピュレーションでのテロメア長の動態をフローサイトメトリーで測定した」"Telomere length dynamics in human lymphocyte subpopulations were measured by flow cytometry", Nat. Biotechnol., 16:743-747(1998))、細胞をテロメア特異的FITC結合(C3TA2)3PNA(Applied Biosystems)プローブで染色し、0.06 μg/mLのPIで対抗染色した。
【0150】
このようにヌクレオシド類似体GCVおよびACVが、広く受容されているモデル系において、テロメラーゼ陽性癌を明確にブロックすることが示された。
【0151】
(c)アシクロビル(ACV)、ガンシクロビル(GCV)、およびペンシクロビル(PCV)処理後のテロメラーゼ陽性癌細胞内でのテロメア短縮、G2アレスト、およびアポトーシスの誘導は下記のとおり行った。
【0152】
テロメラーゼ陽性細胞系統(HeLa)およびテロメラーゼ陰性細胞系統(U-2 OS)の双方を用いた。これらの細胞内のテロメラーゼ/L1RT特異的活性を検出するために適切なアッセイを行った。テロメアDNA合成が細胞内で阻害され、それによってテロメア短縮が誘導されうることを示すために、これらの細胞系統を治療濃度のACV(3.0μM)、GCV(1.5μM)、またはPCV(1.5μM)で処理した。ACV、GCV、およびPCV処理細胞系統と非処理の細胞のテロメアの長さをテロメア特異的ペプチド核酸(PNA)プローブを用いてフローサイトメトリーで測定した。細胞サイクルのどの位置に分布しているか調べるために、細胞をヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。10日間および14日間処理した後、2つの細胞系統は双方ともテロメアの短縮、多量のアポトーシスおよびG2アレストを示した。
【0153】
細胞サイクルの分布の変化を調べるために、HeLa細胞およびU-2 OS細胞をACV、GCV、またはPCVで14日間処理し、PIで染色し、フローサイトメトリーで同時に分析した。その結果は、細胞サイクルのG2で停止していることを示していた。変化は急速でほんの数日間のACV処理後でも検出しえたことに注目するのは重要なことである。
【0154】
本研究に用いたU-2 OS(骨肉腫)およびHeLa(子宮頚癌)細胞系統は、American Type Culture Collection(Rockville, MD)から入手した。細胞は10%ウシ胎児血清を添加したD-MEM培地中で5% CO2の加湿雰囲気下で37℃で培養した。細胞のACVでの処理は、培地に3μMのアシクロビル(Cymevene, Hoffman-La Roche)を添加して行った。細胞のPCVでの処理は、培地に1.5μMのPCV(penciclovir, Merck & Co.)を添加して行った。
【0155】
リアルタイムTRAPアッセイは既に報告されているとおり行った(Wegeら, テロメラーゼ活性の迅速定量のためのSYBR Green リアルタイムテロメア性反復配列増幅プロトコール, Nucleic Acids Res. 2003; 31(2):E3-3)。フローサイトメトリーによるテロメア長の測定は、既に報告されているとおり(Rufer, N., Dragowska, W., Thombury, G., Roosnek, E., Lansdorp, P.M., 「ヒトリンパ球サブポピュレーションでのテロメア長の動態をフローサイトメトリーで測定した」"Telomere length dynamics in human lymphocyte subpopulations were measured by flow cytometry ", Nat. Biotechnol., 16:743-747(1998))、細胞をテロメア特異的FITC結合(C3TA2)3PNA(Applied Biosystems)プローブで染色し、0.06 μg/mLのPIで対抗染色した。
【0156】
このようにヌクレオシド類似体ACV、GCV、およびPCVがテロメア長の短縮を明らかに生じさせることが示された。
【0157】
〔実施例3〕テロメラーゼ陰性(ALT)腫瘍の発達の予防
(a) U-2 OS/RAS細胞を注射されたヌードマウス:
Crl1:CD-1-/nuマウスはCharles River Laboratories, Charles River Deutschland GmbH(23.12.2004)から購入した。合計12匹のヌードマウスに6 x 105 個のU-2 OS/RAS細胞を皮下注射した。これらのマウスを実験群と対照群に分けた。
【0158】
実験群のマウスは第1日目から飲料水に入れたAZT(1 mg/mL)の投与を受け始めた。対照群のマウスには腫瘍が発生した(腫瘍細胞の注射後、N1のマウスは26日目、N2は34日目、N3は41日目に)。
【0159】
腫瘍の認められなかったマウスは全て屠殺した。最初に腫瘍の発生した対照群の1匹のマウスについては、腫瘍細胞注射後51日目に屠殺した。腫瘍組織は機械的に分離して細胞懸濁液を作製した。10% FCSを添加しtMcCoy 5A培地中に約2000万個の細胞を蒔いた。その組織培養細胞を以後の分析に用いた。
【0160】
腫瘍の発生した2匹の対照群のマウスは52日目から飲料水中に入れたAZT(1 mg/mL)の投与を受け始めた。そのうちの1匹は80日目に死亡した。2匹目のマウスは、腫瘍注射の110日後に屠殺した。腫瘍組織を採取し、以降の分析用として−80℃で保管した。
【0161】
1. 対照群の6匹のマウスのうち3匹にはALT腫瘍が発生した。AZT治療群のマウスでは腫瘍の発生は全く見られなかった。
【0162】
2. ALT腫瘍から作製した組織培養物はテロメラーゼ陽性であった。このことはテロメラーゼ陰性の腫瘍内でいくつかの細胞が自発的にテロメラーゼを活性化することを示している。
【0163】
3. ALT腫瘍を有するマウスをAZTで治療すると腫瘍増殖が遅くなることが示された。
【0164】
(b) HeLa細胞を注射されたヌードマウス:
テロメラーゼ陽性腫瘍のin vivoでの発生予防と治療を示すために、ヌードマウスにHeLa細胞(3 x 105)を皮下注射した。実験群は飲料水に入れたバルガンシクロビルの投与を0日目から受けた。ヒトの癌であるHeLa細胞培養物はATCCから購入した。合計で12匹のCD1/-nuマウスおよび12匹のNMRiI/-nuマウスをCharles River Laboratories, Charles River Deutschland GmbH(23.12.2004)から購入した。これらのヌードマウスに3 x 105個のHeLa細胞を皮下注射した。実験群のマウス(1系統あたり6匹のマウス)に飲料水中に入れたValcyte(登録商標)(バルガンシクロビル)(1 mg/mL)を0日目から投与した。
【0165】
対照群と治療群の全てのマウスで腫瘍の発生が見られた。約14日目には全てのマウスが腫瘍を有していた。治療群のマウスのうちの1匹の腫瘍は、約30日目までに縮退し始め、この腫瘍はValcyte(登録商標)の単剤療法によって排除された。治療群のその他のマウスでは腫瘍増殖の遅延が認められた。
【0166】
〔実施例4〕テロメア維持のALTメカニズムからテロメラーゼ依存性メカニズムへのスイッチ
ここに示したAZTの増殖、細胞サイクル、およびテロメアに及ぼす影響を、U-2 OS細胞とHeLa細胞で調べた。U-2 OS細胞はテロメラーゼ陰性で、L1RTを発現し、HeLa細胞はテロメラーゼ陽性でテロメラーゼを発現している。
【0167】
(a) in vitroアッセイ:
U-2 OS細胞を0.2μMのAZTと22日間インキュベートした。活発に増殖しているクローンについてテロメア特異的PNAプローブを用いてflow-FISH法によって分析し、HeLa細胞を陽性対照としてリアルタイムTRAPアッセイで分析した。単離した活発に増殖しているクローンは親の細胞とはDNA含量およびテロメア長の点で異なっていた。また、単離した活発に増殖しているクローンは全てTRAPアッセイでテロメラーゼ陽性を示した。
【0168】
(b) in vivoアッセイ:
改変されたヒトU-2 OS骨肉腫由来の主要が発生した、対照の非治療群のヌードマウスを屠殺した。腫瘍組織を機械的に分離して細胞懸濁液を作製した。10% FCSを添加したMcCoy 5A培地中に約2000万個の細胞を蒔いた。少数の細胞がプラスチックの表面に付着して組織培養物を生じそれをHeLa細胞を陽性対照として用いてリアルタイムTRAPアッセイで分析した。出現した組織培養物がヒト起源であることをRT-PCRで証明した。選択プライマーを用いるとヒトのGAPDH mRNAは存在したが、マウスのGAPDH mRNAは存在しないことがわかった。
【0169】
これらの結果は、ALT腫瘍起源で発生した組織培養物がテロメラーゼ陽性であることを明確に示すものである。このことは、テロメラーゼ陰性腫瘍の内部でいくらかの細胞が自発的にテロメラーゼを活性化することを示している。
【0170】
言い替えれば、テロメラーゼ陰性の癌細胞をAZTで処理すると陽性細胞が選択されて癌が再発しうる。
【0171】
〔実施例5〕バルガンシクロビルおよびジドブジン(AZT)、またはバラシクロビルおよびRetrovir(登録商標)のダブルカクテルの投与後にマウスで腫瘍の大きさの減少が起こることの実証
この実施例は、マウスモデルにおいてダブルカクテルの抗腫瘍活性と有効性を説明するものである。
【0172】
(a) バルガンシクロビルおよびジドブジン(AZT)の組み合わせを用いたin vivoアッセイ:
ヒト癌細胞であるHeLa細胞培養物はATCCから購入した。合計で24匹のCD1/-nuヌードマウスはCharles River Laboratories, Charles River Deutschland GmbH(23.12.2004)から購入した。これらのマウスに1 x 105個のHeLa細胞を皮下注射した。腫瘍の体積は、その腫瘍の直径の最大部分と最小部分を測定することによって求めた。その計算は、V=4/3πRmax x Rmin2、この式でRmaxはその腫瘍の直径の最大値の1/2、Rminはその腫瘍の直径の最大値の1/2であるが、この式を用いて行った。ヌードマウスには1 x 105個のHeLa細胞を皮下注射した。
【0173】
全てのマウスで注射後35日目までに腫瘍の発生が見られ、その時点で治療群の12匹のマウスにはValcyte(登録商標)およびRetrovir(登録商標)のダブルカクテルを飲料水中に各々1 mg/mL入れて投与した。ダブルカクテルでの治療の20日後に、この治療した12匹のマウスのうちの6匹のマウスにトリプルカクテル(Valcyte(登録商標)+Retrovir(登録商標)+ddIを飲料水中に各々1 mg/mL入れたもの)をさらに21日間(下記の実施例7を参照せよ)投与し、6匹のマウスのみ、引き続いてダブルカクテルの投与をさらに21日間受け、その時点でHeLa細胞を注射された全てのマウスの腫瘍の測定を行った。HeLa細胞の注射を受けたが、カクテルや抗癌剤での治療をそれまでに受けなかった、残りの12匹のマウスのうち、6匹は実験の残りの期間を通じて対照として維持した。他の6匹は、HeLa細胞の注射の67日後、Xeloda(登録商標)で治療した(下記の実施例7を参照せよ)。
【0174】
ダブルカクテルで治療を受けた群のマウスの50%が生存した。治療群と非治療群のマウスの腫瘍の体積はこの実施例の表に示している。1匹のマウスは腫瘍の大きさが非治療群と比較して99.3%減少した。別の1匹のマウスは腫瘍の大きさが非治療群と比較して98.9%減少し、また別の1匹のマウスでは腫瘍の大きさが非治療群と比較して95.8%減少した。
【0175】

【0176】
(b) バラシクロビルおよびジドブジン(AZT)の組み合わせを用いたin vivoアッセイ:
マウスヘパトーマMH22AはInstitute of Cytology(Russian Academy of Medical Science, Petersburg, Russia)の組織培養のコレクションから購入した。凍結されていた細胞を解凍し、10 %ウシ胎児血清を添加したMEM培地中に移した。細胞を5% CO2、加湿雰囲気下で増殖させた。MH22Aのテロメラーゼの状況を調べるために、HeLa細胞を陽性対照としてリアルタイムTRAPアッセイで分析した。その結果は、MH22A細胞がテロメラーゼ陽性であることを明確に示していた。
【0177】
8週齢のオスのC3HA近交系マウスは、Russian Academy of Medical Science(Rappalove, Leningrad region)のAnimals Breading Facilityから購入した。約2 x 105個のMH22A細胞を35匹のマウスの背部側面の皮下に注射した。注射後、マウスを種々の実験群にランダムに分けた。
【0178】
(a)7匹のマウスからなる1群には、飲料水中に入れた1 mg/mLの濃度のバラシクロビル(Valtrex(登録商標), GlaxoSmithKline)の投与を0日目から開始した。30日目にそれらのマウスでは、飲料水中に入れた1 mg/mLのバラシクロビル、1 mg/mLのAZT、および1 mg/mL のXeloda(登録商標)の混合物の投与を開始した。
【0179】
(b)7匹のマウスからなる1群には、飲料水中に入れた1 mg/mLのバラシクロビル、および1 mg/mLのAZT(Retrovir(登録商標), I.V., GlaxoSmithKline)の混合物の投与を0日目から開始した。
【0180】
(c)14日目から、それまでに治療を受けたことのない7匹のマウスからなる1群で、マウスに、飲料水中に入れた1 mg/mLのバラシクロビルおよび1 mg/mLのAZTの投与を開始した。
【0181】
(d)16日目から、それまでに治療を受けたことのない7匹のマウスからなる1群で、飲料水中に入れた1 mg/mLのバラシクロビル、1 mg/mLのAZT、および1 mg/mLのXeloda(登録商標)の投与を開始した。
【0182】
(e)それまでに治療を受けたことのない7匹のマウスからなる1群を陽性対照とした。
【0183】
対照群のマウスでは全て、14日目までに直径が5〜8 mmの腫瘍の発生が見られた。実験の17日目に、Valcyte(登録商標)とAZTの組み合わせ投与を受けていた群の5匹のマウスでは腫瘍が認められなかった。同じ群の2匹のマウスでは腫瘍の直径が3 mmであった。もう一方の群のマウスは全て腫瘍の発生が見られ、その直径の平均は10 mmであった。
【0184】
実験の45日目までには、0日目からバラシクロビル単独投与を受けていた7匹のマウス、およびValtrex(登録商標)とRetrovir(登録商標)の組み合わせ投与を16日目から受けていた7匹のマウスでは、飲料水中に入れた1 mg/mLの濃度のXeloda(登録商標)の投与を開始した。
【0185】
実験の60日目までは、Valtrex(登録商標)とRetrovir(登録商標)の組み合わせ投与を0日目から受けていた7匹のマウスのうちの4匹では腫瘍は認められないままであった。他の治療群の全てで、腫瘍の発生が見られなかったのは2匹のマウスのみであった。対照群のマウスは全て治療群のマウスの腫瘍よりもはるかに大きな腫瘍の発生が見られた。
【0186】
実験の75日目までには、対照群と治療群のマウスで死亡が見られ始めた。実験の85日目までには、対照の非治療群のマウスは全て死亡した。予防群(0日目からValtrex(登録商標)とRetrovir(登録商標)の組み合わせ投与)の4匹のマウス、および各治療群の2匹のマウス(0日目からValtrex(登録商標)および45日目からXeloda(登録商標)を投与した群、16日目からValtrex(登録商標)とRetrovir(登録商標)および45日目からXeloda(登録商標)を投与した群、14日目からValtrex(登録商標)とRetrovir(登録商標)を投与した群)は生存し、腫瘍は見られなかった。この時点で全ての治療は停止した。実験の150日目まででは、予防群の4匹のマウスと各治療群の2匹のマウスは依然として生存しており、腫瘍は認められなかった。
【0187】
〔実施例6〕アシクロビル+AZT+ddIのトリプルカクテルに暴露された、培地中で増殖する培養細胞におけるテロメア短縮の実証
テロメラーゼ陰性のALT細胞(U-2 OS)をAZTおよびACVで28日間処理すると、それらの2種の薬剤双方に抵抗性で増殖する細胞を選択することができる。その選択した細胞をAZT、ACV、および0.01 mg/mLのddIで処理すると、進行性のテロメア短縮とアポトーシスを誘導した。
【0188】
〔実施例7〕Valcyte(登録商標)およびRetrovir(登録商標)、またはValtrex(登録商標)およびRetrovir(登録商標)の組み合わせのダブルカクテルを投与した後のマウスの腫瘍サイズ低減の実証
本実施例は、マウスモデルにおいて、DNAに損傷を与える化学療法剤の有効性を、腫瘍細胞の感受性を高めることによって増強する、トリプルカクテルの能力を説明するものである。
【0189】
上記の実施例5で述べたとおり、合計6匹のマウスで、20日間ダブルカクテルで治療した後、トリプルカクテル(飲料水中に各々1 mg/mLのValcyte(登録商標)+Retrovir(登録商標)+ddIを入れて投与)をさらに21日間投与した。トリプルカクテルを14日間投与した後、Xeloda(登録商標)を1 mg/mLの濃度でトリプルカクテルに追加した。HeLa細胞注射後67日間薬剤を全く用いず、それまでに治療を受けてこなかった6匹のマウスに、飲料水に入れた1 mg/mLのXeloda(登録商標)で治療した。腫瘍の測定はHeLa細胞注射の75日後に全てのマウスで実施した。
【0190】
対照の非治療群、およびXeloda(登録商標)のみの治療群のマウスの生存率は66%であった。Xeloda(登録商標)のみの群のマウスにおける腫瘍の大きさの平均値は、非治療群と比較すると17%小さかった。
【0191】
トリプルカクテルとXeloda(登録商標)の組み合わせで治療されたマウスでは、生存率は100%であった。治療群と非治療群のマウスにおける腫瘍の体積はこの実施例中の表に示している。治療群の6匹のマウスのうちの2匹では腫瘍は完全に消滅していた。残りの4匹では、腫瘍は触診して初めて感知される程度であった。腫瘍体積の減少については、2匹のマウスではXeloda(登録商標)のみの治療群と比較して腫瘍の大きさが98.2%減少していた。1匹のマウスでは腫瘍の大きさはXeloda(登録商標)のみの治療群と比較して90.0%減少していた。
【0192】

【0193】
〔実施例8〕細胞傷害性腫瘍療法(バックグラウンド治療)と遺伝子毒性化学療法介入を用いたヒトの患者の治療
この実施例はバックグラウンド治療(ダブルまたはトリプルカクテルを用いる)に、DNAを損傷する遺伝子毒性化学療法を併用した場合のヒトの患者における治療上の有効性を説明するものである。患者は女性で年齢は65歳、手術不可能な胃癌と診断された患者で、下記に詳述する。
【0194】
この患者は胃の痛み、体重減少、悪心、および嘔吐を訴えた後、びまん性浸潤性胃癌のグレードIVと診断され、腹水を伴っていた。診断の一環として、臨床的、放射線、および外科的手法の組み合わせた行われた。それらの評価はこの癌のステージを定めることの助けとなり、予後判定への洞察を提供し、治療法の計画作成に健全な基盤を与えることとなった。
【0195】
より具体的には、最初の検査の一部として、この患者に胃ファイバースコープが行われた、この最初の検査の際に、この患者の胃が変形し、硬化しており、空気を吹き込んでもかなり伸長性が低いことが見出された。また、胃の上部3分の2で出血している組織が検出された。胃前庭部には病変は認められなかった。胃の組織から多部位の生検が行われた。組織学的分析の結果、この患者は分化の程度の低い胃の腺癌であることが分かった。造影剤を用いた胃のX線所見では、次のような臨床的な特徴が認められた:胃の食道胃接合部から始まって胃の下部1/3に至るまで胃壁は硬化していた。胃の中間の1/3の部分での2.5 cmであった。小弯部の腫瘍の長さは7 cmで、大弯部での長さは11〜12 cmであった。胃の大湾部の中央でも、潰瘍が検出された。前庭部と十二指腸には病変は認められなかった。診断的腹腔鏡検査も行った。その検査では壁側の腹膜と内臓側の腹膜の全体に癌が形成されていることが認められた。この癌は手術不能であることが判明した。
【0196】
患者はバックグラウンド療法で30日間、前治療を受けた後、Xeloda(登録商標)治療を加えたバックグラウンド療法で53日間、下記のとおり治療を受けた:
(a) バックグラウンド療法:
Retrovir(登録商標)(AZT)300 mgを1錠と、ZoviraxTM(アシクロビル, Glaxo Welcome)400 mg/Valcyte(登録商標)(バルガンシクロビル)450 mg/Valtrex(登録商標)(Val-ACV)500mgを1錠を、1日2回投与した。種々の非環状ヌクレオシド類似体が83日間のバックグラウンド療法の間に用いられたが、その理由は市場からの入手状況に関連したものであった。バックグラウンド療法はアシクロビルで開始し、それを9日間用いた後Valcyte(登録商標)を30日間、その後Valtresx(登録商標)をこの治療の残りの期間、用いた。これらの薬剤は食物摂取の2時間前および2時間後に経口投与された。このバックグラウンド療法は11.9週間継続した。
【0197】
(b) DNA損傷療法:
バックグラウンド療法の31日目から、Xeloda(登録商標)を500 mgを4錠(2g)、1日に2回(すなわち、合計で1日に4g)の投与量でバックグラウンド療法の薬剤と共に経口投与した。Xeloda(登録商標)を用いた治療は3コースのXeloda(登録商標)投与からなっており、第1コースは9日間の投与で、その後に14日間の休薬期間があり、次いで7日間の第2コースの後、14日間の休薬期間、その後最終コースは10日間の投与であった。この期間を通じてバックグラウンド療法は維持した。
【0198】
上記の癌治療の停止後約4週間経過後、開腹術を行った。腹腔内に薬2 Lの腹水が認められた。しかし、腹部に癌の形成の徴候は見られなかった。肝臓と横隔膜には病的変化は認められなかった。胃壁は空気注入しても硬かった。しかし、胃の漿膜には病的な徴候は見られなかった。
【0199】
この患者は1年以上の間、定期的に、ルーティンの検診と造影での検査が行われた。これらの検査では疾患の進行性で動的な状態が安定化されたか、または制御下に置かれたことが確認された。
【0200】
Xeloda(登録商標)を用いた遺伝子毒性化学療法はこの患者に毒性をもたらしたので、この患者が完全な応答を示すまで漫然と投与を行うことはできなかった。これに対して、維持期間の間にバックグラウンド療法としてその患者で維持されたダブルカクテルおよびトリプルカクテルの構成成分の量はその患者に対しての毒性が最小限または全くないものであった。ある特定の薬剤のカクテルを長期間にわたって投与して、Xeloda(登録商標)を停止している期間の腫瘍の再増殖を危惧することなく癌と闘うことが可能であった。従って、このバックグラウンド療法は、テロメアの維持もしくはテロメア短縮の誘導、G2/Mアレスト、および/または多量のアポトーシスを腫瘍細胞にもたらす能力があるので、好ましいリスク・ベネフィット比を提供し、腫瘍の増殖を防ぎ、患者の生存に有利さをもたらす。
【0201】
要約すれば、この患者がここで開示したバックグラウンド療法を受けなかったならば、その癌は非常に深刻な状態となったであろう。手術不可能な胃癌であったその患者の、治療に対する応答は、真に驚くべきものであったが、それは手術不可能な胃癌に対して良好な応答が見られることはきわめてまれだからである。
【0202】
本明細書には、ヌクレオシド類似体を含有しているトリプルカクテルを用いた胃癌の成功を収めうる治療のヒト患者データが提供されており、ここに開示した治療プロトコールを用いれば、その治療プロトコールに日常的な改変を加えたものが、本発明のインヒビターの組み合わせとともに他の形態の癌の治療に用いうることは理解されるべきであり、そのような癌としては、例えば、黒色腫、NSCLC、腎細胞癌、および当業界で既知の他の癌とここに例示されている癌が挙げられる。さらに、本発明は全てのタイプの癌の治療における改良を提供し、それは遺伝子毒性化学療法剤を含むDNA損傷を起こす癌治療剤で治療することができるが、それは本発明の投与プロトコールを用いることによって、DNA損傷剤の悪性腫瘍に有効な投与量を投与するための従来のプロトコールで行う場合よりも、毒性がより低く、および/またはかかる時間がより少なくなるからである。
【0203】
〔実施例9〕本発明の非環状ヌクレオシド類似体およびプロドラッグの調製
本発明の非環状ヌクレオシド類似体は、ヌクレオシド化学、およびヌクレオチド化学の実施において十分に確立された合成方法に従って調製することができる。本発明の化合物の調製において用いられる合成方法の説明には下記の教科書を参照せよ:「ヌクレオシドとヌクレオチドの化学」, "Chemistry of Nucleosides and Nucleotides", L. B. Twonsend編, 第1、3巻, Plenum Press, 1988、この文献はその全体を参照により本明細書中に組み入れる。
【0204】
本発明の式I〜IVの非環状ヌクレオシド類似体は、下記の実施例に詳述した方法に従って調製された。これらの実施例は本発明の範囲をどのような点においても限定することを意図したものではなく、そのような意味に解するべきではない。ヌクレオシドやヌクレオチドの合成分野の当業者であれば、本発明のこれらのおよびその他の化合物を調製するために、下記の調製方法の条件とプロセスに対して既知の変更を加えうることは容易に理解できよう。特に断らない限りは、温度は全て摂氏である。
【0205】
(a) 式(I)の化合物すなわちSN1の合成
2-ヒドロキシエチル安息香酸
【化2】

【0206】
ベンゾニトリル(200 mL)および再蒸留したエタン-1,2-ジオール(600 mL)(水分から防護する;NaOH)をアンモニアの放出が止まるまで還流(3日間)した後、冷却した。水(4000 mL)を添加し、遊離した油をエーテルで抽出した(3 x 200 mL)。乾燥と溶媒の除去の後、残渣を実験室用カラムに減圧下で通過させて精留した。この精留によって241 g(74%)の2-ヒドロキシエチル安息香酸が得られ、その沸点の範囲は160-162℃(14 mm)であった。
【0207】
2-(クロロメトキシ)エチル安息香酸
【化3】

【0208】
乾燥させたHClガスを、200 mLの無水C2H4Cl2および40 g(0.44モル)のパラホルムアルデヒド中に50 g(0.3 モル)の2-ヒドロキシエチル安息香酸を含んだ混合物に0℃で撹拌しつつ3時間通過させた。その溶液をCaCl2上で18時間乾燥し、真空中で蒸発させた。残りの油を蒸留して52.5g(93%)の2-(クロロメトキシ)エチル安息香酸が得られ、その沸点は126-129℃(0.5 mm)であった。
【0209】
1-[[2-(ベンゾイルオキシ)エトキシ]メチル]-5-メチルウラシル
【化4】

【0210】
6.30 gのチミン(50ミリモル)、100 mLのヘキサメチルジシラザン、および1 mLのトリメチルシリルクロリドの混合物を撹拌しつつ窒素雰囲気下で20時間還流した。得られた溶液を真空中でスピン乾燥させて油を得た。50 mLのジクロロメタン中の残存した油に10.60 g(49.4 ミリモル)の2-(クロロメトキシ)エチル安息香酸を添加した。その溶液を氷上で冷却し、50 mLのジクロロメタン中に入れた11 mL(80ミリモル)のトリエチルアミンを急速に滴下して添加した。得られた溶液を室温で72時間撹拌した。その反応液を300 mLの水性アルコール(1:1)に注ぎ分液漏斗中で振盪した。得られた混合物を500 mLの水で希釈した。有機層を分離し、ろ過し、真空中でスピン乾燥させた。残渣を少量のEtOAcを含んだシクロヘキサンの中で結晶化させた:収量 9.29g(61%);融点 94〜99℃、この産物はいくらかの不純物を含んでいた。数回の再結晶をEtOAcから行って純物質を得た:収量 4.60 g(30%);融点 115〜116℃。NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ, 1.77 (s, 3 H) 3.87 (t, 2 H), 4.39 (t, 2 H) 5.13 (s, 2 H), 7.44-7.98 (2 t + d, 5 H), 11.16 (s, 1 H)。
【0211】
1-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]-5-メチルウラシル
【化5】

【0212】
0.870 g(2.86ミリモル)の1-[[2-(ベンゾイルオキシ)エトキシ]メチル]-5-メチルウラシルと20 mLの40% メチルアミン水溶液との溶液を温浴上で50℃で3時間加温した。その反応液を冷却し、真空中でスピン乾燥させた。残存したシロップをEt2Oと共にすりつぶして、固形物を得て、それをEt2Oで消化してN-メチルベンズアミドを除去した。得られた白色の固形物を集めEt2Oで洗った:収量 0.495 g(86%);融点 139〜140℃。EtOAcから再結晶させて分析上純粋な物質を得た:収量 0.375 g (65%);融点 139〜140℃。
【0213】
NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ, 1.81 (s, 3 H), 3.52 (s, 4 H), 4.37 (br s, 1 H), 5. 07 (s, 2 H), 7.41 (s, 1 H), 11.06 (s, 1 H)。
【0214】
(b) 式(II)の化合物、すなわちSN2の合成
9-[(2-(ベンゾイルオキシ)エトキシ)メチル]-アデニン
【化6】

【0215】
パラフィン中に60%の濃度で分散させた水素化ナトリウム(3.26 g、82ミリモル)をヘキサン(3 x 100 mL)で洗った後、0℃でDMF(250 mL)中に懸濁した。この液にアデニン(10.0 g、74ミリモル)を撹拌しつつ緩徐に添加した。添加の完了時点で、その反応混液を室温まで加温し、2時間撹拌した後、2-(クロロメトキシ)安息香酸エチル(24 g、1.5当量)を撹拌を続けつつ3時間かけて添加した。その反応混液を室温でさらに24時間撹拌した後、その溶液をペースト状に濃縮した。水(100 mL)を添加し、沈殿物を集め、1-ブタノールから再結晶させて、掲題のエステルを得た(8.1 g、35%)。
【0216】
NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ, 3.91 (t, 2 H), 4.37 (t, 2 H), 5.64 (s, 1 H), 6.93 (br. s, 2 H), 7.44-7.89(2 t + d, 5 H), 8.118 (s, 1 H), 8.123 (s, 1 H)。
【0217】
9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]-アデニン
【化7】

【0218】
1.2 g(3.83ミリモル)の9-[[2-(ベンゾイルオキシ)エトキシ]メチル]-アデニンと20 mLの40%メチルアミン水溶液との溶液を温浴上で50℃で3時間加温した。その反応混液を冷却し真空中でスピン乾燥した。残存したシロップをEt2Oと共にすりつぶして、固形物を得て、それをEt2Oで消化してN-メチルベンズアミドを除去した。得られた白色の固形物を集めEt2Oで洗った:収量 0.672 g(84%)。1-ブタノールから再結晶させて分析上純粋な物質を得た:収量 0.600 g (75%)。
【0219】
NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ, 3.51 (t, 2 H), 3.55 (t, 2 H), 4.44 (s, 1 H), 5.59 (s, 2 H), 6.89 (br. s, 2 H), 8.12 (s, 2 H)。
【0220】
(c) 式(III)の化合物、すなわちSN3の合成
1,3-ジ-O-ベンジルグリセロール
【化8】

【0221】
水(200 mL)中に水酸化ナトリウム(100 g、2.5モル)を含む溶液を10分かけてベンジルアルコール(400 g、3.9モル)に添加した。この混合物を25℃に冷却した後、急速に撹拌しつつ30分かけてエピクロロヒドリン(100 g、1.08モル)を添加した。激しい撹拌を16時間続けた。次いで、この混合物を、水(1000 mL)で希釈し、トルエン(3 x 500 mL)で抽出した。そのトルエン抽出物を水(500 mL)で洗い、Na2SO4上で乾燥させ、蒸発させて油とし、それを蒸留して収量150 g(50%)の1,3-ジ-O-ベンジルグリセロールを得た;融点155℃(0.5 mm)。
【0222】
2-O-クロロメチル,1,3-ジ-O-ベンジルグリセロール
【化9】

【0223】
塩化メチレン(1000 mL)中のパラホルムアルデヒド(32g、0.8モル)および1,3-ジ-O-ベンジルグリセロール(100g、0.37モル)の混合物を0℃で撹拌し、その中に塩化水素ガス(濃H2SO4を通過させて乾燥したもの)を固形物が全て溶解するまでバブリングした(3時間)。得られた溶液を0℃で16時間保存し、MgSO4上で乾燥した後、蒸発させて2-O-クロロメチル,1,3-ジ-O-ベンジルグリセロールを非常に不安定な澄明な油として得た。
【0224】
1-[(1,3-ジベンジルオキシ-2-プロポキシ)メチル]-5-メチルウラシル
【化10】

【0225】
20g(159ミリモル)のチミン、100 mLのヘキサメチルジシラザン、および1mLのトリメチルシリルクロリドの混合物を窒素雰囲気下で20時間撹拌しつつ還流した。得られた溶液を真空中でスピン乾燥して油を得た。300 mLのジクロロメタン中のその残存油に、56g(175ミリモル)の2-O-クロロメチル,1,3-ジ-O-ベンジルグリセロールを添加した。その溶液を氷上で冷却し、60 mLのジクロロメタン中の33 mL(240ミリモル)のトリエチルアミンを急速に滴下して添加した。得られた溶液を室温で72時間撹拌した。その反応液を500 mLの水性エタノール溶液(1:1)に注ぎ、分液漏斗中で浸透した。得られた混合物を500 mLの水で希釈した。有機層を分離し、ろ過し、真空中でスピン乾燥した。残渣を少量のEtOAcを含んだヘキサンで結晶化した。EtOAcから数回再結晶させて純物質を得た:収量 17.6 g (27%);融点 96〜98℃。
【0226】
NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ, 1.74 (s, 3 H), 3.51 (m, 4 H), 3.99 (m, 1 H), 4.48 (s, 4 H), 5.17 (s, 2 H), 7.26 (s, 10 H), 7.53 (s, 1 H), 11.12 (s, 1 H)。
【0227】
1-[(1,3-ジヒドロキシ-2-プロポキシ)メチル]-5-メチルウラシル
【化11】

【0228】
1-[(1,3-ジベンジルオキシ-2-プロポキシ)メチル]-5-メチルウラシル(30 g、73ミリモル)、20% 水酸化パラジウム/炭素(パールマン触媒)(1000 mg)、シクロヘキセン(400 mL)、およびエタノール(200 mL)の混合物をN2雰囲気下で還流させて加温した。8時間後と24時間後に、さらに触媒(250 mg)を添加した。36時間後にその溶液を室温まで冷却し、ろ過した。そのろ液を蒸発させ、残渣をベンゼン(100 mL)ですりつぶして14 g(83%)の粗1-[(1,3-ジヒドロキシ-2-プロポキシ)メチル]-5-メチルウラシルを得た。1-ブタノールから再結晶させて純物質を得た:融点 156〜157℃。
【0229】
NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ, 1.81 (s, 3 H), 3.37 (m, 2 H), 3.44 (m, 2 H), 3.53 (m, 1 H), 4.33 (br. s, 2 H), 5.15 (s, 2 H), 7.45 (s, 1 H), 11.09 (s, 1 H)。
【0230】
(d) 式(IV)の化合物、すなわちSN4の合成
9-[(1,3-ジベンジルオキシ-2-プロポキシ)メチル]-アデニン
【化12】

【0231】
パラフィン中の水素化ナトリウムの60% 分散物(6.2 g、156ミリモル)をヘキサン(3 x 100 mL)で洗った後、0℃のDMF(500 mL)中に懸濁した。この懸濁液にアデニン(19 g、141ミリモル)を撹拌しつつ緩徐に添加した。添加の完了時にその反応混液を室温まで加温し、2時間撹拌した後、2-O-クロロメチル, 1,3-ジ-O-ベンジルグリセロール(68 g、1.5当量)を撹拌を続けつつ2時間かけて添加した。この反応混液を室温でさらに24時間撹拌した後、その溶液を濃縮した。水(400 mL)を添加し、沈殿物を集め、EtOAcから再結晶させた。EtOAcから数回再結晶させて17.2 g(29%)の9-[(1,3-ジベンジルオキシ-2-プロポキシ)メチル]-アデニンを得た。
【0232】
NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ, 3.45 (m, 2 H), 3.50 (m, 2 H), 4.10 (m, 1 H), 4.42 (s, 4 H), 5.68 (s, 2 H), 6.93 (br. s, 2 H), 7.21 (m, 5 H), 7.27 (m, 5 H), 8.08 (s, 1 H), 8.13 (s, 1 H)。
【0233】
9-[(1,3-ジヒドロキシ-2-プロポキシ)メチル]-アデニン
【化13】

【0234】
9-[(1,3-ジベンジルオキシ-2-プロポキシ)メチル]-アデニン(35 g、83ミリモル)、20% 水酸化パラジウム/炭素(パールマン触媒)(1000 mg)、シクロヘキセン(400 mL)、およびエタノール(200 mL)の混合物をN2雰囲気下で還流させて加温した。16時間後と36時間後に、さらに触媒(250 mg)を添加した。48時間後にその溶液を室温まで冷却し、ろ過した。そのろ液を蒸発させ、残渣をトルエン(100 mL)ですりつぶして14 g(83%)の粗9-[(1,3-ジヒドロキシ-2-プロポキシ)メチル]-アデニンを得た。1-ブタノールから再結晶させて13 gの純物質を得た。
【0235】
NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ, 3.36 (m, 2 H), 3.45 (m, 2 H), 3.61 (m, 1 H), 4.43 (br. s, 2 H), 5.69 (s, 2 H), 6.98 (br. s, 1 H), 8.15 (s, 1 H), 8.18 (s, 1 H)。
【0236】
(e) 式(V)の化合物、すなわちSN5の合成
トリエチル1,1,2-エタントリカルボキシレート
【化14】

【0237】
金属ナトリウム(23 g、1モル)を無水エタノール(0.5 L)中に撹拌しつつ溶解した後、マロン酸ジエチル(153 mL、1モル)を10分間かけて添加した。次いでその混合物を撹拌しつつクロロ酢酸エチル(117 g、0.95モル)を滴下して添加した。添加完了時に、反応混液を還流しつつ4時間加熱し、その後、2 Lの水に注ぎ、エーテル(3 x 500 mL)で抽出した。エーテル画分を併せ、MgSO4上で乾燥し、ろ過し、蒸発させて油を得た。この油を真空で蒸留して197 g(84%)のトリエチル 1,1,2-エタントリカルボキシレートを得た。
【0238】
2-(ヒドロキシメチル)ブタン-1,4-ジオール
【化15】

【0239】
900 mLの無水tert-ブタノール中に100 mLのトリエチル 1,1,2-エタントリカルボキシレート(108 g、0.44モル)および50 gのホウ化水素ナトリウムを含んだ溶液を還流させ、その溶液に100 mLのメタノールを150分かけて滴下して添加した。得られた溶液をさらに90分間還流した後、10℃に冷却した。激しく撹拌しつつ塩酸を注意深く添加して溶液を中和した。その溶液をろ過し、無機物質の残渣を300 mLの無水エタノールで洗った。有機の溶液を併せ、真空中でスピン乾燥させた。残渣を400 mLの無水エタノールで抽出し、溶液をろ過した。溶媒を減圧下で(0.5 mm)除去して48 g(92%)の2-(ヒドロキシメチル)ブタン-1,4-ジオールを粘性のある澄明な油として得た。
【0240】
5-(2-ヒドロキシエチル)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン
【化16】

【0241】
200 mLの無水THF中に2-(ヒドロキシメチル)ブタン-1,4-ジオール(48 g、0.4モル)および2,2-ジメトキシプロパン(55 g、0.45モル)を含んだ溶液に3 gのp-トルエンスルホン酸1水和物を添加した。その溶液を室温で60分間撹拌した後、トリエチルアミンを添加して中和した。残渣を1000 mLのジエチルエーテル中に溶解し、ろ過し、再蒸発させた。得られた混合物は、47%が5-(2-ヒドロキシエチル)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン、21%が7員環のアセトニド、およびその他の産物(GCMSデータ)からなっていた。その残渣をシリカゲルのカラムクロマトグラフィーで精製し1-クロロブタン、クロロホルム、およびクロロホルム-メタノール混液(25:1)で溶出すると、24 g(38%)の5-(2-ヒドロキシエチル)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサンが無色の液体として得られた。
【0242】
5-(2-ブロモエチル)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン
【化17】

【0243】
500 mLのN,N-ジメチルホルムアミド中に24 g(0.15モル)の5-(2-ヒドロキシエチル)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサンおよび76 g(0.23モル)の四臭化炭素を含んだ溶液を氷浴中(0〜+5℃)に置き、急速に撹拌しつつ60 g(0.23 モル)のトリフェニルホスフィンを添加した。その溶液を1時間撹拌した。次いで、その溶液を、飽和重炭酸ナトリウム水溶液(200 mL)で希釈した後、水(300 mL)を加え、ヘキサン(3 x 200 mL)で抽出した。有機層を併せ、硫酸マグネシウム上で乾燥し、ろ過し、減圧下で溶媒を除去した。残渣を真空(0.5 mm)下で、遅い流速で乾燥させたアルゴンを流しつつ2時間置いてブロモホルムを除去した。残渣をヘキサン中で溶解した。その溶液をろ過し、溶媒を除去して26 g(81%)の5-(2-ブロモエチル)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサンを澄明で無色の液体として得た。
【0244】
1-[2-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-5-イル)-エチル]-5-メチルウラシル
【化18】

【0245】
6.3 g(50ミリモル)のチミン、100 mLのヘキサメチルジシラザン、および1 mLのトリメチルシリルクロリドを窒素雰囲気下で撹拌しつつ20時間還流した。得られた溶液を真空中でスピン乾燥させて油とした。50 mLのジクロロメタン中に入れた残存油に、11 g(50 ミリモル)の5-(2-ブロモエチル)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサンを添加した。その溶液を氷上で冷却し、50 mLのジクロロメタン中の11 mL(80ミリモル)のトリエチルアミンを急速に滴下して添加した。得られた溶液を室温で72時間撹拌した。その反応液を300 mLの水性エタノール(1:1)に注ぎ、分液漏斗で振盪した。得られた混合物を500 mLの水で希釈した。有機層を分離し、ろ過し、真空中でスピン乾燥した。
【0246】
その残渣を少量の酢酸エチルを含んだシクロヘキサンで結晶化した:収量は7.3 g(54%)、このものはいくらかの不純物を含んでいた。酢酸エチルから数回の再結晶を行って純粋な1-[2-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-5-イル)-エチル]-5-メチルウラシルを得た:収量 6.1 g(45%)。LCMS 純度−98.4%。
【0247】
1-[4-ヒドロキシ-3-(ヒドロキシメチル)ブト-1-イル]-5-メチルウラシル
【化19】

【0248】
30 mLの2 M 塩酸中に6.1 g(23ミリモル)の1-[2-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-5-イル)-エチル]-5-メチルウラシルを含む溶液を還流しつつ90分間加温した。その溶液をNaOH水溶液(10%)を添加することによって中和した後、10℃に冷却した。その溶液をろ過し、得られた固形物を水で洗って、3.5 g(67%)の1-[4-ヒドロキシ-3-(ヒドロキシメチル)ブト-1-イル]-5-メチルウラシルを得た。LCMS 純度−97.2%。
【0249】
(f) 式(VI)の化合物、すなわちSN6の合成
9-[2-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-5-イル)-エチル]-アデニン
【化20】

【0250】
パラフィン中の水素化ナトリウムの60% 分散物(1.67 g、42ミリモル)をヘキサン(3 x 50 mL)で洗った後、0℃で150 mLの無水DMF中に懸濁した。この懸濁液にアデニン(5.0 g、37ミリモル)を撹拌しつつ緩徐に添加した。添加の完了時にその反応混液を室温まで加温し、2時間撹拌した後、12.4 g(56ミリモル、1.5 eq)の5-(2-ブロモエチル)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサンを撹拌を続けつつ3時間かけて添加した。この反応混液を室温でさらに24時間撹拌した後、その溶液を減圧下で濃縮してペーストとした。水(100 mL)を添加し、沈殿物を集め、1-プロパノールから結晶化させて9-[2-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-5-イル)-エチル]-アデニン(4.8 g、48%)を得た。
【0251】
再結晶後のLCMS純度:98.1%。
【0252】
9-[4-ヒドロキシ-3-(ヒドロキシメチル)ブト-1-イル]-アデニン
【化21】

【0253】
20 mLの2 M 塩酸中に4.3 g(15.5ミリモル)の9-[2-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-5-イル)-エチル]-アデニンを含む溶液を還流しつつ90分間加温した。その溶液をNaOH水溶液(10%)を添加することによって中和した後、10℃に冷却した。その溶液をろ過し、得られた固形物を水で洗って、2.6 g(71%)の9-[4-ヒドロキシ-3-(ヒドロキシメチル)ブト-1-イル]-アデニンを得た。LCMS 純度−97.7%。
【0254】
(g) SN1のバリンエステル(VSN1)の合成
2-[(5-メチルウラシル-1-イル)メトキシ]-エチルN-[(ベンジルオキシ)カルボニル]-L-バリナート
【化22】

【0255】
3 gの1-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]-5-メチルウラシルおよび200 mLの無水ジメチルホルムアミドの混合物を60℃に加温して溶液を得た。その加温した溶液に、4 gのN-[(ベンジルオキシ)カルボニル]-L-バリン、400 mgの4-ジメチルアミノピリジン、および4 gのジシクロヘキシルカルボジイミドを添加した。得られた溶液を室温まで冷却し、16時間撹拌した。その反応混液に前と同じ量のN-[(ベンジルオキシ)カルボニル]-L-バリン、4-ジメチルアミノピリジン、およびジシクロヘキシルカルボジイミドを添加し、室温で2日間撹拌した。その懸濁液をろ過し、無色のろ液を減圧下で濃縮し、その残渣をメタノール/ジクロロメタン中で溶解し、シリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーで精製し、10 %のメタノール/ジクロロメタンで溶出して、2-[(5-メチルウラシル-1-イル)メトキシ]-エチル N-[(ベンジルオキシ)カルボニル]-L-バリナートを5.5 g(85%)の白色固形物として得た。
【0256】
2-[(5-メチルウラシル-1-イル)メトキシ]-エチルL-バリナート塩酸塩1水和物
【化23】

【0257】
4 gの2-[(5-メチルウラシル-1-イル)メトキシ]-エチル N-[(ベンジルオキシ)カルボニル]-L-バリナート、500 mgの5 %パラジウム/炭素、100 mLのメタノール、100 mLのテトラヒドロフラン、および10 mLの0.5 M HCl水溶液の混合物を5気圧のH2雰囲気下で4時間振盪した。その反応混液をろ過し、ろ液を濃縮し、乾燥して掲題の化合物を白色固形物として得た。水性エタノール(1:3)から結晶化させて、収量が1.92 g(62%)の2-[(5-メチルウラシル-1-イル)メトキシ]-エチル L-バリナート塩酸塩1水和物を白色の粉末として得た。
【0258】
NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ, 0.96 (d, 3 H), 1.02 (d, 3 H), 1.79 (s, 3 H),2.21 (m, 1 H), 3.22 (m, 3 H), 4.25-4.34(m, 2 H), 5.09 (s, 2 H), 7.52 (s, 1 H), 8.68 (br s, 3 H), 11.23 (s, 1 H)。
【0259】
(h) SN2のバリンエステル(VSN2)の合成
2-[(アデニン-9-イル)メトキシ]-エチルN-[(ベンジルオキシ)カルボニル]-L-バリナート
【化24】

【0260】
4 gの9-[(2-ヒドロキシエトキシ)メチル]-アデニンおよび200 mLの無水ジメチルホルムアミドの混合物を60℃まで加温して溶液を得た。その加温した溶液に5 gのN-[(ベンジルオキシ)カルボニル]-L-バリン、500 mgの4-ジメチルアミノピリジン、および5 gのジシクロヘキシルカルボジイミドを添加した。得られた溶液を室温まで冷却し、16時間撹拌した。その反応混液に前と同じ量のN-[(ベンジルオキシ)カルボニル]-L-バリン、4-ジメチルアミノピリジン、およびジシクロヘキシルカルボジイミドを添加し、室温で24時間撹拌した。その懸濁液をろ過し、無色のろ液を減圧下で濃縮し、その残渣をジクロロメタン中で溶解し、シリカゲルのフラッシュクロマトグラフィーで精製し、ジクロロメタンで溶出して2-[(アデニン-9-イル)メトキシ]-エチル N-[(ベンジルオキシ)カルボニル]-L-バリナートを6.7 g(79%)の白色の固形物を得た。
【0261】
2-[(アデニン-9-イル)メトキシ]-エチルL-バリナート塩酸塩1水和物
【化25】

【0262】
5 gの2-[(アデニン-9-イル)メトキシ]-エチル N-[(ベンジルオキシ)カルボニル]-L-バリナート、700 mgの5% パラジウム/炭素、130 mLのメタノール、130 mLのテトラヒドロフラン、および20 mLの0.5 M HCl水溶液の混合物を5気圧のH2雰囲気下で8時間浸透した。この反応混液をろ過し、そのろ液を濃縮し、乾燥して掲題の化合物を白色の固形物として得た。その固形物をエタノールから結晶化して2.24 g(58%)の2-[(アデニン-9-イル)メトキシ]-エチル L-バリナート塩酸塩1水和物を白色の粉末として得た。
【0263】
NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ, 0.91 (d, 3 H), 0.95 (d, 3 H), 2.18 (m, 1 H), 3.68 (s, 2 H), 3.81 (br. s, 2 H), 4.26 (m, 2 H), 5.72 (s, 2 H), 8.55 (s, 1 H), 8.71-8.77 (m, 3 H), 9.03 (br. s, 1 H), 9.68 (br. s, 1 H)。
【0264】
〔実施例10〕SN化合物の生物学的アッセイ
(a) 細胞傷害性アッセイ:
本発明の化合物の細胞傷害作用を、当業界ではよく知られた薬理学的モデル、すなわち、MTT-マイクロタイタープレートテトラゾリウム細胞傷害性アッセイを用いて調べた。具体的には、細胞傷害性のアッセイは、Mosmann, 1983, 「細胞増殖と生存を調べるための迅速な比色アッセイ法:増殖と細胞傷害性アッセイへの適用」"Rapid colorimetri assay for cellular growth and survival: application to proliferation and cytotoxicity assays", J. Immunol. Methods, 65:55-63に記載のMTTアッセイ法を用いて行った。簡潔に記せば、このアッセイは、200 mLの増殖培地中に、MDCK(ATCC)細胞104個/ウエルをプレートした96ウエルのマイクロタイタープレートを用いることによって行った。
【0265】
IC50の決定には、細胞を様々な濃度のSN1、SN2、SN3、SN4、およびSN1のバリンエステルに2日間連続的に暴露させた。MTTアッセイは、第2日目の終わりに行った。各アッセイは、薬剤を全く含んでいない対照と共に行った。全てのアッセイは少なくとも2回、1回あたり3個の重複させたウエルで行った。
【0266】
IC50で表される細胞傷害性を示す投与量は次のとおりに計算された(μg/mL):
SN1 − 750
SN2 − 750
SN3 − >1000
SN4 − >1000
VSN1 − >1000
【0267】
(b) in vitroアッセイ:
テロメラーゼ陽性癌細胞中でのテロメア短縮の誘導、G2アレスト、およびアポトーシスの誘導は、下記のとおり行った。
【0268】
テロメラーゼ陽性細胞系統(HeLa)、およびテロメラーゼ陰性細胞系統(U-2 OS)の双方を用いた。これらの細胞でのテロメラーゼ/L1RTの活性を検出し確認するために適切なアッセイを行った。
【0269】
テロメアDNA合成がこれらの細胞内で阻害され、それによってテロメアの短縮が誘導されうることを示すために、これらの細胞系統を治療濃度のSN1(1.5μM)またはSN2(1.5μM)で処理した。SN1処理またはSN2処理細胞系統および非処理の細胞系統のテロメアの長さをテロメア特異的ペプチド核酸(PNA)プローブを用いてフローサイトメトリーで測定した。細胞サイクルの分布を決定するために、細胞をヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。処理の14日後において、HeLa細胞は、テロメア短縮、大量のアポトーシスおよびG2アレストを示した(図7A)が、U-2 OS細胞は示さなかった(図7B)。
【0270】
細胞サイクルの分布の変化を調べるために、HeLa細胞およびU-2 OS細胞をSN1およびSN2で別々に14日間処理し、PIで染色し、フローサイトメトリーで同時に分析した。その結果は、細胞サイクルがG2で停止していることを示している。
【0271】
本研究に用いたU-2 OS(骨肉腫)およびHeLa(子宮頚癌)細胞系統は、American Type Culture Collection(Rockville, MD)から入手した。細胞は10%ウシ胎児血清を添加したD-MEM培地中で5% CO2の加湿雰囲気下で37℃で培養した。細胞のSN1またはSN2での処理のために、培地に1.5μMのSN1またはSN2を添加した。
【0272】
リアルタイムTRAPアッセイは既に報告されているとおり行った(Wegeら, 「テロメラーゼ活性の迅速定量のためのSYBR Green リアルタイムテロメア性反復配列増幅プロトコール」"SYBR Green real-time telomeric repeat amplification protocol for the rapid quantification of telomerase activity", Nucleic Acids Res. 2003; 31(2):E3-3)。
【0273】
フローサイトメトリーによるテロメア長の測定は、既に報告されているとおり(Rufer, N., Dragowska, W., Thombury, G., Roosnek, E., Lansdorp, P.M., 「ヒトリンパ球サブポピュレーションでのテロメア長の動態をフローサイトメトリーで測定した」"Telomere length dynamics in human lymphocyte subpopulations were measured by flow cytometry", Nat. Biotechnol., 16:743-747(1998))、細胞をテロメア特異的FITC結合(C3TA2)3PNA(Applied Biosystems)プローブで染色し、0.06 μg/mLのPIで対抗染色した。
【0274】
このようにヌクレオシド類似体のSN1およびSN2がテロメラーゼ陽性細胞中のテロメア長を短縮させることが示された。しかし、阻害性化合物として有用なものが上記で具体的に例示した特定の化合物、またはヌクレオチド類似体およびヌクレオチド誘導体にどのような点においても限定されるものとは考えられない。事実、本開示の観点でデザインされ合成された最も有用な薬理学的化合物は、第2世代の誘導体、またはさらに化学的に修飾された非環状ヌクレオシド類似体であるということが証明されることとなるかもしれない。
【0275】
(c) in vivoアッセイ:
式(I)または(II)の化合物をAZTおよびddIと組み合わせて用いたin vivoアッセイは下記のとおり行った:
マウスヘパトーマMH22AはInstitute of Cytology(Russian Academy of Medical Science, Petersburg, Russia)の組織培養のコレクションから購入した。凍結されていた細胞を解凍し、10 %ウシ胎児血清を添加したMEM培地中に移した。細胞を37℃で、5% CO2、加湿雰囲気下で増殖させた。MH22Aのテロメラーゼの状況を調べるために、HeLa細胞を陽性対照として上述のリアルタイムTRAPアッセイで分析した。その結果は、MH22A細胞がテロメラーゼ陽性であることを明確に示していた。
【0276】
8週齢のオスのC3HA近交系マウス(免疫機能が正常なマウス)は、Russian Academy of Medical Science(Rappalove, Leningrad region)のLaboratory Animals Breading Facilityから購入した。約2 x 105個のMH22A細胞を80匹のマウスの背部側面の皮下に注射した。注射の2週間後、腫瘍が活発に増殖していた(直径が2 mmから1 cm)66匹のマウスを選択し、下記に示す種々の実験群にランダムに分けた:
対照群 − 18匹のマウス
SN1(0.5 mg/mL)+AZT(0.05 mg/mL)+ddI (0.033 mg/mL) − 10匹のマウス
SN2(0.5 mg/mL)+AZT(0.05 mg/mL)+ddI (0.033 mg/mL) − 10匹のマウス
Valtrex(登録商標)(0.083 mg/mL)+AZT(0.05 mg/mL)+ddI (0.033 mg/mL) − 20匹のマウス
【0277】
Valtrex(登録商標)(GlaxoSmitKline製造)はアシクロビルのプロドラッグで、非環状ヌクレオシド類似体である。ジダノシン(ddI)とAZTは非環状でないヌクレオシド類似体である。これらの薬剤を、上記で示した濃度で飲料水中に入れてマウスに投与した。飲料水、すなわち薬剤の溶液の摂取量はマウス1匹1日あたり約4 mLであった。Valtrex(登録商標)+AZT+ddI群のマウスを除いて、全ての群でマウスは進行性の腫瘍(直径2.0 cm〜2.5 cm)で死亡した。Valtrex(登録商標)+AZT+ddI群の20匹のマウスでは、対照群と同程度の大きさの腫瘍が発生したのは5匹にすぎず、7匹は腫瘍の発生が認められず、8匹では1 cm以下の小さな腫瘍が認められた。この群では治療期間の間に数匹のマウスの死亡も見られた。この実験に用いたマウスは免疫機能が正常であったので、この死亡原因の一部は免疫反応によるものかもしれない。下記の結果は種々の組み合わせのヌクレオシド類似体を用いた治療の5週間後に調べたものである。
【0278】
対照群:対照群はヌクレオシド類似体の投与を受けなかった。その結果、マウスは全て死亡し、死亡時点で腫瘍は直径3.0 cm〜3.5 cmであった。
【0279】
SN1+AZT+ddI:合計5匹のマウスが生存し、そのうちの3匹では腫瘍が認められなかった。残りの2匹のマウスでの腫瘍はそれぞれ0.7 cmおよび3.5 cmの大きさであった。
【0280】
SN2+AZT+ddI:合計7匹のマウスが生存し、そのうちの2匹では腫瘍が認められなかった。4匹のマウスの腫瘍は直径が3.0 cmから3.5 cmであり、残りの1匹ではその直径は1.0 cmであった。
【0281】
Valtrex(登録商標)+AZT+ddI:合計5匹のマウスが生存し、そのうちの3匹では腫瘍が認められなかった。残りの2匹のマウスでの腫瘍はそれぞれ1.0 cmおよび0.5 cmの大きさであった。この群では、合計15匹のマウスが死亡し、そのうちの5匹は腫瘍の増殖で死亡し、残りの10匹では、腫瘍は小さいかまたは認められなかった。
【0282】
式(I)から(IV)の化合物および式IとIIのバリンエステルの各々を、他のヌクレオシド類似体ならびにAZTおよびddIと組み合わせたトリプルカクテルを用いたin vivoアッセイを下記のとおり行った:
8〜10週齢の雄のC3HA近交系マウス(免疫機能が正常なマウス)は、Laboratory Animals Breeding Facility of Russian Academy of Medical Science(Rappalove, Leningrad地域)から購入した。3 x 105個のMH22a細胞を200匹のマウスの背部側面に皮下注射した。注射の10日後に、腫瘍(14.15 mm3)(腫瘍の体積は、π/6 DmaxDmin2の式を用いて計算した)の発生したマウスを選択し、下記の種々の実験群にランダムに分けた:
カクテル1−バラシクロビル(0.166 mg/mL)+AZT(0.1 mg/mL)+ddI(0.066 mg/mL)−40匹のマウス;
カクテル2−SN1(1 mg/mL)+AZT(0.1 mg/mL)+ddI(0.066 mg/mL)−10匹のマウス;
カクテル3−SN3(1 mg/mL)+AZT(0.1 mg/mL)+ddI(0.066 mg/mL)−10匹のマウス;
カクテル4−SN4(1 mg/mL)+AZT(0.1 mg/mL)+ddI(0.066 mg/mL)−10匹のマウス;
カクテル5−Val-SN1(0.166 mg/mL)+AZT(0.1 mg/mL)+ddI(0.066 mg/mL)−20匹のマウス;および
カクテル6−Val-SN2(0.166 mg/mL)+AZT(0.1 mg/mL)+ddI(0.066 mg/mL)−20匹のマウス;ならびに
対照群−カペシタビン(Xeloda(登録商標))(1 mg/mL)、飲料水中−8匹のマウス。
【0283】
バラシクロビル(GlaxoSmithKlineが製造したValtrex(登録商標))はアシクロビルのプロドラッグで、非環状ヌクレオシド類似体である。ジダノシン(ddI)とAZTは非環状でないヌクレオシド類似体である。これらの薬剤を、上記で示した濃度で飲料水中に入れてマウスに投与した。これらのカクテルでの治療の2週間後に、Xeloda(登録商標)(1 mg/mL)を各カクテルに追加して残りの実験期間ずっと継続した。対照群では、マウスに飲料水中に入れたXeloda(登録商標)(1 mg/mL)のみで治療し、この投与はカクテル投与群でのXeloda(登録商標)投与開始と同時に開始した。飲料水、すなわち薬剤の溶液の摂取量はマウス1匹1日あたり平均2.5 mLであった。注射されたマウスの各々の腫瘍の体積(mm3)は、薬剤での治療開始後4週間連続して毎週、π/6 DmaxDmin2の式を用いて計算した。SN4の組み合わせを用いた群を除いて全ての実験群において、マウスは進行性の腫瘍で死亡した。
【0284】
下記の結果は、上述のカクテル1-6およびXeloda(登録商標)を用いた治療の4週間後のものである。
【0285】

【0286】

【0287】
本明細書中で言及した刊行物、特許、および特許出願全ては本発明が属する業界の当業者のレベルを示すものである。全ての刊行物、特許、および特許出願は、あたかも個々の刊行物または特許出願が特別にかつ個々に参照により組み入れられることを示したものと同じ程度に本明細書中に参照により組み入れる。
【0288】
前述の明細書は本発明の原理を、好ましい実施形態の説明を用いて、および説明の目的で提供される実施例を用いて、当業者であれば誰でも本発明を利用しうるように、教示するものである。これらの実施形態に対して種々の改変を行いうることが当業者ならば容易にわかり、本明細書で定義した一般的な原理は発明の能力(inventive faculty)を用いずに他の実施形態に適用することが可能である。従って、本発明は本明細書に示した実施形態に限定することを意図しておらず、本明細書に開示した原理と新規の特徴ならびに特許請求の範囲とその同等物に沿った最も広範な範囲に従うものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックグラウンド療法を施すことを含んでいる、治療方法。
【請求項2】
前記治療が被験者における癌の治療である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被験者がヒトである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記バックグラウンド療法が、治療上有効な量の、製薬上許容される担体中のトリプルカクテルの投与を含んでいる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記トリプルカクテルが非環状ヌクレオシド類似体を含んでいる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記非環状ヌクレオシド類似体がアシクロビルまたはそのプロドラッグである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記非環状ヌクレオシド類似体がガンシクロビルまたはそのプロドラッグである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記非環状ヌクレオシド類似体がペンシクロビルまたはそのプロドラッグである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記トリプルカクテルがアジド-2',3'-ジデオキシチミジン(AZT)を含んでいる、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記トリプルカクテルが2',3'-ジデオキシイノシン(ddI)を含んでいる、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記トリプルカクテルが全身投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記トリプルカクテルが局所投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
別の抗増殖療法と組み合わせてバックグラウンド療法を施すことをさらに含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記別の抗増殖療法がDNA損傷療法である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記DNA損傷療法が、遺伝子毒性化学療法、放射線療法、および光線力学的療法のうちの少なくとも1つである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記遺伝子毒性化学療法が、癌を治療するために開発された抗癌剤を投与することを含んでなり、該抗癌剤がシクロホスファミド、カペシタビン、タキソール、シスプラチン、カルボプラチン、カンプトテシン、およびドキソルビシンからなる群から選択されるものである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記バックグラウンド療法が、異常に増殖する細胞塊の除去のための手術と組み合わせて施される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記バックグラウンド療法が、異常に増殖する細胞塊の除去のための手術を既に受けた患者に施される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
癌が固形腫瘍である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記腫瘍が、胃癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、結腸癌、卵巣癌、および黒色腫からなる群から選択されるものである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
哺乳類を別の抗癌療法または別の抗増殖療法に対して増感させる方法であって、製薬上許容される担体中に入れたダブルカクテルまたはトリプルカクテルの、増感のために有効な量を投与することを含んでいる、前記方法。
【請求項22】
前記哺乳類がヒトである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記別の抗癌療法または別の抗増殖療法が、遺伝子毒性化学療法、放射線療法、および光線力学的療法のうちの1つ以上から選択されるものである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記別の抗癌療法が放射線療法を含んでいる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記別の抗癌療法が放射線療法である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記別の抗癌療法が、5-フルオロウラシル(5-FU)、シクロホスファミド、シスプラチン、オキサリプラチン、カペシタビン、ブスルファン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、テモゾロマイド、イフォスファミド、ロムスチン、ダカルバジン、メクロレタミン、メルファラン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、イリノテカン、およびトポテカンのうちの1つ以上を投与するものである、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記別の抗癌療法がシクロホスファミド、カルボプラチン、またはカペシタビンの投与である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記別の抗癌療法がシクロホスファミド、カルボプラチン、またはカペシタビンを単剤療法として投与するものである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
シクロホスファミド、カルボプラチン、またはカペシタビンの投与が約1〜5週間間隔である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記投与が約2、3、または4週間間隔である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
哺乳類において、別の抗癌療法または別の抗増殖療法の副作用を軽減する方法であって、製薬上許容される担体中に入れたダブルカクテルまたはトリプルカクテルの増感に有効な量を、該哺乳類が該副作用からの回復または該副作用を消すために十分な時間、該別の療法が停止される期間を通じて投与することを含んでなる、前記方法。
【請求項32】
前記別の抗癌療法または別の抗増殖療法が、該別の療法の初回投与量の約10〜75%で再開される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記哺乳類がヒトである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
バックグラウンド療法を患者に施すことを含む癌の治療方法であって、該療法が治療上有効な量のトリプルカクテルを別の抗増殖療法と組み合わせて投与することを含んでいる、前記方法。
【請求項35】
異常な哺乳類細胞増殖を特徴とする症状を有している被験者を治療する方法であって、そのような治療を必要としている該被験者に、増殖を阻害するために有効な量で、ダブルカクテルまたはトリプルカクテルを投与することを含んでなり、該症状がさらに、正常な細胞と比較するとき連続的な細胞分裂においてテロメアの維持が見られる、異常に増殖している細胞を特徴とするものである、前記方法。
【請求項36】
細胞内で1種以上の逆転写酵素を阻害することを必要としている哺乳類に該阻害を行う方法であって、該哺乳類に、製薬上許容される担体中に入れた有効量のダブルカクテルまたはトリプルカクテルを投与することを含んでいる、前記方法。
【請求項37】
腫瘍細胞のアポトーシスを誘導することを必要としている哺乳類に該誘導を行う方法であって、該哺乳類に製薬上許容される担体中に入れた治療上有効な量のダブルカクテルまたはトリプルカクテルを投与することを含んでなる、前記方法。
【請求項38】
前記ダブルカクテルまたはトリプルカクテルが非環状ヌクレオシド類似体およびアジド-2',3'-ジデオキシチミジン(AZT)を含んでいる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記トリプルカクテルがさらに2',3'-ジデオキシイノシン(ddI)を含んでいる、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
癌細胞内でアポトーシスを誘導する方法であって、該腫瘍細胞を製薬上許容される担体内に入れたトリプルカクテルと接触させてアポトーシスの誘導を起こさせることを含んでいる、前記方法。
【請求項41】
前記トリプルカクテルが非環状ヌクレオシド類似体およびアジド-2',3'-ジデオキシチミジン(AZT)を含んでいる、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記トリプルカクテルが2',3'-ジデオキシイノシン(ddI)を含んでいる、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
化合物の組み合わせであって、
テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)インヒビターである第1のヌクレオシド類似体またはそのプロドラッグ、
Line-1レトロトランスポゾンがコードする逆転写酵素(L1RT)インヒビターである第2のヌクレオシド類似体またはそのプロドラッグ、および任意で
逆転写酵素(RT)のインヒビターである第3のヌクレオシド類似体、
の有効量を含んでおり、RTはTERTでもL1RTでもなく、第2のヌクレオシド類似体またはそのプロドラッグは第1のヌクレオシド類似体またはそのプロドラッグと同じものではなく、第3のヌクレオシド類似体またはそのプロドラッグは第1および第2のヌクレオシド類似体またはそれらのプロドラッグと同じものではない、前記組み合わせ。
【請求項44】
前記第1、第2、および第3のヌクレオシド類似体またはそれらに対応するプロドラッグが3つの別々の医薬組成物の形態であるか、または単一の医薬組成物の形態である、請求項43に記載の組み合わせ。
【請求項45】
前記第1のヌクレオシド類似体が非環状ヌクレオシド類似体もしくはそのプロドラッグであり、前記第2のヌクレオシド類似体が非環状ヌクレオシド類似体もしくはそのプロドラッグ、またはアジド-2',3'-ジデオキシチミジン(AZT)もしくはAZTのプロドラッグであり、前記第3のヌクレオシド類似体が2',3'-ジデオキシイノシン(ddI)である、請求項44に記載の組み合わせ。
【請求項46】
癌に罹患しているヒト患者を治療する方法であって、該ヒト患者に請求項45に記載の組み合わせを投与することを含んでいる、前記方法。
【請求項47】
前記第1のヌクレオシドがアシクロビルもしくはアシクロビルのプロドラッグまたはガンシクロビルのプロドラッグであり、前記第2のヌクレオシド類似体がAZTである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
投与される前記組み合わせがダブルカクテルまたはトリプルカクテルである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記ダブルカクテルまたはトリプルカクテルを遺伝子毒性化学療法と組み合わせて投与することをさらに含んでいる、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記遺伝子毒性化学療法が、癌を治療するために開発された抗癌剤を投与することを含んでおり、該抗癌剤がシクロホスファミド、カペシタビン、およびカルボプラチンからなる群から選択されるものである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記抗癌剤の投与が約1〜5週間間隔である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記投与が約2、3、または4週間間隔である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
腫瘍が、胃癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、結腸癌、卵巣癌、および黒色腫からなる群から選択されるものである、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
医薬カクテルであって、製薬上許容される担体中に組み合わされて治療上有効な量の
非環状ヌクレオシド類似体またはそのプロドラッグ、
アジド-2',3'-ジデオキシチミジン(AZT)、および
2',3'-ジデオキシイノシン(ddI)、
を含んでいる、前記カクテル。
【請求項55】
式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)および(VI)からなる群から選択される式で示されるチミンもしくはアデニン誘導体またはその生理学的に許容される塩、光学異性体もしくはプロドラッグ。
【請求項56】
1-(2-ヒドロキシエトキシメチル)チミンである、請求項55に記載の誘導体。
【請求項57】
9-(2-ヒドロキシエトキシメチル)アデニンである、請求項55に記載の誘導体。
【請求項58】
光学異性体の形態である、請求項55〜57のいずれか1項に記載の誘導体。
【請求項59】
生理学的に許容される塩の形態である、請求項55〜57のいずれか1項に記載の誘導体。
【請求項60】
ナトリウム塩または塩酸塩の形態である、請求項59に記載の誘導体。
【請求項61】
有効成分として式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)もしくは(VI)で示される化合物またはその生理学的に許容される塩もしくは光学異性体を、製薬上許容される担体とともに含んでいる、医薬製剤。
【請求項62】
全身投与用に設計された、請求項61に記載の医薬製剤。
【請求項63】
局所投与用に設計された、請求項62に記載の医薬製剤。
【請求項64】
癌の治療を必要とする動物もしくはヒト宿主において、癌の治療を行うための方法であって、治療上有効な量の組成物を投与することを含んでおり、該組成物が製薬上許容される担体中に、有効成分として式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)もしくは(VI)で示される化合物またはその生理学的に許容される塩もしくは光学異性体を、AZTおよびジダノシンと共に含んでいる、前記方法。
【請求項65】
治療上有効な量の式Iで示される化合物またはその生理学的に許容される塩を投与することを含んでいる、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
治療上有効な量の式IIで示される化合物またはその生理学的に許容される塩を投与することを含んでいる、請求項64に記載の方法。
【請求項67】
前記組成物が、単位剤形中にAZTおよびジダノシンからなる群から選択される他のヌクレオシド類似体を少なくとも1種含む、請求項64に記載の方法。
【請求項68】
ヌクレオシド類似体以外の抗癌剤を含んでいる組成物の治療上有効な量を投与することをさらに含んでいる、請求項64に記載の方法。
【請求項69】
前記抗癌剤が、シクロホスファミド、カペシタビン、タキソール、シスプラチン、カルボプラチン、カンプトテシン、およびドキソルビシンからなる群から選択されるものである、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記癌が固形腫瘍である、請求項64〜69のいずれか1項に記載の方法。
【請求項71】
前記腫瘍が、胃癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、結腸癌、卵巣癌、白血病、および黒色腫からなる群から選択されるものである、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する必要のある哺乳類で、該誘導を行う方法であって、
該哺乳類に、製薬上許容される担体中に入れた治療上有効な量の式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)もしくは(VI)で示される化合物またはその生理学的に許容される塩もしくは光学異性体を、任意でAZTおよびジダノシンとともに投与すること、および
別の抗癌ヌクレオシド類似体を、任意で抗癌剤とともに投与すること、
を含んでなる、前記方法。
【請求項73】
式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)または(VI)で示される化合物ならびにその他の抗癌ヌクレオシド類似体および抗癌剤をカクテルとして投与する、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)または(VI)で示される化合物ならびにその他の抗癌ヌクレオシド類似体および抗癌剤を別々の単位剤形で投与する、請求項72に記載の方法。
【請求項75】
前記抗癌剤が、シクロホスファミド、カペシタビン、タキソール、シスプラチン、カルボプラチン、カンプトテシンおよびドキソルビシンからなる群から選択されるものである、請求項72〜74のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−530295(P2009−530295A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500483(P2009−500483)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/006538
【国際公開番号】WO2007/106561
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(506240908)アルト ソリューションズ インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】