説明

磁気粘性流体デバイス

【課題】磁気粘性流体4を用いる磁気粘性流体デバイス1において、その製造時に、磁気粘性流体4をアウタ部材2とインナ部材3との隙間に容易にかつ確実に充填できるようにする。
【解決手段】アウタ部材2及びインナ部材3の少なくとも一方に、インナ部材3のアウタ部材2に対する相対移動に伴って、流入口25より流入した磁気粘性流体4を、アウタ部材2とインナ部材3との隙間において該流入口25から離れる方向へ流動するように案内する凹溝部35を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘性流体を利用する磁気粘性流体デバイスに関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、磁気粘性流体は、磁化可能な金属粒子からなる磁性粒子を分散媒に分散させてなる液体である。この磁気粘性流体は、磁場の作用のないときには流体として機能する一方、磁場を作用させたときには、磁性粒子がクラスターを形成して液体が増粘し、液体の内部応力が増大する。その内部応力の増大により磁気粘性流体は、剛体のように機能してせん断流れや圧力流れに対して抗力を示すようになる。このような磁気粘性流体は、ブレーキ、クラッチ、防振装置や制振装置のダンパといった、機械的に作動する各種のデバイスに利用されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
前記磁気粘性流体を利用する磁気粘性流体デバイスの例として、内部空間を有するアウタ部材と、このアウタ部材の内部空間に、アウタ部材の内面に対し所定の隙間をあけて配設され、アウタ部材に対し相対移動可能に構成されたインナ部材とを備えたものがあり、前記隙間に磁気粘性流体が充填されている。そして、この磁気粘性流体に対して磁場を与えることによって、磁気粘性流体の粘度を変化させ、これにより、インナ部材のアウタ部材に対する相対変位特性を変化させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−505937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のような磁気粘性流体デバイスでは、小型化したいという要求が存在する。この要求を満足させるためには、アウタ部材とインナ部材との隙間を、出来る限り狭くする必要がある。
【0006】
ところが、アウタ部材とインナ部材との隙間を狭くすると、デバイスの製造時に、その隙間に磁気粘性流体を充填させることが困難になる。すなわち、デバイスの製造時、アウタ部材内にインナ部材を組み込んだ上で、アウタ部材に設けた流入口を介して磁気粘性流体をアウタ部材の外側から前記隙間に流入させる。このとき、その隙間が狭くなるほど、磁気粘性流体を充填することが困難になる。
【0007】
そこで、例えば磁気粘性流体を高温にして粘度を低下させた状態で、かつ、アウタ部材内を真空状態にした上で、磁気粘性流体をアウタ部材内に流し入れる等の方策が考えられる。
【0008】
しかしながら、そのような方策では、磁気粘性流体の充填作業を煩雑にし、製造コストの点で不利になるという問題がある。また、特に磁性粒子がナノサイズの磁化可能な金属ナノ粒子からなる場合には、数十μm程度の隙間にすることが可能になるが、このようなレベルの隙間では、前記方策を採用したとしても、磁気粘性流体が隙間全体に確実に充填されるとは限らず、デバイスの量産時に特性ばらつきを生む虞がある。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、磁気粘性流体を用いる磁気粘性流体デバイスにおいて、その製造時に、磁気粘性流体をアウタ部材とインナ部材との隙間に容易にかつ確実に充填できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、この発明では、内部空間を有するアウタ部材と、前記アウタ部材の内部空間に、該アウタ部材の内面に対し所定の隙間をあけて配設され、該アウタ部材に対し相対移動可能に構成されたインナ部材と、前記隙間に充填された磁気粘性流体と、前記磁気粘性流体に対し磁場を与えることによって、該磁気粘性流体の粘度を変化させる磁場生成手段と、を備えた磁気粘性流体デバイスを対象として、前記アウタ部材の内面には、前記磁気粘性流体デバイスの製造時に、前記磁気粘性流体を前記アウタ部材の外側から前記隙間に流入させるための流入口が開口しており、前記アウタ部材及びインナ部材の少なくとも一方には、該インナ部材のアウタ部材に対する相対移動に伴って、前記流入口より流入した磁気粘性流体を、前記隙間において該流入口から離れる方向へ流動するように案内する凹溝部が形成されている構成とした。
【0011】
前記の構成により、磁気粘性流体デバイスの製造時における磁気粘性流体の充填時に、インナ部材をアウタ部材に対して相対移動させることで、その磁気粘性流体の充填が容易になる。すなわち、アウタ部材及びインナ部材の少なくとも一方に形成された凹溝部が、インナ部材のアウタ部材に対する相対移動に伴って、流入口より流入した磁気粘性流体を、アウタ部材とインナ部材との隙間において流入口から離れる方向へ流動するように案内するので、磁気粘性流体は前記隙間の流入口とは反対の奥側へと押し込まれて該隙間の隅々にまで行き渡るようになる。この結果、磁気粘性流体の充填工程の作業を簡略化して製造コストの低減が図られるとともに、磁気粘性流体デバイスの特性のばらつきが生じることも回避される。また、磁場生成手段により磁気粘性流体に対し磁場を付与したときに、凹溝部により、磁気粘性流体のせん断流れや圧力流れに対する抗力が向上するという効果も得られる。
【0012】
ここで、磁気粘性流体デバイスの製造時における前記相対移動は、製造後のデバイスの動作と同じ相対移動であってもよく、製造後のデバイスの動作とは無関係な、デバイス製造時特有の相対移動であってもよい。或いは、その両方の相対移動であってもよい。例えば、シリンダ(アウタ部材)及びピストン(インナ部材)を含むダンパーの製造後の動作は、ピストンがシリンダの軸心方向に相対移動することであるが、ダンパーの製造時において磁気粘性流体をシリンダ内に充填させる際には、このような相対移動に限らず、ピストンをシリンダに対して該シリンダの軸心回りに相対回転させるようにしてもよい。或いは、ピストンをシリンダに対して、シリンダの軸心方向に相対移動させながらシリンダの軸心回りに相対回転させるようにしてもよい。
【0013】
前記磁気粘性流体デバイスにおいては、前記アウタ部材は、筒状の周壁部と、該周壁部の筒軸方向両側の開口をそれぞれ閉塞する2つの端壁部とからなり、前記周壁部の内周面における筒軸方向の少なくとも1箇所に、全周に亘って径方向内側に突出する突出部が形成され、前記インナ部材は、前記筒軸と同軸の軸心を有していて、該軸心回りに、前記アウタ部材に対して相対回転可能に構成されているとともに、前記周壁部における前記突出部を含む内周面及び前記両端壁部の内面に対し、それぞれ前記所定の隙間をあけて対向する外周面及び2つの端面を有し、前記流入口は、前記両端壁部のうち少なくとも一方の端壁部の内面における前記筒軸の近傍に開口しており、前記凹溝部は、前記アウタ部材及びインナ部材の少なくとも一方において径方向に延びる面に形成されていて、該インナ部材のアウタ部材に対する前記相対回転に伴って、前記流入口より流入した磁気粘性流体を、径方向の外側又は内側へ流動するように案内するものである、としてもよい。
【0014】
すなわち、流入口より流入した磁気粘性流体は、アウタ部材とインナ部材との間の隙間において径方向外側及び内側への流動を繰り返して、筒軸方向における流入口とは反対の奥側へと流動していく。その磁気粘性流体の径方向外側及び内側への流動を凹溝部によって促進することができる。したがって、磁気粘性流体を前記隙間に容易にかつ確実に充填できるようになる。また、前記の構成により、ブレーキに適した磁気粘性流体デバイスが得られる。
【0015】
前記のブレーキに適した磁気粘性流体デバイスにおいては、前記凹溝部は、前記アウタ部材における前記流入口が開口する端壁部の内面及び前記インナ部材における該端壁部の内面と対向する端面の少なくとも一方に形成されていて、該インナ部材のアウタ部材に対する前記相対回転に伴って、前記流入口より流入した磁気粘性流体を、径方向の外側へ流動するように案内するものである、としてもよい。
【0016】
このことにより、流入口より流入した直後の磁気粘性流体を、径方向の外側へ流動させることができ、アウタ部材とインナ部材との隙間の奥側へと押し込むことができる。このように流入口より流入した直後の磁気粘性流体を隙間の奥側へと押し込むことで、磁気粘性流体は隙間の奥側へと流動して隙間全体に充填される。
【0017】
さらに、前記凹溝部は、前記インナ部材における、前記流入口が開口する端壁部の内面と対向する端面に、周方向に所定間隔をあけて複数形成されており、前記各凹溝部は、前記インナ部材の前記端面において径方向内側から外側に向かって該インナ部材の回転方向と反対側へ曲がるように湾曲した状態で径方向に延びていることが好ましい。
【0018】
これにより、流入口より流入した直後の磁気粘性流体を、径方向の外側へ容易に流動させることができるようになる。
【0019】
前記磁気粘性流体は、ナノサイズの磁化可能な金属ナノ粒子からなる磁性粒子と、該磁性粒子を分散させる分散媒とを含有するものとしてもよい。ここでいう金属ナノ粒子とは、平均粒子径が1nmないし900nm程度である金属粒子をいう。
【0020】
すなわち、金属ナノ粒子を用いれば、アウタ部材とインナ部材との隙間を狭くすることが可能になるが、隙間を狭くすると磁気粘性流体の充填が一層困難になる。しかし、本発明では、アウタ部材とインナ部材との隙間が狭くても、凹溝部によって、磁気粘性流体を該隙間全体に容易に充填することができる。よって、本発明の作用効果を有効に発揮させることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明の磁気粘性流体デバイスによると、アウタ部材及びインナ部材の少なくとも一方に、該インナ部材のアウタ部材に対する相対移動に伴って、流入口より流入した磁気粘性流体を、アウタ部材とインナ部材との隙間において該流入口から離れる方向へ流動するように案内する凹溝部を形成したことにより、磁気粘性流体デバイスの製造時に、磁気粘性流体をアウタ部材とインナ部材との隙間に容易にかつ確実に充填できるようになり、その結果、デバイス量産時に、製造コストの低減を図ることができるとともに、デバイス特性のばらつきを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気粘性流体デバイスとしてのブレーキの概略構成を示す断面図である。
【図2】インナ部材の斜視図である。
【図3】ブレーキの変形例を示す図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る磁気粘性流体デバイスとしてのブレーキ1の概略構成を示す。本実施形態では、ブレーキ1によって制動力が付与される後述の回転軸部材5が上下方向に延びるように、ブレーキ1が配置されているものとするが、ブレーキ1の配置はこれに限られず、例えば回転軸部材5が水平に延びるようにブレーキ1を配置してもよい。尚、以下、図1における上側を上とし、下側を下として、ブレーキ1の詳細を説明する。
【0025】
ブレーキ1は、密閉状とされる内部空間を有するアウタ部材2と、このアウタ部材の内部空間に配設されるインナ部材3と備えている。
【0026】
前記アウタ部材2は、上下方向に延びる筒軸(中心軸)Zを有する円筒状の周壁部21と、この周壁部21の筒軸Z方向(上下方向)両側の開口をそれぞれ閉塞する上端壁部22及び下端壁部23とからなる、容器状の部材である。上端壁部22の中心部には、支持部221が上方に突出するように形成され、この支持部221内には、インナ部材3と一体回転する回転軸部材5の上端部を回転可能に支持する軸受222が取り付けられているとともに、後述の磁気粘性流体4が軸受222側に漏れないようにするためのシール部材223が配設されている。一方、下端壁部23の中心部には、回転軸部材5が貫通する貫通孔231が形成され、この貫通孔231に、回転軸部材5の長さ方向中間部を回転可能に支持する軸受232と、アウタ部材2内を密閉状にシールするためのシール部材233とがそれぞれ配設されている。
【0027】
アウタ部材2の周壁部21の内周面における筒軸Z方向の複数箇所(本実施形態では、3箇所)には、それぞれリング状のディスク211が周壁部21と一体となるように設けられている。これらディスク211は、周壁部21の内周面に形成された、全周に亘って径方向内側に突出する突出部を構成するものである。3つのディスク211は、同じ形状をなしていて、周壁部21の内周面における上下方向の中間位置において、上端壁部22の内面(下面)と下端壁部23の内面(上面)との間を上下方向に4等分するように配設されている。各ディスク211の厚み(上下方向の長さ)は一定であり、その上面及び下面は水平かつ径方向に延びている。
【0028】
前記インナ部材3は、アウタ部材2の内部空間に、アウタ部材2の内面に対し所定の隙間をあけて配設されている。本実施形態では、インナ部材3は、前記筒軸Zと同軸の軸心を有していて、該軸心回りに、アウタ部材2に対して相対回転可能に構成されているとともに、前記周壁部21における前記ディスク211を含む内周面並びに上端壁部22及び下端壁部23の下面に対し、それぞれ所定の隙間をあけて対向する外周面31並びに上端面32及び下端面33を有している。
【0029】
具体的には、インナ部材3の軸心部には、前記回転軸部材5が回転一体に固定されており、この回転軸部材5が、前記の如く軸受222,232によって回転可能に支持されていることで、インナ部材3が、該インナ部材3の軸心(筒軸Z)回りにアウタ部材2に対し相対回転するようになっている。尚、本実施形態では、回転軸部材5はモータ等の駆動手段によって回転駆動されるが、回転軸部材5とその駆動手段との連結を切り離すことが可能であり、この切離し状態で、回転している回転軸部材5に対して制動力を付与して回転軸部材5を停止させるべく、本実施形態のブレーキ1が構成されている。
【0030】
インナ部材3の外周面31には、前記周壁部21における前記ディスク211を含む内周面に対し所定の隙間があくように、アウタ部材2のディスク211がない部分に向けて径方向外側に突出する4つのディスク311が一体に設けられている。すなわち、これらディスク311の外周面は、前記周壁部21における前記ディスク211のない部分と径方向に対向し、ディスク211の内周面は、インナ部材3の外周面31におけるディスク311のない部分と径方向に対向している。また、各ディスク211の上面は、その上側に位置するディスク311の下面と筒軸Z方向に対向し、各ディスク211の下面は、その下側に位置するディスク311の上面と筒軸Z方向に対向している。さらに、最上部のディスク311の上面は、インナ部材3の上端面32を構成していて、アウタ部材2の上端壁部22の下面と筒軸Z方向に対向している。さらにまた、最下部のディスク311の下面は、インナ部材3の下端面33を構成していて、アウタ部材2の下端壁部23の上面と筒軸Z方向に対向している。これら対向部分の隙間は一定であり、本実施形態では、数十μm程度の隙間に設定されている。尚、図例では理解容易のために、隙間の大きさを誇張して描いている。また、図1に示すブレーキ1は概略的に描いており、例えばインナ部材3をアウタ部材2内に配設する上で必要となる具体的構成等については、図示を省略している。そうした構成は、適宜、公知の構成を採用することが可能である。
【0031】
アウタ部材2とインナ部材3との隙間には、磁気粘性流体4が充填されている。この磁気粘性流体4は、磁性粒子を分散媒に分散させてなる液体であり、本実施形態では、その磁性粒子が、ナノサイズの金属粒子(金属ナノ粒子)からなる。この磁性粒子は、磁化可能な金属材料からなる。この金属材料としては特に制限はないが、軟磁性材料が好ましい。軟磁性材料としては、鉄、コバルト、ニッケル及びパーマロイ等の合金を例示することができる。金属ナノ粒子の平均粒子径は、1nmないし900nm程度であるが、10nm以上500nm以下であることが好ましい。これは、平均粒子径が小さすぎると、磁気粘性効果(MR効果)が十分に得られなくなる一方、大きくなりすぎると、磁性粒子が分散媒中において沈降し易くなって、磁性粒子の分散媒に対する分散性が悪化するからである。より好ましい平均粒子径は、70nm以上200nm以下である。平均粒子径が70nm以上であるときには、高いMR効果が得られるとともに、平均粒子径が200nm以下であるときには、磁気粘性流体4の沈降性の悪化を良好に回避することができる。尚、磁性粒子には、金属ナノ粒子が凝集した凝集体を含んでいてもよい。
【0032】
前記金属ナノ粒子を生成する手法としては、例えば液相法や気相法といった、種々の公知の手法を採用することが可能であるが、気相法が特に好ましい。気相法としては、高周波プラズマ法やアークプラズマ法、レーザーアブレーション法を具体例として挙げることができる。
【0033】
前記分散媒は、特に限定されるものではないが、一例としてシリコーンオイルやフッ素系オイル等の疎水性のオイルを挙げることができる。採用する分散媒の種類に応じて、磁性粒子に対し、その分散媒と親和性の高い表面改質を施すようにすればよい。こうすることで、磁性粒子の分散安定性が高まる。例えば疎水性のシリコーンオイルを分散媒として採用する場合、磁性粒子にカップリング剤による表面改質を施したり、磁性粒子の表面を炭素被膜で覆ったりすることが好ましい。
【0034】
磁気粘性流体4における磁性粒子の配合量は、例えば3〜40vol%とすればよい。
【0035】
磁気粘性流体4にはまた、所望の各種特性を得るために、各種の添加剤を添加することも可能である。
【0036】
前記インナ部材3の内部における回転軸部材5の外周側には、前記磁気粘性流体4に対し磁場を与えることによって、該磁気粘性流体4の粘度を変化させる磁場生成手段としてのコイル34が配設されている。このコイル34に対して電流を供給する(その供給源の図示は省略する)ことによって、前記隙間に充填された磁気粘性流体4に対して磁場が与えられる。これにより、磁気粘性流体4は、その粘度が高くなって、せん断流れに対して抗力を示すようになり、回転しているインナ部材3及び回転軸部材5に制動力が付与されることになる。本実施形態では、後述の凹溝部35によって、磁気粘性流体4のせん断流れに対する抗力が向上して、制動力を高めることができる。
【0037】
前記アウタ部材2の上端壁部22における前記筒軸Zの近傍には、ブレーキ1の製造時に、前記磁気粘性流体4をアウタ部材2の外側から前記隙間に流入させて充填するための流入口25が形成されている。本実施形態では、流入口25全体が、支持部221を避けるために、支持部221の径方向外側に形成されているが、流入口25における上端壁部22下面側の開口を、筒軸Zに出来る限り近付けるべく、その開口の一部が支持部221に位置していてもよい。一方、流入口25における上端壁部22上面側の開口は、前記筒軸Zの近傍にある必要はなく、上端壁部22の下面における前記筒軸Zの近傍に開口するように流入口25が形成されていればよい。
【0038】
また、アウタ部材2の下端壁部23(流入口25とは反対側の端壁部)における筒軸Zの近傍には、前記流入口25より磁気粘性流体4を流入させるときに、前記隙間内の空気を抜くための空気抜き孔27が形成されている。前記流入口25及び空気抜き孔27は、前記磁気粘性流体4の充填後に、封止栓26,28によってそれぞれ封止されることで、アウタ部材2の内部空間が密閉状とされるとともに、磁気粘性流体4がアウタ部材2内に封入されることになる。
【0039】
図2に示すように、前記インナ部材3の上端面32(流入口25が開口する上端壁部22の下面と対向する端面)には、周方向に所定間隔をあけて複数(図2の例では、4つ)の凹溝部35が形成されている。これら凹溝部35は、インナ部材3の上端面32において径方向内側から外側に向かって該インナ部材3の回転方向(図2の矢印参照)と反対側へ曲がるように湾曲した状態で径方向に延びている。図2の例では、各凹溝部35は、上端面32における内周縁(回転軸部材5の外周面)よりも僅かに径方向外側の部分から径方向に延びて外周縁にまで達しているが、外周縁にまで達していなくてもよい。或いは、各凹溝部35は、上端面32における内周縁から外周縁まで延びていてもよい。
【0040】
前記凹溝部35は、上端面32と平行な底面と、この底面の溝幅方向両側端から底面と垂直にそれぞれ上側へ延びる2つの互いに平行な側面とで構成されており、凹溝部35の断面は略矩形状をなしている。このような凹溝部35は、ディスク311を含むインナ部材3が金属からなる場合には、エッチングにより容易に形成することができる。勿論、機械加工で凹溝部35を形成することも可能である。尚、凹溝部35の断面形状は、磁気粘性流体4を後述の如く流動させることができるのであれば、どのような形状であってもよく、凹溝部35の深さや数も、その流動性を考慮して適宜設定すればよい。
【0041】
前記凹溝部35は、インナ部材3のアウタ部材2に対する前記相対回転に伴って、前記流入口25より流入した磁気粘性流体4を、径方向の外側(流入口25から離れる方向)へ流動するように案内するものである。すなわち、ブレーキ1の製造時に、アウタ部材2内にインナ部材3を組み込んだ上で、そのアウタ部材2とインナ部材3との隙間に、流入口25を介して磁気粘性流体4を流入させて充填する必要がある。このとき、前記空気抜き孔27は開放状態にあり、隙間内の空気は、充填される磁気粘性流体4に押されて空気抜き孔27より抜けるようになっているが、前述の如く隙間が狭いために、磁気粘性流体4が前記隙間の奥側へ入り込み難くなっている。そこで、磁気粘性流体4の充填時に、インナ部材3を、その軸心回りに、アウタ部材2に対して相対回転させる。これにより、凹溝部35が、流入口25より流入した、上端面32上に位置する磁気粘性流体4を、径方向外側へ流動するように案内する。この凹溝部35に案内されて上端面32の外周縁まで流れてきた磁気粘性流体4は、次々と凹溝部35により案内されて流れてくる磁気粘性流体4により押されながら、今度は、インナ部材3において最上部のディスク311の下面とアウタ部材2において最上部のディスク211の上面との隙間を径方向内側へと流れ、その後に、アウタ部材2において最上部のディスク211の下面とインナ部材3において上から2番目のディスク311の上面との隙間を径方向外側へと流れ、これを繰り返して、前記隙間において流入口25から離れる方向(流入口25とは反対の奥側)へと流動していく。こうして、磁気粘性流体4は、最終的に、インナ部材3の下端面33とアウタ部材2の下端壁部23の上面との隙間へと流れ、やがて、隙間全体に充填されることになる。
【0042】
ここで、磁気粘性流体4の充填に際して、磁気粘性流体4の温度を高めてその粘度を低下させるようにしてもよいし、空気抜き孔27を介して真空引きして、アウタ部材2内を真空にするようにしてもよい。但し、本実施形態のような凹溝部35を設けて、インナ部材3をアウタ部材2に対して相対回転させながら磁気粘性流体4を充填すれば、磁気粘性流体4の温度を高めたり真空引きを行ったりしなくても、狭い隙間に磁気粘性流体4を容易に充填することができるようになる。
【0043】
したがって、本実施形態では、製造コストを低減することができるとともに、磁気粘性流体4をアウタ部材2とインナ部材3との隙間全体に確実に充填して、ブレーキ1の特性ばらつきを抑制することができる。これは特に、当該ブレーキ1のように、隙間の狭いデバイスにおいて有効である。
【0044】
図3は、ブレーキ1の変形例を示している。この変形例では、インナ部材3に凹溝部35を設ける代わりに、アウタ部材2に凹溝部24を設けている。尚、図3に示すブレーキ1において、図1に示すブレーキ1と同じ構成については、同じ符号を付して適宜説明を省略する。
【0045】
このブレーキ1では、凹溝部24は、アウタ部材2の上端壁部22の下面に形成されている。その詳細な図示は省略するが、凹溝部24は、図1に示すブレーキ1と同様に、複数(例えば4つ)配設されており、複数の凹溝部24は、周方向に互いに等間隔をあけて配設されている。また、凹溝部24は、前記凹溝部35と同様の断面形状を有していて、上端壁部22の下面において径方向内側から外側に向かってインナ部材3の回転方向と反対側へ曲がるように湾曲した状態で径方向に延びている。尚、流入口25は、前記複数の凹溝部24のうちの相隣接する2つの凹溝部24間に形成される。
【0046】
この構成においても、磁気粘性流体4をアウタ部材2とインナ部材3との隙間に充填する際には、インナ部材3をアウタ部材2に対して相対回転させる。この相対回転に伴い、流入口25を通じてアウタ部材2内に流入した磁気粘性流体4は、インナ部材3の上端面32上において径方向の外側に向かって流動するようになり、これにより、磁気粘性流体4を前記隙間全体に容易に充填することができるようになる。尚、アウタ部材2の上端壁部22の下面とインナ部材3の上端面32との双方に凹溝部を設けるようにしてもよい。
【0047】
ブレーキ1において凹溝部を形成する位置は、インナ部材3の上端面32(図1及び図2参照)や、アウタ部材2の上端壁部22の下面(図3参照)に限定されるものではなく、アウタ部材2及びインナ部材3の少なくとも一方において径方向に延びる面(アウタ部材2におけるディスク211の上面及び下面、アウタ部材2における上端壁部22の下面及び下端壁部23の上面、インナ部材3におけるディスク311の上面及び下面)に形成すればよい。この場合の凹溝部は、磁気粘性流体4を、径方向の外側又は内側へ流動するように案内する形状にすればよい。磁気粘性流体4を外側へ流動させるか、又は内側へ流動させるかは、凹溝部を形成する位置やインナ部材3の回転の向きにより異なるが、例えばインナ部材3において最上部のディスク311の上面(つまりインナ部材3の上端面32)に、磁気粘性流体4を径方向外側へ流動させる凹溝部(前記凹溝部35と同じ)を形成し、最上部のディスク311の下面に、磁気粘性流体4を径方向内側へ流動させる凹溝部(径方向内側から外側に向かってインナ部材3の回転方向へ曲がるように湾曲する凹溝部)を形成しておいて、インナ部材3をアウタ部材2に対して相対回転させれば、磁気粘性流体4を、最上部のディスク311の上側では径方向外側へ、下側では径方向内側へとそれぞれ流動させることができる。また、最上部のディスク311の上下面に限らず、全てのディスク311の上下面についてこのようにすれば、アウタ部材2とインナ部材3との隙間において流入口25に面する最上部から空気抜き孔27に面する最下部まで、磁気粘性流体4を流入口25から離れる方向へ流動するように案内することができる。
【0048】
また、磁気粘性流体4をアウタ部材2とインナ部材3との隙間に流入させるための流入口25の形成位置は、アウタ部材2の上端壁部22に限定されるものではなく、下端壁部23に形成してもよい。この場合、空気抜き孔27は、アウタ部材2とインナ部材3との隙間において流入口25とは反対の最奥部ないしその近傍に連通するように、上端壁部22に形成すればよく、凹溝部24は、インナ部材3の下端面33や、アウタ部材2の下端壁部23の上面等に形成すればよい。或いは、流入口25を、上端壁部22及び下端壁部23の両方に形成して、その両方の流入口25から同時に磁気粘性流体4を前記隙間に流入させるようにしてもよい。この場合、空気抜き孔27は、アウタ部材2の周壁部21の上下方向中央位置に形成すればよく、凹溝部24は、インナ部材3の上端面32及び下端面33や、アウタ部材2の上端壁部22の下面及び下端壁部23の上面等に形成すればよい。
【0049】
また、ブレーキ1の構成は、前記の構成に限らず、適宜変更することが可能である。例えばディスク211,311の枚数等は、図例には限定されず、ディスク211は少なくとも1つあればよい。
【0050】
さらに、本発明は、ブレーキ1への適用に限定されず、クラッチ、防振装置や制振装置のダンパー等のような、アウタ部材と該アウタ部材に対して相対移動可能なインナ部材とを含む、各種の磁気粘性流体デバイスに広く適用することが可能である。すなわち、アウタ部材及びインナ部材の少なくとも一方に、該インナ部材のアウタ部材に対する相対移動に伴って、流入口より流入した磁気粘性流体を、アウタ部材とインナ部材との隙間において該流入口から離れる方向へ流動するように案内する凹溝部を形成すればよい。磁気粘性流体デバイスの製造時における前記相対移動は、製造後のデバイスの動作と同じ相対移動であってもよく、製造後のデバイスの動作とは無関係な、デバイス製造時特有の相対移動であってもよい。或いは、その両方の相対移動であってもよい。凹溝部の配置やその形状は、アウタ部材及びインナ部材の形状、インナ部材のアウタ部材に対する相対移動の方向、流入口の位置等を勘案して、適宜設定すればよい。
【0051】
さらにまた、磁気粘性流体4は、ナノサイズの金属ナノ粒子からなる磁性粒子を含むものには限定されず、ナノサイズよりも大きい金属粒子からなる磁性粒子を含むものであってもよい。但し、磁気粘性流体デバイスの小型化を図る観点からは、金属ナノ粒子からなる磁性粒子を含む磁気粘性流体を用いることが好ましく、また、本発明は、このような磁気粘性流体を用いるデバイスに特に有効なものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、磁気粘性流体を利用した各種のデバイスに有用であり、特に磁気粘性流体の磁性粒子がナノサイズの磁化可能な金属ナノ粒子からなる場合に有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 ブレーキ(磁気粘性流体デバイス)
2 アウタ部材
3 インナ部材
4 磁気粘性流体
21 周壁部
22 上端壁部
23 下端壁部
24 凹溝部
25 流入口
34 コイル(磁場生成手段)
35 凹溝部
221 ディスク(突出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有するアウタ部材と、
前記アウタ部材の内部空間に、該アウタ部材の内面に対し所定の隙間をあけて配設され、該アウタ部材に対し相対移動可能に構成されたインナ部材と、
前記隙間に充填された磁気粘性流体と、
前記磁気粘性流体に対し磁場を与えることによって、該磁気粘性流体の粘度を変化させる磁場生成手段と、を備えた磁気粘性流体デバイスであって、
前記アウタ部材の内面には、前記磁気粘性流体デバイスの製造時に、前記磁気粘性流体を前記アウタ部材の外側から前記隙間に流入させるための流入口が開口しており、
前記アウタ部材及びインナ部材の少なくとも一方には、該インナ部材のアウタ部材に対する相対移動に伴って、前記流入口より流入した磁気粘性流体を、前記隙間において該流入口から離れる方向へ流動するように案内する凹溝部が形成されていることを特徴とする磁気粘性流体デバイス。
【請求項2】
請求項1記載の磁気粘性流体デバイスにおいて、
前記アウタ部材は、筒状の周壁部と、該周壁部の筒軸方向両側の開口をそれぞれ閉塞する2つの端壁部とからなり、
前記周壁部の内周面における筒軸方向の少なくとも1箇所に、全周に亘って径方向内側に突出する突出部が形成され、
前記インナ部材は、前記筒軸と同軸の軸心を有していて、該軸心回りに、前記アウタ部材に対して相対回転可能に構成されているとともに、前記周壁部における前記突出部を含む内周面及び前記両端壁部の内面に対し、それぞれ前記所定の隙間をあけて対向する外周面及び2つの端面を有し、
前記流入口は、前記両端壁部のうち少なくとも一方の端壁部の内面における前記筒軸の近傍に開口しており、
前記凹溝部は、前記アウタ部材及びインナ部材の少なくとも一方において径方向に延びる面に形成されていて、該インナ部材のアウタ部材に対する前記相対回転に伴って、前記流入口より流入した磁気粘性流体を、径方向の外側又は内側へ流動するように案内するものであることを特徴とする磁気粘性流体デバイス。
【請求項3】
請求項2記載の磁気粘性流体デバイスにおいて、
前記凹溝部は、前記アウタ部材における前記流入口が開口する端壁部の内面及び前記インナ部材における該端壁部の内面と対向する端面の少なくとも一方に形成されていて、該インナ部材のアウタ部材に対する前記相対回転に伴って、前記流入口より流入した磁気粘性流体を、径方向の外側へ流動するように案内するものであることを特徴とする磁気粘性流体デバイス。
【請求項4】
請求項3記載の磁気粘性流体デバイスにおいて、
前記凹溝部は、前記インナ部材における、前記流入口が開口する端壁部の内面と対向する端面に、周方向に所定間隔をあけて複数形成されており、
前記各凹溝部は、前記インナ部材の前記端面において径方向内側から外側に向かって該インナ部材の回転方向と反対側へ曲がるように湾曲した状態で径方向に延びていることを特徴とする磁気粘性流体デバイス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の磁気粘性流体デバイスにおいて、
前記磁気粘性流体は、ナノサイズの磁化可能な金属ナノ粒子からなる磁性粒子と、該磁性粒子を分散させる分散媒とを含有することを特徴とする磁気粘性流体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−242945(P2010−242945A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95223(P2009−95223)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】