説明

研磨体およびその製造方法

【課題】CMP法の研磨加工に用いられる研磨体(LHAパッド)であって、内部に有する気孔により被研磨物に対し適度な圧縮弾性を発揮する研磨体を提供する。
【解決手段】研磨体10は、研磨粒子14を内包した複数の連通気孔16と、その連通気孔16と母材樹脂12とによって相互に隔てられ一の断面における断面積がその連通気孔16よりも大きい複数の大型気孔11とを、母材樹脂12中に備えるものであるので、大型気孔11により被研磨体に対し適度な圧縮弾性を発揮することができ、そのため、上記大型気孔11を備えず硬度の高い従来のLHAパッドと比較して、研磨加工の際に、被研磨体における未研磨箇所の発生やスクラッチ発生等を低減することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば半導体ウェハの面取りや表面に対するCMP法による研磨加工などに好適に用いられる研磨体とその製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、LSI等の半導体素子の製造では、薄い円板状の半導体ウェハに多数のチップを形成し、最終工程で各チップサイズに切断するという製法が採られている。最近では、たとえば超LSIの製造技術の向上に伴い集積度が飛躍的に向上し、配線の多層化が進んでいることから、各層を形成する工程においては、半導体ウェハ全体の平坦化(グローバルプラナリゼーション)が要求される。そのような半導体ウェハ全体の平坦化を実現する手法のひとつとして、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)法という研磨方法が挙げられる。このCMP法とは、定盤上に張り着けられた不織布あるいは発泡パッドなどの研磨パッド上に半導体ウェハを押しつけつつ強制回転させ、そこに微細な研磨粒子すなわち遊離砥粒を含有したスラリ(細かい粉末がたとえばアルカリ水溶液などの液体中に分散させられている濃厚な懸濁液)を供給しつつ研磨をおこなうものである。このようなCMP法によれば、液体成分による化学的研磨と遊離砥粒による機械的研磨との相乗効果によって精度の高い研磨加工が能率良く行われる。
【0003】
上記のCMP法では、定常的にスラリを研磨パッドに供給しつつ研磨加工を行うものであり、比較的高価な研磨粒子を含むスラリの消費がかさむものであった。使用済みのスラリには産業廃棄物としての処理が求められる為、廃棄に無視できない費用がかかることに加え、環境保護の観点からも好ましくなかった。また、CMP法による研磨加工において最もコストがかかるのは、スラリに含まれる研磨粒子であり、さらには、スラリに含まれる研磨粒子のすべてが必ずしも研磨加工に関与するわけではなく、多数の研磨粒子が無駄に廃棄される為、非経済的であるという不具合があった。
【0004】
これに対して、上記不具合を解消すべく、スラリによらずにCMP法による研磨加工をおこなう為の研磨粒子固定型の研磨体が考案されている。たとえば、特許文献1に記載された研磨パッド(研磨体)がそれである。これは、たとえばポリフッ化ビニルなどの母材樹脂を溶媒に溶解し、それにシリカ等の研磨粒子を多数混合し、鋳込み成形により円板状に成形されるとともに、臨界表面張力が1.6×10-2〜4.0×10-2(N/m)の範囲の母材樹脂が用いられていることから、研磨粒子が母材樹脂により形成された網目状の連通気孔内に容易に保持されるので、スラリによらずに十分な研磨効率および研磨性能が得られるとともに、半導体ウェハの研磨に寄与する研磨粒子の割合が飛躍的に高められる。上記研磨パッドは、研磨粒子が比較的緩く保持されていることを特徴とすることから、LHA(Loosely Held Abrasive)パッドとも称される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4266579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来のCMP法に用いられる研磨体(LHAパッド)の製造に際しては、溶媒に溶解された母材樹脂に研磨粒子が混合された流動性原料を用いてシート状に成形された後に、熟成工程および/または乾燥工程においてその流動性原料から溶媒が除去されることによって硬化されて所定厚みのシート状研磨体が得られるようになっている。
【0007】
しかしながら、上記の研磨体(LHAパッド)の製法によっては、溶媒が除去される際に研磨体内部に前記連通気孔以上のサイズの大きな空洞(気孔)を持たせて製造することは困難であった。例えば、前記流動性原料内に気泡を生じさせた上で硬化させる製法を上記研磨体に適用することが考えられるが、シート状に成形してから硬化が完了するまでにある程度の時間を要することや上記流動性原料が高粘度であること等に起因して気泡が偏在してしまうので、研磨体内に上記大きな空洞を均一に分散させることができなかった。そのため、前記特許文献1の研磨体はその硬度が比較的高いものとなり、研磨加工の際に、通常CMP法に用いられる発泡パッドなどのようには、上記特許文献1の研磨体に十分な圧縮変形を起こさせることができなかった。その結果として、研磨加工後の半導体ウェハ表面に未研磨箇所を生じる可能性があった。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、CMP法の研磨加工に用いられる研磨体(LHAパッド)であって、内部に有する気孔により被研磨物に対し適度な圧縮弾性を発揮する研磨体、および、その製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明者は、かかる研磨体およびその製造方法を開発すべく鋭意研究を継続した結果、上述した特許文献1に記載の研磨体の製造過程において、溶媒に溶けないが水には溶ける水溶性粒子を前記流動性原料に混ぜ込み、前記水溶性粒子を含んだまま溶媒を除去して母材樹脂を硬化させた後にその水溶性粒子を除去することによって、前記研磨体内に十分な圧縮弾性を発揮するための大きな気孔を形成することができることを見出した。本発明は、かかる着想に基づいて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a)母材樹脂および多数の研磨粒子を備えて円板状に形成され、CMP法による研磨加工に用いられる研磨体であって、(b)その研磨体は、前記研磨粒子を内包した複数の連通気孔と、その連通気孔と前記母材樹脂とによって相互に隔てられ一の断面における断面積がその連通気孔よりも大きい複数の大型気孔とを、前記母材樹脂中に備えることにある。
【0011】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、前記大型気孔の平均気孔径は0.05〜0.2(mm)の範囲内であり、前記研磨粒子の前記研磨体に対する体積割合は1〜49(%)の範囲内であることにある。
【0012】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、前記研磨体は、厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 60〜95の範囲内であることにある。
【0013】
また、請求項4に係る発明の要旨とするところは、前記母材樹脂の臨界表面張力は、1.6×10−2〜4.0×10−2(N/m)の範囲内であることにある。
【0014】
また、請求項5に係る発明の要旨とするところは、前記研磨粒子の前記研磨体に対する重量割合は2〜90(%)の範囲内であることにある。
【0015】
また、請求項6に係る発明の要旨とするところは、(a)母材樹脂および多数の研磨粒子を備えて円板状に形成され、CMP法による研磨加工に用いられる研磨体の製造方法であって、その製造方法は、(b)前記母材樹脂を溶媒に溶解し、それに対し、その溶媒に溶解せず或いはその溶媒に対する溶解度が予め定められた限度以下である水溶性粒子と前記研磨粒子とを混合することにより流動性原料とする溶解混合工程と、(c)前記流動性原料を所定の厚みのシート状に成形する成形工程と、(d)その成形工程により成形されたシート状の成形品に対して気体中水分により加湿して前記母材樹脂をゲル化させる熟成工程と、(e)その熟成工程を経た前記シート状の成形品内部の前記溶媒を前記水溶性粒子の飽和水溶液に置換してその成形品内からその溶媒を取り除く溶媒抜き工程と、(f)その溶媒抜き工程を経た前記シート状の成形品内部の前記水溶性粒子を水に置換してその成形品内からその水溶性粒子を取り除く水溶性粒子抜き工程と、(g)その水溶性粒子抜き工程を経た前記シート状の成形品を乾燥させる乾燥工程とを、含むことにある。
【0016】
また、請求項7に係る発明の要旨とするところは、(a)前記水溶性粒子の平均粒子径は0.05〜0.2(mm)の範囲内であり、(b)前記溶解混合工程は、前記研磨粒子の前記研磨体に対する体積割合が1〜49(%)の範囲内となるようにその研磨粒子を混合するものであることにある。
【0017】
また、請求項8に係る発明の要旨とするところは、前記溶解混合工程は、前記研磨体の厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 60〜95の範囲内となる量の前記水溶性粒子を混合するものであることにある。
【0018】
また、請求項9に係る発明の要旨とするところは、前記溶媒はジメチルホルムアミドであり、前記水溶性粒子はスクロースまたは塩化ナトリウムから構成されていることにある。
【0019】
また、請求項10に係る発明の要旨とするところは、前記母材樹脂の臨界表面張力は、1.6×10−2〜4.0×10−2(N/m)の範囲内であることにある。
【0020】
また、請求項11に係る発明の要旨とするところは、前記溶解混合工程は、前記研磨粒子の前記研磨体に対する重量割合が2〜90(%)の範囲内となるようにその研磨粒子を混合するものであることにある。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明によれば、その発明に係る研磨体は、前記研磨粒子を内包した複数の連通気孔と、その連通気孔と前記母材樹脂とによって相互に隔てられ一の断面における断面積がその連通気孔よりも大きい複数の大型気孔とを、前記母材樹脂中に備えるものであるので、上記大型気孔により被研磨物に対し適度な圧縮弾性を発揮することができ、そのため、上記大型気孔を備えず硬度の高い従来のLHAパッドと比較して、研磨加工の際に、被研磨物における未研磨箇所の発生やスクラッチ発生等を低減することが可能である。また、本発明に係る研磨体は、研磨粒子と母材樹脂と連通気孔とからなる従来のLHAパッドが備える研磨特性を維持している。すなわち、前記研磨粒子がその一部において前記連通気孔の内壁に固着した状態で存在し、あるいはその連通気孔内において前記母材樹脂から分離した状態で存在しており、CMP法による研磨加工に際して前記研磨粒子が前記母材樹脂からより遊離し易いことに加え、前記連通気孔内に複数の研磨粒子が好適に分散している為、スクラッチ(傷)などの不具合を発生させることなく精度の高い研磨加工をおこなうことができるという利点がある。
【0022】
また、請求項2に係る発明によれば、前記大型気孔の平均気孔径は0.05〜0.2(mm)の範囲内であるので、その大型気孔を均一に分散させ、その大型気孔による研磨体表面の凸凹を小さくして、研磨加工時に半導体ウェハ等の被研磨物によって生じ得る研磨体の損傷を少なくすることが可能である。また、前記研磨粒子の前記研磨体に対する体積割合は1〜49(%)の範囲内であるので、前記研磨体がCMP法による研磨加工に際して十分な研磨効率・研磨性能を示すことに加え、その製造に際して成形が容易であるという利点がある。なお、上記大型気孔の平均気孔径が0.05(mm)に満たないものは、その大型気孔を形成するための粒子が凝集し易くなること等に起因して、研磨体内で大型気孔を均一に分散させることが困難になる。また、上記大型気孔の平均気孔径が0.2(mm)より大きいものは、研磨加工時に研磨体の表面が例えば半導体ウェハの外縁で局所的に削れて研磨体の損傷が生じ易くなる。また、前記体積割合が1(%)に満たないものでは十分な研磨効率・研磨性能を得るのが難しく、また、上記体積割合が49(%)より高いものでは製造に際して成形が困難となる。また、前記大型気孔の平均気孔径が0.05〜0.2(mm)の範囲内であることとは、その大型気孔を満たす粒子を想定した場合にその粒子の平均粒子径が0.05〜0.2(mm)の範囲内であることである。
【0023】
また、請求項3に係る発明によれば、前記研磨体は、厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 60〜95の範囲内であるので、前記大型気孔を備えない従来のLHAパッドと比較して、低硬度としつつ製品寿命が損なわれないようにすることが可能である。なお、上記厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 60を下回るものでは、CMP法による研磨加工時に研磨体の磨耗量が大きくなり製品寿命が損なわれ、また、上記厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 95を上回るものでは、研磨体が硬すぎ被研磨物に対し十分な圧縮弾性を発揮することが困難になるおそれがある。
【0024】
また、請求項4に係る発明によれば、前記母材樹脂の臨界表面張力は、1.6×10−2〜4.0×10−2(N/m)の範囲内である。従って、その母材樹脂と前記研磨粒子とが適度な結合力により相互に固着される為、CMP法による研磨加工に際して上記研磨粒子が上記母材樹脂から遊離し易く、前記研磨体と被研磨物との間に遊離砥粒を好適に自己供給することができる。すなわち、CMP法による研磨加工に用いられる研磨体であって、スラリの供給によらずに十分な研磨効率・研磨性能を示す研磨体を提供することができる。なお、前記母材樹脂の臨界表面張力が1.6×10-2(N/m)に満たないものではCMP法による研磨加工に必要な水を研磨体がはじきやすくなる為に研磨効率が低下し、4.0×10-2(N/m)より高いものではCMP法による研磨加工に際して前記研磨粒子を離脱し難くなる。
【0025】
また、請求項5に係る発明によれば、前記研磨粒子の前記研磨体に対する重量割合は2〜90(%)の範囲内であるので、前記研磨体がCMP法による研磨加工に際して十分な研磨効率・研磨性能を示すことに加え、その製造に際して成形が容易であるという利点がある。なお、前記重量割合が2(%)に満たないものでは十分な研磨効率・研磨性能を得るのが難しく、また、上記重量割合が90(%)より高いものでは製造に際して成形が困難となる。
【0026】
また、請求項6に係る発明によれば、その発明に係る研磨体の製造方法は、(a)前記母材樹脂を溶媒に溶解し、それに対し、その溶媒に溶解せず或いはその溶媒に対する溶解度が予め定められた限度以下である水溶性粒子と前記研磨粒子とを混合することにより流動性原料とする溶解混合工程と、(b)前記流動性原料を所定の厚みのシート状に成形する成形工程と、(c)その成形工程により成形されたシート状の成形品に対して気体中水分により加湿して前記母材樹脂をゲル化させる熟成工程と、(d)その熟成工程を経た前記シート状の成形品内部の前記溶媒を前記水溶性粒子の飽和水溶液に置換してその成形品内から上記溶媒を取り除く溶媒抜き工程と、(e)その溶媒抜き工程を経た前記シート状の成形品内部の前記水溶性粒子を水に置換してその成形品内からその水溶性粒子を取り除く水溶性粒子抜き工程と、(f)その水溶性粒子抜き工程を経た前記シート状の成形品を乾燥させる乾燥工程とを、含むものである。従って、前記溶解混合工程において研磨粒子とともに水溶性粒子を混合することによって、その水溶性粒子に置き換わる大型気孔を研磨粒子とともに研磨体内部において均一に分散させることが可能である。また、前記シート状の成形品内部から溶媒と水溶性粒子とが同時に取り除かれるものではなく、前記溶媒抜き工程の後に前記水溶性粒子抜き工程が設けられているので、前記母材樹脂がゲル状であるときに水溶性粒子が取り除かれる等して上記大型気孔が十分に形成されないという不具合を、適切に防止できる。また、前記水溶性粒子は、前記溶媒に溶解せず或いはその溶媒に対する溶解度が予め定められた限度以下である、要するに、その溶媒に殆ど溶解しないので、前記水溶性粒子抜き工程の前工程までは略その原形を留め、水溶性粒子の平均粒子径を適宜に選択することで前記大型気孔の大きさを容易に設定できる。また、前記溶媒抜き工程では、水ではなく水溶性粒子の飽和水溶液が用いられるので、その溶媒抜き工程で水溶性粒子が溶解すること無く、水溶性粒子を溶媒抜き工程の完了まで残存させることが可能である。また、ゲル化、溶媒および水溶性粒子の置換、水分除去の3段階の工程が成形後に順次施されることで均一に収縮が行われるので、研磨体の割れやうねりの発生が好適に解消される。また、前記溶媒抜き工程では、ゲル化した母材樹脂から溶媒が取り除かれる際に母材樹脂が収縮して硬化するので、その母材樹脂中に複数の前記連通気孔がその母材樹脂の硬化に伴って形成される。なお、水溶性粒子は前記大型気孔の形成のために溶媒に溶解しないことが理想的であるので、前記溶解度の予め定められた限度は、水溶性粒子が溶媒に殆ど溶解しないことを示す溶解度であって、例えば、その水溶性粒子に置き換わる大型気孔が研磨体に十分な圧縮弾性を生じさせる程度の大きさとなるように設定される。また、前記所定の厚みは、前記シート状の成形品の収縮を考慮して研磨体の製品厚みを実現できるように設定される。
【0027】
また、請求項7に係る発明によれば、前記水溶性粒子の平均粒子径は0.05〜0.2(mm)の範囲内であるので、その水溶性粒子をシート状の成形品中で均一に分散させることができ、前記水溶性粒子抜き工程にて水溶性粒子が取り除かれることによって形成される大型気孔による研磨体表面の凸凹を小さくして、研磨加工時に半導体ウェハ等の被研磨物によって生じ得る研磨体の損傷を少なくすることが可能である。また、前記溶解混合工程は、前記研磨粒子の前記研磨体に対する体積割合が1〜49(%)の範囲内となるようにその研磨粒子を混合するものであるので、前記研磨体がCMP法による研磨加工に際して十分な研磨効率・研磨性能を示すことに加え、その製造に際して成形が容易であるという利点がある。
【0028】
また、請求項8に係る発明によれば、前記溶解混合工程は、前記研磨体の厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 60〜95の範囲内となる量の前記水溶性粒子を混合するものであるので、前記大型気孔を備えない従来のLHAパッドと比較して、上記研磨体を低硬度としつつその製品寿命が損なわれないようにすることが可能である。なお、前記流動性原料に対する上記水溶性粒子の混合量(体積)が多いほど、前記水溶性粒子抜き工程で水溶性粒子に置き換わる前記大型気孔の前記研磨体に占める体積割合が増すので、その研磨体の硬度が低くなる。
【0029】
また、請求項9に係る発明によれば、前記溶媒はジメチルホルムアミドであり、前記水溶性粒子はスクロースまたは塩化ナトリウムから構成されているので、本発明を実用的なLHAパッドの製造に適用でき、上記水溶性粒子を安価且つ容易に入手できる。また、上記水溶性粒子がスクロースであればナトリウムが前記研磨体に残存する心配がない。
【0030】
また、請求項10に係る発明によれば、前記母材樹脂の臨界表面張力は、1.6×10−2〜4.0×10−2(N/m)の範囲内である。従って、前記研磨体において母材樹脂と前記研磨粒子とが適度な結合力により相互に固着される為、CMP法による研磨加工に際して上記研磨粒子が上記母材樹脂から遊離し易く、前記研磨体と被研磨物との間に遊離砥粒を好適に自己供給することができる。すなわち、CMP法による研磨加工に用いられる研磨体であって、スラリの供給によらずに十分な研磨効率・研磨性能を示す研磨体を製造することができる。なお、前記母材樹脂の臨界表面張力が1.6×10-2(N/m)に満たないものではCMP法による研磨加工に必要な水を研磨体がはじきやすくなる為に研磨効率が低下する。その一方で、4.0×10-2(N/m)より高いものではCMP法による研磨加工に際して前記研磨粒子を離脱し難くなる。換言すれば、前記母材樹脂の臨界表面張力が4.0×10-2(N/m)以下であるため、前記溶媒抜き工程で母材樹脂が収縮硬化して前記連通気孔が形成される際に、研磨粒子が母材樹脂内に入り込まずに分離した状態またはCMP法による研磨加工中に遊離可能に母材樹脂に固着した状態で上記連通気孔内に設けられることになるので、上述のように、遊離砥粒を好適に自己供給できる研磨体が製造される。
【0031】
また、請求項11に係る発明によれば、前記溶解混合工程は、前記研磨粒子の前記研磨体に対する重量割合が2〜90(%)の範囲内となるようにその研磨粒子を混合するものであるので、前記研磨体がCMP法による研磨加工に際して十分な研磨効率・研磨性能を示すことに加え、その製造に際して成形が容易であるという利点がある。
【0032】
ここで、好適には、前記母材樹脂は、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニル・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリエチレン、およびポリメタクリル酸メチルの内、少なくとも1つを含むものである。このようにすれば、必要十分な臨界表面張力を備え且つ材料強度に優れた母材樹脂により、実用的な研磨体を提供することができるという利点がある。
【0033】
また、好適には、前記研磨粒子は、シリカ、セリア、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マンガン酸化物、炭酸バリウム、酸化クロム、および酸化鉄の内、少なくとも1つを含むものである。このようにすれば、被研磨体に応じた硬度を備えた研磨粒子により、実用的な研磨体を提供することができるという利点がある。
【0034】
また、好適には、前記水溶性粒子は粉砕されて微粒子化された粒子である。このようにすれば、水溶性粒子は、結晶体の粒子である場合と比較して、個々の粒子表面が不均一または不規則であるため相互に凝集し難く、前記シート状の成形品内で水溶性粒子をより均一に分散させることが可能である。
【0035】
また、好適には、前記成形工程は、前記流動性原料を所定の鋳型に流し込む鋳込成形により、その流動性原料を所定の厚みのシート状に成形するものである。
【0036】
また、好適には、前記熟成工程は、前記成形工程により成形された前記シート状の成形品に対して、50〜95%の相対湿度で15〜20時間の加湿を行うものである。このようにすれば、前記母材樹脂が例えばポリフッ化ビニリデンなどである場合において、その成形後の母材樹脂のゲル化が効率良く且つ均質に行われる。
【0037】
また、好適には、前記熟成工程は、(a)前記成形工程により成形された前記シート状の成形品に対して、70〜95%の相対湿度で1.5〜6時間の加湿を行う第1熟成工程と、(b)その第1熟成工程を経た成形品を密封状態に保持する第2熟成工程とを、含むものである。このようにすれば、前記母材樹脂が例えばポリエーテルサルホン(PES)樹脂などである場合において、その成形後の母材樹脂のゲル化が効率良く且つ均質に行われる。
【0038】
また、好適には、前記溶媒抜き工程は、前記シート状の成形品を前記水溶性粒子の飽和水溶液に浸漬して前記母材樹脂を収縮させるものである。このようにすれば、前記乾燥工程を用いることなく母材樹脂中で分離された溶媒が好適に上記飽和水溶液と置換されて母材樹脂の外へ除去されるので、乾燥による表面の局部的収縮による割れが好適に防止される。また、この溶媒抜き工程では、前記シート状の成形品が上記飽和水溶液に浸漬されてその母材樹脂中の溶媒がその飽和水溶液に置換されることによりその母材樹脂が収縮させられると、母材樹脂中には複数の連通気孔が形成されることになり、その連通気孔内には、前記研磨粒子がその一部において連通気孔の内壁に固着した状態で、あるいはその連通気孔内において前記母材樹脂から分離した充填状態で存在しており、CMP法による研磨加工に際して前記研磨粒子が前記母材樹脂からより遊離し易いことに加え、前記連通気孔内に複数の研磨粒子が好適に分散している為、スクラッチ(傷)などの不具合を発生させることなく精度の高い研磨加工を行うことができるという利点がある。
【0039】
また、好適には、前記乾燥工程は、前記シート状の成形品をシート状吸水材を挟んで積層した状態で大気中で保持するものであるので、そのシート状の成形品の乾燥を均一に且つ能率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施例であり、CMP法による研磨加工に用いられるシート状の研磨体を示す斜視図である。
【図2】図1に示す研磨体の表面を走査型電子顕微鏡によって拡大した様子を示す図である。
【図3】図2に示す研磨体の表面内で大型気孔が含まれない箇所Aを図2よりも高倍率で走査型電子顕微鏡によって拡大した様子を示す図である。
【図4】図1に示す研磨体の構成を拡大して模式的に示す図である。
【図5】図1に示す研磨体が用いられるCMP法による研磨加工装置の要部構成を示す、研磨定盤の軸心方向から見た平面図である。
【図6】図5に示す研磨加工装置の正面図である。
【図7】図1に示す研磨体の製造方法を説明する第1実施例の工程図である。
【図8】図7に示す研磨体の製造方法により得られる研磨体の硬度と、その製造過程で混合される水溶性粒子の研磨体に対する体積割合との関係を示す図である。
【図9】図1に示す研磨体の製造方法を説明する第2実施例の工程図であって、図7に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0042】
図1は、本発明の一実施例である研磨体10を示す斜視図である。この図に示すように、本実施例の研磨体10は、母材樹脂12および多数の研磨粒子14を備えて円板状に形成されたものであり、たとえば外径300(mmφ)×厚み5(mm)t程度の寸法を備えている。かかる研磨体10は、後述するように、研磨加工装置18の研磨定盤20に貼り付けられて、専らCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)法による研磨加工に用いられるものである。
【0043】
上記母材樹脂12には、その臨界表面張力γCL(高分子表面に各種の低分子液体をのせ、その接触角θと液体の表面張力γLをプロットして得られる直線を補外したθ=0すなわちcosθ=1における表面張力)が1.6×10-2〜4.0×10-2(N/m)の範囲内である合成樹脂材料が好適に用いられる。すなわち、かかる母材樹脂12は、例えばポリフッ化ビニリデンから構成される。しかし、その他の樹脂、たとえば、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニル・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリエチレン、およびポリメタクリル酸メチルの内の少なくとも1つを含むものであってもよい。上記ポリエチレンは、その分子量が百万以上のものであることが望ましい。
【0044】
また、上記研磨粒子14は、好適には、その平均粒子径が0.005〜10(μm)の範囲内であり、たとえばシリカが用いられるが、その他の研磨粒子たとえばセリア、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マンガン酸化物、炭酸バリウム、酸化クロム、および酸化鉄の内の少なくとも1つを含むものが用いられてもよい。上記シリカとしては、たとえばヒュームドシリカ(四塩化ケイ素、クロロシランなどを水素および酸素の存在のもとで高温燃焼させて得られるシリカ微粒子)などが好適に用いられる。ここで、好適には、上記研磨粒子14の上記研磨体10に対する体積割合は1〜49(%)の範囲内であり、重量割合は2〜90(%)の範囲内である。上記体積割合が1(%)に満たないもの又は上記重量割合が2(%)に満たないものでは十分な研磨効率・研磨性能を得るのが難しく、また、上記体積割合が49(%)より高いもの又は上記重量割合が90(%)より高いものでは製造に際して成形が困難となる。なお、研磨粒子14の粒子径はレーザー回折・散乱法で測定されたもの例えば日機装株式会社製の粒子径・粒度分布測定装置マイクロトラックMT3300で測定されたものであり、平均粒子径とは粒子径の算術平均である。本実施例におけるその他の粒子の粒子径についても同様である。上記レーザー回折・散乱法の測定限度を下回る粒子径は、例えば日機装株式会社製の粒子径・粒度分布測定装置ナノトラックUPA−EX250等を使用して動的光散乱法で測定される。
【0045】
図2および図3は、本実施例の研磨体10の表面を微分干渉顕微鏡によって拡大した様子を示す図である。そして、図3は、図2に示す研磨体10の表面内で大型気孔11が含まれない箇所Aを図2よりも高倍率で拡大した様子を示す図である。図2に示すように、大型気孔11は研磨体10の表面および内部に均一に分散している。更に、図3に示すように、上記母材樹脂12はたとえば断面径の平均が0.05(μm)程度の繊維状を成しており、その繊維状の母材樹脂12の間隙にたとえば平均粒子径が0.25(μm)程度の研磨粒子14がその一部において上記母材樹脂12の外周に固着した状態で、あるいはその間隙において上記母材樹脂12から分離した状態で存在している。すなわち、かかる繊維状の母材樹脂12の断面径の平均は、たとえば研磨粒子14の平均粒子径の1/10〜1/3程度である。そのような繊維状の母材樹脂12相互の間隙を複数の連通気孔(連通孔)16と考えれば、上記研磨粒子14はその連通気孔16内に設けられたものであると言える。かかる連通気孔16の前記研磨体10に対する体積割合は、たとえば15〜60(%)程度である。本実施例の研磨体10の硬度は大型気孔11の研磨体10に対する体積割合が大きいほど低下するものであり、好適には、その研磨体10は、厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 60〜95の範囲内である。この硬度は、(社)日本ゴム協会の標準規格(SRIS)の規格No. SRIS 0101に規定されており、硬度計の測定子を円板状の研磨体10の厚み方向すなわち軸方向に押圧して測定される。上記厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 60を下回るものでは、CMP法による研磨加工時に研磨体10の磨耗量が大きくなり製品寿命が損なわれ、また、上記厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 95を上回るものでは、研磨体10が硬すぎ被研磨体(被研磨物)に対し十分な圧縮弾性を発揮することが困難になり、被研磨体に対し面圧が不均一になるおそれがある。
【0046】
図4は、本実施例の研磨体10の構成を模式的に示す図であり、この図に示すように、上記研磨粒子14はその一部において上記連通気孔16の内壁に固着した状態で、あるいはその連通気孔16内において上記母材樹脂12から分離した状態で存在している。つまり、図3および図4に示すように、それぞれの連通気孔16は研磨粒子14を内包して母材樹脂12中に形成されている。また、図2および図4に示すように、一の断面における断面積が連通気孔16よりも十分に大きい複数の大型気孔11が、連通気孔16と母材樹脂12とによって相互に隔てられて均一に分散して研磨体10内に設けられている。そして、連通気孔16および母材樹脂12は、大型気孔11に接するように、換言すれば、大型気孔11を取り囲むように形成されている。そのように、本実施例の研磨体10においては、多数の大型気孔11により被研磨体に対し適度な圧縮弾性を有する硬度、例えば研磨体10の厚みが4.5(mm)であればASKER C 60〜95の範囲内に入る硬度とされている。また、後述するCMP法による研磨加工に際して、前記研磨粒子14が前記母材樹脂12から遊離し易い構成とされている。詳細に言えば、前記母材樹脂12の臨界表面張力γCLは1.6×10-2〜4.0×10-2(N/m)の範囲内とされたものであり、その母材樹脂12と前記研磨粒子14とが必要十分な結合力により相互に固着されている為、前記研磨体10は、研磨体10と被研磨体との間に遊離砥粒すなわち遊離した研磨粒子14を好適に自己供給することができる。すなわち、従来のCMP法による研磨加工においては、たとえばコロイダルシリカなどを含有したスラリの供給が不可欠であったが、本実施例の研磨体10は、そのようなスラリによることなく、遊離砥粒を含まない研磨液の供給によってCMP法による研磨加工を可能とするものである。ここで、好適には、大型気孔11の平均気孔径は0.05〜0.2(mm)の範囲内である。その大型気孔11の平均気孔径が0.05〜0.2(mm)の範囲内であることとは、その大型気孔11を満たす粒子すなわち後述する水溶性粒子PLWSを想定した場合にその粒子(水溶性粒子PLWS)の平均粒子径が0.05〜0.2(mm)の範囲内であることである。大型気孔11の平均気孔径が0.05(mm)に満たないものは、その大型気孔11を形成するための水溶性粒子PLWSが凝集し易くなること等に起因して、研磨体10内で大型気孔11を均一に分散させることが困難であり、更に、研磨体10の所望の硬度を得るための水溶性粒子PLWSの使用量が多くなって研磨体10の製造コストが高くなる。また、大型気孔11の平均気孔径が0.2(mm)より大きいものは、研磨加工時に研磨体10の表面が例えば半導体ウェハ26の外縁で局所的に削れて研磨体10の損傷が生じ易くなり製品寿命を低下させる可能性があり、更に、研磨体10表面の面粗度が大きいために研磨加工の際に発生する研磨屑が増え研磨体10の製品としての品質感乃至は使用感を低下させる。
【0047】
図5および図6は、本実施例の研磨体10が用いられるCMP法による研磨加工装置18の要部の構成を示す略図である。図5は研磨定盤20の軸心方向から見た平面図、図6は正面図である。これらの図に示すように、研磨加工装置18では、研磨定盤20がその軸心まわりに回転可能に支持された状態で設けられており、その研磨定盤20は、図示しない定盤駆動モータにより、図に矢印で示す1回転方向へ回転駆動されるようになっている。この研磨定盤20の上面すなわち被研磨体が押しつけられる面には、本実施例の研磨体10が貼り付けられている。一方、上記研磨定盤20の近傍には、被研磨体(ワーク)を保持する為のワーク保持部材22がその軸心まわりに回転可能、その軸心方向に移動可能に支持された状態で配置されており、そのワーク保持部材22は、図示しないワーク駆動モータにより図に矢印で示す1回転方向へ回転駆動されるようになっている。かかるワーク保持部材22の下面すなわち上記研磨体10と対向する面には吸着層24を介して被研磨体である半導体ウェハ26が吸着保持される。また、ワーク保持部材22の近傍には、研磨液供給用ノズル28が配置され、研磨加工に際しては図示しないタンクから送出されたアルカリ性あるいは酸性水溶液である研磨液が上記研磨液供給用ノズル28から供給される。
【0048】
CMP法による研磨加工に際しては、上記研磨定盤20およびそれに貼り付けられた研磨体10と、ワーク保持部材22およびそれに吸着保持された半導体ウェハ26とが、上記定盤駆動モータおよびワーク駆動モータによりそれぞれの軸心まわりに回転駆動された状態で、上記研磨液供給用ノズル28から、たとえばアミン水溶液などの研磨液が上記研磨体10の表面上に供給されつつ、ワーク保持部材22に吸着保持された半導体ウェハ26がその研磨体10に押しつけられる。そうすることにより、上記半導体ウェハ26の被研磨面すなわち上記研磨体10に対向する面が、上記研磨液による化学的研磨作用と、上記研磨体10により自己供給された研磨粒子14による機械的研磨作用とによって平坦に研磨される。
【0049】
また、図5および図6に示すように、研磨加工装置18には、研磨定盤20の軸心に平行な軸心まわりに回転可能、その軸心方向および研磨定盤20の径方向に移動可能に配置された調整工具保持部材30と、その調整工具保持部材30の下面すなわち研磨体10と対向する面に取り付けられた研磨体調整工具32とが設けられており、かかる調整工具保持部材30およびそれに取り付けられた研磨体調整工具32は、図示しない調整工具駆動モータにより回転駆動された状態で研磨体10に押しつけられ、必要に応じて前記研磨定盤20の径方向に往復移動させられることにより、研磨体10の調整がおこなわれてその研磨体10の表面状態が研磨加工に適した状態に維持される。
【0050】
図7は、本実施例の研磨体10の製造方法を示す工程図である。以下、この図に従ってその研磨体10の製造方法について説明する。先ず、溶解工程P1において、前記母材樹脂12がたとえばDMF(ジメチルホルムアミド)などの溶媒SLVに溶解させられる。すなわち、たとえば前記母材樹脂12とその溶媒SLVとを撹拌装置に投入し、40〜60(℃)程度に加熱しつつ混合・撹拌して流動性原料を得る。ここで、前記母材樹脂12と溶媒SLVとの体積比は、1:4乃至1:6程度とされるのが好適である。かかる溶媒SLVは、後述する成形工程P3において成形性を高めるとともに、熟成工程P4および溶媒抜き工程P51において前記母材樹脂12に連通気孔16を形成する為に機能するものであり、溶解工程P1において投入される溶媒SLVの量は、成形後の研磨体10における連通気孔16の体積割合に関わってくる。上述した程度の母材樹脂12と溶媒SLVとの体積比であれば、成形後の前記研磨体10に体積割合で30〜40(%)程度の連通気孔16が形成される。
【0051】
次に、混合撹拌工程P2において、前記研磨粒子14と水溶性粒子PLWSとを上記流動性原料に混合して撹拌する。これは、たとえば溶解工程P1で用いられていた撹拌装置をそのまま用いて、上記流動性原料中に研磨粒子14および水溶性粒子PLWSを投入して混合・撹拌するのが好適である。ここで、好適には、研磨粒子14の研磨体10に対する体積割合が1〜49(%)の範囲内となり重量割合が2〜90(%)範囲内となるように,研磨粒子14の投入量が設定される。更に、好適には、前記研磨粒子14と水溶性粒子PLWSとの和の前記研磨体10に対する体積割合が2〜50(%)の範囲内となるように前記研磨粒子14および水溶性粒子PLWSの投入量が設定される。前記研磨粒子14と水溶性粒子PLWSとの和の研磨体10に対する体積割合が50(%)より高いものでは、後述する成形工程P3における成形が困難となる。また、水溶性粒子PLWSを混合することが研磨体10の硬度低下に寄与するためには研磨体10に対する水溶性粒子PLWSの体積割合を1%以上とすることが望ましく、前述したように研磨粒子14の研磨体10に対する体積割合は好適には1〜49(%)の範囲内であるので、上記研磨粒子14と水溶性粒子PLWSとの和の研磨体10に対する体積割合は2(%)を下限とするのが好適である。前記溶解工程P1および混合撹拌工程P2が本発明の溶解混合工程に対応する。
【0052】
水溶性粒子PLWSは、水溶性である一方で、前記大型気孔11の形成のために溶媒SLVに溶解しないのが望ましいが、例えば、水溶性粒子PLWSの溶媒SLVに対する溶解度が、後述の水溶性粒子抜き工程P52まで水溶性粒子PLWSが溶媒SLVに殆ど溶解せず略その原形を留める程度の予め実験的に定められた限度以下であっても差し支えない。水溶性粒子PLWSとは、具体的にはスクロース(砂糖、蔗糖)であるが、例えば、水溶性であれば塩化ナトリウム等の塩であってもよい。その水溶性粒子PLWSは、グラニュー糖などの結晶体であっても粉砂糖のような粉砕処理により微粒子化された粒子であってもよいが、個々の水溶性粒子PLWSを凝集させず均一に分散させるためには、粉砕処理により微粒子化された粒子の方がよい。水溶性粒子PLWSの平均粒子径は、前述した大型気孔11の平均気孔径の範囲と同様に、好適には、0.05〜0.2(mm)の範囲内である。また、水溶性粒子PLWSの研磨体10に対する体積割合が大きいほど研磨体10の硬度は低下するので、好適には、混合撹拌工程P2での水溶性粒子PLWSの投入量は、研磨体10の厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 60〜95の範囲内となるように設定される。
【0053】
上記溶解工程P1および混合撹拌工程P2によって得られた流動性原料は、続く成形工程P3において、ドクターブレードを通して所定厚みに掻き通されるか、或いはTダイ(平ノズル型)の長手状平ノズルから所定厚みに押し出されることで、それらドクターブレード或いはTダイに対して相対移動させられる平坦なスチール製平ベルト上或いは平坦なアルミニウム合金製の成形板上にシート状に成形される。上記所定厚みは、例えば、シート状の成形体の乾燥等による収縮を考慮して研磨体10の製品厚みを実現できるように設定される。
【0054】
続く熟成工程P4では、成形工程P3により成形されたシート状の成形体(成形品)に対して気体中水分により加湿して母材樹脂12をゲル化する。例えば、20℃である常温および常圧下において50乃至95%の範囲の相対湿度に加湿管理された比較的密閉環境(樹脂シートで覆われた密閉空間或いは密閉容器)内において、上記成形工程P3において成形されたシート状の成形体を、たとえば15乃至20時間、好適には18時間程度保持することで、溶媒SLVの蒸発を抑制しつつ、シート状の成形体に含まれる母材樹脂12を緩やかに析出させて十分にゲル化する。そのシート状の成形体(以下、「シート状成形体」という)においては、水分の存在により溶媒SLVの母材樹脂12に対する溶解力が低下することにより、その溶媒SLVに溶解している母材樹脂12は硬化(ゲル化)する性質があり、また、母材樹脂12を溶解している溶媒SLVの揮発はその溶媒SLV内の濃度を高めるために母材樹脂12の硬化(ゲル化)を促進する性質がある。そして、それら母材樹脂12の硬化(ゲル化)は表層において促進され、全体として不均一なゲル化となり易く、研磨体10の表面のうねりや割れの原因となる。このため、熟成工程P4では、50%以上であり且つ結露しない95%以下の範囲の相対湿度に加湿管理された常温の比較的密閉環境下で15乃至20時間程度保持されることにより、母材樹脂12が加湿空気にさらされて、空気中の水蒸気という形態で水分を母材樹脂12に供給することによりその母材樹脂12が均一にゲル化される。この段階では、母材樹脂12が溶媒SLVを含んで膨潤した状態であるため、連通気孔16は形成されていない。
【0055】
ここで、上記相対湿度が95%を超えると局部的に結露した水がシート状成形体に触れて局部的な硬化を発生させる可能性がある。上記相対湿度が50%を下回るとゲル化の速度が得られないだけでなく、シート状成形体の表層の乾燥を促進させてうねりの発生原因となる。上記常温とは、20℃程度の温度に限らず、15乃至30℃程度の範囲の温度であってもよい。また、母材樹脂12を溶解している溶媒SLVの揮発を防止するための密閉環境は、シート状成形体付近の大気中の溶媒SLVの蒸気圧を飽和蒸気圧に近く維持できる程度でよいため、上記の加湿環境を維持するためのにシート状成形体付近を樹脂シートで覆う程度でもよくそれほど高い気密性を要しない。
【0056】
続いて、溶媒抜き工程P51では、上記熟成工程P4を経た前記シート状成形体内部の溶媒SLVを水溶性粒子PLWSの飽和水溶液WSSTRに置換してそのシート状成形体内から溶媒SLVを取り除く。具体的には、上記熟成工程P4により母材樹脂12がゲル化させられたシート状成形体を水溶性粒子PLWSの飽和水溶液WSSTRに浸漬し、母材樹脂12中の溶媒SLVを上記水溶性粒子PLWSの飽和水溶液WSSTRで置換させることによりその溶媒SLVを母材樹脂12内から除去する。このように溶媒SLVが除去されると、母材樹脂12は収縮して硬化するとともに、その母材樹脂12中には連通気孔16が形成される。上記水溶性粒子PLWSの飽和水溶液WSSTRとは、溶媒抜き工程P51が実施される環境下で溶解しうる最大の量の水溶性粒子PLWSを溶かした水溶液であるので、溶媒抜き工程P51では、シート状成形体内に固体として存在する水溶性粒子PLWSは溶解することなく、溶媒SLVが母材樹脂12内から選択的に除去される。
【0057】
続いて、水溶性粒子抜き工程P52では、上記溶媒抜き工程P51を経た前記シート状成形体内部の水溶性粒子PLWSを水に置換してそのシート状成形体内から水溶性粒子PLWSを取り除く。具体的には、上記溶媒抜き工程P51により溶媒SLVが除去され母材樹脂12が収縮させられたシート状成形体を水に浸漬し、そのシート状成形体内部及び表面の水溶性粒子PLWSを水で置換させることにより、その水溶性粒子PLWSを母材樹脂12内から除去する。このように、水溶性粒子PLWSが母材樹脂12内から除去されると、母材樹脂12は収縮せずにその水溶性粒子PLWSは母材樹脂12内でそのままの形状の大型気孔11に置き換わり、多数の水溶性粒子PLWSの各々と同形状の多数の大型気孔11が形成される。この水溶性粒子抜き工程P52では、その前工程で既にシート状成形体内に連通気孔16が形成されているので、水がその連通気孔16を通ってシート状成形体内部まで浸透し、シート状成形体の表面に露出した水溶性粒子PLWSだけでなく、その内部の水溶性粒子PLWSも水で置換され除去される。すなわち、水溶性粒子抜き工程P52において、連通気孔16の存在によりシート状成形体内部の水溶性粒子PLWSが除去されるので、十分な圧縮弾性を有する研磨体10を得ることができるのである。なお、溶媒抜き工程P51および水溶性粒子抜き工程P52は、例えば、常温および常圧下において実施される。上記常圧とは、加圧または減圧をしていない圧力であり例えば1(atm)程度である。
【0058】
そして、乾燥工程P6において、例えば、上記水溶性粒子抜き工程P52を経たシート状成形体を吸水シートと交互に積層した状態で、常温の大気中に14日程度放置することによりそのシート状成形体から水分を除去し、乾燥させると、図2〜図4に示す構造を備えた本実施例の研磨体10が製造される。
【0059】
上述のように、本実施例によれば、図2〜図4に示すように、研磨体10は、研磨粒子14を内包した複数の連通気孔16と、その連通気孔16と母材樹脂12とによって相互に隔てられ一の断面における断面積がその連通気孔16よりも大きい複数の大型気孔11とを、母材樹脂12中に備えるものであるので、大型気孔11により被研磨体に対し適度な圧縮弾性を発揮することができ、そのため、上記大型気孔11を備えず硬度の高い従来のLHAパッドと比較して、研磨加工の際に、被研磨体における未研磨箇所の発生やスクラッチ発生等を低減することが可能である。
【0060】
また、本実施例によれば、好適には、大型気孔11の平均気孔径は0.05〜0.2(mm)の範囲内であり、そのようにすれば、その大型気孔11を均一に分散させ、大型気孔11による研磨体10表面の凸凹を小さくして、研磨加工時に半導体ウェハ26等の被研磨体によって生じ得る研磨体10の損傷を少なくすることが可能である。
【0061】
また、本実施例によれば、好適には、研磨体10は、厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 60〜95の範囲内であり、そのようにすれば、大型気孔11を備えない従来のLHAパッドと比較して、低硬度としつつ製品寿命が損なわれないようにすることが可能である。なお、確認的に述べるが、上記研磨体10の硬度は、研磨体10の厚みが4.5(mm)であるときの測定値で規定されているが、これは硬度測定の際の厚みを規定するものであるので、本実施例の研磨体10の厚みが4.5(mm)であることを意味するものでは無く、研磨体10の厚みが4.5(mm)に限られるわけではない。
【0062】
また、本実施例によれば、図7に示す研磨体10の製造工程において用いられる溶媒SLVは例えばDMF(ジメチルホルムアミド)であり、水溶性粒子PLWSはスクロースであるので、図7に示す研磨体10の製造工程を実用的なLHAパッドの製造に適用でき、水溶性粒子PLWSを安価且つ容易に入手できる。また、スクロースはDMFに溶解しない、すなわち、水溶性粒子PLWSは溶媒SLVに溶解せず或いはその溶媒SLVに対する溶解度が予め定められた限度以下であるので、水溶性粒子PLWSは、図7の水溶性粒子抜き工程P52の前工程P51完了までは略その原形を留め、水溶性粒子PLWSの平均粒子径を適宜に選択することで大型気孔11の大きさ(平均気孔径)を容易に設定できる。また、スクロースは水溶性であるので、水溶性粒子抜き工程P52で水溶性粒子PLWSを除去するために、特殊な溶剤等を必要とせずに安価な水を用いることが可能である。また、水溶性粒子PLWSがスクロースである場合には、塩化ナトリウムである場合との比較で、ナトリウムが研磨体10に残存する心配がない。
【0063】
また、本実施例によれば、水溶性粒子PLWSは、結晶体の粒子であるよりも粉砕されて微粒子化された粒子の方がよく、そのようにした場合には、その水溶性粒子PLWSは、結晶体の粒子である場合と比較して、個々の粒子表面が不均一または不規則であるため相互に凝集し難く、前記シート状成形体内で水溶性粒子PLWSをより均一に分散させることが可能である。
【0064】
また、本実施例によれば、図7に示す研磨体10の製造工程において、母材樹脂12を溶媒SLVに溶解し、それに対して研磨粒子14と水溶性粒子PLWSとを混合した流動性原料を所定厚みのシート状に成形した後に、そのシート状の成形品(シート状成形体)に対して気体中の水分すなわち水蒸気により加湿して母材樹脂12をゲル化させ、次いでそのシート状の成形品内部の溶媒SLVを水溶性粒子PLWSの飽和水溶液WSSTRに置換してその成形品内から溶媒SLVを取り除き、且つその成形品内部の水溶性粒子PLWSを水に置換してその成形品内から水溶性粒子PLWSを取り除き、その溶媒SLVおよび水溶性粒子PLWSが除去されたシート状の成形品を乾燥させることから、ゲル化、溶媒および水溶性粒子の置換、水分除去の3段階の工程が成形後に順次施されることで均一に収縮が行われるので、シート状の研磨体10の割れやうねりの発生が好適に解消される。
【0065】
また、本実施例によれば、図7の混合撹拌工程P2において水溶性粒子PLWSが溶解工程P1を経た流動性原料に混合されるので、その水溶性粒子PLWSに置き換わる大型気孔11を研磨粒子14とともに研磨体10内部において均一に分散させることが可能である。また、図7に示す研磨体10の製造工程は、前記シート状成形体内部から溶媒SLVと水溶性粒子PLWSとが同時に取り除かれるものではなく、図7に示すように、溶媒抜き工程P51の後に水溶性粒子抜き工程P52が設けられているので、母材樹脂12がゲル状であるときに水溶性粒子PLWSが取り除かれる等して大型気孔11が研磨体10内に十分に形成されないという不具合を、適切に防止できる。また、溶媒抜き工程P51では、水ではなく水溶性粒子PLWSの飽和水溶液WSSTRが用いられるので、その溶媒抜き工程P51で水溶性粒子PLWSが溶解すること無く、水溶性粒子PLWSを水溶性粒子抜き工程P52まで残存させることが可能である。また、研磨体10の大型気孔11は、水溶性粒子PLWSが水により除去されて形成されるものであるので、例えばシート状成形体内の発泡スチロール等を燃焼除去して気孔形成する場合と比較して、融点が低い母材樹脂12で研磨体10を構成することが可能である。
【0066】
また、本実施例によれば、例えば、熟成工程P4は、成形工程P3により成形されたシート状の成形品に対して、50乃至95%の相対湿度で15乃至20時間の加湿を行うものであることから、母材樹脂12が特にポリフッ化ビニリデンなどである場合において、その成形後の母材樹脂12のゲル化が効率良く且つ均質に行われる。なお、加湿時間が20時間を超える場合は母材樹脂12のゲル化の効率が悪化し、加湿時間が15時間未満である場合は母材樹脂12の均質なゲル化に支障を来たす。
【0067】
また、本実施例によれば、溶媒抜き工程P51は、前記シート状成形体を水溶性粒子PLWSの飽和水溶液WSSTRに浸漬して母材樹脂12を収縮させるものであることから、乾燥工程P6を用いることなく母材樹脂12中で分離された溶媒SLVが好適に水溶性粒子PLWSの飽和水溶液WSSTRと置換されて母材樹脂12の外へ除去されるので、乾燥による表面の局部的収縮による割れが好適に防止される。また、この溶媒抜き工程P51では、前記シート状成形体が水溶性粒子PLWSの飽和水溶液WSSTRに浸漬されてその母材樹脂12中の溶媒SLVが水溶性粒子PLWSの飽和水溶液WSSTRに置換されることによりその母材樹脂12が収縮させられると、母材樹脂12中には複数の連通気孔16が形成されることになり、その連通気孔16内には、研磨粒子14がその一部において連通気孔16の内壁に固着した状態で、あるいはその連通気孔16内において母材樹脂12から分離した充填状態で存在しており、CMP法による研磨加工に際して研磨粒子14が母材樹脂12からより遊離し易いことに加え、連通気孔16内に複数の研磨粒子14が好適に分散している為、スクラッチ(傷)などの不具合を発生させることなく精度の高い研磨加工をおこなうことができるという利点がある。
【0068】
また、本実施例によれば、水溶性粒子抜き工程P52では、前記シート状成形体が水に浸漬されてその母材樹脂12中の水溶性粒子PLWSが水に置換されることにより、母材樹脂12中には複数の大型気孔11が形成されることになり、その複数の大型気孔11の各々は互いに連通気孔16および母材樹脂12を境界として研磨体10内に存在しており、CMP法による研磨加工に際して研磨体10に適度な圧縮弾性を持たせることができるため、未研磨箇所などの不具合を発生させることなく精度の高い研磨加工を行うことができるという利点がある。
【0069】
また、本実施例によれば、乾燥工程P6は、水溶性粒子抜き工程P52を経たシート状成形体をシート状吸水材を挟んで積層した状態で大気中で保持するものであることから、そのシート状成形体の乾燥を均一に且つ能率良く行うことができる。
【0070】
また、本実施例によれば、母材樹脂12の臨界表面張力γCLは、好適には、1.6×10−2〜4.0×10−2(N/m)の範囲内であり、そのようにすれば、その母材樹脂12と研磨粒子14とが適度な結合力により相互に固着される為、CMP法による研磨加工に際して研磨粒子14が母材樹脂12から遊離し易く、研磨体10と被研磨体である半導体ウェハ26との間に遊離砥粒を好適に自己供給することができる。すなわち、CMP法による研磨加工に用いられる研磨体10であって、スラリの供給によらずに十分な研磨効率・研磨性能を示す研磨体10を提供することができる。なお、母材樹脂12の臨界表面張力γCLが1.6×10-2(N/m)に満たないものではCMP法による研磨加工に必要な水を研磨体10がはじきやすくなる為に研磨効率が低下する。その一方で、その臨界表面張力γCLが4.0×10-2(N/m)より高いものではCMP法による研磨加工に際して研磨粒子14を離脱し難くなる。換言すれば、母材樹脂12の臨界表面張力γCLが4.0×10-2(N/m)以下であることによって、図7の溶媒抜き工程P51で母材樹脂12が収縮硬化して連通気孔16が形成される際に、研磨粒子14が母材樹脂12内に入り込まずに分離した状態またはCMP法による研磨加工中に遊離可能に母材樹脂12に固着した状態で連通気孔16内に設けられることになるので、上述のように、遊離砥粒を好適に自己供給できる研磨体10が製造される。
【0071】
また、本実施例によれば、前記母材樹脂12は複数の連通気孔16を備えて形成されたものであり、前記研磨粒子14はその連通気孔16内に設けられたものである為、前記研磨粒子14がその一部において前記連通気孔16の内壁に固着した状態で、あるいはその連通気孔16内において前記母材樹脂12から分離した状態で存在しており、CMP法による研磨加工に際して前記研磨粒子14が前記母材樹脂12からより遊離し易いことに加え、前記連通気孔16内に複数の研磨粒子14が好適に分散している為、スクラッチなどの不具合を発生させることなく精度の高い研磨加工をおこなうことができるという利点がある。
【0072】
また、本実施例によれば、好適には、研磨粒子14の研磨体10に対する体積割合は1〜49(%)の範囲内であり、重量割合は2〜90(%)の範囲内である。すなわち、図7の混合撹拌工程P2では、研磨粒子14の研磨体10に対する体積割合が1〜49(%)の範囲内となり重量割合が2〜90(%)範囲内となるように,研磨粒子14が流動性原料に混合される。このようにすれば、研磨体10がCMP法による研磨加工に際して十分な研磨効率・研磨性能を示すことに加え、その製造に際して成形が容易であるという利点がある。なお、研磨粒子14と水溶性粒子PLWSとの和の研磨体10に対する体積割合が50(%)より高いもの又は上記重量割合が90(%)より高いものでは、研磨体10の製造に際して成形が困難となる。
【0073】
また、本実施例によれば、前記母材樹脂12は、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニル・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリエチレン、およびポリメタクリル酸メチルの内、少なくとも1つを含むものである為、必要十分な臨界表面張力γCLを備え且つ材料強度に優れた母材樹脂12により、実用的な研磨体10を提供することができるという利点がある。
【0074】
また、本実施例によれば、前記研磨粒子14は、シリカ、セリア、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マンガン酸化物、炭酸バリウム、酸化クロム、および酸化鉄の内、少なくとも1つを含むものである為、半導体ウェハ26等の被研磨体に応じた硬度を備えた研磨粒子14により、実用的な研磨体10を提供することができるという利点がある。
【0075】
また、本実施例において、図7の成形工程P3では、Tダイの長手状平ノズルから所定厚みに押し出されること等によって前記シート状成形体が成形されるが、溶解工程P1および混合撹拌工程P2によって得られた前記流動性原料を所定の鋳型に流し込む鋳込成形により、上記シート状成形体が成形されても差し支えない。例えば、前記溶解工程P1において前記母材樹脂12を溶媒SLVに溶解して流動性材原料とする一方、前記混合撹拌工程P2において前記研磨粒子14と水溶性粒子PLWSとをその流動性原料に混合して撹拌し、そうして得られた前記研磨粒子14と水溶性粒子PLWSとを含む流動性原料を続く成形工程P3において円形の所定の鋳型に流し込んで成形する。そうすることにより、前記母材樹脂12が固化するのに伴ってその母材樹脂12と分離した前記溶媒SLVがその母材樹脂12に複数の連通気孔16を形成し、且つその連通気孔16内に前記研磨粒子14が好適に分散する。その結果、前記母材樹脂12が複数の連通気孔16を備えて形成され、前記研磨粒子14がその連通気孔16内に設けられた研磨体10を提供することができる。かかる研磨体10は、前記研磨粒子14がその一部において前記連通気孔16の内壁に固着した状態で、あるいはその連通気孔16内において前記母材樹脂12から分離した状態で存在しており、CMP法による研磨加工に際して前記研磨粒子14が前記母材樹脂12から遊離し易いことに加え、前記連通気孔16内に複数の研磨粒子14が好適に分散している為、スクラッチなどの不具合を発生させることなく精度の高い研磨加工をおこなうことができる。すなわち、CMP法による研磨加工に用いられる研磨体であって、スラリによらずに十分な研磨効率・研磨性能を示す研磨体10の製造方法を提供することができる。
【0076】
図8は、本発明者等が行った実験結果を示している。本実験は、図7に示す製造工程において、水溶性粒子PLWSの研磨体10に対する体積割合すなわち水溶性粒子PLWSの体積比率を0%、10%、20%、30%、40%、50%と段階的に変化させたときに得られた厚み4.5(mm)の研磨体10の硬度を示している。この硬度は、ASKER C 96〜99の範囲であると、研磨体10の圧縮弾性が極端に不足するため、CMP法による研磨加工の際に被研磨体に未研磨箇所を生ずる可能性が増大する。一方で、上記水溶性粒子PLWSの体積比率を50%とした場合には研磨体10の成形が困難であった。この図8から、例えば、研磨体10の硬度を、厚み4.5(mm)においてASKER C 60〜95の範囲内にするためには、上記水溶性粒子PLWSの体積比率を10〜48%程度とする必要があるものと考えられる。この実験で用いられた研磨体10の試験片の厚みは、4.5(mm)である。図8の実験結果は、水溶性粒子PLWSとして、氷砂糖を粉砕して製造した平均粒子径0.17(mm)の粉砂糖を用いた場合のものであるが、結晶体である平均粒子径0.5(mm)のグラニュー糖を用いた場合でも同様である。但し、水溶性粒子PLWSとして平均粒子径0.5(mm)のグラニュー糖を用いた場合は、平均粒子径0.17(mm)の粉砂糖を用いた場合と比較して、研磨体10表面が粗く、研磨加工の際に発生する研磨屑が多くなるという結果となった。
【実施例2】
【0077】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0078】
図9は、前記研磨体10の他の製造方法を示す工程図である。以下、この図に従ってその研磨体10の製造方法について説明する。
【0079】
溶解工程P1、混合撹拌工程P2は、前述の第1実施例と同様の溶解、混合、攪拌条件であるが、母材樹脂12としてポリエーテルサルホン(PES)樹脂が用いられる点で相違している。すなわち、母材樹脂12がたとえばDMF(ジメチルホルムアミド)などの溶媒SLVに溶解させられ、それに研磨粒子14および水溶性粒子PLWSが混合されて流動性原料が作製される。
【0080】
上記溶解工程P1および混合撹拌工程P2によって得られた流動性原料は、続く成形工程P3において、円形の鋳型内に流し込まれて鋳込成形されるか、或いは円形の容器内に流し込まれた後所定のブレードを用いて表面が平坦化され、均一厚みとされる。そして、必要に応じて振動が加えられるか、真空により脱泡される。
【0081】
次いで、第1熟成工程P41および第2熟成工程P42において母材樹脂12が十分にゲル化される。すなわち、第1熟成工程P41では、たとえば20℃である常温および常圧下において10乃至95%の範囲の相対湿度、好適には70乃至95%の範囲の相対湿度に加湿管理された比較的密閉環境(樹脂シートで覆われた密閉空間或いは密閉容器)内において、上記成形工程P3において成形されたシート状の成形体を、たとえば1.5乃至6時間、好適には3時間程度保持する。続く第2熟成工程P42では、そのシート状の成形体を樹脂シートで覆うことで容器或いは空間内で密封し、たとえば3日乃至2週間保持する。このことにより、溶媒SLVの蒸発を抑制しつつ、シート状の成形体に含まれる母材樹脂12を緩やかに析出させて、十分に且つ均一にゲル化する。
【0082】
前述の実施例と同様に、シート状の成形体においては、水分の存在により溶媒SLVの母材樹脂12に対する溶解力が低下することにより、その溶媒SLVに溶解している母材樹脂12は硬化(ゲル化)する性質があり、また、母材樹脂12を溶解している溶媒SLVの揮発はその溶媒SLV内の濃度を高めるために母材樹脂12の硬化(ゲル化)を促進する性質がある。そして、それら母材樹脂12の硬化(ゲル化)は表層において促進され、全体として不均一なゲル化となり易く、研磨体10の表面のうねりや割れの原因となる。このため、第1熟成工程P41および第2熟成工程P42では、50%以上であり且つ結露しない95%以下の範囲の相対湿度に加湿管理された常温の比較的密閉環境下で72時間程度保持されることにより、母材樹脂12が加湿空気にさらされて、気中の水蒸気という形態で水分を母材樹脂12に供給することによりその母材樹脂12が均一にゲル化される。この段階では、母材樹脂12が溶媒SLVを含んで膨潤した状態であるため、連通気孔16は形成されていない。
【0083】
続く、溶媒抜き工程P51、水溶性粒子抜き工程P52、及び乾燥工程P6は、前述の第1実施例と同様である。
【0084】
本実施例によれば、前述の第1実施例と同様に、図9に示す研磨体10の製造工程において、母材樹脂12を溶媒SLVに溶解し、それに対して研磨粒子14と水溶性粒子PLWSとを混合した流動性原料を所定厚みのシート状に成形した後に、そのシート状の成形品(シート状成形体)に対して気体中の水分すなわち水蒸気により加湿して母材樹脂12をゲル化させ、次いでそのシート状の成形品内部の溶媒SLVを水溶性粒子PLWSの飽和水溶液WSSTRに置換してその成形品内から溶媒SLVを取り除き、且つその成形品内部の水溶性粒子PLWSを水に置換してその成形品内から水溶性粒子PLWSを取り除き、その溶媒SLVおよび水溶性粒子PLWSが除去されたシート状の成形品を乾燥させることから、ゲル化、溶媒および水溶性粒子の置換、水分除去の3段階の工程が成形後に順次施されることで均一に収縮が行われるので、シート状の研磨体10の割れやうねりの発生が好適に解消される。
【0085】
また、本実施例によれば、熟成工程は、成形工程P3により成形されたシート状の成形品に対して、好適には70乃至95%の相対湿度で1.5乃至6時間の加湿を行う第1熟成工程P41と、その第1熟成工程を経た成形品を密封状態に保持する第2熟成工程P42とで構成されることから、母材樹脂12がたとえばポリエーテルサルホン(PES)樹脂などである場合において、その成形後の母材樹脂12のゲル化が効率良く且つ均質に行われる。
【0086】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、さらに別の態様においても実施される。
【0087】
たとえば、前述の実施例において、前記母材樹脂12は繊維状を成すものであったが、これは本発明の好適な形態に過ぎず、本発明の研磨体10における母材樹脂12は、たとえば互いに連通した気泡状の連通気孔16を備えたものであっても構わない。すなわち、CMP法による研磨加工に際して遊離砥粒を好適に自己供給し得るものであればその態様は問わない。
【0088】
また、前述の実施例においては、前記混合撹拌工程P2は前記溶解工程P1に続いておこなわれるものであったが、前記溶解工程P1と略同時におこなわれるものすなわち前記母材樹脂12、研磨粒子14、水溶性粒子PLWS、および溶媒SLVを略同時に前記撹拌装置に投入して混合・撹拌するものであってもよく、さらには前記混合撹拌工程P2は前記溶解工程P1より先におこなわれるものすなわち前記母材樹脂12が溶媒SLVへ溶解させられるのに先立って、前記研磨粒子14と水溶性粒子PLWSとが、前記母材樹脂12および溶媒SLVの何れかに混合・撹拌されるものであっても構わない。
【0089】
また、前述の溶解工程P1においては、溶媒SLVとしてDMF(ジメチルホルムアミド)が用いられていたが、かかる溶媒SLVは、たとえばN−メチルピロリドンなどの有機溶媒であってもよく、前記溶解工程P1において母材樹脂12を好適に溶解させ、水溶性粒子PLWSを全く溶解させずまたは殆ど溶解させず、前記成形工程P3において複数の連通気孔16を形成し、且つ前記乾燥工程P4において好適に揮発し得るものであればその種類は問わない。
【0090】
また、前述の実施例においては、前記研磨体10を用いたCMP法による研磨加工における研磨液として、遊離砥粒を含有しないアルカリ水溶液などが用いられていたが、たとえばスラリを用いたCMP法による研磨加工に本発明の研磨体10が用いられても一向に構わない。そのような場合においても、わずかな遊離砥粒を含有したスラリによって十分な研磨効率・研磨性能が得られる、あるいは従来の研磨パッドおよびスラリを用いた研磨加工と比較して優れた研磨効率・研磨性能を示すなどといった効果が期待できる。また、本発明の研磨体10は、研磨液として純水などの中性液体を用いた研磨加工に用いられても構わず、広く様々な態様の研磨加工において適用され得るものである。
【0091】
また、前述の実施例においては、前記研磨体10は、シリコンベアウェハあるいは酸化膜シリコンウェハなどの半導体ウェハ26の一面全体の研磨加工に用いられていたが、本発明の研磨体10は、たとえば半導体ウエハ26の外周端面(外周面)、各種電子デバイス用ガラス基板の研磨加工などに用いられてもよい。すなわち、本発明の効果を享受し得るものであれば被研磨体の種類は問わない。
【0092】
また、前述の実施例において、大型気孔11の平均気孔径は、例えば(株)島津製作所製の細孔分布測定装置オートポアIV-9520等を使用し水銀圧入法などの適宜の測定方法を用いて測定された気孔径の算術平均であっても差し支えない。
【0093】
その他一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて用いられるものである。
【符号の説明】
【0094】
10:研磨体
11:大型気孔
12:母材樹脂
14:研磨粒子
16:連通気孔
P1:溶解工程(溶解混合工程)
P2:混合撹拌工程(溶解混合工程)
P3:成形工程
P4:熟成工程
P51:溶媒抜き工程
P52:水溶性粒子抜き工程
P6:乾燥工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材樹脂および多数の研磨粒子を備えて円板状に形成され、CMP法による研磨加工に用いられる研磨体であって、
前記研磨粒子を内包した複数の連通気孔と、該連通気孔と前記母材樹脂とによって相互に隔てられ一の断面における断面積が該連通気孔よりも大きい複数の大型気孔とを、前記母材樹脂中に備える
ことを特徴とする研磨体。
【請求項2】
前記大型気孔の平均気孔径は0.05〜0.2(mm)の範囲内であり、前記研磨粒子の前記研磨体に対する体積割合は1〜49(%)の範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載の研磨体。
【請求項3】
前記研磨体は、厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 60〜95の範囲内である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の研磨体。
【請求項4】
前記母材樹脂の臨界表面張力は、1.6×10−2〜4.0×10−2(N/m)の範囲内である
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の研磨体。
【請求項5】
前記研磨粒子の前記研磨体に対する重量割合は2〜90(%)の範囲内である
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の研磨体。
【請求項6】
母材樹脂および多数の研磨粒子を備えて円板状に形成され、CMP法による研磨加工に用いられる研磨体の製造方法であって、
前記母材樹脂を溶媒に溶解し、それに対し、該溶媒に溶解せず或いは該溶媒に対する溶解度が予め定められた限度以下である水溶性粒子と前記研磨粒子とを混合することにより流動性原料とする溶解混合工程と、
前記流動性原料を所定の厚みのシート状に成形する成形工程と、
該成形工程により成形されたシート状の成形品に対して気体中水分により加湿して前記母材樹脂をゲル化させる熟成工程と、
該熟成工程を経た前記シート状の成形品内部の前記溶媒を前記水溶性粒子の飽和水溶液に置換して該成形品内から該溶媒を取り除く溶媒抜き工程と、
該溶媒抜き工程を経た前記シート状の成形品内部の前記水溶性粒子を水に置換して該成形品内から該水溶性粒子を取り除く水溶性粒子抜き工程と、
該水溶性粒子抜き工程を経た前記シート状の成形品を乾燥させる乾燥工程と
を、含むことを特徴とする研磨体の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性粒子の平均粒子径は0.05〜0.2(mm)の範囲内であり、
前記溶解混合工程は、前記研磨粒子の前記研磨体に対する体積割合が1〜49(%)の範囲内となるように該研磨粒子を混合するものである
請求項6に記載の研磨体の製造方法。
【請求項8】
前記溶解混合工程は、前記研磨体の厚みが4.5(mm)であるときの硬度がASKER C 60〜95の範囲内となる量の前記水溶性粒子を混合するものである
請求項6又は7に記載の研磨体の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒はジメチルホルムアミドであり、前記水溶性粒子はスクロースまたは塩化ナトリウムから構成されている
ことを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の研磨体の製造方法。
【請求項10】
前記母材樹脂の臨界表面張力は、1.6×10−2〜4.0×10−2(N/m)の範囲内である
ことを特徴とする請求項6乃至9の何れか1項に記載の研磨体の製造方法。
【請求項11】
前記溶解混合工程は、前記研磨粒子の前記研磨体に対する重量割合が2〜90(%)の範囲内となるように該研磨粒子を混合するものである
請求項6乃至10の何れか1項に記載の研磨体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−49256(P2011−49256A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194753(P2009−194753)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】