説明

研磨装置および方法

【課題】圧力室を形成するメンブレンを用いた基板保持装置において研磨中に半導体ウエハ等の基板の温度を推定して基板の温度を制御することができる基板保持装置および該基板保持装置を備えた研磨装置を提供する。
【解決手段】研磨面101aを有した研磨テーブル100と、基板Wを保持して研磨面101aに押圧する基板保持装置1と、制御部50とを備えた研磨装置であって、基板保持装置1は、基板に当接して基板保持面を構成する弾性膜4と、弾性膜4の上方に位置するキャリア43と、弾性膜4とキャリア43との間に形成された圧力室5,6,7,8と、弾性膜4からの熱エネルギを測定する赤外線検出器45とを備え、制御部50は、赤外線検出器45による測定値を用いて弾性膜温度推定値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨装置および方法に係り、特に半導体ウエハなどの研磨対象物(基板)を研磨して平坦化する研磨装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化・高密度化に伴い、回路の配線がますます微細化し、多層配線の層数も増加している。回路の微細化を図りながら多層配線を実現しようとすると、下側の層の表面凹凸を踏襲しながら段差がより大きくなるので、配線層数が増加するに従って、薄膜形成における段差形状に対する膜被覆性(ステップカバレッジ)が悪くなる。したがって、多層配線するためには、このステップカバレッジを改善し、然るべき過程で平坦化処理しなければならない。また光リソグラフィの微細化とともに焦点深度が浅くなるため、半導体デバイスの表面の凹凸段差が焦点深度以下に収まるように半導体デバイス表面を平坦化処理する必要がある。
【0003】
従って、半導体デバイスの製造工程においては、半導体デバイス表面の平坦化技術がますます重要になっている。この平坦化技術のうち、最も重要な技術は、化学的機械研磨(CMP(Chemical Mechanical Polishing))である。この化学的機械的研磨は、研磨装置を用いて、シリカ(SiO)等の砥粒を含んだ研磨液を研磨パッド等の研磨面上に供給しつつ半導体ウエハなどの基板を研磨面に摺接させて研磨を行うものである。
【0004】
この種の研磨装置は、研磨パッドからなる研磨面を有する研磨テーブルと、半導体ウエハを保持するためのトップリング又は研磨ヘッド等と称される基板保持装置とを備えている。このような研磨装置を用いて半導体ウエハの研磨を行う場合には、基板保持装置により半導体ウエハを保持しつつ、この半導体ウエハを研磨面に対して所定の圧力で押圧する。このとき、研磨テーブルと基板保持装置とを相対運動させることにより半導体ウエハが研磨面に摺接し、半導体ウエハの表面が平坦かつ鏡面に研磨される。
【0005】
このような研磨装置において、研磨中の半導体ウエハと研磨パッドの研磨面との間の相対的な押圧力が半導体ウエハの全面に亘って均一でない場合には、半導体ウエハの各部分に与えられる押圧力に応じて研磨不足や過研磨が生じてしまう。半導体ウエハに対する押圧力を均一化するために、基板保持装置の下部に弾性膜(メンブレン)から形成される圧力室を設け、この圧力室に加圧空気などの流体を供給することで弾性膜を介して流体圧により半導体ウエハを研磨パッドの研磨面に押圧して研磨することが行われている。
【0006】
一方、研磨対象となる半導体ウエハの表面に形成される薄膜は、成膜の際の方法や装置の特性により、半導体ウエハの半径方向の位置によって膜厚が異なる。即ち、半径方向に初期膜厚分布を持っている。このため、上述したような半導体ウエハの全面を均一に押圧し研磨する基板保持装置では、半導体ウエハの全面に亘って均一に研磨されるため、上述した半導体ウエハの表面上の初期膜厚分布を補正することができない。そこで、特許文献1に開示されているように、半導体ウエハの面内に弾性膜(メンブレン)から形成される複数の圧力室を設け、複数の圧力室に供給される加圧空気などの流体の圧力をそれぞれ制御し、半導体ウエハに印加される圧力を部分的に制御して膜厚の厚い部分の研磨面への押圧力を膜厚の薄い部分の研磨面への押圧力より大きくすることにより、その部分の研磨レートを選択的に高め、これにより、成膜時の膜厚分布に依存せずに基板の全面に亘って過不足のない平坦な研磨を可能とする研磨装置が提案されている。
【0007】
上述の構成の研磨装置を用いて研磨する際には、半導体ウエハ等の基板を研磨パッドの研磨面に所定の研磨圧力で押圧して摺動させることにより、基板と研磨パッドの接触面における温度、すなわち研磨温度が上昇する。上述したように、研磨圧力を制御することは、研磨性能向上のために重要であるが、研磨温度を測定・制御することも研磨性能向上のために非常に重要である。すなわち、研磨パッドは発泡ポリウレタン等の樹脂材を用いているため、研磨温度は研磨パッドの剛性を変化させ基板の平坦化特性に影響を及ぼす。また、化学的機械研磨(CMP)は、研磨液(研磨スラリー)と基板の被研磨面との化学反応を利用して研磨する方法であるため、研磨温度は研磨スラリーの化学的特性に影響を及ぼす。更に、研磨温度によって研磨速度分布が変化し歩留まりが悪化したり、研磨速度が低下し研磨装置の生産性が悪化してしまうことにもつながる。また基板の面内で温度分布があると面内での研磨性能が均一でなくなる。
【0008】
そのため、特許文献2および3に開示されているように、研磨中に半導体ウエハ等の基板の温度を測定することが行われている。また、特許文献4に開示されているように、研磨中に半導体ウエハの研磨面近傍の温度を測定する手段として半導体ウエハを保持するためのメンブレンの温度を計測することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−128582号公報
【特許文献2】特開2002−301660号公報
【特許文献3】特開2005−268566号公報
【特許文献4】特開2006―332520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、特許文献2乃至4においては、研磨中に半導体ウエハ等の基板の温度又は半導体ウエハを保持するメンブレンの温度を測定することが行われている。そして、特許文献2では基板の温度を精度良く測定するために基板裏面から2つ以上の波長の赤外線を検知して基板表面の温度を測定することも開示されている。しかしながら、特許文献2で開示された技術では、基板の押圧方法として圧力室を形成するメンブレンを採用できないので、均一な研磨レート分布が得られないという問題がある。また、ウエハを通過する赤外線を測定し研磨面側の温度を測定するために、ウエハの膜種によって赤外線の透過状況が異なったり、ウエハの裏面に水滴がついたり濡れている場合に赤外線量が変化することによって、測定結果が異なってしまうという問題がある。
【0011】
また、特許文献3では基板の温度を直接測定するために基板保持面が開放された開放型のエアーバッグが用いられている。しかしながら、開放型のエアーバッグでは研磨中に加圧流体がリークしてしまったり、開放部分に水や研磨液などが侵入するために正確な温度測定ができないという問題がある。更に、特許文献3で開示されているように、一般的に広く用いられている赤外放射温度計で基板の温度を測定しようとした場合に、赤外線がシリコンウエハを透過してしまうためにメタル膜付のウエハにしか温度計測に適さないという問題もある。また閉鎖型のエアーバッグを用い、エアーバッグを放射電磁線を透過する材料で作成した場合でもエアーバッグの皮膜が薄くても放射電磁線の透過を多少阻害するので精度良く基板の温度を測定することができないという問題がある。
【0012】
さらに、特許文献4では半導体ウエハの研磨面近傍の温度を測定する手段として半導体ウエハを保持するためのメンブレンの温度を計測する技術が開示されている。しかしながら、特許文献4に開示される技術では、温度センサがメンブレンに取り付けられているので消耗品であるメンブレンを交換する際には温度センサも同時に交換する必要があるなど、非常に高価な構成であり、またメンブレンを交換する毎に温度センサの配線等の作業が必要となり生産性が悪いという問題もある。
【0013】
本発明者らは、特許文献1乃至4等で開示されている従来の技術について検討を重ねた結果、研磨中の半導体ウエハ等の基板の温度を測定できることが望ましいが、圧力室を形成するメンブレンを採用できなくなることは研磨装置の研磨性能を維持することができなくなるという重大な問題が生ずるため、圧力室を形成するメンブレンを採用することを前提に基板の近傍の部材、例えばメンブレンの温度を測定することにより研磨中の基板の温度を推定することが最善であることを見出したものである。
そこで、本発明者らは、圧力室を形成するメンブレン(弾性膜)の温度を非接触型の赤外放射温度計で測定し、メンブレンの温度から研磨中の基板の温度を推定することを試みたものである。そして、複数種のメンブレンについて基板保持装置(トップリング)に装着してメンブレンにより保持された基板の加熱と冷却を行いながらメンブレンの温度を赤外放射温度計と熱電対で測定する実験を繰り返し行い、両測定値の関係を調べたところ、ある種のメンブレンは赤外放射温度計によるメンブレン温度測定値と熱電対によるメンブレン温度測定値とが概略一致していたが、他のメンブレンはそれらの間に乖離が見られた(後述する)。
【0014】
本発明者らは、上記乖離が生ずる原因を解析したところ、メンブレン上面が赤外線を反射するためにメンブレン周囲に位置する部品の温度の影響を受けてしまい赤外放射温度計で精度良くメンブレン温度を測定できなくなることを究明したものである。メンブレンは金型によって成型加工されるが、金型表面は通常鏡面仕上げされるために、メンブレン表面も表面粗さが小さい鏡面状態となる。鏡面状態のメンブレン上面では赤外線の反射率が高くなり、メンブレンの上方から赤外放射温度測定を行う場合、メンブレン周囲に位置する部品から放射する赤外線の影響を強く受けてしまうため、精度良い温度測定が出来ないものである。
【0015】
また、本発明者らは、メンブレンの温度を非接触型の赤外放射温度計で測定しようとした場合、メンブレン内が結露してしまい精度良くメンブレン温度を測定できないことも見出した。
本発明者らは、メンブレン内が結露する原因を究明するために、種々の実験を行うとともに実験結果の解析を進めた結果、以下の知見を得たものである。
基板を研磨パッドに押圧し研磨する際に、加工熱によりメンブレンと圧力室内の気体が熱せられ温度が上昇する。基板の研磨後、基板は基板保持面より離脱され、その後、基板保持面の洗浄工程などが行われ、メンブレンと圧力室内の気体が冷却される。すなわち、メンブレンおよび圧力室内の気体は温度上昇・下降を繰り返すこととなる。一方、圧力室内に気体を供給する流路には、通常、圧力制御装置、大気開放弁、真空源等が接続されている。加圧流体としてはNなどの不活性ガスや水分を除去した乾燥空気が通常用いられるために結露の原因とはならない。しかしながら、基板を基板保持装置に吸着保持する際には圧力室内を真空状態として吸着保持する。その後、研磨開始時や基板の基板保持装置からの離脱時には圧力室を大気開放することにより真空状態を解除する。圧力室に連通する流路が真空状態から大気開放状態に切り替えられる際に研磨装置が設置されている雰囲気の空気が流路に侵入する。この大気開放動作により圧力室内に水分を含んだ空気が侵入していくこととなり、上述の圧力室内の気体の温度上昇・下降を繰り返す状態によりメンブレン内が結露することとなる。メンブレン内が結露しメンブレン上面側に水滴が発生すると、その部分から放射される赤外線量が水滴がない場合と比較して変化してしまうために赤外放射温度計で精度良くメンブレン温度を測定できなくなることを究明した。また、結露した水滴の量が増えると圧力室内に水が溜まり基板へ加わる圧力が変化してしまい、安定した研磨が出来なくなることも見出した。
【0016】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、圧力室を形成するメンブレンを用いた基板保持装置において研磨中に半導体ウエハ等の基板の温度を推定して基板の温度を制御することができる基板保持装置および該基板保持装置を備えた研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の研磨装置の第1の態様は、研磨面を有した研磨テーブルと、基板を保持して前記研磨面に押圧する基板保持装置と、制御部とを備えた研磨装置であって、前記基板保持装置は、基板に当接して基板保持面を構成する弾性膜と、前記弾性膜の上方に位置するキャリアと、前記弾性膜と前記キャリアとの間に形成された圧力室と、前記弾性膜からの熱エネルギを測定する赤外線検出器とを備え、前記制御部は、前記赤外線検出器による測定値を用いて弾性膜温度推定値を算出することを特徴とする。
本発明によれば、半導体ウエハ等の基板を弾性膜により保持して研磨面に押圧して研磨を行っている間に、赤外線検出器により弾性膜から放射される熱エネルギを測定し、制御部により赤外線検出器による測定値を用いて弾性膜温度推定値を算出する。この場合、赤外線検出器による測定値と弾性膜温度との相関関係は予め実験等を行って求めておき、この相関関係を用いて弾性膜温度推定値を算出する。弾性膜は基板を保持する基板保持面を構成しているため、基板温度の影響を最も受ける部材であり、弾性膜温度を推定することにより間接的に基板温度を推定することも可能となる。
【0018】
本発明の好ましい態様は、前記制御部は、前記弾性膜温度推定値を用いて基板温度推定値を算出することを特徴とする。
本発明によれば、制御部により弾性膜温度推定値から基板温度推定値を算出する。この場合、弾性膜温度と基板温度との相関関係は予め実験等を行って求めておき、この相関関係を用いて基板温度推定値を算出する。
【0019】
本発明の好ましい態様は、前記弾性膜温度推定値または前記基板温度推定値を用いて研磨条件を変更することを特徴とする。
本発明によれば、研磨中、弾性膜温度推定値または基板温度推定値が高い場合には、圧力室の圧力を下げることにより研磨圧力を下げ、温度上昇を抑制することが行われる。また基板保持装置外に設けられた研磨面の冷却および昇温手段を用いて研磨面全面の温度制御を行ったり、測定した圧力室に対応する部分の研磨面の温度制御を行ったりしても良い。研磨面の温度調整手段としては、媒体を研磨面に接触させて温度調整する手段や、流体を研磨面に吹き付ける手段などがある。
【0020】
本発明の好ましい態様は、前記赤外線検出器は赤外放射温度計であることを特徴とする。
本発明によれば、測定対象の弾性膜から放射された熱エネルギとしての赤外線量を測定することにより弾性膜の温度を測定することができる。
【0021】
本発明の基板保持装置の第1の態様は、基板を保持して研磨面に押圧する基板保持装置であって、基板に当接して基板保持面を構成する弾性膜と、前記弾性膜の上方に位置するキャリアと、前記弾性膜と前記キャリアとの間に形成された圧力室と、前記弾性膜からの熱エネルギを測定する赤外線検出器とを備え、前記弾性膜の基板保持面の裏面側に粗面化加工を施したことを特徴とする。
本発明によれば、半導体ウエハ等の基板を弾性膜により保持して研磨面に押圧して研磨を行っている間に、赤外線検出器により弾性膜から放射される熱エネルギを測定する。弾性膜の基板保持面の裏面側には粗面化加工が施されているため、弾性膜の基板保持面の裏面側は赤外線の反射率が低く抑えられており、赤外線検出器は測定対象の弾性膜から放射された熱エネルギを精度良く測定できる。したがって、弾性膜の温度を精度良く測定できる。
【0022】
本発明の基板保持装置の第2の態様は、基板を保持して研磨面に押圧する基板保持装置であって、基板に当接して基板保持面を構成する弾性膜と、前記弾性膜の上方に位置するキャリアと、前記弾性膜と前記キャリアとの間に形成された圧力室と、前記弾性膜からの熱エネルギを測定する赤外線検出器と、前記弾性膜の基板保持面の裏面側に配置され前記弾性膜以外の箇所の熱エネルギを測定する測定器とを備えたことを特徴とする。
本発明によれば、半導体ウエハ等の基板を弾性膜により保持して研磨面に押圧して研磨を行っている間に、赤外線検出器により弾性膜から放射される熱エネルギを測定するとともに、弾性膜の裏面側に位置する弾性膜以外の箇所の熱エネルギを測定器により測定する。そして、赤外線検出器による弾性膜の熱エネルギの測定値と測定器による弾性膜以外の箇所の熱エネルギの測定値とを用いて弾性膜温度推定値または基板温度推定値を算出する。弾性膜の裏面側に位置する弾性膜以外の箇所から放射される赤外線が弾性膜で反射し、赤外線検出器に与える影響が大きい場合は、赤外線検出器による測定値では精度良く弾性膜温度または基板温度を推定できない。そこで、赤外線検出器による測定値と測定器による弾性膜以外の箇所の測定値を用いて弾性膜温度推定値または基板温度推定値を算出する。
【0023】
本発明の好ましい態様は、前記測定器は前記キャリアの熱エネルギを測定することを特徴とする。
本発明によれば、弾性膜とともに圧力室を形成するキャリアの熱エネルギを測定することにより、キャリアの温度を測定できる。キャリアから放射される赤外線が弾性膜で反射し、赤外線検出器に与える影響が大きい場合は、赤外線検出器による測定値では精度良く弾性膜温度または基板温度を推定できない。そこで、赤外線検出器による測定値と測定器によるキャリア温度測定値を用いて弾性膜温度推定値または基板温度推定値を算出する。
【0024】
本発明の好ましい態様は、前記圧力室の圧力を測定する圧力センサを備えたことを特徴とする。
本発明によれば、圧力室の圧力を圧力センサにより測定することにより、圧力室内の圧力を所望の値に制御することが可能となる。例えば、1つの圧力室に第1の圧力コントローラと第2の圧力コントローラを接続し、研磨開始時には2つの圧力コントローラを同一の制御圧力に設定しておき、研磨処理工程中の基板温度推定値が所定の温度を超えた場合には第1の圧力コントローラは前記制御圧力のままで、第2の圧力コントローラの設定圧力を下げる。これにより、圧力室内には第1の圧力コントローラによる流路から第2の圧力コントローラによる流路に向かって加圧流体の流れが生じ、この加圧流体の流れによって圧力室内を冷却することができる。この際の圧力室内の圧力を圧力センサによりモニタリングし、圧力室内の圧力が前記制御圧力より大きく低下する場合には第2の圧力コントローラの設定圧力を上昇させ、圧力室内の圧力が所望の圧力になるように制御する。
【0025】
本発明の好ましい態様は、前記赤外線検出器による測定値と前記測定器による測定値とを用いて弾性膜温度推定値を算出する制御部を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、赤外線検出器による弾性膜の熱エネルギの測定値と測定器による弾性膜以外の箇所の熱エネルギの測定値とを用いて、弾性膜温度推定値を算出することができる。
【0026】
本発明の好ましい態様は、前記弾性膜温度推定値の算出手段として、予め、弾性膜温度測定値、前記赤外線検出器による測定値(T)、前記測定器による測定値(T)を複数組用意し、(弾性膜温度推定値)=b+b×T+b×Tの重回帰式において、(前記弾性膜温度測定値―前記弾性膜温度推定値)が最小となる回帰係数b、b、bを算出し、(前記弾性膜温度推定値)=b+b×(前記弾性膜測定値)+b×(前記測定器による測定値)の式により、前記弾性膜温度推定値を算出することを特徴とする。
【0027】
本発明の好ましい態様は、前記制御部は、前記弾性膜温度推定値と前記測定器による測定値とを用いて基板温度推定値を算出することを特徴とする。
本発明によれば、赤外線検出器による弾性膜の熱エネルギの測定値と測定器による弾性膜以外の箇所の熱エネルギの測定値とを用いて基板温度推定値を算出する。
【0028】
本発明の好ましい態様は、前記基板温度推定値の算出手段として、予め、基板温度測定値、前記弾性膜温度推定値(T)、前記測定器による測定値(T)を複数組用意し、(基板温度推定値)=b+b×T+b×Tの重回帰式において、(前記基板温度測定値―前記基板温度推定値)が最小となる回帰係数b、b、bを算出し、(前記基板温度推定値)=b+b×(前記弾性膜温度推定値)+b×(前記測定器による測定値)により、前記基板温度推定値を算出することを特徴とする。
【0029】
本発明の好ましい態様は、前記弾性膜と前記キャリアとの間には少なくとも2つの圧力室が形成され、前記少なくとも2つの圧力室のうち、少なくとも1つの圧力室に前記赤外線検出器を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、複数の圧力室を備えた基板保持装置において、1つの圧力室に赤外線検出器を設置し、この赤外線検出器の測定結果より、各圧力室の圧力を変更したり、研磨面の温度調整手段を作動させるなどの研磨条件の変更を行ってもよい。また、2つの圧力室にそれぞれ赤外線検出器を設置し、2つの赤外線検出器の測定結果から線形補間で弾性膜温度又は基板温度を推定してもよい。さらに、全てに圧力室にそれぞれ赤外線検出器を設置し、各赤外線検出器の測定結果から各圧力室に対応した位置における弾性膜温度又は基板温度を推定してもよい。
【0030】
本発明の好ましい態様は、前記赤外線検出器が備えられた圧力室の前記弾性膜の基板保持面は開口部が無いことを特徴とする。
本発明によれば、赤外線検出器が備えられた圧力室の弾性膜の基板保持面には開口部が形成されていないため、基板保持面を洗浄する際に、赤外線検出器がある圧力室内に洗浄液が侵入することがない。したがって、弾性膜の裏面側に水滴が残留してしまうようなことはなく、赤外線検出器の精度を確保することができる。
【0031】
本発明の好ましい態様は、前記赤外線検出器は赤外放射温度計であることを特徴とする。
本発明によれば、測定対象の弾性膜から放射された熱エネルギとしての赤外線量を測定することにより弾性膜の温度を測定することができる。
本発明の研磨装置の第2の態様は、研磨面を有した研磨テーブルと、請求項5乃至15のいずれか一項に記載の基板保持装置とを備えたことを特徴とする。
【0032】
本発明の研磨装置の第3の態様は、研磨面を有した研磨テーブルと、基板を保持して前記研磨面に押圧する基板保持装置とを備えた研磨装置であって、前記基板保持装置は、基板に当接して基板保持面を構成する弾性膜と、前記弾性膜の上方に位置するキャリアと、前記弾性膜と前記キャリアとの間に形成された圧力室と、前記圧力室に連通する第一の流路とを備え、前記第一の流路は、研磨装置が設置された雰囲気とは隔離された気体源にのみ接続されていることを特徴とする。
本発明によれば、圧力室を真空状態から大気圧に増圧する際に、研磨装置が設置された雰囲気とは隔離された気体源から気体を圧力室に供給することができる。そのため、圧力室内に水分を含んだ空気が侵入する恐れがなく、したがって、圧力室内の弾性膜が結露することがない。
【0033】
本発明の研磨装置の第4の態様は、研磨面を有した研磨テーブルと、基板を保持して前記研磨面に押圧する基板保持装置とを備えた研磨装置であって、前記基板保持装置は、基板に当接して基板保持面を構成する弾性膜と、前記弾性膜の上方に位置するキャリアと、前記弾性膜と前記キャリアとの間に形成された圧力室と、前記圧力室に連通する第一の流路とを備え、前記圧力室には大気圧下での露点温度が20℃以下の気体のみが供給されることを特徴とする。
本発明によれば、トップリング洗浄等に使用される純水により弾性膜が冷やされていても、圧力室を真空状態から大気圧に増圧する際に、大気圧下での露点温度が20℃以下の気体のみを圧力室に供給するため、圧力室内の弾性膜が結露することがない。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、半導体ウエハ等の基板の温度を推定して基板の温度を制御することができる。より具体的には、以下の効果を奏する。
(1)研磨中に基板の温度が上昇すると研磨パッドの剛性が低下し、研磨平坦化特性が悪化することがある。これは、研磨パッドの剛性低下により基板上のパターン面凹凸のうち凹部も研磨されてしまい、最終的な段差解消が十分になされなくなってしまうからである。本発明によれば、基板の温度を精度良く推定し、基板温度が一定温度以上になった場合には研磨条件を変更するなどして温度上昇を抑制することが可能となる。
(2)研磨スラリーは基板表面に化学変化を起こさせるために、反応温度は非常に重要なパラメータである。本発明によれば、基板温度の高精度な推定が可能となるために、様々なプロセスで研磨スラリーの特性に合った研磨温度領域で研磨を行うことが可能となる。例えば、研磨温度が一定温度以上で研磨速度が低下してしまうプロセスにおいては、基板温度を高精度で推定し、一定温度以上にならないように研磨条件を変更することなどを行う。逆に、研磨温度が一定温度以下では研磨速度が低下してしまう場合には、一定温度以下にならないように研磨条件を変更することなどを行う。また、研磨速度以外にも研磨基板上の欠陥(基板上の異物、スクラッチなど)、段差解消性能、研磨安定性などに研磨温度依存性が見られるプロセスにおいては、これらに対する影響を考慮して研磨温度の制御を行うことが可能である。
(3)本発明によれば、基板の温度を高精度に推定することが可能となるため、基板面内の温度分布を精度良く知ることが出来る。そして、基板面内の温度分布が均一になるように制御することにより、基板面内での研磨特性を均一に制御したり、逆に基板面内で任意の温度分布を持たせるように制御することも可能である。基板面内で温度分布をつけるように制御することは、例えば研磨前の基板の膜厚分布は基板面内で一定ではないために、研磨後の基板の膜厚分布を一定とするために、意図的に研磨中の基板面内の温度分布をつけること等に利用することが出来る。
【0035】
また、本発明によれば、基板の温度を推定するだけでなく、メンブレン(弾性膜)の温度を推定することにより、以下のような効果を奏する。
(1)メンブレン温度を推定することにより間接的に「上記基板温度推定の効果」を得ることが出来る。
(2)メンブレンはメンブレン自身の温度により熱膨張する。メンブレンの外周側にはリテーナリングが存在するため、メンブレンの熱膨張が大きくなると熱膨張したメンブレン外側面とリテーナリング内側面が接触し、メンブレン外側面が拘束されることとなる。これにより、メンブレンにしわが寄ったり、メンブレンが変形してしまい、基板への加圧が妨げられたりする。本発明によれば、メンブレンの温度が把握できるためメンブレンの熱膨張量を知ることができ、リテーナリングと接触が起こらない温度にメンブレン温度を抑制する制御も可能となる。
(3)メンブレンの温度が上昇するとメンブレンの硬度が低下し(柔らかくなる)、特に基板外周部で基板に加わる圧力が変化する。通常は、メンブレン外周部を膨らませ基板を押圧している。メンブレン硬度が低下するとメンブレンを膨らませるために必要となるゴムの張力が低下し、ゴム張力によるエアーバッグ圧力(メンブレンに加える圧力)の損失が減少するために、結果として基板にはより高い圧力が加わることとなる。本発明によれば、メンブレンの温度把握・制御が可能になるためメンブレン硬度を一定範囲内に維持することができ、基板への押圧力を所望の一定の値に維持することが可能となる。また、メンブレン温度に基づき、基板の押圧力が一定になるようにエアーバッグ圧力を制御することも可能である。すなわち、メンブレン温度が上昇した場合、メンブレンが柔らかくなるため、その分エアーバッグ圧力を減少させる。
【0036】
さらに、本発明によれば、圧力室を真空状態から大気圧に増圧する際に、研磨装置が設置された雰囲気とは隔離された気体源から気体を圧力室に供給することができる。そのため、圧力室内に水分を含んだ空気が侵入する恐れがなく、したがって、圧力室内の弾性膜が結露することがない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本発明に係る研磨装置の全体構成を示す概略図である。
【図2】図2は、研磨対象物である半導体ウエハを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する基板保持装置を構成するトップリングの模式的な断面図である。
【図3】図3は、トップリングの主要構成要素を示す模式的断面図である。
【図4】図4は、半導体ウエハ(基板)を加熱および冷却し、加熱時および冷却時のウエハの温度、メンブレンの温度、キャリアの温度等を測定するための実験装置を示す模式的な断面図である。
【図5】図5は、図4に示す実験装置を用いて半導体ウエハ(基板)の下面を強制加熱し、その後強制冷却し、その際の温度の時間変化をプロットしたグラフである。
【図6】図6(a)および図6(b)は、図5の全時系列データを用いて、赤外放射温度計測定値を横軸に、同時刻のメンブレン上面温度熱電対測定値を縦軸にプロットしたグラフである。
【図7】図7(a)および図7(b)は、赤外放射温度測定補正値を横軸に、同時刻のメンブレン上面温度熱電対測定値を縦軸にプロットしたグラフである。
【図8】図8(a)および図8(b)は、メンブレン温度推定式により算出されたメンブレン温度推定値を横軸に、同時刻のメンブレン上面温度熱電対測定値を縦軸にプロットしたグラフである。
【図9】図9は、図5の場合の赤外放射温度計測定値とキャリア温度測定値から重回帰式を用いてメンブレン温度を推定した結果を示すグラフである。
【図10】図10は、図5の全時系列データを用いて、メンブレン温度推定式により算出されたメンブレン温度推定値を横軸に、同時刻のウエハ下面温度熱電対測定値を縦軸にプロットしたグラフである。
【図11】図11は、メンブレン温度推定式により算出されたウエハ温度推定値を横軸に、同時刻のウエハ下面温度熱電対測定値を縦軸にプロットしたグラフである。
【図12】図12は、図5の場合の赤外放射温度計測定値とキャリア温度測定値から重回帰式を用いてウエハ温度を推定した結果を示すグラフである。
【図13】図13は、本発明の研磨装置において実施される赤外線放射温度計測定値とキャリア温度測定値とからウエハ温度を推定して研磨条件等を決定する工程を示すフローチャートである。
【図14】図14(a)は、図2のXIV部拡大図であり、図14(b)は、圧力室内に大気圧のNを供給するための配管系統図である。
【図15】図15は、圧力室の温度制御を行う構成を備えたトップリングの模式的断面図である。
【図16】図16は、研磨スラリー(研磨液)を滴下する研磨液供給ノズルと研磨パッドとトップリングとの配置関係を示す模式的平面図である。
【図17】図17は、研磨パッドの温度調整手段の一例を示す模式的平面図である。
【図18】図18は、研磨パッドの温度調整手段の他の例を示す模式的平面図である。
【図19】図19は、ドレッシング荷重(ドレス荷重)やスキャン速度を変更する例を示す模式的平面図である。
【図20】図20は、ウエハの温度に応じて研磨スラリーの滴下位置を変更する例を示す模式的平面図である。
【図21】図21は、ウエハ温度測定と同時に研磨パッド面の温度(分布)も測定し、測定結果に基づき温度制御する例を示す模式的平面図である。
【図22】図22は、赤外放射温度計とキャリア温度測定のための熱電対を配置したトップリングのより詳細な構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に係る研磨装置の実施形態について図1乃至図22を参照して詳細に説明する。なお、図1から図22において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0039】
図1は、本発明に係る研磨装置の全体構成を示す概略図である。図1に示すように、研磨装置は、研磨テーブル100と、研磨対象物である半導体ウエハ等の基板を保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧するトップリング1とを備えている。
研磨テーブル100は、テーブル軸100aを介してその下方に配置されるモータ(図示せず)に連結されており、そのテーブル軸100a周りに回転可能になっている。研磨テーブル100の上面には研磨パッド101が貼付されており、研磨パッド101の表面101aが半導体ウエハWを研磨する研磨面を構成している。研磨テーブル100の上方には研磨液供給ノズル102が設置されており、この研磨液供給ノズル102によって研磨テーブル100上の研磨パッド101上に研磨液(研磨スラリ)Qが供給されるようになっている。
【0040】
なお、市場で入手できる研磨パッドとしては種々のものがあり、例えば、ニッタ・ハース社製のSUBA800、IC−1000、IC−1000/SUBA400(二層クロス)、フジミインコーポレイテッド社製のSurfin xxx−5、Surfin 000等がある。SUBA800、Surfin xxx−5、Surfin 000は繊維をウレタン樹脂で固めた不織布であり、IC−1000は硬質の発泡ポリウレタン(単層)である。発泡ポリウレタンは、ポーラス(多孔質状)になっており、その表面に多数の微細なへこみまたは孔を有している。
【0041】
トップリング1は、半導体ウエハWを研磨面101aに対して押圧するトップリング本体2と、半導体ウエハWの外周縁を保持して半導体ウエハWがトップリングから飛び出さないようにするリテーナリング3とから基本的に構成されている。
トップリング1は、トップリングシャフト111に接続されており、このトップリングシャフト111は、上下動機構124によりトップリングヘッド110に対して上下動するようになっている。このトップリングシャフト111の上下動により、トップリングヘッド110に対してトップリング1の全体を昇降させ位置決めするようになっている。なお、トップリングシャフト111の上端にはロータリージョイント25が取り付けられている。トップリングシャフト111およびトップリング1を上下動させる上下動機構124は、軸受126を介してトップリングシャフト111を回転可能に支持するブリッジ128と、ブリッジ128に取り付けられたボールねじ132と、支柱130により支持された支持台129と、支持台129上に設けられたACサーボモータ138とを備えている。サーボモータ138を支持する支持台129は、支柱130を介してトップリングヘッド110に固定されている。
【0042】
ボールねじ132は、サーボモータ138に連結されたねじ軸132aと、このねじ軸132aが螺合するナット132bとを備えている。トップリングシャフト111は、ブリッジ128と一体となって上下動するようになっている。したがって、サーボモータ138を駆動すると、ボールねじ132を介してブリッジ128が上下動し、これによりトップリングシャフト111およびトップリング1が上下動する。
【0043】
また、トップリングシャフト111はキー(図示せず)を介して回転筒112に連結されている。この回転筒112はその外周部にタイミングプーリ113を備えている。トップリングヘッド110にはトップリング用回転モータ114が固定されており、上記タイミングプーリ113は、タイミングベルト115を介してトップリング用回転モータ114に設けられたタイミングプーリ116に接続されている。したがって、トップリング用回転モータ114を回転駆動することによってタイミングプーリ116、タイミングベルト115、およびタイミングプーリ113を介して回転筒112およびトップリングシャフト111が一体に回転し、トップリング1が回転する。なお、トップリングヘッド110は、フレーム(図示せず)に回転可能に支持されたトップリングヘッドシャフト117によって支持されている。研磨装置は、トップリング用回転モータ114、サーボモータ138、研磨テーブル回転モータをはじめとする装置内の各機器を制御する制御部50を備えている。
【0044】
図1に示すように構成された研磨装置において、トップリング1は、その下面に半導体ウエハWなどの基板を保持できるようになっている。トップリングヘッド110はトップリングシャフト117を中心として旋回可能に構成されており、下面に半導体ウエハWを保持したトップリング1は、トップリングヘッド110の旋回により半導体ウエハWの受取位置から研磨テーブル100の上方に移動される。そして、トップリング1を下降させて半導体ウエハWを研磨パッド101の表面(研磨面)101aに押圧する。このとき、トップリング1および研磨テーブル100をそれぞれ回転させ、研磨テーブル100の上方に設けられた研磨液供給ノズル102から研磨パッド101上に研磨液を供給する。このように、半導体ウエハWを研磨パッド101の研磨面101aに摺接させて半導体ウエハWの表面を研磨する。
【0045】
次に、本発明の研磨装置におけるトップリング(研磨ヘッド)について説明する。図2は、研磨対象物である半導体ウエハを保持して研磨テーブル上の研磨面に押圧する基板保持装置を構成するトップリング1の模式的な断面図である。図2においては、トップリング1を構成する主要構成要素だけを図示している。
図2に示すように、トップリング1は、半導体ウエハWを研磨面101aに対して押圧するトップリング本体(キャリアとも称する)2と、研磨面101aを直接押圧するリテーナリング3とから基本的に構成されている。トップリング本体(キャリア)2は概略円盤状の部材からなり、リテーナリング3はトップリング本体2の外周部に取り付けられている。トップリング本体2は、エンジニアリングプラスティック(例えば、PEEK)などの樹脂により形成されている。トップリング本体2の下面には、半導体ウエハの裏面に当接する弾性膜(メンブレン)4が取り付けられている。弾性膜(メンブレン)4は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。弾性膜(メンブレン)4は、半導体ウエハ等の基板を保持する基板保持面を構成している。
【0046】
前記弾性膜(メンブレン)4は同心状の複数の隔壁4aを有し、これら隔壁4aによって、メンブレン4の上面とトップリング本体2の下面との間に円形状のセンター室5、環状のリプル室6、環状のアウター室7、環状のエッジ室8が形成されている。すなわち、トップリング本体2の中心部にセンター室5が形成され、中心から外周方向に向かって、順次、同心状に、リプル室6、アウター室7、エッジ室8が形成されている。トップリング本体2内には、センター室5に連通する流路11、リプル室6に連通する流路12、アウター室7に連通する流路13、エッジ室8に連通する流路14がそれぞれ形成されている。そして、センター室5に連通する流路11、アウター室7に連通する流路13、エッジ室8に連通する流路14は、ロータリージョイント25を介して流路21,23,24にそれぞれ接続されている。そして、流路21,23,24は、それぞれバルブV1−1,V3−1,V4−1および圧力レギュレータR1,R3,R4を介して圧力調整部30に接続されている。また、流路21,23,24は、それぞれバルブV1−2,V3−2,V4−2を介して真空源31に接続されるとともに、バルブV1−3,V3−3,V4−3を介して大気に連通可能になっている。
【0047】
一方、リプル室6に連通する流路12は、ロータリージョイント25を介して流路22に接続されている。そして、流路22は、気水分離槽35、バルブV2−1および圧力レギュレータR2を介して圧力調整部30に接続されている。また、流路22は、気水分離槽35およびバルブV2−2を介して真空源131に接続されるとともに、バルブV2−3を介して大気に連通可能になっている。
【0048】
また、リテーナリング3の直上にも弾性膜からなるリテーナリング圧力室9が形成されており、リテーナリング圧力室9は、トップリング本体(キャリア)2内に形成された流路15およびロータリージョイント25を介して流路26に接続されている。そして、流路26は、バルブV5−1および圧力レギュレータR5を介して圧力調整部30に接続されている。また、流路26は、バルブV5−2を介して真空源31に接続されるとともに、バルブV5−3を介して大気に連通可能になっている。圧力レギュレータR1,R2,R3,R4,R5は、それぞれ圧力調整部30からセンター室5、リプル室6、アウター室7、エッジ室8およびリテーナリング圧力室9に供給する圧力流体の圧力を調整する圧力調整機能を有している。圧力レギュレータR1,R2,R3,R4,R5および各バルブV1−1〜V1−3、V2−1〜V2−3,V3−1〜V3−3,V4−1〜V4−3,V5−1〜V5−3は、制御部50(図1参照)に接続されていて、それらの作動が制御されるようになっている。また、流路21,22,23,24,26にはそれぞれ圧力センサP1,P2,P3,P4,P5および流量センサF1,F2,F3,F4,F5が設置されている。
【0049】
図2に示すように構成されたトップリング1においては、上述したように、トップリング本体2の中心部にセンター室5が形成され、中心から外周方向に向かって、順次、同心状に、リプル室6、アウター室7、エッジ室8が形成され、これらセンター室5、リプル室6、アウター室7、エッジ室8およびリテーナリング圧力室9に供給する流体の圧力を圧力調整部30および圧力レギュレータR1,R2,R3,R4,R5によってそれぞれ独立に調整することができる。このような構造により、半導体ウエハWを研磨パッド101に押圧する押圧力を半導体ウエハの領域毎に調整でき、かつリテーナリング3が研磨パッド101を押圧する押圧力を調整できる。
【0050】
次に、図1および図2に示すように構成された研磨装置による一連の研磨処理工程について説明する。
トップリング1は基板受渡し装置から半導体ウエハWを受け取り真空吸着により保持する。半導体ウエハWを真空吸着により保持したトップリング1は、予め設定したトップリングの研磨時設定位置まで下降する。この研磨時設定位置では、リテーナリング3は研磨パッド101の表面(研磨面)101aに接地しているが、研磨前は、トップリング1で半導体ウエハWを吸着保持しているので、半導体ウエハWの下面(被研磨面)と研磨パッド101の表面(研磨面)101aとの間には、わずかな間隙(例えば、約1mm)がある。このとき、研磨テーブル100およびトップリング1は、ともに回転駆動されている。この状態で、半導体ウエハの裏面側にある弾性膜(メンブレン)4を膨らませ、半導体ウエハの下面(被研磨面)を研磨パッド101の表面(研磨面)に当接させ、研磨テーブル100とトップリング1とを相対運動させることにより、半導体ウエハの表面(被研磨面)が所定の状態(例えば、所定の膜厚)になるまで研磨する。研磨パッド101上でのウエハ処理工程の終了後、ウエハWをトップリング1に吸着し、トップリング1を上昇させ、基板搬送機構を構成する基板受渡し装置(プッシャ)へ移動させて、ウエハWの離脱(リリース)を行う。
【0051】
図3は、トップリング1の主要構成要素を示す模式的断面図である。図3に示すように、トップリング1は、半導体ウエハ(基板)Wを研磨パッド101に対して押圧するトップリング本体2と、研磨面101aを直接押圧するリテーナリング3とから基本的に構成されている。トップリング本体2は、上部にあるトップリングフランジ41と、中間部にあるトップリングスペーサ42と、下部にあるキャリア43とからなっている。
【0052】
前記弾性膜(メンブレン)4は、同心状の複数の隔壁4aを有し、これら隔壁4aによって、メンブレン4の上面とトップリング本体2の下面との間に円形状のセンター室5、環状のリプル室6、環状のアウター室7、環状のエッジ室8が形成されている。すなわち、トップリング本体2の中心部にセンター室5が形成され、中心から外周方向に向かって、順次、同心状に、リプル室6、アウター室7、エッジ室8が形成されている。トップリング本体2内には、センター室5に連通する流路11、リプル室6に連通する流路12、アウター室7に連通する流路13、エッジ室8に連通する流路14がそれぞれ形成されている。そして、センター室5に連通する流路11、リプル室6に連通する流路12、アウター室7に連通する流路13、エッジ室8に連通する流路14は、ロータリージョイント25(図1参照)を介して圧力室加圧ライン(図示せず)にそれぞれ接続されている。各圧力室加圧ラインは、圧力レギュレータR1〜R4(図2参照)を介して圧力調整部30(図2参照)に接続されている。
【0053】
また、リテーナリング3の直上にも弾性膜(メンブレン)32によってリテーナリング圧力室9が形成されている。弾性膜(メンブレン)32は、トップリングフランジ41に固定されたシリンダ33内に収容されている。リテーナリング圧力室9は、トップリング本体2内に形成された流路15およびロータリージョイント25(図1参照)を介して圧力室加圧ライン(図示せず)に接続されている。そして、リテーナリング圧力室9用の圧力室加圧ラインは、圧力レギュレータR5(図2参照)を介して圧力調整部30(図2参照)に接続されている。
【0054】
図3に示すように、トップリング1のキャリア43内に4個の赤外放射温度計45が設置されている。すなわち、4個の赤外放射温度計45は、それぞれセンター室5、リプル室6、アウター室7、エッジ室8に臨むように配置されており、各圧力室5,6,7,8に対応したメンブレン4の各部分の温度が測定できるようになっている。また、トップリング1のキャリア43の上面には、熱電対48が取り付けられており、熱電対48によりキャリア43の温度が測定できるようになっている。赤外放射温度計45および熱電対48は、配線を介して冷接点温度センサユニット46に接続されている。
【0055】
本発明は、赤外放射温度計45によりメンブレン4の温度を測定し、更に測定したメンブレン温度を用いて基板の温度を推定するものである。赤外放射温度計45の内部にはサーモパイル素子が設置されている。測定対象のメンブレン4から放射された赤外線はサーモパイル素子に入射し、サーモパイル素子に入射する赤外線量に応じて熱起電力が出力される。本実施形態においてはK熱電対出力に対応した熱起電力が出力される。この熱起電力は赤外放射温度計45からの配線を経由して冷接点温度センサユニット46に印加される。冷接点温度センサユニット46は雰囲気の温度を計測するセンサを備えている。冷接点温度センサユニット46において熱起電力はK熱電対に対応した温度に変換され、測定される冷接点温度を加えた温度が測定温度とされる。冷接点温度センサユニット46はA/D変換器を備えており、A/D変換器によって測定温度はデジタル信号に変換されデータ受信ユニット47に伝送される。
【0056】
赤外放射温度計45からの熱起電力は非常に微小なため、配線にシールド線を巻くなどのノイズ対策が施されている。また熱電対出力をコネクタで接続する場合にはK熱電対と同種の金属でコネクタを作成する必要がある。このようにしてメンブレン4からの赤外線量を測定するが、この測定値と実際のメンブレン温度との間には差が生じている。これは、メンブレン4の上面はある程度の赤外線反射率を持つことが多いので、トップリング1のキャリア43から放射される赤外線がメンブレン4で反射され、赤外放射温度計45により計測されるためである。したがって、赤外線放射温度計45はメンブレン4とキャリア43の両方からの赤外線の影響を受ける。この影響を最小化するためメンブレン上面にはシボ加工を施して赤外線の反射率を低く抑えるようにすると測定精度が向上する。シボ加工とはメンブレンの表面に細かい凹凸を付ける加工を云い、メンブレンの上面に細かい凹凸を付けてメンブレン上面の表面粗さを粗くすることにより、赤外線の反射率を低く抑えることができるため、キャリア43からメンブレン4に放射される赤外線がメンブレン4で反射することを抑えることができる。これにより、赤外線放射温度計45は、測定対象のメンブレン4から放射された赤外線量を精度良く測定できる。このように、メンブレン4の反射率を低く抑えてキャリア43からの赤外線の影響を抑え、赤外線放射温度計45によりメンブレン4の温度を測定し、測定したメンブレン温度を用いて基板の温度を推定することができる。
【0057】
また、メンブレン上面にシボ加工を施していない場合には、赤外線放射温度計45はメンブレン4とキャリア43の両方からの赤外線の影響を受けるため、キャリア43の温度を熱電対48により測定し、赤外放射温度計45の測定値と熱電対48の測定値を用いることによりウエハ温度を高精度に推定可能となる。キャリアの温度測定はメンブレンと同様に非接触温度計を用いても良いし、接触式の熱電対を用いても良い。接触式の熱電対を用いた場合には、熱電対はメンブレンを測定する赤外放射温度計の場合と同様に冷接点温度センサユニットに接続され、測定温度がデータ受信ユニットに伝送される。
【0058】
次に、赤外放射温度計測定値およびキャリア温度測定値を用いてウエハ温度の推定値を算出する方法について説明する。図4は、半導体ウエハ(基板)Wを加熱および冷却し、加熱時および冷却時のウエハの温度、メンブレンの温度、キャリアの温度等を測定するための実験装置を示す模式的な断面図である。図4に示すように、トップリング1のキャリア43内に赤外放射温度計45が設置されている。キャリア43の上面には熱電対48が取り付けられている。メンブレン4の上面には熱電対49が取り付けられている。半導体ウエハWの下面には熱電対51が取り付けられている。また、半導体ウエハWの加熱および冷却を行うウエハ加熱・冷却器52が設置されている。
【0059】
図4に示す実験装置を用いて半導体ウエハWの下面を強制加熱し、その後強制冷却し、その際のウエハ下面温度熱電対測定値、メンブレン上面温度熱電対測定値、赤外放射温度計測定値、キャリア温度測定値を計測する。すなわち、熱電対51によりウエハ下面温度熱電対測定値を計測し、熱電対49によりメンブレン上面温度熱電対測定値を計測し、赤外放射温度計45により赤外放射温度計測定値を計測し、熱電対48によりキャリア温度測定値を計測する。この場合、接触式の熱電対での測定値がもっとも誤差が小さく測定できていると考えられる。図4では説明の簡略化のためセンター室5のみ温度計を配置しているが、リプル室6、アウター室7などの他の圧力室において各温度を同時に測定しても良い。
【0060】
図5は、図4に示す実験装置を用いて半導体ウエハ(基板)Wの下面を強制加熱し、その後強制冷却し、その際の温度の時間変化をプロットしたグラフである。図5に示すように、加熱時は半導体ウエハの下面側から強制加熱しているので半導体ウエハの温度上昇が最も早く、その後メンブレン上面温度が上昇し、キャリア温度は最も遅れて上昇する。その後、半導体ウエハの下面を強制冷却に切り替えた場合にも半導体ウエハの温度降下が最も早く、その後メンブレン上面温度が降下し、キャリア温度が最も遅れて降下する。赤外放射温度計測定値とメンブレン上面測定値は、加熱時および冷却時ともに概略同様の傾向を示している。
【0061】
図6(a)および図6(b)は、図5の全時系列データを用いて、赤外放射温度計測定値を横軸に、同時刻のメンブレン上面温度熱電対測定値を縦軸にプロットしたグラフである。図6(a)はメンブレン上面にシボ加工が無い圧力室での測定結果を示し、図6(b)はメンブレン上面がシボ加工による粗面化加工が施された圧力室での測定結果を示す。
図6(a)に示すように、メンブレン上面シボ加工無しの場合、加熱時および冷却時ともに赤外放射温度計測定値とメンブレン上面温度熱電対測定値とはオフセットしているため、プロットした結果はなだらかな曲線になる。また、図6(b)に示すように、メンブレン上面シボ加工有りの場合、加熱時および冷却時ともに赤外放射温度計測定値とメンブレン上面温度熱電対測定値とはオフセットしているため、プロットした結果はなだらかな曲線になるが、オフセットの度合が少ないため、プロットした結果は直線に近い曲線である。このように、シボ加工無しとシボ加工有りの場合のいずれの圧力室においても赤外放射温度計によるメンブレン温度測定値と熱電対によるメンブレン温度測定値はオフセットしているので、線形近似によりオフセットの影響を除去する。
即ち、
熱電対出力値(メンブレン温度推定値)=係数a×赤外放射温度計測定値+係数b ・・・・式(1)
の関係を満たすような係数a、係数bを求めることにより、単回帰分析によりメンブレンの温度を推定する。以下、この単回帰式によるメンブレン温度推定値を、赤外放射温度測定補正値と称する。
【0062】
図7(a)および図7(b)は、上記赤外放射温度測定補正値を横軸に、同時刻のメンブレン上面温度熱電対測定値を縦軸にプロットしたグラフである。すなわち、図7(a)および(b)は線形近似後の赤外放射温度計の測定補正値と熱電対の測定値の関係を示すグラフである。図7(a)はメンブレン上面にシボ加工が無い領域での結果を示し、図7(b)はメンブレン上面にシボ加工有りの領域での結果である。
図7(a)より強制加熱時は熱電対測定による実際のメンブレン温度よりも赤外放射温度計によるメンブレン温度測定補正値が低く計測されていることが分かる。すなわち、強制加熱時はキャリアの温度上昇が遅れているので低温のキャリアから放射される赤外線がメンブレンで反射され赤外放射温度計に取り込まれるため、実際のメンブレン温度よりも低い測定補正値となっている。逆に強制冷却時には熱電対測定による実際のメンブレン温度よりも赤外放射温度計によるメンブレン温度測定補正値が高く計測されている。すなわち、強制冷却時はキャリアの温度降下が遅れているために高温のキャリアから放射される赤外線がメンブレンで反射され赤外放射温度計に取り込まれるため、実際のメンブレン温度よりも高い測定補正値となっている。
図7(b)ではメンブレン上面にシボ加工が施されているため、キャリアから放射される赤外線がメンブレン上面で乱反射することとなり、赤外放射温度計測定値に与える影響が小さくなり、強制加熱時および強制冷却時ともに、熱電対測定による実際のメンブレン温度と赤外放射温度計によるメンブレン温度測定補正値とが概略一致し、上面にシボ加工を施したメンブレンでは赤外放射温度計により比較的精度良くメンブレン温度を推定できることが確認できる。
【0063】
上述したように、図7(a)および図7(b)より、特にメンブレン上面にシボ加工を施さない場合等、キャリアから放射される赤外線がメンブレン上面で反射し、赤外放射温度計測定値に与える影響が大きい場合は、赤外放射温度計による測定補正値では精度良くメンブレン温度を推定できないことが分かる。このように赤外放射温度計測定値はキャリアの温度の影響を受けるために、赤外放射温度計測定補正値とキャリア温度測定値を用いた重回帰分析によりメンブレン温度の推定値を算出する。本重回帰分析においては、(熱電対によるメンブレン温度測定値―メンブレン温度推定値)が最小となる回帰係数b、b、bを算出している。すなわち最小2乗法による重回帰分析を採用している。
(メンブレン温度推定値)=b+b×(赤外放射温度計測定補正値)+b×(キャリア温度測定値) ・・・・・・式(2)
【0064】
図8(a)および図8(b)は、上記式(2)で重回帰分析により(熱電対によるメンブレン温度測定値−メンブレン温度推定値)が最小となる回帰係数b,b,bを実測値を当てはめて算出した場合の、メンブレン温度推定値を横軸に、同時刻のメンブレン上面温度熱電対測定値を縦軸にプロットしたグラフである。図8(a)はメンブレン上面にシボ加工が無い場合を示し、図8(b)はメンブレン上面にシボ加工が有る場合を示す。
図8(a)および図8(b)に示すように、重回帰式を用いてメンブレン温度を推定した場合には非常に精度良く熱電対によるメンブレン温度実測値と一致させることが可能となった。このように算出した重回帰係数を予め研磨装置に記憶させておくことにより、研磨処理工程中のメンブレン温度を高精度に推定することが可能である。また、図8(b)はメンブレン上面にシボ加工が施された図7(b)のデータを用いて重回帰分析による推定値を算出した場合の結果であるが、図7(b)の場合よりも図8(b)の場合の方が高精度に熱電対によるメンブレン温度実測値と一致させることが出来る。すなわち、キャリア温度を考慮に入れた重回帰分析はシボ加工が施された領域においても有効である。
【0065】
図9は、図5の場合の赤外放射温度計測定値とキャリア温度測定値から重回帰式を用いてメンブレン温度を推定した結果を示すグラフである。図9において測定箇所はシボ加工無しの領域を測定している。図9から、図7(a)の場合の直線近似補正値(単回帰式)である赤外放射温度計測定補正値では熱電対によるメンブレン温度実測値と差がある箇所があるが、重回帰式を用いたメンブレン温度推定値は非常に精度良く熱電対によるメンブレン温度実測値と一致していることが確認できる。
【0066】
次に、メンブレン温度推定値を用いてウエハ温度(基板温度)を推定する手法について説明する。図10は、図5の全時系列データを用いて、上述のメンブレン温度推定式(2)により算出されたメンブレン温度推定値を横軸に、同時刻のウエハ下面温度熱電対測定値を縦軸にプロットしたグラフである。図10より強制加熱時は熱電対測定による実際のウエハ温度よりもメンブレン温度推定値が低く測定されていることが分かる。逆に強制冷却時には熱電対測定による実際のウエハ温度よりもメンブレン温度推定値が高く測定されている。この現象について以下に説明する。
熱平衡の観点から、メンブレン温度はウエハ温度とキャリア温度両方の影響を受ける。強制加熱時には低いキャリア温度の影響を受けてメンブレン温度はウエハ温度よりも低い温度となっている。逆に強制冷却時には高いキャリア温度の影響を受けてメンブレン温度はウエハ温度よりも高い温度となっている。
【0067】
図10において、メンブレン温度推定値を式(1)の単回帰分析により求めて、得られた赤外放射温度測定補正値から単回帰分析でウエハ温度推定値を求めてもよい。その場合も、特に、メンブレン上面にシボ加工を施した場合等、キャリアから放射される赤外線がメンブレン上面で乱反射する場合は、ウエハ温度を高い精度で推定することができる。メンブレン温度推定値を用いた単回帰式によってある程度のウエハ温度の推定が可能である。更に高精度なウエハ温度を推定するには、メンブレン温度とキャリア温度を用いた重回帰式によりウエハ温度を推定すると高精度な推定値の算出が可能となる。ここでの重回帰分析においても(熱電対によるウエハ温度測定値―ウエハ温度推定値)が最小となる回帰係数b、b、bを算出している。すなわち最小2乗法による重回帰分析を採用している。
(ウエハ温度推定値)=b+b×(メンブレン温度推定値)+b×(キャリア温度測定値) ・・・・・・式(3)
【0068】
図11は、上記式(3)で(熱電対によるウエハ温度測定値−ウエハ温度推定値)が最小となる回帰係数b,b,bを実測値を当てはめて算出した場合の、ウエハ温度推定値を横軸に、同時刻のウエハ下面温度熱電対測定値を縦軸にプロットしたグラフである。式(3)の重回帰式を用いてウエハ温度を推定した場合には非常に精度良く熱電対によるウエハ下面温度実測値と一致させることが可能となった。
【0069】
図12は、図5の場合の赤外放射温度計測定値とキャリア温度測定値から重回帰式を用いてウエハ温度を推定した結果を示すグラフである。重回帰式を用いてウエハ温度を推定したウエハ温度推定値は非常に精度良く熱電対によるウエハ下面温度実測値と一致していることが確認できる。このように算出した重回帰係数を予め研磨装置に記憶させておくことにより、研磨処理工程中のウエハ温度を高精度に推定することが可能である。なお、図4に示すような重回帰係数決定のための事前実験では、実際の研磨時と同じ圧力で圧力室を加圧状態で行うのが望ましく、また、実研磨(実際に行う研磨)が幾つかの圧力条件で行われる場合には各圧力条件毎に重回帰係数を算出しておき、実研磨時の圧力条件に応じて重回帰係数を使い分けることを行っても良い。本実施形態においては基板保持装置(トップリング)を代表する温度としてキャリアの温度を組み込んだ重回帰分析を行った。精度良い温度推定値を算出するためにはメンブレンと対向する場所に位置するキャリアの温度を用いるのが望ましいが、キャリア温度の代わりに基板保持装置のその他の部分(部材)の温度を用いても良い。その際にはキャリアに接続されている部材の温度を用いると比較的精度良く温度推定値を算出することが可能である。
【0070】
図13は、本発明の研磨装置において実施される赤外線放射温度計測定値とキャリア温度測定値とからウエハ温度(基板)を推定して研磨条件等を決定する工程の一態様を示すフローチャートである。
図13に示すように、予めデータ取得、推定式の算出を行う。すなわち、図4の場合と同様に、熱電対51によりウエハ下面温度熱電対測定値を計測し、熱電対49によりメンブレン上面温度熱電対測定値を計測し、赤外放射温度計45により赤外放射温度計測定値を計測し、熱電対48によりキャリア温度測定値を計測する。そして、これらの測定値を用いて推定式の算出を行う。この場合、必要に応じて複数の圧力室で同様の推定式を算出する。赤外線放射温度計測定値を接触式熱電対の実測値と比較し、赤外放射温度計測定値の傾きとオフセットを補正する。次に、赤外放射温度測定補正値とキャリア温度測定値を用いた重回帰分析によりメンブレン温度推定式を算出する。そして、メンブレン温度推定値とキャリア温度測定値を用いた重回帰分析によりウエハ温度推定式を算出する。次に、算出したウエハ温度推定式を研磨装置に記憶させる。
実研磨時に、ウエハ研磨時に測定される赤外放射温度測定値とキャリア温度測定値を上記ウエハ温度推定式に代入し、研磨時のウエハ温度推定値を算出する。必要に応じて、算出された研磨時のウエハ温度推定値を用いて研磨条件の変更などを行う。
【0071】
次に、[発明が解決しようとする課題]の項で説明したメンブレン内が結露してしまう問題について説明する。メンブレン内の結露の影響は、温度測定の精度を低下させることやウエハに加わる圧力が不安定になってしまうという問題となる。
図14(a)は、図2のXIV部拡大図である。図14(a)に示すように、バルブV1−3は大気に連通可能になっている。圧力室(例えば、センター室5)に連通する流路が真空状態から大気開放状態に切り替えられる際にバルブV1−3から研磨装置が設置されている雰囲気の空気が流路に侵入し、圧力室が大気開放される。このとき、圧力室内に水分を含んだ空気が侵入していくこととなり、上述の圧力室内気体の温度上昇・下降を繰り返す状態によりメンブレン内が結露することとなる。他の圧力室(例えば、リプル室6)に対応するバルブV2−3等の場合も同様である。このように圧力室のメンブレン内が結露しメンブレン上面側に水滴が発生すると、その部分から放射される赤外線量が水滴がない場合と比較して変化してしまうために赤外放射温度計で精度良くメンブレン温度を測定できなくなる。また、結露した水滴の量が増えると圧力室内に水が溜まりウエハ(基板)へ加わる圧力が変化してしまい、安定した研磨が出来なくなってしまう。
【0072】
圧力室内に水分を含んだ空気が侵入することを避けるために、圧力室内を真空状態から大気圧へ増圧する際には大気圧のN(乾燥気体)を供給することにより、圧力室内を大気圧とする。N以外の、水分を含まない乾燥気体を用いても良い。ここで、乾燥気体とは、大気圧下での露点温度が20℃以下の気体源を意味している。通常トップリング洗浄などに使用される純水は20℃前後なので露点温度が20℃以下の気体を用いると、20℃近くに冷やされても結露しない。乾燥気体は、不活性気体が好ましい。
図14(b)は、圧力室内に大気圧のNを供給するための配管系統図である。図14(b)に示すように、バルブV1−3はレギュレータ又は圧力コントローラ55を介して加圧N源56に接続されている。レギュレータ又は圧力コントローラ55は、加圧N源56から供給される加圧Nを大気圧に減圧するようになっている。このように、圧力室に大気圧のNを供給するために、レギュレータ(減圧弁)により減圧して大気圧のNを供給しても良いし、圧力コントローラにより大気圧のNを供給しても良い。逆に圧力室を加圧状態から大気圧へ減圧する場合には圧力室に連通するバルブV1−3を開き、レギュレータのリリーフ弁より加圧気体を排出し減圧するため、流路に水分を含んだ空気が侵入することはない。また大気圧のNを貯留しておく容器を設け、この容器から圧力室にNを供給することにより大気圧へ変更する際の応答性を高めることも可能である。本発明では、圧力室内に連通する流路が、研磨装置が設置された雰囲気とは隔離された気体源にのみ接続されており、即ち研磨装置が設置された雰囲気とは接続されないように構成されているため、空気中の水分が流路に侵入せず、圧力室内が結露することが防止される。
なお、図2に示されるような乾燥気体源に接続されない態様の場合も、赤外線温度計が設置された圧力室に連通する流路(図2の実施例では21,22,23,24、又は11,12,13,14)内に水分除去手段を設置することにより、各圧力室に露点温度が20℃以下の気体を供給するようにすることもできる。水分除去手段としては、シリカゲルや吸水性ポリマーなどの吸水性材質のものを流路内に設置し、メンブレン交換時などにこれらの吸水性の材質のものも同時に交換する。
その他に、圧力室内側の結露を防止するために、メンブレン自体を断熱性の高いメンブレンで構成したり、トップリング洗浄時に温かい水をかけるなどしてメンブレンの温度を下げないようにする方法も考えられる。
【0073】
次に、図3において示したデータ受信ユニット47について説明する。図3に示すように、データ受信ユニット47は研磨処理中回転するトップリング1に設置されるため、研磨装置制御部との信号伝送には回転部と固定部との間の信号伝送が必要となる。これにはスリップリングを用いても良いし、電波通信や光通信などによる無線通信によっても良い(図示せず)。本実施形態においては、赤外放射温度計45や熱電対48により測定された信号は冷接点温度センサユニット46のA/D変換器によりデジタル信号に変換されデータ受信ユニット47に伝送される。そして、データ受信ユニット47からデジタル信号が研磨装置制御部50(図1参照)へ伝送されるために、スリップリングや無線通信でのノイズの影響を受けにくくなっている。データ受信ユニット47への電源供給にもスリップリングを用いても良いし、コイル等を用いた非接触給電を行っても良い。また蓄電池をトップリング1に搭載し電源を供給するようにしても良く、その際には電池の残量が研磨装置制御部50で認識できるようにし、電池残量低下時に電池の交換を促す警報を研磨装置側で発するようにしても良い。
【0074】
次に、圧力室の温度制御を行う方法について説明する。図15は、圧力室の温度制御を行う構成を備えたトップリングの模式的断面図である。図15では図3に図示されている赤外放射温度計などは省略している。図15に示すように、1つの圧力室(センター室5)に第1の圧力コントローラ60−1と第2の圧力コントローラ60−2が接続されている。また、圧力室(センター室5)内の圧力をモニタリングする圧力センサ61が設置されている。研磨開始時には2つの圧力コントローラ60−1,60−2は同一の制御圧力に設定されているが、研磨処理工程中のウエハ温度推定値が所定の温度を超えた場合には1つの圧力コントローラの設定値を下げる。例えば、研磨開始時には圧力コントローラ60−1、圧力コントローラ60−2共に200hPaの設定値で加圧する。この際にはウエハは200hPaで押圧されている。ウエハ温度推定値が所定の温度を超えた際には圧力コントローラ60−1は200hPaのままで、圧力コントローラ60−2の設定圧力を180hPaとする。そうした場合、圧力室内には圧力コントローラ60−1による流路から圧力コントローラ60−2による流路に向かって加圧流体の流れが生じる。この加圧流体の流れによって圧力室(センター室5)内を冷却する。またこの際の圧力室内の圧力を圧力センサ61によりモニタリングし、圧力室内の圧力が200hPaより大きく低下する場合には圧力コントローラ60−2の設定圧力を上昇させ、圧力室内の圧力が所望の圧力になるように制御する。
【0075】
圧力室内の冷却効果を更に上げるためには圧力コントローラ60−2の設定圧力を更に下げて、圧力室内を流れる加圧流体の流量を増やすと良い。また加圧流体は温度調整されていてもよく、低温に調整された加圧流体を用いて冷却効果を更に高めることも行われる。逆に高温に調整された加圧流体を用いて、ウエハ温度推定値が所定温度以下の場合に高温の加圧流体を圧力室に流通させて、ウエハの温度を上昇させることもできる。これらを組み合わせて、研磨初期のウエハの温度が低い場合には、高温の加圧流体を流通させウエハの温度上昇を促進し、研磨途中でウエハの温度が高くなった場合には、低温または常温の加圧流体を流通させウエハの温度上昇を抑制するように制御しても良い。ウエハを押圧するメンブレンにより複数の圧力室を形成し、複数の圧力室それぞれでウエハ温度を推定し、制御を行っても良いし、1つの圧力室でウエハ温度の推定を行い、その温度を用いて温度制御を行っても良い。また圧力センサ61は温度特性を持つために、キャリア43の温度測定結果を用いて圧力センサ61の測定値を補正するようにしてもよい。
【0076】
また、ウエハ温度推定値を用いて様々な研磨条件を変更することも行われる。研磨中、1つの圧力室(例えばセンター室5)に対応する部分のウエハ温度推定値が、他の圧力室(例えばリプル室6)に対応する部分のウエハ温度推定値よりも高い場合には、1つの圧力室(センター室5)の圧力を下げて温度上昇を抑制したり、逆に他の圧力室(リプル室6)の圧力を上げて当該圧力室(リプル室6)の温度上昇を促進することが行われる。また基板保持装置外に設けられた研磨面101a(図1参照)の冷却、昇温手段を用いて研磨面全面の温度制御を行ったり、測定した圧力室に対応する部分の研磨面の温度制御を行ったりしても良い。研磨面の温度調整手段としては、媒体を研磨面に接触させて温度調整する手段や、流体を研磨面に吹き付ける手段などがある。研磨温度を制御するためにリテーナリング3(図1参照)の押圧力を変更したり、温度測定した圧力室に対応する部分で、ドレッシング荷重やスキャン速度等のドレッシング条件を変更し研磨の促進、抑制を行っても良い。ドレッシング条件の変更は研磨中にドレッシングを行うIn-situドレス時に行っても良いし、研磨後にドレッシングを行うEx-situドレス時に行っても良い。研磨スラリーの流量を変更し温度制御することも行われ、研磨スラリーの滴下位置を温度測定結果を用いて変更することを行っても良い。これら温度調整手段を複数組み合わせて用いても良い。さらに温度測定結果として研磨面の温度も測定し、この研磨面の温度測定結果とウエハの温度測定結果とを用いて上記温度制御を行っても良い。
【0077】
次に、上述した研磨面の温度調整手段の具体例について図16乃至図21を参照して説明する。
図16は、研磨スラリー(研磨液)を滴下する研磨液供給ノズルと研磨パッドとトップリングとの配置関係を示す模式的平面図である。図16に示すように、研磨テーブル100の上方には研磨液供給ノズル102が設置されており、この研磨液供給ノズル102によって研磨テーブル100上の研磨パッド101の所定位置に研磨スラリーを滴下するようになっている。研磨液供給ノズル102の先端のノズル部とトップリング1とは近接して配置されている。
【0078】
図17は、研磨パッドの温度調整手段の一例を示す模式的平面図である。図17に示す例においては、ウエハの温度が高い場合に冷却媒体で冷却した研磨パッド温調手段70を研磨パッド101に接触させることにより、研磨パッド(研磨面)を冷却する。
【0079】
図18は、研磨パッドの温度調整手段の他の例を示す模式的平面図である。図18に示す例においては、ウエハの一部、例えばウエハ中心部の温度が高い場合に、その高い温度に対応する位置にある研磨パッドの部分を研磨パッド温調手段70により強めに冷却している。すなわち、ウエハ中心部に対応する位置にある研磨パッドの部分を冷却するための研磨パッド温調手段70の中央部の冷却度合いを強め、ウエハの他の部分に対応する位置にある研磨パッドの部分を冷却するための研磨パッド温調手段70の両側部の冷却度合いを弱めるか、冷却しないか、あるいは加熱する。
【0080】
図19は、ドレッシング荷重(ドレス荷重)やスキャン速度を変更する例を示す模式的平面図である。図19に示すように、研磨テーブル100上の研磨パッド101をドレッシングするための円盤状のドレッサ80が設置されている。ドレッサ80は、ドレッシング時に所定のドレッシング荷重で研磨パッド101に対して押圧されるようになっている。また、ドレッサ80は、水平方向に延びる揺動軸81によりドレッサスキャン行程の範囲だけ揺動可能となっている。ウエハ中心部の温度が高い場合又は低い場合に、その高い温度(又は低い温度)に対応する位置にある研磨パッドの部分をドレッシングするためのドレッシング荷重を減らす(又は増やす)ことにより、研磨パッドの研磨能力を調整する。ウエハ中心部の温度が高い場合(又は低い場合)に、その高い温度(又は低い温度)に対応する位置にある研磨パッドの部分をドレッシングするためのスキャン速度を下げる(又は上げる)ことにより、研磨パッドの研磨能力を調整する。ドレッシング条件の変更は、研磨中にドレッシングを行うIn-situドレス時に行っても良いし、研磨後にドレッシングを行うEx-situドレス時に行っても良い。
【0081】
図20は、ウエハの温度に応じて研磨スラリーの滴下位置を変更する例を示す模式的平面図である。図20に示すように、ウエハ中心部の温度が高い場合に研磨液供給ノズル102の角度を変更することにより、ウエハ中心が研磨パッド上を通過する軌跡(Lc)上に研磨スラリーの滴下位置がくるようにしている。
【0082】
図21は、ウエハ温度測定と同時に研磨パッド面の温度(分布)も測定し、測定結果に基づき温度制御する例を示す模式的平面図である。図21に示す例では、研磨テーブル100の上方に研磨テーブル100上の研磨パッド101から離間して複数の赤外放射温度計82を設置している。複数の赤外放射温度計82により研磨パッド101上の研磨面の温度を測定することにより、研磨パッド面の温度分布を測定する。そして、ウエハの温度推定結果と研磨面の温度の測定結果とを用いてウエハの温度制御を行う。
【0083】
図16乃至図21に示す実施形態の他に、研磨テーブル内に埋設したウエハ被研磨面の測定を行う光学式、渦電流式などのセンサによる情報と、ウエハ温度推定値(基板温度推定値)とを組み合わせて研磨条件を変更することも出来る。例えば、研磨処理中、ウエハの中心部で渦電流式センサでモニタリングした膜厚時間変化が他のエリアに比べて遅く、かつウエハ中心部の温度推定値が高い場合に、ウエハ中心部の温度を下げるように温度調整手段を制御する。これは温度が一定値以上に上昇した場合、研磨が抑制されるプロセスの場合であり、プロセスに応じて様々な制御の組合せが可能である。また、メンブレン温度測定を実施する圧力室のメンブレンには、ウエハ当接面に孔などの開口部が無いことが望ましい。これは孔があると基板保持装置の洗浄動作などによってメンブレン上面側に洗浄液が侵入し、それによってメンブレン温度測定の精度が低下するためである。孔などの開口部を設けた場合には、メンブレン温度測定箇所に、基板保持装置の洗浄動作中などにキャリア側からN等を噴射することによって水滴を除去することを行うと良い。
【0084】
複数の圧力室を有する基板保持装置を用いる際には、全ての圧力室にメンブレンの温度を測定する温度センサ(赤外線放射温度計)を設置し、キャリア温度を測定する1つの測定器を設置し、各メンブレン温度センサ毎の重回帰式より各圧力室に対応した位置におけるウエハ温度推定が可能となる。また、全ての圧力室に温度センサを設置せずに、少なくとも2つ設けたメンブレン温度センサの測定結果より、メンブレン温度センサが設置されていない圧力室に対応した位置におけるウエハ温度を補間して推定しても良い。2つのメンブレン温度センサの測定結果から線形補間で推定しても良いし、その他2次式などの補間方法で推定しても良い。この手段によれば、少ないメンブレン温度センサ個数でウエハ面内の温度分布推定が可能となる。また、この手段で推定した、メンブレン温度センサが設置されていない圧力室の推定温度を用いて研磨条件を変更することも行われる。例えば、推定温度が高い場合にはこの圧力室の圧力を下げることなどが行われる。
【0085】
図22は、赤外放射温度計とキャリア温度測定のための熱電対を配置したトップリングのより詳細な構造を示す断面図である。
図22に示すトップリング1は、図3に示すトップリング1を更に詳細に示したものである。図22に示すように、トップリング1は、半導体ウエハを研磨面101a(図1参照)に対して押圧するトップリング本体2と、研磨面101aを直接押圧するリテーナリング3とから基本的に構成されている。トップリング本体2は、円盤状のトップリングフランジ41と、トップリングフランジ41の下面に取り付けられたトップリングスペーサ42と、トップリングスペーサ42の下面に取り付けられたキャリア43とを備えている。リテーナリング3は、トップリング本体2のトップリングフランジ41の外周部に取り付けられている。トップリングフランジ41は、ボルト308によりトップリングシャフト111に連結されている。また、トップリングスペーサ42は、ボルト(図示せず)を介してトップリングフランジ41に固定されており、キャリア43はボルト(図示せず)を介してトップリングスペーサ42に固定されている。トップリングフランジ41、トップリングスペーサ42、およびキャリア43から構成されるトップリング本体2は、エンジニアリングプラスティック(例えば、PEEK)などの樹脂により形成されている。なお、トップリングフランジ41をSUS、アルミニウムなどの金属で形成してもよい。
【0086】
キャリア43の下面には、半導体ウエハの裏面に当接する弾性膜(メンブレン)4が取り付けられている。メンブレン4は、外周側に配置された環状のエッジホルダ316と、エッジホルダ316の内方に配置された環状のリプルホルダ318,319とによってキャリア43の下面に取り付けられている。メンブレン4は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0087】
エッジホルダ316はリプルホルダ318により保持され、リプルホルダ318は複数のストッパ320によりキャリア43の下面に取り付けられている。リプルホルダ319も同様に複数のストッパ(図示せず)によりキャリア43の下面に取り付けられている。メンブレン4の中央部にはセンター室5が形成されている。
リプルホルダ318は、メンブレン4のリプル314bをキャリア43の下面に押さえつけるようになっており、リプルホルダ319は、メンブレン4のリプル314aをキャリア43の下面に押さえつけるようになっている。メンブレン4のエッジ314cはリプルホルダ318でエッジホルダ316に押さえつけられている。
【0088】
メンブレン4の中央部にはセンター室5が形成されている。また、メンブレン4のリプル314aとリプル314bとの間には環状のリプル室6が形成されている。メンブレン4のアウター隔壁314bおよびエッジ隔壁314cによって環状のアウター室7が形成されている。メンブレン4のエッジ隔壁314cおよび側壁314eによって環状のエッジ室8が形成されている。各圧力室5,6,7,8は、トップリング本体2内に形成された流路を介して圧力調整部30(図2参照)に接続されている。
【0089】
リテーナリング3は半導体ウエハの外周縁を保持するものであり、上部が閉塞された円筒状のシリンダ400と、シリンダ400の上部に取り付けられた保持部材402と、保持部材402によりシリンダ400内に保持されるメンブレン404と、メンブレン404の下端部に接続されたピストン406と、ピストン406により下方に押圧されるリング部材408とを備えている。弾性膜404内にリテーナリング圧力室9が形成されている。なお、メンブレン404は、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンゴム、シリコンゴム等の強度および耐久性に優れたゴム材によって形成されている。
【0090】
保持部材402には、メンブレン404によって形成されるリテーナリング圧力室9に連通する流路(図示せず)が形成されている。そして、保持部材402に形成された流路は、トップリング本体2内に形成された流路を介して圧力調整部30(図2参照)に接続されている。
本実施形態におけるトップリング1においては、メンブレン4とキャリア43との間に形成される圧力室、すなわち、センター室5、リプル室6、アウター室7、およびエッジ室8に供給する流体の圧力、およびリテーナリング圧力室9へ供給する流体の圧力をそれぞれ独立に調整することができるようになっている。このような構造により、半導体ウエハを研磨パッド101に押圧する押圧力を半導体ウエハの部分ごとに調整でき、かつリテーナリング3が研磨パッド101を押圧する押圧力を自在に調整できるようになっている。
【0091】
図22に示す実施形態ではメンブレン4のセンター室5に赤外放射温度計45を配置している。赤外放射温度計45は、他の圧力室に設置することも可能であり、その際には圧力室隔壁のウエハ半径方向の位置を適宜変更しても良い。赤外放射温度計45はノイズの影響を極力排除するためメンブレン近傍に、かつメンブレンに対向する側(キャリア側)に設置されている。赤外放射温度計45の外側面とキャリア43との間にはOリング85を設置し、圧力室の加圧流体や真空圧がリークしないようにしている。キャリア43の温度計測を行うための熱電対48がセンター室5に対応するキャリア上面に設置されている。キャリア43の温度計測を行うための熱電対48は各圧力室に対応するキャリア上面にそれぞれ設置しても良いし、1箇所の熱電対測定値をキャリアを代表する温度として扱っても良い。また直接キャリア下面の温度を測定しても良いし、キャリア上面側で計測する場合には出来るだけキャリア厚さを薄くして、キャリア下面の温度を応答性良く測定するようにすると良い。また、キャリアはトップリングの消耗品交換時などに取り外す部分なので、赤外線放射温度計や熱電対からの配線は熱電対用コネクタなどで容易に脱着可能な構成にすると良い。
【0092】
図22に示すように構成されたトップリング1において、赤外放射温度計45によりメンブレン4から放射される赤外線量を測定し、熱電対48によりキャリア43の温度を測定し、赤外放射温度計45の測定値と熱電対48の測定値を用いることによりウエハ温度を推定することは、図3乃至図13において説明したとおりである。
【0093】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0094】
1 トップリング
2 トップリング本体
3 リテーナリング
4 弾性膜(メンブレン)
4a 隔壁
4h 孔
5 センター室
6 リプル室
7 アウター室
8 エッジ室
9 リテーナリング圧力室
11,12,13,14,15,21,22,23,24,26 流路
25 ロータリージョイント
30 圧力調整部
31 真空源
32 弾性膜(メンブレン)
33 シリンダ
35 気水分離槽
41 トップリングフランジ
42 トップリングスペーサ
43 キャリア
45 赤外放射温度計
46 冷接点温度センサユニット
47 データ受信ユニット
48,49,51 熱電対
50 研磨装置制御部
52 ウエハ加熱・冷却器
55 圧力コントローラ
56 加圧N
60−1,60−2 圧力コントローラ
61 圧力センサ
70 研磨パッド温調手段
80 ドレッサ
81 揺動軸
82 赤外放射温度計
85 Oリング
100 研磨テーブル
100a テーブル軸
101 研磨パッド
101a 表面(研磨面)
102 研磨液供給ノズル
110 トップリングヘッド
111 トップリングシャフト
112 回転筒
113 タイミングプーリ
114 トップリング用回転モータ
115 タイミングベルト
116 タイミングプーリ
117 トップリングヘッドシャフト
124 上下動機構
126 軸受
128 ブリッジ
129 支持台
130 支柱
131 真空源
132 ボールねじ
132a ねじ軸
132b ナット
138 サーボモータ
300 上部材
306 下部材
308 ボルト
314a,314b リプル
314c エッジ
314e 側壁
316 エッジホルダ
318,319 リプルホルダ
320 ストッパ
400 シリンダ
402 保持部材
404 メンブレン
406 ピストン
408 リング部材
F1〜F5 流量センサ
R1〜R5 圧力レギュレータ
P1〜P5 圧力センサ
V1−1〜V1−3、V2−1〜V2−3,V3−1〜V3−3,V4−1〜V4−3,V5−1〜V5−3 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨面を有した研磨テーブルと、基板を保持して前記研磨面に押圧する基板保持装置と、制御部とを備えた研磨装置であって、
前記基板保持装置は、基板に当接して基板保持面を構成する弾性膜と、前記弾性膜の上方に位置するキャリアと、前記弾性膜と前記キャリアとの間に形成された圧力室と、前記弾性膜からの熱エネルギを測定する赤外線検出器とを備え、
前記制御部は、前記赤外線検出器による測定値を用いて弾性膜温度推定値を算出することを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記弾性膜温度推定値を用いて基板温度推定値を算出することを特徴とする請求項1記載の研磨装置。
【請求項3】
前記弾性膜温度推定値または前記基板温度推定値を用いて研磨条件を変更することを特徴とする請求項1または2記載の研磨装置。
【請求項4】
前記赤外線検出器は赤外放射温度計であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の研磨装置。
【請求項5】
基板を保持して研磨面に押圧する基板保持装置であって、
基板に当接して基板保持面を構成する弾性膜と、前記弾性膜の上方に位置するキャリアと、前記弾性膜と前記キャリアとの間に形成された圧力室と、前記弾性膜からの熱エネルギを測定する赤外線検出器とを備え、
前記弾性膜の基板保持面の裏面側に粗面化加工を施したことを特徴とする基板保持装置。
【請求項6】
基板を保持して研磨面に押圧する基板保持装置であって、
基板に当接して基板保持面を構成する弾性膜と、前記弾性膜の上方に位置するキャリアと、前記弾性膜と前記キャリアとの間に形成された圧力室と、前記弾性膜からの熱エネルギを測定する赤外線検出器と、前記弾性膜の基板保持面の裏面側に配置され前記弾性膜以外の箇所の熱エネルギを測定する測定器とを備えたことを特徴とする基板保持装置。
【請求項7】
前記測定器は前記キャリアの熱エネルギを測定することを特徴とする請求項6記載の基板保持装置。
【請求項8】
前記圧力室の圧力を測定する圧力センサを備えたことを特徴とする請求項6記載の基板保持装置。
【請求項9】
前記赤外線検出器による測定値と前記測定器による測定値とを用いて弾性膜温度推定値を算出する制御部を備えたことを特徴とする請求項6記載の基板保持装置。
【請求項10】
前記弾性膜温度推定値の算出手段として、
予め、弾性膜温度測定値、前記赤外線検出器による測定値(T)、前記測定器による測定値(T)を複数組用意し、
(弾性膜温度推定値)=b+b×T+b×Tの重回帰式において、(前記弾性膜温度測定値―前記弾性膜温度推定値)が最小となる回帰係数b、b、bを算出し、
(前記弾性膜温度推定値)=b+b×(前記弾性膜測定値)+b×(前記測定器による測定値)の式により、前記弾性膜温度推定値を算出することを特徴とする請求項9記載の基板保持装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記弾性膜温度推定値と前記測定器による測定値とを用いて基板温度推定値を算出することを特徴とする請求項9記載の基板保持装置。
【請求項12】
前記基板温度推定値の算出手段として、
予め、基板温度測定値、前記弾性膜温度推定値(T)、前記測定器による測定値(T)を複数組用意し、
(基板温度推定値)=b+b×T+b×T
の重回帰式において、(前記基板温度測定値―前記基板温度推定値)が最小となる回帰係数b、b、bを算出し、
(前記基板温度推定値)=b+b×(前記弾性膜温度推定値)+b×(前記測定器による測定値)により、前記基板温度推定値を算出することを特徴とする請求項11記載の基板保持装置。
【請求項13】
前記弾性膜と前記キャリアとの間には少なくとも2つの圧力室が形成され、前記少なくとも2つの圧力室のうち、少なくとも1つの圧力室に前記赤外線検出器を備えたことを特徴とする請求項5乃至12のいずれか一項に記載の基板保持装置。
【請求項14】
前記赤外線検出器が備えられた圧力室の前記弾性膜の基板保持面は開口部が無いことを特徴とする請求項5乃至13のいずれか一項に記載の基板保持装置。
【請求項15】
前記赤外線検出器は赤外放射温度計であることを特徴とする請求項5乃至14のいずれか一項に記載の基板保持装置。
【請求項16】
研磨面を有した研磨テーブルと、請求項5乃至15のいずれか一項に記載の基板保持装置とを備えたことを特徴とする研磨装置。
【請求項17】
研磨面を有した研磨テーブルと、基板を保持して前記研磨面に押圧する基板保持装置とを備えた研磨装置であって、
前記基板保持装置は、基板に当接して基板保持面を構成する弾性膜と、前記弾性膜の上方に位置するキャリアと、前記弾性膜と前記キャリアとの間に形成された圧力室と、前記圧力室に連通する第一の流路とを備え、
前記第一の流路は、研磨装置が設置された雰囲気とは隔離された気体源にのみ接続されていることを特徴とする研磨装置。
【請求項18】
研磨面を有した研磨テーブルと、基板を保持して前記研磨面に押圧する基板保持装置とを備えた研磨装置であって、
前記基板保持装置は、基板に当接して基板保持面を構成する弾性膜と、前記弾性膜の上方に位置するキャリアと、前記弾性膜と前記キャリアとの間に形成された圧力室と、前記圧力室に連通する第一の流路とを備え、
前記圧力室には大気圧下での露点温度が20℃以下の気体のみが供給されることを特徴とする研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−56011(P2012−56011A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201098(P2010−201098)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】