説明

研磨布およびその製造方法

【課題】 ダミー研磨に要する時間を短縮を図ってウェハの生産性を高める。
【解決手段】 不織布にウレタン樹脂を含浸させた基材に、ポリ塩化ビニルなどのポリハロゲン化ビニルまたは塩化ビニル共重合体などのハロゲン化ビニル共重合体を含有させたウレタン樹脂溶液を塗布し(S9)、湿式凝固し(S10)、洗浄した(S11)後に、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体のガラス転移点よりも高温で熱処理する(S12)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェハやガラス基板、カラーフィルターなどの半導体ウェハの仕上げ研磨に好適な研磨布およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体ウェハの製造工程は、単結晶インゴットをスライスして薄円板状のウェハを得るスライス工程と、ウェハの外周部を面取りする面取り工程と、ウェハを平面化するラッピング工程と、ウェハに残留する加工歪みを除去するエッチング工程と、ウェハ表面を研磨して鏡面化する鏡面研磨工程と、研磨されたウェハを洗浄する洗浄工程とを含む。
【0003】
ウェハの上記鏡面研磨工程は、基本的に、平坦度の調整を主目的とする粗研磨と、表面粗さを改善することを主目的とする仕上げ研磨とからなる。
【0004】
この仕上げ研磨では、アルカリ溶液中に、コロイダルシリカ等を分散した研磨剤を供給しながらスエード調の研磨布などを用いて行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
スエード調の研磨布は、例えば、不織布等にウレタン樹脂を含浸させた基材に、ウレタン樹脂をジメチルホルムアミド(DMF)などの水溶性有機溶媒に溶解させたウレタン樹脂溶液を塗布し、これを凝固液で処理し湿式凝固して多孔質の銀面層を形成せしめ、水洗乾燥後、該銀面層の表面を研削して、微小ポア構造のナップ層(表面層)を形成することにより得られるものである。
【特許文献1】特開2003−37089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかるスエード調の研磨布では、高精度の被研磨物、例えば、シリコンウェハを得るために、研磨布を研磨装置に取り付けて装置を立ち上げた使用の初期段階においては、ダミーウェハ等を研磨して研磨布そのもをシリコンウエハになじませる立ち上げ処理として、ダミー研磨を行なう必要があり、このダミー研磨の後に、本来の製品であるシリコンウェハの研磨(本研磨)に移行している。
【0007】
上述のダミー研磨は、ウェハの仕上げ研磨において要求される品質の一つであるHazeが或る値以下になり、かつ、ウェハ表面の全面が「濡れている」状態になったときに、終了することができる。
【0008】
ここで、Hazeは、PV(Peak to Valley)値が10nm以下、数〜数十nmの周期の極めて微細な凹凸とされている。
【0009】
また、「濡れている」状態とは、ウェハ表面が親水性となっている状態であり、ウェハ表面に研磨液などによる親水性の膜が形成されている状態である。
【0010】
このようにウェハ表面に親水性の膜が形成された状態でなければ、仕上げ研磨が終了して次の洗浄工程に移るまでの間に、非常に活性の高いシリコンウェハ表面に、残留パーティクルが固着したりして面荒れが生じ、上述のHazeやLPD(Light Point Defect:ウェハ上の0.1μm前後の微小な欠陥、パーティクルなど)が悪化することになるからである。
【0011】
上述のようにHazeが或る値以下になり、かつ、ウェハ表面の全面が「濡れている」状態になるまでの時間、すなわち、ダミー研磨に要する時間は、従来では、一般に数時間程度必要であり、その分生産性が低下するという課題がある。
【0012】
そこで、本件出願人は、既に、特願2003−129136「仕上げ研磨用研磨布」(特開2004−335713号公報)として、基材部と、この基材部上に形成される表面層(ナップ層)とを備える仕上げ研磨用研磨布において、ウレタン樹脂を主成分とする前記表面層に、塩化ビニルなどのポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体を含有させた研磨布を提案している。
【0013】
この先に提案している仕上げ研磨用研磨布によると、表面層を構成する樹脂成分に、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体を含有させることによって、ダミー研磨に要する時間を従来に比べて短縮することができる。
【0014】
その理由は、次のように考えることができる。すなわち、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体を含有させることで、表面層の摩擦係数および吸水性の少なくともいずれか一方を調整することができ、これによって、ダミー研磨における表面層と被研磨物であるウェハとの動的摩擦およびハイドロプレーン現象の少なくともいずれか一方の寄与によって、従来に比べて、Hazeの低減およびウェハ表面の親水性(濡れ)を促進できるものと考えられる。
【0015】
本発明は、かかる研磨布の研磨特性を高め、慣らし研磨に要する時間を一層短縮することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本件発明者が検討したところ、熱処理を施すことで、表面層に研磨特性を高めるような物性の変化が生じることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0017】
すなわち、本発明の研磨布の製造方法は、基材に、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体を含有させた樹脂溶液を塗布し、湿式凝固した後に、熱処理するものである。
【0018】
ここで、基材は、不織布にウレタン樹脂溶液などの樹脂溶液を含浸させて湿式凝固したものであるのが好ましいが、PET(ポリエチレンテレフタレート)などの基材であってもよい。
【0019】
また、ハロゲンとしては、塩化ビニルが好ましく、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体を含有させた樹脂溶液としては、ウレタン樹脂溶液が好ましい。特に、基材にウレタン樹脂が含浸されている場合は、この基材側のウレタン樹脂と、塗布される側のウレタン樹脂とが一体化し、強固に結合する。
【0020】
前記熱処理は、安定した特性を得るために、ポリハロゲン化ビニルのガラス転移点以上の温度で行うのが好ましく、ポリハロゲン化ビニルが溶融する温度以下で行うのが更に好ましい。
【0021】
本発明によると、基材層の上に、湿式凝固によって形成されるナップ層(表面層)を構成する樹脂成分に、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体が含有される研磨布の製造において、熱処理を行なうことによって、研磨布の特性を安定させてダミー研磨に要する時間を短縮することができる。
【0022】
このように熱処理を行なうことによって、ダミー研磨に要する時間を短縮できる理由は、例えば、次のように考えることができる。すなわち、ポリ塩化ビニルなどのポリハロゲン化ビニルは、いわゆる結晶性ポリマーであり、熱処理によって、弾性等の特性を変化させることができ、特に、特性変化の途中状態であるガラス転移点以上の高温で熱処理することにより、弾性等の特性が安定してダミー研磨に要する時間を短縮できるものと考えられる。
【0023】
また、本発明の研磨布は、基材層と、該基材層上に形成されるナップ層とを備える研磨布であって、前記ナップ層に、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体を含有し、前記ナップ層側に反り返るように応力が発生している。
【0024】
ここで、ナップ層側に反り返るように応力が発生しているとは、研磨布の全体にこれを扁平化する外力、荷重が作用しない自然状態では、研磨布が、ナップ層側に反り返りを生じることをいう。
【0025】
この応力は、熱処理によって生じるものであるのが好ましい。
【0026】
この応力を打ち消すように、当該研磨布に対する荷重の印加により、前記ナップ層側への反り返りがなくなって全体が扁平となるものである。
【0027】
この荷重は、0.02g/mm〜0.08g/mmであるのが好ましく、より好ましくは、0.03g/mm〜0.07g/mmであり、更に好ましくは、0.04g/mm〜0.06g/mmである。
【0028】
荷重が、0.02g/mm〜0.08g/mmの範囲にない場合は、熱処理によるナップ層での特性変化が不充分あるいは過剰となり、ダミー研磨に要する時間を十分に短縮することができない。
【0029】
本発明によると、ナップ層(表面層)を構成する樹脂成分に、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体が含有させているので、研磨布の特性を安定させてダミー研磨に要する時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、基材に、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体を含有させた樹脂溶液を塗布し、湿式凝固した後に、熱処理するので、ダミー研磨に要する時間を従来に比べて短縮することができ、これによって、ウェハ等の生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る研磨布の概略断面図である。
【0032】
本実施形態の研磨布は、基材1の層に、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体を含有させた樹脂溶液を塗布し、これを湿式凝固して微小ポア構造のナップ層(表面層)2を形成し、ナップ層2の表面を平面研削してポアを開口をさせたもので、熱処理により、ナップ層2が基材1の層よりも収縮し、研磨布3の全体を扁平にした状態では、表面層2に引っ張り応力fが生じているものである。
【0033】
基材1としては、例えば、ポリアミド系、ポリエステル系等の不織布などにウレタン樹脂を含浸したものを用いるほか、オレフィン系フィルムシート、ポリエステル系フィルムシートも利用できる。
【0034】
ナップ層2は、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体を含有している。
【0035】
このナップ層2を形成するための樹脂溶液は、例えば、ウレタン樹脂をジメチルホルムアミド(DMF)などの水溶性有機溶媒に溶解させたものである。ウレタン樹脂としては、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系などのウレタン樹脂を用いることができ、異なる種類のウレタン樹脂をブレンドしてもよい。
【0036】
ウレタン樹脂を溶解させる水溶性有機溶媒としては、上述のジメチルホルムアミドの他、例えば、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド等の溶媒を用いることができる。
【0037】
また、ウレタン樹脂を溶解した有機溶媒には、カーボンブラック等の充填剤や界面活性剤等の分散安定剤を添加してもよい。カーボンブラック等の充填剤は、水溶性有機溶媒に溶解させるウレタン樹脂(固形分)に対して、5〜30重量%配合するのが好ましい。
【0038】
樹脂溶液に含まれるポリハロゲン化ビニルとしては、ポリ塩化ビニルが好ましいが、ポリフッ化ビニルやポリ臭化ビニルなどであってもよい。また、ハロゲン化ビニル共重合体としては、塩化ビニル共重合体、例えば、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体が好ましいが、他の共重合体を用いてもよい。
【0039】
ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体の含有量は、特に規定はないが、上述のジメチルホルムアミド(DMF)などの水溶性有機溶媒に溶解させるウレタン樹脂(固形分)に対して、5〜30重量%、好ましくは、10〜25重量%、更に好ましくは、12〜22重量%である。
【0040】
熱処理は、ポリハロゲン化ビニルのガラス転移点以上の温度、具体的には、ポリ塩化ビニルの場合は、そのガラス転移点である70〜80℃付近以上の温度で行うのが好ましい。
【0041】
ポリ塩化ビニルなどのポリハロゲン化ビニルは、いわゆる結晶性ポリマーであり、熱処理によって、強度、脆性、弾性、熱膨張率等の物性を変化させることができるのであるが、図2の弾性率の温度依存性に示されるように、ガラス転移点Tg付近は、物性が変化する途中の状態にあり、したがって、ガラス転移点Tg以上の高温で熱処理することにより、安定した物性を得ることができる。
【0042】
また、この熱処理は、ポリハロゲン化ビニルが溶融する温度Tm以下で行うのが好ましく、この実施形態では、ポリ塩化ビニルの融点(120℃付近)以下の温度で熱処理を行うこととしている。
【0043】
この熱処理の時間は、研磨布3の厚み、ポリハロゲン化ビニルの含有量、熱処理の温度などによって適宜選択される。
【0044】
次に、上記構成の研磨布の製造方法を、図3の製造工程図を参照して説明する。本実施形態の研磨布の製造に当たっては、先ず、ポリエステル等の不織布を、ウレタン樹脂溶液に含浸し(S1)、ウレタン樹脂を湿式凝固させ(S2)、洗浄して溶媒を除去した後(S3)、熱風で乾燥し(S4)、その後、平面研削(バフ)して基材1を得る(S5)。
【0045】
一方、ウレタン樹脂、ポリハロゲン化ビニルとしてのポリ塩化ビニル、および界面活性剤等を、ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒に溶解させて混合し(S6)、脱泡(S7)、濾過を行って、ポリ塩化ビニル含有のウレタン樹脂溶液を作製する(S8)。
【0046】
このウレタン樹脂溶液を、前記した基材1に塗布し(S9)、湿式凝固させ(S10)、洗浄して溶媒を除去した後(S11)、例えば、熱風乾燥機によって熱処理を行う(S12)。
【0047】
この熱処理は、洗浄後の乾燥工程として行うのが好ましく、その温度は、ポリハロゲン化ビニルのガラス転移点以上で、ポリハロゲン化ビニルの融点Tm以下であるのが好ましく、具体的には、例えば120℃で熱処理を行う。
【0048】
この熱処理時間は、熱処理の方法、生産性および研磨特性などを考慮して選定され、例えば、円筒状のドライヤの間を通過させて熱処理する連続式の場合の熱処理時間は、数分から数時間、好ましくは、5分から1時間であり、乾燥機などを用いたバッチ式の場合の熱処理時間は、30分から24時間、好ましくは、1時間から6時間である。
【0049】
この熱処理の後に、ナップ層2の表面を平面研削(バフ)して涙滴状のポアを開口させて研磨布3を得るものである(S13)。
【0050】
次に、上述の熱処理の温度を異ならせた複数の研磨布をサンプルとして製造し、物性および研磨評価を行なった。
【0051】
ここで、サンプルとしての研磨布は、ポリエステル不織布にウレタン樹脂を含浸させた厚さ1.1mmの基材1に、ポリ塩化ビニルを含有するウレタン樹脂溶液を塗布して、これを湿式凝固させ、その表面をバフ加工して、厚さ550μmのナップ層2を形成した上で、さらに熱処理を施したものである。サンプルAは、ポリ塩化ビニルのガラス転移点よりも低温域である60℃、サンプルBは、前記ガラス転移点の温度領域である80℃、サンプルCは、前記ガラス転移点よりも高温の融点付近である120℃でそれぞれ熱処理を、1時間行った。
【0052】
また、各サンプルA,B,Cは、水溶性有機溶媒に溶解させたウレタン樹脂(固形分)に対して、ポリ塩化ビニルを、22重量%含有させた。
【0053】
かかるサンプルA〜Cの圧縮率、回復率、表面粗さおよび厚さを、表1に示す。
【0054】
【表1】

なお、圧縮率および表面粗さの測定は、JIS‐L1096、JIS‐B0601に基づいて行った。
【0055】
表1に示すように、熱処理温度によって物性値に大きな差異は認められなかった。
【0056】
次に、各サンプルA〜Cを用いて下記の研磨条件にて仕上げ研磨を行い、研磨布の立ち上げ時間、すなわち、ダミー研磨に要する時間を測定した。
【0057】
この立ち上げ時間の判定は、研磨直後のウェハ表面の全面が濡れた状態、すなわち、親水性となった状態を目視で判定した。また、親水性となった状態において、下記のシリコンウェハの検査装置によって、Hazeの値を測定した。
研磨条件
・ ・pH:無制御
・ ・スラリー:ニッタ・ハース株式会社製NP8020
・ ・研磨機:ストラスボー社製 型式:6CA
・ ・プラテン速度:115rpm
・ ・スラリー流速:300ml/分
・ ・加圧力:100gf/cm
ウェハ検査
・ ・ウェハ検査装置:日立電子エンジニアリング株式会社製LS6600
その結果を、図4に示す。この図4においては、Hazeの値を棒グラフで示す一方、立ち上げ時間を■で表している。
【0058】
この図4に示すように、ポリ塩化ビニルのガラス転移点よりも高温の融点付近である120℃で熱処理を行ったサンプルCは、シリコンウェハ表面が親水性となるまでの所要時間は20分程度と短く、そのときのHazeの値もサンプルA,Bに比べて良好であった。
【0059】
また、ガラス転移点よりも低温域である60℃で熱処理したサンプルAは、シリコンウェハ表面が親水性となるまでの所要時間が60分程度であるのに対して、ガラス転移点の温度領域である80℃で熱処理したサンプルBは、シリコンウェハ表面が親水性となるまでの所要時間が30分程度と短縮されており、ガラス転移点付近を境界として熱処理が研磨特性に変化を与え始めていることが認められ、上述のように、ガラス転移点Tg以上の高温で熱処理することが安定した研磨特性を得る上で好ましい。
【0060】
次に、熱処理の時間を異ならせた複数の研磨布をサンプルとして製造し、物性および研磨の評価を行なった。
【0061】
サンプルとしての研磨布は、上述のサンプルと同様に製作し、120℃の熱処理を施したものである。熱処理を加えないものを比較のためのサンプルDとし、熱処理を1時間加えたものをサンプルE、熱処理2時間のものをサンプルF、熱処理4時間のものをサンプルG、熱処理24時間のものをサンプルHとした。
【0062】
そして、各サンプルD〜Hの物性として、各サンプルD〜Hのナップ層2に生じる応力を測定した。研磨布3表面に発生している応力は、引っ張り応力として研磨布自体をナップ層2側へ反り返させる。したがって、研磨布3表面の応力は、研磨布3の反り返りを修正する際の荷重により定義することができる。
【0063】
この応力の測定には、オートグラフ(島津製作所製、AG500)を使用し、以下のような手順で測定した。まず、所定の大きさ(例えば、60×60mm)に切り出した研磨布3のサンプル片3sを用意する。このサンプル片3sは、外部から荷重のかからない状態におくと、ナップ層2側を内側にして反り返る。このサンプル片3sを、図5の(a)に示すように、反り返り凹部が上を向くように、オートグラフに設置した平坦な定盤4上に静置する。
【0064】
次いで、図5の(b)に示すように、軽量でサンプル片3sより大きい(例えば、65×65mmの)プラスチック板5を用意し、これをサンプル片3sの上に静かに載せる。この状態で、サンプル片3sにまだ反り返りがあることを、横方向からの目視で確認した上で、荷重目盛りのゼロ較正を行う。
【0065】
次に、プラスチック板5の上面にオートグラフの端子を接触させ、この端子を徐々に下降させて、サンプル片3sに圧縮荷重を印加する。その際、横方向からの目視で、サンプル片3sの状態を確認し、サンプル片3sの反り返りが確認できなくなった時点で、その時の圧縮荷重を、研磨布3の表面側に発生している引っ張り応力として記録する。
【0066】
上記のように測定した各サンプルD〜Hの応力(荷重)をグラフ表示すると、図6の通りである。図6からは、熱処理により、基材1に対してナップ層2が収縮し、研磨布3のナップ層2側に0.03g/mm以上の応力が生じていることが分かる。また、熱処理の時間が増すに従って、発生する引っ張り応力が大きくなっているのが分かる。
【0067】
次に、各サンプルD〜Hを用いて下記の研磨条件にて仕上げ研磨を行い、研磨布の立ち上げ処理時間、すなわち、慣らし研磨に要する時間を測定した。
【0068】
研磨は5分単位で行い、各回の研磨直後のウェハ表面の全面が濡れた状態、すなわち、親水性となった状態を目視で判定し、親水性となった状態において、ウェハ検査装置(日立電子エンジニアリング株式会社製LS6600)によって、Hazeの値を測定した。このHazeの値が所定値以下となるまでの合計研磨時間が、慣らし研磨に要する時間である。
【0069】
研磨条件
pH:無制御
スラリー:ニッタ・ハース株式会社製NP8020(純水による希釈倍率1:20)
研磨機:ストラスボー社製 型式:6CA
プラテン速度:115rpm
スラリー流速:300ml/分
加圧力:100gf/cm
【0070】
その結果を図7に示す。なお、図8には、熱処理を行わなかったサンプルD、熱処理を4時間行ったサンプルGについての立ち上げ処理後のHazeの値を示している。
【0071】
図7に示すように、熱処理したサンプルE〜Hでは、熱処理しないサンプルDに比べ、立ち上げ時間が20分以上減少しており、しかも、熱処理時間が長くなるのに応じて、立ち上げ時間が最短20分にまで短くなっていることが分かる。
【0072】
要するに、研磨布3の表面に、0.02g/mm〜0.08g/mm、好ましくは、0.03g/mm以上0.06g/mm以下の引っ張り応力が生じるような熱処理を施すと、立ち上げ時間が従来より20分以上短縮されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、シリコンウェハなどの半導体ウェハの仕上げ研磨に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施の形態に係る研磨布の概略断面図。
【図2】弾性率の温度依存性を示す特性図。
【図3】研磨布の製造工程図。
【図4】熱処理温度を異ならせたサンプルの立ち上げ時間およびHazeを示す図。
【図5】応力の測定方法を示す説明図
【図6】熱処理時間を異ならせたサンプルの応力を示す図。
【図7】図6のサンプルの立ち上げ時間を示す図。
【図8】図6のサンプルD,GのHazeを示す図。
【符号の説明】
【0075】
1 基材
2 表面層
3 研磨布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体を含有させた樹脂溶液を塗布し、湿式凝固した後に、熱処理することを特徴とする研磨布の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理を、前記ポリハロゲン化ビニルのガラス転移点以上の温度で行う請求項1に記載の研磨布の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理を、前記ポリハロゲン化ビニルが溶融する温度以下で行う請求項1または2に記載の研磨布の製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲンが塩素である請求項1〜3のいずれか1項に記載の研磨布の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂溶液が、ウレタン樹脂溶液である請求項1〜4のいずれか1項に記載の研磨布の製造方法。
【請求項6】
前記基材が、不織布に樹脂溶液を含浸させて湿式凝固したものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の研磨布の製造方法。
【請求項7】
基材層と、該基材層上に形成されるナップ層とを備える研磨布であって、
前記ナップ層に、ポリハロゲン化ビニルまたはハロゲン化ビニル共重合体を含有し、前記ナップ層側に反り返るように応力が発生していることを特徴とする研磨布。
【請求項8】
当該研磨布に対する荷重の印加により、前記ナップ層側への反り返りがなくなって全体が扁平となる請求項7に記載の研磨布。
【請求項9】
前記荷重が、0.02g/mm〜0.08g/mmである請求項8に記載の研磨布。
【請求項10】
前記ハロゲンが、塩素である請求項7〜9のいずれか1項に記載の研磨布。
【請求項11】
前記ナップ層が、ウレタン樹脂を主成分とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の研磨布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−255828(P2006−255828A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76383(P2005−76383)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000116127)ニッタ・ハース株式会社 (150)
【Fターム(参考)】