説明

真空金型装置及びこの真空金型装置によって製造された成形品

【課題】高真空状態を維持しながらシール材の磨耗、破断及び劣化を防ぐことのできる真空金型装置を提供する。
【解決手段】可動板1にはキャビティ2を有する上金型3を取り付けるとともに固定板8には成形材料10が入れられる下金型9を取り付け、上金型3のパーティング面6と下金型9のパーティング面12とを嵌合させ、キャビティ2を真空状態に保ちながら上金型3を下降させることにより成形品を成形するに際し、上金型3のパーティング面6に大きさの異なる複数のシール材7a〜7cを設置し、複数のシール材7a〜7cが下金型のパーティング面12に順番に接触するように下金型のパーティング面12にテーパ面13a〜13c及び凹部14a〜14cを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金型キャビティ内の気体を成形材料の充填の前に排気し、減圧状態で成形するための真空金型装置及びこの真空金型装置を使用して製造された成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金型のキャビティ内に空気が残留するような場合、成形に際して成形材料をキャビティ内に充填することが難しくなるため、成形品の外観不良や、機械的ないし物理的特性の低下が発生することがある。そこでその改善策として、成形前にキャビティ内を排気する真空金型装置が従来から存在していた。
【0003】
従来の真空金型装置として、固定型板には鍔部が一体に突設されるとともにこれに対応して可動型板には段部が設けられ、段部の外周面と鍔部の内周面とは円周状に形成されており、両者間の嵌合部分のシールのために段部の外周面の先端部にはシール材としてのパッキンが設置され、更に鍔部の内周面の先端にはテーパ状の案内面が形成されている真空金型装置があった(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭59−7502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒートシンクのような薄肉の部品や、エンジン部品のような高精度、高強度、低欠陥が要求される部品は、キャビティ内を真空吸引して鋳造する真空鋳造法の他に、溶湯鍛造法が用いられている。溶湯鍛造法とは、固定金型の湯溜まりに溶湯(溶解した材料)を注湯し、キャビティを含む可動金型を湯溜まりに対してゆっくりと埋没させるように降下させ、キャビティに溶湯を充填し、更にキャビティを含む可動金型を押し込むことにより、溶湯を加圧する方法である。
【0006】
即ちこの方法によれば、溶湯充填時溶湯をゆっくりと充填させることにより、充填時に空気が入り込むことを抑制する。さらに、キャビティに溶湯を充填させた後、溶湯を加圧することにより、材料の凝固収縮時に発生する引け巣欠陥を潰し、充填時に巻き込んだ空気や発生したガスによる気泡欠陥を縮小させるという利点がある。溶湯鍛造法に真空鋳造法を適用する場合、注湯後キャビティを含む金型を埋没させる前に、溶湯が充填された金型とキャビティを含む金型の間の隙間を密封し、キャビティ内を真空状態にし、その後キャビティを含む金型を溶湯に埋没させる必要がある。
【0007】
上記特許文献1に示された真空金型装置は上記のように構成されているので、真空吸引後キャビティを含む金型を溶湯へ埋没させようと動かした場合、パッキン(シール材)が鍔部の内周面に接触し続けるため、パッキンが磨耗、破断し、高真空状態を維持できないという問題があった。
【0008】
また、溶湯により金型が高温になる場合、熱によりシール材が劣化するため、シール能力が低下し真空状態を確保できないという問題があった。熱劣化の問題はシール部を高温となる溶湯部付近より遠ざけることにより解決できるが、この方法では金型や装置が大型化してしまい、また真空吸引するための領域が増えることにより、真空吸引して一定の真空度に達するまで時間がかかってしまい、その結果溶湯の温度が低下し、適切に充填ができなくなるという問題があった。
【0009】
また真空吸引することから、金型は1つの塊から削りだすことが望ましいが、成形品が大きい場合金型も大型化するため、製作することが困難となり、さらに材料費も高くなってしまう。そこで金型を分割することになるが、金型を分割した場合、真空吸引に備えるために分割面を全て密封する必要があり、密封するには多数のシール材が必要となり、密封しにくいという問題があった。
【0010】
また金型を分割する場合、金型の分割面が粗かったり、あるいはクリアランスが大きい場合、金型の分割面をシールすることが難しく、真空吸引しても高真空状態にできないという問題があった。また金型間の嵌め合いは、金型精度に大きく影響されるため、精密成形品の場合、金型同士の嵌め合い交差が非常に小さなものとなり、金型交換に時間がかかるという問題があった。
【0011】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、高真空状態を維持しながらシール材の磨耗、破断及び劣化を防ぐことのできる真空金型装置及びこの真空金型装置を使用して成形された成形品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る真空金型装置は、キャビティを有する上金型と、成形材料が入れられる下金型とを有し、上金型のパーティング面と下金型のパーティング面とを嵌合させ、キャビティを真空状態に保ちながら上金型及び下金型のうちの少なくともいずれか1つの金型を移動させることにより成形品を成形するものであって、上金型又は下金型のうちの一方の金型のパーティング面に大きさの異なる複数のシール材を設置するとともに、上金型又は下金型のうちの他方の金型のパーティング面には各シール材が接触する少なくとも1つのテーパ面及び各シール材が接触しない少なくとも1つの凹部を設け、移動過程において複数のシール材のうちテーパ面に接触するシール材が2個以下となるようにテーパ面及び凹部を構成したものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る真空金型装置によれば、キャビティを有する上金型と、成形材料が入れられる下金型とを有し、上金型のパーティング面と下金型のパーティング面とを嵌合させ、キャビティを真空状態に保ちながら上金型及び下金型のうちの少なくともいずれか1つの金型を移動させることにより成形品を成形するものであって、上金型又は下金型のうちの一方の金型のパーティング面に大きさの異なる複数のシール材を設置するとともに、上金型又は下金型のうちの他方の金型のパーティング面には各シール材が接触する少なくとも1つのテーパ面及び各シール材が接触しない少なくとも1つの凹部を設け、移動過程において複数のシール材のうちテーパ面に接触するシール材が2個以下となるようにテーパ面及び凹部を構成したので、シール材1つあたりの摺動距離が短くなり、シール材が磨耗、破断することによって真空度が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1による真空金型装置を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1による真空金型装置を示す断面図である。
【図3】この発明の実施の形態1による真空金型装置における上金型と下金型との嵌合部分を示す断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1による真空金型装置における上金型と下金型との嵌合部分を示す断面図である。
【図5】この発明の実施の形態1による真空金型装置における上金型と下金型との嵌合部分を示す断面図である。
【図6】この発明の実施の形態1による真空金型装置における上金型と下金型との嵌合部分を示す断面図である。
【図7】真空金型装置における上金型と下金型との嵌合部分を示す断面図である。
【図8】この発明の実施の形態2による真空金型装置における上金型と下金型との嵌合部分を示す断面図である。
【図9】この発明の形態2によるシール材の形状を示す側面図である。
【図10】この発明の実施の形態3による真空金型装置における上金型と下金型との嵌合部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による真空金型装置を示す断面図、図2は真空吸引開始時の真空金型装置を示す断面図、図3〜図6は上金型と下金型の嵌合部分を示す断面図である。図において、可動板1にキャビティ2を含む上金型3が取り付けられている。上金型3は嵌め合いやすいように円筒形状に構成されている。上金型3には真空吸引するための孔4が設けてあり、孔4に通じる管には真空吸引装置へ溶湯材料が逆流することを防ぐため栓5が設けてあり、真空吸引後栓5を閉じる。
【0016】
また上金型3にはパーティング面6が設けられており、パーティング面6には複数個の寸法の異なるシール材7a〜7bが設けられている。固定板8には下金型9が取り付けられており、下金型9の中には溶かした成形材料10が入っている。また下金型9には加熱装置となるヒーター11が取り付けられている。更に下金型9にはパーティング面12が設けられており、パーティング面12にはテーパ面13a〜13c及び凹部14a〜14cが設けられている。テーパ面13a〜13cと凹部14a〜14cとの接合部は円弧状に加工されており、球面15a〜15cが設けられている。
【0017】
そして径寸法の最も小さいシール材7cはテーパ面13c及び球面15cには接触するが、球面15a、15bには接触せず、更に凹部14cには接触しないように配置されている。又径寸法が2番目に大きなシール材7bはテーパ面13b及び球面15bには接触するが、球面15aには接触せず、更に凹部14bには接触しないように配置されている。又シール材7a、7bの中心間距離をs、シール材7b、7cの中心間距離をt、凹部14aの幅をx、凹部14bの幅をyとしたとき、s=x、t=yとなるように構成されている。
【0018】
次に動作について説明する。可動板1が下降し、図2に示す真空吸引開始位置となると、寸法が最も大きいシール材7aが、対応するテーパ面13aと接触するようになる(図3の状態から図4の状態へと変化する)。この時キャビティ2は密封され、孔4より真空吸引が開始されることにより、キャビティ2を真空状態にし、栓5を閉める。その後可動板1を更に下降させることにより、図5に示すように径寸法が2番目に大きいシール材7bがテーパ面13bと接触する。
【0019】
そのためキャビティ2はシール材7bにより密封される。この時シール材7aはテーパ面13aもしくは球面15aと接触している。可動板1を更に下降させると、図6に示すようにシール材7aはテーパ面13aから離れ、凹部14aに位置するようになり、パーティング面12に接触しなくなる。この時シール材7bによってキャビティ2は密封されているため、高真空状態が維持される。更にシール材7aがパーティング面12と非接触となったことにより、摺動時の摩擦抵抗が減る。
【0020】
更に可動板1を下降させると、径寸法の一番小さなシール材7cがテーパ面13cと接触する。そのためキャビティ2はシール材7cにより密封される。この時シール材7bはテーパ面13bもしくは球面15bと接触している。可動板1を更に下降させると、シール材7bはテーパ面13bもしくは球面15bから離れ、凹部14bに位置するようになり、パーティング面12に接触しなくなる。この時シール材7cによってキャビティ2は密封されているため、高真空状態が維持される。
【0021】
更にシール材7bがパーティング面12と非接触となったことにより、摺動時の摩擦抵抗が減る。そして可動板1を更に下降させ、キャビティ2への材料10の充填を完了した時点でシール材7cは球面15cから離れ、凹部14cに位置するようになる。キャビティ2への充填完了後、可動板1を更に下降させ、充填した材料10を加圧しながら凝固させる。
【0022】
このように、パーティング面6に複数の寸法の異なるシール材7a〜7cを上から順番に寸法の大きい順に配置し、パーティング面12にシール材7a〜7cにそれぞれ対応するテーパ面13a〜13c及び凹部14a〜14cを配置することにより、シール材7a〜7cそれぞれの1つあたりの摺動距離が短くなり、シール材7a〜7cが磨耗、破断することによる真空度の低下を抑制できるとともに、シール材7a〜7cを長持ちさせることにより真空金型装置としての長寿命化を図ることができる。
【0023】
尚上記説明においては、シール材7aから順番にテーパ面13aに接触するように構成したが、シール材7cから順番にテーパ面13cに接触するように構成しても良い。又一番最初にシール材7bがテーパ面13bに接触するように構成しても良い。即ちキャビティ2への成形材料10の充填が完了する前に可動板1が下降する段階でシール材7a〜7cのうちの少なくとも1つのシール材がパーティング面12に接触するように構成すればよい。
【0024】
シール材7a〜7cの磨耗、破断及び劣化を防ぐために、シール材7a〜7c1つあたりの摺動距離を減らすための手段として図7に示すような構造を採用することも考えられる。即ち複数のシール材7a〜7cと1つのテ−パ面を用いるものである。しかしこの構造によれば、目標位置に上金型3が到達するまで、設置したシール材7a〜7c全てが同時に摺動することになるため、摩擦が大きくなり、従来のプレス装置より大きなプレス装置が必要となり、装置が大型化してしまう。
【0025】
これに対して本発明によれば、パーティング面12に接触するシール材は常に2個以下となるため、摺動時の摩擦抵抗が小さくなり、上金型3を摺動させるためのプレス装置を小型化できる。更に摺動部をテーパ状に形成したため、パーティング面6,12を互いに平行に形成した場合と比べると、上金型3と下金型9の嵌め合い位置がずれた場合でもテーパ面13a〜13cにより位置ずれを調整することができ、容易に正確な嵌合が可能となり、金型を交換するための作業時間を短縮できる。
【0026】
またヒーター11を電気、ガスもしくは高周波エネルギーにより加熱することにより、成形材料10の温度が下がることを抑制し、湯まわり性を向上させることができるので、ヒートシンクのような薄肉精密部品を成形することも可能になる。またヒーター11を溶解装置として用いることで、鋳造並びに注湯する工程を削減でき、工程の簡略化を実現できるとともに、安全性を確保することができる。
【0027】
更にヒーター11により装置が高温になった場合においても、個々のシール材7a〜7cの摺動距離が短いため、シール材7a〜7cの劣化を抑制でき、真空度が低下することを抑制できる。更に球面15a〜15cを設けることにより、シール材7a〜7cがテーパ面13a〜13cから凹部14a〜14cへ移動する際の摩擦抵抗を小さくすることにより、シール材7a〜7cが亀裂によって破断することを防ぎ、真空度が低下することを抑制できる。
【0028】
更にキャビティ2に成形材料10を充填した後、成形材料10を加圧することにより、引け巣欠陥が発生することを抑制するとともに、気泡欠陥を縮小させることができる。また加圧することにより、上金型3と材料10との間の熱伝達率が向上し、成形材料10が急冷され、成形材料10の結晶が小さくなるので、成形品の強度が向上する。
【0029】
またシール材7a〜7cを樹脂で形成するようにしてもよい。樹脂は弾性体であり、本発明のように変形させても元の形状に戻るため、繰り返し使用できる。また、樹脂は弾性率が高いため、変形時の反力が塑性変形する物質よりも大きく、面圧が高くなるためシール性が向上する。
【0030】
またシール材7a〜7cを金属により形成するようにしてもよい。シール材7a〜7cを樹脂製にした場合、その耐熱温度は200度である。それ以上の高温の場合、樹脂が熱変形、もしくは溶けてしまい使用できない。そこで高温に強い金属性のシール材7a〜7cを用いることで、高温域、特に400度を超える場合でもシールすることができる。
【0031】
またシール材7a〜7cの材料として、耐火材料に耐火粘土、有機糊材、リン酸ナトリウム、リン酸アルミ等を配合したものを使用しても良い。耐火材料に耐火粘土と有機糊材とを混ぜることによってシール材7a〜7cの形に形成することができ、更にリン酸ナトリウム、リン酸アルミを配合することにより、表面精度と弾性率を高めることができる。そのため200度〜300度程度までの場合、溶けずに真空吸引を行うことができる。更に弾性体であるため、変形後元の形に戻り、繰り返し使用することができる。
【0032】
また、シール材7a〜7cの断面形状を図1〜図6に示すように円形にすることが好ましい。シール材7a〜7cの断面形状を円形状に構成すると、摺動する際の摩擦が小さくなり、余分な力が不要となるので、プレス装置を小型化できる。またシール材7a〜7cの断面形状が円形の場合、押し出し成形によって製造できるため、製造コストを安くすることができる。また可動板1を固定板にするとともに、固定板8を可動板にするようにして下金型9を上方向に移動させることにより加圧させるようにしても良い。
【0033】
更には上下の板を両方とも可動板にしても良い。更に上記説明においては、パーティング面6に複数個の寸法の異なるシール材7a〜7bを設置するとともに、パーティング面12にテーパ面13a〜13c及び凹部14a〜14cを設置した場合を説明したが、パーティング面6にテーパ面及び凹部を設置するとともに、パーティング面12に複数個の寸法の異なるシール材を設置するようにしても良い。このように下金型9にシール材を設置した場合にはシール材に成形材料10の熱が伝わりにくい構造にすることが必要となる。
【0034】
成形材料10として樹脂、アルミ合金、又はマグネシウム合金を使用し、上記真空金型装置によって樹脂、アルミ合金鋳造品又はマグネシウム合金鋳造品の成形品を製造するようにすることもできる。樹脂、アルミ合金、又はマグネシウム合金を成形することにより、高精度、低欠陥の成形品を得ることができる。
【0035】
本発明においは、図1、図2に示すように、上記真空金型装置を竪型鋳造装置として構成したものである。このように竪型鋳造装置を用いて鋳造を行うことにより、高精度、低欠陥の成形品を得ることができる。
【0036】
又上記真空金型装置を用いて様々な成形品を製造することにより、高精度、低欠陥の成形品を得ることができる。
【0037】
実施の形態2.
図8はこの発明の実施の形態2による真空金型装置における上金型と下金型との嵌合部分を示す断面図である。尚真空金型装置の全体構成は図1と同様である。上金型3は嵌め合いやすいように円筒形状に形成されている。また上金型3は金型3a〜3dに分割されている。上金型3aと上金型3bの間にはシール材21aが、上金型3bと上金型3cの間には、シール材21bが、上金型3cと上金型3dの間にはシール材21cがそれぞれ設けられている。
【0038】
シール材21a〜21cは上金型3a〜3d間に設けられたクリアランスよりも大きな寸法を有している。シール材21a〜21cはそれぞれ接触するテーパ面13a〜13c方向に向けて細長く突出するような形状をしており、特に突出している先端部はやや上向きに曲がるように構成されている。またシール材21a〜21cの分割した上金型3a〜3dに挟まれた部分は扁平形状に構成されている。
【0039】
下金型8にはシール材21a〜21cそれぞれに接触するテーパ面13a〜13cが形成されるとともに、シール材21a〜21cそれぞれに接触しない凹部14a〜14cが形成されている。テーパ面13a〜13cと凹部14a〜14cとの結合部は円弧状に加工され、それぞれ球面15a〜15cが設けられている。
【0040】
分割された上金型3a〜3dを組み合わせる際、シール材21a〜21cを間に挟み込む。その際シール材21a〜21cは上金型3a〜3d間に設けられたクリアランスよりも寸法が大きいため、シール材21a〜21cは上金型3a〜3dによって押し潰され、その結果、上金型3の分割面はシール材21a〜21cによって密封される。
【0041】
次に動作について説明する。尚基本的動作は実施の形態1の場合と同様である。可動板1が下降し真空吸引開始位置となる。この時突出量の最も大きいシール材21aがそれに対応するテーパ面13aと接触する。この時キャビティ2は密封され、孔4より真空吸引することにより、キャビティ2を真空状態にし、栓5を閉める。
【0042】
シール材21aは接触するテーパ面13a方向に突出する形状をしており、特に突出している先端部はやや上向きに曲がっているため、接触する際真空圧力によりテーパ面13aに吸い付き、下方へ変形する。このときシール材21aの先端部、つまり接触部はテーパ面13a方向に向かって圧縮される。その後可動板1を更に下降させる。その際、まずシール材21bがテーパ面13bと接触する。
【0043】
そのためキャビティ2はシール材21bにより密封される。この際シール材21bは接触するテーパ面13b方向に突出する形状をしており、特に突出している先端部はやや上向きに曲がっているため、接触する際真空圧力によりテーパ面13bに吸い付き、下方へ変形する。このときシール材21bの先端部、つまり接触部はテーパ面13b方向に向かって圧縮される。
【0044】
またこの時シール材21aは、テーパ面13a、もしくは球面15aと接触している。可動板1を更に下降させると、シール材21aはテーパ面13aから離れ、凹部14aに位置するようになり、パーティング面12に接触しなくなる。この時シール材21bによってキャビティ2は密封されているため、高真空状態が維持される。更にシール材21aがパーティング面12と非接触となったことにより、摺動時の摩擦抵抗が減る。
【0045】
更に可動板1を下降させると、シール材21cがテーパ面13cと接触する。そのためキャビティ2はシール材21cにより密封される。この際シール材21cは接触するテーパ面13c方向に突出する形状をしており、特に突出している先端部はやや上向きに曲がっているため、接触する際真空圧力によりテーパ面13cに吸い付き、下方へ変形する。このときシール材21cの先端部、つまり接触部はテーパ面13c方向に向かって圧縮される。
【0046】
またこの時シール材21cは、テーパ面13cと接触している。可動板1を更に下降させると、シール材21bはテーパ面13bから離れ、凹部14bに位置するようになり、パーティング面12に接触しなくなる。この時シール材21cによってキャビティ2は密封されているため、高真空状態が維持される。
【0047】
更にシール材21bがパーティング面12と非接触となったことにより、摺動時の摩擦抵抗が減る。更に可動板1を更に下降させることにより、キャビティ2への材料10の充填を完了した時点でシール材21cは球面15cから離れ凹部14cに位置するようになる。キャビティ2への充填完了後、可動板1を更に下降させ、充填した材料10を加圧しながら凝固させる。
【0048】
以上のように本実施形態によれば、シール材21a〜21cが接触するテーパ面13a〜13c方向に突出する形状をしており、特に突出している先端部はやや上向きに曲がっているので、シール材21a〜21cの先端部、つまり接触部はテーパ面13a〜13c方向に圧縮され、面圧が高まり、シール性を向上させることができる。
【0049】
またシール材21a〜21cが、それぞれ接触するテーパ面13a〜13c方向に細長く突出する形状に形成されているので、伝熱面積が小さく、伝熱量が少なくなり、シール材21a〜21cがあまり高温になることはなく、シール材21a〜21cの劣化を抑制することができる。また、シール材21a〜21cを図8のような形状にした時、上金型3a〜3dに挟まれた部分が上金型3a〜3dの分割面をシールするとともに、更にテーパ面13a〜13c方向に突出した部分がパーティング面6、12同士をシールするため、上金型3a〜3dの分割面とパーティング面6,12の密封を同時にできる。
【0050】
そのためシール材の個数を減らすことができ、工程数を削減することができる。また、シール材21a〜21cを図8に示したような形状にした時、分割した上金型3a〜3d間のクリアランスが一定の場合、シール材21a〜21dの挟まれる部分は扁平形状をしているため、上金型3a〜3dとの接触面積が多くなり、高いシール性を発揮できる。
【0051】
また、シール材21a〜21cの上金型3a〜3dに挟まれる部分に図9に示すような複数の突起22を設けるようにしても良い。上金型3a〜3dの寸法公差が大きい時、あるいは分割面の表面が粗い時でも、複数の突起22によって確実にシール材21a〜21cと金型面とが接触するようになり、金型分割面をシールできるので、高真空状態を維持できる。また分割面の表面粗さ、クリアランスに関係なく成形できるため、上金型3を組み立てるための作業時間を短縮できるとともに、又上金型3を交換する作業時間も短くすることができる。
【0052】
尚上記説明においては、上金型3を分割して、その分割面にシール材を設置した場合について説明したが、下金型9を分割してその分割面にシール材を設置するようにしても良い。又上記実施の形態1、2の説明においては、シール材を上から順番に寸法の大きい順に配置した場合を示したが、それ以外の順番で配置し、それぞれに対応するようにテーパ面及び凹部を形成しても良い。又上記説明ではシール材を3個設ける場合について説明したが、3個以外の複数個であっても良い。要するに複数のシール材のうちの少なくとも1つのシール材が下金型9のパーティング面12に対して順番に接触するようにテーパ面及び凹部を形成するように構成すればよい。更にはテーパ面及び凹部以外の形状を設けることにより、複数のシール材が下金型9のパーティング面12に対して順番に接触するように構成しても良い。
【0053】
実施の形態3.
図10はこの発明の実施の形態3による真空金型装置における上金型と下金型との嵌合部分を示す断面図である。シール材31aはテーパ面13a方向に細長く突出した複数の突出部31a−1〜31a−5を有しており、突出部31a−1〜31a−5は根元でつながって1個の扁平形状に構成され、この扁平形状部分が上金型3aと下金型3bに挟まれている。尚図10においては、1つのシール材31aのみを示しているが、他のシール材も同様に形成されている。
【0054】
シール材31aに複数の突出部31a−1〜31a−5を形成することにより、テーパ面13aと接触する際、突出部31a−1〜31a−5が、突出部31a−5、31a−4、31a−3、31a−2、31a−1の順に接触する。複数の小さい突出部31a−1〜31a−5が接触することによりシール性が高められ、又突出部31a−1〜31a−5のいずれかが破断しても、残りの突出部によってシールできるので、真空状態を維持することができる。
【0055】
このように突出部31a−1〜31a−5のいずれかが破断しても、残りの突出部によってシールすることにより、シール材の磨耗、破断による真空度の低下を抑制することができる。又図9に示すように、シール材31aの上金型3a、3bに挟まれた部分に複数の突起を設けるようにしても良い。上金型3の寸法公差が大きい時、あるいは分割面の表面が粗い時でも、複数の突起によって確実にシール材31aと金型3の分割面とが接触するようになり、金型3の分割面をシールできるので、高真空状態を維持できる。また分割面の表面粗さ、クリアランスに関係なく作業できるため、上金型3を組立てるための作業時間を短縮できるとともに、又上金型3を交換する作業時間も短くすることができる。
【符号の説明】
【0056】
2 キャビティ、3 上金型、6 パーティング面、
7a〜7c,21a〜21c シール材、9 下金型、10 成形材料、
11 ヒーター、12 パーティング面、13a〜13c テーパ面、
14a〜14c 凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティを有する上金型と、成形材料が入れられる下金型とを有し、上記上金型のパーティング面と上記下金型のパーティング面とを嵌合させ、上記キャビティを真空状態に保ちながら上記上金型及び上記下金型のうちの少なくともいずれか1つの金型を移動させることにより成形品を成形する真空金型装置において、上記上金型又は上記下金型のうちの一方の金型のパーティング面に大きさの異なる複数のシール材を設置するとともに、上記上金型又は上記下金型のうちの他方の金型のパーティング面には上記各シール材が接触する少なくとも1つのテーパ面及び上記各シール材が接触しない少なくとも1つの凹部を設け、上記移動過程において複数の上記シール材のうち上記テーパ面に接触するシール材が2個以下となるように上記テーパ面及び上記凹部を構成したことを特徴とする真空金型装置。
【請求項2】
上記テーパ面と上記凹部との接合部を円弧状に形成したことを特徴とする請求項1記載の真空金型装置。
【請求項3】
上記シール材の断面形状を円形にしたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空金型装置。
【請求項4】
上記シール材が設置された上記一方の金型を複数に分割するとともに、上記シール材における分割された上記一方の金型に挟まれた部分は扁平状に形成され、更に上記シール材は上記他方の金型のパーティング面に向けて細長く突出するように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の真空金型装置。
【請求項5】
上記シール材に上記突出部を複数個設けたことを特徴とする請求項4記載の真空金型装置。
【請求項6】
上記シール材における分割された上記一方の金型に挟まれた部分に複数の突起を設けたことを特徴とする請求項4又は請求項5記載の真空金型装置。
【請求項7】
上記シール材を樹脂により形成したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の真空金型装置。
【請求項8】
上記シール材を金属により形成したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の真空金型装置。
【請求項9】
上記シール材として耐火材料に耐火粘土、有機糊材、リン酸ナトリウム、リン酸アルミを配合したものを使用したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の真空金型装置。
【請求項10】
上記下金型に加熱装置を設けたことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の真空金型装置。
【請求項11】
上記成形材料が樹脂、アルミ合金又はマグネシウム合金のいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の真空金型装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の真空金型装置を用いて製造したことを特徴とする成型品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−173164(P2010−173164A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17718(P2009−17718)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】