説明

磁性流体式作動機構

【課題】磁性流体に磁界を与えてその粘度もしくは流動性を変化させる作動機構の初期始動性を向上させる。
【解決手段】磁気を帯びることにより流動性が低下する磁性流体1がケーシング2の内部に封入された磁性流体式作動機構であって、前記ケーシング2内の磁性流体1中に微細気泡を発生させる微細気泡発生器4を備えている。したがって、磁性流体が静止状態に放置されても、微細気泡によって磁性体粒子が互いに分離し、また分散させられた状態に維持されて磁性体粒子の濃度の偏りを解消もしくは抑制されるので、磁界を与えることにより、磁性流体の粘度もしくは流動性が所期通りになり、初期始動性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁性流体を磁化し、あるいは磁化しないことにより動作状態を切り換え、もしくは選択することのできる磁性流体式作動機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁化することにより粘度あるいは流動性が変化する流体として、磁気粘性流体や磁性流体が知られている。前者の磁気粘性流体は、μmオーダーの鉄粉などの磁性体をオイル中に分散させた流体であり、後者の磁性流体は、更に微細なnmオーダーの磁性体をオイル中に分散させた流体である。これらいずれの流体も磁化されていない状態では、磁性体が互いに繋がらずにオイル中に分散しているので、全体としての粘度が低く、また流動性に優れ、これに対して磁化した場合には、磁性体が磁力で繋がり、その移動が阻害されるので、全体としての粘度が高く、また流動性が低下する。このような磁気粘性流体あるいは磁性流体(以下、この出願ではこれらをまとめて磁性流体と記す)の特性を利用した各種の装置が従来知られている。
【0003】
その例を挙げると、特許文献1には、シリンダの内部にピストンと共に磁性流体を封入し、その磁性流体を選択的に磁化することにより減衰力を変化させるように構成されたダンパーが記載されている。この特許文献1に記載されたダンパーは、非動作状態に長時間放置した場合、磁性体微粒子が沈殿し、実質的な濃度が低下するので、動作開始当初にコイルに流す電流を多くして、流体通路に集積する磁性体微粒子の量を多くし、その結果、流体通路の断面積を相対的に狭くして流速を速め、これによって磁性流体の撹拌およびそれに伴う沈殿の解消を促進するように構成されている。また、特許文献2には、ピストンと共に磁性流体をシリンダに封入したダンパーであって、磁性粒子の沈殿を防止するためにシリンダを回転させるように構成されたダンパーが記載されている。
【0004】
一方、特許文献3には、磁性流体を潤滑剤とした軸受であって、油膜の形成を阻害する要因となる気泡を除去する手段を備えた軸受が記載されている。この特許文献3に記載された軸受は、磁性流体の比重が相対的に大きいことを利用し、遠心力が作用した場合の圧力差によって気泡を除去するように構成されている。また、特許文献4には、磁性体粒子の分離・沈殿を防止するように構成した磁性流体が記載されており、この特許文献4に記載された磁性流体は、磁性体粒子の表面改質剤が離脱しにくい組成となっている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−77788号公報
【特許文献2】特開2005−69396号公報
【特許文献3】特開平9−79263号公報
【特許文献4】特開平5−320684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載されたダンパーおよび特許文献2に記載されたダンパーは、シリンダの内部に封入した磁性流体に撹拌力を与えることにより、磁性体粒子を分散させるように構成されているが、磁性体粒子が一旦沈殿して堆積した場合、流体による撹拌力は、堆積している磁性体粒子の表面層にしか作用しないので、短時間のうちに十分に分散させることは困難であり、その結果、例えばダンパーが動作し始めた当初の機能が不十分なものとなる可能性がある。また、特許文献2に記載されたダンパーによれば、停止させることなくシリンダを回転し続ければ、磁性体粒子の分散状態を維持することができるが、そのためには、ダンパーを使用しない場合であってもそのシリンダを継続して回転させる必要があるので、エネルギの消費量が多くなる不都合がある。なお、特許文献3および4には、静止状態に放置した場合に磁性体粒子の沈降あるいは沈殿を防止するための技術事項は開示されていない。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、動作していない状態でも磁性体粒子の分離・分散状態を維持し、動作開始当初の動作特性の低下を抑制することのできる磁性流体式作動機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記の目的を達成するために、微細気泡を利用して、磁性流体中の磁性体粒子の分散状態を維持するように構成したことを特徴とするものである。すなわち、請求項1の発明は、磁気を帯びることにより流動性が低下する磁性流体がケーシングの内部に封入された磁性流体式作動機構において、前記ケーシング内の磁性流体中に微細気泡を発生させる微細気泡発生器を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記ケーシングの内部に前記磁性流体と共に可動部材が配置され、前記磁性流体が磁化させられることにより前記可動部材と他の部材との間に働く力を増大させるように構成されていることを特徴とする磁性流体式作動機構である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記微細気泡発生器は、前記磁性流体の流動が停止している時間が予め定めた所定時間を経過した場合に前記微細気泡を発生させるように構成されていることを特徴とする磁性流体式作動機構である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記微細気泡発生器は、予め定めた時間間隔で間欠的に前記微細気泡を発生させるように構成されていることを特徴とする磁性流体式作動機構である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、ケーシング内の磁性流体中に微細気泡が発生させられる。この微細気泡は、マイクロバブルと称される直径が十μmないし数十μm程度の微細な気泡、もしくはそれ以下の直径の気泡であることが好ましい。この程度の微細な気泡は、コロイドとしての性質もあるので、微細気泡同士が電気的な反発力で離反し、分散状態を維持し、またオイルなどの流体中での浮上速度が遅く、かつ磁性体粒子に結合した状態となるので、結合している磁性体粒子と共に流体中に浮遊した状態を維持しやすい。その結果、作動機構が動作を停止し、それに伴って磁性流体が静止している状態であっても、磁性体粒子の沈降が防止もしくは抑制される。したがって、磁化しない場合、および磁化して磁性流体の流動性を低下させた場合のそれぞれにおける磁性流体の特性が設計上想定したとおりとなり、作動機構としての所期の特性あるいは機能を得ることができる。さらに、磁性体粒子を分散状態に維持するのは、混入している微細気泡の作用によるものであり、しかもその微細気泡は磁性流体中に残存して浮遊しているから、継続的に微細気泡を発生させ続ける必要がなく、そのため、磁性体粒子を分離もしくは分散状態に維持するために要するエネルギ量を少なくすることができる。
【0013】
また、請求項2の発明によれば、上記の請求項1の発明による効果と同様の効果に加えて、可動部材が停止状態から再度動作する際における、磁性流体中の磁性体粒子の実質的な濃度の低下を防止もしくは抑制できるので、可動部材もしくは作動機構の動作特性の低下を防止もしくは抑制することができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、上述した請求項1あるいは2の発明による効果と同様の効果に加えて、可動部材あるいはこれを含む作動機構が停止し、それに伴って磁性流体が静止している状態で微細気泡を発生させ、しかも停止から所定時間が経過した後に微細気泡を発生させるので、過度に微細気泡を発生させたり、エネルギを過度に消費したりすることを回避もしくは抑制することができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、所定の時間間隔毎に微細気泡を発生させるので、少ないエネルギ消費で磁性体粒子を分離もしくは分散状態に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明で対象とする作動機構は、ケーシングの内部に磁性流体を封入した構成を備えた機構である。その磁性流体は、鉄粉や鉄合金粉などの磁性体粒子をオイルなどの流体の内部に混入させ、かつ分散させた流体であり、磁界を作用させて磁化することにより磁性体粒子が磁気力で繋がって磁性流体自体の流動性が低下し、あるいは粘度が高くなり、反対に消磁することにより磁性体粒子同士の繋がりが解かれて磁性流体自体の流動性が高くなり、あるいは粘度が低下する流体である。その磁性体粒子は、μmオーダーの粒子、あるいはnmオーダーの粒子のいずれであってもよく、したがってこの発明における磁性流体は、いわゆる磁気粘性流体と磁性流体とを含む。なお、磁性体粒子の沈降あるいは沈殿は、磁気粘性流体で生じ易いので、この発明は、磁気粘性流体を使用した作動機構に適用するとにより、得られる効果が顕著である。
【0017】
図1はこの発明に係る作動機構の一例を原理的に示す模式図であり、磁性流体1がケーシング2の内部に封入されている。その磁性流体1の量は、ケーシング2の内部を完全に満たす量であってもよいが、それよりも少なく油面上に僅かな空間が生じる程度の量であってもよい。また、ケーシング2の上部には、ケーシング2内から空気を排出させるエア抜き口3が設けられている。このエア抜き口3は、エンジンや変速機などに設けられているブリーザーと同様のものであって、磁性流体1を漏れ出させずに空気のみ排出させる構成であることが好ましい。
【0018】
上記のケーシング2の内部には、磁性流体1中に微細気泡を発生させる気泡発生器4が配置されている。この気泡発生器4は、直径がμmオーダー(より詳しくは10〜80μm程度)の超微細で均一な気泡(いわゆるマイクロバブル)あるいはそれより更に小さい気泡を発生させる装置であって、その一例を図2に模式的に示してある。図2に示す例は、オイルもしくは磁性流体1の高速螺旋流によって空気を巻き込んで微細気泡5を発生させるように構成されており、ノズル6の軸線方向での一端部に吐出口7が形成されるとともに、これとは反対側に空気導入管8が配置されている。この空気導入管8の他方の端部は、ケーシング2から外部に延びていて大気に開口している。
【0019】
また、ノズル6の外周部の所定箇所には、オイル噴射管9が設けられている。このオイル噴射管9は、ここから噴射したオイルが螺旋流となってノズル6の内部をその吐出口7に向けて流れるように構成されている。さらに、オイル噴射管9は、ポンプ10が介在している循環パイプ11に接続されている。この循環パイプ11およびポンプ10はケーシング2の外部に配置されており、ポンプ10の吐出口がオイル噴射管9に連通され、またポンプ10の吸入口がケーシング2の底部に近い箇所に連通され、ケーシング2の底部近くから吸入した磁性流体1をポンプ10によって加圧してオイル噴射管9からノズル6の内部に噴射するように構成されている。
【0020】
なお、気泡発生器4は、エジェクタポンプのように高速のオイルによって空気を引き入れるとともにその圧力を解放して気泡を発生させるタイプのものや、特開2007−24011号公報に記載された構成のものなどを採用することができる。
【0021】
図1に示す作動機構では、上記のポンプ10を起動してノズル6の内部にオイルもしくは磁性流体1を噴射すると、その螺旋流が吐出口7に向けて流動することにより空気導入管8からノズル6の内部に空気が吸入され、その空気はオイルもしくは磁性流体1の螺旋流と共に流れる間に微細気泡になり、ノズル6から磁性流体1に噴射される。こうして発生した微細気泡は、その粒径が小さいことにより磁性流体1中での浮上速度が遅く、また微細気泡はコロイドのような性質があって微細気泡同士が合体したり吸収したりしないので、磁性流体1中で分離もしくは分散した状態を維持する。しかも、微細気泡は磁性流体1中の磁性体粒子に付着して磁性体粒子に浮力を与えるので、磁性体粒子の沈降や沈殿を抑制する。なお、微細気泡の一部は、磁性流体1中を浮上し、その空気は前記エア抜き口3から外部に排出される。
【0022】
このように、微細気泡を一旦発生させた磁性流体1では、その微細気泡の一部が磁性体粒子と結合して磁性流体1中にとどまるので、磁性体粒子の沈殿が抑制されてその分散状態が維持される。図3は磁性体粒子の分離もしくは分散状態の継続時間を測定した結果を示しており、図3の曲線Aは微細気泡を発生させた場合の測定結果を示し、曲線Bは微細気泡を発生させない場合の測定結果を示す。なお、この測定試験は、磁性体粒子を潤滑油に混入させた磁性流体を用意し、その磁性体粒子が全体に均一に分散している状態での油面の高さ(深さ)を100%とし、その後に静止状態に放置して磁性体粒子が分散している部分の高さ(深さ)を経過時間毎に測定し、その割合を図3にパーセントで示してある。なお、微細気泡は5分間に亘って発生させ、その後、静止状態に放置した。
【0023】
図3に示すように、微細気泡を発生させない場合(図3の曲線B)には、磁性体粒子の沈降あるいは沈殿が急速に進行し、磁性体粒子が分散している潤滑油の量、すなわち実質的な磁性流体の量が少なくなる。これに対して微細気泡を一旦発生させた場合(図3の曲線A)には、磁性体粒子の沈降あるいは沈殿が抑制され、磁性体粒子が分散している潤滑油の量、すなわち実質的な磁性流体の量が相対的に長期に亘って多くなる。また、微細気泡を発生させた場合、および微細気泡を発生させない場合のいずれであっても、放置した時間が長くなると、磁性体粒子が分散している潤滑油の割合、すなわち実質的な磁性流体の量が、混入させた磁性体粒子の量に応じた所定の量にほぼ安定する。しかしながら、微細気泡を一旦発生させた場合には、磁性体粒子が分散している実質的な磁性流体の最終的な安定量が、微細気泡を発生させなかった場合の最終的な安定量より多くなる。これは、微細気泡と結合したまま沈降もしくは沈殿した磁性体粒子が多数存在していることによるものと思われる。したがって、微細気泡を発生させた場合には、磁性体粒子が沈殿したとしても、その沈殿層での磁性体粒子同士は微細気泡を介して接触し、磁性体粒子同士が直接接触して凝集していないものと考えられる。言い換えれば、沈殿層での磁性体粒子は微細気泡によって浮遊状態に維持されている。そのため、撹拌することにより直ちに流動して浮遊し、磁性流体の全体に均一に分散する作用に優れている。
【0024】
ここで図1に示す作動機構の用途について説明すると、磁性流体1の流動性は、磁性体粒子の分散状態によって異なるので、図1に示す作動機構を所定の構造物の上部に固定し、その構造物の振動減衰機構として使用すれば、その磁性流体1中に微細気泡を発生させて磁性体粒子の沈殿を抑制してその分散状態を維持すれば、磁性流体1の粘性を相対的に高く維持して突発的な振動に対して優れた減衰機能を生じさせることができる。このような機能は、磁性流体1に磁界を作用させてその流動性を更に低下させて得ることもでき、そのためには、前記ケーシング2に電磁コイル(図示せず)を付設し、地震などの振動の発生を検出して発せられる信号によってその電磁コイルに通電するように構成すればよい。
【0025】
つぎにこの発明に係る作動機構の他の例を説明する。図4はこの発明を適用した作動機構をクラッチあるいは伝動機構として構成した例を示しており、入力軸21の一端部と出力軸22の一端部とが、互いに平行となるようにケーシング23の内部に液密状態を維持して挿入され、かつ回転自在に保持されている。その入力軸21の一端部には、可動部材としてロータ24が一体となって回転するように設けられており、また出力軸22の一端部には、可動部材として他のロータ25が一体となって回転するように設けられている。これらのロータ24,25は、それぞれの外周面が互いに接近する径に設定され、また少なくともそれぞれの外周面は磁性材料によって形成されている。
【0026】
そして、ケーシング23の内部には磁性流体26が封入されている。その磁性流体26は、前述した磁性流体1と同様のものであってよく、その量は、各ロータ24,25が埋没する量である。さらに、その磁性流体26に対して微細気泡を混入させる気泡発生器4がケーシング23の下側の部分(使用状態での下側の部分)に取り付けられている。この気泡発生器4は前述した図2に示す構成のものであってよく、したがって磁性流体26をケーシング23の内部と気泡発生器4との間で循環させるポンプ10および循環パイプ11が設けられている。なお、図4において、符号8は空気導入管である。また、符号27は電磁コイルであって、通電されることによって磁界を形成し、磁性流体26を磁化するように構成されている。さらに、図4に示す構成であってもエア抜き口が設けられているが、図4ではその記載を省略し、図示していない。
【0027】
図4に示す作動機構では、入力軸21と出力軸22との少なくともいずれか一方が回転していれば、いずれかのロータ24,25が回転するので、ケーシング23内の磁性流体26が撹拌され、磁性体粒子が磁性流体26の全体に分散させられる。その場合、気泡発生器4によって微細気泡が磁性流体26の内部に発生させられていれば、微細気泡と磁性体粒子とが結合してほぼ均等に分散していて磁性体粒子の濃度の偏りがないので、駆動側のロータ24,25の回転に対して抵抗となる引きずりトルク(ドラグトルク)が特には大きくならず、動力損失を低減できる。車両にあっては燃費を向上させることができる。
【0028】
また、磁性流体26の内部に微細気泡を発生させることにより、磁性体粒子の沈降あるいは沈殿を抑制して磁性体粒子を分散させておくことができる。したがって、入力軸21と出力軸22との間でトルクを伝達するべく電磁コイル27に通電すると、磁性体粒子が磁化されて磁性流体26の粘度が高くなり、また各ロータ24,25の間に磁性体粒子が磁気力で繋がった状態になる。すなわち、各ロータ24,25が磁性体粒子を介して連結された状態になる。その場合の連結強度もしくは磁性体粒子を介したトルクの伝達容量は、磁性流体26に分散している磁性体粒子の量もしくは濃度に応じたものとなる。図4に示す構成では、微細気泡によって磁性体粒子が均一に、あるいは均一に近い状態に分散させられ、各ロータ24,25の間でトルクの伝達に関与する磁性体粒子の量が多くなるので、電磁コイル27への通電とほぼ同時に、設計上想定したトルク伝達容量を確保することができる。すなわちクラッチとしての初期始動性が良好になる。
【0029】
つぎにこの発明に係る作動機構をダンパーとして構成した例を説明する。図5はその例を模式的に示す図であって、シリンダ31の内部に可動部材としてのピストン32がその軸線方向に前後動(上下動)するように収容され、さらにそのシリンダ31の内部に前述した磁性流体1,26と同様の磁性流体33が封入されている。また、前記ピストン32には、軸線方向に貫通する小径の油路34が形成されており、ピストン32によってシリンダ31内に区画形成されている上下の油室がその油路34によって連通されている。ピストン32のうち、油路34の近傍には、油路34における磁性流体33に対して磁気を及ぼすための電磁コイル35が設けられている。そして、シリンダ31の下側の部分には、微細気泡を磁性流体33の内部に発生させるための気泡発生器4が設けられている。この気泡発生器4は前述した各具体例における気泡発生器4と同様のものであり、したがって磁性流体33をシリンダ31の内部と気泡発生器4との間で循環させるポンプ10および循環パイプ11が設けられている。なお、図5に示す構成においても空気導入管およびエア抜き口が設けられているが、図5ではその記載は省略し図示していない。また、気泡発生器4をシリンダ31の下側の部分に設けてあるのは、前述した各具体例と同様に、沈降する磁性体粒子に対して微細気泡を効果的に作用させるためである。
【0030】
したがって、図5に示すように構成したダンパーでは、その気泡発生器4を動作させて磁性流体33中に微細気泡を発生させると、前述した各具体例と同様に、その微細気泡によって磁性体粒子が浮遊状態および分散状態に維持される。なお、ピストン32が前後動(上下動)して磁性流体33が流動している状態では、磁性流体33が撹拌されて磁性体粒子が分散させられるので、ダンパーの動作が停止して磁性流体33がほぼ静止している状態で気泡発生器4を動作させて微細気泡を発生させる。
【0031】
ピストン32の動きに対する抵抗力すなわちダンパーとしての振動減衰力を増大させるためには、前記電磁コイル35に通電して磁力を発生させる。こうすることにより前記油路34における磁性体粒子が磁気力によって互いに繋がり、その結果、油路34の実質的な流路断面積が狭くなり、また磁性流体33の粘度が高くなる。その場合、磁性流体33は微細気泡による作用で磁性体粒子が効果的に分散させられた状態になっていて、油路34における磁性体粒子の濃度が設計上想定したものとなっているので、電磁コイル35に流した電流に応じた粘度もしくは振動減衰力を設定することができる。言い換えれば、磁性体粒子の濃度の偏りがなく、もしくはその偏りが少ないので、電磁コイル35に通電しても所期の粘度もしくは振動減衰力を直ちには設定できないなどの事態を回避もしくは抑制することができる。すなわち、電磁コイル35に対する通電を開始した当初においても所期の減衰特性を得ることができるので、初期始動性能を向上させることができる。
【0032】
図6はこの発明に係る作動機構をブレーキとして構成した例を示しており、固定されたケーシング41を回転軸42が液密状態を保持して貫通しかつ回転自在に保持されている。その回転軸42のうちケーシング41の内部に位置している部分には、ケーシング41の内壁面と対向している可動部材としてのロータ43が取り付けられ、回転軸42とロータ43とが一体となって回転するように構成されている。なお、ロータ43の少なくとも表面は磁性材料によって構成されている。
【0033】
そのケーシング41の内部には、前述した各具体例における磁性流体1,26,33と同様の構成の磁性流体44が封入されている。その磁性流体44に対して磁力を及ぼして磁性体粒子を磁化するために電磁コイル45が、ケーシング41の内壁面のうち前記ロータ43に対向する位置に設けられている。そして、ケーシング41の下側の部分には、微細気泡を磁性流体44の内部に発生させるための気泡発生器4が設けられている。この気泡発生器4は前述した各具体例における気泡発生器4と同様のものであり、したがって磁性流体44をケーシング41の内部と気泡発生器4との間で循環させるポンプ10および循環パイプ11が設けられている。なお、図6において、符号8は空気導入管を示す。また図6に示す構成においてもエア抜き口が設けられているが、図6ではその記載を省略し図示していない。また、気泡発生器4をケーシング41の下側の部分に設けてあるのは、前述した各具体例と同様に、沈降する磁性体粒子に対して微細気泡を効果的に作用させるためである。
【0034】
したがって、図6に示すように構成したブレーキでは、回転軸42およびロータ43が停止してケーシング41の内部の磁性流体44が静止している際に、気泡発生器4を動作させて磁性流体44中に微細気泡を発生させると、前述した各具体例と同様に、その微細気泡によって磁性体粒子が浮遊状態および分散状態に維持される。そのため、磁性体粒子の濃度の偏りが生じず、あるいはその濃度の偏りが緩和されるので、ロータ43が回転軸42と共に回転していても、ロータ43の回転に対する磁性流体44の粘性抵抗が特には大きくならず、動力損失を低減できる。車両にあっては燃費を向上させることができる。
【0035】
また、図6に示す構成では、磁性流体44の内部に微細気泡を発生させることにより、磁性体粒子の沈降あるいは沈殿を抑制して磁性体粒子を分散させておくことができるから、ロータ43および回転軸42に制動力を付与するために電磁コイル45に通電すると、磁性体粒子が磁化されて磁性流体44の粘度が高くなり、またロータ43とケーシング41との間に磁性体粒子が磁気力で繋がった状態になる。すなわち、ロータ43が磁性体粒子を介してケーシング41に連結された状態になる。その場合の連結強度もしくは磁性体粒子を介したトルクの伝達容量は、磁性流体44に分散している磁性体粒子の量もしくは濃度に応じたものとなる。図6に示す構成では、微細気泡によって磁性体粒子が均一に、あるいは均一に近い状態に分散させられ、ロータ43とケーシング41との間でトルクの伝達に関与する磁性体粒子の量が多くなるので、電磁コイル45への通電とほぼ同時に、設計上想定した制動力を確保することができる。すなわちブレーキとしての初期始動性が良好になる。
【0036】
この発明に係る作動機構の更に他の例を図7に示してある。ここに示す例は、この発明をマウントに適用した例であって、液体封入型のマウントである。すなわち、金属板などのベース51の上面にゴムなどの弾性材からなる支持体52が設けられている。この支持体52はいわゆる可動部材もしくは容積変更部材であって、断面台形状あるいは円錐状を成す密閉構造であり、その頂部には、エンジンや変速機(それぞれ図示せず)を取り付けるためのピンもしくはボルト53を備えた金属製のブロック54が一体化されている。支持体52の内部は油室になっていて、その油室に開口する開口部が前記ベース51に形成されている。この開口部を介して前記油室に連通している他の油室がベース51の下面側に形成されている。
【0037】
当該他の油室は、ベース51の下面に取り付けられた中空容器55によって形成されている。その中空容器55は、底部側にゴムシートなどからなる弾性膜55aを備えており、その弾性膜55aの図7での上側に当該他の油室が形成されている。すなわち、前述したベース51と弾性膜55aとの間に前記他の油室が形成され、弾性膜55aが変形することによりその内容積が増大および減少するように構成されている。さらに、前記他の油室の内部は隔壁部56によって上下に二分されている。この隔壁部56には、上下に貫通する油路57が形成されており、その油路57の近傍に電磁コイル58が配置されている。そして、上記の支持体52および中空容器55によって形成されている密閉構造の各油室の内部に、前述した各具体例における磁性流体1,26,33,44と同様の磁性流体59が封入されている。したがって、電磁コイル58は、油路57を通過する磁性流体59に対して磁界を及ぼし、その磁性体粒子を磁化することにより、磁性流体59の粘度を高くし、あるいは油路57の流路断面積を狭めるようになっている。
【0038】
さらに、上記の隔壁部56より下側の前記他の油室には、微細気泡を磁性流体59の内部に発生させるための気泡発生器4が設けられている。この気泡発生器4は前述した各具体例における気泡発生器4と同様のものであり、したがって磁性流体59を隔壁部56より上側の油室の内部と気泡発生器4との間で循環させるポンプ10および循環パイプ11が設けられている。なお、図7において、符号8は空気導入管を示している。また、図7に示す構成においてもエア抜き口が設けられているが、図7ではその記載を省略し図示していない。また、気泡発生器4を可及的に下側に設けてあるのは、前述した各具体例と同様に、沈降する磁性体粒子に対して微細気泡を効果的に作用させるためである。
【0039】
したがって図7に示すマウントでは、支持体52に衝撃力が作用することによりこれが弾性的に撓み、それに伴って磁性流体59が上側の油室から下側の油室に押し出され、また支持体52に作用する荷重が低下することにより、支持体52がその弾性力で元の形状に復帰し、それに伴って下側の油室から上側の油室に磁性流体59が流動する。このように、支持体52が変形することにより衝撃力が緩和され、また磁性流体59が隔壁部56の油路57を通過する際の流動抵抗が振動の減衰力として作用する。その磁性流体59は、静止している際に、あるいは流動している際に前記気泡発生器4によって微細気泡が吹き込まれることにより、磁性体粒子が分散させられた状態に維持されており、したがって磁性流体59の粘度あるいは流動性は、設計上想定したものになっているので、所期の緩衝性能あるいは振動減衰性能を得ることができる。
【0040】
そして、その緩衝性能あるいは振動減衰性能を変化させる場合、前記電磁コイル58に通電して磁力を発生させる。こうすることにより前記油路57における磁性体粒子が磁気力によって互いに繋がり、その結果、油路57の実質的な流路断面積が狭くなり、また磁性流体59の粘度が高くなる。その場合、磁性流体59は微細気泡による作用で磁性体粒子が効果的に分散されられた状態になっていて、油路57における磁性体粒子の濃度が設計上想定したものとなっているので、電磁コイル58に流した電流に応じた粘度もしくは振動減衰力を設定することができる。言い換えれば、磁性体粒子の濃度の偏りがなく、もしくはその偏りが少ないので、電磁コイル58に通電しても所期の粘度もしくは振動減衰力を直ちには設定できないなどの事態を回避もしくは抑制することができる。すなわち、電磁コイル58に対する通電を開始した当初においても所期の緩衝特性もしくは減衰特性を得ることができるので、初期始動性能を向上させることができる。
【0041】
ところで、前述した図3に示すように、微細気泡による磁性体粒子の分散作用(あるいは沈殿抑制作用)や凝集抑制作用は、微細気泡を一旦発生させた後、所定の期間継続する。したがって、磁性体粒子の分散あるいは分離の程度が100%より低い状態であってもよいように設計することにより、磁性体粒子の分散あるいは分離の程度が設計上許容できる程度に低下するまで微細気泡の発生もしくは磁性流体に対する微細気泡の吹き込みを停止しておくことができる。このような機能を利用して、この発明では作動機構が停止している状態もしくは磁性流体が静止している状態での微細気泡の発生を間欠的に行うように構成することができる。
【0042】
より具体的に説明すると、使用する磁性流体について、微細気泡を発生した後の沈殿特性を計測しておく。これは、前述した図3の測定結果を得るため行った測定試験と同様にして行えばよく、こうして得られた結果を図8の(a)に模式的に示してある。設計上許容できる磁性体粒子の分散あるいは分離の程度が例えば図8の(a)における70%である場合、これに対応する経過日数が図8の(a)から「5日」として求めることができる。したがって、対象とする作動機構を停止状態に放置する場合、5日毎に気泡発生器4を動作させ、磁性流体に微細気泡を発生させることにより、磁性体粒子の分散あるいは分離の程度を設計上許容できる70%以上に維持することができる。このように気泡発生器4を間欠的に動作させた場合の磁性体粒子の分散あるいは分離の程度の変化を図8の(b)に模式的に示してある。したがって、常時継続して気泡発生器4を動作させる必要がないので、電力あるいはエネルギの消費量を少なくでき、車両においては燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明に係る作動機構の一例を原理的に示す模式図である。
【図2】その気泡発生器を模式的に示す断面図である。
【図3】微細気泡を発生させた場合と発生させない場合とにおける磁性体粒子の沈殿の状態を測定した結果を示す線図である。
【図4】この発明を適用したクラッチの一例を模式的に示す断面図である。
【図5】この発明を適用したダンパーの一例を模式的に示す断面図である。
【図6】この発明を適用したブレーキの一例を模式的に示す断面図である。
【図7】この発明を適用したマウントの一例を模式的に示す断面図である。
【図8】(a)は磁性体粒子の沈殿特性の測定結果の一例を示し、(b)はその測定結果に基づいて微細気泡を間欠的に発生させた場合の沈殿割合の変化を示す線図である。
【符号の説明】
【0044】
1,26,33,44,59…磁性流体、 2,23,41…ケーシング、 3…エア抜き口、 4…気泡発生器、 5…微細気泡、 6…ノズル、 7…吐出口、 8…空気導入管、 9…オイル噴射管、 10…ポンプ、 11…循環パイプ、 21…入力軸、 22…出力軸、 24,25,43…ロータ、 27,35,45,58…電磁コイル、 31…シリンダ、 32…ピストン、 34,57…油路、 42…回転軸、 51…ベース、 52…支持体、 53…ボルト、 54…ブロック、 55…中空容器、 56…隔壁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気を帯びることにより流動性が低下する磁性流体がケーシングの内部に封入された磁性流体式作動機構において、
前記ケーシング内の磁性流体中に微細気泡を発生させる微細気泡発生器を備えていることを特徴とする磁性流体式作動機構。
【請求項2】
前記ケーシングの内部に前記磁性流体と共に可動部材が配置され、前記磁性流体が磁化させられることにより前記可動部材と他の部材との間に働く力を増大させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁性流体式作動機構。
【請求項3】
前記微細気泡発生器は、前記磁性流体の流動が停止している時間が予め定めた所定時間を経過した場合に前記微細気泡を発生させるように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁性流体式作動機構。
【請求項4】
前記微細気泡発生器は、予め定めた時間間隔で間欠的に前記微細気泡を発生させるように構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の磁性流体式作動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−151192(P2010−151192A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328517(P2008−328517)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】