説明

癌を治療又は検査するための医薬

【課題】コンピューター断層撮影を用いたX線検査に関して、従来の方法では検出が困難であった膵臓癌患者の肝転移を高感度に検出することができる画像診断方法を開発することである。また癌の中でも特に予後が悪い膵臓癌に対して顕著な効果を示す薬剤の開発をすることである。
【解決手段】X線検査前に造影剤に併用し、血管収縮剤であるAT-IIを投与することにより、従来は検出が困難であった膵臓癌患者の肝転移を高感度に検出する。さらに既存の制癌剤とAT-IIを併用することにより、膵臓癌に対して、制癌剤単独の場合と比較して、顕著な抑制効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂医薬に関するものであり、より具体的には、癌、特に膵臓癌や膵臓癌から転移した肝臓癌のX線検査に用いられる造影剤又はそれら膵臓癌や肝臓癌の治療に用いられる癌治療薬とアンギオテンシン−II等の血管収縮作用を有する薬剤との組合せからなる医薬に関する。
より詳しくは、本発明は、にコンピューター断層撮影を用いたX線検査において、従来から用いられている造影剤とともに血管収縮作用を有する薬剤を投与することにより撮影感度を著しく上昇させることが可能な、X線感度増強剤に関する。さらには、既存の制癌剤とともに血管収縮作用を有する薬剤を投与することにより、血流分布の変化を起こし、進行性癌に対して効果的な治療結果を得ることが可能であるとともに副作用の低減された癌治療薬に関する。
具体的には、上記医薬において、血管収縮作用を有する薬剤としてアンギオテンシン−II注射液を用いることにより効果的な結果を得ることが可能な医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
CTについて
病気を治療する際に、病気の初期段階においてその病気により生体内に引き起こされる形態変化を精密且つ迅速に簡便な方法で検出することが要求される。特に癌を治療する場合、初期の小さい病変の場所と大きさの確定が早期治療する上で必要不可欠である。この目的のために既に知られている方法として、内視鏡による生体検査、X線撮影、MRI及び超音波撮影等のような映像診断を挙げることができる。中でもコンピューター断層撮影を用いたX線検査は簡便であり、感度も高いことから現在最も広く用いられている検査法のひとつである。コンピューター断層撮影(Computed tomography;CTと略する場合が多い)を用いたX線検査とは、CTスキャンともいわれ、X線ビームで体をスキャンしながら、検出器で得られたデータをコンピューターで計算し、短時間で体の内部の組織を断層像で表示でき、立体像の再構成も可能で、しかも従来のX線検査に比べ人体組織の識別力が高く臨床診断学的価値の高い検査法のひとつである。この装置の普及率は目覚しく、MR検査とならび画像診断の中心的検査方法のひとつである。
【0003】
その原理は、人体に対して多方向からX線を照射し、人体を透過してきたX線を鋭敏な検出器で検出、その透過X線量の情報をコンピューターで処理して二次元または三次元画像として再構成する。これにより重なり合った組織、臓器の分離ができる。画像は水を0、空気を−1000とするCT値から構成され、人体内の組織はこの範囲内で画像化される。ヨード系の造影剤を併用することで、さらに、主要などの微細な変化の描出も可能である。
【0004】
しかしより精密な解析が必要とされる疾患に対しては、従来の方法では必ずしも疾患の進展状況を正確に把握することができず、正確な手術適応の決定ならびに治療法の選択が不可能な場合があり、問題となっている。
【0005】
膵臓癌について
特に膵臓癌は死亡率が高く予後の不良な悪性腫瘍である(非特許文献1)。それは、腫瘍が切除可能な患者の発見や診断が容易ではなく、術後再発が多く、有効な非外科的治療法がないためである。進行した膵臓癌の患者における死因は、主に癌の局所進行と遠隔転移である。診断時には、膵臓癌は一般的に局所で進行しており、肝臓や腹膜への遠隔転移を伴うことも多い(非特許文献2)。実際に、肝転移は膵臓癌切除後の腫瘍死の主な原因の1つとなっている。Fosterらは、膵臓癌で死亡した患者の73%では剖検時に肝転移が認められると報告している(非特許文献3)。したがって、肝転移は予後を示す重要な因子であると考えられる。
【0006】
超音波検査とCTは、膵臓癌の原発腫瘍の診断と局在決定、ならびに転移病変の検出に用いる標準的な検査法である(非特許文献4、5)。しかし、より精密な解析を必要とする膵臓癌に関しては、こういった従来の術前検査では肝転移が疑われたり検出されたりせず、開腹術が行われることになる患者も存在する。このような状況を克服するために、いくつかの術前診断法が試行されている。経動脈性門脈造影下CT(CTAP)は、肝病変の検出や局在決定を行う上でもっとも感度の高い術前画像モダリティであると報告されている(非特許文献6、7)。しかし、これらの結果は主に肝細胞癌や、大腸癌の転移性腫瘍を評価して得られたものであり、現時点で膵臓癌に関しての報告はない。
【0007】
また有効切除が不可能な病期IIIおよびIVの進行膵臓癌に対する最近の治療は、全身化学療法、動脈注入化学療法、放射線療法、およびこれらを併用した集学的治療法であるが、治療結果は満足のいくものではなく、平均生存期間は約1年である。特に、遠隔転移のある患者では2カ月である(非特許文献8)。進行膵臓癌の治療反応性が不良であるのは、膵臓癌の血管分布が少ないため、全身化学療法は抗癌剤の腫瘍への送達がきわめて不十分になるという知見に起因する。すべての化学療法に対する反応性が低くて腫瘍の明らかな縮小がないにもかかわらず、化学療法後に症状の改善を示す患者もいる。従って、進行膵臓癌に対する有効な非外科的治療の必要性は高い。
【0008】
AT-IIについて
AT−II(アンギオテンシン−II)はもっとも有効性の高い血管収縮薬である。蛋白分解酵素であるレニンが生体内でアンギオテンシノゲンからデカペプチドであるアンギオテンシンIを分解させること、およびアンギオテンシンIは肺、腎臓および他の組織の中で減成して血管収縮性オクタペプチドアンギオテンシン−IIを与えることは知られている。AT−IIの種々の効果、すなわち血管収縮性、腎臓中でのNa+保有性、副腎中でのアルドステロン放出および交感神経系の緊張増加が相乗的に作用して血圧を上昇させる。
【0009】
さらに、AT−IIは、例えば心筋細胞および円滑筋細胞の成長および増殖を促進させる性質も有しており、その結果、これらの細胞は種々の疾病状態(高血圧症、アテローム性動脈硬化症および心不全)において大きく成長し増殖する。
【0010】
EkekundらはAT−II併用血管造影法の診断について報告している(非特許文献9)。AT−IIの全身投与による動脈血圧の上昇は、正常組織の血流は増加させずに腫瘍組織の血流を選択的に5.7倍増加させることもわかっている(非特許文献10、11)。Sasakiらは、短寿命放射性同位元素を用いて肝臓の血流分布を検討し、AT−IIの動脈内注入に誘発されて血流の腫瘍/非腫瘍(T/N)比が3.3倍上昇することを立証した。また、AT−IIの動脈内注入は静脈内注入よりもT/N比を増加させるが、それに伴う末梢血圧の上昇はより軽度であることも観察した(非特許文献12)。
しかしながら、現在に至るまで、最も困難であるとされる膵臓癌からの転移性肝腫瘍の検出に関する研究においてAT−IIの効果を検討したものは存在しない。
【0011】
膵臓癌は局所化学療法に感受性があることが示されている(非特許文献13、14)。腎臓癌の患者で数多くの化学療法剤が評価されてきたが、5−フルオロウラシル(5−FU)は、20年の間もっとも重要な薬剤であった(非特許文献15)。今日では、ゲムシタビン(ジェムザール、イーライリリー株式会社、Indianapolis、IN)は有望な新規薬剤である。最近は、切除不可能な進行膵臓癌(病期IV)の苦痛緩和に関しての研究でその薬効が示されているが、それは反応率が5−FUと同程度であって臨床効果が改善されているという程度のものである(非特許文献16)。さらに、ゲムシタビンの作用は、5−フルオロウラシル(5−FU)と相乗的と思われる。ゲムシタビンおよび5−FU双方の膵臓癌に対する抗腫瘍活性はよく認知されており、in vitro検査で相乗作用が示されている(非特許文献17)が、経動脈経路での併用は、今まで試験されていない。
進行した乳癌(非特許文献18)や肝癌(非特許文献19)に動脈内化学療法を実施した際に、アンギオテンシン−IIまたはノルエピネフリンのどちらか一方を併用注入した研究結果もある。
【非特許文献1】GoldEB, Cameron JL. Chronic pancreatitis and pancreatic cancer. N Engl J Med.328:1485-6, 1993.
【非特許文献2】ConnollyMM, Dawson PJ, Michelassi F, Moossa AR, Lowenstein F. Survival in 1001 patientswith carcinoma of the pancreas. Ann Surg. 206:366-73, 1987.
【非特許文献3】FosterJH, Lundy J. Liver Metastases. Curr Probl Surg. 18:157-202, 1981.
【非特許文献4】LuDS, Vedantham S, Krasny RM, Kadell B, Berger WL, Reber HA. Two-phase helical CTfor pancreatic tumors: pancreatic versus hepatic phase enhancement of tumor,pancreas, and vascular structures. Radiology. 199:697-701, 1996.
【非特許文献5】O'Malley ME, Boland GW, Wood BJ, Fernandez-del Castillo C, Warshaw AL, MuellerPR. Adenocarcinoma of the head of the pancreas: determination of surgicalunresectability with thin-section pancreatic-phase helical CT. AJR Am JRoentgenol. 173:1513-8, 1999.
【非特許文献6】MatsuiO, Takashima T, Kadoya M, Ida M, Suzuki M, Kitagawa K,Kamimondary to ura R,Inoue K, Konishi H, Itoh H.Dynamic computed tomography during arterialportography: the most sensitive examination for small hepatocellularcarcinomas. J Comput Assist Tomogr. 9:19-24, 1985.
【非特許文献7】NelsonRC, Chezmar JL, Sugarbaker PH, Bernardino ME.Preoperative localization of focalliver lesions to specific liver segments: utility of CT during arterialportography. Radiology. 176 :89-94, 1990.
【非特許文献8】SarrMG, Cameron JL. Surgical management of unresectable carcinoma of the pancreas.Surgery 1982; 91: 123-133.
【非特許文献9】EkelundL, Lunderquist A. Pharmacoangiography with angiotensin. Radiology 110 :533-40,1974.
【非特許文献10】SatoH, Suzuki M. Difference and agreement between the primary lesion and metastasisof cancer, with reference to the strome of the tumor. Jpn J Clin Oncol 11 :159-166, 1981.
【非特許文献11】SuzukiM, Hori K, Abe I, Saito S, Sato H. A new approach to cancer chemotherapy:selective enhancement of tumor blood flow with angiotensin II. J Natl CancerInst. 67 :663-9, 1981.
【非特許文献12】SasakiY, Imaoka S, Hasegawa Y, Nakano S, Ishikawa O, Ohigashi H, Taniguchi K, KoyamaH, Iwanaga T, Terasawa T. Changes in distribution of hepatic blood flow inducedby intra-arterial infusion of angiotensin II in human hepatic cancer. Cancer55:311-6, 1985.
【非特許文献13】Wilkowskir, Thoma M, Schauer R, Wagner A, Heinemann V. of chemoradiotherapy withgemcitabine and cisplatin on locoregional control in patients with primaryinoperable pancreatic cancer.World J Surg. 2004 Oct;28(10):1011-8. Epub 2004Sep 29.
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【非特許文献15】BoschX. Fluorouracil and mitomycin for pancreatic cancer.Lancet Oncol. 2005Sep;6(9):644).
【非特許文献16】RothenbergML, Moore MJ, Cripps MC, Andersen JS, Portenoy RK, Burris HA 3rd, Green MR,Tarassoff PG, Brown TD, Casper ES, Storniolo AM, Von Hoff DD. A phase II trialof gemcitabine in patients with 5-FΜ-refractorypancreas cancer. Ann Oncol. 1996 Apr;7(4):347-53.
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【非特許文献18】NoguchiS, Miyauchi K, Nishizawa Y, Sasaki Y, Imaoka S, Iwanaga T, Koyama H, TerasawaT. Augmentation of anticancer effect with angiotensin II in intraarterialinfusion chemotherapy for breast carcinoma. Cancer. 1988 Aug 1;62(3):467-73.
【非特許文献19】SasakiY, Imaoka S, Hasegawa Y, Nakano S, Ishikawa O, Ohigashi H, Taniguchi K, KoyamaH, Iwanaga T, Terasawa T. Changes in distribution of hepatic blood flow inducedby intra-arterial infusion of angiotensin II in human hepatic cancer. Cancer55:311-6, 1985.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、コンピューター断層撮影を用いた既存のX線検査では、より精密、詳細な解析が必要とされる疾患、特に膵臓癌からの転移性肝腫瘍に対しては、疾患の進展状況・病巣部位を正確に把握することができない場合が多いため、正確な手術適応の決定ならびに治療法の選択が必ずしも容易ではなかった。したがって、この問題点を解決するために、既存の造影剤の使用のみではなく、検出感度を上昇させる方法の開発が持ち臨まれている。
さらには、死亡率が高く予後の不良な悪性腫瘍、特に膵臓癌に対する効果的かつ副作用の低減された新たな治療方法を開発することは重要である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従来のコンピューター断層撮影を用いたX線検査では、感度を上昇させるために、検査に際して、ヨード含有非イオン性造影剤などの血管内投与が行われている。造影剤を投与することにより、投与しない場合に比べ感度上昇が見られ、疾病の早期発見等に大きく貢献している。しかし、上述したように、より精密、詳細な解析が必要とされる疾患に対し ては、従来の方法では疾患の進展状況を正確に把握することができない場合が多い。特に、手術を施す場合においては、事前に切開・切除すべき病巣部位及びその大きさ等をコンピューター断層撮影等により正確に特定しておかなければならない。
【0014】
そこで本発明者らは、検査感度をさらに上昇させるべく鋭意研究を重ねた。その結果、従来の造影剤に加えて、血管収縮作用を有するアンギオテンシン−IIを投与した場合に、特に特定量のAT−IIを動脈注射によって投与した場合に、その検査感度が著しく上昇することを見出して本発明を完成させた。この方法は、特に膵臓癌からの転移性肝臓癌の検査において効果的であり、従来の方法では不可能であった病巣の詳細な解析が可能となり、特に検出困難な膵臓癌患者における肝転移をこれまでになく高感度で検出することが可能となった。
【0015】
また、死亡率が高く予後の不良な悪性腫瘍、特に治療が困難とされていた膵臓癌に対する有効な治療方法を開発するために鋭意研究を重ねた結果、上記と同様のアンギオテンシン−IIと従来の制癌剤を併用したときに、劇的にその薬効が向上することを見出して本発明を完成した。アンギオテンシン−IIと併用された制癌剤は、正常組織に対して選択的に癌組織へと送達されて、その効果を発揮し、生存期間を顕著に改善する。また、腫瘍組織に選択的に制癌剤が搬送されるので、従来に比べてその投与量を低減することも可能であり、これによって、制癌剤の副作用を低減させることが可能である。したがって、切除不可能な膵臓癌に対する新規の治療薬としての効果が大いに期待される。
【0016】
具体的には、進行膵臓癌患者20名に、癌組織への血流を増加させて非腫瘍組織への血流を減少させるためにアンギオテンシン−II10mgを混合した、ゲムシタビン、5−フルオロウラシル(5−FU)およびシスプラチン混合液を、大腿動脈に留置したカテーテルを通して腹腔動脈に動脈内投与した。患者はすべて病期IVに分類され、遠隔転移は肝臓のみであった。腫瘍マーカー(CA19−9)およびコンピュータ断層撮影法(CT)の知見によって、本治療法の有効性を評価したところ、毒性はきわめて軽度であり、生存中央値は345日であり、6カ月および1年の生存率は、それぞれ79.7%および41.4%であった。20名中12名では、腫瘍マーカーレベルは、本治療後に低下した。20名中10名では、CTは腫瘍サイズの縮小を示した。20名中6名で背部痛が見られたが、その後自制域内に軽減した。重大な合併症は見られなかった。世界保健機関の基準にしたがった毒性は、グレードII(4例)およびグレードI(13例)であり、主として骨髄抑制であった。
【0017】
従来の化学療法や放射線療法で既に報告されたデータに比較して、本発明に係る療法は、患者の生存期間を延長するためだけではなく、クオリティオブライフを改善するためにもきわめて有用であると考えられる。アンギオテンシン−IIによって生じる血流分布の変化を伴う本発明に係る療法は、進行膵臓癌に対する効果的な苦痛緩和治療と思われる。
【0018】
本発明は、具体的には以下に示すとおりである。
1.血管収縮作用を有する薬剤と、癌の治療剤又はコンピューター断層撮影による癌のX線検査のための造影剤とを組合わせてなる医薬。
2.血管収縮作用を有する薬剤が、アンギオテンシン−IIである上記1に記載の医薬。
3.血管収縮作用を有する薬剤が、1〜10μg/5ml/回に調整されたアンギオテンシン−II注射液である上記2に記載の医薬。
4.血管収縮作用を有する薬剤と、コンピューター断層撮影による癌のX線検査のための造影剤とを組合わせてなる請求項1乃至3に記載の医薬。
5.膵臓癌又は膵臓癌から転移した肝臓癌のX線検査のための上記4に記載の医薬。
6.コンピューター断層撮影による癌のX線検査のための造影剤が、イオヘキソール、イオメプロール、アミドトリゾ酸、イオキサグル酸、イオキシラン、イオタラム酸、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオパノ酸、イオパミドール、イオプロミド又はイオポダートナトリウムである上記4又は5に記載の医薬。
7.癌の治療剤が、制癌剤である上記1乃至3に記載の医薬。
8.癌が膵臓癌、又は膵臓癌から転移した肝臓癌である上記7に記載の医薬。
9.血管収縮作用を有する薬剤が、5〜20mg/5ml/回に調整されたアンギオテンシン−II注射液である上記7又は8に記載の医薬。
10.制癌剤が、ゲムシタビン、5−フルオロウラシル(5−FU)、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、アドリアマイシン、タキソール又はそれらの組み合わせからなる制癌剤である上記7乃至9に記載の医薬。
【0019】
また、本発明は、癌患者に対するコンピューター断層撮影を用いた下記X線検査方法に関するものである。
11.癌患者に対するコンピューター断層撮影を用いたX線検査方法であって、
(a)血管収縮作用を有する薬剤を血管内に注入するステップと、
(b)造影剤を血管内に注入するステップと、
(c)コンピューター断層撮影を行うステップとを含む方法。
12.血管収縮作用を有する薬剤がアンギオテンシン−II動脈用注射液である上記11に記載の方法。
13.癌患者に対するコンピューター断層撮影を用いたX線検査方法であって、
(a)1〜3μg/5ml/回のアンギオテンシン−II溶液を血管内に注入するステップと、
(b)造影剤を血管内に注入するステップと、
(c)コンピューター断層撮影を行うステップとを含む方法。
14.癌患者が膵臓癌患者である上記11乃至13に記載の方法。
【0020】
さらに、本発明は、下記癌治療方法に関するものである。
15.血管収縮作用を有する薬剤と制癌剤を同時または別々に癌患者に投与することを特徴とする癌の治療方法。
16.血管収縮作用を有する薬剤がアンギオテンシン−IIである上記15に記載の治療方法。
17.アンギオテンシン−IIと制癌剤を混合した注射液を動脈投与することを特徴とする上記15又は16に記載の治療方法。
18.上記注射液を患者の大腿動脈に留置したカテーテルを通して腹腔動脈に投与することを特徴とする上記17に記載の治療方法。
19.アンギオテンシン−II注射液の濃度が1〜3μg/5ml/回である上記17乃至18に記載の方法。
【発明の効果】
【0021】
従来の造影剤単独投与に比べて、造影剤と血管収縮作用を有する薬剤のひとつであるAT−IIを併用することにより、コンピューター断層撮影を用いたX線検査における検出感度が著しく上昇し、これまで不可能であった、病巣の詳細な解析が可能となった。そのことにより、特に膵臓癌患者における肝転移の検出感度が著しく上昇し、手術の成功率を格段に上昇させることが可能である。
さらに、本発明によれば、既存の制癌剤とアンギオテンシン−IIを併用することにより、死亡率が高く予後の不良な悪性腫瘍、特に進行膵臓癌患者に対して著しい延命効果をもたらすことができる。加えて、制癌剤を癌組織に選択的に作用させることができるため、従来の制癌剤の投与量を低減することができ、制癌剤による副作用を低減することが可能である。よって、患者の生存期間を延長するためだけではなく、クオリティオブライフを改善するためにもきわめて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明において血管収縮作用を有する薬剤とは、その投与により血管収縮を引き起こす薬剤であれば、特に限定されるものではない。例えばアンギオテンシン−I、アンギオテンシン−IIなどが上げられる。また交感神経興奮様薬があげられ、β-受容体に作用して心拍出量を増加させるとともに、血管平滑筋を拡張させ、血圧を上昇させる作用機序を有するものがある。エピネフリン、塩酸エチレフリン、ノルエピネフリンなどである。また選択的α1-受容体直接刺激作用により末梢血管を緊張・収縮させ、血圧を上昇させる薬剤でもよい。例えば、塩酸ミドドリン、塩酸フェニレフリンなどがあげられる。中でもアンギオテンシン−I、アンギオテンシン−IIなどが好ましく、中でもアンギオテンシン−IIが最も好ましい。
【0023】
本発明において造影剤とは、X線検査において、高いX線吸収率を有する物質を含むために撮影感度を上昇させることができる薬剤であれば、特に限定されるものではない。好ましくは、X線吸収率の著しく大きいヨウ素を含むイオン性造影剤であり、たとえば、イオヘキソール、イオメプロール、アミドトリゾ酸、イオキサグル酸、イオキシラン、イオタラム酸、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオパノ酸、イオパミドール、イオプロミド、イオポダートナトリウム等があげられる。特に好ましくは、イオヘキソールである。
【0024】
本発明において、血管収縮作用を有する薬剤の適切な投与量は、患者の症状、投与経路、性差、体重等のより変化する。造影剤と併用する場合、例えば、血管収縮作用を有する薬剤の1回の用量として、通常約0.01〜100μgであり、好ましくは1〜10μgである。これらの容量の薬剤を1〜10ml、好ましくは5mlの生理食塩水またはそれに準ずるものに溶解して使用する。投与液量は、患者の症状、投与経路、性差、体重等のより変化すが、成人の血管内投与の場合、好ましくは5mlである。また、制癌剤と併用する場合は、例えば、血管収縮作用を有する薬剤の1回の用量として、通常約1〜30mgであり、好ましくは5〜20mgである。これらの容量の薬剤を5〜20ml、好ましくは10mlの生理食塩水またはそれに準ずるものに溶解して使用する。投与液量は、患者の症状、投与経路、性差、体重等のより変化すが、成人の血管内投与の場合、好ましくは10mlである。
【0025】
本発明において、制癌剤とは、癌細胞および癌組織に対して、傷害作用または増殖抑制作用を示す薬剤であれば、特に制限されるものではない。具体的には、制癌剤としては、ブスルファン、カルボコン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ナイトロジェンマスタード、チオテパ、ウラシルマスタード、カルムスチン(BCNΜ)、塩酸ニムスチン(ACNΜ)、リン酸エストラムスチン等のアルキル化剤;ゲムシタビン、アザチオプリン、アンシタビン、カルモフール、ドキシフルリジン、フルオロウラシル(5−FU)、メルカプトプリン(6−MP)、チオイノシン、テガフール、シタラビン(Ara−C)、メトトレキサート(MTX)、ヒドロキシカルバミド、シタラビンオクホスファート、ペントスタチン等の代謝拮抗剤;ダクチノマイシン、マイトマイシンC(MMC)、ブレオマイシン(BLM)、ダウノルビシン、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、ネオカルチノスタチン(NCS)、塩酸イダルビシン等の抗腫瘍性抗生物質;エトポシド(VP−16)、テニポシド、ビンデシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、タキソール(パクリタキセル)、塩酸イリノテカン等の植物由来抗腫瘍性物質;シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン(CBDCA)、ネダプラチン(NDP)等の白金錯体;プレドニゾン、プレドニゾロン、テストステロン、エストラムスチン、ノルエチステロン、酢酸ゴセレリン、酢酸リュープロレリン、クエン酸トレミフェン、塩酸ファドロゾール、タモキシフェン等のホルモン剤、ミトキサントロン(MXT)等のアントラサイクリン系化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい制癌剤としては、ゲムシタビン、5−フルオロウラシル(5−FU)、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、ダクチノマイシン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ダウノルビシン、アドリアマイシン、ネオカルチノスタチン、塩酸イダルビシン、エトポシド、テニポシド、ビンデシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、タキソール、塩酸イリノテカンである。より好ましくはゲムシタビン、5−フルオロウラシル(5−FU)、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、アドリアマイシン、タキソール等であり、特に好ましくはゲムシタビン、5−フルオロウラシル(5−FU)およびシスプラチンである。
また、肝臓癌のための制癌剤としては、ドキソルビシン、エトポシド、イリノテカン、5−FU又はマイトマイシンが好ましい。
【0026】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0027】
1.対象
2002年5月から2005年12月までに、AT−II併用/非併用腹腔動脈造影(肝動脈造影)下ダイナミックCTで膵臓癌肝転移患者35名を検査した。平均年齢は64.3歳で、年齢幅は43〜83歳であった。
【0028】
2.画像技術
セルディンガー法を用いて、右大腿動脈を経由して腹腔動脈幹に5.0Frまたは3.2Frのカテーテルを留置した。CTの前に腹腔動脈造影を行って、腫瘍の栄養動脈を評価した。細い動脈では同軸法を用いて、2.7Frのマイクロカテーテル(Renegade Hi Froカテーテル、Target Therapeutics、米国カリフォルニア州サンノゼ、またはMicro Ferret、Cook、米国インディアナ州ブルーミントン)を腫瘍の位置に応じて適切な栄養動脈に留置した。非イオン性造影剤(オムニパーク(登録証商標)100mgI/ml、第一製薬、大阪)30mlをカテーテルから自動注入器(オートエンハンスA−50、根本杏林堂、東京)で肝動脈内に注入して、注入開始3秒後にCTAを開始した。注入速度は、カテーテル先端の位置によって1.5から2.0ml/秒とした。CTイメージングはヘリカルCTスキャナ(HiSpeed Advantage、GE Medical Systems、米国ウィスコンシン州ミルウォーキー)を用いて以下の技術パラメーターで行った。120kVp、200mA、スキャン速度1秒、スキャン時間24秒、遅延時間6秒、テーブル移動速度4〜6mm/秒、スライス厚3〜5mm、有効視野12cm、軸位像の再構成間隔5mm、再構成関数標準。5mlの生理食塩水に溶解した5μgのAT−IIをカテーテルに10秒間注入した。AT−II投与の2分後に、従来のCTAと同じ用量、注入速度、技術的パラメーターで造影剤を注入してCTAを施行した。AT−IIを併用して、あるいは併用しないで撮影したCTA画像で、腫瘍内および肝実質内のROIの平均減衰量を測定した。正常肝組織および転移性肝腫瘍中心部のROIをそれぞれの時点で測定した。すべてのROIは約1cm2であった。減衰(HΜ値)および増強(注入後の減衰量から注入前の減衰量を減じた値)を、各用量レジメンにおける時間の関数、および各時点での用量の関数として関数曲線で表した。2名の放射線科医(T.I.とH.O.)が別個に画像を読影した。解釈の不一致は合意によって解決した。ウィルコクソンの2標本検定を用いて、腫瘍:正常実質の比をAT−II注入時と非注入時とで比較した。臨床試験を開始する際に、当該者または家族に検査内容を示して理解と同意を得た。
【0029】
3.結果
AT−IIがCTA画像に及ぼす影響を評価するために、肝臓を2つの領域(正常実質および転移性肝腫瘍中心部)に分けた。AT−IIを併用して行った検査と併用せずに行った検査の画像で、増強された領域の数を計測した。例えば、膵臓癌が肝臓に転移した78歳の女性で、前述のようにAT−II併用/非併用腹腔動脈造影下ダイナミックCTを施行した。薬剤併用血管造影下CTでは、多発性肝転移の著明な増強が認められた(図1)。腫瘍のROIの平均減衰量は、AT−II注入後のCTAで有意に上昇した。腫瘍コントラストの平均値は、AT−II併用CTAでは122.1HU、非併用CTAでは90.3HUであった(p<0.01)(図2)。また、AT−IIを注入した後の薬剤併用血管造影下CTでは中心壊死も良好に増強された。AT−II注入後に撮影した画像では腫瘍のROIの平均減衰量も上昇していたが、腫瘍対肝臓のコントラストは薬剤併用血管造影下CTで有意に大きかった(図3)。薬剤併用血管造影下CTでは著明に増強された腫瘍が増強不良の実質に囲まれていたが、デジタル・サブトラクション・アンギオグラフィーでは腫瘍濃染は認められなかった。
【0030】
4.副作用
予想されたとおり、AT−IIの肝動脈注入は全身血圧を軽度に上昇させた(最大40mmHgの収縮期血圧上昇)。血圧の上昇は100秒間の注入の終末に最大となり、その後徐々に低下した。リバウンドの低血圧は認められなかった。これらの作用に伴って平均動脈圧の一過性の上昇がみられたが、脈拍の変化はなかった。
【0031】
5.考察
膵臓癌の予後は不良である。手術が唯一の治癒的治療であると考えられているが、膵臓癌切除後の5年生存率は、根治手術が行われたときですらきわめて低い(Cameron JL, Crist DW, Sitzmann JV, Hruban RH, Boitnott JK, Seidler
AJ, Coleman J. Factors influencing survival after pancreaticoduodenectomy for
pancreatic cancer. Am J Surg. 161:120-4, 1991, Baumel H, Huguier M,
Manderscheid JC, Fabre JM, Houry S, Fagot H. Results of resection for cancer of
the exocrine pancreas: a study from the French Association of Surgery. Br J
Surg. 81:102-7, 1994.)。膵臓癌患者の大半では診断時に遠隔転移、特に肝転移が認められる。小病変(<2cm)が検出されたときでも、その多くは局所で進行しており、顕微鏡的に浸潤がみられる。このような従来の術前検査では肝転移が疑われたり検出されたりせず、開腹術が行われることになる患者もいる。膵切除患者の70%では、手術時にすでに存在していた可能性のある肝潜伏転移が頻度の高い治療不成功部位の1つとなっている(Amikura K, Kobari M, Matsuno S. The time of occurrence of liver
metastasis in carcinoma of the pancreas.Int J Pancreatol. 17:139-46, 1995.)。大腸癌などある種の転移性肝腫瘍を外科的に切除した患者では、切除を行わなかった同様の患者と比較して長期生存率が改善する(Fong Y, Cohen AM, Fortner JG, Enker WE, Turnbull AD, Coit DG,
Marrero AM, Prasad M, Blumgart LH, Brennan MF.Liver resection for colorectal
metastases.J Clin Oncol. 15 :938-46, 1997.)。しかし、膵臓癌からの転移性肝腫瘍を有する大多数の患者では、切除は無効かつ有害である。Fortner(Fortner JG. Regional pancreatectomy
for cancer of the pancreas, ampulla, and other related sites. Tumor staging and
results. Ann Surg. 199 :418-25, 1984.)は膵部分切除術を用いてこのような進行性腫瘍の切除を試みたが、患者の生存率を改善することはできなかった。転移性大腸癌とは対照的に、膵臓癌では転移病変の正確な数は重要ではなかった。つまり膵臓癌の生存率を改善するためには、術前に癌の切除可能性を診断することが重要である。
【0032】
切除可能性の評価という点から膵臓癌患者で術前診断法の有用性を高めるためには他のモダリティが必要である。そこで、薬物動態学的CTAを検討した。腫瘍内の血管は未熟で、平滑筋細胞と免疫反応陽性神経のいずれも持たない(Ashraf S, Loizidou M, Crowe R, Turmaine M, Taylor I, Burnstock
G.Blood vessels in liver metastases from both sarcoma and carcinoma lack
perivascular innervation and smooth muscle cells. Clin Exp Metastasis. 15
:484-98, 1997.)。したがって、腫瘍血管は血管収縮薬に反応することができない(Peterson
HI, Mattson J. Vasoactive drugs and tumor blood flow. Biorheology. 21:503-8,
1984.、Mattson J, Appelgren L, Karlsson L, Peterson HI.
Influence of vasoactive drugs and ischaemia on intra-tumour blood flow
distribution. Eur J Cancer. 14 :761-4, 1978.)。
【0033】
AT−IIは正常な動脈を収縮させる強力な血管収縮薬であり、動脈内に短時間(3〜4分)注入すると血流分布が変化して肝内腫瘍の灌流量が増加することが示されている。AT−II注入後に腫瘍血流量が増加すると、腫瘍が化学療法薬に曝露する量も増加する。
また、AT−IIや他の血管収縮薬が標的への薬剤送達の精度を高める可能性について、CTAから有用な情報が得られると考えられる。
【0034】
転移性膵臓癌患者で術前に膵臓癌の肝転移を評価するために、薬剤併用血管造影下CTでAT−II併用/非併用CTAを定量的に評価した。肝転移病変の減衰量は、薬剤併用血管造影下CTで有意に増加していた。また、AT−II注入後の薬剤併用血管造影下CTでは中心壊死も良好に増強された。腫瘍対肝臓のコントラストは薬剤併用血管造影下CTで有意に大きかった。
【0035】
AT−II併用血管造影下CTでは著明に増強された腫瘍が増強不良の実質に囲まれていたが、デジタル・サブトラクション・アンギオグラフィーでは腫瘍濃染は認められなかった。腹腔動脈へのAT−IIの注入は肝内動脈の血流を増加させるので、腫瘍対肝臓のコントラストはCTAで有意に上昇した。肝臓と比較して増加した腫瘍の血流を持続させることは、AT−IIの動脈内注入の使用によって可能になる。このような現象はその他の癌が原因の肝転移を有する患者を明らかにするが、膵臓癌の肝転移を有する患者に特異的である(データ未提示)。したがって、AT−II併用/非併用CTAは膵臓癌肝転移の術前評価に有用である。副作用の点では、血圧が上昇した際のみに胸部圧迫感や頭痛などの症状が随伴することもあるが、ほぼ全例において症状はAT−IIの投与が不可能となるほど重度ではなかった。しかし、血圧値を制御するために慎重な注意を払い、治療中の過度の血圧上昇を予防しなければならない。
【実施例2】
【0036】
1.患者選択
2002年4月から2006年2月の間に、この研究のために化学療法未経験で肝転移のある病期IVの膵臓癌患者20名を治療した。腹部CT検査によって膵臓の転移性腺癌を確認した。適応基準は以下の通りであった。患者は、治療開始前で、一般状態は1または2であって、二次元的に測定しうる少なくとも1つの疾患病変があること、留置カテーテルや埋め込み式注入ポートを設置できること、血液(白血球数>3000/L、血小板数>120000/L、ヘモグロビン・レベル>9.5gm/dL)、腎臓(血清クレアチニン<1.5mg/dL、クレアチニンクリアランス>60mL/min)および肝臓(総血清ビリルビン・レベル<3.0mg/dL、Child−Pugh分類がグレードAまたはB)の機能が適切であることが必要とされた。世界保健機関(WHO)基準による一般状態3以下の患者が、適応と考えられた(Miller AB, Hoogstraten B, Staquat M, Winkler A. Reporting results of
cancer treatment. Cancer 1981; 47:207-214.)。
【0037】
進行膵臓癌の連続した患者すべてが、済生会新潟第2病院で実施した動脈内局所化学療法を受けた。全患者に我々のシチュエーショナル・ガイドラインに従ったインフォームドコンセントを実施して、本研究は倫理上の承認を得た。
【0038】
2.方法
動脈内局所化学療法のために、セルディンガー法を用いて、右大腿動脈を経由してカテーテルを留置した。細い針を経皮的に穿刺後にポートに通して、動脈内局所化学療法を実施した。注入前に、毎回血液のカテーテルへの逆流の確認、または透視下での造影剤の注入のどちらか一方によって、カテーテルの開存を確認した。注入ポンプ(シリンジポンプ、テルモ株式会社、大阪)を用いて、ゲムシタビン1000mg/m2(イーライリリー株式会社、東京、日本)および生理食塩水10mLに溶解したアンギオテンシン−II10mgを、各カテーテルから30分間注入した。その後、5−フルオロウラシル(500mg/m2)を、アンギオテンシンと共に24時間にわたって持続動脈注入した。5−FU動脈注入後に、CDDP(ブリストルマイヤーズ株式会社、東京、日本)10mgを動脈注入した。ポートから針を抜去する前に、ポートおよび接続カテーテル双方に未希釈ヘパリン(1000U/ml)を充填した。制吐薬(グラニセトロン8mg)およびH2受容体拮抗薬(ファモチジン40mg)を静注投与した。この治療を、週1回または週2回、3週連続で4週毎に、可能な期間、我々の外来クリニックで反復した。
【0039】
フォローアップ期間の研究は、理学検査、総血球数および血小板数、ならびにCA19−9レベル、アミラーゼ、肝トランスアミナーゼ、尿素窒素、クレアチニン、および他の患者データの測定であった。腹部の超音波検査図またはコンピュータ断層X線図のどちらか一方を少なくとも2カ月毎に入手して、膵臓癌および肝転移のサイズを測定した。一般状態のグレードを、米国東部共同腫瘍研究グループが提唱するクオリティオブライフの分類に従って評価した。
【0040】
治療に対する肝臓と膵臓の臨床反応性は、世界保健機関の基準(World Health Organization. WHO handbook for reporting results of
cancer treatment. WHO Offset Publication No.25. Genova: WHO, 1976.)に従って評価した。臨床反応性は、以下のように格付けした。完全反応(CR)は、コンピュータ断層撮影法および超音波検査法の双方で評価した際に、肝臓において測定可能な全病変が消失して少なくとも4週間持続することと定義した。腫瘍サイズが50%以上縮小して少なくとも4週間持続することは、部分反応(PR)とみなした。変化なし(NC)は、腫瘍サイズの縮小が25%以下を示すこととした。疾患の悪化(PD)は、腫瘍の25%以上の増大と定義した。治療反応性は、CA19−9レベルのモニタリングによって評価して以下のように定義した。CRは値が正常域に戻ったとき、PRは初回値の50%以上の低下があったとき、PDは任意の上昇、SDは反応性が上記基準に適合しないときである。
【0041】
3.統計分析
生存曲線はカプラン・マイヤー法で計算して、生存曲線間の差異はログランク検定を用いて評価した。
【0042】
4.結果
(1)臨床検査データの患者背景
男性9名および女性11名を治療して、年齢中央値は63.70歳であった。主要な腫瘍部位は、膵頭部(7名)、体部(8名)、および尾部(5名)であった。
(2)カプラン・マイヤー生存曲線による患者の累積生存率
治療群の患者20名のうち、計5名(25.0%)がCRまたはPRと分類され、計15名(75%)がNCまたはPDと分類された。最終分析時(2006年2月)には、4名(治療群)が生存した。計316回治療サイクルで投与した。
【0043】
図4は、全患者20名に対する全生存曲線を示す。生存中央値は345日であった。6カ月後および1年後の生存率は、それぞれ79.7%および41.4%であった。被験者20名のうち、13名がこの分析までに死亡した。臨床反応を示した患者およびその他(非反応を示した患者および安定患者)に対する生存曲線を図5に示す。6カ月および1年の生存率は、臨床反応患者ではそれぞれ100%および66.7%であり、非反応を示した患者ではそれぞれ73.3%および35.2%であった。2群間の生存には有意差があった(P<0.01)。CRまたはPRの群の生存率とNCまたはPDの群の生存率との間には、有意差があった(図5)。CA19−9(正常域<37Μ/mL)を全患者で評価した。CA19−9レベルは、患者20名中12名で動脈内局所化学療法後に低下して、うち2名では正常値内に低下した。CA19−9低下群の生存率と非反応患者の生存率との間には、有意差があった(図6)。両群の生存率には有意差があった(図6)。
【0044】
(3)局所化学療法による副作用および合併症(表1);
【0045】
【表1】

【0046】
治療中に直面した副作用および合併症を、表1に要約する。大腿動脈穿刺部位での局所合併症は、いずれの患者にも生じなかった。集中ケアを必要とする重篤な合併症には、治療中に直面しなかった。治療群の副作用は、口渇感、下痢および肝機能不全であった。治療開始時に軽度の口渇感を20.0%の患者で認めたが、治療の継続と共に治まった。治療開始時に、軽度の下痢を5.0%の患者で認めたが、これも時間と共に治まった。このような症状は、自然に、または適切な治療後に解消した。局所化学療法で治療した患者での合併症は、問題とはならなかった。胃潰瘍、肝障害、腎障害、血管性合併症または心臓毒性などの重篤な合併症には直面しなかった。局所化学療法での投与による治療関連死はなかった。
【0047】
(4)死亡数および死因
観察期間中に、研究に参加した20名中13名(65.0%)が死亡して、生存者は経過良好である。進行癌からの患者死亡や悪液質および進行の急な黄疸を伴わない一般状態の悪化からの患者死亡を、癌による死亡とした。
【0048】
5.考察
他の消化器癌に比べて膵臓癌の治療結果はきわめて思わしくないものであり、外科的切除率は5〜22%である(Connolly MM, Dawson PJ, Michelassi F, Moossa AR, Lowenstein F. Survival
in 1001 patients with carcinoma of the pancreas. Ann Surg. 206:366-73, 1987.)。切除した例でも、その1、3および5年生存率は、それぞれ49.8%、16.8%および9.6%と低い(Niederhuber JE, Brennan MF, Menck HR, The National Cancer Data Base
report on pancreatic cancer. Cancer. 1995 Nov 1;76(9):1671-7.)。膵臓癌は、化学療法に抵抗性の強い腫瘍であるとみなされており、5−FU単独または他の薬剤併用に対する腫瘍の平均反応率は7〜28%の範囲にある(Fung MC, Sakata T. What's new in pancreatic cancer treatment? J
Hepatobiliary Pancreat Surg. 2002;9(1):61-75. Review. 10-12.)。膵臓癌に対する全身性の補助化学療法によって、5年生存率は延長していない。したがって、病期IVの進行膵臓癌に対しては症状の改善のみを実施すべきである、と記載した報告もある(Burris HA 3rd, Moore MJ, Anderson J, Green MR, Rothenberg ML,
Modiano MR, Cripps MC, Portenoy RK, Storniolo AM, Tarassoff P, Nelson R. Dorr
FA, Stephens CD, Von Hoff DD. Improvements in survival and clinical benefit
with gemcitabine as first-line therapy for patients with advanced pancreas
cancer: a randomized trial. J Clin Oncol. 1997 Jun;15(6):2403-13.)。しかし、以前の研究では、無治療に比べて苦痛緩和化学療法により、クオリティオブライフを損なうことなく全生存を改善することが示されている。進行膵臓癌に対する化学療法の改善のためのさまざまな試みが、抗癌剤の種類、用量、投与期間、および投与経路に関してなされてきた。
【0049】
しかし、今日まで満足のいくものではなかった。化学療法は効果がないことがあるが、これは膵臓癌の血管分布が希薄であり、組織中の充分な薬剤集積が可能ではない場合があるためである。全身化学療法に効果がないのは腫瘍内薬剤濃度が十分とはならないことによるためであろうと考えられる、これは骨髄や上皮組織に用量規制毒性が生じるためである。
【0050】
動脈内局所化学療法は、結腸直腸から肝臓への転移を随伴する患者での反応率およびクオリティオブライフを改善している(Rougier P, Laplanche A, Huguier M, Hay JM, Ollivier JM, Escat J,
Salmon R, Julien M, Roullet Audy JC, Gallot D. et al. Hepatic arterial infusion
of floxuridine in patients with liver metastases from colorectal carcinoma:
long-term results of a prospective randomized trial.J Clin Oncol. 1992
Jul;10(7):1112-8.)。膵臓癌に対する動脈内局所化学療法は、まだ初まったばかりであり、理想的なスケジュールはまだ存在しない。膵臓癌に対する化学療法剤の作用を改善するために、腫瘍組織への効果的な薬剤送達方法が開発されるべきである。動脈内注入法は、腫瘍での薬剤濃度をより高めることが可能であり、これによって、正常組織に比較して腫瘤への血流が不良である問題を解決できる。局所領域の化学療法に対する膵臓癌の用量依存的感受性は、以前の研究に示されている(Muchmore JH. Treatment of advanced pancreatic cancer with regional
chemotherapy plus hemofiltration. Int J Pancreatol 1995; 7: 209-222.)。
【0051】
動脈内化学療法の目的は、高用量の抗癌剤を癌組織に、低用量を非癌組織に送達することであるが、膵臓癌に対する従来の動脈内化学療法(Theodors A, Bukowski RM., Hewlett JS, Livivgston RB, Weick JK.
Intermittent regional infusion of chemotherapy for pancreatic adenocarcinoma.
Phase I and II pilot study. Am J Clin Oncol. 1982 Oct;5(5):555-8.)はこの目的を達成していなかった。さらに、動脈内注入法は薬剤の初回通過効果を利用すると考えられており、これによって腫瘍細胞内での局所薬剤濃度を高めるが毒性は低いと考えられる。
【0052】
我々の以前の研究では、アンギオテンシン−IIを投与すると、正常組織に比べて転移肝臓腫瘍で造影が増強した(Toru Ishikawa, Hiroteru Kamimura, Tadayuki Togashi, Kouji Watanabe,
Kei-ichi Seki, Hironobu Ohta, Toshiaki Yoshida, Keiko Takeda, Tomoteru
Kamimura. Angiotensin-II administration is useful for detection liver metastasis
from pancreatic cancer during pharmacoangiographic CT.)。持続動脈注入は、5−FUなどの化学療法剤の濃度を時間依存的に維持することに有用と考えられる。
【0053】
ゲムシタビン、シスプラチン、および5−FUを今回の標準薬に選択した。ゲムシタビンは、膵臓癌患者で抗腫瘍活性を示しており、この疾患の治療での第1次化学療法として広範に使用される。しかし、5−FUと比較して薬効が高いにもかかわらず、ゲムシタビン単独で得られる膵臓癌での結果は、未だに不良である。5−FUの動脈内注入をゲムシタビンおよびシスプラチンに付け加えることは、ゲムシタビン単独に比べて有効と考えられることが示唆された。この治験は、局所動脈内注入の併用が、切除不可能な膵臓癌に対して有効であることを示した。
【0054】
生存期間中央値は345日であった。6カ月および1年後の生存率は、それぞれ79.7%および41.4%であった。被験患者20名のうち13名は、この研究時までに死亡した。我々の方法では、計5名(25.0%)がCRまたはPRに、計15名(75.0%)がNCまたはPDに分類された。反応性を示した患者での6カ月および1年後の生存率は、それぞれ100%および66.7%であり、非反応を示した患者では、それぞれ73.3%および35.2%であった。この併用化学療法は、全患者で、問題なく実施された。生命の脅威となる潜在的副作用はなかった。殆どの毒性が、口渇感、下痢、および肝障害であった。動脈内に送達された化学療法剤の初回通過時の肝排泄が高いことから、骨髄抑制は毒性効果ではなかった。結論として、動脈内に投与したこの治療法は、適切で問題のない治療法である。血液毒性および非血液毒性は、軽微で回復可能である。
【0055】
今回治療した患者数は、動脈化学療法の治療効果に関する明確な結論を導き出すにはあまりに少ない。しかし、この治療に顕著な反応を示した患者の生存の改善を、期待することができた。そこで、近い将来に我々の化学療法を、局所的に切除不可能な膵臓癌に対する前向き無作為化比較試験にかけるべきであると提案する。さらに膵臓癌に対する化学療法に関する臨床試験が必要である。結果によって、動脈内注入として投与するこの薬剤併用は、適切かつ効果があり、1日の入院を必要とするのみであり、膵臓癌治療での総合的治療方法に付け加える可能性を考慮すべきであることが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】膵臓癌肝転移を有する78歳女性患者のデータを示す。A)は従来のCTA、B)はAT−II併用血管造影下CTを示す。
【図2】AT−II併用/非併用CTAにおいて増強された肝転移の減衰量の比較を示す。
【図3】膵臓癌による肝転移を有する35名の患者のAT−II併用/非併用CTAにおける腫瘍対肝臓のコントラストを示す。
【図4】局所化学療法を実施した病期IVの膵臓癌患者の生存率を示す。
【図5】局所化学療法を実施した病期IVの膵臓癌患者の治療反応性別の生存率を示す。
【図6】CA19-9に基づいた局所化学療法を実施した病期IVの膵臓癌患者の治療反応性別の生存率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管収縮作用を有する薬剤と、癌の治療剤又はコンピューター断層撮影による癌のX線検査のための造影剤とを組合わせてなる医薬。
【請求項2】
血管収縮作用を有する薬剤が、アンギオテンシン−IIである請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
血管収縮作用を有する薬剤が、1〜10μg/5ml/回に調整されたアンギオテンシン−II注射液である請求項2に記載の医薬。
【請求項4】
血管収縮作用を有する薬剤と、コンピューター断層撮影による癌のX線検査のための造影剤とを組合わせてなる請求項1乃至3に記載の医薬。
【請求項5】
膵臓癌又は膵臓癌から転移した肝臓癌のX線検査のための請求項4に記載の医薬。
【請求項6】
コンピューター断層撮影による癌のX線検査のための造影剤が、イオヘキソール、イオメプロール、アミドトリゾ酸、イオキサグル酸、イオキシラン、イオタラム酸、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオパノ酸、イオパミドール、イオプロミド又はイオポダートナトリウムである請求項4又は5に記載の医薬。
【請求項7】
癌の治療剤が、制癌剤である請求項1乃至3に記載の医薬。
【請求項8】
癌が膵臓癌、又は膵臓癌から転移した肝臓癌である請求項7に記載の医薬。
【請求項9】
血管収縮作用を有する薬剤が、5〜20mg/5ml/回に調整されたアンギオテンシン−II注射液である請求項7又は8に記載の医薬。
【請求項10】
制癌剤が、ゲムシタビン、5−フルオロウラシル(5−FU)、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、アドリアマイシン、タキソール又はそれらの組み合わせからなる制癌剤である請求項7乃至9に記載の医薬。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−297339(P2007−297339A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127145(P2006−127145)
【出願日】平成18年4月29日(2006.4.29)
【出願人】(591039263)鳥居薬品株式会社 (4)
【Fターム(参考)】