説明

真空バルブ用接点およびその製造方法

【課題】接点表面に形成される酸化膜を除去し、Cr粒子を微細化させた微細層を露出させ、絶縁性能の向上を図る。
【解決手段】接離自在の一対の接点5、6を有する真空バルブに用いられる真空バルブ用接点であって、接点5、6は、互いの接触面が、導電成分と耐弧成分との所定量を混合するとともに、これを焼結して形成した基材層5aと、基材層5aの表面に形成されるとともに、高エネルギー照射により溶解させて耐弧成分を微細化した微細層5bと、微細層5bの表面を研磨処理して耐弧成分粒子を露出させた研磨層5cとを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性能を向上し得る真空バルブ用接点およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Cu−Crを主成分とする接点は、平均粒径30μmのCu粉と平均粒径150μmのCr粉とを用い、これらの所定量を混合、加圧し、1000℃の温度で焼結することにより得られている。そして、耐電圧特性などを向上させるため、電子線により高エネルギー照射が行われ、表面層のCr粒子の微細化が行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−273342号公報 (第5ページ、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来の真空バルブ用接点においては、次のような問題がある。高エネルギー照射は、10−3Pa以下の真空中で行われるが、真空度が悪かったり、高温状態で真空を開放して大気に曝したりすると、表面に厚さ数μmの酸化膜が形成され変色する。また、表面の粗さが大きくなる。
【0005】
ここで、照射後においては、周囲温度と同一にするため、真空中にて多大の放置時間を要するが、最近の趨勢である作業時間の短縮化から充分なる冷却が行われない場合が多く、酸化膜ができ易い状況にある。酸化膜が形成されると、耐電圧特性や遮断特性などの絶縁性能が低下し、表面層を微細化した効果が得られ難くなる。このため、酸化膜のない微細層を短時間で得られるものが望まれていた。
【0006】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、接点表面に形成される酸化膜を除去し、微細層を露出させることにより、絶縁性能を向上し得る真空バルブ用接点およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の真空バルブ用接点は、接離自在の一対の接点を有する真空バルブに用いられる真空バルブ用接点であって、前記接点は、接触面が、導電成分と耐弧成分との所定量を混合するとともに、これを焼結した基材層と、前記基材層の表面に形成されるとともに、高エネルギー照射により前記耐弧成分を微細化した微細層と、前記微細層の表面を研磨処理して形成した研磨層とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、Cr粒子を微細化した微細層を研磨し、表面に研磨層を形成しているので、微細化したCr粒子を表面に露出させることができ、絶縁性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例に係る真空バルブの構成を示す断面図。
【図2】本発明の実施例に係る真空バルブ用接点の製造方法を説明する図。
【図3】本発明の実施例に係る真空バルブ用接点の照射後を説明する断面図。
【図4】本発明の実施例に係る真空バルブ用接点の研磨後を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
真空バルブ用接点は、高エネルギー照射により微細層を形成した後、この微細層表面に形成される酸化膜を研磨し、研磨層を形成させるものである。以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
本発明の実施例に係る真空バルブ用接点を図1〜図4を参照して説明する。
【0012】
先ず、真空バルブの構成を図1を参照して説明する。
【0013】
図1に示すように、筒状の真空絶縁容器1の両端開口部には、固定側封着金具2と可動側封着金具3が封着されている。固定側封着金具2には、固定側通電軸4が貫通固定され、真空絶縁容器1内の端部に固定側接点5が固着されている。固定側接点5に対向して可動側接点6が、可動側封着金具3を移動自在に貫通する可動側通電軸7の端部に固着されている。
【0014】
可動側通電軸7の中間部には、伸縮自在のベローズ8の一方端が封着され、他方端が可動側封着金具3の中央開口部に封着されている。これにより、真空絶縁容器1内の真空を保って可動側通電軸7を軸方向に移動させることができるようになっている。接点5、6の周りには、真空絶縁容器1の内面中間部に固定された筒状のアークシールド9が設けられている。
【0015】
ここで、固定側接点5は、Cu−Cr合金からなる基材層5aと、接触面に高エネルギー照射を行うことによりCr粒子が微細化された微細層5bと、微細層5bの表面を研磨して表面を滑らかにした研磨層5cとから構成されている。可動側接点6も同様の構成である。
【0016】
次に、接点5、6の製造方法を図2〜4を参照して説明する。
【0017】
図2に示すように、先ず、平均粒径30μmのCu粉と平均粒径150μmのCr粉を所定量混合して加圧後、1000℃の温度で焼結し、所定形状の基材層5aとなる焼結体を得る(st1)。例えばCu−50Cr合金を得るためには、同量のCu粉とCr粉を混合する。次に、10−3Pa以下の真空中で焼結体の接触面に、例えば電子線により1W/mmの高エネルギーを照射し、深さ20〜30μmを溶融させる(st2)。
【0018】
照射により、図3に示すように、微細層5bのCr粒子5b1は、平均粒径が5〜50μmとなり、基材層5aのCr粒子5a1よりも小さくなり、微細化される。なお、斜線で示す基材層5aと微細層5bのCu粒子も微細化される。
【0019】
この真空状態を保って、焼結体を冷却する(st3)。ただし、従来の数10時間よりも数時間の短時間で真空を開放し、大気中に焼結体を取り出す。すると、微細層5bの表面には、厚さ数μmの酸化膜5dが形成される。即ち、焼結体の温度が高いほど、酸化膜5dが形成され易く、作業時間を短時間とすることができる。
【0020】
次に、例えば綿バイアスバフを用いて、バフ研磨を行い(st4)、酸化膜5dを除去する。酸化膜5dを除去すると、図4に示すように、表面粗さ数〜数100nmの研磨層5cが形成される。研磨層5cは、微細層5b表面に、新たに形成される層と見るより、微細層5bのCr粒子5b1を露出させるとともに、表面を滑らかにしたものと見るほうがよい。表面粗さは、綿バフ、麻バフなど適宜選択することにより、設定することができる。
【0021】
ここで、バフ研磨は大気圧中で行うものの、焼結体を大気中で充分に冷却し、研磨する室内の温度を数度高く設定することにより、酸化膜の再形成を防ぐことができる。これは、摩擦熱による温度上昇を、室内の温度よりも同程度以下に抑えることにある。
【0022】
研磨後においては、真空中で保管し、真空バルブを組立てる工程に回すものとする(st5)。研磨は、電気化学的に溶解させながら研磨する電界研磨、研磨フィルムによるラップ処理などを用いることができる。なお、エネルギー照射条件や冷却条件によっては、酸化膜5dが形成されない場合があるが、研磨は必須の工程とする。
【0023】
上記実施例の真空バルブ用接点によれば、Cr粒子を微細化した微細層5bの表面に形成される酸化膜5dを研磨により除去し、微細化されたCr粒子が表面に露出する研磨層5cを形成しているので、遮断特性や耐電圧特性などの絶縁性能を向上させることができる。
【0024】
上記実施例では、耐弧成分にCrを用いて説明したが、W、Nb、Ta、Ti、Moの炭化物のうち、少なくとも1種類を所定量含有してもよい。また、補助成分として、Bi、Te、Se、Sb、Coのうち、少なくとも1種類を5wt%以下含有してもよい。更には、導電成分にAgを用いてもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 真空絶縁容器
2 固定側封着金具
3 可動側封着金具
4 固定側通電軸
5 固定側接点
5a 基材層
5a1、5b1 Cr粒子
5b 微細層
5c 研磨層
5d 酸化膜
6 可動側接点
7 可動側通電軸
8 ベローズ
9 アークシールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接離自在の一対の接点を有する真空バルブに用いられる真空バルブ用接点であって、
前記接点は、接触面が、導電成分と耐弧成分との所定量を混合するとともに、これを焼結した基材層と、
前記基材層の表面に形成されるとともに、高エネルギー照射により前記耐弧成分を微細化した微細層と、
前記微細層の表面を研磨処理して形成した研磨層とを備えたことを特徴とする真空バルブ用接点。
【請求項2】
前記耐弧成分は、Crであることを特徴とする請求項1に記載の真空バルブ用接点。
【請求項3】
所定量の導電成分と耐弧成分とを混合して焼結体を得る焼結工程と、
前記焼結体の接触面に真空中で高エネルギーを照射し、前記耐弧成分を微細化して微細層を形成させる照射工程と、
前記微細層を形成した前記焼結体を冷却する冷却工程と、
前記微細層の表面に形成される酸化膜を除去する研磨工程と、
前記研磨工程後、真空バルブに組み込む組立工程とを具備したことを特徴とする真空バルブ用接点の製造方法。
【請求項4】
前記冷却工程直後において、前記微細層の温度が周囲温度よりも高いことを特徴とする請求項3に記載の真空バルブ用接点の製造方法。
【請求項5】
前記研磨工程では、バフ研磨を用いることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の真空バルブ用接点の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−113887(P2011−113887A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270661(P2009−270661)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】