磁気抵抗効果素子の製造方法および磁気抵抗効果素子の製造装置
【課題】 高い動作特性を有するMTJ素子を得るための製造方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも第1強磁性層2と、第2強磁性層4と、第1強磁性層と第2強磁性層とに挟まれた絶縁材料からなるトンネルバリア層3と、を含む磁気抵抗効果素子の製造方法は、磁気抵抗効果素子の一部を構成する第1層を形成する工程を含む。第1層での最大昇温速度が+10℃/s以上となる条件で第1層が加熱される。第1層上に第2層が形成される。第1層を形成する工程と第1層を加熱する工程と第2層を形成する工程とは、背圧2×10-6Pa以下の雰囲気下で行われる。
【解決手段】 少なくとも第1強磁性層2と、第2強磁性層4と、第1強磁性層と第2強磁性層とに挟まれた絶縁材料からなるトンネルバリア層3と、を含む磁気抵抗効果素子の製造方法は、磁気抵抗効果素子の一部を構成する第1層を形成する工程を含む。第1層での最大昇温速度が+10℃/s以上となる条件で第1層が加熱される。第1層上に第2層が形成される。第1層を形成する工程と第1層を加熱する工程と第2層を形成する工程とは、背圧2×10-6Pa以下の雰囲気下で行われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子の製造方法および磁気抵抗効果素子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ランダムアクセスメモリ(Magnetoresistive Random Access Memory : MRAM)は、情報を記憶するセル部において磁気抵抗効果を持つ磁気素子を用いる。MRAMは、高速動作、大容量、不揮発性を特徴とする次世代記憶装置として注目されている。磁気抵抗効果とは、強磁性体に磁場を印加すると強磁性体の磁化の向きに応じて電気抵抗が変化する現象である。こうした強磁性体の磁化の向きを情報の記録に用い、それに対応する電気抵抗の大小を用いて情報を読み出すことにより、記憶装置(MRAM)が実現される。
【0003】
近年、2つの強磁性層の間に絶縁層(トンネルバリア層と称する)を挿入した構造を含む強磁性トンネル接合において、トンネル磁気抵抗効果(TMR効果)により20%以上の磁気抵抗比(MR比)が得られるようになった。これをきっかけとして、トンネル磁気抵抗効果を利用した強磁性トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction : MTJ)素子がMRAMに用いられている。
【0004】
MRAMにMTJ素子を用いる場合、トンネルバリア層を挟む2つの強磁性層のうち、一方はその磁化の向きが変化しないように固定された磁化基準層として用いられ、他方はその磁化の向きが反転しやすい記憶層として用いられる。基準層と記憶層の磁化の向きが平行な状態と反平行な状態を2進数の“0”と“1”に対応づけることで、情報を記憶することができる。
【0005】
情報の書き込みには、大別して2種の方法がある。1つは、MTJ素子近傍に設けられた書込み配線に電流を流して発生する磁場により、記憶層の磁化の向きを反転させる。もう1つは、スピン注入法と呼ばれ、MTJ素子に書込み電流を印加し、磁化基準層によってスピンの向きを揃えた伝導電子を記憶層に供給して記憶層の磁化を反転させる。
【0006】
バリア層を挟む2つの磁性層の磁化が平行のとき、電流コンダクタンスが大きくなってMTJ素子の抵抗が小さい。一方、反平行なときは、平行のときより抵抗が大きい。記録情報の読み出しは、このTMR効果による抵抗変化分を検出することにより行う。従って、TMR効果による抵抗変化率(MR比)が大きいほうが好ましい。
【0007】
近年、MgOをトンネルバリアとして用いると、数100%のMR比が得られることが指摘された。その理由は、MgO(001)結晶の45度方向とFe(001)結晶とで格子定数が整合し、磁性層/MgO/磁性層が結晶構造について積層するためと言われている。
【0008】
磁性層として、Fe(非特許文献1)、CoFe(非特許文献2)、CoFeB(非特許文献3)が報告されている。これらの文献は、試料全体(MTJ素子全体)を260乃至360℃で30分乃至2時間加熱することを開示する。しかし、このような長時間の加熱では、例えば、MTJ素子を構成する各層の間の元素拡散や、磁性層の劣化が進行する。この結果、例えばMR比の低下や記憶層の保磁力ばらつきの増加など、MTJ素子の動作特性が劣化する恐れがある。
【非特許文献1】S. Yuasa et al.、論文名、「Nature Material」、2004年、第3巻、p.868
【非特許文献2】S. S. P. Parkin et al、論文名、「Nature Material」、2004年、第3巻、p.862
【非特許文献3】D. D. Djayaprawire et al.、論文名、「Applied Physics Letter」、2005年、第86巻、p.092502
【非特許文献4】K. Tsunekawa et al.、論文名、「Applied Physics Letter」、2005年、第87巻、p.072503
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高い動作特性を有するMTJ素子を得るための製造方法および製造装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の視点による磁気抵抗効果素子の製造方法は、少なくとも第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とに挟まれた絶縁材料からなるトンネルバリア層と、を含む磁気抵抗効果素子の製造方法であって、前記磁気抵抗効果素子の一部を構成する第1層を形成する工程と、最大昇温速度が+10℃/s以上となる条件で前記第1層を加熱する工程と、前記第1層上に第2層を形成する工程と、を具備し、少なくとも前記第1層を形成する工程から前記第1層を加熱する工程を経て前記第2層を形成する工程までの工程を、背圧を2×10-6Pa以下として行うことを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の視点による磁気抵抗効果素子の製造装置は、少なくとも第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とに挟まれた絶縁材料からなるトンネルバリア層と、を含む磁気抵抗効果素子に含まれる複数の層を、背圧を2×10-6Pa以下として形成する成膜部と、背圧を2×10-6Pa以下とし且つ最大昇温速度が+10℃/s以上となる条件で前記複数の層のうちの最上層を加熱する加熱部と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い動作特性を有するMTJ素子を得るための製造方法および製造装置提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者等は、本発明の開発の過程において、MR比が高く記憶層の保磁力のばらつきが小さい等の高い特性を有するMTJ素子について研究した。その結果、本発明者等は、以下に述べるような知見を得た。
【0014】
MTJ素子は、超高真空装置内で複数の膜を連続して形成するので、装置内の圧力が充分低く、真空度が充分高くなければならない。また、順に積層された磁化固着層、バリア層、記憶層からなるMTJ素子の製造は、一般的に保磁力および耐熱性が磁化固着層より小さい記憶層の劣化を防ぐため、以下のように行われる。すなわち、トンネルバリア層までの成膜、トンネルバリア層が成膜された段階で基板を加熱することによるトンネルバリア層の結晶性向上、その後の記憶層の成膜を、同一の成膜装置内で連続的に行う方法が考えられる。
【0015】
しかし、基板加熱時間が前述のような数10分乃至数時間の長さの場合、磁化固着層が劣化する恐れがある。また、基板加熱時の装置内圧力が充分低くないと、その際に上面が露出している層の表面が汚染され、例えばバリア層と記憶層との結晶性のつながりが阻害される。この結果、MR比が低下したり、磁性層の間の磁化の相互作用が阻害され保磁力のばらつきが大きくなったりするなどの特性の劣化につながる。
【0016】
このように、従来のMTJ素子の製造方法や製造装置では、試料全体を高温で長時間加熱することによるMTJ素子を構成する層間の元素拡散や磁性層の劣化が生じる。これに対して、MTJ素子を構成する層が途中で露出した状態で不十分な真空度中での加熱を行うことにより、試料全体を高温で長時間加熱することによる問題を解消できると考えられる。しかしながら、この場合も、MTJ素子内の加熱処理対象の層の汚染により、MTJ素子の特性が低下する。
【0017】
以上の検討より、膜質向上のために加熱が必要な層の充分な加熱と、耐熱性に劣る層の熱履歴抑制とを両立可能な磁気抵抗効果素子の製造方法および磁気抵抗効果素子の製造装置の提供が望まれる。
【0018】
以下に、このような知見に基づいて構成された本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0019】
(磁気抵抗効果素子とその周囲の構造)
図1は、本発明の実施形態に係る、磁気抵抗効果素子(MTJ素子)近傍部分の構造を示す断面図である。より具体的には、MTJ素子を用いるMRAMの一部を示す断面図である。
【0020】
図1に示すように、下部配線層1上に、磁化固着層(磁化基準層)2、トンネルバリア層3、および記憶層(磁化可変層)4からなる強磁性トンネル接合(MTJ)素子が設けられている。
【0021】
記憶層4上には上部配線層5が接続されており、上部配線層5と下部配線層1とは絶縁層6、7によって絶縁されている。上部配線層1、下部配線層5は、例えばAl、Al−Cu、Cu、Ta、W、Agから構成される。絶縁層6、7は、例えばシリコン酸化膜(SiOx)やシリコン窒化膜(SiNx)から構成される。
【0022】
絶縁層7には、記憶層4に達するコンタクトホール8が形成されている。コンタクトホール8内には導電材料が埋め込まれており、この導電材料は、上部配線5と記憶層4とを電気的に接続する。
【0023】
磁化固着層2および記憶層4は、より詳細には、図2に示すような積層された複数の層からなる。図2は、図1のMTJ素子の詳細な断面図である。図2に示すように、MTJ素子は、例えば、積層された、下部配線接続層11、反強磁性層12、強磁性層13、挿入層14、強磁性層15、トンネルバリア層3、強磁性層16、キャップ層17、上部配線接続層18から構成されている。
【0024】
下部配線接続層11、反強磁性層12、強磁性層13、挿入層14、強磁性層15の積層構造が、磁化固着層2を構成する。強磁性層16、キャップ層17、上部配線接続層18の積層構造が、記憶層4を構成する。
【0025】
下部配線接続層11は、例えば膜厚が5nmのTaからなる。反強磁性層12は、例えば膜厚が15nmのPt−Mnからなる。
【0026】
強磁性層13は、例えば膜厚が2nmのCo−Feからなる。挿入層14は、例えば膜厚が1nmの非磁性金属、例えばRuからなる。強磁性層15は、例えば膜厚が2nmのCo−Fe−Bからなり、その磁化の方向が固定されている。強磁性層13、強磁性層15、挿入層14は、積層フェリピンを構成する。強磁性層13は、反強磁性層12によって磁化の方向を固定されている。強磁性層15は、挿入層14によって強磁性層13の磁化と結合しているため、その磁化方向は固定されている。
【0027】
トンネルバリア層3は、例えば膜厚が1nmのMgOからなる。また、トンネルバリア層3としてAlOx、AlN、AlON、AlHfOx、AlZrOx、AlFOxを用いることもできる。強磁性層16は、例えば膜厚が2nmのCo−Fe−Bからなり、その磁化の方向は可変である。
【0028】
キャップ層17は、例えば膜厚が5nmのTaからなる。上部配線接続層18は、例えば膜厚が7nmのRuからなり、エッチングマスク、MTJ素子の表面保護の機能も担う。
【0029】
各層の厚さは、0.1nm乃至数10nmの範囲で適宜調整してもよい。また、各層は、上記と異なる材料で構成してもよい。また、MTJ素子の層の構成を適宜変更することもできる。例えば、トンネルバリア層3をMgOおよびMgを重ねた積層構造にする(非特許文献4)など、各層を複数の層で形成してもよい。また、MTJ素子を図2に示す構造と上下反対の構成としたり、記憶層4を単層でなく積層フェリピン構造としたり、トンネルバリア層を複数有する強磁性2重トンネル接合構造としたりすることができる。
【0030】
なお、図2以外の図では、簡略化のため下部配線接続層11乃至強磁性層15を包括的に磁化固着層2として示し、強磁性層16乃至上部配線接続層18を記憶層4として示す。また、下部配線接続層11乃至上部配線接続層18からなる構造を、以下、フルスタックと呼ぶ。
【0031】
(磁気抵抗効果素子の製造方法、製造装置)
磁化固着層2、トンネルバリア層3、および記憶層4の形成は、例えば、図3に示す半導体装置の製造装置により行う。図3は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造装置の平面図である。図3を参照して、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造装置、および製造方法について説明する。
【0032】
図3に示すように、製造装置は、基板導入室31、基板搬送室32、成膜室33、基板加熱室34を有する。基板加熱室34は、後述の本発明の実施の形態によっては、活性ガス発生装置35と、ガス供給管36を介して接続される。活性ガス発生装置35は、後述の実施形態に応じたガスを発生する。
【0033】
磁気抵抗効果素子の製造に当たり、まず、下部配線層1が形成された基板を、図3の基板導入室31内に設置する。製造装置内に外気が混入しないよう、所定の到達圧力に下がるまで基板導入室31内を充分排気した後、基板21を基板搬送室32内に導入する。
【0034】
MTJ素子を構成する各層への不純物混入による結晶性および膜質の低下や、各層の形成後に次の層を形成するまでに表面に吸着される吸着物によるMTJ素子の特性の劣化を防止するため、例えば図3に示す製造装置内、より具体的には、成膜室33、基板加熱室34の各チャンバ内では、常に、成膜やエッチング処理等の処理のためのガス供給または加熱の無いときの圧力(背圧)が、2×10-6Pa以下であることが好ましい。これは、以下の理由による。すなわち、チャンバ内の圧力は、汚染や酸化等の基板最表面の層への影響を成膜室33中のガス中の不純物と同等以下に抑制するため、成膜時のガス中の不純物濃度以下であることが好ましい。スパッタによる成膜の場合、成膜室34内のガスとして、通常、6N(99.9999%)程度以上の純度のガスを用いる。また、スパッタによる成膜時の圧力は典型的に0.1Pa未満なので、対応する不純物圧力2×10-6Pa以下にチャンバ内圧力を下げることが好ましい。より好ましくは、低圧スパッタ0.01Pa未満中の不純物圧力が1×10-7Pa以下、さらに好ましくは1×10-8Pa以下に、基板加熱室34のチャンバ内圧力を下げる。
【0035】
ここで、背圧とは、より詳しくは、成膜やエッチング等の処理のためのガス供給あるいは加熱を行わない際の圧力を示し、例えば当該ガス供給あるいは加熱を行う前あるいは行った後の圧力を測定することにより求められる。
【0036】
なお、基板最表面を加熱に伴い、基板や、試料台、装置内壁等が加熱され、この結果、これらからガスが発生することがある。このガスにより、基板加熱室内34内のガス供給の無いときの圧力が一時的に上記の条件の値を超えると、厳密には、基板最表面層の汚染に繋がる恐れがある。しかしながら、本実施形態の高速昇温は、後述のように従来の低速昇温に比べると加熱時間が少ないので、このガスによる汚染の影響は限定的である。
【0037】
このガスによる影響をも排除したい場合等、好ましくは、加熱中にガスが発生してもガス供給の無いときの圧力が上記の条件値以下になるよう、真空ポンプの排気速度を設定したり、予め充分な装置のベーキングで発生ガスを低減させたり、ガスの発生の少ない基板表面の膜材料を用いたりすることができる。
【0038】
次に、例えば基板の最表面を気相でエッチングすることにより、大気中から吸着された汚染物を除去した後(エッチング室は図示していない)、基板を成膜室33内に搬送する。成膜室33内において、加熱による改質を行う層まで順次成膜して積層する。ここで、加熱により改質を行う層は、図2のMTJ素子を構成する層のいずれかであり、どの層が該当するかについては後述する。例えば、トンネルバリア層3を改質する場合、下部配線接続層11乃至トンネルバリア層3が形成される。
【0039】
なお、成膜の方法は特に問わないが、図3は、ターゲット40を用いたスパッタリング法のための成膜室33を示している。その他、例えば、蒸着法、原子層堆積(ALD)法、化学的気相堆積(CVD)法を用いてもよい。
【0040】
スパッタリングによるトンネルバリア層3の形成では、トンネルバリア層3が酸化物の場合、化合物ターゲット(例えばMgOターゲット)の直接スパッタ、金属ターゲット(例えばMgターゲット)の反応性スパッタ(例えばO2ガス導入)、あるいは金属膜(例えばMg層)形成後のバリア酸化を行うことができる。バリア酸化では、酸素プラズマ、酸素ラジカル、オゾン、あるいは酸素ガス雰囲気を用いることができる。
【0041】
トンネルバリア層3が窒化物の場合は、窒素プラズマ、窒素ラジカル、窒素、アンモニア、一酸化一窒素、二酸化一窒素、一酸化二窒素といった窒化雰囲気を用い、これを金属ターゲットの反応性スパッタや金属層の形成後のバリア窒化に用いることができる。
【0042】
トンネルバリア層3が酸窒化物の場合は、金属酸化物層の窒化、金属窒化物層の酸化、酸窒化雰囲気の併用を適宜組み合わせて行うことができる。なお、酸化室、窒化室、あるいは酸窒化室は図示していない。
【0043】
次に、加熱による改質を行う層まで形成後、基板を基板加熱室34内に搬送する。基板は、成膜室33から基板加熱室34までの移動の間、基板は、上記のガス供給または加熱の無いときの圧力が2×10-6Pa以下、より好ましくは、ガス供給または加熱のないときの圧力が1×10-7Pa以下、さらに好ましくは1×10-8Pa以下の環境外に置かれない。基板加熱室34は、より詳しくは、図4の構成を有する。図4は、基板加熱室34の構成を示す断面図である。
【0044】
図4に示すように、基板加熱室34は、チャンバ41を有する。チャンバ内41には、試料台42が設けられ、試料台42上には基板21が配置される。試料台42の上方には、加熱用のランプ43が設けられる。ランプ43は、加熱光44によって、試料台42上に配置された基板21を加熱する。ランプ43は、試料台42上に配置された基板21の最表面、すなわち、基板加熱室34への搬送に先立って最後に形成された層を上方から加熱できる位置に配置される。ランプ43は、図4では、2つを図示しているが、1つ、または3つ以上でも構わない。
【0045】
試料台42の温度は、室温でも、加熱終了後の冷却を促進するため室温以下の低温でもよい。一方、高速昇温時の到達温度を高くするため、磁性層の特性が劣化しない範囲で、磁性層のキュリー温度より低く室温より高い温度に、所定時間保持しておいてもよい。具体的には、例えば、300℃以下、加熱時間1h以内とする。
【0046】
図4の基板加熱室34において、試料台42上の基板21の最表面の層を、ランプ43からの加熱光44を照射することによって改質する。この加熱は、理想的には、基板21の最表面の層のみが均一に加熱される条件で行う。その理由は、後述のように、加熱によって最表面の層を改質するとともに、最表面の層からこれ以外の層への熱の伝導を抑制することによって各層の構成元素が他層へ拡散することや磁性層の劣化を防止するためである。しかしながら、最表面層以外の層の昇温を完全に防ぐことは困難であるので、最表面層の近傍層(最表面に近い層)もある程度加熱される。ただし、加熱によって最表面層以外の層から構成元素の拡散や磁性層の劣化を防止しつつ、最表面層を後述するような状態へと改質できる条件であれば良い。
【0047】
このような条件を満たすため、より具体的には、最表面の層を最大昇温速度が+10℃/s以上の条件で昇温させる条件での昇温を行う。このような条件とすることによって、最表面の層のみの均一な加熱ではないとしても、後述の効果を得られるとともに、他の層への熱伝導を、悪影響が出ない程度に抑制できる。このような高速昇温を行い、かつ加熱後速やかに基板21を冷却するために、一般に熱容量が大きく昇降温が遅い試料台42に対する抵抗を用いた加熱でなく、ランプ43等の加熱装置により、熱容量の小さい基板21のみを直接的に加熱する。
【0048】
最大昇温速度を+10℃/s以上とする詳細な理由は、様々な観点に起因し、以下の通りである。このような昇温速度を有さない従来炉における+0.1℃/sでの1バッチ=25枚処理は、ウェハ1枚当り+2.5℃/sで25回の枚葉処理に対応する。本発明の実施形態で従来炉と同等以下の生産所要時間(Turn Around Time、以下TATと略す)を維持するには、最大昇温速度を+2.5℃/s以上にする必要がある。より好ましくは、TATを従来炉の半分以下に抑制してコストダウン効果を鮮明にするため、最表面層の最大昇温速度を+5℃/s以上にする。さらに好ましくは、熱履歴を最小にして磁性層の劣化を極力防止するため、最表面層の最大昇温速度を+10℃/s以上にする。
【0049】
一方、昇温速度が高過ぎると、不均一な昇温によってウェハが割れたり、MTJ素子下方の配線が切れたり、応力が発生して素子が劣化したりする恐れがある。これらを回避するため、最表面層の最大昇温速度は+100℃/s以下であることが好ましい。
【0050】
しかしながら、昇温速度が+100℃/sを超えても、後に「実験結果」の項目でも述べるような加熱時間が充分短くウェハの加熱光照射側のみが主に昇温する条件なら、熱はウェハ内を速やかに拡散してウェハ温度はほとんど上がらないので、ウェハ割れや配線切れや応力による素子の劣化は起こらない。例えば、Takayuki Ito et al. IEEE TRANSACTIONS ON SEMICONDUCTOR MANUFACTURING誌第16巻3号417ページ(2003年)には、加熱時間(ランプ照射時間)5ms以下でウェハの表面側が主に昇温することが示されている。従って、加熱時間5ms以下であれば、昇温速度が+100℃/sを超えた条件を本発明に係る実施形態で用いることができる。加熱時間(ランプ照射時間)5ms以下の加熱は、ウェハ最表面の膜に充分な熱履歴を与えるため、複数回行ってもよい。
【0051】
基板21の最表面の層の加熱は、最表面の層による吸収率がそれよりも下層の吸収率より高い波長の光を選別して、基板21に照射して行うことができる。波長を用いて選択的な加熱を行うには、例えば、基板21とランプ43との間にフィルタ46を設けることができる。フィルタ46は、最表面層の吸収率がそれより下の層での吸収率より高い波長の光を選別して透過させる。フィルタ46を用いた加熱を行うことによって、最表面以外の層への熱伝導をより良好に抑えつつ、短時間で均一に最表面の層を加熱できる。
【0052】
基板21の最表面層の加熱は、基板21に磁場が印加された状態で行う。これは、後述のように、基板21の最表面の層を改質すると共に、MTJ素子の層に磁化を与えるため、また、基板21最表面の層の加熱中または昇降温中におけるMTJ素子の磁性層の劣化や磁化方向の乱れを防ぐためである。磁場は、例えば昇温開始前から降温終了後まで印加する。
【0053】
印加する磁場の方向は、例えば、固着層2の所望の磁化の方向に沿った方向である。より具体的には、固着層2の磁化がMTJ素子の層の接合面に沿った方向を向くべき場合、接合面に沿った方向の磁場51を印加する。一方、固着層2の磁化がMTJ素子の接合面と交わる(典型的には実質的に垂直な)方向を向くべき場合、接合面と交わる方向の磁場52を印加する。
【0054】
また、印加する磁場の大きさは、0.005T以上であることが好ましい。これは、キュリー点近傍以上の温度で磁化を失った磁性層(磁性層13、15等)の磁化を回復させ、MTJ素子を用いる磁気記憶装置の配線(配線層1、5等)等の電流誘導磁場や地磁気等の外部磁場からの影響を回避するためである。
【0055】
一方、磁場が大き過ぎると、大口径のウェハ(基板21)に磁場を均一に印加することが処理装置の実現上困難となる。この観点からは、磁場の大きさは0.1T程度以下であることが現実的であり、また、好ましい。
【0056】
また、基板21の最表面の層の加熱は、チャンバ41内に雰囲気ガスが供給された状態で行うことができる。この場合、図4に示すように、チャンバ41内には、ガス供給管36を介して、後述するように、実施の形態に従ったガスが供給される。
【0057】
加熱処理される最表面層が酸化物の場合は、加熱に伴うO原子の離脱によるO原子欠損の発生を防ぐため、例えばO2、O3、N2Oのような、酸素原子を含む分子を含有する酸化性ガスを導入する。これらは必要に応じて、Ar、He、Ne、Kr、Xeといった希ガスと混合してもよい。
【0058】
導入される雰囲気ガスは、そのままチャンバ41に供給されてもよいし、基底状態や励起状態のO原子や酸素原子イオンおよび酸素分子イオン、励起状態のO2分子といった酸素ラジカルやオゾンなどの酸素活性種を用いてもよい。励起状態のガスを供給する場合、チャンバ41の外側において、ガス供給管36の側方には、放電電極45が設けられる。放電電極45は、ガス供給管36内のガスを励起する。放電電極45は、チャンバ41内に設けられていてもよい。
【0059】
また、加熱光44内に雰囲気ガスが光解離する波長の光が含まれている場合、解離により発生する活性種を基板21の最表面層の処理に活用することができる。特に、O2ガス含有雰囲気に対して波長175nm以下の光、O3ガス含有雰囲気に対して波長411nm以下の光、N2Oガス含有雰囲気に対して波長341nm以下の光を照射すると、励起状態の酸素原子ラジカルO(1D)が発生する。この酸素原子ラジカルは、価電子のスピンが↑↓である。基底状態の酸素原子ラジカルO(3P)の価電子スピン↑↑に比べ、化学結合を構成する価電子のスピン↑↓への挿入反応が起こりやすく、O原子欠損抑制に特に効果がある。一方、これらより波長が長く低エネルギーの光でも、O(1D)より励起状態の低いO(3P)が形成される波長の光なら、O(3P)もO2よりはO原子欠損に入りやすく、O原子欠損を抑制する効果がある。
【0060】
雰囲気ガスの励起は、加熱光44を兼用してもよいが、別の光源による雰囲気ガス励起光53を使用してもよい。
【0061】
加熱処理される最表面層が窒化物の場合は、加熱に伴うN原子の離脱によるN原子欠損の発生を防ぐため、例えばN2、NH3、NO、N2O、NO2のような、窒素原子を含む分子を含有する窒化性ガスを導入することができる。これらは、上記の酸化性ガスと同様に、希ガスと混合したり、導入ガスを励起してもよく、基底状態や励起状態のN原子や窒素原子イオンおよび窒素分子イオン、励起状態のN2分子といった窒素ラジカルなどの窒素活性種を使用することができる。
【0062】
加熱処理される最表面層が酸窒化物の場合は、上記の酸化性ガスおよび窒化性ガスのいずれかまたは双方を順番に使用することができる。特に、例えばNO、N2O、NO2のような酸素原子および窒素原子を含む分子を含んだガス、またはそれを励起して発生するラジカルは、最表面層のO、N両原子欠損を同時に抑制できる可能性がある。
【0063】
加熱処理される最表面層が磁性体や金属のような導電体の場合は、雰囲気中の残留ガスによる表面の酸化や汚染を防ぐため、例えばH2ガスのような還元性ガス(水素ガス)を導入する。これは、先述の酸化性ガスと同様に、希ガスと混合したり、導入ガスを励起してもよく、基底状態や励起状態のH原子や水素原子イオンおよび水素分子イオン、励起状態のH2分子といった水素ラジカルなどの水素活性種を使用することができる。
【0064】
また、加熱時の雰囲気として希ガスのような不活性ガスを用いたり、真空雰囲気としたりしてもよい。
【0065】
以上の雰囲気ガスの供給は、最表面層での原子欠損発生や表面汚染を防ぐため、昇温開始前から降温終了後まで行ったり、あるいは雰囲気ガスの最表面層の下層との反応を防ぐため、昇温前から降温後の間の一部の時間のみ行ったりしてもよい。
【0066】
また、加熱室34は、加熱処理による基板最表面層の構造変化を調べるための機構を有していてもよい。このような機構として、加熱室34は、例えば、電子線または光源61、検出器またはスクリーン62を有する。高速反射電子線回折法(RHEED)を用いる場合、電子線61は基板21に電子線63を照射し、基板21の最表面層により反射された電子線によって、回析パターンがスクリーン62に映し出される。この回析パターンから、基板21の最表面層の結晶構造を知得できる。
【0067】
また、X線反射率分析法(GIXR)を用いる場合、電子線61は、基板21にX線63を照射し、基板21の最表面層により反射されたX線が検出器62に入射する。検出器62がこのX線を解析することによって、基板21の最表面層の密度や界面・表面ラフネスを測定できる。
【0068】
また、X線光電子分析法(XPS)による結合状態分析、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)による密度分析などを適宜用いてもよい。
【0069】
加熱処理による基板21最表面層の構造変化の分析は、基板搬送時間節約および加熱中の観察の観点から加熱室34内で行ってもよいし、加熱処理と最表面層の分析の並行処理による生産速度向上の観点から加熱室34と別のチャンバで行ってもよい。いずれの場合も、加熱処理と表面分析は、大気中の水分や酸素等による変質を防ぐため、基板21を外気に晒すことなく連続的に行うことが好ましい。
【0070】
加熱終了後、各層構成元素の他層への拡散や磁性層の劣化を防止するため、最大降温速度を、最大昇温速度と同様に−10℃/s以上として各層の熱履歴を抑制することが好ましい。降温は自然放冷でもよいが、例えば試料台42に冷媒を通して冷却機能を持たせたり、冷却用ガスを基板21や試料台42の周囲に吹きつけたりしてもよい。あるいは、基板21を加熱室301と別のチャンバに搬送して冷却してもよい。いずれの場合も、降温処理は、大気中の水分や酸素等による変質を防ぐため、外気に晒すことなく連続的に行うことが好ましい。
【0071】
(実験結果)
図5は、最大昇温速度+10℃/s以上の高速昇温の効果を調べるために行った実験結果を示している。図2に示したフルスタックを成膜後、図5に示す3通りの条件でアニールを行った。すなわち、従来炉を用いて炉内温度250℃で2hの加熱、高速昇温(RTA)で基板最表面の400℃までの昇温(RTA1)、特殊なRTA(RTA2)である。
【0072】
また、昇温雰囲気は、従来炉は真空中、RTA1は磁場なしで窒素ガス0.1MPa中、RTA2はアルゴンガス0.1MPa中であった。また、従来炉は0.5Tの磁場が印加された状態であり、RTA1、RTA2は磁場の印加なしで行った。
【0073】
従来炉での加熱では、基板全体が加熱されるため、最表面層を含む基板の全体の温度は、炉内と同じ温度(250℃)まで昇温する。また、昇温に1乃至2時間、また加熱後の50℃までの降温に5乃至6時間を要しており、基板全体の昇温速度は最大でも+6℃/min(+0.1℃/s)程度である。
【0074】
RTA1では、加熱ランプを数秒乃至数10秒照射することによって、最表面層を含む基板全体を400℃まで昇温させた(RTA1)。RTA1では、熱が速やかに拡散し、基板の最表面層と基板内部とで温度差は生じない。基板の最表面層の最大昇温速度は+20℃/s、基板全体の400℃到達までの所要時間は約13秒であった。400℃到達後すぐに加熱を停止して降温開始し、200、100、50℃到達時間は降温開始からそれぞれ20、145、110秒後程度であった。400℃から200℃までの20秒での降温は降温速度−10℃/sである。
【0075】
RTA2は、CMOS試作プロセスのSi基板表面にイオン注入後、活性化アニールによるultra shallow junctionの形成に使用されている方法である(Takayuki Ito et al. IEEE TRANSACTIONS ON SEMICONDUCTOR MANUFACTURING誌第16巻3号417ページ(2003年))。基板の表面にミリ秒程度、加熱光を照射し、基板最表面のみを瞬間的に加熱する。加熱用照射光の熱量は小さいので、照射後は熱が基板最表面から基板内部に速やかに拡散し、基板温度は急速に、RTA1より早く低下する。ここでは、試料ステージで100℃に加熱した基板に対し、照射パルス時間幅0.8msの基板加熱ランプで5回照射を行った。上記した、昇温速度が+100℃/sを超えているが加熱時間が充分短い条件の加熱処理の1つとして、このRTA2が該当する。
【0076】
図5で、RTA2は従来炉を用いた250℃での2hの条件の場合より高いMRが出ている。RTA2は、4ms(0.8ms×5回)間の加熱で基板最表面層の温度が250℃以上に到達していることを示しており、昇温速度+62500℃/s以上に相当する。
【0077】
バリア抵抗率RAは、いずれの試料も数kΩum2であった。
【0078】
図5でRTA1、RTA2は、無磁場でフルスタック成膜後の加熱であるにもかかわらず、従来炉の磁場中での250℃の加熱より高いMR比を示している。今後、これらの高速昇温装置を成膜装置に組み込んで、フルスタック中の加熱が必要な層が最表面にある時点で、その場で(in situに)加熱することが考えられる。こうすることにより、他の耐熱性に劣る層の劣化を防止したり、磁場印加によって加熱中の磁性層の劣化を抑制したりすることができる。
【0079】
(実施形態のバリエーション)
図3、図4の装置を用いた、磁気抵抗効果素子の形成に関する様々な実施形態について説明する。
【0080】
(実施形態1)
実施形態1は、図3、図4の装置を用いた、トンネルバリア層3が形成された時点での加熱に関する。図6乃至図10を参照して、実施形態1について説明する。図6乃至図8は、本発明の実施形態1に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を順に示す図である。
【0081】
図7に示すように、成膜室33内で、例えばスパッタ法により、基板(図示せぬ)の上方に下側配線接続層11からトンネルバリア層3までの各層を形成する。次に、図8に示すように、加熱室34内で基板の最表面層(トンネルバリア層3)に対して加熱光44を照射することにより、トンネルバリア層3を、+10℃/sの最大昇温速度で、例えば400乃至800℃まで加熱する。温度の保持時間は例えば1分以下の短時間である。
【0082】
トンネルバリア層3がMgOやAlOxのように酸素原子を含有する場合、加熱を酸化雰囲気中で行ってもよい。こうすることにより、加熱による酸素原子欠損の発生を防ぐことができる。酸化雰囲気は、例えば酸素ガス、酸素プラズマやラジカル源等で発生させた原子状酸素などの酸素ラジカル、オゾンガスを用いることにより実現できる。これらの雰囲気に希ガスを混合してもよい。圧力は、例えば概ね133Pa(1Torr)乃至1.33×10-5Pa(1×10-7Torr)の範囲とする。
【0083】
加熱終了後、基板は、ほぼ室温まで冷却される。冷却後、図8に示すように、強磁性層16から上部配線接続層18までの各層を形成することにより、フルスタック全体が完成する。
【0084】
実施形態1の効果を、図9、図10に模式的に示す。図10は、図9に続く状態を示している。図9に示すように、成膜後のトンネルバリア層3には、格子の乱れ、酸素欠損、格子歪、凹凸等が生じている。これに対して、ランプ43による加熱の熱エネルギーによって、トンネルバリア層3の表面マイグレーションを促進する。この結果、図10に示すように、格子の乱れ、酸素欠損、格子歪、凹凸を解消してトンネルバリア層3の結晶性が向上する。
【0085】
また、加熱によって、トンネルバリア層3、強磁性層15を同時に結晶化させることによって、強磁性層15と格子整合が良く、且つ高MR、高耐圧で絶縁破壊寿命が長いトンネルバリア層3を形成する効果もある。
【0086】
また、結晶性が向上したトンネルバリア層3上に強磁性層16乃至上部配線接続層18が形成される。よって、強磁性層16乃至上部配線接続層18の結晶性も向上する。
【0087】
また、加熱によって、例えばトンネルバリア層3内、特に表面の水酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムといった不純物を酸化し、除去する効果もある。
【0088】
酸素活性種を含んだ雰囲気内での加熱を行えば、その励起エネルギーも表面マイグレーションに寄与する。この場合、好ましくは、表面マイグレーションの活性化エネルギーは各層間の原子拡散の活性化エネルギーより小さく、最表面層に与えられる熱エネルギーおよび活性種のエネルギーは最表面層の下層へと熱伝導で与えられる熱エネルギーより大きいという性質を利用する。また、熱エネルギーは下層に伝導するが、原子の他層への拡散や多層原子との混合は抑制される加熱条件がよい。
【0089】
(実施形態2)
実施形態2は、図3、図4の装置を用いた、強磁性層15が形成された時点での加熱に関する。図11乃至図15を参照して、実施形態2について説明する。図11乃至図13は、本発明の実施形態2に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を順に示す図である。
【0090】
図11に示すように、成膜室33内で、例えばスパッタ法により、基板(図示せぬ)の上方に下側配線接続層11から強磁性層15までの各層を形成する。次に、図12に示すように、加熱室34内で基板の最表面層(強磁性層15)に対して加熱光44を照射することにより、強磁性層15を、+10℃/sの最大昇温速度で、例えば400乃至800℃まで加熱する。温度の保持時間は例えば1分以下の短時間である。
【0091】
この加熱は、例えば還元雰囲気中で行ってもよい。こうすることにより、強磁性層15の表面で酸化物が生成されることや有機物によって汚染されることを防止できる。還元雰囲気は、例えば水素ガス、水素プラズマやラジカル源等で発生させた原子状水素などの水素ラジカルを用いることにより実現される。これらの雰囲気に希ガスを混合してもよい。圧力は、例えば概ね133Pa(1Torr)乃至1.33×10-5Pa(1×10-7Torr)の範囲とする。
【0092】
加熱終了後、基板は、ほぼ室温まで冷却される。冷却後、図13に示すように、トンネルバリア層3から上部配線接続層18までの各層を形成することにより、フルスタック全体が完成する。
【0093】
実施形態2の効果を、図14、図15に模式的に示す。図14に示すように、成膜後の強磁性層15には、格子の乱れ、格子歪、凹凸等が生じている。これに対して、ランプ43による加熱の熱エネルギーによって、強磁性層15の表面マイグレーションを促進する。この結果、図15に示すように、格子の乱れ、酸素欠損、格子歪、凹凸を解消して強磁性層15の結晶性が向上する。
【0094】
結晶性が向上した強磁性層15上にトンネルバリア層3が形成されるので、強磁性層15の結晶性も高く、強磁性層15の表面に格子の乱れ、格子歪、凹凸等が生じることが抑制される。また、強磁性層15より上の層の結晶性も同様に向上する。
【0095】
還元雰囲気中での加熱を行う場合、好ましくは、表面マイグレーションの活性化エネルギーが各層間の原子拡散の活性化エネルギーより小さく、最表面層に与えられる熱エネルギーおよび活性種のエネルギーが最表面層の下層に熱伝導で与えられる熱エネルギーより大きいという性質を利用する。また、熱エネルギーは下層に伝導するが、原子の他層への拡散や多層原子との混合は抑制される加熱条件がよい。
【0096】
(実施形態3)
実施形態3は、図3、図4の装置を用いた、強磁性層16が形成された時点での加熱に関する。図16乃至図20を参照して、実施形態3について説明する。図16乃至図18は、本発明の実施形態3に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を順に示す図である。
【0097】
図16に示すように、成膜室33内で、例えばスパッタ法により、基板(図示せぬ)の上方に下側配線接続層11から強磁性層16までの各層を形成する。次に、図17に示すように、加熱室34内で基板の最表面層(強磁性層16)に対して加熱光44を照射することにより、強磁性層16を、+10℃/sの最大昇温速度で、例えば400乃至800℃まで加熱する。温度の保持時間は例えば1分以下の短時間である。
【0098】
この加熱は、例えば還元雰囲気中で行ってもよい。こうすることにより、強磁性層16の表面で酸化物が生成されることや有機物によって汚染されることを防止できる。還元雰囲気は、例えば水素ガス、水素プラズマやラジカル源等で発生させた原子状水素などの水素ラジカルを用いることにより実現される。これらの雰囲気に希ガスを混合してもよい。圧力は、例えば概ね133Pa(1Torr)乃至1.33×10-5Pa(1×10-7Torr)の範囲とする。
【0099】
加熱終了後、基板は、ほぼ室温まで冷却される。冷却後、図13に示すように、キャップ層17、上部配線接続層18を順次形成することにより、フルスタック全体が完成する。
【0100】
実施形態3の効果を、図19、図20に模式的に示す。図19に示すように、成膜後の強磁性層16には、格子の乱れ、格子歪、凹凸等が生じている。これに対して、ランプ43による加熱の熱エネルギーによって、強磁性層16の表面マイグレーションを促進する。この結果、図15に示すように、格子の乱れ、酸素欠損、格子歪、凹凸を解消して強磁性層16の結晶性を向上する。
【0101】
また、加熱によって、トンネルバリア層3、強磁性層15をも同時に結晶化させ、強磁性層15、16と格子整合が良く、且つ高MR、高耐圧で絶縁破壊寿命が長いトンネルバリア層3を形成する効果もある。
【0102】
また、結晶性が向上した強磁性層16上にキャップ層17、上部配線接続層層18が形成される。このため、キャップ層17、上部配線接続層18の結晶性も向上する。
【0103】
還元雰囲気中での加熱を行う場合、好ましくは、表面マイグレーションの活性化エネルギーが各層間の原子拡散の活性化エネルギーより小さく、最表面層に与えられる熱エネルギーおよび活性種のエネルギーが最表面層の下層に熱伝導で与えられる熱エネルギーより大きいという性質を利用する。また、熱エネルギーは下層に伝導するが、原子の他層への拡散や多層原子との混合は抑制される加熱条件がよい。
【0104】
実施形態1乃至3では、トンネルバリア層3、強磁性層15、16が最表面になったときに成膜を中断して行った加熱処理を説明した。しかしながら、これら以外の層が最表面になったときに成膜を中断して加熱処理を行っても、同様に、その層の結晶性・膜質向上や、その下層との格子整合の向上や、加熱後ほぼ室温に冷却し表面状態が変化することによるその上層の結晶性向上の効果を得ることができる。
【0105】
実施形態1乃至3で製造されたMTJ素子では、トンネルバリア層3およびその上下の強磁性層15、16の結晶性が向上するとともに、特に実施形態1のMTJ素子ではトンネルバリア層3内の不純物(例えば、水酸化物や炭酸化合物)が減少する。このため、高MR、高耐圧で絶縁破壊寿命が長く、低耐圧マイノリティー(minority)不良素子の発生が抑制されたトンネルバリア層3を形成できる。
【0106】
また、実施形態1乃至3で製造されたMTJ素子では、最表面の層のみが加熱され、この結果、実質的にこの最表面の層が主に昇温し、これより下の層の昇温が抑制される。このため、加熱対象の層以外の層での熱履歴が抑制される。この結果、磁気特性や耐熱性の高いMTJ素子を実現できる。
【0107】
また、実施形態1乃至3で製造された、加熱対象の層(最表面の層)のみが昇温するように高速加熱および冷却が行われるため、加熱対象の層から、これ以外の層への熱伝導が抑制される。熱伝導の抑制によって、各層構成元素の他層への拡散や、昇温が望まれない層での昇温が抑制される。この結果、磁性層が劣化したり、磁化の向きが乱されたりすることを回避しつつ、磁区の大きさも一定に保たれる。よって、保持力ばらつきが低減すると共に、記憶層16での磁化の反転が容易になることによってMRAMに用いられた場合の書込み電流が低減する。
【0108】
(磁気記憶装置の製造方法)
図3、図4の装置により製造される磁気抵抗効果素子を含んだ磁気記憶装置の製造方法について、図21乃至図24を参照して説明する。図21乃至図24は、本発明の実施形態に係る磁気記憶装置の製造工程を順に示す断面図である。
【0109】
図21に示すように、半導体基板(図示せぬ)の上方に下部配線層1を、例えばCVD法やスパッタリング法等により形成する。次に、図3、図4の装置を用いて、実施形態1乃至3のいずれかに従って、磁化固着層2、トンネルバリア層3、記憶層4が形成される。
【0110】
次に、図22に示すように、例えば、CVD法およびリソグラフィ工程を用いて、記憶層4上に磁気抵抗効果素子が有するべき形状に対応するパターンを有するマスク材が形成される。次に、このマスク材を用いてイオンミリング法や反応性イオンエッチング(RIE)法により、磁化固着層2、トンネルバリア層3、記憶層4を選択的にエッチングする。この結果、磁化固着層2、トンネルバリア層3、記憶層4が、所定の平面形状へと加工される。この後、マスク材が除去される。
【0111】
次に、図23に示すように、例えばスパッタリング法やCVD法により、半導体基板の表面上の全面に、絶縁層6を形成する。絶縁層6は、続く工程でMTJ素子を保護する機能を有し、例えば、SiO2やSiNとすることができる。
【0112】
次に、例えばCVD法およびリソグラフィ工程を用いて、絶縁層6上に、下部配線層1のパターンに応じたパターンを有するマスク材が形成される。次に、このマスク材を用いて、例えばRIE法により、下部配線層1が選択的にエッチングされる。このエッチングにより除去される部分は、図23の紙面の手前と奥に位置しており、図23上ではその変化は示されていない。このエッチングの際、MTJ素子は、絶縁層6により保護されている。
【0113】
次に、図24に示すように、半導体基板の表面上の全面に、例えばスパッタリング法やCVD法を用いて、絶縁層7が形成される。絶縁層7は、例えばSiO2 である。次に、リソグラフィ工程を用いて、絶縁層7内のMTJ素子の上の部分に、MTJ素子に達するコンタクトホール8が形成される。
【0114】
次に、図1に示すように、例えばCVD法等により、コンタクトホール8を導電材で埋め込むと共に、絶縁層7上の上部配線層5を形成する。次に、上部配線層5を、リソグラフィ工程を用いて選択的にエッチングする。なお、上部配線層5については、コンタクト孔8の埋め込みをまず行い、その後、絶縁層7より上方の部分の成膜を行ってもよい。
【0115】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の実施形態に係るMTJ素子とその周囲の断面図。
【図2】図1のMTJ素子の詳細な断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造装置の平面図。
【図4】基板加熱室の構成を示す断面図。
【図5】昇温方法、条件に応じたMR比を示す図。
【図6】実施形態1に係る磁気抵抗効果素子の製造工程を示す断面図。
【図7】図6に続く工程を示す断面図。
【図8】図7に続く工程を示す断面図。
【図9】実施形態1の効果を模式的に示す図。
【図10】実施形態1の効果を模式的に示す図。
【図11】実施形態2に係る磁気抵抗効果素子の製造工程を示す断面図。
【図12】図11に続く工程を示す断面図。
【図13】図12に続く工程を示す断面図。
【図14】実施形態2の効果を模式的に示す図。
【図15】実施形態2の効果を模式的に示す図。
【図16】実施形態3に係る磁気抵抗効果素子の製造工程を示す断面図。
【図17】図16に続く工程を示す断面図。
【図18】図17に続く工程を示す断面図。
【図19】実施形態3の効果を模式的に示す図。
【図20】実施形態3の効果を模式的に示す図。
【図21】本発明の実施形態に係る磁気記憶装置の製造工程を示す断面図。
【図22】図21に続く工程を示す断面図。
【図23】図22に続く工程を示す断面図。
【図24】図23に続く工程を示す断面図。
【符号の説明】
【0117】
1…下部配線層、2…磁化固着層、3…トンネルバリア層、4…記憶層、5…上部配線層、6、7…絶縁膜層、8…コンタクトホール、11…下部配線接続層、12…反強磁性層、13、15…強磁性層(磁化固着層)、14…挿入層、16…強磁性層(記憶層)、17…キャップ層、18…上部配線接続層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子の製造方法および磁気抵抗効果素子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ランダムアクセスメモリ(Magnetoresistive Random Access Memory : MRAM)は、情報を記憶するセル部において磁気抵抗効果を持つ磁気素子を用いる。MRAMは、高速動作、大容量、不揮発性を特徴とする次世代記憶装置として注目されている。磁気抵抗効果とは、強磁性体に磁場を印加すると強磁性体の磁化の向きに応じて電気抵抗が変化する現象である。こうした強磁性体の磁化の向きを情報の記録に用い、それに対応する電気抵抗の大小を用いて情報を読み出すことにより、記憶装置(MRAM)が実現される。
【0003】
近年、2つの強磁性層の間に絶縁層(トンネルバリア層と称する)を挿入した構造を含む強磁性トンネル接合において、トンネル磁気抵抗効果(TMR効果)により20%以上の磁気抵抗比(MR比)が得られるようになった。これをきっかけとして、トンネル磁気抵抗効果を利用した強磁性トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction : MTJ)素子がMRAMに用いられている。
【0004】
MRAMにMTJ素子を用いる場合、トンネルバリア層を挟む2つの強磁性層のうち、一方はその磁化の向きが変化しないように固定された磁化基準層として用いられ、他方はその磁化の向きが反転しやすい記憶層として用いられる。基準層と記憶層の磁化の向きが平行な状態と反平行な状態を2進数の“0”と“1”に対応づけることで、情報を記憶することができる。
【0005】
情報の書き込みには、大別して2種の方法がある。1つは、MTJ素子近傍に設けられた書込み配線に電流を流して発生する磁場により、記憶層の磁化の向きを反転させる。もう1つは、スピン注入法と呼ばれ、MTJ素子に書込み電流を印加し、磁化基準層によってスピンの向きを揃えた伝導電子を記憶層に供給して記憶層の磁化を反転させる。
【0006】
バリア層を挟む2つの磁性層の磁化が平行のとき、電流コンダクタンスが大きくなってMTJ素子の抵抗が小さい。一方、反平行なときは、平行のときより抵抗が大きい。記録情報の読み出しは、このTMR効果による抵抗変化分を検出することにより行う。従って、TMR効果による抵抗変化率(MR比)が大きいほうが好ましい。
【0007】
近年、MgOをトンネルバリアとして用いると、数100%のMR比が得られることが指摘された。その理由は、MgO(001)結晶の45度方向とFe(001)結晶とで格子定数が整合し、磁性層/MgO/磁性層が結晶構造について積層するためと言われている。
【0008】
磁性層として、Fe(非特許文献1)、CoFe(非特許文献2)、CoFeB(非特許文献3)が報告されている。これらの文献は、試料全体(MTJ素子全体)を260乃至360℃で30分乃至2時間加熱することを開示する。しかし、このような長時間の加熱では、例えば、MTJ素子を構成する各層の間の元素拡散や、磁性層の劣化が進行する。この結果、例えばMR比の低下や記憶層の保磁力ばらつきの増加など、MTJ素子の動作特性が劣化する恐れがある。
【非特許文献1】S. Yuasa et al.、論文名、「Nature Material」、2004年、第3巻、p.868
【非特許文献2】S. S. P. Parkin et al、論文名、「Nature Material」、2004年、第3巻、p.862
【非特許文献3】D. D. Djayaprawire et al.、論文名、「Applied Physics Letter」、2005年、第86巻、p.092502
【非特許文献4】K. Tsunekawa et al.、論文名、「Applied Physics Letter」、2005年、第87巻、p.072503
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高い動作特性を有するMTJ素子を得るための製造方法および製造装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の視点による磁気抵抗効果素子の製造方法は、少なくとも第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とに挟まれた絶縁材料からなるトンネルバリア層と、を含む磁気抵抗効果素子の製造方法であって、前記磁気抵抗効果素子の一部を構成する第1層を形成する工程と、最大昇温速度が+10℃/s以上となる条件で前記第1層を加熱する工程と、前記第1層上に第2層を形成する工程と、を具備し、少なくとも前記第1層を形成する工程から前記第1層を加熱する工程を経て前記第2層を形成する工程までの工程を、背圧を2×10-6Pa以下として行うことを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の視点による磁気抵抗効果素子の製造装置は、少なくとも第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とに挟まれた絶縁材料からなるトンネルバリア層と、を含む磁気抵抗効果素子に含まれる複数の層を、背圧を2×10-6Pa以下として形成する成膜部と、背圧を2×10-6Pa以下とし且つ最大昇温速度が+10℃/s以上となる条件で前記複数の層のうちの最上層を加熱する加熱部と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い動作特性を有するMTJ素子を得るための製造方法および製造装置提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者等は、本発明の開発の過程において、MR比が高く記憶層の保磁力のばらつきが小さい等の高い特性を有するMTJ素子について研究した。その結果、本発明者等は、以下に述べるような知見を得た。
【0014】
MTJ素子は、超高真空装置内で複数の膜を連続して形成するので、装置内の圧力が充分低く、真空度が充分高くなければならない。また、順に積層された磁化固着層、バリア層、記憶層からなるMTJ素子の製造は、一般的に保磁力および耐熱性が磁化固着層より小さい記憶層の劣化を防ぐため、以下のように行われる。すなわち、トンネルバリア層までの成膜、トンネルバリア層が成膜された段階で基板を加熱することによるトンネルバリア層の結晶性向上、その後の記憶層の成膜を、同一の成膜装置内で連続的に行う方法が考えられる。
【0015】
しかし、基板加熱時間が前述のような数10分乃至数時間の長さの場合、磁化固着層が劣化する恐れがある。また、基板加熱時の装置内圧力が充分低くないと、その際に上面が露出している層の表面が汚染され、例えばバリア層と記憶層との結晶性のつながりが阻害される。この結果、MR比が低下したり、磁性層の間の磁化の相互作用が阻害され保磁力のばらつきが大きくなったりするなどの特性の劣化につながる。
【0016】
このように、従来のMTJ素子の製造方法や製造装置では、試料全体を高温で長時間加熱することによるMTJ素子を構成する層間の元素拡散や磁性層の劣化が生じる。これに対して、MTJ素子を構成する層が途中で露出した状態で不十分な真空度中での加熱を行うことにより、試料全体を高温で長時間加熱することによる問題を解消できると考えられる。しかしながら、この場合も、MTJ素子内の加熱処理対象の層の汚染により、MTJ素子の特性が低下する。
【0017】
以上の検討より、膜質向上のために加熱が必要な層の充分な加熱と、耐熱性に劣る層の熱履歴抑制とを両立可能な磁気抵抗効果素子の製造方法および磁気抵抗効果素子の製造装置の提供が望まれる。
【0018】
以下に、このような知見に基づいて構成された本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0019】
(磁気抵抗効果素子とその周囲の構造)
図1は、本発明の実施形態に係る、磁気抵抗効果素子(MTJ素子)近傍部分の構造を示す断面図である。より具体的には、MTJ素子を用いるMRAMの一部を示す断面図である。
【0020】
図1に示すように、下部配線層1上に、磁化固着層(磁化基準層)2、トンネルバリア層3、および記憶層(磁化可変層)4からなる強磁性トンネル接合(MTJ)素子が設けられている。
【0021】
記憶層4上には上部配線層5が接続されており、上部配線層5と下部配線層1とは絶縁層6、7によって絶縁されている。上部配線層1、下部配線層5は、例えばAl、Al−Cu、Cu、Ta、W、Agから構成される。絶縁層6、7は、例えばシリコン酸化膜(SiOx)やシリコン窒化膜(SiNx)から構成される。
【0022】
絶縁層7には、記憶層4に達するコンタクトホール8が形成されている。コンタクトホール8内には導電材料が埋め込まれており、この導電材料は、上部配線5と記憶層4とを電気的に接続する。
【0023】
磁化固着層2および記憶層4は、より詳細には、図2に示すような積層された複数の層からなる。図2は、図1のMTJ素子の詳細な断面図である。図2に示すように、MTJ素子は、例えば、積層された、下部配線接続層11、反強磁性層12、強磁性層13、挿入層14、強磁性層15、トンネルバリア層3、強磁性層16、キャップ層17、上部配線接続層18から構成されている。
【0024】
下部配線接続層11、反強磁性層12、強磁性層13、挿入層14、強磁性層15の積層構造が、磁化固着層2を構成する。強磁性層16、キャップ層17、上部配線接続層18の積層構造が、記憶層4を構成する。
【0025】
下部配線接続層11は、例えば膜厚が5nmのTaからなる。反強磁性層12は、例えば膜厚が15nmのPt−Mnからなる。
【0026】
強磁性層13は、例えば膜厚が2nmのCo−Feからなる。挿入層14は、例えば膜厚が1nmの非磁性金属、例えばRuからなる。強磁性層15は、例えば膜厚が2nmのCo−Fe−Bからなり、その磁化の方向が固定されている。強磁性層13、強磁性層15、挿入層14は、積層フェリピンを構成する。強磁性層13は、反強磁性層12によって磁化の方向を固定されている。強磁性層15は、挿入層14によって強磁性層13の磁化と結合しているため、その磁化方向は固定されている。
【0027】
トンネルバリア層3は、例えば膜厚が1nmのMgOからなる。また、トンネルバリア層3としてAlOx、AlN、AlON、AlHfOx、AlZrOx、AlFOxを用いることもできる。強磁性層16は、例えば膜厚が2nmのCo−Fe−Bからなり、その磁化の方向は可変である。
【0028】
キャップ層17は、例えば膜厚が5nmのTaからなる。上部配線接続層18は、例えば膜厚が7nmのRuからなり、エッチングマスク、MTJ素子の表面保護の機能も担う。
【0029】
各層の厚さは、0.1nm乃至数10nmの範囲で適宜調整してもよい。また、各層は、上記と異なる材料で構成してもよい。また、MTJ素子の層の構成を適宜変更することもできる。例えば、トンネルバリア層3をMgOおよびMgを重ねた積層構造にする(非特許文献4)など、各層を複数の層で形成してもよい。また、MTJ素子を図2に示す構造と上下反対の構成としたり、記憶層4を単層でなく積層フェリピン構造としたり、トンネルバリア層を複数有する強磁性2重トンネル接合構造としたりすることができる。
【0030】
なお、図2以外の図では、簡略化のため下部配線接続層11乃至強磁性層15を包括的に磁化固着層2として示し、強磁性層16乃至上部配線接続層18を記憶層4として示す。また、下部配線接続層11乃至上部配線接続層18からなる構造を、以下、フルスタックと呼ぶ。
【0031】
(磁気抵抗効果素子の製造方法、製造装置)
磁化固着層2、トンネルバリア層3、および記憶層4の形成は、例えば、図3に示す半導体装置の製造装置により行う。図3は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造装置の平面図である。図3を参照して、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造装置、および製造方法について説明する。
【0032】
図3に示すように、製造装置は、基板導入室31、基板搬送室32、成膜室33、基板加熱室34を有する。基板加熱室34は、後述の本発明の実施の形態によっては、活性ガス発生装置35と、ガス供給管36を介して接続される。活性ガス発生装置35は、後述の実施形態に応じたガスを発生する。
【0033】
磁気抵抗効果素子の製造に当たり、まず、下部配線層1が形成された基板を、図3の基板導入室31内に設置する。製造装置内に外気が混入しないよう、所定の到達圧力に下がるまで基板導入室31内を充分排気した後、基板21を基板搬送室32内に導入する。
【0034】
MTJ素子を構成する各層への不純物混入による結晶性および膜質の低下や、各層の形成後に次の層を形成するまでに表面に吸着される吸着物によるMTJ素子の特性の劣化を防止するため、例えば図3に示す製造装置内、より具体的には、成膜室33、基板加熱室34の各チャンバ内では、常に、成膜やエッチング処理等の処理のためのガス供給または加熱の無いときの圧力(背圧)が、2×10-6Pa以下であることが好ましい。これは、以下の理由による。すなわち、チャンバ内の圧力は、汚染や酸化等の基板最表面の層への影響を成膜室33中のガス中の不純物と同等以下に抑制するため、成膜時のガス中の不純物濃度以下であることが好ましい。スパッタによる成膜の場合、成膜室34内のガスとして、通常、6N(99.9999%)程度以上の純度のガスを用いる。また、スパッタによる成膜時の圧力は典型的に0.1Pa未満なので、対応する不純物圧力2×10-6Pa以下にチャンバ内圧力を下げることが好ましい。より好ましくは、低圧スパッタ0.01Pa未満中の不純物圧力が1×10-7Pa以下、さらに好ましくは1×10-8Pa以下に、基板加熱室34のチャンバ内圧力を下げる。
【0035】
ここで、背圧とは、より詳しくは、成膜やエッチング等の処理のためのガス供給あるいは加熱を行わない際の圧力を示し、例えば当該ガス供給あるいは加熱を行う前あるいは行った後の圧力を測定することにより求められる。
【0036】
なお、基板最表面を加熱に伴い、基板や、試料台、装置内壁等が加熱され、この結果、これらからガスが発生することがある。このガスにより、基板加熱室内34内のガス供給の無いときの圧力が一時的に上記の条件の値を超えると、厳密には、基板最表面層の汚染に繋がる恐れがある。しかしながら、本実施形態の高速昇温は、後述のように従来の低速昇温に比べると加熱時間が少ないので、このガスによる汚染の影響は限定的である。
【0037】
このガスによる影響をも排除したい場合等、好ましくは、加熱中にガスが発生してもガス供給の無いときの圧力が上記の条件値以下になるよう、真空ポンプの排気速度を設定したり、予め充分な装置のベーキングで発生ガスを低減させたり、ガスの発生の少ない基板表面の膜材料を用いたりすることができる。
【0038】
次に、例えば基板の最表面を気相でエッチングすることにより、大気中から吸着された汚染物を除去した後(エッチング室は図示していない)、基板を成膜室33内に搬送する。成膜室33内において、加熱による改質を行う層まで順次成膜して積層する。ここで、加熱により改質を行う層は、図2のMTJ素子を構成する層のいずれかであり、どの層が該当するかについては後述する。例えば、トンネルバリア層3を改質する場合、下部配線接続層11乃至トンネルバリア層3が形成される。
【0039】
なお、成膜の方法は特に問わないが、図3は、ターゲット40を用いたスパッタリング法のための成膜室33を示している。その他、例えば、蒸着法、原子層堆積(ALD)法、化学的気相堆積(CVD)法を用いてもよい。
【0040】
スパッタリングによるトンネルバリア層3の形成では、トンネルバリア層3が酸化物の場合、化合物ターゲット(例えばMgOターゲット)の直接スパッタ、金属ターゲット(例えばMgターゲット)の反応性スパッタ(例えばO2ガス導入)、あるいは金属膜(例えばMg層)形成後のバリア酸化を行うことができる。バリア酸化では、酸素プラズマ、酸素ラジカル、オゾン、あるいは酸素ガス雰囲気を用いることができる。
【0041】
トンネルバリア層3が窒化物の場合は、窒素プラズマ、窒素ラジカル、窒素、アンモニア、一酸化一窒素、二酸化一窒素、一酸化二窒素といった窒化雰囲気を用い、これを金属ターゲットの反応性スパッタや金属層の形成後のバリア窒化に用いることができる。
【0042】
トンネルバリア層3が酸窒化物の場合は、金属酸化物層の窒化、金属窒化物層の酸化、酸窒化雰囲気の併用を適宜組み合わせて行うことができる。なお、酸化室、窒化室、あるいは酸窒化室は図示していない。
【0043】
次に、加熱による改質を行う層まで形成後、基板を基板加熱室34内に搬送する。基板は、成膜室33から基板加熱室34までの移動の間、基板は、上記のガス供給または加熱の無いときの圧力が2×10-6Pa以下、より好ましくは、ガス供給または加熱のないときの圧力が1×10-7Pa以下、さらに好ましくは1×10-8Pa以下の環境外に置かれない。基板加熱室34は、より詳しくは、図4の構成を有する。図4は、基板加熱室34の構成を示す断面図である。
【0044】
図4に示すように、基板加熱室34は、チャンバ41を有する。チャンバ内41には、試料台42が設けられ、試料台42上には基板21が配置される。試料台42の上方には、加熱用のランプ43が設けられる。ランプ43は、加熱光44によって、試料台42上に配置された基板21を加熱する。ランプ43は、試料台42上に配置された基板21の最表面、すなわち、基板加熱室34への搬送に先立って最後に形成された層を上方から加熱できる位置に配置される。ランプ43は、図4では、2つを図示しているが、1つ、または3つ以上でも構わない。
【0045】
試料台42の温度は、室温でも、加熱終了後の冷却を促進するため室温以下の低温でもよい。一方、高速昇温時の到達温度を高くするため、磁性層の特性が劣化しない範囲で、磁性層のキュリー温度より低く室温より高い温度に、所定時間保持しておいてもよい。具体的には、例えば、300℃以下、加熱時間1h以内とする。
【0046】
図4の基板加熱室34において、試料台42上の基板21の最表面の層を、ランプ43からの加熱光44を照射することによって改質する。この加熱は、理想的には、基板21の最表面の層のみが均一に加熱される条件で行う。その理由は、後述のように、加熱によって最表面の層を改質するとともに、最表面の層からこれ以外の層への熱の伝導を抑制することによって各層の構成元素が他層へ拡散することや磁性層の劣化を防止するためである。しかしながら、最表面層以外の層の昇温を完全に防ぐことは困難であるので、最表面層の近傍層(最表面に近い層)もある程度加熱される。ただし、加熱によって最表面層以外の層から構成元素の拡散や磁性層の劣化を防止しつつ、最表面層を後述するような状態へと改質できる条件であれば良い。
【0047】
このような条件を満たすため、より具体的には、最表面の層を最大昇温速度が+10℃/s以上の条件で昇温させる条件での昇温を行う。このような条件とすることによって、最表面の層のみの均一な加熱ではないとしても、後述の効果を得られるとともに、他の層への熱伝導を、悪影響が出ない程度に抑制できる。このような高速昇温を行い、かつ加熱後速やかに基板21を冷却するために、一般に熱容量が大きく昇降温が遅い試料台42に対する抵抗を用いた加熱でなく、ランプ43等の加熱装置により、熱容量の小さい基板21のみを直接的に加熱する。
【0048】
最大昇温速度を+10℃/s以上とする詳細な理由は、様々な観点に起因し、以下の通りである。このような昇温速度を有さない従来炉における+0.1℃/sでの1バッチ=25枚処理は、ウェハ1枚当り+2.5℃/sで25回の枚葉処理に対応する。本発明の実施形態で従来炉と同等以下の生産所要時間(Turn Around Time、以下TATと略す)を維持するには、最大昇温速度を+2.5℃/s以上にする必要がある。より好ましくは、TATを従来炉の半分以下に抑制してコストダウン効果を鮮明にするため、最表面層の最大昇温速度を+5℃/s以上にする。さらに好ましくは、熱履歴を最小にして磁性層の劣化を極力防止するため、最表面層の最大昇温速度を+10℃/s以上にする。
【0049】
一方、昇温速度が高過ぎると、不均一な昇温によってウェハが割れたり、MTJ素子下方の配線が切れたり、応力が発生して素子が劣化したりする恐れがある。これらを回避するため、最表面層の最大昇温速度は+100℃/s以下であることが好ましい。
【0050】
しかしながら、昇温速度が+100℃/sを超えても、後に「実験結果」の項目でも述べるような加熱時間が充分短くウェハの加熱光照射側のみが主に昇温する条件なら、熱はウェハ内を速やかに拡散してウェハ温度はほとんど上がらないので、ウェハ割れや配線切れや応力による素子の劣化は起こらない。例えば、Takayuki Ito et al. IEEE TRANSACTIONS ON SEMICONDUCTOR MANUFACTURING誌第16巻3号417ページ(2003年)には、加熱時間(ランプ照射時間)5ms以下でウェハの表面側が主に昇温することが示されている。従って、加熱時間5ms以下であれば、昇温速度が+100℃/sを超えた条件を本発明に係る実施形態で用いることができる。加熱時間(ランプ照射時間)5ms以下の加熱は、ウェハ最表面の膜に充分な熱履歴を与えるため、複数回行ってもよい。
【0051】
基板21の最表面の層の加熱は、最表面の層による吸収率がそれよりも下層の吸収率より高い波長の光を選別して、基板21に照射して行うことができる。波長を用いて選択的な加熱を行うには、例えば、基板21とランプ43との間にフィルタ46を設けることができる。フィルタ46は、最表面層の吸収率がそれより下の層での吸収率より高い波長の光を選別して透過させる。フィルタ46を用いた加熱を行うことによって、最表面以外の層への熱伝導をより良好に抑えつつ、短時間で均一に最表面の層を加熱できる。
【0052】
基板21の最表面層の加熱は、基板21に磁場が印加された状態で行う。これは、後述のように、基板21の最表面の層を改質すると共に、MTJ素子の層に磁化を与えるため、また、基板21最表面の層の加熱中または昇降温中におけるMTJ素子の磁性層の劣化や磁化方向の乱れを防ぐためである。磁場は、例えば昇温開始前から降温終了後まで印加する。
【0053】
印加する磁場の方向は、例えば、固着層2の所望の磁化の方向に沿った方向である。より具体的には、固着層2の磁化がMTJ素子の層の接合面に沿った方向を向くべき場合、接合面に沿った方向の磁場51を印加する。一方、固着層2の磁化がMTJ素子の接合面と交わる(典型的には実質的に垂直な)方向を向くべき場合、接合面と交わる方向の磁場52を印加する。
【0054】
また、印加する磁場の大きさは、0.005T以上であることが好ましい。これは、キュリー点近傍以上の温度で磁化を失った磁性層(磁性層13、15等)の磁化を回復させ、MTJ素子を用いる磁気記憶装置の配線(配線層1、5等)等の電流誘導磁場や地磁気等の外部磁場からの影響を回避するためである。
【0055】
一方、磁場が大き過ぎると、大口径のウェハ(基板21)に磁場を均一に印加することが処理装置の実現上困難となる。この観点からは、磁場の大きさは0.1T程度以下であることが現実的であり、また、好ましい。
【0056】
また、基板21の最表面の層の加熱は、チャンバ41内に雰囲気ガスが供給された状態で行うことができる。この場合、図4に示すように、チャンバ41内には、ガス供給管36を介して、後述するように、実施の形態に従ったガスが供給される。
【0057】
加熱処理される最表面層が酸化物の場合は、加熱に伴うO原子の離脱によるO原子欠損の発生を防ぐため、例えばO2、O3、N2Oのような、酸素原子を含む分子を含有する酸化性ガスを導入する。これらは必要に応じて、Ar、He、Ne、Kr、Xeといった希ガスと混合してもよい。
【0058】
導入される雰囲気ガスは、そのままチャンバ41に供給されてもよいし、基底状態や励起状態のO原子や酸素原子イオンおよび酸素分子イオン、励起状態のO2分子といった酸素ラジカルやオゾンなどの酸素活性種を用いてもよい。励起状態のガスを供給する場合、チャンバ41の外側において、ガス供給管36の側方には、放電電極45が設けられる。放電電極45は、ガス供給管36内のガスを励起する。放電電極45は、チャンバ41内に設けられていてもよい。
【0059】
また、加熱光44内に雰囲気ガスが光解離する波長の光が含まれている場合、解離により発生する活性種を基板21の最表面層の処理に活用することができる。特に、O2ガス含有雰囲気に対して波長175nm以下の光、O3ガス含有雰囲気に対して波長411nm以下の光、N2Oガス含有雰囲気に対して波長341nm以下の光を照射すると、励起状態の酸素原子ラジカルO(1D)が発生する。この酸素原子ラジカルは、価電子のスピンが↑↓である。基底状態の酸素原子ラジカルO(3P)の価電子スピン↑↑に比べ、化学結合を構成する価電子のスピン↑↓への挿入反応が起こりやすく、O原子欠損抑制に特に効果がある。一方、これらより波長が長く低エネルギーの光でも、O(1D)より励起状態の低いO(3P)が形成される波長の光なら、O(3P)もO2よりはO原子欠損に入りやすく、O原子欠損を抑制する効果がある。
【0060】
雰囲気ガスの励起は、加熱光44を兼用してもよいが、別の光源による雰囲気ガス励起光53を使用してもよい。
【0061】
加熱処理される最表面層が窒化物の場合は、加熱に伴うN原子の離脱によるN原子欠損の発生を防ぐため、例えばN2、NH3、NO、N2O、NO2のような、窒素原子を含む分子を含有する窒化性ガスを導入することができる。これらは、上記の酸化性ガスと同様に、希ガスと混合したり、導入ガスを励起してもよく、基底状態や励起状態のN原子や窒素原子イオンおよび窒素分子イオン、励起状態のN2分子といった窒素ラジカルなどの窒素活性種を使用することができる。
【0062】
加熱処理される最表面層が酸窒化物の場合は、上記の酸化性ガスおよび窒化性ガスのいずれかまたは双方を順番に使用することができる。特に、例えばNO、N2O、NO2のような酸素原子および窒素原子を含む分子を含んだガス、またはそれを励起して発生するラジカルは、最表面層のO、N両原子欠損を同時に抑制できる可能性がある。
【0063】
加熱処理される最表面層が磁性体や金属のような導電体の場合は、雰囲気中の残留ガスによる表面の酸化や汚染を防ぐため、例えばH2ガスのような還元性ガス(水素ガス)を導入する。これは、先述の酸化性ガスと同様に、希ガスと混合したり、導入ガスを励起してもよく、基底状態や励起状態のH原子や水素原子イオンおよび水素分子イオン、励起状態のH2分子といった水素ラジカルなどの水素活性種を使用することができる。
【0064】
また、加熱時の雰囲気として希ガスのような不活性ガスを用いたり、真空雰囲気としたりしてもよい。
【0065】
以上の雰囲気ガスの供給は、最表面層での原子欠損発生や表面汚染を防ぐため、昇温開始前から降温終了後まで行ったり、あるいは雰囲気ガスの最表面層の下層との反応を防ぐため、昇温前から降温後の間の一部の時間のみ行ったりしてもよい。
【0066】
また、加熱室34は、加熱処理による基板最表面層の構造変化を調べるための機構を有していてもよい。このような機構として、加熱室34は、例えば、電子線または光源61、検出器またはスクリーン62を有する。高速反射電子線回折法(RHEED)を用いる場合、電子線61は基板21に電子線63を照射し、基板21の最表面層により反射された電子線によって、回析パターンがスクリーン62に映し出される。この回析パターンから、基板21の最表面層の結晶構造を知得できる。
【0067】
また、X線反射率分析法(GIXR)を用いる場合、電子線61は、基板21にX線63を照射し、基板21の最表面層により反射されたX線が検出器62に入射する。検出器62がこのX線を解析することによって、基板21の最表面層の密度や界面・表面ラフネスを測定できる。
【0068】
また、X線光電子分析法(XPS)による結合状態分析、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)による密度分析などを適宜用いてもよい。
【0069】
加熱処理による基板21最表面層の構造変化の分析は、基板搬送時間節約および加熱中の観察の観点から加熱室34内で行ってもよいし、加熱処理と最表面層の分析の並行処理による生産速度向上の観点から加熱室34と別のチャンバで行ってもよい。いずれの場合も、加熱処理と表面分析は、大気中の水分や酸素等による変質を防ぐため、基板21を外気に晒すことなく連続的に行うことが好ましい。
【0070】
加熱終了後、各層構成元素の他層への拡散や磁性層の劣化を防止するため、最大降温速度を、最大昇温速度と同様に−10℃/s以上として各層の熱履歴を抑制することが好ましい。降温は自然放冷でもよいが、例えば試料台42に冷媒を通して冷却機能を持たせたり、冷却用ガスを基板21や試料台42の周囲に吹きつけたりしてもよい。あるいは、基板21を加熱室301と別のチャンバに搬送して冷却してもよい。いずれの場合も、降温処理は、大気中の水分や酸素等による変質を防ぐため、外気に晒すことなく連続的に行うことが好ましい。
【0071】
(実験結果)
図5は、最大昇温速度+10℃/s以上の高速昇温の効果を調べるために行った実験結果を示している。図2に示したフルスタックを成膜後、図5に示す3通りの条件でアニールを行った。すなわち、従来炉を用いて炉内温度250℃で2hの加熱、高速昇温(RTA)で基板最表面の400℃までの昇温(RTA1)、特殊なRTA(RTA2)である。
【0072】
また、昇温雰囲気は、従来炉は真空中、RTA1は磁場なしで窒素ガス0.1MPa中、RTA2はアルゴンガス0.1MPa中であった。また、従来炉は0.5Tの磁場が印加された状態であり、RTA1、RTA2は磁場の印加なしで行った。
【0073】
従来炉での加熱では、基板全体が加熱されるため、最表面層を含む基板の全体の温度は、炉内と同じ温度(250℃)まで昇温する。また、昇温に1乃至2時間、また加熱後の50℃までの降温に5乃至6時間を要しており、基板全体の昇温速度は最大でも+6℃/min(+0.1℃/s)程度である。
【0074】
RTA1では、加熱ランプを数秒乃至数10秒照射することによって、最表面層を含む基板全体を400℃まで昇温させた(RTA1)。RTA1では、熱が速やかに拡散し、基板の最表面層と基板内部とで温度差は生じない。基板の最表面層の最大昇温速度は+20℃/s、基板全体の400℃到達までの所要時間は約13秒であった。400℃到達後すぐに加熱を停止して降温開始し、200、100、50℃到達時間は降温開始からそれぞれ20、145、110秒後程度であった。400℃から200℃までの20秒での降温は降温速度−10℃/sである。
【0075】
RTA2は、CMOS試作プロセスのSi基板表面にイオン注入後、活性化アニールによるultra shallow junctionの形成に使用されている方法である(Takayuki Ito et al. IEEE TRANSACTIONS ON SEMICONDUCTOR MANUFACTURING誌第16巻3号417ページ(2003年))。基板の表面にミリ秒程度、加熱光を照射し、基板最表面のみを瞬間的に加熱する。加熱用照射光の熱量は小さいので、照射後は熱が基板最表面から基板内部に速やかに拡散し、基板温度は急速に、RTA1より早く低下する。ここでは、試料ステージで100℃に加熱した基板に対し、照射パルス時間幅0.8msの基板加熱ランプで5回照射を行った。上記した、昇温速度が+100℃/sを超えているが加熱時間が充分短い条件の加熱処理の1つとして、このRTA2が該当する。
【0076】
図5で、RTA2は従来炉を用いた250℃での2hの条件の場合より高いMRが出ている。RTA2は、4ms(0.8ms×5回)間の加熱で基板最表面層の温度が250℃以上に到達していることを示しており、昇温速度+62500℃/s以上に相当する。
【0077】
バリア抵抗率RAは、いずれの試料も数kΩum2であった。
【0078】
図5でRTA1、RTA2は、無磁場でフルスタック成膜後の加熱であるにもかかわらず、従来炉の磁場中での250℃の加熱より高いMR比を示している。今後、これらの高速昇温装置を成膜装置に組み込んで、フルスタック中の加熱が必要な層が最表面にある時点で、その場で(in situに)加熱することが考えられる。こうすることにより、他の耐熱性に劣る層の劣化を防止したり、磁場印加によって加熱中の磁性層の劣化を抑制したりすることができる。
【0079】
(実施形態のバリエーション)
図3、図4の装置を用いた、磁気抵抗効果素子の形成に関する様々な実施形態について説明する。
【0080】
(実施形態1)
実施形態1は、図3、図4の装置を用いた、トンネルバリア層3が形成された時点での加熱に関する。図6乃至図10を参照して、実施形態1について説明する。図6乃至図8は、本発明の実施形態1に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を順に示す図である。
【0081】
図7に示すように、成膜室33内で、例えばスパッタ法により、基板(図示せぬ)の上方に下側配線接続層11からトンネルバリア層3までの各層を形成する。次に、図8に示すように、加熱室34内で基板の最表面層(トンネルバリア層3)に対して加熱光44を照射することにより、トンネルバリア層3を、+10℃/sの最大昇温速度で、例えば400乃至800℃まで加熱する。温度の保持時間は例えば1分以下の短時間である。
【0082】
トンネルバリア層3がMgOやAlOxのように酸素原子を含有する場合、加熱を酸化雰囲気中で行ってもよい。こうすることにより、加熱による酸素原子欠損の発生を防ぐことができる。酸化雰囲気は、例えば酸素ガス、酸素プラズマやラジカル源等で発生させた原子状酸素などの酸素ラジカル、オゾンガスを用いることにより実現できる。これらの雰囲気に希ガスを混合してもよい。圧力は、例えば概ね133Pa(1Torr)乃至1.33×10-5Pa(1×10-7Torr)の範囲とする。
【0083】
加熱終了後、基板は、ほぼ室温まで冷却される。冷却後、図8に示すように、強磁性層16から上部配線接続層18までの各層を形成することにより、フルスタック全体が完成する。
【0084】
実施形態1の効果を、図9、図10に模式的に示す。図10は、図9に続く状態を示している。図9に示すように、成膜後のトンネルバリア層3には、格子の乱れ、酸素欠損、格子歪、凹凸等が生じている。これに対して、ランプ43による加熱の熱エネルギーによって、トンネルバリア層3の表面マイグレーションを促進する。この結果、図10に示すように、格子の乱れ、酸素欠損、格子歪、凹凸を解消してトンネルバリア層3の結晶性が向上する。
【0085】
また、加熱によって、トンネルバリア層3、強磁性層15を同時に結晶化させることによって、強磁性層15と格子整合が良く、且つ高MR、高耐圧で絶縁破壊寿命が長いトンネルバリア層3を形成する効果もある。
【0086】
また、結晶性が向上したトンネルバリア層3上に強磁性層16乃至上部配線接続層18が形成される。よって、強磁性層16乃至上部配線接続層18の結晶性も向上する。
【0087】
また、加熱によって、例えばトンネルバリア層3内、特に表面の水酸化マグネシウムや炭酸マグネシウムといった不純物を酸化し、除去する効果もある。
【0088】
酸素活性種を含んだ雰囲気内での加熱を行えば、その励起エネルギーも表面マイグレーションに寄与する。この場合、好ましくは、表面マイグレーションの活性化エネルギーは各層間の原子拡散の活性化エネルギーより小さく、最表面層に与えられる熱エネルギーおよび活性種のエネルギーは最表面層の下層へと熱伝導で与えられる熱エネルギーより大きいという性質を利用する。また、熱エネルギーは下層に伝導するが、原子の他層への拡散や多層原子との混合は抑制される加熱条件がよい。
【0089】
(実施形態2)
実施形態2は、図3、図4の装置を用いた、強磁性層15が形成された時点での加熱に関する。図11乃至図15を参照して、実施形態2について説明する。図11乃至図13は、本発明の実施形態2に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を順に示す図である。
【0090】
図11に示すように、成膜室33内で、例えばスパッタ法により、基板(図示せぬ)の上方に下側配線接続層11から強磁性層15までの各層を形成する。次に、図12に示すように、加熱室34内で基板の最表面層(強磁性層15)に対して加熱光44を照射することにより、強磁性層15を、+10℃/sの最大昇温速度で、例えば400乃至800℃まで加熱する。温度の保持時間は例えば1分以下の短時間である。
【0091】
この加熱は、例えば還元雰囲気中で行ってもよい。こうすることにより、強磁性層15の表面で酸化物が生成されることや有機物によって汚染されることを防止できる。還元雰囲気は、例えば水素ガス、水素プラズマやラジカル源等で発生させた原子状水素などの水素ラジカルを用いることにより実現される。これらの雰囲気に希ガスを混合してもよい。圧力は、例えば概ね133Pa(1Torr)乃至1.33×10-5Pa(1×10-7Torr)の範囲とする。
【0092】
加熱終了後、基板は、ほぼ室温まで冷却される。冷却後、図13に示すように、トンネルバリア層3から上部配線接続層18までの各層を形成することにより、フルスタック全体が完成する。
【0093】
実施形態2の効果を、図14、図15に模式的に示す。図14に示すように、成膜後の強磁性層15には、格子の乱れ、格子歪、凹凸等が生じている。これに対して、ランプ43による加熱の熱エネルギーによって、強磁性層15の表面マイグレーションを促進する。この結果、図15に示すように、格子の乱れ、酸素欠損、格子歪、凹凸を解消して強磁性層15の結晶性が向上する。
【0094】
結晶性が向上した強磁性層15上にトンネルバリア層3が形成されるので、強磁性層15の結晶性も高く、強磁性層15の表面に格子の乱れ、格子歪、凹凸等が生じることが抑制される。また、強磁性層15より上の層の結晶性も同様に向上する。
【0095】
還元雰囲気中での加熱を行う場合、好ましくは、表面マイグレーションの活性化エネルギーが各層間の原子拡散の活性化エネルギーより小さく、最表面層に与えられる熱エネルギーおよび活性種のエネルギーが最表面層の下層に熱伝導で与えられる熱エネルギーより大きいという性質を利用する。また、熱エネルギーは下層に伝導するが、原子の他層への拡散や多層原子との混合は抑制される加熱条件がよい。
【0096】
(実施形態3)
実施形態3は、図3、図4の装置を用いた、強磁性層16が形成された時点での加熱に関する。図16乃至図20を参照して、実施形態3について説明する。図16乃至図18は、本発明の実施形態3に係る磁気抵抗効果素子の製造方法を順に示す図である。
【0097】
図16に示すように、成膜室33内で、例えばスパッタ法により、基板(図示せぬ)の上方に下側配線接続層11から強磁性層16までの各層を形成する。次に、図17に示すように、加熱室34内で基板の最表面層(強磁性層16)に対して加熱光44を照射することにより、強磁性層16を、+10℃/sの最大昇温速度で、例えば400乃至800℃まで加熱する。温度の保持時間は例えば1分以下の短時間である。
【0098】
この加熱は、例えば還元雰囲気中で行ってもよい。こうすることにより、強磁性層16の表面で酸化物が生成されることや有機物によって汚染されることを防止できる。還元雰囲気は、例えば水素ガス、水素プラズマやラジカル源等で発生させた原子状水素などの水素ラジカルを用いることにより実現される。これらの雰囲気に希ガスを混合してもよい。圧力は、例えば概ね133Pa(1Torr)乃至1.33×10-5Pa(1×10-7Torr)の範囲とする。
【0099】
加熱終了後、基板は、ほぼ室温まで冷却される。冷却後、図13に示すように、キャップ層17、上部配線接続層18を順次形成することにより、フルスタック全体が完成する。
【0100】
実施形態3の効果を、図19、図20に模式的に示す。図19に示すように、成膜後の強磁性層16には、格子の乱れ、格子歪、凹凸等が生じている。これに対して、ランプ43による加熱の熱エネルギーによって、強磁性層16の表面マイグレーションを促進する。この結果、図15に示すように、格子の乱れ、酸素欠損、格子歪、凹凸を解消して強磁性層16の結晶性を向上する。
【0101】
また、加熱によって、トンネルバリア層3、強磁性層15をも同時に結晶化させ、強磁性層15、16と格子整合が良く、且つ高MR、高耐圧で絶縁破壊寿命が長いトンネルバリア層3を形成する効果もある。
【0102】
また、結晶性が向上した強磁性層16上にキャップ層17、上部配線接続層層18が形成される。このため、キャップ層17、上部配線接続層18の結晶性も向上する。
【0103】
還元雰囲気中での加熱を行う場合、好ましくは、表面マイグレーションの活性化エネルギーが各層間の原子拡散の活性化エネルギーより小さく、最表面層に与えられる熱エネルギーおよび活性種のエネルギーが最表面層の下層に熱伝導で与えられる熱エネルギーより大きいという性質を利用する。また、熱エネルギーは下層に伝導するが、原子の他層への拡散や多層原子との混合は抑制される加熱条件がよい。
【0104】
実施形態1乃至3では、トンネルバリア層3、強磁性層15、16が最表面になったときに成膜を中断して行った加熱処理を説明した。しかしながら、これら以外の層が最表面になったときに成膜を中断して加熱処理を行っても、同様に、その層の結晶性・膜質向上や、その下層との格子整合の向上や、加熱後ほぼ室温に冷却し表面状態が変化することによるその上層の結晶性向上の効果を得ることができる。
【0105】
実施形態1乃至3で製造されたMTJ素子では、トンネルバリア層3およびその上下の強磁性層15、16の結晶性が向上するとともに、特に実施形態1のMTJ素子ではトンネルバリア層3内の不純物(例えば、水酸化物や炭酸化合物)が減少する。このため、高MR、高耐圧で絶縁破壊寿命が長く、低耐圧マイノリティー(minority)不良素子の発生が抑制されたトンネルバリア層3を形成できる。
【0106】
また、実施形態1乃至3で製造されたMTJ素子では、最表面の層のみが加熱され、この結果、実質的にこの最表面の層が主に昇温し、これより下の層の昇温が抑制される。このため、加熱対象の層以外の層での熱履歴が抑制される。この結果、磁気特性や耐熱性の高いMTJ素子を実現できる。
【0107】
また、実施形態1乃至3で製造された、加熱対象の層(最表面の層)のみが昇温するように高速加熱および冷却が行われるため、加熱対象の層から、これ以外の層への熱伝導が抑制される。熱伝導の抑制によって、各層構成元素の他層への拡散や、昇温が望まれない層での昇温が抑制される。この結果、磁性層が劣化したり、磁化の向きが乱されたりすることを回避しつつ、磁区の大きさも一定に保たれる。よって、保持力ばらつきが低減すると共に、記憶層16での磁化の反転が容易になることによってMRAMに用いられた場合の書込み電流が低減する。
【0108】
(磁気記憶装置の製造方法)
図3、図4の装置により製造される磁気抵抗効果素子を含んだ磁気記憶装置の製造方法について、図21乃至図24を参照して説明する。図21乃至図24は、本発明の実施形態に係る磁気記憶装置の製造工程を順に示す断面図である。
【0109】
図21に示すように、半導体基板(図示せぬ)の上方に下部配線層1を、例えばCVD法やスパッタリング法等により形成する。次に、図3、図4の装置を用いて、実施形態1乃至3のいずれかに従って、磁化固着層2、トンネルバリア層3、記憶層4が形成される。
【0110】
次に、図22に示すように、例えば、CVD法およびリソグラフィ工程を用いて、記憶層4上に磁気抵抗効果素子が有するべき形状に対応するパターンを有するマスク材が形成される。次に、このマスク材を用いてイオンミリング法や反応性イオンエッチング(RIE)法により、磁化固着層2、トンネルバリア層3、記憶層4を選択的にエッチングする。この結果、磁化固着層2、トンネルバリア層3、記憶層4が、所定の平面形状へと加工される。この後、マスク材が除去される。
【0111】
次に、図23に示すように、例えばスパッタリング法やCVD法により、半導体基板の表面上の全面に、絶縁層6を形成する。絶縁層6は、続く工程でMTJ素子を保護する機能を有し、例えば、SiO2やSiNとすることができる。
【0112】
次に、例えばCVD法およびリソグラフィ工程を用いて、絶縁層6上に、下部配線層1のパターンに応じたパターンを有するマスク材が形成される。次に、このマスク材を用いて、例えばRIE法により、下部配線層1が選択的にエッチングされる。このエッチングにより除去される部分は、図23の紙面の手前と奥に位置しており、図23上ではその変化は示されていない。このエッチングの際、MTJ素子は、絶縁層6により保護されている。
【0113】
次に、図24に示すように、半導体基板の表面上の全面に、例えばスパッタリング法やCVD法を用いて、絶縁層7が形成される。絶縁層7は、例えばSiO2 である。次に、リソグラフィ工程を用いて、絶縁層7内のMTJ素子の上の部分に、MTJ素子に達するコンタクトホール8が形成される。
【0114】
次に、図1に示すように、例えばCVD法等により、コンタクトホール8を導電材で埋め込むと共に、絶縁層7上の上部配線層5を形成する。次に、上部配線層5を、リソグラフィ工程を用いて選択的にエッチングする。なお、上部配線層5については、コンタクト孔8の埋め込みをまず行い、その後、絶縁層7より上方の部分の成膜を行ってもよい。
【0115】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の実施形態に係るMTJ素子とその周囲の断面図。
【図2】図1のMTJ素子の詳細な断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造装置の平面図。
【図4】基板加熱室の構成を示す断面図。
【図5】昇温方法、条件に応じたMR比を示す図。
【図6】実施形態1に係る磁気抵抗効果素子の製造工程を示す断面図。
【図7】図6に続く工程を示す断面図。
【図8】図7に続く工程を示す断面図。
【図9】実施形態1の効果を模式的に示す図。
【図10】実施形態1の効果を模式的に示す図。
【図11】実施形態2に係る磁気抵抗効果素子の製造工程を示す断面図。
【図12】図11に続く工程を示す断面図。
【図13】図12に続く工程を示す断面図。
【図14】実施形態2の効果を模式的に示す図。
【図15】実施形態2の効果を模式的に示す図。
【図16】実施形態3に係る磁気抵抗効果素子の製造工程を示す断面図。
【図17】図16に続く工程を示す断面図。
【図18】図17に続く工程を示す断面図。
【図19】実施形態3の効果を模式的に示す図。
【図20】実施形態3の効果を模式的に示す図。
【図21】本発明の実施形態に係る磁気記憶装置の製造工程を示す断面図。
【図22】図21に続く工程を示す断面図。
【図23】図22に続く工程を示す断面図。
【図24】図23に続く工程を示す断面図。
【符号の説明】
【0117】
1…下部配線層、2…磁化固着層、3…トンネルバリア層、4…記憶層、5…上部配線層、6、7…絶縁膜層、8…コンタクトホール、11…下部配線接続層、12…反強磁性層、13、15…強磁性層(磁化固着層)、14…挿入層、16…強磁性層(記憶層)、17…キャップ層、18…上部配線接続層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とに挟まれた絶縁材料からなるトンネルバリア層と、を含む磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
前記磁気抵抗効果素子の一部を構成する第1層を形成する工程と、
最大昇温速度が+10℃/s以上となる条件で前記第1層を加熱する工程と、
前記第1層上に第2層を形成する工程と、
を具備し、少なくとも前記第1層を形成する工程から前記第1層を加熱する工程を経て前記第2層を形成する工程までの工程を、背圧を2×10-6Pa以下として行うことを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1層が前記トンネルバリア層であって、
前記トンネルバリア層が酸化物を含有する場合、前記第1層を加熱する工程が行われる雰囲気が少なくとも酸素ガスまたは酸素活性種を含有し、
前記トンネルバリア層が窒化物を含有する場合、前記第1層を加熱する工程が行われる雰囲気が少なくとも窒素ガスまたは窒素活性種を含有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1層が前記第1強磁性層または前記第2強磁性層であって、
前記第1層を加熱する工程が行われる雰囲気が少なくとも水素ガスまたは水素活性種を含有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項4】
前記加熱する工程が行われる雰囲気に0.005T以上の磁場が印加されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】
少なくとも第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とに挟まれた絶縁材料からなるトンネルバリア層と、を含む磁気抵抗効果素子に含まれる複数の層を、背圧を2×10-6Pa以下として形成する成膜部と、
背圧を2×10-6Pa以下とし且つ最大昇温速度が+10℃/s以上となる条件で前記複数の層のうちの最上層を加熱する加熱部と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造装置。
【請求項6】
前記加熱部に、酸素活性種、窒素活性種、水素活性種、の少なくとも1つを供給するガス供給部をさらに具備することを特徴とする請求項5に記載の磁気抵抗効果装置の製造装置。
【請求項7】
前記加熱部が、前記最上層の上方から光を照射する光照射器を含むことを特徴とする請求項5に記載の磁気抵抗効果装置の製造装置。
【請求項8】
前記加熱部が、前記光照射器と前記最上層との間に設けられて前記光の特定の波長を遮断する波長選別器をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の磁気抵抗効果装置の製造装置。
【請求項9】
前記加熱部が、0.005T以上の磁場が印加された状態で前記最上層を加熱するよう構成されている請求項5乃至8のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造装置。
【請求項1】
少なくとも第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とに挟まれた絶縁材料からなるトンネルバリア層と、を含む磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
前記磁気抵抗効果素子の一部を構成する第1層を形成する工程と、
最大昇温速度が+10℃/s以上となる条件で前記第1層を加熱する工程と、
前記第1層上に第2層を形成する工程と、
を具備し、少なくとも前記第1層を形成する工程から前記第1層を加熱する工程を経て前記第2層を形成する工程までの工程を、背圧を2×10-6Pa以下として行うことを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1層が前記トンネルバリア層であって、
前記トンネルバリア層が酸化物を含有する場合、前記第1層を加熱する工程が行われる雰囲気が少なくとも酸素ガスまたは酸素活性種を含有し、
前記トンネルバリア層が窒化物を含有する場合、前記第1層を加熱する工程が行われる雰囲気が少なくとも窒素ガスまたは窒素活性種を含有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1層が前記第1強磁性層または前記第2強磁性層であって、
前記第1層を加熱する工程が行われる雰囲気が少なくとも水素ガスまたは水素活性種を含有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項4】
前記加熱する工程が行われる雰囲気に0.005T以上の磁場が印加されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造方法。
【請求項5】
少なくとも第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とに挟まれた絶縁材料からなるトンネルバリア層と、を含む磁気抵抗効果素子に含まれる複数の層を、背圧を2×10-6Pa以下として形成する成膜部と、
背圧を2×10-6Pa以下とし且つ最大昇温速度が+10℃/s以上となる条件で前記複数の層のうちの最上層を加熱する加熱部と、
を具備することを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造装置。
【請求項6】
前記加熱部に、酸素活性種、窒素活性種、水素活性種、の少なくとも1つを供給するガス供給部をさらに具備することを特徴とする請求項5に記載の磁気抵抗効果装置の製造装置。
【請求項7】
前記加熱部が、前記最上層の上方から光を照射する光照射器を含むことを特徴とする請求項5に記載の磁気抵抗効果装置の製造装置。
【請求項8】
前記加熱部が、前記光照射器と前記最上層との間に設けられて前記光の特定の波長を遮断する波長選別器をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の磁気抵抗効果装置の製造装置。
【請求項9】
前記加熱部が、0.005T以上の磁場が印加された状態で前記最上層を加熱するよう構成されている請求項5乃至8のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2008−91484(P2008−91484A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268669(P2006−268669)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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