説明

発熱素子の冷却装置

【課題】 発熱素子を効率よく十分に冷却すると共に装置が傾いた状態でも発熱素子を十分に冷却する。
【解決手段】 気泡は通過させるが液体は通過させない半透膜30でケース22の収納部23を上下に仕切り、スイッチング素子42の許容動作雰囲気温度より低い沸点を有し高い絶縁性を示す冷却液体28によりスイッチング素子42および半透膜30を液封する。冷却液体28はスイッチング素子42が生じる熱を奪って気化することによりスイッチング素子42を冷却する。気化した冷却液体28は半透膜30を透過して上部に開放され、液体冷却装置50に冷却されて液化する。収納部23の下部の冷却液体28は、減少しても連絡管27を介して上部から補給される。半透膜30の存在により装置が傾いてもスイッチング素子42は冷却液体28から露出しない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、発熱素子の冷却装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種の発熱素子の冷却装置としては、液冷ヒートシンクの開口部に発熱素子であるIGBT素子(スイッチング素子)により構成されるインバータを取り付けてIGBT素子を冷却するものが提案されている(例えば、特開平9−121557号公報など)。この装置では、IGBT素子により生じる熱を熱伝導により液冷ヒートシンクに伝え、この熱を液冷ヒートシンクの開口部に形成される冷却媒体の流路に水等の冷却媒体を流して除去することによりIGBT素子を冷却している。
【0003】他の発熱素子の冷却装置としては、半導体素子をフレオンで液封すると共に半導体素子間に隔壁を設けてなるものが提案されている(例えば、特開昭57−141945号公報など)。この装置では、フレオンが沸騰する際の気化熱を半導体素子から奪うことにより半導体素子を冷却している。また、隔壁を設けることにより半導体素子間に気泡の膜が生じて冷却効果を低下させることを防止している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、液冷ヒートシンクを用いてIGBT素子を冷却する装置では、効果的で十分な冷却をすることができないといった問題があった。近年、インバータ等を含むすべての機器は小型化が要求されており、こうした小型化に伴いインバータのスイッチング素子も密集して配置される。したがって、このスイッチング素子を十分に冷却する必要があるが、熱伝導による冷却では十分に熱を除去することができない。
【0005】半導体素子をフレオンで液封する装置では、装置が傾いたときに半導体素子の一部がフレオンによる液封から解除され、半導体素子が十分に冷却されない場合を生じるという問題があった。また、半導体素子を長時間使用すると、フレオンが沸騰温度となって気化が激しくなり、半導体素子の周囲に沸騰膜が生じて半導体素子が十分に冷却されないという問題もあった。
【0006】本発明の発熱素子の冷却装置は、発熱素子を効率よく十分に冷却することを目的の一つとする。また、本発明の発熱素子の冷却装置は、装置が傾いた状態でも発熱素子を十分に冷却することを目的とする。さらに、本発明の発熱素子の冷却装置は、装置全体としての小型化を目的の一つとする。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】本発明の発熱素子の冷却装置は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0008】本発明の第1の発熱素子の冷却装置は、発熱素子を冷却する冷却装置であって、気泡は通過するが液体は非通過の材料により形成され、前記発熱素子と所定の隙間をもって該発熱素子の上部を密閉する密閉手段と、前記発熱素子の許容動作雰囲気温度より低い沸点を有し、前記隙間を充填すると共に前記密閉手段を浸漬させる冷却液体と、前記密閉手段の上部から前記隙間へ前記冷却液体を供給可能な液体供給手段とを備えることを要旨とする。
【0009】この本発明の第1の発熱素子の冷却装置では、気泡は通過するが液体は非通過の材料により形成された密閉手段が、発熱素子と所定の隙間をもって発熱素子の上部を密閉し、発熱素子の許容動作雰囲気温度より低い沸点を有する冷却液体が、この隙間を充填すると共に密閉手段を浸漬させる。したがって、冷却液体により発熱素子を冷却することができると共に、装置が傾いても発熱素子が冷却液体から外部へ露出することがないから、こういった場合でも発熱素子を冷却することができる。また、液体供給手段が、密閉手段の上部から隙間へ冷却液体を供給するから、密閉手段により形成される隙間を常に冷却液体で満たすことができる。
【0010】こうした本発明の第1の発熱素子の冷却装置において、前記液体供給手段は、前記密閉手段の上部から前記隙間への前記冷却液体の流動は可能とするが、前記隙間から前記密閉手段への前記冷却液体の流動は規制する逆止弁を備えるものとすることもできる。こうすれば、簡易な構成で液体供給手段を構成することができる。
【0011】また、本発明の第1の発熱素子の冷却装置において、前記発熱素子の間に配置され、上端が前記密閉手段の上方で開放されている少なくとも一つの隔壁部材を備えるものとすることもできる。こうすれば、装置が傾いたときに冷却液体が一方に偏るのを防止することができ、発熱素子をより効率よく冷却することができる。この態様の本発明の第1の発熱素子の冷却装置において、前記隔壁部材は、前記隙間に相当する部位に貫通孔が形成されてなるものとすることもできる。こうすれば、隔壁部材により区切られた隙間間の冷却液体の流動を可能にすることができる。
【0012】さらに、本発明の第1の発熱素子の冷却装置において、前記冷却液体を冷却する冷却手段を備えるものとすることもできる。こうすれば、気化した冷却液体のガスを液化して再び発熱素子の冷却に使用できるようにするから、発熱素子の動作雰囲気温度をその許容温度範囲内とすることができる。
【0013】また、本発明の第1の発熱素子の冷却装置において、前記発熱素子はスイッチング素子であり、前記冷却液体は絶縁体であるものとすることもできる。こうすれば、液封による電気的な短絡を防止することができる。
【0014】本発明の第2の発熱素子の冷却装置は、複数の発熱素子を冷却する冷却装置であって、前記複数の発熱素子のうち少なくとも1つの発熱素子を属する複数の区分に区分けし、所定の傾きのときに該区分けした区分に属する発熱素子のすべての部位より上側に突出する高さを有する隔壁部材と、前記発熱素子の許容動作雰囲気温度より低い沸点を有し、前記所定の傾きのときに前記隔壁部材により区分けされた区分に属する発熱素子のすべてを浸漬させる量の冷却液体とを備えることを要旨とする。
【0015】この本発明の第2の発熱素子の冷却装置では、発熱素子の許容動作雰囲気温度より低い沸点を有する冷却液体が発熱素子から気化熱を奪って気化することにより発熱素子を冷却することができる。しかも、所定の傾きのときでも各区分に属する発熱素子のすべてを冷却液体に浸漬させることができるから、所定の傾きでも有効に発熱素子を冷却することができる。ここで、「所定の傾き」は、例えば、この発熱素子の冷却装置を車両に搭載する場合においては車両に許容される最大傾斜になる。
【0016】こうした本発明の第2の発熱素子の冷却装置において、前記複数の発熱素子はインバータを構成する6個のスイッチング素子であり、前記隔壁部材は前記インバータの各相に接続される一対のスイッチング素子を一つの区分に区分けする部材であるものとすることもできる。こうすれば、各区分で発生する熱を略同一にすることができるから、均等に複数の発熱素子を冷却することができる。
【0017】また、本発明の第2の発熱素子の冷却装置において、前記複数の発熱素子は、複数のスイッチング素子が並列に接続され同期してスイッチングされることにより一つのスイッチング素子として機能するスイッチング素子群が6組で構成されるインバータの該スイッチング素子群を構成する各スイッチング素子であり、前記隔壁部材は、インバータの各相に接続される2組のスイッチング素子群の各組に属する少なくとも一つずつのスイッチング素子を一つの区分に区分けする部材であるものとすることもできる。こうすれば、各区分で発生する熱を略同一にすることができるから、均等に複数の発熱素子を冷却することができる。
【0018】さらに、本発明の第2の発熱素子の冷却装置において、前記隔壁部材は、前記発熱素子の制御回路基板の少なくとも一部を用いて形成されてなるものとすることもできる。こうすれば、隔壁と制御回路基板とを一体のものとすることができ、小型化を図ることができる。
【0019】あるいは、本発明の第2の発熱素子の冷却装置において、前記区分上部に配置され、気化した前記冷却液体が凝縮して液化し滴下する際の滴下位置をガイドするガイド部材を備えるものとすることもできる。こうすれば、気化して凝縮した冷却液体を所望の位置に滴下させることができる。
【0020】このガイド部材を備える態様の本発明の第2の発熱素子の冷却装置において、前記ガイド部材は、前記隔壁部材により区分けされた各区分から気化した前記冷却液体に相当する凝縮した前記冷却液体を対応する区分に滴下するよう滴をガイドする部材であるものとすることもできる。こうすれば、各区分の冷却液体の量を変化させないようにすることができる。
【0021】また、ガイド部材を備える態様の本発明の第2の発熱素子の冷却装置において、前記ガイド部材は、前記所定の傾きのときでも、前記隔壁部材により区分けされた各区分から気化した前記冷却液体に相当する凝縮した前記冷却液体を対応する区分に滴下するよう滴をガイドする部材であるものとすることもできる。こうすれば、所定の傾きが生じても各区分の冷却液体の量を変化させないようにすることができる。
【0022】本発明の第2の発熱素子の冷却装置において、前記ガイド部材に近接して配置され、該ガイド部材を放熱により冷却する冷却手段を備えるものとすることもできる。こうすれば、ガイド部材の表面で気化した冷却液体を凝縮させることができる。
【0023】本発明の第1または第2の発熱素子の冷却装置において、前記冷却液体はパーフロロカーボンであるものとすることもできる。
【0024】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。図1は、本発明の第1の発熱素子の冷却装置としての一実施例であるスイッチング素子42を冷却する冷却装置20の構成の概略を示す構成図である。図示するように、実施例の冷却装置20は、複数のスイッチング素子42を収納部23に収納する箱形のケース22と、このケース22の収納部23を上下に仕切る半透膜30と、スイッチング素子42を液封すると共に半透膜30を浸漬させる冷却液体28と、スイッチング素子42の間に設けられた隔壁32と、冷却液体28を冷却する液体冷却装置50とから構成されている。
【0025】ケース22は、その外周壁内に冷却媒体(例えば、水など)の流路26が形成されており、冷却媒体の流入口24と流出口25は液体冷却装置50の循環管52に接続されている。ケース22の内部の収納部23は密閉構造とされており、その下面には、設置板40にワイヤボンデイング44によりスイッチング素子42が設置されている。スイッチング素子42としては、実施例ではIGBT(Insulated Gate Bipolar Transister)を用いた。なお、スイッチング素子42の取り付け基板や電気的な接続配線などは本発明の第1の発熱素子の冷却装置としては要部を構成しないから、その図示およびその説明は省略する。
【0026】ケース22の収納部23の半透膜30の下部と半透膜30を浸漬する冷却液体28は、スイッチング素子42が良好に動作することができる許容動作雰囲気温度より低い沸点を有し、高い絶縁性を示す液体である。実施例では、IGBTの許容動作雰囲気温度より低い沸点を有すると共に高い絶縁性を示すパーフロロカーボン(例えば、住友スリーエム製のフロリナートなど)を用いた。こうした冷却液体28は、スイッチング素子42が生じる熱を奪って気化することによりスイッチング素子42を冷却する。
【0027】ケース22の収納部23を上下に仕切る半透膜30は、冷却液体28の気泡は通過させるが冷却液体28は通過させない半透膜により形成されている。したがって、スイッチング素子42の熱により気化した冷却液体28の気泡は、この半透膜30を通過して収納部23の上部に開放される。隔壁32は、半透膜30から突出しており、その下部には、両側の空間(例えば、空間36と空間37または空間37と空間38)を連通する貫通孔34が形成されている。このように収納部23の下部の冷却液体28は、半透膜30により密閉構造とされており、半透膜30は隔壁32により支持されているから、冷却装置20が傾いたとしてもスイッチング素子42が冷却液体28から露出することはない。
【0028】ケース22の図中右側側面には、収納部23の半透膜30で仕切られた上部と下部とを連絡する連絡管27が取り付けられており、連絡管27には、冷却液体28の収納部23の上部から下部へ移動は許すが下部から上部への移動は規制する逆止弁27aが取り付けられている。したがって、冷却液体28が気化して半透膜30を透過し、収納部23の下部における冷却液体28の量が減少すると、逆止弁27aが開いて収納部23の上部から冷却液体28が供給されるようになっている。
【0029】液体冷却装置50は、ケース22の流入口24と流出口25とに接続されケース22の流路26と共に循環路を形成する循環管52と、この循環管52に取り付けられ冷却媒体を循環管52内で循環させる循環ポンプ54と、同じく循環管52に取り付けられ冷却媒体を外気で冷却するラジエータ56とを備える。液体冷却装置50は、循環ポンプ54により外気で冷却された冷却媒体を循環管52に循環させることにより、ケース22の収納部23に充填された冷却液体28を冷却する。したがって、スイッチング素子42の熱により気化した冷却液体28は、液体冷却装置50により冷却されて液化する。
【0030】以上説明した実施例の発熱素子の冷却装置20によれば、スイッチング素子42の許容動作雰囲気温度より低い沸点を有する冷却液体28が気化する際の気化熱をスイッチング素子42から直接または間接に奪うことにより、スイッチング素子42を冷却することができる。しかも、液体冷却装置50により冷却液体28を冷却するから、気化した冷却液体28を液化して再びスイッチング素子42の冷却に使用することができる。この結果、冷却効率を向上させることができ、装置全体を小型化することができる。また、冷却液体28は高い絶縁性を示すから、電気的な短絡を生じることもない。もとより、スイッチング素子42の動作雰囲気温度をその許容温度範囲内とすることができる。
【0031】また、実施例の発熱素子の冷却装置20によれば、冷却液体28の気泡は通過させるが冷却液体28は通過させない材料により形成された半透膜30により収納部23を上下に仕切ることにより、使用する冷却液体28を少量にすることができると共に、冷却装置20が傾いたときでもスイッチング素子42が冷却液体28から露出するのを防止して、スイッチング素子42を効率よく冷却することができる。また、実施例の発熱素子の冷却装置20によれば、逆止弁27aを有する連絡管27を備えることにより、気化して半透膜30を透過することにより収納部23の下部の冷却液体28が減少しても、冷却液体28を補給することができる。
【0032】実施例の発熱素子の冷却装置20では、発熱素子としてIGBTであるスイッチング素子42を冷却するものとして構成したが、IGBT以外のスイッチング素子を冷却するものとして構成してもよく、スイッチング素子以外の発熱素子を冷却するものとして構成してもよい。
【0033】実施例の発熱素子の冷却装置20では、ケース22の外周壁に冷却媒体の流路26を形成したが、収納部23内に冷却媒体の流路を形成する管路を備えるものとしてもよい。
【0034】次に、本発明の第2の発熱素子の冷却装置の一実施例としての複数のスイッチング素子Tの冷却装置120について説明する。便宜上、この冷却装置120を第2実施例と呼ぶ。図2は第2実施例の冷却装置120の構成の概略を示す構成図であり、図3は第2実施例の冷却装置120のスイッチング素子Tの配置の様子を示す配置図であり、図4は第2実施例の冷却装置120が冷却するスイッチング素子Tが構成する回路を例示する回路図である。第2実施例の冷却装置120は、図2R>2に示すように、ベース121と共に密閉された収納部123を形成するケース122と、スイッチング素子TとダイオードDとが一つずつ取り付けられた12個の絶縁基板A11〜A16,A21〜A26と、2個ずつの絶縁基板Aを属するように収納部123を区分するセパレータ126と、各区分に属する絶縁基板Aに取り付けられたスイッチング素子Tを浸漬する冷却液体138と、気化した冷却液体138を凝縮させると共にその液滴の滴下位置をガイドするガイド部材140と、ガイド部材140に近接して取り付けられた放熱フィン150とを備える。
【0035】第2実施例の冷却装置120により冷却される12個のスイッチング素子T11〜T16,T21〜T26は、図4に示すように、二つのスイッチング素子Tが並列に接続され同期してスイッチングされることにより一つのスイッチング素子として機能するよう配列されて一つのインバータ回路を構成している。一つのスイッチング素子として機能する二つのスイッチング素子(例えば、T11とT21)は、図示しないコントローラにより同期して同一のスイッチングとなるよう制御されている。したがって、容量の大きなスイッチング素子を用いれば、二つのスイッチング素子を一つのスイッチング素子に置き換えることもできるが、この場合、各スイッチング素子には大電流が流れ、それに伴って発熱も大きくなる。第2実施例のように二つのスイッチング素子を一つのスイッチング素子として機能させるものとすれば、各スイッチング素子に流れる電流は半分になるから、各スイッチング素子の発熱も小さくなりその冷却は容易になる。第2実施例の冷却装置120では、こうした目的から二つのスイッチング素子を組として一つのスイッチング素子として機能させ、各スイッチング素子を効率よく均等に冷却するものである。なお、図4中のダイオードD11〜D16,D21〜D26は、フライホイールダイオードである。
【0036】インバータを構成する各スイッチング素子T11〜T16,T21〜T26はすべて同一のIGBTで構成されており、図3に例示するように、インバータ回路の同相に接続された二組のスイッチング素子群(例えば、T11とT21とからなる群とT12とT22とからなる群)から各々一つずつのスイッチング素子が同一の区分に属するようにセパレータ126により区分けされている。即ち、セパレータ126により、u相に接続されたスイッチング素子T11とスイッチング素子T12とを区分S1に、同じくu相に接続されたスイッチング素子T21とスイッチング素子T22とを区分S4に、v相に接続されたスイッチング素子T13とスイッチング素子T14とを区分S2に、同じくv相に接続されたスイッチング素子T23とスイッチング素子T24とを区分S5に、w相に接続されたスイッチング素子T15とスイッチング素子T16とを区分S3に、同じくw相に接続されたスイッチング素子T25とスイッチング素子T26とを区分S6に区分けされている。インバータ回路の同相に接続された二組のスイッチング素子群は、スイッチング素子に大電流が流れるのを防止するために同時にオンとすることがないから、二つのスイッチング素子が同時にオンとなり得る組み合わせに比して、各区分内の発熱を低くすることができる。即ち各区分の発熱を均等なものとすることができるのである。
【0037】セパレータ126には、図2に示すように、スイッチング素子Tの制御回路128が取り付けられている。このよう制御回路128をセパレータ126に配置することにより、装置を小型化することができる。セパレータ126の高さHについては後述する。
【0038】第2実施例でも冷却液体138として、第1実施例の冷却装置20に用いた冷却液体28と同様に、スイッチング素子Tが良好に動作することができる許容動作雰囲気温度より低い沸点を有し、高い絶縁性を示す液体としてパーフロロカーボンを用いており、この第2実施例の冷却装置120の最大傾斜角度αのときでも各区分に配置されたすべてのスイッチング素子Tが浸漬する量が各区分に充填されている。したがって、セパレータ126の高さHは、この最大傾斜角度αのときでもセパレータ126を越えて冷却液体138が隣接する区分に流れ込まないだけの高さとして設定される。いま、冷却液体138による冷却で必要な最低の深さをhとし、区分の傾斜に沿った長さをwとすると、セパレータ126の高さHは、次式(1)により表わされる。
【0039】H>h+w・sinα (1)
【0040】ガイド部材140には、その表面に凝縮した冷却液体138を重力を用いて集めて滴下させる滴下部142が各区分の中央に相当する位置に形成されている。滴下部142に至る傾斜βは、第2実施例の冷却装置120の最大傾斜角度αより大きく設定されており、各区分で気化した冷却液体138に相当する量がその区分に滴下するようになっている。勿論、完全に気化した量と滴下した量とが一致するものではないのは言うまでもない。
【0041】放熱フィン150は、熱伝導性の高い材料、例えばアルミニウムなどにより形成されており、ガイド部材140に近接して取り付けられている。したがって、ガイド部材140は放熱フィン150により冷却されるから、ガイド部材140の表面で気化した冷却液体138が凝縮することになる。
【0042】こうして構成された第2実施例の冷却装置120の冷却の様子について説明する。図5は、第2実施例の冷却装置120の冷却の様子を模式的に例示する模式図である。図示するように、第2実施例の冷却装置120では、発熱素子であるスイッチング素子Tは、冷却液体138の沸騰に伴って気化熱が奪われることにより冷却される。蒸気となった冷却液体138は、気相中を上昇し、放熱フィン150により冷却されるガイド部材140の表面で熱を奪われて凝縮する。凝縮して液化した冷却液体138は、その重力により滴下部142に集められ、区分の中央に滴下する。
【0043】以上説明した第2実施例の冷却装置120によれば、スイッチング素子Tの許容動作雰囲気温度より低い沸点を有する冷却液体138が気化する際の気化熱をスイッチング素子Tから直接または間接に奪うことにより、スイッチング素子Tを冷却することができる。また、第2実施例の冷却装置120によれば、セパレータ126の高さHを装置の最大傾斜角度αに応じて設定するから、冷却装置120が傾いても各区分の冷却液体138を同量に保持することができる。しかも、セパレータ126にスイッチング素子Tの制御回路128を取り付けたから、装置全体を小型化することができる。更に、第2実施例の冷却装置120では、ガイド部材140により各区分で気化した冷却液体138に相当する量がその区分に滴下するようにしたから、気化した冷却液体138を液化して再びスイッチング素子Tの冷却に使用することができる。しかも、ガイド部材140の傾斜βを装置の最大傾斜角度αより大きくしたから、冷却装置120が傾いても適正な量の冷却液体138を各区分に滴下することができる。したがって、各区分の冷却液体138は増減することがない。もとより、冷却液体138は高い絶縁性を示すから、電気的な短絡を生じることもない。また、スイッチング素子Tの動作雰囲気温度をその許容温度範囲内とすることができる。
【0044】第2実施例の冷却装置120では、インバータ回路を構成する12個のスイッチング素子T11〜T16,T21〜T26を冷却するものとして構成したが、インバータ回路を構成する6個のスイッチング素子を冷却するものとして構成してもよい。この場合、セパレータにより6つの区分に区分けしてもよいし、3つの区分に区分けしてもよい。この3つの区分に区分けする場合には、各相に接続された2つのスイッチング素子を1つの区分にするのが好ましい。また、3つ以上のスイッチング素子を並列に接続し同期してスイッチングすることにより1つのスイッチング素子として機能させるスイッチング素子群を6組備えて構成されるインバータ回路の各スイッチング素子を冷却するものとして構成してもよい。この場合も、インバータ回路の各相に接続される2組のスイッチング素子群の各組に属する少なくとも1つずつのスイッチング素子を1つの区分に区分けするのが好ましい。
【0045】第2実施例の冷却装置120では、セパレータ126にスイッチング素子Tの制御回路128を取り付けたが、制御回路128を取り付けない構成としても差し支えない。また、第2実施例の冷却装置120では、ガイド部材140を湾曲面で滴下部142に液滴が集まるように構成したが、平面で滴下部142に至るように構成してもよい。
【0046】第2実施例の冷却装置120では、セパレータ126の上部を開放端として各区分は密閉されないものとしたが、セパレータ126の上端をガイド部材140に固定して各区分を密閉するものとしてもよい。
【0047】第2実施例の冷却装置120では、ガイド部材140に近接して放熱フィン150を取り付けたが、第1実施例の冷却装置20の液体冷却装置50のような循環路に冷却媒体を循環させて冷却するものとしてもよい。
【0048】第1実施例の冷却装置20や第2実施例の冷却装置120では、冷却液体28,138としてパーフロロカーボンを用いたが、他の液体を用いるものとしてもよい。この場合、液体としては、スイッチング素子42,Tが良好に動作することができる許容動作雰囲気温度より低い沸点を有し、高い絶縁性を示す液体であればよい。発熱体として電気的な短絡を考慮しなくてもよい場合には、更に絶縁性を示す必要もない。
【0049】以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例である発熱素子としてのスイッチング素子42を冷却する冷却装置20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】 第2実施例の冷却装置120の構成の概略を示す構成図である。
【図3】 第2実施例の冷却装置120のスイッチング素子Tの配置の様子を示す配置図である。
【図4】 第2実施例の冷却装置120が冷却するスイッチング素子Tが構成する回路を例示する回路図である。
【図5】 第2実施例の冷却装置120の冷却の様子を模式的に例示する模式図である。
【符号の説明】
20 発熱素子の冷却装置、22 ケース、23 収納部、24 流入口、25 流出口、26 流路、27 連絡管、27a 逆止弁、28 冷却液体、30 半透膜、32 隔壁、34 貫通孔、36,37,38 空間、40 設置板、42 スイッチング素子、44 ワイヤボンデイング、50 液体冷却装置、52 循環管、54 循環ポンプ、56 ラジエータ、120 冷却装置、121 ベース、122 ケース、123 収納部、126 セパレータ、128制御回路、138 冷却液体、140 ガイド部材、142 滴下部、150放熱フィン、A11〜A16,A21〜A26 絶縁基板、T11〜T16,T21〜T26 スイッチング素子、D11〜D16,D21〜D26、ダイオード、S1〜S6 区分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 発熱素子を冷却する冷却装置であって、気泡は通過するが液体は非通過の材料により形成され、前記発熱素子と所定の隙間をもって該発熱素子の上部を密閉する密閉手段と、前記発熱素子の許容動作雰囲気温度より低い沸点を有し、前記隙間を充填すると共に前記密閉手段を浸漬させる冷却液体と、前記密閉手段の上部から前記隙間へ前記冷却液体を供給可能な液体供給手段とを備える冷却装置。
【請求項2】 前記液体供給手段は、前記密閉手段の上部から前記隙間への前記冷却液体の流動は可能とするが、前記隙間から前記密閉手段への前記冷却液体の流動は規制する逆止弁を備える請求項1記載の冷却装置。
【請求項3】 前記発熱素子の間に配置され、上端が前記密閉手段の上方で開放されている少なくとも一つの隔壁部材を備える請求項1または2記載の冷却装置。
【請求項4】 前記隔壁部材は、前記隙間に相当する部位に貫通孔が形成されてなる請求項3記載の冷却装置。
【請求項5】 前記冷却液体を冷却する冷却手段を備える請求項1ないし4いずれか記載の冷却装置。
【請求項6】 請求項1ないし5いずれか記載の冷却装置であって、前記発熱素子は、スイッチング素子であり、前記冷却液体は、絶縁体である冷却装置。
【請求項7】 複数の発熱素子を冷却する冷却装置であって、前記複数の発熱素子のうち少なくとも1つの発熱素子を属する複数の区分に区分けし、所定の傾きのときに該区分けした区分に属する発熱素子のすべての部位より上側に突出する高さを有する隔壁部材と、前記発熱素子の許容動作雰囲気温度より低い沸点を有し、前記所定の傾きのときに前記隔壁部材により区分けされた区分に属する発熱素子のすべてを浸漬させる量の冷却液体とを備える冷却装置。
【請求項8】 請求項7記載の冷却装置であって、前記複数の発熱素子は、インバータを構成する6個のスイッチング素子であり、前記隔壁部材は、前記インバータの各相に接続される一対のスイッチング素子を一つの区分に区分けする部材である冷却装置。
【請求項9】 請求項7記載の冷却装置であって、前記複数の発熱素子は、複数のスイッチング素子が並列に接続され同期してスイッチングされることにより一つのスイッチング素子として機能するスイッチング素子群が6組で構成されるインバータの該スイッチング素子群を構成する各スイッチング素子であり、前記隔壁部材は、インバータの各相に接続される2組のスイッチング素子群の各組に属する少なくとも一つずつのスイッチング素子を一つの区分に区分けする部材である冷却装置。
【請求項10】 前記隔壁部材は、前記発熱素子の制御回路基板の少なくとも一部を用いて形成されてなる請求項7ないし9いずれか記載の冷却装置。
【請求項11】 前記区分上部に配置され、気化した前記冷却液体が凝縮して液化し滴下する際の滴下位置をガイドするガイド部材を備える請求項7ないし10いずれか記載の冷却装置。
【請求項12】 前記ガイド部材は、前記隔壁部材により区分けされた各区分から気化した前記冷却液体に相当する凝縮した前記冷却液体を対応する区分に滴下するよう滴をガイドする部材である請求項11記載の冷却装置。
【請求項13】 前記ガイド部材は、前記所定の傾きのときでも、前記隔壁部材により区分けされた各区分から気化した前記冷却液体に相当する凝縮した前記冷却液体を対応する区分に滴下するよう滴をガイドする部材である請求項11記載の冷却装置。
【請求項14】 前記ガイド部材に近接して配置され、該ガイド部材を放熱により冷却する冷却手段を備える請求項11ないし13いずれか記載の冷却装置。
【請求項15】 前記冷却液体はパーフロロカーボンである請求項1ないし14いずれか記載の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2000−349213(P2000−349213A)
【公開日】平成12年12月15日(2000.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−173900
【出願日】平成11年6月21日(1999.6.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】