説明

磁気センサ

【課題】 動作点の変動と抵抗値比のばらつきを抑制することができると共に、温度特性を改善した磁気センサを提供する。
【解決手段】 磁気センサ1は、センサ回路部2を備える。このセンサ回路部2は、第1および第3の磁気抵抗素子R1,R3を直列接続した第1の直列回路6と、第2および第4の磁気抵抗素子R2,R4を直列接続した第2の直列回路7とを備え、第1の直列回路6と第2の直列回路7とを並列接続したブリッジ回路5によって構成される。第1ないし第4の磁気抵抗素子R1〜R4の表面は絶縁膜12によって覆われる。また、第3の磁気抵抗素子R3および第4の磁気抵抗素子R4の表面には、絶縁膜12を挟んで磁性材料からなる磁束集磁膜13が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子を用いて磁界を検出する磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、4個の第1ないし第4の磁気抵抗素子によってブリッジ回路を構成した磁気センサが知られている(例えば、特許文献1参照)。第1の方向の磁界強さを大きくしていった場合、第1および第2の磁気抵抗素子の抵抗値は減少する傾向があり、第3および第4の磁気抵抗素子の抵抗値は不変である。一方、第1の方向と直角方向の磁界強さを大きくしていった場合、第3および第4の磁気抵抗素子の抵抗値は減少する傾向があり、第1および第2の磁気抵抗素子の抵抗値は不変である。第1の磁気抵抗素子と第3の磁気抵抗素子とは、第1の接続点を介して直列接続されて第1の直列回路をなし、第2の磁気抵抗素子と第4の磁気抵抗素子とは、第2の接続点を介して直列接続されて第2の直列回路をなす。さらに、第1の直列回路の第1の磁気抵抗素子側と第2の直列回路の第4の磁気抵抗素子側とは第3の接続点を介して共通接続されると共に、第1の直列回路の第3の磁気抵抗素子側と第2の直列回路の第2の磁気抵抗素子側とを第4の接続点を介して共通接続され、第3の接続点および第4の接続点を介して電源電圧が印加されると共に、第1の接続点および第2の接続点を介して磁界変化に伴う出力電圧が取り出される。なお、一般的に、4個の第1ないし第4の磁気抵抗素子は、互いに同じ温度特性となるように、同じ材料を用いてほぼ同じ形状に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−297463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、第1の方向から第2の方向に傾斜した磁界が磁気センサに作用すると、この磁界の第1の方向の成分によって第1および第2の磁気抵抗素子の抵抗値が変化するのに加えて、この磁界の第2の方向の成分によって第3および第4の磁気抵抗素子の抵抗値も変化する。この結果、例えば第1の接続点の電位と第2の接続点の電位の大きさが逆転する磁界強度を磁気センサの動作点としたときに、この動作点は磁気センサに与えられる磁界の方向に応じて変化する。具体的には、磁気センサに与えられる磁界を第1の方向から第2の方向に近づく方向に傾斜角度を順次変化させると、傾斜角度が大きくなるに従って、第3および第4の磁気抵抗素子の抵抗値の変化が大きくなるため、磁気センサの動作点の変動も大きくなるという問題がある。
【0005】
このような問題点を考慮して、特許文献1の磁気センサでは、第3および第4の磁気抵抗素子のパターン線幅を狭くすることで磁気抵抗効果を小さくし、第3および第4の磁気抵抗素子の感度を低下させている。しかし、第1および第2の磁気抵抗素子と、第3および第4の磁気抵抗素子とではパターン線幅が異なるため、磁気抵抗素子を形成する際の加工ばらつきの影響の度合いが異なる。この結果、第1と第2の磁気抵抗素子との間で抵抗値比と、第3と第4の磁気抵抗素子との間で抵抗値比に大きなばらつきが発生し、磁気センサの製造ロット毎に特性ばらつきが発生しやすいという問題がある。また、第1ないし第4の磁気抵抗素子のパターン線幅や厚さが異なる結果、各磁気抵抗素子の温度係数にばらつきが生じ、温度特性が一定しないという問題がある。
【0006】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、動作点の変動と抵抗値比のばらつきを抑制することができると共に、温度特性を改善した磁気センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、第1の方向の検知磁界が与えられると抵抗値が最大に変化する第1および第2の磁気抵抗素子と、第3および第4の磁気抵抗素子とを有し、前記第1の磁気抵抗素子と前記第3の磁気抵抗素子とを第1の接続点を介して直列接続してなる第1の直列回路と、前記第2の磁気抵抗素子と前記第4の磁気抵抗素子とを第2の接続点を介して直列接続してなる第2の直列回路とを、前記第1の直列回路の前記第1の磁気抵抗素子側と前記第2の直列回路の前記第4の磁気抵抗素子側とを第3の接続点を介して共通接続すると共に、前記第1の直列回路の前記第3の磁気抵抗素子側と前記第2の直列回路の前記第2の磁気抵抗素子側とを第4の接続点を介して共通接続し、前記第3の接続点および前記第4の接続点を介して電源電圧を印加すると共に、前記第1の接続点および前記第2の接続点を介して磁界変化に伴う出力電圧を取り出す磁気センサにおいて、前記第3および第4の磁気抵抗素子の表面に磁束集磁手段を設け、前記第1の方向の検知磁界と異なる方向の磁界が与えられたときに、前記第3および第4の磁気抵抗素子に印加される磁界を前記磁束集磁手段に集磁し、前記第3および第4の磁気抵抗素子の抵抗値の変化を低減したことを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、第1の方向の検知磁界が与えられると抵抗値が最大に変化する第1および第2の磁気抵抗素子と、第3および第4の磁気抵抗素子とを有し、前記第1の磁気抵抗素子と前記第3の磁気抵抗素子とを第1の接続点を介して直列接続してなる第1の直列回路と、前記第2の磁気抵抗素子と前記第4の磁気抵抗素子とを第2の接続点を介して直列接続してなる第2の直列回路とを、前記第1の直列回路の前記第1の磁気抵抗素子側と前記第2の直列回路の前記第4の磁気抵抗素子側とを第3の接続点を介して共通接続すると共に、前記第1の直列回路の前記第3の磁気抵抗素子側と前記第2の直列回路の前記第2の磁気抵抗素子側とを第4の接続点を介して共通接続し、前記第3の接続点および前記第4の接続点を介して電源電圧を印加すると共に、前記第1の接続点および前記第2の接続点を介して磁界変化に伴う出力電圧を取り出す磁気センサにおいて、前記第1および第2の磁気抵抗素子の表面に第1の磁束集磁手段を設けると共に、該第1の磁束集磁手段よりも透磁率の大きい第2の磁束集磁手段を前記第3および第4の磁気抵抗素子の表面に設け、前記第1の方向の検知磁界と異なる方向の磁界が与えられたときに、前記第1および第2の磁気抵抗素子に印加される磁界が前記第1の磁束集磁手段に集磁される量に比べて、前記第3および第4の磁気抵抗素子に印加される磁界が前記第2の磁束集磁手段に集磁される量を多くなし、前記第1および第2の磁気抵抗素子の抵抗値の変化に比べて前記第3および第4の磁気抵抗素子の抵抗値の変化を低減したことを特徴としている。
【0009】
請求項3の発明では、前記第3および第4の接続点側には、前記第1の直列回路および前記第2の直列回路を挟むようにヨークが設けられている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明では、第3および第4の磁気抵抗素子の表面に磁束集磁手段を設けたから、第1の方向の検知磁界と異なる方向の磁界が与えられたときに、第3および第4の磁気抵抗素子に印加される磁界を磁束集磁手段に集磁し、第3および第4の磁気抵抗素子の抵抗値の変化を低減することができる。このため、磁界が第1の方向から傾斜して作用したときでも、第3および第4の磁気抵抗素子の抵抗値の変化を小さくすることができ、磁気センサの動作点の変動を抑制することができる。
【0011】
また、第1ないし第4の磁気抵抗素子は全て同じパターン線幅や厚さで形成することができる。このため、磁気抵抗素子を形成する際の加工ばらつきが生じたときでも、第1および第2の磁気抵抗素子と第3および第4の磁気抵抗素子との間で抵抗値比は殆ど変わらないから、抵抗値比のばらつきを抑制することができる。さらに、第1ないし第4の磁気抵抗素子のパターン線幅や厚さ、および、成膜材料をそろえたことにより、第1ないし第4の磁気抵抗素子の各温度抵抗係数をほぼ一定にすることができる。また、表皮効果によって各磁気抵抗素子の表面近傍には電流が集中して流れるが、第1ないし第4の磁気抵抗素子のパターン線幅や厚さをそろえたことにより、各磁気抵抗素子に及ぼす表皮効果の影響はほぼ一定となる。これらの結果、磁気センサを構成する第1ないし第4の磁気抵抗素子に係る、温度係数のばらつきを低減することができる。
【0012】
請求項2の発明では、第1および第2の磁気抵抗素子の表面に第1の磁束集磁手段を設けると共に、第3および第4の磁気抵抗素子の表面に第1の磁束集磁手段よりも透磁率の大きい第2の磁束集磁手段を設ける構成とした。このため、第1の方向の検知磁界と異なる方向の磁界が与えられたときに、第1および第2の磁気抵抗素子に印加される磁界が第1の磁束集磁手段に集磁される量に比べて、第3および第4の磁気抵抗素子に印加される磁界が第2の磁束集磁手段に集磁される量を多くして、第1および第2の磁気抵抗素子の抵抗値の変化に比べて第3および第4の磁気抵抗素子の抵抗値の変化を低減することができる。このため、磁界が第1の方向から傾斜して作用したときでも、第3および第4の磁気抵抗素子の抵抗値の変化を小さくすることができ、磁気センサの動作点の変動を抑制することができる。
【0013】
また、第1ないし第4の磁気抵抗素子は全て同じパターン線幅や厚さで形成することができるから、請求項1の発明と同様に、抵抗値比のばらつきを抑制することができ、また、磁気センサを構成する第1ないし第4の磁気抵抗素子に係る温度係数のばらつきを低減することができる。
【0014】
請求項3の発明では、第3および第4の接続点側には、第1の直列回路および第2の直列回路を挟むようにヨークを設けたから、ヨークの間では第1の方向に沿うように磁界を形成することができる。このため、第2の方向の磁界を低減することができるから、磁気センサの動作点の変動や抵抗値比のばらつきをさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態による磁気センサを示す正面図である。
【図2】磁気センサを図1中の矢示II−II方向からみた断面図である。
【図3】磁気センサを示す回路図である。
【図4】磁気センサに作用する磁界を示す説明図である。
【図5】比較例において、磁界のY方向成分の強度と出力電圧との関係を示す特性線図である。
【図6】第2の実施の形態による磁気センサを示す正面図である。
【図7】第3の実施の形態による磁気センサを示す正面図である。
【図8】図7中の磁気センサにX方向成分を含む磁界が作用した状態を示す説明図である。
【図9】図7中の磁気センサにX方向成分を含まない磁界が作用した状態を示す説明図である。
【図10】磁気センサを図7中の矢示X−X方向からみた断面図である。
【図11】変形例による磁気センサを示す図10と同様な位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態による磁気センサについて、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
図1ないし図4を用いて、第1の実施の形態による磁気センサ1を説明する。磁気センサ1は、磁性薄膜磁気抵抗素子からなるセンサ回路部2および差動増幅器3とを備え、パッケージ内部に集積化することで小型化され、AMR−IC(Anisotropic Magneto Resistance Integrated Circuit)として形成される。
【0018】
センサ回路部2は、例えば互いに直交したX方向およびY方向に沿って広がる基板4の表面に形成される。センサ回路部2は、4個の磁気抵抗素子R1〜R4から構成される。磁気抵抗素子R1〜R4は、長い短冊状パターンと、短い短冊状パターンとを交互に接続することで、ミアンダ状に形成される。第1および第2の磁気抵抗素子R1,R2における長い短冊状パターンの伸長方向はX方向に沿って延び、第1の方向となるY方向の検知磁界が与えられると抵抗値は最も小さくなる。一方、第3および第4の磁気抵抗素子R3,R4における長い短冊状パターンの伸長方向はY方向に沿って延び、第2の方向となるX方向の検知磁界が与えられると抵抗値は最も小さくなる。なお、磁気抵抗素子R1〜R4は、例えば、磁気抵抗材料であるパーマロイ(NiFe)等を基板4に成膜したのち、フォトリソグラフィ技術等の微細加工技術を用いて所定形状に形成される。
【0019】
図1に示すように、第1の磁気抵抗素子R1は、基板4の左下に配置形成されると共に、第2の磁気抵抗素子R2は基板4の右上に配置形成される。また、第3の磁気抵抗素子R3は基板4の左上に配置形成される共に、第4の磁気抵抗素子R4は基板4の右下に配置形成される。
【0020】
これら第1ないし第4の磁気抵抗素子R1〜R4はフルブリッジで接続され、ブリッジ回路5を構成する。具体的には、第1の磁気抵抗素子R1と第3の磁気抵抗素子R3とを第1の接続点P1を介して直列接続することにより、第1の直列回路6を構成する。また、第2の磁気抵抗素子R2と第4の磁気抵抗素子R4とを第2の接続点P2を介して直列接続することにより、第2の直列回路7を構成する。
【0021】
第1の直列回路6の第1の磁気抵抗素子R1側と第2の直列回路7の第4の磁気抵抗素子R4側とを第3の接続点P3を介して共通接続する。第1の直列回路6の第3の磁気抵抗素子R3側と第2の直列回路7の第2の磁気抵抗素子R2側とを第4の接続点P4を介して共通接続する。これにより、第1の直列回路6と第2の直列回路7が並列接続され、ブリッジ回路5が構成される。
【0022】
そして、第3の接続点P3は、外部のグランドGNDに接続するためのグランド端子8が電気的に接続される。また、第4の接続点P4は、駆動電圧Vddを供給するための駆動電圧端子9が電気的に接続される。これにより、ブリッジ回路5には、第3の接続点P3および第4の接続点P4を介して電源電圧となる駆動電圧Vddが印加される。
【0023】
一方、第1の接続点P1および第2の接続点P2は、出力電圧V1,V2を取り出すための出力端子10,11がそれぞれ電気的に接続される。これにより、ブリッジ回路5は、第1の接続点P1および第2の接続点P2を介して磁界変化に伴う出力電圧V1,V2を取り出すことができる。
【0024】
差動増幅器3の入力端子は、第1の接続点P1および第2の接続点P2にそれぞれ接続される。差動増幅器3は、2つの入力端子の間に生じる電位差、即ち出力電圧V1,V2間の電位差(V1−V2)を差動増幅し、検出信号Voutを出力する。
【0025】
第1ないし第4の磁気抵抗素子R1〜R4の表面には、絶縁材料からなる絶縁膜12が形成される。また、第3の磁気抵抗素子R3および第4の磁気抵抗素子R4を覆うように、絶縁膜12の表面には、磁性材料で形成されてなる磁束集磁手段としての、略四角形状の磁束集磁膜13が設けられる。
【0026】
磁束集磁膜13は、例えば蒸着、スパッタ等の成膜手段を用いて形成した金属膜やセラミック膜でもよく、磁性体粉末を混入した樹脂を塗布した膜でもよい。磁束集磁膜13の透磁率、厚さ寸法、磁気抵抗素子R3,R4との離間寸法(絶縁膜12の厚さ寸法)等は、磁束集磁膜13を設けた場合においてX方向の磁界を与えたときの磁気抵抗素子R3,R4の抵抗値と、磁束集磁膜13を設けない場合において同じ強度のX方向の磁界を与えたときの磁気抵抗素子R3,R4の抵抗値との比が、磁気センサの仕様に応じて所定の割合以下、例えば1/2以下となるように設定される。なお、磁束集磁膜13は一般的に、透磁率が大きく、厚さが厚いことが磁束集磁効果を高めるために望ましい。これにより、Y方向以外の磁界φが与えられたときには、磁界φを磁束集磁膜13に集磁して、第3および第4の磁気抵抗素子R3,R4に印加される磁界φを低減することができる。
【0027】
本発明の実施の形態による磁気センサ1は以上のような構成を有するものであり、次に磁界の検出動作について説明する。
【0028】
最初に、磁束集磁膜13を設けていない比較例としての磁気センサの、磁界の検出動作について説明する。まず、磁気センサに、Y方向成分φyのみからなり、X方向成分φxは存在しない+(プラス)向きのY方向の磁界φを与える。このとき、磁界φの強度が大きくなるにつれ、即ち、+向きのY方向成分φyが大きくなるにつれて、第1および第2の磁気抵抗素子R1,R2の抵抗値が減少する。一方、磁界φの強度が大きくなってもX方向成分φxは存在しないため、第3および第4の磁気抵抗素子R3,R4の抵抗値は殆ど変化しない。このため、図5中に実線で示すように、+向きのY方向成分φyの強度が大きくなるに従って、接続点P1の出力電圧V1が減少し、接続点P2の出力電圧V2が増加する。なお、+向きと180度方向が異なる、−(マイナス)向きのY方向成分φyの場合についても、+向きのY方向成分φyと同様の出力特性となる。
【0029】
ここで、Y方向成分φyの強度が0(A/m)(φy=0(A/m))のときに、接続点P1の出力電圧V1が接続点P2の出力電圧V2よりも大きくなるように、磁気抵抗素子R1,R3の抵抗値を設定する。これにより、Y方向成分φyの強度が0(A/m)付近となるときには、差動増幅器3の検出信号Voutは、Highレベルとなる。Y方向成分φyの強度が増加して動作点φy0に達すると、接続点P1の出力電圧V1と接続点P2の出力電圧V2がほぼ同じ値となる。そして、Y方向成分φyの強度が動作点φy0を超えて増加すると、接続点P1の出力電圧V1が接続点P2の出力電圧V2よりも小さくなり、差動増幅器3の検出信号Voutは、Lowレベルに切り換わる。
【0030】
一方、Y方向からX方向に向けて傾斜した磁界φが与えられたときには、磁界φの向きのY方向成分φyに応じて第1および第2の磁気抵抗素子R1,R2の抵抗値が変化し、Y方向成分φyの強度が大きくなるに従って、第1および第2の磁気抵抗素子R1,R2の抵抗値が減少する。このとき、±向きのY方向成分φyが大きくなると、±向きのX方向成分φxも大きくなるのに加え、磁界φの±向きのX方向成分φxの強度に応じて第3および第4の磁気抵抗素子R3,R4の抵抗値が変化する。
【0031】
このため、図5中に破線で示すように、±向きのX方向成分φxを含む磁界φが作用したときには、±向きのY方向成分φyの強度が変化しても、接続点P1,P2の出力電圧V1,V2の変化が小さくなる。この結果、差動増幅器3の検出信号VoutがLowレベルからHighレベルに切り換わるときの磁界φのY方向成分φyの強度、即ち動作点φy1は、Y方向成分φyだけの磁界φが与えられたときの動作点φy0に比べて大きくなり、磁界の検出感度が低下する傾向がある。
【0032】
次に、本実施の形態による磁気センサ1での磁界の検出動作について説明する。本実施の形態による磁気センサ1でも、±向きのX方向成分φxを含まない磁界φが作用したときには、前述した比較例とほぼ同様な検出動作を行う。このため、磁界φの±向きのY方向成分φyの強度が大きくなるに従って、接続点P1の出力電圧V1が低下し、接続点P2の出力電圧V2が増加する。そして、±向きのY方向成分φyの強度が動作点φy0よりも小さいときには、差動増幅器3の検出信号VoutはHighレベルとなり、Y方向成分φyの強度が動作点φy0よりも大きいときには、差動増幅器3の検出信号Voutは、Lowレベルになる。
【0033】
一方、±向きのX方向成分φxを含む磁界φが作用したときには、本実施の形態による磁気センサ1は、比較例と異なり、±向きのX方向成分φxの影響を低減して、±向きのY方向成分φyだけの磁界φが与えられたときに近い検出動作を行うことができる。
【0034】
具体的に説明すると、本実施の形態による磁気センサ1では、第3および第4の磁気抵抗素子R3,R4の表面には磁束集磁膜13を設けた。このため、±向きのY方向から傾いた磁界φが与えられたときには、第1および第2の磁気抵抗素子R1,R2には磁界φがそのまま作用するのに対し、第3および第4の磁気抵抗素子R3,R4付近の磁界φは、磁束集磁膜13に引き付けられ、第3および第4の磁気抵抗素子R3,R4には作用し難い。この結果、±向きのX方向成分φxを含む磁界φが与えられたときでも、第3および第4の磁気抵抗素子R3,R4の抵抗値の変化を小さくすることができるから、±向きのX方向成分φxの影響を抑えて、主に±向きのY方向成分φyによって出力電圧V1,V2を変化させることができる。従って、X方向成分φxを含む磁界φが与えられたときでも、差動増幅器3の検出信号VoutがHighレベルからLowレベルに切り換わるときの動作点を、Y方向成分φyだけの磁界φが与えられたときの動作点φy0に近付けることができ、動作点の変動を小さくすることができる。
【0035】
また、第1ないし第4の磁気抵抗素子R1〜R4は全て同じパターン線幅や厚さで形成することができる。このため、磁気抵抗素子R1〜R4を形成する際の加工ばらつきが生じたときでも、第1および第2の磁気抵抗素子R1,R2と第3および第4の磁気抵抗素子R3,R4との間で抵抗値比は殆ど変わらないから、抵抗値比のばらつきを抑制することができ、センサ毎の特性ばらつきを小さくすることができる。さらに、第1ないし第4の磁気抵抗素子R1〜R4のパターン線幅や厚さ、および、成膜材料をそろえたことにより、第1ないし第4の磁気抵抗素子R1〜R4の各温度抵抗係数をほぼ一定にすることができる。また、表皮効果によって各磁気抵抗素子の表面近傍には電流が集中して流れるが、第1ないし第4の磁気抵抗素子R1〜R4のパターン線幅や厚さをそろえたことにより、各磁気抵抗素子に及ぼす表皮効果の影響はほぼ一定となる。これらの結果、磁気センサ1を構成する第1ないし第4の磁気抵抗素子R1〜R4に係る、温度係数のばらつきを低減することができる。
【0036】
次に、図6に、第2の実施の形態による磁気センサを示す。第2の実施の形態の特徴は、第1および第2の磁気抵抗素子の表面に第1の磁束集磁手段を設けると共に、第1の磁束集磁手段よりも透磁率の大きい第2の磁束集磁手段を第3および第4の磁気抵抗素子の表面に設けたことにある。なお、第2の実施の形態では第1の実施の形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0037】
第2の実施の形態による磁気センサ21は、第1の実施の形態による磁気センサ1と同様に、センサ回路部2を備えると共に、このセンサ回路部2は、第1および第3の磁気抵抗素子R1,R3を直列接続した第1の直列回路6と、第2および第4の磁気抵抗素子R2,R4を直列接続した第2の直列回路7とを並列接続したブリッジ回路5によって構成されている。そして、第1ないし第4の磁気抵抗素子R1〜R4の表面は絶縁膜12によって覆われる。
【0038】
第1の磁気抵抗素子R1および第2の磁気抵抗素子R2の表面には、絶縁膜12を挟んで磁性材料からなる第1の磁束集磁手段としての第1の磁束集磁膜22が形成される。また、第3の磁気抵抗素子R3および第4の磁気抵抗素子R4の表面には、絶縁膜12を挟んで磁性材料からなる第2の磁束集磁手段としての第2の磁束集磁膜23が形成される。第2の磁束集磁膜23の透磁率は、第1の磁束集磁膜22の透磁率よりも大きい。
【0039】
これにより、Y方向の検知磁界と異なる方向の磁界が与えられたときに、第1および第2の磁気抵抗素子R1,R2に印加される磁界が第1の磁束集磁膜22に集磁される量に比べて、第3および第4の磁気抵抗素子R3,R4に印加される磁界が第2の磁束集磁膜23に集磁される量を多くなる。この結果、第1および第2の磁気抵抗素子R1,R2の抵抗値の変化に比べて第3および第4の磁気抵抗素子R3,R4の抵抗値の変化を低減することができる。
【0040】
かくして、第2の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0041】
次に、図7ないし図10に、第3の実施の形態による磁気センサを示す。第3の実施の形態の特徴は、第3および第4の接続点側に、第1の直列回路および第2の直列回路を挟むようにヨークを設けたことにある。なお、第3の実施の形態では第1の実施の形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0042】
磁気センサ31は、第1の実施の形態による磁気センサ1と同様、センサ回路部2を備えると共に、このセンサ回路部2は、第1および第3の磁気抵抗素子R1,R3を直列接続した第1の直列回路6と、第2および第4の磁気抵抗素子R2,R4を直列接続した第2の直列回路7とを並列接続したブリッジ回路5によって構成されている。
【0043】
そして、第1ないし第4の磁気抵抗素子R1〜R4の表面は絶縁膜12によって覆われる。また、第3の磁気抵抗素子R3および第4の磁気抵抗素子R4の表面には、絶縁膜12を挟んで磁性材料からなる磁束集磁膜13が形成される。
【0044】
ヨーク32,33は、磁性体材料を用いて細長いブロック状に形成される。このヨーク32,33は、チップ状の基板4とは別個に設けられ、基板4をY方向両側から挟む位置に配置される。このとき、ヨーク32は、第3の接続点P3側(図7の基板4の下側)に配置され、ヨーク33は、第4の接続点P4側(図7の基板4の上側)に配置される。そして、ヨーク32,33は、第1の直列回路6および第2の直列回路7を磁界の検知方向、即ちY方向両側から挟んでいる。
【0045】
ヨーク32,33のX方向の長さ寸法は、第1,第3の磁気抵抗素子R1,R3の長さ寸法と第4,第2の磁気抵抗素子R4,R2の長さ寸法とを加えた値よりも大きく形成され、具体的には基板4よりも大きく形成される。また、ヨーク32,33の厚さ寸法は、例えば磁気抵抗素子R1〜R4と基板4とを含めた高さ寸法よりも大きく形成される。これにより、Y方向から基板4を見たときには、ヨーク32,33によって磁気抵抗素子R1〜R4全体が隠れる。
【0046】
かくして、第3の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第3の実施の形態では、第3および第4の接続点P3,P4側には、第1の直列回路6および第2の直列回路7を挟むようにヨーク32,33を設けたから、図8および図9に示すように、ヨーク32,33の間ではY方向に沿うように磁界を形成することができる。このため、磁界のY方向成分を増やし、X方向成分を減らすことができるから、磁気センサ31の動作点の変動や抵抗値比のばらつきをさらに抑制することができる。また、第1および第2の実施の形態と同様に、第1ないし第4の磁気抵抗素子R1〜R4に係る温度係数のばらつきを低減することができる。
【0047】
なお、第3の実施の形態では、ヨーク32,33を基板4とは別個に設ける構成としたが、図11に示す変形例による磁気センサ41のように、基板42上にヨーク43,44を設ける構成としてもよい。この場合、第3の実施の形態のように、ヨーク32,33を基板4とは別個に設けた場合に比べて、磁気センサ41の外形寸法を小さくすることができる。
【0048】
また、前記各実施の形態では、絶縁膜12の表面に形成した磁束集磁膜13,22,23によって磁束集磁手段を構成したが、例えば絶縁膜12の表面に接着固定した板状の磁性体片によって磁束集磁手段を構成してもよい。
【0049】
また、前記各実施の形態では、磁気センサ1,21,31は磁気抵抗素子R1〜R4を有するセンサ回路部2と、差動増幅器3とを集積化する構成としたが、差動増幅器3を省く構成としてもよい。
【0050】
また、前記各実施の形態では、第1ないし第4の磁気抵抗素子R1〜R4は近接して平行に形成された複数本の線状パターンを先端部で互い違いに接続する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば1本の線状パターンによって磁気抵抗素子R1〜R4を構成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1,21,31,41 磁気センサ
4,42 基板
6 第1の直列回路
7 第2の直列回路
13 磁束集磁膜(磁束集磁手段)
22 第1の磁束集磁膜(第1の磁束集磁手段)
23 第2の磁束集磁膜(第2の磁束集磁手段)
32,33,43,44 ヨーク
R1 第1の磁気抵抗素子
R2 第2の磁気抵抗素子
R3 第3の磁気抵抗素子
R4 第4の磁気抵抗素子
P1 第1の接続点
P2 第2の接続点
P3 第3の接続点
P4 第4の接続点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向の検知磁界が与えられると抵抗値が最大に変化する第1および第2の磁気抵抗素子と、第3および第4の磁気抵抗素子とを有し、
前記第1の磁気抵抗素子と前記第3の磁気抵抗素子とを第1の接続点を介して直列接続してなる第1の直列回路と、前記第2の磁気抵抗素子と前記第4の磁気抵抗素子とを第2の接続点を介して直列接続してなる第2の直列回路とを、前記第1の直列回路の前記第1の磁気抵抗素子側と前記第2の直列回路の前記第4の磁気抵抗素子側とを第3の接続点を介して共通接続すると共に、前記第1の直列回路の前記第3の磁気抵抗素子側と前記第2の直列回路の前記第2の磁気抵抗素子側とを第4の接続点を介して共通接続し、
前記第3の接続点および前記第4の接続点を介して電源電圧を印加すると共に、前記第1の接続点および前記第2の接続点を介して磁界変化に伴う出力電圧を取り出す磁気センサにおいて、
前記第3および第4の磁気抵抗素子の表面に磁束集磁手段を設け、
前記第1の方向の検知磁界と異なる方向の磁界が与えられたときに、前記第3および第4の磁気抵抗素子に印加される磁界を前記磁束集磁手段に集磁し、前記第3および第4の磁気抵抗素子の抵抗値の変化を低減したことを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
第1の方向の検知磁界が与えられると抵抗値が最大に変化する第1および第2の磁気抵抗素子と、第3および第4の磁気抵抗素子とを有し、
前記第1の磁気抵抗素子と前記第3の磁気抵抗素子とを第1の接続点を介して直列接続してなる第1の直列回路と、前記第2の磁気抵抗素子と前記第4の磁気抵抗素子とを第2の接続点を介して直列接続してなる第2の直列回路とを、前記第1の直列回路の前記第1の磁気抵抗素子側と前記第2の直列回路の前記第4の磁気抵抗素子側とを第3の接続点を介して共通接続すると共に、前記第1の直列回路の前記第3の磁気抵抗素子側と前記第2の直列回路の前記第2の磁気抵抗素子側とを第4の接続点を介して共通接続し、
前記第3の接続点および前記第4の接続点を介して電源電圧を印加すると共に、前記第1の接続点および前記第2の接続点を介して磁界変化に伴う出力電圧を取り出す磁気センサにおいて、
前記第1および第2の磁気抵抗素子の表面に第1の磁束集磁手段を設けると共に、
該第1の磁束集磁手段よりも透磁率の大きい第2の磁束集磁手段を前記第3および第4の磁気抵抗素子の表面に設け、
前記第1の方向の検知磁界と異なる方向の磁界が与えられたときに、前記第1および第2の磁気抵抗素子に印加される磁界が前記第1の磁束集磁手段に集磁される量に比べて、前記第3および第4の磁気抵抗素子に印加される磁界が前記第2の磁束集磁手段に集磁される量を多くなし、
前記第1および第2の磁気抵抗素子の抵抗値の変化に比べて前記第3および第4の磁気抵抗素子の抵抗値の変化を低減したことを特徴とする磁気センサ。
【請求項3】
前記第3および第4の接続点側には、前記第1の直列回路および前記第2の直列回路を挟むようにヨークが設けられてなる請求項1または2に記載の磁気センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−44641(P2013−44641A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182529(P2011−182529)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】