説明

癌治療の個別療法を選択するためのマーカー

本発明は、癌、特に結腸癌患者におけるトポイソメラーゼI阻害剤に基づく療法への奏効マーカーとして、アプラタキシン(APTX)発現レベルを確認することに関する。本発明は、低APTX発現レベルの癌患者に、トポイソメラーゼI阻害剤を投与する、当該患者の治療方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーダーメイド医療のための方法の分野、とりわけ患者から単離された試料におけるマーカーの発現レベルに基づき、結腸・直腸癌治療に適した治療法を選択するための方法の分野を包含する。
【背景技術】
【0002】
結腸・直腸癌は、新たな症例が世界中で年間100万を占め、死亡例は50万を上回っており、利用し得る治療法は最適なものとは言い難い(Parkin DM, et al., CA Cancer J Clin 2005; 55: 74-108)。患者の治療処置には、手術および/または化学療法が含まれる。緩和的化学療法は、一般に進行した疾患の患者に施され、患者の生活の質および全生存率をかなり向上させることができる。ピリミジン類似体である5-フルオロウラシル(5-FU)は、40年以上にわたって結腸・直腸癌を治療するための参照方法となってきた。しかしながら、補助的または進歩した疾患治療に関連してではあっても、5-FU治療によって利益を受けるのは結腸・直腸癌の患者の約20%に過ぎない(Moertel CG, et al., Ann Intern Med 1995; 122: 321-6;Petrelli N, et al., J Clin Oncol 1989; 7: 1419-26)。更に最近では、これらの患者を治療する追加の化学療法剤が承認されて一般に用いられている。これらのものとしては、トポイソメラーゼI阻害剤:イリノテカン、白金化合物:オキサリプラチン、および上皮成長因子受容体(EGFR)や血管内皮成長因子(VEGF)に対して直接作用するモノクローナル抗体が挙げられる。これらの新規薬剤により、他覚症状が最大50%までであり、かつ僅かではあるが全生存率に有意な改善が見られる進行疾患の患者の割合が増加してきた(Douillard JY, et al., Lancet 2000; 355: 1041-7; Goldberg RM, et al., J Clin Oncol 2004; 22: 23-30; Cunningham D, et al., N Engl J Med 2004; 351: 337-45; Hurwitz H, et al., N Engl J Med 2004; 350: 2335-42; Saltz LB, et al., N Engl J Med 2000; 343: 905-14)。
【0003】
治療した患者の半数から奏効がなく、かつ奏効がある患者の生存率の改善が僅かであることからすれば、追加の化学療法薬が緊急に必要であることは明らかである。更に、現在入手可能な様々な化学療法薬は、重複する小集団の患者で有効なだけであるため、化学療法薬について一層個別化された方法を用いたこれらの患者の臨床治療を向上させる試みにおいて、様々な薬剤のそれぞれについて確実に奏効する患者を識別することができるマーカーがあれば、非常に好都合である。これらの化学療法薬に奏効する確率を予測することができる多数の分子マーカーが、この10年に報告されてきた。5-FUのターゲットであるチミジレートシンターゼ(TS)、ヌクレオチド除去修復遺伝子ERCC1 (除去修復交差相補群1)の腫瘍発現レベルまたはKRAS癌遺伝子の突然変異段階は、例えばそれぞれ5-FU、オキサリプラチンおよびセツキシマブの奏効を予測することができる(Allegra CJ, et al., J Clin Oncol 2009; Aschele C, et al., Cancer Treat Rev 2002; 28: 27-47; Shirota Y, et al, J Clin Oncol 2001; 19: 4298-304)。
【0004】
しかしながら、イリノテカンに基づく治療に対する奏効を予測することができるマーカーの同定にはほとんど進歩が見られていない。
【発明の概要】
【0005】
第一の態様において、本発明は、腫瘍患者から単離した試料について測定したAPTX発現レベルを基準値と比較し、低APTXレベルを、トポイソメラーゼI阻害剤に対する良好な奏効を示すものとすることを特徴とする、腫瘍患者のトポイソメラーゼI阻害剤に対する奏効を測る方法に関する。
【0006】
別の態様において、本発明は、結腸・直腸癌の患者のための治療法を選択する方法であって、患者から単離した試料におけるAPTX発現レベルを基準値に対して測定し、ここで、
(i) APTX発現レベルが上記基準値に対して低いときは、患者にトポイソメラーゼI阻害剤を用いる治療を選択し、および/または
(ii) APTX発現レベルが上記基準値に対して高いときは、患者に白金系薬剤、EGFR阻害剤、VEGF阻害剤または上記の1もしくは2以上の組み合わせからなる群から選択される薬剤を用いる治療を選択する、
とすることを特徴とする、方法に関する。
【0007】
第三の態様において、本発明は、患者の結腸・直腸癌の治療薬の調製のためのトポイソメラーゼI阻害剤の使用であって、患者から単離された試料について、基準値に対して低APTX発現レベルが検出されたとき、当該患者が上記治療の対象に選択されることを特徴とする、使用に関する。
【0008】
第四の態様において、本発明は、白金系薬剤、EGF阻害剤、VEGF阻害剤またはこれらの一またはそれ以上の組み合わせの使用であって、患者から単離された試料で、基準値に対して高APTX発現レベルが検出されたとき、当該患者が上記治療の対象に選択されることを特徴とする、使用に関する。
【0009】
第五の態様において、本発明は、トポイソメラーゼI阻害剤およびAPTX阻害剤を含んでなる組成物に関する。
【0010】
第六の態様において、本発明は、癌治療薬の製造のためのトポイソメラーゼI阻害剤およびアプラタキシン阻害剤を含んでなる組成物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、APTXの欠損により、CTPに対して感受性になることを示す。親細胞DT40を、15および25nMのCPTに72時間暴露することにより、適度なアポトーシス誘発を生じた。しかしながら、APTXの直接的な不活性化は、CPTによる治療に奏効して有意に増加したアポトーシス誘発を生じた。ノックアウト細胞DT40におけるAPTXの再導入は、親細胞DT40の耐性表現型を完全に再確立した。
【図2】図2は、腫瘍アプラタキシンレベルおよびイリノテカンに基づく治療を受けた進行結腸・直腸癌の患者の生存率を示す。結腸・直腸腫瘍の免疫組織化学的染色は、検出可能なアプラタキシン発現レベル(A)、高アプラタキシン発現レベル(D)または中間的アプラタキシン発現レベル(B-C)を持たない幾つかの腫瘍を用いて、発現勾配を示した。増殖抑制期間(E)および全生存率(F)は、アプラタキシンタンパク質のレベルに従って示される(カプラン・マイヤー(Kaplan−Meier)グラフ)。対数オーダーのp値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の発明者らは、驚くべきことには、アプラタキシン発現レベルが癌患者のイリノテカンによる治療に対する奏効と関連していることを見出した。具体的には、本発明の実施例2で観察されるように、低アプラタキシンレベルを示した患者またはこの分子が検出されなかった患者は、中または高アプラタキシンレベルの患者に比べて、イリノテカンによる治療に奏効してより長い増殖抑制期間およびより高い生存率を示した。イリノテカンに基づく治療に奏効する確率が低い患者は、オキサリプラチン、セツキシマブおよび/またはベバシズマブのような入手可能な代替薬剤による治療を受けるのに理想的な候補者である。
【0013】
トポイソメラーゼ阻害薬に基づく治療に対する奏効を測る方法
第一の態様において、本発明は、腫瘍患者のトポイソメラーゼI阻害剤に対する奏効を測る方法(以下、本発明の第一の方法)であって、腫瘍患者から単離した試料について測定したAPTX発現レベルを基準値と比較し、低APTXレベルを、トポイソメラーゼI阻害剤に対する良好な奏効を示すものとすることを特徴とする、方法に関する。
【0014】
「患者の奏効を測る」という字句は、トポイソメラーゼI阻害剤を用いた療法に対する癌患者における療法の結果の評価を意味する。治療の有効性を測定するための本発明のバイオマーカーの使用は、潜在的な抗腫瘍活性を有する薬剤の選択およびスクリーニングの方法に応用することもできる。この方法は、a)被験者(好ましくは、動物)に被検薬剤を投与し、b)試験中の様々な時点(投与前、中および/または後)で動物から生体試料を採取して本発明によるマーカーのレベルを測定し、そしてc)治療の様々な相において得られた当該試料で行った測定結果と比較すること、かつそれらをコントロール動物、例えば未治療動物、と比較することを含んでなる。
【0015】
本発明に関して治療される癌は、任意の種類の癌または腫瘍であることができる。これらの腫瘍または癌としては、血液癌(例えば、白血病またはリンパ腫)、神経腫瘍(例えば、星状細胞腫または膠芽細胞腫)、黒色腫、乳癌、肺癌、頭部および首部の癌、消化器腫瘍(例えば、胃、膵臓または結腸・直腸癌)、肝臓癌(例えば、肝細胞癌)、腎細胞癌、泌尿生殖器腫瘍(例えば、卵巣癌、膣癌、子宮頸癌、膀胱癌、精巣癌、前立腺癌)、骨腫瘍および血管腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、特定の態様において、治療または予防される癌疾患は、結腸・直腸癌である。
【0016】
本明細書で用いられる「結腸・直腸癌」(CRC)という用語は、任意の種類の結腸、直腸および虫垂腫瘍を包含し、初期および後期の腺腫および癌、並びに遺伝性、家族性および散発性癌を指す。遺伝性CRCとしては、過誤腫性ポリープ症候群および最もよく知られている家族性の腺腫性ポリープ症(FAP)のようなポリープの存在を包含する症候群、並びに遺伝性の非ポリープ性結腸・直腸癌(HNPCC)またはリンチ症候群Iのような非ポリープ性症候群が挙げられる。本発明は、デュークス(Duke)分類による段階A、B、C1、C2およびD、アストラーカラー(Astler-Coller)分類による段階A、B1、B2、B3、C1、C2、C3およびD、TNMシステムによる段階TX、T0、Tis、T1、T2、T3、NX、N0、N1、N2、MX、M0およびM1、並びにAJCC(アメリカン・ジョイント・コミッティー・オン・キャンサー(American Joint Committee on Cancer))分類による段階0、I、II、IIIおよびIVのような様々な段階における結腸・直腸癌の治療も意図する。
【0017】
本明細書において用いられる「被験者」または「患者」という用語は、哺乳類として分類される全ての動物を指し、家畜(domestic)および放牧動物(farm animals)、霊長類およびヒト、例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコまたは齧歯類が挙げられるが、これらに限定されない。被験者は、好ましくは、任意の年齢または人種の男性または女性である。
【0018】
「アプラタキシンまたはAPTX」という用語は、本発明では互換的に用いられ、ヌクレオチド結合タンパク質(HINT)、脆弱ヒスチジントリアード(FHIT)、ガラクトース-1-ホスフェートウリジルトランスフェラーゼ(GALT)、IPR011151およびDcpSのようなタンパク質によって形成されるHITドメインファミリーと呼ばれる上科に属するタンパク質を指す。HITドメインは、HXHXHXX型であって、Xが疎水性アミノ酸であるコンセンサス配列を有することを特徴とする。アプラタキシンは、更にリンタンパク質に結合することができるN-末端フォークヘッド関連(FHA)ドメインと、ジンクフィンガー型推定DNA結合ドメインであるC-末端領域とを含んでいる。本発明によって測定することができるアプラタキシンは、好ましくはNCBIデーターベースで受入番号AAQ74130(2004年9月29日版)で同定されたヒトタンパク質に相当するが、ラットタンパク質(受入番号NP_683687、2008年2月11日版のNCBIデーターベース)、マウスタンパク質(受入番号AAH21872、2008年1月30日版のNCBIデーターベース)、ブタタンパク質(受入番号NP_998899、2006年11月18日版のNCBIデーターベース)、イヌタンパク質(受入番号NP_001003355、2007年6月14日版のNCBIデーターベース)、ウシタンパク質(受入番号NP_ 872595、2008年11月2日版のNCBIデーターベース)、ウマタンパク質(受入番号XP_001917754、2008 年6月11日版のNCBIデーターベース)などを指すこともできる。
【0019】
本明細書において用いられる「アプラタキシン」という用語は、上記で定義された正確な配列だけでなく、アミノ酸残基の1個以上が保存または非保存アミノ酸残基(好ましくは、保存アミノ酸残基)によって置換されておりかつこのような置換アミノ酸残基が、遺伝コードによってコードされたアミノ酸残基であってもなくてもよいアプラタキシン変異体または(ii)1個以上のアミノ酸の挿入または欠損を含んでなる変異体も包含する。本発明による変異体は、好ましくはAPTXアミノ酸配列と少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を有する。変異体と上記で定義した具体的なアプラタキシン配列との同一性の程度は、当業者に広く知られているアルゴリズムとコンピューター処理を用いて測定される。2つのアミノ酸配列の同一性は、好ましくはBLASTPアルゴリズムを用いて決定される[BLAST Manual, Altschul, S., et al., NCBI NLM NIH Bethesda, Md. 20894, Altschul, S., et al., J. Mol. Biol. 215: 403-410 (1990)]。
【0020】
本発明の第一の方法を行うには、検査対象の被験者から試料を得る必要がある。本明細書において用いられる「試料」という用語は、患者から得ることができる任意の試料、例えば、生験試料、組織試料、細胞試料または流体試料(血清、唾液、精液、痰、脳脊髄液(CSF)、涙、粘液、汗、乳、脳抽出物など)を指す。特定の態様では、上記試料は、組織試料またはその一部であり、好ましくは腫瘍組織試料またはその一部である。上記試料は、関連の医療技術に熟練した者に周知の方法を用いて通常の方法、例えば、生験によって得ることができる。生験試料を得る方法としては、腫瘍の大きな断片への分割、顕微解剖、または当該技術分野で知られている他の細胞分離法が挙げられる。腫瘍細胞は、細針吸引細胞診によって得ることもできる。試料の保存と取り扱いを単純化するため、それらをホルマリンで固定してパラフィンに埋設(包埋)するか、または最初に凍結させた後速やかに冷凍することができる極低温貯蔵媒質に浸漬することによってOCT化合物のような低温固化媒体(cryosolidifiable medium)に埋設することができる。
【0021】
APTX発現レベルは、当業者によって理解されているように、APTXがコードするmRNAのレベルを測定することによって、またはAPTXタンパク質のレベルを測定することによって決定することができる。
【0022】
したがって、本発明の特定の態様において、APTX発現レベルは、APTX遺伝子によってコードされるmRNAの発現レベルを測定することによって決定される。このためには、生体試料を処理して、組織または細胞構造を物理的または機械的に破壊して、細胞内成分を水性または有機溶液に放出させ、更に分析を行うための核酸を調製することができる。核酸は、当業者に知られている商業的に利用可能な方法によって試料から抽出される。次いで、RNAを、当該技術分野で典型的な任意の方法、例えば、Sambrook, J., et al.著、「2001 分子クローニング、実験室便覧(2001 Molecular Cloning, a Laboratory Manual)」、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク、Vol. 1-3に記載の方法によって、冷凍または採取したての試料から抽出する。好ましくは、抽出過程中にRNAが分解しないように注意する。
【0023】
特定の態様では、発現レベルは、ホルマリン中で固定してパラフィンに埋設した組織試料から得たmRNAを用いて決定することができる。mRNAは、保管されている病理試料または最初に脱パラフィン化する生験試料から単離することができる。典型的な脱パラフィン化法は、パラフィン中の試料をキシレンのような有機溶媒で洗浄することを含む。脱パラフィン化試料は、低級アルコールの水溶液で再水和することかできる。好適な低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールが挙げられる。脱パラフィン化試料は、濃度が減少する低級アルコール溶液で連続的に洗浄することによって再水和することができる。あるいは、試料を、同時に脱パラフィン化して再水和する。次いで、試料を溶解させ、RNAを試料から抽出する。
【0024】
全ての遺伝子発現プロフィール決定法(RT-PCR、SAGE、発現マイクロアレイ、またはTaqMan)は、本発明の上記態様の実施に用いるのに好適であるが、mRNAの発現レベルは、通常は逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって決定される。特定の態様では、APTXのmRNAの発現レベルは、定量PCR、好ましくはリアルタイムPCRによって決定される。検出は、個々の試料または組織マイクロアレイで行うことができる。
【0025】
分析を行う試料中の目的とするmRNAの発現レベルをコントロールRNAの発現と比較して、様々な試料中のmRNA発現を標準化することが可能である。本明細書で用いられる「コントロールRNA」とは、発現レベルが変化しないかまたは非腫瘍原性細胞と比較して腫瘍細胞で僅かな量だけ変化するRNAを指す。コントロールRNAは、好ましくは、ハウスキーピング遺伝子由来でありかつ構成的に発現して本質的細胞機能を実行するタンパク質をコードするmRNAである。本発明で用いられるハウスキーピング遺伝子の例としては、β-2-ミクログロブリン、ユビキチン、18-Sリボソームタンパク質、シクロフィリン、GAPDHおよびアクチンが挙げられる。好ましい態様では、コントロールRNAは、β-アクチンmRNAである。一つの態様では、相対遺伝子発現の定量は、内因性コントロールとしてのβ-アクチンおよびキャリブレーターとしての市販のRNAコントロールを用いて比較Ct法によって計算される。最終結果は、式2-(試料のΔCt-キャリブレーターのΔCt)(式中、キャリブレーターおよび試料のΔCT値は、β-アクチン遺伝子の値からターゲット遺伝子CT値を引くことによって決定される)によって決定される。
【0026】
あるいは、別の特定の態様では、APTX発現レベルは、上記タンパク質のレベルまたはその変異体のレベルを測定することによって決定することができる。
【0027】
タンパク質の発現レベルは、免疫学的手法、例えば、ELISA、免疫ブロット、免疫蛍光または免疫組織化学的手法によって決定することができる。免疫ブロットは、変性条件でゲル電気泳動によって予め分離され、かつ膜、一般的にはニトロセルロース膜に特異的抗体と展開システム(例えば、化学発光)を用いるインキュベーションによって固定されたタンパク質の検出に基づいている。免疫蛍光による分析には、発現を分析するため標的タンパク質に特異的な抗体を用いることが必要である。ELISAは、酵素で標識した抗原または抗体を用いて、標的抗原と標識抗体との間に形成されたコンジュゲートが酵素活性複合体を形成するようにしたことに基づいている。成分の1つ(抗原または標識抗体)が支持体に固定されている場合には、抗原抗体複合体は支持体上に固定されるので、酵素によって、例えば、分光光度法または蛍光測定法によって検出することができる生成物に転換される基質を加えることによって検出することができる。
【0028】
免疫学的方法を用いるときには、標的タンパク質に高いアフィニティーで結合することが知られている任意の抗体または試薬を用いて、標的タンパク質の量を検出することができる。しかしながら、抗体、例えば、ポリクローナル血清、ハイブリドーマ上清またはモノクローナル抗体、抗体断片、Fv、Fab、Fab'およびF(ab')2、scFv、二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体およびヒト化抗体を用いるのが好ましい。
【0029】
また、タンパク質の発現レベルは、当該技術分野で周知の免疫組織化学的手法によって決定することができる。免疫組織化学的手法によって決定するには、試料は、採取したての試料、冷凍試料またはパラフィンに埋設してホルマリン型の保護剤を用いて固定した試料であることができる。免疫組織化学的決定では、試料をアプラタキシン特異的抗体で染色し、染色された細胞の出現率と染色強度とを決定する。染色された細胞の出現率(0から4の間で変動する値)および染色された細胞のそれぞれにおける強度(0から4の間で変動する値)によって計算される合計値と発現指標値を、典型的には試料に割り当てる。発現値を試料に割り当てる典型的基準は、例えば、「免疫組織化学のハンドブックおよびヒト癌でのイン・サイチュ・ハイブリダイゼーション(Handbook of Immunohistochemistry and In Situ Hybridization in Human Carcinomas)」, M. Hayat監修, 2004年, アカデミック・プレス(Academic Press)に詳細に記載されている。また、免疫組織化学的手法により、癌組織に含まれる細胞からどの種類の細胞がマーカー発現レベルの変化を有するものであるかを確認することもできる。免疫組織化学的検出は、好ましくはポジティブマーカーまたはネガティブマーカーとして働く細胞試料を用いて並行して行われ、分析を行っている腫瘍と同じ起源の健康な組織を基準として用いることができる。また、バックグラウンドコントロールを用いることもよく行われる。
【0030】
多数の試料を分析しようとする場合(例えば、1人で同一の患者からの数個の試料または異なる患者からの試料を分析しようとする場合)には、アレイおよび/または自動化した方法の使用が可能である。一つの態様では、様々な手法を用いて得ることができる組織マイクロアレイ(TMA)を使用することができる。マイクロアレイの一部を形成する試料は、免疫組織化学的手法、イン・サイチュ・ハイブリダイゼーション、イン・サイチュPCR、RNAまたはDNA分析、形態学的検査および上記のいずれかの組み合わせなどの異なる方法で分析することができる。組織マイクロアレイの加工方法は、例えば、Konenen, J. et
al.,(Nat. Med. 1987, 4:844-7)に記載されている。組織マイクロアレイは、パラフィンに埋設された組織試料からの直径0.6乃至2 mmの円筒状のコアから調製され、単一レシピエントブロック(single recipient block)に再度埋設される。数種類の試料からの組織を、このようにして単一パラフィンブロック(single paraffin block)に挿入することができる。
【0031】
APTX発現レベルの決定には、癌患者からの生検試料における腫瘍組織コレクションで測定したAPTX発現レベルのメジアン値に相当する基準値と相関させる必要がある。この基準試料は、典型的には被験者の個体群から試料を等量ずつ組み合わせて得られる。典型的な基準試料は、通常は臨床的に詳細な記録がありかつ疾患が一般的な方法(直腸検査、糞便潜血試験、S状結腸鏡検査法、結腸鏡検査法、生検、癌胎児性抗原のような腫瘍マーカーの決定、超音波、CATスキャン、核磁気共鳴、陽電子断層撮影法)のあるものによって詳細に特定されている被験者から得られる。このような試料では、バイオマーカーの正常な(基準)濃度は、例えば基準個体群と比較する平均濃度を提供することによって決定することができる。マーカーの基準濃度を決定するときには、幾つかの考察を考慮する。このような考察としては、含まれる試料の種類(例えば、組織またはCSF)、年齢、体重、性別、患者の全身的な身体状態などが挙げられる。例えば、好ましくは前記考察に準じて分類した、例えば幾つかの年齢範囲の少なくとも2、少なくとも10、少なくとも100から好ましくは1000名を上回る被験者の群の同量を、基準群とする。基準値が誘導される試料の集合は、検討を行っている患者と同じ種類の癌患者からなっている。
【0032】
このメジアン値を設定したら、患者の腫瘍組織で発現したこのマーカーのレベルをこのメジアン値と比較することによって、「減少した」または「増加した」発現レベルに割り当てることができる。被験者間の変動性(例えば、年齢、人種などに関する状況)により、APTX発現の絶対的基準値を設定することは(実質的に不可能ではないにしても)非常に困難である。したがって、特定の態様では、APTXの「減少した」または「増加した」発現に対する基準値は、疾患がAPTX発現レベルに対して上記した方法のいずれかによって詳細に記録されている正常な被験者から単離された1または数個の試料の分析を含む通常の手段によってパーセンタイルを計算することにより決定される。そして、「減少した」APTXレベルを、APTX発現レベルが、正常な個体群で50パーセンタイル以下である、例えば、発現レベルが正常な個体群で60パーセンタイル以下、正常な個体群で70パーセンタイル以下、正常な個体群で80パーセンタイル以下、正常な個体群で90パーセンタイル以下、および正常な個体群で95パーセンタイル以下を含む、試料に好ましく割り当てることができる。そして、「増加した」APTX
レベルを、APTX発現レベルが、正常な個体群で50パーセンタイル以上である、例えば、発現レベルが正常な個体群で60パーセンタイル以上、正常な個体群で70パーセンタイル以上、正常な個体群で80パーセンタイル以上、正常な個体群で90パーセンタイル以上、および正常な個体群で95パーセンタイル以上を含む、試料に好ましく割り当てることができる。
【0033】
本明細書において用いられる「低APTX発現レベル」という字句は、基準試料において見られるより低いAPTXレベルを指す。基準試料の発現レベルが、患者から単離された試料と比較して少なくとも1.1倍、1.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍以上であるときには、試料は低APTX発現レベルを有すると特に考えることができる。
【0034】
本明細書において用いられる「トポイソメラーゼI阻害剤」という字句は、Liu et al.
(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1981, 76:3487-3491)によって報告されているような当該技術分野で知られている緩和分析法のいずれかによって測定されるトポイソメラーゼI活性を阻害することができる任意の化合物、並びにHsiang et al. (J.Biol.Chem., 1985, 260:14873-14878)によって報告されているようなトポイソメラーゼIのヌクレアーゼ活性を阻害することができる任意の化合物を包含する。
【0035】
トポイソメラーゼI阻害剤の例としては、トポテカン、ジャイマテカン、イリノテカン、カンプトテシン、SN 38およびその類似体、9-ニトロカンプトテシンおよび高分子カンプトテシンコンジュゲート PNU-166148(WO9917804号明細書の化合物A1)、10-ヒドロキシカンプトテシン酢酸塩、イダルビシン塩酸塩、イリノテカン塩酸塩、テニポシド、トポテカン塩酸塩、ドキソルビシン、エピルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩およびダウノルビシン塩酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。イリノテカンは、例えば、カンプトサール(CAMPTOSAR)という商標で発売されている形態で投与することができる。トポテカンは、例えば、ハイカムチン(HYCAMTIN)という商標で発売されている形態で投与することができる。
【0036】
トポイソメラーゼI阻害剤による治療に対する患者の奏効を表すために本発明に関して用いられる「良い」および「悪い」という用語は、患者が治療に関して好ましい奏効または好ましくない奏効を示すことを指す。当業者であれば、治療に対する奏効の測定は、分析を行った患者について100%妥当とはならないことが分かるであろう。しかしながら、奏効の測定は、患者の統計学的に有意な画分について妥当としようとするものである。奏効が統計学的に有意であるかどうかの決定は、信頼区間、p値の測定、 スチューデント(Student)のt検定、マン・ホイットニー(Mann-Whitney)検定などの統計学的評価手段を用いて行うことができる。これらの手段を実施に移す方法は、例えば、DowdyおよびWearden著,「調査のための統計値(Statistics for Research)」,John Wiley & Sons, ニューヨーク 1983年に詳細に記載されている。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p値は、好ましくは0.2、0.1、0.05である。
【0037】
特異的療法に対する患者の奏効の測定は、腫瘍学で用いられ、当業者に知られている任意の評価基準を用いて測定することができる。疾患の進行を説明するのに有用な評価パラメーターとしては、
・本明細書においては、調査期間中疾患の再発がなかった完全な寛解にある被験者の比率を表す無病進行、
・本発明においては、完全または部分奏効が観察される治療を受けた人の比率を表す他覚的奏効、
・本発明においては、完全奏効、部分奏効、マイナーレスポンスまたは6か月以上の安定が観察されている治療を受けた人の比率に関する腫瘍コントロール、
・本明細書においては、治療の開始から癌増殖の最初の測定までの期間として定義される無増悪進行生存、
・本明細書においては、治療の開始後の最初の6ヶ月に増悪進行が見られない人の割合に関する6ヶ月の無増悪進行生存または「PFS6」率、
・本明細書においては、調査に登録された患者の半数が生きている期間に関するメジアン生存率、および
・本明細書においては、疾患が診断され(または治療され)てから疾患が悪化するまでの期間に関する増殖抑制期間、
が挙げられる。
【0038】
好ましい態様では、患者の奏効は、増殖抑制期間および生存率から選択されるパラメーターによって測定される。
【0039】
個別治療および個別療法デザインの方法
本発明の発明者らは、高アプラタキシンレベルにより、トポイソメラーゼI阻害剤に基づく治療に奏効する確率が低い患者を確認することができ(本発明の実施例2参照)、そして、これらの患者は、トポイソメラーゼI阻害剤がCunningham et al.(N.
Engl. J. Med. 2004, 351:337-45)およびHurwitz et al.(N. Engl. J. Med., 2004, 3:2335-42)によって報告されたような結果を生じなかった場合によく用いられる化合物で治療を受けるのに理想的な候補者となることも示した。この種類の化合物としては、白金系化合物、EGFR阻害剤またはVEGF阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
したがって、別の態様において、本発明は、結腸・直腸癌の患者について療法を選択する方法(以下、本発明の第二の方法)であって、上記患者から単離した試料におけるAPTX発現レベルを基準値と比較して測定することを含んでなり、ここで、
(i) APTX発現レベルが上記基準値と比較して低いときには、患者をトポイソメラーゼI阻害剤を用いる治療の対象に選択し、および/または、
(ii) APTX発現レベルが上記基準値と比較して高いときには、患者を白金系薬剤、EGFR阻害剤、VEGF阻害剤または上記の一またはそれ以上の組み合わせからなる群から選択される薬剤を用いる治療の対象に選択する、とすることを特徴とする、方法に関する。
【0041】
「患者」、「結腸・直腸癌」、「試料」、「レベルの測定」、「アプラタキシン」、「トポイソメラーゼI阻害剤」、「高レベル」および「低レベル」、「基準値」という用語および字句は、本発明の第一の方法に関して詳細に記載されており、本発明の第二の方法に同様に適用することができる。
【0042】
本明細書において用いられる「白金系薬剤」という用語は、少なくとも1個の白金原子を含んでなり、DNAに結合かつ架橋し、結果DNA修復経路を活性化し、アポトーシスを誘発することができる任意の化合物を指す。白金系化合物としては、カルボプラチン、シスプラチン[シス-ジアミンジクロロ白金,(CDDP)]、オキサリプラチン、イプロプラチン、ネダプラチン、トリプラチン四硝酸塩、テトラプラチン、サトラプラチンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書において用いられる「EGFR阻害剤」という用語は、受容体の細胞外領域へのEGFの結合を阻害することによって、またはEGFRの細胞内領域に配置されたチロシンキナーゼ活性を阻害することによって、EGFR介在性シグナル伝達を完全にまたは部分的に阻害することができる任意の分子を指す。EGFR阻害剤は、Hsu et al. (J.Biol.Chem., 1991, 261:21105-21112)に記載されているようないわゆる阻害剤の存在下でのチロシンキナーゼ活性の測定に基づく方法、またはVarkondi et al. (J. Recept. Signal. Transduct. Res. 2005;25:45-56)に記載されているようなELISAに基づく方法を用いて同定することができる。あるいは、Hudziak et al. (Mol. Cell. Biol., 1989, 9:1165-1172)およびLupu, R. et al. (Science, 1990, 249:1552-1555)によって報告されているような軟寒天中でEGFRを過剰発現する腫瘍細胞の増殖を阻害する能力に基づく方法を用いてEGFR阻害剤を同定することが可能である。
【0044】
EGFR阻害薬の例としては、EGFR結合能を有する抗体および小分子が挙げられる。EGFR細胞外ドメイン特異的抗体の例としては、モノクローナル抗体579 (ATCC CRL HB 8506)、455 (ATCC CRL HB8507)、225 (ATCC CRL 8508)、528 (ATCC CRL 8509)( elsohn et al.の米国特許第4943533号明細書を参照)並びにその変異体、例えばキメラ225 (C225)およびヒト化225 (H225)抗体(Imclone Systems Inc.のWO 96/40210号明細書を参照)、II型変異体EGFRに結合することができる抗体(米国特許第5212290号明細書参照)、EGFR結合キメラおよびヒト化抗体、例えば米国特許第5891996号明細書に記載されているもの、およびEGFR結合ヒト抗体(WO98/50433号明細書, Abgenix)、(Avastin)、2C3、HuMV833、セツキシマブ(Erbitux(商標))、パニツムマブ (Vectibix(商標))、ニモツズマブ(TheraCim(商標))、マツズマブ、ザルツズマブ、 mAb 806またはIMC-1 1F8が挙げられる。EGFRチロシンキナーゼ活性阻害剤の例としては、ZD1839またはゲフィチニブ(IRESSA(商標); Astra Zeneca)、CP-358774 (TARCEVA(商標); Genentech/OSI)およびAG1478、AG1571 (SU 5271; sugen)、エルロチニブ(Tarceva)、スーテント(スニチニブ)、ラパチニブ、ソラフェニブ(ネクサバール)、バンデタニブ、アキシチニブ、ボスチニブ、セディバニブ、ダサチニブ(スプリセル)、レスタウルチニブおよび/またはARQl 97が挙げられる。好ましい態様では、EGFR阻害剤はセツキシマブである。
【0045】
本明細書で用いられる「VEGF阻害剤」という用語は、VEGFの活性または産生を阻害しかつVEGF-VEGF受容体経路を介するシグナル伝達を減少させる化合物を指す。VEGF阻害剤は、Kendall and Thomas(Proc.Natl:Acad.Sci.USA, 1993, 90:10705-10709)によって報告されているようにヒト血管内皮細胞の増殖能の測定に基づくまたはAiello et al., (Proc.Natl:Acad.Sic.USA, 1995, 92:10457-10461)によって報告されているように網膜内皮細胞の増殖能の測定に基づく方法を用いて同定することができる。
【0046】
VEGF阻害化合物としては、VEGF発現を阻害することができる、小有機分子、VEGF特異的抗体または抗体断片、ペプチド、アンチセンス核酸、iRNAおよびリボザイムが挙げられるが、これらに限定されない。VEGF阻害能を有する核酸としては、米国特許第6168778号明細書および第6147204号明細書に記載の核酸、主要ヒトVEGFアイソフォームに高アフィニティーで結合するペグ化アプタマーである化合物EYE001(以前は、NX1838として知られる)、VEGF変異体(米国特許第6270933号明細書および国際特許出願WO99/47677号明細書)、VEGFの発現をブロックするVEGF発現阻害能を有するオリゴヌクレオチド、例えば、米国特許第5710136号明細書、第5661135号明細書、第5641756号明細書、第5639872号明細書および第5639736号明細書に記載されているアンチセンスRNAが挙げられるが、これらに限定されない。VEGF介在性シグナル伝達を阻害することができる他の化合物としては、ZD6474(Tuccillo et al., 2005, Clin Cancer Res., 11, 1268-76)、COX-2、Tie2 受容体、アンギオポエチンおよびニューロピリン阻害剤;色素上皮由来因子(PEDF)、エンドスタチン、アンギオスタチン、可溶性ヒレ様チロシンキナーゼ1(sFlt1)(Harris et al., 2001, Clin Cancer Res., 7, 1992-1997; US 5,861, 484);PTK787/ZK222 584;KRN633(Maier et al., 2004, Mol Cancer Ther., 3, 1639-1649);VEGF-Trap(商標)(Regeneron)およびα2-アンチプラスミン(Matsuno et al, 2003, Blood, 120, 3621-3628)が挙げられる。VEGF阻害薬の他の群は、抗原結合能を保持するVEGFまたはVEGF B、I、C、D、PDGFのような同じファミリーの成員の任意のものに特異的な抗体または抗体断片である。抗VEGF抗体の好ましい例としては、Avastin(商標)(ベバシズマブとして知られる、Genentech)またはその断片、およびLucentis(商標)(rhuFAb V2、AMD-Fab、ラニビツマブとしても知られる、Genentech)が挙げられる。
【0047】
また、個別療法を選択する方法に関して研究者らによって得られた結果により、結腸・直腸癌の患者から単離された試料におけるアプラタキシン発現レベルに応じて上記患者の個別治療が可能となる。したがって、別の態様では、本発明は、患者の結腸・直腸癌の治療薬の調製を目的としたトポイソメラーゼI阻害剤の使用に関し、上記患者から単離された試料で基準値と比較して低いAPTX発現レベルが検出されるとき、この患者が上記治療の対象に選択される。
【0048】
あるいは、 本発明は、患者の結腸・直腸癌の治療に使用するためのトポイソメラーゼI阻害剤に関し、上記患者から単離された試料で基準値と比較して低いAPTX発現レベルが検出されるとき、この患者が上記治療の対象に選択される。
【0049】
あるいは、 本発明は、患者にトポイソメラーゼI阻害剤を投与することを含んでなる上記患者の結腸・直腸癌の治療方法に関し、上記患者から単離された試料で基準値と比較して低いAPTX発現レベルが検出されるとき、この患者が上記治療の対象に選択される。
【0050】
また、高アプラタキシン発現レベルを有し、結果トポイソメラーゼI阻害剤を用いる治療に奏効しない患者は、白金系薬剤、EGF阻害剤、VEGF阻害剤、またはこれらの1またはそれ以上の組み合わせのような結腸・直腸癌に好適な代替療法を受けるための候補者である。したがって、別の態様では、本発明は、白金系薬剤、EGF阻害剤、VEGF阻害剤またはこれらの一またはそれ以上の組み合わせの使用、または結腸・直腸癌の治療薬の調製に関し、上記患者から単離された試料で基準値と比較して高いAPTX発現レベルが検出されるとき、この患者が上記治療の対象に選択される。
【0051】
あるいは、 本発明は、結腸・直腸癌の治療に使用するための白金系薬剤、EGF阻害剤、VEGF阻害剤またはこれらの一またはそれ以上の組み合わせに関し、上記患者から単離された試料で基準値と比較して高いAPTX発現レベルが検出されるとき、この患者が上記治療の対象に選択される。
【0052】
あるいは、 本発明は、患者の結腸・直腸癌の治療方法であって、白金系薬剤、EGF阻害剤、VEGF阻害剤またはこれらの一またはそれ以上の組み合わせを患者に投与することを含んでなり、上記患者から単離された試料で基準値と比較して高いAPTX発現レベルが検出されるとき、この患者が上記治療の対象に選択される。
【0053】
トポイソメラーゼI阻害化合物、白金系薬剤、EGFR阻害剤およびVEGF阻害剤は、個別療法のデザイン方法に関して上記で詳細に記載されている。好ましい態様では、トポイソメラーゼI阻害剤はイリノテカンである。別の好ましい態様では、白金系薬剤はオキサリプラチンであり、EGFR阻害剤はEGFR特異的抗体であり、VEGF阻害剤はEGFR特異的抗体である。
【0054】
トポイソメラーゼI阻害剤、白金系薬剤、EGFR阻害剤、VEGF阻害剤またはこれらの一またはそれ以上の組み合わせは、様々な方法によって、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所、皮内、経口、鼻内または気管支内投与によって、投与することができ、そして、それらは局所的に、全身的に、または直接的に標的部位に投与することができる。用いられる活性成分、賦形剤の投与の様々な方法およびそれらの調製方法の総説は、「生薬学の取り決め(the Treaty of Galenic Pharmacy)」, C. Fauli i Trillo, Luzan 5, S.A. de Ediciones, 1993および「Remingtonの製薬科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」(A.R.Gennaro監修), 第20版,Williams & Wilkins PA, USA (2000)に見出すことができる。
【0055】
本発明による治療薬は、薬学的観点から許容可能な賦形剤と共に処方することができる。本発明での使用に好ましい賦形剤としては、糖類、澱粉、セルロース、ゴムおよびタンパク質が挙げられる。特定の態様では、本発明の医薬組成物は、固形(例えば、錠剤、カプセル、丸薬、顆粒、座剤、滅菌した結晶性または非晶質固形物であって、再構成して液状形態を得ることができるものなど)、液状(例えば、溶液、懸濁液、エマルション、エリキシル、ローション、軟膏など)、または半固形(ゲル、軟膏、クリームなど)の医薬剤形で処方される。薬学上許容可能な担体の例は、当該技術分野で知られており、リン酸緩衝食塩溶液、水、油/水エマルション等のエマルション、様々な種類の湿潤剤、滅菌溶液などが挙げられる。上記担体を含んでなる組成物は、当該技術分野で知られている通常の方法によって処方することができる。
【0056】
本発明の医薬組成物
本発明の発明者らは、アプラタキシン欠損細胞が、トポイソメラーゼI阻害剤介在性阻害に一層感受性であることを示した(本発明の実施例1参照)。したがって、アプラタキシン阻害薬の同時投与によるトポイソメラーゼIの阻害に基づいて治療効果を増大させることが可能である。したがって、別の態様では、本発明は、トポイソメラーゼI阻害剤とAPTX阻害剤とを含んでなる組成物に関する。
【0057】
本明細書で用いられる「組成物」という用語は、2種類以上の生物活性薬の混合物を指し、特に、様々な成分を独立して、すなわち同時にまたは異なる時に、投与することかできるという意味における構成要素のキットを画定する。また、この表現は、組成物の要素と、場合によっては同時、逐次(時間間隔を空けて)または別途の使用のためのインストラクションとを含んでなる商業用パッケージをも指す。したがって、組成物の様々な要素を、同時にまたは異なる時、すなわち一定または変動する間隔を空けた異なる時に、身体の同じ領域または異なる領域に、投与することができる。逐次投与の場合の投与間隔または別途投与の場合の投与経路は、組成物の効果がそれぞれの要素を別々に投与するときよりも大きくなるように選択するのが好ましい。最初と二番目の要素の用量の比は、患者の特定の疾患、年齢、性別、体重などの因子によって変化することがある。組成物の投与により、好ましいことに、それぞれの要素の場合と比較して、具体的にはそれぞれの要素をより少ない用量で同じ結果を得て、ひいては副作用を減少させることができ、組成物の治療効果の増大における有利な効果を生じるという結果となる。組成物の使用は、両要素の間で相乗効果を奏するのが好ましい。
【0058】
本発明の組成物に有用な可能性のあるトポイソメラーゼI阻害剤は、本発明の第一の方法に関して上記したものである。好ましい態様では、トポイソメラーゼI阻害剤はイリノテカンである。
【0059】
本発明に関して、「アプラタキシン阻害剤」は、アプラタキシン活性を減少させる化合物、並びにアプラタキシンをコードする遺伝子の転写および翻訳を抑制または遮断する(すなわち、上記遺伝子の発現を抑制または遮断する)ことができる、または上記遺伝子によってコードされるタンパク質がその機能(活性)を発揮することを抑制することができる任意の物質または化合物として理解される。
【0060】
具体例として、本発明における使用に好適なアプラタキシン発現阻害薬は、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、干渉RNA(siRNAs)、触媒RNAまたは特異的リボザイム、「デコイ」活性を有するRNA、すなわち、遺伝子発現に重要な因子(一般的には、タンパク質)に特異的に結合する能力を有し、標的の遺伝子、本件ではアプラタキシン、の発現を阻害するRNA等である。同様に、上記アプラタキシンコード遺伝子によってコードされたタンパク質がその機能を発揮するのを抑制することができる阻害薬は、例えば、タンパク質阻害ペプチド、その機能を発揮するのに不可欠なタンパク質のエピトープに対しまたはアプラタキシンに対し特異的に作用する抗体等である。
【0061】
したがって、本発明の特定の態様では、阻害薬は、siRNAs、アンチセンスオリゴヌクレオチド、 特異的リボザイム、抗体およびポリペプチドからなる群から選択されるものである。本発明の好ましい態様では、アプラタキシン阻害剤は、アプラタキシン特異的siRNAである。
【0062】
siRNA
低分子干渉RNAまたはsiRNAは、標的遺伝子の発現をRNA干渉によって阻害することができる薬剤である。siRNAは、化学的に合成することができ、イン・ビトロ転写によって得ることができ、または標的細胞においてイン・ビボで合成することができる。siRNAsは、典型的には15および40ヌクレオチドの間の長さの二本鎖RNAからなり、3’および/または5’で1乃至6ヌクレオチドからなるオーバーハング領域を含むことができる。オーバーハング領域の長さは、siRNA分子の全長とは独立している。siRNAは転写後分解または標的メッセンジャー(RNA)のサイレンシングによって作用する。
【0063】
siRNAは、siRNAを形成する逆平行鎖がループまたはヘアピン領域によって連結されていることを特徴とする、いわゆるshRNA(短ヘアピンRNA)である可能性がある。shRNAは、プラスミドまたはウイルス、特にレトロウイルスによってコードすることができ、RNAポリメラーゼIII U6プロモーターのようなプロモーターによって制御することができる。
【0064】
本発明のsiRNAは、アプラタキシンをコードする遺伝子のmRNAまたは上記タンパク質をコードするゲノム配列に実質的に相同である。「実質的に相同である」とは、標的mRNAに十分相補性であるかまたは類似する配列を有し、当該siRNAがRNA干渉によってその分解を引き起こすことができることと理解される。上記干渉を引き起こすのに好適なsiRNAとしては、RNAによって形成されるsiRNAおよび様々な化学修飾を含むsiRNA、例えば、
・ヌクレオチド間の結合が、天然で見られるものとは異なる、例えば、ホスホロチオエート結合であるsiRNA、
・RNA鎖と機能試薬、例えばフルオロフォアとのコンジュゲート、
・RNA鎖の末端の修飾、特に2’位のヒドロキシルを様々な官能基で修飾することによる3’末端、
・2’位のO-アルキル残基のような改質糖を有するヌクレオチド、例えば、2’-O-メチルリボースまたは2’-O-フルオロリボース、
・ハロゲン化塩基(例えば、5-ブロモウラシルおよび5-ヨードウラシル)、アルキル化塩基(例えば、7-メチルグアノシン)のような改質塩基を有するヌクレオチド、
が挙げられる。
【0065】
本発明のsiRNAおよびshRNAは、当業者に知られている一連の手法を用いて得ることができる。siRNAのデザインの基本として用いられるヌクレオチド配列の領域は、限定的ではなく、(開始コドンと終結コドンの間の)コード配列の領域を含むことができ、またはその代わりに、5’または3’未翻訳領域、好ましくは長さが25乃至50ヌクレオチドであり、開始コドンに対して下流の任意の位置の配列を含むことができる。siRNAをデザインする1つの方法は、AA(N19)TTモチーフ(ここで、Nはアプラタキシンコード配列の任意のヌクレオチドである)を同定し、かつ高G/C含量を有するものを選択することを含む。モチーフが見つからないときには、NA(N21)モチーフ(ここで、Nは任意のヌクレオチドであることができる)を同定することが可能である。
【0066】
本発明で用いるsiRNAの好適な例としては、Luo et al.(Mol.Cell Biol, 2004, 24:8356-8365)によって報告されているsiRNAが挙げられる。
【0067】
アンチセンスオリゴヌクレオチド
本発明のさらなる態様は、発現を阻害するための、例えば、活性を阻害しようとするアプラタキシンをコードする核酸の転写および/または翻訳を阻害するための単離された「アンチセンス」核酸の使用に関する。アンチセンス核酸は、通常の塩基相補性によって、または、例えば二本鎖DNAへの結合の場合には、二重らせんの主溝における特異的相互作用によって、創薬ターゲット(標的)に結合することができる。一般に、これらの方法は、当該技術分野で一般に用いられている手法の範囲に関し、オリゴヌクレオチド配列への特異的結合に基づく任意の方法を含む。
【0068】
本発明のアンチセンス構築物は、例えば、細胞中で転写されると、アプラタキシンをコードする細胞mRNAの少なくとも1個のユニーク部位に相補的なRNAを産生する発現プラスミドとして分類することができる。あるいは、このアンチセンス構築物は、エクス・ビボで作製され、細胞中に導入されたときに、mRNAおよび/または標的核酸のゲノム配列とハイブリダイズすることによって遺伝子発現を阻害するオリゴヌクレオチドプローブである。このようなオリゴヌクレオチドプローブは、好ましくは内因性ヌクレアーゼ、例えば、エクソヌクレアーゼおよび/またはエンドヌクレアーゼに耐性であり、結果イン・ビボで安定である改質オリゴヌクレオチドである。。アンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いられる典型的な核酸分子としては、ホスホロアミダート、ホスホチオネート(phosphothionate)およびメチルホスホネートのDNA類似体が挙げられる(例えば、米国特許第5176996号明細書、第5264564号明細書および第5256775号明細書も参照)。また、アンチセンス療法で有用なオリゴマーを構築するための一般的な方法の総説については、例えば、Van der Krol et al., BioTechniques 6: 958-976, 1988、およびStein et al., Cancer Res 48: 2659-2668, 1988を参照されたい。
【0069】
アンチセンスオリゴヌクレオチドに関しては、例えば、標的遺伝子の-10と+10の間の翻訳開始部位から誘導されるオリゴデオキシリボヌクレオチド領域が好ましい。アンチセンス法は、標的ポリペプチドをコードするmRNAに相補的なオリゴヌクレオチド(DNAまたはRNA)のデザインを含む。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、mRNA転写物に結合して、翻訳を抑制する。
【0070】
例えば、開始コドンAUGまででありかつこれを含む未翻訳5’配列であるmRNAの5’末端に相補的なオリゴヌクレオチドは、翻訳の阻害に最も効率的に働くべきである。しかしながら、mRNAの3’未翻訳配列に相補的な配列も、mRNAの翻訳の阻害に有効であることが最近示されている(Wagner, Nature 372: 333, 1994)。したがって、アンチセンス法においては、遺伝子の未翻訳の非コード5’または3’領域に相補的なオリゴヌクレオチドを、そのmRNAの翻訳を阻害するのに用いることができる。mRNAの未翻訳の5’領域に相補的なオリゴヌクレオチドは、開始コドンAUGの相補体を含んでいなければならない。mRNAのコード領域に相補的なオリゴヌクレオチドは、余り有効な翻訳阻害剤ではないが、本発明によって用いることもできる。それらをmRNAの5’もしくは3’またはコード領域とハイブリダイズするようにデザインするときは、アンチセンス核酸は、少なくとも6ヌクレオチドの長さであり、そして好ましくは約100未満の長さであり、更に好ましくは約50、25、17または10ヌクレオチド未満の長さでなければならない。
【0071】
イン・ビトロの研究では、アンチセンスオリゴヌクレオチドが遺伝子発現を阻害する能力を定量化する目的で行われることが好ましい。これらの研究では、アンチセンス遺伝子阻害とオリゴヌクレオチドの非特異的生物学的効果とを識別するコントロールを用いることが好ましい。これらの研究が、標的RNAまたはタンパク質レベルを内部コントロールのRNAまたはタンパク質レベルと比較することも好ましい。アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて得られた結果は、コントロールオリゴヌクレオチドを用いて得られた結果と比較することができる。コントロールオリゴヌクレオチドは、評価を行うオリゴヌクレオチドとほぼ同じ長さであり、そのコントロールオリゴヌクレオチド配列は、標的配列への特異的ハイブリダイゼーションを抑制するのに必要な僅かだけアンチセンス配列と異なっていることが好ましい。
【0072】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、一本鎖もしくは二本鎖DNA、RNAまたはキメラ混合物もしくは誘導体、またはそれらの改質物であることができる。オリゴヌクレオチドは、塩基基、糖基またはホスフェート主鎖で改質し、例えば、分子の安定性、そのハイブリダイゼーション能などを改善することができる。オリゴヌクレオチドは、(例えば、それらを宿主細胞受容体に導くための)ペプチド、または細胞膜(例えば、Letsinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 6553-6556, 1989; Lemaitre et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. 84: 648-652, 1987; PCT公開公報WO88/09810号参照)もしくは血液-脳関門(例えば、PCT公開公報WO89/10134号参照)を介する輸送を促進する薬剤、または挿入剤(例えば、Zon, Pharm. Res. 5: 539-549, 1988参照)のような当該オリゴヌクレオチドに結合する他の基を含むことができる。このために、オリゴヌクレオチドを別の分子、例えば、ペプチド、担体剤、ハイブリダイゼーションによって誘発される開裂剤などとコンジュゲートさせることができる。
【0073】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1個の改質塩基基を含んでなることができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アラビノース、2-フルオロアラビノース、キシルロース、およびヘキソースなどこれらに限定されない群から選択される少なくとも1個の改質糖基を含んでなることもできる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、中性ペプチドに類似の主鎖を含むこともできる。このような分子は、ペプチド核酸オリゴマー(PNA)と呼ばれ、例えば、Perry-O’Keefe et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93: 14670, 1996、およびEglom et al., Nature 365: 566, 1993に記載されている。
【0074】
更に別の態様では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1個の改質ホスフェート主鎖を含んでなる。
【0075】
更に別の態様では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、α-アノマーオリゴヌクレオチドである。
【0076】
mRNAの標的配列のコード領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いることができるが、未翻訳の転写領域に相補的なものを用いることもできる。
【0077】
幾つかの場合には、内因性mRNA翻訳を抑制するのに十分なアンチセンスオリゴヌクレオチドの細胞内濃度を得ることが困難なことがある。したがって、好ましい方法では、組換えDNA構築物であって、アンチセンスオリゴヌクレオチドが強力なpol IIIまたはpol IIプロモーターによって制御されるものが用いられる。
【0078】
あるいは、遺伝子の調節領域(すなわち、プロモーターおよび/またはエンハンサー)に相補的なデオキシリボヌクレオチド配列を直接作用させることにより、身体の標的細胞で遺伝子の転写を抑制する三重らせん構造を形成させ、標的遺伝子の発現を減少させることができる(全般的には、Helene, Anticancer Drug Des. 6(6): 569-84, 1991参照)。
【0079】
ある態様では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アンチセンスモルホリンである。
【0080】
DNA酵素
本発明の別の態様は、本発明のアプラタキシンをコードする遺伝子の発現を阻害するためのDNA酵素の使用に関する。DNA酵素は、アンチセンス手法とリボザイム手法双方の機序的特徴の幾つかを包含する。DNA酵素は、アンチセンスオリゴヌクレオチドと同様、それらが特定の核酸の標的配列を認識するようにデザインされているが、リボザイムと同様に、それらは触媒的であり、標的核酸を特異的に切断する。
【0081】
リボザイム
標的mRNA転写物を触媒的に切断するようにデザインされたリボザイム分子は、活性を阻害しようとするアプラタキシンをコードするmRNAの翻訳を抑制するのに用いることもできる。リボザイムは、特異的RNA切断を触媒することができる酵素的なRNA分子である(総説に関しては、Rossi, Current Biology 4: 469-471, 1994参照)。リボザイムの作用機序は、リボザイム分子の相補的な標的RNAへの特異配列ハイブリダイゼーション、引き続きエンドヌクレアーゼ分解を含む。リボザイム分子の組成は、好ましくは標的mRNAに相補的な1個以上の配列とmRNA切断に関与する周知の配列または機能的に同等な配列とを含む (例えば、米国特許第5093246号明細書参照)。
【0082】
本発明の組成物に用いられるリボザイムとしては、ハンマーヘッド型リボザイム、RNAエンドリボヌクレアーゼ(以下、「Cech型リボザイム」)が挙げられる(Zaug et al.,
Science 224:574-578, 1984)。
【0083】
リボザイムは、改質オリゴヌクレオチド(例えば、安定性、ターゲティングなどを改善させるため)から作製することができ、それらは、イン・ビボで標的遺伝子を発現する細胞に分配されなければならない。好ましい分配の方法は、強力な構成的pol IIIまたはpol IIプロモーターの制御下でリボザイムを「コードする」DNA構築物を用いて、トランスフェクションされた細胞が標的内因性メッセンジャーを破壊して翻訳を阻害するのに十分な量のリボザイムを産生できるようにすることを含む。リボザイムは他のアンチセンス分子とは異なり触媒性があるので、それらを有効とするにはより少ない細胞内濃度でよい。
【0084】
阻害ペプチド
本明細書で用いられる「阻害ペプチド」という用語は、アプラタキシンに結合しかつ上記したようにその活性を阻害、すなわち、アプラタキシンが遺伝子転写を活性化するのを抑制することができるペプチドを指す。
【0085】
阻害抗体
「阻害抗体」とは、本発明に関しては、アプラタキシンに特異的に結合しかつアプラタキシンの1以上の機能を阻害することができる任意の抗体、好ましくは転写に関するものと理解される。「阻害抗体」とは、アプラタキシンに特異的に結合しかつアプラタキシンオリゴマー化または他のタンパク質とのアプラタキシン結合部位を遮断することができる任意の抗体でもある。これらの抗体は、当業者に知られている任意の方法を用いて作製することができ、それらの幾つかは上記してある。アプラタキシン結合能を有する抗体を同定したら、このタンパク質の活性を阻害することができるものを、阻害剤同定アッセイを用いて選択する(例えば、Metz, S. et al. J.Biol.Chem. 283:5985-5995, 2008参照)。
【0086】
他のアプラタキシン活性阻害化合物
アプラタキシンの発現を阻害する能力を有する他の化合物としては、アプタマーおよびシュピーゲルマーが挙げられ、これらはタンパク質に特異的に結合して、その生物活性を改質する一本鎖または二本鎖のDまたはL核酸である。アプタマーおよびシュピーゲルマーは、長さが15から80ヌクレオチドであり、好ましくは20から50ヌクレオチドである。
【0087】
本発明の組成物は、癌、特に結腸・直腸癌の治療用医薬品に用いることができる。したがって、別の態様では、本発明は、医薬品に用いるための本発明の組成物に関する。
【0088】
別の態様では、本発明は、癌治療薬の製造を目的とするトポイソメラーゼI阻害剤およびアプラタキシン阻害剤を含んでなる組成物の使用に関する。あるいは、本発明は、癌治療で使用するためのトポイソメラーゼI阻害剤およびアプラタキシン阻害剤を含んでなる組成物に関する。あるいは、本発明は、被験者における癌の治療方法であって、上記被験者にトポイソメラーゼI阻害剤およびアプラタキシン阻害剤を含んでなる組成物を投与することを特徴とする方法に関する。
【0089】
本発明の組成物の処方の種類および投与経路は、上記に詳細に記載されており、使用要素のそれぞれについて別途に用いるものと本質的に同じである。
【0090】
本発明の組成物は、本発明の第一の方法に関して上記したものなど、これらに限定されない様々な種類の癌の治療に好適である。好ましい態様では、癌は結腸・直腸癌である。
【0091】
本発明を、下記の実施例に基づいて説明するが、これらの実施例は説明のために提供され、本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0092】
材料および方法
カンプトテシンに対する感受性の特定
ニワトリの親B細胞株DT40、ATPXを相同組換えによって切除した亜株、およびAPTXをノックアウト細胞に再導入した誘導株を用いた(Ahel I, et al., Nature 2006; 443: 713-6)。カンプトテシンによって誘発されるアポトーシスを、先述した方法で評価した(Arango D, et al., Cancer Res 2001; 61: 4910-5、Arango D, et al., Br J Cancer 2003; 89: 1757-65)。簡単に説明すれば、2.5x105個の細胞を、6ウェルFalconプレート(Becton Dickinson)に3組だけ播種し、24時間付着させた後、培地を吸い上げ、0、15または25nMのカンプトテシン(Calbiochem;サン・ディエゴ、カリフォルニア)を含む新鮮な培地で交換した。72時間の処理後、付着した細胞と浮遊した細胞を両方とも集め、それらをPBS 2mlで2回洗浄し、50μg/mlのヨウ化プロピジウム、0.1%クエン酸ナトリウムおよび0.1% Triton X-100を含むPBSに再懸濁した。細胞を4℃で一晩染色し、DNA含量を細胞分離装置(FACSCalibur; Becton Dickinson)を用いて分析した。細胞破片を廃棄し、アポトーシス細胞に典型的なサブジプロイドDNA含量を有する細胞の割合を、WinList 2.0(Verity Software House, Inc.)を用いて定量した。全ての実験は3回ずつ行い、3回の独立した実験の平均を示す。
【0093】
患者
Hospital Universitario Vall d’Hebronでイリノテカンに基づく化学療法を受けている総数135名の転移性結腸・直腸癌患者を、研究対象とした。表1に、患者の臨床病理学的情報をまとめている。化学療法による治療に対する奏効をコンピューター断層撮影(CAT)によって評価し、転移病巣が完全に消失したとき、奏効は完全であると考えた。安定疾患の患者では、病巣直径の和は30%低下と20%増加の間であった。CATによって観察された病巣サイズの30%を上回る減少または20%を上回る増加は、それぞれ部分的奏効または進行性疾患と考えられた。調査は、クリニカル・リサーチ・エシクス・コミッティー(Clinical Research Ethics Committee)によって承認された研究プロトコルに準じて行った。
【0094】
表1: この調査で用いたセットにおける135名の患者の臨床的特徴
【表1】

*p値は、Fisher直接確率検定(1)、Mann-Whitney検定(2)、χ2検定(3)または対数順位検定(4)を用いて算出し、高および低アプラタキシンを比較した。FOLFIRI:フルオロウラシル(5FU)とフォリン酸を含むイリノテカン。
【0095】
組織マイクロアレイおよび免疫組織化学分析
ヘマトキシリンとエオシンで染色し、ホルマリンで固定して、パラフィン埋設した腫瘍試料切片の組織学的試験の後、大きな割合の腫瘍細胞を含む部分を135名の患者から選択した。それぞれの患者からの腫瘍試料の1.2mmのコアを、Beecher Instruments社製の組織マトリックスの調製装置(Beecher Instruments; Silver Spring,メリーランド)を用いて、新しいパラフィンブロックに2組配置した。
【0096】
組織マイクロアレイの4μmの未染色切片を、3-アミノプロピル-トリエトキシ-シラン(Sigma;セントルイス,ミズーリー,米国)でコーティングしたスライドに載せた。切片をキシレン中で脱パラフィン化し、アルコールと蒸留水を段階的に変化させることによって再水和した。抗原を、95℃で20分間予熱したpH = 6の10 mMクエン酸緩衝液で回収した。免疫組織化学分析のため、市販のNovolinkポリマー検出システム(Novocastra Laboratories;ニューキャッスル,英国)を、製造業者の指示に従って用いた。ヒトアプラタキシンのC-末端に対して作製したウサギ抗アプラタキシンポリクローナル抗体を、1:100の希釈倍率で用いた(4℃、一晩; Aviva Systems Biology Corp.;サン・ディエゴ,カリフォルニア)。染色を3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)の溶液を用いて検査し、切片をMayerヘマトキシリン中で対比染色し、水で洗浄し、一連のエタノール溶液によって脱水し、キシレン中で不純物を除去し、検鏡板に固定した。アプラタキシンレベルを、臨床データーを知ることなしに評価した。0から3までの半定量スケールを用いて、染色強度を測定した。アプラタキシン染色の非存在を0と等級付けし、低、中および高アプラタキシンレベルを、それぞれ1、2および3と等級付けした(図2A−D参照)。2組の試料の平均等級付けを、以後の分析で用いた。
【0097】
統計分析
生存曲線を、Kaplan and Zeier法を用いてプロットし、生存数の差を、対数順位検定を用いて評価した。Cox比例ハザードモデルを用いて、全生存における助変数、すなわち性別、年齢、組織学的等級および腫瘍アプラタキシンレベルの同時寄与を評価した。Fisher直接確率検定、χ2検定およびMann-Whitney検定を用いて、高および低アプラタキシンレベルを有する患者の臨床病理学的パラメーター間の差を評価した(表1参照)。0.05未満のp値は、統計学的に有意であると考えられた。
【0098】
実施例1 アプラタキシンはCPTに対する感受性を調節する
mRNAレベルでのアプラタキシン発現は、結腸・直腸癌細胞株パネルのカンプトテシン(CPT);イリノテカン類似体であって、同じ活性要素であるSN38(Mariadason JM, et al., Cancer Res 2003; 63: 8791-812)に代謝される;に対する感受性と有意に関係していることが以前に確定された(100mM CTPに72時間暴露したときのアポトーシス奏効; Spearman R=0.54 p=0.0022)。両APTX対立遺伝子が相同組換えによって不活性化させられている操作されたイン・ビトロ系を本発明で用いて、CPTに対する感受性におけるアプラタキシンの役割を直接評価した(Ahel I, et al.,Nature 2006; 443: 713-6)。図1は、親細胞DT40を15−25nMのCTPで72時間処理したところ、適度のアポトーシス誘発を生じたことを示している。しかしながら、APTXを直接不活性化させると、CPTによる処理に対して細胞を有意に感受性にした(p<0.004)。更に、APTXノックアウト細胞におけるAPTXの再導入は、親細胞DT40のCPT耐性表現型を完全に再確立し、アプラタキシンがCPTに対する感受性を直接調節することを示した(図1)。
【0099】
実施例2 低腫瘍アプラタキシンレベルはイリノテカンに対する良好な奏効を予測する
次に、CPT11(イリノテカン)に対する奏効のマーカーとして腫瘍アプラタキシンレベルの値を検討した。このため、イリノテカンに基づく治療を受けている転移性結腸・直腸癌患者の組(表1参照)を用いた。これらの患者135名の2組ずつで組織マイクロマトリックス(TMA)を含む試料を構築した。これらの腫瘍のアプラタキシン発現レベルを、免疫組織化学的手法によって評価し、発現勾配を観察したところ、完全な非存在(図2A)から高腫瘍アプラタキシンレベル(図2D)まで変化した。中または高腫瘍アプラタキシンレベルの患者に対する無増悪期間(TTP)は、非存在または低アプラタキシンレベルの患者より有意に短かった(TTPメジアン、それぞれ5.5および9.2ヶ月;ハザード比1.5; 95% CI,1.04-2.29; 図2E)。アプラタキシンの非存在/低アプラタキシンは、イリノテカンに基づく化学療法を受けた結腸・直腸癌患者における全生存率(対数順位検定, p=0.008)が有意に長いこととも関係しており(TTPメジアン、それぞれ19および36.7ヶ月;ハザード比2.1; 95% CI,1.21-3.63)、イリノテカンによる治療に対する一層良好な奏効を示した(図2F).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍患者から単離した試料について測定したAPTX発現レベルを基準値と比較し、低APTXレベルを、トポイソメラーゼI阻害剤に対する良好な奏効を示すものとすることを特徴とする、腫瘍患者のトポイソメラーゼI阻害剤に対する奏効を測る方法。
【請求項2】
前記トポイソメラーゼI阻害剤がイリノテカンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腫瘍が結腸・直腸癌である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
患者の奏効を、増殖抑制期間および生存率から選択されるパラメーターによって測る、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
結腸・直腸癌の患者のための治療法を選択する方法であって、患者から単離した試料におけるAPTX発現レベルを基準値に対して測定し、ここで、
(i) APTX発現レベルが上記基準値に対して低いときは、患者にトポイソメラーゼI阻害剤を用いる治療を選択し、および/または、
(ii) APTX発現レベルが上記基準値に対して高いときは、患者に白金系薬剤、EGFR阻害剤、VEGF阻害剤または上記の一以上の組み合わせからなる群から選択される薬剤を用いる治療を選択する、
とすることを特徴とする、方法。
【請求項6】
患者の結腸・直腸癌の治療薬の製造のためのトポイソメラーゼI阻害剤の使用であって、患者から単離された試料について、基準値に対して低APTX発現レベルが検出されたとき、当該患者が上記治療の対象に選択されることを特徴とする、使用。
【請求項7】
前記トポイソメラーゼI阻害剤がイリノテカンである、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
結腸・直腸癌の治療薬の製造のための、白金系薬剤、EGF阻害剤、VEGF阻害剤またはこれらの一またはそれ以上の組み合わせの使用であって、患者から単離された試料について、基準値に対して高APTX発現レベルが検出されたとき、当該患者が上記治療の対象に選択されることを特徴とする、使用。
【請求項9】
前記白金系薬剤がオキサリプラチンであり、EGFR阻害剤がEGFR特異的抗体であり、および/またはVEGF阻害剤がEGFR特異的抗体である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
トポイソメラーゼI阻害剤およびAPTX阻害剤を含んでなる、組成物。
【請求項11】
前記トポイソメラーゼI阻害剤がイリノテカンである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記アプラタキシン阻害剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、siRNA、shRNAおよびアプラタキシン活性阻害抗体からなる群から選択される、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
薬剤として使用される、請求項10〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
癌治療薬の製造のための、トポイソメラーゼI阻害剤およびアプラタキシン阻害剤を含んでなる組成物の使用。
【請求項15】
前記癌が結腸・直腸癌である、請求項14に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−503616(P2013−503616A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527359(P2012−527359)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070576
【国際公開番号】WO2011/027018
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(512051930)フンダシオ インスティトゥト デ レセルカ オスピタル ウニベルシタリ バル デブロン、フンダシオ プリバダ (1)
【氏名又は名称原語表記】FUNDACIO INSTITUT DE RECERCA HOSPITAL UNIVERSITARI VALL D‘HEBRON, FUNDACIO PRIVADA
【Fターム(参考)】