説明

直動転がり案内ユニット用のスライダ

【課題】 スムーズな転動と確実な潤滑を確保しながらも、精密な寸法管理を不要とすることで製作コストを低減することができる直動転がり案内ユニット用のスライダを提供する。
【解決手段】 エンドキャップ2に形成した方向転換路9は、ケーシング1に形成した転動路に連続する一対の円弧路9cと、これら一対の円弧路9cを接続するとともに上記転動路に略直交する直線路9dとからなる。一方、エンドキャップ2に組み込んだ潤滑部材Aは、潤滑面18aを直線路9dに露出させるとともに、この潤滑面18aが上記一対の円弧路9cの外周面に交差する関係を維持している。そして、潤滑面18aと円弧路9cの外周面との交差点よりも外方の余剰長さ部分における潤滑面18aと、円弧路9cの外周面との間に凹部19が形成される構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トラックレールに形成した軌道面上に転動体を転動させることにより、レール上をスムーズに相対移動する直動転がり案内ユニット用のスライダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の直動転がり案内ユニット用のスライダとして、特許文献1に示すものが知られている。
このスライダは、ケーシングの両端にエンドキャップを固定するとともに、上記ケーシングに形成した転動路と、エンドキャップに形成した方向転換路とによって循環路を形成し、この循環路内に転動体を循環させている。そして、上記エンドキャップには潤滑剤を含浸した潤滑部材を組み込むとともに、この潤滑部材の一部をエンドキャップに形成した方向転換路に露出させている。図9に、潤滑部材および方向転換路の具体的な構造を示す。
【0003】
図9に示すように、エンドキャップ101には、方向転換路102が形成されている。このエンドキャップ101の図中上方には、図示しないケーシングが固定されており、このケーシングに形成した転動路に、上記方向転換路102の両端が連続するようにしている。
上記方向転換路102は、図示のとおり、直線状の直線路102aと、この直線路102aに連続するとともに、所定の曲率を有する円弧路102bとからなる。
一方、上記エンドキャップ101には、潤滑部材103が組み込まれている。この潤滑部材103は、その一部に嵌合凸部104を形成するとともに、この嵌合凸部104を、上記方向転換路102の直線路102aに露出している。上記嵌合凸部104は、その先端面を潤滑面104aとしており、この潤滑面104aが上記直線路102aと平行になるようにしている。
【0004】
上記方向転換路102内には、複数の転動体106が組み込まれており、これら転動体106は、方向転換路102内を転動しながら通過する。そして、転動体106は、上記直線路102aを転動する過程で、潤滑面104aに接触するとともに、潤滑部材103が含浸する潤滑剤が、潤滑面104aから転動体106に塗布されて、当該転動体106が潤滑されることとなる。
このように、方向転換路102を通過する過程で転動体106が潤滑されるので、長期にわたって転動体106の転動をスムーズにすることができる。
【特許文献1】特開2007−100951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、転動体106を潤滑するためには、当然のこととして、潤滑面104aが方向転換路102の外周面105から突出するか、あるいは、潤滑面104aが方向転換路102の外周面105と一致する関係にならなければならない。
しかし、潤滑面104aが外周面105から突出しすぎて、外周面105と潤滑面104aとの間にできる段差yが大きくなると、転動体106がスムーズに転動できなくなってしまう。一方、潤滑面104aが外周面105から僅かでも凹んでしまうと、転動体106を潤滑することが全くできなくなってしまう。
このように、転動体106の転動を阻害することなく、確実に潤滑機能を発揮するためには、潤滑面104aと外周面105とが面一になるように、精密な寸法管理をしなければならず、その分、製造や組付け作業が煩雑となり、製作コストが高くなるという問題があった。
【0006】
この発明の目的は、スムーズな転動と確実な潤滑を確保しながらも、精密な寸法管理を不要とすることで製作コストを低減することができる直動転がり案内ユニット用のスライダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、転動体をガイドする転動路を有するケーシングと、このケーシングの両端に固定するとともに、上記転動路に連続する方向転換路を形成してなる一対のエンドキャップと、この一対のエンドキャップのいずれか一方または双方に設けるとともに、上記方向転換路の外周面に潤滑面を露出させた潤滑部材とを備える。そして、上記転動路と方向転換路とによって、転動体が転動しながら循環する循環路を形成する一方、転動体が上記方向転換路を転動する過程で、上記潤滑面に転動体が接触して当該転動体を潤滑する直動転がり案内ユニット用のスライダを前提とする。
上記の構成を前提として、この発明は、方向転換路が、ケーシングの転動路に連続する一対の円弧路と、これら一対の円弧路を接続するとともに上記転動路に略直交する直線路とからなる。一方、上記潤滑部材は、潤滑面を上記直線路に露出させるとともに、この潤滑面が上記一対の円弧路の外周面に交差する関係を維持している。
そして、上記潤滑面と円弧路の外周面との交差点よりも外方の余剰長さ部分における潤滑面と、円弧路の外周面との間に凹部が形成される構成にした点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、潤滑面を直線路よりも長くし、この余剰長さ部分における潤滑面と上記円弧路の外周面との間に凹部を形成した。したがって、製造工程における寸法誤差によって、円弧路に対する潤滑面の突出量が増えたとしても、当該寸法誤差を凹部が吸収するので、方向転換路の外周面と潤滑面との間に段差が生じることがない。
つまり、この発明によれば、潤滑部材やエンドキャップ等に寸法誤差や組み立て誤差が生じても、この寸法誤差を凹部が吸収するので、潤滑面と方向転換路との間に段差が生じず、しかも、しっかりと転動体を潤滑することができる。
そして、上記のように寸法誤差や組み立て誤差を吸収できるので、精密な寸法管理を必要とせず、組付けが簡単になるので、設計上の自由度も大きくなり、製造過程での大幅なコストダウンが可能になる。
また、上記凹部は、油や磨耗粉等を溜める機能をも有するので、スライダの摺動を一層スムーズにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1〜図8を用いて、この発明の直動転がり案内ユニット用のスライダについて説明する。
図1に示すように、トラックレールRの長手方向に沿って摺動するこの発明のスライダSは、ケーシング1の両端に一対のエンドキャップ2,3を固定している。上記ケーシング1は、図2に示すように、一対の袖部1a,1aを有している。そして、これら一対の袖部1a,1aは、トラックレールRにケーシング1を跨がせたときに、当該トラックレールRの両側面に臨むようにしている。
また、上記トラックレールRの両側面には、それぞれ一対の軌道面4,4を形成しており、これら一対の軌道面4,4に対向する軌道路5,6を、上記両袖部1a,1aに形成している。さらに、上記袖部1a,1aのそれぞれには、ケーシング1の長手方向に沿って貫通孔7,8を形成している。
なお、上記軌道路5と貫通孔7および軌道路6と貫通孔8とによって、それぞれこの発明の転動路が構成され、この転動路内を後述する転動体が転動することとなる。
【0010】
一方、上記エンドキャップ2(3)は、図3に示すように、上記ケーシング1の袖部1a,1aと同様、トラックレールRの側面に臨む一対の袖部2a(3a),2a(3a)を有している。これら袖部2a(3a),2a(3a)のそれぞれには、U字状の孔からなる方向転換路9,10を形成するとともに、これら方向転換路9の開口9a,9bおよび方向転換路10の開口10a,10bを、エンドキャップ2の一方の面11側に開口させている。
なお、上記方向転換路9,10は、その深さを異にしているので、図示の如く交差させても、両方向転換路9,10が交わることはない。
【0011】
上記の構成からなるエンドキャップ2,3は、その面11側をケーシング1の長手方向両端部にそれぞれ固定する。この状態を図4に示す。
この図からも明らかなように、ケーシング1の両端にエンドキャップ2,3を固定すると、ケーシング1に形成した貫通孔8は、エンドキャップ2側では方向転換路9の開口9aに接続され、エンドキャップ3側では方向転換路10の開口10bに接続される。
また、ケーシング1に形成した軌道路6は、エンドキャップ2側では方向転換路9の開口9bに接続され、エンドキャップ3側では方向転換路10の開口10aに接続される。
【0012】
したがって、軌道路6および貫通孔8からなる転動路と、方向転換路9,10とによって循環路が形成されることとなり、この循環路内に組み込まれた転動体12が、当該循環路内を循環することとなる。
そして、トラックレールRにスライダSを跨がせた状態で、当該スライダSをトラックレールRの長手方向に沿って摺動させると、ケーシング1の軌道路6と、トラックレールRの軌道面4との間で転動体12が転動する。また、図4からは明らかではないが、上記と同様にして、ケーシング1の軌道路5とトラックレールRの軌道面4との間で転動体12が転動する(図2参照)。このように、トラックレールRとスライダSとの間に、転動体12が転動自在に介在するので、スライダSがトラックレールRに対してスムーズに摺動することとなる。
【0013】
なお、スライダSとトラックレールRとの相対移動を、長期にわたってスムーズにするためには、転動体12に潤滑剤を塗布する必要がある。そして、この役割を担うのが、貫通孔7,8に組み込まれたスリーブ13と、エンドキャップ2,3に設けた潤滑部材Aである。
上記スリーブ13および潤滑部材Aは、焼結樹脂からなる多孔質成形体で構成される。この多孔質成形体は、超高分子量の合成樹脂微粒子を押し固めて加熱成形された焼結樹脂により、合成樹脂微粒子間が保形された連通状態の多孔部を有し、潤滑剤が多孔部に含浸されている。
したがって、転動体12が貫通孔7,8を通過する過程では、スリーブ13に含浸された潤滑剤が転動体12の表面に塗布されて、当該転動体12が潤滑されることとなる。
【0014】
一方、転動体12は、エンドキャップ2,3に形成した方向転換路9を通過する過程においても、潤滑部材Aによって潤滑されるが、以下ではエンドキャップ2および潤滑部材Aの構造について具体的に説明する。
図5は、前記多孔質成形体からなる潤滑部材Aであり、図6は、潤滑部材Aをエンドキャップ2(3)に組み込んだ状態を示している。図6に示すように、エンドキャップ2(3)の面14は、前記した面11と反対側の面であるが、この面14側には、その表面から僅かに凹む組み込み凹部15を形成しており、この組み込み凹部15に、上記潤滑部材Aを組み込んでいる。
なお、組み込み凹部15に潤滑部材Aを組み込んだとき、当該潤滑部材Aとエンドキャップ2(3)の面14とが面一になるようにしており、潤滑部材Aを組み込み凹部15に組み込んだ後、面14にエンドシール16を固定するようにしている(図4参照)。
【0015】
そして、上記エンドキャップ2(3)には、その袖部2a(3a)に、面11側と面14側とを貫通する潤滑孔17を形成している。この潤滑孔17は、図4からも明らかなように、エンドキャップ2(3)の面11側において、方向転換路9の外周面に開口している。
一方、上記潤滑部材Aには、それを上記エンドキャップ2(3)の組み込み凹部15に組み込んだとき、上記潤滑孔17に嵌合する嵌合凸部18を形成している。この嵌合凸部18と方向転換路9との関係を、図7、図8を用いて詳細に説明する。
【0016】
図7に示すように、エンドキャップ2(3)に形成した方向転換路9は、ケーシング1の転動路(軌道路6および貫通孔8)に接続する開口9a,9bと、この開口9a,9bに連続するとともに所定の曲率を有する一対の円弧路9c,9cと、これら両円弧路9c,9cを接続するとともに上記転動路と略直交する直線路9dとからなる。
一方、潤滑部材Aに設けた嵌合凸部18は、潤滑孔17を貫通するとともに、その先端に形成した潤滑面18aを、上記直線路9dに露出させている。
【0017】
ここで、上記潤滑面18aは、方向転換路9の直線路9dよりも、その長さを長くしている。そして、潤滑面18aを直線路9dに露出させたとき、当該潤滑面18aが、両円弧路9c,9cの外周面と交点x,xで交差するとともに、これら両交点x,xの外側に、上記潤滑面18aの両端18b,18bが位置する寸法関係を維持している。
しかも、上記交点x,xの外側に位置する潤滑面18aの余剰長さ部分、すなわち潤滑面18aの交点xから端部18bまでの部分と、円弧路9cの外周面との間に凹部19が形成されるようにしている。
そして、潤滑面18aは、図8に示すように、両破線間に位置する直線路9d外周面からの突出量をL1とする一方、潤滑面18aの端部18bから円弧路9cの外周面までの長さ、すなわち凹部19の深さをL2としている。
【0018】
このように、潤滑面18aは、その中央部では直線路9dから方向転換路9内にL1だけ突出し、両端部18b,18bでは、凹部19の深さL2だけ、方向転換路9よりも凹んで位置している。したがって、エンドキャップ2(3)や潤滑部材Aに寸法誤差が生じて、図示の状態よりも潤滑面18aの突出量が大きくなったとしても、当該寸法誤差が凹部19の深さL2の範囲内であれば、方向転換路9の外周面と潤滑面18aとの間に段差が生じることがない。
逆に、寸法誤差によって、図示の状態よりも潤滑面18aの突出量が小さくなったとしても、当該寸法誤差が上記突出量L1の範囲内であれば、潤滑面18aが確実に方向転換路9内に露出するので、しっかりと転動体12を潤滑することができる。
【0019】
つまり、潤滑面18aの突出量(L1)+凹部19の深さ(L2)の範囲内において、エンドキャップ2あるいは潤滑部材Aに寸法誤差や組み立て誤差が生じたとしても、この寸法誤差を上記凹部19によって吸収することができる。
言い換えれば、ある程度エンドキャップ2や潤滑部材Aの寸法をラフにして製造しても、方向転換路9の外周面と潤滑面18aとの間に段差を生じることなく、転動体12をしっかりと潤滑することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施形態における直動転がり案内ユニットの立体図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】エンドキャップのケーシング固定面側の正面図である。
【図4】図1におけるスライダの循環路を示す断面図である。
【図5】潤滑部材を示す平面図である。
【図6】潤滑部材をエンドキャップに組み込んだ状態を示す図であり、上記ケーシング固定面側とは反対側の正面図である。
【図7】方向転換路と潤滑面との関係を示す断面図である。
【図8】図7の部分拡大図である。
【図9】従来の潤滑部材を説明する概念図である。
【符号の説明】
【0021】
1 ケーシング
2,3 エンドキャップ
5,6 転動路を構成する軌道路
7,8 転動路を構成する貫通孔
9,10 方向転換路
9c 円弧路
9d 直線路
12 転動体
18a 潤滑面
18b 潤滑面の端部
19 凹部
A 潤滑部材
S スライダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体をガイドする転動路を有するケーシングと、このケーシングの両端に固定するとともに、上記転動路に連続する方向転換路を形成してなる一対のエンドキャップと、この一対のエンドキャップのいずれか一方または双方に設けるとともに、上記方向転換路の外周面に潤滑面を露出させた潤滑部材とを備え、上記転動路と方向転換路とによって、転動体が転動しながら循環する循環路を形成する一方、転動体が上記方向転換路を転動する過程で、上記潤滑面に転動体が接触して当該転動体を潤滑する直動転がり案内ユニット用のスライダにおいて、上記方向転換路は、ケーシングの転動路に連続する一対の円弧路と、これら一対の円弧路を接続するとともに上記転動路に略直交する直線路とからなる一方、上記潤滑部材は、潤滑面を上記直線路に露出させるとともに、この潤滑面が上記一対の円弧路の外周面に交差する関係を維持してなり、上記潤滑面と円弧路の外周面との交差点よりも外方の余剰長さ部分における潤滑面と、円弧路の外周面との間に凹部が形成される構成にした直動転がり案内ユニット用のスライダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−68611(P2009−68611A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238250(P2007−238250)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】