説明

皮膚外用剤

【課題】トラネキサム酸を有効成分として含む皮膚外用剤であって、より経皮吸収性に優れた皮膚外用剤を提供すること。
【解決手段】本発明の皮膚外用剤は、界面活性剤および水を含むリオトロピック液晶と、前記リオトロピック液晶の水相に封入されているトラネキサム酸とを含む。本発明の皮膚外用剤は、例えば、肝斑や老人性色素斑、紫外線照射や手術、外傷、熱傷、にきびなどを原因とする色素沈着を予防または治療するための皮膚外用剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラネキサム酸を有効成分として含む皮膚外用剤に関し、特に色素沈着を予防または治療するための皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線照射などによって皮膚に炎症が起きると、赤みや腫れ、痛みなどが生じた後、色素沈着が生じる。色素沈着を引き起こす重要な因子の一つとして、プロスタグランジンE2(以下「PGE2」と略記する)が挙げられる。PGE2は、細胞内においてアラキドン酸を材料に生成され、その後細胞外に分泌される。具体的には、1)フォスフォリパーゼの作用により細胞膜から細胞内にアラキドン酸が遊離され、2)遊離したアラキドン酸がシクロオキシゲナーゼ(以下「COX」と略記する)によりPGE2に変換され、3)生成したPGE2が細胞外に分泌される。皮膚への紫外線照射や皮膚へのアラキドン酸の塗布などによりPGE2を産生させると、皮膚に色素沈着が生じることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
このような皮膚における色素沈着は、COX阻害剤のインドメタシンを外用することにより抑制することができる(例えば、非特許文献2参照)。しかし、インドメタシンなどの非ステロイド性消炎鎮痛剤(以下「NSAID」と略記する)は、医薬品であるため化粧品に使用することができない。また、NSAIDは、外用であっても喘息発作を誘発する懸念があること、発赤や掻痒、発疹などの副作用の可能性があること、目の周囲や粘膜などに使用できないことなどの理由により、化粧品に適用するのは困難である(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
トラネキサム酸は、止血剤、抗炎症剤および抗アレルギー剤(内服薬または注射薬)として知られている化合物である。トラネキサム酸は、プラスミンおよびプラスミノーゲンのリジン残基(フィブリンアフィニティ部位)に結合し、プラスミンおよびプラスミノーゲンのフィブリンへの結合を阻害することで、止血、抗炎症および抗アレルギー効果を発揮する。また、近年、トラネキサム酸は、顔面頬部を中心とする色素沈着である肝斑の改善薬(内服薬)としても用いられている。
【0005】
従来、トラネキサム酸は、主として内服薬または注射薬として用いられてきた。トラネキサム酸を外用剤として使用した報告は、それほど多くないが、例えば以下のものがある。1)トラネキサム酸配合乳液の連用によって、UV照射により生じる色素沈着に対する防止効果が報告されている(例えば、非特許文献4参照)。2)ヒト表皮細胞を用いたインビトロ試験により、トラネキサム酸のメラニン産生抑制作用が確認され、皮膚外用によるトラネキサム酸の美白効果が示唆されている(例えば、特許文献1参照)。3)トラネキサム酸クリーム剤の外用によって色素沈着症(肝斑)が改善されたという臨床報告もある(例えば、非特許文献5参照)。
【0006】
しかしながら、水溶性のトラネキサム酸を皮膚の内部まで効率的に到達させることは非常に困難であり、現在もなお、外用剤とした場合にトラネキサム酸の効果を十分に発揮させることは実現できていない。
【0007】
ところで、皮膚の最外層に存在する角質層は外界に対する防御機能を担っており、特に角質層の細胞間隙を充填する細胞間脂質がバリア機能を保つ上で重要と考えられている。この細胞間脂質は、面間隔の異なる何種類かのラメラ液晶により構成されており、外部からの物質や細菌などの侵入を阻止している。したがって、皮膚から薬剤を効率的に吸収させるためには、この皮膚のバリア機能を回避することが必要となる。このような皮膚のバリア機能を回避しうる経皮吸収促進剤として、リオトロピック液晶を有効成分として含む経皮吸収促進剤がある(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、予め調製したリオトロピック液晶(経皮吸収促進剤)に、活性成分(レチノイン酸など)を添加し、均一に分散させることで、経皮吸収性に優れた皮膚外用剤を調製できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−100933号公報
【特許文献2】国際公開第2006/118246号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Photochem. Photobiol., Vol.47, 1998, p.136-141.
【非特許文献2】J. Invest. Dermatol. Vol.103, 1994, p.642-646.
【非特許文献3】一般用医薬品集2009年版, 日本医薬情報センター, 2008.
【非特許文献4】Fragrance Journal 臨時増刊号 No.18, 2003, p.42-49.
【非特許文献5】皮膚の科学, Vol.6, No.6, 2007, p.649-652.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、これまでは、トラネキサム酸を外用で用いるとその効果(例えば、美白効果)を十分に発揮させることができなかった。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、トラネキサム酸を有効成分として含む皮膚外用剤であって、これまでのものよりも、より一層効果の優れた皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するべく研究を行う過程で、経皮吸収促進効果を有するリオトロピック液晶にトラネキサム酸を添加することを試みたが、意外にも、これまでの活性成分(レチノイン酸など)では可能であったリオトロピック液晶の水相への封入ができず、十分な効果を有する皮膚外用剤を調製できないことを見出した。
【0013】
そこで、本発明者はさらに鋭意研究を行い、予めリオトロピック液晶にトラネキサム酸を均一に分散させ、かつ皮膚外用剤の製造過程(例えば、乳化過程)で前記リオトロピック液晶をタイミングよく配合することにより、トラネキサム酸がリオトロピック液晶の水相に封入された皮膚外用剤を調製できることを見出すに至った。さらに驚くべきことに、このように調製された皮膚外用剤は、トラネキサム酸単剤またはリオトロピック液晶のみからでは予想できない優れた色素沈着抑制作用を有することも見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第一は、以下の皮膚外用剤に関する。
[1]界面活性剤および水を含むリオトロピック液晶と、前記リオトロピック液晶の水相に封入されているトラネキサム酸と、を有する皮膚外用剤。
[2]前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である、[1]に記載の皮膚外用剤。
[3]前記界面活性剤は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である、[2]に記載の皮膚外用剤。
[4]色素沈着を予防または治療するための[1]〜[3]のいずれかに記載の皮膚外用剤。
[5]前記色素沈着は、アラキドン酸誘導色素沈着である、[4]に記載の皮膚外用剤。
[6]剤形が、乳液、ローション、ゲル剤または軟膏である、[1]〜[5]のいずれかに記載の皮膚外用剤。
[7]医薬品、医薬部外品または化粧品である、[1]〜[6]のいずれかに記載の皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トラネキサム酸を皮膚の内部まで効率的に到達させることができる皮膚外用剤を提供することができる。例えば、本発明によれば、肝斑や老人性色素斑、紫外線照射、手術、外傷、熱傷、にきびなどを原因とする色素沈着の予防または治療により有効な皮膚外用剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】各実験群の塗布領域のL*値の変化量(ΔL*値)を示すグラフ
【図2】各実験群の個体の皮膚におけるメラニン色素の分布を示す写真
【図3】各実験群の塗布領域のメラニン色素量を示すグラフ
【図4】各実験群の塗布領域のメラノサイト数を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.本発明の皮膚外用剤
本発明の皮膚外用剤は、リオトロピック液晶と、トラネキサム酸とを含むことを特徴とする。本発明の皮膚外用剤は、その他任意の成分を含んでいてもよい。本発明の皮膚外用剤は、例えば、医薬品、医薬部外品または化粧品として使用されうる。
【0018】
本発明の皮膚外用剤に含まれるリオトロピック液晶は、界面活性剤(両親媒性分子)および水を含む。リオトロピック液晶(lyotropic liquid crystal)とは、界面活性剤と水との共存系において、界面活性剤の二分子層構造が形成され、それが液晶状態となったものをいう。界面活性剤の二分子層構造からなる液晶構造物(ラメラ構造やヘキサゴナル構造など)の間には、水相が存在する。界面活性剤の二分子層構造からなる液晶構造物の大きさは、通常1/1000mm未満である。リオトロピック液晶は、細胞間脂質の構造の規則性を一時的に変化させて、細胞間にトラネキサム酸の透過経路を形成する。すなわち、リオトロピック液晶は、トラネキサム酸の経皮吸収性を高める機能を担っている。
【0019】
リオトロピック液晶を構成する界面活性剤は、水との共存系において、水との混合比率および温度に応じて液晶状態(面間隔が10nm〜800nmの周期構造が好ましい)を形成しうるものであれば特に限定されない。界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれのタイプの界面活性剤であってもよい。また、界面活性剤は、レシチン(卵黄レシチンや大豆レシチンなど)やサポニンなどの天然由来の界面活性剤であってもよい。界面活性剤は、単一のものを単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0020】
非イオン性界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が含まれる。
【0021】
アニオン性界面活性剤の例には、セッケン(脂肪酸のナトリウム塩やカリウム塩など)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ナトリウム塩など)、高級アルコール硫酸エステル塩(ナトリウム塩など)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(ナトリウム塩など)、α−スルホ脂肪酸エステル、α−オレフィンスルホン酸塩(ナトリウム塩など)、モノアルキルリン酸エステル塩(ナトリウム塩など)、アルカンスルホン酸塩(ナトリウム塩など)が含まれる。
【0022】
カチオン性界面活性剤の例には、アルキルトリメチルアンモニウム塩(クロリドなど)、ジアルキルジメチルアンモニウム塩(クロリドなど)、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩(クロリドなど)、アミン塩(酢酸塩や塩酸塩など)が含まれる。
【0023】
両性界面活性剤の例には、アルキルアミノ脂肪酸塩(ナトリウム塩など)、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドが含まれる。
【0024】
上記の通り、リオトロピック液晶を構成する界面活性剤は、特に限定されないが、各種の界面活性剤の中でも非イオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が特に好ましい。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、酸化エチレンの平均付加モル数が5〜100のものが好ましく、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が特に好ましい。
【0025】
リオトロピック液晶中の界面活性剤の割合は、5〜80重量%の範囲内が好ましく、7〜70重量%の範囲内がより好ましく、10〜65重量%の範囲内が特に好ましい。皮膚外用剤中の界面活性剤の割合は、0.1〜30重量%の範囲内が好ましく、0.5〜25重量%の範囲内がより好ましく、1〜23重量%の範囲内が特に好ましい。界面活性剤のHLB値は、8以上が好ましく、10以上がより好ましく、12以上が特に好ましい。
【0026】
リオトロピック液晶を構成する水は、特に限定されず、純水や蒸留水などであればよい。また、水には、水と相溶性のあるエタノールやイソプロパノールなどの有機溶媒が含まれていてもよい。リオトロピック液晶中の水の割合は、5〜80重量%の範囲内が好ましく、10〜60重量%の範囲内がより好ましく、13〜50重量%の範囲内が特に好ましい。皮膚外用剤中の水の割合は、45〜85重量%の範囲内が好ましく、55〜80重量%の範囲内がより好ましく、60〜75重量%の範囲内が特に好ましい。
【0027】
本発明の皮膚外用剤に含まれるリオトロピック液晶は、さらに油分を含んでいてもよい。油分を含ませることで、リオトロピック液晶の液晶構造を角質層の細胞間脂質が形成するラメラ構造に近似させることができる。このようにリオトロピック液晶の液晶構造をラメラ構造に近似させることで、細胞間脂質の構造の相転移を起こさせやすくすることができ、トラネキサム酸を皮膚から吸収させやすくすることができる。
【0028】
リオトロピック液晶に含まれる油分の例には、小麦胚芽油やトウモロコシ油、ヒマワリ油、ヒマシ油、大豆油などの植物油;シリコーン油;イソプロピルミリステートやグリセリルトリオクタノエート、ジエチレングリコールモノプロピレンペンタエリスリトールエーテル、ペンタエリスリチルテトラオクタノエートなどのエステル油;スクワラン;スクワレン;流動パラフィン;ポリブテンが含まれる。
【0029】
油分は、単一のものを単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。リオトロピック液晶中の油分の割合は、1〜80重量%の範囲内が好ましく、5〜70重量%の範囲内がより好ましく、10〜65重量%の範囲内が特に好ましい。皮膚外用剤中の油分の割合は、1〜45重量%の範囲内が好ましく、5〜40重量%の範囲内がより好ましく、8〜35重量%の範囲内が特に好ましい。
【0030】
また、本発明の皮膚外用剤に含まれるリオトロピック液晶は、さらに多価アルコールを含んでいてもよい。多価アルコールを含ませることで、液晶構造の形成容易化(相領域の拡大)や安定化を図ることができる。
【0031】
多価アルコールの例には、ポリエチレングリコールやポリアルキレングリコールなどのポリアルキレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール、3−メチルペンタン−1,5−ジオール、ペンタン−1,2−ジオール、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、2−メチルプロパン−1,3−ジオール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが含まれる。
【0032】
多価アルコールは、単一のものを単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。リオトロピック液晶中の多価アルコールの割合は、1〜55重量%の範囲内が好ましく、3〜52重量%の範囲内がより好ましく、5〜50重量%の範囲内が特に好ましい。皮膚外用剤中の多価アルコールの割合は、1〜35重量%の範囲内が好ましく、2〜30重量%の範囲内がより好ましく、4〜25重量%の範囲内が特に好ましい。
【0033】
また、本発明の皮膚外用剤に含まれるリオトロピック液晶は、補助界面活性剤としてコレステロールなどをさらに含んでいてもよい。補助界面活性剤を含ませることで、多種多様の界面活性剤を用いた場合でも界面膜曲率の低減化を図ることができ、液晶構造の形成容易化や安定化を図ることができる。リオトロピック液晶中の補助界面活性剤の割合は、0.01〜10重量%の範囲内が好ましい。皮膚外用剤中の補助界面活性剤の割合は、0.1〜4重量%の範囲内が好ましい。
【0034】
本発明の皮膚外用剤中のリオトロピック液晶の割合は、特に限定されないが、経皮吸収促進効果、安定性および使用感を考慮すると5〜30重量%の範囲内が好ましい。本発明の皮膚外用剤中にリオトロピック液晶が含まれていることは、本発明の皮膚外用剤を偏光顕微鏡で観察することで確認することができる。
【0035】
本発明の皮膚外用剤に含まれるトラネキサム酸(トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸)は、フリーのカルボキシル基を有するトラネキサム酸であってもよいし、塩であってもよい。トラネキサム酸の塩の例には、塩酸塩や硝酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩;メタンスルホン酸塩などの有機酸塩;ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩が含まれる。本発明において、トラネキサム酸またはその塩としては、トラネキサム酸が好ましい。本発明の皮膚外用剤に含まれるトラネキサム酸は、公知の方法を用いて製造したものでもよいが、市販品を利用してもよい。トラネキサム酸については、第15改正日本薬局方2008に収載されている。
【0036】
本発明の皮膚外用剤は、有効成分として含まれるトラネキサム酸が、リオトロピック液晶の水相に封入されていることを特徴とする。ここで、「リオトロピック液晶の水相」には、脂質相間に位置する水相の中だけでなく、水相と脂質相との界面も含まれる。すなわち、トラネキサム酸は、リオトロピック液晶の水相の中か、または水相と脂質相との界面に存在している。
【0037】
本発明の皮膚外用剤中のトラネキサム酸の割合は、特に限定されないが、0重量%超10重量%以下が好ましく、0.5〜5重量%の範囲内が特に好ましい。
【0038】
本発明の皮膚外用剤は、色素沈着を予防または治療するための外用剤として使用されうる(実施例参照)。ここで、色素沈着には、アラキドン酸の塗布により誘導される色素沈着(アラキドン酸誘導色素沈着)が含まれる。本発明の皮膚外用剤を塗布すると、リオトロピック液晶の作用により形成された透過経路を通して、トラネキサム酸が皮膚の内部まで効率的に到達する。したがって、本発明の皮膚外用剤は、従来のトラネキサム酸含有外用剤に比べて経皮吸収性が高く、従来のトラネキサム酸含有外用剤よりもより優れた色素沈着抑制作用を有する。
【0039】
本発明の皮膚外用剤の剤形の例には、乳液やローション、ゲル剤、軟膏などが含まれる。本発明の皮膚外用剤は、剤形に応じた分散媒(基剤)や防腐剤、保湿剤、抗酸化剤などの公知の成分を適宜含んでいてもよい。
【0040】
本発明の皮膚外用剤は、特に限定されないが、例えば次に説明する本発明の製造方法により製造することができる。
【0041】
2.本発明の皮膚外用剤の製造方法
本発明の皮膚外用剤の製造方法は、1)界面活性剤に水を添加してリオトロピック液晶を調製する第1のステップと、2)前記リオトロピック液晶にトラネキサム酸を添加する第2のステップと、3)前記トラネキサム酸含有リオトロピック液晶を他の成分に配合して皮膚外用剤を調製する第3のステップとを含む。
【0042】
第1のステップでは、界面活性剤に水を添加してリオトロピック液晶を調製する。このステップでは、リオトロピック液晶を構成する油分、多価アルコール、補助界面活性剤などをさらに添加してもよい。この場合、各成分を別個に添加してもよいし、各成分を予め界面活性剤と混合しておいてもよい。各成分の量(割合)は、前述の通りである。
【0043】
リオトロピック液晶は、その構成成分となる水と界面活性剤を、所定の温度において所定の比率で混合することにより調製されうる。必要に応じて構成成分を混合する前後に一時的に加温するといった操作を行ってもよい。
【0044】
第2のステップでは、第1のステップで調製したリオトロピック液晶にトラネキサム酸を均一に分散させる。このステップでは、リオトロピック液晶の水相の中にトラネキサム酸を封入させなくてもよい。したがって、トラネキサム酸の配合量は、リオトロピック液晶に含まれる水に溶解可能な量より多くてもよく、最終製品としての皮膚外用剤中の配合量に応じて適宜設定すればよい。
【0045】
第3のステップでは、前記トラネキサム酸含有(分散)リオトロピック液晶を他の成分に配合して所望の剤形(例えば、乳剤)の皮膚外用剤を調製する。このとき、日本薬局方などに記載の通常の方法で製剤化する過程において、第2のステップで調製したトラネキサム酸含有(分散)リオトロピック液晶をタイミングよく配合することで、トラネキサム酸をリオトロピック液晶の水相に封入させる。たとえば、乳剤を調製する場合は、界面活性剤を溶解させた油相に水を添加して乳化させた直後に、トラネキサム酸含有(分散)リオトロピック液晶を一気に添加することで、トラネキサム酸がリオトロピック液晶の水相に封入された乳剤を調製することができる。水には、水と相溶性のある多価アルコールなどの有機溶媒や、任意の成分が含まれていてもよい。また、製剤化の際には、防腐剤や保湿剤や抗酸化剤などの公知の成分を適宜添加してもよい。
【0046】
以上の手順により、トラネキサム酸がリオトロピック液晶の水相に封入された本発明の皮膚外用剤を調製することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。本実施例では、本発明の皮膚外用剤が、アラキドン酸の塗布により誘導される色素沈着の予防に有効であることを示す。
【0048】
1.製剤の調製
(1)リオトロピック液晶の調製
植物性スクワラン(23g)、水素添加大豆リン脂質(水添レシチン)(10g)、コレステロール(3.33g)およびPEG−60水添ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)(3.50g)を混合し、80℃で30分間加温して溶解させた。さらにグリセリン(45.97g)を徐々に添加して混合した後、室温まで冷却した。さらに、水(14.20g)を徐々に添加して混合し、リオトロピック液晶(A)を調製した。
【0049】
(2)2%トラネキサム酸含有5%リオトロピック液晶配合乳液(実施例1の皮膚外用剤)の調製
皮膚外用剤(乳液)中の最終濃度が2%となるようにトラネキサム酸を(1)で調製したリオトロピック液晶(A)に少量ずつ添加し、均一に分散するまで攪拌して、トラネキサム酸を均一に分散させたリオトロピック液晶(A’)を調製した。
【0050】
上記リオトロピック液晶(A’)とは別に、大豆レシチン(1g)、コレステロール(0.5g)およびジプロピレングリコール(3g)を混合し、80℃で30分間加温して溶解させた。さらにシリコーン油(10g)を添加して混合物(B)を調製した。
【0051】
また、ポリエチレングリコール(2g)、パラオキシ安息香酸メチル(0.1g)、グリチルリチン酸ジカリウム(0.1g)、水(58.8g)、カルボキシビニルポリマー2%水溶液(16g)を混合し、60℃で10分間加温して溶解させて混合物(C)を調製した。
【0052】
混合物(B)をホモミキサーを用いて4000rpmで回転攪拌させ、これに混合物(C)を添加し、さらに10分間攪拌して乳化させた。得られた乳化物をパドルミキサーを用いて200rpmで回転攪拌させ、これにトラネキサム酸含有(分散)リオトロピック液晶(A’)を一気に添加し、乳化させた。得られた乳化物に、10%水酸化カリウムおよびキサンタンガム(0.04g)を添加し、安定な乳液(トラネキサム酸がリオトロピック液晶の水相に封入された乳液)を得た。
【0053】
(3)5%リオトロピック液晶配合乳液(比較例1の皮膚外用剤)の調製
上記(2)の手順において、トラネキサム酸含有(分散)リオトロピック液晶(A’)の代わりにトラネキサム酸不含リオトロピック液晶(A)を用いて乳液を調製した。
【0054】
(4)2%トラネキサム酸含有クリーム(比較例2の皮膚外用剤)の調製
日本薬局方などに記載の通常の方法でクリームを調製する過程において、トラネキサム酸が2%の割合(重量比)になるように配合して、2%トラネキサム酸含有クリーム(比較例2の皮膚外用剤)を調製した。
【0055】
2.動物実験
ワイザーメープルモルモット(8週齢、オス;東京実験動物)の背部全体の毛をバリカンで刈った。各個体の背部に1.5×1.5cmの大きさの塗布領域を6つ設定し、各領域の毛をさらにシェーバーで刈った。各塗布領域をぬるま湯で洗浄し、余分な水分を拭き取ってから1時間30分経過した後、各塗布領域に製剤(2%トラネキサム酸含有5%リオトロピック液晶配合乳液(実施例1)、5%リオトロピック液晶配合乳液(比較例1)または2%トラネキサム酸含有クリーム(比較例2))を塗布し、さらにその上に3%アラキドン酸溶液(40μL;シグマ)をマイクロピペットで塗布した。この操作を、週5日、2週間行った。
【0056】
塗布した製剤の種類およびアラキドン酸塗布の有無で分けた5つの実験群(実験群1〜5)を表1に示す。
【表1】

【0057】
3.色彩色差値の測定
実験開始前、実験を開始してから1週間後および2週間後の時点で製剤を塗布する前に、各塗布領域の色彩色差値を測定した。各個体の各塗布領域について、5か所の色彩色差値を色彩色差計(CR−400;コニカミノルタ株式会社)を用いて測定した。L*a*b*表色系を用いてL*値(色度:白〜黒)を求めた。また、L*値の変化量を示すΔL*値を以下の式により求めた。
ΔL*値=(測定したL*値−実験開始前のL*値)
【0058】
図1は、各実験群の塗布領域のL*値の変化量(ΔL*値)を示すグラフである(n=6)。実験を開始してから1週間後の時点では、各実験群の結果に大きな差は見られず、いずれも非処置群(実験群5)と同程度であった。しかし、実験を開始してから2週間経過すると、各実験群の結果に大きな差が現れた。
【0059】
実験を開始してから2週間後の実験群4と実験群5の結果を比較すると、アラキドン酸溶液の塗布により、L*値が2週間で6減少したこと(皮膚が黒化したこと)がわかる。また、実験を開始してから2週間経過後の実験群1と実験群4の結果を比較すると、2%トラネキサム酸含有5%リオトロピック液晶配合乳液の塗布により、L*値の減少(皮膚の黒化)が有意に抑制されたことがわかる(**:p<0.01)。しかも、実験群1の結果は、実験を開始してから1週間後の結果と2週間後の結果がほとんど同じであることから、2%トラネキサム酸含有5%リオトロピック液晶配合乳液の塗布により、L*値の減少(皮膚の黒化)が完全に抑制されていることがわかる。この現象は実験群2および3の結果からは予測不可能なものと言える。
【0060】
4.メラニン色素量の測定
上記L*値の測定結果を踏まえて、各実験群の各個体の表皮層中のメラニン色素量を測定した。
【0061】
製剤の塗布を終了した日(実験を開始してから2週間後)の翌日に、各個体をエーテル麻酔下で屠殺した。各塗布領域の皮膚を10%ホルマリンで50時間固定し、6μm厚のパラフィン切片を作製した。各切片をフォンタナ・マッソン染色(メラニン色素を染色)で染色した。フォンタナ・マッソン染色は、以下の手順により行った。1)切片を脱パラフィンした後、流水で洗浄し、2)アンモニア銀液で一晩反応させ、3)写真用酸性硬膜定着液(武藤化学株式会社)に5分間浸漬し、4)ケルンエヒトロートで対比染色し、5)脱水および透徹をした後、封入した。各組織切片を、光学顕微鏡(BH−2;オリンパス株式会社)で観察し、撮像した。各写真(画像)の表皮層中のメラニン色素量をイメージソフトを用いて数値化し、基底層長で補正した値をその個体の表皮層中のメラニン色素量とした。
【0062】
図2は、各実験群の個体の皮膚におけるメラニン色素の分布を示す写真(フォンタナ・マッソン染色像)である。スケールバーは50μmを示している。実験群4と実験群5の結果を比較すると、アラキドン酸溶液を塗布により、表皮基底層に多数のメラニン色素が産生されたことがわかる。また、実験群1と、実験群2,3および4の結果を比較すると、2%トラネキサム酸含有5%リオトロピック液晶配合乳液の塗布により、表皮基底層におけるメラニン色素の産生が抑制されたことがわかる。
【0063】
図3は、各実験群の塗布領域のメラニン色素量を示すグラフである(n=6)。実験群4と実験群5の結果を比較すると、アラキドン酸溶液の塗布により、メラニン色素量が2.7倍増加したことがわかる(**:p<0.01)。また、実験群1と実験群4の結果を比較すると、2%トラネキサム酸含有5%リオトロピック液晶配合乳液の塗布により、メラニン色素の産生が有意に抑制されたことがわかる(**:p<0.01)。さらに、実験群2および3よりもより一層優れたメラニン色素の産生抑制効果が得られていることもわかる。
【0064】
5.メラノサイト数の測定
メラニン色素量の減少がメラノサイトの数の減少によるものか否かを確認するため、各実験群の各個体の表皮層中のメラノサイトの数を計測した。
【0065】
製剤の塗布を終了した日(実験を開始してから2週間後)の翌日に、各個体をエーテル麻酔下で屠殺した。各塗布領域の皮膚を10%ホルマリンで50時間固定し、6μm厚のパラフィン切片を作成した。抗S−100ポリクローナル抗体(ダコ社)を一次抗体とし、Alexa flor 488標識抗ウサギIgG抗体(インビトロジェン社)を二次抗体として、各切片を免疫染色した。核の染色には、ヨウ化プロピジウム(vectashield)を用いた。各組織切片の表皮層中のS−100陽性細胞(メラノサイト)の数を、蛍光顕微鏡(BioZero;株式会社キーエンス)下で計測し、基底層長で補正した値をその個体の表皮層中のメラノサイト数とした。
【0066】
図4は、各実験群の塗布領域のメラノサイト数を示すグラフである(n=6)。実験群5では、メラノサイトの数が2.9個/mmであったのに対し、実験群4では、メラノサイトの数が5.4個/mmに増加していた(**:p<0.01)。また、実験群2,3と実験群4の結果を比較すると、5%リオトロピック液晶配合乳液または2%トラネキサム酸含有クリームを塗布しても、メラノサイトの増殖を有意に抑制できないことがわかる。一方、実験群1と実験群4の結果を比較すると、2%トラネキサム酸含有5%リオトロピック液晶配合乳液の塗布により、メラノサイトの増殖を有意に抑制しうることがわかる(*:p<0.05)。さらに、実験群2および3よりもメラノサイト増殖抑制効果が一層優れたものとなっていることもわかる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の皮膚外用剤は、例えば、肝斑や老人性色素斑、紫外線照射や手術、外傷、熱傷、にきびなどを原因とする色素沈着を予防または治療するための皮膚外用剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤および水を含むリオトロピック液晶と、
前記リオトロピック液晶の水相に封入されているトラネキサム酸と、
を有する皮膚外用剤。
【請求項2】
前記界面活性剤は、非イオン性界面活性剤である、請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
前記界面活性剤は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である、請求項2に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
色素沈着を予防または治療するための請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
前記色素沈着は、アラキドン酸誘導色素沈着である、請求項4に記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
剤形が、乳液、ローション、ゲル剤または軟膏である、請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
医薬品、医薬部外品または化粧品である、請求項1に記載の皮膚外用剤。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−229117(P2010−229117A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81349(P2009−81349)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【出願人】(506151235)株式会社ナノエッグ (11)
【Fターム(参考)】