説明

発酵蜂蜜、その製造方法および蜂蜜発酵作用を示す酵母

【課題】蜂蜜含量が高く、香りが良好な発酵蜂蜜の製造方法、発酵蜂蜜、発酵蜂蜜酢、乾燥蜂蜜、発酵蜂蜜含有物および蜂蜜発酵作用を示す酵母を提供する。
【解決手段】滅菌された加水蜂蜜を酵母チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)KYU0402株(FERM P-21803)により発酵させる。加水蜂蜜の発酵段階において、アルコール濃度1.0質量%以上になる前に、滅菌された加水蜂蜜、または酵母チゴサッカロミセス・メーリスにより発酵したアルコール濃度1.0質量%未満の発酵蜂蜜を加え、アルコール濃度1.0質量%未満の発酵蜂蜜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵蜂蜜の製造方法、発酵蜂蜜、発酵蜂蜜酢、乾燥蜂蜜、発酵蜂蜜含有物および蜂蜜発酵作用を示す酵母に関する。
【背景技術】
【0002】
蜂蜜はミツバチ(Apis melliferaなど)が種々の花から集めた花蜜(ネクター)をその体内で転化酵素(インベルターゼ)により分解して蜂巣の中に貯蔵する天然由来の甘味料である。その組成としてはブドウ糖、果糖、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸を含み、主成分としてブドウ糖と果糖合わせて約70〜80%、水分を20%含む。
【0003】
蜂蜜は劣化しないとされ賞味期限を過ぎても食することはできるが、保管中に含まれている酵母により、良い香り・悪い香りも含めて蜂蜜っぽくない香りがあらわれることがあり、商品価値を減少する場合が多々ある。
【0004】
従来の応用例として、蜂蜜の酵母を利用した蜂蜜酒(いわゆるミード)は、蜂蜜を数%まで薄めて浸透圧を下げ、また、酵素量を増やし、微生物発酵に適した条件でアルコール発酵させる良い香りの食品の例である。蜂蜜酒の最終のアルコール濃度は多量である。
【0005】
蜂蜜酒(ミード)は蜂蜜だけで発酵させるのは難しく、一般には水で希釈して発酵させるがこの方法ではアルコール濃度2〜3%で発酵が停止するという問題点があった。一因として発酵の主役である酵母に必要な栄養分の不足がありこれを解決するため、数%まで希釈した蜂蜜に特定のアミノ酸を添加して発酵させることが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法ではアミノ酸添加による香味への影響が考えられる。
【0006】
一方、蜂蜜水1mL当たり酵母を4×107〜12×107個以上といった通常のビール製造時に添加する酵母量の3〜8倍量という多量の酵母を添加する方法などが提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、原料が蜂蜜のお酒ということだけで、蜂蜜の濃度が低く、蜂蜜の香りがしないものである。
【0007】
また、多酸清酒に蜂蜜を8〜20%(重量)の範囲で添加した後、滓下げ剤を投入して精製ろ過する方法で製造される蜂蜜酒が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、この方法では蜂蜜は8%(重量)以下だと蜂蜜の特徴が少なくなりアルコール分の希薄な味になり、20%(重量)以上だと甘みが強くなり味の調和がとれないことから、8〜20%(重量)の範囲に限定されている。この提案もお酒に関するものであり、高い濃度で発酵させ得るものではない。
【0008】
一方、果物の割砕液に竜眼の花から得られる蜂蜜10〜25%(重量)および酵母を加えて発酵させることを特徴とする果物蜂蜜酒の製造方法の提案がされている(特許文献4参照)。しかしながら、この方法では果物の割砕液を使用しており、加える蜂蜜の量も少量であり、さらに酵母を添加するお酒の製造方法に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭63−062189号公報
【特許文献2】特許第3121872号公報
【特許文献3】特開2005−158号公報
【特許文献4】特開2005−21032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1乃至4に記載の先行技術では、蜂蜜を水で薄めて発酵させており、蜂蜜の香りが乏しいという課題があった。
【0011】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、蜂蜜含量が高く、香りが良好な発酵蜂蜜の製造方法、発酵蜂蜜、発酵蜂蜜酢、乾燥蜂蜜、発酵蜂蜜含有物および蜂蜜発酵作用を示す酵母を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る発酵蜂蜜の製造方法は、滅菌された加水蜂蜜を酵母チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)により発酵させることを特徴とする。
本発明に係る発酵蜂蜜の製造方法では、前記加水蜂蜜の発酵段階において、アルコール濃度1.0質量%以上になる前に、滅菌された加水蜂蜜、または酵母チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)により発酵したアルコール濃度1.0質量%未満の発酵蜂蜜を加え、アルコール濃度1.0質量%未満の発酵蜂蜜を製造してもよい。
前記加水蜂蜜は、100℃以上150℃以下で1分以上60分以下の加熱処理により滅菌されることが好ましい。
前記加水蜂蜜は、蜂蜜の体積1.0に対し0.4以上1.0以下の量の水を含むことが好ましい。
本発明に係る発酵蜂蜜の製造方法は、前記酵母がチゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)KYU0402株(FERM P-21803)を含むことが好ましい。
本発明に係る発酵蜂蜜は、滅菌された加水蜂蜜を酵母チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis )により発酵させて成ることを特徴とする。
本発明に係る発酵蜂蜜は、前記酵母がチゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)KYU0402株(FERM P-21803)を含むことが好ましい。
本発明に係る発酵蜂蜜は、アルコール濃度が1.0質量%未満であっても、アルコール濃度が1.0質量%以上であってもよい。
本発明に係る発酵蜂蜜酢は、食酢と前記発酵蜂蜜とを混合して成ることを特徴とする。
本発明に係る乾燥蜂蜜は、前記発酵蜂蜜とデキストリンまたはシクロデキストリンとを混合後、乾燥して成ることを特徴とする。
本発明に係る発酵蜂蜜含有物は、前記発酵蜂蜜を食品、化粧品、医薬部外品または医薬品に添加して成ることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る蜂蜜発酵作用を示す酵母は、チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)KYU0402株(FERM P-21803)から成ることを特徴とする。
この酵母は独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成21年4月13日に受託され、受託番号はFERM P-21803である。
【0014】
本発明に係る発酵蜂蜜の製造方法により、蜂蜜含量が高く、香りが良好な本発明に係る発酵蜂蜜を製造することができる。本発明に係る発酵蜂蜜酢、乾燥蜂蜜および発酵蜂蜜含有物は、本発明に係る発酵蜂蜜を用いるため、蜂蜜含量が高く、香りが良好である。本発明に係る蜂蜜発酵作用を示す酵母により、特に蜂蜜含量が高く、香りが良好な本発明に係る発酵蜂蜜を製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、蜂蜜含量が高く、香りが良好な発酵蜂蜜の製造方法、発酵蜂蜜、発酵蜂蜜酢、乾燥蜂蜜、発酵蜂蜜含有物および蜂蜜発酵作用を示す酵母を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】発酵蜂蜜の発酵時間によるアルコール濃度の変化を示すグラフである。
【図2】発酵蜂蜜の発酵時間によるHMF(ヒドロキシメチルフルフラール)の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態の発酵蜂蜜の製造方法は、滅菌された加水蜂蜜を酵母チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)により発酵させることを特徴とする。
本発明の実施の形態の発酵蜂蜜の製造方法では、前記加水蜂蜜の発酵段階において、アルコール濃度1.0質量%以上になる前に、滅菌された加水蜂蜜、または酵母チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)により発酵したアルコール濃度1.0質量%未満の発酵蜂蜜を加え、アルコール濃度1.0質量%未満の発酵蜂蜜を製造してもよい。
本発明の実施の形態の発酵蜂蜜の製造方法は、前記酵母がチゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)KYU0402株を含むことが好ましい。
本発明の実施の形態の発酵蜂蜜は、滅菌された加水蜂蜜を酵母チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)により発酵させて成ることを特徴とする。
前記加水蜂蜜は、100℃以上150℃以下で1分以上60分以下の加熱処理により滅菌されることが好ましい。前記加水蜂蜜は、蜂蜜の体積1.0に対し0.4以上1.0以下の量の水を含むことが好ましい。加水蜂蜜には、水以外に糖分などを添加してもよい。
本発明の実施の形態の発酵蜂蜜は、前記酵母がチゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)KYU0402株(FERM P-21803)を含むことが好ましい。
本発明の実施の形態の発酵蜂蜜は、アルコール濃度が1.0質量%未満であっても、アルコール濃度が1.0質量%以上であってもよい。
本発明の実施の形態の発酵蜂蜜酢は、食酢と前記発酵蜂蜜とを混合して成ることを特徴とする。
本発明の実施の形態の乾燥蜂蜜は、前記発酵蜂蜜とデキストリンまたはシクロデキストリンとを混合後、乾燥して成ることを特徴とする。
本発明の実施の形態の発酵蜂蜜含有物は、前記発酵蜂蜜を食品、化粧品、医薬部外品または医薬品に添加して成ることを特徴とする。
本発明の実施の形態の蜂蜜発酵作用を示す酵母は、チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)KYU0402株(FERM P-21803)から成ることを特徴とする。
なお、以下、本明細書において特に記載しない場合、「%」は「質量%」を意味する。
【0018】
本発明者らは蜂蜜自体に糖濃度が高くても発酵する蜂蜜酵母が存在すると考え、商品価値のない蜂蜜から発酵酵母を分離して種々の条件および使用方法を検討した結果、本発明に至ったものである。本発明により、蜂蜜含量が高くても(50%〜70%くらいまで)充分に発酵が進み、蜂蜜の良い香りと果実の香りがほどよく混じり合った発酵蜂蜜を得ることができる。
【0019】
発酵酵母は13種類の蜂蜜(ジャパンローヤルゼリー(株)製)から分離した。具体的にはショウシ蜂蜜、苜蓿(モクシュク)蜂蜜、黄耆(オウギ)蜂蜜、九龍藤(キュウリュウトウ)蜂蜜、紅橘(コウキツ)蜂蜜、茘枝(レイシ)蜂蜜、枸杞(クコ)蜂蜜、黄連(オウレン)蜂蜜、党人(トウジン)蜂蜜、龍眼(リュウガン)蜂蜜、茴香(ウイキョウ)蜂蜜、マヌカ蜂蜜、ヤハシ蜂蜜(「皇蜜」ジャパンローヤルゼリー(株)の登録商標)を使用した。
【0020】
このうち、九龍藤(キュウリュウトウ)蜂蜜から発酵酵母を分離し、蜂蜜を発酵させた結果、充分に発酵が進み、蜂蜜の良い香りと果実の香りがほどよく混じり合った発酵蜂蜜を得た。この九龍藤酵母は、チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)であることが確認された。
【0021】
この発酵酵母は、以下の方法でスクリーニングされた。
発酵したキュウリュウトウ蜂蜜を5〜20倍希釈し、ポテトデキストロース寒天培地で培養(25℃、7日間)した結果、すべての希釈倍率において白色のコロニーが確認できた。他の形状や色の酵母またはカビの発生はなかった。
【0022】
白色酵母の単一コロニーを得るため、3次元分離方法により酵母を単離した。ポテトデキストロース寒天培地に画線塗抹後、25℃の恒温器で7日間培養し、確認できた単一のコロニーを新たなポテトデキストロース寒天培地で増菌した。
次に、60〜90%に水を加えてに希釈したショウシ蜂蜜をオートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、増菌した単一の酵母を耳掻き一杯程度加え、恒温器25℃、7日間培養したところ、発酵したキュウリュウトウ蜂蜜と同様の果実臭が60%の蜂蜜溶液より確認した。このことから、果実臭の原因は単離した酵母であると判断した。
【0023】
単離した酵母を同定(PCRによりリボソーム塩基配列をシークエンスし、微生物用データベース相同性検索による、属・種の簡易同定)した結果、99.5%の相同性によりチゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)と推定された。この酵母は独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成21年4月13日に受託され、受託番号はFERM P-21803である。
【0024】
本菌株の18Sや28S rRNA遺伝子塩基配列情報、またはその他の分類学的基準遺伝子の塩基配列情報以下のとおりである(配列表参照)。
28S rDNA-D1/D2の塩基配列

GCATATCAATAAGCGGAGGAAAAGAAACCAACCGGGATTGCCTTAGTAACGGCGAGTGAAGCGGCAAGAGCTCAAATTTGAAATCTGGTACCATTCGGTGCCCGAGTTGTAATTTGGAGAGAGCGATTCTGGGGCTGGCGCTTGCCTATGTTCCTTGGAACAGGACGTCATAGAGGGTGAGAACCCCGTGAGGCGAGATGTACCAGTTCTTTGTAGAGCGCTCTCGAAGAGTCGAGTTGTTTGGGAATGCAGCTCTAAGAGGGTGGTAAATTCCATCTAAAGCTAAATACAGGCGAGAGACCGATAGCGAACAAGTACAGTGATGGAAAGATGAAAAGAACTTTGAAAAGAGAGTGAAAAAGGACGTGAAATTGTTGAAAGGGAAGGGCATTTGATCAGACATGGTGTTTTGTGCCCCTCGCTCCTCGTGGGTGGGGGAATCTCGCAGCTCACTGGGCCAGCATCAGTTTTGGTGGCAGGAGAAAGCCTCGGGAATGTGACTCTTGCCTTTTTTGGCGGGGGTGTTATAGCCCGAGGGGAATACTGCCAGCCGGGACTGAGGTATGCGACTCTCGTAGTCAAGGATGTTGGCATAATGGTTATATGCCGCCCGTCTTGAAACACGGACC

全配列長: bp
【0025】
DNAデータベース(BLAST等)上での最近縁属種名やその周辺近縁種との相同性(%)情報は以下のとおりである。

近縁種との相同性(%)情報

近縁種 相同性(%)
Zygosaccharomyces mellis 99.5 *最近縁種
Zygosaccharomyces mellis 99.5
Zygosaccharomyces mellis 98.4
Zygosaccharomyces mellis 98.1
Zygosaccharomyces pseudorouxii 95.6

前記の全配列の内、本解析に用いた配列長: bp

当寄託株は、Zygosaccharomyces mellisとの相同性が高く、安全度レベル1菌種である。

【0026】
チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)KYU0402株(FERM P-21803)の培養条件は以下のとおりである。
培地名:YM寒天培地(BD、271210)
培地組成:
酵母エキスパウダー 3.0g
麦芽エキスパウダー 3.0g
ペプトン 5.0g
グルコース 10.0g
寒天 20.0g
蒸留水 1000ml
培地のpH:無調整
培地の殺菌条件: オートクレーブ 121℃ 15min
培養温度 25℃
培養期間 5〜7日間
酸素要求性:好気
コロニーの形態等(使用培地:YM寒天培地 培養温度:25℃ 培養日数:5〜7日間)は以下のとおりである。
形:点状、隆起状態:半レンズ状、周縁:全縁、表面の形状等:スムーズ、透明度:不透明、粘稠度:バター様。
コロニー形態の多形性は、変異によるコロニー形態の変化:無、培養条件や生理的状態によるコロニー形態の変化:無。
【0027】
本発明の実施の形態の発酵蜂蜜の製造方法において、加水蜂蜜の滅菌は、高温高圧処理により行うことが好ましい。高温高圧処理としては、100℃以上150℃以下で1分以上60分以下の加熱処理が好ましく、特に、120℃20分以上のオートクレーブ処理が好ましい。
以下、詳細に説明する。
【0028】
滅菌された加水蜂蜜として褐変蜂蜜を用いた。褐変蜂蜜は、発酵酵母を得た13種類の蜂蜜に高温高圧処理をして褐変化させたものである。
【0029】
使用する褐変蜂蜜はいずれの蜂蜜でも良いが、高圧高圧処理を行うとタンパク質含量の多い蜂蜜、例えば茴香(ウイキョウ)蜂蜜、党人(トウジン)蜂蜜、ヤハシ蜂蜜(皇蜜※)は澱(おり)が生じるので発酵蜂蜜の原料として使用するにはろ過するなど前処理を行うことが好ましい。したがって、ろ過などの前処理の必要のないショウシ蜂蜜、苜蓿(モクシュク)蜂蜜がより好ましい。
【0030】
高温高圧処理をする加水蜂蜜(以下、褐変蜂蜜と称す)の蜂蜜濃度は70質量%以下であれば発酵する。しかしながら、発酵の速度や扱いやすさを考えると50質量%〜70質量%であることが好ましく、50質量%〜60質量%がより好ましい。特に、褐変蜂蜜は、蜂蜜の体積1.0に対し0.4以上1.0以下の量の水を含むことが好ましい。
【0031】
褐変蜂蜜への九龍藤酵母(Zygosaccharomyces mellis)の添加量は耳かき一杯程度の菌液で良いが、菌量が少ない場合発酵には支障がないが発酵が遅くなる傾向がある。したがって、発酵の速度や扱いやすさを考えると1mLあたり102以上、好ましくは1mLあたり103以上、より好ましくは1mLあたり104以上の添加量が良い。
【0032】
発酵の温度は10℃〜40℃の範囲でよく、蜂蜜の香りを保ちつつ、果実の香りが漂う本開発の発酵蜂蜜を得るためには15℃〜35℃であることが好ましく、さらに20℃〜30℃の範囲がより好ましい。
【0033】
発酵蜂蜜の発酵時間はお酒として利用するのであれば(アルコール濃度1.0%以上)香りの面から考えると3週間以上の発酵が好ましい。より好ましくは4週間以上の発酵が好ましい。
【0034】
また、お酒として利用せず食品素材として利用する場合は(アルコール濃度1.0質量%未満)2週間以内の発酵が好ましい。より好ましくは1週間以内の発酵が好ましい。以下にデータを示す(表1、図1参照)。
【表1】

原料の褐変蜂蜜は初期段階としてHMF(ヒドロキシメチルフルフラール)が高い。蜂蜜の基準として100g中に5.9mg以下である必要がある。以下にデータを示す(表2、図2参照)。
【表2】

【0035】
[試験例1]
[九龍藤酵母と種々の発酵酵母の増殖に関する比較試験]
九龍藤酵母(Zygosaccharomyces mellis)および実用株として使用されている種々の発酵酵母との比較を行った。種々の発酵酵母として、味噌酵母(Zygosaccharomyces rouxii061株)、清酒酵母(協会酵母k701号、k901号、k1601号、宮城酵母MY3227号)、ワイン酵母(赤ワイン酵母OC-2、白ワイン酵母W-3)、パン酵母(G、N、S)を使用した。これらの発酵酵母を蜂蜜あるいは褐変蜂蜜に添加して25℃にて培養を行った。発酵停止はろ過により酵母を取り除くことにより行った。表3に各発酵酵母の発酵の状況を示す。
【0036】
【表3】

【0037】
耐塩性のある九龍藤酵母(Z.mellis)および味噌酵母(Z.rouxii061)は蜂蜜濃度60%程度の加水蜂蜜でも旺盛な生育が認められた。その他の発酵酵母では蜂蜜濃度50質量%程度で生育がやや遅くなり始め60質量%では増殖が抑制される傾向が認められた。九龍藤酵母(Z.mellis)は70質量%の蜂蜜濃度においても増殖・発酵が認められた。
【0038】
また、各発酵酵母のヘッドスペースGC法による香気成分のプロファイル(表4)を調べたところ、清酒酵母、ワイン酵母、パン酵母はイソアミルアルコールとイソブチルアルコールが10〜20ppm前後でイソアミルアルコールが比較的高めであるのに対して、九龍藤酵母(Z.mellis)および味噌酵母(Z.rouxii061)はイソブチルアルコールが約30ppmと高かった。モニター試験の結果、パン酵母はやや不快な臭気が感じられ、清酒酵母では酒類、味噌酵母は味噌を連想させる香りであった。蜂蜜の良い香りと果実の香りがほどよく混じり合った発酵蜂蜜は九龍藤酵母(Z.mellis)由来のみであり、他の発酵酵母では同等の香りは得られなかった。浸透圧に耐える酵母以外は香気成分の生成量が少ないと考えられ、浸透圧に耐えられる酵母、例えば、味噌酵母は充分な香気成分を生成するがイソアミルアルコール生成量も多く、そのために官能評価結果を下げる結果になったと考えられる。
【表4】

【0039】
[試験例2]
[発酵蜂蜜の発酵制御の検討]
酒税法ではアルコール濃度1%を越えるものを酒類と定義している。発酵蜂蜜を食品素材として利用する場合、培養期間が長くなれば香気成分含量は上昇するが、最終的なアルコール濃度を1%とする必要がある(アルコール濃度1%以上での利用を検討する場合はこの限りではない)。加熱処理時間により発酵速度が変わることを考慮して、培養途中で褐変蜂蜜を添加した。すなわち、アルコール濃度1%直前の発酵蜂蜜に同量の褐変蜂蜜(アルコール濃度0%)を混合し培養を継続した。
【0040】
[発酵蜂蜜の発酵制御の検討結果]
褐変蜂蜜(高温高圧処理120℃、20分)をアルコール濃度約1%となった時点で同量の褐変蜂蜜を添加すると3日前後で再び1%に到達した。培養5日目から10日目まではアルコール濃度が1日あたり0.1〜0.15%の増加であり、褐変蜂蜜添加直後のアルコール濃度は0.5%であることから、再び1%に到達するまでの1日あたりのアルコール濃度増加量は0.17%である。この段階でさらに同量の褐変蜂蜜を加えても発酵速度の低下は認められなかった。
【0041】
[試験例3]
[加熱時間による褐変蜂蜜の発酵制御の検討]
蜂蜜は元来、過飽和の高い糖濃度溶液であるため微生物が繁殖することはないが、発酵蜂蜜は加水して培養するため、微生物制御の目的で高温高圧処理(120℃、20分)が必要であり、この処理により過熱生成するHMFが発酵過程においてより良い影響を及ぼし、その結果として、蜂蜜の良い香りと果実の香りがほどよく混じり合った発酵蜂蜜を造る事ができると考えられた。蜂蜜を加熱するとヒドロキシメチルフルフラール(HMF)が上昇するが、生成したHMFは酵母の発酵に従い減少しつつ、且つ、アルコール濃度が上昇する。パン酵母の発酵ではフルフラールが発酵の代謝経路に阻害的な影響を及ぼすことが知られており、過熱生成するHMFの量を制御することで発酵酵母の増殖・発酵を制御できるかを検討した。
【0042】
[加熱時間による褐変蜂蜜の発酵制御の検討]
アルコール濃度を指標として経時的に測定した結果、蜂蜜の加熱時間が長いほど発酵には遅れが出ることが確認された。高圧条件下で1分、5分、10分、20分、60分処理した場合、処理時間60分の場合は処理時間20分に比べて2日間程度発酵が遅れた。ただし、20分以下の処理時間では大きな差は認められなかった(アルコール濃度および発酵後の味と香りの官能評価)。これらの結果から、過熱生成するHMFが発酵過程においてより良い影響を及ぼし、その結果として、蜂蜜の良い香りと果実の香りがほどよく混じり合った発酵蜂蜜を造る事ができると推測した。
【0043】
[試験例4]
[長期培養と拡大培養の検討]
九龍藤酵母(Z.mellis)はアルコール生成のプロファイルが判明していないことから、長期培養と拡大培養を行った。培養は300mLの三角フラスコを用い液量を100mLとし温度を20℃で一定とした。また、拡大培養は40Lのステンレスタンクを用いて約20Lの褐変蜂蜜の発酵を行った。
【0044】
[長期培養と拡大培養の検討結果]
その結果、アルコール濃度は発酵開始後3日目まではほとんど動きがないが、0.1%に達してからは2%程度までほぼ直線的に上昇し、以後やや発酵スピードが遅くなった。食品の目標濃度の1%(アルコール濃度1%以上での利用を検討する場合はこの限りではない)には約1週間で到達した。イソアミルアルコール、イソブチルアルコールは培養開始後2日目までは確認されず、その後同様の上昇曲線を描いた。イソブチルアルコールはイソアミルアルコールの1.5〜2.0倍の濃度で推移し、1週間後はそれぞれ20ppm、10ppmであった(1ヵ月後は各々70ppmと40ppmであった)。
【0045】
一方、拡大培養の場合、1週間目ではアルコール濃度は約0.6%となり1%を越えなかった。2週間目においても1.5%以下であり、5週間目でも4%を越えなかった。三角フラスコでも試験室レベルの培養と比較をすると、1%に到達するまで3日程度遅れた。これは試験室レベルの培養では発酵液の上層から下層までの深さが数センチメートル程度であるのに対して、拡大培養(タンク培養)では十数センチメートルの深さがあるために、酵母の沈降やアルコールの拡散速度が無視できず、全体として発酵に遅れが出たものと考えられた。ただし、培養のスケールアップによる香気への悪影響は全く認められなかった。
【0046】
1週間ごとの発酵蜂蜜の官能評価を行ったところ、試験室レベルの培養および拡大培養(タンク培養)のいずれの場合においても充分な香気が感じられた。したがって、実生産を行う場合は製品の形態との兼ね合いで発酵培養を行い。適切なアルコール濃度のもとでの素材原料として使用すれば良いと考えられる。
[試験例5]
【0047】
[蜂蜜の加熱による発酵の影響について(褐変蜂蜜と非褐変蜂蜜の違い)]
加熱した加水蜂蜜と非加熱の加水蜂蜜を培養したときの香気成分のプロファイルとHMF(ヒドロキシメチルフルフラール)の関連性およびそれら発酵物の官能評価について検討した。
【0048】
褐変蜂蜜:ショウシ蜂蜜100gを、蒸留水で30%あるいは50%濃度になるように希釈したものを121℃、20分の高圧加熱処理を行ったものを培養に使用した。
非褐変蜂蜜:ショウシ蜂蜜100gを、蒸留水で30%あるいは50%濃度になるように希釈したものをそのまま培養に使用した。
酵母は九龍藤酵母(Z.mellis)、味噌酵母(Z.rouxii)、清酒酵母(k1601)、ワイン酵母(OC-2)、ワイン酵母(W-3)、パン酵母(N)を使用した。培養期間は、九龍藤酵母(Z.mellis)では3週間、他の酵母では2週間であった。
【0049】
[評価方法]
褐変蜂蜜と非褐変蜂蜜のHMF量と官能評価の結果を表5に示す。加水蜂蜜の加熱による各種酵母の香気成分のプロファイルの試験結果を表6に示す。官能評価はモニター5名により評価した。
【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
表5に示すように、50%褐変蜂蜜(あるいは30%非褐変蜂蜜)は50%非褐変蜂蜜(あるいは30%非褐変蜂蜜)に比べて、モニター試験による官能評価の結果はHMFの高い褐変蜂蜜の方が良かった。また、表6に示すように、各種酵母菌の発酵では加熱処理をした加水蜂蜜が非加熱の加水蜂蜜よりも異臭の原因となる酢酸エチルの量が少なかった。これらを踏まえて総合的に判断すると、官能評価的に良かったのは、加熱による香気の変化だけではなく、加熱処理によりHMFが産生し、産生したHMFの阻害作用によって発酵の急進を防いで酢酸エチルなどの不快臭の生成を抑制したと推定できる。言い換えると、加熱生成するHMFが発酵過程においてより良い影響を及ぼし、その結果として、蜂蜜の良い香りと果実の香りがほどよく混じり合った発酵蜂蜜を造る事ができると推測した。
【実施例1】
【0053】
[発酵蜂蜜による黒酢の酢カドの抑制作用の検討]
黒酢(一般市販品)と発酵蜂蜜(アルコール濃度1.88%)を重量比を変えて混合し適切な配合比の検討を行った。
対照区:黒酢100%の黒酢飲料の区
試験区1〜試験区10:黒酢と発酵蜂蜜を各々の重量比で混合し、試験区1から試験区10までの黒酢飲料を製造した。
【0054】
[評価方法]
対照区および試験区1乃至10の発酵蜂蜜/黒酢混合物を4倍希釈した希釈飲料を10名のモニターにより評価した。その結果を表7に示す。

【0055】
【表7】

【0056】
表7に示すように、発酵蜂蜜100%は非常に果実臭が強く、4倍希釈して飲用すると評価が高かった。発酵蜂蜜を黒酢に60%加えて希釈して飲用した場合(試験区1〜試験区5)、黒酢の酢カドは取れて酢を美味しく飲むことができた。試験6〜試験区10は黒酢の酢の味が強く出て発酵蜂蜜の酢カド抑制はなかった。

【実施例2】
【0057】
[発酵蜂蜜と賦型剤の組み合わせの検討]
発酵蜂蜜(アルコール濃度3.65%)とデキストリンあるいはシクロデキストリンを混合し、これを凍結乾燥に付し、スティックタイプの発酵蜂蜜FD末を製造した。発酵蜂蜜FD品は良い芳香性がある。製造する際の最適化の検討を行った。
対照区:α-シクロデキストリン100%の区
試験区11:発酵蜂蜜(100g)とα-シクロデキストリン(100g)を混合し、これを凍結乾燥に付し、試験区11のスティックタイプの発酵蜂蜜FD末(140g)を製造した。
試験区12〜試験区20:試験区11と同様に、発酵蜂蜜とα-シクロデキストリンを各々の重量比で混合し、これを凍結乾燥に付し、試験区12乃至試験区20までのスティック蜂蜜を製造した。
【0058】
[評価方法]
試験区11乃至13のスティックタイプの発酵蜂蜜FD末を10名のモニターにより官能評価した。また3ヶ月室温にて保管したときの状態を確認した。その結果を表8に示す。

【0059】
【表8】

【0060】
表8に示すように、スティック蜂蜜は試験区15(発酵蜂蜜とα-シクロデキストリンが1:1)および試験区16(発酵蜂蜜とα-シクロデキストリンが6:4)がもっとも良く、3ヶ月保管後の状態も良かった。発酵蜂蜜の割合が多すぎると(試験区18)、官能評価は良いがスティック状の蜂蜜としては扱いにくかった。一方、α-シクロデキストリンの割合が多くなると(試験区13)、発酵蜂蜜の芳香性が感じられなくなった。
【0061】
上記実施例においては使用例を載せたが、これに限らず、新しい原料として発酵蜂蜜はあらゆる使用法が考えられる。例えば、アルコール濃度1%以上と1%以下の素材としての利用、アルコール分だけを除いた素材としての利用、食品素材としての利用、化粧品、医薬部外品、医薬品の原料としての利用など幅広い利用法が考えられる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌された加水蜂蜜を酵母チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)により発酵させることを特徴とする発酵蜂蜜の製造方法。
【請求項2】
前記加水蜂蜜の発酵段階において、アルコール濃度1.0質量%以上になる前に、滅菌された加水蜂蜜、または酵母チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)により発酵したアルコール濃度1.0質量%未満の発酵蜂蜜を加え、アルコール濃度1.0質量%未満の発酵蜂蜜を製造することを特徴とする請求項1記載の発酵蜂蜜の製造方法。
【請求項3】
前記加水蜂蜜が100℃以上150℃以下で1分以上60分以下の加熱処理により滅菌されることを特徴とする請求項1または2記載の発酵蜂蜜の製造方法。
【請求項4】
前記加水蜂蜜が蜂蜜の体積1.0に対し0.4以上1.0以下の量の水を含むことを特徴とする請求項1,2または3記載の発酵蜂蜜の製造方法。
【請求項5】
前記酵母がチゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)KYU0402株(FERM P-21803)を含むことを特徴とする請求項1,2,3または4記載の発酵蜂蜜の製造方法。
【請求項6】
滅菌された加水蜂蜜を酵母チゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)により発酵させて成ることを特徴とする発酵蜂蜜。
【請求項7】
前記加水蜂蜜が蜂蜜の体積1.0に対し0.4以上1.0以下の量の水を含むことを特徴とする請求項6記載の発酵蜂蜜。
【請求項8】
前記酵母がチゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)KYU0402株(FERM P-21803)を含むことを特徴とする請求項6または7記載の発酵蜂蜜。
【請求項9】
アルコール濃度が1.0質量%未満であることを特徴とする請求項6,7または8記載の発酵蜂蜜。
【請求項10】
アルコール濃度が1.0質量%以上であることを特徴とする請求項6,7または8記載の発酵蜂蜜。
【請求項11】
食酢と請求項6乃至10のいずれかに記載の発酵蜂蜜とを混合して成ることを特徴とする発酵蜂蜜酢。
【請求項12】
請求項6乃至10のいずれかに記載の発酵蜂蜜とデキストリンまたはシクロデキストリンとを混合後、乾燥して成ることを特徴とする乾燥蜂蜜。
【請求項13】
請求項6乃至10のいずれかに記載の発酵蜂蜜を食品、化粧品、医薬部外品または医薬品に添加して成ることを特徴とする発酵蜂蜜含有物。
【請求項14】
蜂蜜発酵作用を示す酵母であるチゴサッカロミセス・メーリス(Zygosaccharomyces mellis)KYU0402株(FERM P-21803)。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−263858(P2010−263858A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119290(P2009−119290)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(592142603)ジャパンローヤルゼリー株式会社 (5)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【Fターム(参考)】