説明

発酵甘草抽出物及びその製造方法、並びに、発酵甘草抽出物を含有する皮膚外用剤及び美容用飲食品

【課題】抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な生理活性作用に優れ、安価に製造でき、安全性が高く、味、匂い、使用感等の点で添加対象物の品質に悪影響を及ぼさず、皮膚外用剤及び美容用飲食物に広く使用可能な発酵甘草抽出物及びその製造方法を提供すること。更に、この発酵甘草抽出物を、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な生理活性作用の有効成分として配合した皮膚外用剤及び美容用飲食品を提供すること。
【解決手段】アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌を用いて、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つを発酵処理することにより得られることを特徴とする発酵甘草抽出物及びその製造方法、並びに、この発酵甘草抽出物を含有する皮膚外用剤及び美容用飲食品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵甘草抽出物及びその製造方法、並びに、発酵甘草抽出物を含有する皮膚外用剤及び美容用飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
甘草は、マメ(Leguminosae)科カンゾウ(Glycyrrhiza)属に属する植物カンゾウ(Glycyrrhiza glabra、G.uralensis、G.inflataなど)の根及び根茎であって、抗アレルギー作用、抗炎症作用、解毒作用などの生理活性作用を有することから、古くから生薬やハーブとして使用されている。甘草に含有される有効成分としては、グリチルリチンが代表的であるが、リクイリチン、イソリクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチゲニンなどのフラボノイド成分も多く含まれている。
【0003】
前記フラボノイドは、C6−C3−C6(C:炭素)の基本骨格構造を有する化合物の総称であって、抗酸化作用、発ガン抑制作用、抗炎症作用、動脈硬化抑制作用など、様々な生理活性作用を有することが知られている。フラボノイドは植物に広く存在するので、日常の生活でも野菜や果実から多く摂取することができる。近年、フラボノイドの基本骨格構造の種類により、又は、結合する官能基の違いにより、生理活性作用の有無及び強弱があることが報告されている(例えば、非特許文献1〜3参照)。
例えば、フラボノイドである8−ヒドロキシリクイリチゲニン及び3’−ヒドロキシリクイリチゲニンは、アカシアやホウレンソウなどに存在し、強い抗酸化作用を有することが報告されている(例えば、非特許文献4,5参照)。
【0004】
また、発酵により、植物に含有されるフラボノイドの基本骨格構造又は結合する官能基が変化した結果、生理活性作用が高まる場合があることが報告されている。
例えば、大豆発酵食品においては、大豆に含まれるフラボノイドであるイソフラボン化合物が、発酵過程中にオルトジヒドロキシ構造を有するイソフラボン化合物に変換され、強い抗酸化作用を発揮することが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
例えば、オレンジやレモンなどの柑橘類を、糸状菌であるA.saitoiを用いて発酵処理すると、フラボノイドであるヘスペリジンが8−ヒドロキシヘスペレチンに変換され、強い抗酸化作用を発揮することが報告されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、前記8−ヒドロキシリクイリチゲニン及び前記3’−ヒドロキシリクイリチゲニンについては、発酵により生産されたという報告はない。
【0005】
前記甘草の発酵については、甘草の水抽出液を乳酸発酵させ、その発酵物を、機能性食品組成物、抗アンドロゲン剤、末梢血管拡張剤、動脈硬化抑制剤として使用することが報告されている(例えば、特許文献3〜5参照)。しかしながら、前記特許文献3〜5に記載の乳酸発酵技術では、甘草に含有されるフラボノイドの基本骨格構造又は結合する官能基が変化することはない。
【0006】
したがって、現在までのところ、例えばフラボノイドの基本骨格構造又は結合する官能基が変化することで、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な生理活性作用に優れ、安価に製造でき、安全性が高く、味、匂い、使用感等の点で添加対象物の品質に悪影響を及ぼさず、皮膚外用剤及び美容用飲食物に広く使用可能な発酵甘草抽出物は、未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開2002−308868号公報
【特許文献2】特開2002−275175号公報
【特許文献3】特許第2801964号
【特許文献4】特開平10−236967号公報
【特許文献5】特開2003−26592号公報
【非特許文献1】Plant Flavonoids in Biology and Medicine(1986)、Alan R. Liss Inc.(NY)
【非特許文献2】Plant Flavonoids in Biology and Medicine II(1988)、Alan R. Liss Inc.(NY)
【非特許文献3】The Flavonoids(1994)、Chapman & Hall(London)
【非特許文献4】Biochemical Journal(1966)、98(2)、493−500
【非特許文献5】Journal of Agricultural and Food Chemistry(2001)、49(6)、2767−2773
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。 即ち、本発明は、第一に、例えばフラボノイドの基本骨格構造又は結合する官能基が変化することで、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な生理活性作用に優れ、安価に製造でき、安全性が高く、味、匂い、使用感等の点で添加対象物の品質に悪影響を及ぼさず、皮膚外用剤及び美容用飲食物に広く使用可能な発酵甘草抽出物及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、第二に、本発明の前記発酵甘草抽出物を、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする種々の生理活性作用の有効成分として配合した皮膚外用剤及び美容用飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、アスペルギルス属糸状菌を用いて、リクイリチン及びイソリクリチンを含有する甘草水抽出物を発酵処理した結果、前記リクイリチンが、リクイリチゲニンへの微生物変換を介して8−ヒドロキシリクイリチゲニンに微生物変換されており、かつ、前記イソリクリチンが、イソリクイリチゲニンへの微生物変換を介して3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニンに微生物変換されていたこと;前記発酵処理により得られた発酵甘草抽出物は、発酵処理前に比べてスーパーオキサイド除去作用、ラジカル消去作用及びMMP−1活性阻害作用が顕著に増加しており、抗酸化剤、抗老化剤、皮膚外用品及び美容用飲食品として有用であること;を知見した。
【0010】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌を用いて、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つを発酵処理することにより得られることを特徴とする発酵甘草抽出物である。
<2> アスペルギルス属糸状菌が、A.oryzae、A.kawachi、A.awamori、A.sojae、A.saitoi及びA.nigerから選ばれた1種以上である<1>に記載の発酵甘草抽出物である。
<3> 8−ヒドロキシリクイリチゲニン及び3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニンのうち少なくとも1つを含有する<1>から<2>のいずれかに記載の発酵甘草抽出物である。
<4> <1>から<3>のいずれかに記載の発酵甘草抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用品である。
<5> <1>から<3>のいずれかに記載の発酵甘草抽出物を含有することを特徴とする美容用飲食品である。
<6> アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌を用いて、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つを発酵処理する工程を含むことを特徴とする発酵甘草抽出物の製造方法である。
<7> アスペルギルス属糸状菌が、A.oryzae、A.kawachi、A.awamori、A.sojae、A.saitoi及びA.nigerから選ばれた1種以上の糸状菌を用いる<6>に記載の発酵甘草抽出物の製造方法である。
<8> 発酵に用いる培地に、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素、アミノ酸、酵母抽出物、ペプトン、タンパク質及び肉抽出物から選ばれた1種以上を用いる<6>から<7>のいずれかに記載の発酵甘草抽出物の製造方法である。
<9> 発酵処理する工程において、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つに含有されるリクイリチンが、リクイリチゲニンへの微生物変換を介して、8−ヒドロキシリクイリチゲニンに微生物変換されること、及び、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つに含有されるイソリクリチンが、イソリクイリチゲニンへの微生物変換を介して、3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニンに微生物変換されること、のうち少なくとも1つが行われる<6>から<8>のいずれかに記載の発酵甘草抽出物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、第一に、例えばフラボノイドの基本骨格構造又は結合する官能基が変化することで、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な生理活性作用に優れ、安価に製造でき、安全性が高く、味、匂い、使用感等の点で添加対象物の品質に悪影響を及ぼさず、皮膚外用剤及び美容用飲食物に広く使用可能な発酵甘草抽出物及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、第二に、本発明の前記発酵甘草抽出物を、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする種々の生理活性作用の有効成分として配合した皮膚外用剤及び美容用飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(発酵甘草抽出物)
本発明の発酵甘草抽出物は、アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌を用いて、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つを発酵処理することにより得られることを特徴とする。
【0013】
−アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌−
前記アスペルギルス属糸状菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、日本酒、味噌、醤油など発酵食品に使用される麹から分離されたものであることが好ましい。
前記アスペルギルス属糸状菌の種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、A.oryzae、A.kawachi、A.awamori、A.sojae、A.saitoi、A.nigerなどが挙げられる。
【0014】
−甘草末、甘草抽出物−
前記甘草としては、マメ(Leguminosae)科カンゾウ(Glycyrrhiza)属に属する植物カンゾウの根及び根茎である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記植物カンゾウとしては、例えば、Glycyrrhiza glabra、G.uralensis、G.inflataなどが挙げられる。前記甘草には、リクイリチン、イソリクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチゲニンなどのフラボノイド成分が多く含まれている。
【0015】
前記甘草末は、植物の破砕に一般に用いられる方法により容易に得ることができ、例えば、前記甘草を乾燥した後、粗砕機を用い粉砕することにより得ることができる。
【0016】
前記甘草抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法により容易に得ることができる。なお、前記甘草抽出物には、甘草抽出液、該抽出液の希釈液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物もしくは精製物のいずれもが含まれる。
【0017】
前記抽出原料である甘草は、乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用い粉砕して溶媒抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用されている乾燥機を用いて行ってもよい。なお、前記甘草は、ヘキサン、ベンゼン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。なお、脱脂等の前処理を行うことにより、甘草の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0018】
前記抽出に用いる溶媒としては、水、親水性有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を室温乃至溶媒の沸点以下の温度で用いることが好ましい。
前記抽出溶媒として使用し得る水としては、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等の他、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、ろ過、イオン交換、浸透圧の調整、緩衝化等が含まれる。なお、前記抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0019】
前記親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコールなどが挙げられ、これら親水性有機溶媒と水との混合溶媒などを用いることができる。
なお、前記水と親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合には、低級アルコールの場合は水10質量部に対して1質量部〜90質量部、低級脂肪族ケトンの場合は水10質量部に対して1質量部〜40質量部添加することが好ましい。多価アルコールの場合は水10質量部に対して1質量部〜90質量部添加することが好ましい。
【0020】
本発明において、抽出原料である甘草から、甘草抽出物を抽出するにあたって特殊な抽出方法を採用する必要はなく、室温又は還流加熱下で、任意の抽出装置を用いて抽出することができる。
【0021】
具体的には、抽出溶媒を満たした処理槽内に、抽出原料としての甘草を投入し、更に必要に応じて時々攪拌しながら、30分間〜2時間静置して可溶性成分を溶出した後、ろ過して固形物を除去し、得られた抽出液から抽出溶媒を留去し、乾燥することにより抽出物が得られる。抽出溶媒量は通常、抽出原料の5〜15倍量(質量比)である。抽出条件は、抽出溶媒として水を用いた場合には、通常50℃〜95℃にて1〜4時間程度である。また、抽出溶媒として水とエタノールとの混合溶媒を用いた場合には、通常40℃〜80℃にて30分間〜4時間程度である。
【0022】
得られる甘草の抽出液は、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るため、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0023】
−発酵処理−
前記発酵処理の方法としては、アスペルギルス属糸状菌を用いる限り、特に制限はなく、公知の発酵方法の中から目的に応じて適宜選択することができる。前記発酵処理としては、例えば、培地を通気攪拌型発酵槽とともに殺菌後、適温に調節した培地中に、前培養したアスペルギルス属糸状菌を接種し、培養温度を制御しつつ通気攪拌を行う方法が挙げられる。
【0024】
前記通気攪拌型発酵槽としては、特に制限はなく、通常使用される通気攪拌型発酵槽の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細菌用、酵母用、糸状菌用などが挙げられる。前記前培養の方法としては、特に制限はなく、例えば、小型発酵槽、フラスコ、試験管などによる液体培養により行うことができる。
前記培地の成分としては、発酵に用いる菌体が生育できる限り、特に制限はなく、通常発酵に使用される培地の成分の中から、目的に応じて適宜選択することができる。培地中の窒素源としても、特に制限はないが、発酵の効率が高い点で、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素、アミノ酸、酵母エキス、ペプトン、タンパク質、肉エキスから選ばれた一種以上を選択することが好ましい。
発酵処理における前記培地のpHとしては、特に制限はないが、発酵の効率が高い点で、3.5〜8.0であることが好ましい。発酵処理における前記培地の温度としては、特に制限はないが、発酵の効率が高い点で、20〜37℃であることが好ましい。
【0025】
発酵処理の過程において、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つに含有されるリクイリチンが、リクイリチゲニンへの微生物変換を介して、8−ヒドロキシリクイリチゲニンに微生物変換される。また、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つに含有されるイソリクリチンが、イソリクイリチゲニンへの微生物変換を介して、3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニンに微生物変換される。リクイリチンはリクイリチゲニンの配糖体であり、イソリクイリチンはイソリクイリチゲニンの配糖体である。
なお、前記「微生物変換」とは、前記各フラボノイドの分子構造の変換が、アスペルギルス属糸状菌由来の成分(例えば、酵素など)を触媒として行われることを意味する。
【0026】
なお、前記発酵処理により得られる発酵甘草抽出物は、そのままでも、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとして様々な生理活性作用を有する組成物として使用することができるが、濃縮液又はその乾燥物としたものの方が利用しやすい。発酵甘草抽出物の乾燥物を得るにあたっては、吸湿性を改善するためにデキストリン、シクロデキストリン等のキャリアーを添加してもよい。また、前記発酵甘草抽出物は、特有の匂いを有しているため、その生理活性作用の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、皮膚外用剤及び美容用飲食品に添加する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。なお、精製としては、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等によって行うことができる。
【0027】
−8−ヒドロキシリクイリチゲニン、3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニン−
前記したように、本発明の発酵甘草抽出物は、発酵処理における微生物変換の結果として、下記構造式(1)及び(2)でそれぞれ表される8−ヒドロキシリクイリチゲニン、3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニンを含有する。
【0028】
【化1】

8−ヒドロキシリクイリチゲニン(8−OHL)
【化2】

3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニン(3’−OHI)
【0029】
前記発酵甘草抽出物における前記8−ヒドロキシリクイリチゲニン及び前記3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニンの含有量としては、特に制限はなく、発酵液を濃縮することにより、又は、発酵条件を変えることにより、所望する含有量に調節することができる。
8−ヒドロキシリクイリチゲニン及び3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニンの含有量は、公知の方法により測定することができ、例えば、前記発酵甘草抽出物をHPLCを用いて分離し、該当するピークの面積に基づいて算出することができる。
【0030】
本発明の発酵甘草抽出物は、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な生理活性作用を有しており、これらの作用に基づいて、例えば、抗酸化剤、抗老化剤などとして使用することができる。
本発明の発酵甘草抽出物が有する抗酸化作用は、スーパーオキサイド消去作用及びラジカル消去作用のうち少なくとも一つに基づいて発揮される。
本発明の発酵甘草抽出物が有する抗老化作用は、MMP−1活性阻害作用に基づいて発揮される。
前記スーパーオキサイド消去作用、前記ラジカル消去作用及び前記MMP−1活性阻害作用を発揮する理由としては、発酵甘草抽出物に含有される8−ヒドロキシリクイリチゲニン及び3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニンが有する作用によると考えられている。
また、本発明の発酵甘草抽出物は、8−ヒドロキシリクイリチゲニン及び3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニンが有する生理活性作用であれば、前記ラジカル消去作用及び前記MMP−1活性阻害作用以外の生理活性作用についても当然に発揮できる。
【0031】
本発明の発酵甘草抽出物は、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な優れた生理活性作用を有し、皮膚に適用した場合の使用感と安全性に優れているため、特に、後記する本発明の皮膚外用剤に配合するのに好適である。
また、本発明の発酵甘草抽出物は、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な優れた生理活性作用を有するとともに、消化管で消化されるようなものではないことが確認されているので、特に、後記する本発明の美容用飲食品に配合するのに好適である。
【0032】
(発酵甘草抽出物の製造方法)
本発明の発酵甘草抽出物の製造方法は、アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌を用いて、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つを発酵処理する工程を含み、更に必要に応じて、例えば発酵処理したものを乾燥する工程、発酵処理したものを精製する工程、発酵処理したものを濃縮する工程などの、その他の工程を含む。
前記発酵甘草抽出物の製造方法における、アスペルギルス属糸状菌、甘草末、甘草抽出物、発酵処理等については、本発明の発酵甘草抽出物における各項目において既に説明した通りであるので、説明を省略する。
【0033】
(皮膚外用剤)
本発明の皮膚外用剤は、本発明の発酵甘草抽出物を有効成分として含有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の成分を含有してなる。
【0034】
ここで、前記皮膚外用剤の用途としては、特に制限はなく、各種用途から適宜選択することができ、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、入浴剤、アストリンゼント、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、シャンプー、ポマード、リンス、などが挙げられる。
【0035】
前記皮膚外用剤全体における本発明の発酵甘草抽出物の配合量としては、特に制限はなく、皮膚外用剤の種類によって適宜調整することができるが、前記皮膚外用剤全体に対して、0.0001質量%〜10質量%が好ましく、0.001質量%〜1質量%がより好ましい。
【0036】
前記皮膚外用剤は、更に必要に応じて本発明の目的及び作用効果を損なわない範囲で、化粧料の製造に通常使用される各種主剤及び助剤、その他の成分を添加することができる。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択した成分が挙げられ、例えば、収斂剤、殺菌剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料、などが挙げられる。これらの成分は、前記発酵甘草抽出物と共に併用した場合、前記発酵甘草抽出物が有する様々な生理活性作用と相乗的に作用して、通常期待される以上の優れた作用効果をもたらすことがある。
【0037】
本発明の皮膚外用剤は、皮膚に使用した場合に高い安全性を有し、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な優れた生理活性作用を効果的に発揮して、生体内の抗酸化、老化防止などに有用である。
【0038】
(美容用飲食品)
本発明の美容用飲食品は、本発明の発酵甘草抽出物を有効成分として含有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の成分を含有してなる。
ここで、前記美容用飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品、などの区分に制限されるものではなく、例えば、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品、医薬部外品、医薬品などを幅広く含むものを意味する。
【0039】
本発明の前記美容用飲食物は、前記発酵甘草抽出物を、その活性を妨げないように任意の飲食物に配合したものであってもよいし、発酵甘草抽出物を主成分とする栄養補助食品であってもよい。
【0040】
前記美容用飲食品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;種々の形態の健康食品や栄養補助食品;錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ等の医薬品、医薬部外品などが挙げられる。
【0041】
前記その他の成分としては、前記美容用飲食品を製造するに当たって通常用いられる補助的原料又は添加物、などが挙げられる。
前記原料又は添加物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤、などが挙げられる。
【0042】
前記美容用飲食品における本発明の発酵甘草抽出物の添加量は、対象となる美容用飲食品の種類に応じて異なり一概には規定することができないが、美容用飲食品本来の味を損なわない範囲で添加すればよく、各種対象美容用飲食品に対し、0.001質量%〜50質量%が好ましく、0.01質量%〜20質量%がより好ましい。また、顆粒、錠剤又はカプセル形態の美容用飲食品の場合には、0.01質量%〜100質量%が好ましく、5質量%〜100質量%がより好ましい。
【0043】
本発明の美容用飲食品は、日常的に経口摂取することが可能であり、有効成分である発酵甘草抽出物の働きによって、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な生理活性作用を極めて効果的に発揮させることができる。
【0044】
なお、本発明の発酵甘草抽出物、皮膚外用剤、美容用飲食品は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
(製造例1)
−発酵甘草抽出物の製造−
抽出原料として甘草の根の粉砕物100gを、水1,000mlに投入し、穏やかに攪拌しながら2時間、80℃に保った後、ろ過した。ろ液を40℃で減圧下に濃縮し、更に減圧乾燥機で乾燥して、抽出物(粉末状)を得た。
アスペルギルス・ソヤ(A.sojae)を、殺菌(121℃、20分)・冷却を行った3質量%パン粉及び水を含む培地(pH5.0)120mLを加えたバッフル付き500mL容三角フラスコに摂取し、28℃で2日間振盪培養し、前培養液を得た。本培養は、5質量%甘草抽出物、0.2質量%酵母抽出物及び水を含む培地6L(pH5.0)を10L容ジャーファーメンターに導入し、殺菌(121℃、20分)・冷却後、前培養液(120mL)を接種して、培養温度28℃、攪拌速度150rpm、通気量1vvmの培養条件で18日間培養を行い、製造例1の発酵甘草抽出物を得た。
【0047】
(比較例1)
−甘草抽出物の製造−
抽出原料として甘草の根の粉砕物100gを、水1,000mlに投入し、穏やかに攪拌しながら2時間、80℃に保った後、ろ過した。ろ液を40℃で減圧下に濃縮し、更に減圧乾燥機で乾燥して、抽出物(粉末状)を得た。
【0048】
(実施例1)
−発酵甘草抽出物の成分組成分析−
製造例1の発酵甘草抽出物及び比較例1の甘草抽出物を試料として用い、下記の条件でHPLC(液体クロマトグラフィー)分析を行った。
【0049】
[HPLC条件]
移動相:(A)0.1%TFA水溶液、(B)0.1%TFAアセトニトリル溶液
0〜5分 A:B=80:20
5〜35分 A:B=80:20から10:90のリニアグラジエント、
35〜40分 A:B=10:90
流 速:0.4mL/分
検 出:UV254、330nm
カラム温度:40℃
注入量:10μL
カラム:Zorbax Eclipse XDB−C18
【0050】
HPLC分析で得られたピークの面積に基づいて、試料全体に対する各種フラボノイドの含有量(質量%)を定量した。結果を表1に示す。
【表1】

前記表1中、「+」はピークが検出されたことを示す。
【0051】
表1に示されるように、比較例1の甘草抽出物で検出されたリクイリチン及びイソリクイリチンは、製造例1の発酵甘草抽出物では検出されず、製造例1の発酵甘草抽出物では、その代わりに新たなピークRT3.8及びRT10.0が検出された。
【0052】
(実施例2)
−RT3.8、RT10.0の構造分析−
RT3.8、RT10.0を下記の条件で精製し、精製されたRT3.8、RT10.0を試料として、下記の条件で構造分析を行った。
【0053】
製造例1で得られた発酵甘草抽出物40gを、ODSカラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、リサイクルHPLC(日本分析工業製のLC−918、カラムは日本分析工業製のJAIGEL GS−310)にて分画し、RT3.8、RT10.0の精製を行った。
精製された新規ピークRT3.8、RT10.0について構造決定を行った。H NMR及び13C NMRスペクトルは、メタノール−d4に溶解させたテトラメチルシラン(Tetramethylsilane;TMS)を内部標準として用いて、JEOL AL−400 NMR装置(H NMRは400MHz、13C NMRは100MHz)で測定した。結果を以下に示す。
【0054】
<RT3.8>
1H−NMRケミカルシフトδ(帰属水素):2.71(1H,dd,J=2.9,16.8Hz),3.08(1H,dd,J=12.7,16.8Hz)(3−H2),5.41(1H,dd,J=2.9,12.7Hz,2−H),6.52(1H,d,J=8.8Hz,6−H),6.81(2H,d,J=8.6Hz,3’,5’−H),7.29(1H,d,J=8.8Hz,5−H),7.36(2H,d,J=8.6Hz,2’,6’−H)
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素):45.0(3−C),81.4(2−C),110.8(6−C),115.6(10−C),116.2(3’,5’−C),119.3(5−C),129.2(2’,6’−C),131.2(1’−C),133.9(8−C),152.6(7−C),153.9(9−C),158.8(4‘−C),193.8(4−C)
【0055】
<RT10.0>
1H−NMRケミカルシフトδ(帰属水素):6.36(1H,d,J=8.9Hz,5’−H),6.74(2H,d,J=8.6Hz,3,5−H),7.44(1H,d,J=8.9Hz,6’−H),7.48(1H,d,J=15.4Hz,α−H),7.50(2H,d,J=8.6Hz,2,6−H),7.68(1H,d,J=15.4Hz,β−H)
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素):108.4(5’−C),115.0(1’−C),116.8(3,5−C),118.3(α−C),123.2(6’−C),127.7(1−C),131.7(2,6−C),133.6(3’−C),145.4(β−C),153.1(4’−C),154.2(2’−C),161.3(4−C),193.9(C=O)
【0056】
NMRの測定結果から、前記新規ピークRT3.8はリクイリチゲニンの8位に水酸基が結合した化合物、いわゆる8−ヒドロキシリクイリチゲニンであり、RT10.0はイソリクイリチゲニンの3’位に水酸基が結合した化合物、いわゆる3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニンであることが確認された。
【0057】
(実施例2)
−DPPHに対するラジカル消去試験−
製造例1の各発酵甘草抽出物及び比較例1の甘草抽出物を試料として用い、下記の試験法により非常に安定なラジカルである1,1−diphenyl−2−picrylhydrazyl radical(DPPH)を使用してラジカル消去作用を試験した。
【0058】
1.5×10−4mol/LのDPPHエタノール溶液3mLに各試料溶液3mLを加え、直ちに容器を密栓して振り混ぜ、30分間静置した後、波長520nmの吸光を測定した。
コントロールとして、試料溶液の代わりに試料溶液を溶解した溶媒を用いて同様に操作し、波長520nmの吸光度を測定した。また、ブランクとして、エタノールに試料溶液3mLを加えた後、直ちに波長520nmの吸光度を測定した。
そして、測定結果から、下記(1)式によりラジカル消去率(%)を算出した。
ラジカル消去率(%)={1−(B−C)/A}×100 ・・・(1)
[但し、前記(1)式中、
A:コントロールの吸光度、
B:試料溶液を添加した場合の吸光度、
C:ブランクの吸光度、をそれぞれ表す。]
【0059】
次に、試料濃度を段階的に減少させて上記ラジカル消去率の測定を行い、DPPHラジカルの消去率が50%になる試料濃度(μg/mL)を内挿法により求めた。結果を表2に示す。
また、参考例として、8−ヒドロキシリクイリチゲニン、3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニン、リクイリチゲニン及びイソリクイリチゲニンを試料として、上記と同様にしてDPPHに対するラジカル消去試験を行い、ラジカル消去率(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

表2の結果から、製造例1の発酵甘草抽出物が、高いDPPHに対するラジカル消去作用を有することが認められた。
【0061】
(実施例3)
−スーパーオキサイド消去試験(NBT法)−
製造例1の各発酵甘草抽出物及び比較例1の甘草抽出物を試料として用い、下記の試験法によりスーパーオキサイド消去作用を試験した。
【0062】
3mmol/Lのキサンチン、3mmol/LのEDTA、1.5mg/mLの牛血清アルブミン(BSA)溶液、0.75mmol/Lのニトロブルーテトラゾリウム(NBT)0.1mL、及び0.05mol/LのNaCO緩衝液(pH10.2)2.4mLを試験管にとり、これに各試料溶液0.1mLを添加し、25℃で10分間放置した。次いで、キサンチンオキシダーゼ溶液を加えて素早く攪拌し、25℃で20分間静置した。その後、6mmol/Lの塩化銅0.1mLを加えて反応を停止させ、波長560nmにおける吸光度を測定した。このとき測定した吸光度を「試料溶液添加、酵素溶液添加時の吸光度」とした。
また、同様の操作と吸光度の測定を、酵素溶液を添加せずに行った。このとき測定した吸光度を「試料溶液添加、酵素溶液無添加時の吸光度」とした。
また、試料溶液を添加せずに蒸留水を添加した場合についても同様の測定を行った。このとき測定した吸光度を「試料溶液無添加、酵素溶液添加時の吸光度」とした。
また、酵素溶液を添加せず、更に試料溶液を添加せずに蒸留水を添加した場合についても同様の測定を行った。このとき測定した吸光度を「試料溶液無添加、酵素溶液無添加時の吸光度」とした。
そして、測定結果から、下記(2)式によりスーパーオキサイド消去率を求めた。
スーパーオキサイド消去率(%)={1−(A−B)/(C−D)}×100 ・・・(2)
[但し、前記(2)式中、
A:試料溶液添加、酵素溶液添加時の吸光度、
B:試料溶液添加、酵素溶液無添加時の吸光度、
C:試料溶液無添加、酵素溶液添加時の吸光度、
D:試料溶液無添加、酵素溶液無添加時の吸光度、をそれぞれ表す。]
【0063】
次に、試料濃度を段階的に減少させて上記スーパーオキサイド消去率の測定を行い、スーパーオキサイドの消去率が50%になる試料濃度(μg/mL)を内挿法により求めた。結果を表3に示す。
また、参考例として、8−ヒドロキシリクイリチゲニン、3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニン、リクイリチゲニン及びイソリクイリチゲニンを試料として、上記と同様にしてスーパーオキサイド消去試験を行い、スーパーオキサイド消去率(%)を算出した。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

表3の結果から、製造例1の発酵甘草抽出物が、高いスーパーオキサイド消去作用を有することが認められた。
【0065】
(実施例4)
−マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)活性阻害作用試験−
製造例1の各発酵甘草抽出物及び比較例1の甘草抽出物を試料として用い、下記の試験法によりMMP−1活性阻害作用を試験した。この試験方法は、Wunsch and Heidrich法を一部改変したものである。
【0066】
蓋付試験管にて、20mmol/mL 塩化カルシウム含有0.1mol/L Tris−HCl緩衝液(pH 7.1)に溶解した被験試料50μL、MMP−1(COLLAGENASE Type IV from Clostridium histolyticum(Sigma製))溶液50μLおよびPz−peptide(Pz−peptide:Pz−Pro−Leu−Gly−Pro−D−Arg−OH(BACHEM Feinchemikalien AG製))溶液400μLを混合し、37℃にて30分反応させた後、25mmol/L クエン酸溶液1mLを加え反応を停止した。その後、酢酸エチル5mLを加え、激しく振とうした。これを遠心(1,600×g、10分)し、酢酸エチル層の波長320nmにおける吸光度を測定した。同様の方法で空試験を行い補正した。得られた測定結果から、下記(3)式により、MMP−1活性阻害率を求めた。
MMP−1活性阻害率(%)={1−(C−D)/(A−B)}×100 ・・・(3)
〔但し、前記(3)式中、
A:被験試料無添加、酵素添加での波長320nmにおける吸光度、
B:被験試料無添加、酵素無添加での波長320nmにおける吸光度、
C:被験試料添加、酵素添加での波長320nmにおける吸光度、
D:被験試料添加、酵素無添加での320nmにおける吸光度、を表す。〕
【0067】
試料濃度を段階的に減少させて上記阻害率の測定を行い、阻害率が50%になる試料濃度(μg/mL)を内挿法により求めた。結果を表4に示す。
また、参考例として、8−ヒドロキシリクイリチゲニン、3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニン、リクイリチゲニン及びイソリクイリチゲニンを試料として、上記と同様にしてマトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)活性阻害作用試験を行い、MMP−1活性阻害率(%)を算出した。結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

表4の結果から、製造例1の発酵甘草抽出物が、高いマトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)活性阻害作用を有することが認められた。
【0069】
(配合例1)
−乳液−
下記組成から乳液を常法により製造した。
・製造例1の発酵甘草抽出物・・・0.10g
・ホホバオイル・・・4.00g
・1,3−ブチレングリコール・・・3.00g
・ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)・・・2.50g
・オリーブオイル・・・2.00g
・スクワラン・・・2.00g
・セタノール・・・2.00g
・モノステアリン酸グリセリル・・・2.00g
・オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)・・・2.00g
・パラオキシ安息香酸メチル・・・0.15g
・黄杞抽出物・・・0.10g
・グリチルリチン酸ジカリウム・・・0.10g
・イチョウ葉抽出物・・・0.10g
・コンキオリン・・・0.10g
・オウバク抽出物・・・0.10g
・カツミレ抽出物・・・0.10g
・香料・・・0.05g
・精製水・・・残部(合計100.00g)
【0070】
(配合例2)
−化粧水−
下記組成から化粧水を常法により製造した。
・製造例1の発酵甘草抽出物・・・0.10g
・グリセリン・・・3.00g
・1,3−ブチレングリコール・・・3.00g
・オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)・・・2.00g
・パラオキシ安息香酸メチル・・・0.15g
・クエン酸・・・0.10g
・クエン酸ソーダ・・・0.10g
・油溶性甘草抽出物・・・0.10g
・海藻抽出物・・・0.10g
・クジン抽出物・・・0.10g
・キシロビオースミクスチャー・・・0.05g
・香料・・・0.05g
・精製水・・・残部(合計:100.00g)
【0071】
(配合例3)
−クリーム−
下記組成からクリームを常法により製造した。
・製造例1の発酵甘草抽出物・・・0.10g
・スクワラン・・・10.00g
・1,3−ブチレングリコール・・・6.00g
・流動パラフィン・・・5.00g
・サラシミツロウ・・・4.00g
・セタノール・・・3.00g
・モノステアリン酸グリセリル・・・3.00g
・ラノリン・・・2.00g
・オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)・・・1.50g
・パラオキシ安息香酸メチル・・・1.50g
・ステアリン酸・・・1.00g
・酵母抽出液・・・0.10g
・シソ抽出液・・・0.10g
・シナノキ抽出液・・・0.10g
・ジユ抽出液・・・0.10g
・香料・・・0.10g
・精製水・・・残部(合計:100.00g)
【0072】
(配合例4)
−パック−
下記組成からパックを常法により製造した。
・製造例1の発酵甘草抽出物・・・0.20g
・ポリビニルアルコール・・・15.00g
・エタノール・・・10.00g
・プロピレングリコール・・・7.00g
・ポリエチレングリコール・・・3.00g
・セージ抽出液・・・0.10g
・トウキ抽出液・・・0.10g
・ニンジン抽出液・・・0.10g
・パラオキシ安息香酸エチル・・・0.05g
・香料・・・0.05g
・精製水・・・残部(合計:100.00g)
【0073】
(配合例5)
−錠剤状栄養補助食品−
下記の混合物を打錠して、錠剤状栄養補助食品を製造した。
・製造例1の発酵甘草抽出物・・・30g
・粉糖(ショ糖)・・・178g
・ソルビット・・・10g
・グリセリン脂肪酸エステル・・・12g
【0074】
(配合例6)
−顆粒状栄養補助食品−
下記の混合物を顆粒状に形成して、栄養補助食品を製造した。
・製造例1の発酵甘草抽出物・・・20g
・ビートオリゴ糖・・・1000g
・ビタミンC・・・167g
・ステビア抽出物・・・10g
【0075】
(配合例7)
−顆粒状栄養補助食品−
下記の混合物を顆粒状に形成して、栄養補助食品を製造した。
・製造例1の発酵甘草抽出物・・・20g
・ビートオリゴ糖・・・1000g
・ビタミンC・・・167g
・ステビア抽出物・・・10g
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の発酵甘草抽出物は、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な優れた生理活性作用を有し、例えば、生体内の酸化防止、皮膚の老化を防止乃至改善するのに有効であるので、抗酸化剤、抗老化剤などとして好適に利用することができる。更に、本発明の発酵甘草抽出物は、抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な優れた生理活性作用を有し皮膚のシワや皮膚の弾力低下の防止及び改善に有効であるので、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ゼリー、リップクリーム、口紅、入浴剤、アストリンゼント、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、シャンプー、ポマード、リンスなどに幅広く用いられる。
また、本発明の発酵甘草抽出物を添加した美容用飲食品は、経口摂取によっても抗酸化作用及び抗老化作用をはじめとする様々な優れた生理活性作用を有し、安全性にも優れているので、例えば健康食品、栄養補助食品などに幅広く用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌を用いて、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つを発酵処理することにより得られることを特徴とする発酵甘草抽出物。
【請求項2】
アスペルギルス属糸状菌が、A.oryzae、A.kawachi、A.awamori、A.sojae、A.saitoi及びA.nigerから選ばれた1種以上である請求項1に記載の発酵甘草抽出物。
【請求項3】
8−ヒドロキシリクイリチゲニン及び3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニンのうち少なくとも1つを含有する請求項1から2のいずれかに記載の発酵甘草抽出物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の発酵甘草抽出物を含有することを特徴とする皮膚外用品。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の発酵甘草抽出物を含有することを特徴とする美容用飲食品。
【請求項6】
アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌を用いて、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つを発酵処理する工程を含むことを特徴とする発酵甘草抽出物の製造方法。
【請求項7】
アスペルギルス属糸状菌が、A.oryzae、A.kawachi、A.awamori、A.sojae、A.saitoi及びA.nigerから選ばれた1種以上の糸状菌を用いる請求項6に記載の発酵甘草抽出物の製造方法。
【請求項8】
発酵に用いる培地に、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素、アミノ酸、酵母抽出物、ペプトン、タンパク質及び肉抽出物から選ばれた1種以上を用いる請求項6から7のいずれかに記載の発酵甘草抽出物の製造方法。
【請求項9】
発酵処理する工程において、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つに含有されるリクイリチンが、リクイリチゲニンへの微生物変換を介して、8−ヒドロキシリクイリチゲニンに微生物変換されること、及び、甘草末及び甘草抽出物のうち少なくとも1つに含有されるイソリクリチンが、イソリクイリチゲニンへの微生物変換を介して、3’−ヒドロキシイソリクイリチゲニンに微生物変換されること、のうち少なくとも1つが行われる請求項6から8のいずれかに記載の発酵甘草抽出物の製造方法。

【公開番号】特開2009−155293(P2009−155293A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337350(P2007−337350)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【出願人】(591210622)ヤヱガキ醗酵技研株式会社 (14)
【Fターム(参考)】