目標物の位置測定方法および位置測定装置
【目的】 広角レーダ装置において測定誤差の度合を示す値を出力できる「目標物の位置測定方法および位置測定装置」を提供することである。
【構成】 広角レーダ装置において、目標物の現在位置、速度、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置を予測し、ついで、所定時間後の目標物の位置を測定し、該予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定し、該現在位置と前記測定点位置との差を累積して測定誤差の度合を示す値を出力する。現在位置を決定するに際して、測定点までの距離に応じた第1の重みと測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮し、予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する。
【構成】 広角レーダ装置において、目標物の現在位置、速度、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置を予測し、ついで、所定時間後の目標物の位置を測定し、該予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定し、該現在位置と前記測定点位置との差を累積して測定誤差の度合を示す値を出力する。現在位置を決定するに際して、測定点までの距離に応じた第1の重みと測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮し、予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標物の位置測定方法および位置測定装置に係わり、特に広角レーダ装置において目標物の位置を決定すると共に測定誤差の度合を示す値を出力する位置測定方法および位置測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
広角レーダ装置を用いて、周辺の車両や障害物の位置を検出し、その位置情報に基づいて警報をユーザに提示するシステムがある。広角レーダ装置は、少数の送受信アンテナ素子を備え、各送信アンテナ素子から幅広のビームを繰り返し放射し、ターゲット(目標物)に反射した反射ビームを対応する受信アンテナ素子で受信する。しかる後、レーダ信号解析部において受信波と送信波の時間差より距離を計測し、周波数の変化分より速度を算出する。また、それぞれの送受信アンテナにおける反射強度を比重計算することで、ターゲットの方向を算出する。
【0003】
図7は広角レーダ装置としてのFM-CWレーダの概略構成図である。FM-CWレーダはCWレーダ(Continuous Wave Rader)の送信信号にFM変調を施して送信し、目標物からの反射波を受信する。すなわち、周波数可変発振器1は入力電圧に応じて発振周波数(中心周波数はf0)を変化し、FM変調電圧発生部2は所定の直流分を中心に周期的に三角状に変化するFM変調電圧を発生して周波数可変発振器1に入力する。方向結合器3は周波数可変発振器1から出力される三角状のFM変調信号を送信アンテナ4と反射信号受信側に入力する。送信アンテナ4はFM変調信号を目標物に向けて放射し、受信アンテナ5は目標物で反射して戻ってきた反射信号を受信する。ミキサ6は反射信号(受信信号)と送信信号を混合して両信号間のビート信号を出力し、信号処理部7はビート信号周波数を検出して目標物までの距離R、目標物との相対速度Vを計算する。
FMを三角波の繰り返しで行なうものとすると、送信信号の周波数と時間の関係は図8の実線で示すようになり、距離Rのところに存在する目標物(静止しているものとする)からの反射信号の周波数と時間の関係は同図の点線で示すようになる。この結果、送信信号と反射信号間のビート信号周波数frは図9に示すようになり、このビート信号周波数を測定すれば、目標物までの距離を検出できるすなわち、FMの繰り返し周波数をfm,FMの周波数偏移幅をΔfとすれば、距離Rの目標物からの反射信号と送信信号間のビート信号周波数frは次式
fr=4R・fm・Δf/c (cは光速) (1)
で与えられる。
【0004】
以上は目標物が静止している場合であるが、目標物が移動している場合には、ドプラ効果により送信信号と受信信号の周波数対時間の関係は図10に示すようになる。すなわち、ビート信号周波数frは図11に示すように、固定した目標物の場合のビート信号周波数frにドプラ周波数fdを重畳したものとなる。そして、その方向は各変調サイクル毎に正負と交互に変わるから、目標物が移動している場合のビート信号周波数fbは次式で与えられる。
fb=fr−fd (負の場合) (2)
fb=fr+fd (正の場合) (3)
ただし、
fd=2V・f0/c (Vは目標物との相対速度) (4)
したがって、変調の各サイクル毎にfb(正)とfb(負)を別々に測定すれば、frとfd、すなわち、目標物までの距離Rと相対速度Vをそれぞれ別々に求めることができる。具体的には、(2)、(3)式より測定したfb(正)とfb(負)を加算して2で割ればfr、すなわち、目標物までの距離Rが求まり、fb(正)から fb(負)を減算して2で割ればfd、すなわち、相対速度Vが求まる。
【0005】
以上は目標物までの距離R及び相対速度Vを測定する原理であるが、目標物の方向は以下のように測定できる。一般にレーダは非常に鋭い指向性を持ったアンテナ素子を密に配置し、そのアンテナから電磁波を送信し、そのエコーが返ってきたアンテナの方向を目標物の方向とすることができる。しかし、広角レーダは図12(a)に示すように少ない(図では2個)のアンテナ素子Aw,Bwで構成され、さらにビーム幅が広く指向性が鋭くないため、エコーが返ってきたアンテナの方向を目標物の方位角とすることができない。
そこで、広角レーダ装置では、複数のアンテナで受信した信号電力を比較する方法で目標物の方位角を算出する。通常レーダで使用するアンテナは利得を持っており、放射する電力が強ければそれに比例して受信電力が強くなり、また、ビーム中心方向(法線方向)から両側に外れるほど受信電力が小さくなる。図12(b)はアンテナ素子Awの法線方向を00としたときの利得であり、ビーム幅が680の場合の例である。2つのアンテナ素子Aw,Bwを図12(a)に示すように、それぞれの法線方向をずらして配置すれば、各アンテナAw,Bwの利得は図12(c)における実線、点線で示すようになる。したがって、2つのビームの差を演算すれば、図12(d)に示すように2つのアンテナの法線方向の範囲RA(00〜340)でほぼ直線となる。これより、受信電力の差を演算することにより目標物の方位角θを求めることができる。
【0006】
ところで、広角レーダ装置は目標物が等距離に多数存在すると測定精度が低下する。このため、異なる2以上の目標物が接近しても正しく着目している目標物を追尾できるようにした追尾装置が提案されている(特許文献1参照)。この追尾装置は、レーダの受信信号によって得られた目標物の位置情報と受信信号の強度情報とから、目標物の反射断面積を求め、各目標物の位置情報における相関を求めると共に、目標物の反射断面積情報における相関を求め、位置の相関と反射断面積の相関があるかにより着目目標物を識別して航跡情報を求める。
上記追尾装置は、着目目標物を識別して航跡情報を求めるものであるが、測定誤差の度合を示す値を出力するものではなく、また、測定誤差の度合に応じた補正制御、その他の制御をするものではない。広角レーダ装置は、目標物までの距離が遠いと、あるいは、複数の目標物が等距離に多数存在すると測定精度が低下する。測定した位置の精度が悪ければ測定データを使用しない、あるいは、使用しても信頼度を示す値を同時に出力する、あるいは、測定誤差に応じた位置補正をするなどの制御ができる。しかし、従来は、測定誤差の度合を示す値を出力しないため、かかる制御ができない問題がある。
【特許文献1】特開2000−9834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明の目的は、広角レーダ装置において測定誤差の度合を示す値を出力できるようにすることである。
本発明の別の目的は広角レーダ装置で測定した目標物の現在位置を、目標物までの距離及び測定誤差に基づいて決定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は本発明によれば、広角レーダ装置における目標物の位置測定方法および位置測定装置により達成される。
本発明の位置測定方法は、目標物の現在位置、速度、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置を予測するステップ、所定時間後の目標物の位置を測定するステップ、前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定するステップ、該決定した現在位置と前記測定点位置の差を累積して測定誤差の度合を示す値を出力するステップを有している。前記現在位置決定ステップにおいて、前記測定点までの距離に応じた第1の重みと前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮して前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する。
本発明の位置測定装置は、目標物の現在位置、速度、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置を予測する手段、所定時間後の目標物の位置を測定する位置測定手段、前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する位置決定手段、該決定した現在位置と前記測定点位置の差を累積して測定誤差の度合を示す値を出力する手段を備えている。上記位置測定装置は、前記測定点までの距離に応じた第1の重みを規定する第1の重みテーブル、前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを規定する第2の重みテーブルを備え、前記位置決定手段は、前記測定点までの距離に応じた第1の重みと前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮して前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、目標物の現在位置を決定し、該現在位置と前記測定点位置の差を累積して測定誤差の度合を示す値として出力するようにしたから、測定誤差の度合に基づいた制御を行うことができる。
又、本発明によれば、測定点までの距離に応じた第1の重みと測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮して目標物の位置を決定するようにしたから、測定位置精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
広角レーダ装置において、目標物の現在位置、速度、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置を予測し、所定時間後の目標物の位置を測定し、前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定し、該決定した現在位置と前記測定点位置の差を累積して測定誤差の度合を示す値を出力する。現在位置決定に際して、前記測定点までの距離に応じた第1の重みと前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮して前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する。
【実施例】
【0011】
図1は本発明のレーダ装置の構成図であり、第1、第2の二組の送受信アンテナを備えている。広角レーダ送受信部11は第1、第2の送受信部11a,11bを有し、送受信部11a,11bはそれぞれ図7に示す周波数可変発振器1、FM変調電圧発生部2、方向結合器3、ミキサ6で構成されている。第1、第2の送受信部11a,11bは、それぞれ送受信制御を行い、中心周波数が異なるFM変調信号を送信アンテナATS1,ATS2から送信し、目標物TGからの反射波を受信アンテナATR1,ATR2より受信して目標物距離・速度演算部12に入力する。送信アンテナATS1,ATS2のビーム幅は図2に示すように重なっており、例えば点線方向をY軸方向で角度00とし、水平方向をX軸とする。
目標物距離・速度演算部12は、第1、第2の送受信部11a,11bから入力する信号に基づいて目標物までの距離R1,R2、目標物の速度V1,V2を演算し、それぞれの平均値を目標物までの距離R及び相対速度Vとして出力する。反射強度検出部13、14は第1、第2の受信アンテナATR1,ATR2により受信した信号の強度、すなわち反射波強度を検出し、目標物方向演算部15は第1、第2の反射波強度の差を演算し、該差に基づいて目標物の方向θを演算して出力する。
【0012】
目標物位置推定部16は測定された目標物の位置XC,YCを決定して出力すると共に、測定誤差の度合を示す値Eを出力する。図3は位置決定原理説明図である。目標物位置推定部16は、目標物の現在位置PC-1(XC-1,YC-1)、相対速度V、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置PP(XP,YP)を予測すると共に、所定時間後に目標物の位置PR(XR,YR)を測定する。XR,YRは目標物までの測定距離R及び目標物の方向θを用いて、次式
XR=R・sinθ
YR=R・cosθ
により計算できる。
ついで、予測点PP(XP,YP)と測定点PR(XR,YR)を用いて目標物の現在位置をPC(XC,YC)を後述する方法で決定する。また、目標物位置推定部16は、該現在位置PC(XC,YC)と前記測定点PR(XR,YR)間の距離Dを累積し、累積値Eを測定誤差の度合を示す値として出力する。
【0013】
図4は本発明の位置決定処理フローである。尚、広角レーダ装置は所定時間T毎に目標物の位置及び累積値Eを計算する。
目標物位置推定部16は、所定時間後の目標物の位置PP(XP,YP)を目標物の現在位置PC-1(XC-1,YC-1)、相対速度V、移動方向に基づいてを予測する(ステップ101)。ついで、所定時間後の目標物の位置PR(XR,YR)を測定し(ステップ102)、予測点PP(XP,YP)と測定点PR(XR,YR)間に、測定距離R及び測定誤差Eを考慮して目標物の真の位置PC(XC,YC)を決定して出力する(ステップ103)。
ついで、目標物位置推定部16は、ステップ103で決定した現在位置PC(XC,YC)と前記測定点PR(XR,YR)間の距離Dを誤差Eiとして計算し(ステップ104)、最新のN個の誤差Eiを累積し、累積値E(=ΣEi)を測定誤差の度合を示す値として出力する(ステ
ップ105)。
【0014】
図5は図4のステップ103の位置計算処理フローである。目標物までの距離Rが大きいと測定誤差が大きくなるから、測定点PR(XR,YR)の信頼度は小さくなる。そこで、図6(a)に示すように予め測定距離Rが15m以下であるか、15m以上であるかに応じて信頼度の重みW1をテーブル化しておく。すなわち、測定距離Rが15m(メートル)以下であれば、信頼度が大きいからW1=0.8にし、15m以上であれば信頼度が低いからW1=0.1にする。また、測定誤差を示す値Eが大きいほど予測点PP(XP,YP)の信頼度は小さくなり、相対的に測定点PR(XR,YR)の信頼度は大きくなるから、予め図6(b)に示すように測定誤差と測定点PR(XR,YR)の信頼度の重みW2をテーブル化しておく。すなわち、誤差の累積値が1m以内の場合にはW2=0.1とし、2m以内の場合にはW2=0.5とし、2m上の場合にはW2=0.9とする。
【0015】
目標物位置推定部16は、ステップ103の位置計算に際して、第1テーブル(図6(a)参照)より、測定距離Rに応じた重みW1を求め(ステップ201)、ついで、第2テーブル(図6(b)参照)より、それまでの測定誤差Eに応じた重みW2を求める(ステップ202)。
しかる後、次式
【数1】
により目標物の現在位置PC(XC,YC)を計算する(ステップ203)。
以上にしたがって目標物の現在位置を決定し、該現在位置と前記測定点位置との差を誤差として累積して出力するにしたから、測定誤差の度合に基づいた制御を行うことができる。又、測定点までの距離に応じた第1の重みと測定誤差に応じた第2の重みを考慮して目標物の位置を決定するようにしたから、測定位置精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のレーダ装置の構成図である。
【図2】送信アンテナATS1,ATS2の配置説明図である。
【図3】位置決定方法の説明図である。
【図4】本発明の位置決定処理フローである。
【図5】図4のステップ103の位置計算処理フローである。
【図6】重みテーブル説明図である。
【図7】広角レーダ装置としてのFM-CWレーダの概略構成図である。
【図8】送信信号の周波数と時間の関係図である。
【図9】送信信号と反射信号間のビート周波数である。
【図10】目標物が移動している場合における送信信号と受信信号の周波数説明図である。
【図11】目標物が移動している場合における送信信号と受信信号のビート周波数である。
【図12】広角レーダにおける角度検出説明図である。
【符号の説明】
【0017】
ATS1,ATS2 送信アンテナ
ATR1,ATR2 受信アンテナ
11 広角レーダ送受信部
12 目標物距離・速度演算部
13、14 反射強度検出部
15 目標物方向演算部
16 目標物位置推定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標物の位置測定方法および位置測定装置に係わり、特に広角レーダ装置において目標物の位置を決定すると共に測定誤差の度合を示す値を出力する位置測定方法および位置測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
広角レーダ装置を用いて、周辺の車両や障害物の位置を検出し、その位置情報に基づいて警報をユーザに提示するシステムがある。広角レーダ装置は、少数の送受信アンテナ素子を備え、各送信アンテナ素子から幅広のビームを繰り返し放射し、ターゲット(目標物)に反射した反射ビームを対応する受信アンテナ素子で受信する。しかる後、レーダ信号解析部において受信波と送信波の時間差より距離を計測し、周波数の変化分より速度を算出する。また、それぞれの送受信アンテナにおける反射強度を比重計算することで、ターゲットの方向を算出する。
【0003】
図7は広角レーダ装置としてのFM-CWレーダの概略構成図である。FM-CWレーダはCWレーダ(Continuous Wave Rader)の送信信号にFM変調を施して送信し、目標物からの反射波を受信する。すなわち、周波数可変発振器1は入力電圧に応じて発振周波数(中心周波数はf0)を変化し、FM変調電圧発生部2は所定の直流分を中心に周期的に三角状に変化するFM変調電圧を発生して周波数可変発振器1に入力する。方向結合器3は周波数可変発振器1から出力される三角状のFM変調信号を送信アンテナ4と反射信号受信側に入力する。送信アンテナ4はFM変調信号を目標物に向けて放射し、受信アンテナ5は目標物で反射して戻ってきた反射信号を受信する。ミキサ6は反射信号(受信信号)と送信信号を混合して両信号間のビート信号を出力し、信号処理部7はビート信号周波数を検出して目標物までの距離R、目標物との相対速度Vを計算する。
FMを三角波の繰り返しで行なうものとすると、送信信号の周波数と時間の関係は図8の実線で示すようになり、距離Rのところに存在する目標物(静止しているものとする)からの反射信号の周波数と時間の関係は同図の点線で示すようになる。この結果、送信信号と反射信号間のビート信号周波数frは図9に示すようになり、このビート信号周波数を測定すれば、目標物までの距離を検出できるすなわち、FMの繰り返し周波数をfm,FMの周波数偏移幅をΔfとすれば、距離Rの目標物からの反射信号と送信信号間のビート信号周波数frは次式
fr=4R・fm・Δf/c (cは光速) (1)
で与えられる。
【0004】
以上は目標物が静止している場合であるが、目標物が移動している場合には、ドプラ効果により送信信号と受信信号の周波数対時間の関係は図10に示すようになる。すなわち、ビート信号周波数frは図11に示すように、固定した目標物の場合のビート信号周波数frにドプラ周波数fdを重畳したものとなる。そして、その方向は各変調サイクル毎に正負と交互に変わるから、目標物が移動している場合のビート信号周波数fbは次式で与えられる。
fb=fr−fd (負の場合) (2)
fb=fr+fd (正の場合) (3)
ただし、
fd=2V・f0/c (Vは目標物との相対速度) (4)
したがって、変調の各サイクル毎にfb(正)とfb(負)を別々に測定すれば、frとfd、すなわち、目標物までの距離Rと相対速度Vをそれぞれ別々に求めることができる。具体的には、(2)、(3)式より測定したfb(正)とfb(負)を加算して2で割ればfr、すなわち、目標物までの距離Rが求まり、fb(正)から fb(負)を減算して2で割ればfd、すなわち、相対速度Vが求まる。
【0005】
以上は目標物までの距離R及び相対速度Vを測定する原理であるが、目標物の方向は以下のように測定できる。一般にレーダは非常に鋭い指向性を持ったアンテナ素子を密に配置し、そのアンテナから電磁波を送信し、そのエコーが返ってきたアンテナの方向を目標物の方向とすることができる。しかし、広角レーダは図12(a)に示すように少ない(図では2個)のアンテナ素子Aw,Bwで構成され、さらにビーム幅が広く指向性が鋭くないため、エコーが返ってきたアンテナの方向を目標物の方位角とすることができない。
そこで、広角レーダ装置では、複数のアンテナで受信した信号電力を比較する方法で目標物の方位角を算出する。通常レーダで使用するアンテナは利得を持っており、放射する電力が強ければそれに比例して受信電力が強くなり、また、ビーム中心方向(法線方向)から両側に外れるほど受信電力が小さくなる。図12(b)はアンテナ素子Awの法線方向を00としたときの利得であり、ビーム幅が680の場合の例である。2つのアンテナ素子Aw,Bwを図12(a)に示すように、それぞれの法線方向をずらして配置すれば、各アンテナAw,Bwの利得は図12(c)における実線、点線で示すようになる。したがって、2つのビームの差を演算すれば、図12(d)に示すように2つのアンテナの法線方向の範囲RA(00〜340)でほぼ直線となる。これより、受信電力の差を演算することにより目標物の方位角θを求めることができる。
【0006】
ところで、広角レーダ装置は目標物が等距離に多数存在すると測定精度が低下する。このため、異なる2以上の目標物が接近しても正しく着目している目標物を追尾できるようにした追尾装置が提案されている(特許文献1参照)。この追尾装置は、レーダの受信信号によって得られた目標物の位置情報と受信信号の強度情報とから、目標物の反射断面積を求め、各目標物の位置情報における相関を求めると共に、目標物の反射断面積情報における相関を求め、位置の相関と反射断面積の相関があるかにより着目目標物を識別して航跡情報を求める。
上記追尾装置は、着目目標物を識別して航跡情報を求めるものであるが、測定誤差の度合を示す値を出力するものではなく、また、測定誤差の度合に応じた補正制御、その他の制御をするものではない。広角レーダ装置は、目標物までの距離が遠いと、あるいは、複数の目標物が等距離に多数存在すると測定精度が低下する。測定した位置の精度が悪ければ測定データを使用しない、あるいは、使用しても信頼度を示す値を同時に出力する、あるいは、測定誤差に応じた位置補正をするなどの制御ができる。しかし、従来は、測定誤差の度合を示す値を出力しないため、かかる制御ができない問題がある。
【特許文献1】特開2000−9834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明の目的は、広角レーダ装置において測定誤差の度合を示す値を出力できるようにすることである。
本発明の別の目的は広角レーダ装置で測定した目標物の現在位置を、目標物までの距離及び測定誤差に基づいて決定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は本発明によれば、広角レーダ装置における目標物の位置測定方法および位置測定装置により達成される。
本発明の位置測定方法は、目標物の現在位置、速度、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置を予測するステップ、所定時間後の目標物の位置を測定するステップ、前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定するステップ、該決定した現在位置と前記測定点位置の差を累積して測定誤差の度合を示す値を出力するステップを有している。前記現在位置決定ステップにおいて、前記測定点までの距離に応じた第1の重みと前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮して前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する。
本発明の位置測定装置は、目標物の現在位置、速度、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置を予測する手段、所定時間後の目標物の位置を測定する位置測定手段、前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する位置決定手段、該決定した現在位置と前記測定点位置の差を累積して測定誤差の度合を示す値を出力する手段を備えている。上記位置測定装置は、前記測定点までの距離に応じた第1の重みを規定する第1の重みテーブル、前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを規定する第2の重みテーブルを備え、前記位置決定手段は、前記測定点までの距離に応じた第1の重みと前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮して前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、目標物の現在位置を決定し、該現在位置と前記測定点位置の差を累積して測定誤差の度合を示す値として出力するようにしたから、測定誤差の度合に基づいた制御を行うことができる。
又、本発明によれば、測定点までの距離に応じた第1の重みと測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮して目標物の位置を決定するようにしたから、測定位置精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
広角レーダ装置において、目標物の現在位置、速度、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置を予測し、所定時間後の目標物の位置を測定し、前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定し、該決定した現在位置と前記測定点位置の差を累積して測定誤差の度合を示す値を出力する。現在位置決定に際して、前記測定点までの距離に応じた第1の重みと前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮して前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する。
【実施例】
【0011】
図1は本発明のレーダ装置の構成図であり、第1、第2の二組の送受信アンテナを備えている。広角レーダ送受信部11は第1、第2の送受信部11a,11bを有し、送受信部11a,11bはそれぞれ図7に示す周波数可変発振器1、FM変調電圧発生部2、方向結合器3、ミキサ6で構成されている。第1、第2の送受信部11a,11bは、それぞれ送受信制御を行い、中心周波数が異なるFM変調信号を送信アンテナATS1,ATS2から送信し、目標物TGからの反射波を受信アンテナATR1,ATR2より受信して目標物距離・速度演算部12に入力する。送信アンテナATS1,ATS2のビーム幅は図2に示すように重なっており、例えば点線方向をY軸方向で角度00とし、水平方向をX軸とする。
目標物距離・速度演算部12は、第1、第2の送受信部11a,11bから入力する信号に基づいて目標物までの距離R1,R2、目標物の速度V1,V2を演算し、それぞれの平均値を目標物までの距離R及び相対速度Vとして出力する。反射強度検出部13、14は第1、第2の受信アンテナATR1,ATR2により受信した信号の強度、すなわち反射波強度を検出し、目標物方向演算部15は第1、第2の反射波強度の差を演算し、該差に基づいて目標物の方向θを演算して出力する。
【0012】
目標物位置推定部16は測定された目標物の位置XC,YCを決定して出力すると共に、測定誤差の度合を示す値Eを出力する。図3は位置決定原理説明図である。目標物位置推定部16は、目標物の現在位置PC-1(XC-1,YC-1)、相対速度V、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置PP(XP,YP)を予測すると共に、所定時間後に目標物の位置PR(XR,YR)を測定する。XR,YRは目標物までの測定距離R及び目標物の方向θを用いて、次式
XR=R・sinθ
YR=R・cosθ
により計算できる。
ついで、予測点PP(XP,YP)と測定点PR(XR,YR)を用いて目標物の現在位置をPC(XC,YC)を後述する方法で決定する。また、目標物位置推定部16は、該現在位置PC(XC,YC)と前記測定点PR(XR,YR)間の距離Dを累積し、累積値Eを測定誤差の度合を示す値として出力する。
【0013】
図4は本発明の位置決定処理フローである。尚、広角レーダ装置は所定時間T毎に目標物の位置及び累積値Eを計算する。
目標物位置推定部16は、所定時間後の目標物の位置PP(XP,YP)を目標物の現在位置PC-1(XC-1,YC-1)、相対速度V、移動方向に基づいてを予測する(ステップ101)。ついで、所定時間後の目標物の位置PR(XR,YR)を測定し(ステップ102)、予測点PP(XP,YP)と測定点PR(XR,YR)間に、測定距離R及び測定誤差Eを考慮して目標物の真の位置PC(XC,YC)を決定して出力する(ステップ103)。
ついで、目標物位置推定部16は、ステップ103で決定した現在位置PC(XC,YC)と前記測定点PR(XR,YR)間の距離Dを誤差Eiとして計算し(ステップ104)、最新のN個の誤差Eiを累積し、累積値E(=ΣEi)を測定誤差の度合を示す値として出力する(ステ
ップ105)。
【0014】
図5は図4のステップ103の位置計算処理フローである。目標物までの距離Rが大きいと測定誤差が大きくなるから、測定点PR(XR,YR)の信頼度は小さくなる。そこで、図6(a)に示すように予め測定距離Rが15m以下であるか、15m以上であるかに応じて信頼度の重みW1をテーブル化しておく。すなわち、測定距離Rが15m(メートル)以下であれば、信頼度が大きいからW1=0.8にし、15m以上であれば信頼度が低いからW1=0.1にする。また、測定誤差を示す値Eが大きいほど予測点PP(XP,YP)の信頼度は小さくなり、相対的に測定点PR(XR,YR)の信頼度は大きくなるから、予め図6(b)に示すように測定誤差と測定点PR(XR,YR)の信頼度の重みW2をテーブル化しておく。すなわち、誤差の累積値が1m以内の場合にはW2=0.1とし、2m以内の場合にはW2=0.5とし、2m上の場合にはW2=0.9とする。
【0015】
目標物位置推定部16は、ステップ103の位置計算に際して、第1テーブル(図6(a)参照)より、測定距離Rに応じた重みW1を求め(ステップ201)、ついで、第2テーブル(図6(b)参照)より、それまでの測定誤差Eに応じた重みW2を求める(ステップ202)。
しかる後、次式
【数1】
により目標物の現在位置PC(XC,YC)を計算する(ステップ203)。
以上にしたがって目標物の現在位置を決定し、該現在位置と前記測定点位置との差を誤差として累積して出力するにしたから、測定誤差の度合に基づいた制御を行うことができる。又、測定点までの距離に応じた第1の重みと測定誤差に応じた第2の重みを考慮して目標物の位置を決定するようにしたから、測定位置精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のレーダ装置の構成図である。
【図2】送信アンテナATS1,ATS2の配置説明図である。
【図3】位置決定方法の説明図である。
【図4】本発明の位置決定処理フローである。
【図5】図4のステップ103の位置計算処理フローである。
【図6】重みテーブル説明図である。
【図7】広角レーダ装置としてのFM-CWレーダの概略構成図である。
【図8】送信信号の周波数と時間の関係図である。
【図9】送信信号と反射信号間のビート周波数である。
【図10】目標物が移動している場合における送信信号と受信信号の周波数説明図である。
【図11】目標物が移動している場合における送信信号と受信信号のビート周波数である。
【図12】広角レーダにおける角度検出説明図である。
【符号の説明】
【0017】
ATS1,ATS2 送信アンテナ
ATR1,ATR2 受信アンテナ
11 広角レーダ送受信部
12 目標物距離・速度演算部
13、14 反射強度検出部
15 目標物方向演算部
16 目標物位置推定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
広角レーダ装置における目標物の位置測定方法において、
目標物の現在位置、速度、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置を予測し、
所定時間後の目標物の位置を測定し、
前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定し、
該決定した現在位置と前記測定点位置の差を累積して測定誤差の度合を示す値を出力する、
ことを特徴とする測定位置補正方法。
【請求項2】
前記現在位置決定ステップにおいて、前記測定点までの距離に応じた第1の重みと前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮して前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する、
ことを特徴とする請求項1記載の位置測定方法。
【請求項3】
広角レーダ装置における目標物の位置測定装置において、
目標物の現在位置、速度、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置を予測する手段、
所定時間後の目標物の位置を測定する位置測定手段、
前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する位置決定手段、
該決定した現在位置と前記測定点位置の差を累積して測定誤差の度合を示す値を出力する手段、
を備えたことを特徴とする位置測定装置。
【請求項4】
前記測定点までの距離に応じた第1の重みを規定する第1の重みテーブル、
前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを規定する第2の重みテーブル、
を備え、前記位置決定手段は、前記測定点までの距離に応じた第1の重みと前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮して前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する、
ことを特徴とする請求項3記載の位置測定装置。
【請求項1】
広角レーダ装置における目標物の位置測定方法において、
目標物の現在位置、速度、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置を予測し、
所定時間後の目標物の位置を測定し、
前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定し、
該決定した現在位置と前記測定点位置の差を累積して測定誤差の度合を示す値を出力する、
ことを特徴とする測定位置補正方法。
【請求項2】
前記現在位置決定ステップにおいて、前記測定点までの距離に応じた第1の重みと前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮して前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する、
ことを特徴とする請求項1記載の位置測定方法。
【請求項3】
広角レーダ装置における目標物の位置測定装置において、
目標物の現在位置、速度、移動方向に基づいて所定時間後の目標物の位置を予測する手段、
所定時間後の目標物の位置を測定する位置測定手段、
前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する位置決定手段、
該決定した現在位置と前記測定点位置の差を累積して測定誤差の度合を示す値を出力する手段、
を備えたことを特徴とする位置測定装置。
【請求項4】
前記測定点までの距離に応じた第1の重みを規定する第1の重みテーブル、
前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを規定する第2の重みテーブル、
を備え、前記位置決定手段は、前記測定点までの距離に応じた第1の重みと前記測定誤差の度合に応じた第2の重みを考慮して前記予測点と測定点を用いて目標物の現在位置を決定する、
ことを特徴とする請求項3記載の位置測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−93543(P2007−93543A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286757(P2005−286757)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】
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