説明

研削装置

【課題】研削ホイールをホイールマウントに装着する場合に高精度な電極位置精度を不要とすると共に、超音波振動加工時のノード領域の変化によっても電極接触不良を発生させず、かつ、研削ホイールを容易に着脱可能な研削装置を提供すること。
【解決手段】研削装置は、ホイールマウント(31)に磁力を持つ固定電極(62)を配設すると共に、ホイールベース(413)の収容部(413a)内に磁力によって引き付けられる可動電極713を含む可動電極部(71)を収容部(413a)に進退可能に収容する。ホイールベース(413)にホイールマウント(31)に装着されると、固定電極(62)の固定電極(62)の接触面(621a)と平行にS極とN極を並列させた磁石(622)の磁力により可動電極部(71)が固定電極(62)に接触し環状超音波振動子(415)に通電され、可動電極部(71)がホイールベース(413)に非接触とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削装置に関し、例えば、超音波振動を伴って被加工物の研削を行う研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、パソコンなどの各種機器の製造工程においては、LSI(Large Scale Integration)などの集積回路(IC:Integrated Circuit)が設けられた略円盤形状のウェーハが用いられている。このウェーハにおいては、表面に格子状に配列された分割予定ラインによって複数の領域に区画され、この区画された複数の領域にそれぞれ集積回路が形成される。そして、ウェーハを分割予定ラインに沿って切断することにより、各種機器に用いられる個々のデバイスを製造する。このウェーハは、個々のデバイスに分割される前に、研削砥石を有する研削ホイールを備えた研削装置によって、裏面が研削されて所望の厚さに調整される。
【0003】
ところで、研削装置によってウェーハの裏面を研削すると、研削に伴って生じる研削屑によって研削砥石に目詰まりが生じる場合がある。特に、サファイア、シリコンナイトライド、リチウムタンタレート、アルチックなどの脆性硬質材料を研削する場合、研削砥石の目詰まりが生じやすく、研削に長時間を要し生産性が低下する場合がある。このような問題点に着目し、本出願人は、研削ホイールに環状の超音波振動子を配設し、研削時に研削ホイールを超音波振動させることにより、研削屑による研削砥石の目詰まりを抑制できる研削装置を開発し、既に特許出願している(特許文献1参照)。
【0004】
かかる研削装置においては、研削ホイールを支持するホイールマウントに連結された回転スピンドルの端部に超音波振動子に電力を供給する電力供給手段が接続される。回転スピンドルは、軸心の長手方向に空洞部が形成されており、この空洞部を介して電力供給手段に接続された導電線が配設される。この導電線はホイールマウントに設けられた凹型コネクタに接続される。特許文献1に記載の研削装置においては、研削ホイールをホイールマウントに装着する際に、ホイールマウントに設けられた凹型コネクタに超音波振動子に接続された凸型コネクタを接続することにより、超音波振動子に高周波電力が供給されて研削ホイールが超音波振動する。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された研削装置においては、研削ホイールをホイールマウントに対して着脱する際に、凹型コネクタ及び凸型コネクタを着脱しなければならず、研削ホイールの着脱に手間を要する場合がある。このような問題点に着目し、本出願人は、凹型コネクタ及び凸型コネクタを介さずに研削ホイールの超音波振動子と電力供給手段とを電気的に接続することにより、ホイールマウントに対する研削ホイールの着脱を容易に行うことができる研削装置を開発し、既に特許出願している(特許文献2参照)。
【0006】
かかる研削装置においては、研削ホイールに設けられた環状の超音波振動子の周囲に2つの環状電極を配設し、環状電極と超音波振動子とを電気的に接続すると共に、電力供給手段に電気的に接続された一対の押圧電極をホイールマウントに配設する。特許文献2に記載の研削装置においては、ホイールマウントに研削ホイールを装着した際に、一対の押圧電極が2つの環状電極に向けて突出して一対の押圧電極と2つの環状電極とが接触する。この構成により、凹型コネクタ及び凸型コネクタを介さずに超音波振動子と電力供給手段とを電気的に接続できるので、ホイールマウントに対する研削ホイールの着脱が容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−23693号公報
【特許文献2】特開2010−194650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の研削装置においては、一対の押圧電極が2つの環状電極に向けて突出することによって一対の押圧電極と環状電極とを電気的に接続するので、一対の押圧電極及び2つの環状電極の配設位置の誤差により、一対の押圧電極と環状電極との間の接触不良が生じるおそれがある。また、一対の押圧電極と2つの環状電極との接点で電気的に接続するため、研削砥石の摩耗や研削ホイールの回転数の変化により、超音波振動に伴う加工時に振動が相殺される領域であるノード領域が変化すると、電極間の接点不良が生じることがある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、超音波振動を伴って研削を行う研削ホイールをホイールマウントに装着して使用する場合において、高精度な電極位置精度を不要とすると共に、超音波振動加工時のノード領域変化によっても電極接触不良を発生させず、かつ、研削ホイールを容易に着脱できる研削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の研削装置は、被加工物を保持するチャックテーブルと、前記チャックテーブルに保持された被加工物を研削する研削手段と、前記研削手段に使用される研削ホイールと、を備えた研削装置であって、前記研削手段は、スピンドルハウジングと、前記スピンドルハウジング中に回転可能に収容された回転スピンドルと、前記回転スピンドルの先端に固定されたホイールマウントと、前記回転スピンドルを回転駆動する駆動源とを含み、前記研削ホイールは、導電性を有し、前記ホイールマウントとネジによって締結されるホイールベースと、前記ホイールベースの自由端部に環状に配設された複数の研削砥石と、前記ホイールベースに配設された環状超音波振動子と、前記環状超音波振動子に積層されて配設された環状電極と、前記ホイールベースの中央で且つ前記ホイールマウント側に開口した収容部と、前記収容部に収容された可動電極部とを含み、前記可動電極部は、磁力により引きつけられる材質で形成された可動電極と、前記可動電極を保持し前記開口に挿通する被収容部と、前記可動電極が前記開口から突設するように前記被収容部を規制する規制部と、前記可動電極部から前記環状電極に連結する導電性のフレキシブル導線とを含み、前記可動電極部は前記ホイールベースの前記収容部に進退可能に収容されており、前記ホイールマウントは、前記研削ホイールをネジにより締結した状態において前記可動電極に向き合う位置に配設され磁力を持つ固定電極を有し、前記固定電極は、導電性を有し、外部の電力供給源に連通し、前記可動電極部と当接する接触面を有する固定電極保持部と、前記固定電極の前記接触面と平行にS極とN極を並列させて前記固定電極保持部の内側に配設された磁石とを含むことを特徴とする。
【0011】
この研削装置によれば、ホイールマウントに磁力を持つ固定電極を配設すると共に、ホイールベースの収容部内に磁力により引き付けられる材質で形成された可動電極を含む可動電極部を配設し、可動電極部はホイールベースの該収容部に進退可能に収容したことから、研削ホイールをホイールマウントに締結して装着した際に、可動電極部が固定電極の磁力によって引き寄せられて固定電極に接触する。これにより、コネクタなどを介さずに研削ホイールをホイールマウントに装着するだけで固定電極と可動電極が磁力により自動で接続されるので、研削ホイールの接続が容易となる。また、可動電極部が研削ホイールのホイールベースから非接触の状態となるので、ホイールベースの振動が可動電極部に伝わることがなく、振動による電極の接触不良が回避できる。さらに、固定電極の磁力により可動電極と固定電極とが接触するので、高精度な電極位置精度を要さずに固定電極と可動電極とを電気的に接続することが可能となると共に、超音波振動を伴う加工時に振動が相殺される領域であるノード領域が変化した場合においても、固定電極と可動電極との間の電極間の接点不良を抑制することが可能となる。また、磁力を持つ固定電極を被研削物から離れたホイールマウントに配設するので、被加工物に対する磁力の影響を低減することができる。さらに、研削ホイールに磁石を用いずホイールマウントに磁力を持つ固定電極を配置するので、消耗品である研削ホイールを安価に構成することができる。また、固定電極及び可動電極部をホイールマウントの中央部に配設したことから、研削ホイールの回転に伴う遠心力の影響を受けずに安定して接続状態を維持することできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、超音波振動を伴って研削を行う研削ホイールをホイールマウントに装着して使用する場合において、高精度な電極位置精度を不要とすると共に、超音波振動加工時のノード領域変化によっても電極接触不良を発生させず、かつ、研削ホイールを容易に着脱できる研削装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本実施の形態に係る研削装置の外観斜視図である。
【図2】図2は、本実施の形態に係る研削装置の一部の構成を略示的に示す断面図である。
【図3】図3は、本実施の形態に係る研削装置のホイールマウント周辺の斜視図である。
【図4】図4は、本実施の形態に係る研削装置の研削ホイールの斜視図である。
【図5】図5は、本実施の形態に係る研削装置のホイールマウント及び研削ホイールの断面模式図である。
【図6】図6は、本実施の形態に係る研削装置の磁石の斜視図である。
【図7】図7は、本実施の形態に係る研削装置のホイールマウント及び研削ホイールの断面模式図である。
【図8】図8は、本実施の形態に係る研削装置の動作説明図である。
【図9】図9は、他の磁石を備えるホイールマウント及び研削ホイールの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る研削装置1の一例を示す外観斜視図である。なお、以下においては、説明の便宜上、図1に示す左下方側を研削装置1の前方側と呼び、同図に示す右上方側を研削装置1の後方側と呼ぶものとする。また、以下においては、説明の便宜上、図1に示す上下方向を研削装置1の上下方向と呼ぶものとする。
【0015】
図1に示すように、本実施の形態に係る研削装置1は、装置のハウジングを構成する基台100を有している。基台100は、研削装置1の前後方向に延在する主部101と、この主部101の後端部で上方側に延出して設けられた壁部102とを有している。主部101の上面の前方側には、研削装置1に対する指示を受け付ける操作パネル103が設けられている。操作パネル103の後方側には、ワークW(被加工物)を保持したチャックテーブル104を前後に移動可能に支持するテーブル支持台105が設けられている。一方、壁部102の前面には、上下方向に延びる一対のガイドレール106が設けられている。これらのガイドレール106に研削ユニット21(研削手段)が上下方向に移動可能に装着されている。
【0016】
研削ユニット21は、研削送り機構11によって駆動されて昇降可能となっている。研削送り機構11は、ガイドレール106に平行に配設され鉛直方向に延びるボールネジ111と、ボールネジ111の一端に連結されボールネジ111を正逆両方向に回転させるモータ112と、ボールネジ111に螺合する内部のナット(不図示)を有すると共に、脚部がガイドレール106に摺接した移動基台113と、移動基台113に連結され研削ユニット21を支持する支持部114とから構成される。研削送り機構11は、モータ112によって駆動されたボールネジ111が回動することによって、移動基台113がガイドレール106にガイドされて昇降することにより研削ユニット21を昇降させる。
【0017】
研削ユニット21は、移動基台113に装着されたスピンドルユニット22を備える。スピンドルユニット22は、支持部114によって支持される。スピンドルユニット22は、支持部114に支持されたスピンドルハウジング221と、このスピンドルハウジング221中に回転自在に配設された回転スピンドル222(図1において不図示、図2参照)とを有している。回転スピンドル222の下端部は、スピンドルハウジング221の下端部を越えて下方側に突出しており、その下端部の先端には円板形状のホイールマウント31が連結される。ホイールマウント31には、研削ユニット21による研削に使用される研削ホイール41が固定される。なお、ホイールマウント31は、上面(表面)が水平面に形成されたチャックテーブル104に対面可能に配設されている。
【0018】
図2は、本実施の形態に係る研削装置1の一部の構成を略示的に示す断面図である。図2に示すように、回転スピンドル222は、スピンドルハウジング221によって非接触状態で回転可能に支持されていることで、スピンドルハウジング221中に収容されている。
【0019】
研削ユニット21は、回転スピンドル222を回転駆動する駆動源としての電動モータ23を備える。電動モータ23は、回転スピンドル222の中間部に連結されたロータ231と、ロータ231の外周側に配設されたステータコイル232とを備える。電動モータ23は、電力供給手段51から電力の供給を受けて動作する。
【0020】
電力供給手段51は、交流電源511と、給電手段242の給電コイル242bとの間に介在する電圧調整手段512と、給電コイル242bに供給する交流電力の周波数を調整する周波数調整手段513と、電圧調整手段512及び周波数調整手段513を制御する制御手段514と、超音波振動の振幅等の入力に用いる入力手段515と含んで構成されている。
【0021】
交流電源511は、制御回路516及び配線517を介して電動モータ23のステータコイル232に接続される。このステータコイル232に交流電力を供給することによりロータ231及び回転スピンドル222を回転させることができる。
【0022】
回転スピンドル222の一端部(下端部)には、小径先端部223が設けられている。この小径先端部223の下端部にホイールマウント31が固定される。回転スピンドル222の他端部(上端部)には、ロータリートランス24が設けられる。ロータリートランス24は、回転スピンドル222の上端に連結された受電手段241と、受電手段241の外周側に位置する給電手段242とから構成される。
【0023】
受電手段241は、回転スピンドル222に連結されたロータコア241aと、ロータコア241aに巻回された受電コイル241bとから構成されている。給電手段242は、受電手段241を構成するロータコア241aの外周側に配設されたステータコア242aと、ステータコア242aに配設された給電コイル242bとから構成される。なお、給電コイル242bには、配線518を介して交流電力が供給される。
【0024】
受電手段241の受電コイル241bには、導電線25a,25bが接続されている。導電線25aは、回転スピンドル222の軸方向に形成された貫通孔222aを通り、後述するホイールマウント31の固定電極部62(図2において不図示、図3参照)に接続されている。
【0025】
ここで、回転スピンドル222の下端部(先端)に固定されるホイールマウント31、並びに、このホイールマウント31に装着される研削ホイール41の構成について説明する。図3は、本実施の形態に係る研削装置1のホイールマウント31周辺の斜視図である。なお、図3においては、研削ホイール41を外したホイールマウント31を下方側から示している。図4は、本実施の形態に係る研削装置1の研削ホイール41の斜視図である。なお、図4においては、研削ホイール41を上方側から示している。
【0026】
図3に示すように、ホイールマウント31は、導電性を有する金属材料で構成され、概して円板形状を有している。ホイールマウント31は、それ自体に導電線25bが接続されている。ホイールマウント31の下面中央には、回転スピンドル222の貫通孔222aに連通する円孔31aが設けられている。この円孔31aには、詳細について後述するように、中央部に孔61aが設けられた絶縁部材61が取り付けられる。この絶縁部材61の内部には、孔61aから一部が露出した状態で固定電極62が保持される。また、ホイールマウント31の外周縁部には、ホイールマウント31を上下方向に貫通する複数(本実施の形態では6個)のネジ穴31bが設けられている。
【0027】
図4に示すように、研削ホイール41は、導電性を有する金属材料で構成され、概して円板形状を有している。研削ホイール41は、円環形状を有し、ホイールマウント31に固定される装着リング411と、装着リング411に環状連結部412を介して一体的に形成されたホイールベース413と、ホイールベース413の自由端部に環状に配設された複数の研削砥石414とを備える。
【0028】
装着リング411の外周縁部には、研削ホイール41の上下方向に貫通する複数(本実施の形態では6個)のネジ穴411aが設けられている。このネジ穴411aは、ホイールマウント31に設けられたネジ穴31bに対応する位置に配置される。このホイールマウント31のネジ穴31bと装着リング411のネジ穴411aとをネジ31c(図2参照)によって締結することにより、ホイールマウント31に研削ホイール41が装着される。
【0029】
ホイールベース413の中央部には、ホイールマウント31側(上方側)に開口して円形状の収容部413aが設けられている。より具体的には、収容部413aは、ホイールベース413を上下方向に貫通する貫通孔で構成される。ホイールベース413上の収容部413aの周囲には、収容部413aを構成する円形状の開口部と同心円状に環状超音波振動子415が配設される。
【0030】
なお、環状超音波振動子415としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zi、Ti)O3)、リチウムナイオベート(LiNbO3)、リチウムタンタレート(LiTaO3)、ニオブ酸カリウムナトリウム(K,N)(KNbO3)などを用いることができる。
【0031】
環状超音波振動子415の上方には、環状超音波振動子415と略同一形状を有する環状電極416が積層して配設される。例えば、環状電極416は、環状超音波振動子415に接着剤等により固着される。環状電極416は、フレキシブル導線417を介して後述する可動電極部71(より具体的には、可動電極部71を構成する規制部712)と電気的に接続される。
【0032】
装着リング411とホイールベース413とは、環状連結部412により連結される。環状連結部412には、ホイールベース413の周方向に沿って複数のスリット412aが設けられている。これらのスリット412aは、環状連結部412を上下方向に貫通して設けられており(図5参照)、ホイールマウント31に対する環状超音波振動子415による超音波振動の伝達を抑制する役割を果たす。
【0033】
ホイールベース413の収容部413a内には、可動電極部71が上下方向に進退可能に収容される。可動電極部71は、収容部413aの開口に挿通される略円柱形状の被収容部711と、被収容部711の上面に設けられた円板形状の規制部712と、規制部712を貫通して配置され、被収容部711に保持される可動電極713と、被収容部711の下面に設けられた円板形状の係合部714(図4に不図示、図5参照)とを含んで構成される。
【0034】
図5及び図7は、本実施の形態に係る研削装置1のホイールマウント31及び研削ホイール41の断面模式図である。図6は、本実施の形態に係る研削装置の磁石の斜視図である。なお、図5においては、ホイールマウント31に研削ホイール41を対向配置した装着前の状態(ホイールマウント31から研削ホイール41が離反した状態)を示し、図7においては、ホイールマウント31に研削ホイール41を装着した状態を示している。
【0035】
図5に示すように、ホイールベース413の上方には、環状連結部412を介して装着リング411が連結されている。このため、ホイールベース413の上面413bと、ホイールマウント31の下面31dとの間には、研削ホイール41がホイールマウント31に装着されると、所定の空間が形成される(図7参照)。上述した可動電極部71は、この空間内において、ホイールベース413に設けられた収容部413aに進退可能に収容される。
【0036】
可動電極部71を構成する規制部712は、ホイールベース413の開口(収容部413aの開口)より径方向の幅寸法が僅かに大きく形成されている。すなわち、ホイールベース413の開口より大径に設けられており、当該開口を覆うように配置される。規制部712は、規制部712下面の外周縁部とホイールベース413の収容部413aの開口縁部とが当接した状態で、可動電極部71(より具体的には、被収容部711)を懸架し、可動電極部71の収容部413a内への落下を規制する。規制部712が収容部413a内への被収容部711の落下を規制することにより、可動電極713がホイールベース413の開口(収容部413aの開口)から突設した状態に維持される。
【0037】
また、規制部712は、導電性を有する金属材料で構成される。この規制部712と、環状超音波振動子415に積層された環状電極416との間でフレキシブル導線417が連結されている。すなわち、ホイールマウント31から研削ホイール41が離反した状態においては、環状超音波振動子415とホイールベース413とがフレキシブル導線417及び規制部712を介して電気的に接続される。一方で、環状超音波振動子415の裏面側は、導電性を有するホイールベース413と接触しているので、超音波振動子415の上面側と下面側とが短絡される。
【0038】
保管時等のように、研削ホイール41がホイールマウント31に装着されていない状態においては、周囲の雰囲気に応じて研削ホイール41の伸縮等が発生し得る。このような研削ホイール41の伸縮は、例えば、真夏の外気から空調設備により温度管理された室内へ移動させる際の温度変化等の要因により発生することが考えられる。研削ホイール41の伸縮等に代表される外部からの応力は、環状超音波振動子415における圧電作用の発生原因となる。外部からの応力が作用する状況下においては、環状超音波振動子415の圧電作用により環状超音波振動子415の表面が帯電する事態が発生し得る。このような事態が発生した場合、ホイールマウント31に対する装着作業時等において、研削ホイール41を安全に取り扱うことが困難となる。このような事態に対応すべく、本実施の形態に係る研削ホイール41においては、導電性を有する金属材料で構成した規制部712を環状超音波振動子415と電気的に接続すると共に、ホイールマウント31から研削ホイール41が離反した状態で規制部712をホイールベース41に接触させることにより、環状超音波振動子415の上面側と下面側とを短絡させている。これにより、圧電作用により環状超音波振動子415に帯電した電荷を放電することができ(すなわち、環状超音波振動子415による圧電作用による帯電を防止でき)、研削後に取り外した研削ホイール41を安全に取り扱うことが可能となる。
【0039】
可動電極713は、磁力により引き付けられる材料、例えば、鉄や鉄とニッケルの合金などにより構成される。可動電極713は、規制部712の略中央部に配置され、少なくとも一部が規制部712の上面から上方に突出するように設けられる。なお、可動電極713の上端部には、平面部が設けられている。この平面部は、後述する固定電極62を構成する磁石622の吸着面を構成する。
【0040】
係合部714は、被収容部711の下面に設けられており、収容部413a内に配置される。係合部714は、規制部712と同様に、ホイールベース413の開口(収容部413aの開口)より径方向の幅寸法が僅かに大きく設けられており、被収容部711が収容部413aから上方側又は下方側に離脱するのを防止する役割を果たす。ここで、可動電極部71は、可動電極713の透磁率が高くなるように構成されている。本実施の形態では、鉄により構成されている可動電極713に対して、収容部711、規制部712、係合部714がアルミニウムなどで構成されている。
【0041】
一方、ホイールマウント31の中央に設けられた円孔31aには、絶縁部材61が取り付けられる。絶縁部材61は、円孔31a内に挿入される挿入部611と、この挿入部611の下端に設けられた円板形状を有する平面部612とから構成される。平面部612の下面は、絶縁部材61がホイールマウント31に完全に取り付けられた状態において、ホイールマウント31の下面31dと同一平面上に配置される。平面部612の中央には、孔61aが設けられている。
【0042】
挿入部611の内部には、固定電極62が収納される。固定電極62は、平面部612の孔61aから一部が露出するように挿入部611内に収納される。固定電極62は、固定電極保持部621と、固定電極保持部621により被覆される磁石621とを含んで構成されている。磁石622を内部に備えることにより、固定電極62は、磁力を持つ固定電極として機能する。磁石622の下面を被覆する導電部材621の一部は、他面(例えば、磁石621の上面や側面)を被覆する部分よりも薄く設けられている。磁石622の下面に対応する導電部材621の一部を薄く設けることにより、ホイールベース413に配置される可動電極部71(より具体的には可動電極713)に対して磁石622の磁力が適切に作用するように構成している。
【0043】
固定電極保持部621は、導電性を有する金属材料により構成され、可動電極部71と当接する接触面621a(固定電極62の下面)を有する。固定電極保持部621は、絶縁部材61によって絶縁されており、絶縁部材61を介して導電線25aが接続されている。これにより、固定電極62は、ロータリートランス24を介して電力供給手段51と接続されている。
【0044】
磁石622は、固定電極保持部621の内側に配設されている。磁石622は、本実施の形態では、図6に示すように、円柱形状であり、1対のS極とN極が中心軸を含む平面によって区画されて形成されている。ここで、磁石622は、中心軸が上下方向と平行となるように、固定電極保持部621に収容されている。従って、磁石622のS極とN極は、固定電極62の接触面621aと平行に並列に配列されることとなる。
【0045】
ホイールベース413の中央に開口した収容部413aに収容される可動電極部71と、ホイールマウント31の自由端面の中央近傍の円孔31aに取り付けられた絶縁部材61内に保持される固定電極62とは、研削ホイール41がネジ31cによりホイールマウント31に締結される状態において、互いに向き合う位置に配設される。図5に示すように、研削ホイール41がネジ31cによりホイールマウント31に締結される前の状態においては、固定電極62の磁力が作用せず、可動電極部71は、被収容部711が収容部413a内に収容された状態で維持される。
【0046】
一方、研削ホイール41がネジ31cによりホイールマウント31に締結されると、図7に示すように、固定電極62の磁力によって可動電極713が引き付けられ、可動電極部71がホイールマウント31側(上方側)に移動する。この結果、可動電極713が固定電極62の接触面621aと接触すると共に、規制部712がホイールベース413の収容部413aの開口縁部から離間して、可動電極部71がホイールベース413と非接触状態になる。
【0047】
また、規制部712は、フレキシブル導線417を介して環状超音波振動子415(環状電極416)に電気的に接続された状態を維持している。このため、固定電極62と可動電極713とが電気的に接続されると共に、フレキシブル導線417を介して可動電極713に電気的に接続された環状超音波振動子415が固定電極62と電気的に接続される。この結果、電力供給手段51から固定電極62を介して環状超音波振動子415に電源が供給され、超音波振動を伴った研削ホイール41による研削加工が可能となる。
【0048】
なお、固定電極62と可動電極713とが接続した状態においては、環状超音波振動子415の裏面側に生じた電荷は、導電部材で構成されたホイールベース413、ホイールベース413と締結されたホイールマウント31及びホイールマウント31に接続された導電線25bを介して出力される。そして、研削装置1のグランド端子を介して接地される。
【0049】
このように、本実施の形態に係る研削装置1においては、ホイールマウント31に磁力を持つ固定電極62を配設すると共に、研削ホイール41のホイールベース413の収容部413a内に磁力により引き付けられる材質で形成された可動電極713を含む可動電極部71を配設し、この可動電極部71をホイールベース413の収容部413a内で進退可能に収容したことから、研削ホイール41をホイールマウント31に装着した際に、可動電極部71が固定電極302の磁力によって引き寄せられて自動的に固定電極62に接触する。これにより、コネクタなどを介さずに超音波振動子415と電力供給手段51とを電気的に接続できるので、研削ホイール41を容易に着脱することが可能となる。
【0050】
特に、固定電極62の磁力によって可動電極713と固定電極62とが接触するので、高精度な電極位置精度を要さずに固定電極62と可動電極713とを電気的に接続できると共に、超音波振動を伴う加工時に振動が相殺される領域であるノード領域が変化した場合においても、固定電極62と可動電極713との間の電極間の接点不良を抑制できる。
【0051】
また、磁力を持つ固定電極62をワークW(被加工物)から離れたホイールマウント31に配設するので、ワークWに対する磁力の影響を低減することができる。さらに、研削ホイール41に磁石を用いず、ホイールマウント31に磁力を持つ固定電極62を配設するので、消耗品である研削ホイール41を安価に構成することができる。さらに、可動電極部71をホイールマウント31の中央部に配設したことから、研削ホイール41の回転に伴う遠心力の影響を受けずに安定して接続状態を維持することができる。
【0052】
また、磁石622を固定電極62の接触面621aと平行にS極とN極を並列させたことで、磁石622により発生する磁力線が固定電極62と接触した可動電極部71よりも、下方の領域まで形成されることを抑制することができる。図8は、本実施の形態に係る研削装置の動作説明図である。図9は、他の磁石を備えるホイールマウント及び研削ホイールの断面模式図である。図8に示すように、本実施の形態では、磁石622を固定電極62の接触面621aと平行にS極とN極を並列させているので、固定電極62の接触面621aに平行な向き、すなわち接触面621aに沿った磁力線(磁力)を磁石622が発生する。磁石622よりも上方の磁力線M1は、大部分が貫通孔222aに形成される。ここで、磁石622の下方には、透磁率が他の部材よりも高い可動電極713が固定電極62と接触しているため、磁石622が発生する磁力線M2が可動電極72に沿って形成され、可動電極713の外部の磁力線が抜けることが抑制される。つまり、磁石622より下方の磁力線M2は、可動電極部71の内部に形成される。一方、図9に示すように、磁石623を上下方向に積層してS極とN極を配列させた場合は、透磁率が他の部材よりも高い可動電極713が固定電極62と接触しているため、磁石622と可動電極713が1つの磁石として機能することとなり、可動電極713の下方の領域にN極が形成される。従って、磁石622および可動電極713が発生する磁力線M3、M4は、上下方向に長く形成されることとなり、可動電極部71よりも下方の領域まで形成されてしまうことになる。以上のことから、本実施の形態では、可動電極部71よりも、下方の領域に磁力線が形成されることを抑制できるので、研削装置1による研削時に雰囲気中に混入する磁性体(異物)が可動電極部71に付着することを抑制することができる。これにより、可動電極部71の動作不良などを抑制することができ、可動部の動作不良に起因する耐久性の低下を抑制することができる。
【0053】
次に、図1に示した研削装置1を用いて被加工物(ワーク)Wを研削する場合の研削装置1の動作について説明する。ワークWは、被保持面にテープTが貼着されてチャックテーブル104に保持される。そして、チャックテーブル104が後方側に移動することにより、ワークWが研削ユニット21の下方側の領域に位置づけられる。
【0054】
次に、チャックテーブル2を例えば300RPMほどの回転速度で回転させると共に、回転スピンドル222を回転させることにより、研削ホイール41を例えば6000RPM程度の回転速度で回転させながら、研削送り機構11が研削ユニット21を降下させることにより、回転する研削砥石414をワークWに接触させて研削を行うことが可能となる。そして、ワークWが所望の厚さとなった時点で研削ユニット21を上昇させて研削を終了する。
【0055】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0056】
また、上記実施の形態においては、円柱形状の磁石を用いたが、固定電極62の接触面621aと平行にS極とN極が並列となっていれば、例えば円筒形状、多角柱、球であっても良い。また、S極とN極とが複数対並列に配列されていても良い。例えば、複数の磁石を集合することで磁石622として構成しても良い。
【0057】
また、上記実施の形態においては、可動電極部71にて、被収容部711の上面に設けられた規制部712により可動電極713がホイールベース41の開口から突設するように被収容部711の移動を規制する場合について説明しているが、被収容部711の移動を規制する規制部712の構成については、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、被収容部711の下面に設けられた係合部714に規制部712としての機能を兼ねさせることも可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 研削装置
11 研削送り機構
100 基台
101 主部
102 壁部
103 操作パネル
104 チャックテーブル
105 テーブル支持台
106 ガイドレール
111 ボールネジ
112 モータ
113 移動基台
114 支持部
21 研削ユニット(研削手段)
22 スピンドルユニット
221 スピンドルハウジング
222 回転スピンドル
222a 貫通孔
223 小径先端部
23 電動モータ
231 ロータ
232 ステータコイル
24 ロータリートランス
241 受電手段
242 給電手段
241a ロータコア
241b 受電コイル
242a ステータコア
242b 給電コイル
25 導電線
31 ホイールマウント
31a 円孔
31b ネジ穴
31c ネジ
41 研削ホイール
411 装着リング
411a ネジ穴
412 環状連結部
412a スリット
413 ホイールベース
413a 収容部
414 研削砥石
415 環状超音波振動子
416 環状電極
417 フレキシブル導線
51 電力供給手段
511 交流電源
512 電圧調整手段
513 周波数調整手段
514 制御手段
515 入力手段
516 制御回路
517 配線
518 配線
61 絶縁部材
61a 孔
611 挿入部
612 平面部
62 固定電極
621 固定電極保持部
622 磁石
71 可動電極部
711 被収容部
712 規制部
713 可動電極
714 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、前記チャックテーブルに保持された被加工物を研削する研削手段と、前記研削手段に使用される研削ホイールと、を備えた研削装置であって、
前記研削手段は、スピンドルハウジングと、前記スピンドルハウジング中に回転可能に収容された回転スピンドルと、前記回転スピンドルの先端に固定されたホイールマウントと、前記回転スピンドルを回転駆動する駆動源とを含み、
前記研削ホイールは、導電性を有し、前記ホイールマウントとネジによって締結されるホイールベースと、前記ホイールベースの自由端部に環状に配設された複数の研削砥石と、前記ホイールベースに配設された環状超音波振動子と、前記環状超音波振動子に積層されて配設された環状電極と、前記ホイールベースの中央で且つ前記ホイールマウント側に開口した収容部と、前記収容部に収容された可動電極部とを含み、
前記可動電極部は、磁力により引きつけられる材質で形成された可動電極と、前記可動電極を保持し前記開口に挿通する被収容部と、前記可動電極が前記開口から突設するように前記被収容部を規制する規制部と、前記可動電極部から前記環状電極に連結する導電性のフレキシブル導線とを含み、前記可動電極部は前記ホイールベースの前記収容部に進退可能に収容されており、
前記ホイールマウントは、中央の自由端面近傍に配設され前記研削ホイールをネジにより締結した状態において前記可動電極に向き合う位置に配設され磁力を持つ固定電極を有し、
前記固定電極は、導電性を有し、外部の電力供給源に連通し、前記可動電極部と当接する接触面を有する固定電極保持部と、前記固定電極の前記接触面と平行にS極とN極を並列させて前記固定電極保持部の内側に配設された磁石とを含むことを特徴とする研削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−107176(P2013−107176A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255380(P2011−255380)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】