説明

相変化型メモリー用スパッタリングターゲットの製造方法

【課題】 メモリー点と非メモリー部との界面付近に偏析濃縮し、書き換え回数及び消去率の低下の原因となる不純物、特に結晶化速度に影響を与える不純物元素を極力減少させると共に、目標組成に対するターゲットの組成のずれ及び成分偏析を減少させて、相変化型メモリーの書き換え特性、結晶化速度を向上させることができる相変化型メモリー用スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 3元系以上の元素からなり、アンチモン、テルル又はセレンから選んだ1成分以上を主成分とし、目標組成に対する組成のずれが±1.0at%以下であることを特徴とする相変化型メモリー用スパッタリングターゲット及び該ターゲットを用いて形成された相変化メモリー用膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化速度に影響を与える不純物元素を極力減少させるとともに、目標組成に対するターゲットの組成のずれを減少させ、さらにターゲットの組成偏析を抑制して、相変化型メモリーの書き換え特性及び結晶化速度を向上させた相変化型メモリー用スパッタリングターゲット及び該ターゲットを用いて形成された相変化メモリー用膜並びに前記ターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ヘッドを必要とせずにメモリー・再生ができる高密度メモリー光ディスク技術が開発され、急速に関心が高まっている。この光ディスクは再生専用型、追記型、書き換え型の3種類に分けられるが、特に追記型又は書き換え型で使用されている相変化方式が注目されている。
相変化光ディスクは、基板上のメモリー薄膜をレーザー光の照射によって加熱昇温させ、そのメモリー薄膜の構造に結晶学的な相変化(アモルファス⇔結晶)を起こさせて情報のメモリー・再生を行うものであり、より具体的にはその相間の光学定数の変化に起因する反射率の変化を検出して情報の再生が行われる。
【0003】
上記の相変化は1〜数μm程度の径に絞ったレーザー光の照射によって行なわれる。この場合、例えば1μmのレーザービームが10m/sの線速度で通過するとき、光ディスクのある点に光が照射される時間は100nsであり、この時間内で上記相変化と反射率の検出が行われ、上記結晶学的な相変化すなわちアモルファスと結晶との相変化を実現することが必要である。
このようなことから相変化光ディスクは、Ge−Sb−Te系、In−Sb−Te系等のメモリー薄膜層の両側を硫化亜鉛−ケイ酸化物(ZnS・SiO)系の高融点誘電体の保護層で挟み、それにアルミニウム合金反射膜を設けた四層構造として使用されており、アンチモン(Sb)、テルル(Te)又はセレン(Se)は上記光メモリー媒体として重要な構成元素である。
【0004】
また、最近ではカルコゲナイド薄膜をスパッタリングで形成し、これに電極を接触させ、この電極に電流を流してカルコゲナイドの相変化を起こさせる不揮発性相変化メモリーの提案がなされ、注目を集めている。このような手法を用いた不揮発性メモリーは、一般にPRAM又はOUM(Ovonic Unified Memories)と呼ばれている。
このOUMの概略を説明すると、カルコゲナイドスパッタ薄膜を部分的に600°C以上に加熱すると1〜2nsで急速冷却しアモルファス相が形成される。この場合、加熱される領域は狭く、50×200nmのデバイス寸法で、真中は600°Cに達するが、100nm離れると100°Cまでにしか温度が上昇しないというデータがある。
【0005】
上記の急速冷却では結晶化しないが、これを20ns〜50ns間、300〜400°Cでアニールを行うことによって結晶化する。結晶のカルコゲナイドは抵抗が低いがアモルファスは抵抗が高い。そしていずれの状態も、しきい電圧以上になると特性が反転する。
OUMはこのような特性を利用したもので、不揮発性、高密度、低電圧、低消費電力、1012回の書き換え回数、非破壊読み出し、Siプロセスとの統合が容易であること、ユニファイド・メモリーにできるなど多くの利点を持っている。
相変化光ディスク及びOUMはいずれもアンチモン、テルル、セレンの元素のカルコゲナイドスパッタ薄膜を利用するものであり、材料の特性に十分な配慮が必要である。
【0006】
しかし、このようなメモリー媒体中に不純物が混入すると、メモリー−消去に伴う液相−固相間の相変化の繰返しとともに、メモリー点と非メモリー部との界面付近に濃縮するようになり、またメモリー点周辺において粗大結晶粒の発生源となる結晶成長核が生成し、書き換え回数が低下する原因となった。
【0007】
このような相変化メモリー媒体であるメモリー薄膜層は、上記のように通常スパッタリング法により形成されている。このスパッタリング法は正の電極と負の電極とからなるターゲットとを対向させ、不活性ガス雰囲気下でこれらの基板とターゲットの間に高電圧を印加して電場を発生させるものであり、この時電離した電子と不活性ガスが衝突してプラズマが形成され、このプラズマ中の陽イオンがターゲット(負の電極)表面に衝突してターゲット構成原子を叩きだし、この飛び出した原子が対向する基板表面に付着して膜が形成されるという原理を用いたものである。
【0008】
スパッタリングに使用されるターゲット自体に不純物が多く、また目標とする組成とのずれが大きい場合には、それらがメモリー薄膜層に大きな影響を与え、書き換え回数が低下する問題があった。
このようなことから、高純度で高密度のターゲットがいくつか提案されている。このような従来提案されている製法は、溶解法と粉末冶金法を組み合わせて製造するものである。しかし、アンチモン、テルル、セレンの元素は、蒸気圧が高く、溶解時にこれらの元素が優先蒸発するため、目的とする組成からずれており、またターゲットの中でも組成の偏析が生ずるという不具合があった。記録膜中の組成のずれは、結晶化速度の不均一化を引き起こし、書き換え特性に悪影響を与える。
【0009】
このようなことから、組成のずれを無視するか又は組成ずれ及び組成偏析を見越して、事前に調合されていた。後者については運良く目的の組成となる場合もあるが、組成均一化の精度及び成膜の再現性が劣り、製品が安定しないという欠点があった。
また、加熱炉への蒸発を黙認しているので、工程毎に炉内が汚染されるという問題があり、また溶解を繰返している間に、ガス成分や前記炉内及び坩堝材からの汚染があり、高純度に保持することが難しいという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、メモリー点と非メモリー部との界面付近に偏析濃縮し、書き換え回数の低下の原因となる不純物、特に結晶化速度に影響を与える不純物元素を極力減少させると共に、目標組成に対するターゲットの組成のずれ及びターゲット内の偏析を減少させて、相変化型メモリーの書き換え特性、結晶化速度を向上させることができる相変化型メモリー用スパッタリングターゲット及び該ターゲットを用いて形成された相変化メモリー用膜並びに前記ターゲットの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行なった結果、正確にかつ安定して製造できるとの知見を得た。
本発明はこの知見に基づき、
1.3元系以上の元素からなり、アンチモン、テルル又はセレンから選んだ1成分以上を主成分とし、目標組成に対する組成のずれが±1.0at%以下であることを特徴とする相変化型メモリー用スパッタリングターゲット及び該ターゲットを用いて形成された相変化メモリー用膜
2.3元系以上の元素からなり、アンチモン、テルル又はセレンから選んだ1成分以上を主成分とし、ターゲット内の任意の個所から採取した2個以上の各サンプル(i=2,3,4・・・)において、主成分を除く各成分元素の組成Ai(wt%)の平均値をA(wt%)とした場合、|A−Ai|≦0.15であることを特徴とする相変化型メモリー用スパッタリングターゲット及び該ターゲットを用いて形成された相変化メモリー用膜
3.3元系以上の元素からなり、アンチモン、テルル又はセレンから選んだ1成分以上を主成分とし、ターゲット内の任意の個所から採取した2個以上の各サンプル(i=2,3,4・・・)において、主成分を除く各成分元素の組成Ai(wt%)の平均値をA(wt%)とした場合、|A−Ai|≦0.15であることを特徴とする上記1記載の相変化型メモリー用スパッタリングターゲット及び該ターゲットを用いて形成された相変化メモリー用膜
【0012】
4.ガス成分を除く純度が99.995wt%以上であり、ガス成分である炭素、窒素、酸素、硫黄の総量が700ppm以下であることを特徴とする上記1〜3のそれぞれに記載の相変化型メモリー用スパッタリングターゲット及び該ターゲットを用いて形成された相変化メモリー用膜
5.ターゲットの平均結晶粒径が50μm以下で、相対密度が90%以上であることを特徴とする上記1〜4のそれぞれに記載の相変化型メモリー用スパッタリングターゲット及び該ターゲットを用いて形成された相変化メモリー用膜
6.副成分として遷移金属、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、錫から選択した1種以上を含有することを特徴とする上記1〜5のそれぞれに記載の相変化型メモリー用スパッタリングターゲット及び該ターゲットを用いて形成された相変化メモリー用膜
を提供する。
【0013】
本発明は、さらに
7.真空中又は不活性雰囲気中の密閉系で溶解鋳造することを特徴とする上記1〜6のそれぞれに記載の相変化型メモリー用スパッタリングターゲットの製造方法
8.内部を真空又は不活性雰囲気とした石英容器を用い、該容器を密閉して溶解鋳造することを特徴とする上記7記載の相変化型メモリー用スパッタリングターゲットの製造方法
9.アルカリ成分が10ppm以下、OHが5ppm以下の高純度石英を使用することを特徴とする上記8記載の相変化型メモリー用スパッタリングターゲットの製造方法
10.溶解前の原料の純度が99.999wt%以上であることを特徴とする上記7〜9のそれぞれに記載の相変化型メモリー用スパッタリングターゲットの製造方法
11.成分元素又は生成化合物の融点以上の温度で溶解鋳造することを特徴とする上記7〜10のそれぞれに記載の相変化型メモリー用スパッタリングターゲットの製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、メモリー点と非メモリー部との界面付近に偏析濃縮し、書き換え回数の低下の原因となるターゲット中の不純物を極力減少させ、特に拡散、移動度の大きい炭素、窒素、酸素、硫黄等のガス成分、アルカリ金属、アルカリ土類金属の不純物量を減少させて、非晶質状態から結晶状態(結晶化)速度を向上させることができるという優れた効果を有する。
さらに、目標組成に対するターゲット組成のずれを±1.0at%以下とし、さらにターゲット内の成分偏析を減少させることにより、相変化型メモリーの書き換え特性及び結晶化速度を向上させることができるという著しい効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
従来、光ディスクメモリー層用ターゲット材は3N5〜4Nレベルの純度でも十分使用に耐えていたが、近年の高速度メモリー化、短波長レーザー使用による微小スポット化に伴いより向上した機能のターゲットが要求されるようになった。
ターゲット中の不純物は、メモリー点と非メモリー部との界面付近に偏析濃縮し、書き換え回数の低下の原因となる。また、不純物が多いと各構成元素がかなり均一に分布している非晶質状態から結晶状態にする際、不純物が原子の相互拡散を妨害するために時間がかかり、結晶化速度が遅くなるという問題がある。
このようなことから、最近は結晶相変化を利用した記録用材料として使用されるアンチモン、テルル又はセレンを主体とする合金系ターゲットは、書き換え回数増加、高速度記録化、大容量化を目的とした記録部分の微小化に伴い、ターゲットの目的とする組成のずれ及びターゲット内の組成偏析をできるだけ低減させ、かつ高純度化することが必要とされる。
【0016】
不純物の観点からは、拡散及び移動度の大きいアルカリ金属、アルカリ土類金属が問題である。また、耐食性も面からもこれらの元素の低減は重要であり、環境に対して、高耐食性を維持することができる。また、不純物であるU,Thなどの放射性元素は、相変化型メモリーに使用する場合に誤作動の原因となるため、低減することが望ましい。
さらに、相変化型メモリーの膜組成の、目標とする組成からのずれは、書き換え特性及び結晶化速度に影響を及ぼし、特に結晶化速度への影響が大きい。このため、主成分及び副成分の組成ずれをより低減する必要がある。ターゲットの組成ずれは、そのまま膜組成のずれにつながるので、ターゲットの組成の制御は極めて重要である。
【0017】
本発明においては、アンチモン、テルル又はセレンから選んだ1成分以上を主成分とし、3元系以上の元素からなる相変化型メモリー用スパッタリングターゲットであり、目標組成に対する組成のずれが±1.0at%以下とするものである。
また、さらにターゲット内の任意の個所から採取した2個以上の各サンプル(i=2,3,4・・・)において、主成分を除く各成分元素の組成Ai(wt%)の平均値をA(wt%)とした場合、|A−Ai|≦0.15とした相変化型メモリー用スパッタリングターゲットである。
本発明の相変化型メモリー用スパッタリングターゲットは、副成分として遷移金属、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、錫から選択した1種以上を含有する。これによって、該ターゲットを用いて形成された相変化メモリー用膜は、ターゲットの組成ずれ及び組成偏析が減少し、結果として目標とする組成の精度が向上し、再現性が良好となり、書き換え特性及び結晶化速度を著しく向上させることが可能となった。
【0018】
ターゲットの純度は、ガス成分を除き99.995wt%以上であり、ガス成分である炭素、窒素、酸素、硫黄の総量が700ppm以下とする。ターゲットに含まれるガス成分は、スパッタリングの際のパーティクル発生に悪影響を及ぼすとともに、膜中にも取り込まれ、書き換え特性、結晶化温度、結晶化速度にも影響する。本発明においては、これらの問題を解消することができる。
また、ターゲットの組織は均一な成膜を行うために、できるだけ微細かつ緻密にすることが望ましく、本発明においては平均結晶粒径を50μm以下、相対密度を90%以上とする。
【0019】
次に、本発明の高純度スパッタリングターゲットの製造方法を説明する。従来、アンチモン、テルル、セレンは非常に脆く、酸洗すると酸が中に残留し、後工程で酸素等が増加する原因となるので、酸洗処理は行われていなかった。
一方、アンチモン、テルル、セレンは粒界に不純物が偏析し易く、またインゴット等は粒界から割れるという現象があることが分かった。これは、すなわち割れた部分に不純物が濃縮しているということを意味する。
このようなことから、アンチモン、テルル、セレン原料を適度に破砕し、この原料を篩にかけて粒度調整した後、酸で洗浄することにより、前記のように濃縮した不純物を効果的に除去する。
【0020】
次に、このように酸で不純物を酸洗浄により除去した後、この原料を溶解し、鋳造して高純度のアンチモン、テルル、セレンのインゴットを得る。
溶解の際に表面に浮上したスラグは除去する。スラグがない場合は、この工程は省略することができる。
篩にかけたアンチモン、テルル、セレン原料は、0.5mm〜10mmに粒度調整することが望ましい。0.5mm未満では洗浄し難く、洗浄効率が上がらない。
【0021】
また10mmを超えると原料粉末に不純物が残存し、十分な洗浄ができないという問題がある。したがって、篩によりアンチモン、テルル、セレン原料粉を0.5mm〜10mmに粒度調整する。より好ましい範囲は1mm〜5mmである。
洗浄用の酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、ふっ酸のいずれか1種又は2種以上の混酸を用いることができる。特に塩酸が洗浄用の酸として効果的である。酸濃度は0.5N〜6Nとする。0.5N未満では、酸洗浄に時間がかかり過ぎ、また6Nを超えると、アンチモン、テルル、セレンの一部溶解がおき、ロスとなるので、酸濃度を0.5N〜6Nとするのが望ましい。
【0022】
また、酸洗浄は、温度10°C〜80°Cで行う。10°C未満では不純物除去が効果的に行われず、また80°Cを超えると液の蒸発が大きく、酸のロスが大きくなるので、好ましくない。
原料としては2N〜3N(99wt%〜99.9wt%)レベル以上の純度のアンチモン、テルル、セレンを使用する。上記本発明の操作により、高純度化後の純度が4N〜5Nレベル以上とすることができる。
【0023】
酸洗浄後、アンチモン、テルル、セレン原料粉を純水で洗浄し、乾燥後、アルゴンガス等の不活性雰囲気中又は真空中で溶解し、鋳造して高純度アンチモン又はテルルインゴットを得る。
以上のように、酸洗浄と溶解という簡単な方法により、4Nレベル以上のアンチモン、テルル、セレンを安価に製造できる。
このようにして製造したアンチモン、テルル又はセレンと、副成分として遷移金属、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、錫から選択した1種以上を目標とする所定の混合比で混合し、溶解する。溶解前の原料の純度としは、99.999wt%以上であることが望ましい。
【0024】
溶解するときに、坩堝材及び炉内からの汚染を防止するために、高純度石英(管等)を使用する。この石英管は、栓をする形にしてできるだけ坩堝内を独立させるのが望ましい。このように石英管を利用した密閉系なので、組成のずれは著しく減少する。溶解は、通常成分元素又は生成化合物の融点以上の温度で行う。
以上のように、予め原料を高純度化し、さらに酸化物、スラグ量を低減することにより、目標とする組成ずれを低減することが可能となる。発生したスラグ量は少量であり、これを除去しても影響は少なくなる。
【0025】
アルカリ成分が10ppm以下、OHが5ppm以下の高純度石英を使用することが望ましい。これによって、書き換え回数増加、高速度記録化に影響を与える因子を極力減少させることができる。
この後、ボールミル等で粉砕して粉末とし、さらに所定の温度でホットプレスしてターゲットとする。
【実施例】
【0026】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0027】
(実施例1)
高純度化した5Nレベルの塊状ゲルマニウム、アンチモン及びテルルを、ゲルマニウム22.2at%、アンチモン22.2at%、テルル55.6at%となるように調合し、石英坩堝の中に入れ、真空に引きながら封止し、Ar雰囲気中900°Cで溶解した。
溶解後のインゴットを、ボールミルによりAr雰囲気中で粉砕し、粉砕後の材料をホットプレスし、さらに成形してスパッタリングターゲットとした。
表1に示すように、不純物はアルカリ金属及びアルカリ土類金属の総計が10ppm以下であり、成分元素以外の不純物金属元素については15ppm以下であり、炭素成分は10ppm以下、窒素成分は200ppm以下、酸素成分は100ppm以下、硫黄成分は10ppm以下であった。ターゲット内より採取したバルクの組織観察をしたところ、平均結晶粒径は30μmであった。
このターゲットの5箇所から採取したサンプルを組成分析したところ、表2に示すように、ゲルマニウム、アンチモン、テルルの目標成分に対する組成のずれ(5箇所の平均値)は、−0.1at%,−0.2at%,+0.3at%であり、いずれも本発明の条件を満たしていた。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
(実施例2)
高純度化した5Nレベルの塊状の銀、インジウム、アンチモン、テルルの原料を、銀5at%、インジウム5at%、アンチモン60at%、テルル30at%となるように調合し、石英坩堝に入れ真空に引きながら封止し、Ar雰囲気中1100°Cで溶解した。
溶解後のインゴットをアルミナのボールミルによりAr雰囲気中で粉砕し、粉砕後の材料をホットプレスし、さらに成形してスパッタリングターゲットとした。
表1に示すように、成分以外の金属元素は10ppm以下であり、炭素成分は10ppm、窒素成分は300ppm、酸素成分は300ppm以下、硫黄成分は10ppm以下であった。ターゲット内より採取したバルクの組織観察をしたところ、平均結晶粒径は30μmであった。
また、このターゲット内の5箇所から採取したサンプルを組成分析したところ、
表3に示すように、銀、インジウム、アンチモン、テルルの目標成分に対する組成のずれ(5箇所の平均値)は、それぞれ−0.1at%,+0.1at%,+0.3at%,−0.3at%であり、いずれも本発明の条件を満たしていた。
【0031】
【表3】

【0032】
(比較例1)
高純度化した5Nレベルの塊状ゲルマニウム、アンチモン及びテルルを、ゲルマニウム22.2at%、アンチモン22.2at%、テルル55.6at%となるように調合し、黒鉛坩堝の中に入れ、Ar雰囲気中800°Cで溶解した。
溶解後炉壁にアンチモン、テルル系の蒸着物が確認された。溶解後のインゴットを、アルミナのボールミルによりAr雰囲気中で粉砕し、粉砕後の材料をホットプレスし、さらに成形してスパッタリングターゲットとした。
表1に示すように、成分元素以外の不純物金属元素については約90ppmであり、炭素成分は500ppm、窒素成分は300ppm、酸素成分は500ppm、硫黄成分は50ppmであった。ターゲット内より採取したバルクの組織観察をしたところ、平均結晶粒径は60μmであった。
このターゲットの5箇所から採取したサンプルを組成分析したところ、表4に示すように、銀、ゲルマニウム,アンチモン,テルルの目標成分に対する組成のずれ(5箇所の平均値)は、それぞれ+0.5at%,+0.7at%,−1.2at%,−2.0at%であり、組成ずれが大きく問題のあるターゲットとなった。
【0033】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、メモリー点と非メモリー部との界面付近に偏析濃縮し、書き換え回数の低下の原因となるターゲット中の不純物を極力減少させ、特に拡散、移動度の大きい炭素、窒素、酸素、硫黄等のガス成分、アルカリ金属、アルカリ土類金属の不純物量を減少させて、非晶質状態から結晶状態(結晶化)速度を向上させることができるという優れた効果を有し、さらに目標組成に対するターゲット組成のずれを±1.0at%以下とし、ターゲット内の成分偏析を減少させることにより、相変化型メモリーの書き換え特性及び結晶化速度を向上させることができるので、相変化型メモリー用スパッタリングターゲット及び該ターゲットを用いて形成された相変化メモリー用膜として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3元系以上の元素からなり、アンチモン、テルル又はセレンから選んだ1成分以上を主成分とし、組成のずれが±1.0at%以下であり、かつターゲット内の任意の個所から採取した2個以上の各サンプル(i=2,3,4・・・)において、主成分を除く各成分元素の組成Ai(wt%)の平均値をA(wt%)とした場合、|A−Ai|≦0.15であり、ターゲットの平均結晶粒径が50μm以下、相対密度が90%以上、副成分として遷移金属、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、錫から選択した1種以上を含有することを特徴とする相変化型メモリー用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
ガス成分を除く純度が99.995wt%以上であり、ガス成分である炭素、窒素、酸素、硫黄の総量が700ppm以下であることを特徴とする請求項2記載の相変化型メモリー用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
溶解前の純度が99.999wt%以上である原料を用い、この原料を真空中又は不活性雰囲気中の密閉系で、成分元素又は生成化合物の融点以上の温度で溶解鋳造し、これを粉砕後焼結することにより、3元系以上の元素からなり、アンチモン、テルル又はセレンから選んだ1成分以上を主成分とし、組成のずれが±1.0at%以下であり、かつターゲット内の任意の個所から採取した2個以上の各サンプル(i=2,3,4・・・)において、主成分を除く各成分元素の組成Ai(wt%)の平均値をA(wt%)とした場合、|A−Ai|≦0.15であり、ターゲットの平均結晶粒径が50μm以下、相対密度が90%以上、副成分として遷移金属、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、錫から選択した1種以上を含有する相変化型メモリー用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
ガス成分を除く純度が99.995wt%以上であり、ガス成分である炭素、窒素、酸素、硫黄の総量が700ppm以下であることを特徴とする請求項3記載の相変化型メモリー用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
内部を真空又は不活性雰囲気とすると共に、アルカリ成分が10ppm以下、OHが5ppm以下の高純度石英を使用し、該容器を密閉して溶解鋳造することを特徴とする請求項3又は4記載の相変化型メモリー用スパッタリングターゲットの製造方法。

【公開番号】特開2007−46165(P2007−46165A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245267(P2006−245267)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【分割の表示】特願2003−570343(P2003−570343)の分割
【原出願日】平成14年12月5日(2002.12.5)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】