説明

発光素子

【課題】光出力を高めつつ、信頼性が改善された発光素子を提供する。
【解決手段】放出光を放出可能な発光層と、第1電極と、前記発光層と前記第1電極との間に設けられた第1の層と、前記第1の層と前記第1電極との間に設けられた第2の層と、前記第1の層と前記発光層との間に設けられたクラッド層と、を備えた発光素子が提供される。第1の層は、第1導電形の第1の不純物濃度を有し、前記第1電極から注入されたキャリアを前記発光層の面内方向に拡散可能とする。第2の層は、前記第1の不純物濃度よりも高い第1導電形の第2の不純物濃度を有し、第1の面が前記第1の層と接触し、前記第1の面とは反対側の第2の面が前記第1電極の形成領域と非形成領域とを有し、平均ピッチが前記放出光の波長以下とされた網状または複数の島状の凸部が前記非形成領域に設けられている。前記クラッド層は、第1導電形を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
照明装置、表示装置、信号機などに用いる発光素子に対して、高出力化が益々要求されている。
【0003】
発光層と第1電極との間に、高濃度の電流拡散層を設けると、第1電極から注入されたキャリアを発光層の面内で広げ、高い光出力を出射することが容易となる。
【0004】
また、電流拡散層の光出射側の表面に、微小凹凸を形成すると光取り出し効率が向上し光出力を高めることができる。微小凹凸の形成方法として、ドライエッチング法を用いると、放出光の波長以下のサイズの微小凹凸を確実かつ生産性良く形成することができる。
【0005】
しかしながら、ドライエッチング法を用いると加工領域に結晶欠陥などを生じ、長時間動作により光出力が低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−128227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光出力を高めつつ、信頼性が改善された発光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
放出光を放出可能な発光層と、第1電極と、前記発光層と前記第1電極との間に設けられた第1の層と、前記第1の層と前記第1電極との間に設けられた第2の層と、前記第1の層と前記発光層との間に設けられたクラッド層と、を備えた発光素子が提供される。第1の層は、第1導電形の第1の不純物濃度を有し、前記第1電極から注入されたキャリアを前記発光層の面内方向に拡散可能とする。第2の層は、前記第1の不純物濃度よりも高い第1導電形の第2の不純物濃度を有し、第1の面が前記第1の層と接触し、前記第1の面とは反対側の第2の面が前記第1電極の形成領域と非形成領域とを有し、平均ピッチが前記放出光の波長以下とされた網状または複数の島状の凸部が前記非形成領域に設けられている。前記クラッド層は、第1導電形を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(a)は第1の実施形態にかかる発光素子の模式平面図、図1(b)はA−A線に沿った模式断面図、である。
【図2】図2(a)は凸部が設けられた第1導電形層の模式断面図、図2(b)は凸部の部分拡大図、である。
【図3】図3(a)は第2の実施形態の発光素子の光出力残存率、図3(b)は第1比較例の光出力残存率、図3(c)は第2比較例の光出力残存率、図3(d)は第3比較例の光出力残存率、のグラフ図である。
【図4】図4(a)は第1比較例にかかる発光素子の模式平面図、図4(b)はB−B線に沿った模式断面図、である。
【図5】図5(a)は相対発光強度の第1の層の不純物濃度に対する依存性、図5(b)は相対発光強度の第1の層の厚さに対する依存性、のグラフ図である。
【図6】図6(a)は島状の凸部の上面のSEM写真、図6(b)は島状の凸部を斜め上方からみたSEM写真、図6(c)は網状の凸部の模式斜視図、である。
【図7】図7(a)および(b)はウェットエッチング法により形成した凸部の上面のSEM写真、図7(c)はその断面のSEM写真である。
【図8】MQW井戸数に対する相対発光強度の依存性のグラフ図である。
【図9】図9(a)はp形コンタクト層の不純物濃度に対する相対発光強度依存性、図9(b)はp形コンタクト層の不純物濃度に対する順方向電圧の依存性、である。
【図10】図10(a)は第3の実施形態にかかる発光素子の模式平面図、図10(b)はC−C線に沿った模式断面図、である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
図1(a)は、本発明の第1の実施形態にかかる発光素子の模式平面図、図1(b)はA−A線に沿った模式断面図、である。発光素子は、積層体32、積層体32の上に設けられた第1電極50、および積層体32の下に設けられた第2電極40、基板10、などを有する。
【0011】
積層体32は、発光層22、発光層22の上に設けられた第1導電形層30、および発光層22の下に設けられた第2導電形層20を有する。第1導電形層30は、発光層22の上に設けられた第1の層25と、第1の層25の上に設けられた第2の層26と、を少なくとも有している。また、第1導電形層30が、第2の層26の上にコンタクト層28を有すると、第1電極50との間で良好なオーミックコンタクトを形成できるのでより好ましい。さらに、第1導電形層30が、発光層22と接触したクラッド層24を有すると、発光層22に効果的に光を閉じ込めて発光効率を高めることができるのでより好ましい。
【0012】
第2の層26と第1の層25とは、共に第1の導電形を有しており、第1の層25の第1の不純物濃度は、第2の層26の第2の不純物濃度よりも低い。第1の面26aが第1の層25と接触し、第1の面26aとは反対側の第2の層26の第2の面は、第1電極50の形成領域26bと非形成領域26cとを有している。非形成領域26cには、凸部27が設けられている。凸部27の平均ピッチは、放出光の波長よりも小さいことが好ましい。凸部27の平均ピッチについては、のちに詳しく説明する。
【0013】
さらに、発光素子は、発光層22とは反対側の第2導電形層20の面の一部に接触して設けられ、外縁が第1電極50からはみ出した電流ブロック層42有していてもよい。この場合、第2電極40は、第2導電形層20とは反対の側の電流ブロック層42の面と、電流ブロック層42とは接触していない第2導電形層20の面の領域と、に接触するように設けられる。発光層22から下方に放出された光の一部は、透明絶縁膜からなる電流ブロック層42のはみ出し領域を透過し、第2電極40により反射され、再び電流ブロック層42を透過して上方に放出される光GLを含む。電流ブロック層42のはみ出し領域を広くすると、光出力をさらに高めることができる。例えば、第1電極50の直径DEは120μm、電流ブロック層42の直径DBは220μm、とされる。
【0014】
図2(a)は島状の凸部が設けられた第1導電形層の模式断面図、図2(b)はC部の部分拡大図、である。
第2の層26の厚さをT2、第1の層25の厚さをT1、とする。また、凸部27は、第2の層26の第2の面に設けられる。凸部27を複数の島状とする場合、高さHが第2の層26の厚さT2よりも小さくし、凸部27の周囲の底部27bが第1の面26aには到達しないようにする。また、凸部27を網状とし、凸部27の周囲に底部を設けてもよい。なお、網状の凸部27については、のちに説明をする。
【0015】
複数の島状の凸部27の場合、1つの島からみて、周囲の島との距離のうち、最短となる距離をピッチP1、P2などとする。その距離は、島の形状がランダムな場合、島を等面積の円に置き換え、その中心間距離とする。それぞれのピッチの平均値を、島状の凸部27の平均ピッチとして定義する。
【0016】
外部の屈折率が第2の層26の屈折率よりも低い場合、島状の凸部27が設けられた第2の層26の屈折率は、第2の層26の屈折率から外部の屈折率に向かって低下する屈折率勾配(Graded Index) を有する。このために、光取り出し効率を高めることができる。また、島状の凸部27が回折格子として作用し、n次回折光(n=±1、±2、・・・)の一部を取り出すことができ、光取り出し効率をさらに高めることができる。
【0017】
第2の層26の第1電極形成領域26bの上に設けられた第1電極50から注入されたキャリア流F1、F2、F3、F4などが、第2の不純物濃度N2を有する第2の層26を通過し、第1の層25に流れ込む。第2の層26の第1電極50の非形成領域26cには凸部27が設けられているので、キャリア流F5は、凸部27の周囲に設けられた底部27bと第2の層26の第1の面26aとの間を水平面方向に広がりつつ第1の層25に流れ込む。すなわち、第1の層25および第2の層26の一部は、電流拡散層として作用する。電流拡散層の不純物濃度を高めると、電流を発光層22の面内に拡散し、光出力を高めることができる。また、電流拡散層を厚くしても、電流を発光層22の面内に拡散し、光出力を高めることができる。
【0018】
他方、電流拡散層の不純物濃度が所定の範囲を越えると、バンドギャップ内に不純物エネルギー準位が形成される。このため、光吸収が増大し光出力が低下することがある。
【0019】
放出光の波長よりも小さい平均ピッチを有する凸部27は、例えばブロックコポリマーの自己組織化パターンをマスクに、RIE(Reactive Ion Etching)などのドライエッチング法を用いて形成可能である。
【0020】
まず、ブロックコポリマーは、ポリスチレン(PS)−ポリメチルメタクリルレート(PMMA)およびPMMAホモポリマーを、例えば等量混合し、PSホモポリマーおよびプロピレングリコールモノエーテルアセテート(PGMEA)を溶媒として調合することができる。ブロックコポリマーを例えばスピンコーターを用いてウェハ上に均一な厚さに塗布した後、ベーキングやアニールなどの加熱処理を行うとPSとPMMAに相分離ができる。すなわち、PSとPMMAが自己組織的に凝集して、粒子形状のPS層が形成される。この場合、PSとPMMAの組成比を変えると、PS層の粒子径や粒子の占有率などを変えることができる。続いてRIEを行うと、PMMAが選択エッチングにより除去され、PS層が、例えば10nm〜300nmの平均ピッチの範囲の島状の凸部として残る。さらに、PS層のパターンをマスクに例えばSiO2膜のマスクを作成し、そのSiO2膜をマスクにしてドライエッチング法を用いると所望の凸部27を形成することができる。なお、レジストパターンをマスクに、ドライエッチング法を用いてもよい。
【0021】
ところが、ドライエッチング工程では、加工条件によっては結晶欠陥などのダメージを生じ、通電により光出力が時間とともに低下する場合がある。発明者らは、ドライエッチング法により凸部を形成した場合、加工領域の不純物濃度を高めるとこのダメージを低減できることを見出した。
【0022】
この知見にもとずいて、本実施形態では、第2の層26の第2の不純物濃度N2を所定の濃度以上とし、ドライエッチング法を用いて第2の層26に凸部27を形成する。また、第1の層25の第1の不純物濃度N1を第2の層26の第2の不純物濃度N2よりも低くし、かつ所定の濃度以上とすることにより電流拡散効果を保ちつつ光吸収の増大を抑制することができる。これにより、電流を発光層22の面内に広げつつ、凸部27の加工ダメージの影響を低減することができる。
【0023】
なお、発光層22を有する積層体32は、In(GaAl1−y1−xP(但し、0≦x≦1、0≦y≦1)、またはAlGa1−xAs(0≦x≦1)をそれぞれ含むことができる。また、例えば、発光層22、クラッド層24、はそれぞれIn(GaAl1−y1−xP(但し、0≦x≦1、0≦y≦1)からなり、第1の層25および第2の層26のうち少なくとも一方はAlGa1−xAs(0≦x≦1)からなり、他方(両方がAlGa1−xAs(0≦x≦1)である場合以外)はIn(GaAl1−y1−xP(但し、0≦x≦1、0≦y≦1)からなるものとすることができる。さらに、積層体32は、InGaAl1−x−yN(但し、0≦x≦1、0≦y≦1 x+y≦1)などを含むことができる。
【0024】
次に、積層体32がIn(GaAl1−y1−xP(但し、0≦x≦1、0≦y≦1)なる組成式で表すInGaAlP系材料である場合を、第2の実施形態とする。図1(a)および(b)において、積層体32は、例えばGaAs基板(図示せず)の上に、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法やMBE(Molecular Beam Epitaxy)法を用い、この順序で結晶成長された第1導電形層30、発光層22、および第2導電形層20を有する。
【0025】
第1導電形層30は、GaAsコンタクト層28(不純物濃度1.0×1018cm−3、厚さ0.1μm)、In0.5(Ga0.7Al0.30.5Pからなる第1の層25、In0.5(Ga0.6Al0.40.5Pからなる第2の層26、およびIn0.5Al0.5Pからなるクラッド層24(不純物濃度4×1017cm−3、厚さ0.6μm)を有する。
【0026】
発光層22は、例えば、In0.5(Ga0.9Al0.10.5Pからなる井戸層(厚さ8nm)およびIn0.5(Ga0.4Al0.60.5P(厚さ5nm)からなる障壁層を含むMQW(Multi Quantum Well)構造を有する。なお、例えば、井戸数は30〜60の範囲とする。その場合、障壁数は井戸数よりも1つ多くする。
【0027】
第2導電形層20は、例えばIn0.5Al0.5Pからなるクラッド層18(不純物濃度3×1017cm−3、厚さ0.6μm)、In0.5(Ga0.7Al0.30.5Pからなる電流拡散層16(不純物濃度4×1017cm−3、厚さ0.2μm)、およびAl0.5Ga0.5Asからなるコンタクト層14(不純物濃度9×1018cm−3、厚さ0.2μm)を有する。
【0028】
コンタクト層28の上に第1電極50が設けられ、第1電極50の下を除いた非形成領域26cにおいて、コンタクト層28が除去される。すなわち、第2の層26の第2の面は、第1電極50の非形成領域26cが露出し、コンタクト層28および第1電極50が設けられた非形成領域26bは露出しない。非形成領域26cには凸部27が形成される。
【0029】
第2電極40は、導電性Siなどからなる基板10の上に設けられた基板第1電極12と、ウェーハ状態で接着されたのち、GaAs基板が除去される。基板10の裏面には、基板第2電極13が設けられる。
【0030】
図3(a)は第2の実施形態の発光素子の光出力残存率、図3(b)は第1比較例の光出力残存率、図3(c)は第2比較例の光出力残存率、図3(d)は第3比較例の光出力残存率、である。
縦軸は光出力残存率(%)、横軸は通電時間(h)である。なお、光出力残存率(%)とは、通電前の光出力を100%として、通電にともない変化した光出力の割合をあらわす。動作電流はいずれも50mAとした。
【0031】
図3(a)は、第2の実施形態であるInGaAlP系発光素子の光出力残存率である。第2の層26は、n形In0.5(Ga0.6Al0.40.5Pからなり、第2の不純物濃度N2は30×1017cm−3、厚さT2は1μm、とした。また、第1の層25は、n形In0.5(Ga0.7Al0.30.5Pからなり、第1の不純物濃度N1は8×1017cm−3、厚さT1は3μm、とした。さらに、凸部27の高さHは、0.5μmとした。1000時間経過しても、光出力は殆ど低下しなかった。
【0032】
図4(a)は第1比較例にかかる発光素子の模式平面図、図4(b)はB−B線に沿った模式断面図、である。
なお、第1比較例では、第1導電形をn形、第2導電形をp形、とする。第1電極150と、クラッド層124との間に、電流拡散層125が設けられている。電流拡散層125は、In0.5(Ga0.7Al0.30.5Pからなり、厚さを3μm、不純物濃度を8×1017cm−3とする。また、電流拡散層125の上面125aには島状の凸部127が形成されている。
【0033】
なお、発光層122、n形層130のうちのクラッド層124およびコンタクト層128、p形層120、第1電極150、第2電極140、電流ブロック層142は、第2の実施形態のInGaAlP系発光素子と同一であるものとする。
【0034】
図3(b)のように、168時間経過後の光出力残存率は略50%、1000時間経過後の光出力残存率は略40%であった。凸部127を形成するドライエッチング工程において、電流拡散層125に結晶欠陥が発生し、通電により結晶欠陥が増加したため時間とともに光出力の低下が起きている。
【0035】
図3(c)は、第2比較例の光出力残存率である。第2の層は、n形In0.5(Ga0.6Al0.40.5Pからなり、第2の不純物濃度N2は、30×1017cm−3、厚さT2は0.4μm、とした。また、第1の層は、n形In0.5(Ga0.7Al0.30.5Pからなり、第1の不純物濃度N1は8×1017cm−3、厚さT1は3μm、とした。凸部27の高さHは0.5μmとした。168時間経過後の光出力残存率は60〜63%、1000時間経過後の光出力残存率は58〜61%であった。この場合、凸部27の周囲の底部は、第1の層にまで到達している。すなわち、ドライエッチング工程において不純物濃度が低い第1の層に結晶欠陥が発生する。この領域に通電されることにより光出力の低下を生じる。
【0036】
図5(a)は相対発光強度の第1の層の不純物濃度に対する依存性、図5(b)は相対発光強度の第1の層の厚さに対する依存性、を第2の実施形態において調べたグラフ図である。
例えば、図5(a)において、第1の層25の厚さT1は3μmとする。縦軸は相対発光強度、横軸は第1の層25の不純物濃度N1(×1017cm−3)、である。不純物濃度N1が5×1017cm−3以上とすると、注入された電流が第1の層25で十分に広がるとともに第2電極40で反射され第1電極50で遮光されずに取り出せる光が増大する。このため、第1の層25の不純物濃度N1が4×1017cm−3の場合の発光強度の略1.5倍とできる。なお、InGaAlP系材料に、Siを添加しn形とする場合の活性化率は略1であるので、不純物濃度はキャリア濃度を表しているものとする。
【0037】
また、図5(b)において、不純物濃度N1は5×1017cm−3とする。縦軸は相対発光強度、横軸は第1の層25の厚さT1(μm)、である。第1の層25の厚さT1を2μm以上とすると、注入された電流が第1の層25で十分に広がるとともに第2電極40で反射され、第1電極50で遮光されずに取り出せる光が増大する。このため、電流拡散層の厚さが1μmの場合の発光強度の略1.5倍と高くできる。
【0038】
よって、InGaAlP系発光素子である第2の実施形態では、第1の層25の不純物濃度N1は、式(1)の範囲とすることがより好ましい。
【0039】

5×1017≦N1(1/cm) 式(1)
【0040】
なお、不純物濃度N1が30×1017cm−3よりも高いと、ドナー濃度が高すぎてバンドギャップ内に不純物エネルギー準位が形成され光を吸収する。このため、光出力が低下する。すなわち、不純物濃度N1は、30×1017cm−3以下であることがより好ましい。
【0041】
また、第1の層25の厚さT1を5μmよりも大きくすると、結晶欠陥の増加などにより成長膜の品質が低下し光出力が低下する。すなわち、第1の層25の厚さT1は、式(2)の範囲とすることがより好ましい。
【0042】

2≦T1(μm)≦5 式(2)
【0043】
なお、凸部27の高さHを第2の層26の厚さT2に近づけた場合、第2の層26の下部領域の電流拡散効果が低下する。この場合、第1の層25で必要とする電流拡散を行うことがより好ましい。
【0044】
図3(d)は、第3比較例の光出力残存率である。第2の層は、n形In0.5(Ga0.6Al0.40.5Pからなり、第2の不純物濃度N2は、1×1018cm−3、厚さT2は1μm、である、また、第1の層は、n形In0.5(Ga0.7Al0.30.5Pからなり、第1の不純物濃度N1は8×1017cm−3、厚さT1は3μm、である。凸部の高さHは0.5μmである。168時間経過後の光出力残存率は56〜64%、1000時間経過後の光出力残存率は55〜62%であった。この場合、凸部の底部は第2の層に到達していないが、第2の層の不純物濃度が1×1018cm−3では低過ぎ、結晶欠陥が増加することを示している。すなわち、ドライエッチング工程におけるダメージを低減可能な不純物濃度N2は、式(3)の範囲とするとより好ましいことが判明した。なお、式(3)は、第1の層及び第2の層が、それぞれAlGa1−xAs(0≦x≦1)からなる場合にも適用できる。
【0045】

1.5×1018≦N2(1/cm) 式(3)
【0046】
なお、第2の層26の第2の不純物濃度N2が高くなりすぎるとバンドギャップ中に形成された不純物エネルギー準位により光吸収が増加することがある。すなわち、第2の不純物濃度N2は、50×1017cm−3以下とすると、より好ましい。
【0047】
図6(a)はInGaAlPからなる島状の凸部の上面のSEM写真、図6(b)は島状の凸部を斜め上方からみたSEM写真、図6(c)は網状の凸部の模式斜視図、である。
ブロックコポリマーをマスクにドライエッチング法を用いると、図6(a)および(b)のSEM(Scanning Electron Microscope)写真のようなランダム形状の微細な凸部27を形成することができる。図6(b)は、図2(b)の模式断面図に対応するSEM写真である。複数の島状を含む凸部27は、上面27aに平坦領域を有する柱状とし、凸部27の周囲に設けられた底部27bを傾斜させることができる。
【0048】
また、図6(c)に表すように、網状の凸部27は、上面27cに平坦領域を有しその周囲に複数の底部27dが設けられる。なお、このような網状の凸部27は、ブロックコポリマーにおけるPMMAに対するPSの相対組成比を増加することにより形成することができる。網状の凸部27の場合、凸部27の周囲に設けられた1つの底部27dの中心からみて、周囲の底部27dの中心との距離のうち、最短となる距離をピッチP4、P5などとする。このようにして、それぞれのピッチPの平均値を、網状の凸部27の平均ピッチとして定義する。
【0049】
図6(a)および(b)の凸部27の平均ピッチは赤色光の610〜700nmの波長範囲よりも小さい。また、柱の径は100〜200nm、凹部27の深さHが200〜600nm、などの範囲に分布している。なお、フォトレジストのマスクを用いて、規則的な形状の凸部27を形成することも可能である。
【0050】
図6のようにすると、第2の層26の表面から深さ方向に屈折率勾配を設けると共に、回折光を上方に取り出すことができ、高い光取り出し効率を得ることができる。
【0051】
図7(a)および(b)はウェットエッチング法により形成した島状の凸部上部のSEM写真、図7(c)はその断面のSEM写真である。
ウェットエッチング法などを用いて、フロスト処理を行うと、波長よりもサイズが小さい島状や網状の凸部形状を形成することが難しく、また、凸部を高くすることも難しい。よって、屈折率勾配領域を制御性良く形成することや回折格子の形成が困難である。また凸部の上面を平坦に制御することが困難である。
【0052】
図8は、MQW井戸数に対する相対発光強度の依存性を示すグラフ図である。
縦軸は相対発光強度、横軸はMQW井戸数、である。実線は、第2の実施形態であるInGaAlP系発光素子を示す。なお、第2の層26は、n形In0.5(Ga0.6Al0.40.5Pからなり、第2の不純物濃度N2は30×1017cm−3、厚さT2は1μm、とする。また、第1の層25は、n形In0.5(Ga0.7Al0.30.5Pからなり、第1の不純物濃度N1は8×1017cm−3、厚さT1は3μm、とする。また、凸部27の高さHは、0.5μmとする。実線で表す第2の実施形態の発光強度は、井戸数が30〜60の範囲でSQW(Single Quantum Well)の発光強度の略1.4倍とすることができる。
【0053】
第2の実施形態では、第1の層25により、発光層22の面内に電流をより広げ、井戸数を30〜60と増やしてもそれぞれの井戸のキャリアを、発光層22の面内および縦方向においてより均一に分布させることができるので、発光強度を高めることが可能となる。
【0054】
図9(a)はp形コンタクト層の不純物濃度に対する相対発光強度依存性、図9(b)はp形コンタクト層のキャリア濃度に対する順方向電圧の依存性、である。
図9(a)のように、p形Al0.5Ga0.5Asからなるコンタクト層14の不純物濃度が30×1018cm−3よりも高くなると、発光強度が急激に低下する。これは、不純物濃度が高くなると、アクセプタがバンドギャップ内に非発光準位を形成し、放出光を吸収することなどによる。
【0055】
他方、図9(b)のように、p形不純物濃度が7×1018cm−3よりも低下すると、第2電極40との間のコンタクト抵抗が増大し、順方向電圧が増大する。これらの結果から、コンタクト層14の不純物濃度を7〜30×1018cm−3とすると、順方向電圧の増大を抑制しつつ、発光強度を高めることが容易となる。
【0056】
次に、積層体32がInGaAl1−x−yN(但し、0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)を含む窒化物系材料の場合を、第3の実施形態の発光素子とする。
図10(a)は第3の実施形態の模式平面図、図10(b)はC−C線に沿った模式断面図、である。
【0057】
発光素子は、基板80、積層体89、第1電極90、および第2電極92を有している。
積層体89は、InGaAl1−x−yN(但し、0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)を含み、放出光は紫外〜緑色の波長範囲であるものとする。積層体89は、発光層84、発光層84の上に設けられ第1導電形を有し、Al0.2Ga0.8Nなどからなるクラッド層85、クラッド層85の上に設けられ第1導電形の第1の不純物濃度を有する第1の層86、第1の層86の上に設けられ、第1の不純物濃度よりも高い第1導電形の第2の不純物濃度を有する第2の層88、を有する。
【0058】
また、積層体89は、発光層84の下に設けられたAl0.2Ga0.8Nなどからなるクラッド層83およびコンタクト層82を含む第2導電形層81を有する。なお、基板80を絶縁性を有するサファイヤとする場合、第2電極92は、基板80と接触している面とは反対側のコンタクト層82の面に設けることができる。
【0059】
第1の層86の一方の面は、第1電極90の形成領域及び非形成領域を有する。非形成領域には、網状または複数の島状の凸部97が設けられている。凸部97の平均ピッチは、第2の層88内における放出光の波長よりも小さい。
【0060】
本発明の実施形態によれば、光出力を高めつつ、長時間動作における信頼性が改善された発光素子が提供される。これらの発光素子は、可視光波長範囲の光を出射可能であり、照明装置、表示装置、信号機などに広く用いることができる。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
20、81 第2導電形層、22、84 発光層、24、85 クラッド層、25、86 第1の層、26、88 第2の層、27、97 凸部、40、92 第2電極、42電流ブロック層、50、90 第1電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放出光を放出可能な発光層と、
第1電極と、
前記発光層と前記第1電極との間に設けられ、第1導電形の第1の不純物濃度を有し、前記第1電極から注入されたキャリアを前記発光層の面内方向に拡散可能な第1の層と、
前記第1の層と前記第1電極との間に設けられ、前記第1の不純物濃度よりも高い第1導電形の第2の不純物濃度を有し、第1の面が前記第1の層と接触し、前記第1の面とは反対側の第2の面が前記第1電極の形成領域と非形成領域とを有する第2の層であって、平均ピッチが前記放出光の波長以下とされた網状または複数の島状の凸部が前記非形成領域に設けられた第2の層と、
前記第1の層と前記発光層との間に設けられ、第1導電形の不純物濃度を有するクラッド層と、
を備えたことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記凸部の上面は、平坦な領域を有することを特徴とする請求項1記載の発光素子。
【請求項3】
前記発光層、前記第1及び第2の層、及び前記クラッド層は、それぞれIn(GaAl1−y1−xP(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1)からなり、
前記第2の不純物濃度は、1.5×1018cm−3以上とされたことを特徴とする請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記第1の層の厚さは、2μm以上、かつ5μm以下の範囲とされ、
前記第1の不純物濃度は、5×1017cm−3以上とされたことを特徴とする請求項3記載の発光素子。
【請求項5】
前記発光層及び前記クラッド層は、それぞれIn(GaAl1−y1−xP(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1)からなり、
前記第1の層及び前記第2の層のうちいずれか一方はAlGa1−xAs(0≦x≦1)からなり、いずれか他方はIn(GaAl1−y1−xP(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1)からなるか、または前記第1及び第2の層が共にAlGa1−xAs(0≦x≦1)からなることを特徴とする請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項6】
前記第1の層とは反対側の前記発光層の面に設けられた第2導電形層と、
前記発光層とは反対側の前記第2導電形層の面の一部に接触して設けられ、外縁が前記第1電極からはみ出した電流ブロック層と、
前記第2導電形層とは反対の側の前記電流ブロック層の面と、前記電流ブロック層とは接触していない前記第2導電形層の前記面の領域と、に接触し、前記放出光の一部を反射可能とする第2電極と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の発光素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−33537(P2012−33537A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169320(P2010−169320)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】