説明

磁気エンコーダ及び車輪用軸受

【課題】熱応力による磁石部のスリンガからの剥離を抑え、耐久性に優れる磁気エンコーダを提供する。
【解決手段】本発明の磁気エンコーダは、スリンガの磁石取付面が粗面化されており、磁石取付面の基部側の端部が所定幅で露出するように磁石部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の車輪のような回転体の回転数を検出するために用いられる磁気エンコーダ、並びに前記磁気エンコーダを備える車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車輪の回転数を検出するために、車輪用軸受に磁気エンコーダを装着し、磁気センサで検出することが行われている。図1は、このような磁気エンコーダを備える車輪用軸受2aの一例を示す断面図であり、図2はシールリングの近傍を示す拡大断面図であり、図3は磁石部を示す斜視図である。
【0003】
ハブ7aの内端部に形成した小径段部15に外嵌した内輪16aは、このハブ7aの内端部を径方向外方にかしめ広げることにより形成したかしめ部23によりその内端部を抑え付けることで、ハブ7aに結合固定されている。そして、このハブ7aと内輪16aは回転輪を構成している。また、車輪は、このハブ7aの外端部で、静止輪である外輪5aの外端部から突出した部分に形成した取付フランジ12に、結合固定自在としている。これに対して外輪5aは、その外周面に形成した結合フランジ11により、懸架装置を構成する、図示しないナックル等に結合固定自在としている。
【0004】
更に、外輪5aの両端部内周面と、ハブ7aの中間部外周面及び内輪16aの内端部外周面との間には、それぞれシールリング21a、21bが設けられる。これら各シールリング21a、21bは、外輪5aの内周面とハブ7a及び内輪16aの外周面との間で、各玉17a、17aを設けた空間と外部空間とを遮断している。
【0005】
各シールリング21a、21bは、それぞれ軟鋼板を曲げ形成して、断面L字形で全体を円環状とした芯金24a、24bにより、弾性材22a、22bを補強してなる。この様な各シールリング21a、21bは、それぞれの芯金24a、24bを外輪5aの両端部に締り嵌めで内嵌し、それぞれの弾性材22a、22bが構成するシールリップの先端部を、ハブ7aの中間部外周面、或は内輪16aの内端部外周面に外嵌固定したスリンガ25に、それぞれの全周に亙り摺設させている。
【0006】
図2に拡大して示すように、スリンガ25は、内輪16aに固定される円筒状の基部25aの一端が垂直に屈曲し、屈曲部25bから内輪16aとは反対側に延びる円環状の磁石取付面25cが形成された略L字状の断面形状を呈しており、磁気エンコーダ26は、スリンガ25の磁石取付面25cに磁石部27を接合して構成される。磁石部27は、図3に示すように、その周方向にN極とS極とが交互に形成された多極磁石である。そして、図1に示すように、磁石部27に対向して磁気センサ28が配置される。
【0007】
このように構成される磁気エンコーダ26では、組立性の面から磁気センサ28とのエアギャップを大きく採った方が好都合である。そのためには、磁石部27の磁気特性を高める必要があり、プラスチック磁石が使用されることが多くなっている。プラスチック磁石は、バインダ樹脂に磁性体粉を混入したものであるが、磁性体粉を多量に混入して磁束密度を高めることができるという利点がある。また、プラスチック磁石は、磁界をかけた状態での射出成形(磁場成形)が容易であり、優れた磁気特定発現に不可欠な異方性磁石を得ることができる。
【0008】
しかし、プラスチック磁石は、接着剤によりスリンガ25の磁石取付面25cに接着されるため、過酷な温度条件下(例えば−40℃〜120℃)に曝された場合、スリンガ25との熱膨張率の差により過大な応力が発生することになり、これが緩和されずに接着界面に集中する結果、磁石部27がスリンガ25から剥離するおそれがある。
【0009】
このような熱応力による磁石部27の剥離を防止するために、特許文献1では、スリンガ25と磁石部27とを弾性接着剤を用いて接着することを提案している。また、特許文献2では、磁石取付面25cに接着剤を半硬化状態で塗布しておいたスリンガ25をコアとし、プラスチック磁石材料をインサート成形することにより、磁石部27とスリンガ25とをより強固に接合することを提案している。しかし、何れも、接着剤及び接着のための作業を必要とすることから、コスト面に問題がある。
【0010】
また、熱応力を繰り返し受けると、スリンガ25の屈曲部25bを起点として磁石部27にクラックが発生しやすく、更にクラックが成長して磁石部27の剥離に至ることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−222150号公報
【特許文献2】特許第3178412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、熱応力による磁石部のスリンガからの剥離を抑え、耐久性に優れる磁気エンコーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は下記を提供する。
(1)回転体に取り付け可能なスリンガと、磁性体粉とバインダ樹脂とを含む磁石材料からなり、かつ、前記スリンガに取り付けられて円周方向に多極着磁された略円環状の磁石部とを備えた磁気エンコーダであって、
前記スリンガは、前記回転体に固定される円筒状の基部と、前記基部から垂直に屈曲して前記回転体とは反対側の方向に延びる円環状の磁石取付面とから構成されるとともに、
前記磁石取付面が粗面化され、かつ、前記基部側の端部が所定幅で露出して前記磁石部が形成されていないことを特徴とする磁気エンコーダ。
(2)前記磁石部が、前記磁石取付面の先端から、該磁石取付面とは反対側の面まで延びるフック部が一体に形成され、前記フック部により前記スリンガに固定されていることを特徴とする上記(1)記載の磁気エンコーダ。
(3)前記磁石取付面の前記磁石部が形成されていない露出部が、前記基部側の端部から0.5mm以上高い位置から、前記磁石部と対向対置される磁気センサの内輪側検出端より1mm低い位置までの領域内にあることを特徴とする上記(1)または(2)記載の磁気エンコーダ。
(4)前記バインダ樹脂が、低吸水性ポリアミドまたは低吸水性ポリアミドに軟質成分を配合したポリマーアロイ、分子中に芳香族環が導入された半芳香族ポリアミドまたは半芳香族ポリアミドに軟質成分を配合したポリマーアロイ及びポリフェニレンサルファイドから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の磁気エンコーダ。
(5)前記磁性体粉が、ストロンチウムフェライト、バリウムフェライト、ネオジウム−鉄−ボロン、サマリウムコバルト及びサマリウム鉄から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の磁気エンコーダ。
(6)固定輪と、回転輪と、前記固定輪と前記回転輪との間で周方向に転動自在に配設された複数の転動体と、前記回転輪に固定される上記(1)〜(5)の何れか1項に記載の磁気エンコーダとを備えることを特徴とする車輪用軸受。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁気エンコーダでは、スリンガの磁石取付面の屈曲部側に所定幅で磁石部が形成されないため、熱応力を受けても磁石部にクラックが発生し難く、スリンガからの剥落が抑えられて信頼性が高くなる。また、スリンガの磁石取付面は粗面化されており、接着剤を用いなくても磁石部を固定することも可能であり、低コスト化を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】磁気エンコーダを備えた車輪用軸受一例を示す断面図である。
【図2】図1の部分拡大断面図である。
【図3】図1の磁気エンコーダに用いられる磁石部の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明の磁気エンコーダの一例を、図2に従って示す断面図である。
【図5】本発明の磁気エンコーダにおけるスリンガの先端を示す拡大断面図である。
【図6】実施例及び比較例で作製した磁気エンコーダを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
磁気エンコーダを備えた車輪用軸受としては、例えば図1に示したような車輪用軸受2aを挙げることができ、その全体構造は上記に示したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0018】
本発明では、磁気エンコーダ26を図4に示すように構成する。尚、図4は、図2に従って示す断面図である。スリンガ25は、図2に示したものと同様であり、基部25a、屈曲部25b及び磁石取付面25cが形成された略L字状の断面形状を呈している。
【0019】
スリンガ25の磁石取付面25cは粗面化されており、接着剤を用いなくても、アンカー効果により磁石部27との接合性を高めることができる。粗面化は、例えばブラスト処理やエッチング処理等により行うことができる。また、粗面化の程度としては、算術平均粗さ(Ra)において1.2〜2.0とすることが好ましく、1.3〜1.6にすることがより好ましい。
【0020】
また、磁石部27のスリンガ25からの離脱をより確実に防ぐために、図示されるように、磁石部27に、スリンガ25の磁石取付面25cと当接する基部27aに連続して、磁石取付面25cの先端25dを覆い、更に磁石取付面25cの裏面25eの所定位置まで垂下する断面略ク字状のフック部27bを形成する。磁石部27は、フック部27bがスリンガ25の先端25dを包囲して係合するため、接着剤が無くてもスリンガ25に装着される。
【0021】
更には、図5(A)に示すように、スリンガ25の先端25dと裏面25eとで段状の切欠部25gを形成したり、図5(B)に示すように、先端25に溝状の凹部25hを形成し、切欠部25gや凹部25hにもプラスチック磁石材料が充填されるようにすることが好ましい。
【0022】
尚、磁石部27は、図3に示すように、円環状で、その周方向にN極とS極とが交互に形成された多極磁石である。
【0023】
また、図4に示すように、スリンガ25の磁石取付面25cの基部側の一部は、磁石部27が形成されずに、露出している。尚、この露出している部分を符合25fで表し、「露出部」と呼ぶ。スリンガ25の磁石取付面25cにおいて、露出部25fは粗面化されていなくてもよい。その場合、露出部25fをマスキングして上記の粗面化処理を行う。
【0024】
自動車は運転・停止を繰り返すため、車輪用軸受2aは回転時の発熱と停止時の冷却とを繰り返し曝される。磁気エンコーダ26には、そのときの発熱・冷却が、内輪16aを伝わりスリンガ25の基部25aへと伝熱するため、磁石部27の基部側の部分にクラックが発生しやすく、更にクラックが磁石部27の他の部分へと拡大して磁石部27の剥落へと進展する。従って、露出部25fは、幅広であることが好ましく、内輪16aの外周面から磁石部27の下端27cまでの距離Lが0.5mm以上であることが好ましい。また、磁石部27の下端27cの上限は、磁気センサ28(図1)の内輪側検出端よりも1mmだけ内輪側とすることが好ましい。このような範囲で露出部25fを形成することにより、磁石部27のクラック発生及びそれに起因する剥落が抑えられ、かつ、磁気センサ28による検出が確保される。
【0025】
上記の磁気エンコーダ26を製造するには、スリンガ25をコアにして、磁石部27を形成するプラスチック磁石材料を射出成形する。そして、スリンガ25に磁石部27を接合した後、磁石部27を多極磁化する。
【0026】
尚、磁石部27を形成するプラスチック磁石には制限はないが、例えば下記の組成とすることができる。
【0027】
バインダ樹脂としては、ポリアミド樹脂が好ましく、中でも融雪剤として使用される塩化カルシウムが水と一緒にかかる可能性があるという点を考慮して、吸水率の小さい所謂高級ナイロンであるポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612、ポリアミド610、あるいはポリアミド6T、ポリアミド9T及びポリアミドMXDから選ばれる何れかをハードセグメントとし、ポリエステル成分及びポリエーテル成分から選ばれる何れかをソフトセグメントとするブロック共重合体、あるいは分子鎖に芳香環が導入されたポリアミド6T/6−6、ポリアミド6T/6I、ポリアミド6T/6I/6−6等の半芳香族ポリアミド樹脂、あるいは、ポリフェニレンサルファイド等が好ましい。
【0028】
また、これらに、衝撃を緩和する作用を有する軟質成分、例えばアクリルゴムやカルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル変性水素添加ニトリルゴム等のゴム粒子を配合したポリマーアロイを用いることもできる。尚、軟質成分は、バインダ樹脂との合計量に対して、5〜50重量%、好ましくは10〜35重量%配合される。
【0029】
磁性粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト、ネオジウム−鉄−ボロン,サマリウム−コバルト,サマリウム−鉄等の希土類磁性粉を例示することができ、更にフェライトの磁気特性を向上させるためにランタンとコバルト等を混入させたものであってもよい。磁性材量は、磁石部27の磁気特性を十分に確保するため、プラスチック磁性材料の60〜80体積%とすることが好ましい。磁性粉量が60体積%未満の場合は、磁気特性が劣ると共に、細かいピッチで円周方向に多極磁化させるのが困難になり、−方、80体積%を越える場合は、バインダ樹脂量が少なくなりすぎて、磁石部27の強度が低くなると同時に、成形が困難になり、実用性が低下する。
【0030】
プラスチック磁石材料には、熱安定剤(耐熱加工安定剤、酸化防止剤)、光安定剤、帯電防止材、可塑剤、無機あるいは有機難燃剤、その他、補強材等を必要に応じて添加することもできる。特に、使用環境を考慮すると、熱安定剤の添加が望ましく、好適に添加されるものとしては、アミン系酸化防止剤として、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンポリマーに代表されるアミン・ケトン系、p,p′−ジクミルジフェニルアミンに代表されるジアリルアミン系、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミンに代表されるp−フェニレンジアミン系を例示でき、フェノール系酸化防止剤として、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノ一ルに代表されるモノフェノ−ル系、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノ−ル)に代表されるポリフェノール系を例示できる。また、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン等のハイドロキノン系酸化防止剤も好適である。
【0031】
更に、酸化防止剤と共に、過酸化物分解型酸化防止剤(二次酸化防止剤)を併用してもよい。二次酸化防止剤としては、2−メルカプトベンズイミダゾールのような硫黄系二次酸化防止剤や、トリス(ノニル化フェニル)フォスファイトのようなリン系二次酸化防止剤を例示できる。尚、熱安定剤の配合量は、バインダ樹脂に対して0.1〜3重量%程度が好ましいが、種類によっては(ブルームしない、あるいは樹脂の物性に悪影響を及ぼさない範囲で)それ以上の量が添加される場合ある。
【0032】
また、スリンガ25の磁石取付面25cには、粗面化に加えて、予め接着剤を塗布しておき、プラスチック磁石材料をインサート成形して上記のような磁石部27を形成することが好ましい。接着剤により、磁石取付面25cと磁石部27とがより強固に接合する。
【0033】
尚、接着剤は、プラスチック磁石材料のバインダ樹脂と、スリンガ25を形成する金属材料とを接着できるものであれば制限はないが、溶剤に溶解可能で、耐熱性等に優れ、更にインサート成形時に硬化するように2段階に近い硬化反応が進むものが好ましく、フェノール樹脂系接着剤やエポキシ樹脂系接着剤が好ましい。
【0034】
フェノール樹脂系接着剤は、ゴムの加硫接着剤として用いられているものが好適であり、ノボラック型フェノール樹脂やレゾール型フェノール樹脂と、ヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤を、メタノールやメチルエチルケトン等の溶解させたものが使用できる。また接着性を向上させるために、これらにノボラック型エポキシ樹脂を混合したものであってもよい。
【0035】
エポキシ樹脂系接着剤は、原液としては一液型エポキシ系接着剤で、溶剤への希釈が可能なものが好適である。この一液型エポキシ系接着剤は、溶剤を蒸発させた後、適当な温度・時間でスリンガ25の磁石取付面25cに、インサート成形時の高温高圧の溶融プラスチック磁石材料によって流失されない程度の半硬化状態となり、インサート成形時の溶融磁性材料からの熱、及び2次加熱によって完全に硬化状態となるものである。
【0036】
一液型エポキシ系接着剤は、少なくともエポキシ樹脂と硬化剤とからなり、硬化剤は室温近辺ではほとんど硬化反応が進まず、例えば80〜120℃程度で半硬化状態となり、120〜180℃の高温の熱を加えることによって完全に熱硬化反応が進むものである。また、一液型エポキシ系接着剤には、反応性希釈剤として使用されるその他のエポキシ化合物、熱硬化速度を向上させる硬化促進剤、耐熱性や耐硬化歪み性を向上させる効果がある無機充填材、応力がかかった時に変形する可撓性を向上させる架橋ゴム微粒子等を更に添加してもよい。
【0037】
エポキシ樹脂としては、分子中に含まれるエポキシ基の数が2個以上のものが、充分な耐熱性を発揮し得る架橋構造を形成することができる等の点から好ましい。また、4個以下、さらに3個以下のものが低粘度の樹脂組成物を得ることができる等の点から好ましい。分子中に含まれるエポキシ基の数が少なすぎると、硬化物の耐熱性が低くなる、強度が弱くなる等の傾向が生じ易くなり、多すぎると、樹脂組成物の粘度が高くなる、硬化収縮が大きくなる等の傾向が生じ易くなる。
【0038】
また、エポキシ樹脂の数平均分子量は、200〜5500、さらには200〜1000が物性のバランスの面から好ましい。数平均分子量が少なすぎると、硬化物の強度が弱くなる、耐湿性が小さくなる等の傾向が生じ易くなり、大きすぎると、樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性調整のために反応性希釈剤の使用が多くなる等の傾向が生じ易くなる。
【0039】
更に、エポキシ当量が100〜2800、特に100〜500のエポキシ樹脂が、硬化剤の配合量が適正範囲になる等の点から好ましい。エポキシ当量が小さすぎると、硬化剤の配合量が多くなりすぎ、硬化物の物性悪くなる等の傾向が生じ易くなり、大きすぎると、硬化剤の配合量が少なくなると共にエポキシ樹脂自体の分子量が大きくなって樹脂組成物の粘度が高くなる等の傾向が生じ易くなる。
【0040】
このようなエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ポリエステル変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂のような他のポリマーとの共重合体等が挙げられる。これらの中では、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が、比較的低粘度で、硬化物の耐熱性と耐湿性に優れるので好ましい。
【0041】
硬化剤としては、アミン系硬化剤、ポリアミド系硬化剤、酸無水物系硬化剤、潜在性硬化剤等を用いることができる。
【0042】
無機充填材としては、従来から使用されているものであれば特に限定なく使用することができる。具体例としては、例えば溶融シリカ粉末、石英ガラス粉末、結晶ガラス粉末、ガラス繊維、アルミナ粉末、タルク、アルミニウム粉末、酸化チタン等が挙げられる。
【0043】
架橋ゴム微粒子としては、エポキシ基と反応しうる官能基を有するものが好ましく、具体的には分子鎖中にカルボキシル基を有する加硫されたアクリロニトリルブタジエンゴムが最も好ましい。粒子径はより細かいものが好ましく、平均粒子径で30〜200nm程度の超微粒子のものが、分散性と安定した可撓性を発現させるために最も好ましい。
【0044】
このような一液型エポキシ接着剤は、常温ではほとんど硬化反応が進まず、例えば80〜120℃程度で半硬化状態となり、120〜180℃の高温の熱を加えることによって完全に熱硬化反応が進むものである。より好ましくは、150〜180℃で比較的短時間で硬化反応が進むものが好ましく、180℃程度の高周波加熱での接着が可能なものが最も好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0046】
(実施例1、比較例1〜2)
ポリアミド12にカルボキシル変性アクリロニトリルブタジエンゴム粒子、アミン系酸化防止剤、可塑剤を配合し、ニーダを用いて混練して樹脂組成物を調製し、更に樹脂組成物をペレット化した。そして、このペレットと、ストロンチウムフェライト粉末とを2軸押し出し機に投入し、加熱しながら混練した後、押し出し、ペレット化してプラスチック磁石材料を得た。
【0047】
そして、磁石取付面をエアーブラスト処理して粗面化したスリンガを金型にセットし、スリンガをコアとしてプラスチック磁石材料をインサート成形した。その後、ヨークコイルを用いて多極磁化を行い、磁気エンコーダを作製した。
【0048】
上記において、実施例1では、図6(A)に示すように、スリンガの先端を包囲する断面略ク字状のフック部を有し、かつ、磁石取付面に基部側から上方に幅(L)0.6mmにわたり露出部が形成されるように磁石部を形成した。また、磁石部は、接着剤を用いることなくスリンガにインサート成形して形成した。
【0049】
また、比較例1では、接着剤を用いない点では実施例1と同様にしたが、磁石部の形状を、図6(B)に示すように、スリンガの先端を包囲するフック部を有し、更に磁石取付面の全面及び屈曲部を覆うように形成した。
【0050】
また、比較例2では、図6(C)に示すように、磁石部の形状を比較例1と同様にし、更に予めフェノール樹脂系接着剤を塗布したスリンガを用いてインサート成形した。
【0051】
そして、実施例1及び比較例1、2の磁気エンコーダについて、繰り返し熱衝撃試験を行った。試験条件は、120℃で30分保持と−40℃で30分保持を1サイクルとし、100サイクル毎に磁石部のクラックを目視で確認した。試験は2000サイクルまで行い、2000サイクル終了後も磁石部にクラックが発生しなかった場合は、その時点で試験を停止した。
【0052】
試験の結果、実施例1及び比較例2では2000サイクル後でも磁石部にクラックが発生しなかったのに対し、比較例1では1200サイクルで磁石部のスリンガの基部側にクラックが発生した。
【0053】
このことから、接着剤を用いなくとも磁石部をスリンガに良好に装着でき、更にはスリンガの基部側に磁石部を形成しない露出部を設けることにより、繰り返し熱応力に十分対応できることがわかる。
【符号の説明】
【0054】
2a 車輪用軸受
5a 外輪
7a ハブ
16a 内輪
17a 玉
21a、21b シールリング
25 スリンガ
25a 基部
25b 屈曲部
25c 磁石取付面
25d 先端
25e 裏面
25f 露出部
26 磁気エンコーダ
27 磁石部
27a 基部
27b フック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に取り付け可能なスリンガと、磁性体粉とバインダ樹脂とを含む磁石材料からなり、かつ、前記スリンガに取り付けられて円周方向に多極着磁された略円環状の磁石部とを備えた磁気エンコーダであって、
前記スリンガは、前記回転体に固定される円筒状の基部と、前記基部から垂直に屈曲して前記回転体とは反対側の方向に延びる円環状の磁石取付面とから構成されるとともに、
前記磁石取付面が粗面化され、かつ、前記基部側の端部が所定幅で露出して前記磁石部が形成されていないことを特徴とする磁気エンコーダ。
【請求項2】
前記磁石部が、前記磁石取付面の先端から、該磁石取付面とは反対側の面まで延びるフック部が一体に形成され、前記フック部により前記スリンガに固定されていることを特徴とする請求項1記載の磁気エンコーダ。
【請求項3】
前記磁石取付面の前記磁石部が形成されていない露出部が、前記基部側の端部から0.5mm以上高い位置から、前記磁石部と対向対置される磁気センサの内輪側検出端より1mm低い位置までの領域内にあることを特徴とする請求項1または2記載の磁気エンコーダ。
【請求項4】
前記バインダ樹脂が、低吸水性ポリアミドまたは低吸水性ポリアミドに軟質成分を配合したポリマーアロイ、分子中に芳香族環が導入された半芳香族ポリアミドまたは半芳香族ポリアミドに軟質成分を配合したポリマーアロイ及びポリフェニレンサルファイドから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の磁気エンコーダ。
【請求項5】
前記磁性体粉が、ストロンチウムフェライト、バリウムフェライト、ネオジウム−鉄−ボロン、サマリウムコバルト及びサマリウム鉄から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の磁気エンコーダ。
【請求項6】
固定輪と、回転輪と、前記固定輪と前記回転輪との間で周方向に転動自在に配設された複数の転動体と、前記回転輪に固定される請求項1〜5の何れか1項に記載の磁気エンコーダとを備えることを特徴とする車輪用軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−11484(P2013−11484A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143344(P2011−143344)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】