説明

相間絶縁紙及びアキシャルギャップ型モータ

【課題】コイル間への相間絶縁紙挿入作業の効率を向上させて組立て作業を容易化し、更に、後工程での相間絶縁紙の位置ずれを防止して確実に相間絶縁することができる相間絶縁紙及びアキシャルギャップ型モータを提供する。
【解決手段】相間絶縁紙30は、ステータコア23の内径より小径及び外径より大径で、互いに略同心円形状に形成され、各相のコイル25、26、27のコイルエンド25a、26a、27a、及び25b、26b、27b間の相間絶縁を行う2つの絶縁部31、32と、2つの絶縁部31、32を径方向に連結させる繋ぎ部33と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アキシャルギャップ型モータのステータコアのコイル間に挿入されて、複数相のコイル間を絶縁する相間絶縁紙及びアキシャルギャップ型モータに関する。
【背景技術】
【0002】
モータのステータには、ステータコアの各スロットにコイル導体を重ね巻きした複数相のコイル(固定子巻線)がそれぞれ挿入されている。これらコイルの渡り部分(ステータからはみ出した屈曲部分をいい、以下、「コイルエンド」という)間には、各相のコイル同士を絶縁するために相間絶縁紙が挿入される。従来、このような相間絶縁紙としては、図16に示すように、固定子コア101の内径に相当する内径を有するドーナツ形状とされ、半径方向に対して所定角度をなして外周から内周に向かって切り欠き102が設けられた相間絶縁紙100が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の相間絶縁紙100は、ラジアルギャップ型モータの絶縁紙であり、コイル103、104のコイルエンド間に挟まれて、平面形状から円筒形状に変形する際、重なり部105が確実に生じて、絶縁不良を起き難くする工夫がなされている。
【0003】
また、一対の帯状部と、この帯状部を連結する一対の連結部とからなる相間絶縁紙を用い、一対のペーパグリッパで両端近傍を把持して回転変位させ、該両端を固定子鉄心の所定のスロット方向に合わせた後、軸線に平行に移行させて連結部をスロットに挿入するようにした相間絶縁紙の挿入方法及び装置が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−275425号公報
【特許文献2】特開平5−260707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の相間絶縁紙は、いずれもラジアルギャップ型モータに用いられるものである。また、特許文献2では、複数枚の相間絶縁紙によってコイル間の絶縁が行われており、異相コイルのコイルエンド同士が接触する部分に、相間絶縁紙がそれぞれ1枚ずつ挿入されている。このため、相間絶縁紙挿入に多くの時間を要し、作業効率上の問題があった。また、レーシングなどの後工程の際に、相間絶縁紙の位置ずれが生じる虞があり、相間絶縁の信頼性を向上させる上で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、コイル間への相間絶縁紙挿入作業の効率を向上させて組立て作業を容易化し、更に、後工程での相間絶縁紙の位置ずれを防止して確実に相間絶縁することができる相間絶縁紙及びアキシャルギャップ型モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、永久磁石(例えば、後述の実施形態における主磁石部12a及び副磁石部12b)を具備し、回転軸周りに回転可能なロータ(例えば、後述の実施形態におけるロータ11)と、周方向に複数のスロット(例えば、後述の実施形態におけるスロット24)が形成されるステータコア(例えば、後述の実施形態におけるステータコア23)、及び該複数のスロットに挿入される複数相のコイル(例えば、後述の実施形態におけるU相コイル25、V相コイル26、W相コイル27)とを具備し、前記回転軸方向の少なくとも一方から前記ロータに対向配置されるステータ(例えば、後述の実施形態におけるステータ20)と、を備えるアキシャルギャップ型モータ(例えば、後述の実施形態におけるアキシャルギャップ型モータ10)の前記ステータの各相のコイル間を絶縁する相間絶縁紙(例えば、後述の実施形態における相間絶縁紙30)であって、
前記ステータコアの内径より小径及び外径より大径で、互いに略同心円形状に形成され、前記各相のコイルの内径側及び外径側コイルエンド(例えば、後述の実施形態における内径側コイルエンド25b、26b、27b及び外径側コイルエンド25a、26a、27a)間に挿入され、前記各コイルエンドの相間絶縁を行うための2つの絶縁部(例えば、後述の実施形態における内径側絶縁部32及び外径側絶縁部31)と、
前記2つの絶縁部を径方向に連結させる繋ぎ部(例えば、後述の実施形態における繋ぎ部33)と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成に加えて、前記2つの絶縁部の径方向で互いに対向する周面の少なくとも一方は、前記絶縁部に作用する引っ張り応力を緩和する複数の応力緩和部(例えば、後述の実施形態におけるスリット34)を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項2の構成に加えて、前記応力緩和部は、径方向に沿って形成されたスリットであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項3の構成に加えて、前記スリットは、前記ステータコアのスロット数と同数設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項3または4の構成に加えて、前記スリットの基部は、前記コイルエンドの周方向に延びる部分のステータコア寄りの径方向位置と略等しいことを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項1から5のいずれか1項の構成に加えて、前記繋ぎ部は、前記スロットの周方向幅より広く形成することで、周方向両側に回転方向位置決め部(例えば、後述の実施形態における回転方向位置決め部36)を有し、
前記繋ぎ部は、断面略コの字状に折り畳まれて前記スロット内に挿入され、前記回転方向位置決め部が前記スロットの両側面と接触することで、前記ステータコアに対する回転方向位置を位置決めすることを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項1から6のいずれか1項の構成に加えて、前記繋ぎ部の周方向両側には、前記ステータコアの周面と当接可能な径方向長さを有して前記絶縁部から径方向に延びる径方向位置決め部(例えば、後述の実施形態における径方向位置決め部37)を備え、
前記径方向位置決め部は、前記ステータコアの周面に折り曲げられながら当接し、前記ステータコアに対する径方向位置を位置決めすることを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明は、請求項1から7のいずれか1項の構成に加えて、前記繋ぎ部は、周方向両側面において波打ち状に形成されることを特徴とする。
【0015】
請求項9に係る発明は、請求項1から8のいずれか1項の構成に加えて、前記繋ぎ部は、前記繋ぎ部の他の部位より機械的強度が弱い脆弱部を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項10に係る発明は、請求項9の構成に加えて、前記脆弱部は、ミシン目であることを特徴とする。
【0017】
請求項11に係る発明は、請求項9の構成に加えて、前記脆弱部は、前記他の部位より幅方向寸法が小さい幅狭部であることを特徴とする。
【0018】
請求項12に係る発明は、請求項9の構成に加えて、前記脆弱部は、途中で縁切りされた前記繋ぎ部の先端同士が接着された接着部であることを特徴とする。
【0019】
請求項13に係る発明は、アキシャルギャップ型モータであって、永久磁石を具備し、回転軸周りに回転可能なロータと、周方向に複数のスロットが形成されるステータコア、該複数のスロットに挿入される複数相のコイル、及び請求項1から12のいずれか1項に記載の前記相間絶縁紙を具備し、前記回転軸方向の少なくとも一方から前記ロータに対向配置されるステータと、を備えることを特徴とする。
【0020】
請求項14に係る発明は、請求項13の構成に加えて、前記複数相のコイルは、U相コイル、V相コイル、及びW相コイルの組合せからなり、
前記相間絶縁紙は、それぞれの前記繋ぎ部の位相を周方向にずらした状態で軸方向に複数配置されて、前記各コイルエンドの相間絶縁を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、外径側コイルエンド及び内径側コイルエンドを1枚の相間絶縁紙で絶縁することができ、相間絶縁紙挿入の作業効率が大幅に向上する。また、相間絶縁紙の形状が円形であるので、レーシングなどの後工程での位置ずれが生じ難く、信頼度の高い相間絶縁が行われ、また万一、位置ずれが生じても全体が移動するので位置ずれ発生を容易に判別することができる。
【0022】
請求項2及び3の発明によれば、レーシング時に絶縁部に作用する引っ張り応力を緩和させて、2つの絶縁部での破断を防止することができる。またこれによって、信頼度の高い相間絶縁を達成することができる。
【0023】
請求項4及び5の発明によれば、それぞれのコイルエンドで発生する引っ張り応力をスリットで効果的に緩和して、絶縁部での破断を防止することができる。
【0024】
請求項6の発明によれば、繋ぎ部に設けられた回転方向位置決め部によって、ステータコアに対する相間絶縁紙の回転方向位置が確実に位置決めされる。これによって、作業時に相間絶縁紙が回転する位相ずれが防止されて、各コイル間を確実に相間絶縁することができる。
【0025】
請求項7の発明によれば、繋ぎ部の径方向位置決め部によって、ステータコアに対して相間絶縁紙が径方向に位置決めされるので、作業時に相間絶縁紙の径方向ずれが防止されて、各コイル間を確実に相間絶縁することができる。
【0026】
請求項8〜12の発明によれば、繋ぎ部に引っ張り応力が作用したとき、切断されて応力を緩和し、絶縁部などの相間絶縁紙の他部位へ及ぼす影響を防止することができる。
【0027】
請求項13の発明によれば、各相のコイル間に1枚の相間絶縁紙を挿入することによって、相間絶縁紙の位置ずれが生じ難く、信頼性の高い相間絶縁が行われ、且つ組付けが容易なアキシャルギャップ型モータが得られる。
【0028】
請求項14の発明によれば、繋ぎ部が同一のスロットに配置されることがなく、当該スロットに配置されるコイルの占積率の低下が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るアキシャルギャップ型モータの全体斜視図である。
【図2】図1のロータの分解斜視図である。
【図3】ステータの正面図である。
【図4】図3に示すステータの外径側斜視図である。
【図5】図3に示すステータの内径側斜視図である。
【図6】(a)は本発明に係る相間絶縁紙の正面図であり、(b)はその要部拡大図である。
【図7】図3のVII−VII線に沿って切断された断面図である。
【図8】U相コイル及びV相コイルが相間絶縁紙と共に挿入されたステータの正面図である。
【図9】図8に示すステータの外径側斜視図である。
【図10】図8に示すステータの内径側斜視図である。
【図11】U相コイル及びV相コイルが挿入された図8に示すステータに、相間絶縁紙が載せられた状態を示すステータの正面図である。
【図12】本実施形態の第1変形例の相間絶縁紙の正面図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る相間絶縁紙が適用されたアキシャルギャップ型モータの図7に対応する断面図である。
【図14】本発明の第3実施形態に係る相間絶縁紙の正面図である。
【図15】図14に示す相間絶縁紙によって相間絶縁されたステータの部分破断斜視図である。
【図16】(a)は従来の相間絶縁紙の正面図であり、(b)はコイルが相間絶縁紙によって相間絶縁された状態を示す部分破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態に係る相間絶縁紙及びアキシャルギャップ型モータについて図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
図1に示すように、アキシャルギャップ型モータ10は、回転軸O周りに回転可能に設けられた略円環状のロータ11と、回転軸Oの軸方向(以後、単に軸方向と言う)の両側からロータ11を挟み込むようにして対向配置され、複数相の各コイル(固定子巻線)を有する一対のステータ20,20と、を備える。
【0032】
ロータ11は、図2に示すように、永久磁石からなる複数の主磁石部12a,…,12a及び複数の副磁石部12b,…,12bと、複数のヨーク部13,…,13と、非磁性部材からなるロータフレーム14と、を具備する。
【0033】
各ステータ20は、略円環板状のヨーク部21、及びロータ11に対向するヨーク部21の対向面上で周方向に所定間隔をおいた位置から軸方向に沿ってロータ11に向かって径方向に突出する複数のティース22,…,22を有するステータコア23と、適宜の隣り合うティース22,22によって画成されるスロット24に挿入され、ロータ11を回転させる回転磁界を発生する複数相(U相、V相、及びW相)のコイル25、26、27(図3参照)と、を備える。
【0034】
図3から図5に示すように、各ステータ20は、主極が6個(U,V,W,U,V,W)とされた6N型であって、それぞれのスロット24にU相コイル25、V相コイル26、及びW相コイル27が挿入されている。また、U相コイル25とV相コイル26との間、及びV相コイル26とW相コイル27との間には、それぞれ相間絶縁紙30(30A、30B)が挿入される。これら相間絶縁紙30A,30Bと、各コイル25、26、27の外径側コイルエンド25a、26a、27a、及び内径側コイルエンド25b、26b、27bが、それぞれレーシング糸28によって縛られている。
【0035】
このような6N型のステータ20は、一方のステータ20の各U,V,W極に対して、他方のステータ20の各U,V,W極が、軸方向で対向するように設定される。例えば、軸方向で対向する一対のステータ20,20に対し、U,V,W極及びU,V,W極の一方に対応する一方のステータ20の3個のティース22,22,22と、U,V,W極及びU,V,W極の他方に対応する他方のステータ20の3個のティース22,22,22と、が軸方向で対向し、軸方向で対向する一方のステータ20のティース22と、他方のステータ20のティース22とに対する通電状態が電気角で反転状態となるように設定されている。
【0036】
図6に示すように、相間絶縁紙30(30A、30B)は、外径Dがステータコア23の外径より大径とされた外径側絶縁部31と、内径dがステータコア23の内径より小径とされた内径側絶縁部32とが略同心円状に配置され、外径側絶縁部31及び内径側絶縁部32が、周方向4箇所(90°間隔)に設けられた繋ぎ部33によって径方向に連結されて、一体形成されている。
【0037】
外径側絶縁部31及び内径側絶縁部32の径方向で互いに対向する周面、即ち、外径側絶縁部31の内周面及び内径側絶縁部32の外周面には、応力緩和部である複数のスリット34が径方向に形成されている。スリット34は、ステータコア23のスロット24と同数設けられている。また、スリット34の基部34aは、コイルエンド25a、26a、27a、及び25b、26b、27bの周方向に延びる周方向部分25c、26c、27cのステータコア23寄りの径方向位置と略等しくなっている。応力緩和部であるスリット34は、相間絶縁紙30が各相のコイル25、26、27のコイルエンド25a、26a、27a、及び25b、26b、27bとともに、レーシング糸28によって縛られた際、外径側絶縁部31及び内径側絶縁部32に作用する引っ張り応力を緩和する。
【0038】
図7にも示すように、繋ぎ部33は、スロット24内に挿入される略U字形に形成された絶縁紙からなる後述のスロットセル40を介してスロット24の底面上に配置される。本実施形態では、繋ぎ部33は、スロット24の周方向幅Waからスロット24の両側面、即ち、スロット24を画成するティース22の各側面と接触する両側のスロットセル40の厚さtを引いた値(Wa−2×t)より若干狭い幅Wに設定されている。
【0039】
ステータ20の組付けは、図8から図10に示すように、先ず、ステータコア23の各スロット24にスロットセル40がそれぞれ挿入される。スロットセル40は、図9や図10に示すように、スロット24の両側面と接触させるように略U字形に形成されたU字形部分40aと、該部分40aの径方向両端縁をステータ20のコア端面に向けて折り返したカフス部40bと、を有する。次いで、別工程で巻回されたU相コイル25がスロットセル40を介してスロット24に挿入される。このとき、U相コイル25の外径側コイルエンド25aはステータコア23の外径側に、また、U相コイル25の内径側コイルエンド25bはステータコア23の内径側に突出する。
【0040】
ステータコア23に挿入されたU相コイル25には、外径側コイルエンド25a上に外径側絶縁部31が載せられ、また内径側コイルエンド25b上に内径側絶縁部32が載せられて、相間絶縁紙30Aが配置される。相間絶縁紙30Aの4箇所の繋ぎ部33は、V相コイル26が挿入されるスロット24に挿入される。これにより、ステータコア23に対して相間絶縁紙30Aが位置決めされる。
【0041】
次いで、別工程で巻回されたV相コイル26を、前工程でスロット24に挿入した相間絶縁紙30Aの繋ぎ部33の上からスロット24に挿入する。これにより、U相コイル25の外径側コイルエンド25aとV相コイル26の外径側コイルエンド26aとの間に外径側絶縁部31が挿入されると共に、U相コイル25の内径側コイルエンド25bとV相コイル26の内径側コイルエンド26bとの間に内径側絶縁部32が挿入されて、U相コイル25及びV相コイル26間が相間絶縁される。
【0042】
次いで、図11に示すように、相間絶縁紙30Bは、W相コイル27が挿入されるスロット24に繋ぎ部33を挿入して、V相コイル26の外径側コイルエンド26a上に外径側絶縁部31を載せ、内径側コイルエンド26b上に内径側絶縁部32を載せる。そして、スロット24に挿入された相間絶縁紙30Bの繋ぎ部33の上から、別工程で巻回されたW相コイル27をスロット24に挿入する。
【0043】
これにより、V相コイル26の外径側コイルエンド26aとW相コイル27の外径側コイルエンド27aとの間に外径側絶縁部31が挿入されると共に、V相コイル26の内径側コイルエンド26bとW相コイル27の内径側コイルエンド27bとの間に内径側絶縁部32が挿入されて、V相コイル26及びW相コイル27間が相間絶縁紙30Bによって相間絶縁される。
【0044】
そして、各コイル25、26、27の外径側コイルエンド25a、26a、27a、及び内径側コイルエンド25b、26b、27b同士が、それぞれレーシング糸28によって縛られる。このとき、レーシング糸28による引っ張り応力が相間絶縁紙30にも作用するが、レーシング糸28の架かる位置は、略スリット34に一致しているので、レーシング糸28による引っ張り応力がスリット34によって緩和されて、外径側絶縁部31及び内径側絶縁部32への影響は最小限に抑制される。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係る相間絶縁紙30によれば、ステータコア23の内径より小径及び外径より大径で、互いに略同心円形状に形成されてコイルエンド25a、26a、27a、及び25b、26b、27bの相間絶縁を行う外径側及び内径側絶縁部31、32と、外径側及び内径側絶縁部31、32を径方向に連結させる繋ぎ部33と、を備えるので、外径側コイルエンド25a、26a、27a及び内径側コイルエンド25b、26b、27bを1枚の相間絶縁紙30で絶縁することができ、相間絶縁紙挿入の作業効率が大幅に向上する。また、相間絶縁紙30の形状が円形であるので、レーシングなどの後工程での位置ずれが生じ難く、信頼度の高い相間絶縁が行われ、また万一、位置ずれが生じても全体が移動するので位置ずれ発生を容易に判別することができる。
【0046】
また、径方向で互いに対向する外径側絶縁部31の内周面及び内径側絶縁部32の外周面は、複数の応力緩和部34を備えており、レーシング時に絶縁部31、32に作用する引っ張り応力を緩和させて、2つの絶縁部31、32での破断を防止することができる。これにより、信頼度の高い相間絶縁が可能となる。
【0047】
具体的に、応力緩和部34は、径方向に沿って形成されるスリット34であるので、レーシング時に相間絶縁紙30に発生する引っ張り応力をスリット34で緩和させることができる。これによって、絶縁部31、32での破断を防止して絶縁信頼度を向上させることができる。
【0048】
また、スリット34がステータコア23のスロット24数と同数設けられているので、スリット34とスロット24との位置を合わせて相間絶縁紙30を配置することにより、それぞれのコイルエンド25a、26a、27a、及び25b、26b、27bで発生する引っ張り応力をスリット34で効果的に緩和して、絶縁部31,32での破断を防止することができる。
【0049】
更に、スリット34の基部34aは、コイルエンド25a、26a、27a、及び25b、26b、27bの周方向部分25c、26c、27cのステータコア23寄りの径方向位置と略等しい位置となっているので、それぞれのコイルエンド25a、26a、27a、及び25b、26b、27bで発生する引っ張り応力をスリット34で効果的に緩和して、絶縁部31,32での破断を防止することができる。
【0050】
なお、応力緩和部である複数のスリット34は、外径側絶縁部31の内周面及び内径側絶縁部32の外周面の少なくとも一方に形成されてもよい。或いは、図12に示す本実施形態の変形例のように、相間絶縁紙30は、スリットを有しない構成であってもよい。
【0051】
また、本実施形態に係るアキシャルギャップ型モータ10によれば、ステータコア23の内径より小径及び外径より大径で、互いに略同心円形状に形成されてコイルエンド25a、26a、27a、及び25b、26b、27b間の相間絶縁を行う2つの絶縁部31、32と、2つの絶縁部31、32を径方向に連結させる繋ぎ部33と、を有する相間絶縁紙30が、各相のコイルエンド25a、26a、27a、及び25b、26b、27b間に挿入される。これにより、相間絶縁紙30の位置ずれが生じ難く、信頼性の高い相間絶縁が行われ、且つ組付けが容易なアキシャルギャップ型モータ10が得られる。
【0052】
更にアキシャルギャップ型モータ10は、U相コイル25、V相コイル26、及びW相コイル27からなる複数相のコイルを有し、相間絶縁紙30は、繋ぎ部33の位相が周方向にずらされて軸方向に複数配置されて相間絶縁を行うようにしたので、繋ぎ部33が同一のスロット24に配置されることがなく、当該スロット24に配置されるコイル25、26、27の占積率が低下することがない。
【0053】
図13は、本発明の第2実施形態に係る相間絶縁紙30が適用されたアキシャルギャップ型モータの図7に対応する断面図である。この相間絶縁紙30の繋ぎ部33は、幅がスロット24の周方向幅Waより広く形成され、繋ぎ部33が断面略コの字状に折り畳まれてスロット24内に挿入され、スロットセル40の両側面と接触する回転方向位置決め部36を構成する。
【0054】
このように構成することで、ステータコア23に対する相間絶縁紙30の回転方向位置が確実に位置決めされる。これによって、作業時に相間絶縁紙30が回転する位相ずれが防止され、各コイル25、26、27のコイルエンド25a、26a、27a、及び25b、26b、27b間を確実に相間絶縁することができる。
【0055】
図14は、本発明の第3実施形態に係る相間絶縁紙30の正面図であり、図15は図14に示す相間絶縁紙30によって相間絶縁されたステータの部分破断斜視図である。この相間絶縁紙30では、繋ぎ部33の周方向両側に、ステータコア23の周面と当接可能な径方向長さを有して絶縁部31、32から径方向に延びる径方向位置決め部37が形成されている。相間絶縁紙30は、図14に示すように、径方向位置決め部37をステータコア23の周面29に折り曲げられながら当接させ、スロット24に挿入される。
【0056】
このように構成することで、ステータコア23に対する相間絶縁紙30の径方向位置が位置決めされるので、相間絶縁紙30の径方向ずれが防止されて、各コイル25、26、27間を確実に相間絶縁することができる。
【0057】
尚、本発明は、前述した実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0058】
例えば、繋ぎ部33には、繋ぎ部33の他の部位より機械的強度が弱い脆弱部を設け、作業時に過大な引っ張り応力が相間絶縁紙30に作用したとき、この脆弱部で積極的に切断させて引っ張り応力を緩和するようにしてもよい。これによって、外径側絶縁部31や内径側絶縁部32などに及ぼす影響を抑制することができ、絶縁信頼性が向上する。
【0059】
また、繋ぎ部33は、相間絶縁紙30を一体成形することにより挿入作業の作業効率を向上させるためのものであり、例えばレーシング時に繋ぎ部33が切断したとしても、繋ぎ部33上にはU相、V相、及びW相のいずれか1相のコイルしか存在しないので、相間絶縁に影響を及ぼすことはない。
【0060】
このような脆弱部としては、繋ぎ部の周方向両側面を波打ち状に形成することで設けられてもよく、繋ぎ部33にミシン目を設けてもよい。或いは、脆弱部は、他の部位より幅方向寸法が小さい幅狭部、あるいは、途中で縁切りされた繋ぎ部の先端同士を接着した接着部などが可能であり、いずれも安価且つ簡単に脆弱部を形成できる。
【0061】
また、スロット24に挿入されるU相、V相、W相コイルの順番は任意に設定することができる。さらに、同一相のコイルが同一のスロットに配置するようにして、U相、V相、W相コイルの組合せを複数回配置するようにしてもよい。いずれの場合にも、各コイル間に一枚の相間絶縁紙が挿入される。
【符号の説明】
【0062】
10 アキシャルギャップ型モータ
11 ロータ
12a 主磁石部(永久磁石)
12b 副磁石部(永久磁石)
20 ステータ
23 ステータコア
24 スロット
25 U相コイル(コイル)
25a、26a、27a 外径側コイルエンド(コイルエンド)
25b、26b、27b 内径側コイルエンド(コイルエンド)
25c、26c、27c 周方向部分
26 V相コイル(コイル)
27 W相コイル(コイル)
29 ステータコアの周面
30(30A、30B) 相間絶縁紙
31 外径側絶縁部(絶縁部)
32 内径側絶縁部(絶縁部)
33 繋ぎ部
34 スリット(応力緩和部)
34a スリットの基部
36 回転方向位置決め部
37 径方向位置決め部
O 回転軸
W 繋ぎ部の幅
Wa スロットの周方向幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を具備し、回転軸周りに回転可能なロータと、周方向に複数のスロットが形成されるステータコア、及び該複数のスロットに挿入される複数相のコイルとを具備し、前記回転軸方向の少なくとも一方から前記ロータに対向配置されるステータと、を備えるアキシャルギャップ型モータの前記ステータの各相のコイル間を絶縁する相間絶縁紙であって、
前記ステータコアの内径より小径及び外径より大径で、互いに略同心円形状に形成され、前記各相のコイルの内径側及び外径側コイルエンド間に挿入され、前記各コイルエンドの相間絶縁を行うための2つの絶縁部と、
前記2つの絶縁部を径方向に連結させる繋ぎ部と、
を備えることを特徴とする相間絶縁紙。
【請求項2】
前記2つの絶縁部の径方向で互いに対向する周面の少なくとも一方は、前記絶縁部に作用する引っ張り応力を緩和する複数の応力緩和部を備えることを特徴とする請求項1に記載の相間絶縁紙。
【請求項3】
前記応力緩和部は、径方向に沿って形成されたスリットであることを特徴とする請求項2に記載の相間絶縁紙。
【請求項4】
前記スリットは、前記ステータコアのスロット数と同数設けられていることを特徴とする請求項3に記載の相間絶縁紙。
【請求項5】
前記スリットの基部は、前記コイルエンドの周方向に延びる部分のステータコア寄りの径方向位置と略等しいことを特徴とする請求項3または4に記載の相間絶縁紙。
【請求項6】
前記繋ぎ部は、前記スロットの周方向幅より広く形成することで、周方向両側に回転方向位置決め部を有し、
前記繋ぎ部は、断面略コの字状に折り畳まれて前記スロット内に挿入され、前記回転方向位置決め部が前記スロットの両側面と接触することで、前記ステータコアに対する回転方向位置を位置決めすることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の相間絶縁紙。
【請求項7】
前記繋ぎ部の周方向両側には、前記ステータコアの周面と当接可能な径方向長さを有して前記絶縁部から径方向に延びる径方向位置決め部を備え、
前記径方向位置決め部は、前記ステータコアの周面に折り曲げられながら当接し、前記ステータコアに対する径方向位置を位置決めすることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の相間絶縁紙。
【請求項8】
前記繋ぎ部は、周方向両側面において波打ち状に形成されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の相間絶縁紙。
【請求項9】
前記繋ぎ部は、前記繋ぎ部の他の部位より機械的強度が弱い脆弱部を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の相間絶縁紙。
【請求項10】
前記脆弱部は、ミシン目であることを特徴とする請求項9に記載の相間絶縁紙。
【請求項11】
前記脆弱部は、前記他の部位より幅方向寸法が小さい幅狭部であることを特徴とする請求項9に記載の相間絶縁紙。
【請求項12】
前記脆弱部は、途中で縁切りされた前記繋ぎ部の先端同士が接着された接着部であることを特徴とする請求項9に記載の相間絶縁紙。
【請求項13】
永久磁石を具備し、回転軸周りに回転可能なロータと、
周方向に複数のスロットが形成されるステータコア、該複数のスロットに挿入される複数相のコイル、及び請求項1から12のいずれか1項に記載の前記相間絶縁紙を具備し、前記回転軸方向の少なくとも一方から前記ロータに対向配置されるステータと、
を備えることを特徴とするアキシャルギャップ型モータ。
【請求項14】
前記複数相のコイルは、U相コイル、V相コイル、及びW相コイルの組合せからなり、
前記相間絶縁紙は、それぞれの前記繋ぎ部の位相を周方向にずらした状態で軸方向に複数配置されて、前記各コイルエンドの相間絶縁を行うことを特徴とする請求項13に記載のアキシャルギャップ型モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−178562(P2010−178562A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20555(P2009−20555)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】