説明

癌の診断および治療のための組成物および方法

マイクロRNA遺伝子miR15およびmiR16は、慢性リンパ性白血病または前立腺癌由来の細胞などのある種の癌由来の細胞に特徴的な、13q14にある30kbの消失領域内に位置する。miR15遺伝子もしくはmiR16遺伝子のコピー数の減少を検出することにより、miR15遺伝子もしくはmiR16遺伝子の変異状態を確定することにより、またはこれらの遺伝子から転写されるRNAの減少を検出することにより、慢性リンパ性白血病または前立腺癌を診断しうる。miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物は、これらの疾患に罹患した被験者に投与された場合、慢性リンパ性白血病または前立腺癌細胞などの癌の新生物性または腫瘍形成性増殖を抑制することができる。図は、18例の慢性リンパ性白血病患者におけるマイクロサテライトマーカーD13S272およびD138273のヘテロ接合性消失分析である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の助成金に対する言及
本明細書に記載した本発明は一部、National Cancer Instituteからの助成金第P01CA76259号、P01CA81534号およびP30CA56036号による支援を受けた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は癌の診断に関し、詳細には、miR15およびmiR16のコピー数、変異状態または遺伝子発現を検出することによる慢性リンパ性白血病または前立腺癌の診断に関する。本発明はまた、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現の低下または欠如を伴う癌の治療、特に、miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を投与することによる慢性リンパ性白血病または前立腺癌の治療にも関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
癌は米国および全世界を通じて死亡および病的状態の重大な原因である。特に慢性リンパ性白血病(「CLL」)および前立腺癌は成人の臨床的に重要な新生物疾患である。CLLは西洋社会における成人白血病のうち最も頻度の高い型である。また、前立腺癌の年齢調整発生率は今や、米国の男性では他のすべての癌の発生率を上回っており、死因としても米国の男性の全癌死のうち肺癌に次いで第二位である。
【0004】
13q14でのヘミ接合性および/またはホモ接合性消失は、報告されているCLL症例の半数以上で起こっており、CLLにおける染色体異常として最も高頻度のものである。CLL患者の組織試料の核型分類では比較的わずかな染色体異常しか同定されておらず、このことは13q14に認められる欠失の特異性および頻度に病的な意味があることを示唆する。さらに、13q14欠失は前立腺癌の60%にも起こっており、このことは、13q14に位置する1つまたは複数の腫瘍抑制遺伝子がCLLおよび前立腺癌のいずれの成因にも関与していることを示唆する。
【0005】
CLLおよび前立腺癌におけるクローン性のホモ接合性およびヘテロ接合性欠失の存在、ならびに13q14の消失の頻度が極めて高いことは、この領域における欠失がある種の癌の原因と関係していることを示している。複数のグループが、欠失領域内の1つまたは複数の遺伝子を同定する目的でポジショナルクローニングを用いている。今日までに散発性および家族性のCLL症例において13q14の欠失領域から以下の合計8つの遺伝子が同定され、DNAおよび/またはRNAレベルに関してスクリーニングが行われている :Leu1(BCMSまたはEST70/Leu1)、Leu 2(ALT1または1B4/Leu2)、Leu 5(CAR)、CLLD6、KPNA3、CLLD7、LOC51131(ジンクフィンガータンパク質NY-REN-34抗原と推定)およびCLLD8。しかし、ヘテロ接合性消失(LOH)、変異および発現に関する幅広い検討を含む詳細な遺伝子分析では、これらの遺伝子のいずれについても発癌への一貫した関与を示すことはできなかった。
【0006】
マイクロRNA(miRNA)は、ショウジョウバエ、線虫およびヒトを含む100種類を上回る生物で認められている。miRNAは、これらの生物における発生を調節する種々の過程に関与していると考えられている。miRNAは通常、miRNA遺伝子から転写された60〜70ヌクレオチドの折り返し型RNA前駆体構造からプロセシングを受けたものである。RNA前駆体またはプロセシングを受けたmiRNA産物は容易に検出でき、これらの分子の欠乏は対応するmiRNA遺伝子の欠失または機能喪失を意味しうる。
【0007】
CLLに対する現在の治療は一般に化学療法を必然的に含み、これが単独で投与されるか、または自己骨髄移植と併用される。用いられる化学療法薬は一般に患者にとって毒性があり、患者の比較的高い割合では部分的な寛解が得られるのみである。前立腺癌およびその他の癌に対する治療も化学療法を必然的に含み、これはしばしば腫瘍の外科的切除後に行われる。しかし、CLLの場合と同じく、化学療法薬(外科療法との併用または単独で)の治癒特性は限定的である。
【0008】
前立腺癌の遠隔照射療法または近接照射療法(例えば、放射線「小線源(seed)」を用いる)による治療も行うことができ、これも単独で行われるか外科療法と併用される。このような治療は患者の正常組織を放射線に曝露させるリスクがある上、全面的に有効というわけではない。
【0009】
CLLまたは前立腺癌に対する迅速で経済的で正確な診断検査に対しては需要がある。同じく、患者に対して明らかに有害な影響を及ぼさない、癌、特にCLLまたは前立腺癌に対する経済的で有効な治療に対しても需要がある。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
ヒトにおいてmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子が13q14に位置すること、および、CLLまたは前立腺癌に罹患した被験者のかなりの割合で13q14領域が欠失していることがこのたび発見された。また、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子のRNA産物が、CLL細胞および前立腺癌細胞の新生物性または腫瘍形成性増殖を抑制することも見いだされた。これらのRNA産物は、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子のダウンレギュレーションを伴う癌の治療法として用いることができる。
【0011】
マイクロRNA遺伝子miR15およびmiR16は、13q14にある、CLLおよび前立腺癌における30kbの欠失領域内に位置し、この2つの遺伝子はCLLおよび前立腺癌の症例の大部分では欠失しているかダウンレギュレートされている。このため、本発明は、これらの遺伝子からの遺伝子産物の検出、miR15遺伝子もしくはmiR16遺伝子のコピー数の検出、または変異状態の決定を含む、CLLまたは前立腺癌に対する診断検査を提供する。
【0012】
1つの態様において、本診断検査は、CLLまたは前立腺癌を有することが疑われる被験者からRNAを単離すること、およびmiR15もしくはmiR16 RNA前駆体またはプロセシングを受けたmiRNAに対するプローブを用いるノーザンブロットハイブリダイゼーションによってmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物のレベルを検出することを含み、対照正常試料と比較してmiR15もしくはmiR16の前駆体またはプロセシングを受けたマイクロRNAが減少していることによってCLLまたは前立腺癌が診断される。
【0013】
もう1つの態様において、本診断検査は、CLLまたは前立腺癌のようなmiR15またはmiR16により媒介される癌(miR15 or miR16 mediated cancer)を有することが疑われる被験者からDNAを単離すること、およびmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子の配列に対するプローブを用いるサザンブロットハイブリダイゼーションによってmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子のコピー数を検出することを含み、遺伝子のコピー数が1またはゼロに減少していることによってCLLまたは前立腺癌が診断される。
【0014】
もう1つの態様において、本診断検査は、D13S273マーカーおよびD13S272マーカーのヘテロ接合性消失を評価することによってmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子のコピー数の減少を検出することを含み、これらのマーカーでのヘテロ接合性消失によってCLLまたは前立腺癌が診断される。
【0015】
さらにもう1つの態様において、本診断検査は、CLLまたは前立腺癌を有することが疑われる被験者からDNAを単離すること、miR15遺伝子断片またはmiR16遺伝子断片のPCR増幅によってmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子における欠失または変異を検出すること、および増幅断片を対照正常試料からの増幅断片と比較することを含み、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の1つまたは複数のコピーに変異が検出されることによってCLLまたは前立腺癌が診断される。増幅断片の比較は一本鎖高次構造多型法によって行うことができる。1つの面において、変異はmiR15遺伝子配列またはmiR16遺伝子配列における部分的欠失である。
【0016】
もう1つの態様において、本診断検査は、CLLまたは前立腺癌を有することが疑われる被験者からRNAを単離することを含み、miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物における変異が検出されることによってCLLまたは前立腺癌が診断される。
【0017】
さらにもう1つの態様において、本診断検査は、CLLまたは前立腺癌を有することが疑われる被験者からRNAを単離すること、およびmiR15もしくはmiR16の前駆体またはプロセシングを受けたマイクロRNAの逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応による増幅によってmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を検出することを含み、内部対照増幅RNAと比較してmiR15もしくはmiR16の前駆体またはプロセシングを受けたマイクロRNAが減少していることによってCLLまたは前立腺癌が診断される。
【0018】
本発明はまた、治療を必要としている被験者におけるmiR15またはmiR16により媒介される癌を治療する方法であって、癌細胞の増殖が抑制されるように、有効量のmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を被験者に投与することを含む方法も提供する。
【0019】
本発明はまた、治療を必要としている被験者におけるmiR15またはmiR16により媒介される癌を治療する方法であって、細胞を被験者から単離して、miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物をコードする配列を含む核酸の有効量をそれにエクスビボでトランスフェクトする方法も提供する。トランスフェクト細胞におけるmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の発現は確認可能である。続いて細胞を被験者に再び移植し、被験者における癌細胞の増殖を抑制する。
【0020】
本発明はさらに、被験者におけるmiR15またはmiR16により媒介される癌細胞の増殖を抑制する方法であって、miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量を細胞に送達することを含む方法も提供する。
【0021】
本発明はさらになお、単離されたmiR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物またはmiR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物をコードする核酸、および薬学的に許容されるキャリアーを含む、miR15またはmiR16により媒介される癌を有する被験者を治療するための薬学組成物も提供する。
【0022】
発明の詳細な説明
本明細書中のすべての核酸配列は5'から3'の向きに示されている。さらに、核酸配列中のすべてのデオキシリボヌクレオチドは大文字により表され(例えば、デオキシチミジンは「T」である)、核酸配列中のリボヌクレオチドは小文字によって表される(例えば、ウリジンは「u」である)。
【0023】
CLLまたは前立腺癌を、miR15遺伝子もしくはmiR16遺伝子のコピー数の減少を検出することにより、または、miR15遺伝子もしくはmiR16遺伝子の1つまたは複数のコピーにおける変異を検出することにより、診断することが可能である。miR15遺伝子またはmiR16遺伝子のコピー数が二倍体から一倍体または無コピーに減少していることにより、CLLまたは前立腺癌が診断される。同様に、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の一方または両方のコピーにおける変異は遺伝子機能の喪失を意味し、これによってCLLまたは前立腺癌が診断される。
【0024】
本明細書で用いる場合、「CLL細胞」とは、CLLを有するかそれを有することが疑われる被験者からのリンパ球であって、Matutes et al. (1994), Leukemia 8(10) 1640-1645(その開示内容はすべて本明細書に参照として組み入れられる)によるスコア化システムによる判定で「CLLスコア」が少なくとも4であるリンパ球のことである。本明細書で用いる場合、「前立腺癌細胞」とは、前立腺に位置するか否かを問わず、前立腺由来の新生物性または腫瘍形成性の細胞のことである。当業者はCLL細胞または前立腺癌細胞を容易に同定することができる。
【0025】
miR15/miR16遺伝子クラスターは13q14にマッピングされている。これらの遺伝子の核酸配列はクローン317g11の内部に含まれ、そのヌクレオチド配列はGenBank記録アクセッション番号AC069475に提示されている。その記録の開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる。miR15遺伝子またはmiR16遺伝子における欠失または変異は、CLLまたは前立腺癌を有することが疑われる被験者からの試料におけるこれらの遺伝子の構造または配列を決定し、これを、その被験者の非罹患組織の試料または正常対照由来の組織の試料におけるこれらの遺伝子の構造または配列と比較することによって検出可能である。このような比較は任意の適した技法によって行いうる。
【0026】
本発明の実施によれば、miR15またはmiR16により媒介される癌を診断するために、組織試料を被験者から得る。続いて試料を、miR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物の発現、またはmiR15遺伝子もしくはmiR16遺伝子の欠失もしくは変異の判定のために調製する。組織試料には、関心被験者の生検のほかに、血液および液体試料が含まれる。
【0027】
本明細書で用いる場合、「miR15またはmiR16により媒介される癌」とは、癌に付随する腫瘍形成性または新生物性の細胞の少なくとも一部分においてmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現が低下もしくは消失している、任意の癌のことである。miR15またはmiR16により媒介される癌の例にはCLLおよび前立腺癌が含まれる。
【0028】
miR15またはmiR16の欠失または変異の存在は、例えば下記のようなmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子に対するプローブを用いる、被験者からのゲノムDNAのサザンブロットハイブリダイゼーションによって検出することができる。例えば、組織または血液の試料を、CLLまたは前立腺癌を有することが疑われる被験者から従来の生検法によって採取することができる。または、血液試料をCLLまたは前立腺癌を有することが疑われる被験者から採取して、白血球をDNA抽出のために単離することもできる。血液試料または組織試料は、放射線療法または化学療法を開始する前に患者から入手することが好ましい。対応する組織試料または血液試料を、その被験者の非罹患組織から、または正常ヒト個体から、対照として用いるために入手することができる。
【0029】
サザンブロットハイブリダイゼーション法は当技術分野における技能の範囲内にある。例えば、CLLまたは前立腺癌を有することが疑われる被験者由来の組織または血液から単離したゲノムDNAを、制限エンドヌクレアーゼによって消化する。この消化によってゲノムDNAの制限断片を生成させ、これを例えばアガロースゲル上での電気泳動によって分離する。続いて制限断片をハイブリダイゼーション膜(例えば、ニトロセルロースまたはナイロン)に対してブロットし、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子に対して特異的な標識プローブとハイブリダイズさせる。これらの遺伝子の欠失または変異は、被験者由来のDNA試料と同一の処理を行った対照DNA試料との比較によるハイブリダイゼーション膜上の制限断片パターンの変化によって示される。miR15遺伝子またはmiR16遺伝子のコピー数または変異を検出するのに適したプローブ標識およびハイブリダイゼーションの条件を当業者は容易に決定しうる。「欠失」という用語は、本明細書で用いる場合、遺伝子の部分的欠失または遺伝子全体の欠失のことを指す。
【0030】
サザンブロットハイブリダイゼーション用のmiR15核酸プローブおよびmiR16核酸プローブは、Lagos-Quintana et al. (2001), Science 294: 853-858(その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)に記載されたような、miR15およびmiR16マイクロRNAの発表済みの配列に基づいて設計することができる。miR15マイクロRNAのヌクレオチド配列は

である。miR16マイクロRNAのヌクレオチド配列は

である。miR15 DNAおよびmiR16 DNAを検出するのに適したプローブはそれぞれ以下の通りである:

【0031】
miR15 DNAまたはmiR16 DNAのプロービングのためにSEQ ID NO: 5およびSEQ ID NO: 6の相補物を用いることもできる。
【0032】
標識されたDNAプローブおよびRNAプローブの調製、ならびにそれらと標的ヌクレオチド配列とのハイブリダイゼーションのための方法は、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」J. Sambrook et al., eds., 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989、第10章および11章に記載されており、その開示内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【0033】
例えば、核酸プローブを、3H、32P、33P、14Cもしくは35Sなどの放射性核種;重金属;または標識リガンド(例えば、ビオチン、アビジンまたは抗体)に対する特異的結合対のメンバーとして機能しうるリガンド、蛍光分子、化学発光分子、酵素などによって標識することができる。
【0034】
プローブは、Rigby et al. (1977), J. Mol. Biol. 113: 237-251のニックトランスレーション法、またはFienberg et al. (1983), Anal. Biochem. 132: 6-13のランダムプライミング法のいずれかにより、比活性が高くなるように標識することができ、これらの開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる。このうち後者は、一本鎖DNAまたはRNAテンプレートから比放射能の高い32P標識プローブを合成する場合に選択される方法である。例えば、ニックトランスレーション法によって既存のヌクレオチドを高放射能ヌクレオチドに置換することにより、比放射能が108cpm/μgを優に上回る32P標識核酸プローブを調製することが可能である。続いて、ハイブリダイズさせたフィルターを写真フィルムに対して露光させることにより、ハイブリダイゼーションのオートラジオグラフィー検出を行うことができる。ハイブリダイズさせたフィルターにより露光された写真フィルムの濃度計スキャニングにより、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子のコピー数に関する正確な測定値が得られる。または、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子のコピー数を、Amersham Biosciences, Piscataway, NJから販売されているMolecular Dynamics 400-B 2D Phosphorimagerなどのコンピュータ画像システムによって定量化することもできる。
【0035】
DNAプローブまたはRNAプローブの放射性核種標識が実用的でない場合には、ランダムプライマー法を用いて、dTTP類似体である5-(N-(N-ビオチニル-イプシロンアミノカプロイル)-3-アミノアリル)デオキシウリジン三リン酸をプローブ分子中に組み入れることができる。ビオチン化されたプローブオリゴヌクレオチドは、アビジン、ストレプトアビジン、または蛍光色素もしくは呈色反応を生じる酵素と結合させた抗ビオチン抗体などのビオチン結合タンパク質との反応によって検出可能である。
【0036】
miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の欠失または変異を、これらの遺伝子の断片をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅し、被験者のDNA試料からの増幅断片の配列および/または長さが対照DNA試料のそれと異なるか否かを判定するために増幅断片をシークエンシングまたは電気泳動によって分析することにより、検出することもできる。DNA断片のPCR増幅のために適した反応条件およびサイクル条件を当業者は容易に決定しうる。PCR反応条件およびサイクル条件の例は、以下の実施例に関して用いた方法の項に記載されている。
【0037】
miR15またはmiR16により媒介される癌の診断は、図1A、1Bおよび2A〜2Dに示されたマーカーなどの種々の染色体マーカー間での13q14の欠失を検出することによって行いうる。例えば、miR15またはmiR16を含む、マイクロサテライトマーカーD13S272とD13S273との間の13q14領域における欠失により、miR15またはmiR16により媒介される癌の存在が示される。さらに、13q14内での欠失が、miR15またはmiR16が欠失している箇所である、マイクロサテライトマーカーD13S1150とD13S273との間または遺伝子座Alu18とマイクロサテライトマーカーD13S273との間にある場合にも、miR15またはmiR16により媒介される癌の存在が示される。
【0038】
組織の試料における二倍体ゲノム当たりのmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子の数を判定するための代替的な方法は、miR15/miR16遺伝子クラスターが13q14に位置し、マーカーD13S272およびD13S273と連鎖しているという事実に依拠する。D13S272およびD13S273マーカーと連鎖している遺伝子座がヘテロ接合性である個体におけるmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子のコピーの消失を、これらのマーカーにおけるヘテロ接合性消失によって推測することができる。染色体マーカーのヘテロ接合性消失を判定するための方法は当技術分野の技能の範囲内にある。ヘテロ接合性消失の検査の例は以下の実施例3に記載されている。
【0039】
CLLまたは前立腺癌を有することが疑われる被験者においてmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子が変異しているか否かを判定するためのもう1つの技法は、例えばOrita et al. (1989), Genomics 5: 874-879およびHayashi (1991), PCR Methods and Applic. 1: 34-38(これらの開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)に記載されたような、一本鎖高次構造多型(SSCP)である。SSCP法は、目的の遺伝子の断片をPCRによって増幅すること;断片を変性させ、変性した2本の一本鎖の電気泳動を非変性条件下で行うことからなる。これらの一本鎖は配列に依存した複雑なストランド内二次構造をとり、それがストランドの電気泳動移動度に影響を及ぼす。
【0040】
miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の一方または両方における欠失または変異は、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現の低下も引き起こしうる。このため、CLLまたは前立腺癌を、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子から生じたRNAの発現レベルを検出することによって診断することもでき、この場合には、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現の低下によってCLLまたは前立腺癌が診断される。
【0041】
miR15遺伝子およびmiR16遺伝子はいずれも転写されると、ステムループ構造を形成する約70kbの前駆体RNAを生じる。この前駆体RNAはタンパク質には翻訳されず、プロセシングを受けて、機能的な遺伝子産物と考えられている「マイクロRNA」または「miRNA」となる。
【0042】
本明細書で用いる場合、「miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物」とは、以下にさらに詳細に述べるように、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子からのプロセシングを受けたRNA転写物またはプロセシングを受けていないRNA転写物のことを意味する。「RNA」「RNA転写物」および「遺伝子産物」という用語は、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現に関する文脈において本明細書で互換的に用いられる。
【0043】
miR15およびmiR16の前駆体RNAは、Lagos-Quintana et al. (2001), Science 294, 853-858に記載されており、その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる。miR15およびmiR16の前駆体RNAの配列はSEQ ID NO: 1およびSEQ ID NO: 2に記載されている。SEQ ID NO: 1およびSEQ ID NO: 2の予想されるステムループ構造は、それぞれ図1Aおよび1Bに示されている。

【0044】
いかなる理論にも拘束されることは望まないが、miR15およびmiR16の前駆体RNAはmiR15/miR16遺伝子クラスターから共発現され、Dicer/Argonaute複合体によるプロセシングを受けて機能的なmiRNA産物になると考えられている。例えば、Lee et al. (2001), Science 294: 862を参照されたい。これらの遺伝子からの機能的なmiRNA産物はいずれも、5'末端に一リン酸があって3'末端に水酸基がある長さ22ヌクレオチドの一本鎖RNA分子である。プロセシングを受けたmiR15マイクロRNAのヌクレオチド配列は

である。プロセシングを受けたmiR16マイクロRNAのヌクレオチド配列は

である。本発明の実施においては、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子から生じた60〜70ntのRNA前駆体分子を検出することが可能である。または、Dicerタンパク質およびArgonauteタンパク質による前駆体RNAのプロセシングによって生じた、より短いmiR15およびmiR16マイクロRNA遺伝子産物を検出することもできる。
【0045】
RNA発現レベルを決定するための方法は当技術分野の技能水準の範囲内にある。例えば、上記のように、CLLまたは前立腺癌を有することが疑われる被験者から組織または血液の試料を入手する。対照としては、上記のように、対応する組織試料または血液試料を、その被験者の非罹患組織または正常ヒト個体から入手することができる。続いて、対照組織試料または血液試料を被験者からの試料とともに処理する。こうすると、被験者におけるmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現レベルを、被験者からの非罹患組織からのレベル、または正常対照からの組織または血液におけるmiR15もしくはmiR16の発現レベルと比較することができる。例えば、CLL細胞または試料として採取した前立腺腫瘍の細胞におけるmiR15またはmiR16の相対的な発現レベルを、1つまたは複数の標準と比較して決定することが好都合である。標準には例えば、一方ではゼロ発現レベル、また一方では同じ患者の正常組織における遺伝子の発現レベル、または正常対照群の組織における発現レベルが含まれうる。標準にはまた、標準細胞系におけるmiR15またはmiR16の発現レベルも含まれうる。正常発現レベルと比較したmiR15またはmiR16発現の低下の程度は、治療後の将来的な臨床転帰の指標となる。
【0046】
または、CLLまたは前立腺癌を有することが疑われる被験者におけるmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現レベルを、正常ヒト対照集団に関して以前に得られたmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子の平均発現レベルと比較することもできる。
【0047】
細胞における特定の遺伝子のRNA転写物のレベルを決定するために適した技法は当業者に周知である。このような方法の一つによれば、核酸抽出用バッファーの存在下でホモジナイズ処理を行い、その後に遠心処理を行うことによって細胞から全細胞RNAを精製する。核酸を沈降させ、DNアーゼ処理および沈殿によってDNAを除去する。続いてRNA分子を標準的な技法に従ったアガロースゲル上でのゲル電気泳動によって分離し、いわゆる「ノーザン」ブロット法などによってニトロセルロースフィルターに移行させる。続いてRNAを加熱処理によってフィルターに固定する。特定のRNAの検出および定量は、当該RNAに対して相補的な、適切に標識されたDNAまたはRNAプローブを用いて行われる。例えば、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」、J. Sambrook et al., eds., 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, 第7章(その開示内容はすべて参照として組み入れられる)を参照されたい。miR15 RNAまたはmiR16 RNAのノーザンブロットハイブリダイゼーションのために適したプローブには、SEQ ID NO: 5およびSEQ ID NO: 6が含まれる。
【0048】
miR15 RNAまたはmiR16 RNAに対するプローブハイブリダイゼーションのオートラジオグラフィー検出は、ハイブリダイズさせたフィルターを写真フィルムに対して露光させることによって行いうる。ハイブリダイズさせたフィルターにより露光された写真フィルムの濃度計スキャニングにより、RNA転写物のレベルに関する正確な測定値が得られる。または、RNA転写物のレベルを、Amersham Biosciences, Piscataway, NJから販売されているMolecular Dynamics 400-B 2D Phosphorimagerなどのコンピュータ画像システムによって定量化することもできる。
【0049】
ノーザンブロットハイブリダイゼーション法および他のRNAブロットハイブリダイゼーション法のほかに、RNA転写物のレベルをインサイチューハイブリダイゼーション法に従って評価することもできる。この技法は必要な細胞数がノーザンブロット法よりも少なく、全細胞を顕微鏡カバーグラスに付着させ、放射性または別の様式で標識されたcDNAプローブまたはcRNAプローブを含む溶液を用いて細胞の核酸含有量を調べることを含む。この技法は、前立腺癌を有することが疑われる被験者からの生検組織試料を分析するのに特に適している。インサイチューハイブリダイゼーション法の実施に関する詳細は米国特許第5,427,916号に記載されており、その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる。miR15 RNAまたはmiR16 RNAのインサイチューハイブリダイゼーションのために適したプローブには、SEQ ID NO: 5およびSEQ ID NO: 6が含まれる。
【0050】
miR15転写物またはmiR16転写物の相対的な数を、miR15転写物またはmiR16転写物を逆転写させた後にポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で増幅することによって決定することもできる。miR15転写物またはmiR16転写物のレベルは、内部標準、例えば、同一試料中に存在する「ハウスキーピング」遺伝子からのmRNAのレベルと比較して定量化することができる。内部標準として用いるのに適した「ハウスキーピング」遺伝子にはミオシンまたはグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)が含まれる。定量的RT-PCRのための方法およびその変法は当業者に周知である。
【0051】
miR15およびmiR16の発現を測定するための他の技法も当業者に知られており、これにはRNAの転写および分解の速度を測定するための技法が含まれる。
【0052】
miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の単離された遺伝子産物を、単独でまたは組み合わせて、miR15またはmiR16により媒介される癌細胞に投与することによって、miR15またはmiR16により媒介される癌を治療することができる。いかなる理論にも拘束されることは望まないが、miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物はこのような癌細胞の新生物性または腫瘍形成性増殖を抑制すると考えられている。
【0053】
特に、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の単離された遺伝子産物を、単独でまたは組み合わせて、CLL細胞または前立腺癌細胞に投与することにより、CLLまたは前立腺癌を治療することが可能である。
【0054】
本明細書で用いる場合、「miR15またはmiR16により媒介される癌細胞」とは、miR15またはmiR16により媒介される癌に罹患した被験者から単離された腫瘍形成性または新生物性の細胞のことである。miR15またはmiR16により媒介される癌細胞は、細胞におけるmiR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物の減少もしくは欠如を検出することにより、または細胞における癌性もしくは新生物性の表現型を検出することにより、同定可能である。当業者は癌性または新生物性の表現型を有する細胞を容易に同定することができる。例えば、このような細胞は培養下で接触により誘導される増殖抑制に対する感受性がなく、長期間培養すると増殖巣(foci)を形成すると考えられる。また、癌性または新生物性の細胞は、特徴的な形態変化、無秩序なコロニー成長パターンおよび足場非依存的な増殖性の獲得も呈する。癌性または新生物性の細胞は感受性動物において浸潤性腫瘍を形成する能力も有しており、これは、当技術分野の技能の範囲内にある技法を用いて、細胞を例えば無胸腺マウスに注入することによって評価することができる。
【0055】
本明細書で用いる場合、「単離された」遺伝子産物とは、人為的介入によって天然の状態とは変化した、または天然の状態から取り出されたもののことである。例えば、生きた動物の体内に自然のまま存在するRNAは「単離されて」いない。合成RNA、またはその天然の状態で共存する材料から部分的もしくは完全に分離されたRNAは「単離されて」いる。単離されたRNAは実質的に精製された形態で存在することもでき、またはRNAが送達された細胞内に存在することもできる。したがって、CLL細胞または前立腺癌細胞などの細胞に故意に送達されたかその中で発現されているmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物は、「単離された」遺伝子産物とみなされる。
【0056】
miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物は、さまざまな標準的な技法を用いて入手しうる。例えば、当技術分野で知られた方法を用いて、遺伝子産物を化学合成すること、または組換え的に産生させることが可能である。適切に保護されたリボヌクレオシドホスホルアミダイトおよび従来のDNA/RNA合成装置を用いてRNA産物を化学合成することが好ましい。合成RNA分子または合成用試薬の販売元には、Proligo社(Hamburg, Germany)、Dharmacon Research社(Lafayette, CO, USA)、Pierce Chemical社(Perbio Scienceの一部、Rockford, IL, USA)、Glen Research社(Sterling, VA, USA)、ChemGenes社(Ashland, MA, USA)およびCruachem社(Glasgow, UK)が含まれる。
【0057】
または、miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を、環状または線状の組換えDNAプラスミドから、任意の適したプロモーターを用いて発現させることもできる。プラスミドからRNAを発現させるために適したプロモーターには、U6もしくはH1 RNA pol IIIプロモーター配列またはサイトメガロウイルスプロモーターが含まれる。その他の適したプロモーターの選択は当技術分野の技能の範囲内にある。本発明の組換えプラスミドはまた、CLL細胞、前立腺癌細胞またはその他の細胞におけるmiR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物の発現のための誘導性または調節性プロモーターも含みうる。
【0058】
組換えプラスミドから発現されたmiR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物は、培養細胞発現系から標準的な技法によって単離することができる。組換えプラスミドから発現されたmiR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物をCLL細胞または前立腺癌細胞に直接送達して発現させることも可能である。miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物をCLL細胞または前立腺癌細胞に送達するための組換えプラスミドの利用に関しては以下でさらに詳細に考察する。
【0059】
miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を別々の組換えプラスミドから発現させることもでき、または同一の組換えプラスミドから発現させることもできる。miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を単一のプラスミドからRNA前駆体分子として発現させ、前駆体分子を適したプロセシング系によって機能的なmiRNA分子へとプロセシングすることが好ましい。適したプロセシング系には、Tuschlらの米国公開出願第2002/0086356号(その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)に記載されたインビトロのショウジョウバエ細胞可溶化物系が含まれる。
【0060】
miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を発現させるために適したプラスミドの選択、遺伝子産物を発現させるための核酸配列をプラスミドに挿入するための方法、ならびに組換えプラスミドを目的の細胞に送達する方法は、当技術分野の技能の範囲内にある。例えば、Zeng et al. (2002), Molecular Cell 9: 1327-1333;Tuschl (2002), Nat. Biotechnol, 20: 446-448;Brummelkamp et al. (2002), Science 296: 550-553;Miyagishi et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20: 497-500;Paddison et al. (2002), Genes Dev. 16: 948-958;Lee et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20: 500-505;およびPaul et al. (2002), Nat. Biotechnol. 20: 505-508を参照されたい(これらの開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)。
【0061】
1つの好ましい態様において、miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を発現するプラスミドは、CMV中間期-初期プロモーターの制御下にある、miR15またはmiR16の前駆体RNAをコードする配列を含む。本明細書で用いる場合、プロモーターの「制御下にある」とは、プロモーターがmiRNA産物をコードする配列の転写を開始しうるように、miRNA産物をコードする核酸配列がプロモーターの3'側に位置することを意味する。
【0062】
miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を組換えウイルスベクターから発現させることも可能である。miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を2つの別々の組換えウイルスベクターから発現させることも、または同一のウイルスベクターから発現させることも可能であると考えている。組換えウイルスベクターから発現されたRNAを標準的な技法によって培養細胞発現系から単離することもでき、またはCLL細胞もしくは前立腺癌細胞で直接発現させることもできる。miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物をCLL細胞または前立腺癌細胞に送達するための組換えウイルスベクターの利用に関しては以下でさらに詳細に考察する。
【0063】
本発明の組換えウイルスベクターは、miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物をコードする配列、ならびにRNA配列を発現させるための任意の適したプロモーターを含む。適したプロモーターには、例えば、U6もしくはH1 RNA pol IIIプロモーター配列またはサイトメガロウイルスプロモーターが含まれる。その他の適したプロモーターの選択は当技術分野の技能の範囲内にある。本発明の組換えウイルスベクターはまた、CLL細胞または前立腺癌細胞におけるmiR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物の発現のための誘導性または調節性プロモーターも含みうる。
【0064】
miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物のコード配列を受け入れられる任意のウイルスベクターを用いることができる;これには例えば、アデノウイルス(AV);アデノ随伴ウイルス(AAV);レトロウイルス(例えば、レンチウイルス(LV)、ラブドウイルス、マウス白血病ウイルス);ヘルペスウイルスなど由来のベクターがある。他のウイルス由来のエンベロープタンパク質または他の表面抗原を用いてベクターをシュードタイプ化することにより、ウイルスベクターの向性を改変することもできる。例えば、本発明のAAVベクターを、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、モコラウイルスなどの表面タンパク質によってシュードタイプ化することができる。本発明に用いるのに適した組換えウイルスベクターの選択、RNAを発現させるための核酸配列をベクターに挿入するための方法、ウイルスベクターを目的の細胞に送達する方法、および発現されたRNA産物の回収は、当技術分野の技能の範囲内にある。例えば、Dornburg (1995), Gene Therap. 2: 301-3l0;Eglitis (1988), Biotechniques 6: 608-614;Miller (1990), Hum. Gene Therap. 1: 5-14;およびAnderson (1998), Nature 392: 25-30を参照されたい(これらの開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)。
【0065】
好ましいウイルスベクターは、AVおよびAAV由来のものである。本発明のmiRNAを発現させるために適したAVベクター、組換えAVベクターを構築するための方法、およびベクターを標的細胞内に送達するための方法は、Xia et al. (2002), Nat. Biotech. 20: 1006-1010に記載されており、その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる。本発明のmiRNAを発現させるために適したAAVベクター、組換えAAVベクターを構築するための方法、およびベクターを標的細胞内に送達するための方法は、Samulski et al. (1987), J. Virol. 61: 3096-3101;Fisher et al. (1996), J. Virol., 70:520-532;Samulski et al. (1989), J. Virol. 63: 3822-3826;米国特許第5,252,479号;米国特許第5,139,941号;国際特許出願第WO 94/13788号;および国際特許出願第WO 93/24641号に記載されており、これらの開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる。miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を、CMV中間期-初期プロモーターを含む単一の組換えAAVベクターから発現させることが好ましい。
【0066】
1つの態様において、本発明の組換えAAVウイルスベクターは、miR15またはmiR16の前駆体RNAをコードする核酸配列が、polyT転写終結配列と機能的に結合しており、ヒトU6 RNAプロモーターの制御下にあるものを含む。本明細書で用いる場合、「polyT転写終結配列と機能的に結合している」とは、センス鎖またはアンチセンス鎖をコードする核酸配列が、polyT転写終結シグナルに対して5'側に直接隣接していることを意味する。ベクターからのmiR15配列またはmiR16配列の転写時に、polyT転写終結シグナルは転写を終結させる働きをする。
【0067】
本発明の実施において、miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物は、miR15またはmiR16により媒介される癌細胞、特にCLL細胞または前立腺癌細胞の新生物性または腫瘍形成性増殖を抑制するために用いられる。いかなる理論にも拘束されることは望まないが、プロセシングを受けたmiR15 miRNAおよびmiR16 miRNAは1つまたは複数の標的mRNA中の相補的配列と結合し、そのことがこれらの細胞における新生物性または腫瘍形成性増殖の開始および/または維持のために必要であると考えられている。したがって、本発明は、治療を必要としている被験者における、miR15またはmiR16により媒介される癌、例えばCLLまたは前立腺癌の治療方法を提供する。本方法は、miR15またはmiR16により媒介される癌細胞の増殖が抑制されるように、有効量のmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を被験者に投与することを含む。
【0068】
以上に考察したように、miR15またはmiR16により媒介される癌は、疾患に付随する腫瘍細胞または新生物性細胞の少なくとも一部分において、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の一方または両方の発現が低下または消失している癌である。CLLまたは前立腺癌由来の腫瘍細胞または新生物性細胞ではmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現が低下または消失している;したがって、CLLおよび前立腺癌はmiR15またはmiR16により媒介される癌であると考えられる。miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現の低下または消失は他の癌でも認められる可能性がある;このような癌も、このため、miR15またはmiR16により媒介される癌と考えることができる。
【0069】
例えば、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現は、少なくとも以下の組織学的サブタイプに属する癌由来の原発性または転移性の腫瘍細胞または新生物性細胞で低下または消失している可能性がある:肉腫(結合組織および中胚葉由来の他の組織の癌);黒色腫(色素性メラノサイト由来の癌);悪性上皮腫瘍(上皮由来の癌);腺癌(腺上皮由来の癌);神経由来の癌(神経膠腫/神経膠芽腫および正常細胞腫);および血液系腫瘍、例えば白血病およびリンパ腫(例えば、急性リンパ芽球性白血病および慢性骨髄性白血病)。
【0070】
miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現を、組織学的サブタイプにかかわらず、少なくとも以下の臓器または組織由来の癌において低下または消失させることもできる:乳房;雄性および雌性の泌尿生殖器(例えば、尿管、膀胱、前立腺、精巣、卵巣、子宮頸部、子宮、膣)の組織;肺;消化器系(例えば、胃、大腸および小腸、結腸、直腸)の組織;膵臓および副腎などの外分泌腺;口および食道の組織;脳および脊髄;腎臓(腎);膵臓;肝胆系(例えば、肝臓、胆嚢);リンパ系;平滑筋および横紋筋;骨および骨髄;皮膚;ならびに眼の組織。
【0071】
例えば「総合的ステージ分類(Overall Stage Grouping)"(「ローマ数字」分類とも呼ばれる)または「腫瘍・リンパ節・転移(Tumor, Nodes and Metastases)」(TNM)病期分類システムによって評価されるように、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現は、発達の任意の予後段階にある癌または腫瘍において低下または消失することもできる。所定の癌に対して適切な予後の病期分類および病期の記述は当技術分野で知られており、例えば、National Cancer Instituteの「CancerNet」インターネットウェブサイトに記載されている。
【0072】
miR15またはmiR16により媒介される癌に対する治療を必要としている被験者は、腫瘍細胞または新生物性細胞(または腫瘍性もしくは新生物性であると疑われる細胞)の試料を被験者から入手し、被験者から入手した正常組織からの細胞と比較して、細胞の少なくとも一部分においてmiR15またはmiR16の発現が低下または消失しているか否かを判定することによって同定しうる。細胞におけるmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現レベルを検出するための方法は当技術分野の技能の範囲内にある(上記参照)。または、被験者から入手した細胞におけるmiR15またはmiR16の発現を、正常被験者集団から入手した細胞におけるこれらの遺伝子の平均発現レベルと比較することもできる。CLLに対する治療を必要としている被験者は、臨床医が標準的な診断法を用いて容易に同定することができる。例えば、「慢性リンパ性白血病:診断、病期判定および治療反応の基準に関する勧告.慢性リンパ性白血病国際ワークショップ(Chronic lymphocytic leukemia: recommendations for diagnosis, staging, and response criteria. International Workshop on Chronic Lymphocytic Leukemia)」(1989) Annals of Internal Medicine 110(3) : 236-238を参照されたい(その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)。例えば、CLLを有する被験者は、流血中CLL細胞、リンパ球増多(すなわち、血中リンパ球数が10,000細胞/mm3またはそれ以上)、ならびに骨髄およびリンパ組織におけるCLL細胞の進行性蓄積を呈する。
【0073】
被験者の血液または他の組織におけるCLL細胞の実体は、血液試料の直接目視観察により、および/またはリンパ球の「CLLスコア」を決定することによって確かめることができる。CLLスコアは、CLL細胞に特徴的な5種類のリンパ球表面マーカーの有無を示したものである:CD5+、CD23+、FMC7-ならびに表面免疫グロブリン(SmIg)およびCD22の弱発現(+/-)。このスコア化システムは、これらの5種類のマーカーのそれぞれに対して、それがCLLにとって定型的であるか非定型的であるかに応じて1または0を付与する。CLL細胞のCLLスコアは4または5であり、他の白血病由来のリンパ球のCLLスコアは1未満〜3である。Matutes et al. (1994), Leukemia 8(10) : 1640-1645およびMoreau et al. (1997), American Journal of Clinical Pathology, 108: 378-82を参照されたい(これらの開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)。また、CLL細胞は正常末梢血B細胞と比べて膜表面免疫グロブリンのレベルが比較的低い。リンパ球の膜表面免疫グロブリンレベルは標準的な技法に従って容易に検出しうる;例えば、Rozman et al. (1995), New England Journal of Medicine 333: 1052-1057を参照されたい(その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)。
【0074】
前立腺癌に対する治療を必要としている被験者も、患者の年齢、直腸内診による肥大前立腺の検出、前立腺特異抗原(「PSA」)レベル、生検材料のGleasonスコア、ならびに前立腺組織由来の細胞表面におけるp53、p21およびサイクリンなどの免疫組織化学的に検出可能な遺伝マーカーの存在といった基準を用いて、医師により標準的な診断法に従って容易に同定される。血清PSAレベルが20ng/mlまたはそれ以上であり、前立腺組織検査で低分化であること(例えば、Gleasonスコアが8またはそれ以上)は前立腺癌の指標である。被験者における前立腺腫瘍の存在を、当技術分野で知られた、CTスキャン、前立腺の経直腸超音波検査(「TRUSP」)および磁気共鳴画像法(「MRI」)などの非侵襲的な画像化法を用いて確認することもできる。
【0075】
本明細書で用いる場合、miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の「有効量」とは、miR15またはmiR16により媒介される癌に罹患した被験者における、miR15またはmiR16により媒介される癌細胞の増殖を抑制するのに十分な量のことである。例えば、miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量は、CLLに罹患した被験者におけるCLL細胞の増殖を抑制する、または前立腺癌に罹患した被験者における前立腺癌細胞の増殖を抑制するのに十分な量である。「前立腺腫瘍細胞」は必ずしも前立腺に位置している必要はなく、前立腺由来の転移性腫瘍の細胞も含まれることは理解されている。
【0076】
本明細書で用いる場合、「miR15またはmiR16により媒介される癌細胞の増殖を抑制すること」とは、細胞を死滅させること、または細胞の増殖を永続的もしくは一時的に停止させることを意味する。miR15またはmiR16により媒介される癌細胞の増殖の抑制は、被験者におけるこのよな細胞の数がmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の投与後に一定に保たれるか減少した場合に推測することができる。また、miR15またはmiR16により媒介される癌細胞の増殖の抑制は、このような細胞の絶対数が増加しているものの腫瘍の成長速度は低下している場合にも推測することができる。
【0077】
被験者の体内のmiR15またはmiR16により媒介される癌細胞の数は、直接測定によって、または原発性もしくは転移性腫瘤のサイズによる推測によって決定することができる。
【0078】
例えば、被験者におけるCLL細胞の数は、例えば全血球数または白血球数によって容易に決定しうる。CLL細胞の数は、免疫組織化学的方法、フローサイトメトリー、またはCLL細胞の特徴的な表面マーカーを検出する目的で設計された他の技法によっても容易に決定しうる。
【0079】
前立腺腫瘤または腫瘤のサイズは、直接目視観察によって、またはX線検査、磁気共鳴画像法、超音波およびシンチグラフィーなどの画像診断法によって確かめることができる。腫瘤のサイズを確かめるために用いられる画像診断法は、当技術分野で知られているように、造影剤と併用しても併用しなくともよい。腫瘤のサイズを、組織塊の触診またはキャリパーなどの計測装置を用いる組織塊の測定といった物理的手段によって確かめることもできる。前立腺腫瘍の場合、腫瘤のサイズの決定のために好ましい物理的手段は直腸内診である。
【0080】
当業者は、被験者のサイズおよび体重;疾患の浸潤の程度;被験者の年齢、健康状態および性別;投与の経路;ならびに投与が局所性であるか全身性であるかといった要因を考慮に入れることにより、所定の患者に投与するmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量を容易に決定することができる。
【0081】
例えば、本発明の化合物の有効量は、治療しようとする腫瘤の大まかな重量に基づくことができる。腫瘤の大まかな重量は、塊の大まかな体積を算出することによって決定することができ、この際、体積1立方センチメートルは1グラムと概ね等価である。腫瘤の重量に基づくmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量は、少なくとも約10マイクログラム/腫瘤1グラムであってよく、好ましくは約10〜500マイクログラム/腫瘤1グラムの範囲である。より好ましくは、有効量は少なくとも約60マイクログラム/腫瘤1グラムである。特に好ましくは、有効量は少なくとも約100マイクログラム/腫瘤1グラムである。腫瘤の重量に基づく有効量を腫瘍内に直接注入することが好ましい。
【0082】
また、miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量は、治療しようとする被験者のおおよその体重または推定体重に基づくこともできる。このような有効量を以下に述べるように腸管外にまたは経腸的に投与することが好ましい。例えば、被験者に投与するmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量は、約5〜3000マイクログラム/体重kgの範囲であってよく、好ましくは約700〜1000マイクログラム/体重kgの範囲であり、より好ましくは約1000マイクログラム/体重kgを上回る。
【0083】
当業者はまた、所定の被験者に対するmiR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物の投与のための適切な用法も容易に決定することができる。例えば、miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を被験者に単回投与することができる(例えば、単回の注射または沈着(deposition)として)。または、遺伝子産物を被験者に1日1回または2回、約3日〜約28日の期間、より好ましくは約7日〜約10日の期間にわたって投与することもできる。1つの好ましい用法では、miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を1日1回、7日間にわたって投与する。用法が多回投与から構成される場合、被験者に投与されるmiR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物の有効量は用法全体を通じて投与される遺伝子産物の総量であると認識されている。
【0084】
miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物は被験者に対して、遺伝子産物を造血幹細胞(HSC)、CLL細胞または前立腺癌細胞などの被験者の細胞に送達するのに適した任意の手段によって投与される。例えば、被験者の細胞に対してmiR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物、またはmiR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物をコードする配列を含む核酸をトランスフェクトするために適した方法により、miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を投与することができる。細胞にmiR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物を直接トランスフェクトすることもでき(これらは核酸であるため)、またはmiR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物をコードする配列を含む核酸をトランスフェクトすることもできる。細胞に対して、上記のように、miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物をコードするプラスミドまたはウイルスベクターをトランスフェクトすることが好ましい。
【0085】
真核細胞に対するトランスフェクション法は当技術分野で周知であり、これには、細胞の核もしくは前核への核酸の直接注射;電気穿孔法;リポソームによる導入または親油性材料による導入;受容体を介した核酸送達、バイオバリスティック(bioballistic)または微粒子銃による射入;リン酸カルシウム沈降、およびウイルスベクターを介したトランスフェクションが含まれる。
【0086】
例えば、リポソーム性導入化合物、例えば、DOTAP(N-[1-(2,3-ジオレオイロキシ)プロピル}-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチル硫酸、Boehringer Mannheim)、またはLIPOFECTINなどの同等物を用いて細胞にトランスフェクトすることができる。用いる核酸の量は本発明の実施にとって特に重要ではない;許容される結果が0.1〜100μgの核酸/細胞105個で得られると考えられる。例えば、細胞105個当たり約0.5μgのプラスミドベクター/3μgのDOTAPという比を用いることができる。
【0087】
1つの態様においては、miR15またはmiR16により媒介される癌細胞、例えばCLL細胞または前立腺癌細胞を被験者から単離して、miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物をコードする核酸をトランスフェクトした上で、被験者に再び移植する。1つの好ましい態様において、トランスフェクトされて再び移植される細胞はCLL細胞である。特に好ましい態様において、トランスフェクトされて再び移植される細胞は、CLLと診断された被験者からのHSCである。
【0088】
CLL細胞を被験者から単離するための技法は当技術分野の技能の範囲内にあり、例えば以下の実施例7に記載されている。被験者からのHSCの単離、同定、分離および培養のための技法も当技術分野の技能の範囲内にあり、例えば、米国特許第5,635,387号および第5,643,741号ならびにCampana et al. (1995) Blood 85: 1416-1434に記載されている(これらの開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)。HSCのトランスフェクションを行う前には、採取した骨髄から腫瘍形成性または新生物性細胞をパージすることが好ましい。適したパージ法には、例えば、当技術分野で知られているような、モビライズ処理した末梢血細胞の白血球除去、腫瘍細胞の免疫親和性に基づく選別もしくは死滅、または腫瘍細胞を選択的に死滅させる細胞毒性物質もしくは光感受性物質の使用が含まれる。例えば、「骨髄の処理およびパージング. 第5部(Bone Marrow Processing and Purging. Part 5)」(A. Gee, ed.)、CRC Press, Boca Raton, Fla., 1991;Lydaki et al. (1996) J. Photochem. and Photobiol. 32: 27-32;およびGazitt et al. (1995), Blood, 86:381-389を参照されたい(これらの開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)。
【0089】
単離されたCLL細胞またはHSCに対するトランスフェクションは、以上に考察したように、任意の適した技法によって行うことができる。トランスフェクションの後に、適切な発現レベルの遺伝子産物が存在することをCLL細胞またはHSCの一部で調べる。miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の適切な発現が確かめられたところで、残りのトランスフェクト細胞を被験者に再び移植することができる。トランスフェクトされたCLL細胞またはHSCの被験者への再導入は、静脈内注入または骨髄への直接注射を含む、腸管外の方法によって行いうる。トランスフェクト細胞は食塩液またはその他の薬学的に許容されるキャリアー中にある状態で被験者に再導入することが好ましい。再導入のために適したトランスフェクト細胞の数は、被験者の体重1kg当たり約105〜約108個である。再導入に利用しうるトランスフェクト細胞の数は、トランスフェクションの前に培養下で細胞を増殖させることによって増加させることができる。
【0090】
CLL細胞またはHSCに対するトランスフェクションは、化合物の長期的な発現を得るために、CLL細胞またはHSCのゲノム中に安定的に組み込まれるmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物をコードする配列を含む核酸、例えばプラスミド発現ベクターを用いて行うことが好ましい。安定的な組込みおよび発現は、miR15 cDNAまたはmiR16 cDNA(またはそれらの断片)をプローブとして用いるゲノムDNAに対するサザンブロット法などの当技術分野で知られた技法によって確かめることができる。miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の発現を、標準的なノーザンブロット法によって検出することもできる。miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物をコードする配列が安定的にトランスフェクトされたCLL細胞またはHSCは、それらが被験者に再び移植されると化合物を発現しつづける。被験者からHSCを単離し、それらにmiR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を発現するプラスミドをトランスフェクトして、トランスフェクトされたHSCを被験者に再び移植する方法の例は、以下の実施例8に記載されている。
【0091】
miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を、任意の適した経腸的または腸管外の投与経路によって被験者に投与することもできる。本発明に適した経腸的な投与経路には、経口的、直腸内または鼻腔内への送達が含まれる。適した腸管外の投与経路には、血管内投与(例えば、静脈内ボーラス注射、静脈内注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入、および血管系へのカテーテル点滴);組織周囲および組織内への注射(例えば、腫瘍周囲および腫瘍内への注射、網膜内注射または網膜下注射);皮下注射、または皮下注入を含む沈着法(浸透ポンプなど);被験者組織への直接適用、例えばカテーテルまたは他の留置デバイス(例えば、網膜ペレットまたは坐薬、または多孔質、非多孔質もしくはゲル状材料を含むインプラント);ならびに吸入が含まれる。miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を注射または注入によって投与することが好ましい。固形腫瘍を含む、miR15またはmiR16により媒介される癌の治療のためには、miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を腫瘍内への直接注射によって治療することが好ましい。
【0092】
本方法においては、miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を、裸のRNAとして、送達用試薬とともに、または遺伝子産物を発現する配列を含む核酸(例えば、組換えプラスミドまたはウイルスベクター)として、被験者に投与することができる。miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物の投与のために適した送達用試薬には、Mirus Transit TKO親油性試薬;リポフェクチン;リポフェクタミン;セルフェクチン;またはポリカチオン(例えば、ポリリジン)もしくはリポソームが含まれる。
【0093】
miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を発現する配列を含む組換えプラスミドについてはすでに考察した。miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を発現する配列を含む組換えウイルスベクターについてもすでに考察しており、このようなベクターをCLL細胞または前立腺癌細胞に送達するための方法は当技術分野の技能の範囲内にある。
【0094】
1つの好ましい態様においては、miR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物、またはこれらの遺伝子産物をコードする配列を含む核酸を被験者に送達するためにリポソームを用いる。リポソームは、遺伝子産物または核酸の血中半減期も延長させることができる。本発明のこの態様の実施において、miR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物またはこれらの遺伝子産物をコードする配列を含む核酸は、被験者への投与の前にリポソーム中に封入される。
【0095】
本発明に用いるのに適したリポソームは標準的なベシクル形成性脂質から形成させることができ、これには一般に中性または負に荷電したリン脂質およびコレステロールなどのステロールが含まれる。脂質の選択は一般に、所望のリポソームのサイズおよび血流内でのリポソームの半減期などの要因の考察を手引きとして行う。リポソームを調製するための方法はさまざまなものが知られており、例えば、Szoka et al. (1980), Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9: 467;および米国特許第4,235,871号、第4,501,728号、第4,837,028号および第5,019,369号に記載されている(これらの開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)。
【0096】
miR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物、またはこれらの遺伝子産物をコードする配列を含む核酸を封入したリポソームは、miR15またはmiR16により媒介される癌細胞、例えばCLL細胞または前立腺癌細胞にリポソームをターゲットにするリガンド分子を含みうる。このような癌細胞に広く認められる受容体と結合するリガンド、例えば腫瘍細胞抗原またはCLL細胞表面マーカーと結合するモノクローナル抗体などが好ましい。
【0097】
miR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物、またはこれらの遺伝子産物をコードする配列を含む核酸を封入したリポソームを、単核性マクロファージ系(「MMS」)および網内系(「RES」)による排除を回避するように修飾することもできる。このような修飾リポソームは、オプソニン作用抑制成分を表面またはリポソーム構造に組み入れられた形で有する。特に好ましい態様において、本発明のリポソームはオプソニン作用抑制成分およびリガンドの両方を含みうる。
【0098】
本発明のリポソームの調製に用いるためのオプソニン作用抑制成分は一般に、リポソーム膜と結合した大型の親水性ポリマーである。本明細書で用いる場合、オプソニン作用抑制成分は、例えば脂溶性アンカーの膜自体へのインターカレーションにより、または膜脂質の活性基との直接的な結合により、それが化学的または物理的に膜と付着していれば、リポソーム膜と「結合」している。これらのオプソニン作用抑制性の親水性ポリマーは、MMSおよびRESによるリポソームの取込みを著しく減少させる防御表面層を形成する ;このことは例えば、米国特許第4,920,016号に記載されており、その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる。
【0099】
リポソームを修飾するのに適したオプソニン作用抑制成分は好ましくは数平均分子量が約500〜約40,000ダルトン、より好ましくは約2,000〜約20,000ダルトンである水溶性ポリマーである。このようなポリマーには、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール(PPG)の誘導体が含まれ;これには例えば、メトキシPEGまたはメトキシPPG、およびPEGステアリン酸またはPPGステアリン酸;ポリアクリルアミドまたはポリN-ビニルピロリドンなどの合成ポリマー;線状、分枝状またはデンドリマー状のポリアミドアミン;ポリアクリル酸;カルボキシル基またはアミノ基が化学的に結合したポリアルコール、例えば、ポリビニルアルコールおよびポリキシリトール、さらにはガングリオシドGM1などのガングリオシドが含まれる。PEG、メトキシPEGもしくはメトキシPPGまたはそれらの誘導体のコポリマーも適している。さらに、オプソニン作用抑制性ポリマーが、PEGとポリアミノ酸、多糖類、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミンまたはポリヌクレオチドとのブロックコポリマーであってもよい。また、オプソニン作用抑制性ポリマーは、アミノ酸またはカルボン酸を含む天然の多糖類であってもよく、これには例えば、ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラゲナン;アミノ化された多糖類もしくはオリゴ糖(線状または分枝状);またはカルボキシル化された多糖類もしくはオリゴ糖、例えば、カルボン酸の誘導体との反応の結果としてカルボキシル基と結合したものが含まれる。オプソニン作用抑制成分は PEG、PPGまたはそれらの誘導体であることが好ましい。PEGまたはPEG誘導体によって修飾されたリポソームは「PEG化リポソーム」とも呼ばれる。
【0100】
オプソニン作用抑制成分は、よく知られた種々の技法のうち任意のものによってリポソーム膜と結合させることができる。例えば、PEGのN-ヒドロキシスクシンイミドエステルをホスファチジル-エタノールアミン脂質溶解性アンカーと結合させ、続いて膜と結合させることができる。同様に、デキストラン重合体を、Na(CN)BH3および溶媒混合物(例えば、テトラヒドロフランと水、比30:12)を60℃で用いる還元的アミノ化により、ステアリルアミン脂質溶解性アンカーによって誘導体化することができる。
【0101】
オプソニン作用抑制成分によって修飾されたリポソームは、修飾されていないリポソームよりも流血中にはるかに長く留まる。この理由から、この種のリポソームは「ステルス(stealth)」リポソームと呼ばれることが時にある。ステルスリポソームは透過性または「漏出性」微小血管系が供給されている組織に蓄積することが知られている。このため、このような微小血管系の障害を特徴とする組織、例えば固形腫瘍にはこれらのリポソームが効率良く蓄積すると考えられる;Gabizon, et al. (1988), Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 18: 6949-53を参照されたい。さらに、RESによる取込みの減少のため、肝臓および脾臓へのリポソームの著しい蓄積が防止されることにより、ステルスリポソームの毒性も低下する。このため、オプソニン作用抑制成分によって修飾されたリポソームは、miR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物またはこれらの遺伝子産物をコードする配列を含む核酸を腫瘍細胞に送達する目的に特に適している。
【0102】
miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物は、被験者に投与する前に、当技術分野で知られた技法に従って薬学的組成物として製剤化することが好ましい。本発明の薬学的組成物は、少なくとも無菌であって発熱物質を含まないことを特徴とする。本明細書で用いる場合、「医薬製剤」には、対人的および獣医学的な用途のための製剤が含まれる。本発明の薬学的組成物を調製するための方法は当技術分野の技能の範囲内にあり、例えば、「レミントン薬学(Remington's Pharmaceutical Science)」第17版、Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1985)に記載されている(その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)。
【0103】
本発明の医薬製剤は、miR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物またはこれらの遺伝子産物をコードする配列を含む核酸(例えば、重量比で0.1〜90%)またはそれらの生理的に許容される塩が、薬学的に許容されるキャリアーと混合されたものを含む。また、本発明の医薬製剤は、miR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物、またはこれらの遺伝子産物をコードする遺伝子産物を含む核酸がリポソームにより封入されたもの、および薬学的に許容されるキャリアーも含みうる。
【0104】
好ましい薬学的に許容されるキャリアーには、水、緩衝液、生理的食塩水、0.4%食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸などがある。
【0105】
1つの好ましい態様において、本発明の薬学的組成物は、ヌクレアーゼによる分解に対する抵抗性を有するmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を含む。当業者は、例えば、2'位が修飾された1つまたは複数のリボヌクレオチドをmiR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物に組み入れることにより、ヌクレアーゼ抵抗性のあるmiR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物を容易に合成することができる。適した2'修飾型リボヌクレオチドには、2'位がフルオロ基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基またはO-アリル基により修飾されたものが含まれる。
【0106】
例えば、本発明の薬学的組成物は、式2'AR-ヌクレオチドで表される1つまたは複数の2'修飾型リボヌクレオチドが組み入れられたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を含み、式中、
Aは酸素またはハロゲン(好ましくはフッ素、塩素または臭素)であり、かつ
Rは水素または直鎖状もしくは分枝鎖C1-6アルキルであって;
前提として、AがハロゲンであればXおよびRは削除される。好ましい修飾型2'リボヌクレオチドは2'-Oメチルリボヌクレオチドである。好ましくは、本発明の薬学的組成物は、各リボヌクレオチドが2'修飾型リボヌクレオチドであるmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を含む。
【0107】
本発明の薬学的組成物はまた、従来の薬学的賦形剤および/または添加剤も含みうる。適した薬学的賦形剤には、安定化剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、緩衝剤およびpH調整剤が含まれる。適した添加剤には、生理学的に生体適合性のある緩衝液(例えば、塩酸トロメタミン)、キレート添加物(例えば、DTPAまたはDTPA-ビスアミドなど)またはカルシウムキレート複合体(例えば、カルシウムDTPA、CaNaDTPA-ビスアミド)、または選択的には、カルシウム塩もしくはナトリウム塩の添加物(例えば、塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルクロン酸カルシウムまたは乳酸カルシウム)が含まれる。本発明の薬学的組成物は液体形態で用いるためにパッケージ化することもでき、または凍結乾燥することもできる。
【0108】
本発明の固体薬学的組成物に対しては、従来の薬学的に許容される非毒性の固体キャリアーを用いることができる;これには例えば、医薬品級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、ショ糖、炭酸マグネシウムなどがある。
【0109】
例えば、経口投与用の固体薬学的組成物は、上記のキャリアーおよび添加剤の任意のもの、ならびに10〜95%、好ましくは25%〜75%の比率としてmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を含みうる。エアロゾル(吸入)投与用の薬学的組成物は、上記のリポソーム中に封入されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を重量比にして0.01〜20%、好ましくは重量比にして1%〜10%の比率で含むほか、噴射剤を含みうる。キャリアーを必要に応じて含めることもできる;例えば、鼻腔内送達の場合のレシチンなど。
【0110】
以下、本発明を以下の非制限的な実施例によって例示する。
【0111】
実施例
実施例の項では以下の手法を用いた:
【0112】
患者試料および細胞株―患者試料は、CLL Research Consortiumの施設で、CLLと診断された患者からインフォームドコンセントを得た上で入手した。手短に述べると、末梢血をCLL患者から採取し、Ficoll-Hypaque勾配遠心(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)によって単核細胞を単離した後に、Sambrook J et al. (1989), 「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular cloning:A Laboratory Manual)」(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)(その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)に記載された標準的なプロトコールに従って、RNAおよびDNAの抽出のための処理を行った。LOH検査のための正常対照として、対応する患者の頬粘膜からDNAを小さな(1〜2mm2)紙片に採った。
【0113】
30種のヒト細胞株をAmerican Type Culture Collection(ATCC;Manassas, VA)から入手し、ATCCの指示に従って維持した。これらの細胞株は、AS283、BL2、Bla、BJAB、CA46、Namalva、P3HRI、PAPB 682、PABm、Raji(バーキットリンパ腫)、Del1、SKDHL、ST486(T細胞リンパ腫)、JM(免疫芽球性B細胞リンパ腫)、MC 116(未分化リンパ腫)、Molt3、Supt 11(T-ALL)、U266(多発性骨髄腫)、A549、H1299(肺癌)、TE2、TE10(食道癌)、HeLa(子宮頸癌)、RC48(腎癌)および2220、2221、11609、11611、LNCAP、TSUR(前立腺癌)であった。
【0114】
CD5+B細胞の分離―通常の扁桃摘除術を受ける小児群(3〜9歳)の患者から扁桃腺を入手した。ノイラミニダーゼ処理したヒツジ赤血球に対するロゼット形成によって精製B細胞を入手した。Dono M et al. (2000), J. Immunol. 164: 5596-5604(その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)に記載されたように、不連続Percoll勾配(Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)によってB細胞をさらに分画した。50%Percoll画分から収集したB細胞を抗CD5 mAbとインキュベートした後に、ヤギ抗マウスIgを結合させた磁気マイクロビーズとインキュベートした。MiniMACSシステム(Miltenyi Biotec)を用いて磁気カラムMSに保持された細胞を収集することによる陽性選択により、CD5+B細胞を入手した。
【0115】
体細胞ハイブリッド―体細胞ハイブリッドを従来の方法に従って作製し、Negrini M et al. (1994), Cancer Res. 54: 1818-1824(その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)に記載されたように、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン(HAT)培地により選択した。単細胞クローンおよびサブクローン由来のDNAをDNeasy組織キット(Qiagen)を用いて単離し、染色体13および染色体2のマーカーの有無に関してPCRによりスクリーニングした(プライマー配列に関しては以下の表1を参照のこと)。t(2;13)(q32;q14)転座を有するCLLの1症例(CLL-B)の融合体から15種のクローンが単離され、t(2;13)(q12;q13)転座を有する別のCLL症例(CLL-A)から1種のクローンが単離された。CLL-B由来の12種のクローンは染色体13および2の両方とも完全な相補鎖を有していたが、3種はdel(13q)を有し、染色体2については完全な相補鎖を有していた。CLL-A由来の単一のクローンは13q14にわずかな欠失のある染色体13を有し、染色体2にはその部分はなかった。
【0116】
ノーザンブロット法―Tri-Reagentプロトコール(Molecular Research Center, Inc)を用いて全RNAの単離を行った。RNA試料(各30μg)を15%アクリルアミド変性(尿素)Criterionプレキャストゲル(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)で泳動させた後、Hybond-N+膜(Amersham Pharmacia Biotech)に移行させた。α-32P ATPとのハイブリダイゼーションを、42℃にて7%SDS、0.2M Na2PO4 pH 7.0中で一晩行った。膜の洗浄は42℃にて2×SSPE、0.1%SDSにより2回、0.5×SSPE、0.1%SDSにより2回行った。miR15 RNAおよびmiR16 RNAの検出に用いたプローブはそれぞれ以下の通りである:

【0117】
0.1%SDS水溶液/0.1×SSC中で10分間煮沸することによってブロットのストリッピング処理を行い、リプロービングを数回行った。ローディング対照としては、臭化エチジウムで染色した5S rRNAを用いた。
【0118】
逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)―正常CD5+細胞および23件のB-CLL試料における遺伝子発現レベルを分析する目的でRT-PCRを行った。1μlのcDNAを、Advantage2 PCRキット(Clontech)を各10pmolの遺伝子特異的プライマーとともに用いる各々の増幅反応に用い、94℃ 20秒間、65℃ 30秒間、68℃ 1分間を35サイクル行った(用いたプライマーの一覧に関しては以下の表1を参照のこと)。RNAがRT-PCRに十分な純度であることを確かめるために、G3PDH cDNAに対して特異的なプライマー(Clontech, Palo Alto, CA)を用いるPCRアッセイを用いた。Sambrook J et al. (1989)に記載された標準的な手順に従い、RT-PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分離した。
【0119】
ウエスタンブロット法―9例のB-CLL患者由来の細胞可溶化物のSDS/PAGEゲルを、GST-SLUG Middle抗体(Dr. Thomas Look - Harvard, MAより寄贈)およびSNX2(N17)抗体(Santa Cruz Biotechnology, CA)を用いて調べた。検出はECL Western Blotting検出キット(Amersham Pharmacia, UK)を製造元の指示に従って用いて行った。
【0120】
データベース分析―「nr」および「dbEST」データベースに対する検索、ならびに短くほぼ厳密な一致に関する検索を、National Institutes of HealthおよびNational Library of Medicineによって管理されているNational Center for Biotechnology InformationのウェブサイトからアクセスしたBLASTアラインメントツールを用いて行った。Altschul et al. (1990), J Mol. Biol. 215: 403-10およびAltschul et al. (1997), Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402も参照されたい(これらの開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)。短い配列の相同性に関する検索も、Biology workBenchのウェブサイトにより提供されているFASTAアラインメントツールを用いて行った。
【0121】
(表1)体細胞ハイブリッドのスクリーニングに用いたプライマー


【0122】
実施例1―CLL患者の体細胞ハイブリッドにおける30kbの欠失領域
これまで、CLL患者における13q14での最小の欠失領域は明確に定められていなかった。これまでに、13q14で欠失している種々の比較的大きな(130〜550kbの範囲)領域がCLLに関して記載されている(図2B参照)。D13S1150とD13S272との間の、LEU2遺伝子のエクソン5から動原体側65kb以内に位置するAlu18遺伝子座(図2D)でのホモ接合性消失の動原体側境界を同定するために、LOH分析およびサザンブロット分析が用いられた。しかし、目標の腫瘍抑制遺伝子の所在をさらに明らかにしうる、わずかなホモ接合性欠失も重複性のホモ接合性欠失も見いだされなかった。
【0123】
CLLにおける消失領域をより明確に定めるために、マウスLM-TKと13q14に転座および/または欠失を有するCLL細胞との体細胞ハイブリッドを作製した。この結果得られたハイブリッドクローンのPCRスクリーニングにより、これらの腫瘍に存在する染色体13の2種類のコピーの分離が可能となった。このようにして、31.4kbの欠失が1症例で同定され、別の例で染色体切断点の位置が正確に決定された(図2D)。これらの結果により、13q14の腫瘍抑制遺伝子がLEU2遺伝子のエクソン2とエクソン5との間の29kbの領域内に位置することが示された。体細胞ハイブリッドのスクリーニングに用いたプライマーは表1に示されている。
【0124】
図2に示されているように、体細胞ハイブリッドで欠失していた領域は、Liu et al. (1997) Oncogene 15: 2463-2473によって数年前に報告された10kb領域を含め、報告されているすべての消失領域と一致した。LEU2のエクソン1および2もその領域の内部および本明細書で定めたものの内部に位置する。しかし、LEU2はB-CLLの腫瘍抑制遺伝子の可能性のある候補としては除外されている(Bullrich et al. (2001), Cancer Res. 61: 6640-6648;Migliazza et al. (2001), Blood 97: 2098-2104;Wolf et al. (2001), Hum. Mol. Genet. 10: 1275-1285;およびMertens et al. (2002) Blood 99: 4116-4121を参照されたい)。
【0125】
実施例2―miR15遺伝子およびmiR16遺伝子は染色体13の最小欠失領域に位置し、CD5+細胞で高発現されている
公開されている配列情報およびデータベースを、13q14の最小消失領域にある新たな調節遺伝子に関してスクリーニングした。最近クローニングされた2つのmiRNA遺伝子miR15およびmiR16のクラスターが、まさにこの欠失領域内に位置づけられた(図2A)。正常組織におけるmiR15およびmiR16の発現レベルを評価するために、正常個体の扁桃体から単離したCD5+B細胞を含む一群の正常組織に対して、miR15 RNAおよびmiR16 RNAに関するノーザンブロット分析を行った(図3A)。CD5+B細胞を対照として用いた理由は、B-CLLがCD5+Bリンパ球の進行性蓄積を特徴とするためである。miR15遺伝子およびmiR16遺伝子のいずれも偏在的な発現が認められ、正常CD5+リンパ球におけるレベルが最も高かった。さらに、正常組織ではmiR16が常にmiR15よりも高いレベルで発現されていた。これらのデータから、miR15遺伝子およびmiR16遺伝子が正常CD5+B細胞のホメオスタシスに重要な役割を果たしていることが示された。
【0126】
実施例3―13q14に欠失のあるCLL試料ではmiR15遺伝子およびmiR16遺伝子の欠失またはダウンレギュレーションが高頻度にみられる
miR15遺伝子およびmiR16遺伝子がCLLの発生に関与しているか否かを調べるために、60件のCLL試料および30種のヒト癌細胞株をmiR15およびmiR16の発現に関してノーザンブロット法により分析した(図3A)。CLL患者の68%(41/60)ならびに分析した前立腺癌細胞株6種のうち5種は対応する正常組織と比較して有意な発現低下を示した。これらの所見により、miR15遺伝子およびmiR16遺伝子が、検討したB-CLL症例および前立腺癌症例の大半でダウンレギュレートされていることが示された。
【0127】
さらに、60件のCLL試料のうち23件(38%)では、miR15前駆体RNAに相当する約70ntの明瞭に同定しうるバンドが認められた。この70ntのmiR15バンドは、骨髄を除き、分析したどの正常組織にも認められず(図3A)、このことからCLLではmiR15前駆体RNAのプロセシングが非効率的であることが示された。
【0128】
観察された発現ダウンレギュレーションがCLLにおける対立遺伝子の消失と相関するか否かを明らかにするために、正常DNAが入手可能であった46例のCLL患者に対して、マイクロサテライトマーカーD13S272およびD13S273を用いてLOH検査を行った(図3B)。本発明者らは、情報価値のある試料の68%が少なくとも1つのマーカーにおいてLOHを示すことを見いだした(35例中24例)。4件を除くすべての試料において(75%)、miR15/16遺伝子産物の発現は低下していた。12件の試料に関しては、出発材料の質が良くなかったために再現性のある結果が得られなかった。さらにLOHが見かけ上存在しなかった11症例のうち6例(55%)では発現レベルが低下していた。これらの症例では、分析したマーカーを用いて検出するには欠失が小さすぎた可能性がある。
【0129】
ノーザンブロット分析からは、13q14に大きなホモ接合性欠失のあることが判明している症例ではmiR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物の両方が発現されるが、これは正常細胞の5%未満であることが示され、このことからゲノム中に非常に類似した他のマイクロRNA遺伝子が存在することが示された。実際に、miR15/miR16遺伝子クラスターと極めて類似したクラスター(しかし前駆体は異なる)が染色体3q25-26.1に報告されている(Lagos-Quintana et al. (2002), Curr. Biol.12: 735-739を参照のこと)。miR15/16遺伝子発現の差異が染色体13q上の欠失と厳密に関連することを示すために、染色体13上のmiR16前駆体RNAに対して特異的なプローブ、および染色体3上の遺伝子から産生されたmiRNA前駆体RNAに対して特異的なプローブを設計し、ノーザンブロットの調査に用いた。
【0130】
染色体13からのmiR16前駆体RNAは低レベルで検出されたが、同じ試料において染色体3プローブとの特異的なハイブリダイゼーションは見いだされなかった。さらに、このクラスターのすぐ動原体側に位置する2Mb領域にまたがる2つのマイクロサテライトマーカーを用いるLOH検査を行った。17件の情報価値のある試料のうち4件が少なくとも1つのマーカーにおいてLOHを示し、miR15/16の発現レベルとの相関は全く見いだされなかった。これらのデータから、CLLにおけるmiR15遺伝子およびmiR16遺伝子のダウンレギュレーションが13q14での対立遺伝子消失と相関することが明らかに示され、CLLの発生におけるmiR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物の役割が示された。
【0131】
実施例4―miR15およびmiR16はマウスにおけるCLLの発生にも関与する
miR15遺伝子およびmiR16遺伝子がCLLの発生に関与するか否かをさらに調べるために、検討の被験者を、CLLを発症するEμ-TCL1トランスジェニックマウスに広げた(Bichi et al., (2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 10: 6955-6960)。Eμ-TCL1トランスジェニックマウスにおける細胞遺伝学的変化および遺伝的変化を検討した。ノーザンブロット分析を上記の通りに行った(実施例の項の「ノーザンブロット法」および実施例3を参照されたい)。
【0132】
このトランスジェニックマウスの約80%では、正常マウス脾臓リンパ球と比較して、CLL細胞におけるmiR15およびmiR16のマウス相同体のノックダウンが認められた。これらの結果は、実施例3で正常ヒト細胞との比較でヒトCLLについて述べた結果と類似している。
【0133】
マウス染色体15とヒト染色体12との比較を行った。トランスジェニックマウス白血病のコンパラティブ遺伝子ハイブリダイゼーション(CGH)により、約35%はマウス染色体15に増幅領域を有することが示され、これはヒト染色体12の一領域と対応していた。これらのマウス白血病の細胞遺伝学的分析からもマウス染色体15のトリソミーまたはテトラソミーが示された。染色体12のトリソミーはヒトCLLの約25%に存在することが知られている。
【0134】
コンパラティブ遺伝子ハイブリダイゼーションにより、マウス染色体14(51.6〜78.5Mb)の消失領域も示され、これはヒトでは領域13q14に対応していた。
【0135】
これらの検討の結果は、CLLマウスモデルで、ヒトCLLの発生過程で起こる事象が再現されることを示している。以上を総合すると、実施例1〜4に提示したデータは、哺乳動物でのCLLの発生におけるmiR15およびmiR16の役割を示している。
【0136】
実施例5―変異分析ではCLLおよび消化器癌におけるmiR15遺伝子およびmiR16遺伝子での点変異は示されなかった
CLLにおけるmiR15遺伝子およびmiR16遺伝子の関与についてさらに評価するために、120例という一組のB-CLLならびに80種の大腸癌および胃癌を、PCR増幅産物の直接シークエンシングにより、変異に関してスクリーニングした。クラスター全体を含む720bpのゲノム領域を増幅した。3つの症例では、同じ変化がmiR16前駆体RNAに認められた;これは2位でのTからCへの置換であった。この変化はmiRNAのヘアピン構造を変化させないと予想された。遺伝子外多型もいくつか見いだされた。miR16遺伝子における変異がわずかであることは、miR16遺伝子のサイズの小ささ(70bp)を考えれば驚くには当たらなかった。
【0137】
LOHを示すCLL症例における残った対立遺伝子の不活性化に関する代替的な機序を同定する目的で、「インシリコ」クローニングを用いたところ、miR16遺伝子の約215bp下流に位置するプロモーター領域と推定される領域が同定された。プロモーターの高メチル化によるダウンレギュレーションは、p16INK4a、p73、hMLH1またはVHLを含む、いくつかの癌関連遺伝子に関して報告されている(Esteller (2002), Oncogene 21: 5427-5440を参照)。このため、メチル化特異的PCRを用いて、miR16プロモーターと推定されるものの5'側に位置する1つのCpGリッチ領域のメチル化状態を分析した。10件のCLL試料において、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子の発現レベルにかかわらず(8例は発現低下、2例は高発現)、分析したどのCpG部位にもメチル化パターンに関して検出しうる差異はみられなかった。しかし、異なる領域またはCpG部位のわずかな領域のメチル化が、メチル化特異的PCRによる検出を免れた可能性は否定できない。
【0138】
実施例6―ヒト細胞におけるmiR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物の発現
miR15およびmiR16のRNA前駆体の70ヌクレオチド全体をコードするcDNA配列を、Zeng et al. (2002), Mol. Cell 9: 1327-1333(その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)の手順に従って、サイトメガロウイルス最初期(CMV-IE)プロモーターの制御下で発現される関連性のないmRNA環境下に別個にクローニングする。
【0139】
手短に述べると、miR15およびmiR16のRNA前駆体をコードする二本鎖cDNA配列の末端にXho Iリンカーを配置し、これらの構築物を、pBC12/CMVプラスミド中に存在するXho I部位に別個にクローニングする。pBC12/CMVプラスミドは、Cullen, (1986), Cell 46: 973-982に記載されており、その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる。miR15前駆体RNA配列を含むプラスミドはpCMV-miR15と呼び、miR16前駆体RNA配列を含むプラスミドはpCMV-miR16と呼ぶ。
【0140】
FuGene 6試薬(Roche)を用いる標準的な技法により、pCMV-miR15およびpCMV-miR16を培養ヒト293T細胞に別個にトランスフェクトする。全RNAを上記の通りに抽出し、プロセシングを受けたmiR15 RNAまたはmiR16 RNAの存在を、miR15およびmiR16に対して特異的なプローブを用いるノーザンブロット分析によって検出する。
【0141】
同じく、pCMV-miR15およびpCMV-miR16を、培養ヒト前立腺癌細胞株2220、2221、11609、11611、LNCAP、TSURに対しても別個にトランスフェクトする。全RNAを上記の通りに抽出し、前立腺癌細胞におけるプロセシングを受けたmiR15 RNAまたはmiR16 RNAの存在を、miR15およびmiR16に対して特異的なプローブを用いるノーザンブロット分析によって検出する。トランスフェクトした前立腺癌細胞を、形態、接触阻止を克服する能力、および形質転換表現型の指標となる他のマーカーの変化に関しても評価する。
【0142】
実施例7―miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物によるCLL細胞のトランスフェクション
以下のようにして、CLLと診断された被験者からCLL細胞を単離し、miR15およびmiR16マイクロRNAをコードするプラスミドをトランスフェクトする。
【0143】
CD5+B細胞を上記の通りに単離し、CLL細胞を、目視観察により、またはMatutes et al. (1994), Leukemia 8(10): 1640-1645(その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)のスコア化システムに従ってCLLスコアを判定することによって同定する。CLLスコアが少なくとも4であるCD5+B細胞はCLL細胞とみなす。単離したCLL細胞において、miR15/miR16遺伝子クラスターが除去される13q14領域における欠失を確かめる。
【0144】
単離したCLL細胞に対して、標準的な技法によってpCMV-miR15およびpCMVmiR16をトランスフェクトする。全RNAを上記の通りに単離し、プロセシングを受けたmiR15 RNAまたはmiR16 RNAの存在を、miR15およびmiR16に対して特異的なプローブを用いるノーザンブロット分析によって検出する。miR15遺伝子配列およびmiR16遺伝子配列の安定的な組込みも、miR15遺伝子配列およびmiR16遺伝子配列に対して特異的なプローブを用いるサザンブロットハイブリダイゼーションによって確かめる。
【0145】
実施例8―miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物による造血幹細胞のトランスフェクション
以下のようにして、CLLと診断された被験者からの造血幹細胞(HSC)を骨髄から入手する。
【0146】
標準的な技法を用いて、手術室での全身麻酔下で被験者の腸骨から骨髄を採取する。ヘパリン処理したシリンジ中に多数回の吸引を行い、骨髄を合計約750〜1000ml採取する。吸引した骨髄は直ちに、培地100ml当たり10,000単位の保存料非含有ヘパリンを含む輸送培地(TC-199, Gibco, Grand Island, New York)中に移す。吸引した骨髄を、段階的に孔径を小さくしながら3枚のメッシュを通して濾過し、細胞凝集物、細胞片および骨粒子を含まない細胞浮遊液を入手する。続いて、濾過した骨髄を自動細胞分離装置(例えば、Cobe 2991 Cell Processor)でさらに処理し、「バッフィーコート」(すなわち、赤血球および血小板を含まない白血球)を得る。
【0147】
以下のようにして、免疫磁気ビーズ(Dynal A.S., Oslo, Norway)を用いてCD34+細胞の陽性選択を行うことにより、バッフィーコート調製物を造血幹細胞(HSC)に関してある程度濃縮する。バッフィーコート調製物を補強アルファ培地中で懸濁化し、チューブをゆっくりと転置しながら、1:20希釈したマウス抗HPCA-I抗体とともに4℃で45分間インキュベートする。細胞を補強アルファ培地で3回洗浄した後に、ヤギ抗マウスIgGのFc断片をコーティングしたビーズとともにインキュベートする(免疫ビーズ75μl/CD34細胞10個)。4℃で45分間インキュベートした後に、磁気粒子濃縮装置を製造元による指示に従って用いて、ビーズに付着した細胞を陽性選択する。
【0148】
HSCが濃縮された調製物からの2×10個の細胞を、2%ヒトAB血清および10mM Hepes緩衝液を含むIscove変法Dulbecco培地(IMDM)総容積0.4mlの入った5mlポリプロピレンチューブ(Fisher Scientific, Pittsburgh, PA)中でインキュベートし、標準的な技法によってpCMV-miR15およびpCMV-miR16をトランスフェクトする。miR15 RNAまたはmiR16 RNAの発現はトランスフェクトされたHSCの一部分を用いてノーザンブロット分析によって確かめ、miR15遺伝子配列またはmiR16遺伝子配列の安定的な組込みはHSCの一部分を用いてサザンブロット分析によって確かめる。約4×10個/体重kg〜約8×10個/体重kgの残りのトランスフェクト細胞を、標準的な骨髄移植法に従って被験者に再び移植する。
【0149】
以下のようにして、トランスフェクションおよび再移植の前に電離放射線照射によって骨髄から新生物性細胞をパージした上で、同じ実験を繰り返す。バッフィーコート調製物中の細胞を、約20%自己血漿を含むTC-199中の細胞濃度が約2×10個/mlとなるように調整する。造血性腫瘍の増殖を促し、それによって電離放射線への感受性を高めるために、組換えヒト造血増殖因子rH IL-3またはrH GM-CSFを細胞浮遊液に添加する。続いて細胞に対して5〜10Gyの電離放射線を照射し、約20%自己血漿を含むTC-199により4℃で洗浄した上で、上記の通りにpCMV-miR15およびpCMV-miR16をトランスフェクトする。
【0150】
実施例9―miR15またはmiR16を封入したリポソームの調製
リポソーム調製物1―米国特許第4,235,871号(その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)に記載された逆相揮発法により、モル比1:1:4:5のラクトシルセレブロシド、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリンおよびコレステロールから構成されるリポソームを調製する。リポソームの調製は、プロセシングを受けたmiR15 RNAもしくはmiR16 RNAの100μg/ml水溶液、またはpCMV-miR15もしくはpCMV-miR16の500μg/ml水溶液中で行う。このようにして調製したリポソームは、プロセシングを受けたmiR15 RNAもしくはmiR16 RNA、またはpCMV-miR15もしくはpCMV-miR16プラスミドを封入している。
【0151】
続いてリポソームを0.4ポリカーボネート膜に通し、食塩水中に懸濁させた上で、135mM塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム pH 7.4でのカラムクロマトグラフィーにより、封入していない材料と分離する。このリポソームをそれ以上修飾せずに用いるか、下記のように修飾する。
【0152】
以上のようにして調製したリポソームの一定量を適切な反応容器に入れ、それに対して、20mMメタ過ヨウ素酸ナトリウム、135mM塩化ナトリウムおよび10mMリン酸ナトリウムを攪拌しながら添加する(pH 7.4)。この結果得た混合物を暗所にて約20℃で90分間静置する。余分な過ヨウ素酸塩は、緩衝食塩水(135mM塩化ナトリウム、10mMリン酸ナトリウム、pH 7.4)250mlに対して反応混合物の透析を2時間行うことによって除去する。この生成物は、炭水化物の水酸基の酸化によってアルデヒド基に修飾された表面を有するリポソームである。これらのアルデヒド基を介して、ターゲティング基またはオプソニン作用抑制成分をリポソーム表面に結合させる。
【0153】
リポソーム調製物2―以下のようにして、マレイミドベンゾイルホスファチジルエタノールアミン(MBPE)、ホスファチジルコリンおよびコレステロールから構成される第2のリポソーム調製物を入手する。MBPEは、タンパク質をはじめとするスルフヒドリル含有化合物をリポソームと結合させるための活性化リン脂質である。
【0154】
Kitagawa et al. (1976), J. Biochem. 79: 233-236(その開示内容はすべて参照として本明細書に組み入れられる)に記載されたように、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)(100mmol)を、トリエチルアミン2当量およびm-マレイミドベンゾイルN-ヒドロキシスクシンイミドエステル50mgを含む無水メタノール5ml中に溶解する。これによる反応を窒素ガス雰囲気において室温で一晩進行させた上で、クロロホルム/メタノール/水(65/25/4)を含むシリカゲルHによる薄層クロマトグラフィーにかける(これにより、DMPEからより移動度の大きい生成物への定量的変換が示される)。メタノールを減圧下で除去し、生成物をクロロホルム中に再び溶解する。クロロホルム相を1%塩化ナトリウムで2回抽出し、クロロホルム/メタノール(4/1)を溶媒として用いるケイ酸クロマトグラフィーによってマレイミドベンゾイルホスファチジルエタノールアミン(MBPE)を精製する。精製後の薄層クロマトグラフィーにより、ニンヒドリン陰性である単一の燐酸塩含有スポットが示される。
【0155】
MBPE、ホスファチジルコリンおよびコレステロールをモル比1:9:8で用いて、米国特許第4,235,871号、前記の逆相揮発法により、プロセシングを受けたmiR15 RNAもしくはmiR16 RNAの100μg/ml水溶液またはpCMV-miR15もしくはpCMV-miR16の500μg/ml水溶液中でリポソームを調製する。100mM塩化ナトリウム-2mMリン酸ナトリウム(pH 6.0)中でのカラムクロマトグラフィーにより、封入していない材料からリポソームを分離する。
【0156】
実施例10―抗CD5+抗体または抗前立腺腫瘍抗体と、miR15またはmiR16を封入したリポソームとの結合
適切な容器に、反応性アルデヒド基を含むリポソーム調製物1(約10mmolを含む)または上記のリポソーム調製物2を1.1ml入れる。200mMシアノボロ水素化ナトリウム溶液0.2ml、およびCD5+細胞表面マーカーまたは前立腺腫瘍細胞抗原を標的とするモノクローナル抗体の3mg/ml溶液1.0mlを、撹拌しながら調製物に添加する。この結果得られた反応混合物を4℃に保ちながら一晩静置する。この反応混合物をBiogel A5Mアガロースカラム(Biorad, Richmond, Ca.;1.5×37cm)で分離する。
【0157】
実施例11―miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物によるインビボでのヒト前立腺腫瘍の増殖抑制
ホルモン治療抵抗性のヒト前立腺腺癌細胞株(PC-3)をヌードマウスに接種した上で、マウスを治療群と対照群に分ける。マウス体内の腫瘍が100〜250立方ミリメートルに達した時点で、プロセシングを受けたmiR15およびmiR16がリポソーム中に封入されたものを、対照群の腫瘍内に直接注入する。対照群の腫瘍にはキャリアー溶液のみが封入されたリポソームを注入する。試験期間の全体を通じて腫瘍体積を計測する。miR15遺伝子産物およびmiR16遺伝子産物が、Dunning R-3327ラット前立腺腺癌モデルにおける前立腺腫瘍の増殖を抑制する効果も以下のようにして評価する。Dunning R-3327前立腺腺癌細胞の転移性および悪性度の高いクローン(RT-3.1)をCopenhagenラットに接種し、それを治療群と対照群に分ける。いずれの群も約1週間で固形腫瘤を形成する。続いて治療群のラットの腫瘍にはプロセシングを受けたmiR15およびmiR16がリポソーム中に封入されたものを集2回、5週間にわたって注入する。対照群の腫瘍にはキャリアー溶液のみが封入されたリポソームを注入する。試験期間の全体を通じて腫瘍体積を計測する。
【0158】
本明細書で論じた参考文献はすべて参照として組み入れられる。当業者は、本発明が、前述した(さらにはそれに内在する)目的を実施するとともに目標および利点を得るための適合性を十分に備えていることを容易に理解すると考えられる。本発明は、その精神またはその本質的な属性から逸脱することなく他の具体的な形態として具現化することができ、したがって、本発明の範囲を示すものとしての参照は、前述した明細書に対してではなく、添付した特許請求の範囲に対してなされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0159】
(図1AおよびB)それぞれmiR15およびmiR16の前駆体RNAの予想される二次構造の概略図である。RNA二次構造の予測は、Matthews et al. (1999), J. Mol. Biol. 288: 911-940の「mfold」プログラム、バージョン3.1を用いて行い、へリックスセグメント中のG/Uゆらぎ塩基対に適応させるために手作業で修正を加えた。プロセシングを受けるmiR15およびmiR16 miRNAの配列には下線を付している。Lagos-Quintana et al. (2001), Science 294: 853-858を改変。
(図2A)CLLにおける13q14腫瘍抑制遺伝子座の内部の遺伝子のマップであり、miR15/16遺伝子クラスターの所在を示している。マップ上の遺伝子マーカーの位置および遺伝子の位置が示されている。
(図2B)これまでに報告された13q14欠失のマップであり、これらは横縞入りの枠によって表示されている。
(図2C)マーカーD13S1150とD13S272との間の遺伝子座のマップである。この遺伝子座の内部の各遺伝子の向きを遺伝子名の下に矢印で表示しており、色付きの縦方向のバーは各遺伝子の対応するエクソンの位置を表している。
(図2D)マーカーAlu 18とD13S272との間の遺伝子座のマップである。バーおよび枠はLEU2/ALT1およびLEU1のエクソンの位置を表している。短い縦矢印はmiR15遺伝子およびmiR16遺伝子の位置を表している。丸印は、2例の無関係な白血病症例(CLL-AおよびCLL-B)の融合物由来の体細胞ハイブリッドクローンのスクリーニングのために用いたPCRプライマーの位置を表している。塗りつぶした枠は、ハイブリッドに存在する染色体13の部分を表している。「←〜31.4kb→」は、t(2;13)(q12;q13)転座、両側性網膜芽細胞腫および潰瘍性大腸炎を有するCLLの患者由来のクローンCLL-Aにおける約31.4kbの欠失領域を示している。長い縦矢印はt(2;13)(q32;q14)転座を有するクローンCLL-Bにおける切断点を表し、「←〜29kb→」はこのクローにおける約29kbの欠失領域を示している。
(図3A)正常なヒトの腎臓、前立腺、肝臓、骨格筋(Sk muscle)、睾丸、CD5+B細胞(CD5+)、白血病細胞(「Per B1 Leuk」)および骨髄(「BM」)におけるmiR15遺伝子およびmiR16遺伝子の発現に関するノーザンブロット分析である。
(図3B)18例のCLL患者におけるマイクロサテライトマーカーD13S272およびD13S273のヘテロ接合性消失(「LOH」)分析である。正常ヒトCD5+細胞からのDNAを対照として用いた。試料のLOH状態は、「+/+ ヘテロ接合性」「+/- LOH」「-/- ホモ接合性欠失」「NI」(情報価値なし)」「?」(材料が不十分)および「ND」(実施せず)として示されている。臭化エチジウムで染色したノーザンゲルを標準化対照として用いた。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要としている被験者におけるmiR15またはmiR16により媒介される癌を治療する方法であって、miR15またはmiR16により媒介される癌細胞の増殖が抑制されるように、単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量を被験者に投与することを含む方法。
【請求項2】
miR15またはmiR16により媒介される癌が、慢性リンパ性白血病または前立腺癌である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物が、被験者の細胞のトランスフェクションによって投与される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
細胞が、造血幹細胞、慢性リンパ性白血病細胞または前立腺癌細胞である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物が、被験者に対して腸管外にまたは経腸的に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
経腸投与が経口、直腸内または鼻腔内投与である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
腸管外の投与が、血管内投与、組織周囲もしくは組織内への注射、皮下注射、または皮下注入、直接適用および吸入を含む沈着からなる群より選択される、請求項5記載の方法。
【請求項8】
血管内投与が、静脈内ボーラス注射、静脈内注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入、および血管系へのカテーテル点滴からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
組織周囲および組織内への注射が、腫瘍周囲および腫瘍内への注射、網膜内注射または網膜下注射からなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項10】
皮下注射または沈着が、浸透ポンプによる注入を含む、請求項7記載の方法。
【請求項11】
直接適用が、カテーテル、網膜ペレット、坐薬、多孔質材料を含むインプラント、非多孔質材料を含むインプラント、またはゲル状材料を含む材料による適用を含む、請求項7記載の方法。
【請求項12】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物が、裸のRNAとして、送達用試薬とともに、またはmiR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物を発現する配列を含む核酸として投与される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を発現する配列を含む核酸が、組換えプラスミドまたは組換えウイルスベクターである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
組換えプラスミドまたは組換えウイルスベクターが、U6プロモーター、H1プロモーターまたはサイトメガロウイルスプロモーターを含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
組換えウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターまたはヘルペスウイルスベクターである、請求項13記載の方法。
【請求項16】
レトロウイルスベクターが、レンチウイルスベクター、ラブドウイルスベクターおよびマウス白血病ウイルスベクターからなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物が、親油性試薬、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、ポリカチオンまたはリポソームとともに投与される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
リポソームが、オプソニン作用抑制成分を含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
リポソームが、慢性リンパ性白血病細胞または前立腺癌細胞に対してリポソームをターゲットにするリガンドを含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
被験者が腫瘍を有し、かつ単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量が、少なくとも約10マイクログラム/腫瘤1グラムである、請求項1記載の方法。
【請求項21】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量が、少なくとも約60マイクログラム/腫瘤1グラムである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量が、少なくとも約100マイクログラム/腫瘤1グラムである、請求項20記載の方法。
【請求項23】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量が、約10〜500マイクログラム/腫瘤1グラムの範囲である、請求項20記載の方法。
【請求項24】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量が、約5〜3000マイクログラム/被験者体重1kgの範囲である、請求項1記載の方法。
【請求項25】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量が、好ましくは約700〜1000マイクログラム/被験者体重1kgの範囲である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の有効量が、約1000マイクログラム/被験者体重1kgを上回る、請求項1記載の方法。
【請求項27】
以下の段階を含む、治療を必要としている被験者におけるmiR15またはmiR16により媒介される癌を治療する方法:
1)被験者から細胞を単離する段階;
2)細胞に対して、有効量のmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物をコードする配列を含む核酸をトランスフェクトする段階;および
3)被験者におけるmiR15またはmiR16により媒介される癌細胞の増殖が抑制されるように、トランスフェクト細胞を被験者に再び移植する段階。
【請求項28】
miR15またはmiR16により媒介される癌が、慢性リンパ性白血病または前立腺癌である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
トランスフェクト細胞におけるmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物の発現を、被験者へのトランスフェクト細胞の再移植の前に確認する、請求項28記載の方法。
【請求項30】
トランスフェクト細胞のゲノム中への、有効量のmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物をコードする配列を含む核酸の安定的な組込みを、被験者へのトランスフェクト細胞の再移植の前に確認する、請求項27記載の方法。
【請求項31】
有効量のmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物をコードする配列を含む核酸が、組換えプラスミドまたは組換えウイルスベクターを含む、請求項27記載の方法。
【請求項32】
組換えプラスミドまたは組換えウイルスベクターが、U6プロモーター、H1プロモーターまたはサイトメガロウイルスプロモーターを含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
組換えウイルスベクターが、アデノウイルスベクター;アデノ随伴ウイルスベクター;レトロウイルスベクターまたはヘルペスウイルスベクターである、請求項32記載の方法。
【請求項34】
レトロウイルスベクターが、レンチウイルスベクター、ラブドウイルスベクターおよびマウス白血病ウイルスベクターからなる群より選択される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
トランスフェクト細胞が、慢性リンパ性白血病細胞または前立腺癌細胞である、請求項27記載の方法。
【請求項36】
トランスフェクト細胞が、造血幹細胞である、請求項27記載の方法。
【請求項37】
被験者におけるmiR15またはmiR16により媒介される癌細胞の増殖を抑制する方法であって、miR15またはmiR16により媒介される癌細胞に対して、有効量の単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を投与することを含む方法。
【請求項38】
miR15またはmiR16により媒介される癌細胞が、慢性リンパ性白血病細胞または前立腺癌細胞である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物が、miR15またはmiR16により媒介される癌細胞のトランスフェクションによって投与される、請求項37記載の方法。
【請求項40】
単離されたmiR15またはmiR16遺伝子産物が、裸のRNAとして、送達用試薬とともに、またはmiR15遺伝子産物もしくはmiR16遺伝子産物を発現する配列を含む核酸として投与される、請求項37記載の方法。
【請求項41】
miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を発現する配列を含む核酸が、組換えプラスミドまたは組換えウイルスベクターである、請求項40記載の方法。
【請求項42】
組換えプラスミドまたは組換えウイルスベクターが、U6プロモーター、H1プロモーターまたはサイトメガロウイルスプロモーターを含む、請求項41記載の方法。
【請求項43】
組換えウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターまたはヘルペスウイルスベクターである、請求項41記載の方法。
【請求項44】
レトロウイルスベクターが、レンチウイルスベクター、ラブドウイルスベクターおよびマウス白血病ウイルスベクターからなる群より選択される、請求項43記載の方法。
【請求項45】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物が、親油性試薬、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、ポリカチオンまたはリポソームとともに投与される、請求項37記載の方法。
【請求項46】
リポソームが、オプソニン作用抑制成分を含む、請求項45記載の方法。
【請求項47】
リポソームが、慢性リンパ性白血病細胞または前立腺癌細胞に対してリポソームをターゲットにするリガンドを含む、請求項45記載の方法。
【請求項48】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物、および薬学的に許容されるキャリアーを含む、薬学的組成物。
【請求項49】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物が、リポソーム中に封入されている、請求項48記載の薬学的組成物。
【請求項50】
リポソームが、オプソニン作用抑制成分を含む、請求項49記載の薬学的組成物。
【請求項51】
リポソームが、慢性リンパ性白血病細胞または前立腺癌細胞に対してリポソームをターゲットにするリガンドを含む、請求項49記載の薬学的組成物。
【請求項52】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物が、ヌクレアーゼによる分解に対する抵抗性を有する、請求項48記載の薬学的組成物。
【請求項53】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物が、2'位が修飾された1つまたは複数のリボヌクレオチドを含む、請求項52記載の薬学的組成物。
【請求項54】
各リボヌクレオチドが2'修飾型リボヌクレオチドであるmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物を含む、請求項53記載の薬学的組成物。
【請求項55】
2'位が修飾された1つまたは複数のリボヌクレオチドの2'位がフルオロ基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基またはO-アリル基により修飾されている、請求項53記載の薬学的組成物。
【請求項56】
2'位が修飾された1つまたは複数のリボヌクレオチドが、式2'AR-ヌクレオチドによって表される、
[式中、Aは酸素またはハロゲン(好ましくはフッ素、塩素または臭素)であり;かつ
Rは水素または直鎖状もしくは分枝鎖C1-6アルキルであって;
前提として、AがハロゲンであればXおよびRは削除される]
請求項53記載の薬学的組成物。
【請求項57】
2'位が修飾された1つまたは複数のリボヌクレオチドが、2'-Oメチルリボヌクレオチドである、請求項53記載の薬学的組成物。
【請求項58】
単離されたmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物をコードする核酸、および薬学的に許容されるキャリアーを含む、薬学的組成物。
【請求項59】
核酸が、リポソーム中に封入されている、請求項58記載の薬学的組成物。
【請求項60】
リポソームが、オプソニン作用抑制成分を含む、請求項59記載の薬学的組成物。
【請求項61】
リポソームが、慢性リンパ性白血病細胞または前立腺癌細胞に対してリポソームをターゲットにするリガンドを含む、請求項59記載の薬学的組成物。
【請求項62】
被験者におけるmiR15またはmiR16により媒介される癌を診断する方法であって、被験者由来の試料中のmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物のレベルを測定する段階を含み、試料中のmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物のレベルが対照試料中のmiR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物のレベルよりも低いことによってmiR15またはmiR16により媒介される癌の存在が示される方法。
【請求項63】
miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物のレベルが、ノーザンブロット分析、インサイチューハイブリダイゼーションおよび定量的な逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応からなる群より選択されるアッセイにより測定される、請求項62記載の方法。
【請求項64】
miR15遺伝子産物またはmiR16遺伝子産物が、配列SEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2、SEQ ID NO: 3およびSEQ ID NO: 4を有する遺伝子産物の群より選択される、請求項62記載の方法。
【請求項65】
miR15またはmiR16により媒介される癌が、慢性リンパ性白血病または前立腺癌である、請求項62記載の方法。
【請求項66】
被験者におけるmiR15またはmiR16により媒介される癌を診断する方法であって、被験者由来の試料中のmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子を分析する段階を含み、対照試料中のmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子と比較して、被験者由来の試料中のmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子に1つまたは複数の欠失または変異が検出されることによって、miR15またはmiR16により媒介される癌の存在が示される方法。
【請求項67】
1つまたは複数の欠失または変異が、サザンブロットハイブリダイゼーション、配列分析および一本鎖高次構造多型からなる群より選択されるアッセイにより分析される、請求項66記載の方法。
【請求項68】
miR15またはmiR16により媒介される癌が、慢性リンパ性白血病または前立腺癌である、請求項66記載の方法。
【請求項69】
被験者におけるmiR15またはmiR16により媒介される癌を診断する方法であって、被験者由来の試料におけるmiR15遺伝子またはmiR16遺伝子のコピー数を測定する段階を含み、miR15遺伝子またはmiR16遺伝子のコピー数が1つまたはゼロに減少していることによってmiR15またはmiR16により媒介される癌の存在が示される方法。
【請求項70】
遺伝子のコピー数の減少を13q14上のD13S273またはD13S272マイクロサテライトマーカーのヘテロ接合性消失を分析することによって評価し、D13S273またはD13S272マイクロサテライトマーカーのヘテロ接合性消失によってmiR15またはmiR16により媒介される癌の存在が示される、請求項69記載の方法。
【請求項71】
ヘテロ接合性消失を、D13S1150またはD13S273マイクロサテライトマーカーのヘテロ接合性消失を分析することによって評価する、請求項70記載の方法。
【請求項72】
ヘテロ接合性消失を、遺伝子座A1u18またはD13S273マイクロサテライトマーカーのヘテロ接合性消失を分析することによって評価する、請求項71記載の方法。
【請求項73】
miR15遺伝子またはmiR16遺伝子のコピー数をサザンブロットハイブリダイゼーションによって測定する、請求項69記載の方法。
【請求項74】
miR15またはmiR16により媒介される癌が、慢性リンパ性白血病または前立腺癌である、請求項69記載の方法。

【公表番号】特表2006−506469(P2006−506469A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507130(P2005−507130)
【出願日】平成15年11月12日(2003.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2003/035777
【国際公開番号】WO2004/043387
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(503365741)トマス ジェファソン ユニバーシティ (3)
【Fターム(参考)】