説明

磁気記録媒体及びその製造方法、並びに磁気記録再生装置

【課題】均一な形状、粒径及び磁気特性を有するFePt又はCoPtナノ粒子を、その磁化容易軸の向きを垂直に揃えて非磁性基板の表面に均一に配列することが可能な磁気記録媒体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】非磁性基板2の表面2aにテクスチャリング処理を施すことにより、円周方向成分を有する複数の溝3を形成する工程と、テクスチャリング処理が施された非磁性基板2の表面2aに、FePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を接触させることにより、この非磁性基板2の上に垂直磁性層4となるFePt又はCoPtナノ粒子配列体5Aを形成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハードディスクドライブ(HDD)等に用いられる磁気記録媒体及びその製造方法、並びにそのような磁気記録媒体又はそのような製造方法により製造された磁気記録媒体を備える磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直磁気記録方式は、従来、媒体の面内方向に向けられていた磁気記録層の磁化容易軸を媒体の垂直方向に向けることにより、記録ビット間の境界である磁化遷移領域付近での反磁界が小さくなるため、記録密度が高くなるほど静磁気的に安定となって熱揺らぎ耐性が向上することから、面記録密度の向上に適した方式である。
【0003】
垂直磁気記録媒体は、非磁性基板の上に、裏打ち層と、下地層と、中間層と、垂直磁気記録層とが順に薄膜によって積層されてなる。非磁性基板と垂直磁気記録層との間に軟磁性材料からなる裏打ち層を設けた場合には、いわゆる垂直2層媒体として機能し、高い記録能力を得ることができる。このとき、軟磁性裏打ち層は、磁気ヘッドからの記録磁界を還流させる役割を果たしており、これによって記録再生効率を向上させることができる。
【0004】
一方、下地層は、その上に設けられた中間層及び垂直磁気記録層の粒径や配向を決める役割を有している。また、中間層は、その結晶粒の頂部にドーム状の凸部が形成されるものであるため、この凸部上に記録層等の結晶粒子を成長させ、成長した結晶粒子の分離構造を促進し、結晶粒子を孤立化させて、磁性粒子を柱状に成長させる効果を有することが知られている(特許文献1を参照)。
【0005】
ところで、全く別の磁気記録媒体の製造方法として、FePtナノ粒子を用いる方法が知られている(特許文献2を参照)。この方法は、FePtナノ粒子を塗布技術等によって基板の表面に配列させたFePtナノ粒子配列体を磁気記録媒体に用いたものであり、現行の薄膜を用いた磁気記録媒体に比べ、粒子間の磁気的な結合を弱める上で優位性があると言われている。
【0006】
具体的に、特許文献2には、FePtナノ粒子に有機コーティング剤を結合させ、この有機コーティング剤を基板の表面に化学結合させること、又は、この有機コーティング剤を基板の表面に化学結合させた別の有機コーティング剤と化学結合させることによって、基板の表面上にFePtナノ粒子の単分子膜を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−272990号公報
【特許文献2】特開2009−035769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述したFePtナノ粒子配列体を垂直磁性層に用いた磁気記録媒体を実現するためには、均一な形状、粒径及び磁気特性を有するFePtナノ粒子を、その磁化容易軸の向きを垂直に揃えて基板上に均一に並べる技術の確立が不可欠である。
【0009】
しかしながら、上述した特許文献2に記載の方法を用いて、FePtナノ粒子をその磁化容易軸の向きを垂直に揃えて基板上に均一に配列させたところ、このFePtナノ粒子の配列中に局所的な乱れが観察された。さらに、この配列の乱れが発生する理由を調べたところ、その発生箇所の基板表面に微細な傷を発見した。そして、この傷によって有機コーティング剤の結合が乱され、それに結合するFePtナノ粒子の配列が乱されることがわかった。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、均一な形状、粒径及び磁気特性を有するFePt又はCoPtナノ粒子を、その磁化容易軸の向きを垂直に揃えて非磁性基板の表面に均一に配列することが可能な磁気記録媒体及びその製造方法、並びにそのような磁気記録媒体又はそのような製造方法により製造された磁気記録媒体を備えた磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、垂直記録層が形成される形成面に円周方向のテクスチャリング処理を施して微細な溝を設けることにより、この形成面におけるナノ粒子の局所的な乱れを抑制できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 円盤状の非磁性基板の上に、少なくとも垂直磁性層を備える磁気記録媒体であって、
前記垂直磁性層は、テクスチャリング処理を施すことにより、円周方向成分を有する複数の溝が形成された形成面上に、FePt又はCoPtナノ粒子配列体を形成した構造を有することを特徴とする磁気記録媒体。
(2) 前記FePt又はCoPtナノ粒子配列体は、有機コーティング層中に複数のFePt又はCoPtナノ粒子が分散されて形成されていることを特徴とする前項(1)に記載の磁気記録媒体。
(3) 前記形成面が前記非磁性基板の表面であることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の磁気記録媒体。
(4) 前記非磁性基板と前記垂直磁性層との間に、下地層と中間層とを順に備え、
前記形成面が前記中間層の表面であることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の磁気記録媒体。
(5) 前記FePt又はCoPtナノ粒子の平均粒径が3〜5nmの範囲であることを特徴とする前項(1)〜(4)の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
(6) 前記テクスチャリング処理が施された形成面の表面粗さが中心線平均粗さ(Ra)で0.15〜1nmの範囲であると共に、互いに隣接する溝の間隔が10〜20nmの範囲であることを特徴とする前項(1)〜(5)の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
(7) 円盤状の非磁性基板の上に、少なくとも垂直磁性層を備える磁気記録媒体の製造方法であって、
前記垂直記録層が形成される形成面にテクスチャリング処理を施すことにより、この形成面に円周方向成分を有する複数の溝を形成する工程と、
前記テクスチャリング処理が施された形成面に、FePt又はCoPtナノ粒子の分散溶液を接触させることにより、この形成面上に前記垂直磁性層となるFePt又はCoPtナノ粒子配列体を形成する工程とを含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(8) 前記形成面となる前記非磁性基板の表面にテクスチャリング処理を施すことを特徴とする前項(7)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(9) 前記非磁性基板と前記垂直磁性層との間に、下地層と中間層と順に積層して形成する工程を含み、
前記形成面となる前記中間層の表面にテクスチャリング処理を施すことを特徴とする前項(7)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(10) 前記FePt又はCoPtナノ粒子の平均粒径を3〜5nmの範囲とすることを特徴とする前項(7)〜(9)の何れか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(11) 前記テクスチャリング処理が施された非磁性基板の表面粗さを中心線平均粗さ(Ra)で0.15〜1nmの範囲とすると共に、互いに隣接する溝の間隔を10〜20nmの範囲とすることを特徴とする前項(7)〜(10)の何れか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
(12) 前項(1)〜(6)の何れか一項に記載の磁気記録媒体、又は、前項(7)〜(11)の何れか一項に記載の製造方法により製造された磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、
前記磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動手段と、
前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドから出力信号の再生とを行うための記録再生信号処理手段とを備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、均一な形状、粒径及び磁気特性を有するFePt又はCoPtナノ粒子を、その磁化容易軸の向きを垂直に揃えて非磁性基板の表面に均一に配列した磁気記録媒体及びその製造方法を提供することが可能である。また、そのような磁気記録媒体又はそのような製造方法により製造された磁気記録媒体を備える磁気記録再生装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、第1の実施形態として示す磁気記録媒体であり、(a)はその構造を示す断面図、(b)はその要部を拡大した断面図である。
【図2】図2は、図1に示す磁気記録媒体の製造工程を説明するための断面図である。
【図3】図3は、第2の実施形態として示す磁気記録媒体であり、(a)はその構造を示す断面図、(b)はその要部を拡大した断面図である。
【図4】図4は、図3に示す磁気記録媒体の製造工程を説明するための断面図である。
【図5】図5は、本発明を適用した磁気記録再生装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した磁気記録媒体及びその製造方法、並びに磁気記録再生装置について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0016】
[第1の実施形態]
(磁気記録媒体)
先ず、本発明の第1の実施形態として図1に示す磁気記録媒体1Aについて説明する。
なお、図1(a)は、この磁気記録媒体1Aの構造を示す断面図であり、図1(b)は、この磁気記録媒体1Aの要部を拡大した断面図である。
【0017】
この磁気記録媒体1Aは、図1(a)に示すように、中心孔を有する円盤状の非磁性基板2の表面2aにテクスチャリング処理を施すことにより、円周方向成分を有する複数の溝3が形成された形成面2aを有している。そして、この形成面2a上に、垂直磁性層4となるFePt又はCoPtナノ粒子配列体5Aを形成した構造を有している。
【0018】
このナノ粒子配列体5Aは、図1(b)に示すように、有機コーティング層6中に複数のナノ粒子5が分散されて形成されている。具体的に、このナノ粒子配列体5Aの形成方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、テクスチャリング処理が施された形成面2aに、第1の官能基を有する有機コーティング剤6aの溶液を塗布した後、第2の官能基を有する有機コーティング剤6bで被覆したFePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を塗布することによって、第1の官能基と第2の官能基とが結合された有機コーティング層6中に、複数のナノ粒子5が分散されたナノ粒子配列体5Aを形成することができる。また、テクスチャリング処理が施された形成面2aに、分散剤によって分散されたFePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を塗布することにより、複数のナノ粒子5が分散されたナノ粒子配列体5Aを形成することができる。
【0019】
さらに、このナノ粒子配列体5Aは、均一な形状、粒径及び磁気特性を有するFePt又はCoPtナノ粒子5を、その磁化容易軸の向きを垂直に揃えて形成面2a上に均一に配列した構造とすることが好ましい。
【0020】
このような構造を有するナノ粒子配列体5Aを形成するためには、テクスチャリング処理が施された形成面2aの表面粗さを中心線平均粗さ(Ra)で0.15〜1nmの範囲とすると共に、互いに隣接する溝3の間隔を10〜20nmの範囲とすることが好ましい。また、FePt又はCoPtナノ粒子5の平均粒径を3〜5nmの範囲とすることが好ましい。
【0021】
そして、この磁気記録媒体1Aは、図1(a)に示すように、このようなナノ粒子配列体5からなる垂直磁性層4の上に、保護層7と潤滑層8とを順に積層した構造を有している。
【0022】
以上のような構造を有する磁気記録媒体1Aでは、非磁性基板2の表面(形成面)2aに円周方向のテクスチャリング処理を施して微細な溝3を設けることにより、この形成面2a上におけるナノ粒子5の局所的な乱れを抑制できる。したがって、本発明によれば、均一な形状、粒径及び磁気特性を有するFePt又はCoPtナノ粒子5を、その磁化容易軸の向きを垂直に揃えて形成面2a上に均一に配列したナノ粒子配列体5Aからなる垂直磁性層4を備えた磁気記録媒体1Aを得ることが可能である。
【0023】
(磁気記録媒体の製造方法)
次に、上記図1に示す磁気記録媒体1Aの製造方法について図2を参照して説明する。
上記磁気記録媒体1Aを製造する際は、先ず、図2(a)に示すように、中心孔を有する円盤状の非磁性基板2を用意する。
【0024】
この非磁性基板2には、500〜900℃程度の加熱に耐え得る材質のものを用いることが好ましい。これは、後述するように、FePt又はCoPtナノ粒子5の結晶構造をL1型に規則化させ、磁気異方性を高めるためには、500℃以上の加熱が必要であり、そのような熱処理による結晶構造を採用する場合は、非磁性基板2がそれに耐える必要があるからである。そして、このような非磁性基板2としては、例えば、シリコン、酸化マグネシウム、サファイア、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素等を用いることができる。
【0025】
次に、図2(b)に示すように、この非磁性基板2の表面(形成面)2aにテクスチャリング処理を施すことにより、円周方向成分を有する複数の溝3を形成する(テクスチャ工程という)。
【0026】
テクスチャ工程では、非磁性基板2の表面2aに対してテクスチャリング処理を直接施してもよく、また、非磁性基板の表面に軟磁性膜等の下地層を形成した後に、この下地層の表面に対してテクスチャリング処理を施してもよい。
【0027】
テクスチャリング処理は、低速で回転させた非磁性基板2の表面2aに、ダイヤモンド砥粒やアルミナ砥粒などを含む研磨液を滴下しながら、テクスチャリングテープを押し付けることによって、非磁性基板2の表面2aに複数の溝3を形成する処理である。
【0028】
このとき使用する研磨液としては、例えば、水性ダイヤモンドスラリーなどを挙げることができる。一方、テクスチャリングテープとしては、例えば、ポリエステル系の極細繊維織布などを挙げることができる。非磁性基板2の回転数は、その直径によって異なるが、例えば、直径1.89〜3.5インチの磁気記録媒体を製造する場合、非磁性基板2の回転数は、150〜800rpmの範囲とすることができる。この範囲よりも非磁性基板2の回転数を大きくし過ぎると、非磁性基板2の表面2aが荒れるおそれがある一方、この範囲よりも非磁性基板2の回転数を小さくし過ぎると、加工時間が長くなるため、好ましくない。
【0029】
テクスチャリング処理が施された非磁性基板2の表面粗さは、中心線平均表面粗さ(Ra)で0.15〜1nm(1.5〜10Å)の範囲することが好ましく、より好ましくは0.2〜0.5nm(2.0〜5Å)の範囲である。非磁性基板2の表面粗さRaが0.15nm(1.5Å)未満になると、テクスチャリング処理した溝3の効果が不十分となり、後述するFePt又はCoPt粒子を基板表面において均一に配列させる効果が不十分となる。一方、非磁性基板2の表面粗さRaが1nm(10Å)を超えると、最終的な磁気記録媒体1Aの表面粗さが悪化してしまい、磁気ヘッドの浮上量を十分に小さくすることができなくなるため、好ましくない。
【0030】
テクスチャリング処理が施された非磁性基板2の表面2aにおいて、互いに隣接する溝3の間隔は、10〜20nmの範囲とすることが好ましい。上述したFePt又はCoPtナノ粒子の平均粒径が3〜5nmであることから、溝3の間隔をこの範囲とすることで、FePt又はCoPt粒子を非磁性基板2の表面2aにおいて均一に配列させることができる。
【0031】
なお、非磁性基板2の表面2aに形成される溝3の間隔は、研磨液に含まれる砥粒の種類、粒径、濃度、供給量、テクスチャリングテープの材質、繊維の密度、押し付け圧力、基板の回転数に依存する。したがって、これらの条件を適宜選択して、非磁性基板2の表面2aでの隣接する溝3の間隔を調整することが可能である。また、非磁性基板2の表面粗さ(Ra)及び隣接する溝3の間隔は、AFMを用いて測定することができる。
【0032】
次に、テクスチャリング処理が施された非磁性基板2の表面2aに、FePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を接触させることにより、上記垂直磁性層4となるFePt又はCoPtナノ粒子配列体5Aを形成する。
【0033】
具体的には、先ず、図2(c)に示すように、テクスチャリング処理が施された非磁性基板2の表面2aに、第1の官能基を有する有機コーティング剤6aの溶液を接触させる(第1の接触工程という)。
【0034】
第1の接触工程では、第1の官能基を有する有機コーティング剤6aとして、その有機物の分子鎖の一端側に、後述する第2の官能基と結合し易く、また非磁性基板2の表面2aと結合し難い第1の官能基を有する一方、その有機物の分子鎖の他端側に、非磁性基板2の表面2aと結合し易く、また第2の官能基と結合し難い第3の官能基を有するものを用いることが好ましい。これにより、有機コーティング剤分子が第3の官能基を介して非磁性基板2の表面2aに化学結合し、この非磁性基板2の面上に第1の官能基を有する有機コーティング剤6aの単分子膜が形成される。
【0035】
このような特性を有する第1,3の官能基のうち、第1の官能基としては、例えば、チオール基、アミノ基などを挙げることができ、第3の官能基としては、メトキシシラニル基、エトキシシラニル基等のアルコキシシラニル基、シラノール基、ヒドロキシル基など挙げることができ、これらを適宜選択して用いることが可能である。例えば、これら第1及び第3の官能基を有する有機コーティング剤6aとしては、3−メルカプトトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0036】
このような有機コーティング剤6aの溶液を非磁性基板2の表面2aに接触させる方法としては、従来より公知の方法を用いることができ、例えば、有機コーティング剤6aをトルエン等の溶媒に溶解させ、この溶液に非磁性基板2を浸漬し、例えば50〜70℃の温度で、1〜20分間加熱する方法を用いることができる。また、上記溶液を非磁性基板2の上にスピンコート等により塗布して、上記浸漬時間と同じ時間だけ保持する方法を用いることができる。
【0037】
次に、図2(d)に示すように、第1の官能基を有する有機コーティング剤6aを接触させた非磁性基板2の表面2aに、第2の官能基を有する有機コーティング剤6bで被覆したFePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を接触させる(第2の接触工程という)。
【0038】
第2の接触工程では、上記第1の官能基を有する有機コーティング剤6aの単分子膜が形成された非磁性基板2の表面2aに、第2の官能基を有する有機コーティング剤6bで被覆したFePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を接触させることによって、第1の官能基と第2の官能基とを化学結合させる。これにより、非磁性基板2のテクスチャリング処理が施された形成面2a上に、複数のFePt又はCoPtナノ粒子5が均一に配列したFePt又はCoPt磁性ナノ粒子配列体5Aを形成することができる。
【0039】
第2の接触工程で使用される有機コーティング剤6bには、その有機物の分子鎖の一端側に、第1の官能基と結合し易く、またFePt又はCoPtナノ粒子5と結合し難い第2の官能基を有する一方、その有機物の分子鎖の他端側に、第1の官能基と結合し難く、またFePt又はCoPtナノ粒子5と結合し易い第4の官能基を有するものを用いることが好ましい。これにより、コーティング剤分子が第4の官能基を介してナノ粒子5の表面に化学結合し、このナノ粒子5の表面に有機コーティング剤6bの単分子膜が形成されると共に、その表面が第2の官能基によって被覆された状態となる。
【0040】
このような特性を有する第2,4の官能基のうち、第2の官能基としては、例えば、チオール基などを挙げることができ、第4の官能基としては、例えば、チオール基、アミノ基、シアノ基などを挙げることができ、これらを適宜選択して用いることが可能である。例えば、これら第2の官能基と第4の官能基とを有する有機コーティング剤6bとしては、1,6−ヘキサンジチオール、1,9−ノナンジチオール、1,10−デカンジチオールなどを挙げることができる。
【0041】
第2の官能基を有する有機コーティング剤6bをFePt又はCoPtナノ粒子5に被覆する方法としては、従来より公知の方法を用いることができ、例えば、有機コーティング剤6bをトルエン、ヘキサン等の溶媒に溶解させ、これにFePt又はCoPtナノ粒子5を、例えば20〜60℃の温度で、1〜20分間浸漬する方法を用いることができる。
【0042】
第2の官能基を有する有機コーティング剤6bで被覆したFePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を非磁性基板2の表面2aに接触させる方法としては、従来より公知の方法を用いることができ、例えば、上記分散溶液中に非磁性基板2を浸漬する方法や、上記分散溶液を非磁性基板2の表面2aにスピンコート等により塗布する方法を用いることができる。
【0043】
第2の接触工程で使用するFePtナノ粒子については、従来より公知の方法により製造することができる。具体的なFePtナノ粒子の製造方法の一例としては、先ず、Pt化合物と還元剤との混合溶液を反応させ、Pt化合物の還元により液中に金属Pt核粒子を生成させる。このとき使用するPt化合物としては、例えば、Ptアセチルアセトナート、Ptエトキシド(Pt(OEt))などを挙げることができる。一方、還元剤としては、例えば、1−オクタデセン等の炭素数16〜18の不飽和炭化水素(直鎖状のものが好ましく、また片末端に二重結合を有するものが好ましい)、1,2−ヘキサデカンジオール等の炭素数16〜18の飽和炭化水素ジオール(飽和炭化水素基が直鎖状のものが好ましく、また1,2−位に各々ヒドロキシル基を有するものが好ましい)などを挙げることができる。また、この還元反応に際して、混合溶液にPt核粒子を均一に分散させるための分散剤を添加することが好ましく、この分散剤としては、例えば、オレイン酸等の炭素数3〜17の直鎖不飽和脂肪酸、N−2−ビニルピロリドンなどを挙げることができる。
【0044】
次に、金属Pt核粒子を生成し分散させた溶液に、Fe化合物を添加し、上記金属Pt核粒子上に金属Feを析出させる。このとき使用するFe化合物としては、例えば、鉄カルボニル、鉄アセチルアセトナート、鉄エトキシドなどを挙げることができる。
【0045】
次に、金属Feが析出して生成されたFeとPtとを含むナノ粒子を、反応液中で200℃〜300℃程度に加熱する。これにより、Pt原子とFe原子とを相互拡散させたFePtナノ粒子が形成される。その後、溶液からFePtナノ粒子を分離し、また、分離に際して湿式分級することで、粒子径分布がより揃ったFePtナノ粒子を得ることができる。
【0046】
FePtナノ粒子の平均粒径は、3〜5nmの範囲とすることが好ましい。これにより、円周方向のテクスチャリング処理が施された非磁性基板の表面に、FePtナノ粒子を均一に配列させることができる。なお、FePtナノ粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)像から算出することができる。
【0047】
このFePtナノ粒子を基板表面に分散した後、外部磁場を基板面に垂直に印加しながら、真空雰囲気中において、500℃、30分間程度の条件で熱処理を行うことにより、FePtナノ粒子をL1型に規則化させ垂直配向性を付与することができる。
【0048】
一方、第2の接触工程で使用するCoPtナノ粒子についても、従来より公知の方法により製造することができる。具体的なCoPtナノ粒子の製造方法の一例としては、先ず、Pt化合物と還元剤との混合溶液を反応させ、Pt化合物の還元により液中に金属Pt核粒子を生成させる。このとき使用するPt化合物としては、例えば、Ptアセチルアセトナート、Ptエトキシド(Pt(OEt))などを挙げることができる。一方、還元剤としては、例えば、1−オクタデセン等の炭素数16〜18の不飽和炭化水素(直鎖状のものが好ましく、また片末端に二重結合を有するものが好ましい)、1,2−ヘキサデカンジオール等の炭素数16〜18の飽和炭化水素ジオール(飽和炭化水素基が直鎖状のものが好ましく、また1,2−位に各々ヒドロキシル基を有するものが好ましい)などを挙げることができる。また、この還元反応に際して、混合溶液にPt核粒子を均一に分散させるための分散剤を添加することが好ましく、この分散剤としては、例えば、オレイン酸等の炭素数3〜17の直鎖不飽和脂肪酸、N−2−ビニルピロリドンなどを挙げることができる。
【0049】
次に、金属Pt核粒子を生成し分散させた溶液に、Co化合物を添加し、上記金属Pt核粒子上に金属Coを析出させる。このとき使用するCo化合物としては、例えば、酢酸コバルトなどを挙げることができる。
【0050】
次に、金属Coが析出して生成されたCoとPtとを含むナノ粒子を、反応液中で200℃〜300℃程度に加熱する。これにより、Co原子とPt原子とを相互拡散させたCoPtナノ粒子が形成される。その後、溶液からCoPtナノ粒子を分離し、また、分離に際して湿式分級することで、粒子径分布がより揃ったCoPtナノ粒子を得ることができる。
【0051】
CoPtナノ粒子の平均粒径は、3〜5nmの範囲とすることが好ましい。これにより、円周方向のテクスチャリング処理が施された非磁性基板の表面に、CoPtナノ粒子を均一に配列させることができる。なお、CoPtナノ粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)像から算出することができる。
【0052】
このCoPtナノ粒子を基板表面に分散した後、外部磁場を基板面に垂直に印加しながら、真空雰囲気中において、500℃、30分間程度の条件で熱処理を行うことにより、CoPtナノ粒子をL1型又はL1型に規則化させ垂直配向性を付与することができる。
【0053】
なお、FePt又はCoPtナノ粒子配列体5Aの形成方法としては、上述した方法に限定されるものではなく、それ以外にも、例えば、テクスチャリング処理が施された非磁性基板2の形成面2aに、分散剤によって分散されたFePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を塗布することにより、複数のナノ粒子5が分散されたナノ粒子配列体5Aを形成することも可能である。
【0054】
非磁性基板2上にFePt又はCoPtナノ粒子配列体5Aを形成した後は、このナノ粒子配列体5Aに対して垂直磁気異方性を付与することによって、垂直磁性層4とする。具体的には、このFePt又はCoPtナノ粒子配列体5Aに対して、外部磁場を垂直に印加しながら、真空雰囲気中において、500〜900℃、30分間程度の条件で熱処理を行う。これにより、FePt又はCoPtナノ粒子5の磁化容易軸が、外部磁場の印加方向である垂直方向に揃い、垂直配向性が付与される。
【0055】
次に、図2(d)に示すように、この垂直磁性層4の上に、保護層7を形成する。保護層7は、垂直磁性層4の腐食を防ぐと共に、磁気ヘッドが媒体に接触したときに媒体表面の損傷を防ぐためのものであり、従来公知の材料、例えばC、SiO、ZrOを含むものを用いることができる。保護層7の厚みは、1〜5nmの範囲であることが、磁気ヘッドと媒体表面との距離を小さくできるので高記録密度の点から望ましい。
【0056】
次に、図2(e)に示すように、この保護層7の上に、潤滑剤を塗布することによって、潤滑層8を形成する。この潤滑膜8には、従来公知の材料、例えばパーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などを用いることができ、通常は1〜4nmの厚さで形成する。
以上の工程を経ることによって、上記図1に示す磁気記録媒体1Aを製造することができる。
【0057】
以上のように、本発明では、非磁性基板2の表面(形成面)2aにテクスチャリング処理を施すことにより円周方向成分を有する複数の溝3を形成する。これにより、FePt又はCoPtナノ粒子5の局所的な乱れを生じさせる基板表面の欠陥や、傷等を隠し、この非磁性基板2の表面2aにFePt又はCoPtナノ粒子5を均一に配列させることが可能となる。
【0058】
したがって、本発明によれば、均一な形状、粒径及び磁気特性を有するFePt又はCoPtナノ粒子5を、その磁化容易軸の向きを垂直に揃えて非磁性基板2の表面2aに均一に配列した磁気記録媒体1Aを製造することが可能である。
【0059】
[第2の実施形態]
(磁気記録媒体)
先ず、本発明の第2の実施形態として図3に示す磁気記録媒体1Bについて説明する。
なお、図3(a)は、この磁気記録媒体1Bの構造を示す断面図であり、図3(b)は、この磁気記録媒体1Bの要部を拡大した断面図である。なお、以下の説明では、上記磁気記録媒体1Aと同等の部位については、説明を省略すると共に、図面において同じ符号を付すものとする。
【0060】
この磁気記録媒体1Bは、図3(a),(b)に示すように、非磁性基板2と垂直磁性層4との間に、下地層9と中間層10とを順に備え、非磁性基板2の表面にテクスチャリング処理を施す代わりに、中間層10の表面10aにテクスチャリング処理を施すことにより、円周方向成分を有する複数の溝3が形成された形成面10aを有している。そして、この形成面10a上に、垂直磁性層4となるFePt又はCoPtナノ粒子配列体5Aを形成した構造を有している。それ以外は、上記図1に示す磁気記録媒体1Aと同様の構成を有している。
【0061】
以上のような構造を有する磁気記録媒体1Aでは、中間層10の表面(形成面)10aに円周方向のテクスチャリング処理を施して微細な溝3を設けることにより、この形成面10a上におけるナノ粒子5の局所的な乱れを抑制できる。したがって、本発明によれば、均一な形状、粒径及び磁気特性を有するFePt又はCoPtナノ粒子5を、その磁化容易軸の向きを垂直に揃えて形成面10a上に均一に配列したナノ粒子配列体5Aからなる垂直磁性層4を備えた磁気記録媒体1Bを得ることが可能である。
【0062】
(磁気記録媒体の製造方法)
次に、上記図3に示す磁気記録媒体1Bの製造方法について図4を参照して説明する。
上記磁気記録媒体1Bを製造する際は、先ず、図4(a)に示すように、中心孔を有する円盤状の非磁性基板2を用意する。
【0063】
次に、図4(b)に示すように、この非磁性基板2の上に、下地層9を形成する。下地層9には、例えばCoFe合金などの軟磁性材料を用いることができる。下地層9にCoFe合金を用いることで、高い飽和磁束密度Bs(1.4[T]以上)を実現でき、優れた記録再生特性を得ることができる。CoFe合金中におけるFeの含有量は、5〜60原子%の範囲とすることが好ましい。Feの含有量が5原子%未満であると、軟磁性材料の飽和磁束密度Bsが低くなる。一方、Feの含有量が60原子%を超えると、軟磁性材料の腐食性が悪化するため、好ましくない。
【0064】
下地層9の層厚は、20〜80nmの範囲とすることが好ましい。下地層9の層厚が20nm未満であると、磁気ヘッドからの磁束を十分に吸収することができず、書き込みが不十分となり、記録再生特性が悪化する。一方、下地層9の層厚が80nmを超えると、生産性が著しく低下するため、好ましくない。
【0065】
また、下地層9は、第1の軟磁性層と、Ru層と、第2の軟磁性層とが順に積層された構造とすることが好ましい。すなわち、この下地層9は、2層の軟磁性層の間にRu層を挟み込むことによって、Ru層の上下にある軟磁性層がアンチ・フェロ・カップリング(AFC)した構造となる。これにより、外部からの磁界に対しての耐性、並びに垂直磁気記録特有の問題であるWATE(Wide Area Tack Erasure)現象に対しての耐性を高めることができる。
【0066】
また、磁気記録媒体1Bでは、磁気ヘッドによる垂直磁性層(垂直磁気記録層)4への書き込み時に、磁界を磁気ヘッドに戻すための下地層(軟磁性層)9を垂直磁性層4の下に設ける必要がある。しかしながら、軟磁性層9を非磁性基板2の表面に直接設けると、非磁性基板2の表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散などにより、軟磁性層9に腐食が進行する可能性がある。このため、非磁性基板2と軟磁性層9との間には、密着層(図示せず。)を設けることが好ましい。なお、密着層としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など適宜選択して使用することが可能である。また、密着層の厚みは、2nm以上であることが好ましい。
【0067】
次に、図4(c)に示すように、この下地層9の上に、中間層10を形成する。中間層10は、垂直磁性層4をc軸配向した柱状晶とするための層であり、例えばRu又はRu合金によって形成できる。Ru合金としては、例えば、RuCo、RuAl、RuMn、RuMo、RuFe合金を例示できる。Ru合金中のRu量は50原子%以上90原子%以下がよい。
【0068】
また、中間層10の層厚は、30nm以下、好ましくは16nm以下であることが好ましい。中間層10を薄くすることで、磁気ヘッドと下地層(軟磁性層)9との間の距離が小さくなり、磁気ヘッドからの磁束を急峻にすることができる。その結果、軟磁性層9の層厚を更に薄くすることができ、生産性を向上させることが可能となる。
【0069】
次に、図4(d)に示すように、この中間層10の表面(形成面)10aにテクスチャリング処理を施すことにより、円周方向成分を有する複数の溝3を形成する(テクスチャ工程という)。
【0070】
テクスチャリング処理は、低速で回転させた非磁性基板2の中間層10の表面10aに、ダイヤモンド砥粒やアルミナ砥粒などを含む研磨液を滴下しながら、テクスチャリングテープを押し付けることによって、中間層10の表面10aに複数の溝3を形成する処理である。
【0071】
このとき使用する研磨液としては、例えば、水性ダイヤモンドスラリーなどを挙げることができる。一方、テクスチャリングテープとしては、例えば、ポリエステル系の極細繊維織布などを挙げることができる。非磁性基板2の回転数は、その直径によって異なるが、例えば、直径1.89〜3.5インチの磁気記録媒体を製造する場合、非磁性基板2の回転数は、150〜800rpmの範囲とすることができる。この範囲よりも非磁性基板2の回転数を大きくし過ぎると、中間層10の表面10aが荒れるおそれがある一方、この範囲よりも非磁性基板2の回転数を小さくし過ぎると、加工時間が長くなるため、好ましくない。
【0072】
テクスチャリング処理が施された中間層10の表面粗さは、中心線平均表面粗さ(Ra)で0.15〜1nm(1.5〜10Å)の範囲することが好ましく、より好ましくは0.2〜0.5nm(2.0〜5Å)の範囲である。中間層10の表面粗さRaが0.15nm(1.5Å)未満になると、テクスチャリング処理した溝3の効果が不十分となり、後述するFePt又はCoPt粒子を基板表面において均一に配列させる効果が不十分となる。一方、中間層10の表面粗さRaが1nm(10Å)を超えると、最終的な磁気記録媒体1Bの表面粗さが悪化してしまい、磁気ヘッドの浮上量を十分に小さくすることができなくなるため、好ましくない。
【0073】
テクスチャリング処理が施された中間層10の表面10aにおいて、互いに隣接する溝3の間隔は、10〜20nmの範囲とすることが好ましい。上述したFePt又はCoPtナノ粒子の平均粒径が3〜5nmであることから、溝3の間隔をこの範囲とすることで、FePt又はCoPt粒子を中間層10の表面10aにおいて均一に配列させることができる。
【0074】
なお、中間層10の表面10aに形成される溝3の間隔は、研磨液に含まれる砥粒の種類、粒径、濃度、供給量、テクスチャリングテープの材質、繊維の密度、押し付け圧力、基板の回転数に依存する。したがって、これらの条件を適宜選択して、中間層10の表面10aでの隣接する溝3の間隔を調整することが可能である。また、中間層10の表面粗さ(Ra)及び隣接する溝3の間隔は、AFMを用いて測定することができる。
【0075】
次に、テクスチャリング処理が施された中間層10の表面10aに、FePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を接触させることにより、上記垂直磁性層4となるFePt又はCoPtナノ粒子配列体5Aを形成する。
【0076】
具体的には、先ず、図4(e)に示すように、テクスチャリング処理が施された中間層10の表面10aに、第1の官能基を有する有機コーティング剤6aの溶液を接触させる(第1の接触工程という)。
【0077】
第1の接触工程では、第1の官能基を有する有機コーティング剤6aとして、その有機物の分子鎖の一端側に、後述する第2の官能基と結合し易く、また中間層10の表面10aと結合し難い第1の官能基を有する一方、その有機物の分子鎖の他端側に、中間層10の表面10aと結合し易く、また第2の官能基と結合し難い第3の官能基を有するものを用いることが好ましい。これにより、有機コーティング剤分子が第3の官能基を介して中間層10の表面10aに化学結合し、この中間層10の面上に第1の官能基を有する有機コーティング剤6aの単分子膜が形成される。
【0078】
このような特性を有する第1,3の官能基のうち、第1の官能基としては、例えば、チオール基、アミノ基などを挙げることができ、第3の官能基としては、メトキシシラニル基、エトキシシラニル基等のアルコキシシラニル基、シラノール基、ヒドロキシル基など挙げることができ、これらを適宜選択して用いることが可能である。例えば、これら第1及び第3の官能基を有する有機コーティング剤6aとしては、3−メルカプトトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0079】
このような有機コーティング剤6aの溶液を中間層10の表面10aに接触させる方法としては、従来より公知の方法を用いることができ、例えば、有機コーティング剤6aをトルエン等の溶媒に溶解させ、この溶液に非磁性基板2を浸漬し、例えば50〜70℃の温度で、1〜20分間加熱する方法を用いることができる。また、上記溶液を中間層10の上にスピンコート等により塗布して、上記浸漬時間と同じ時間だけ保持する方法を用いることができる。
【0080】
次に、図4(f)に示すように、第1の官能基を有する有機コーティング剤6aを接触させた中間層10の表面10aに、第2の官能基を有する有機コーティング剤6bで被覆したFePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を接触させる(第2の接触工程という)。
【0081】
第2の接触工程では、上記第1の官能基を有する有機コーティング剤6aの単分子膜が形成された中間層10の表面10aに、第2の官能基を有する有機コーティング剤6bで被覆したFePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を接触させることによって、第1の官能基と第2の官能基とを化学結合させる。これにより、中間層10のテクスチャリング処理が施された形成面10a上に、複数のFePt又はCoPtナノ粒子5が均一に配列したFePt又はCoPt磁性ナノ粒子配列体5Aを形成することができる。
【0082】
第2の接触工程で使用される有機コーティング剤6bには、その有機物の分子鎖の一端側に、第1の官能基と結合し易く、またFePt又はCoPtナノ粒子5と結合し難い第2の官能基を有する一方、その有機物の分子鎖の他端側に、第1の官能基と結合し難く、またFePt又はCoPtナノ粒子5と結合し易い第4の官能基を有するものを用いることが好ましい。これにより、コーティング剤分子が第4の官能基を介してナノ粒子5の表面に化学結合し、このナノ粒子5の表面に有機コーティング剤6bの単分子膜が形成されると共に、その表面が第2の官能基によって被覆された状態となる。
【0083】
このような特性を有する第2,4の官能基のうち、第2の官能基としては、例えば、チオール基などを挙げることができ、第4の官能基としては、例えば、チオール基、アミノ基、シアノ基などを挙げることができ、これらを適宜選択して用いることが可能である。例えば、これら第2の官能基と第4の官能基とを有する有機コーティング剤6bとしては、1,6−ヘキサンジチオール、1,9−ノナンジチオール、1,10−デカンジチオールなどを挙げることができる。
【0084】
第2の官能基を有する有機コーティング剤6bをFePt又はCoPtナノ粒子5に被覆する方法としては、従来より公知の方法を用いることができ、例えば、有機コーティング剤6bをトルエン、ヘキサン等の溶媒に溶解させ、これにFePt又はCoPtナノ粒子5を、例えば20〜60℃の温度で、1〜20分間浸漬する方法を用いることができる。
【0085】
第2の官能基を有する有機コーティング剤6bで被覆したFePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を中間層10の表面10aに接触させる方法としては、従来より公知の方法を用いることができ、例えば、上記分散溶液中に非磁性基板2を浸漬する方法や、上記分散溶液を中間層10の表面10aにスピンコート等により塗布する方法を用いることができる。
【0086】
なお、FePt又はCoPtナノ粒子配列体5Aの形成方法としては、上述した方法に限定されるものではなく、それ以外にも、例えば、テクスチャリング処理が施された中間層10の形成面10aに、分散剤によって分散されたFePt又はCoPtナノ粒子5の分散溶液を塗布することにより、複数のナノ粒子5が分散されたナノ粒子配列体5Aを形成することも可能である。
【0087】
中間層10上にFePt又はCoPtナノ粒子配列体5Aを形成した後は、このナノ粒子配列体5Aに対して垂直磁気異方性を付与することによって、垂直磁性層4とする。具体的には、このFePt又はCoPtナノ粒子配列体5Aに対して、外部磁場を垂直に印加しながら、真空雰囲気中において、500℃、30分間程度の条件で熱処理を行う。これにより、FePt又はCoPtナノ粒子5の磁化容易軸が、外部磁場の印加方向である垂直方向に揃い、垂直配向性が付与される。
【0088】
次に、図4(g)に示すように、この垂直磁性層4の上に、保護層7を形成した後に、図4(h)に示すように、この保護層7の上に、潤滑剤を塗布することによって、潤滑層8を形成する。
以上の工程を経ることによって、上記図3に示す磁気記録媒体1Bを製造することができる。
【0089】
以上のように、本発明では、中間層10の表面(形成面)10aにテクスチャリング処理を施すことにより円周方向成分を有する複数の溝3を形成する。これにより、FePt又はCoPtナノ粒子5の局所的な乱れを生じさせる基板表面の欠陥や、傷等を隠し、この中間層10の表面10aにFePt又はCoPtナノ粒子5を均一に配列させることが可能となる。
【0090】
したがって、本発明によれば、均一な形状、粒径及び磁気特性を有するFePt又はCoPtナノ粒子5を、その磁化容易軸の向きを垂直に揃えて中間層10の表面10aに均一に配列した磁気記録媒体1Bを製造することが可能である。
【0091】
(磁気記録再生装置)
図5は、本発明を適用した磁気記録再生装置の一例を示すものである。
この磁気記録再生装置は、垂直磁気記録媒体50と、垂直磁気記録媒体50を回転駆動させる媒体駆動部51と、垂直磁気記録媒体50に情報を記録再生する磁気ヘッド52と、この磁気ヘッド52を垂直磁気記録媒体50に対して相対運動させるヘッド駆動部53と、記録再生信号処理系54とを備えている。また、記録再生信号処理系54は、外部から入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド52に送り、磁気ヘッド52からの再生信号を処理してデータを外部に送ることが可能となっている。
【0092】
この磁気記録再生装置では、上記垂直磁気記録媒体の更なる高記録密度化という要望に応えるべく、垂直磁気記録媒体50に対する書き込み能力に優れた単磁極ヘッドを磁気ヘッド52に用いている。また、磁気記録再生装置では、再生素子として巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子などを有した、より高記録密度に適した磁気ヘッド52を用いることができる。
【0093】
本発明を適用した磁気記録再生装置では、垂直磁気記録媒体50として、上記図3に示す磁気記録媒体1Bを用いている。そして、垂直磁気記録媒体50では、このような単磁極ヘッドに対応するために、非磁性基板2と垂直磁性層4との間に下地層(軟磁性層)9を設けて、単磁極ヘッドと垂直磁気記録層5との間の磁束の出入りの効率向上を図っている。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0095】
<FePtナノ粒子の製造>
本実施例では、先ず、Pt化合物として、Ptアセチルアセトナート(Pt(acac))を0.5mmol/dmと、還元剤として、1−オクタデセンを1.5mmol/dmと、第1の粒子分散剤として、オレイン酸を0.94mmol/dmとを含み、ベンジルエーテルを溶媒とした溶液を調製した。そして、この溶液を、フラスコ中で、アルゴン雰囲気下で、100℃まで加熱し、100℃になったところで、Fe化合物として、鉄カルボニル(Fe(CO))を0.99mmol/dm添加し、更に温度を120℃まで昇温して5分間保持し、鉄カルボニルが溶解したところで、第2の粒子分散剤として、オレイルアミンを1.4mmol/dm添加した。そして、この溶液を、245℃まで昇温し、この温度で120分間熟成した後、室温まで冷却して、FePtナノ粒子を得た。そして、遠心分離処理を用いて余剰の前駆体や副生成物を除去した後、ヘキサンに分散させることで、表面を分散剤で被覆したFePtナノ粒子の分散溶液を得た。
【0096】
さらに、このFePtナノ粒子を1,6−ヘキサンジチオールに分散させ、40℃の温度で10分間浸漬することで、FePtナノ粒子の表面を有機コーティング剤分子の単分子膜で被覆した。そして、これをヘキサンに分散させることで、有機コーティング剤分子の単分子膜で被覆したFePtナノ粒子の分散液を得た。
【0097】
<磁気記録媒体の製造>
次に、非磁性基板として、シリコン基板(直径2.5インチ)を用意し、シリコン基板に対して洗浄を行った後、このシリコン基板を真空チャンバ内にセットし、真空チャンバを1.0×10−5Pa以下に排気した。ここで使用したシリコン基板は、外径65mm、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)0.2nmとした。
【0098】
そして、このシリコン基板にDCスパッタリング法を用いて、下地層(軟磁性層)として、FeCoB薄膜を60nm、中間層(非磁性層)として、Ru薄膜を10nm積層した後、この基板に対して基板円周方向にテクスチャリング処理を施した。テクスチャリング処理は、研磨液として、平均粒径0.1μmのダイヤモンド砥粒を含んだ水性ダイヤモンドスラリーを用い、テクスチャリングテープとして、ポリエステル極細繊維織布を用い、基板の回転数を550rpmとした。また、テクスチャリング処理後の基板の表面をAFMで調べたところ、Raは0.3nm、隣接する溝の間隔は13nmであった。
【0099】
そして、この基板の表面に、希釈した3−メルカプトプロピルトリメトキシシランをスピンコートで塗布した後、基板を100℃で8分間加熱することによって、基板の表面に第1の官能基を有する単分子膜を形成した。
【0100】
そして、この第1の官能基を有する単分子膜が形成された非磁性基板の表面に、上記第2の官能基を有する有機コーティング剤で被覆したFePtナノ粒子の分散溶液をスピンコートにより塗布した後、基板を乾燥させた。その後、上記処理を行った基板に対して、外部磁場を垂直に印加しながら、真空雰囲気中で、700℃で30分間の熱処理を行うことによって、FePtナノ粒子配列体に垂直磁気配向性を付与した。
【0101】
その後、磁気記録媒体の保護膜機能を付与するために、基板上にスパッタ法によりカーボン膜を4nm形成した後、その表面にディップ法に潤滑剤膜を成膜した。
【0102】
<評価>
以上の方法により製造された磁気記録媒体を評価したところ、表面の平滑性が高く、また磁気記録再生が可能であることを確認した。
【符号の説明】
【0103】
1A,1B…磁気記録媒体 2…非磁性基板 2a…形成面 3…溝 4…垂直磁性層 5…FePt又はCoPtナノ粒子 5A…FePt又はCoPtナノ粒子配列体 6…コーティング層 6a…第1の官能基を有するコーティング剤 6b…第2の官能基を有するコーティング剤 7…保護層 8…潤滑層 9…下地層(裏打ち層) 10…中間層 10a…形成面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状の非磁性基板の上に、少なくとも垂直磁性層を備える磁気記録媒体であって、
前記垂直磁性層は、テクスチャリング処理を施すことにより、円周方向成分を有する複数の溝が形成された形成面上に、FePt又はCoPtナノ粒子配列体を形成した構造を有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記FePt又はCoPtナノ粒子配列体は、有機コーティング層中に複数のFePt又はCoPtナノ粒子が分散されて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記形成面が前記非磁性基板の表面であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記非磁性基板と前記垂直磁性層との間に、下地層と中間層とを順に備え、
前記形成面が前記中間層の表面であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記FePt又はCoPtナノ粒子の平均粒径が3〜5nmの範囲であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記テクスチャリング処理が施された形成面の表面粗さが中心線平均粗さ(Ra)で0.15〜1nmの範囲であると共に、互いに隣接する溝の間隔が10〜20nmの範囲であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
円盤状の非磁性基板の上に、少なくとも垂直磁性層を備える磁気記録媒体の製造方法であって、
前記垂直記録層が形成される形成面にテクスチャリング処理を施すことにより、この形成面に円周方向成分を有する複数の溝を形成する工程と、
前記テクスチャリング処理が施された形成面に、FePt又はCoPtナノ粒子の分散溶液を接触させることにより、この形成面上に前記垂直磁性層となるFePt又はCoPtナノ粒子配列体を形成する工程とを含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記形成面となる前記非磁性基板の表面にテクスチャリング処理を施すことを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記非磁性基板と前記垂直磁性層との間に、下地層と中間層と順に積層して形成する工程を含み、
前記形成面となる前記中間層の表面にテクスチャリング処理を施すことを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
前記FePt又はCoPtナノ粒子の平均粒径を3〜5nmの範囲とすることを特徴とする請求項7〜9の何れか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
前記テクスチャリング処理が施された非磁性基板の表面粗さを中心線平均粗さ(Ra)で0.15〜1nmの範囲とすると共に、互いに隣接する溝の間隔を10〜20nmの範囲とすることを特徴とする請求項7〜10の何れか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6の何れか一項に記載の磁気記録媒体、又は、請求項7〜11の何れか一項に記載の製造方法により製造された磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、
前記磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動手段と、
前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドから出力信号の再生とを行うための記録再生信号処理手段とを備えることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−243379(P2012−243379A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116149(P2011−116149)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】