説明

眼球及び眼周囲疾患を治療するための組成物、ターゲット、方法、及び装置

【課題】筋肉作用に作用することにより眼球、眼周囲、及び顔面の異常を治療するためのターゲット、組成物、及び方法を提供する。
【解決手段】筋肉作用を調節する化合物の治療学的に有効な量を人間の患者に投与することにより眼球及び眼周囲疾患を治療する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年4月24日出願の米国特許仮出願出願番号第60/374、817号からの優先権及びその恩典を請求するものである。
本発明は、筋肉作用に作用することにより眼球、眼周囲、及び顔面の異常を治療するためのターゲット、組成物、及び方法を含む。
【背景技術】
【0002】
緑内障は、眼液の濾過が減少し、眼が耐えられない値まで眼内圧が増大することを特徴とする世界中の失明の主な原因である。緑内障の治療、及び眼の高血圧、網膜静脈閉塞、虚血性視神経障害などのような他の眼の疾患の治療には、眼内圧の管理が含まれる。現在、眼内圧を制御するための主な手法は、点眼液及び時に丸薬を用いることによるものである。現行の投薬法の全ては、内圧効果(眼内部の圧力効果)を低減することにより作用する。
【0003】
眼は、水で満たした風船と考えることができる。内圧効果は、眼圧の変化を引き起こす眼の内部の因子から成る。2つの内的因子は、眼液生成及び眼液排出であり、この因子は、眼の内部に存在する。外圧効果は、眼の外部、すなわち、風船(眼)の外部の因子から成るが、眼の内部の圧力を変化させるものである。
不都合なことには、現在の治療方法には、眼液の生成を低減すること(例えば、ベータブロッカー)及び/又は眼液の排出を増大させること(例えば、プロスタグランジン類似物)から成るために、医師は、現在、内圧効果を低減する薬物しか選択することができない。しかし、緑内障による損傷は、内圧効果だけでなく、外圧効果(眼の外部の圧力効果)にもよるものである。眼圧亢進、眼圧スパイク、及び、瞬き、眼瞼の強制閉鎖、及び眼瞼筋肉張力のような外圧効果による圧力の揺らぎにより、視神経に進行的な損傷を引き起こす可能性がある。これらの外圧効果により引き起こされる症状がないために、徐々に痛みなく視力喪失が起こる。その結果、数百万人の緑内障患者は、彼らが眼圧を増大させる外圧効果を有し、このような外圧効果が検出されないで未治療のまま放置されれば最終的に失明に直面することに気づいていない。緑内障では、眼瞼筋肉の機能は亢進していないが、排出システムが適切に機能しないために、眼に作用する筋肉による外圧で圧力が増大して維持され、これによって損傷及び失明に至る可能性がある。
【0004】
従来技術では、ボツリヌス毒素のようなある一定の薬物を用いて、緊張亢進及び痙縮に関連する様々な神経筋障害を治療することができることが公知である。これらの薬物は、筋機能亢進及び筋肉過収縮を治療するのに用いられてきた。従来技術では、これらの薬剤を用いて、横紋又は平滑筋の機能亢進、無意識筋収縮、及び筋肉攣縮での神経筋活動を特徴とする異常機能を有する筋肉を治療してきた。ボツリヌス毒素は、機能亢進又は緊張過度の筋肉、又はこの機能亢進又は緊張過度筋肉の周囲領域に直接注入された。代替的に、クロナゼパムのような一部の薬剤が経口投与されて緊張亢進を低減した。これらの薬剤は、過剰な筋肉収縮及び括約筋収縮を低減するために様々な筋肉障害に用いられてきた。特に、ボツリヌス毒素は、機能亢進筋肉障害の多くの治療に用いられてきた。ボツリヌス毒素の筋肉注射は、眼瞼痙攣、斜視、半側顔面痙攣、口腔下顎ジストニア、肢ジストニア、頚部ジストニア、顔面筋疼痛、噴門痙攣、痙攣性障害、若年性脳性麻痺、顔面ジストニア、緊張性頭痛、及び痙縮を治療するために用いられてきた。
【0005】
眼瞼痙攣及び半側顔面痙攣を治療するために、眼瞼及び顔面筋系の複数の部位にボツリヌス毒素の注射を行い、この筋肉の痙攣状態又は機能亢進状態が軽減される。ボツリヌス毒素は、筋肉の機能が亢進している多くの疾患を治療するのに用いられてきたが、それは、眼圧を下げて外圧効果を低減し、眼への血流を増大させて緑内障を治療するためには用いられていない。
ボツリヌス毒素はまた、筋肉過活動(例えば、筋肉収縮により引き起こされる皺)を治療するのにも用いられてきた。ボツリヌス毒素を用いて皺を低減するための美容的治療は、疼痛を伴う上に極めて高価である。顔面の皺を減少又は消失させることができ、疼痛が無くて廉価な方法及び化合物を特定する必要性が存在する。
【0006】
更に、眼に作用する外圧効果を有効に治療し、それによってこの眼へのこの外圧効果を軽減することができる方法、生物学的ターゲット、及び化合物を特定する必要性も存在する。また、機能亢進していないにも関わらず眼に損傷を引き起こして失明をもたらす完全に正常な眼筋肉を治療する必要性も存在する。
更に、損傷を引き起こす外圧効果及びこの眼筋肉及び顔面筋肉により引き起こされる緑内障的変化を消失させる方法で、この完全に正常な眼筋肉及び顔面筋肉を反応性の低い状態にする必要性も存在する。それに加えて、正常な眼瞼筋肉機能を保存しながら、上述の課題の全てを達成する必要性が存在する。更に、プロスタグランジン類似物のような緑内障点眼液の有効性を向上させながら、全ての治療的利点を達成する必要性が存在する。
【0007】
【特許文献1】米国特許仮出願出願番号第60/374,817号
【特許文献2】米国特許第5,830,139号
【特許文献3】米国特許第6,120,460号
【特許文献4】米国特許第6,123,668号
【特許文献5】米国特許第6,213,943号
【特許文献6】米国特許第6,312,393号
【非特許文献1】Mackenzie、1830年
【発明の開示】
【0008】
本発明は、外圧効果を低減及び/又は調節して、正常な眼筋肉機能を保存しながら圧力の揺らぎ、圧力スパイク、及び基準線眼圧の長期に亘る低減を達成する化合物を投与することにより、従来技術の必要性を満たし、眼又は眼の周囲に作用する外圧効果を有効に治療するための方法、生物学的ターゲット、及び組成物を提供する。
本発明は、眼瞼、眼筋肉、及び顔面筋系による圧力効果を含む眼球及び眼周囲疾患を治療するために外圧効果に作用する侵襲性及び非侵襲性の方法、化学合成物、及び組成物に関する。より詳細には、本発明は、瞬き及び顔面筋系及び眼筋肉を調節して緑内障又は眼の高血圧を治療するためのボツリヌス毒素、リドカイン及びアルコール、ガバペンチン、及びドキソルビシンなどのような組成物の用法に関する。
【0009】
本発明はまた、眼の疾患のある患者を治療する方法も含み、本方法には、眼瞼の力又は眼瞼により引き起こされる圧力を測定する段階と、次に第1の段階の測定値に基づいて投薬を行う段階とが含まれる。
本発明はまた、薬物送達システム及びこの眼の疾患を治療するための化合物を送達するのに用いる投与経路が含まれる。化学合成物を用いて、緑内障、糖尿病性網膜症、甲状腺性眼障害、眼血管異常、黄斑浮腫、黄斑変性、視神経炎、及び虚血性視神経障害を治療するために筋肉の力を調節又は低減する。
【0010】
本発明は、更に、筋肉過収縮を低減し、顔面の皺を低減する手段を開示する。
本発明は、更に、屈折矯正手術及び白内障手術のような外科的手技の間及びその後に筋肉収縮を低減する手段も開示しており、眼瞼筋肉機能を測定する段階と、次にこの眼瞼筋肉機能を制御して手術の結果を高めるために投薬する段階とを含む方法を有する。
眼圧を低減することから恩典を受けることができる疾患の全ては、眼瞼筋肉作用及び瞬きを含む外圧効果を低減し、これによって眼圧スパイク及び眼圧の揺らぎを低減し、結果的に潅流圧力及び眼への血流を増大させるのに有効な濃度で化合物を投与することにより治療することができる。眼圧を低減すること及び/又は血流を増大させることから恩典を受けることができる疾患の全ては、本明細書に開示した化合物及び方法を用いて治療することができる。
【0011】
緑内障が1830年のMackenzieの初期の論文にあるように最初に病的実体として理解された時、それは、主として体液が過剰に生成される疾病であると見られていた。WeberとKniesの研究により眼圧の増大が排出の減少に関連することが示されたのは約30年後であった。2つの物理的変数である水性流入及び流出量により、内圧効果が引き起こされる。これらの2つの因子、水性流入量及び流出量は、眼圧を低下させて緑内障による損傷を防ぐための治療法を計画するのに用いられる現在の唯一の因子である。
【0012】
水性流入量を低減して水性流出量を増大させる点眼液を用いて内圧効果を治療しても、患者は、依然として失明することになる。緑内障には、失明を引き起こす以下のような未知の因子がある。
a.診療室で測定した眼圧は許容範囲であったが、それにも関わらず視野が進行性であり、これは、以前より悪化していることを意味する。
b.診療室に来て測定した眼圧は許容範囲であったが、それにも関わらず視神経に損傷がある。
c.診療室で測定した正常及び更にそれよりも低い眼圧が、視神経への損傷及び視力喪失に関連している。
d.診療室で測定した正常又は更にそれよりも低い眼圧にも関わらず、患者が緑内障により失明した。
【0013】
注意深い研究は、緑内障による損傷及び失明が外圧効果にもよるという発見をもたらした。綿密に研究は、本発明の治療手法、及び外圧効果の識別及び測定をもたらした。
外圧効果(EPE)は、眼の外部にあるが、眼の内部の圧力に影響を及ぼす物理的因子である。EPEは、眼内圧(IOP)を増大させ、IOPが正常であっても内圧効果を治療する薬物を用いていても失明の原因となる可能性がある。IOPを増大させ、実質的な圧力スパイクを生じさせ、眼圧揺らぎを増大させ、失明に至らせる可能性がある眼の外部物理的事象は、以下の通りである。
1)瞬き:瞬きする度に眼圧が15mmHg又はそれ以上増大する可能性がある。研究により、通常の瞬きで、基準線に比較して眼圧が200%よりも多く増大する可能性があることが示された。
2)圧迫:眼圧は、眼瞼を圧迫する度に90mmHg又はそれ以上増大する可能性がある。研究により、通常の眼の圧迫により、眼圧が基準線に比較して700%を超えて増大する可能性があることが示された。
3)眼瞼筋肉張力は、基準線眼圧を5〜10mmHg又はそれ以上増大する可能性がある。研究により、安静時の眼瞼により、基準線に比較して眼圧が50〜100%を超えて増大する可能性があることが示された。
【0014】
緑内障患者では、排出システムが損なわれ、瞬きの間、又は眼瞼が圧迫される時、又は筋肉張力により、眼圧がより高く増大してそのまま維持される。正常な個人では、眼液の排出が増大することによりこの眼圧増大から急速に回復することができる。しかし、緑内障患者では、排出システムが損なわれており、瞬きの間、又は眼瞼が圧迫される時、又は筋肉張力により、このような眼圧の増大が高いままに維持され、これによって視神経が損傷され、最終的に視神経が損傷される可能性がある。これは、緑内障では、排出システムが適切に機能しないために予想されることである。本発明では、神経毒又は本発明の原理による他の化合物を投与すると、外圧効果が有意に軽減され、これらの化合物を用いて緑内障及び眼圧調節又は眼圧を低減して血流促進することから恩典を受けることができる他の状態を治療することができることが見出された。
【0015】
EPEは、眼の内部にはないが眼の内部の圧力に影響を及ぼすいずれかの物理的因子であり、筋肉作用、筋肉張力、筋肉の大きさ、眼周囲の靭帯、眼周囲の軟骨、眼周囲の繊維組織、眼周囲の皮膚、眼瞼の瞼板、強膜、結膜等、及び、眼を物理的対象物に押し付けることを含む眼の外側の物体により圧縮されることにより引き起こされる外圧効果が含まれる。筋肉作用には、瞬き又は眼瞼の圧迫のような眼圧に影響を及ぼす筋肉によるあらゆる運動が含まれる。筋肉張力には、眼圧に影響を及ぼす安静時の筋肉によるあらゆる影響が含まれる。眼圧とは、本明細書ではIOPと互換的に用いられ、眼の内部の圧力を意味する。
【0016】
瞬き、圧迫、及び筋肉張力による眼圧の増大により眼圧が有意に頻繁に増大するが、これは、眼を損傷する原因となる重大な因子であり、多くの疾患の中で視覚喪失をもたらす可能性があるものである。
瞬きは、最も頻繁に行われる筋肉作用の1つであり、瞬きの力は、意識的に制御することができない。無意識的な瞬きは、通常2〜10秒毎に起こる。緑内障の患者であれば、これは、眼が基準線よりも15mmHg高い圧力で平均毎日16,000回ハンマーで打たれる可能性があることを意味し、これによって長い間には眼に大きな損傷が生じることになる。通常の瞬きでは、眼圧は、基準線に比較して50%〜200%を超えて増大する。本発明の方法及び組成物は、瞬きの間の筋肉作用を調節して低減し、適切な瞬き機能を維持しながら眼圧が過剰に増大するのを防ぐものである。
【0017】
眼の圧迫:いずれかの強い感情、運動の実施、シャワー、集中、重いものの持ち上げ、強い日光、悪臭を嗅ぐこと、目覚めること、疲労、睡眠、及び夢を見ることを含む14を超える日常の状態が眼瞼の圧迫をもたらすことになる。圧迫力は、意識的に完全に制御することができるわけでもなく、睡眠中に制御することができるわけでもない。緑内障の患者であれば、それは、100mmHgを超える圧力で毎日平均14回眼がハンマーで打たれる可能性があることを意味し、これは、緑内障患者の眼に大きな損傷を与えることになる。正常な個人でも、高レベルの圧力では損傷が持続する可能性がある。本発明の方法及び組成物は、筋肉作用を調節し、適切な眼瞼圧迫機能を維持しながら、眼が圧迫されている間に眼圧が過剰に増大するのを防ぐものである。
【0018】
眼瞼筋肉張力:安静時の眼瞼による外圧は、時に、視覚の変化、及び乱視軸線の変化、及び「ベネシャンブラインド現象」を含む角膜の構成の変化が生じる程度まで強力になることがある。この圧力の作用により、緑内障患者では、排出システムが適切に働いていないために眼圧が50%増大し、眼に損傷を与える可能性がある。本発明の方法及び組成物は、適切な眼瞼機能を維持しながら瞼筋肉張力を調節して眼圧の増大を防ぐものである。
【0019】
緑内障を患っていない正常な人でも、半側顔面痙攣のある人のように過剰に強く瞬きする人は、緑内障になって失明する。眼瞼痙攣のようにEPEの実質的な増大を引き起こす片眼の過剰な筋肉収縮が起こると、EPEのみに影響されて眼の視力喪失に至る。緑内障でない人が緑内障になって失明することがあるならば、緑内障の眼は、正常な眼のように圧力効果に耐えることができず、遥かに低いレベルの眼圧で損傷を持続する可能性があるために、緑内障患者の失明の危険性は遥かに高いものである。
【0020】
緑内障の眼は、正常な眼のようにEPEに耐えることができず、緑内障患者は、遥かに低い圧力レベルで修復不可能な損傷を持続する可能性がある。緑内障では、ターゲット圧力を超えて圧力が僅かに変化しても、視力喪失に至る可能性がある。ターゲット圧力は、本明細書では、治療のためのターゲットIOPと呼び、従って、IOP値がターゲット圧力よりも大きければ、視力機能が失われることになる可能性がある。
【0021】
瞬き及び眼の圧迫は、自然で普遍的な活動であり、緑内障患者、糖尿病患者、網膜血管閉塞、黄斑性疾患、虚血性視神経障害等の患者は、この患者が瞬きしたり、眼を圧迫する時のEPEのために、又は安静時の筋肉張力のために視力喪失の危険性がある。EPEにより、IOPがターゲット圧力よりも遥かに高くなる可能性があり、緑内障患者では、EPEを治療しなければ眼に修復不可能な損傷が持続する可能性がある。
【0022】
外圧効果を低減するか又は調節する薬剤で緑内障を治療することを含むいくつかの態様が本発明により提供される。別の態様は、外圧効果に作用することにより眼圧を低下させる治療効果を物理的に達成することである。更に別の態様は、正常な眼筋肉機能を保存しながら治療効果を達成することである。
本発明の別の態様では、筋肉張力を調節すること、及び瞬きの調節又は眼瞼を圧迫する機能の低減が含まれる筋肉作用を調節することを特徴とし、これは、EPEの低減及び眼圧の基準線の低減、圧力スパイクの低減、及び眼圧の揺らぎの低減を促進する。治療効果は、ボツリヌス毒素、アルコール及びリドカインの組成物、ドキソルビシン、ガバペンチン等のような化学的調整剤を用いることにより達成される。神経筋接合部の活動を調節すること、又は眼筋肉、眼瞼筋肉、及び顔面筋肉の筋肉作用を低減することを用いて、眼圧のスパイク、基準線眼圧、及び眼圧揺らぎを制御して低減することができる。
【0023】
実験により、眼圧の低減は、ある一定の眼瞼筋肉の筋肉作用を低減することにより達成することができることが明らかにされている。更に、瞬きを低減するか、瞬きの力を調節するか、又は眼瞼を圧迫する機能を低減する他の方法及び薬物は、眼圧スパイク及び眼圧揺らぎを低減することができ、並びに基準線眼圧も低下させることができ、この他の方法及び薬物は、本発明の範囲に含まれるものである。
眼瞼筋肉張力、瞬き、及び眼瞼の圧迫が眼圧を増大させるという本発明の発見は、一部の化合物が瞬き及び眼圧のスパイクのような外圧効果を調節及び/又は低減し、その後視力を維持することができるという発見を伴うものであり、これによって緑内障、眼の高血圧、糖尿病性網膜症、網膜血管閉塞、虚血性視神経障害、黄斑性変性、及び眼圧の低減又は血流の増加から恩典を受けることができるあらゆる状態を含む様々な眼の疾患を治療するための様々な新しい方法及び薬物が開発されることになる。
【0024】
本発明は、無意識的及び強制的な瞬き及び眼瞼の圧迫を含む瞬き及び眼を閉じることに介入する筋肉又は筋肉群を選択的かつ一時的に不活性化することにより眼圧を低減する方法を提供するものである。本発明の一態様には、眼瞼に隣接するか又は眼瞼内、好ましくはリョラン筋に隣接する筋系の1以上の点に化合物を局所投与又は経皮注射することが含まれ、この薬剤は、筋肉作用を一時的に遮断することができる。治療効果は、瞼筋肉及び/又は瞬きの力を低減すること及び/又は眼を強く閉じ、圧力スパイクを引き起こすことを低減することである。本明細書に開示する手順を用いると、眼圧スパイク及び眼圧揺らぎによる損傷は、外圧効果により引き起こされる昼夜に亘るこのような途方もない範囲の圧力揺らぎ及びスパイクを低減することによって消失させることができる。
【0025】
本発明の組成物は、既存のどの点眼液でも代用することができないものである。どのような視力保存点眼液を用いている場合でも、患者は、本発明の組成物により眼圧が付加的に低減することから恩典を受けることになる。更に、本発明の組成物がターゲットに当たれば、眼圧スパイク及び眼圧揺らぎが防止される。これらのターゲットに当たる点眼液はなく、既存の点眼液も外部圧力による失明作用を低減することはできない。本発明の組成物と組み合わせて用いると、プロスタグランジン類似物の眼圧低下作用が改善することが観察されている。
【0026】
本発明の組成物により、眼に対する物理的安定性が大きくなり、この組成物を従来の点眼液と組み合わせて緑内障を治療すると、この点眼液の治療効果が向上する。本発明はまた、「Lumigan」(米国カリフォルニア州アーバイン所在の「Allergan」から入手可能)、「Rescula」(米国ジョージア州ダルース所在の「Novartis Ophthalmics」から入手可能)、「Travatan」(米国テキサス州フォートワース所在の「Alcon」から入手可能)、及び「Xalatan」(米国ニュージャージー州ピーコック所在の「Pharmacia」から入手可能)を含むプロスタグランジン類似物の作用を向上させる方法も提供する。
【0027】
眼内圧をモニタするためのAbreuによる様々な装置(米国特許第5,830,139号、米国特許第6,120,460号、米国特許第6,123,668号、米国特許第6,213,943号、及び米国特許第6,312,393号)では、外圧効果により引き起こされる眼圧の増大をモニタして識別することができる。Abreuの装置以外に、筋肉活動、筋肉の力、眼瞼の力、収縮速度、筋肉弾性、眼瞼散漫性、及び眼瞼弛緩により増大するIOPを測定するための装置の少なくとも1つを含む上述のEPEを測定することができるあらゆる装置を用いて、EPEを測定することができる。集合的に、EPEを測定する装置の全てを本明細書では「瞼測定装置(LMD)」と呼ぶ。
【0028】
本発明の方法には、上述の外圧効果又は筋肉又は筋肉の力又は眼瞼の力により引き起こされる圧力の増大を測定するあらゆる装置を含むLMDを用いて眼筋肉による圧力及び力などを測定することが含まれる。より詳細には、本方法には、外部因子により引き起こされる圧力及び/又は力を測定する段階、及び第1の段階で識別されるレベルに基づき投与される薬物の量及び/又は種類を定量する第2の段階が含まれる。第1の段階はまた、筋肉弾性及び/又は眼瞼散漫性及び/又は眼瞼弛緩を測定する段階、及び識別されたレベルに応じて投薬する段階を含むことができる。
【0029】
神経毒の使用に関する本発明の態様は、哺乳動物に神経毒を筋肉(筋肉内又は筋肉に隣接して)投与し、これによって筋肉作用及び/又は筋肉張力により引き起こされる外圧効果を軽減する段階を特徴とする。神経毒を用いる好ましい方法には、眼瞼筋肉活動、瞬き、又は眼の圧迫により引き起こされる眼圧を低減するのに有効な濃度を送達することにより視神経への損傷を低減する段階が含まれる。
好ましくは、用いられる神経毒は、ボツリヌス毒素の血清型A、B、C、D、E、F、及びGの1つか又は1以上の組合せのようなボツリヌス毒素である。更に、ボツリヌス毒素は、グルタミン酸塩の作用を調節し、これによって眼圧が上昇することに伴って網膜神経節細胞及び視神経を更に損傷する可能性があるグルタミン酸塩誘発興奮毒性を低減することができる。また、神経毒は、カルシウムチャンネルブロッカー(例えば、ベラパミル)及び麻酔剤(例えば、ブピビカイン)などのようなその治療効果を増大する他の薬剤と組み合わせても用いることができる。代替的に、神経毒は、点眼液や軟膏の形か又は薬物送達用パッチを用いて、並びにイオン泳動で能動的か又はリポゾーム封入形を用いるか又は移植可能形で、局所的に投与することができる。
【0030】
本発明の別の態様は、経口投与、局所投与、又は侵襲的(経皮的、筋肉内、皮下、静脈内)に投与することができる眼及び顔面筋肉活動を調節する化合物の投与又は化合物の組合せを特徴とする。より詳細には、本発明のこの態様は、麻酔剤(例えば、リドカイン、ブピバカイン、ケタミン等)及びアルコール(例えば、エタノール)、及び、麻酔剤(例えば、ブピビカイン)の組合せ、アルファ作動薬(例えば、クロニジン)、及びアルコールの組合せのような組成物の使用を特徴とする。これらの化合物の組合せは、主に筋紡錘求心性活動に作用するものである。本発明による他の有用な化合物には、ドキソルビシン、ガバペンチン、フェノール、抗コリン作用薬物、テトラベナジン、リスリド、リドカイン、メキシレチン、トリヘキシフェニジル等が含まれる。
【0031】
本発明の目的は、眼瞼筋肉及び顔面筋系に作用することにより、及び筋肉張力、瞬き、眼を閉じること、及び眼瞼の圧迫などを調節することにより、様々な眼の疾患を治療するための新しい方法及び薬物を提供することである。注射で、局所的に、挿入で(例えば、薬物送達装置を眼瞼ポケットに非侵襲性に配置する)、パッチを用いて眼瞼の皮膚の表面上に、及び分解不能な移植物上の分解可能物としての移植などを含む、様々な手段を用いて作用部位に薬物を投与することができる。
本発明の別の目的は、緑内障又は眼圧を低減することから恩典を受けることができる他の状態を罹っているヒト又は動物の筋肉収縮及び瞬きを低減することができる筋肉弛緩剤を投与することである。
【0032】
本発明の目的はまた、網膜の血流を増大させ、視神経乳頭血流を増大させることにより視神経及び網膜の健康を最高にする方法を提供することであり、本方法は、眼の筋肉、眼瞼筋肉、及び顔面筋系の少なくとも1つに働き、眼圧の低減、圧力スパイクの低減、又は圧力揺らぎの低減を促進する有効な量の薬剤を眼に投与する段階を含む。
本発明の更に別の目的は、穿通手段以外にイオン泳動を通じて神経毒のような薬物を投与するための装置を提供することである。この装置には、電流を印加するための手段、薬物を保持するための保持手段、及び薬物を放出するように電流を活性化するための活性化手段が含まれ、この手段は皮膚と接触する。
【0033】
本発明の目的はまた、化合物を眼瞼縁のリョラン筋肉に注射することのような、眼圧スパイク及び揺らぎを低減することができる筋肉塊の所定の領域にその効果を限定させるように、制御された再現可能な方法で化学的調整剤を投与するための新規な方法及び場所を提供することである。
本発明の更に別の目的は、安全で痛みが無く価格の安い化合物を用いて顔面及び眼周囲の皺を治療するための新規な方法を提供することである。
【0034】
本明細書に開示する本発明の付加的な目的は、経口投薬又は点眼液のための従来の投薬計画の代わりに年に数回投与することができ、ボツリヌス毒素のような神経を保護して圧力を低下させる薬剤を用いて、緑内障、眼の高血圧、視神経症、視神経炎、糖尿病性網膜症等での眼圧及び神経毒性を制御する方法を提供することである。
本発明の更に別の目的は、医薬的に有効な量のボツリヌス毒素のような化学的調整剤を単独又は他の薬物と組み合わせて提供することである。本発明の目的はまた、眼圧が上昇する危険又は薬物(例えば、エタンブトール)により引き起こされる神経毒又はグルタミン酸塩及びNMDA(N−メチル−D−アスパルテート)受容器に媒介されるような疾病による神経損傷の危険性があるあらゆる状況に対して長期的に持続する治療法を提供することである。
【0035】
別の目的は、このような薬剤の新規な剤形を提供することである。更に別の目的は、これまで治療不可能であったか又は点眼液及び他の手段で不十分にしか治療できなかった緑内障及び眼の高血圧のための新規な療法を提供することである。
更に別の目的は、特定の量の毒素を含む新しいバイアルを提供することである。目的はまた、毒素を送達するための新しいシリンジを提供することである。更に別の目的は、バイアル及び新しいシリンジ及び/又は瞼測定装置を含むキットを提供することである。
【0036】
本発明の更に別の態様は、緑内障、眼の高血圧、糖尿病性網膜症、グレーブス病(甲状腺性眼の疾患とも呼ばれる)、眼の血管異常、網膜静脈閉塞、網膜の動脈閉塞、黄斑性浮腫、黄斑性変性、視神経炎、及び虚血性視神経障害を含む眼圧を制御することから恩典を受けることができるあらゆる疾患又は状態を治療するために上に名前を挙げた化合物を用いることを特徴とするものである。
本発明の更に別の態様は、屈折矯正手術及び白内障手術のような外科的手技の前、その間、及びその後に眼瞼筋肉張力、瞬き、及び眼瞼の圧迫を調節することにより手術の結果を向上させることを特徴とするものである。
本発明の更に別の態様は、好ましくはグルタミン酸塩の拮抗剤として働くことにより神経を保護する神経保護剤を投与することを特徴とするものである。最も好ましい化合物は、ガバペンチン、ボツリヌス毒素、ベラパミル等である。
【0037】
本発明の化合物は、正常な筋肉中で働いて筋肉を正常な強度よりも低くし、この筋肉により引き起こされる眼圧の影響を低減するものである。本発明の方法は、瞼機能に介入する他の瞼筋肉の機能を保存しながら、眼圧の上昇に介入する筋肉をターゲットにする。本発明の方法及び化合物は、筋肉作用又は張力により引き起こされる圧力の上昇を低減又は消失させ、瞬きの下降相の速度を低減するように作用することが好ましい。
【0038】
本発明の方法はまた、ボツリヌス毒素又はリドカイン−アルコール組成物を注射する前か、又は、ドキソルビシン又は筋肉弛緩剤として作用する他の何らかの薬剤を用いる前にアミドベースの麻酔剤を用いる段階も含む。ブピビカインの注射により、筋肉弛緩剤の作用を増幅させることができる。本発明の研究により、局所麻酔剤を用いる予備治療が、化学的筋切除効果を最適にするのに役立つことが示された。
臨床的研究で、本明細書に開示される化合物の臨床的に用いられる濃度及び組合せにより、筋肉作用及びEPEが調節されて、様々な状態を治療するための治療効果がもたらされることが明らかになっている。例示的な臨床研究を以下に説明する。
【0039】
A.研究に対する試験対象患者基準は以下を含む:
a.IOPが正常又はそれ未満であるにも関わらす進行した緑内障患者。
b.診断時に視神経乳頭(ONH)/視野(VF)まで損傷が進行していた患者。
c.緑内障手術を延期又は回避したい患者。
d.投薬計画に新しい点眼液を加えることを延期したい患者。
e.非点眼液に基づくIOP低下薬物を試してみたい患者。
f.顕著又は測定可能な眼瞼効果があった患者。
g.複数の点眼液にアレルギーがあった患者。
全ての患者は、眼の疾患を治療するために薬物の承認適応症外使用に同意する必要があった。
【0040】
B.研究の目的は以下を含む:
1.外圧因子により引き起こされる圧力スパイク、圧力揺らぎ、及び基準線IOPの低減を評価すること、
2.外部因子により引き起こされる圧力スパイク及び圧力揺らぎをターゲット圧力未満に保持する投与量及び組成物を評価すること、
3.外圧効果を低減することにより眼の潅流圧力を増大して安定させる投与量及び組成物を評価すること、
4.外圧効果を低減する様々な薬物を評価すること、
5.筋肉活動の力及び速度を評価すること、
6.眼圧を増大させる筋肉群の力を弱める化合物を評価すること、
7.下降相の眼瞼運動の速度を低減する化合物を評価すること、
8.EPEを低減する薬物とプロスタグランジン類似物のような緑内障を治療する点眼液との間の相乗効果を評価すること、
9.治療前及び後に外圧因子により引き起こされる圧力スパイク、圧力揺らぎ、及び基準線IOPの大きさを定量すること、
10.治療前及び後に筋肉活動の力及び速度を定量すること、
a)眼瞼を閉じる下降相の速度
b)眼圧の上昇を引き起こす筋肉群の力
11.治療前及び後に外圧効果(例えば、瞬き及び眼の圧迫)による作用中の眼の血流を評価すること、及び
12.正常な個人及び眼に障害がある患者のEPEを評価すること。
【0041】
C.研究の方法:
治療した患者の平均年齢は、61.9歳であり、32例は長期に亘って治療したが、最低8ヶ月の一貫した追跡調査の判断基準を適用し、標本群を10例に低減した。8例が男性で2例が女性であった。平均IOP予備治療は24.9±4.6であった。患者の数による点眼液予備試験治療は次のようであった。2例は、プロスタグランジン類似物(PGA)、ベータブロッカー(BB)、アルファ作動薬(AA)、及び炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)を用いた。他の2例は、PGA、BB、及びAAを用いた。他の2例は、PGAのみを用いた。2例は、PGA、BB、及びCAIを用いた。一例は、BB及びCAIを用いており、一例は、点眼液不耐性であり、BBのみを用いた。
【0042】
ゴールドマン眼圧計を用い、同じ期間で全ての患者のIOPを測定した。カラードップラー撮像及び「ブルーフィールド内視現象」を用いてEPEによる血流の変化を評価した。各例は、群としてではなく個々に治療して追跡した。この研究では、長期に亘るデータの収集に関心がある。各例に対する治療間隔は、支援状況により様々であり、ボツリヌス毒素(7例)に対しては平均3ヶ月、リドカイン組成物(3例)に対しては6週間である。瞬き及び圧迫の間の外部眼圧効果は、Abreuにより米国特許第6,120,460号に開示された装置に基づいて特別に作成された圧力検知コンタクトレンズアセンブリを用いて測定した。次に、瞼筋肉活動の圧力効果の基準線が得られる。それによって筋肉活動でどれだけの眼圧増大又は眼圧スパイクが起こるかの情報が得られる。これに引き続き、眼圧の低下は、リョラン筋肉に隣接して薬物を経皮注射することで筋肉を弱めることにより達成される。リョラン筋肉を遮断することにより、正常な眼瞼機能を維持しながら眼圧効果の上昇を低減する。
【0043】
研究に用いた眼圧を低下させるための2つの好ましい組成物は以下の通りである:
1.リドカインアルコール組成物:
注射は、リドカイン1%をリドカインの容量の1/10で99.5%エタノールに加えたものから成る。この組成物は、筋紡錘求心性活動に影響を及ぼすものである。診察台又はリクライニングチェアに眼を閉じて横たわった緑内障患者に27ゲージのインシュリンシリンジを用いて注射が行われた。この溶液の0.1〜0.3mlは、リョランの筋肉に隣接して輪筋内の眼瞼縁の瞼板前部輪筋の各部位(図2に示す部位(a)及び(b))内に注射された。患者の臨床的必要性に応じて隣接する部位を用いた。
2.ボツリヌス毒素:
ボツリヌス毒素型Aの0.625Uから1.25Uまでの投与量は、リョランの筋肉に隣接して輪筋内の部位(a)及び(b)における瞼で瞼板前部輪筋に注射された。27ゲージのインシュリンシリンジを用いて、診察台又はリクライニングチェアに眼を閉じて横たわった緑内障患者に注射が行われた。用いた部位はリドカイン組成物に対するものと同じであった。
【0044】
D.結果(圧力はmmHgで示す):
D1.リドカインアルコール組成物:3例にリドカインアルコール組成物を投与した。
1.例1:男性、60歳、4つの点眼液(PGA、BB、CAI、AA)投与、IOP予備治療:右眼(OD)=23、左眼(OS)=20。
a.試験対象患者の基準:IOP制御無し、視野(VF)進行OD。
b.治療(Rx)#1:6〜8週間/Rx間隔で4系列の注射をODに投与。
c.Rx後のIOP=23、18、18、19(ODのIOPの%低減:18%)。
d.結果:VF進行無し。
【0045】
2.例2:男性、年齢39歳、1つの点眼液(PGA)。Rx前IOP:OD=24、OS=27。
a.基準:色素性緑内障及び進行したVF欠損。
b.Rx#1:8週/Rxの間隔で1つの注射をOSに、続いて3系列の注射を両眼(OU)に投与。
c.Rx後IOP:OD/OS=25/23−24/23−22,22及び20,22(IOPの付加的な低減%:ODに16.7%、OSに18.5%)。
d.結果:VF進行無し。
【0046】
3.例3:男性、年齢67歳、糖尿病患者、3つの点眼液(PGA、BB、CAI)。Rx前IOP:OD=28、OS=26。
a.基準:進行性の中程度のVF欠損を有し、投与計画に他の点眼液を加えることを延期することを希望する。
b.Rx#1:6〜8週/Rx間隔で6系列の注射をOUに投与する。
c.Rx後IOP:OD/OS=27,26−25,26−24,25−24,25−25,24−25,25−25−26(%付加的なIOP低減%:ODに11%、OSに7.6%)。
d.結果:VF進行無し−患者は3つの点眼液を続け、投与計画を変化する必要はない。
【0047】
D2.ボツリヌス毒素:7例にボツリヌス毒素投与。
1.例1:男性、年齢60歳、4つの点眼液(PGA、BB、CAI、AA)投与。Rx前IOP:OD=18、OS=17。
a.基準:IOP制御無し、VF進行OD、手術の延期を希望。
b.Rx#1:3ヶ月/Rxの間隔で3系列の注射をODに投与。
c.Rx後IOP=16、15、及び15(ODに対する%IOP低減:16.6%)。
d.結果:VF進行無し−手術延期。
【0048】
2.例2:男性、年齢61歳、3つの点眼液(PGA、BB、CAI)投与。Rx前IOP=OD19、OS=21。
a.基準:進行性高度VF欠損があり、関節炎のため自分で点眼液を点すことができない。
b.Rx#1:2.5ヶ月/Rx間隔で3系列の注射をODに投与。
c.Rx後IOP=17、18−20,17及び17,18(ODのIOP低減は10.5%/OSのIOP低減は14%であった)。
d.結果:VF進行無し。
【0049】
3.例3:男性、年齢56歳、3つの点眼液(PGA、AA、BB)投与。Rx前IOP:OD=26、OS=30。
a.基準:高度VF欠損があり、点眼液に基づく治療を希望しない。
b.Rx#1:3〜4ヶ月/Rx間隔で4系列の注射をOSのみに投与。
c.Rx後IOP:OD/OS=26,29−25,31−30,32及び29,30(治療眼(OS)のIOPの低減は無く、未治療眼のIOPが12上昇)。
d.結果:OSにVF進行無し、ODにVF進行。
【0050】
4.例4:女性、年齢63歳、3つの点眼液(PGA、AA、BB)投与。Rx前IOP:OD=20、OS=21。
a.基準:高度VF欠損があって進行性であり、CAIに不耐性である。
b1.Rx#1:第1回と第2回の間の間隔を6ヶ月、その後、3ヶ月間隔で3系列の注射をOUに投与。
c1.Rx後IOP:OD/OS=18、18−24,22及び19、20(最後の2回の診療で%低減IOPは、12.5%OD及び10%OSであった)。
d1.結果:VF進行無し。
Rx#2:患者はAAに不耐性になり、リドカイン組成物も投与された。
b2.2ヶ月/Rxの間隔で3系列の注射リドカインアルコール組成物をOUに投与。
c2.Rx(2点眼液のみ(PGA、BB))後IOP:OD/OS=16,18−18,18及び18,19(2点眼液の%低減:ODに対し10%、OSに対し9.5%)。
d2.結果:治療時間中にVF進行無し。
【0051】
5.例5:男性、年齢59歳、糖病患者、1つの点眼液(BB)投与。Rx前IOP:OD=32、OS=29。
a.基準:高度VF欠損があり、複数の点眼液にアレルギーがある。
b.Rx#1:3ヶ月/Rx間隔で2系列の注射をODに投与。
c.RxIOP:OD/OS=30,29−30,28。
d.結果:ODにVF進行無し、OSにVF進行。治療眼には糖尿病性網膜症の進行無し。
Rx#2:両目に治療を受けた患者の状態が改善したため。従って、治療#2では、患者には、3ヶ月/Rx間隔で2系列の注射を両目に投与した。
e.Rx後IOP:OD/OS=30,29及び29,27(%低減IOPは10%OD、7%OSであった)。
f.結果:OUにVF進行無し。
【0052】
6.例6:男性、年齢71歳、2つの点眼液(BB、CAI)投与。Rx前IOP:OD=28、OS=28。
a.基準:IOP制御無し、連続的VF進行継続、遵守の欠如。
b.Rx#1:4ヶ月/Rx間隔で2系列の注射をOUに投与。
c.Rx後IOP:OD/OS=26,27及び31,30(IOP増大:ODに対して+10%、OSに対して+11%)。
d.結果:2つの連続VFにVF進行無し。2つの注射及び短期間の追跡調査で、IOP低減は観察されなかったが、筋肉作用による眼圧スパイク及び眼圧揺らぎが制御されているためにVF進行も無く、視力損失も無かった。
【0053】
7.例7:女性、年齢67歳、1つの点眼液(PGA)投与。Rx前IOP:OD=26(唯一の見える眼)、OSは盲目であり、圧力は38(静脈閉塞の既往歴)。
a.基準:中程度〜高度VF欠損、継続的に進行、単眼であり、点眼液に不耐性である。
b.Rx#1:2〜8ヶ月/Rx間隔でボツリヌス毒素(5)及びリド組成物(4)両方の9系列の注射をODに投与。
c.最初の3回のボツリヌス毒素でのRx中のRx後IOP:26−24−24−23(ODに対する%IOP低減は11.5%であった)。
d.結果:VF進行は僅か。
Rx#2:2系列のボツリヌス毒素及び4系列のリドカインアルコール組成物を投与。
e.Rx後IOP:OD=25,24,25,23,23及び21(ODに対する%IOP低減は19.2%であった)。
f.結果:VF進行無し。
本発明による化合物と共に用いると、PGAには、IOPを低下させる治療効果の大きな向上があることが観察された。血流は、EPEの間に低減し、本明細書に開示された化合物で治療した後には促進された。眼表面の一体性に関する副作用を訴える患者はなく、身体診察の間に眼表面の変化も観察されなかった。実験及び所見の更に詳細な説明は、「詳細説明」の節に開示する。
【0054】
本発明に示す臨床的証拠の様々な流れを次に示す。
1.外圧効果(EPE)の低減により、視野がかなり一様に保存されることになると考えられる。
2.治療していない眼は進行すると考えられる。
3.治療により基準線IOPがかなり低減すると考えられる。
4.組成物での治療は、患者によっては、基準線IOPの低下が僅かであってもVF進行を防止するための最も重要な因子であった。この理由は、以下の3つの因子による可能性がある。
a.眼圧がターゲット圧力よりも上昇する時間の低減、
b.圧力スパイク及び圧力揺らぎの数の低減、及び
c.一定の圧力スパイク及び圧力揺らぎにより引き起こされる抵抗の増大を調節することによる眼の潅流圧力及び血流の増大。
5.眼瞼運動の下降相速度を低減することによる圧力スパイク及び圧力揺らぎの低減。
6.IOP低下点眼液との相乗効果が得られ、点眼液、特にPGAのIOP低下反応が向上する。これは、以下による場合がある。
a.点眼液の効果を最適にすることができる眼の物理的安定性の増大、
b.筋肉及び/又は瞼板による作用を低減することにより治療の直接効果を角膜に向けること、及び
c.効果を組み合わせること。
7.眼圧、眼圧スパイク、及び圧力揺らぎを低下させ、正常な眼瞼機能を保存しながら視野進行を防ぐ。
8.眼の血流が増大し、それによって糖尿病性網膜症、網膜静脈閉塞、虚血性視神経障害などのような低酸素状態に有利となる。
9.EPEによる圧力揺らぎ及び圧力スパイクが適切に制御されていれば点眼液の数が低減又は維持される。
10.臨床研究により、筋肉作用により引き起こされる眼圧が大きく頻繁に増大することにより眼の損傷に至る可能性があり、本発明による治療でこの眼の損傷を防ぐことができることが示された。他の治療的な臨床上の利点には以下が含まれる。
a.治療眼では視力が保存される。
b.IOP、圧力スパイク、及び圧力揺らぎが低減する。
c.治療眼が安定なままであり、未治療眼がVFを失う。
d.治療眼に用いる点眼液の数が低減する。
e.用いる点眼液の作用が向上する。
f.治療眼の視野進行が防止される。
g.治療眼では手術が延期される。
本発明の他の結果、特徴、及び利点は、詳細説明、添付図面、及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
図面に示す本発明の好ましい実施形態を説明する際に、分かり易くするために特定の専門用語を用いることになる。しかし、本発明は、このように選択した特定の用語に限定されず、各特定の用語には、同様の目的を達成する同様の方法で作用する全ての技術的均等物が含まれることは理解されるものとする。
図1は、瞬きの間に眼瞼1が下がって角膜3を覆う時に、眼瞼縁部2及びリョラン筋肉6のために眼圧の上昇を引き起こす眼瞼1を示す断面概略図である。瞬きの間に上側眼瞼1が下がると、この眼瞼1が角膜3を押し下げて圧迫し、眼圧の上昇を引き起こす。
【0056】
正常な瞬き機能を有する個人では、無意識な瞬きは、ほぼ2〜10秒毎に起こってほぼ連続的に眼圧を上昇させ、これが瞬きが起こる度に発生する。正常な個人では、瞬きに伴う圧力揺らぎは、10mmHgに達することができるが、緑内障患者では、瞬きによりIOPが25mmHgを超えて増大する可能性がある。眼が圧迫されると、眼瞼1は、90mmHgを超えて増大する可能性があり、この大きな圧力上昇は、正常な人では短期間であるが、緑内障患者では持続する。睡眠中には、眼瞼1により中断されることのない圧力が存在し、その上、急速眼球運動が存在すると共に眼が物理的物体に対して無意識に押し付けられることにより、眼圧が上昇して更に損傷する可能性がある。
【0057】
3つの物理的因子がEPEにある一定の役割を果たし、このEPEが失明作用を有する可能性があると特定されたが、これには、「眼瞼運動」、「眼瞼のベクトル力」、及び「瞬き及び眼瞼速度の相」が含まれる。この物理的因子も注意深く分析されており、以下に詳細に説明する。
1.眼瞼運動
上側眼瞼1は、その閉鎖相の間には、開放位置から角膜3の上側部分に触れるまで下がる。次に、角膜3が眼瞼縁部2で内向きに押し込まれ、角膜3との凹角が約35度となる。この初期の小さな行程の後、眼瞼1は、角膜3の外面の上を摺り、角膜3を圧迫してこの角膜3を覆う。瞬きの間に眼瞼1が角膜3に接触すると、角膜3が内向きに運動し、緑内障患者では眼圧が相当増大する。この内向きの運動及び眼の圧迫により引き起こされる衝撃は、角膜3(半径9mm)と強膜4(半径11.5mm)の間の交差区域で勾配が約13度変化するために角膜強膜連結部5で開始される。
【0058】
2.眼瞼でのベクトル力
瞼2の縁及び輪筋7に近接するリョラン筋6の収縮により引き起こされるベクトル力の組合せたものが、眼瞼1により角膜3に印加される。上側眼瞼1により約20,000〜25,000ダインの水平力(法線方向の力成分)及び約40〜50ダインの垂直力(接線方向の力成分)が角膜3に印加され、それによって緑内障患者の眼圧がかなり上昇する可能性がある。筋肉作用により眼に印加される力は、瞬きの閉鎖相の間に上側眼瞼1が下がる時に、全眼球9を1〜6mmまで内向きに移動させる程度までかなり大きいものである。安静時の眼瞼1により角膜3に印加される力もまた、緑内障患者の基準線眼圧をかなり増大させるが、これは、本発明により軽減することができる。
【0059】
3.瞬き及び眼瞼速度の相
瞬きは、通常、高速(2,000度/秒)の大きな下向き眼瞼運動が約50ミリ秒継続し、その後ゆっくりとした上向き相になることから成る。上側眼瞼1の下降は、視軸と交わる時点で最大速度に達し、ほぼ20センチメートル/秒のレベルである。時に、力強い瞬きでは、速度が35センチメートル/秒を超え、又はそれ以上に達することもある。眼を閉じる間のこの瞬きの下降相速度は、外圧効果による眼圧上昇の鍵となる構成要素である。
物理的に、質量「m」の粒子は、力「F」が印加されて速度「v」で移動すると運動エネルギを有する。Pを圧力、Fを力、aを面積とした時にP=F/aであるから、速度を落とすことにより角膜に当たる力は低減し、続いて圧力効果が低減する。
本発明は、瞬きピーク速度及び瞬き下降相の力を緩めることによりEPEを制御して低減する手段及び方法を提供する。本発明はまた、適切な瞬き及び眼瞼機能を維持しながら、外圧効果により引き起こされる眼圧の制御及び眼圧の低下を薬理学的に達成する方法及び薬物(例えば、神経毒及び麻酔剤組成物)を含む。
【0060】
図2Aは、瞬きにより引き起こされる眼圧の増大を示すグラフである。IOPの各スパイクは、瞬きに対応するものである。瞬きをする度に、眼圧が5〜10mmHg変化して増大する。しかし、緑内障患者では、この増大は、25mmHgに到達する可能性がある。緑内障の排出システムはうまく働いておらず、眼から流体が流出するのが妨げられ、それによって眼圧が適時に正常化されるのが妨げられるために、この継続的な毎日16,000回の平均圧力スパイクにより、長い間には眼に損傷が引き起こされる可能性がある。
【0061】
図2Bは、眼瞼の圧迫により引き起こされる眼圧の増大を示すグラフである。IOPは、図に示すように、眼瞼の圧迫があると極めて高レベルまで急速に増大し、眼瞼が開くと基準線又は基準線近くまで戻る。眼を圧迫する度に眼圧が大幅に増大し、100mgHgにまで達する(正常な眼圧は21mmHg未満)。緑内障患者では、眼圧の増大が大きくてそれが維持され、正常なレベルに戻るのに眼の排出システムの機能状態によっては長い時間掛かる可能性がある。IOPが過剰に高ければ、潅流圧力が低減し、視神経に直接的な損傷を引き起こす可能性がある。
【0062】
図3は、毒素を注射するのに好ましい区域、部位(a)及び(b)を含む本発明の化合物を投与するための好ましい区域を示す概略図である。部位(a)及び(b)は、リョラン筋6に隣接する眼瞼縁部2であり、部位(c)は、上側眼瞼1の輪筋に位置する。部位(d)は、下方眼瞼の側方に位置する。部位(e)及び(f)は上側眼瞼1に位置し、部位(g)及び(h)は眉の上に位置する。説明のために右眼は閉じ、左眼は開いている。
一般的に、両側性緑内障では、本明細書に開示した化合物の開始用量は、リョラン筋肉6に隣接する2つの部位(部位a及びb)のみに投与することが好ましい。代替的に、化合物は、部位(a)、(b)、及び(c)を用いて各眼の3つの部位に注射される。
【0063】
更に、制御するのがより困難な症例の場合、下部眼瞼(部位d)の輪筋の1つの部位を合計4つの部位の代わりに用いることができる。より高度な緑内障では、次に、部位(a)、(b)、及び(d)に加えて部位(e)及び(f)を用い、各眼の5つの部位に注射することができる。相当な筋肉作用が存在する場合及び/又は緑内障が進行して圧力スパイクにより患者が短期間のうちに失明する危険がある場合には、眼瞼、顔面、及び眉の上(部位c、g、及びh)の部位に更に注射される。更に高度の緑内障には、更に多くの化合物の投与量/部位を用いることができる。従って、部位の数及び毒素の量は、臨床反応及び疾病の段階により変えることができる。
【0064】
適切な用量では、筋肉は部分的かつ表面的にしか弱まらないために、十分な強度及び神経制御が残る。治療した筋肉は、依然として主な意識的な機能を行うことができ、患者は、正常であるが少ない力かつ遅い速度で瞬きをすることができる。治療効果を最適にする1つの方法は、「薬理学的スピードバンプ」を生じさせることによるものである。下降相速度は、次に、治療後に28センチメートル/秒から16センチメートル/秒まで低減する(物理学では、速度は、速さ及び運動の方向であると定義される)。鍵となるのは、薬物が瞬きの頻度に影響を及ぼすことなく下降相の速度を低減することによって作用する、「薬理学的スピードバンプ」を作り出すことである。リョラン筋肉は、薬剤で調節することが必要な加速器であり、従って、リョラン筋肉を遮断することで速度は低減する。調節することにより弱まる程度は、視神経の状態によって用量を変えることにより、特定の患者に対して経験的に滴定することができる。
【0065】
生理学的条件の下では、筋肉組織の収縮は、神経の活性化で始まり、細胞表面膜の電気信号の発生、カルシウムイオン貯蔵庫への流入又はその放出、アクチン及びミオシンフィラメントの活性化、及びその間の架橋形成という一連の過程の最後の結果である。本発明の原理により、このような段階の何れかに作用するあらゆる化合物を用いることができる。
本発明には、筋肉収縮のこの段階の何れかで作用することで眼瞼筋肉及び顔面筋肉の機能を調節することにより神経毒性を防ぎ、眼圧を低下させる方法が含まれる。
【0066】
従って、1つの好ましい実施形態には、神経遮断を促進し、筋紡錘活動及び架橋形成を低減することにより作用する組成物が含まれる。この好ましい実施形態では、低価格の化合物を用い、それによって治療が普遍的に用いられることが容易になる。
この好ましい実施形態には、化合物の組合せ、好ましくはアミド型麻酔剤のような局所麻酔剤をアルコール(エタノール及び/又はイソプロピルアルコール)と組み合わせたものを用いることが含まれる。局所麻酔剤は、神経細胞膜のような興奮性膜の電位開口型ナトリウムチャンネルの開口部に干渉することにより神経刺激を遮断する。アルコールと組み合わせると、神経遮断及び筋紡錘求心性活動の低減のために一過性運動遮断及び筋肉軽減が生じる。治療効果は、濃度依存性であり、従って、高度に遮断するためには高濃度を用いる。
【0067】
アルコールと組み合わせる例示的な化合物には、リドカイン0.5%〜5%(ジエチルアミノアセト−2,6−キシリジド)、ブピバカイン0.25%〜1%[1−ブチル−2−(2、6−シリルカルバモイル)ピペリジン]、メピバカイン0.5%〜1%、エチドカイン0.5〜1%、プリロカイン15〜2%、ベンゾカイン、ジブカイン、ブタニリカイン、トリメカイン、テトラカイン、及びロピバカインが含まれる。
【0068】
この好ましい実施形態には、化合物の組合せ、好ましくは、リドカイン0.5%〜1.0%(商品名「XYLOCAINE」、英国所在の「AstraZeneca」製)をリドカインの容量の1/10で99.5%エタノールに加えたものの使用が含まれる。しかし、エタノール及び/又はイソプロピルアルコール及び化合物の総量は、例えば、化合物及び存在する他の活性原料の種類によって変わる。別の実施形態には、ブピビカイン0.5%をこのブピビカインの容量の1/10で100%エタノールに加えたものの使用が含まれる。また、治療効果を長引かせるために、30マイクログラムのクロニジンをブピビカイン−エタノール組成物に加えることができる。この組成物は、神経活動及び筋紡錘求心性活動を低減し、筋肉軽減を促進する。作用時間は、濃度及び用いる化合物により短くすることができ、6週まで長くすることができる。この溶液0.2mlを瞼板前部輪筋に注射すると、ボツリヌス毒素を用いる場合と同様の作用を有するが、作用時間は短い。この溶液は、神経毒素の場合と同様に、上側眼瞼縁の中央及び側方部に注射されることが好ましい。
【0069】
緑内障を治療するためのターゲットとして筋紡錘求心性受容器を用いる例には次のものが含まれる。眼を閉じて標準診察椅子に寄りかかった60歳の緑内障患者の図2に示す部位(a)及び(b)に、2mlのリドカイン0.5%をリドカイン容量の1/10で99.5%エタノールに加えたものから成る組成物を注射した。30ゲージインシュリンシリンジを用いて、瞼板前部輪筋のリョラン筋に隣接する眼瞼縁に0.2〜0.3mlの組成物を経皮注射した。本明細書では、経皮的とは、皮膚を穿通して化合物を送達するあらゆる技術を意味する。筋肉を弱めると、眼圧スパイク、基準線眼圧、及び眼圧揺らぎが低減することになる。基準線眼圧が3週間平均で16%低減したことに加え、強制的に眼を閉じた後及び瞬きの間には、眼圧が26〜30%低減した。行ったような薬理学的遮断では、瞼機能の乱れは起こらず、患者の自覚的な不満も無かった。
【0070】
別の好ましい実施形態には、例えば、1mlツベルクリンシリンジ、好ましくは新しく作成された0.5mlシリンジに27〜30ゲージ針を入れて用い、アセチルコリン伝達阻害剤のような神経筋遮断剤を経皮的に注射することが含まれる。薬物は、眼瞼の筋系及び/又は顔面筋系に注射してすることが好ましく、それによって筋肉が弱まり、次に、眼圧スパイク、基準線眼圧、及び眼圧揺らぎが低減することになる。本明細書に開示する化合物により、数ヶ月持続する一回の注射でこの調節した状態を持続することができる。
【0071】
好ましい態様では、本発明の方法には、ボツリヌス毒素又はアセチルコリン放出阻害作用を模倣するタンパク質のようなアセチルコリン放出阻害剤を注射することが含まれる。この処置に用いるのに現在好ましい薬物には、ボツリヌス毒素のような神経筋伝達に干渉することが公知の様々な病原細菌から分泌されるタンパク性の神経毒が含まれる。有用な他の毒素には、破傷風毒素、テトロドトキシン、クモ毒、及び様々な動物毒が含まれる。また、天然材料の作用を模倣する組換えDNA技術を用いて生成されたタンパク質も用いることができる。注射以外に経口摂取及び点眼液及び外科的投与装置として本発明を実施するのに、他の材料、タンパク質サブユニット、組換え生成材料、及び他の様々な新規な種類の新しいか又は開発される必要がある医薬品調製を用いることができることが理解される。本発明の原理により口で用いることができる薬物の例には、バクロフェン、ベンゾトロピンメシレート、クロナゼパム、ガバペンチン等が含まれる。
【0072】
本発明の好ましい神経毒は、平均分子量が約14〜15万ドルトンの2本鎖タンパク質であるボツリヌス毒素血清型Aである。この毒素は、神経筋接合部に働き、シナプス前膜からのアセチルコリン放出を阻害し、筋緊張を用量依存性に弱化又は喪失させるか、又は筋肉を部分的に麻痺させる。毒素の重鎖がコリン性神経端部の特定の受容体に結合し、毒素は、神経筋接合部でシナプス前端部からのアセチルコリン放出を阻害することにより作用する。
【0073】
ボツリヌス毒素は、神経刺激の伝達を阻害して筋肉弛緩剤として作用し、一時的にある一定の眼筋肉を弛緩させて眼圧を低減し、眼圧スパイクを低減することになる。血清型Aは、米国カリフォルニア州アーバイン所在の「Allergan,Inc.」から商品名「BOTOX」で、また英国所在の「Porton Products Ltd.」から商品名「DYSPORT」で市販されている。また、全ての8つの公知のボツリヌス血清型のうちの5価のトキソイドは、米国ジョージア州アトランタ所在の「米国疾病対策センター」から及び米国カリフォルニア州サンフランシスコ所在の「眼研究基金」から治験薬としても入手可能である。
【0074】
別の好ましい神経毒は、アイルランド所在の「Elan Corporation」から商品名「MYOBLOC」で市販されているボツリヌス毒素血清型Bである。また、血清型B、C、及びFも日本所在の和光ケミカルズから入手可能である。また、ワクチンとして用いるための破傷風毒素も本発明により用いることができ、米国ニュージャージー州ウェーン所在の「Lederle Laboratories」から商品名「TETANUS TOXOID PUROGENATED」で市販されている。この破傷風毒素のIbc断片は、末梢性に作用すると考えられており、従って、その作用はボツリヌス毒素に類似する。
【0075】
ボツリヌス毒素及び破傷風毒素の両方は、神経細胞に入り、小胞とシナプス前膜の融合を弱めることにより神経伝達物質放出を遮断する亜鉛エンドペプチダーゼである。細胞レベルでは、クロストリジウムの神経毒の作用機構は3つの段階で起こる。すなわち、細胞が表面受容体に結合する段階、内部移行する段階、及び最後に細胞内が毒されアセチルコリン放出が阻害される段階である。重鎖は、結合及び内部移行段階の原因となり、軽鎖は、神経伝達物質放出に必要な亜鉛依存性切断に干渉する。
【0076】
唯一市販されて直ぐに使用することができる溶液は血清型Bである。血清型Aは、保存料を含まない標準生理食塩水0.9%のような希釈剤を加えることにより流体で再構成される粉末として販売される。毒素は、当業技術で公知の医薬品化合物を用い、化合して医薬品製剤にすることができ、化合物の正確な処方及び投与量は、治療する状態及び疾病の状況によって判断される。一般的に、緑内障及び眼球の緊張亢進を治療し、潅流圧力を増大させるために有効な毒素の用量は、各部位で0.025と0.05mlの間(100Uの乾燥毒素を8.0mの希釈剤で再構成したバイアルを考える)であることが好ましい。穏やかなスパイク及び/又は穏やかな緑内障の症例には、0.025mlの量を用いることができ、高度症例では、投与量0.1ml又はそれ以上を用いることができることが理解される。この技術には、最も有効な用量を可能な最も少量の容量の液体に溶かしたものを投与する段階が含まれる。患者の臨床的必要性に応じて他の投与量を用いることができる。その後の用量は、本来の量の2倍又は3倍に増加させることができるが、用量に対する指導は、「瞼測定装置」を用いて以下に説明する方法に従い、眼圧のスパイクの低減を観察することにより臨床的に行うことが好ましい。
【0077】
一般的に、両側性緑内障に対して、部位に関する図3を参照すると、開始用量である2Uのボツリヌス毒素型Aは、リョラン筋肉6に隣接する2つの部位(部位a及びb)のみに、投与量1Uのボツリヌス毒素A/部位で投与することが好ましい。代替的に、部位(a)、(b)、及び(c)を用い、投与量0.625/部位で1.875Uのボツリヌス毒素A(Botox)を各眼の3つの部位に注射する。
【0078】
更に、制御がより困難な症例では、下側眼瞼(部位d)の輪筋の1つの部位を合計4つの部位の代わりに用い、注射は合計で2.5Uとすることができる。より高度な緑内障では、部位(a)、(b)、及び(d)に加えて部位(e)及び(f)を用いることにより、合計約3.75Uの毒素を各眼の5つの部位に注射することができる。相当な筋肉作用が存在する場合及び/又は緑内障が高度になり圧力スパイクにより患者が短期間のうちに失明する危険がある場合は、眼瞼、顔面、及び眉の上の更に多くの注射部位(部位c、g、h)を用いる。より高度な緑内障には、1U〜5U/部位の範囲の大量の投与量を用いることができる。従って、部位の数及び毒素の量は、臨床反応及び疾病の段階に応じて変えることができる。
【0079】
注射の目的は、眼瞼筋肉、瞬き、及び眼瞼の強制閉鎖の速度及び/又は力を例えば数ヶ月の期間に亘って低減することである。これは、好ましくは、リョラン筋に隣接する部位及び輪筋内の眼瞼縁の部位に対して0.9%塩化ナトリウムのような希釈剤8.0mlで再構成した100UのBotoxのバイアルを考えると、各部位にそれぞれボツリヌス毒素型A0.625U及び1.25Uと等量である投与量約0.05ml〜0.1mlで注射して筋肉を弱めることにより達成される。筋肉作用の遮断の程度は、投与量、注射の部位、及び注射の頻度を変化させることにより調節することができる。用量が非毒性でありながらEPEを引き起こす筋肉作用を低減するのに有効であれば、大量投与量も少量投与量も用いることができる。毒素の効果は、一般的に、何ヶ月にも亘る期間までの定められた期間持続するが、患者によって異なるものである。疾病及び眼圧を制御するために必要に応じて注射を繰り返すことができる。
【0080】
好ましい方法には、化合物を局所的に投与することにより特定の筋肉又は筋肉群を弱める段階が含まれる。しかし、筋肉を弱める段階は、中枢神経系又は末梢神経に作用する化合物によって達成することができることが理解される。瞬き反射は、求心性三叉神経及び遠心性顔面神経により仲介される。乏シナプス橋路を通して伝達される初期同側性反応(R1)及び多シナプス延髄弓を中継にする後期両側性反応(R2)がある。この神経路に作用するあらゆる化合物を用いることができるが、正常な眼瞼機能を保存するために瞬きの頻度を変化させないままにしておくことが重要であるために、好ましい化合物は、これらの神経路に対して最小限から全くないまでの効果を有する。
【0081】
本発明の好ましい方法は、眼瞼の速度の調節及び眼瞼筋肉の力の調節を達成しながら、筋肉作用の頻度に最小限から全くないまでの効果をもたらすものである。好ましい方法には、化合物の局所投与が含まれる。眼瞼又は眼瞼近くでのこの化合物の局所作用により、瞬きの頻度を保存することができる。この瞬きの頻度は、角膜を適切に湿潤させるために及び涙液膜安定性の保存及び眼の表面一体性の保存のために必要である。瞬きの頻度は、中枢神経系により判断されるために、局所的に作用することにより瞬きの頻度が維持される。瞬きの頻度に干渉しないことにより、正常な眼瞼機能が保存される。
【0082】
更に、眼圧の増大に介入する筋肉のみを遮断し、残りの筋肉を無傷のまま保持することにより、更に眼瞼機能が保存される。下降相で眼瞼の閉鎖を開始するのに必要な筋肉及び瞬きの上昇相に必要な筋肉は無傷である。しかし、圧力の増大に介入する筋肉は、瞬き下降相のピーク速度を低減して眼瞼圧迫の間の力を低減するために部分的に遮断される。筋肉作用を薬理学的に調節することによる速度の変化及び力の変化は、瞬き又は強制的に眼を閉鎖する間に治療されている患者が気付くことはなく、この患者を見る外部観察者にも気付かれない。化合物は、筋肉又は神経筋接合部又は神経で局所的に作用することが好ましい。
【0083】
本発明による治療法は、眼内圧の変化を引き起こす眼に関する筋肉作用及び/又は筋肉張力の効果を低減することを目的とする。研究により、瞼が角膜に当たる速度が外圧効果を引き起こす主な因子の1つであることが示されている。本発明により治療効果がもたらされる新規な1つの方法は、「薬理学的スピードバンプ」を作り出すことによるものである。「薬理学的スピードバンプ」とは、眼瞼の速度に介入する筋肉を薬理学的に遮断し、それによって眼瞼が角膜に当たる速度を低減することにより眼瞼運動の速度を低減することを意味する。眼瞼の角膜への衝撃を低減することにより、圧力効果が低減する。従って、好ましい方法は、眼瞼の下降相運動の速度を変化させることによるものである。
【0084】
瞬きは、通常、約25〜50ミリ秒続く高速(2,000度/秒)の大きな下向きの瞼の運動と、その後のゆっくりした上昇相から成る。上側眼瞼の降下は、ほぼそれが視軸を交差する時に最大速度に達し、一般的に、17〜20センチメートル/秒の範囲である。時に、強制的な瞬きでは、速度は、40センチメートル/秒を超える速度に達することがある。この瞬き及び眼を閉じる間の下降相速度は、眼圧及びEPE増大の鍵となる要素の1つである。筋肉作用により眼に印加される圧力は、全眼球が後側に6mmまで移動する程度まで十分に大きいものである。患者が緑内障であれば、これは、眼内部の莫大な量の圧力に変換される。
【0085】
瞬きの下降相では、ピーク速度及びその持続時間は、本発明の治療法で調節することができる。瞬き及び眼を閉鎖する最初の下降相では、潜伏時間が増大し、ピーク速度が低減した。15度の瞬きの下降相は、本発明の原理による治療後では3倍遅かった。眼瞼の下降相速度は、提案する好ましい化合物及び投与量を用いれば、化合物の投与前の40センチメートル/秒に比較して約25センチメートル/秒まで低減した。
このように下降相速度が低減することには、患者も外部からも気付くことはないが、結果として起こる眼圧の低減により、圧力を増大させる物理的因子が調節される。リョラン筋肉に説明した用量で注射すると、瞬きの頻度を変化させずに瞬き下降相のピーク速度を低減するという、ここに示した異なる化合物に対する必要な治療効果が得られることが見出された。
【0086】
また、角膜に印加される瞼板の衝撃及び力でも眼圧が増大する可能性がある。リョラン筋を遮断することにより、瞼板の眼に対する作用も低減する。上側眼瞼の瞼板は、眼を覆う中間位置の平均直径が19.3±3.8mm、外転位置で30.1±6.3mmである眼瞼内部の結合性組織の大きな板である。瞼板及びリョラン筋肉の張力により、緑内障患者の基準線眼圧の上昇が引き起こされる。眼圧の上昇を防ぐ他の好ましい手段は、瞼板の作用を低減する段階、及びピーク速度及び瞼の角膜に対する衝撃を低減する段階の組合せにより作用する。提案する化合物及び用量で眼瞼筋肉を遮断すると、正常な瞼機能を保持しながら筋肉作用及び瞼板効果の両方に対する治療効果が最適になり、緑内障及び眼圧を低下させることにより恩典を受ける可能性があるあらゆる他の障害を有効かつ安全に治療することができるということが見出された。
【0087】
図4A及び4Bは、本明細書に記載の好ましい方法でリドカイン及びアルコールの組成物を注射した後の瞬きする間の眼圧の低減をmmHgで明らかにするグラフを示している。Xは時間(秒)に対応し、Yは眼圧(mmHg)に対応する。図4Aのグラフは、リドカイン及びアルコール組成物を投与する前(対照)の瞬きを示している。図4Bのグラフは、リドカイン及びアルコール組成物を投与した後の瞬きを示している。眼圧の各スパイクは、瞬きに対応するものである。図4Aのグラフに示す大きなスパイクは、瞬きによる高い眼圧に対応している。図4Aのグラフの圧力スパイク/瞬き(注射前)は、図4Bのグラフ(注射後)よりも大きい。眼圧は、5mmHg/スパイク/瞬き低減するが、これは好ましい効果と考えられる。また、図4Bも対照l(対照=ボツリヌス毒素の注射前)に比較してリドカイン注射後の眼圧/瞬き及びスパイクの傾きが低減することにより明らかになるように、眼瞼(瞬き)の筋肉収縮の力の低減及び下降相速度の速さの低減を明らかにしている。また、基準線眼圧の低減にも注目された。
【0088】
図5A及び5Bは、強制的な眼瞼圧迫の間に眼圧が大幅に増大して維持され、これがリドカイン組成物投与後に低減することを明らかにするグラフを示している。眼圧の増大は、瞼が開くまで維持された。Xは時間(秒)に対応し、Yは眼圧(mmHg)に対応する。図5Aのグラフは、リドカイン組成物投与前(対照)の眼瞼の圧迫を示している。図5Bのグラフは、リドカイン組成物投与後の眼瞼の圧迫を示している。注射前には大きく維持されたスパイクが観察されることが図5Aのグラフに示されているが、これは、強制的に眼を閉じることにより眼圧が高くなることに対応する。図5Bのグラフに示すように、眼を圧迫して眼圧を上昇させる機能は、化合物の注射後も保存されるが、強制的に閉鎖する間の圧力スパイクの大きさは、図5Aのグラフ(注射前)の圧力上昇の大きさに比較すると低減する。リドカイン組成物を受け取った後に強制的に眼瞼を圧迫すると、図5Aのグラフに示す対照に比較して最大眼圧レベルの増大が約30%小さくなることが注目された(図5Bのグラフ)。
【0089】
本発明の原理によれば、緑内障を治療するためのターゲットとして神経筋接合部のシナプス前膜を用いる例は以下のものを含む。65歳の緑内障患者を標準診察椅子に座らせて眼を閉じさせ、ボツリヌス毒素型Aを図1に示す部位(a)及び(b)に注射した。30ゲージのインシュリンシリンジを用いて、投与量1.25Uでリョラン及び輪筋に隣接する眼瞼縁に経皮注射が行われた。基準線眼圧が12週間平均16%低減したことに加え、強制的に眼を閉じた後の眼圧がほぼ35%低減した。実施したような薬理学的遮断では、瞼機能に明らかな乱れは見られず、患者からの自覚的不満もなかった。
【0090】
図6A及び図6Bは、本明細書に説明する好ましい方法でボツリヌス毒素を注射した後の瞬きする間の眼圧の低減(mmHg)を明らかにするグラフを示している。Xは時間(秒)に対応し、Yは眼圧(mmHg)に対応する。
図6Aのグラフは、ボツリヌス毒素を投与する前(対照)の瞬きを示している。図6Bのグラフは、ボツリヌス毒素を投与した後の瞬きを示している。眼圧の各スパイクは瞬きに対応する。図6Aのグラフに示されている注射前に見られる大きなスパイクは、瞬きによる高い眼圧に対応する。図6Aのグラフ(注射前)の圧力スパイクの大きさ/瞬きは、図6Bのグラフ(注射後)よりも大きい。5mmHg/スパイク/瞬きよりも大きく眼圧が低減し、これは、好ましい効果であると考えられた。また、図6Bは、対照(対照=ボツリヌス毒素の注射前)に比較してボツリヌス毒素の注射後に眼圧/瞬きが低減することにより明らかになるように、眼瞼の筋肉収縮(瞬き)の力の低減及び下降相速度の速さの低減も明らかにしている。また、基準線眼圧の低減にも注目された。
【0091】
図7A及び図7Bは、強制的に眼瞼を圧迫する間に眼圧が大きく上昇して維持され、これがボツリヌス毒素の投与後に低減することを明らかにするグラフを示している。眼圧の上昇は、瞼が開かれるまで維持された。Xは時間(秒)に対応し、Yは眼圧(mmHg)に対応する。図7Aのグラフは、ボツリヌス毒素投与前(対照)の眼瞼の圧迫を示している。図7Bのグラフは、ボツリヌス毒素投与後の眼瞼の圧迫を示している。注射前には大きく維持されたスパイクが観察されることが図7Aのグラフに示されているが、これは、強制的に眼を閉じることにより眼圧が高くなることに対応する。図7Bのグラフに示すように、眼を圧迫して眼圧を上昇させる機能は、化合物の注射後も保存されるが、強制的に閉鎖する間の圧力スパイクの大きさは、図7Aのグラフ(注射前)の圧力上昇の大きさに比較すると低減する。ボツリヌス毒素を受け取った後に強制的に眼瞼を圧迫すると、図5Aのグラフに示す対照に比較して最大眼圧レベルの増大が約50%小さくなることが注目された(図7Bのグラフ)。
【0092】
ボツリヌス毒素は、比較的高価である可能性があり、現行のバイアルは、毒素(100U/バイアル)という大容量で販売されているために、本発明の原理によれば、更に、毒素の投与量が眼瞼痙攣及び斜視に対して従来通り投与する場合よりも小さいことを考慮し、少量の毒素を含む新しいバイアルが生成された。それによってかなり高価な毒素を無駄にすることが避けられ、治療が手ごろな値段になって更に広く用いられるようになる。従って、新しいバイアルは、50U(単位)の乾燥ボツリヌス毒素型Aを含むように作成された。この場合、乾燥毒素を8.0mlの希釈剤(0.9%塩化ナトリウム)で再構成すると、0.625U毒素/0.1mlになる。高度緑内障では、4.0mlの希釈剤を加えて高濃度、すなわち、0.625U/0.05mlにすることができる。軽症緑内障で瞬きの間の圧力上昇が低度の場合には、0.3125U毒素に対応する用量0.025mを用いることができる。これらの新しい構成及びバイアルは、容量0.5mlの新しいシリンジに理想的に適合する。新しいシリンジを細分し、0.05ml増分で印をつける。投与量及びこの投与量を送達するための構成の変形は、本発明の範囲及び本明細書に開示した原理から逸脱することなく用いることができることが理解される。
【0093】
図8Aは、乾燥毒素12を含む1つのバイアルと、針14を備えるか又は備えない1つのシリンジと、希釈剤16を含む1つのバイアルとを含むキット10を示している。キットは、希釈剤を吸引するために、2つのシリンジを含むことができ、及び/又は他の針(大きなサイズ)を含むことができることが理解される。キットには、100U毒素を含む従来のバイアル又は50U毒素を含む新しいバイアルを含むあらゆる量の毒素を含むバイアルを用いることができることが理解される。キットに27〜30ゲージの針を用いて、皮膚を穿通することができる。これより単純なキットでは、新しく作成された0.5mlシリンジ及び50U乾燥毒素の1つのバイアルのみを含むことができる。
【0094】
図8Bは、総容量0.5ml/シリンジに対して0.05m増分で細分された新しい設計のシリンジ20を示している。シリンジ20は、中空の針22に連結され、これがターゲット組織を突き刺すことができる。シリンジは、流体(毒素)を押し込むためのピストン24を含み、それによって針22を通して直接ターゲット組織にこの毒素が送達される。代替的に、二重針システムを二重チャンバシリンジに連結したものを用いて、毒素を眼瞼縁部の2つのターゲット部位(図1の部位a及びb)に同時に送達することができる。皮膚を突き刺すための別の方法は、電流を印加する装置を用い、印加された電界の駆動力を用いて皮膚を通じた移送を促進することから成るイオン泳動を通じて毒素及び本明細書に開示される他の化合物を送達する方法である。装置は、毒素、好ましくは、すぐに用いることができるボツリヌス毒素血清型Bの溶液を保持するための保持手段と、電流を印加するための手段と、電流を活性化して薬物を放出させるようにする活性化手段とを含み、この保持手段が皮膚と接触する。代替的に、図8Aのキットは、本発明の原理によりリドカイン組成物を調製するために、シリンジ14、乾燥毒素バイアル12の代わりのアルコールバイアル、及び希釈剤バイアル16の代わりのリドカインバイアルを含むことができる。
【0095】
本発明によれば、医薬的に有効な量のボツリヌス毒素を単独で投与し、緑内障、眼の高血圧、及び他の眼の障害を治療することができる。代替的に、毒素化合物は、別の薬物、例えば、注射可能な麻酔剤、カルシウムチャンネルブロッカー、又は緑内障薬と共に順番に又はそれと同時に投与することができる。組み合わせた毒素化合物及び薬物の最も有効な方式の投与及び投与計画は、治療する疾病の種類、その疾病の重篤度及び経過、以前の治療、患者の健康状態、薬物作用に対する反応、及び治療する医師の判断によって決められることになる。
【0096】
本発明は、化合物を患者に単に投与することにより、何ら装置を用いることなく実行することができるが、治療の結果を最適にするために装置、方法、及びシステムが開発された。本方法はまた、LMD、例えば、Abreuにより説明された装置又は他の手段、及びこの外圧効果又は筋肉の力又は眼瞼の力を測定することができるあらゆる装置を含む装置を用いて、瞼の力又は瞬き(無意識的又は強制的)又は眼の圧迫の間に眼瞼により眼に印加される圧力を測定する段階を含む。より詳細には、本方法は、外部因子により引き起こされる圧力及び/又は力を測定する段階、及び第1の段階で識別されたレベルに基づいて投与する薬物の量及び/又は種類を定量する段階を含む。第1の段階はまた、筋肉の弾性及び/又は眼瞼の散漫性及び/又は眼瞼弛緩を測定する段階を含むことができる。第1の段階には、上側眼瞼睫毛に配置されて力変換器に取り付けられたクランプも用いることができる。
【0097】
より詳細には、好ましい方法は以下を含む:
1)コンタクトレンズ状の圧力測定装置を眼に付加する段階と、上側眼瞼が下に移動してこの圧力測定装置を覆うことによるこの圧力測定装置の変化を誘発する段階と、眼瞼がこの圧力測定装置と相互作用する正確な時間に眼圧を検出する段階と、この圧力測定装置から信号を受け取って、瞬き活動により引き起こされる眼圧の変化を判断する段階とを含む、眼瞼筋肉作用(瞬き)により引き起こされる非侵襲的に眼圧の上昇を測定する方法。これらの段階により、瞬きの間の瞼の圧力効果の基準線を得ることができる。それによって瞬きの間の筋肉作用によりどれだけの眼圧上昇又は眼圧スパイクが起こるかの情報が得られる。これらの段階に引き続き、その次の段階には、前の段階で得られた圧力スパイクのレベルに基づいて瞬きの間のスパイクを低減するのに必要な化合物の量を数量化する段階が含まれる。本方法により、患者の個人的な必要性及びこの患者を治療している医師が判断するターゲット圧力により選択された化合物を正確に数量化することができる。
【0098】
2)コンタクトレンズ状の圧力測定装置を眼に付加する段階と、上側眼瞼が強制的に下に移動してこの圧力測定装置を覆うことによるこの圧力測定装置の変化を誘発する段階と、眼瞼を圧迫する段階と、この圧力測定装置で眼圧を検出する段階と、この圧力測定装置から信号を受け取って、圧迫活動により引き起こされる眼圧の変化を判断する段階とを含む、眼瞼筋肉作用(眼の圧迫)により引き起こされる眼圧上昇を非侵襲的に測定する方法。これらの段階により、眼を圧迫する間の瞼の圧力効果の基準線を得ることができる。それによって眼を圧迫する間の筋肉作用によりどれだけの眼圧上昇又は眼圧スパイクが起こるかの情報が得られる。これらの段階に引き続き、その次の段階には、前の段階で得られた圧力スパイクのレベルに基づいて眼を圧迫する間のスパイクを低減するのに必要な化合物の量を数量化する段階が含まれる。本方法により、患者の個人的な必要性及びこの患者を治療している医師が判断するターゲット圧力により選択された化合物を正確に数量化することができる。
【0099】
3)コンタクトレンズ状の圧力測定装置を眼に付加する段階と、上側眼瞼が強制的に下に移動してこの圧力測定装置を覆うことによるこの圧力測定装置の変化を誘発する段階と、眼瞼を圧迫する段階と、この圧力測定装置で眼圧を検出する段階と、この圧力測定装置から信号を受け取って、圧迫活動により引き起こされる眼圧の変化を判断する段階と、前の段階で識別された眼圧のレベルに基づき化学組成物を付加する段階と、コンタクトレンズ状の圧力測定装置を眼に再び付加する段階と、上側眼瞼が強制的に下に移動してこの圧力測定装置を覆うことによるこの圧力測定装置の変化を誘発する段階と、眼瞼を圧迫する段階と、この圧力測定装置で眼圧を検出する段階と、この圧力測定装置から信号を受け取って、圧迫活動により引き起こされる眼圧の変化を判断し、望ましい治療効果が達成されたか否かを判断する段階とを含む、筋肉作用を調節することにより眼圧を低下させる治療効果を評価する方法。
【0100】
要約すれば、本方法には、2つの基本的な段階及び任意的に第3の段階が含まれる。第1の段階は、瞼及び顔面筋肉作用の圧力効果の基準線を判断する段階である。それによって筋肉作用及び筋肉張力によりどれだけの眼圧上昇又は眼圧スパイクが起こるかの情報が得られる。第1の段階に引き続き、第2の段階には、薬物を用いて、例えば、リドカイン組成物又はボツリヌス毒素を眼及び/又は顔面筋肉に注射することにより、第1の段階で識別された筋肉作用を調節、鈍化、又は変化させる段階が含まれる。治療後、第3の任意的な段階には、LMDを用いて注射の作用を測定する段階が含まれるか、又は作用を注射後3〜5日に測定し、必要な治療効果及び眼圧の低下が達成されたことを確認する段階が含まれる。それによって、患者の必要に応じて正確に個別治療を行うことができる。
【0101】
好ましくは、最適用量よりも少ない可能性がある(0.5U)を投与して治療効果及び副作用プロフィールを特定する。LMDにより治療効果が達成されたことが示されれば、治療は終了する。LMDにより更に圧力を低下することが必要であると判断されれば、それからもう一度用量を投与する。正確な量の毒素を送達して、眼圧をターゲット圧力未満に疾病の進行の段階に応じて維持することができる。この基準線及び用量反応が達成された後に、治療は、適切な治療効果が達成されると共に眼圧レベルがターゲット圧力に関して許容可能になることがもたらされる前に特定されたものと同様の量の薬物を注射する1つの単純な段階において行うことができる。
【0102】
本発明は、標準眼圧計で眼圧を測定し、障害の各種類に対して化合物の一般的な投与量を用いることなどによりLMDを用いることを必要とせずに実施することができるが、このLMDは、実際のEPEの数値を提供することができるものである。従って、図9A及び図9Bに示すように、EPEを測定するために例示的なLMD30が用意される。図9Aは、コンタクトレンズに基づくLMD30を示す概略平面図である。LMDシステム30には、角膜と接触させて配置するための接触装置32と、流体36を含む中心空洞34とが含まれる。中心空洞34は、接触装置32内に配置され、コンタクトレンズを作るためのシリコンゴムのような可撓性があって伸展可能な材料で作られた壁44を含む。眼を閉じると流体36を含む空洞34が変形し、この空洞34の下側部分が角膜に対して内向きに突出し、眼内圧と物理的平衡にあるこの空洞34内部の圧力を上昇させる。空洞34は、EPEによるIOPレベルに対応する信号を生じるように構成された無線周波数(RF)圧力センサマイクロチップ50を含む。マイクロチップ50は、圧力を測定し、眼瞼1により引き起こされる眼圧の上昇に対応する信号を発生し、この信号を遠隔受信ユニットに伝達する処理機能及び伝達機能を含む。マイクロチップセンサ50は超薄型とすることができ、圧力センサ、サポート回路、RF電源、及び通信部分は、全てマイクロチップダイ上に置かれ、回路を大量に極めて廉価に構築することができる。
【0103】
図9Bは、圧力センサ52を接触装置54から離して配置した別の実施形態を示している。図9Bは、角膜3上に横たわる接触装置54の概略前面図であり、導管56が眼の側方内側角58で眼60から出て検出ユニット62と接続しており、このユニット62は、圧力センサ52と、測定したIOP値を処理して表示するのに必要な処理及び表示手段64とを含む。導管56は、接触装置54から検出ユニット62までの流体のための導管として働くことができ、これらが物理的に平衡であるために、接触装置54により角膜3上で測定した圧力は、検出ユニット62で再現される。代替的に、導管56は、接触装置54内に配置された圧力センサを外部読取装置に接続するマイクロワイヤとして働くことができる。
図9Aに示す好ましい実施形態により、医師は、全く目立たず使い捨てで低価格の装置を用いてEPE及び治療効果を容易に測定することができる。しかし、図9Bの別の実施形態により、広く入手可能で低価格の個別の構成要素を用いてEPE測定ユニットを一般的かつ容易に構築することもできる。
【0104】
以下の例は、基準線IOPがターゲット圧力より低い患者でも、EPEによりIOPレベルがターゲット圧力よりも上昇するために失明の危険があることを示している。例えば、緑内障患者のターゲット圧力は、視神経及び視野の健康状態に基づき21mmHgよりも高くないことが必要である。これは、特定の患者では、眼圧が21mmHgよりも高ければ、視力喪失及び失明に至る可能性があることを意味する。この患者は、点眼液で完全に薬物治療され、従来の手段で測定した基準線眼圧は18mmHgであり、これは、最初はターゲット圧力21mmHgよりも小さいために許容可能であるように見える。
【0105】
しかし、実際には、この患者の眼圧は、筋肉作用の間にLMDで測定するとターゲット圧力よりも遥かに高い。従って、この患者は、点眼液で完全に薬物治療されて基準線圧力がターゲット眼圧より低くても失明する危険がある。理由は、瞬きの間にLMDで測定すると眼圧が28〜30mmHgのレベルに達し、眼を圧迫するか又は眼を細めて見る間に90mmHgを超えるレベルに達するからである。通常、毎日平均16,000回瞬きするために、これは、この患者が、視力を保つのに必要な安全レベルである21mmHgを遥かに超える圧力28〜30mmHgで一日に数千回ハンマーで打つことを意味する。説明した方法を用いることにより、医師は、瞬きの間のスパイクの圧力を30mmHgであると評価し、この情報に基づいて、医師は、1.5Uのボツリヌス毒素を投与した。医師は、3日後に圧力に関する筋肉作用を試験し、スパイクの圧力が25mmHgであることに気付いた。そこで、更に1Uのボツリヌス毒素を注射し、これを後でLMDで評価すると20mmHgであることが示されたが、これは、ターゲット眼圧の21mmHg未満の許容可能なレベルであった。
【0106】
角膜曲率は、眼瞼の位置又は張力により修正される。瞼の弾性係数は、瞼張力の量に関連する。正常な眼瞼では、瞼の弾性係数は約3.22g/mmである。各患者に対して個別に筋肉張力の効果を調節するのに必要な量の薬物を送達するために、眼圧をLMDで測定し、瞼の物理的特性を評価することが重要である。瞼が緑内障の眼に与える張力により眼圧が上昇するが、これは、本発明の治療方式で制御することができる。瞼の弾性及び/又は瞼により引き起こされる圧力を測定し、治療した後に眼に達成された眼圧の低下を正確に数量化することができる。治療を行って、IOPの上昇を引き起こす眼瞼の筋肉張力効果を低減する。
上述の方法を用いて、眼の手術の結果を向上させることができ、眼瞼筋肉機能を測定する段階と、次に手術後の圧力スパイクを低減するために薬物治療を行ってこの眼瞼筋肉機能を制御する段階とが含まれる。
【0107】
筋肉活動及び眼瞼圧力の遮断の程度は、投与量の変動、注射部位の変動、及び注射頻度により調節することができる。非毒性であると共に正常な眼瞼機能を保存しながら筋肉作用及び眼圧スパイクを低減するのに用量が有効であれば、投与量を多くすることも少なくすることもできる。毒素に耐性がある可能性があるか又は抗体が生じた患者では、10U/部位よりも多く注射することが必要である可能性がある。注射は、0.5と15Uの間のボツリヌス毒素A/部位を用いて眼瞼の瞼板前部区域に行うことが好ましく、最も好ましくは、リョラン筋肉に隣接する2つの部位を用いる。本方法はまた、抗体が形成された場合に別の血清型の毒素に変える段階を含む。
【0108】
神経遮断剤(例えば、トリフルオペラジン、フェノチアジン)及び抗ヒスタミン剤のような瞬き及び眼瞼痙攣を増加させる薬物を用いている緑内障患者は、本明細書に開示するように筋肉作用を調節する薬物を予防的に用いることから恩典を受けることができる。この治療から特に恩典を受けることになる他の緑内障患者には、中程度から顕著までの皮膚弛緩症の患者、瞼に大きな病変がある患者、及び眼瞼が重いことを自覚する患者、並びに上側眼瞼の眼瞼形成術を受けた患者が含まれる。本明細書に開示した治療から特に恩典を受けることができる別の群の患者は、色素性緑内障及び色素拡散症候群の患者である。緑内障ではないが緑内障による失明の家族歴がある個人は、緑内障と診断される前であっても、本発明の化合物を予防的に用いることから恩典を受けることができる。
【0109】
ボツリヌス毒素での治療を案内するために及び注射する筋肉をモニタするために、ポリミオグラフィー及びエレクトロミオグラムは、必ずしも用いる必要はないが用いることもできる。
更に別の利点は、治療は医師に基づくものであり、かつ好ましい実施形態は点眼液を必要としないために、患者が、毎日及び更には日に数回行うことが必要な時間の掛かる作業である眼に点眼液を施すことも必要なく生活を楽しむことができることである。
【0110】
筋肉活動の調節及び神経保護
本発明で有用な他の化合物には、カルシウム拮抗剤、ガバペンチン、又は筋肉活動を低減して筋肉弛緩剤として作用する他の薬剤が含まれる。カルシウム拮抗剤は、主に非骨格筋に作用するが、ボツリヌス毒素及びガバペンチンのような神経保護効果も有するので有利である。これらのカルシウム拮抗剤は、本発明の原理により、筋肉作用を調節して神経を保護するために同様の方法で眼筋肉に注射される。
【0111】
化合物は、グルタミン酸塩又はNMDAの拮抗剤として好ましく作用することにより神経を保護する神経保護剤として働くことができる。インビトロの研究では、ボツリヌス毒素が主に脊髄ニューロンの培養液中のグルタミン酸塩の誘発放出を阻害すること、及び、脳シナプトソームプレパラートで、ボツリヌス毒素が神経伝達物質、アセチルコリン、及びグルタミン酸塩の両方の放出を阻害することが示された。
【0112】
すなわち、本発明の方法は、緑内障、視神経炎、視神経症、又はグルタミン酸塩に媒介される神経傷害に至る何らかの他の疾病に伴う網膜神経節細胞の損傷の治療に用いることができる。毒素での治療は、他の治療方式、例えば、眼内圧を低減しようとするものとの組合せで行うことができる。本発明の方法では、毒素は、神経保護剤として作用することができ、神経傷害の危険があるあらゆる患者に対して、緑内障に対して説明したのと同様な方法であるが低用量、好ましくは半分の用量で頻度を多くして投与することができる。毒素は、アマンタジンのような他の神経保護剤と協働して細胞死を防ぐように働き、他の神経保護剤と組み合わせて用いることができる。N−メチル−D−アスパルテート(NMDA)受容器又はグルタミン酸塩に作用するあらゆる神経保護剤、並びに興奮性のアミノ酸受容器(NMDA及び非NMDAサブタイプの両方)のあらゆる拮抗剤を毒素と併せて用いることができる。また、本発明の新しい治療により興奮毒性が低減することを用いて、グルタミン酸塩が媒介する細胞損傷を阻害することにより、視神経炎を治療することもできる。例えば、ケタミンは、N−メチル−D−アスパルテート拮抗剤であり、ガバペンチンは、NMDA受容器での親和性及び活性を有するものである。
【0113】
好ましい化合物は、ボツリヌス毒素、ガバペンチン、ケタミン、セレギリン、及びカルシウム拮抗剤である。これらの化合物は、眼の外部に、経口的に、局所的に、又は注射により投与することができる。化合物はまた、眼内部に、好ましくは硝子体内に、注射又は硝子体腔内部に埋め込むことにより投与することができる。
ガバペンチンは、ガバペンチンがニューロン膜を安定化し、眼瞼筋肉作用を調節し、また、グルタミン酸塩拮抗剤としても作用するために、緑内障治療のための好ましい化合物の1つである。ガバペンチン(米国ニューヨーク所在の「Pfizer」から商品名「NEURONTIN」で入手可能)は、構造的に阻害性CNS神経伝達物質ガンマアミノ酪酸(GABA)に関連する抗痙攣剤である。ガバペンチンは、毎日投与量800mg〜1200mgで錠剤として経口で摂取すると治療効果を達成したが、臨床的特徴によっては、これよりも低用量又は高用量が必要な場合もある。眼の表面上に局所的に投与されるか又は代替的に注射又は埋め込みとして眼の内部に単独又は組合せで送達される点眼液の形態のガバペンチン、セレギリン、ケタミン、又はボツリヌス毒素も用いることができる。投与の様式及び薬剤の種類は、必要な投与量、治療する状態、及び血液−脳関門及び血液−網膜関門を横切ることのような他の因子に依存することになる。
【0114】
筋肉活動の調節及び血流の強化
本発明の別の態様は、網膜及び視神経までの血流を強化することを特徴とする。網膜及び視神経の血流を増大することにより眼の疾患における視神経及び網膜の健康状態を最良にする方法は、低減を達成するのに有効な量で眼の外圧効果を低減する化合物の有効な量を眼に投与する段階と、それによって眼内部の圧力を軽減する段階と、眼内部の圧力を軽減することにより、より大量の血液容量を眼に到達させる段階とを含む。潅流圧力は、網膜及び視神経に適切に血液を送達し続けるための鍵となるものである。
【0115】
IOPが高くなれば、潅流圧力は小さくなり、それによって眼への血流が少なくなることになる。いかなる組織への血流も潅流圧力の成果であり、これは、基本的には、動脈圧から静脈圧及び動脈と静脈の間の流れの抵抗を差し引いたものである。眼では、第3の成分IOPが鍵となる役割を果たしている。IOPは、流出点で静脈圧を上げ、これが次に潅流圧力を下げることにより眼に血流を流そうとすることになる。静脈を伸展させたままとするために、静脈管腔内の圧力は、周囲組織の圧力よりも大きい必要があり、従って、眼内では、流れが流出するためには、静脈圧はIOPよりも高い必要がある。動静脈の圧力差は、眼内圧が上昇したために静脈圧が上昇すると低減する。従って、IOPが14mmHgの代わりに20mmHgであれば、静脈圧は上昇して20mmHgよりも高くなり、これは、静脈の収縮により達成される。静脈圧がIOPを超えるまで上昇することができなければ、虚血(酸素欠乏)が起こり、それによって眼に損傷が生じる可能性がある。IOPは、正常な眼でも眼窩の静脈圧よりも高く、IOPが正常な眼の潅流圧は、既に他の組織よりも小さく、IOPが更に上昇すれば、更に低減する。EPEは、IOPの上昇を引き起こし、それによって虚血になり、ある一定の条件では、視力喪失が早まる可能性もある。IOPによる血流への影響は、IOPが平均動脈圧に等しくなって血流が中断される点まで、IOPの上昇に比例して上昇する。EPEは、このような大きな大きさのIOP増大を引き起こし、これが眼への血流をかなり低減し、一時的に眼への血流を停止させることもある。正常な若年者は、抵抗を低減することにより流れを増大させる自己調節機構を有する。しかし、ある一定の全身性疾患、眼の疾患、及び年齢が増大すると、血流が低減することにより虚血及び眼への損傷が起こる可能性がある。
【0116】
このように酸素が欠如する可能性は、2つの状況で特に顕著である。
1.例えば、EPE等によりIOPが極めて高い場合のように、調節機構の機能が限度を超えた場合。これは、高コレステロール及び高血圧の患者では臨床的な意義がある。このような場合には、アテローム性動脈硬化症が存在するために、自己調節機能は既に用いられており、従って、EPEによるIOPの増大により引き起こされる付加的な課題に応答する機能がほとんど残っていない。
2.眼の疾患、全身性疾患、及び加齢した場合に起こるように、調節機構に問題が生じるか又は応答性が悪くなった場合。例えば、糖尿病では、自己調節機構の応答性が悪く、血管系疾患又はアテローム性動脈硬化症の患者では、アテローム(脂肪堆積)により血管壁が硬くなるために、この機構に問題が生じる。緑内障のようなここで示した眼の疾患の何れかを罹っており、高コレステロール、高血圧、糖尿病、又は心疾患にも罹患している患者は、EPEにより更に眼に損傷を受けやすい可能性があり、従って、EPEは、不必要な損傷及び視力喪失を避けるためにできるだけ早く治療すべきである。
【0117】
糖尿病性網膜症、血管閉塞、視神経症、黄斑性疾病、及び他の条件では、網膜の酸化が低減し、血液潅流が低減するために、眼圧が少しでも上昇すると、潅流圧力が低減し、この網膜への血流が低減することになる可能性がある。眼圧が上昇すると、血液が網膜に到達することが妨害されて遅延する。頻繁(16,000回/日)及び外圧効果により引き起こされる相当な眼圧上昇(眼圧の上昇が20mmHgであり、眼の圧迫瞼の間では100mmHgを超えるまでになる)により、糖尿病性網膜症、中心網膜静脈閉塞、中心網膜動脈閉塞、虚血性視神経障害、網膜炎、黄斑性浮腫、及び黄斑性変性に見られるような異常な毛細血管床及び脈管構造に相当な血流低減が引き起こされる可能性がある。また、緑内障でも視神経への血流の低減があり、この視神経へ流れる残りの血流は、外圧効果により引き起こされる眼圧の上昇により更に低減する可能性がある。
【0118】
外圧因子により引き起こされる眼圧を下げることにより、網膜及び視神経への血流及び潅流圧力が増大する。すなわち、本発明を用いて網膜及び視神経への血流を増大させることができ、網膜酸化の良化又は網膜及び/又は視神経への血流の良化から恩典を受けることができるあらゆる状態を治療することができる。例示的な状態には、糖尿病性網膜症、網膜静脈閉塞、網膜動脈閉塞、前側虚血性視神経障害、高血圧性網膜症、鎌形赤血球網膜症、黄斑性浮腫、及び老化関連黄斑性変性が含まれる。
【0119】
筋肉活動の調節及び筋肉容積及び筋肉収縮の低減
本発明の原理により、ミオトキシン(例えば、ドキソルビシン)のような他の薬剤を用いることができることが理解される。本発明の原理によれば、ドキソルビシンなどのようなミオトキシン(筋肉に有毒な作用を有する薬物)を用いて、ボツリヌス毒素と同様な方法で眼瞼及び顔面筋肉に注射することができる。ドキソルビシンは、化学的筋切除を促進し、0.5mg〜1mgの遊離ドキソルビシンを注射すると、筋肉容積及び筋肉収縮の両方を低減して調節するのに有効であることが証明されている。
【0120】
容積を低減することは、甲状腺性眼の疾患及びグレーブ病で起こるように筋肉の容積が増大した患者には特に有用である。本発明のこの実施形態では、外眼筋を含む眼筋肉に薬物を直接注射して筋肉の大きさを低減するための新規な治療を開示する。
筋肉収縮を低減することもまた、ミオトキシンで達成することができ、この実施形態では、薬物は、緑内障、及び眼圧の低減、筋肉容積の低減、及び眼への血流の増大の少なくとも1つから恩典を受けることができる他の眼の疾患を治療するために眼瞼に投与されることが好ましい。
【0121】
例示的なプロトコルには、「Doxil」(米国カリフォルニア州メンローパーク所在の「Sequus Phrmaceuticals」製)の用量0.1mgを容量1ml生理食塩水に入れて眼瞼領域に、好ましくは、リョラン筋肉及び/又は瞼板前部輪筋に隣接して注射することが含まれる。予備治療には、「Doxil」をこの眼瞼に投与する30分前に、1:200,000エピネフリン及びヒアルロニダーゼ(150単位、「Wydase」、米国ペンシルベニア州フィラデルフィア所在の「Wyeth Laboratories」製)を含む0.75%ブピバカイン(「Sensorcaine」、米国マサチューセッツ州ウエストボロ所在の「Astra Pharmaceuticals」製)の混合物1mlを注射することが含まれる。患者の臨床的必要性に応じて、0.5〜3.0mgの範囲の遊離ドキソルビシンの用量/治療眼瞼を用いることができることが理解される。好ましい用量である0.5mg塩酸ドキソルビシン(「Adriamycin」、米国ニュージャージー州ピーコック所在の「Pharmacia Corporation」から入手可能)を1ml滅菌等張生理食塩水に入れた溶液を眼瞼筋肉に注射しても同様の効果を得ることができる。本発明人の研究により、ドキソルビシンを遊離体の溶液中又はリポゾーム−封入形態の何れかで直接局所的に注射することで眼筋肉に関する治療効果を調節することができ、眼筋肉の強度を低減することができ、緑内障及び眼圧が下がることから恩典を受ける他の眼の疾患の治療にこれを用いることができることが示された。
【0122】
前部疾患や白内障手術での使用及び手術結果の改善のための筋肉活動の調節
本発明はまた、角膜障害を治療するため又は角膜上皮を保存するための方法も提供する。角膜上皮は、外部因子により角膜に印加される力により変位する可能性がある。この力の作用を鈍化することにより、例えば上皮欠損又は角膜傷害がある場合に上皮は保存される。前眼表面疾患の多くは、瞼の活動により、及び瞼により印加される圧力で前側表面が破損することにより悪化する。あらゆる前側表面疾患は、本発明により、前側表面を保存しながら瞼の作用を低減して治療することができる。治療により恩典を受けることができる例示的な前側疾患には、角膜変性、角膜ジストロフィー、角膜潰瘍、眼疱疹、角膜浮腫、水疱性角膜症、結膜炎、強膜炎等が含まれる。
【0123】
瞼筋肉力を調節することが特に有用な1つの特定の場合は、屈折矯正手術である。屈折矯正手術での問題の1つは、処置の間に患者が眼を圧迫することである。本明細書に開示した組成物を用いることにより、この眼瞼力が調節されて処置の間に眼が圧迫されないようになっている。また、処置後、上皮治癒及びフラップ治癒は、視力保存には決定的である。眼瞼の力を調節することにより、フラップがずれる可能性が低減し、並びに角膜上皮又は手術中に生じたフラップの治癒過程に関する影響が遥かに小さくなる。
【0124】
本発明はまた、屈折前及びその間に角膜トポグラフィーの測定値に適合させる方法を提供する。眼瞼は、正視状態では角膜表面に接触し、瞼が角膜の形状を歪ませる。眼瞼は、眼の正常なトポグラフィー表面に影響を及ぼす可能性がある。しかし、屈折矯正手術は、反射鏡を所定位置において行うために、瞼は角膜に接触しない。反射鏡は、瞼が角膜に接触することを有効に防ぐものである。術前試験(例えば、トポグラフィー)は、眼瞼を角膜表面に接触させて行うが、手術は、瞼の力を除去する反射鏡を所定位置において行われる。
【0125】
従って、瞼の作用が存在することにより角膜の形状が変化するならば、瞼の力を除去することで手術中に角膜が別の形状を取るようになっている。手術前試験の角膜表面を手術中の角膜表面と等しくするために、手術前の測定中に瞼作用を除去すべきである。本明細書に開示した化合物を投与することにより、瞼効果が除去される。次に、手術中に用いられることになる角膜と同じ形状を手術前にトポグラフィーを用いて測定することができる。レーザにより、トポグラフィーに基づいてその切除を計算することができる。手術の前及びその間のトポグラフィーが等しくされるために最も正確に切除することができる。
【0126】
本方法は、屈折矯正手術で波面技術を用いる場合の鍵となるものである。瞼により印加される力及び眼圧が既知であり、本明細書に開示した化学組成物を投与することにより角膜表面が手術前及びその間で等しくされるために、本発明の原理によって筋肉効果を調節することにより、手術後の切除の結果が予測可能となる。
方法はまた、手術中の眼瞼の運動が調節されているために反射鏡を用いることが必ずしも必要でない方法で、角膜の形状を処置の前とその間で一致させるために筋肉張力を保存しながら瞼の運動が低減するように、手術前にボツリヌス毒素又はリドカイン組成物のような筋肉弛緩剤を用いる段階を含む。
【0127】
緑内障手術、白内障手術、網膜手術、角膜手術、形成手術、又はあらゆる他の眼手術を受けた緑内障の患者は、本発明によりEPEを低減して化合物で術前治療することにより恩典を受けることができる。緑内障患者は、術後期間に眼圧が上昇するために眼手術後に視力を喪失することもあり、失明することもある。外圧効果は、失明を早めるためのトリガとして働く可能性があるであろう。これらの外圧効果を治療して低減することにより、術後に視力喪失する可能性が遥かに小さくなる。
【0128】
筋肉活動の調節及び顔面の皺の治療
筋肉弛緩の達成に成功したことを考慮し、顔面の皺を低減するための治療が患者に行われた。56歳の患者には、2mlのリドカイン0.5%を99.5%エタノールにリドカイン容量の1/10で加えたものを含む0.3mlのリドカイン組成物を投与した。この原理によるリドカイン組成物を用いる治療及び本発明に開示した投与量により、眉間皺線に沿って注射した後に、この患者の皺が低減する。従って、リドカイン組成物は、皺を生じる筋肉の過剰収縮を治療することができる。もたらされる治療により、リドカイン組成物が低価格で安全であり、治療の組成物に麻酔剤を用いることにより注射が無痛であるために、現在用いられているボツリヌス毒素よりも優れた利点を提供する可能性がある。これとは対照的に、ボツリヌス毒素の注射は、疼痛を伴う可能性があり、高価な化合物を用いるものである。
【0129】
リドカイン組成物は、筋肉を弛緩させ、皺をなくすことにより作用する。本発明はまた、本発明に開示した化合物を用い、最も好ましくはリドカインのようなアミド型麻酔剤をアルコールと組み合わせて単独で又は他の化合物と併用して用い、皺及び他の筋肉障害を治療するための安全で有効で無痛の遥かに低価格の治療を提供する。本明細書に開示した化合物はまた、現在及び将来的なボツリヌス毒素の用法を含むボツリヌス毒素が用いられる障害を治療するための代替物として用いることができる。ボツリヌス毒素の投与量はまた、このボツリヌス毒素をアミド型麻酔剤と組み合わせることにより低減することができる。例示的なアミド型麻酔剤には、リドカイン、ブピバカイン、メピバカイン、及びロピバカインが含まれる。
【0130】
筋肉活動を調節するための他の化合物
眼筋肉活動を低減するか又は調節する本発明に有用な他の化合物には、メキシレチン、トリヘキシフェニジル、バクロフェン、クロナゼパム、テトラベナジン、カンナビノイド(テトラヒドロカンナビオール、カンナビジオール、及びカンナビゲロール)、ベンゾジアゼピン、チアプリド、メシル酸ベンズトロピン、クロザピン、キニーネ、抗ドーパミン作動薬、イミプラミン、及び他の抗うつ剤等が含まれる。バクロフェンは、GABAの安定な類似物であり、主に阻害性GABA−B受容器と相互作用する。メキシレチンは、用量50mg〜100mg、1〜3回/日、一日最大量600mg、服用期間1ヶ月で用いることができる。
【0131】
ボツリヌス毒素及び麻酔剤(例えば、リドカイン、ブピビカイン、及びケタミン)と同じように注射することができる他の化合物には、アマンタジン誘導体、ニトログリセリン誘導体、及びフェノール等が含まれる。また、ベラパミル(0.1〜1.8mg)を説明したように局所注射すると、望ましい治療効果も引き起こされる。投与するボツリヌス毒素又はドキソルビシンの量を低減するために、ベラパミルもまた、ボツリヌス毒素又はドキソルビシンを注射する前に注射することができる。ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、クラーレ剤の少なくとも1つとブピバカインとの組合せは、単独又はボツリヌス毒素と組み合わせて用いることができる。また、上位交感神経節を局所麻酔剤で遮断しても、眼瞼筋肉力を調節することができる。局所硝酸塩を単独で用いて内圧及び外圧効果の両方に作用させることにより、眼圧を下げることができる。
【0132】
ボツリヌス毒素作用は、硝酸塩又はアミノグリコシド抗生物質を併用することにより強化することができ、後者には、シナプス前レベルでの神経伝達の付加的な変更を含むことができる。また、100mgのリドカインを5分間かけて静脈内に注射しても望ましい効果が促進されるが、この効果は長続きせず、心臓に副作用が起こる可能性があるために危険性が大きすぎる。本明細書に説明した注射又は経口摂取される薬物の様々な組合せを本発明の原理により用いて筋肉作用を調節し、EPEを低減することができることが理解される。
【0133】
また、本明細書に開示した外圧効果を調節する化学組成物の何れも筋肉に隣接して筋肉又は神経内に直接注射することができ、リポゾーム−封入形態を通じて送達されることも埋め込まれたりすることもできることが理解される。また、筋肉弛緩剤を錠剤として経口投与することは、単独で行うことができ、又はリドカイン組成物、ボツリヌス毒素、及び緑内障を治療するための従来の点眼液などのような眼球及び眼周囲の筋肉に直接投与される他の薬剤と共に順番に行うことができることも理解される。
【0134】
上述のように、好ましい化合物は、経皮注射により投与されることが好ましく、他の満足できる手段は、例えば、点眼液として局所的に、錠剤として経口的に、並びに液体賦形剤、懸濁液、及び時間をかけて薬物を送達するために眼瞼の皮膚に貼るパッチを含む。パッチは、薬物の透過を増大させる化学的強化手段を有することができ、薬物を送達するが患者には感じられない極微針を有することができる。更に、血清型Bで提供されるすぐに用いることができる溶液のような点眼液の形態のボツリヌス毒素を用いて眼の内部に作用させることにより眼圧を下げ、排出システムを通る濾過率を増大させて生成を低減することができる。ボツリヌス毒素は、眼科的に許容可能な担体に溶かした0.01〜5%溶液として投与するか、又は好ましくは眼科的に許容可能な担体に溶かした0.5〜2%溶液として投与すると、有効に内圧効果を低減することができる。更に、結膜法を通じて瞼板の上縁部の結膜下空間及び硝子体内にボツリヌス毒素を注射することを用いて眼圧を下げ、血流を増大させることができる。本明細書に記載の薬物は、当業技術で公知の医薬品化合物を用い、化合して医薬品製剤にすることができる。当業者は、満足できる薬物送達手段、調製法、及び治療法を考案する方法を認めるであろう。
【0135】
本明細書に一部の好ましい用量を開示したが、用量は、患者の臨床的状態及び用いるボツリヌス毒素の種類により大幅に変えることができることが理解される。例えば、上述の2つの市販のボツリヌス毒素型Aは、その用量及び組成が大幅に異なっている。「Botox」(米国カリフォルニア州アーバイン所在の「Allergan」製)及び「Dysport」(英国所在の「Ipsen and orton」製)は、それぞれ100及び500単位の毒素を含むバイアルで送達され、「Botox」1単位は、「Dyspor」のほぼ3〜5単位に相当する同値関係がある。
これらの療法に用いる組成物もまた様々な形態とすることができる。これらには、例えば、固体、半固体、粉末、及び、液体投薬形態又は懸濁液、リポソーム、注射液、及び外科的に埋め込み可能な手段が含まれる。好ましい形態は、投与及び治療用途に意図された様式によって判断される。組成物はまた、従来の医薬品的に許容可能な担体を含むことも好ましい。
【0136】
あらゆる投薬経路によるあらゆる化合物は、それらが筋肉活動、瞬き、又は眼瞼の圧迫を低減又は調節することができるか、又は、睡眠用の特製ゴーグルの着用のような物理的障壁で防止又は処理することができる眼内圧を上昇させる可能性がある手技及び筋肉作用の全てを含む眼瞼が眼球に対して押し付けられる可能性を低減することができる限り使用することができることが理解される。化学的除神経及び/又は化学的筋切除治療のあらゆる形態を用いることができることが理解される。
【0137】
毒素剤及び他の薬物は、同時に投与することができ、又は他の薬物を毒素での治療の前、後、又は前後の両方に投与するように順番に投与することもできる。本明細書に説明されたボツリヌス毒素剤の投与の従来の様式及び標準投与量の投与計画を用いることもできるが、他の薬物で疾病が良好に制御されるならば、これよりも少ない用量を用いることができる。薬物を毒素剤と同時投与するのに最適な投与量は、当業技術で公知の方法を用いて判断することができる。毒素剤の投与量は、毒素剤と同時投与される薬物の投与量に基づき、患者の治療の投与計画に対する反応によって個々の患者に対して調整することができる。
【0138】
上述のように、好ましい実施形態では、ボツリヌス毒素、ガバペンチン、セレギリン、及びケタミンを用いて、網膜神経節細胞及び視神経を含むその軸索に対する緑内障関連傷害を低減又は防止することができる。毒素剤、リドカイン組成物、及び本明細書に開示する他の化合物は、他の点眼液(例えば、人工涙液)、並びに点眼液、丸薬、移植物、外科用装置等の形態の緑内障薬と組み合わせて用いることができることが理解される。当業者は、満足できる治療法及び治療法の組合せを考案する方法を認めるであろう。
【0139】
本発明には、筋肉作用を調節するための様々な生物学的ターゲットが含まれる。従って、例示的なターゲット及びこのターゲットに作用する例示的な化合物には、ナトリウムチャンネル(例えば、リドカイン)、シナプス前膜のアセチルコリン受容体(例えば、ボツリヌス毒素)、ドーパミン受容体(例えば、リスリド)、GABA受容体(例えば、クロナゼパム及びバクロフェン)、ムスカリン性受容体(例えば、トリヘキシフェニジル)、及びカルシウムチャンネル(例えば、ベラパミル)が含まれる。
【0140】
外圧効果が緑内障患者及び眼の高血圧症患者の眼圧を大幅に上昇させると共に眼への血流を低減し、かつ筋肉弛緩剤により眼圧を下げると共に血流を増大させることができるという発見に鑑みて、筋肉近傍や末梢神経で局所的に又は中枢的に(中枢神経系)に作用する、注射、口腔、又は局所用のあらゆる適切な筋肉弛緩剤を本発明に従って用いることができ、例示的な薬剤を表1に開示する。
















【0141】
(表1)



【0142】
以上の説明は、本発明の原理を単に例示するためであると考えるべきである。多くの修正及び変更が当業者には容易に想起されるであろうから、本発明を図示及び説明した正確な構成及び作動に限定することを望むものではなく、従って、全ての適切な修正及び均等物は、本発明の範囲に該当し、それに含まれると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】眼瞼が眼を圧迫することを示す断面概略図である。
【図2A】瞬きにより引き起こされる眼圧の上昇を示すグラフである。
【図2B】眼瞼の圧迫により引き起こされる眼圧の上昇を示すグラフである。
【図3】本発明の化合物を投与するのに好ましい区域を示す概略図である。
【図4A】リドカイン組成物投与前の瞬きによるEPEを示すグラフである。
【図4B】リドカイン組成物投与後の瞬きによるEPEを示すグラフである。
【図5A】リドカイン組成物投与前の圧迫によるEPEを示すグラフである。
【図5B】リドカイン組成物投与後の圧迫によるEPEを示すグラフである。
【図6A】ボツリヌス毒素投与前の瞬きによるEPEを示すグラフである。
【図6B】ボツリヌス毒素投与後の瞬きによるEPEを示すグラフである。
【図7A】ボツリヌス毒素投与前の圧迫によるEPEを示すグラフである。
【図7B】ボツリヌス毒素投与後の圧迫によるEPEを示すグラフである。
【図8A】本発明を実施するのに用いることができるキットを示す概略図である。
【図8B】本発明を実施するのに用いることができる新しい装置を示す概略図である。
【図9A】例示的な「瞼測定装置(LMD)」を示す概略図である。
【図9B】例示的な「瞼測定装置(LMD)」を示す概略図である。
【符号の説明】
【0144】
1 眼瞼
2 眼瞼縁部
3 角膜
6 リョラン筋肉
P 圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の疾患を治療する方法であって、
外圧効果を低減する化合物の有効量を哺乳動物に投与し、それによって該哺乳動物が受ける外圧効果を軽減する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記化合物は、ガバペンチンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化合物は、神経毒であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記神経毒は、ボツリヌス毒素であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素型A、B、C、D、E、F、及びGから成る群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素型Aであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物は、リドカインであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物は、リドカイン及びアルコールの組合せであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記疾患は、緑内障、眼の高血圧、糖尿病性網膜症、視神経症、網膜血管閉塞、黄斑性疾患、甲状腺眼障害、老化関連黄斑性変性、黄斑性浮腫、前側表面障害、角膜障害、及び網膜障害のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物は、経皮的、局所的、結膜下、イオン泳動、パッチを用い経皮的、及び移植物のうちの少なくとも1つにより投与されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
網膜及び視神経の血流を増大させることにより眼の疾患における視神経及び網膜の健康を最大にする方法であって、
眼に対する外圧効果を低減する化合物の有効量をこのような低減を達成するのに有効な量で眼に投与し、それによって眼内部の圧力を軽減して眼への血流を増大させる段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
前記化合物は、ガバペンチンであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記眼の疾患は、緑内障、眼の高血圧、糖尿病性網膜症、視神経症、網膜血管閉塞、黄斑性疾患、甲状腺性眼障害、老化関連黄斑性変性、黄斑性浮腫、前側表面障害、角膜障害、及び網膜障害のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
外眼性筋肉の容積を低減する方法であって、
膨張した筋肉に該膨張した筋肉の容積を低減するのに十分な量で筋毒性化合物を投与する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記化合物は、ドキソルビシンであることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
屈折矯正手術の結果を改善する方法であって、
眼への外圧効果を低減する化合物の有効量をこのような低減を達成するのに有効な量で眼に投与する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
緑内障患者に対する眼手術の結果を改善する方法であって、
眼に対する外圧効果を低減する化合物の有効量をこのような低減を達成するのに有効な量で眼に投与し、それによって手術後の眼圧の上昇又はスパイクを軽減する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記眼手術は、緑内障、白内障、網膜、角膜、及び形成術のうちの少なくとも1つに対するものであることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
必要な効力を達成するために哺乳動物に投与される化合物の量を判断する方法であって、
瞼測定装置を用いて外圧効果を評価する第1の段階と、
前記第1の段階で得られた結果に基づいて、化合物のある一定の量を哺乳動物に投与する第2の段階と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
前記化合物を前記哺乳動物に投与した後に前記瞼測定装置を用いて外圧効果を評価する第3の段階を更に含むことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記瞼測定装置は、コンタクトレンズ装置を含むことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項22】
哺乳動物の緑内障、眼球の緊張亢進、及び視神経症のうちの少なくとも1つを治療する方法であって、
哺乳動物にボツリヌス毒素を投与し、それによって圧力効果を軽減する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項23】
前記ボツリヌス毒素は、局所的、結膜下、又は硝子体内のうちの少なくとも1つにより投与されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
哺乳動物の神経損傷に対して保護する方法であって、
神経保護剤である化合物の有効量を哺乳動物に投与する段階、
を含み、
前記化合物は、ボツリヌス毒素、ガバペンチン、リドカイン、メキシレチン、セレギリン、及びケタミンのうちの少なくとも1つである、
ことを特徴とする方法。
【請求項25】
前記化合物は、経口的、筋肉内、局所的、結膜下、又は硝子体内のうちの少なくとも1つにより投与されることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
美容目的のために患者を治療する方法であって、
リドカイン及びアルコールの組合せの有効量を患者に投与する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項27】
前記美容目的は、顔面の皺の低減であることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
患者の緑内障を治療するために点眼液の治療効力を増大させる方法であって、
外圧効果を低減する化合物の有効量を患者に投与する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
前記点眼液は、プロスタグランジン類似物であることを特徴とする請求項28に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2006−524185(P2006−524185A)
【公表日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571477(P2004−571477)
【出願日】平成15年12月8日(2003.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2003/038740
【国際公開番号】WO2004/096183
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(505395766)
【Fターム(参考)】