説明

真空蒸着装置、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】搬送される基板に対して、ホスト材料とゲスト材料とを同時蒸着させる蒸着装置において、微量のゲスト材料を蒸着させる場合であっても精度良く成膜を行う。
【解決手段】搬送される基板100に対して薄膜を形成する真空蒸着装置200であって、基板100に対向して搬送方向Aに直交する幅方向に延在し、第1蒸着材料を放出する第1蒸着源203と、搬送方向Aに直交する幅方向に延在し、第1蒸着源203に対して搬送方向Aにずれて配置され、放出された第1蒸着材料に重なり合うように第2蒸着材料を放出する第2蒸着源204と、第2蒸着源204が延在する方向と同一の方向に延在し、放出された第2蒸着材料に重なる位置であって、放出された第1蒸着材料に重ならない位置に設けられた遮蔽部材230と、を備え、遮蔽部材230は、放出された第2蒸着材料の一部を通過する開口部231を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置、有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(以下、ELDと略記する)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子(以下、無機EL素子という)や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)が挙げられる。
【0003】
有機EL素子は、発光する化合物を含有する発光層を、陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光する素子である。有機EL素子は、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、更に自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。
【0004】
また、有機EL素子は、従来実用に供されてきた主要な光源、例えば、発光ダイオードや冷陰極管と異なり、面光源であることも大きな特徴である。この特性を有効に活用できる用途として、照明用光源や様々なディスプレイのバックライトがある。特に近年、需要の増加が著しい液晶フルカラーディスプレイのバックライトとして用いることも好適である。
【0005】
有機EL素子をこのような照明用光源、あるいはディスプレイのバックライトとして実用する為の課題として発光効率の向上が挙げられる。発光効率の向上の為には、有機EL素子を構成する有機機能層の一部においてそれぞれ別個の機能を有する材料を複数混合して構成する所謂ホスト/ゲスト構造を組み入れることが一般的となりつつある。例えば、発光層におけるホスト材料/発光ドーパント(赤色ドーパント、緑色ドーパント、青色ドーパント)の組み合わせ、電子輸送層における電子輸送材料/アルカリ金属材料の組み合わせ等が挙げられる。
【0006】
発光層内に、赤色ドーパント、緑色ドーパント及び青色ドーパントが共存する場合、赤色ドーパント、緑色ドーパント、青色ドーパントの順で発光する。つまり、始めに赤色ドーパントや緑色ドーパントのみが発光し、青色ドーパントが共存していても青色ドーパントは赤色ドーパントや緑色ドーパントと同時には発光しない。そこで、赤色ドーパントや緑色ドーパントを青色ドーパントよりも低濃度にして、赤色ドーパントと緑色ドーパントを青色ドーパントと同時に発光させることが知られている。
しかしながら、赤色ドーパント、緑色ドーパントを低濃度とすると、小さな濃度バラツキも色度バラツキ(色ムラ)に繋がるという問題がある。そこで、色ムラを少なくするために、低濃度ドーパントの濃度均一性が重要となる。これに対して、青色ドーパントは、赤色ドーパントや緑色ドーパントに比べて濃度が数十%であるため、濃度バラツキの影響を受けにくくなっている。
【0007】
ところで、基板に対してホスト材料とゲスト材料とを同時蒸着させる蒸着装置において、ゲスト材料のドープ量を制御する場合には、蒸着材料を基板に蒸着させる速度をコントロールすることにより行うのが一般的である。具体的には、蒸着源の温度制御を行うことにより、蒸着材料が蒸発する量を制御し、これにより蒸着速度をコントロールする。
しかし、ドープするゲスト材料が微量である場合、蒸着材料を測定する測定手段に測定限界があること、温度制御により蒸着材料の放出量を微量に保つことは困難であること、等の問題から、蒸着源から放出される蒸着材料の放出量を微量にすることは困難である。一方、搬送される基板に対して成膜を行う場合、基板の搬送速度を大きくすればゲスト材料の蒸着量を低減させることができるが、ホスト材料の耐熱温度の上限の問題からホスト材料の蒸着速度を向上させることはできず、搬送される基板に対して必要量のホスト材料を蒸着させることができない。
【0008】
これに対し、ゲスト材料のドープ量を低減させる方法として、ゲスト材料を収容した坩堝を蒸着源とし、その蒸着源と基板との間に取り付けられた回転式遮蔽板を回転させて、蒸着源から放出されたゲスト材料が基板に到達するまでの経路を所定のタイミングで遮ることにより、ゲスト材料の基板への蒸着量を低減することが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−193217号公報
【特許文献2】特開2009−127074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の技術では、搬送される基板に対して搬送中に成膜を行うこととすると、基板の搬送方向に直行する幅方向におけるゲスト材料の蒸着量を制御することができず、基板の搬送方向に直行する幅方向において基板の品質にバラツキが生じる。
【0011】
そこで、本発明は、搬送される基板に対して、微量のゲスト材料を蒸着させる場合であっても精度良く成膜を行うことができる真空蒸着装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
真空処理室内において、搬送される基板に対して蒸着材料を蒸着させて薄膜を形成する真空蒸着装置であって、
前記基板に対向して前記基板の搬送方向に直交する幅方向に延在し、前記基板に向けて第1蒸着材料を放出する第1蒸着源と、
前記基板に対向して前記搬送方向に直交する幅方向に延在し、前記第1蒸着源に対して前記搬送方向にずれて配置され、前記第1蒸着源から放出された前記第1蒸着材料に重なり合うように前記基板に向けて第2蒸着材料を放出する第2蒸着源と、
前記第2蒸着源が延在する方向と同一の方向に延在し、前記第2蒸着源から放出された前記第2蒸着材料に重なり、前記第1蒸着源から放出された前記第1蒸着材料に重ならない位置に設けられた遮蔽部材と、を備え、
前記遮蔽部材は、前記第2蒸着源から放出された前記第2蒸着材料の一部を通過する開口部を有することを特徴とする真空蒸着装置が提供される。
【0013】
本発明の他の態様によれば、
上記真空蒸着装置を用いて、
前記基板上に薄膜を形成することにより有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の更に他の態様によれば、
上記有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法により製造されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、搬送される基板に対して、微量のゲスト材料を精度良く蒸着させて成膜を行うことができる。したがって、基板の搬送方向において、基板に蒸着されるゲスト材料の蒸着量を均一にすることができ、品質のバラツキの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る真空蒸着装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す真空蒸着装置の遮蔽部材の概略斜視図である。
【図3】図1に示されたIII-III線に沿った面の矢視断面図であって、真空蒸着装置に設けられた脱着装置を模式的に示した図である。
【図4】脱着装置の一部を示した概略斜視図である。
【図5】本実施形態の変形例1に係る遮蔽部材の概略斜視図である。
【図6】本実施形態の変形例2に係る遮蔽部材の概略斜視図である。
【図7】変形例2に係る真空蒸着装置に設けられた脱着装置を模式的に示した図である。
【図8】変形例2に係る真空蒸着装置に設けられた脱着装置の概略斜視図である。
【図9】本実施形態の変形例3に係る遮蔽部材の概略斜視図である。
【図10】本実施形態の変形例4に係る遮蔽部材の概略斜視図である。
【図11】本実施形態の変形例5に係る真空蒸着装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0018】
本発明に係る真空蒸着装置200は、有機EL素子の各層を形成する際に用いられる装置であり、特に、有機EL素子の発光層を形成する場合に好適に用いられる。この真空蒸着装置200について、図1及び図2を参照して以下説明する。
【0019】
図1は、本発明を適用した一実施形態の真空蒸着装置200の概略構成図である。
真空蒸着装置200は、搬送される基板100に対して二以上の蒸着材料(例えば、ホスト化合物とゲスト化合物)を同時に蒸着させて薄膜(例えば、有機EL素子の発光層)を形成することができる真空蒸着装置である。
真空蒸着装置200は、内部に真空処理室201が形成された真空容器202と、基板100に対してホスト化合物(第1蒸着材料)を放出する第1蒸着源203と、基板100に対してゲスト化合物(第2蒸着材料)を放出する第2蒸着源204と、真空処理室201内に放出される蒸着材料が拡散する領域を制限し、それらの蒸着材料が重なり合う領域を調整する仕切板(制限部)205と、基板100上に堆積される蒸着材料の堆積量(膜厚)及びその蒸着速度を測定する膜厚計206と、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の基板100への蒸着量を調整する遮蔽部材230と、遮蔽部材230を脱着する脱着装置280と、基板100を水平方向に搬送する基板搬送手段(図示略)と、を備えている。
【0020】
基板100は、搬送手段(図示略)によって搬送方向A(図1参照)に搬送されながら、真空蒸着装置200により成膜処理が施される被処理基板である。基板100は、図1に示すように、枚葉基板であって、基板搬送手段により間欠的に真空処理室201内に搬入される。
なお、基板100は、長尺ロールから搬送方向Aに向けて連続的に巻き出される基板であって、基板搬送手段により連続的に真空処理室201内に搬入されるものであっても良い。
【0021】
真空容器202は、内部に形成された真空処理室201を所定の真空状態に保持する。真空処理室201には、第1蒸着源203、第2蒸着源204、膜厚計206、仕切板205及び遮蔽部材230等の各部材が設けられている。また、真空容器202の側壁210には、基板100を搬入する搬入部224が設けられ、真空容器202の側壁211には、基板100を搬出する搬出部225及び真空処理室201内を真空排気する排気口226が設けられている。排気口226は、真空容器202の外部に設けられた真空ポンプ(図示略)等の所定の真空排気手段に接続されている。
【0022】
第1蒸着源203は、搬送される基板100の下面に対向して、搬送方向Aに直交する幅方向(図1の奥行き方向)に延在する直線状の蒸着源(ラインソース)である。第1蒸着源203の基板100に対向する面には、第1蒸着源203の延在方向に配列された複数の放出口203aが設けられている。また、第1蒸着源203は、ホスト化合物が収容された加熱ボートを具備し、放出口203aから基板100に向けてホスト化合物の蒸気(第1蒸着材料)を放出する。放出口203aから放出されるホスト化合物の蒸気は所定の広がりをもって真空処理室201内に拡散する。
【0023】
第2蒸着源204は、搬送される基板100の下面に対向して、搬送方向Aに直交する幅方向(図1の奥行き方向)に延在する直線状の蒸着源(ラインソース)であって、第1蒸着源203に対して搬送方向Aの前方側にずれて配置されている。第2蒸着源204の基板100に対向する面には、第2蒸着源204の延在方向に配列された複数の放出口204aが設けられている。第2蒸着源204の放出口204aは、第1蒸着源203の放出口203aが向いた方向に対して、基板100の表面近傍で交差する方向を向いて配置されている。第2蒸着源204は、ゲスト化合物が収容された加熱ボートを具備し、放出口204aからゲスト化合物の蒸気(第2蒸着材料)を放出する。放出口204aから放出されるゲスト化合物の蒸気は所定の広がりをもって真空処理室201内に拡散する。このゲスト化合物の蒸気は、基板100の表面近傍において、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気に重なり合う。
【0024】
なお、第1蒸着源203及び第2蒸着源204は、基板100に対向して搬送方向Aに直交する幅方向に延在する直線状の単一の蒸着源としたが、当該方向に複数配列された蒸着源からなるものであっても良い。また、第1蒸着源203の複数の放出口203a及び第2蒸着源204の複数の放出口204aは、第1蒸着源203又は第2蒸着源204の延在方向に配列された複数の放出口としたが、当該方向に沿って一直線に延びる単一の放出口であってもよい。
また、第1蒸着源203に収容されるホスト化合物及び第2蒸着源204に収容されるゲスト化合物としては、有機EL素子の発光層の材料として用いられる公知のホスト化合物及びゲスト化合物(発光ドーパント)を用いることができる。
【0025】
また、第1蒸着源203及び第2蒸着源204は、蒸着材料が収容された加熱ボートを具備するものとして説明したが、一例であってこれに限られるものではなく、蒸着材料を加熱する加熱手段と、蒸着材料の蒸気を放出する蒸気放出チャンバーとが別体として設けられる構成であっても良い。具体的には、加熱手段と蒸気放出チャンバーとが導入配管を介して連結されており、加熱手段による加熱によって発生した蒸着材料の蒸気が導入配管を介して蒸気放出チャンバーに流入し、蒸気放出チャンバーから蒸着材料の蒸気が放出されるよう構成されている。この場合、本実施形態の第1蒸着源203及び第2蒸着源204が蒸気放出チャンバーに相当し、加熱手段が別体として設けられていることとなる。
【0026】
仕切板205は、第1蒸着源203又は第2蒸着源204から所定の広がりをもって放出されるホスト化合物又はゲスト化合物の蒸気を所定領域に制限するために設けられる平板状の仕切部材である。
仕切板205aは、真空容器202の側壁210から真空処理室201側に垂直に延出して設けられ、その先端部分が第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の広がりを制限している。また、仕切板205bは、真空容器202の下面212から上方に垂直に延出して設けられ、その先端部分が第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の広がりを制限している。これら仕切板205a,205bにより、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の広がりが拡散領域L1(図1参照)に制限されている。
仕切板205cは、真空容器202の側壁211から真空処理室201側に垂直に延出して設けられ、その先端部分が第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の広がりを制限している。また、仕切板205dは、真空容器202の下面212から上方に垂直に延出して設けられ、その先端部分が第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の広がりを制限している。したがって、仕切板205c,205dにより、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の広がりが拡散領域L2(図1参照)に制限されている。この拡散領域L1と拡散領域L2が基板100の近傍で重なり合っている。
【0027】
なお、仕切板205a〜205dは、可動式に構成されていても良く、その場合には、拡散領域L1,L2が調整可能となる。
また、仕切板205a〜205dは、板状の部材として説明したが、これに限られるものではなく、蒸着材料の拡散領域を制限することができる形状であれば如何なる形状であっても良い。
【0028】
膜厚計206は、第1蒸着源203及び第2蒸着源204の近傍にそれぞれ設けられ、各蒸着源により形成された薄膜の膜厚及び蒸着速度をそれぞれ独立して測定する。第1膜厚計206aは、第1蒸着源203の近傍であって、仕切板205a,205bにより制限された拡散領域L1に重ならない位置に設けられている。また、第2膜厚計206bは、第2蒸着源204の近傍であって、仕切板205c,205dにより制限された拡散領域L2に重ならない位置に設けられている。これらの膜厚計206a,206bとして、例えば、水晶振動子方式の膜厚計が好適に用いられる。
【0029】
ここで、図1及び図2を参照して遮蔽部材230について説明する。図2は、遮蔽部材230の概略斜視図である。
【0030】
遮蔽部材230は、ゲスト化合物の基板100への蒸着量を調整する部材であって、脱着自在に構成されている。この遮蔽部材230は、第2蒸着源204が延在する方向と同一の方向に延在し、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の拡散領域L2に重なる位置であって、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の拡散領域L1に重ならない位置に設けられている。遮蔽部材230は、第2蒸着源204側に向かって凹となるように湾曲する円弧板状部材であり、その円弧の内側の面を第2蒸着源204の放出口204aに対向させて配置されている。また、図1に示すように、この遮蔽部材230の内側の領域に第2膜厚計206bが配置されている。
【0031】
図2に示すように、遮蔽部材230には、その厚さ方向に貫通する開口部231が形成されている。開口部231は、遮蔽部材230が延在する方向に延びるスリット状に形成され、遮蔽部材230が延在する方向に直交する幅方向に複数配列されている。
なお、開口部231の数、大きさ等は、図示例に限られるものではなく、ゲスト化合物の蒸着量や真空蒸着装置の構成等に応じて適宜変更可能である。また、遮蔽部材230は、第2蒸着源204が延在する方向に延びる櫛歯状に形成されていても良い。
【0032】
遮蔽部材230は、ゲスト化合物の蒸気の拡散領域L2に重なる位置であって、ホスト化合物の蒸気の拡散領域L1に重ならない位置に設けられているので、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の進行のみを遮蔽する。また、遮蔽部材230には複数の開口部231が設けられているので、ゲスト化合物の蒸気のうちの一部が、開口部231を通って遮蔽部材230を通過する。このように、遮蔽部材230により、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気のうちの一部を遮蔽し、一部を通過させることによって、基板100に到達する蒸気の量を低減させることができる。つまり、ゲスト化合物の蒸着量を微量にすることができる。
【0033】
ここで、脱着装置280について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、図1におけるIII-III線に沿った面の矢視断面図であって、真空蒸着装置200に設けられる脱着装置280を模式的に示した図である。図4は、脱着装置280の一部及び遮蔽部材230を示した概略斜視図である。なお、図3においては、脱着装置280及び遮蔽部材230以外の装置構成を省略して示している。
脱着装置280は、遮蔽部材230を脱着する装置であって、定期的に、真空処理室201内に取り付けられた遮蔽部材230を、未使用の遮蔽部材230に交換する作業を行う。
【0034】
図3に示すように、脱着装置280は、シリンダ281、ストッカ282、アーム283等から構成されている。
シリンダ281は、真空容器202の外壁において、基板100の搬送方向Aに直行する方向F(図3及び図4参照)に延在して設けられている。シリンダ281の先端部は真空容器202の外壁を貫通して真空処理室201内に設けられ、そのシリンダ281の先端部にはアーム283が設けられている。アーム283は、方向Fに延在する2本の棒状に形成され、真空処理室201内において遮蔽部材230を支持している。遮蔽部材230は、その内側の面を第2蒸着源204に対向させて配置されるため、図3及び図4において、遮蔽部材230は傾きを持った状態でアーム283に支持されている。アーム283は、シリンダ281の動作によって、遮蔽部材230を支持した状態で、方向Fに移動可能に構成されている。このアーム283により、遮蔽部材230を真空処理室201内とストッカ282内との間で搬送可能となっている。
【0035】
ストッカ282は、真空処理室201に連通し、アーム283の方向Fの前方側に設けられている。ストッカ282は、複数の遮蔽部材230を上下方向に多段に収容している。また、ストッカ282は、上下方向に移動可能に構成されている。
【0036】
このような脱着装置280を用いて、遮蔽部材230の交換作業を行う際には、まず、シリンダ281によって、遮蔽部材230を支持しているアーム283を方向F前方側に移動させる。アーム283の前方側にはストッカ282が設けられており、遮蔽部材230はストッカ282内に搬送される。遮蔽部材230をストッカ282内に収容したら、シリンダ281によってアーム283を方向F後方側に移動させる。そして、ストッカ282を、上方向又は下方向に移動させて、アーム283の方向F前方側に未使用の遮蔽部材230を配置する。ストッカ282を移動させたら、再びアーム283を方向F前方側に移動させて、ストッカ282内に進入させる。ストッカ282内の未使用の遮蔽部材230をアーム283に支持させ、アーム283を方向F後方側に移動させる。遮蔽部材230が第2蒸着源204の放出口204aに対向する位置までアーム283を移動させて、アーム283を固定する。これにより、遮蔽部材230の交換作業が終了する。
なお、上記した脱着装置280の構成は、一例であってこれに限られるものではなく、遮蔽部材230を交換可能に構成された装置であれば何れの構成であっても良い。
【0037】
以上、本実施形態によれば、所定の開口部231を有する遮蔽部材230が、第2蒸着源204が延在する方向と同一の方向に延在し、第2蒸着源204から放出される第2蒸着材料に重なり、第1蒸着源203から放出される第1蒸着材料に重ならない位置に設けられているので、搬送される基板に対して基板の幅方向に放出される第2蒸着材料の蒸着量を均一に低減させることができる。したがって、搬送される基板に対して微量のゲスト材料を均一に蒸着させることができ、精度の高い成膜処理を行うことができる。
また、直線状の蒸着源203,204を用いていることにより、被処理基板が大型であっても容易に成膜処理を行うことができる。
更に、例えば、坩堝等のように一点から蒸着材料を放出する蒸着源で基板全体を成膜する場合、基板に均一な成膜を行うためには蒸着源から基板までの距離を長く取る必要があるが、本発明では、直線状の蒸着源203,204を用いているので、蒸着源から基板までの距離を短くしても均一な成膜を行うことができ、蒸着材料のロスを抑えることができる。
【0038】
また、遮蔽部材230は、脱着自在に構成され、所定の脱着装置により自動交換されるので、遮蔽部材230の開口部231の目詰まりを防止し、均一な薄膜形成を継続して行うことができる。
【0039】
以下に、遮蔽部材230の変形例及び真空蒸着装置200の変形例について、図5〜図11を参照して説明する。なお、変形例に係る遮蔽部材230及び真空蒸着装置200にあっては、以下に説明する構成以外の構成は上記実施形態の遮蔽部材230及び真空蒸着装置200と略同様であり、その詳細な説明は省略する。
【0040】
<変形例1>
図5は、変形例1に係る遮蔽部材240の概略斜視図である。変形例1に係る遮蔽部材240は、上記した遮蔽部材230と略同一に形成されており、開口部241の形状のみが異なる。
即ち、遮蔽部材240は、第2蒸着源204が延在する方向と同一の方向に延在し、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の拡散領域L2に重なる位置であって、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の拡散領域L1に重ならない位置に設けられている。遮蔽部材240は、第2蒸着源204側に向かって凹となるように湾曲する円弧板状部材であり、その円弧の内側の面を第2蒸着源204の放出口204aに対向させて配置されている。
【0041】
図5に示すように、遮蔽部材240には、その厚さ方向に貫通する開口部241が形成されている。開口部241は、遮蔽部材240が延在する方向に対して傾斜する方向に延びるスリット状に形成され、遮蔽部材240が延在する方向に複数配列されている。
なお、開口部241の数、大きさ、向き等は、図示例に限られるものではなく、ゲスト化合物の蒸着量や真空蒸着装置の構成等に応じて適宜変更可能である。
【0042】
以上のように、変形例1の遮蔽部材240によれば、上記した遮蔽部材230と同様、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸着量を微量にすることができる。
また、開口部241が、第2蒸着源204が延在する方向に対して傾斜して設けられているため、第2蒸着源204の延在方向において蒸気が遮蔽部材240を通過する位置を異ならせることができる。これにより、基板100に対してゲスト化合物をより均一に蒸着させることができる。
【0043】
<変形例2>
図6は、変形例2に係る遮蔽部材250の概略斜視図である。
遮蔽部材250は、第2蒸着源204が延在する方向と同一の方向を中心軸方向として延在する円筒形状部材である。遮蔽部材250は、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の拡散領域L2に重なる位置であって、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の拡散領域L1に重ならない位置に設けられ、その遮蔽部材250の内側に第2蒸着源204が配置されている。
【0044】
遮蔽部材250には、その厚さ方向に貫通する開口部251が形成されている。この開口部251は、遮蔽部材250が延在する方向に延びるスリット状に形成され、遮蔽部材250の円周方向に複数配列されている。
なお、開口部251の数、大きさ等は、図示例に限られるものではなく、ゲスト化合物の蒸着量や真空蒸着装置の構成等に応じて適宜変更可能である。
【0045】
また、遮蔽部材250の中心軸方向の一端部側には、回転機構252が設けられている。回転機構252は、遮蔽部材250の中心軸方向一端部に固定された従動ギア253、従動ギア253と噛み合う駆動ギア254、駆動ギア254を回転駆動する駆動モータ255等から構成されている。駆動モータ255が駆動することにより、遮蔽部材250が回転方向B(図6参照)に回転する。なお、駆動モータ255による遮蔽部材250の回転速度は適宜設定可能となっている。
【0046】
ここで、変形例2に係る遮蔽部材250を脱着する脱着装置290について、図7及び図8を参照して説明する。図7は、上記した実施形態における図3に対応する図であって、脱着装置290を模式的に示した図である。図8は、変形例2に係る真空蒸着装置200に設けられた脱着装置290を示した概略斜視図である。なお、図7及び8においては、脱着装置290及び遮蔽部材250以外の装置構成を省略して示している。
【0047】
図7及び図8に示すように、脱着装置290は、シリンダ291、ストッカ292、アーム293等から構成されている。
真空容器202の外壁には、基板100の搬送方向Aに直行する方向G(図7及び図8参照)を中心軸方向とする円筒形状に形成されたストッカ292が設けられている。ストッカ292は、真空処理室201に連通し、中心軸周りに回転方向H(図8参照)に回転可能に構成されている。また、このストッカ292内には、複数の遮蔽部材250が収容されている。
【0048】
シリンダ291は、ストッカ292の側壁において方向Gに延在して設けられている。また、シリンダ291のストッカ292側の端部には、方向Gに延在するアーム293が設けられている。アーム293は、ストッカ292の側壁を貫通してストッカ292内に設けられている。アーム293は、シリンダ291の動作により方向Gに移動可能に構成され、これにより、ストッカ292内と真空処理室201内とを相互に移動可能となっている。
【0049】
このような脱着装置290を用いて、遮蔽部材250の交換作業を行う際には、まず、シリンダ291によって、アーム293を方向Gにおいて前方側に移動させて、アーム293を真空処理室201内に進入させる。そして、このアーム293に、真空処理室201内に設けられた遮蔽部材250の一端をチャッキングする。続いて、シリンダ291によって、アーム293を方向G後方側に移動させて、遮蔽部材250をストッカ292内に搬送する。遮蔽部材250をストッカ292内に収容したら、アーム293を遮蔽部材250から取り外す。そして、ストッカ292を回転方向Hに回転させて、アーム293の方向G前方側に未使用の遮蔽部材250を配置する。シリンダ291によりアーム293を前方に移動させて、アーム293に、アーム293の前方に配置された未使用の遮蔽部材250の一端をチャッキングする。再びシリンダ291によりアーム293を方向G前方側に移動させて、未使用の遮蔽部材250を真空処理室201内に搬送する。未使用の遮蔽部材250を真空処理室201内の所定位置に固定したら、シリンダ291によりアーム293を方向G後方側に移動させ、ストッカ292内に配置させる。これにより、遮蔽部材250の交換作業が終了する。
なお、上記した脱着装置290の構成は、一例であってこれに限られるものではなく、遮蔽部材250を交換可能に構成された装置であれば何れの構成であっても良い。
【0050】
以上のように、変形例2の遮蔽部材250によれば、上記した遮蔽部材230と同様、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸着量を微量にすることができる。
更に、回転機構252により遮蔽部材250を回転させることにより、第2蒸着源204の放出口204aに対する開口部251の位置を経時的に変化させることができ、遮蔽部材250を通過するゲスト化合物の蒸気を分散させることができる。したがって、搬送方向Aにおいて基板100に対してゲスト化合物を均一に蒸着させることができる。
【0051】
<変形例3>
図9は、変形例3に係る遮蔽部材260の概略斜視図である。変形例3に係る遮蔽部材260は、上記した変形例2に係る遮蔽部材250と略同一に構成されており、開口部261の形状のみが異なる。
即ち、遮蔽部材260は、第2蒸着源204が延在する方向と同一の方向を中心軸方向として延在する円筒形状部材である。遮蔽部材260は、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の拡散領域L2に重なる位置であって、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の拡散領域L1に重ならない位置に設けられ、その遮蔽部材260の内側に第2蒸着源204が配置されている。
【0052】
遮蔽部材260には、その厚さ方向に貫通する開口部261が形成されている。この開口部261は、遮蔽部材260の中心軸回りに螺旋状に延びるスリット状に形成されて、複数設けられている。
なお、開口部261の数、大きさ、向き等は、図示例に限られるものではなく、ゲスト化合物の蒸着量や真空蒸着装置の構成等に応じて適宜変更可能である。
【0053】
また、遮蔽部材260の中心軸方向の一端部側には、回転機構262が設けられている。回転機構262は、上記した変形例2における回転機構252と同じように構成され、従動ギア263、駆動ギア264及び駆動モータ265等から構成されている。駆動モータ265が駆動することにより、遮蔽部材260が回転方向C(図9参照)に回転する。なお、駆動モータ265による遮蔽部材260の回転速度は適宜設定可能となっている。また、変形例3に係る遮蔽部材260を脱着する脱着装置については、上記した変形例2に係る脱着装置290と同様に構成されているものであっても良いし、他の構成であっても良い。
【0054】
以上のように、変形例3の遮蔽部材260によれば、上記した変形例2に係る遮蔽部材250と同様、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸着量を微量にすることができるとともに、搬送される基板100に対してより均一にゲスト化合物を蒸着させることができる。
【0055】
<変形例4>
図10は、変形例4に係る遮蔽部材270の概略斜視図である。
遮蔽部材270は、第2蒸着源204が延在する方向と同一の方向に延在し、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸気の拡散領域L2に重なる位置であって、第1蒸着源203から放出されるホスト化合物の蒸気の拡散領域L1に重ならない位置に設けられている。遮蔽部材270は、第2蒸着源204側に向かって凹となるように湾曲する円弧板状部材であり、その円弧の内側の面を第2蒸着源204の放出口204aに対向させて配置されている。
【0056】
遮蔽部材270には、その厚さ方向に貫通する開口部271が形成されている。この開口部271は、円形の孔部であり、遮蔽部材270に複数点在して設けられている。
なお、開口部271の数、大きさ等は、図示例に限られるものではなく、ゲスト化合物の蒸着量や真空蒸着装置の構成等に応じて適宜変更可能である。
【0057】
この遮蔽部材270の近傍には、遮蔽部材270が延在する方向(揺動方向D;図10参照)に遮蔽部材270を揺動する揺動機構272が設けられている。揺動機構272は、次のように構成されている。
遮蔽部材270の揺動方向Dの一端部には当該方向に延びる軸273が設けられ、遮蔽部材270の揺動方向Dの他端部には当該方向に延びる軸274が設けられている。軸273は、揺動方向Dに摺動自在に支持具275に支持されている。軸274には、揺動方向Dに延びる長孔274aが形成され、この長孔274aに固定具276が挿通している。したがって、軸274は、長孔274aの長さの分だけ揺動方向Dに揺動可能に構成されている。また、遮蔽部材270の軸273側には駆動モータ277が設けられ、駆動モータ277は駆動クランクホイール278を具備している。この駆動クランクホイール278と軸273とは、連結具279によって連結されて、駆動クランクホイール278の駆動回転によって軸273が揺動方向Dにおいて揺動する。したがって、駆動モータ277が駆動することにより、遮蔽部材270が揺動方向Dに揺動する。なお、駆動モータ277により遮蔽部材270が揺動する速度は適宜設定可能となっている。
【0058】
以上のように、変形例4の遮蔽部材270によれば、上記した遮蔽部材230と同様、第2蒸着源204から放出されるゲスト化合物の蒸着量を微量にすることができる。
更に、揺動機構272により遮蔽部材270を揺動させることにより、第2蒸着源204の放出口204aに対する開口部271の位置を経時的に変化させることができ、遮蔽部材270を通過するゲスト化合物の蒸気を分散させることができる。したがって、搬送方向Aにおいて基板100に均一にゲスト化合物を蒸着させることができる。
【0059】
なお、変形例4における揺動機構272は、上記の構成に限られるものではなく、遮蔽部材270を揺動させることができれば何れの構成であっても良い。
【0060】
<変形例5>
図11は、変形例5に係る真空蒸着装置300の概略構成図である。
真空蒸着装置300は、ホスト化合物の蒸気を放出する第1蒸着源303と、ゲスト化合物の蒸気を放出する第2蒸着源304との他に、第2蒸着源304とは別のゲスト化合物の蒸気を放出する第3蒸着源320を更に備えている。第3蒸着源320は、第1蒸着源303や第2蒸着源304と同様に構成された直線状の蒸着源(ラインソース)である。第3蒸着源320は、第1及び第2蒸着源303,304と同様、基板100に対向して基板100の搬送方向Aに直交する方向(図11の奥行き方向)に延在して設けられている。
各蒸着源303,304,320は、搬送方向Aに沿って第1蒸着源303、第2蒸着源304、第3蒸着源320の順番に配置されている。
【0061】
搬送方向Aにおいて、第1蒸着源303と第2蒸着源304との間には、仕切板305bが設けられている。また、搬送方向Aにおいて、第2蒸着源304と第3蒸着源320との間には、仕切板305cが設けられている。仕切板305a,305bにより第1蒸着源303から放出されるホスト化合物の蒸気の広がりが拡散領域L1に制限され、仕切板305b,305cにより第2蒸着源304空放出されるゲスト化合物の蒸気の広がりが拡散領域L2に制限され、仕切板305c,305dにより第3蒸着源320から放出されるゲスト化合物の蒸気の広がりが拡散領域L3に制限されている。第1蒸着源303、第2蒸着源304及び第3蒸着源320は、各放出口303a,304a,320aを拡散領域L1,L2,L3が基板100の近傍で重なり合うような方向を向けて配置されている。
【0062】
遮蔽部材330は、上記した変形例2に係る遮蔽部材250と同一に構成されている。即ち、遮蔽部材330は、第3蒸着源320が延在する方向と同一の方向を中心軸方向として延在する円筒形状に形成され、その厚さ方向に貫通する開口部331が形成されている。開口部331は、遮蔽部材330が延在する方向に延びるスリット状に形成され、遮蔽部材330の円周方向に複数配列されている。そして、この遮蔽部材330は、変形例2と同一の回転機構(図示略)により回転方向Eに回転可能に構成されている。
【0063】
この遮蔽部材330は、第3蒸着源320から放出されるゲスト化合物の蒸気の拡散領域L3に重なる位置であって、第1蒸着源303から放出されるホスト化合物の拡散領域L1及び第2蒸着源304から放出されるゲスト化合物の拡散領域L2に重ならない位置に設けられ、その遮蔽部材330の内側に第3蒸着源320が配置されている。また、遮蔽部材330の内側であって、拡散領域L3に重ならない位置に第3膜厚計306cが設けられている。
【0064】
遮蔽部材330は、第3蒸着源320から放出されるゲスト化合物の蒸気の拡散領域L3に重なり、第1蒸着源303から放出されるホスト化合物の蒸気の拡散領域L1及び第2蒸着源304から放出されるゲスト化合物の蒸気の拡散領域L2に重ならない位置に設けられているので、第3蒸着源320から放出されるゲスト化合物の蒸気のみを遮蔽する。したがって、第3蒸着源320から放出されるゲスト化合物の蒸着量のみを微量にすることができる。
【0065】
以上のように、変形例5によれば、搬送される基板100に対して3種の蒸着材料を同時蒸着させる場合であっても、第3蒸着源320から放出されるゲスト化合物の蒸着量を微量にすることができる。
【0066】
なお、変形例5においては、遮蔽部材330を、第3蒸着源320のみに設けているが、遮蔽部材330を第2蒸着源204と第3蒸着源320の両方に対して設けても良い。その場合、何れか一方の遮蔽部材330の構成(開口部331の大きさや数)を適宜変更することで、一方のゲスト化合物の蒸着量を低減させることができる。
【0067】
なお、上記実施形態では、枚葉基板に対して成膜処理を行うものとして説明したが、これに限られるものではなく、帯状連続フレキシブル基板に対して所謂ロールツーロール方式により成膜処理を行うものであっても良い。
【0068】
また、上記実施形態では、ホスト化合物とゲスト化合物を同時蒸着させて有機EL素子の発光層を形成する場合について説明したが、これに限られるものではなく、二以上の蒸着材料を同時蒸着させて薄膜を形成する場合であれば何れの態様にも適用可能である。
【0069】
また、上記実施形態では、遮蔽部材は円弧板状又は円筒形状として説明したが、これらの形状に限られるものではなく、第2蒸着源が延在する方向と同一の方向に延在し、第2蒸着源から放出される第2蒸着材料に重なる位置であって、第1蒸着源から放出される第1蒸着材料に重ならない位置に設けられていれば、何れの形状であっても良い。例えば、平板状、角筒形状、直方体形状等が挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例では、本発明に係る上記真空蒸着装置300(図11参照)を使用して有機EL素子を製造する方法について説明する。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
また、ここでは、有機EL素子の一例として、ガラス基板上に、透明電極(陽極)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/反射電極(陰極)を積層して構成される白色発光有機EL素子の製造に関して説明を行う。
【0071】
まず、所定の基板上に透明電極(陽極)を形成する工程を行う。300mm×400mm×0.7mm(厚み)のガラス基板上にITO(Indium tin oxide)を100nm成膜した基板に対して、フォトリソグラフィー法によりITO膜をパターニングする。即ち、非導電性領域以外の部分をレジストでマスクした後、25%塩酸水溶液に浸漬し非導電性領域部分(露出部分)のITO膜を除去する。この後、1.5%水酸化ナトリウム水溶液に浸してレジストを除去し、更に水洗と乾燥を行い、透明電極(陽極)パターン基板を作製する。
この基板を、iso−プロピルアルコールによる超音波洗浄、乾燥窒素ガスによる乾燥及びUVオゾン洗浄を一貫して行う一貫洗浄ラインにより洗浄した後、表面をマスクで覆って基板ホルダーに固定する。
【0072】
次に、この基板に対して次の各機能層を順次形成する。
正孔注入層(CuPc:10nm)/正孔輸送層(α−NPD:30nm)/発光層(H−A、D−A、D−B:40nm)/電子輸送層(E−A:45nm)/電子注入層(CeF:4nm)/反射電極(陰極)(Al:100nm)。
【0073】
【化1】

【化2】

【0074】
上記各層の形成は、所定の真空成膜装置(図示略)を用いて行う。この真空成膜装置は、6槽の真空容器を直列に連結して構成され、各真空容器内を搬送される基板に対し、各種の機能層の形成を行う装置である。また、この真空成膜装置を構成する6槽の真空容器のうちの3番目の真空容器が、上記した本発明に係る真空蒸着装置300である。なお、基板の搬送速度は、0.12m/minとして行う。
【0075】
真空成膜装置の各真空容器内を4×10−4Pa以下に減圧し、減圧した真空成膜装置内に上記した洗浄後の基板を搬送する。まず、この基板を1番目の真空容器内に搬入し、当該基板上にCuPcを蒸着させて膜厚10nmの正孔注入層を形成する。次いで、この基板を2番目の真空容器内に搬入し、当該基板上にα−NPDを蒸着させて膜厚30nmの正孔輸送層を形成する。
【0076】
正孔輸送層が形成された基板は、3番目の真空容器として真空蒸着装置300に搬入される。この真空蒸着装置300において、第1蒸着源303にはホスト化合物としてはH−Aが収容され、第2蒸着源304にはゲスト化合物としてD−Aが収容され、第3蒸着源320にはゲスト化合物としてD−Bが収容されている。
また、真空蒸着装置300の遮蔽部材330に形成される開口部331は、基板に対するゲスト化合物D−Bの蒸着量が、遮蔽部材330がないとした場合の20%となるような大きさに設定されている。
【0077】
真空蒸着装置300は、搬入された基板に対して、第1蒸着源303、第2蒸着源304及び第3蒸着源320からそれぞれ蒸着材料を同時に放出して各蒸着材料を同時に蒸着させ、所望の発光層を形成する。本実施例では、各蒸着材料の蒸着速度の比率が、H−A:D−A:D−B=100:10:0.2となるように各蒸着源の温度調整等を行う。具体的には、ホスト化合物H−Aの蒸着速度が0.30nm/秒、ゲスト化合物D−Aの蒸着速度が0.030nm/秒、ゲスト化合物D−Bの蒸着速度が0.0006nm/秒となるように設定する。これにより、膜厚40nmの発光層を形成する。
【0078】
発光層が形成された基板を4番目の真空容器内に搬入し、当該基板上にE−Aを蒸着させて膜厚45nmの電子輸送層を形成する。そして、この基板を5番目の真空容器内に搬入し、当該基板上にCeFを蒸着させて膜厚4nmの電子注入層を形成する。電子注入層の形成後、基板に取り付けられたマスクを取り外して、陰極用のマスクに交換する。この基板を6番目の真空容器に搬入し、当該基板上にAlを蒸着させて膜厚100nmの反射電極(陰極)を形成する。
更に、この後、マスク取り外し工程、封止工程、ガラス分断工程、電極取り出し工程を経ることで有機EL素子が完成する。
【0079】
<比較例>
比較例として、所定の真空成膜装置(図示略)を用いて有機EL素子を製造した。比較例で用いた真空成膜装置は、上記実施例で用いた真空成膜装置とほぼ同じ構成であるが、真空蒸着装置300において遮蔽部材330が設けられていない点のみが異なる。また、比較例において、有機EL素子の製造方法及び各成膜材料は、上記実施例と同様である。
【0080】
<有機EL素子の評価>
有機EL素子においては、色度のバラツキがドーパント(ゲスト化合物)の濃度のバラツキを表すため、色度の変動幅を求めることにより有機EL素子の評価を行った。
【0081】
まず、実施例及び比較例で製造した有機EL素子に対して、基板の幅方向中央部において搬送方向に沿って5cmおきに7点で色度測定を行った。そして、正面輝度300cd/m〜1500cd/mにおけるCIE1931色度座標において、色度測定により得られた色度のx値、y値から、次式(1)により変動最大距離ΔEを求めた。
ΔE=(Δx+Δy1/2・・・(1)
実施例で製造した有機EL素子の変動最大距離ΔEは0.01未満であり、良好な結果であったが、比較例で製造した有機EL素子の変動最大距離ΔEは0.01以上であり、色度変動が大きいことが確認された。
【0082】
有機EL素子の評価の結果から、比較例で製造した有機EL素子よりも、本実施例で製造した有機EL素子の方がドーパント(ゲスト化合物)の濃度のバラツキが小さいことが分かる。したがって、本発明によれば微量のゲスト化合物を均一に蒸着させることができると言える。
【符号の説明】
【0083】
101 基板
200 真空蒸着装置
201 真空処理室
203 第1蒸着源
204 第2蒸着源
205 仕切板(制限部)
230 遮蔽部材
231 開口部
280 脱着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空処理室内において、搬送される基板に対して蒸着材料を蒸着させて薄膜を形成する真空蒸着装置であって、
前記基板に対向して前記基板の搬送方向に直交する幅方向に延在し、前記基板に向けて第1蒸着材料を放出する第1蒸着源と、
前記基板に対向して前記搬送方向に直交する幅方向に延在し、前記第1蒸着源に対して前記搬送方向にずれて配置され、前記第1蒸着源から放出された前記第1蒸着材料に重なり合うように前記基板に向けて第2蒸着材料を放出する第2蒸着源と、
前記第2蒸着源が延在する方向と同一の方向に延在し、前記第2蒸着源から放出された前記第2蒸着材料に重なる位置であって、前記第1蒸着源から放出された前記第1蒸着材料に重ならない位置に設けられた遮蔽部材と、を備え、
前記遮蔽部材は、前記第2蒸着源から放出された前記第2蒸着材料の一部を通過する開口部を有することを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記開口部は、前記遮蔽部材が延在する方向に延びるスリット状に形成され、前記遮蔽部材が延在する方向に直交する幅方向に複数配列されていることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記開口部は、前記遮蔽部材が延在する方向に対して傾斜する方向に延びるスリット状に形成され、前記遮蔽部材が延在する方向に複数配列されていることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材は、前記第2蒸着源が延在する方向と同一の方向を中心軸方向として延在する円筒形状に形成されるとともに、当該中心軸回りに回転可能に構成され、
前記遮蔽部材の内側に前記第2蒸着源が配置されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記開口部は、複数設けられた貫通孔であることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
前記遮蔽部材は、前記遮蔽部材が延在する方向に揺動可能に構成されていることを特徴とする請求項5に記載の真空蒸着装置。
【請求項7】
前記真空処理室内において、前記第1蒸着源から放出された前記第1蒸着材料と前記第2蒸着源から放出された前記第2蒸着材料とが重なり合う領域を制限する制限部を更に備えることを特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載の真空蒸着装置。
【請求項8】
前記遮蔽部材は、脱着自在に構成されていることを特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載の真空蒸着装置。
【請求項9】
前記遮蔽部材は、所定の脱着装置により自動交換されることを特徴とする請求項8に記載の真空蒸着装置。
【請求項10】
前記基板に対向して前記搬送方向に直交する幅方向に延在し、前記第1蒸着源に対して前記搬送方向にずれて配置され、前記第1蒸着源から放出された前記第1蒸着材料に重なり合うように前記基板に向けて第3蒸着材料を放出する第3蒸着源を更に備えることを特徴とする請求項1から9の何れか一項に記載の真空蒸着装置。
【請求項11】
前記基板上に薄膜を形成することにより有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することを特徴とする請求項1から10の何れか一項に記載の真空蒸着装置。
【請求項12】
請求項1から11の何れか一項に記載の真空蒸着装置を用いて、
前記基板上に薄膜を形成することにより有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法により製造されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−153959(P2012−153959A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15859(P2011−15859)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発/有機EL照明の高効率・高品質化に係る基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】