説明

硬化性樹脂組成物

【課題】難燃性に優れ、しかも、めっきにより微細な回路パターンを備える導体層を設けることが容易であり、その導体層の密着性に優れる絶縁膜を与える硬化性樹脂組成物を提供する
【解決手段】重量平均分子量が10,000〜250,000であるカルボキシル基または酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)に、硬化剤(B)と、不純物として含有されるフェノール類の含有量が20μg/g以下である、アリールオキシ基を含有してなる特定構造のホスファゼン化合物(C)とを配合してなる硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に回路基板の絶縁膜用として好適に用いられる硬化性樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、難燃性に優れ、しかも、めっきにより微細な回路パターンを備える導体層を設けることが容易であり、その導体層の密着性に優れる絶縁膜を与える硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、多機能化、通信高速化などの追求に伴い、電子機器に用いられる回路基板のより高密度化が要求され、そのため回路基板の多層化が図られている。多層回路基板は、通常、電気絶縁層と、その表面に形成された導体層とからなる内層基板の上に、電気絶縁層を積層し、この電気絶縁層の上に導体層を形成させ、必要に応じて、さらにその上に電気絶縁層および導体層の組みを数段積層させて形成される。このような多層回路基板の導体層が高密度のパターンである場合、往々にして導体層や基板が発熱するという問題が起きる。そのため電気絶縁層を形成するために用いられる絶縁膜の難燃性向上が求められている。また、使用済みの多層回路基板は焼却されることが多いが、従来、電気絶縁層にはハロゲン系難燃剤が配合されているため(例えば特許文献1参照)、焼却時にハロゲン系有害物質が発生することも問題になっている。そのため、焼却時にハロゲン系有害物質を発生しない難燃性の絶縁膜を有する多層回路基板が要望されている。
【0003】
このような要望に応える難燃性の絶縁膜を形成する材料として、特許文献2には、重量平均分子量が10,000〜250,000でカルボキシル基または酸無水物基を有する重合体、硬化剤およびホスファゼン化合物を含有してなる硬化性樹脂組成物が開示されている。この硬化性樹脂組成物は、微細な配線パターンを高密度に整然と形成することが可能な多層回路基板を得るのに好適で、難燃性、絶縁性および耐クラック性に優れ、かつ、焼却時に有害物質が発生しにくい絶縁膜を与えるものである。
【0004】
ところで、特許文献2には、硬化性樹脂組成物に配合するホスファゼン化合物の具体的な例として、ホスファゼン化合物の骨格をなすリン原子にアリールオキシ基が結合してなるホスファゼン化合物が開示されている。このようなホスファゼン化合物は、ホスファゼン化合物の中でも特に樹脂組成物に良好な難燃性を付与できるものである。
【0005】
【特許文献1】特開平2−255848号公報
【特許文献2】特開2005−248069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によると、ホスファゼン化合物の骨格をなすリン原子にアリールオキシ基が結合してなるホスファゼン化合物を硬化性樹脂組成物に配合すると、その硬化物に金属めっきをした際に、所謂めっきふくれが生じやすく、また、そのめっき層が剥がれ易いものとなることが明らかとなってきた。回路基板用絶縁膜には、通常めっきにより微細な回路パターンを備える導体層を設けるので、そのようなめっきふくれやめっき層の剥離は防止される必要がある。
【0007】
よって、本発明の目的は、難燃性に優れ、しかも、めっきにより微細な回路パターンを備える導体層を設けることが容易であり、その導体層の密着性に優れる絶縁膜を与える硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、ホスファゼン化合物の骨格をなすリン原子にアリールオキシ基が結合してなるホスファゼン化合物を配合した硬化性樹脂組成物の硬化物における、めっきふくれやめっき層の剥離の問題が、そのホスファゼン化合物が不純物として含有するフェノール類に起因するものであることを突き止めた。そして、そのようなフェノール類を含有するホスファゼン化合物からフェノール類を除く処理を行った後、それを特定の硬化性樹脂組成物に配合することで、めっきにより微細な回路パターンを備える導体層を設けることが容易であり、その導体層の密着性に優れる絶縁膜を与える硬化性樹脂組成物が得られることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
かくして、本発明によれば、重量平均分子量が10,000〜250,000であるカルボキシル基または酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)に、硬化剤(B)と、不純物として含有されるフェノール類の含有量が20μg/g以下である、下記一般式(1)および下記一般式(2)から選ばれる少なくとも一種のホスファゼン化合物(C)とを配合してなる硬化性樹脂組成物が提供される。
【0010】
【化3】

(一般式(1)中、Xは任意の一価の基であり、Yは−N=P(Rまたは−N=P(=O)Rを表し、Yは−P(=O)Rまたは−P(Rを表す。R〜Rは独立に炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニルアリール基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシアルコキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アリールグリシジルオキシ基、または、アミノ基もしくはハロゲン原子である。mは1〜1500の整数である。)
【0011】
【化4】

(一般式(2)中、Xは任意の一価の基であり、Rは炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニルアリール基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシアルコキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アリールグリシジルオキシ基、または、アミノ基もしくはハロゲン原子である。nは1〜1500の整数である。)
【0012】
上記の硬化性樹脂組成物は、回路基板の絶縁膜用であることが好ましい。
【0013】
また、本発明によれば、上記の硬化性樹脂組成物を硬化してなる回路基板用絶縁膜が提供され、さらに、めっきにより表面に導体層が形成された上記の回路基板用絶縁膜を有してなる回路基板が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、難燃性に優れ、しかも、めっきにより微細な回路パターンを備える導体層を設けることが容易であり、その導体層の密着性に優れる絶縁膜を与える硬化性樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の硬化性樹脂組成物は、特定の脂環式オレフィン重合体(A)に、硬化剤(B)と、特定のホスファゼン化合物(C)とを配合してなるものである。
【0016】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)は、重量平均分子量が10,000〜250,000でカルボキシル基または酸無水物基(以下、この両者をまとめて「カルボキシル基等」と記すことがある。)を有する脂環式オレフィン重合体である。本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは15,000〜150,000であり、より好ましくは20,000〜100,000である。脂環式オレフィン重合体(A)のMwが小さすぎると、得られる硬化物の強度が不十分になり、また、電気絶縁性が低下するおそれがある。一方、Mwが大きすぎると、脂環式オレフィン重合体(A)と硬化剤(B)との相溶性が低下して硬化物の表面粗度が大きくなり、回路基板の絶縁膜として用いた場合に形成される回路パターンの精度が低下する可能性がある。
【0017】
脂環式オレフィン重合体(A)は上記した分子量および官能基を有するものであれば特に限定されないが、脂環式オレフィン重合体(A)の体積固有抵抗(ATSM D257による)は、好ましくは1×1012Ω・cm以上、より好ましくは1×1013Ω・cm以上、特に好ましくは1×1014Ω・cm以上である。
【0018】
脂環式オレフィン重合体は、脂環式構造を有する不飽和炭化水素の重合体である。脂環式オレフィン重合体の具体例としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびその水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体、ノルボルネン系単量体とビニル化合物との付加重合体、単環シクロアルケン重合体、脂環式共役ジエン重合体、ビニル系脂環式炭化水素重合体およびその水素添加物が挙げられ、更に芳香族オレフィン重合体の芳香環水素添加物などの重合後の水素化で脂環構造が形成されて脂環式オレフィン重合体と同じ脂環構造が形成された重合体であってもよい。これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびその水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加重合体、ノルボルネン系単量体とビニル化合物との付加重合体、芳香族オレフィン重合体の芳香環水素化物が好ましく、特にノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物が好ましい。
【0019】
脂環式オレフィン重合体(A)の重量平均分子量(Mw)を上記した範囲に調整する方法は常法に従えば良く、例えば、脂環式オレフィンの開環重合をチタン系、タングステン系またはルテニウム系触媒を用いて行うに際して、ビニル化合物、ジエン化合物などの分子量調整剤を単量体全量に対して0.1〜10モル%程度添加する方法が挙げられる。分子量調整剤を多量に用いるとMwの低い重合体が得られる。かかる分子量調整剤の例としては、ビニル化合物では、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン化合物;スチレン、ビニルトルエンなどのスチレン化合物;エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエーテル化合物;アリルクロライドなどのハロゲン含有ビニル化合物;酢酸アリル、アリルアルコール、グリシジルメタクリレート、アクリルアミドなどのその他のビニル化合物;などが挙げられる。また、ジエン化合物では、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンなどの非共役ジエン化合物;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエン化合物;などが挙げられる。
【0020】
脂環式オレフィン重合体(A)のカルボキシル基等は、脂環式オレフィン単量体単位の炭素原子に直接結合していても、メチレン基、オキシ基、オキシカルボニルオキシアルキレン基、フェニレン基など他の二価の基を介して結合していてもよい。カルボキシル基等を有する脂環式オレフィン重合体の製造方法としては、(イ)カルボキシル基等が脂環式オレフィン単量体の炭素原子に予め結合している単量体を、必要に応じてエチレン、1−ヘキセン、1,4−ヘキサジエンなどの共重合可能な単量体と共に重合する方法、(ロ)カルボキシル基等を有さない脂環式オレフィン重合体に、ラジカル開始剤存在下でカルボキシル基等を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物をグラフト変性して結合させる方法、および、(ハ)カルボン酸エステル基などのカルボキシル基等へ変換可能な前駆基を有するノルボルネン系単量体を重合した後、加水分解などによって前駆基をカルボキシル基等へ変換させる方法、が挙げられる。
【0021】
上記(イ)の方法に用いられるカルボキシル基含有脂環式オレフィン単量体としては、8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−カルボキシメチル−5−ヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−メチル−8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−カルボキシメチル−8−ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−エキソ−6−エンド−ジヒドロキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、8−エキソ−9−エンド−ジヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンなどが挙げられる。
【0022】
また、上記(イ)の方法に用いられる酸無水物基含有脂環式オレフィン単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン−8,9−ジカルボン酸無水物、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]ヘプタデカ−4−エン−11,12−ジカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0023】
一方、前記(ロ)の方法に用いられる、カルボキシル基等を有さない脂環式オレフィン重合体を得るための単量体の具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、テトラシクロ[8.4.0.111,14.02,8]テトラデカ−3,5,7,12,11−テトラエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]デカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−3,10−ジエン、ペンタシクロ[7.4.0.13,6.110,13.02,7]ペンタデカ−4,11−ジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン、8−フェニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、7,10−メタノ−6b,7,10,10a−テトラヒドロフルオランセンなどが挙げられる。
【0024】
また、上記(ロ)の方法に用いられる、カルボキシル基等を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、メチル−エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物;などが挙げられる。
【0025】
上記(ハ)の方法に用いられる、カルボキシル基等へ変換可能な前駆基を含有する単量体としては、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンなどが挙げられる。
【0026】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)は、カルボキシル基等を有するものであれば、その含有量は特に限定されないが、脂環式オレフィン重合体(A)を構成する全繰り返し単位のモル数に対して、通常5〜60モル%、好ましくは10〜50モル%である。
【0027】
また、本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)は、カルボキシル基等以外の官能基(以下、他の官能基ということがある)を有していても良い。他の官能基としては、アルコキシカルボニル基、シアノ基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、エポキシ基、アルコキシル基、アミド基、イミド基などが挙げられる。これら他の官能基は、カルボキシル基等に対して30モル%以下であると好ましく、10モル%以下であるとより好ましく、1モル%以下であると特に好ましい。
【0028】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)における脂環式オレフィン由来の繰り返し単位の割合は、特に限定されないが、通常30〜100重量%、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは70〜100重量%である。脂環式オレフィン由来の繰り返し単位の割合が過度に少ないと、得られる硬化物の耐熱性に劣り好ましくない。脂環式オレフィン由来の繰り返し単位以外の繰り返し単位としては、格別な限定はなく、目的に応じて適宜選択される。
【0029】
本発明で用いる脂環式オレフィン重合体(A)の分子量分布は、特に限定されないが、シクロヘキサンまたはトルエンを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で、通常5以下、好ましくは4以下、より好ましくは3以下である。
【0030】
脂環式オレフィン重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、120〜300℃であることが好ましい。Tgが低すぎると、硬化性樹脂組成物の硬化物を絶縁膜として用いた場合において、高温下において充分な電気絶縁性を維持できず、Tgが高すぎると絶縁膜が強い衝撃を受けた際にクラックを生じて導体層が破損する可能性がある。
【0031】
また、脂環式オレフィン重合体(A)は、後述する硬化剤(B)およびホスファゼン化合物(C)と共に絶縁膜を形成するのに際し、有機溶剤に溶解して硬化性樹脂組成物のワニスにして用いられる場合、後述する有機溶剤に常温で可溶であることが好ましい。
【0032】
脂環式オレフィン重合体(A)を得るための重合方法、および必要に応じて行われる水素添加の方法は、格別な制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。
【0033】
本発明で用いる硬化剤(B)は、一般に絶縁膜形成用の硬化性樹脂組成物に配合されて加熱により架橋構造を形成するものであれば限定されない。なかでも、脂環式オレフィン重合体(A)のカルボキシル基または酸無水物基に架橋し得る化合物が好ましい。かかる架橋剤としては、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、多価アミン化合物、多価ヒドラジド化合物、アジリジン化合物、塩基性金属酸化物、有機金属ハロゲン化物などが挙げられる。また、過酸化物を併用してもよい。
【0034】
多価エポキシ化合物としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、クレゾール型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ化合物などのグリシジルエーテル型エポキシ化合物;脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、イソシアヌレート型エポキシ化合物、リン含有エポキシ化合物などの多価エポキシ化合物;などの分子内に2以上のエポキシ基を有する化合物が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0035】
多価イソシアナート化合物としては、炭素数6〜24の、ジイソシアナート類およびトリイソシアナート類が好ましい。ジイソシアナート類の例としては、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、p−フェニレンジイソシアナートなどが挙げられる。トリイソシアナート類の例としては、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアナート、1,6,11−ウンデカントリイソシアナート、ビシクロヘプタントリイソシアナートなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0036】
多価アミン化合物としては、2個以上のアミノ基を有する炭素数4〜30の脂肪族多価アミン化合物、芳香族多価アミン化合物などが挙げられ、グアニジン化合物のように非共役の窒素−炭素二重結合を有するものは含まれない。脂肪族多価アミン化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミンなどが挙げられる。芳香族多価アミン化合物としては、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3,5−ベンゼントリアミンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0037】
多価ヒドラジド化合物の例としては、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、トリメリット酸ジヒドラジド、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸ジヒドラジド、ピロメリット酸ジヒドラジドなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0038】
アジリジン化合物としては、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1,3,5−トリアジン、トリス[1−(2−メチル)アジリジニル]ホスフィノキシド、ヘキサ[1−(2−メチル)アジリジニル]トリホスファトリアジンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0039】
これらの硬化剤の中でも、カルボキシル基等を有する脂環式オレフィン重合体(A)との反応性が緩やかであり、得られる樹脂組成物の加工がし易い観点から多価エポキシ化合物が好ましく、なかでもビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ化合物が好ましい。硬化剤(B)の使用量は、脂環式オレフィン重合体(A)100重量部に対して、通常1〜100重量部、好ましくは5〜80重量部、より好ましくは10〜50重量部の範囲である。また、硬化剤(B)の他に硬化促進剤を配合すると耐熱性の高い硬化物を得易いので好ましい。例えば、硬化剤(B)として多価エポキシ化合物を用いる場合には、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物などの硬化促進剤を使用すると好ましい。
【0040】
本発明に用いるホスファゼン化合物(C)は、不純物として含有されるフェノール類の含有量が20μg/g以下である、下記一般式(1)および下記一般式(2)から選ばれる少なくとも一種のホスファゼン化合物である。
【0041】
【化5】

(一般式(1)中、Xは任意の一価の基であり、Yは−N=P(Rまたは−N=P(=O)Rを表し、Yは−P(=O)Rまたは−P(Rを表す。R〜Rは独立に炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニルアリール基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシアルコキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アリールグリシジルオキシ基、または、アミノ基もしくはハロゲン原子である。mは1〜1500の整数である。)
【0042】
【化6】

(一般式(2)中、Xは任意の一価の基であり、Rは炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニルアリール基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシアルコキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アリールグリシジルオキシ基、または、アミノ基もしくはハロゲン原子である。nは1〜1500の整数である。)
【0043】
上記の一般式(1)や一般式(2)で表される、ホスファゼン化合物の骨格をなすリン原子にアリールオキシ基が結合してなるホスファゼン化合物は、ホスファゼン化合物の中でも、特に化学的安定性が高く、難燃性の付与効果も高いことから、これを配合して得られる硬化性樹脂組成物の硬化物は、優れた難燃性を示すこととなる。この一般式(1)や一般式(2)で表されるホスファゼン化合物は、例えば特開2001−31639号公報に記載されるように、ジクロロホスファゼンに金属フェノラート類を反応させることによって得ることが可能であり、また、市販品を入手することも可能である。但し、このホスファゼン化合物をジクロロホスファゼンに金属フェノラート類を反応させる方法で得る場合、ホスファゼン化合物は、通常、金属フェノラート類が加水分解して生じるフェノール類を含むこととなる。そのため、一般に市販されている一般式(1)や一般式(2)で表されるホスファゼン化合物は、数百μg/gの量のフェノール類を含有している。そのようにフェノール類を比較的高い濃度で含有するホスファゼン化合物を硬化性樹脂組成物に配合すると、その硬化物にめっきをした場合に、めっきふくれやめっき層の剥離の問題を引き起こす。
【0044】
したがって、本発明では、不純物として含有されるフェノール類(芳香環に直接結合した水酸基を有する化合物)の含有量(測定対象の不純物を含有するホスファゼン化合物1gに含まれるフェノール類のμg数)が、20μg/g以下のホスファゼン化合物(C)を用いる。そのようなフェノール類の含有量が少ないホスファゼン化合物(C)を用いることにより、硬化性樹脂組成物の硬化物にめっきをした場合のめっきふくれやめっき層の剥離の問題が防止され、その結果として、めっきにより微細な回路パターンを備える導体層を設けることが容易であり、その導体層の密着性に優れる絶縁膜を与える硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0045】
本発明で用いるフェノール類の含有量が少ないホスファゼン化合物(C)を得る方法は特に限定されないが、例えば、ジクロロホスファゼンに金属フェノラート類を反応させて得られるホスファゼン化合物や市販のホスファゼン化合物に対して、フェノール類の含有量を低減させるための処理を行う方法が挙げられる。ホスファゼン化合物のフェノール類の含有量を低減させるための処理の例としては、特開2001−31639号公報に記載されているような、吸着剤を用いてホスファゼン化合物を処理する方法や反応剤を用いてホスファゼン化合物を処理する方法が挙げられる。
【0046】
ホスファゼン化合物を吸着剤を用いて処理するためには、従来公知の方法によりホスファゼン化合物と吸着剤とを接触させれば良く、例えば、ホスファゼン化合物と吸着剤とを溶媒内で混合する方法や、吸着剤をカラムに充填してホスファゼン化合物をそのカラムに通過させる方法を用いることができる。
【0047】
用いる吸着剤としては、公知の吸着剤を用いれば良く、例えば、活性炭、シリカゲル、活性アルミナ、活性白土、合成ゼオライト、高分子吸着剤などを用いることができる。
【0048】
ホスファゼン化合物と吸着剤とを溶媒内で混合する場合において、用いる溶媒に特に制限はないが、ホスファゼン化合物を溶解させることができ、かつ、吸着剤の作用を阻害しないものであることが好ましい。そのような溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、クロロホルム、四塩化炭素、クロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどのケトン類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノールなどのアルコール類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ピリジンなどの窒素含有炭化水素類などが挙げられ、これらは1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。溶媒の使用量も特に限定されないが、通常、ホスファゼン化合物の濃度が1〜90重量%となる範囲であり、好ましくは5〜80重量%となる範囲である。また、この場合において用いる吸着剤の量も特に限定されないが、ホスファゼン化合物100重量部に対して、通常1〜100重量部であり、好ましくは2〜50重量部である。
【0049】
ホスファゼン化合物と吸着剤とを混合する温度や時間も特に限定されないが、通常、温度は0℃〜200℃であり、時間は5分〜12時間である。また、必要に応じて、マグネチックスターラーなどを用いて撹拌を行なっても良い。
【0050】
ホスファゼン化合物を反応剤を用いて処理する方法では、ホスファゼン化合物を、フェノール類の水酸基との反応性を有する従来公知の反応剤と接触させればよい。そのような反応剤の例としては、次亜塩素酸塩、チオ硫酸塩、ジアルキル硫酸、オルトエステル、ジアゾアルカン、ラクトン、アルカンスルトン、エポキシ化合物、過酸化水素水などが挙げられる。
【0051】
以上のように処理したホスファゼン化合物におけるフェノール類の含有量は、例えば、液体クロマトグラフィーなどにより容易に測定することができる。したがって、フェノール類の含有量を確認しながら、上記したような処理を行うことで、容易に、ホスファゼン化合物に不純物として含有されるフェノール類の含有量を20μg/g以下とすることができる。
【0052】
本発明に用いるホスファゼン化合物(C)は、不純物として含有されるフェノール類の含有量が20μg/g以下であり、一般式(1)または一般式(2)で表されるものであれば特に限定されないが、ホスファゼン化合物の骨格をなすリン原子1個に対して2個のアリールオキシ基が結合してなるホスファゼン化合物が特に好ましく用いられる。すなわち、本発明に用いるホスファゼン化合物(C)は、下記一般式(3)および下記一般式(4)から選ばれる少なくとも一種のホスファゼン化合物であることが特に好ましい。
【0053】
【化7】

(一般式(3)中、XおよびXは独立に任意の一価の基を表す。Yは−N=P(Rまたは−N=P(=O)Rを表し、Yは−P(=O)Rまたは−P(Rを表す。RおよびRは独立に炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニルアリール基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシアルコキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アリールグリシジルオキシ基、または、アミノ基もしくはハロゲン原子である。mは1〜1500の整数である。)
【0054】
【化8】

(一般式(4)中、XおよびXは独立に任意の一価の基を表す。nは1〜1500の整数である。)
【0055】
また、本発明に用いるホスファゼン化合物(C)は、脂環式オレフィン重合体(A)が有する官能基(カルボキシル基または酸無水物基)や硬化剤(B)が有する官能基と反応して共有結合を生成する官能基(以下、単に「反応性官能基」という場合がある)を有するものであることが好ましい。そのようなホスファゼン化合物を用いることにより、硬化性樹脂組成物の硬化物からホスファゼン化合物がブリードアウトしてしまう現象を防止することができる。
【0056】
ホスファゼン化合物(C)が含有しうる反応性官能基は、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基が挙げられる。これらの中でも、硬化性樹脂組成物のゲル化を生じにくい点からヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基およびメルカプト基が好ましい。これらの反応性官能基は、ホスファゼン化合物の骨格をなすリン原子に直接結合したものであっても、間接的に結合したものであっても良いが、難燃性や反応性の観点からは、ホスファゼン化合物(C)のアリールオキシ基のパラ位に位置することが好ましい。すなわち、本発明に用いるホスファゼン化合物(C)としては、上記の一般式(1)〜(4)においてX〜Xで表される一価の基の少なくとも一部が、脂環式オレフィン重合体(A)が有する官能基や硬化剤(B)が有する官能基と反応して共有結合を生成する官能基であるものが好ましく、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基およびメルカプト基から選ばれる少なくとも1つの基であるものがより好ましく、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基およびメルカプト基から選ばれる少なくとも1つの基であるものが特に好ましい。なお、上記の一般式(1)〜(4)においてX〜Xで表される一価の基は、官能基との反応性を有しないものであってもよく、その具体例としては、水素原子や、炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基が挙げられる。
【0057】
本発明で用いるホスファゼン化合物(C)は、酸化劣化に起因した硬化性樹脂組成物の硬化物における電気特性の低下を防止する観点より、その分子内に、ビニル基(CH=CH−)を有しないものであることが好ましい。また、本発明で用いるホスファゼン化合物(C)は、鎖状のものであっても、環状のものであっても良いが、より耐熱性の高い硬化物を得る観点からは、環状のもの(すなわち、一般式(2)または(4)で表されるもの)であることがより好ましい。さらに、環状のホスファゼン化合物(C)の中でも、一般式(2)または(4)におけるnが3〜10であるものが好ましく、3〜5であるものがより好ましく、3であるものが特に好ましい。
【0058】
本発明に用いるホスファゼン化合物(C)の好ましい具体例としては、以下の化学式で示されるものであって、nが通常3〜10、好ましくは3〜5、より好ましくは3である環状ホスファゼン化合物が挙げられる。
【0059】
【化9】

【0060】
【化10】

【0061】
【化11】

【0062】
上記例示したホスファゼン化合物の中でも、得られる硬化物の難燃性、耐熱性の観点から式(5)〜(8)で表されるホスファゼン化合物が特に好ましく用いられる。
【0063】
本発明の硬化性樹脂組成物において、ホスファゼン化合物(C)は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。また、ホスファゼン化合物(C)の配合量には特に限定はないが、脂環式オレフィン重合体(A)100重量部に対して、通常1〜40重量部、好ましくは5〜35重量部配合する。ホスファゼン化合物(C)の量が少なすぎると、得られる硬化物の難燃性が不十分であり、逆に多すぎるとはんだ耐熱性が低下するので、いずれも好ましくない。
【0064】
本発明の硬化性樹脂組成物には、フィラーを配合しても良い。添加されるフィラーは、絶縁膜の誘電特性を低下させない非導電性で、粒径1μm未満のものであることが好ましい。フィラーの形状は、特に限定されず、球状、繊維状、板状などであってもよいが、微細な粗面形状を得るために、微細な粉末状であることが好ましい。フィラーを配合することで難燃性、線膨張係数が向上する。このようなフィラーの具体例としては、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、水和アルミナ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ポリアミド粒子、液晶ポリマー粒子、ポリスルフィド粒子、顔料、およびモンモリロナイトのような粘土鉱物が挙げられる。これらのフィラーのうち、線膨張係数、電気特性の観点から、シリカ、クレー、ポリアミド粒子、液晶ポリマー粒子、モンモリロナイト
が特に好ましい。さらに、シリカ、クレーなどの無機充填剤は、シランカップリング剤処理やステアリン酸などの有機酸処理をしたものであってもよい。
【0065】
硬化性樹脂組成物には、更に分子中にリン原子を有する化合物(以下、「含
リン化合物」ということがある)を配合することができる。分子中にリン原子を有する化合物を配合することで得られる硬化物の難燃性が向上する。このような分子中にリン原子を有する化合物としては、このような分子中にリン原子を有する化合物としては、環状リン化合物、有機リン酸塩、無機リン酸塩、正リン酸エステル、縮合リン酸エステル、芳香族有機リン化合物、などが挙げられる。これらの中でも、環状リン化合物、有機リン酸塩、縮合リン酸エステルが難燃性、耐水性、線膨張係数の悪化のし難さ、ブリードアウトのし難さの面から、特に好ましい。
【0066】
本発明の硬化性樹脂組成物には、難燃性を強化する目的で難燃助剤として非ハロゲン系難燃剤を添加しても良い。かかる難燃助剤の例としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダのごときアンチモン化合物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、スルファミン酸グアニジン、ジルコニウム化合物、モリブデン化合物、スズ化合物などの無機難燃剤;などが挙げられる。これらのうち、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムが好ましく、特に耐熱性、耐湿性および難燃性の向上に優れる点から水酸化マグネシウムが好ましい。
【0067】
本発明の硬化性樹脂組成物には、さらに必要に応じて軟質重合体、耐熱安定剤、耐候安定剤、老化防止剤、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、天然油、合成油、ワックス、乳剤、磁性体、誘電特性調整剤、靭性剤、レーザー加工性向上剤などの任意成分が配合される。任意成分の配合割合は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。
【0068】
本発明の硬化性樹脂組成物は、有機溶剤と混合してワニスとして用いるのが一般的である。ワニス調製用の有機溶剤は、後に加熱して揮発させる便宜から、沸点が好ましくは30〜250℃、より好ましくは50〜200℃のものである。かかる有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどを挙げることができる。
【0069】
ワニスの調製法に格別な制限はなく、例えば、硬化性樹脂組成物を構成する各成分と有機溶剤とを常法に従って混合すればよい。例えば、マグネチックスターラー、高速ホモジナイザー、ディスパージョン、遊星攪拌機、二軸攪拌機、ボールミル、三本ロールを使用した方法などで行うことができる。混合温度は、硬化剤による反応を起こさない範囲で、有機溶剤の沸点以下が好ましい。有機溶剤の使用量は、電気絶縁層の厚みや表面平坦度の要望に応じて適宜選択されるが、ワニスの固形分濃度が、通常5〜70重量%、好ましくは10〜65重量%、より好ましくは20〜60重量%になる範囲である。
【0070】
次に、調製したワニスを、通常、基材に含浸および/または積層した後、ワニスを構成する有機溶剤を乾燥により除去することにより、硬化性樹脂組成物の成形体を得る。通常、得られた成形体は、少なくとも表面に導体層を有する基板上(以下、「内層基板と」いうことがある。)に積層し、次いで、当該成形体中の硬化性樹脂を硬化して、内層基板上に絶縁膜を形成し、回路基板を得る。この絶縁膜は、回路基板の電気絶縁層として機能し、この上に更に導体層を形成して回路基板を多層化することができる。このとき内層基板上に形成された絶縁膜は所謂層間絶縁層となる。
【0071】
以上のようにして用いられる基材は、特に限定されないが、有機高分子からなる難燃性に優れた電気絶縁性を有する成形体であることが好ましく、より具体的には、UL94規格に準拠する試験でV−0、V−1、VTM−0またはVTM−1である成形体であることが好ましい。また、この基材として用いる成形体を形成する材料となる有機高分子は、線膨張係数が30℃〜120℃において10×10−6/℃以下で、重量平均分子量が1,000〜500,000の有機高分子であることが好ましい。
【0072】
基材の具体例としては、不織布、織布、樹脂フィルムなどが挙げられる。また、その材料である有機高分子としては、ポリアクリレート、アラミド、液晶ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ナイロンなどが挙げられ、特にアラミドと液晶ポリマーが難燃性と電気特性の観点から好ましい。また、基材は、上述したワニスを含浸または塗布することができる成形体であり、絶縁膜形成の観点から、膜厚は、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下であり、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上である。膜厚が小さすぎると強度が得られず、また複合時にフィルムの線膨張係数が向上しない。
逆に膜厚が大きすぎると、レーザ加工性が悪化する。また、基材の表面平均粗さは、Raが通常300nm以下、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。支持フィルムの表面平均粗さRaが大きすぎると、硬化して形成される絶縁膜の表面平均粗さRaが大きくなり微細な回路パターンの形成が困難になる。
【0073】
不織布としては、アラミド不織布、液晶ポリマー不織布、ポリエチレンテレフタレート不織布、ポリカーボネート不織布、ナイロン不織布などが挙げられる。これらの不織布うち、アラミド不織布、液晶ポリマー不織布が好ましい。織布としてはアラミド織布、液晶ポリマー織布、ポリエチレンテレフタラート織布、ポ
リカーボネート織布、ナイロン織布などが挙げられる。これらの織布うち、アラミド織布、液晶ポリマー織布が好ましい。樹脂フィルムとしては、ポリアミドフィルム、液晶ポリマーフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリイミドフィルム、ナイロンフィルムなどが挙げられる。これら樹脂フィルムのうち、耐熱性や耐薬品性、線膨張係数などの観点からポリアミドフィルムと液晶ポリマーフィルムが好ましい。
【0074】
基材に硬化性樹脂組成物のワニスを含浸および/または塗布する方法として、浸漬、ロールコート、カーテンコート、ダイコート、スリットコートなどの方法が挙げられる。
【0075】
有機溶剤除去のための乾燥の条件は、有機溶剤の種類により適宜選択される。加熱温度は、通常20〜300℃、好ましくは30〜200℃であり、加熱時間は、通常30秒〜1時間、好ましくは1分〜30分である。
【0076】
硬化性樹脂組成物からなる成形体を内層基板上に積層する方法に格別な制限はないが、例えば、当該成形体を、内層基板の導体層に接するように重ね合わせ、加圧ラミネータ、プレス、真空ラミネータ、真空プレス、ロールラミネータなどの加圧機を使用して加熱圧着(ラミネーション)して、内層基板表面の導体層と樹脂成形体層との界面に空隙が実質的に存在しないように結合させる方法が挙げられる。加熱圧着は、回路パターンの埋め込み性を向上させ、気泡の発生を抑えるために真空下で行うのが好ましい。加熱圧着操作の温度は、通常30〜250℃、好ましくは70〜200℃であり、加える圧力は、通常10kPa〜20MPa、好ましくは100kPa〜10MPaであり、時間は、通常30秒〜5時間、好ましくは1分〜3時間である。また、雰囲気の気圧を、通常100kPa〜1Pa、好ましくは40kPa〜10Paに減圧下で行う。
【0077】
本発明の硬化性樹脂組成物からなる成形体の硬化は、通常、その成形体の層を内層基板ごと加熱することにより行う。硬化条件は硬化剤の種類に応じて適宜選択されるが、温度は、通常30〜400℃、好ましくは70〜300℃、より好ましくは100〜200℃であり、時間は、通常0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間である。加熱の方法は特に制限されず、例えば電気オーブンを用いて行えばよい。硬化によって生成した絶縁膜は、内層基板の導体層の上に積層されて電気絶縁層を構成することとなる。
【0078】
なお、内層基板の外面の導体層に硬化性樹脂組成物からなる未硬化または半硬化の成形体を貼り合わせる前に、密着性を向上させるために導体層に表面粗化のための前処理を施すことが好ましい。前処理の方法としては、公知の技術が特に限定されず使用できる。例えば、導体層が銅からなるものであれば、強アルカリ酸化性溶液を導体層表面に接触させて、導体表面に房状の酸化銅の層を形成して粗化する酸化処理方法、導体層表面を先の方法で酸化した後に水素化ホウ素ナトリウム、ホルマリンなどで還元する方法、導体層にめっきを析出させて粗化する方法、導体層に有機酸を接触させて銅の粒界を溶出して粗化する方法、導体層にチオール化合物やシラン化合物などによりプライマー層を形成する方法などが挙げられる。これらの内、微細な回路パターンの形状維持の容易性の観点から、導体層に有機酸を接触させて銅の粒界を溶出して粗化する方法、およびチオール化合物やシラン化合物などによりプライマー層を形成する方法が好ましい。
【0079】
また、絶縁膜の平坦性を向上させる目的や、絶縁膜の厚みを増す目的で、内層基板の導体層上に、本発明の硬化性樹脂組成物からなる成形体を2以上接して貼り合わせて積層してもよい。
【0080】
以上のような積層体を用いて多層回路基板を製造するに際しては、通常、先ず積層体中の各導体層を連結するために、積層体を貫通するビアホールを設ける。このビアホールは、フォトリソグラフィ法のような化学的処理により、またはドリル、レーザ、プラズマエッチングなどの物理的処理などにより形成することができる。これらの方法の中でもレーザによる方法(炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、UV−YAGレーザなど)が、絶縁膜の特性を低下させずにより微細なビアホールが形成できるので好ましい。
【0081】
次に、導体層との接着性を高めるために、絶縁膜の表面を、過酸化物などの酸化性化合物と接触させて、酸化して粗化し、所望の表面平均粗さに調整する。絶縁膜の表面平均粗さRaは0.05μm以上0.2μm未満であることが好ましく、0.06μm以上0.1μm以下であることがより好ましい。また、絶縁膜の表面十点平均粗さRzjisは0.3μm以上4μm未満であることが好ましく、0.5μm以上2μm以下であることがより好ましい。ここで、RaはJIS B 0601−2001に示される中心線平均粗さであり、表面十点平均粗さRzjisは、JIS B 0601−2001付属書1に示される十点平均粗さである。
【0082】
本発明の硬化性樹脂組成物から形成された絶縁膜の表面に導体層を形成する方法に格別な制限はないが、本発明の硬化性樹脂組成物からなる絶縁膜は、めっきふくれやめっき層の剥離が防止される点に特徴を有するので、めっきにより導体層を形成することが好ましい。導体層を設けるためのめっきとしては、通常用いられる無電解めっきおよび/または電解めっきが挙げられ、無電解めっきによりめっき層を形成したのち、電解めっきによりそのめっき層を成長させる方法が好ましく用いられる。
【0083】
こうして得られる回路基板は、本発明の硬化性樹脂組成物からなる絶縁膜を有してなるので、難燃性に優れ、しかも、めっきにより微細な回路パターンを備える導体層を設けることが容易であり、その導体層の密着性に優れているので、コンピューターや携帯電話などの電子機器における、CPUやメモリなどの半導体素子、その他の実装部品用基板として好適に使用できる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験、評価は下記によった。
【0085】
(1)重合体の分子量
テトラヒドロフランを展開溶媒として、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算値として、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を求めた。測定装置として、GPC−8220シリーズ(東ソー社製)を用いた。標準ポリスチレンとしては、標準ポリスチレン(Mwが500、2630、10200、37900、96400、427000、1090000、5480000のもの計8点、東ソー社製)を用いた。
(2)重合体の水素化率
水素化前における重合体中の不飽和結合のモル数に対する水素添加された不飽和結合のモル数の比率をいい、H−NMRスペクトル測定により求めた。
(3)重合体の酸無水物基含有率
重合体中の総単量体単位数に対する酸無水物基のモル数の割合をいい、H−NMRスペクトル測定により求めた。
(4)重合体のガラス移転温度(Tg)
示差走査熱量法(DSC法)により昇温速度10℃/分で測定した。
(5)難燃性
硬化性樹脂組成物を、ダイコーターを用いて、縦250mm×横300mmの大きさで厚さが100μm、表面粗さRaが0.08μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工した。次いで、80℃で10分間乾燥し、支持体上に厚さ30μmのフィルム成形体を得た。得られたフィルム成形体を、両面の銅をエッチングした厚さ0.6mm×縦11cm×横16cmのハロゲンフリー基板両面に積層し、フィルム支持体だけを剥がしとり、窒素雰囲気下60℃で30分間、次いで160℃で30分間、さらに170℃で60分間加熱してフィルム成形体を硬化させて絶縁膜を形成させた。この絶縁膜が形成された基板を、幅13mm、長さ100mmの短冊状に切断して難燃性評価基板を作成した。この小片にUL94V垂直難燃試験方法に準じて測定を行った。
○:UL94 V−1以上
×:UL94 V−1未満
(6)めっきふくれ
ガラスフィラーおよびハロゲン不含エポキシ樹脂を含有するワニスをガラス繊維に含浸させて得られたコア材の表面に厚みが18μmの銅が貼られた、厚み0.8mm、縦150mm×横150mmの両面銅張り基板表面に、(5)と同様にして得られたフィルム成形体を積層し、フィルム支持体だけを剥がしとり、窒素雰囲気下60℃で30分間、次いで160℃で30分間加熱してフィルム成形体を硬化させて絶縁膜を形成させた。この絶縁膜が形成された基板に無電解銅めっき、電解銅めっきを行い厚さ35μmの導体層を形成した。得られた無電解めっき皮膜が形成された基板を、170℃で60分間アニール処理をして、表面の形状を観察した。
○:170℃アニール前後で表面形状変化無し
×:170℃アニール後にめっきふくれ発生
(7)導体層との密着性
導体層と電気絶縁層との間の引き剥がし強さをJIS C6481−1996に準拠して測定し、その結果に基づいて下記の基準で判定した。
○:引き剥がし強さの平均が8N/cm以上
△:引き剥がし強さの平均が5N/cm以上8N/cm未満
×:引き剥がし強さの平均が5N/cm未満
(8)ホスファゼン化合物のフェノール含有量
アセトニトリルと水の混合溶媒を展開溶液として、超高速液体クロマトグラフィー(UFLC)を用いて、測定対象の不純物を含有するホスファゼン化合物1gに含まれるフェノール類のμg数を測定した。
【0086】
〔実施例1〕
8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−4−エン70部、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物30部、1−ヘキセン1.1部、キシレン300部およびルテニウム系重合触媒(C1063、和光純薬社製)0.009部を、窒素置換した耐圧ガラス反応器に仕込み、攪拌下に80℃で2時間の重合反応を行って開環メタセシス重合体の溶液を得た。この溶液について、ガスクロマトグラフィーを測定したところ、実質的に単量体が残留していないことが確認され、重合転化率は99.9%以上であった。次いで、窒素置換した攪拌機付きオートクレーブに、得られた開環メタセシス重合体の溶液100部を仕込み、150℃、水素圧7MPaで、5時間攪拌させて水素化反応を行って、開環共重合体水素添加物(脂環式オレフィン重合体)の溶液を得た。得られた開環共重合体水素添加物の重量平均分子量は、63,000、数平均分子量は28,000、分子量分布は2.3、ガラス転移温度は142℃であった。また、水素添加率は99.9%であり、カルボン酸無水物基含有率は30モル%であった。開環共重合体水素添加物の溶液の重合体濃度は25重量%であった。
【0087】
一方、下記の化学式(9)で示されるホスファゼン化合物(商品名SPH100、大塚化学社製)30部をシクロヘキサノン35部およびシクロペンタノン35部からなる混合溶媒に溶解し、ホスファゼン化合物の溶液を得た。この溶液に吸着剤として活性白土(和光純薬社製)10部を添加し、60℃で1時間、マグネチックスターラーで撹拌を行いながら加熱処理し、次いでろ過を行い、ホスファゼン化合物の吸着処理溶液を得た。得られた吸着処理溶液について、ホスファゼン化合物のフェノール類含有量を測定した。測定結果を表1に示した。
【0088】
【化12】

【0089】
【表1】

【0090】
次いで、脂環式オレフィン重合体(A)成分として上記のように得られた開環共重合体水素添加物の溶液の溶液400部(開環共重合体水素添加物の量として100部)、硬化剤(B)成分として水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名YX8000、ジャパンエポキシレジン社製)36部、レーザー加工性向上剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール1部、老化防止剤として1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン1部、硬化促進剤として1−べンジル−2−フェニルイミダゾール0.5部、およびエラストマーとして液状ポリブタジエン(商品名Ricon、サートマージャパン社製)10部、および上記のように得られたホスファゼン化合物吸着処理溶液100部(ホスファゼン化合物の量として30部)を、遊星撹拌機を用いて混合させて硬化性樹脂組成物のワニスを得た。次いで、このワニスを、縦300mm×横300mmの大きさで厚さが100μm、表面平均粗さRaが0.08μmのポリエチレンナフタレートフィルム(支持体)上にダイコーターを用いて塗工し、次いで、窒素雰囲気下、80℃で10分間乾燥させて、厚みが30μmのフィルム成形体を得た。
【0091】
ガラスフィラーおよびハロゲン不含エポキシ樹脂を含有するワニスをガラス繊維に含浸させて得られたコア材の表面に、厚みが18μmの銅が貼られた、厚み0.8mm、縦150mm×横150mmの両面銅張り基板表面に、配線幅および配線間距離が25μm、厚みが10μmで、表面が有機酸との接触によってマイクロエッチング処理された導体層を形成して、表面に導体層を有する基板である内層基板を得た。上記で得られたフィルム成形体を縦150mm×横150mmの大きさに切断し、フィルム成形体面が内側、支持体が外側となるようにして、この内層基板の両面に重ね合わせた。これを、耐熱ゴム製プレス板を上下に備えた真空ラミネータを用いて、200Paに減圧して、温度105℃、圧力1.0MPaで60秒間加熱圧着した。次いで支持体を剥がして、フィルム成形体層を有する内層基板を得た。
【0092】
この内層基板を、1−(2−アミノエチル)−2−メチルイミダゾールの1.0%水溶液に30℃にて10分間浸漬し、次いで25℃の水に1分間浸漬した後、エアーナイフにて余分な溶液を除去した。これを窒素雰囲気下、160℃で30分間放置し、フィルム成形体層を硬化させて内層基板上に絶縁膜を形成し、多層回路基板を得た。得られた多層回路基板を、過マンガン酸濃度60g/リットル、水酸化ナトリウム濃度28g/リットルになるように調整した70℃の水溶液に10分間揺動浸漬した。次いで、この多層回路基板を水槽に1分間揺動浸漬し、更に別の水槽に1分間揺動浸漬することにより水洗した。続いて硫酸ヒドロキシルアミン濃度170g/リットル、硫酸80g/リットルになるように調整した25℃の水溶液に、多層回路基板を5分間浸漬し、中和還元処理をした後、水洗した。
【0093】
次いで、めっき前処理として、上記水洗後の多層回路基板をアルカップアクチベータMAT−1−A(上村工業社製)が200ml/リットル、アルカップアクチベータMAT−1−B(上村工業社製)が30ml/リットル、水酸化ナトリウムが0.35g/リットルになるように調整した60℃のPd塩含有めっき触媒水溶液に5分間浸漬した。次いで、この多層回路基板を水槽に1分間揺動浸漬し、更に別の水槽に1分間揺動浸漬することにより水洗した後、アルカップレデユーサーMAB−4−A(上村工業社製)が20ml/リットル、アルカップレデユーサーMAB−4−B(上村工業社製)が200ml/リットルになるように調整した溶液に35℃で、3分間浸漬し、めっき触媒を還元処理した。このようにしてめっき触媒を吸着させ、めっき前処理を施した多層回路基板を得た。
【0094】
次いで、めっき前処理後の多層回路基板を、スルカップPSY−1A(上村工業社製)100ml/リットル、スルカップPSY−1B(上村工業社製)40ml/リットル、ホルマリン0.2モル/リットルとなるように調整した水溶液に空気を吹き込みながら、温度36℃、5分間浸漬して無電解銅めっき処理を行った。無電解めっき処理により金属薄膜層が形成された多層回路基板を、更に水槽に1分間揺動浸漬し、更に別の水槽に1分間揺動浸漬することにより水洗した後、乾燥し、防錆処理を施し、無電解めっき皮膜が形成された多層回路基板を得た。
【0095】
無電解めっき皮膜が形成された多層回路基板を、硫酸100g/リットルの水溶液に25℃で1分間浸漬させ防錆剤を除去し、電解銅めっきを施し厚さ30μmの電解銅めっき膜を形成させた。そして、最後に、170℃で60分間アニール処理をして多層回路基板を完成させた。得られた多層回路基板について導体層との密着性の評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0096】
〔実施例2〕
ホスファゼン化合物を処理するための吸着剤として、活性白土の代わりに活性炭(商品名特製白鷺、日本エンバイロケミカルズ社製)10部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物および多層回路基板を製造し、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表1に示した。
【0097】
〔比較例1〕
ホスファゼン化合物の吸着剤(活性白土)による処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、硬化性樹脂組成物および多層回路基板を製造し、同様の項目について試験、評価を行った。結果を表1に示した。
【0098】
表1から分かるように、吸着剤による処理を行い、フェノール類の含有量を20μg/g以下としたホスファゼン化合物を配合した硬化性樹脂組成物を用いて、絶縁膜を得た場合、その絶縁膜に対してめっきにより導体層を形成すると、めっきふくれが生じず、また、絶縁膜と導体層との密着力に優れていた(実施例1および2)。一方、吸着剤による処理を行わず、フェノール類の含有量が20μg/gを超えるホスファゼン化合物を配合した硬化性樹脂組成物を用いて、絶縁膜を得た場合では、その絶縁膜に対してめっきにより導体層を形成すると、めっきふくれが生じ、また、絶縁膜と導体層との密着力に劣っていた(比較例1)。したがって、本発明によれば、めっきにより微細な回路パターンを備える導体層を設けることが容易であり、その導体層の密着性に優れる絶縁膜を与える硬化性樹脂組成物が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が10,000〜250,000であるカルボキシル基または酸無水物基を有する脂環式オレフィン重合体(A)に、硬化剤(B)と、不純物として含有されるフェノール類の含有量が20μg/g以下である、下記一般式(1)および下記一般式(2)から選ばれる少なくとも一種のホスファゼン化合物(C)とを配合してなる硬化性樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中、Xは任意の一価の基であり、Yは−N=P(Rまたは−N=P(=O)Rを表し、Yは−P(=O)Rまたは−P(Rを表す。R〜Rは独立に炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニルアリール基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシアルコキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アリールグリシジルオキシ基、または、アミノ基もしくはハロゲン原子である。mは1〜1500の整数である。)
【化2】

(一般式(2)中、Xは任意の一価の基であり、Rは炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニルアリール基、ハロアルキル基、アルコキシ基、ハロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシアルコキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アリールグリシジルオキシ基、または、アミノ基もしくはハロゲン原子である。nは1〜1500の整数である。)
【請求項2】
回路基板の絶縁膜用である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる回路基板用絶縁膜。
【請求項4】
めっきにより表面に導体層が形成された請求項3に記載の回路基板用絶縁膜を有してなる回路基板。

【公開番号】特開2010−84026(P2010−84026A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254986(P2008−254986)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】