説明

磁気式エンコーダーとセンサー保持機構部

【課題】 磁気センサー素子と磁気媒体間のギャップ変動が小さく、組み立てが容易で、
部品点数が少なく、耐摺動性が高く、衝撃等の外力に対しても安定した磁気エンコーダー
を得る。また、磁気センサー素子はウェファーから砥石で切断した状態で使用できる磁気
エンコーダーを提供する。
【解決手段】 磁気センサーの保持機構の構造を、往復摺動相対移動方向を回転軸とする
回転に対する弾性と、往復相対移動方向に垂直で且つ磁気媒体に平行な方向を回転軸とす
る回転に対する弾性を有し、センサー素子に垂直な方向に対し弾性を有する渦巻き状板ば
ね構造とし、50mN以上800mN以下の範囲で磁気媒体に押付ける荷重を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、磁気媒体から出ている磁気を磁気センサーで検出し、可動部材の変位ある
いは速度を得ることができる磁気式エンコーダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
可動部材の変位や速度を精密に検出し帰還制御を行う機械装置は多い。一例として、オ
ートフォーカスカメラ用のレンズ鏡筒がある。レンズ鏡筒内には、電動モーターや超音波
モーターで合焦用レンズを進退させるフォーカス機構が設けられている。フォーカス機構
を構成する回転筒の回転変位を検出するには、磁気式エンコーダーが使われている。特許
文献1に、フォーカス機構に用いられている磁気式エンコーダーが開示されており、その
外観斜視図を図13a)に示す。鏡筒10に沿って設けられた曲率を有する磁気媒体15
に、磁気センサー5が押し当てられている。磁気センサー5は、磁気センサー素子1と加
圧ばね2から構成されている。図13a)を見ても判るように、磁気センサー5は磁気媒
体対向面の寸法に比べ、厚み方向の寸法は非常に薄くなっている。鏡筒内の限られたスペ
ースでは、磁気センサーに薄さが求められるため、薄肉化が難しい光学式エンコーダーよ
り磁気式エンコーダーが多用されている。磁気センサー素子1の出力を帰還させ、モータ
ー11を駆動し焦点を合わすものである。
【0003】
高精度に変位検出するため、磁気式エンコーダーには高い分解能が要求される。分解能
は磁気媒体の着磁ピッチで表すこともでき、その着磁ピッチは従来30〜50μmであっ
たのが、10〜20μmさらに10μm以下が求められて来ている。高分解能化を進める
に従い、磁気媒体と磁気センサー素子の間隔であるギャップの影響が大きくなり、ギャッ
プ変動をなくすことが必要となってくる。そのため、磁気媒体と磁気センサー素子を接触
させて摺動させる方式が有利であり、多く採用されている。
【0004】
本願において、磁気センサーと磁気媒体の位置関係の説明を解りやすくするため、磁気
媒体と磁気センサーが往復摺動相対移動する方向をX軸、X軸と垂直な方向の内、磁気媒
体の曲率中心と交わる方向をZ軸、他方をY軸と定義する。また、磁気センサーを磁気媒
体に押し当てる力が加わる点(加圧点)が、Z軸上に位置するときをX軸の原点とし、X
軸原点からX方向への位置ずれをXオフセットと定義する。更に、磁気センサーの摺動面
と磁気媒体の相対姿勢の説明を解りやすくするため、摺動面がX軸を回転軸として回転す
る角度をピッチ角、Y軸を回転軸として回転する角度をロール角とし、摺動面がX軸に平
行なとき、ロール角を0度、Y軸に平行なとき、ピッチ角を0度と定義する。
【0005】
図13b)に、摺動時の磁気センサーのピッチ角を安定に保つため、組み立て時に磁気
媒体15に磁気センサー素子1を均一に押し当てる加圧ばね2の構造を示す。磁気センサ
ー素子1はホルダー6に取り付けられ、ホルダー6の背面の揺動中心軸を支点として、ホ
ルダーは加圧ばね2に対し揺動する。揺動することで、加圧ばね2の固定部と磁気媒体間
の距離が変動しても、磁気センサー素子1は、スペーサー7を介して磁気媒体15と密着
させることができる。磁気センサー素子が磁気媒体の変位方向と略並行する揺動中心をも
って揺動するため、磁気センサー素子と磁気媒体とがスペーサー等を挟んで密着し、磁気
媒体の移動量(すなわち、合焦用レンズ群の進退量)を高精度に検出することができるも
のである。揺動中心が揺動時の支点となり、磁気センサー素子1を磁気媒体15に押付け
る加圧点8となる。磁気センサー素子1の出力はFPC(Flexible Print
Circuit)12によって取り出される。
【0006】
特許文献2に、一枚の板ばねに加圧機能とピッチ角を一定に保つための機能を持たせた
構造が開示されている。図14a)に示す様に、板ばね31はセンサー保持部24で磁気
センサー素子1を保持し、第一の腕部255と接続部256、更に第二の腕部257でセ
ンサー保持部24を支持して、固定部26が取付け台23に固定されている。磁気センサ
ー素子1の出力はFPC12によって取り出している。図14b)に示す様に、板ばね3
1の固定部26と磁気媒体15間の距離が変動しても、第一の腕部255と第二の腕部2
57は逆向きに撓み、ピッチ角を一定に保つことができる。しかし、より高精度化の要求
が進むにつれ、磁気媒体15と磁気センサー素子1のXオフセットとロール角によるギャ
ップ変動が大きな問題となってきた。
【0007】
特許文献3には、磁気センサー素子1のXオフセットとロール角よるギャップ変動を低
減する方法が開示されている。図15に示す様に、磁気センサー素子1の摺動方向の幅w
が、着磁ピッチの2〜15倍で、0.04〜0.3mmと非常に狭い磁気センサー素子1
を提案している。磁気媒体15と接する磁気センサー素子1の摺動方向幅を0.3mm以
下と小さくすることで、Xオフセットやロール角変動によるギャップ変動を減らし、信号
出力振幅の安定化を図っている。
【0008】
特許文献4には、加圧ばね機能と、ピッチ角とロール角変動に対して追従性をもったジ
ンバルばね機能を、一枚の板ばねに持たせた方法が開示されている。その外観斜視図を図
16a)に示す。ハードディスクドライブ(HDD)に用いられるもので、方形状の渦巻
き状板ばね32は、浮動ヘッドスライダ―33を保持するスライダー保持部27と固定部
26と渦巻き状弾性部25で構成されている。固定部26の4辺の各辺の略端の部位から
渦巻き状弾性部25が、スライダー保持部27を約3/4周してスライダー保持部の辺の
略中間の部位に達している。固定部26の略端の部位からスライダー保持部27の略中間
の部位としているのは、渦巻き状弾性部25の長さを少しでも長くするためである。渦巻
き状弾性部25を長くする事で、ロール方向とピッチ方向のばね剛性を下げることができ
、磁気媒体面の微小な凹凸に対し浮動ヘッドスライダー33の追従性を上げることができ
る。しかし、ロール方向とピッチ方向のばね剛性を下げているため、浮動ヘッドスライダ
ー33を磁気媒体15に押付ける力(荷重)が得られない。また、磁気媒体15と浮動ヘ
ッドスライダー33を摺動させながら、記録再生することはトラッキングの精度上できな
いものである。
【0009】
【特許文献1】特開2000−205808号公報
【特許文献2】特開2003−344105号公報
【特許文献3】特開2006−64381号公報
【特許文献4】特開昭63−149888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図15に示す特許文献3の様に摺動方向の幅を0.3mm以下と小さくすることで、X
オフセットやロール角の変動があっても、ギャップ変動を抑えることはできるが、実装す
る上で次の様な問題が発生している。摺動方向の幅wが小さいため、磁気センサー素子1
の摺動方向の両端の稜部14が磁気媒体15と接触し易くなるので、稜部14に曲面を形
成する必要がある。従来の磁気センサー素子は、ウェファー上に素子を形成した後、砥石
でウェファーを切断して得られた。しかし、稜部に曲面形成を行うには磁気センサー素子
単体にしてから行う必要があり、製造コスト低減が難しい。
【0011】
図15に示す特許文献3には、磁気センサー素子1の厚みh’に関して具体的な数値の
記載はないが、磁気センサー素子1の周囲にFPC12が設けられており、FPC12の
厚みより厚くする必要があることからh’は少なくとも0.5mm以上あると推測される
。また、図15から見ても厚みh’は少なくとも摺動方向の幅wの数倍はあると見られる
。このような幅wより厚みh’の厚い素子をサスペンション13上に、垂直に固着するこ
とが難しいのと、磁気センサー素子1の摺動方向の幅wの中央部に加圧点が位置するよう
に固着するのも非常に難しい。加圧点を支点として磁気センサー素子は磁気媒体移動方向
に引き連れられる様に力を受ける。加圧点がずれると磁気センサー素子は傾き易くなり、
センサー素子端部の稜部14が磁気媒体15と接触する頻度が更に高くなり、耐摩耗性の
低下を招く。また、摺動面積を小さくしたため、従来通りの磁気センサーを磁気媒体に押
付ける荷重値では、単位面積当りの押付け力が大きくなり過ぎ、耐摩耗性の低下を招く。
そのため、荷重を小さくする必要が出て来るが、荷重を小さくすると衝撃等で外部から磁
気エンコーダーに力が加わった時に、磁気センサー素子1が傾き易くなることも考えられ
る。
【0012】
図16に示す特許文献4の様な渦巻き状板ばね32は、加圧ばね機能とジンバルばね機
能を同時に有しているが、ピッチ剛性とロール剛性を小さくすると、同時にばね剛性も小
さくなる欠点を持っている。そのため、図16a)のような平らな渦巻き状板ばねでは、
磁気エンコーダーの様な磁気センサー素子を磁気媒体に押し当て摺動させて使用するには
、必要な荷重が得られない状況が発生する。特許文献4では、必要な押し当て荷重を確保
するため、図16b)のように、渦巻き状板ばね32と32’をエンボス状突起部28と
28’で接触させて取付けアーム53に固定し、渦巻き状板ばねを撓ませる構造が提示さ
れている。この構造では、部材数と組み立て工数が増加するため、加圧ばね機能とジンバ
ルばね機能を一枚の渦巻き状板ばねとした効果が全く相殺されてしまう。更に、初期状態
のピッチ角、ロール角ばらつきを押さえるためには、高い組み立て精度が必要となり、製
造コスト低減も難しい。
【0013】
図16a)に示す様な渦巻き状板ばね32を用い、部材数と組立工数を下げる方策の一
つとして図16c)に示す構造が考えられる。エンボス状突起部28を持たない渦巻き状
板ばね32のスライダー保持部27に浮動ヘッドスライダー33を接着し、渦巻き状板ば
ね32を取付けアーム53に固定する。浮動ヘッドスライダー33を磁気媒体15に押付
け、渦巻き状板ばね32を取付けアーム側に撓ませる事で、必要な荷重を得るものである
。図16b)に比べ、部材数も減り組立も容易となっていることが判る。図16b)では
、磁気媒体15の表面と渦巻き状板ばね32の間隔はg1であり、g1は浮動ヘッドスラ
イダー33の厚みに相当している。図16c)では、間隔g2は渦巻き状板ばね32が撓
んでいる分だけ狭くなる。大きな荷重を得るため撓み量を大きくすると、磁気媒体15と
渦巻き状板ばね32が接触する危険性が高まる。そのため、浮動ヘッドスライダー33の
厚みを薄くすることにも制約があり、浮動ヘッドスライダーの小型化、薄型化が難しい。
また、使用時は渦巻き状板ばねは撓んだ状態であるため、ロール方向やピッチ方向の剛性
を求めることが難しい。撓み量が大きくなるのに従い板ばねの捩れが影響し、撓み量のば
らつきによる剛性の変化が大きくなる。剛性を安定化するために撓み量を小さくすると必
要な荷重が得られない問題が出てくる。
【0014】
本願発明は、磁気センサー素子と磁気媒体間のギャップ変動が小さく、磁気センサー素
子と磁気センサー保持機構部の組立てが容易で、磁気センサー保持機構部の部品点数が少
なく、耐摺動性が高く、衝撃等の外力に対しても安定した磁気エンコーダーを得る。また
、磁気センサー素子にウェファーから砥石で切断した状態で使用できる、安価な磁気エン
コーダーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明の磁気エンコーダーは、曲率を有する磁気媒体と、磁気媒体に対向して配され
た磁気センサーで、磁気媒体と磁気センサーは往復摺動相対移動し、磁気媒体から発生す
る磁界を磁気センサーに設けた磁気抵抗効果素子で検出する磁気式エンコーダーであって
、磁気センサーは、少なくとも磁気抵抗効果素子を有する磁気センサー素子と、磁気セン
サー素子を保持する磁気センサー保持機構部、および磁気センサー素子より信号を外部に
取り出す配線部からなり、磁気センサー素子は略長方形状である。磁気センサー保持機構
部は、磁気媒体と対向するように配され、取付け台に固定される1対の固定部と、磁気セ
ンサー素子を保持する略長方形のセンサー保持部と、1対の固定部とセンサー保持部を接
続する弾性アーム部からなる。対向する固定部の辺に形成された各2本の弾性アーム部は
、センサー保持部を略半周してセンサー保持部の連続した異なる辺に各々接続され、セン
サー保持部の平面部と固定部の平面部は平行面で、センサー保持部の平面部と固定部の平
面部は段差を有し、磁気媒体に近い側にセンサー保持部の平面部が位置している。センサ
ー保持部は、磁気センサーが前記磁気媒体と往復摺動相対移動する方向を回転軸とする回
転に対する弾性と、往復相対移動する方向に垂直で且つ磁気媒体表面に平行な方向を回転
軸とする回転に対する弾性を有し、センサー保持部平面に垂直な方向に対し弾性を有する
ことが好ましい。
【0016】
磁気センサー保持機構部のセンサー保持部の平面部と固定部の平面部は、所定の段差(
間隔)を持って平行に配されている。センサー保持部と平面部の段差を渦巻き状の弾性ア
ーム部で接続するものである。磁気センサー保持機構部の固定部を下にセンサー保持部を
上にして横から見ると、円錐コイルばねの様な形状イメージとなる。1対の固定部は同一
平面部に位置していることが好ましい。センサー保持部と固定部の段差がばね力を発生し
、このばね力が磁気センサー素子を磁気媒体に押付ける押付け荷重となる。センサー保持
部の平面部と固定部の平面部の段差が無く同一面になる様に、磁気センサー保持機構部と
磁気媒体を組立てて、所定の押付け荷重を得るものである。
【0017】
センサー保持部の平面部と固定部の平面部が平行でなく傾いていると、磁気媒体に対し
磁気センサー素子が傾くことになる。僅かな傾きであれば弾性アーム部の弾性で吸収する
ことができるが、傾きが大きくなり弾性アームが同一面となっている固定部やセンサー保
持部の面と異なると予期せぬ応力が発生し、磁気センサー素子と磁気媒体の往復相対移動
時の移動方向で、磁気センサー素子のロール角やピッチ角が変動し出力変動の原因となる
。センサー保持部の平面部と固定部の平面部の平行度だけでなく、磁気センサー素子とセ
ンサー保持部間の接着樹脂の厚みばらつき、磁気センサー素子の厚み方向の平行度等々も
考慮していく必要がある。
【0018】
磁気センサー保持機構部は磁気媒体の移動方向と平行もしくは直交するように取り付け
ることができる。磁気センサー保持機構部を固定部として考えると理解し易い。対になっ
ている固定部の取り付け台に固定する部位を、磁気媒体に平行としても良いし直交する様
にも配することができる。更に言い替えると固定部から出る弾性アーム部の出始めの方向
が、磁気媒体に平行となる様に、もしくは直交となる様にすることができる。平行配置と
直交配置では、弾性アーム部の幅や曲がり方向等を変える必要があり、それぞれ最適な設
計をすることで対応できる。
【0019】
4本の弾性アーム部は、2辺の固定部と4辺のセンサー保持部を接続する。対となる固
定部の対向する辺の略両端部から弾性アーム部が辺に対し略直角に出て、センサー保持部
の略半周の外側を渦巻くようにし、略直角にセンサー保持部の一辺の端部に接続される。
一方の固定部の辺から出た2本の弾性アーム部は、センサー保持部の連続する辺の各辺の
端部に接続される。弾性アーム部はセンサー保持部の外周を渦巻く様に配するが、渦巻き
方向は時計回り方向でも反時計回り方向でも構わないものである。対の固定部から出る弾
性アーム部の渦巻き方向が同じであることは言うまでも無い。
【0020】
弾性アーム部は2から3回ほぼ90度でカーブし、固定部とセンサー保持部を接続して
いるので、センサー保持部の外周部を略半周つまり略180度と表現しているものであり
、この数値に限定されるものではない。しかし、センサー保持部を1周前後するような巻
き回しは、弾性アーム部の剛性が下がるのと形状が複雑になるため、余り好ましいもので
はない。
【0021】
磁気センサー保持機構部は、センサー保持部を挟むように2つの固定部で、取り付け台
に固定されている。所謂両持ちばねの構造となっており、固定部と磁気媒体のZ軸方向の
距離が変動しても、センサー保持部は、固定部に対して平行状態を保ちながらZ軸方向に
上下移動する。よって、片持ちばねの様に固定部と磁気媒体のZ軸方向の距離が変動する
ことで、ピッチ角が変動することはない。そのため、ギャップ変動を著しく低減できる。
センサー保持部を渦巻き状の弾性アーム部で保持する構造においては、ピッチ角とロール
角の変動に対する剛性を低減することが可能である。よって磁気媒体の位置変動や磁気セ
ンサーの取り付け位置の変動で、ピッチ角やロール角を変動させようとする外力が働いて
も、弾性アーム部が弾性変形することによってピッチ角、ロール角を一定に保持すること
ができ、ギャップ変動を低減することができる。つまり、磁気センサーの幅(X軸方向の
寸法)を極端に小さくしなくても、ギャップ変動を低減することが可能となる。
【0022】
また、磁気センサー素子の摺動方向の幅を1mm以上とすることで、磁気センサー素子
と磁気センサー保持機構部の組み立てが容易となる。磁気センサー素子の摺動方向の幅を
1mm以上と広くすることで、磁気センサー素子の端部が磁気媒体との接触が防げるため
、磁気センサーの摺動方向の端部を曲率加工する必要がない。つまり、磁気センサー素子
はウェファーから砥石で切断した状態で使用可能となる。これにより、安価な磁気エンコ
ーダーが得られる。
【0023】
本願発明の磁気式エンコーダーは、センサー保持部の平面部と固定部の平面部の段差量
は、0.35mm以上5.8mm以下であることが好ましい。
【0024】
センサー保持部の平面部と固定部の平面部の段差が無く同一面になる様に、磁気センサ
ー保持機構部と磁気媒体を組立てたとき、初期の段差量を0.35mmから5.8mmと
することで、50〜800mNの押付け荷重が得られる。5.8mm以上の段差量とする
と、弾性アーム部のアームの幅方向にも捩れが生じ始めるため好ましくない。弾性アーム
部はアームの長手方向に連続して傾斜を有していることが好ましく、幅方向の捩れや部分
的な折り曲げは好ましくないものである。
【0025】
本願発明の磁気式エンコーダーは、磁気センサーと磁気媒体の往復摺動時は、センサー
保持部の平面部と固定部の平面部の段差量は略零で略同一平面内に位置することが好まし
い。
【0026】
磁気センサー保持機構部と磁気媒体を組立てたとき、センサー保持部と固定部、弾性ア
ーム部が略同一面になることが好ましく、特に弾性アーム部に平面にならない折り曲げ部
(折り目)を設けることは好ましくない。実装時に磁気センサー保持機構部が、略同一平
面内に位置することで、ロール方向剛性やピッチ方向剛性の設計がし易くなるだけではな
く、不要な応力の発生を防ぐことができる。
【0027】
本願発明の磁気式エンコーダーは、センサー保持部の平面部と固定部の平面部の段差量
は略零で略同一平面内に位置したとき、センサー保持部に垂直な方向において、磁気媒体
に対し50mN以上800mN以下の押し付け荷重を有することが好ましい。
【0028】
センサー保持部の平面に垂直な方向において、磁気媒体に対し50mN(5gf)以上
800mN(82gf)以下の押し付け荷重を与えることが好ましい。50mN未満では
、磁気媒体への磁気センサー素子の押付け荷重力が小さ過ぎるため、摺動時に磁気センサ
ー素子面が磁気媒体面から離れ、出力電圧が変動する問題が発生する。これは、磁気媒体
の表面の僅かなうねりや凸部での飛び跳ね、外力による離れ等で起こる。800mNを超
えると磁気センサー素子の飛び跳ねや、外力による離れは押させることできるが、耐磨耗
性の問題が発生する。プラスチックフィルム上に磁性体をコーティングした磁気媒体では
、荷重を上げると磁気媒体表面が変形し磁気センサー素子の幅が小さい場合、磁気センサ
ー素子の摺動方向側の端部(稜部)で、磁性体を削る現象が起こり、耐摩耗性が急激に悪
化する。
【0029】
磁気媒体表面が変形する荷重値は次のようにして求めることができる。曲率半径25m
mの磁気媒体表面に透明ガラス板を押し当て、透明ガラスと磁気媒体の接触幅が0.5m
mになる荷重を求める。接触幅が0.5mmで、磁気媒体表面が変形したとした。磁気媒
体の幅方向は3mmとした。また、磁気媒体の表面は平均面粗さRaで約1μmである。
磁気媒体のプラスチックフィルムはPETで200μm厚、磁性体は平均粒径1μmから
10μmのストロンチュームフェライト粉末を、30μm厚に塗布したものである。変形
が始まる荷重は1136mN(116gf)であり、接触している面積から磁気媒体が変
形を起こす単位当たりの荷重は、757mN/mmである。安全率を考え押し当て荷重
は800mN(82gf)以下とし、約530mN/mm以下とすることが好ましい。
単位当たりの荷重値を530mN/mm以下とすることで、磁気センサー素子による磁
気媒体表面の変形が起こらないため、磁気センサー素子の幅を小さくしても、磁気センサ
ー素子の摺動方向側の稜部で磁気媒体表面を削ることはない。言い換えると、単位当たり
の荷重値を530mN/mmとした場合、磁気センサー素子の摺動方向の幅は0.5m
m以上とする必要がある。
【0030】
本願発明の磁気式エンコーダーは、センサー保持部と固定部は弾性アーム部で接続され
、センサー保持部と固定部の段差間では弾性アームは厚み方向に連続的に変位(曲げられ
)し折り目部が無いことが好ましい。
【0031】
磁気センサー保持機構部と磁気媒体を組立てたとき、センサー保持部と固定部、弾性ア
ーム部が略同一面になることが好ましく、特に弾性アーム部に平面にならない折り曲げ部
(折り目)がないことが好ましい。
【0032】
薄板のばね材を実装時の形状に化学エッチングもしくは打抜きプレスを行い、固定部と
センサー保持部が平行状態を保ちながら所定の距離(段差)を持つように、段差加工機で
加工する。段差加工機から取り出した状態での固定部とセンサー保持部の段差量で、押付
け荷重が決まるものである。押付け荷重を変える場合でも段差量を変えることで対応でき
るので、磁気媒体と磁気媒体保持機構部の間隔が変わることはない。これは、取付け台と
磁気媒体の間隔を変えることなく押付け荷重を変えることができることを表しており、製
造する上でメリットが大きいものである。
【0033】
本願発明の磁気エンコーダーは、弾性アーム部の稜線は、センサー保持部の稜線と平行
および非平行もしくはいずれか一方であることが好ましい。
【0034】
弾性アーム部はセンサー保持部と平行に配置される必要はなく、斜めの部分や曲線部分
を有していても良いものである。また、センサー保持部の一辺と並行している弾性アーム
部の一部が平行で他の部分が一定の角度を持って斜めになっていても良いものである。そ
のため、弾性アーム部間の隙間は一定の間隔ではなく、部位によって異なっていても良い

【0035】
前記弾性アーム部の稜線とセンサー保持部の稜線との関係や弾性アーム部の間隔は、磁
気センサー保持機構部が磁気媒体と実装された状態であり、実装前でセンサー保持部と固
定部間に段差がある状態で規定するものではない。
【0036】
本願発明の磁気エンコーダーは、弾性アーム部の幅が連続的に変化していることが好ま
しい。
【0037】
固定部からセンサー保持部至る間の弾性アーム部の幅は一定である必要はなく、部分的
に異なっても良いが、連続的に幅が変化していることが好ましい。階段状の断続的な形状
では、変化部分に応力集中が起こりばねとしての動きがスムーズでなくなるばかりでなく
、亀裂が生じる危険性がある。
【0038】
本願発明の磁気エンコーダーは、センサー保持部および弾性アーム部、固定部は同一の
材料および厚みであり、厚みが50μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0039】
センサー保持部および弾性アーム部、固定部の磁気センサー保持機構部は一体で作るこ
とが好ましい。各々を個別に作製して溶接や接着剤で組合せて磁気センサー保持機構部を
作った場合、製造コストが高いだけでなくばねとしての機能が得難いことは、容易に理解
できることである。磁気センサー保持機構部は1枚の金属板をエッチングや打抜きプレス
で平面形状を作製した後、段差加工機で段差加工する事が良い。用いる金属材質により、
必要な厚みは異なってくるが、ロール方向やピッチ方向、磁気媒体に押付ける方向の弾性
から、50μmから200μmの金属板を使用することが好ましい。
【0040】
本願発明の磁気エンコーダーは、センサー保持部および弾性アーム、固定部の材質は非
磁性でバネ性を有する、ステンレスおよび燐青銅、洋白、黄銅もしくは銅合金であること
が好ましい。
【0041】
磁気媒体からの磁界を乱さないためにも、磁気センサー保持機構部は非磁性材であるこ
とが好ましい。ばね性を有する非磁性金属で、化学エッチングができる材質であることが
良い。弾性アーム部の複雑な形状を打抜きプレスで加工するには、プレス金型の価格が高
いことと形状修正が容易ではないので、化学エッチングできる材質を選ぶことが良い。化
学エッチングが容易で段差加工ができる非磁性ステンレス(Fe−Ni−Cr)や燐青銅
材(Cu−Sn−P)、洋白(Cu−Ni−Zn)、黄銅(Cu−Zn)が好ましい。洋
白は洋銀と称されることもある銅系合金である。
【0042】
本願発明の磁気エンコーダーは、磁気センサー素子の磁気抵抗効果素子がセンサー保持
部の略中心に位置することが好ましい。
【0043】
センサー保持部の略中心部が、磁気媒体に押し付け荷重を与える荷重点になる。この荷
重点に磁気センサー素子の磁気抵抗効果素子を配することで、磁気媒体との相対的な往復
移動に対し、移動方向による磁気センサー素子の出力の差を最小限にすることができる。
【0044】
本願発明の磁気エンコーダーは、固定部保持材の略U字状の2本のアーム部に磁気セン
サー保持機構部の固定部を固着し、固定部保持材を取付け台に固定することが好ましい。
【0045】
固定部保持材の略U字状の2本のアーム部に固定部を、溶接やねじ、樹脂を用いて固着
する。固定部保持材の略U字状の2本のアーム部は、磁気媒体と磁気センサー素子の摺動
により発生する変位力に対しては、完全に剛体として働くだけの板厚や板幅を有している
ことが必要である。略U字の底部分に張り出し部を設け、張り出し部と取付け台をねじ止
めや樹脂接着することで、磁気センサーを固定することができる。張り出し部の形状を変
える事で、取り付け台の位置に囚われず磁気センサー保持機構部を固定することができる
。固定部保持材は固定部の磁気センサー素子と反対側に取り付ける事が好ましい。磁気セ
ンサー素子側に取り付けると磁気媒体と固定部保持材の間隔が取り難くなり、接触する危
険性が増えるためである。
【0046】
本願発明のセンサー保持機構部は、1対の固定部、前記1対の固定部の中間部に位置す
るセンサー保持部、前記1対の固定部と前記センサー保持部とを接続する4本の弾性アー
ム部とを有するセンサー保持機構部であって、前記固定部、前記弾性アーム部及び前記セ
ンサー保持部は、同一材料からなると共に、前記センサー保持部は前記固定部と平行で異
なる平面上に段差を持って位置するように形成されており、前記固定部は前記センサー保
持部側の一辺にそれぞれ2本の弾性アーム部が接続されており、前記各弾性アーム部は、
前記センサー保持部を略半周して前記センサー保持部の異なる辺にそれぞれ接続されてい
ることが好ましい。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、磁気媒体の位置変動や磁気センサーの取り付け位置変動等により、ピ
ッチ角とロール角が変動しても、その変動を最小限に抑えることによってギャップ変動が
小さく、磁気センサー素子と加圧ばねの組み立てが容易で、耐摺動性が高く、衝撃等の外
力に対しても安定した磁気エンコーダーを得ることができた。また、磁気センサー素子は
ウェファーから砥石で切断した状態で使用でき、安価な磁気エンコーダーを得ることがで
きた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下本発明を図面を参照しながら実施例に基づいて詳細に説明する。説明を判り易くす
るため、同一の部品、部位には同じ符号を用いている。
【実施例1】
【0049】
図1に、本実施例の磁気センサーの分解斜視図を示す。磁気センサー5は磁気センサー
保持機構部17のセンサー保持部24に、磁気抵抗効果素子20を有する磁気センサー素
子1が樹脂(図示せず)で固着されている。磁気抵抗効果素子20はセンサー保持部24
の略中心に位置している。磁気センサー保持機構部17の加圧点8はセンサー保持部24
の中心部とみなすことができるため、磁気抵抗効果素子20は真上から加圧されているも
のである。磁気センサー保持機構部17は、固定部26に形成した孔21を用いて取付け
台23にねじ22でねじ止め固定した。磁気センサー保持機構部17を取り付け台23に
固定することで、磁気媒体15に磁気センサー素子1を所定の位置に所定の荷重で押付け
るものである。磁気センサー素子の電気信号を外部に取り出すのに、FPC12を用いた

【0050】
磁気センサー保持機構部17は75μm厚の非磁性ステンレスSUS304で、化学エ
ッチングと段差加工機を用いて製作した。磁気センサー素子1は、1.1mmの板厚のガ
ラスウェファー上に、フォトリソ技術と真空製膜技術、エッチング技術を用い磁気抵抗効
果素子20と配線を形成した。磁気抵抗効果素子20上には約3μm厚でアルミナ膜を形
成した。磁気抵抗効果素子等の形成が終了したガラスウェファーを、ダイヤモンド砥石で
幅w2.0mm長さ4.1mmに切断し、磁気センサー素子1を得た。磁気抵抗効果素子
や配線、磁気抵抗効果素子上のアルミナ膜の厚みは、各々数μmであるので無視し、ガラ
スウェファー厚=磁気センサー素子厚=h’としている。磁気抵抗効果素子20上のアル
ミナ膜厚が、磁気抵抗効果素子20と磁気媒体15の表面とのギャップとなっている。磁
気センサー素子1の配線とFPC12は無鉛はんだで接合した。
【0051】
磁気媒体15は、テープ状のプラスチックフィルム上に磁性体をコーティングしたもの
を、所定の曲率を有する非磁性面に接着剤で固着して作製した。磁気媒体の摺動方向の幅
Wbは3mm、磁気媒体表面の曲率半径は27.5mmである。
【0052】
図2a)は、本実施例の磁気センサーを磁気媒体側から見た図であり、図2b)と図2
c)は側面図である。磁気センサー保持機構部17は、磁気センサー素子1を保持するセ
ンサー保持部24と4本の弾性アーム部30と2つの固定部26で構成している。4本の
弾性アーム部301から304は、センサー保持部の各辺の端部位置と接合し、センサー
保持部の中心を回転中心としてセンサー保持部を約半周取り囲むように形成し、固定部2
6の両端部の位置に接合している。また、弾性アーム部301と303、302と304
はセンサー保持部を中心に点対称に形成した。磁気センサー保持機構部17の板厚は75
μmとし、弾性アーム部巻き幅の寸法L1、L2、L3、L4は夫々8.25mm、6.
85mm、8.25mm、6.40mmとした。また、弾性アーム部の幅は、基本寸法を
0.75mmとし、部分的に応力集中を緩和するため変更している。得られたばね特性は
、ピッチ剛性が26.8(mN・mm/度)、ロール剛性が32.2(mN・mm/度)
、Z軸方向のばね剛性が137.2(mN/mm)である。段差量dを0.8mmとした
ので押付け加重は110mNである。図2b)に示す様に、磁気センサー保持機構部17
は、段差量dを持って固定部26とセンサー保持部24が平行に形成されている。磁気セ
ンサー保持機構部と磁気媒体を組立てた状態を図2c)に示す。段差量d分磁気媒体15
に磁気センサー素子1を押付けているので、固定部26と弾性アーム部30、センサー保
持部24は略同一面となっている。
【実施例2】
【0053】
図3に、磁気センサー保持機構部17の段差量dと得られる加圧力である押付け荷重F
と、往復摺動相対移動させたときの磁気センサーの出力電圧変動率との関係を示す。段差
量dは、図2b)に示したように磁気センサー素子1をセンサー保持部24に接着剤で固
着し、磁気センサー素子を下側にして磁気センサー素子を吊り下げた状態で測定した。d
は0mmから2.2mmまで0.2mmピッチで変化させた。また、出力電圧変動率は1
往復内での出力電圧の最大値と最小値の差を平均値で割った値で定義した。段差量dが0
mmから0.2mmの範囲では、押付け荷重が30mN以下であり、ギャップを安定させ
るには押付け荷重値が不足しており、出力電圧変動率が大きいため、磁気エンコーダーと
して正確な変位検出ができない。段差量dが0.2mm以上で出力電圧変動率が低減する
が、余裕を考慮すると、段差量dは0.4mm以上(押付け荷重50mN以上)であるこ
とが好ましい。段差量dを0.6mmから0.9mmとすることで、押付け荷重80mN
から120mNと必要な50mN以上800mN以下の範囲に入れることができた。また
、出力電圧変動率も約3%と小さくて安定した値が得られた。
【実施例3】
【0054】
図4に、磁気センサー保持機構部17の段差量dと磁気センサーの出力電圧の関係を示
す。磁気センサーの出力電圧は、0.7mmの段差量dの時の出力電圧を1とした規格化
出力を示している。出力電圧は、実施例2の出力電圧変動が安定する段差量dが0.2m
m〜2.2mmの範囲において、出力電圧がほぼ一定な値を示している。これは、段差量
dを変化させてもピッチ角の変動が小さく、出力電圧に影響を与えないためと考えられる
。言い換えると、段差量dの公差を緩くできるもので、組立て作業効率向上と部品費等の
低減が可能となるものである。
【実施例4】
【0055】
前述した実施例の結果を、磁気センサー素子1と磁気媒体間の距離である、ギャップを
用いて検証する。まず、ギャップと磁気センサー出力電圧とジッターの関係を、図5に示
す。磁気媒体15と磁気センサー素子1との間に、スペーサーを挟んで測定したものであ
る。実装時は、磁気媒体15と磁気センサー素子1は所定のギャップで組立てているが、
磁気媒体と磁気センサー素子が相対的に移動すると、磁気媒体の動きに連れて磁気センサ
ー素子のピッチ角とロール角が変動することで、ギャップも変化する。磁気センサー出力
電圧は、ギャップが0μmの時の出力電圧を1とした規格化出力を示している。また、ジ
ッターは、出力信号ピッチと磁気媒体の着磁ピッチの差を着磁ピッチで割った値である。
ギャップが増加すると、磁気媒体からの漏れ磁界強度が低下するため、出力は徐々に低下
する。ジッターはあるギャップまでは一定であるが、それ以上のギャップになると急激に
悪化する。往復摺動移動中は、微小なギャップ変動により、出力電圧も微妙に変動してい
る。出力電圧がある程度大きければ、出力電圧変動はジッターに影響しないが、出力電圧
が小さくなり過ぎると、出力電圧変動がジッターに大きく影響する。ギャップが0μmか
ら20μmまでは、出力は漸次低下するも、ジッターの約2%と一定である。この結果か
ら、磁気センサー素子のピッチ角とロール角変動によるギャップの許容変化量は20μm
までと言える。
【0056】
図6に、磁気センサー素子と磁気媒体のX軸方向の側面図を示し、ピッチ角とギャップ
の関係について説明する。磁気センサー素子1は磁気媒体15と接触し、磁気センサー保
持機構部17のセンサー保持部24の略中心点の加圧点8から押付け荷重Fで加圧されて
いる。磁気センサー素子1は磁気媒体15の全幅Wbに渡って接触する位置関係にあり、
加圧点8は磁気媒体15の幅の中央のWb/2に位置している。磁気センサー保持機構部
17のピッチ剛性をKpとし、磁気センサーが磁気媒体と接触していないときのピッチ角
をΘpと定義する。また、磁気センサー素子が押付け荷重Fで押し込まれた状態でのピッ
チ角をΘp’、磁気媒体15の幅をWbとすると、押付け荷重Fによるモーメントと磁気
センサー保持機構部17のピッチ剛性によるモーメントは以下のように求めることができ
る。
押付け荷重Fによるモーメント:F×Wb/2
ピッチ剛性によるモーメント:Kp×(Θp−Θp’)
押付け荷重Fによるモーメントとピッチ剛性によるモーメントは、ピッチ角Θp’の状態
でつりあうので、
F×Wb/2=Kp(Θp−Θp’)
となる。但し、押付け荷重Fによるモーメントがピッチ剛性によるモーメントの最大値K
p×Θpより大きい場合は、ピッチ角Θp’は0度に保たれた状態となる。よってピッチ
角Θp’は次のように求めることができる。
Kp×Θp≦F×Wb/2の場合、
Θp’=0
Kp×Θp>F×Wb/2の場合、
Θp’=Θp−F×Wb/2/Kp
また、そのときの磁気抵抗効果素子20近傍のギャップgは、
g=Wb/2×tanΘp’
で求めることができる。
【0057】
図7に、ピッチ角Θpとギャップの関係を示す。尚、本実施例では、押付け荷重Fが1
17mN、ピッチ剛性は26.8(mN・mm/度)である。また、磁気媒体15の幅W
bは3mmである。図7において、ピッチ角Θpが7度でもギャップは約12μmで、許
容変化量の20μm以下でありジッターに影響を与えない。ピッチ角変動の要因は、板ば
ね2の固定部26の平面とセンサー保持部24の平面の平行度ばらつき、磁気センサー素
子1の板ばね2への固着時の平行度ばらつき、磁気センサーの取り付け台23への組み立
てばらつき、磁気センサーと磁気媒体15の往復摺動時のピッチ角変動がある。
【0058】
実施例で製作した磁気センサー保持機構部17の固定部26とセンサー保持部24の平
行度は±0.5度、磁気センサー素子1をセンサー保持部24に固着する時の平行度は±
1.0度と実測値から求められた。また、固定部26を取り付け台23に取り付ける時に
生じるピッチ角変動を±1.0度、摺動動作時のピッチ角変動を±1.0度と見積もって
も、変動する可能性のあるピッチ角Θpの最大値は±3.5度であり、ギャップの変動は
殆ど無いと言える。
【0059】
図8に磁気センサーと磁気媒体15のY軸方向の側面図を示し、Xオフセットとロール
角と押付け荷重Fによるモーメント、摩擦によるモーメント、磁気センサー保持機構部1
7のロール剛性によるモーメントについて説明する。磁気センサー素子1と磁気媒体15
は接触し、磁気センサー素子はXoだけX方向にオフセット(以降、Xオフセットと言う
)させた状態であり、加圧点8は磁気媒体中心よりXoずれた点で、押付け荷重Fで加圧
している。磁気媒体15は、時計回りに回転しており、そのときの磁気センサー素子1と
磁気媒体15間の動摩擦係数をμとする。磁気センサー素子が磁気媒体と接触していない
ときのロール角度をΘrと定義し、磁気センサー素子が押付け荷重Fで押し込まれた状態
でのロール角をΘr’とする。磁気センサー保持機構部17のロール剛性をKr、磁気媒
体15の曲率半径をr、磁気センサー素子1の厚みをh’、磁気センサー保持機構部17
の板厚をhbとする。押付け荷重Fによるモーメント、摩擦によるモーメント、更に磁気
センサー保持機構部17のロール剛性によるモーメントとロール角Θr’の間には、次の
式が成り立つ。
F×[Xo−r×sinΘr’]=μ×F×(h’+hb)+Kr×(Θr−Θr’)
押付け荷重Fによるモーメント :F×[Xo−r×sinΘr’]
摩擦によるモーメント :μ×F×(h’+hb)
板ばねのロール剛性によるモーメント :Kr×(Θr−Θr’)
【0060】
図9に、ロール角がΘr’の時のギャップgと磁気センサー素子1の幅Wの中心から磁
気センサー素子と磁気媒体15が接触している箇所までの距離Xo’の関係について示す
。尚、実際には、磁気センサーのロールの回転中心は加圧点8である。しかし、磁気抵抗
効果素子20の中央を中心に回転すると見做しても、ギャップの計算結果に殆ど影響する
ことは無く、計算式が簡略化できるため、磁気抵抗効果素子20を中心に回転するものと
して説明する。ギャップgは、磁気抵抗効果素子20の表面から、Xオフセットがない状
態での中心線上の素子表面までの高さg1と、中心線上の素子表面から、接触箇所までの
高さg2と接触箇所からXoだけXオフセットさせたときの磁気媒体15の表面までの高
さg3の合計で求めることができる。計算式は以下の通りである。
g1=Xo×tanΘr’
g2=r×tanΘr’×sinΘr’
g3=r×(cosΘr’−cosΘ)
g =Xo×tanΘr’+r×tanΘr’×sinΘr’
+r×(cosΘr’−cosΘ)
また、磁気センサー素子1の幅Wの中心から、磁気センサー素子1と磁気媒体15が接触
している箇所までの距離をXo’とすると、Xo’は、
Xo’=r×tanΘr’−Xo/cosΘr’
で求めることができる。
【0061】
図10a)に、本実施例におけるXオフセットXoとギャップの関係、図10b)に、
XオフセットXoと磁気センサー素子の幅中心から接触点までの距離Xo’の関係を示す
。本実施例では、押付け荷重Fを117mNとし、ロール剛性Krは32.38(mN・
mm/度)、磁気センサー素子厚h’は1.1mm、幅Wは2mmである。磁気センサー
素子1の素子厚1.1mm、素子幅2mmと平板形状であるので、磁気センサー保持機構
部17のセンサー保持部24に容易に接着組み立てができる寸法である。動摩擦係数μは
0.1であった。図10の符号a〜eはロール角Θrが各々0、−1、−2、−3、−4
度の値である。
【0062】
図10a)で、符号eのロール角Θrが−4度、Xオフセットが0.5mmでも、ギャ
ップは約16.6μmとギャップの許容変化量の20μm以下に収まっている。ロール角
変動の要因とばらつきを含めた変動量は、磁気センサー保持機構部17の固定部26とセ
ンサー保持部24平面の平行度は±0.5度、磁気センサー素子1をセンサー保持部24
に固着する時の平行度は±1.0度と実測値から求められた。磁気センサー保持機構部1
7を取りの付け台23に組み立て時の平行度を±1.0度、磁気センサー素子1と磁気媒
体15の往復摺動時のロール角変動を±1.0度と見積もっても、変動する可能性のある
ロール角Θrの最大値は±3.5度であり、ギャップの変動は殆ど無いと言える。一方、
Xオフセットは主に磁気センサー保持機構部17を取付け台23に組み立て時に発生する
が、治具を用いれば±0.5mmの精度で組立てることに支障はない。以上説明した様に
、本願発明の磁気エンコーダーは、磁気センサー素子と磁気媒体が往復摺動してもピッチ
角とロール角の変動と、それによるギャップ量の変動も小さく、磁気エンコーダーとして
の特性が充分得られることが検証できた。
【0063】
磁気センサー素子1の幅中心から磁気センサー素子1と磁気媒体15の接触点までの距
離Xo’が、磁気センサー素子幅Wの1/2以下であれば、磁気センサー素子1の端部の
稜部14が磁気媒体15と接触することはない。つまり、磁気センサー素子の両端の稜部
14に面取り等の加工をしなくても、良好な耐摺動性を得ることができるものである。図
10b)において、符号eのロール角Θrが−4度、Xオフセットが0.5mmであって
も、磁気センサー素子1の幅W中心から磁気センサー素子1と磁気媒体15の接触点まで
の距離Xo’は−0.96mmで、磁気センサー素子1の幅Wの1/2の1.0mmを超
えていない。このことから、本実施例において、磁気センサー素子1をウェファーからダ
イヤモンド砥石で切断した状態で使用した状態で、Xオフセットとロール角の変動があっ
たとしても、磁気センサー素子の稜部14は磁気媒体と接触しないため、良好な耐摺動性
を得ることができることが検証できた。
【実施例5】
【0064】
図11に固定部保持材を有する磁気センサーの分解斜視図を示す。固定部保持材38の
略U字型の2本のアーム39で磁気センサー保持機構部17の固定部26を保持する様に
している。固定部26とアーム39はレーザー溶接を行った。固定部保持材38の略U字
型の底の部分には張り出し部40をアーム39と平行になる様に形成した。張り出し部4
0には取り付け台23(図示せず)に磁気センサー保持機構部17を固定する孔21を2
個設けた。実施例1とは異なり板厚の薄い固定部26をねじ止めしないので、ねじ止め作
業に熟練度が必要で無くなった。また、磁気センサーの取扱いも容易となった。
【実施例6】
【0065】
図12に磁気媒体の回転方向と保持機構部の固定部を略平行とした磁気センサーを示す
。実施例1の磁気センサー保持機構部17を90度回転させて、固定部保持部38で保持
した構造である。弾性アーム部の形状設計を変える事で、固定部26を90度回転させて
も磁気センサー保持機構部としての性能が得られる。固定部保持材38を併用することで
、磁気センサーの取り付け部位の選択性を広げることができた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本願発明の実施例1の磁気センサーの分解斜視図である。
【図2】本願発明の実施例1の磁気センサーの平面図と側面図である。
【図3】本願発明の実施例2の段差量dと出力電圧変動、荷重との関係を示す図である。
【図4】本願発明の実施例3の段差量dと規格化出力との関係を示す図である。
【図5】本願発明の実施例4のギャップと規格化出力、ジッターの関係を示す図である。
【図6】本願発明の実施例4の磁気センサーと磁気媒体のX軸方向の側面図である。
【図7】本願発明の実施例4のピッチ角とギャップとの関係を示す図である。
【図8】本願発明の実施例4の磁気センサーと磁気媒体のY軸方向の側面図である。
【図9】本願発明の実施例4の磁気センサーと磁気媒体のY軸方向の側面図である。
【図10】本願発明の実施例4のXオフセットとギャップの関係等を説明する図である。
【図11】本願発明の実施例5の固定部保持材を有する磁気センサーの分解斜視図である。
【図12】本願発明の実施例6の磁気センサーの実施形態を示す図である。
【図13】従来例のオートフォーカスカメラ用のレンズ鏡筒と磁気センサーの図である。
【図14】従来例のピッチ角変動を低減する磁気センサーの図である。
【図15】従来例の摺動方向位置ずれを低減する磁気センサーの図である。
【図16】従来例の加圧機能とジンバルばね機能を1枚の板ばねに持たせた浮動型磁気ヘッドの図である。
【符号の説明】
【0067】
1 磁気センサー素子、
2 加圧ばね、
5 磁気センサー、
6 ホルダー、
7 スペーサー、
8 加圧点、
10 鏡筒、
11 モーター、
12 FPC、
13 サスペンション、
14 稜部、
15 磁気媒体、
17 磁気センサー保持機構部、
20 磁気抵抗効果素子、
21 孔、
22 ねじ、
23 取り付け台、
24 センサー保持部、
25 渦巻き状弾性部、
26 固定部、
27 スライダー保持部、
28 エンボス突起、
30 弾性アーム部、
31 板ばね、
32 渦巻き状板ばね、
33 浮動ヘッドスライダー、
38 固定部保持材、
39 アーム、
40 張り出し部、
53 取付けアーム、
255 第一の腕部、
256 接続部、
257第二の腕部、
301〜306 弾性アーム部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲率を有する磁気媒体と、磁気媒体に対向して配された磁気センサーで、磁気媒体と磁
気センサーは往復摺動相対移動し、磁気媒体から発生する磁界を磁気センサーに設けた磁
気抵抗効果素子で検出する磁気式エンコーダーであって、
磁気センサーは、少なくとも磁気抵抗効果素子を有する磁気センサー素子と、磁気センサ
ー素子を保持する磁気センサー保持機構部、および磁気センサー素子より信号を外部に取
り出す配線部からなり、磁気センサー素子は略長方形状であり、
磁気センサー保持機構部は、磁気媒体と対向するように配され、取付け台に固定される1
対の固定部と、磁気センサー素子を保持する略長方形のセンサー保持部と、1対の固定部
とセンサー保持部を接続する弾性アーム部からなり、
対向する固定部の辺に形成された各2本の弾性アーム部は、センサー保持部を略半周して
センサー保持部の連続した異なる辺に各々接続され、
センサー保持部の平面部と固定部の平面部は平行面で、センサー保持部の平面部と固定部
の平面部は段差を有し、磁気媒体に近い側にセンサー保持部の平面部が位置し、
センサー保持部は、磁気センサーが前記磁気媒体と往復摺動相対移動する方向を回転軸と
する回転に対する弾性と、
往復相対移動する方向に垂直で且つ磁気媒体表面に平行な方向を回転軸とする回転に対す
る弾性を有し、
センサー保持部平面に垂直な方向に対し弾性を有することを特徴とする磁気式エンコーダ
ー。
【請求項2】
センサー保持部の平面部と固定部の平面部の段差量dは、0.35mm以上5.8mm
以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気式エンコーダー。
【請求項3】
磁気センサーと磁気媒体の往復摺動時は、センサー保持部の平面部と固定部の平面部の
段差量は略零で略同一平面内に位置することを特徴とする請求項1もしくは2に記載の磁
気式エンコーダー。
【請求項4】
センサー保持部の平面部と固定部の平面部の段差量dは略零で略同一平面内に位置した
とき、センサー保持部に垂直な方向において、磁気媒体に対し50mN以上800mN以
下の押付け荷重を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の磁気式エン
コーダー。
【請求項5】
センサー保持部と固定部は弾性アーム部で接続され、センサー保持部と固定部の段差間
では弾性アームは厚み方向に連続的に変位し折り目部が無いことを特徴とする請求項1か
ら4のいずれかに記載の磁気式エンコーダー。
【請求項6】
前記弾性アーム部の稜線は、センサー保持部の稜線と平行および非平行もしくはいずれ
か一方であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の磁気式エンコーダー。
【請求項7】
前記弾性アーム部の幅が連続的に変化していることを特徴とする請求項1から6のいず
れかに記載の磁気式エンコーダー。
【請求項8】
センサー保持部および弾性アーム部、固定部は同一の材料および厚みであり、厚みが5
0μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の磁
気式エンコーダー。
【請求項9】
センサー保持部および弾性アーム部、固定部の材質は非磁性でバネ性を有するステンレ
スおよび燐青銅、洋白、黄銅もしくは銅合金であることを特徴とする請求項1から8のい
ずれかに記載の磁気式エンコーダー。
【請求項10】
前記磁気センサー素子の前記磁気抵抗効果素子が前記センサー保持部の略中心に位置す
ることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の磁気式エンコーダー。
【請求項11】
固定部保持材の略U字状の2本のアーム部に固定部を固着し、固定部保持材を取付け台
に固定したことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の磁気式エンコーダー。
【請求項12】
1対の固定部、前記1対の固定部の中間部に位置するセンサー保持部、前記1対の固定
部と前記センサー保持部とを接続する4本の弾性アーム部とを有するセンサー保持機構部
であって、前記固定部、前記弾性アーム部及び前記センサー保持部は、同一材料からなる
と共に、前記センサー保持部は前記固定部と平行で異なる平面上に位置するように形成さ
れており、前記固定部は前記センサー保持部側の一辺にそれぞれ2本の弾性アーム部が接
続されており、前記各弾性アーム部は、前記センサー保持部を略半周して前記センサー保
持部の異なる辺にそれぞれ接続されていることを特徴とするセンサー保持機構部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−25077(P2009−25077A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186843(P2007−186843)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】