説明

磁気スイッチ

【課題】 磁気抵抗効果素子に対し零磁界が形成されることを防止し、安定度の高い磁気スイッチを提供する。
【解決手段】 個々の磁気抵抗効果素子10A,10Bは、少なくとも固定層と、前記固定層の内部の磁化方向α1,α2を所定の方向にピン止めする反強磁性層と、内部の磁化方向β1,β2が前記外部磁界に基づいて変化するフリー層と、前記フリー層の磁化方向を基準となる所定の方向に設定するバイアス磁界γ1,γ2を与えるバイアス層15a,15bとを有しており、外部磁界H1,H2の方向と前記バイアス磁界γ1,γ2の方向とが90度に設定されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無接点方式のスイッチに係わり、特に磁気抵抗効果を利用した磁気スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
無接点方式とすることができるスイッチとしては、例えば磁気抵抗効果素子を用いた磁気スイッチが存在する(例えば、特許文献1)。
【0003】
前記特許文献1は、磁気抵抗効果素子(GMR素子)に作用する外部磁界を、磁界遮断部材で遮断するようにした磁気スイッチである。前記磁気抵抗効果素子GMR1,GMR2を構成する固定層の磁化方向H2とフリー層の磁化方向H1とが互いに同一方向または180°異なる逆方向のいずれかに設定されている。
【0004】
なお、前記特許文献1の磁気スイッチでは、主として前記フリー層の磁化方向を所定の方向に向ける第2の磁石6の磁界の大きさと、主として前記フリー層の磁化方向を磁界遮断部材の動作に併せて変化させる第1の磁石7の磁界の大きさと大小関係のバランスにより、磁気抵抗効果素子GMR1,GMR2の各抵抗値が決定される。
【特許文献1】特開2003−60256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された磁気抵抗効果素子を用いた磁気スイッチでは、前記第1の磁石7の磁界と第2の磁石6の磁界とは互いに逆向きであるため、前記第1の磁石7の磁界の大きさと前記第2の磁石6の磁界の大きさとが一致した場合には、互いの磁界が相殺し合って前記磁気抵抗効果素子GMR1,GMR2に作用する磁界が零(零磁界)となり、前記磁気抵抗効果素子の抵抗値が一定の値に定まらない不定モードとなることがある。この不定モードは、前記磁気抵抗効果素子GMR1,GMR2から出力される電圧が必要以上に大きく振れ易くなる。このため、磁気スイッチの状態が、ときにはオンになり、ときにはオフになるという不安定な動作となるため、磁気スイッチとしての信頼性に欠けるという問題がある。
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、磁気抵抗効果素子に対し零磁界が形成されることを防止し、安定度の高い磁気スイッチを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、固定部と、前記固定部に面対向しながら移動するスライド機構と、前記固定部と前記スライド機構の一方に設けられ且つ磁界の向きが互いに異なる外部磁界を発生させる一対のマグネットと、他方に設けられ且つ前記異なる外部磁界内に設けられた一対の磁気抵抗効果素子と、前記一対の磁気抵抗効果素子に所定の電圧を印加する電源部と、前記一対の磁気抵抗効果素子から検出される出力電圧と所定のしきい値とを比較し、その比較結果に基づいて切替信号を出力する検出回路と、を有する磁気スイッチであって、
個々の磁気抵抗効果素子は、少なくとも固定層と、前記固定層の内部の磁化方向を所定の方向にピン止めする反強磁性層と、内部の磁化方向が前記外部磁界に基づいて変化するフリー層と、前記フリー層の磁化方向を基準となる所定の方向に設定するバイアス磁界を与えるバイアス層とを有しており、前記外部磁界の方向と前記バイアス磁界の方向とが90度に設定されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の磁気スイッチでは、外部磁界とバイアス磁界とが90度の関係を有するよう配置されるため、互いが相殺し合うのを防止することができる。このため、磁気抵抗効果素子が零磁界下に晒されることをなくすことができる。よって、磁気抵抗効果素子は抵抗値が決まらない不定モードとなることがないため、時期スイッチの動作状態を安定させることができる。
【0009】
上記においては、一方の磁気抵抗効果素子と他方の磁気抵抗効果素子との間では、前記固定層どうしの磁化方向が互いに逆方向(180度の関係)に設定され、且つ前記バイアス磁界どうしの方向も互いに逆方向(180度の関係)に設定されていることが好ましい。
【0010】
上記手段では、一方の磁気抵抗効果素子の抵抗値が増大する方向に変化するときに、他方の磁気抵抗効果素子の抵抗値を減少する方向に変化させることができる。このため、これらを直列接続した状態の接続点から出力される電圧の変動幅を大きくすることができ、感度の高い磁気スイッチを提供することが可能となる。
【0011】
あるいは、一方の磁気抵抗効果素子と他方の磁気抵抗効果素子との間では、前記固定層どうしの磁化方向が互いに同一方向(0度の関係)に設定され、且つ前記バイアス磁界どうしの方向も互いに同一方向(0度の関係)に設定されていることが好ましい。
【0012】
上記手段では、ウェハ上に隣接して形成された一対の磁気抵抗効果素子を用いることができるが、これらは共に同じ磁化方向を有するため、互いの磁化方向を一致させる必要がなくそのまま取り付けることができるため、組立て工程を容易とすることができる。また同じ温度特性であるため、温度変動による誤差を最小とすることができる。
【0013】
また上記においては、前記固定層の磁化方向と前記バイアス磁界の方向とが90度に設定されていることが好ましい。
【0014】
上記手段では、外部磁界が作用していない状態で、磁気抵抗効果素子の抵抗値を最大抵抗と最小抵抗との間の中間の抵抗値に設定することができる。このため、外部磁界が作用していない状態で、一対の磁気抵抗効果素子を直列接続した回路やブリッジ回路の出力を容易に中点電圧Vcc/2に設定することができる。よって、検出回路の回路構成を容易化すること、あるいは検出精度を高めることができる。
【0015】
例えば、前記一方の磁気抵抗効果素子と他方の磁気抵抗効果素子とが直列接続されており、前記検出回路には、前記直列接続された接続点から出力される電圧と前記しきい値とを比較する比較部が設けられているものが好ましい。
上記手段では、簡単な構成で確実に動作する磁気スイッチとすることができる。
【0016】
あるいは、前記一方の磁気抵抗効果素子と第1の固定抵抗とを第1の接続点を介して直列接続した回路と、前記他方の磁気抵抗効果素子と第2の固定抵抗とを第2の接続点を介して直列接続した回路とによりブリッジ回路が形成されており、
前記検出回路には、前記第1の接続点の出力と前記第2の接続点の出力とを差動増幅する差動増幅部と、前記差動増幅部の出力と前記しきい値とを比較する比較部と、が設けられていることが好ましい。
【0017】
上記手段では、通常に比較して2倍の出力電圧を得ることができる。このため、感度の高い磁気スイッチとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、磁気抵抗効果素子に対し零磁界が形成されることを排除し、安定度の高い磁気スイッチを提供することができる。
また感度の高い磁気スイッチとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明の第1の実施の形態としての磁気スイッチのセンサ機構を示す斜視図、図2は磁気抵抗効果素子の基本構造を概念的に示す積層断面図、図3は一対の磁気抵抗効果素子の磁化方向を示す平面図、図4は磁気抵抗効果素子が第1の位置(ギャップG1内)する場合の磁気スイッチの拡大平面図、図5は磁気抵抗効果素子が第2の位置(ギャップG2内)する場合の磁気スイッチの拡大平面図、図6はセンサ部および検出回路の構成を等価的に示す回路構成図である。
【0020】
なお、第1の実施の形態に示す磁気スイッチは、いわゆるムービングセンサ方式の磁気スイッチを示している。このような磁気スイッチは、例えば車載用シートベルトのバックル部におけるロック状態の検出、ボンネット、ドアおよびトランクなどにおける扉の開閉状態の検出などに用いられる。
【0021】
本発明に示す磁気スイッチは、異なる方向に一様な外部磁界を発生させる外部磁界発生部及び前記外部磁界発生部が発生した外部磁界を検知する検知部などを有するセンサ機構と、前記センサ部を移動させるスライド機構、および前記センサ部からの出力を得て所定のオンまたはオフからなる切替信号を出力する検出回路とを有している。
【0022】
図1に示すように、前記外部磁界発生部は、図示X1側の端面がN極に(したがって、X2側の端面がS極に)着磁されたマグネットM1と、図示X1側の端面がS極に(したがって、X2側の端面がN極に)着磁されたマグネットM2とが一体的に形成された永久磁石を有している。
【0023】
前記マグネットM1,M2の図示X1及びX2方向の端面には、フェライトなどの磁性材料で形成された第1のヨーク21と第2のヨーク22が固定されている。前記第1のヨーク21と第2のヨーク22は断面が略L字形状に形成されており、図示X方向に突出する対向部21a,22aを有している。一方の対向部21aの端面(固定部)と他方の対向部22aの端面(固定部)とが対向する部分には、所定の隙間寸法からなるギャップが形成されている。なお、前記マグネットM1と前記マグネットM2とをXZ平面に平行な仮想境界面BSで区切ったときに、図示Y1側に位置するのをギャップG1とし、図示Y2側に位置するのをギャップG2とする。
【0024】
前記マグネットM1が形成する磁界は、前記マグネットM1のN極から第1のヨーク21→対向部21aの端面→ギャップG1→対向部22aの端面→第2のヨーク22→マグネットM1のS極に至る第1の閉磁路(閉じた磁気回路)を形成している。また前記マグネットM2が形成する磁界は、前記マグネットM2のN極から第2のヨーク22→対向部22aの端面→ギャップG2→対向部21aの端面→第1のヨーク21→マグネットM2のS極に至る第2の閉磁路(閉じた磁気回路)を形成している。前記第1の閉磁路が形成する磁界の向きと前記第2の閉磁路が形成する磁界の向きとは、互いに逆向きの関係にある。このため、前記ギャップG1内に形成される外部磁界H1の向きは図示X2方向であり、ギャップG2内に形成される外部磁界H2の向きは図示X1方向である。
【0025】
前記ギャップG1,G2の側方(図1ではY2方向)には、前記対向部21a,22aの端面(固定部)に面対向し、且つ図示Y1及びY2方向に進退自在に移動するスライド機構(図示せず)が設けられている。前記スライド機構の先端部9には、移動方向(Y1−Y2方向)と直交する方向(X1−X2方向)に並ぶ一対の磁気抵抗効果素子(GMR素子)10(個別に10A、10Bとして示す)が固着されている。
【0026】
図示しないスライド機構が駆動され、前記先端部9が図示Y1方向に移動すると、前記一対の磁気抵抗効果素子10A、10Bの双方が前記ギャップG1内の第1の位置に設置され(図4参照)、また前記可動部の先端がY2方向に移動すると前記一対の磁気抵抗効果素子10A、10BがギャップG2内に位置する第2の位置に設定される(図5参照)。前記一対の磁気抵抗効果素子10A、10Bは、前記第1の位置と前記第2の位置のいずれかに設置されている。
【0027】
図2に示すように、前記磁気抵抗効果素子10の基本構造は、最下層に設けられた反強磁性層(交換バイアス層)11と、その上部に積層されたと固定層(ピン層)12と、さらにその上部に積層された非磁性層13と、最上部に積層されたフリー層14と、前記各層の両側に設けられたバイアス層15a,15bと、前記バイアス層15a、15bの上部に設けられた端子部16,16を有している。
【0028】
前記反強磁性層11は、前記固定層12の磁化方向αを所定の方向(図2では紙面の表面から裏面に抜ける方向)にピン止め固定する。また前記バイアス層15a,15bは、例えば内面がN極,S極からなる永久磁石で形成されており、図2では前記フリー層14の磁化方向を基準状態(図2では右方向)に設定するためのバイアス磁界γを与える。このため、前記磁気抵抗効果素子10A,10Bに対し外部磁界が作用していない場合には、前記フリー層14の磁化方向βは前記バイアス磁界γと同じ方向を向く基準状態(図2では前記固定層12の磁化方向αと直交する右方向)に設定されている。
【0029】
前記フリー層14の磁化方向βは、前記フリー層14に与えられる外部磁界と前記バイアス磁界γとのベクトル合成に応じて変化する。前記磁気抵抗効果素子10は、フリー層14の磁化方向βが前記固定層12の磁化方向αと一致する場合(0度の関係)には磁気抵抗効果素子10の抵抗値が最も小さくなり、これとは逆に前記フリー層14の磁化方向βが固定層12の磁化方向αと互いに逆方向となる場合(180度異なる関係)に最も大きくなる。なお、前記磁気抵抗効果素子10の全抵抗値をZ、元々有する固定抵抗分をR、可変抵抗分の変化幅をΔrとすると、前記全抵抗値Zの最小値はZmin=R、最大値はZmax=R+Δrと表すことができる。
【0030】
図3に示すように、一方の磁気抵抗効果素子10Aでは、図示Y2方向に向けられたバイアス磁界γ1の方向と、図示X2方向に向けられた固定層12の磁化方向α1とが垂直(90度の関係)に設定されている。同様に、他方の磁気抵抗効果素子10Bでは、図示Y1方向に向けられたバイアス磁界γ2の方向と、図示X1方向に向けられた固定層12の磁化方向α2とが垂直(90度の関係)に設定されている。このため、一方の磁気抵抗効果素子10Aのフリー層14の磁化方向β1の基準状態はY2方向に設定され、他方の磁気抵抗効果素子10Bのフリー層14の磁化方向β2の基準状態はY1方向に設定されている。
【0031】
そして、一方の磁気抵抗効果素子10Aのバイアス磁界γ1の方向と他方の磁気抵抗効果素子10Bのバイアス磁界γ2の方向とが互いに逆向きに設定され、一方の磁気抵抗効果素子10Aの固定層12の磁化方向α1と他方の磁気抵抗効果素子10Bの固定層12の磁化方向α2とが互いの逆向きに設定されている。
【0032】
前記一方の磁気抵抗効果素子10Aの一方の端子部16と他方の磁気抵抗効果素子10Bの一方の端子部16とはパターン線を介して直列に接続されている。
【0033】
前記他方の磁気抵抗効果素子10Bの他方の端子部16はグランドGNDに接地されており、前記一方の磁気抵抗効果素子10Aの他方の端子部16は電力源に接続され、所定の電源電圧Vccが印加されている。したがって、一方の磁気抵抗効果素子10Aの一方の端子部16と他方の磁気抵抗効果素子10Bの一方の端子部16との接続点Pには抵抗分圧分に相当する所定の電圧が出力されている。すなわち、前記一方の磁気抵抗効果素子10Aの全抵抗値をZ1、前記他方の磁気抵抗効果素子10Bの全抵抗値をZ2とすると、前記抵抗分圧分に相当する出力電圧Voは以下の数1となる。また一方の磁気抵抗効果素子10Aと他方の磁気抵抗効果素子10Bとを直列接続した場合の等価回路は図6のようになる。
【0034】
【数1】

【0035】
因みに、Z1=Z2のときには、前記出力電圧VoはVo=Vcc/2(中点電圧)に設定される。
【0036】
なお、前記一対の磁気抵抗効果素子10Aと磁気抵抗効果素子10Bは、同じウェハ上に形成された多数の磁気抵抗効果素子群の中から、任意の2つの磁気抵抗効果素子を切り出すことにより構成されている。このため、磁気抵抗効果素子10Aと磁気抵抗効果素子10Bとは温度特性が一致ないしは極めて近似している。
【0037】
検出回路は、図6に示すように、比較部31と基準電圧発生部32とを有しており、前記出力電圧Voと前記基準電圧発生部32が発生するしきい値電圧Vthとの比較を行う。そして、比較部31は、Vth≦Voのときにオン状態を示す切替信号(例えば5[v])を出力し、Vth>Voのときにはオフ状態を示す切替信号(例えば0[v])を出力する。なお、前記しきい値電圧Vthとしては、例えば中点電圧Vcc/2を用いることができる。
【0038】
前記磁気スイッチの動作を説明する。
図4に示すように、図示しないスライド機構により、前記一対の磁気抵抗効果素子10A、10Bの双方が図示Y1方向の前記ギャップG1内の第1の位置に設置されると、前記一対の磁気抵抗効果素子10A,10Bに対し、前記マグネットM1が発生した一様な外部磁界H1が図示X2方向に作用する。
【0039】
前記一方の磁気抵抗効果素子10Aでは、前記外部磁界H1の方向が、前記固定層12の磁化方向α1とは同一方向であるが、バイアス磁界γ1の方向とは直交(90度)している。このため、前記フリー層14の磁化方向β1は、図4に点線で示すバイアス磁界γ1の方向と一致する前記基準状態から反時計回り方向に回転させられ、同図に実線で示す前記固定層12の磁化方向α1に一致する状態(0度の状態)に近づけられる。このため、前記抵抗効果素子10Aの全抵抗値Z1は小さくなり、前記最小値Zmin(=R)に近づく。
【0040】
また前記他方の磁気抵抗効果素子10Bでは、前記外部磁界H1の方向が、前記固定層12の磁化方向α2とは逆方向であり、且つ前記バイアス磁界γ2の方向とは直交(90度)している。このため、前記フリー層14の磁化方向β2は、図4に点線で示すバイアス磁界γ2の方向と一致する基準状態から時計回り方向に回転させられ、同図に実線で示す前記固定層12の磁化方向α2に平行で且つ逆向きの状態(180度の状態)に近づけられる。このため、前記抵抗効果素子10Bの全抵抗値Z2は大きくなり、前記最大値Zmax(=R+Δr)に近づく。
【0041】
前記抵抗効果素子10Aの全抵抗値Z1と前記抵抗効果素子10Bの全抵抗値Z2とは同時に変化するため、前記数1の関係より、前記出力電圧Voは前記中点電圧Vcc/2よりも大きくなる。このため、前記比較部31からはオン状態を示す切替信号が出力される。
【0042】
一方、図5に示すように、図示しないスライド機構により、前記一対の磁気抵抗効果素子10A、10Bの双方が図示Y2方向の前記ギャップG2内の第2の位置に移動させられると、前記一対の磁気抵抗効果素子10A,10Bに対し、前記マグネットM2が発生した一様な外部磁界H2が図示X1方向に作用する。
【0043】
前記一方の磁気抵抗効果素子10Aでは、前記外部磁界H2の方向が、前記固定層12の磁化方向α1とは逆方向であり、且つ前記バイアス磁界γ1の方向とは直交(90度)している。このため、前記フリー層14の磁化方向β1は、図5に点線で示すバイアス磁界γ1の方向と一致する基準状態から時計回り方向に回転させられ、同図に実線で示すように前記固定層12の磁化方向α1に平行で且つ逆向きの状態(180度の状態)に近づけられる。このため、前記抵抗効果素子10Aの全抵抗値Z1は大きくなり、前記最大値Zmax(=R+Δr)に近づく。
【0044】
前記他方の磁気抵抗効果素子10Bでは、前記外部磁界H2の方向が、前記固定層12の磁化方向α2とは同一方向であるが、バイアス磁界γ2の方向とは直交(90度)している。このため、前記フリー層14の磁化方向β2は、図5に点線で示すバイアス磁界γ2の方向と一致する基準状態から反時計回り方向に回転させられ、同図に実線で示すように前記固定層12の磁化方向α2に一致する状態(0度の状態)に近づけられる。このため、前記抵抗効果素子10Bの全抵抗値Z2は小さくなり、前記最小値Zmin(=R)に近づく。
【0045】
よって、前記数1の関係より、前記出力電圧Voは前記中点電圧Vcc/2よりも小さくなる。このため、前記比較部31からはオフ状態を示す切替信号が出力される。
【0046】
図7は本発明の第2の実施の形態として磁気スイッチを構成する一対の磁気抵抗効果素子の磁化方向を示す図3同様の平面図である。
【0047】
第2の実施の形態に示す磁気スイッチは、一部を除き上記第1の実施の形態の構成と同様である。したがって、以下には主として異なる部分について図7を参照しつつ説明する。
【0048】
図7に示すように、先端部9には一対の磁気抵抗効果素子10A,10Bが設けられている。前記一方の磁気抵抗効果素子10Aと他方の磁気抵抗効果素子10Bの固定層12の磁化方向α1,α2は共に同一方向となるX2方向に設定され、且つバイアス磁界γ1,γ2の方向も共に同一方向となるY2方向に設定されている。
【0049】
このように、第2の実施の形態では、前記固定層12の磁化方向α1,α2と前記バイアス磁界γ1,γ2の方向とが共に同じ方向に設定した一対の磁気抵抗効果素子10A,10Bを用いた点で、互いに逆向きに設定されている上記第1の実施の形態とは異なっている。
【0050】
このため、一対の磁気抵抗効果素子10A,10Bに対し外部磁界H1,H2が作用すると、一対の磁気抵抗効果素子10A,10Bの全抵抗値Z1,Z2は同じように増減する。
【0051】
図8は第2の実施の形態の磁気スイッチにおけるセンサ部および検出回路の構成を等価的に示す回路構成図である。
【0052】
図8に示すように、一方の磁気抵抗効果素子10Aは第1の固定抵抗41(抵抗値R1)と第1の接続点P1を介して直列接続され、他方の磁気抵抗効果素子10Bは第2の固定抵抗42(抵抗値R1)と第2の接続点P2を介して直列接続されている。前記一方の磁気抵抗効果素子10Aの一端と前記第2の固定抵抗42の一端とが電源電圧Vccに接続され、前記他方の磁気抵抗効果素子10Bの一端と前記第2の固定抵抗42の一端とがGNDに接地されることにより、ホイートストーンブリッジ回路が形成されている。
【0053】
前記第1の接続点P1と前記第2の接続点P2の出力は差動増幅部33の入力部にそれぞれ接続されている。前記差動増幅部33は、前記第1の接続点P1の電位VP1と前記第2の接続点P2の電位VP2との差動(差動電圧はVP1−VP2)をとり、且つ中点電圧Vcc/2を基準として前記差動電圧を増幅する。前記差動増幅部33の出力は上記同様の比較部31に入力されている。前記比較部31は、基準電圧発生部32の出力であるしきい値電圧と前記差動増幅部33の出力電圧Voとの比較を行い、所定の切替信号を出力する。
【0054】
上記第1の実施の形態同様に、図示しないスライド機構により、前記一対の磁気抵抗効果素子10A、10Bの双方を図示Y1方向の前記ギャップG1内の第1の位置に移動すると、前記一対の磁気抵抗効果素子10A,10Bに対し、前記マグネットM1が発生した一様な外部磁界H1が図示X2方向に作用することになる。このため、フリー層14の磁化方向β1,β2は共に固定層12の磁化方向α1,α2と一致する方向に回転させられるため、前記一対の磁気抵抗効果素子10A,10Bの全抵抗値Z1,Z2は減少させられる。
【0055】
この状態では、図8に示す第1の接続点P1の電位VP1は増大させられ、第2の接続点P2の電位VP2は減少させられ、VP1>VP2であるため、前記差動電圧は(VP1−VP2)>0である。よって、前記差動増幅部33の出力電圧Voは、前記しきい値電圧Vth(=中点電圧Vcc/2)よりも大きくなるため(Vo>Vth)、前記比較部31からはオン状態を示す切替信号が出力される。
【0056】
一方、図示しないスライド機構により、前記一対の磁気抵抗効果素子10A、10Bの双方を図示Y2方向の前記ギャップG2内の第2の位置に移動すると、前記一対の磁気抵抗効果素子10A,10Bに対し、前記マグネットM2が発生した一様な外部磁界H2が図示X1方向に作用することになる。このため、フリー層14の磁化方向β1,β2は共に固定層12の磁化方向α1,α2と平行で且つ逆向きとなる方向に回転させられるため、前記一対の磁気抵抗効果素子10A,10Bの全抵抗値Z1,Z2は増大させられる。
【0057】
この状態では、図8に示す第1の接続点P1の電位VP1は減少させられ、第2の接続点P2の電位VP2は増大させられ、VP1<VP2であるため、前記差動電圧は(VP1−VP2)<0である。よって、前記差動増幅部33の出力電圧Voは、前記しきい値電圧Vth(=中点電圧Vcc/2)よりも小さくなるため(Vo<Vth)、前記比較部31からはオフ状態を示す切替電圧が出力される。
このため上記第2の実施の形態では、検出感度を向上させることが可能である。
【0058】
以上のように、上記第1及び第2の実施の形態に示す本願発明では、外部磁界H1,H2の向きとフリー層14を所定の基準状態に設定するバイアス磁界γ1,γ2の方向とが90度の関係に設定されているため、前記外部磁界H1,H2と前記バイアス磁界γ1,γ2とが互いに相殺し合うことがなく、このため磁気抵抗効果素子10A,10Bに作用する磁界が零(零磁界)となることがない。
【0059】
このため、前記磁気抵抗効果素子10の全抵抗値Zが一定の値に定まらない不定モードとなり、磁気スイッチの状態がときとして異なる不安定になることを防止することができる。すなわち、安定性に操作し、且つ信頼性に優れた磁気スイッチとすることができる。
【0060】
外部磁界H1,H2の方向が固定層12の磁化方向α1,α2に対し平行状態となるように設定し、且つフリー層14を所定の基準状態に設定するバイアス磁界γ1,γ2の方向と前記固定層12の磁化方向α1,α2とが90度の関係を保つように設定したため、前記外部磁界H1,H2と前記バイアス磁界γ1,γ2とが互いに相殺し合うことがなく、磁気抵抗効果素子10A,10Bに作用する磁界が零(零磁界)となることがない。このため、不安定な動作状態を排除し、磁気スイッチとしての信頼性を高めることができる。
【0061】
また第2の実施の形態では、各層の磁化方向が互いに同じ状態に形成されている多数の磁気抵抗効果素子が配置されているウェハ上から、隣接する一対の磁気抵抗効果素子を一枚の基板として一緒に切り出すことができるため、先端部9上で一方の磁気抵抗効果素子10Aと他方の磁気抵抗効果素子10Bとの磁化方向を一致させる位置合わせ作業を行う必要がないため、組立て工程を容易とすることが可能である。
【0062】
なお、上記実施の形態では、一対の磁気抵抗効果素子10A,10Bを外部磁界H1,H2の方向と同じ縦方向(X方向)に揃えた場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、前記外部磁界H1,H2の方向と直交する横方向(移動方向又はY方向)に並べたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施の形態としての磁気スイッチのセンサ機構を示す斜視図、
【図2】磁気抵抗効果素子の基本構造を概念的に示す積層断面図、
【図3】一対の磁気抵抗効果素子の磁化方向を示す平面図、
【図4】磁気抵抗効果素子が第1の位置(ギャップG1内)する場合の磁気スイッチの拡大平面図、
【図5】磁気抵抗効果素子が第2の位置(ギャップG2内)する場合の磁気スイッチの拡大平面図、
【図6】センサ部および検出回路の構成を等価的に示す回路構成図、
【図7】本発明の第2の実施の形態として磁気スイッチを構成する一対の磁気抵抗効果素子の磁化方向を示す図3同様の平面図、
【図8】第2の実施の形態の磁気スイッチにおけるセンサ部および検出回路の構成を等価的に示す回路構成図、
【符号の説明】
【0064】
9 スライド機構の先端部
10 磁気抵抗効果素子
10A 一方の磁気抵抗効果素子
10B 他方の磁気抵抗効果素子
11 反強磁性層(交換バイアス層)
12 固定層(ピン層)
13 非磁性層
14 フリー層
15a,15b バイアス層
16 端子部
21 第1のヨーク
22 第2のヨーク
21a,22a 対向部
31 比較部
32 基準電圧発生部
33 差動増幅部
α 固定層の磁化方向
α1 一方の磁気抵抗効果素子における固定層の磁化方向
α2 他方の磁気抵抗効果素子における固定層の磁化方向
β フリー層の磁化方向
β1 一方の磁気抵抗効果素子におけるフリー層の磁化方向
β2 他方の磁気抵抗効果素子におけるフリー層の磁化方向
γ バイアス磁界の方向
γ1 一方の磁気抵抗効果素子におけるバイアス磁界の方向
γ2 他方の磁気抵抗効果素子におけるバイアス磁界の方向
H1 第1の位置での外部磁界
H2 第2の位置での外部磁界
M1 第1のマグネット
M2 第2のマグネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と、前記固定部に面対向しながら移動するスライド機構と、前記固定部と前記スライド機構の一方に設けられ且つ磁界の向きが互いに異なる外部磁界を発生させる一対のマグネットと、他方に設けられ且つ前記異なる外部磁界内に設けられた一対の磁気抵抗効果素子と、前記一対の磁気抵抗効果素子に所定の電圧を印加する電源部と、前記一対の磁気抵抗効果素子から検出される出力電圧と所定のしきい値とを比較し、その比較結果に基づいて切替信号を出力する検出回路と、を有する磁気スイッチであって、
個々の磁気抵抗効果素子は、少なくとも固定層と、前記固定層の内部の磁化方向を所定の方向にピン止めする反強磁性層と、内部の磁化方向が前記外部磁界に基づいて変化するフリー層と、前記フリー層の磁化方向を基準となる所定の方向に設定するバイアス磁界を与えるバイアス層とを有しており、前記外部磁界の方向と前記バイアス磁界の方向とが90度に設定されていることを特徴とする磁気スイッチ。
【請求項2】
一方の磁気抵抗効果素子と他方の磁気抵抗効果素子との間では、前記固定層どうしの磁化方向が互いに逆方向(180度の関係)に設定され、且つ前記バイアス磁界どうしの方向も互いに逆方向(180度の関係)に設定されていることを特徴とする請求項1記載の磁気スイッチ。
【請求項3】
一方の磁気抵抗効果素子と他方の磁気抵抗効果素子との間では、前記固定層どうしの磁化方向が互いに同一方向(0度の関係)に設定され、且つ前記バイアス磁界どうしの方向も互いに同一方向(0度の関係)に設定されていることを特徴とする請求項1記載の磁気スイッチ。
【請求項4】
前記固定層の磁化方向と前記バイアス磁界の方向とが90度に設定されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の磁気スイッチ。
【請求項5】
前記一方の磁気抵抗効果素子と他方の磁気抵抗効果素子とが直列接続されており、前記検出回路には、前記直列接続された接続点から出力される電圧と前記しきい値とを比較する比較部が設けられていること特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の磁気スイッチ。
【請求項6】
前記一方の磁気抵抗効果素子と第1の固定抵抗とを第1の接続点を介して直列接続した回路と、前記他方の磁気抵抗効果素子と第2の固定抵抗とを第2の接続点を介して直列接続した回路とによりブリッジ回路が形成されており、
前記検出回路には、前記第1の接続点の出力と前記第2の接続点の出力とを差動増幅する差動増幅部と、前記差動増幅部の出力と前記しきい値とを比較する比較部と、が設けられていること特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の磁気スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−220367(P2007−220367A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37010(P2006−37010)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】