説明

癌の診断及び治療のためのCav3アイソフォーム及びそのδ25スプライスバリアントの阻害

本発明はCav3アイソフォーム又はそのδ25スプライスバリアントに特異的に結合する抗体を含む医薬組成物を提供する。本発明はまた、治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤を患者に投与することによる、患者における、癌細胞増殖の阻害、並びに、癌、及び/又は関連する疾患の予防、治療、及び制御の組成物及び方法にも関する。好ましいT型カルシウムチャネル選択的阻害剤はミベフラジルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
Ca2+流入は、細胞増殖に関して重大な意味を持つ。異常に急速な増殖は癌の特質であるので、Ca2+流入のメカニズムの解明は潜在的な臨床上の重要性を有する科学的な意義を有する。しかし、電気的に非興奮性の細胞におけるカルシウム流入のメカニズムは、理解されていない。細胞型に起因する癌の大多数は、「電気的に非興奮性」と考えられる。この事実により、これらの細胞へのCa2+流入の制御の手段は、活動電位を有する細胞、すなわち、「電気的に興奮性の」細胞に対するものとは異なるものとなる。電気的に興奮性の細胞において、活動電位により、神経分泌等の現象を開始するために必要なCa2+を受け入れる電位作動型Ca2+チャネルが開く。電気的に非興奮性の細胞において、Ca2+流入の介在する制御メカニズムは、Ca+流入が起こる分子機構が不明確なため、部分的に不明である。
【0002】
容量性Ca2+流入に最も共通に関連するイオンチャネル、つまりトランスポーターの2つのタイプは、IcRAc、及び、Trpの様々なメンバー、または、Ca2+チャネルのファミリーであるvanilloidである。これらのチャネルは、一般に、電圧作動型ゲートを欠く非選択的カチオンチャネルである。IcRAcは、他のカチオンに比して、Ca2+に対して選択的だが、その分子的識別性は理解されておらず、増殖に関与しているかどうかについても問題となっている。結果的に、これらのさまざまなプロテインの機能を、容量性のCa2+流入と結びつけることが難しかった。このことは、この方法における多数のチャネル及びトランスポーターの関与に起因する、電気的に非興奮性の細胞におけるCa2+シグナル伝達の特別な複雑さを反映しているかもしれない。電気的に非興奮性の細胞におけるCa2+流入の主要な手段がまだ完全に説明されていないとも考えられる。
【0003】
電気的に興奮性の細胞における電位作動型カルシウムチャネルについての知識は、有益に利用されてきた。これらのチャネルの機能の薬理学的調節は、医療の実践において、はなはだ重要である;例えば、カルシウムチャネル遮断薬は癲癇、高血圧及び狭心症の治療において、広範囲にわたり使用されている。残念なことに、このような処置は、電気的に非興奮性の細胞におけるカルシウムチャネルのためには、未だ利用できない。この不具合は、おそらく、カルシウム流入のメカニズムが明らかに特定されていない事実を反映していると考えられる。
【0004】
本発明は、電気的に非興奮性の細胞におけるCa2+流入経路を分析するために以下の方法を採用する。蛍光技術(Merritt and Rink J.Biol. Chem. 262:17362-69,1987)による測定により、Ni2+によるCa2+流入遮断を利用し、出版された文献における化合物であって、同様の能力を有する化合物を特定した。これらの既知の化合物の構造/活性関係を利用して、細胞へのCa2+流入、及び、いくつかの癌細胞系の増殖の遮断をするための改良された潜在能力を有する新規な化合物の合成がされてきた。これらの化合物の1つ、TH-1177の投与は、ヒトPC3前立腺癌細胞を接種された重症複合型免疫不全症(SCID)マウスの寿命を有意に延ばした。本発明は、2つの代表的化合物が、T型Ca2+ チャネルの非相同的に発現されたCav3.2アイソフォームを通ずるCa2+電流を遮断し、かつ、このアイソフォームにより安定的にトランスフェクトされたHEK293細胞の増殖を阻害することを実証する。これらの2つの化合物は、同様の効力及び同一の立体選択性により、Ca2+電流及び容量性カルシウム流入を遮断する。重要なことに、この新規な化合物に感応性がある細胞系は、Cav3.2、そのδ25Bスプライスバリアント、又は、これらの両者のためにメッセージを発するが、これらの化合物に耐性のある細胞系からは、どちらへのメッセージも検出することができない。
【0005】
本発明が発展させた化合物のライブラリは、さまざまな組織からの癌細胞系に対して幅広い活性を有する。これらの化合物は、細胞増殖抑制的に働き、ホルモン感応性及び非感応性の、胸部及び前立腺癌細胞系に対して、等しく効力を有する。これらの化合物の抗増殖性活性の標的は、Ca+チャネルアイソフォームCav3.2、及び/又は、そのδ25スプライスバリアントであることが実証されている。従って、Cav3.2及びδ25の発現の決定方法は、癌の診断において、大きな重要性を有する。
【0006】
ミベフラジルは、L型よりむしろT型電位作動型カルシウムチャネルに選択的であるカルシウム拮抗薬である。
【0007】
伝統的に、分子的標的と相互に作用する化学的薬剤が化学療法において使用されてきた。しかし、最近では、分子的標的に対する抗体が開発され、癌の治療に用いられてきた。同様のアプローチは、Cav3.2又はそのδ25スプライスバリアントとの相互作用をさせることによって、癌細胞へのカルシウム流入を阻害する抗体についても用いることができる。この阻害はカルシウム流入との直接干渉か、又は、抗体が介在するカルシウムチャネルプロテインの発現低下により起こるだろう。
【0008】
抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体の両者とも、癌を含む多数の病気の診断における有用性が実証されてきた。癌におけるCav3.2及びδ25の関与のため、これらのプロテインに対するモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体は、診断上有用性を有する。
【0009】
抗体は、癌を治療することにおける、治療的な有用性をも示した。例えば、Herceptin(登録商標)はHer2を発現している癌(主に胸部の)を治療するために使用される。Cav3.2、及び/又は、δ25を目的とする抗体は、2つの方法で治療的に機能しうる。作用の最も明らかな機構は、ポリクローナル、モノクローラル、ヒト化モノクローナル、又は上記のいずれかの効力を有する断片である抗体が、Cav3.2又はδ25のCa2+を癌細胞の内部に受け入れる能力を遮断することにより、癌細胞の増殖を阻害するというものである。もう一つの態様としては、このような抗体又はその断片はCa2+流入を誘起し、それによって癌細胞のアポトーシス死を引き起こすことがある。
【非特許文献1】Merritt and Rink J.Biol. Chem. 262:17362-69,1987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
通常の成長の間、細胞増殖はユビキタスに分布する、一方、健常な成人においては、細胞増殖は、骨髄等のほんの少しの組織のみに限定的に存在する。カルシウムは、細胞周期及び細胞増殖を通して進行のために必要である。本発明は、この必要なカルシウム流入は、Cav3アイソフォームと呼ばれるカルシウムチャネル、好ましくは、Cav3.1, Cav3.2 若しくは Cav3.3アイソフォーム、及び/又は、それらのδ25スプライスバリアント、より好ましくは、Cav3.2、及び/又は、そのδ25スプライスバリアントを介在として起こることを特定した。病理学的細胞増殖、つまり癌(成人における)は、Cav3アイソフォーム、とりわけ、Cav3.2又はそのδ25スプライスバリアントの機能的、又は、物理的再発現と関連する。その結果として、Cav3 アイソフォーム, 好ましくは, Cav3.1、Cav3.2 又は Cav3.3 アイソフォーム、及び/又は、それらのδ25スプライスバリアント, より好ましくは, Cav3.2アイソフォーム、及び/又は、そのδ25スプライスバリアントを遮断する化学物質の投与によるカルシウム流入の阻害は、癌細胞の増殖又は成長を、予防又は阻害する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明の1つの態様は、治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含む、癌細胞の成長又は増殖の阻害方法に関する。
【0012】
本発明のもう1つの態様は、治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含む癌細胞の増殖の予防方法に関する。
【0013】
本発明のさらにもう1つの態様は、治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤及び医薬担体を、それを必要とする患者に投与することを含む癌の治療方法に関する。
【0014】
本発明のさらなる態様は、Cav3アイソフォーム、又は、それらのδ25変異体、特に、Cav3.2又はそのδ25スプライスバリアントに特異的に結合又は反応する抗体を含む医薬組成物、並びに、癌の診断及び治療のための上記組成物の使用方法に関する。
【0015】
本発明の態様は、T型カルシウムチャネル選択的阻害剤を用いての、電気的非興奮性細胞へのカルシウム流入の阻害方法を提供することである。
【0016】
本発明のもう1つの態様は、T型カルシウムチャネル選択的阻害剤を用いての、電気的非興奮性細胞の増殖を予防するための方法を提供することである。
【0017】
本発明のさらにもう1つの態様は、治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含む自己免疫性疾患の治療方法を提供することである。
【0018】
本発明の1つの態様は、治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含む拒絶反応の予防方法に関する。
【0019】
本発明のもう1つの態様は、治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含むアポトーシスを予防する方法に関する。
【0020】
本発明を説明、及び請求の範囲を画定するにあたり、以下に定められる定義に基づき、以下の用語が使用される。
【0021】
ここに使用されるように、用語「核酸」は一本鎖及び二本鎖のDNA及びcDNAと同様に、RNAを含む。更に、用語、「核酸」、「DNA」、「RNA」及び同類の語もまた、核酸の類似体、すなわち、リン酸ジエステル主鎖以外を有する類似体をも含む。例えば、当該技術分野において公知であり、主鎖においてリン酸ジエステル結合の代わりにペプチド結合を有する、いわゆる「ペプチド核酸」は、本発明の範囲内にあると考慮される。
【0022】
用語「ペプチド」は、3以上のアミノ酸の連続であって、アミノ酸が天然に存在する又は合成(天然に存在しない)アミノ酸であるものを含む。擬態ペプチドは、以下の変異の1つ以上を有するペプチドを含む:
【0023】
1.1以上のペプチジル−C(O)NR−結合が、非ペプチジル結合、例えば、−CH2-カルバメート結合(−CH2OC(O)NR−)、ホスホネート結合、-CH2-スルホンアミド(−CH2−S(O)2NR−)結合、尿素(−NHC(O)NH−) 結合、−CH2-第二級アミン結合、又は、アルキル化されたペプチジル結合(−C(O)NR−)により置換されたもの、ここで、RはC1-C4アルキルである。;
2. N末端が以下の基、すなわち、−NRR1基、−NRC(O)R基、−NRC(O)OR基、−NRS(O)2R基、−NHC(O)NHR基に誘導体化されたペプチド、ここで、R及びR1は、R及びR1が両方とも水素でないという条件の下に、水素又はC1-C4アルキルである。;
3. C末端が−C(O)R2に誘導体化されたペプチド、ここで、R2は、C1-C4アルコキシ、及び、−NR3R4からなる群から選択され、また、ここで、R3及びR4は、水素及びC1-C4アルキルからなる群から独立して選択される。
【0024】
ペプチド中の天然に存在するアミノ酸残基は、IUPAC-IUB生化学命名法委員会の推奨の通り、以下の通り省略される:フェニルアラニンは、Phe又はF;ロイシンは、Leu又はL;イソロイシンは、Ileである又はI;メチオニンは、Met又はM;ノルロイシンは、Nle;バリンは、Val又はV;セリンは、Ser又はS;プロリンは、Pro又はP;トレオニンは、Thr又はT;アラニンは、Ala又はA;チロシンは、Tyr又はY;ヒスチジンは、His又はH;グルタミンは、Gln又はQ;アスパラギンは、Asn又はN;リジンは、Lys又はK;アスパラギン酸は、Asp又はD;グルタミン酸は、Glu又はE;システインは、Cys又はC;トリプトファンは、Trp又はW;アルギニンは、Arg又はR;グリシンはGly又はG、そして、Xはあらゆるアミノ酸である。他の天然に存在するアミノ酸は、例えば、4-ヒドロキシプロリン、5-ヒドロキシリシンなどを含む。
【0025】
ここに使用されるように、
用語「保存的アミノ酸置換」は、ここに、以下の5つの群の1の中における交換として定義される:
I. 小さな脂肪族の、非極性又はわずかに極性を有する残基群:
Ala, Ser, Thr, Pro, Gly;
II. 極性を有し、負に荷電した残基群及びそれらのアミド類:
Asp, Asn, Glu, Gln;
III. 極性を有し、正に荷電した残基群:
His, Arg, Lys;
IV. 大きな、脂肪族の、非極性残基群
Met Leu, Ile, Val, Cys;
V. 大きな、芳香族の残基群:
Phe, Tyr, Trp。
【0026】
ここに使用されるように、用語「精製された」等の用語は、野生又は天然の環境に存在する分子又は化合物に通常関連する汚染物が実質的にない形態での、分子又は化合物の単離に関連する。
【0027】
ここに使用されるように、用語「治療する」は、特定の障害又は状態に関連する症状の軽減、及び/又は、上記症状の予防又は排除を含む。例えば、癌を治療するとは、癌細胞を殺すことと同様に、癌細胞の成長及び/又は分裂を防ぐ、又は、遅らせることを含む。本発明における用語「治療する」は、患者の健康状態が向上し、又は、上記病気の進行が遅くなる様に、病気を改善することを意味する。本発明のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤の有益な効果は、1以上の症状の改善の観察によって決定することができる;例えば、増殖の減少を観察することによって(癌)、患者における移植片の安定性の増加を観察することによって(移植片拒絶)、患者における関節膨張、炎症、及び痛覚の減少を観察することによって(関節リウマチ)、インシュリン必要量の減少を観察することによって(若年性糖尿病)、患者における甲状腺ホルモンの循環濃度の正常化を観察することによって(甲状腺炎)、腎炎の減少を観察することによって(全身性エリテマトーデス)、その他。代替的に、本発明のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤の効果は、これらの病気の治療に従来用いられる化合物との比較により、観察することができる。
【0028】
用語「治療的有効な量」とは、所望の指標(例えば、癌細胞増殖の阻害;患者における癌の治療、予防、又は制御)を達成するのに必要なT型カルシウムチャネル選択的阻害剤化合物の量を意味する。
【0029】
ここに使用されるように、用語「医薬的に許容可能な担体」とは、あらゆる標準医薬担体、例えば、燐酸緩衝生理食塩水溶液、水、水中油又は油中水型エマルション等のエマルション、及び、さまざまな型の浸潤剤を含む。上記用語はまた、米国連邦政府の監督機関に承認されるか、又は、人間を含む動物における使用について米国特許第薬局方に記載される薬剤を含む。
【0030】
ここに使用されるように、用語「抗体」は、ポリクローナル若しくはモノクローナル抗体、又はそれらの結合断片、例えば、Fab, F(ab')2 及び Fv 断片を意味する。
【0031】
本発明の1つの態様は、治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含む癌細胞の阻害方法に関する。本発明によると、T型カルシウムチャネルは、Cav3アイソフォーム又はそれらのδ25スプライスバリアント、好ましくは、Cav3.1、Cav3.2又はCav3.3アイソフォーム、及び/又は、それらのδ25スプライスバリアント、より好ましくは、Cav3.2アイソフォーム、及び/又は、そのδ25スプライスバリアントを含むが、これらに限定されない。本発明によって考慮されるT型カルシウムチャネル選択的阻害剤の投薬量は、約10mg〜約1000mgであってよい。T型カルシウムチャネル選択的阻害剤の好ましい投薬量は、結果として、約1μM〜約100μMの血漿中濃度に相当する量となる。
【0032】
カルシウム流入の阻害又は遮断は、通常、固形腫瘍と呼ばれているあらゆる癌の分裂又は増殖を遅らせるか、又は、停止する。その結果として、ここに記述される医薬組成物は、通常、固形腫瘍と称される型のあらゆる癌、又は、この様な疾患に関連する状態の予防、制御、又は治療に使用される。これらの固形腫瘍は、頭及び頸部、食道、胃、肝臓、肺、結合組織、皮膚、膵臓、腸管、腎臓、胸部、卵巣、精巣及び前立腺の癌を含むが、これらに限定されない。
【0033】
本発明のもう1つの態様は、治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含む癌細胞の増殖の予防方法に関する。
【0034】
本発明のさらなる態様は、T型カルシウムチャネル選択的阻害剤及び医薬担体を、それを必要とする患者に投与することを含む癌の治療方法に関する。
【0035】
本発明によると、T型カルシウムチャネル選択的阻害剤は、電気的に非興奮性な細胞、特に癌又は腫瘍細胞の増殖を阻害、予防又は制御するのに有効な量で存在する。
【0036】
本発明の好ましい実施態様においては、T型カルシウムチャネル選択的阻害剤は、以下の化学式:
【化1】

[式中、R1はハロゲンであり、R2は低級-アルコキシ-低級-アルキル-カルボニルオキシ基であり、XはC2-C8アルキレン基であり、及び、AはそのN原子が任意に1から12C原子により置換されたベンズイミダゾリル基である]
を有するテトラヒドロナフタレン誘導体であって、それらの遊離塩基、水和物、又は癌の治療、制御及び予防のために医薬的に使用可能な塩類の形態であるものである。
【0037】
特に好ましいT型カルシウムチャネル選択的阻害剤は、(1S,2S)-(2{[3-(2-ベンズイミダゾリル)プロピル]メチルアミノ}エチル)-6-フルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-イソプロピル-2-ナフチルメトキシアセテートジヒドロクロライドの化学式を有するミベフラジルである。
【0038】
ミベフラジルは、周知の電位作動型T型カルシウムチャネル拮抗薬である(Massie, B.M. Am. J. Cardio. 80:231, 1997)。癌性の、電気的に非興奮性の細胞であって、固形腫瘍を構成するものにおける電位依存性カルシウムの遮断は、増殖を阻害することも分かっている(米国特許番号6,413,967、ここに参照によりその全体を本願に援用する)。結果的に、図1A〜1Fで示すように、ミベフラジルは電気的に非興奮性の癌細胞の増殖を、それらへのカルシウム流入を阻害することによって阻害する。
【0039】
もう一つの実施態様において、T型カルシウムチャネル選択的阻害剤は抗体である。本発明によれば、Cav3アイソフォーム又はそれらのδ25スプライスバリアントの発現が癌の多数の型におけるカルシウム流入のために必要であるため、これらのプロテインに対する抗体は、癌診断において重要である。これらの診断用抗体は、特定の患者における特定の癌が、Cav3アイソフォーム又はそれらのδ25スプライスバリアント、好ましくは、Cav3.1、Cav3.2又はCav3.3アイソフォーム、及び/又は、それらのδ25スプライスバリアント、より好ましくは、Cav3.2アイソフォーム、及び/又は、そのδ25スプライスバリアントに対する治療的な抗体、又は、化学療法薬のいずれかへの感受性を付与する遺伝子型を有することを特定するために用いられる。
【0040】
従って、本発明の1の実施態様は、Cav3アイソフォーム又はそれらのδ25スプライスバリアント、好ましくは、Cav3.1、Cav3.2又はCav3.3アイソフォーム、及び/又は、それらのδ25スプライスバリアント、より好ましくは、Cav3.2アイソフォーム、及び/又は、そのδ25スプライスバリアントに特異的に結合又は反応する抗体を含む医薬組成物;並びに、癌の診断及び治療のためのこの様な組成物の使用方法に関する。
【0041】
1の実施態様によれば、組織標本に、Cav3.2又はそのδ25スプライスバリアントと特異的に結合する抗体で接触する工程、及び、特異的に結合した抗体の相対量を決定する工程を含む、腫瘍性疾患のための改善された診断的検査が提供される。1の実施態様において、抗体はセレクトされ、Cav3.2プロテイン(UniGene cluster Hs.122359)、及び/又は、そのδ25Bスプライスバリアント(GenBank accession number AF223563)に結合する。
【0042】
1の実施態様において、Cav3アイソフォームプロテイン、及び/又は、そのδ25Bスプライスバリアント、好ましくは、Cav3.1、Cav3.2又はCav3.3アイソフォーム、及び/又は、それらのδ25スプライスバリアント、より好ましくは、Cav3.2アイソフォーム、及び/又は、そのδ25スプライスバリアントに対する抗体は、モノクローナル抗体である。モノクローナル抗体産生は、当業者に周知の技術を使用して達成されてもよい。本発明によれば、上記方法は、最初に、生体内で又は試験管内での関心のある抗原に対してすでに免疫性を与えられた、哺乳類(例えばマウス)の脾臓からの免疫細胞(リンパ細胞)を取得することを含む。その後、抗体分泌リンパ細胞は、骨髄腫細胞又は形質転換細胞と融合され、そして、それらは細胞培養液において際限なく複製することができるようになる、この様にして、限りなく増殖する、免疫グロブリン分泌細胞系を生産する。結果として得られる融合細胞、つまり、ハイブリドーマは培養され、そして、結果として得られるコロニーは、所望のモノクローナル抗体の産生のためにスクリーニングがされる。このような抗体を産生しているコロニーはクローン化され、そして、大量の抗体を産生するために、生体内で、又は、試験管内で増殖がされる。本発明の1の実施態様は、Cav3.2プロテイン又はそのδ25Bスプライスバリアントの標的抗原の1に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系に関する。このような細胞融合の理論上の基礎及び実用的な方法論の説明は、Kohler and Milstein, Nature, 256:495 (1975)にされており、ここにその全体を本願に援用する。
【0043】
抗体全体に加えて、抗体の断片は、特定の抗原ための特異的結合性を保持することができる。抗体断片は、いくつかの方法によって生成することができ、これらは組換えDNA技術を使用したタンパク質分解又は合成を含むが、これらに限定されない。このような実施態様の例は、Fab断片を発生させるパパインによる抗体の選択的なタンパク質分解、又は、F(ab')2断片を発生させるペプシンによる抗体の選択的なタンパク質分解である。これらの抗体断片は、従来の手法によって作成することができ、その詳細はJ. Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp. 98-118 (N.Y. Academic Press 1983)に記述される通りであり、ここにその全体を本願に援用する。抗体全体の特異的結合性を保持する、本抗体の他の断片は、当業者に公知の他の手段で産生することができる。
【0044】
本発明の抗体又は抗体断片は、組成物を作成するために、担体又は希釈剤と組み合わせることができる。これらの組成物は、標準的な分子生物学的技法、例えばウエスタンブロット分析、免疫螢光検査法、及び免疫沈降において使用することができる。本発明の抗体は、当業者に公知である標準試薬及び技法を用いて検出可能な標識に関連していてもよい。抗体の放射能標識化に関する技術については、例えば、Wensel and Meares, Radioimmunoimaging and Radioimmunotherapy, Elsevier, New York (1983)を参照されたい、また、ここにその全体を本願に援用する。また、D. Colcher et al., "Use of Monoclonal Antibodies as Radiopharmaceuticals for the Localization of Human Carcinoma Xenografts in Athymic Mice," Meth. EnzvmQL, 121: 802-816 (1986)についても参照されたく、また、ここにその全体を本願に援用する。
【0045】
1の実施態様によれば、本発明の抗体は、診断又は治療のために標識化がされる。このことは、本発明が、あらゆる特定の検出システム又は標識に限定されることを意味するものではない。抗体は、35S、131I、111In、123I、99mTc、32P、125I、3H、14C及び188Rh等の放射性同位元素、又は、フルオレセイン及びローダミン等の蛍光標識を含む非同位体標識化試薬、又は、ビオチン若しくはジゴキシゲニン等の他の非同位体標識化試薬により標識化がされてもよい。ビオチンを含む抗体は、蛍光色素等のいずれかの望ましい標識に接合したアビジン等の「検出試薬」を使用して検出してもよい。本発明に基づく使用に適切な追加の標識は、磁気共鳴活性標識、電子高密度又は放射線不透性物質、陽電子射出断層撮影法(「PET」)スキャナーで検出可能な同位体元素を発する陽電子、ルシフェリン等の化学的照明基(chemilluminescers)、及び、酵素マーカー(例えばペルオキシダーゼ又はホスファターゼ)を含む。
【0046】
1の実施態様においては、本発明の抗体は、二次抗体の使用を通して検知される、ここで、二次抗体は標識化され、一次抗体に対し特異的である。代替的に、本発明の抗体は、放射性同位元素又はフルオレセインイソチオシアネート(FITC)又はローダミン等の蛍光色素によって直接標識化されていてもよい;そのような場合、二次検出試薬は、標識化されたプローブの検知に、必要とされなくともよい。1の好ましい実施態様によれば、抗体は、当該技術分野で公知である標準的部分を使用している蛍光体又は発色団を用いて標識化されている。
【0047】
本発明の1の実施態様によれば、癌を検出するための診断法が提供される。上記方法は、組織標本における、Cav3プロテイン又はそのδ25Bスプライスバリアント、好ましくは、Cav3.1、Cav3.2又はCav3.3アイソフォームプロテイン、及び/又は、それらのδ25スプライスバリアント、より好ましくは、Cav3.2アイソフォームプロテイン、及び/又は、そのδ25スプライスバリアントの存在を検出する工程を含む。
【0048】
1の実施態様において、組織標本は、生体組織検査を通して回収した標本を含む。さらに、標本におけるCav3アイソフォーム及び/又はδ25Bの発現の検知は、癌の診断に供するだけではなく、癌を治療するために可能な戦略をも指摘する。1の実施態様において、抗Cav3プロテイン、及び/又は、抗δ25B抗体、好ましくは、抗Cav3.1、抗Cav3.2又は抗Cav3.3アイソフォームプロテイン、及び/又は、それらの抗δ25スプライスバリアント;より好ましくは、抗Cav3.2アイソフォームプロテイン、及び/又は、その抗δ25スプライスバリアントを含む組成物は、癌を治療するための手段として、患者に投与される。
【0049】
もう一つの実施態様において、癌は前立腺癌である。抗Cav3、及び/又は、抗δ25B抗体は、患者に直接投与されるか、又は、抗体は、毒素を癌細胞に標的化し、上記抗Cav3、及び/又は、抗δ25B抗体組成物の抗癌効能をさらに向上させるための方法として1以上の毒性剤と結合されてもよい。本発明の抗癌組成物は、投与のルートとして既知のいずれを使用して投与してもよく、それらは静脈内、筋肉内、内部非経口(intraparenteral)、又は皮下注射を含む。
【0050】
本発明の抗体は、ヒトのための診断及び治療剤としての使用が意図されるので、
本発明の1の実施態様は、これらの抗体のヒト化に関する。抗体のヒト化は、治療的な用途のために必要とされるが、これは、ヒト以外の種からの抗体はヒト免疫系により異物と認識され、中和されてしまうため、あまり有用でないからである。ヒト化抗体は、ヒト及び非ヒトの部分を含む免疫グロブリン分子である。より詳しくは、ヒト化抗体の抗原結合領域(可変領域)は、非ヒトの起源(例えばマウス)に由来し、そして、ヒト化抗体の不変領域は、ヒトの起源に由来する。ヒト化抗体は、非ヒト抗体分子の抗原結合特異性、及び、ヒト抗体分子によってもたらされるエフェクター機能を有するべきである。典型的に、ヒト化抗体の作成は組み換えDNA技術の使用を伴う。
【0051】
本発明のさらに別の実施態様は、非興奮性の細胞へのCa2+流入を阻害し、及び、結果的に、いくつかの癌細胞系の増殖を阻害することができる合成化合物に関する。
【0052】
本発明の1の実施態様は、非興奮性細胞、特に、癌細胞へのCa2+流入を阻害することができる合成化合物の治療的有効量を患者に投与することによる、患者における、癌細胞増殖の阻害、並びに、癌の予防、治療、及び制御の方法に関する。
【0053】
本発明の態様は、T型カルシウムチャネル選択的阻害剤により、電気的に非興奮性の細胞へのカルシウム流入を阻害するための方法を提供することである。本発明によると、非興奮性細胞は、リンパ細胞、上皮細胞、結合組織細胞、分泌細胞、ジャーカット(Jurkat) T細胞、MDA-468細胞及びPC-3細胞を含むが、これらに限定されない。
【0054】
本発明のもう一つの態様は、T型カルシウムチャネル選択的阻害剤により、電気的に非興奮性の細胞の増殖を予防する方法を提供することである。
【0055】
本発明のさらに別の態様は、T型カルシウムチャネル選択的阻害剤による、自己免疫疾患の治療方法を提供することである。
【0056】
本発明の1の態様は、T型カルシウムチャネル選択的阻害剤による、移植片拒絶の予防方法に関する。
【0057】
本発明のもう一つの態様は、T型カルシウムチャネル選択的阻害剤による、アポトーシスの予防方法に関する。
【0058】
本発明を、以下の非限定的な例によってさらに説明する。
【実施例】
【0059】
[実施例1]
細胞が細胞周期を推移して分裂するためは、細胞外の遊離カルシウムが癌細胞に入らなければならない。結果的に、カルシウム流入の遮断又は阻害は、癌細胞の分裂を停止させるか、又は、癌細胞が分裂する速度を遅らせ、並びに、ホストの癌の負担の増加を停止させるか、遅らせる。図1A〜1Fで示すように、(1S,2S)-(2{[3-(2-ベンズイミダゾリル)プロピル]メチルアミノ}エチル)-6-フルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-イソプロピル-2-ナフチルメトキシアセテートジヒドロクロライドの化学式を有するミベフラジルは、増殖の阻害とともに、刺激されたカルシウム流入を阻害する。
【0060】
テトラヒドロナフタレン誘導体の化学的一群に属するミベフラジルを図1A〜1Fに示す通り、様々な濃度で添加した。癌細胞増殖を、MTTアッセイ(Promega社)により、製造業者の説示を使用して測定した。カルシウム流入の直接的指標(Haverstick, D.M. and Gray, L.S. Mol. Biol. Cell 4:173, 1993)であるカルシウムの細胞内濃度の上昇は、標準的方法、例えば、(Haverstick, D.M., et al. J. Immunol. 146:3306 1991)に記述されるものにより、測定及び誘起された。図1A-1Fに示されるデータは、ミベフラジルが癌細胞分裂及び増殖のために必要である細胞外の媒体からのカルシウム流入を遮断したこと示す。結果的に、ミベフラジル及びそれを含有する医薬組成物を、癌及び癌に関連する状態の予防、制御、又は治療を必要とするホストに投与することができる。
【0061】
図1A-1Fに示される3つの癌細胞系は、ヒト前立腺癌標本から得られた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1A-1Fは、ミベフラジルが、癌細胞の増殖の阻害とともに、癌細胞の刺激されたカルシウム流入を阻害する様子を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cav3アイソフォーム又はそのδ25スプライスバリアントに特異的に結合する抗体。
【請求項2】
前記Cav3アイソフォームはCav3.2アイソフォームである請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体はヒト化抗体である請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
請求項1または3に記載の抗体及び医薬的に許容可能な担体を含む医薬組成物。
【請求項5】
患者からの組織標本における、Cav3アイソフォームプロテイン、及び/又は、そのδ25Bスプライスバリアントの存在を検知することを含む癌の診断方法。
【請求項6】
請求項5に係る、患者における、Cav3アイソフォームプロテイン、及び/又は、そのδ25Bスプライスバリアントの存在を検知すること、及び、前記患者に、治療的有効量の、前記Cav3アイソフォーム、及び/又は、そのδ25Bに対する抗体を投与することを含む癌の治療方法。
【請求項7】
治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含む癌の治療又は制御方法。
【請求項8】
前記T型カルシウムチャネル選択的阻害剤は、以下の化学式:
【化1】

[式中、R1はハロゲンであり、R2は低級-アルコキシ-低級-アルキル-カルボニルオキシ基であり、XはC2-C8アルキレン基であり、及び、AはそのN原子が任意に1から12C原子により置換されたベンズイミダゾリル基である]
を有するテトラヒドロナフタレン誘導体であって、
それらの遊離塩基、水和物、又は癌の治療、制御及び予防のために医薬的に使用可能な塩類の形態である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記T型カルシウムチャネル選択的阻害剤は、(1S,2S)-(2{[3-(2-ベンズイミダゾリル)プロピル]メチルアミノ}エチル)-6-フルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-イソプロピル-2-ナフチルメトキシアセテートジヒドロクロライドの化学式を有するミベフラジルである請求項7に記載の方法。
【請求項10】
治療的有効量のミベフラジルを、それを必要とする患者に投与することを含む癌細胞増殖の阻害方法。
【請求項11】
T型カルシウムチャネル選択的阻害剤の投与を含む、電気的に非興奮性の細胞へのカルシウム流入を阻害するための方法。
【請求項12】
前記電気的に非興奮性の細胞は、リンパ細胞、上皮細胞、結合組織細胞、分泌細胞、ジャーカットT細胞、MDA-468細胞及びPC-3細胞からなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含む自己免疫疾患の治療方法。
【請求項14】
治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含む移植片拒絶の予防方法。
【請求項15】
治療的有効量のT型カルシウムチャネル選択的阻害剤を、それを必要とする患者に投与することを含むアポトーシスの予防方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−501633(P2008−501633A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553243(P2006−553243)
【出願日】平成17年2月11日(2005.2.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/004281
【国際公開番号】WO2005/077082
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(506062584)ユニバーシティ オブ ヴァージニア パテント ファウンデーション (9)
【Fターム(参考)】