説明

硬化性樹脂組成物

【課題】充分な機械的強度を保持しながら高い耐熱性を有し、半導体等の封止材として用いられた場合の硬化後の基板の反りも充分に抑制され、電子部品実装基板の封止材の材料として好適に用いることができる硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】硬化性樹脂及び硬化剤成分を含む硬化性樹脂組成物であって、該硬化性樹脂は、25℃で液状あるいは熱軟化温度が−150℃以上、60℃以下であるエポキシ樹脂と、シラン化合物とを必須として構成されることを特徴とする硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物に関する。より詳しくは、電子部品、半導体チップの実装基板の封止材の材料として好適に用いることができる硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性樹脂は、光や熱によって硬化する性質を有する樹脂であり、電気、機械分野を始めとする様々な産業分野において、それぞれの用途に求められる物性を有する硬化性樹脂が用いられている。このような硬化性樹脂の用途の1つに、電子部品等を実装した基板に用いられる封止材がある。電子部品、半導体チップ等を基板に実装する場合の実装方式は、高密度実装が可能なことから表面実装方式が多く、その際に電気絶縁性を有する封止材で封止しており、このような封止材としてはエポキシ樹脂を配合した樹脂組成物が汎用されている。
【0003】
しかしながら、この樹脂封止では、封止材の硬化後に基板に反りが発生するという問題点がある。このような反りが生じる原因としては、硬化後の封止材と半導体、基板等の部材との熱膨張率に差があることが挙げられ、この反りの問題を解消する方策として、封止樹脂に多量の無機充填剤を含有させて熱膨張率の差を小さくする(例えば、特許文献1参照。)、あるいは樹脂のガラス転移温度(Tg)、弾性率を低下させること等により、硬化サイクル中に発生する内部応力を緩和させて反りを抑制することが行われており、例えば、シリコーン変性エポキシ樹脂を主成分とする液状組成物が開示されている(例えば、特許文献2、3参照。)。また、その他の方法として、樹脂中のシリコーンゲル等の低弾性率の物質を含有させる技術も提案されている(例えば、特許文献4参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−1541号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開2003−238651号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特開2003−238652号公報(第1−2頁)
【特許文献4】特開2005−281575号公報(第1−2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、封止材として用いられる樹脂組成物について、実装基板の封止材として用いられた場合に、硬化後に基板に反りが発生することを抑制するため、様々な工夫がされているが、封止樹脂に多量の無機充填剤を含有させると、粘度上昇によるハンドリング性の低下を引き起し、樹脂のガラス転移温度や弾性率を低下させることにより硬化サイクル中に発生する内部応力を緩和させて反りを抑制する方法のために、ガラス転移温度や弾性率を低下させるための柔軟な骨格の樹脂を用いると、耐熱性が低下する等の問題がある。また、樹脂中にシリコーンゲル等の低弾性率の物質を含有させると、硬化物の強度が著しく低下し、加工プロセスで硬化物が欠ける等の問題が生じることになる。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、充分な機械的強度を保持しながら高い耐熱性を有し、半導体等の封止材として用いられた場合の硬化後の基板の反りも充分に抑制され、電子部品実装基板の封止材の材料として好適に用いることができる硬化性樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、機械的強度と耐熱性とに優れ、また、電子部品実装基板の封止材として用いた場合の硬化後の基板の反りも充分に抑制された硬化物を形成する樹脂組成物について種々検討したところ、樹脂として25℃で液状あるいは特定の熱軟化温度を有するエポキシ樹脂を用いると、基板上に塗布された場合の硬化後の基板の反りを抑制することができ、これにシラン化合物を組み合わせて、有機/無機ナノコンポジット材料とすることで、得られる硬化物が機械的強度及び耐熱性に優れたものとなるだけでなく、基板上で硬化した場合の基板の反りが抑制された優れた硬化物となることを見出した。また、この樹脂組成物は、無機充填剤を多量に添加した樹脂組成物のような高い粘度を有するものとしなくても、このような優れた特性を発揮する硬化物を形成することができるものであり、ハンドリング性の点においても優れた樹脂組成物であることも見出した。
更に本発明者は、エポキシ樹脂やシラン化合物として特定の構造を有するものを用たり、樹脂組成物を更に不飽和イミド化合物を含むものとすることで、これらの効果により優れたものとなることも見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、硬化性樹脂及び硬化剤成分を含む硬化性樹脂組成物であって、上記硬化性樹脂は、25℃で液状あるいは熱軟化温度が−150℃以上、60℃以下であるエポキシ樹脂と、シラン化合物とを必須として構成されることを特徴とする硬化性樹脂組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂及び硬化剤成分を含むものであるが、これらをそれぞれ1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。また、これらを含む限り、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分を含む場合、その他の成分の含有量は、硬化性樹脂組成物全体100質量%に対して0.5〜900質量%であることが好ましい。900質量%を超えると、樹脂組成物の粘度が上昇し、ハンドリング性が低下するおそれがある。また、硬化性樹脂組成物から形成される硬化物が充分な機械的強度や耐熱性、封止材として用いた場合の基板の反りを抑制する効果を充分に示さなくなるおそれがある。より好ましくは、1〜850質量%である。
【0009】
本発明の硬化性樹脂組成物は、25℃で液状あるいは熱軟化温度が−150℃以上、60℃以下であるエポキシ樹脂とシラン化合物とを含むものであるが、エポキシ樹脂100質量%に対して、シラン化合物を5〜400質量%含むものであることが好ましい。エポキシ樹脂とシラン化合物との配合割合がこのような範囲であると、本発明の組成物から得られる硬化物が機械的強度、耐熱性等の物性により優れたものとなる。より好ましくは、8〜350質量%であり、更に好ましくは、10〜300質量%である。
なお、後述するように、本発明の硬化性樹脂組成物が、シラン化合物にも該当する不飽和イミド化合物を含むものである場合、当該不飽和イミド化合物もシラン化合物に含めて上記比率を満たすことが好ましい。
【0010】
本発明の硬化性樹脂組成物が含むエポキシ樹脂は、25℃で液状あるいは熱軟化温度が−150℃以上、60℃以下であるものである。樹脂組成物の硬化後の冷却過程で樹脂組成物の硬化物に発生する内部応力は、下記数式で表すことができる。
【0011】
【数1】

【0012】
(式中、σは応力を表し、αはTg以下での線膨張係数を表し、αは、Tg以上での線膨張係数を表す。r.t.は室温を表し、cured temp.は硬化温度を表し、E(t)は、弾性率を表す。)
基板の線膨張係数は非常に小さく、発生する内部応力がごく小さいため、基板上の硬化物に発生する内部応力が基板と硬化物との界面にかかり、基板が反ることになる。上記数式からわかるように、樹脂の線膨張係数を下げる、あるいは弾性率を下げることで応力を低下させることができる。硬化物のガラス転移温度以上の温度領域では、弾性率が低く、線膨張係数が高い状態となる。25℃で液状あるいは熱軟化温度が−150℃以上、60℃以下のエポキシ樹脂は、柔軟な骨格を有する樹脂であり、このような樹脂を用いることは、硬化物のガラス転移温度を下げることに相当するため、弾性率が低い状態の温度領域を広げることになり、内部応力を低下させることができる。すなわち、基板上に硬化物を形成した場合、硬化物が収縮する時に基板を引っ張る力が強くないため、基板に反りが生じることが抑制される。熱軟化温度は、50℃以下が好ましい。より好ましくは、40℃以下である。また、−130℃以上が好ましい。より好ましくは、−100℃以上である。
エポキシ樹脂の熱軟化温度は、例えば、環球式自動軟化点試験器(ASP−MG、メイテック社製)を用いた環球式軟化点試験法により求めることができる。
【0013】
本発明におけるエポキシ樹脂は、ポリエーテル変性エポキシ樹脂であることが好ましい。ポリエーテル変性エポキシ樹脂を用いることで可撓性を有し、低温柔軟性に優れる硬化物が得られる。本発明におけるポリエーテル変性エポキシ樹脂とは、構造中に下記式:
−(RO)α
(Rは、炭化水素基を表す。αは、2以上の自然数を表す。)で表される構造部位を少なくとも1つ有するエポキシ樹脂である。式中、Rは、炭素数1〜6の炭化水素基であることが好ましい。より好ましくは、炭素数1〜4の炭化水素基である。αは、2〜10であることが好ましい。より好ましくは、2〜6である。
【0014】
本発明における25℃で液状あるいは熱軟化温度が−150℃以上、60℃以下のエポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のビスフェノール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び、上記ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のビスフェノール類と更に付加反応させることにより得られる高分子量エピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール・クレゾール・キシレノール・ナフトール・レゾルシン・カテコール・ビスフェノールA・ビスフェノールF・ビスフェノールS等のフェノール類とホルムアルデヒド・アセトアルテヒド・プロピオンアルデヒド・ベンズアルデヒド・ヒドロキシベンズアルデヒド・サリチルアルデヒド・ジシクロペンタジエン・テルペン・クマリン・パラキシリレングリコールジメチルエーテル・ジクロロパラキシリレン・ビスヒドロキシメチルビフェニル等を縮合反応させて得られる多価フェノール類を更にエピハロヒドリンと縮合反応することにより得られるノボラック・アラルキルタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂、及び更に上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等を付加反応させることにより得られる芳香族結晶性エポキシ樹脂の高分子量体;トリスフェノール型エポキシ樹脂;上記ビスフェノール類やテトラメチルビフェノール・テトラメチルビスフェノールF・ハイドロキノン・ナフタレンジオール等の芳香族骨格を水素化した脂環式グリコール類やエチレングリコール・ジエチレングリコール・トリエチレングリコール・テトラエチレングリコール・PEG600・プロピレングリコール・ジプロピレングリコール・トリプロピレングリコール・テトラプロピレングリコール・ポリプロピレングリコール・PPG・グリセロール・ジグリセロール・テトラグリセロール・ポリグリセロール・トリメチロールプロパン及びその多量体・ペンタエリスリトール及びその多量体・グルコース・フルクトース・ラクトース・マルトース等の単/多糖類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び、上記ビスフェノール類と更に付加反応させることにより得られる高分子量脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;(3,4−エポキシシクロヘキサン)メチル3′,4′−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート等のエポキシシクロへキサン骨格を有するエポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸・ヘキサヒドロフタル酸・安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ヒダントインやシアヌール酸・メラミン・ベンゾグアナミンとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる室温で固形の3級アミン含有グリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂に含まれるポリエーテル変性エポキシ樹脂が好ましい。
また、本発明の樹脂組成物においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、25℃で液状あるいは熱軟化温度が−150℃以上、60℃以下のエポキシ樹脂とともに、熱軟化温度がこのような範囲を外れるエポキシ樹脂を併用してもよい。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂は、重量平均分子量が200〜20000であるものが好ましい。このような分子量のものを用いると、充分に硬化した硬化物が得られる。より好ましくは、220〜18000であり、更に好ましくは、250〜15000である。
エポキシ樹脂の重量平均分子量は、例えば、以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めることができる。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
【0016】
本発明におけるシラン化合物としては、ケイ素を構成原子として含む有機化合物であればよく、1種又は2種以上を用いることができるが、シロキサン結合を有するシラン化合物を含むものであることが好ましい。シロキサン結合を有するシラン化合物としては、Si−O結合(シロキサン結合)を少なくとも1個有する化合物であればよく、シロキサン骨格の構造としては、直鎖状又は分岐状のいずれであってもよいが、ラダー状、かご状、キュービック状等の構造のポリシルセスキオキサンであることが好ましい。
すなわち、本発明のシラン化合物は、ポリシルセスキオキサンを含むものであることが好ましい。
【0017】
本発明におけるシラン化合物としては、シロキサン結合とイミド結合とを有するものが好ましい。シラン化合物がこのようなものであると、樹脂組成物が更に耐熱性に優れたものとなる。
シロキサン結合とイミド結合とを有するシラン化合物としては、下記平均組成式:
XaYbZcSiOd
(式中、Xは、同一若しくは異なって、イミド結合を含む有機骨格を表し、Zは、同一若しくは異なって、イミド結合を含まない有機基を表し、Yは、同一若しくは異なって、水素原子、水酸基、ハロゲン原子及びOR基からなる群より選ばれる少なくとも一つを表す。Rは、同一若しくは異なって、アルキル基、アシル基、アリール基及び不飽和脂肪族残基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表し、置換基があってもよい。aは、0でない3以下の数であり、bは、0又は3未満の数であり、cは、0又は3未満の数であり、dは、0でない2未満の数であり、a+b+c+2d=4である。)で表される形態が好ましい。すなわち、Xの係数aは、0<a≦3の数であり、Yの係数bは、0≦b<3の数であり、Zの係数cは、0≦c<3未満の数である。Oの係数dは、0<d<2である。
上記平均組成式:XaYbZcSiOdにおいて、Yとしては、水酸基、OR基であることが好ましい。より好ましくは、OR基であり、更に好ましくは、Rが炭素数1〜8のアルキル基であるOR基である。また、Zとしては、アルキル基、アリール基、アラルキル基などの芳香族残基、不飽和脂肪族残基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらは置換基があってもよい。より好ましくは、置換基があってもよい、炭素数1〜8のアルキル基、又は、アリール基、アラルキル基などの芳香族残基である。
上記シラン化合物は、例えば、
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、X、Y及びZは、同一若しくは異なって、上述と同様である。n及びnは、重合度を示し、nは、0でない正の整数であり、nは、0又は正の整数である。)で示される。なお、Y/Z−は、Y又はZが結合していることを表し、X1〜2−は、Xが1又は2個結合していることを表し、(Z/Y)1〜2−は、Z又はYが1個結合するか、Z又はYが2個結合するか、Z及びYが1個ずつ、合計2個結合することを表す。Si−(X/Y/Z)は、X、Y及びZから選ばれる任意の3種がケイ素原子に結合していることを示す。上記式において、Si−Om1とSi−Om2は、Si−Om1とSi−Om2の結合順序を規定するものではなく、例えば、Si−Om1とSi−Om2が交互又はランダムに共縮合している形態、Si−Om1からなるポリシロキサンとSi−Om2のポリシロキサンが結合している形態等が好適であり、縮合構造は任意である。
【0020】
上記シラン化合物としては、上記平均組成式:XaYbZcSiOdで表すことができるが、該シラン化合物のシロキサン骨格(シロキサン結合を必須とする主鎖骨格)は、(SiOと表すこともできる。(SiO以外の構造は、イミド結合を有する有機骨格(イミド結合を必須とする構造)X、水素原子、水酸基等のY、イミド結合を含まない有機基Zであり、これらは主鎖骨格のケイ素原子に結合することとなる。X、Y及びZは、「鎖」の形態となった繰り返し単位に含まれてもよく、含まれていなくてもよい。例えば、Xは、側鎖として1分子に1つ以上含まれていればよい。上記(SiOにおいて、nは、重合度を表すが、該重合度は、主鎖骨格の重合度を表し、イミド結合を有する有機骨格は、必ずしもn個存在していなくてもよい。言い換えれば、(SiOの1つの単位に必ず1つのイミド結合を有する有機骨格が存在していなくてもよい。また、イミド結合を有する有機骨格は、1分子中に1つ以上含まれていればよいが、複数含まれる場合、上述したように、1つのケイ素原子に2以上のイミド結合を有する有機骨格が結合していてもよい。これらは、以下においても同様である。
【0021】
上記主鎖骨格(SiOにおいて、mは、1.0以上2.0未満の数であることが好ましい。より好ましくは、m=1.5〜1.8である。
上記nは、重合度を表し、1〜5000であることが好ましい。より好ましくは、1〜2000であり、更に好ましくは、1〜1000であり、特に好ましくは、n=1〜200である。
上記nが2である場合のシラン化合物としては、ケイ素原子にイミド結合を有する有機骨格が少なくとも1個結合してなる構成単位(構成単位(I))が2つ含まれる形態と、該構成単位(I)が1つしか含まれない形態が挙げられる。具体的には、
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、AはY又はZであり、X、Y及びZは、上述と同様である。)等が好適であり、同一の構成単位(I)2つを含むホモポリマーの形態と、異なる構成単位(I)2つを含むホモポリマーの形態と、構成単位(I)を1つしか含まないコポリマーの形態(共縮合構造の形態)がある。
【0024】
本発明のシラン化合物(シラン化合物(i))は、上記構造を有するものであれば特に限定されないが、上記シラン化合物の平均組成式におけるXは、下記式(1):
【0025】
【化3】

【0026】
(式中、Rは、芳香族、複素環及び脂環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)で表されるシラン化合物(以下、シラン化合物(1)とも言う。)であることが好ましい。
なお、「上記平均組成式におけるXは、下記式(1)で表されるシラン化合物」とは、「上記平均組成式:XaYbZcSiOd(式中、Xは、Z、Y、a、b、c及びdは、上述のとおりである。)におけるXが式(1)である平均組成式を有するシラン化合物」を言う。以下、下記式(2)等においても同様である。
【0027】
上記Rにおいて、芳香族、複素環及び脂環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造とは、Rが芳香族化合物の環構造(芳香環)を有する基、複素環式化合物の環構造(複素環)を有する基及び脂環式化合物の環構造(脂環)を有する基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基であることを表す。Rとしては、フェニレン基、ナフチリデン基、ノルボルネンの2価基、(アルキル)シクロヘキシレン基、シクロヘキセニル基等が好ましい。なお、Rがフェニレン基である場合、上記Xが下記式(2)で表されるシラン化合物となり、Rが(アルキル)シクロヘキシレン基である場合、上記Xが下記式(3)で表されるシラン化合物となり、Rがナフチリデン基である場合、上記Xが下記式(4)で表されるシラン化合物となり、Rがノルボルネンの2価基である場合、上記Xが下記式(5)で表されるシラン化合物となり、Rがシクロヘキセニル基である場合、上記Xが下記式(6)で表されるシラン化合物となる。
【0028】
上記式(1)において、x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数である。
なお、x+yとしては、0以上10以下の整数であればよいが3〜7であることが好ましく、より好ましくは、3〜5であり、特に好ましくは、3である。
上記yとしては、0又は1であり、0であることが好ましい。
【0029】
上記シラン化合物(シラン化合物(i)又は(1))において、上記シラン化合物の平均組成式におけるXは、下記式(2):
【0030】
【化4】

【0031】
(式中、R〜Rは、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)で表されるシラン化合物(シラン化合物(2)ともいう。)であることが好ましい。
上記R〜Rとしては、全てが水素原子である形態が好ましい。
上記x、y及びzは、上述と同様であることが好ましい。
【0032】
上記シラン化合物(シラン化合物(i)又は(1))において、上記シラン化合物の平均組成式におけるXは、下記式(3):
【0033】
【化5】

【0034】
(式中、R〜R10及びR7´〜R10´は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)で表されるシラン化合物(シラン化合物(3)ともいう。)であることが好ましい。
上記R〜R10及びR7´〜R10´としては、R若しくはRがメチル基で残りの全てが水素原子である形態、又は、R〜R10及びR7´〜R10´全てが水素原子である形態、又は、R〜R10及びR7´〜R10´全てがフッ素原子である形態が好ましい。より好ましくは、R又はRがメチル基で残りの全てが水素原子である形態である。
上記x、y及びzは、上述と同様であることが好ましい。
【0035】
上記シラン化合物(シラン化合物(i)又は(1))において、上記シラン化合物の平均組成式におけるXは、下記式(4):
【0036】
【化6】

【0037】
(式中、R11〜R16は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)で表されるシラン化合物(シラン化合物(4)ともいう。)であることが好ましい。
上記R11〜R16としては、全てが水素原子である形態、又は、全てがフッ素原子である形態が好ましい。より好ましくは、全てが水素原子である形態である。
上記x、y及びzは、上述と同様であることが好ましい。
【0038】
上記シラン化合物において、上記シラン化合物の平均組成式におけるXは、下記式(5):
【0039】
【化7】

【0040】
(式中、R17〜R22は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)で表されるシラン化合物であることが好ましい。
上記R17〜R22としては、全てが水素原子である形態、全てがフッ素原子である形態、又は、全てが塩素原子である形態のいずれかの形態が好ましい。より好ましくは、全てが水素原子である形態である。
上記x、y及びzは、上述と同様であることが好ましい。
【0041】
上記シラン化合物(シラン化合物(i)又は(1))において、上記シラン化合物の平均組成式におけるXは、下記式(6):
【0042】
【化8】

【0043】
(式中、R23〜R26、R23´及びR26´は、同一若しくは異なって、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子及び芳香族からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。x及びzは、同一若しくは異なって、0以上5以下の整数であり、yは、0又は1である。)で表されるシラン化合物(シラン化合物(6)ともいう。)であることが好ましい。
上記R23〜R26、R23´及びR26´としては、全てが水素原子である形態、全てがフッ素原子である形態、又は、全てが塩素原子である形態のいずれかの形態が好ましい。より好ましくは、全てが水素原子である形態である。
上記x、y及びzは、上述と同様であることが好ましい。
【0044】
上記シラン化合物(シラン化合物(i)、シラン化合物(1)〜(6))において、上記シラン化合物の平均組成式におけるXは、下記式(7):
【0045】
【化9】

【0046】
(式中、R27は、芳香族、複素環及び脂環からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を表す。)で表されるシラン化合物であることが好ましい。
上記R27は、上記シラン化合物(1)において説明したRと同様であることが好ましい。
上記シラン化合物の特に好ましい形態としては、R27がフェニレン基であるポリ(γ−フタロイミドプロピルシルセスキオキサン)、R27がメチルシクロヘキシレン基であるポリ{γ−(へキサヒドロ−4−メチルフタルイミド)プロピルシルセスキオキサン}、R27がナフチリデン基であるポリ{γ−(1,8−ナフタルイミド)プロピルシルセスキオキサン}、R27がノルボルネンの2価基であるポリ{γ−(5−ノルボルネン−2,3−イミド)プロピルシルセスキオキサン}、R27がシクロヘキセニル基であるポリ〔(cis−4−シクロヘキセン−1,2−イミド)プロピルシルセスキオキサン〕である。これらの化合物の構造は、H−NMR、13C−NMR、MALDI−TOF−MSを測定して同定することができる。
【0047】
本発明における硬化剤成分としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、メチルナジック酸等の酸無水物類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、テルペンフェノール樹脂、種々のフェノール類とヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザール等の種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂等の多価フェノール化合物等のフェノール系硬化剤;BF錯体、スルホニウム塩類、イミダゾール類;トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、N−アミノエチルピペラジン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ビス−(アミノフェニル)プロパン、ジアミノジフェニルスルフォン、1,3−ジアミノ−2,4−ジエチルトルエン、ビス(3−エチル−4−アミノフェニル)メタン、トルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン等のアミン系硬化剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0048】
上記硬化剤成分の中でも、アミン系硬化剤が好ましい。すなわち、本発明における硬化剤成分は、アミン系硬化剤を含むものであることが好ましい。硬化剤成分がアミン系硬化剤を含むものであると、後述する光学特性が要求される用途に用いる場合に可視光の選択吸収性を高めることができる。アミン系硬化剤としては、耐熱性が向上することから芳香族アミンが好ましく、上述したものの中でも、1,3−ジアミノ−2,4−ジエチルトルエン、ビス(3−エチル−4−アミノフェニル)メタン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ビス−(アミノフェニル)プロパン、ジアミノジフェニルスルホン、トルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン及びこれらの誘導体が好ましい。これらを用いることで、可視光の選択吸収性をより充分に高めることができる。
【0049】
上記硬化剤成分の含有量は、硬化性樹脂が含むエポキシ樹脂100質量%に対して硬化剤成分を10〜1000質量%含むものであることが好ましい。硬化剤成分の含有量が10質量%より少ないか、又は、1000質量%より多いと、硬化物が充分に硬化しないおそれがある。より好ましくは、エポキシ樹脂100質量%に対して15〜800質量%であり、更に好ましくは、20〜500質量%である。
【0050】
本発明の硬化性樹脂組成物は、更に硬化のための硬化促進剤を含むことが好ましく、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルヘキサデシルホスフォニウムブロマイド、トリブチルホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン等の有機リン化合物;1−エチルシアノ−2−ベンジルイミダゾール、1−エチルシアノ−2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール化合物;トリスジメチルアミノメチルフェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等のアミン化合物等の1種又は2種以上を用いることができる。
硬化促進剤の硬化性樹脂組成物における含有量としては、エポキシ樹脂100質量%に対して、0.1〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.2〜5質量%である。
【0051】
本発明の硬化性樹脂組成物におけるエポキシ当量は、100〜5000g/molであることが好ましい。より好ましくは、120〜1500g/molであり、更に好ましくは、150〜1000g/molである。
硬化性樹脂組成物におけるエポキシ当量は、JIS K 7236に準じて測定することができる。
【0052】
本発明の硬化性樹脂組成物は、更に不飽和イミド化合物を含むものであることが好ましい。不飽和イミド化合物を含むものであると、樹脂組成物から得られる硬化物が更に耐熱性に優れたものとなる。また、後述する光学特性が要求される用途に用いる場合には、樹脂組成物をエポキシ樹脂と不飽和イミド化合物とを含むものとすると、得られる硬化物が可視光波長領域の光の良好な吸収性を示すとともに、近赤外線領域の光を高い透過率で透過する光学特性を発揮するものとなり、高温環境下や、高温環境におかれた後であっても、このような良好な光学特性を発揮することができるものとなる。
硬化性樹脂組成物が不飽和イミド化合物を含むものである場合、硬化物中、不飽和イミド化合物とエポキシ樹脂とは、別々に硬化していても良いが、本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物においては、互いに何らかの作用を及ぼし合って硬化しているものと推察される。すなわち、エポキシ樹脂のネットワークのすきまをイミド樹脂のネットワークが埋めるような形態をとり、お互いが絡まりあうような状態となるために、本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物は、優れた耐熱性を示すこととなると考えられる。
【0053】
本発明における不飽和イミド化合物は、下記一般式(8);
【0054】
【化10】

【0055】
(式中、R28は少なくとも一つの重合性炭素−炭素不飽和結合を有しており、かつ炭素水素基、芳香族化合物の環構造を有する基、複素環式化合物の環構造を有する基、脂環式化合物の環構造を有する基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基であることを表す。)で表される環式イミド基を分子中に少なくとも1つ、好ましくは2つ以上有する化合物である。このような化合物を本発明中における不飽和イミド化合物として定義する。これらの不飽和イミド化合物は単独で付加重合を起こしにくいため、不飽和結合の電子密度e値に差がある2種以上を配合する、あるいは他の不飽和化合物とともに配合すると架橋構造を構築しやすくなり、耐熱性をより高めるので好ましい。
【0056】
上記式中、R28としては例えば、ビニル基(マレイミド)、ノルボルネンの2価基(ナジミイド、アルケニル置換ナジイミド)、アルケニル置換フェニレン基、アルケニル置換ナフチリデン基、アルケニル置換シクロヘキシレン基、シクロヘキセニル基等がある。
【0057】
上記不飽和イミド化合物と配合する他の不飽和化合物としては、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)、スチレン、α−メチルスチレン、trans−スチルベン、ビニルフェロセン、4−ビニルピリジン、2−イソプロペニルナフタレン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、インドール、ベンゾフラン、フラン、ジヒドロフラン、3,4−ジヒドロ−2−ピラン、4H−クロメンに代表される環状ビニルエーテル、酢酸フルフリルに代表されるフラン誘導体、n−オクタデシルビニルエーテル、エチルビニルエーテルに代表されるアルキルビニルエーテル、ケテンアセタール、酢酸イソプロペニル、1−アミノ−1−メトキシエチレンに代表されるケトン、エステル、ラクトン、アルデヒド、アミド、ラクタム等のカルボニル化合物のエノールエーテル、エノールエステル、アリルアセテート、ビニルアセテート、1,2−ジメトキシエチレン、p−ジオキセン、2−クロロエチルビニルエーテル、2−フュニルビニルアルキルエーテル、2−フェニルアルケニルエーテル、ヘプタフルオロイソプロピルアルケニルエーテル、エチルビニルスルフィド、スチリルアルケニルチオエーテル、p−オキサジエン、シクロペンチン、シクロヘキセン、ジビニルエーテル、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、ジメチルジビニルシラン等が好適である。
【0058】
本発明における不飽和イミド化合物としては、マレイミド化合物が好ましい。マレイミド化合物としては1分子中に2個以上マレイミド基を有する化合物ならば全て使用可能である。モノマレイミド化合物は毒性が強く、本発明に使用するには好ましくない。
上記マレイミド化合物としては、ビスマレイミド、例えば、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド、N,N’−エチレンビスマレイミド、N,N’−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−p−フェニレンビスマレイミド、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]メタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、N,N’−p,p’−ジフェニルジメチルシリルビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N’−メチレンビス(3−クロロ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルスルホンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジシクロヘキシルメタンビスマレイミド、N,N’−ジメチレンシクロヘキサンビスマレイミド、N,N’−m−キシレンビスマレイミド、N,N’−4,4’−ジフェニルシクロヘキサンビスマレイミド、N−フェニルマレイミドとホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシフェニルアルデヒドなどのアルデヒド化合物との共縮合物が好適である。また、下記一般式(9):
【0059】
【化11】

【0060】
(式中、R29は、
【0061】
【化12】

【0062】
又は、
【0063】
【化13】

【0064】
よりなる2価の基を表す。Qは、2つの芳香環に直結する基であり、炭素数1〜10の2価の炭化水素基、6フッ素化されたイソプロピリデン基、カルボニル基、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基及びオキシド基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基を表す。)で表されるビスマレイミド化合物が好適である。具体的には、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4,4−ビス[(3−マレイミドフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]エーテル、下記一般式(12):
【0065】
【化14】

【0066】
(式中、Qは、置換基があってもよい芳香環からなる2価の基を表す。nは、繰り返し数を表し、平均で0〜10の数である。)で表される化合物等が好適である。上記Qとしては、具体的には、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の基の2価の基(フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチリデン基等)が好ましい。
【0067】
本発明の不飽和イミド化合物が高分子化合物である場合、不飽和イミド化合物の重量平均分子量は、200〜5000であることが好ましい。不飽和イミド化合物の分子量がこのような範囲にあると、耐熱性等に優れた硬化物が得られる。より好ましくは、220〜4500であり、更に好ましくは250〜4000である。
不飽和イミド化合物の重量平均分子量は、上記と同様に測定することができる。
【0068】
上記不飽和イミド化合物の含有量は、エポキシ樹脂100質量%に対して5〜400質量%であることが好ましい。エポキシ樹脂と不飽和イミド化合物との配合割合がこのような範囲であると、本発明の組成物から得られる硬化物が耐熱性等の物性により優れたものとなる。より好ましくは、8〜350質量%であり、更に好ましくは、10〜300質量%である。
【0069】
本発明はまた、硬化性樹脂及び硬化剤成分を含む硬化性樹脂組成物であって、該硬化物は、ガラス転移温度が30〜60℃であり、25℃での貯蔵弾性率が1GPa以上であり、かつ、厚さ1mmの試験片の波長650nmの光透過率が10%以下であり、波長800nmの光透過率が50%以上である硬化性樹脂組成物でもある。
硬化物がこのような物性を有するものであると、基板上に樹脂組成物を塗布、硬化させて硬化物を形成して得られる積層体は、反りが充分に抑制されたものとなる。したがって、このような樹脂組成物は、電子部品等の実装基板の封止材と原料として好適に用いることができる。また、この硬化物は、良好な可視光遮光性と近赤外線領域の光透過性とを有するものであり、このような光学特性が要求される光デバイス用途にも好適に用いることができる。
以下においては、この特性を満たす硬化性樹脂組成物を本発明の第2の形態の硬化性樹脂組成物と記載し、上述した、25℃で液状あるいは熱軟化温度が−150℃以上、60℃以下であるエポキシ樹脂とシラン化合物とを必須とする硬化性樹脂と硬化剤成分とを含む硬化性樹脂組成物を本発明の第1の形態の硬化性樹脂組成物と記載する。
【0070】
本発明の第2の形態の硬化性樹脂組成物において、硬化物のガラス転移温度は35〜55℃であることが好ましい。より好ましくは、37〜53℃である。
25℃での貯蔵弾性率は1.2GPa以上であることが好ましく、より好ましくは、1.5GPa以上である。更に好ましくは、1.8GPa以上である。
硬化物の厚さ1mmの試験片の波長650nmの光透過率は、8%以下であることが好ましい。より好ましくは、5%以下である。また、波長800nmの光透過率は55%以上であることが好ましい。より好ましくは、60%以上である。
ガラス転移温度、貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置(TAインスツルメンツ社製、RSA−3)を用いて、後述する実施例に記載の測定条件により測定することができる。
光の透過率は、例えば、UV−Visスペクトル測定装置を用いて、下記の条件により測定することができる。
測定機器:UV3100PC(島津製作所社製)
測定条件:測定波長領域400nm〜900nm、スリット幅8mm、1mm厚試験片
また、本発明の第2の形態の硬化性樹脂組成物は、本発明の第1の形態の硬化性樹脂組成物と同様に、硬化後の塗膜にワレやヒビを生じない強度を有するものであることが好ましい。
【0071】
本発明の第2の形態の硬化性樹脂組成物は、その硬化物のガラス転移温度より30℃高い温度での貯蔵弾性率が、10MPa以下であることが好ましい。より好ましくは、8MPa以下である。
【0072】
上記ガラス転移温度と弾性率の特性、及び、光学特性を満たす硬化物を形成する本発明の第2の形態の硬化性樹脂組成物としては、25℃で液状あるいは熱軟化温度が−150℃以上、60℃以下であるエポキシ樹脂とシラン化合物とを必須とする硬化性樹脂と硬化剤成分とを含む樹脂組成物であることが好ましい。すなわち、上述した本発明の第1の形態の硬化性樹脂組成物が、本発明の第2の形態の硬化性樹脂組成物の特性を有するものであることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0073】
本発明の硬化性樹脂組成物は、150℃における粘度が0.01〜60Pa・sであることが好ましい。樹脂組成物がこのような適度な粘度有するものであると、塗布する際のハンドリング性に優れたものとなる。より好ましくは、0.02〜40Pa・sである。
樹脂組成物の粘度は、例えば、E型粘度計(ブルックフィールド社製)を用いて、150℃±1℃で測定することができる。
【0074】
本発明の硬化性樹脂組成物から得られる硬化物は、柔軟性や靱性に優れたものであることにより、温度変化による膨張や収縮によって発生する内部応力が小さくなる。そのため塗膜にワレやヒビを生じにくく、配線ワイヤの断線も起きにくいため、電子部品等の実装基板の封止材としてより好適に用いることができるものとなる。
硬化物の靱性は、JIS K 7161、及び、JIS K 7171に準拠する引張り試験、及び、曲げ試験により評価することができる。
【0075】
本発明の硬化性樹脂組成物は、耐熱性に優れることにより、高温に晒される環境下においても好適に用いることができ、優れた耐ハンダリフロー性も発揮することができる。
本発明の硬化性樹脂組成物は、以下の条件で測定した硬化物の5%重量減少温度が270℃以上であることが好ましい。硬化物の5%重量減少温度がこのような値であると、優れた耐熱性を有しているということができる。より好ましくは、280℃以上であり、更に好ましくは、300℃以上である。
[硬化物の5%重量減少温度測定条件]
縦3mm×横3mm×厚さ1mm直方体の形状に切り出して測定用試料とし、熱重量分析(TGA)を以下の装置、条件により行うことで測定する。
測定機器:TG−DTA2000SA(商品名、Bruker AXS社製)
測定条件:
温度領域 30〜500℃
昇温速度 10℃/min
流通ガス 乾燥空気100ml/min
秤量 10〜20mg
測定試料の形状 縦3mm×横3mm×厚さ1mm直方体
【0076】
本発明の硬化性樹脂組成物は、硬化物を基板上に形成した場合に基板の反りが抑制されたものであるが、以下の条件で測定した基板の反りが3mm以下であることが好ましい。反りがこのような値であると、基板の反りが充分に抑制されているということができる。より好ましくは、2mm以下であり、更に好ましくは、1.5mm以下である。
[基板の反り測定条件]
樹脂組成物を縦60mm×横80mmのガラスエポキシ基板上に縦50mm×横70mm×厚さ1mmで成型し、180℃で4時間硬化後、室温に放置する。
室温で放置した後の樹脂を成型した基板の各頂点の高さの平均値を求めて、樹脂を成型する前の基板の各頂点の高さの平均値との差を測定する。
【0077】
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化するための温度としては、70〜250℃が好ましい。より好ましくは、80〜200℃である。また、硬化時間としては、1〜15時間が好ましい。より好ましくは、3〜10時間である。
上述のようにして得られる硬化物としては、異形品等の成型体、フィルム、シート、ペレット等を挙げることができ、このような本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる成型体もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0078】
本発明の硬化性樹脂組成物は、上述の構成よりなり、樹脂組成物としての取り扱い性に優れ、得られる硬化物が充分な機械的強度と高い耐熱性とを有するものであり、更に、半導体等の封止材として用いられた場合の硬化後の基板の反りも充分に抑制され、電子部品実装基板の封止材の材料として好適に用いることができる硬化物を形成する硬化性樹脂組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0080】
下記実施例及び比較例では、下記のようにして、評価、測定を行った。
(1)ガラス転移温度、貯蔵弾性率
測定機器:RSA−3(TAインスツルメンツ社製)
測定条件:
測定モード 3点曲げ
振幅 0.05%
周波数 6.28Hz
温度領域 30〜200℃
昇温速度 5℃/min
測定試料形状 縦50mm×横5mm×厚さ3mm
損失正接(tanδ)の値が最大となる温度をガラス転移温度とした。
(2)重量平均分子量
以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定により求めた。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:ジメチルホルムアミド(DMF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにDMFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
(3)エポキシ当量
JIS K 7236に準じて測定した。
(4)基板の反り
各実施例及び比較例で得られた基板の反りを確認するための成型体を用いて、室温で放置した後の樹脂を成型した基板の各頂点の高さの平均値を求めて、樹脂を成型する前の基板の各頂点の高さの平均値との差で評価した。
(5)TGA5%重量減少温度
各実施例及び比較例で得られた成型体を、縦3mm×横3mm×厚さ1mm直方体の形状に切り出して測定用試料とし、熱重量分析(TGA)を以下の装置、条件により行うことで測定した。
測定機器:TG−DTA2000SA(商品名、Bruker AXS社製)
測定条件:
温度領域 30〜500℃
昇温速度 10℃/min
流通ガス 乾燥空気100ml/min
秤量 10〜20mg
測定試料の形状 縦3mm×横3mm×厚さ1mm直方体
(6)耐ハンダリフロー性
実施例及び比較例で得られた成型体を縦10mm×横50mm×厚さ3mmに切り出した後、260℃ハンダ浴に3分間浸漬し、耐ハンダリフロー性を以下の基準で評価した。
判定基準:○ 変化なし、× 膨れ、ひび割れ有
(7)硬化物の光透過率測定
各実施例及び比較例で得られた成型体を縦3mm×横3mm×厚さ1mm直方体の形状に切り出して測定用試料とし、UV−Visスペクトル測定を以下の装置、条件により行うことで、硬化物の光透過率を測定した。
測定機器:UV3100PC(島津製作所社製)
測定条件:測定波長領域400nm〜900nm、スリット幅8mm、1mm厚試験片
【0081】
実施例1〜5、比較例1、2
各樹脂組成物を表1に示す組成にて120℃で混合し、得られた樹脂組成物を平板ガラス(キャビティ間隔1mm)に注型した。180℃で1時間硬化させて脱型した後、窒素雰囲気下、180℃で4時間硬化させ、縦120mm×横50mm×厚さ3mmの成型体を得た。
また、反り具合を確認するため、縦60mm×横80mmのガラスエポキシ基板上に縦50mm×横70mm×厚さ1mmで成型し、180℃で4時間硬化後、室温に放置した。
なお、表中の配合量はそれぞれ重量部で示されている。
得られた成型体を縦5mm×横50mm×厚さ3mmに切り出した後、DMA測定を行い、貯蔵弾性率、Tgを求めた。また、上記反りを確認するための試料を用いて基板の反りを確認した。結果を表3に示す。
また、得られた成型体を縦2mm×横2mm×厚さ1mmに切り出した後、TGA分析により5%重量減少温度を求めた。更に、得られた成型体を縦10mm×横50mm×厚さ3mmに切り出した後、260℃ハンダ浴に3分間浸漬し、耐ハンダリフロー性を確認した。結果を表4に示す。
更に、得られた成型体を縦3mm×横3mm×厚さ1mm直方体の形状に切り出して測定用試料とし、光の透過率測定を行った。結果を表5に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1中で用いたエポキシ樹脂、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、シラン化合物、不飽和イミド化合物、及び、硬化促進剤は、それぞれ以下のものである。構造は以下のとおりであり、エポキシ樹脂A〜Dの物性は、表2のとおりである。なお、エポキシ樹脂A、B及びDの物性は、製造元が開示した値であり、エポキシ樹脂Cの物性は、実測値である。
【0084】
エポキシ樹脂A:ポリエーテル変性型エポキシ樹脂(DIC社製、商品名「EXA4850−150」)
エポキシ樹脂B:ビフェニル型エポキシ樹脂(日本化薬社製、商品名「NC3000H」)
エポキシ樹脂C:ポリエーテル変性エポキシ樹脂
合成方法:攪拌装置、温度センサー、冷却管を備え付けた100mL4つ口フラスコに、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名「EX−214L」)32.33gと、ビスフェノールA(東京化成工業社製)37.96gを投入し、乾燥窒素流通下で120℃まで昇温した。トリフェニルホスフィン(和光純薬社製)0.35gを投入して反応させながら徐々に昇温し、150℃で3時間反応させて透明な液状樹脂を得た。H−NMR、13C−NMRを測定し、目的の化合物であることを確認した。
エポキシ樹脂D:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日本化薬社製、商品名「1004AF」
フェノール系硬化剤:ビフェニル型エポキシ樹脂(日本化薬社製、商品名「GPH65」)
アミン系硬化剤A:ジエチルトルエンジアミン(ETHYL社製、商品名「ETHACURE−100」)
アミン系硬化剤B:ビス(3−エチル−4−アミノフェニル)メタン(日本化薬社製、商品名「KAYAHARD A−A」)
シラン化合物A:国際公開第08/099904号公報に記載の合成方法に準じて合成した。
シラン化合物B:国際公開第08/099904号公報に記載の合成方法に準じて合成した。
不飽和イミド化合物:4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド(大和化成工業杜製、商品名「BMI−7000」)
硬化促進剤A:1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール(東京化成工業社製)
硬化促進剤B:2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(ナカライテスク社製、商品名「DMP−30」)
【0085】
【化15−1】

【0086】
【化15−2】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
実施例1〜5と比較例1、2との比較から、25℃で液状あるいは熱軟化温度が−150℃以上、60℃以下であるエポキシ樹脂と、シラン化合物とを含む組成物から得られた硬化物は、耐熱性に優れ、基板に塗布された場合に、基板の反りも充分に抑制されたものであることが確認された。
なお、上記実施例、比較例においては、エポキシ樹脂について4種類、シラン化合物について2種類の化合物を用いて組成物を製造した例が示されているが、エポキシ樹脂、シラン化合物の組成物中における基本的な作用機構は、すべて同様であることから、上記実施例、比較例の結果から、本明細書において開示した種々のエポキシ樹脂について、本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。これは、硬化剤、硬化促進剤や不飽和イミド化合物等の組成物中の他の構成成分についても同様であり、本発明の組成物を構成する各種構成成分に関し、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂及び硬化剤成分を含む硬化性樹脂組成物であって、
該硬化性樹脂は、25℃で液状あるいは熱軟化温度が−150℃以上、60℃以下であるエポキシ樹脂と、シラン化合物とを必須として構成されることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂は、ポリエーテル変性エポキシ樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記シラン化合物は、ポリシルセスキオキサンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化性樹脂組成物は、更に不飽和イミド化合物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
硬化性樹脂及び硬化剤成分を含む硬化性樹脂組成物であって、
該硬化物は、ガラス転移温度が30〜60℃であり、25℃での貯蔵弾性率が1GPa以上であり、かつ、厚さ1mmの試験片の波長650nmの光透過率が10%以下であり、波長800nmの光透過率が50%以上であることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記硬化物は、ガラス転移温度より30℃高い温度での貯蔵弾性率が10MPa以下であることを特徴とする請求項5に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる成型体。

【公開番号】特開2011−84605(P2011−84605A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236634(P2009−236634)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】