磁気センサを用いた測定装置及び測定方法
【課題】磁性粒子と磁気センサ間の距離を最適にし、任意の形態の基材に固定された磁性粒子量を高S/N比かつ高汎用性で測定する磁気センサを用いた測定装置を提供する。
【解決手段】基材上102にあって、測定すべき物質との特異的結合を介して磁性粒子が固定された固定部101、固定部101を基材102と共に移動させる固定部107及びステッピングモータ104、移動された固定部101が通過する位置を含む領域に磁場を印加すると共に、印加された磁場の変化を検出する磁気センサ103とを設ける。このとき、磁性粒子が固定された固定部101の固定面から450μm以上、900μm以下の距離にセンサ部分が置かれるよう磁気センサ103を配置する。
【解決手段】基材上102にあって、測定すべき物質との特異的結合を介して磁性粒子が固定された固定部101、固定部101を基材102と共に移動させる固定部107及びステッピングモータ104、移動された固定部101が通過する位置を含む領域に磁場を印加すると共に、印加された磁場の変化を検出する磁気センサ103とを設ける。このとき、磁性粒子が固定された固定部101の固定面から450μm以上、900μm以下の距離にセンサ部分が置かれるよう磁気センサ103を配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサを使って磁気的な信号を検出し、検出された信号から物質を測定する磁気センサを用いた測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、磁性粒子を標識として測定すべき物質に付し、磁性粒子によって生じた磁気的な信号を検出することによって物質の有無あるいは量を測定する磁気センサを用いた測定装置及び測定方法にかかる。
現在、医療診断や環境計測等において、特異的結合を利用して試料中の検出すべき物質の量を測定することがなされている。なお、特異的結合とは、例えば、ある抗原と抗原に特有の抗体とだけが反応して結合する現象をいう。
【0003】
特異的結合を利用した測定装置あるいは測定方法として、酵素免疫測定法や蛍光免疫測定法などが広く用いられている。酵素免疫測定法は、被検出物質と特異的に反応する物質に酵素で標識を付し、酵素反応による発色を光学的に計測する方法である。また、蛍光免疫測定法では、被検出物質と特異的に反応する物質を蛍光体で標識し、前記被検出物質が存在する場合には、蛍光体が発する蛍光強度を計測する方法である。
【0004】
ただし、酵素反応による発色の計測は、酵素の安定性が低く、また、検出系の充分な感度が得がたいといった不具合がある。また、蛍光強度を計測する方法は、検出系の感度は高いものの、迷光の影響を受け易くバックグラウンドノイズが高い。また、微弱信号を検出するためには高価な測定装置が必要となる。さらに、標識となる蛍光体が褪色するといった不具合がある。
【0005】
このような不具合を解消するものとして、近年では、磁力によって検出できる標識を被検出物質に付し、磁気センサによって磁力を検出することによって被検出物質を測定する装置が注目されている。磁気センサを使った測定では、バックグラウンドノイズの発生源となり得るのは磁性体のみであるため、光がバックグラウンドノイズとなる光学的測定よりも低ノイズであり、高い検出精度を得ることができる。
【0006】
磁気センサを使った測定装置の従来技術としては、ホール素子及び磁気抵抗素子を用いた磁性粒子検出装置が提案されている(特許文献1)。この特許文献1に記載されている方式は、磁気センサ及び磁性粒子に500エルステッド以上1000エルステッド以下の静磁場を与え、磁気センサ上で磁性粒子を走査移動させることで静磁場を変化させ、磁性粒子を検出する。
【0007】
また、磁気センサを使った測定装置としては、超伝導量子緩衝装置(Superconducting Quantum Interface Device;以下SQUIDという)が知られている。このSQUIDは、超伝導ループにおける磁束の量子化を利用したデバイスで、2個のジョセフソン素子と超伝導配線で超伝導ループを形成した高感度の素子である。ただし、SQUIDは、測定の間、ピックアップループを冷却して低温に維持しなければならず、より測定を簡便に行うことが望まれている。
【0008】
SQUIDを用いる抗原抗体反応を利用した免疫測定法は、例えば、特許文献2に開示されている。特許文献2に記載されている装置は、1つの抗原または抗体に磁性体微粒子を付して磁性体標識体とし、磁性体標識体と検体を抗原抗体反応させる。そして、反応後の検体から未反応の磁性体標識体を分離除去した後、検体の磁化の程度をSQUIDで測定する。
【特許文献1】米国特許第6,518,747号明細書
【特許文献2】特開昭63−90765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、磁性粒子による磁場の変化を磁気センサで検出する場合、磁性粒子と磁気センサとの距離が短いほど信号出力が大きくなることは一般によく知られている。しかしながら、磁性粒子と磁気センサとを近づけることによって接触ノイズと呼ばれるノイズが発生し、このノイズが信号の検出精度を低下させるおそれがある。
接触ノイズは、ばねを使って磁気センサから磁性粒子までを一定の距離以上に保つことによって防ぐことも可能である。ただし、このようにした場合、ばねの使用によって装置構成が複雑になり、また、磁性粒子を固定する基材の構成に制限が生じて装置の汎用性が低下する。
【0010】
また、磁性粒子を固定する基材に高分子材料を使用した場合、基材自体に歪みが発生することがあり、磁性粒子と磁気センサとの距離に基材個々の歪みのばらつきも考慮する必要がある。特に、基材と磁気センサとの距離が比較的短く、磁気センサ上で基材を走査する場合、基材の歪みによって磁気センサに圧力がかかり、ピエゾノイズを発生させる。ピエゾノイズは、信号ノイズ出力比(以下、S/N比)を低下させる要因となり、磁性粒子が発する超微弱信号の検出においては大きな問題となる。
【0011】
基材の歪みによる問題を解消するには、基材に金属を使用することも考えられる。基材を磁気センサ上で移動することにより信号出力を得るが、しかし基材を金属にした場合、基材自体からの信号もまた検出する可能性があり、結果として磁気的な信号ノイズとなる。さらに磁性粒子に印加すべく磁場発生源からの磁界を遮蔽してしまい、十分な感度・安定した検出が実施できない可能性がある。以上の理由で、基材に金属を使用することは好ましくない。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、磁性粒子を用いた測定において、磁性粒子と磁気センサ間の距離を最適にすることによって、任意の形態の基材に固定された磁性粒子量を高S/N比かつ高汎用性で測定する磁気センサを用いた測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するため、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、基材上にあって、測定すべき物質との特異的結合を介して磁性粒子が固定された固定部と、前記固定部を前記基材と共に移動させる移動手段と、前記移動手段によって移動された前記固定部が通過する位置を含む領域に磁場を印加する磁場発生手段と、前記磁場発生手段によって印加された前記磁場の変化を検出する磁気センサと、を備えてなり、前記磁気センサは、前記固定部において前記磁性粒子が固定される固定面からの距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置されることを特徴とする。
【0014】
このような発明によれば、磁場中を磁性粒子を移動させて磁場を変化させると共に、変化した磁場を磁気センサで検出することができる。このとき、磁気センサと磁性粒子との距離を最適化することにより、高S/N比の磁気センサの出力信号を得ると共に接触ノイズの発生を防ぐことができる。また、磁性粒子が固定された基材を磁場中で走査することによって磁場検出が可能であるので、測定すべきサンプルを固定あるいは保持するための特別な構成が不要になって様々な測定に汎用的に使用できる磁気センサを用いた測定装置を提供することができる。
【0015】
また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、前記磁気センサが半導体磁気抵抗素子を備え、前記磁気センサは、この半導体磁気抵抗素子と前記固定面との距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置されることを特徴とする。
このような発明によれば、磁気センサと磁性粒子との距離を最適化し、高S/N比の磁気センサの出力信号を得ると共に接触ノイズの発生を防ぐことができる。
【0016】
また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、前記磁性粒子が、平均粒子径が0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする。
このような発明によれば、サンプルの磁性体含有量を、免疫反応効率及び測定感度の点で望ましい値にすることができる。
また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、前記基材が、液体浸透性を持たない有機高分子材料でなることを特徴とする。
【0017】
このような発明によれば、基材が、液体を含むサンプルの状態を測定中容易に保持することができる。
また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、前記有機高分子材料が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
このような発明によれば、熱可塑性樹脂の加工が容易であることから、任意の形状を持った基材を容易に製造することができる。
【0018】
また、本発明の磁気センサを用いた測定方法は、基材上にあって、測定すべき物質との特異的結合を介して磁性粒子が固定された固定部を、前記基材と共に移動させる移動工程と、前記移動工程において前記固定部が通過する位置を含む領域に磁場を印加する磁場発生工程と、前記固定部において前記磁性粒子が固定される固定面からの距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置された磁気センサにより、前記磁場発生工程において印加された前記磁場の変化を検出する磁気検出工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
このような発明によれば、磁場中を磁性粒子を移動させて磁場を変化させると共に、変化した磁場を磁気センサで検出することができる。このとき、磁気センサと磁性粒子との距離を最適化することにより、高S/N比の磁気センサの出力信号を得ると共に接触ノイズの発生を防ぐことができる。また、磁性粒子が固定された基材を磁場中で走査することによって磁場検出が可能であるので、測定すべきサンプルを固定あるいは保持するための特別な構成が不要になって様々な測定に汎用的に使用できる磁気センサを用いた測定方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、高S/N比の磁気センサの出力信号を得ると共に接触ノイズの発生を防ぐことができる。また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、磁性粒子が固定された基材を磁場中で走査することによって磁場検出が可能であるので、測定すべきサンプルを固定あるいは保持するための特別な構成が不要になって様々な測定に汎用的に使用することができる。
【0021】
また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、磁気センサと磁性粒子との距離を最適化し、高S/N比の磁気センサの出力信号を得ると共に接触ノイズの発生を防ぐことができる。
また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、任意の形状を持った基材が容易に製造でき、ひいては測定装置の製造を簡易にすることができる。
【0022】
また、本発明の磁気センサを用いた測定方法は、高S/N比の磁気センサの出力信号を得ると共に接触ノイズの発生を防ぐことができる。また、本発明の磁気センサを用いた測定方法は、磁性粒子が固定された基材を磁場中で走査することによって磁場検出が可能であるので、測定すべきサンプルを固定あるいは保持するための特別な構成が不要になって様々な測定に汎用的に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図を参照して本発明に係る本発明の一実施形態の磁気センサを用いた測定装置及び測定方法を説明する。
図1は、本実施形態の磁気センサを用いた測定装置(以下、単に測定装置と記す)の構成を説明するための図である。測定装置は、基材102を備え、基材102は、測定すべき物質(測定物質)との特異的結合を介して磁性粒子を固定しうる固定部101を備えている。なお、本実施形態でいう特異的結合とは、抗原と抗体、糖とレクチン、ヌクレオチド鎖とそれに相補的なヌクレオチド鎖、リガンドとレセプタ等の特異的な親和性を有する物質間での結合のことを指す。
【0024】
本実施形態の基材102は、液体浸透性をもたない有機高分子材料であればよく、有機高分子材料は熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。ただし、好ましい材料として、アクリルニトリルブタジエン−スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン等が挙げられる。
また、本実施形態の測定装置は、固定部101を基材102と共に移動させる移動手段を備えている。本実施形態では、基材102を固定台107に固定し、固定部101と共にステッピングモータ104等によって移動させる構成を移動手段とする。なお、移動手段は、図中に示す矢線Aの方向に固定部101を移動させるものであって、移動の動作を固定部101の走査とも記す。
【0025】
また、本実施形態の測定装置は、移動された固定部101が通過する位置を含む領域に磁場を印加すると共に、印加された磁場の変化を検出する磁気センサ103を備えている。そして、磁気センサ103は、固定部101において磁性粒子が固定された固定面Fからの距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置されている。
さらに、図1に示した構成は、磁気センサ103が出力した信号を増幅する増幅回路105、増幅された信号をデジタル化するA/Dコンバータ106を備えている。
【0026】
図2は、磁気センサ103を説明するための図である。図2(a)に示したように、磁気センサ103は、磁場を発生する磁場発生部202、発生された磁場の変化を検出するセンサ部201を備え、磁場発生部202、センサ部201が外装体204によって包囲されている。センサ部201は、半導体磁気抵抗素子であって、本実施形態では半導体薄膜である。また、磁場発生部202は、図中に示した矢線Bに沿う磁力線で表される磁場を発生する。
【0027】
磁気センサ103は、センサ部201と固定部101の磁性粒子が固定された固定面Fとが所定の長さa隔てた位置に配置される。距離aは、450μm以上、900μm以下、より好ましくは550μm以上、900μm以下である。なお、固定面Fについては、後に詳述するものとする。
ここで、図3を用い、磁気センサ103と磁性粒子の固定面との距離aについて説明する。図示するように、距離aは、固定面からセンサ部201の上面に降ろした垂線の長さで表される。
【0028】
基材102は、磁気センサ103の外装体表面204と接触せずに所定の距離cを隔てて保持される。距離aは、センサ部201の上面から外装体204までの長さbと距離cとを含んだ距離である。
距離bは、外装体の厚みあるいはセンサ部からの信号を取り出すのに必要な信号配線のワイヤループ高さ等によって決定される。また、距離cは、外装体204の表面と基材102の裏面との接触を防ぐのに充分な距離を確保できるよう定められる。
【0029】
すなわち、本実施形態の構成では、距離aが短いほど磁気センサ103から出力される信号の強度は大きくなる。一方、センサ部201を固定面に近づけるため基材102の厚さを薄くすると、基材102の強度は弱くなり、表面が歪む場合がある。信号検出の際、センサ部上において基材を移動するが、移動することにより空気圧が発生する。基材の強度が弱いとこの空気圧により、基材に歪みが生じ、基材上の場所によって、あるいは基材ごとに信号出力が異なるというように、安定に測定を実施できない。
【0030】
また、歪みには、基材102によるばらつきがあり、距離aの設定には歪みのばらつきも考慮しなければならない。センサ部201と基材102とが接触した場合には大きなノイズが発生し、信号出力のS/N比が大きく低下する。
本実施形態の測定装置は、センサ部201と磁性粒子の固定面との距離aを450μm以上、900μm以下に設定することにより、充分な精度が得られる大きさの信号を検出することができる。また、このような距離aは、基材の歪みが測定に影響しない厚さ(100μm程度)を充分確保することができる。さらに、センサ部201と基材102との接触を防ぐための距離のマージンをとって一定の値以上のS/N比をもった磁気信号の検出を可能にしている。
【0031】
以上の点から、本実施形態は、基材102と磁気センサ103が接触しない状態で、必要な図3における距離b (200〜400μm程度)を十分確保し、しかも歪みが測定に影響することを防ぐ基材の厚みを確保するものといえる。
なお、距離aは、マイクロメータを用いて調節可能であり、また隙間ゲージなどを用いることにより容易に計測できる。
【0032】
磁気センサ103の外装体204としては、金属材料、高分子材料などが用いられるが、鏡面仕上げが容易である、また電磁ノイズ除去という点で金属が好ましい。また、磁性粒子による磁界変化を検出する点から例えばアルミニウム等の非磁性材料を使用することが好ましい。
磁場発生部202には、永久磁石またはコイルに直流電流を流す形態の電磁石を適用することができる。ただし、磁場の安定性の点から永久磁石が好ましい。永久磁石を用いる場合、小型でありながら強い磁場がかけられるサマリウムコバルト磁石、ネオジウム磁石等を用いることが好ましい。
【0033】
磁場発生部202によって印加される磁場の強度は、センサ部201として使用される半導体磁気抵抗素子が強磁場下で高感度であるという特性を考慮すると、500エルステッド以上が好ましく、さらに、1000エルステッド以上が好ましく、さらには1500エルステッド以上が好ましい。
また、本実施形態でいう磁気センサは、図2(b)に示したように、磁場発生部202の周囲に外装体204がない構成の磁気センサ203であってもよい。ただし、センサと磁石の距離が一定であることにより磁場発生部202を用いて高強度、かつ一様な磁場を安定に印加出来る点、また量産時において、センサと磁石の距離を一定にすることでセンサ出力の安定した測定装置を提供出来る点から図2(a)に示した磁気センサ103を用いることが好ましい。
【0034】
なお、磁気センサ203の場合であっても、センサ部201と固定部101における固定面との距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置されるものとする。
半導体薄膜を用いたセンサ部201としては、例えば、インジウムアンチモンなどの化合物半導体、シリコンなどの半導体が適用できる。また、本実施形態では、センサ部201が磁場の変化を抵抗の変化として測定するものとしたが、本実施形態は、このような構成に限定されるものでなく、磁場の変化を電圧変化、電流変化として測定するものであってもよい。
【0035】
また、抵抗の変化を電圧変化として取り出す場合、図4に示すように、センサ部201と抵抗体301とを直列に接続し、一方をバイアス電圧302へ、他方をグランド303に接続し、中点Pでの電位変化を検出することによってセンサ部201の電気抵抗変化を検出することができる。なお、抵抗体301は、固定抵抗でも半導体磁気抵抗素子でもよい。
【0036】
以上述べた測定装置は、次のように動作する。すなわち、磁気センサ103は、センサ部201と共に、磁場発生部202が固定部101が通過する位置を含む領域に磁場を印加する。固定部101は、走査されることによって印加された磁場中を横切ってローレンツ力を生じる。センサ部201は、生じたローレンツ力によって抵抗が変化する。このため、固定部101が磁場が印加された範囲の外から範囲内に入ったときセンサ部201から出力される信号が変化する。信号の変化量は、磁性粒子の量に対応し、磁性粒子は測定物質と特異的に結合して固定部101に固定されている。したがって、本実施形態の測定装置は、センサ部201が出力する信号によって磁場の変化を検出し、信号の大きさから測定物質を定量することが可能になる。
【0037】
図5は、本実施形態の磁性粒子の固定について説明するための図である。図5に示すように、基材102の固定部101には、測定すべき抗原と特異的に結合する抗体501が固定されている。このような基材102に抗原505と特異的結合をし得る抗体502を備えた磁性粒子503と抗原505を反応させると、抗体501と測定すべき抗原505及び磁性粒子503に備わった抗体502とが抗原抗体反応によってサンドイッチ結合を生じ、特異的に結合する。この結果、磁性粒子が抗原505を介して基材102の固定部101に固定される。
【0038】
なお、本実施形態は、抗原抗体反応によって抗原を測定する構成に限定されるものでなく、特異的結合によって結合する物質であればどのような物質を使うものであってもよい。また、本実施形態は、抗原505を検出するばかりでなく、抗原505を固定部101に固定し、抗体501を備えた磁性粒子503を固定された抗原505に結合させることによって抗体501を検出することも可能である。抗体501または抗原505の固定部101への固定は、周知の技術で実現でき、化学的または物理的な方法のいずれで行うものであってもよい。
【0039】
磁性粒子503は、少なくとも外部から磁場を印加した場合に磁化する粒子であればよい。磁性粒子503の具体例としては、強磁性体を単独で粒子状に成形した粒子、強磁性体を核としてその表面をポリスチレン、シリカゲル、ゼラチン、もしくはポリアクリルアミドなどの高分子物質で被覆した粒子、ポリスチレン、シリカゲル、ゼラチン、もしくはアクリルアミドなどの高分子物質の粒子を核として強磁性体を被覆した粒子、または赤血球、リポソームもしくはマイクロカプセルなどの閉じた袋状の物質に強磁性体を封入した粒子等を挙げることができる。
なお、上記した強磁性体としては、例えば、鉄、コバルト、もしくはニッケル等の強磁性金属が挙げられる。また、強磁性金属を含む合金としては、例えば、非磁性体中に強磁性金属もしくは強磁性金属を含む合金を含有するもの、または強磁性金属中もしくは強磁性金属を含む合金中に非磁性体を含有するものが挙げられる。
【0040】
なお、本実施形態で使用された磁性粒子は、一般的に超常磁性体といわれるもので、外部から磁力を作用させている間は磁化し、磁力の遮断によって速やかに減磁する点で本実施形態の測定装置に用いることが特に好ましい。このような磁性粒子としては、例えば、Dynal社製Dynabeads M−450、M−270、Myone(以上、製品名)、Estapor社製M1−070−40、M1−070−60、M1−030−40(以上、製品名)、Micromod社製micromer−M(製品名)、Seradyn社製Sera−mag(製品名)等が挙げられる。磁性粒子は、適用される免疫反応物質等の種類に応じて、適切な表面処理がなされたもの、あるいは適切な官能基を有するものが選択される。
【0041】
磁性粒子の粒子径は、免疫反応効率という点から大きすぎることは好ましくない。また測定感度という点から、磁性体含有量が少なすぎるほど小さいのは好ましくない。したがって本発明の粒子径は、0.1μm〜5μmであり、好ましくは0.5μm〜3μmである。磁性粒子の形状は球形であっても非球形であってもよい。
また、測定すべき物質と磁性粒子との吸着は、固定部101への固定と同様に、周知の化学または物理的な方法のいずれで行うものであってもよい。
【0042】
次に、固定部101、固定部101の固定面について説明する。
図6〜8は、基材102及び固定部101を説明するための図であって、図6及び図7は、基材102として機能する生化学反応容器の組み立て前の図、図8は、図6及び図7に示した構成を組み立てて形成された生化学反応容器、図9は、図8に示した生化学反応容器と異なる形態の生化学反応容器を示した図である。
【0043】
本実施形態では、図6、7に示す形状を得るための射出成形金型を作成し、液体不浸透性材料としてポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂にて基材6及び基材7を射出成形により作成した。基材6、7を嵌合させるためにピン67及びピン受け70を取付けている、また、被分析溶液を添加するための添加孔71も具備されたものを成形した。基材6は多孔体2、3、5をそれぞれ担持する液体不浸透性基材20、30、50を具備し、反応面4を形成する液体不浸透性基材40を具備している。
【0044】
反応面4は、本実施形態の測定装置において、固定面となる。
さらに液体不浸透性材料によって形成された溝状の通路72、液体不浸透性材料74によって形成された溝状の通路75を具備している。いずれの樹脂を用いた場合も、特殊な条件を用いることなく汎用射出成型機で成形が可能であった。
基材6、基材7を嵌合して形成された生化学反応容器の内部にあって、基材6の上面(以下、底板と記す)には、図8に示したように、多孔体2、3、5及び反応面4が配置されている。また、図9は、図8に示した形態と異なる形態の多孔体2、3、5及び反応面4の配置を示している。
【0045】
固定化される一次抗体は、欧州特許登録番号EP1104772号公報に開示されているマイコプラズマニューモニアのリボゾーム蛋白質L7/L12に対するモノクローナル抗体AMMP−3を使用した。具体的には、当該抗体を0.1mole/lのMES(pH6)緩衝液で10μg/ml濃度に希釈し、上記で得られた基材6のうちポリカーボネート樹脂で作成した基材6の、反応面4上へ5μl正確に滴下し、湿潤箱中に設置したのち、冷蔵庫中にて一晩インキュベーションを実施し、その後蒸留水にて反応面表面を洗浄し窒素ガスエアーにて反応面表面を乾燥させたものを抗体固定化反応装置として一次抗体固定化反応面として調製し被検出物に特異的に反応する物質が固定された反応面4を得た。
【0046】
本実施形態では、以上述べた測定装置によって磁性粒子の検出の実験を行い、測定装置によって得られる効果について確認した。以下、この実験について説明する。なお、実験では、上記した生化学反応容器を用い、抗原−抗体反応により磁性粒子をポリカーボネート上に固定して測定対象となるサンプルを作成し、本実施形態の測定装置によって測定した。
【0047】
<サンプルの準備>
(多孔体2の準備)
グラスファイバー不織布を12mm×8mmに打ち抜き、多孔体2を得た。
(多孔体3の準備)
Biotin−PEG−CO2−NHS(米国シェアーウオーター社製、MW3400)を用いて抗体にPEG鎖を結合させた。Biotin−PEG−CO2−NHS(米国シェアーウオーター社製、MW3400)試薬2.9mgを計量し、200μlの蒸留水に溶解し、4.26mM水溶液を作成した。
欧州特許登録番号EP1104772号公報に開示されている抗マイコプラズマ抗体AMMP−1をPBSに脱塩・buffer交換したもの(抗体濃度6.99mg/ml)1.5mlと先に調製したBiotin−PEG−CO2−NHS4.26mM水溶液49.2μlとを混合し、室温で4時間反応させた。
【0048】
上記反応液を遠心型限外ろ過膜(アミコン社、分子量3万カット)によって回転数7500回転で10分間濃縮し、さらに濃縮液にPBS3mlを添加して、同限外ろ過膜で同様の条件で再び濃縮した。さらに、PBS3mlを添加して同様の条件で濃縮する操作を2回繰り返し、未反応のBiotin−PEG−CO2−NHSを除去した精製PEG−biotin化抗体液を取得した。
【0049】
次にDynabeads MyOne streptavidin(ノルウェー国Dynal社製、直径1.0μm)の1%PBS溶液100μlをエッペンドルフチューブに計量し、それに前記のPEG−biotin化抗体溶液を40μl添加しさらにPBS460μlでtotal液量500μlにメスアップしたのち、室温で4時間攪拌しながら反応を行った。この反応で得られた磁気ビーズ標識化二次抗体液からノルウェー国Dynal社製固定磁石を用いて磁気ビーズ標識化二次抗体のみ回収し、上澄みを除去した。
【0050】
さらにPBS1mlを添加し同様な操作でPEG鎖を介した磁気ビーズ標識化二次抗体のみを回収・洗浄し最終的に1%BSA/PBS溶液に調製したビーズを0.05%濃度になるように溶解した。作成した磁気ビーズ標識化二次抗体分散液をグラスファイバー不織布に含浸させ、風乾させて多孔体3を得た。
(多孔体5の準備)
厚さ2mmのセルロース不織布を12mm×11mmの大きさに打ち抜いて多孔体5を得た。
【0051】
(生化学分析容器の準備)
上記で得られた基材のうちポリカーボネート樹脂で作成した基材7及び基材6を用いて、得られた多孔体2、3、5を両面テープにて基材6の所定の位置に固定した。また基材7をピン位置が合うように基材6と嵌合し、本発明の生化学分析容器を得た。勘合した状態での生化学分析容器の強度は十分なものであり、反応面4が汚染されることなくハンドリング可能なものであった。
【0052】
(生化学反応の検証)
上記の生化学分析容器の添加孔71に、抗原を含む液150μLを添加した。添加液は、多孔体2に吸収され、横流れ毛細管現象で多孔体3に到達し、多孔体3に担持された磁気ビーズ標識化二次抗体を解離して、ポリカーボネート樹脂31によって形成された溝状の通路32を通って反応面4を通過し、ポリカーボネート樹脂33によって形成された溝状の通路75を通って多孔体5に吸収されることが目視観測された。約15分で添加孔71、反応面4に残存していた液体はすべて多孔体5に吸収された。反応面4には、抗原−抗体反応を介して磁性粒子が固定される。
上記の手法で反応面4に磁性粒子が固定化された生化学反応容器と磁性粒子が全く固定化されていない生化学反応容器について、本発明の磁性粒子検出システムを用いて測定を行った。
【0053】
<磁性粒子の検出システム>
図10は、実験で用いた磁気センサ901を説明するための図である。磁気センサ901は、磁場発生部903に永久磁石を用い、センサ部902a、902bに村田製作所製磁気抵抗素子BS05を用い、磁場発生部903及びセンサ部902a、902bをアルミニウム製の外装体204で包囲して構成されている。
電気抵抗変化検出は、図11に示すように、2つのセンサ部902a、902bを直列に接続し、バイアス1001に5V、もう一方の端子1002をグランドに接続し、中点Pの電位の変化から検出した。実験においては、図10に示したように、センサ部902a及び902b上を固定部101に固定された磁性粒子を図中に示した矢線の方向に走査した。
【0054】
中点Pから出力された信号は、図1で説明した増幅回路105によって約20万倍に増幅され、増幅されたアナログ信号がA/Dコンバータ106によってデジタル信号に変換されて出力される。
図12は、以上のようにして行った実験の結果、固定部101に磁性粒子が固定された場合に得られる信号と、磁性粒子が固定されていない場合に得られる信号との比を示したものである。図12の縦軸は、磁性粒子が固定された生化学反応容器からの出力をA、磁性粒子が固定されていない生化学反応容器からの出力をBとしたときのA/B比を示している。また、横軸は、磁気センサ901の外装体表面と基材102の底面との距離を示している。図12によれば、磁気センサ901外装体表面と基材102の底面との距離が150μm以上、600μm以下の範囲にあるときに比較的大きいA/B比が得られることが分かる。なお、信号の高A/B比は、信号のS/N比が高いことを示している。
【0055】
磁気センサ901と基材102の底面との距離は、センサ部902a、902bと反応面4との距離に対応する。本実施形態では、基材102の厚さが約100μm程度であることと、使用した磁気センサにおいてセンサ部から外装体表面までの距離が約300μmであることから、センサ部902a、902bと反応面4との距離は、横軸に示した距離に約400μmを加算した値を持つ。
したがって、本実施形態の測定装置は、センサ部902a、902bと反応面4との距離の範囲を450μm以上、900μm以下に制限することによって高S/N比の信号を得られる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の磁性粒子検出装置は、医療診断・環境計測等において測定対象溶液中の被検出物質を高感度に、簡便に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態の測定装置の構成を説明するための図である。
【図2】図1に示した磁気センサを説明するための図である。
【図3】本発明の一実施形態の磁気センサと磁性粒子の固定面との距離について説明するための図である。
【図4】図2に示した磁気センサの抵抗の変化を電圧変化として取り出すことを説明するための図である。
【図5】本発明の一実施形態の磁性粒子の固定について説明するための図である。
【図6】本発明の一実施形態の基材及び固定部を説明するための図であって、組み立て前の生化学反応容器を示した図である。
【図7】本発明の一実施形態の基材及び固定部を説明するための図であって、組み立て前の生化学反応容器を示した他の図である。
【図8】図6及び図7に示した構成を組み立てて形成された生化学反応容器を示した図である。
【図9】図8に示した生化学反応容器と異なる形態の生化学反応容器を示した図である。
【図10】本発明の測定装置で得られる効果を確認するために行った実験で用いた磁気センサを説明するための図である。
【図11】実験において磁気センサの抵抗の変化を電圧変化として取り出すことを説明するための図である。
【図12】実験の結果得られた信号を示した図である。
【符号の説明】
【0058】
4 反応面 、6,7 基材、20 液体不浸透性基材、71 添加孔、101 固定部、102 基材、103,203 磁気センサ、105 増幅回路、106 A/Dコンバータ、104 ステッピングモータ、107 固定台、201 センサ部、202 磁場発生部、204 外装体、503 磁性粒子
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサを使って磁気的な信号を検出し、検出された信号から物質を測定する磁気センサを用いた測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、磁性粒子を標識として測定すべき物質に付し、磁性粒子によって生じた磁気的な信号を検出することによって物質の有無あるいは量を測定する磁気センサを用いた測定装置及び測定方法にかかる。
現在、医療診断や環境計測等において、特異的結合を利用して試料中の検出すべき物質の量を測定することがなされている。なお、特異的結合とは、例えば、ある抗原と抗原に特有の抗体とだけが反応して結合する現象をいう。
【0003】
特異的結合を利用した測定装置あるいは測定方法として、酵素免疫測定法や蛍光免疫測定法などが広く用いられている。酵素免疫測定法は、被検出物質と特異的に反応する物質に酵素で標識を付し、酵素反応による発色を光学的に計測する方法である。また、蛍光免疫測定法では、被検出物質と特異的に反応する物質を蛍光体で標識し、前記被検出物質が存在する場合には、蛍光体が発する蛍光強度を計測する方法である。
【0004】
ただし、酵素反応による発色の計測は、酵素の安定性が低く、また、検出系の充分な感度が得がたいといった不具合がある。また、蛍光強度を計測する方法は、検出系の感度は高いものの、迷光の影響を受け易くバックグラウンドノイズが高い。また、微弱信号を検出するためには高価な測定装置が必要となる。さらに、標識となる蛍光体が褪色するといった不具合がある。
【0005】
このような不具合を解消するものとして、近年では、磁力によって検出できる標識を被検出物質に付し、磁気センサによって磁力を検出することによって被検出物質を測定する装置が注目されている。磁気センサを使った測定では、バックグラウンドノイズの発生源となり得るのは磁性体のみであるため、光がバックグラウンドノイズとなる光学的測定よりも低ノイズであり、高い検出精度を得ることができる。
【0006】
磁気センサを使った測定装置の従来技術としては、ホール素子及び磁気抵抗素子を用いた磁性粒子検出装置が提案されている(特許文献1)。この特許文献1に記載されている方式は、磁気センサ及び磁性粒子に500エルステッド以上1000エルステッド以下の静磁場を与え、磁気センサ上で磁性粒子を走査移動させることで静磁場を変化させ、磁性粒子を検出する。
【0007】
また、磁気センサを使った測定装置としては、超伝導量子緩衝装置(Superconducting Quantum Interface Device;以下SQUIDという)が知られている。このSQUIDは、超伝導ループにおける磁束の量子化を利用したデバイスで、2個のジョセフソン素子と超伝導配線で超伝導ループを形成した高感度の素子である。ただし、SQUIDは、測定の間、ピックアップループを冷却して低温に維持しなければならず、より測定を簡便に行うことが望まれている。
【0008】
SQUIDを用いる抗原抗体反応を利用した免疫測定法は、例えば、特許文献2に開示されている。特許文献2に記載されている装置は、1つの抗原または抗体に磁性体微粒子を付して磁性体標識体とし、磁性体標識体と検体を抗原抗体反応させる。そして、反応後の検体から未反応の磁性体標識体を分離除去した後、検体の磁化の程度をSQUIDで測定する。
【特許文献1】米国特許第6,518,747号明細書
【特許文献2】特開昭63−90765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、磁性粒子による磁場の変化を磁気センサで検出する場合、磁性粒子と磁気センサとの距離が短いほど信号出力が大きくなることは一般によく知られている。しかしながら、磁性粒子と磁気センサとを近づけることによって接触ノイズと呼ばれるノイズが発生し、このノイズが信号の検出精度を低下させるおそれがある。
接触ノイズは、ばねを使って磁気センサから磁性粒子までを一定の距離以上に保つことによって防ぐことも可能である。ただし、このようにした場合、ばねの使用によって装置構成が複雑になり、また、磁性粒子を固定する基材の構成に制限が生じて装置の汎用性が低下する。
【0010】
また、磁性粒子を固定する基材に高分子材料を使用した場合、基材自体に歪みが発生することがあり、磁性粒子と磁気センサとの距離に基材個々の歪みのばらつきも考慮する必要がある。特に、基材と磁気センサとの距離が比較的短く、磁気センサ上で基材を走査する場合、基材の歪みによって磁気センサに圧力がかかり、ピエゾノイズを発生させる。ピエゾノイズは、信号ノイズ出力比(以下、S/N比)を低下させる要因となり、磁性粒子が発する超微弱信号の検出においては大きな問題となる。
【0011】
基材の歪みによる問題を解消するには、基材に金属を使用することも考えられる。基材を磁気センサ上で移動することにより信号出力を得るが、しかし基材を金属にした場合、基材自体からの信号もまた検出する可能性があり、結果として磁気的な信号ノイズとなる。さらに磁性粒子に印加すべく磁場発生源からの磁界を遮蔽してしまい、十分な感度・安定した検出が実施できない可能性がある。以上の理由で、基材に金属を使用することは好ましくない。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、磁性粒子を用いた測定において、磁性粒子と磁気センサ間の距離を最適にすることによって、任意の形態の基材に固定された磁性粒子量を高S/N比かつ高汎用性で測定する磁気センサを用いた測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決するため、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、基材上にあって、測定すべき物質との特異的結合を介して磁性粒子が固定された固定部と、前記固定部を前記基材と共に移動させる移動手段と、前記移動手段によって移動された前記固定部が通過する位置を含む領域に磁場を印加する磁場発生手段と、前記磁場発生手段によって印加された前記磁場の変化を検出する磁気センサと、を備えてなり、前記磁気センサは、前記固定部において前記磁性粒子が固定される固定面からの距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置されることを特徴とする。
【0014】
このような発明によれば、磁場中を磁性粒子を移動させて磁場を変化させると共に、変化した磁場を磁気センサで検出することができる。このとき、磁気センサと磁性粒子との距離を最適化することにより、高S/N比の磁気センサの出力信号を得ると共に接触ノイズの発生を防ぐことができる。また、磁性粒子が固定された基材を磁場中で走査することによって磁場検出が可能であるので、測定すべきサンプルを固定あるいは保持するための特別な構成が不要になって様々な測定に汎用的に使用できる磁気センサを用いた測定装置を提供することができる。
【0015】
また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、前記磁気センサが半導体磁気抵抗素子を備え、前記磁気センサは、この半導体磁気抵抗素子と前記固定面との距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置されることを特徴とする。
このような発明によれば、磁気センサと磁性粒子との距離を最適化し、高S/N比の磁気センサの出力信号を得ると共に接触ノイズの発生を防ぐことができる。
【0016】
また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、前記磁性粒子が、平均粒子径が0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする。
このような発明によれば、サンプルの磁性体含有量を、免疫反応効率及び測定感度の点で望ましい値にすることができる。
また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、前記基材が、液体浸透性を持たない有機高分子材料でなることを特徴とする。
【0017】
このような発明によれば、基材が、液体を含むサンプルの状態を測定中容易に保持することができる。
また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、前記有機高分子材料が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする。
このような発明によれば、熱可塑性樹脂の加工が容易であることから、任意の形状を持った基材を容易に製造することができる。
【0018】
また、本発明の磁気センサを用いた測定方法は、基材上にあって、測定すべき物質との特異的結合を介して磁性粒子が固定された固定部を、前記基材と共に移動させる移動工程と、前記移動工程において前記固定部が通過する位置を含む領域に磁場を印加する磁場発生工程と、前記固定部において前記磁性粒子が固定される固定面からの距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置された磁気センサにより、前記磁場発生工程において印加された前記磁場の変化を検出する磁気検出工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
このような発明によれば、磁場中を磁性粒子を移動させて磁場を変化させると共に、変化した磁場を磁気センサで検出することができる。このとき、磁気センサと磁性粒子との距離を最適化することにより、高S/N比の磁気センサの出力信号を得ると共に接触ノイズの発生を防ぐことができる。また、磁性粒子が固定された基材を磁場中で走査することによって磁場検出が可能であるので、測定すべきサンプルを固定あるいは保持するための特別な構成が不要になって様々な測定に汎用的に使用できる磁気センサを用いた測定方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、高S/N比の磁気センサの出力信号を得ると共に接触ノイズの発生を防ぐことができる。また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、磁性粒子が固定された基材を磁場中で走査することによって磁場検出が可能であるので、測定すべきサンプルを固定あるいは保持するための特別な構成が不要になって様々な測定に汎用的に使用することができる。
【0021】
また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、磁気センサと磁性粒子との距離を最適化し、高S/N比の磁気センサの出力信号を得ると共に接触ノイズの発生を防ぐことができる。
また、本発明の磁気センサを用いた測定装置は、任意の形状を持った基材が容易に製造でき、ひいては測定装置の製造を簡易にすることができる。
【0022】
また、本発明の磁気センサを用いた測定方法は、高S/N比の磁気センサの出力信号を得ると共に接触ノイズの発生を防ぐことができる。また、本発明の磁気センサを用いた測定方法は、磁性粒子が固定された基材を磁場中で走査することによって磁場検出が可能であるので、測定すべきサンプルを固定あるいは保持するための特別な構成が不要になって様々な測定に汎用的に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図を参照して本発明に係る本発明の一実施形態の磁気センサを用いた測定装置及び測定方法を説明する。
図1は、本実施形態の磁気センサを用いた測定装置(以下、単に測定装置と記す)の構成を説明するための図である。測定装置は、基材102を備え、基材102は、測定すべき物質(測定物質)との特異的結合を介して磁性粒子を固定しうる固定部101を備えている。なお、本実施形態でいう特異的結合とは、抗原と抗体、糖とレクチン、ヌクレオチド鎖とそれに相補的なヌクレオチド鎖、リガンドとレセプタ等の特異的な親和性を有する物質間での結合のことを指す。
【0024】
本実施形態の基材102は、液体浸透性をもたない有機高分子材料であればよく、有機高分子材料は熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。ただし、好ましい材料として、アクリルニトリルブタジエン−スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン等が挙げられる。
また、本実施形態の測定装置は、固定部101を基材102と共に移動させる移動手段を備えている。本実施形態では、基材102を固定台107に固定し、固定部101と共にステッピングモータ104等によって移動させる構成を移動手段とする。なお、移動手段は、図中に示す矢線Aの方向に固定部101を移動させるものであって、移動の動作を固定部101の走査とも記す。
【0025】
また、本実施形態の測定装置は、移動された固定部101が通過する位置を含む領域に磁場を印加すると共に、印加された磁場の変化を検出する磁気センサ103を備えている。そして、磁気センサ103は、固定部101において磁性粒子が固定された固定面Fからの距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置されている。
さらに、図1に示した構成は、磁気センサ103が出力した信号を増幅する増幅回路105、増幅された信号をデジタル化するA/Dコンバータ106を備えている。
【0026】
図2は、磁気センサ103を説明するための図である。図2(a)に示したように、磁気センサ103は、磁場を発生する磁場発生部202、発生された磁場の変化を検出するセンサ部201を備え、磁場発生部202、センサ部201が外装体204によって包囲されている。センサ部201は、半導体磁気抵抗素子であって、本実施形態では半導体薄膜である。また、磁場発生部202は、図中に示した矢線Bに沿う磁力線で表される磁場を発生する。
【0027】
磁気センサ103は、センサ部201と固定部101の磁性粒子が固定された固定面Fとが所定の長さa隔てた位置に配置される。距離aは、450μm以上、900μm以下、より好ましくは550μm以上、900μm以下である。なお、固定面Fについては、後に詳述するものとする。
ここで、図3を用い、磁気センサ103と磁性粒子の固定面との距離aについて説明する。図示するように、距離aは、固定面からセンサ部201の上面に降ろした垂線の長さで表される。
【0028】
基材102は、磁気センサ103の外装体表面204と接触せずに所定の距離cを隔てて保持される。距離aは、センサ部201の上面から外装体204までの長さbと距離cとを含んだ距離である。
距離bは、外装体の厚みあるいはセンサ部からの信号を取り出すのに必要な信号配線のワイヤループ高さ等によって決定される。また、距離cは、外装体204の表面と基材102の裏面との接触を防ぐのに充分な距離を確保できるよう定められる。
【0029】
すなわち、本実施形態の構成では、距離aが短いほど磁気センサ103から出力される信号の強度は大きくなる。一方、センサ部201を固定面に近づけるため基材102の厚さを薄くすると、基材102の強度は弱くなり、表面が歪む場合がある。信号検出の際、センサ部上において基材を移動するが、移動することにより空気圧が発生する。基材の強度が弱いとこの空気圧により、基材に歪みが生じ、基材上の場所によって、あるいは基材ごとに信号出力が異なるというように、安定に測定を実施できない。
【0030】
また、歪みには、基材102によるばらつきがあり、距離aの設定には歪みのばらつきも考慮しなければならない。センサ部201と基材102とが接触した場合には大きなノイズが発生し、信号出力のS/N比が大きく低下する。
本実施形態の測定装置は、センサ部201と磁性粒子の固定面との距離aを450μm以上、900μm以下に設定することにより、充分な精度が得られる大きさの信号を検出することができる。また、このような距離aは、基材の歪みが測定に影響しない厚さ(100μm程度)を充分確保することができる。さらに、センサ部201と基材102との接触を防ぐための距離のマージンをとって一定の値以上のS/N比をもった磁気信号の検出を可能にしている。
【0031】
以上の点から、本実施形態は、基材102と磁気センサ103が接触しない状態で、必要な図3における距離b (200〜400μm程度)を十分確保し、しかも歪みが測定に影響することを防ぐ基材の厚みを確保するものといえる。
なお、距離aは、マイクロメータを用いて調節可能であり、また隙間ゲージなどを用いることにより容易に計測できる。
【0032】
磁気センサ103の外装体204としては、金属材料、高分子材料などが用いられるが、鏡面仕上げが容易である、また電磁ノイズ除去という点で金属が好ましい。また、磁性粒子による磁界変化を検出する点から例えばアルミニウム等の非磁性材料を使用することが好ましい。
磁場発生部202には、永久磁石またはコイルに直流電流を流す形態の電磁石を適用することができる。ただし、磁場の安定性の点から永久磁石が好ましい。永久磁石を用いる場合、小型でありながら強い磁場がかけられるサマリウムコバルト磁石、ネオジウム磁石等を用いることが好ましい。
【0033】
磁場発生部202によって印加される磁場の強度は、センサ部201として使用される半導体磁気抵抗素子が強磁場下で高感度であるという特性を考慮すると、500エルステッド以上が好ましく、さらに、1000エルステッド以上が好ましく、さらには1500エルステッド以上が好ましい。
また、本実施形態でいう磁気センサは、図2(b)に示したように、磁場発生部202の周囲に外装体204がない構成の磁気センサ203であってもよい。ただし、センサと磁石の距離が一定であることにより磁場発生部202を用いて高強度、かつ一様な磁場を安定に印加出来る点、また量産時において、センサと磁石の距離を一定にすることでセンサ出力の安定した測定装置を提供出来る点から図2(a)に示した磁気センサ103を用いることが好ましい。
【0034】
なお、磁気センサ203の場合であっても、センサ部201と固定部101における固定面との距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置されるものとする。
半導体薄膜を用いたセンサ部201としては、例えば、インジウムアンチモンなどの化合物半導体、シリコンなどの半導体が適用できる。また、本実施形態では、センサ部201が磁場の変化を抵抗の変化として測定するものとしたが、本実施形態は、このような構成に限定されるものでなく、磁場の変化を電圧変化、電流変化として測定するものであってもよい。
【0035】
また、抵抗の変化を電圧変化として取り出す場合、図4に示すように、センサ部201と抵抗体301とを直列に接続し、一方をバイアス電圧302へ、他方をグランド303に接続し、中点Pでの電位変化を検出することによってセンサ部201の電気抵抗変化を検出することができる。なお、抵抗体301は、固定抵抗でも半導体磁気抵抗素子でもよい。
【0036】
以上述べた測定装置は、次のように動作する。すなわち、磁気センサ103は、センサ部201と共に、磁場発生部202が固定部101が通過する位置を含む領域に磁場を印加する。固定部101は、走査されることによって印加された磁場中を横切ってローレンツ力を生じる。センサ部201は、生じたローレンツ力によって抵抗が変化する。このため、固定部101が磁場が印加された範囲の外から範囲内に入ったときセンサ部201から出力される信号が変化する。信号の変化量は、磁性粒子の量に対応し、磁性粒子は測定物質と特異的に結合して固定部101に固定されている。したがって、本実施形態の測定装置は、センサ部201が出力する信号によって磁場の変化を検出し、信号の大きさから測定物質を定量することが可能になる。
【0037】
図5は、本実施形態の磁性粒子の固定について説明するための図である。図5に示すように、基材102の固定部101には、測定すべき抗原と特異的に結合する抗体501が固定されている。このような基材102に抗原505と特異的結合をし得る抗体502を備えた磁性粒子503と抗原505を反応させると、抗体501と測定すべき抗原505及び磁性粒子503に備わった抗体502とが抗原抗体反応によってサンドイッチ結合を生じ、特異的に結合する。この結果、磁性粒子が抗原505を介して基材102の固定部101に固定される。
【0038】
なお、本実施形態は、抗原抗体反応によって抗原を測定する構成に限定されるものでなく、特異的結合によって結合する物質であればどのような物質を使うものであってもよい。また、本実施形態は、抗原505を検出するばかりでなく、抗原505を固定部101に固定し、抗体501を備えた磁性粒子503を固定された抗原505に結合させることによって抗体501を検出することも可能である。抗体501または抗原505の固定部101への固定は、周知の技術で実現でき、化学的または物理的な方法のいずれで行うものであってもよい。
【0039】
磁性粒子503は、少なくとも外部から磁場を印加した場合に磁化する粒子であればよい。磁性粒子503の具体例としては、強磁性体を単独で粒子状に成形した粒子、強磁性体を核としてその表面をポリスチレン、シリカゲル、ゼラチン、もしくはポリアクリルアミドなどの高分子物質で被覆した粒子、ポリスチレン、シリカゲル、ゼラチン、もしくはアクリルアミドなどの高分子物質の粒子を核として強磁性体を被覆した粒子、または赤血球、リポソームもしくはマイクロカプセルなどの閉じた袋状の物質に強磁性体を封入した粒子等を挙げることができる。
なお、上記した強磁性体としては、例えば、鉄、コバルト、もしくはニッケル等の強磁性金属が挙げられる。また、強磁性金属を含む合金としては、例えば、非磁性体中に強磁性金属もしくは強磁性金属を含む合金を含有するもの、または強磁性金属中もしくは強磁性金属を含む合金中に非磁性体を含有するものが挙げられる。
【0040】
なお、本実施形態で使用された磁性粒子は、一般的に超常磁性体といわれるもので、外部から磁力を作用させている間は磁化し、磁力の遮断によって速やかに減磁する点で本実施形態の測定装置に用いることが特に好ましい。このような磁性粒子としては、例えば、Dynal社製Dynabeads M−450、M−270、Myone(以上、製品名)、Estapor社製M1−070−40、M1−070−60、M1−030−40(以上、製品名)、Micromod社製micromer−M(製品名)、Seradyn社製Sera−mag(製品名)等が挙げられる。磁性粒子は、適用される免疫反応物質等の種類に応じて、適切な表面処理がなされたもの、あるいは適切な官能基を有するものが選択される。
【0041】
磁性粒子の粒子径は、免疫反応効率という点から大きすぎることは好ましくない。また測定感度という点から、磁性体含有量が少なすぎるほど小さいのは好ましくない。したがって本発明の粒子径は、0.1μm〜5μmであり、好ましくは0.5μm〜3μmである。磁性粒子の形状は球形であっても非球形であってもよい。
また、測定すべき物質と磁性粒子との吸着は、固定部101への固定と同様に、周知の化学または物理的な方法のいずれで行うものであってもよい。
【0042】
次に、固定部101、固定部101の固定面について説明する。
図6〜8は、基材102及び固定部101を説明するための図であって、図6及び図7は、基材102として機能する生化学反応容器の組み立て前の図、図8は、図6及び図7に示した構成を組み立てて形成された生化学反応容器、図9は、図8に示した生化学反応容器と異なる形態の生化学反応容器を示した図である。
【0043】
本実施形態では、図6、7に示す形状を得るための射出成形金型を作成し、液体不浸透性材料としてポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂にて基材6及び基材7を射出成形により作成した。基材6、7を嵌合させるためにピン67及びピン受け70を取付けている、また、被分析溶液を添加するための添加孔71も具備されたものを成形した。基材6は多孔体2、3、5をそれぞれ担持する液体不浸透性基材20、30、50を具備し、反応面4を形成する液体不浸透性基材40を具備している。
【0044】
反応面4は、本実施形態の測定装置において、固定面となる。
さらに液体不浸透性材料によって形成された溝状の通路72、液体不浸透性材料74によって形成された溝状の通路75を具備している。いずれの樹脂を用いた場合も、特殊な条件を用いることなく汎用射出成型機で成形が可能であった。
基材6、基材7を嵌合して形成された生化学反応容器の内部にあって、基材6の上面(以下、底板と記す)には、図8に示したように、多孔体2、3、5及び反応面4が配置されている。また、図9は、図8に示した形態と異なる形態の多孔体2、3、5及び反応面4の配置を示している。
【0045】
固定化される一次抗体は、欧州特許登録番号EP1104772号公報に開示されているマイコプラズマニューモニアのリボゾーム蛋白質L7/L12に対するモノクローナル抗体AMMP−3を使用した。具体的には、当該抗体を0.1mole/lのMES(pH6)緩衝液で10μg/ml濃度に希釈し、上記で得られた基材6のうちポリカーボネート樹脂で作成した基材6の、反応面4上へ5μl正確に滴下し、湿潤箱中に設置したのち、冷蔵庫中にて一晩インキュベーションを実施し、その後蒸留水にて反応面表面を洗浄し窒素ガスエアーにて反応面表面を乾燥させたものを抗体固定化反応装置として一次抗体固定化反応面として調製し被検出物に特異的に反応する物質が固定された反応面4を得た。
【0046】
本実施形態では、以上述べた測定装置によって磁性粒子の検出の実験を行い、測定装置によって得られる効果について確認した。以下、この実験について説明する。なお、実験では、上記した生化学反応容器を用い、抗原−抗体反応により磁性粒子をポリカーボネート上に固定して測定対象となるサンプルを作成し、本実施形態の測定装置によって測定した。
【0047】
<サンプルの準備>
(多孔体2の準備)
グラスファイバー不織布を12mm×8mmに打ち抜き、多孔体2を得た。
(多孔体3の準備)
Biotin−PEG−CO2−NHS(米国シェアーウオーター社製、MW3400)を用いて抗体にPEG鎖を結合させた。Biotin−PEG−CO2−NHS(米国シェアーウオーター社製、MW3400)試薬2.9mgを計量し、200μlの蒸留水に溶解し、4.26mM水溶液を作成した。
欧州特許登録番号EP1104772号公報に開示されている抗マイコプラズマ抗体AMMP−1をPBSに脱塩・buffer交換したもの(抗体濃度6.99mg/ml)1.5mlと先に調製したBiotin−PEG−CO2−NHS4.26mM水溶液49.2μlとを混合し、室温で4時間反応させた。
【0048】
上記反応液を遠心型限外ろ過膜(アミコン社、分子量3万カット)によって回転数7500回転で10分間濃縮し、さらに濃縮液にPBS3mlを添加して、同限外ろ過膜で同様の条件で再び濃縮した。さらに、PBS3mlを添加して同様の条件で濃縮する操作を2回繰り返し、未反応のBiotin−PEG−CO2−NHSを除去した精製PEG−biotin化抗体液を取得した。
【0049】
次にDynabeads MyOne streptavidin(ノルウェー国Dynal社製、直径1.0μm)の1%PBS溶液100μlをエッペンドルフチューブに計量し、それに前記のPEG−biotin化抗体溶液を40μl添加しさらにPBS460μlでtotal液量500μlにメスアップしたのち、室温で4時間攪拌しながら反応を行った。この反応で得られた磁気ビーズ標識化二次抗体液からノルウェー国Dynal社製固定磁石を用いて磁気ビーズ標識化二次抗体のみ回収し、上澄みを除去した。
【0050】
さらにPBS1mlを添加し同様な操作でPEG鎖を介した磁気ビーズ標識化二次抗体のみを回収・洗浄し最終的に1%BSA/PBS溶液に調製したビーズを0.05%濃度になるように溶解した。作成した磁気ビーズ標識化二次抗体分散液をグラスファイバー不織布に含浸させ、風乾させて多孔体3を得た。
(多孔体5の準備)
厚さ2mmのセルロース不織布を12mm×11mmの大きさに打ち抜いて多孔体5を得た。
【0051】
(生化学分析容器の準備)
上記で得られた基材のうちポリカーボネート樹脂で作成した基材7及び基材6を用いて、得られた多孔体2、3、5を両面テープにて基材6の所定の位置に固定した。また基材7をピン位置が合うように基材6と嵌合し、本発明の生化学分析容器を得た。勘合した状態での生化学分析容器の強度は十分なものであり、反応面4が汚染されることなくハンドリング可能なものであった。
【0052】
(生化学反応の検証)
上記の生化学分析容器の添加孔71に、抗原を含む液150μLを添加した。添加液は、多孔体2に吸収され、横流れ毛細管現象で多孔体3に到達し、多孔体3に担持された磁気ビーズ標識化二次抗体を解離して、ポリカーボネート樹脂31によって形成された溝状の通路32を通って反応面4を通過し、ポリカーボネート樹脂33によって形成された溝状の通路75を通って多孔体5に吸収されることが目視観測された。約15分で添加孔71、反応面4に残存していた液体はすべて多孔体5に吸収された。反応面4には、抗原−抗体反応を介して磁性粒子が固定される。
上記の手法で反応面4に磁性粒子が固定化された生化学反応容器と磁性粒子が全く固定化されていない生化学反応容器について、本発明の磁性粒子検出システムを用いて測定を行った。
【0053】
<磁性粒子の検出システム>
図10は、実験で用いた磁気センサ901を説明するための図である。磁気センサ901は、磁場発生部903に永久磁石を用い、センサ部902a、902bに村田製作所製磁気抵抗素子BS05を用い、磁場発生部903及びセンサ部902a、902bをアルミニウム製の外装体204で包囲して構成されている。
電気抵抗変化検出は、図11に示すように、2つのセンサ部902a、902bを直列に接続し、バイアス1001に5V、もう一方の端子1002をグランドに接続し、中点Pの電位の変化から検出した。実験においては、図10に示したように、センサ部902a及び902b上を固定部101に固定された磁性粒子を図中に示した矢線の方向に走査した。
【0054】
中点Pから出力された信号は、図1で説明した増幅回路105によって約20万倍に増幅され、増幅されたアナログ信号がA/Dコンバータ106によってデジタル信号に変換されて出力される。
図12は、以上のようにして行った実験の結果、固定部101に磁性粒子が固定された場合に得られる信号と、磁性粒子が固定されていない場合に得られる信号との比を示したものである。図12の縦軸は、磁性粒子が固定された生化学反応容器からの出力をA、磁性粒子が固定されていない生化学反応容器からの出力をBとしたときのA/B比を示している。また、横軸は、磁気センサ901の外装体表面と基材102の底面との距離を示している。図12によれば、磁気センサ901外装体表面と基材102の底面との距離が150μm以上、600μm以下の範囲にあるときに比較的大きいA/B比が得られることが分かる。なお、信号の高A/B比は、信号のS/N比が高いことを示している。
【0055】
磁気センサ901と基材102の底面との距離は、センサ部902a、902bと反応面4との距離に対応する。本実施形態では、基材102の厚さが約100μm程度であることと、使用した磁気センサにおいてセンサ部から外装体表面までの距離が約300μmであることから、センサ部902a、902bと反応面4との距離は、横軸に示した距離に約400μmを加算した値を持つ。
したがって、本実施形態の測定装置は、センサ部902a、902bと反応面4との距離の範囲を450μm以上、900μm以下に制限することによって高S/N比の信号を得られる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の磁性粒子検出装置は、医療診断・環境計測等において測定対象溶液中の被検出物質を高感度に、簡便に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態の測定装置の構成を説明するための図である。
【図2】図1に示した磁気センサを説明するための図である。
【図3】本発明の一実施形態の磁気センサと磁性粒子の固定面との距離について説明するための図である。
【図4】図2に示した磁気センサの抵抗の変化を電圧変化として取り出すことを説明するための図である。
【図5】本発明の一実施形態の磁性粒子の固定について説明するための図である。
【図6】本発明の一実施形態の基材及び固定部を説明するための図であって、組み立て前の生化学反応容器を示した図である。
【図7】本発明の一実施形態の基材及び固定部を説明するための図であって、組み立て前の生化学反応容器を示した他の図である。
【図8】図6及び図7に示した構成を組み立てて形成された生化学反応容器を示した図である。
【図9】図8に示した生化学反応容器と異なる形態の生化学反応容器を示した図である。
【図10】本発明の測定装置で得られる効果を確認するために行った実験で用いた磁気センサを説明するための図である。
【図11】実験において磁気センサの抵抗の変化を電圧変化として取り出すことを説明するための図である。
【図12】実験の結果得られた信号を示した図である。
【符号の説明】
【0058】
4 反応面 、6,7 基材、20 液体不浸透性基材、71 添加孔、101 固定部、102 基材、103,203 磁気センサ、105 増幅回路、106 A/Dコンバータ、104 ステッピングモータ、107 固定台、201 センサ部、202 磁場発生部、204 外装体、503 磁性粒子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にあって、測定すべき物質との特異的結合を介して磁性粒子が固定された固定部と、
前記固定部を前記基材と共に移動させる移動手段と、
前記移動手段によって移動された前記固定部が通過する位置を含む領域に磁場を印加する磁場発生手段と、
前記磁場発生手段によって印加された前記磁場の変化を検出する磁気センサと、を備えてなり、
前記磁気センサは、前記固定部において前記磁性粒子が固定される固定面からの距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置されることを特徴とする磁気センサを用いた測定装置。
【請求項2】
前記磁気センサが半導体磁気抵抗素子を備え、前記磁気センサは、該半導体磁気抵抗素子と前記固定面との距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置されることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサを用いた測定装置。
【請求項3】
前記磁性粒子は、平均粒子径が0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサを用いた測定装置。
【請求項4】
前記基材は、液体浸透性を持たない有機高分子材料でなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気センサを用いた測定装置。
【請求項5】
前記有機高分子材料は、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の磁気センサを用いた測定装置。
【請求項6】
基材上にあって、測定すべき物質との特異的結合を介して磁性粒子が固定された固定部を、前記基材と共に移動させる移動工程と、
前記移動工程において前記固定部が通過する位置を含む領域に磁場を印加する磁場発生工程と、
前記固定部において前記磁性粒子が固定される固定面からの距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置された磁気センサにより、前記磁場発生工程において印加された前記磁場の変化を検出する磁気検出工程と、を含むことを特徴とする磁気センサを用いた測定方法。
【請求項1】
基材上にあって、測定すべき物質との特異的結合を介して磁性粒子が固定された固定部と、
前記固定部を前記基材と共に移動させる移動手段と、
前記移動手段によって移動された前記固定部が通過する位置を含む領域に磁場を印加する磁場発生手段と、
前記磁場発生手段によって印加された前記磁場の変化を検出する磁気センサと、を備えてなり、
前記磁気センサは、前記固定部において前記磁性粒子が固定される固定面からの距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置されることを特徴とする磁気センサを用いた測定装置。
【請求項2】
前記磁気センサが半導体磁気抵抗素子を備え、前記磁気センサは、該半導体磁気抵抗素子と前記固定面との距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置されることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサを用いた測定装置。
【請求項3】
前記磁性粒子は、平均粒子径が0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサを用いた測定装置。
【請求項4】
前記基材は、液体浸透性を持たない有機高分子材料でなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気センサを用いた測定装置。
【請求項5】
前記有機高分子材料は、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の磁気センサを用いた測定装置。
【請求項6】
基材上にあって、測定すべき物質との特異的結合を介して磁性粒子が固定された固定部を、前記基材と共に移動させる移動工程と、
前記移動工程において前記固定部が通過する位置を含む領域に磁場を印加する磁場発生工程と、
前記固定部において前記磁性粒子が固定される固定面からの距離が450μm以上、900μm以下になる位置に配置された磁気センサにより、前記磁場発生工程において印加された前記磁場の変化を検出する磁気検出工程と、を含むことを特徴とする磁気センサを用いた測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−187572(P2007−187572A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6379(P2006−6379)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】
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