説明

磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法

【課題】 FePt合金の素地にSiO等の酸化物を含む高密度の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 一般式:(FePt(100−x)(100−y)(SiO、ここで40≦x≦60(単位:モル%)、5≦y≦30(単位:モル%)で表される組成を有する焼結体からなるターゲットであって、その組織が、SiO相と、FeとPtとの固溶体からなるFePt合金相と、SiO相とFePt合金相との界面において、Si、O、FeおよびPtの各元素が相互に拡散することによって形成するSi、O、FeおよびPtを含有する相互拡散相と、で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクの高密度磁気記録媒体に適用される磁気記録膜、特に垂直磁気記録媒体に適用される磁気記録膜を形成するためのスパッタリングターゲットおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置は、一般にコンピューターやデジタル家電等の外部記録装置として用いられており、記録密度の一層の向上が求められている。そのため、近年、高密度の記録を実現できる垂直磁気記録方式が採用されている。この垂直磁気記録方式は、以前の面内記録方式と異なり、原理的に高密度化するほど記録磁化が安定すると言われている。
【0003】
この垂直磁気記録方式のハードディスク媒体の記録層に適用する材料の候補として、酸化物を含むFePt磁気記録膜が提案されている。
従来、この磁気記録膜は、例えば原料となるFePt合金粉末とSiO粉末との混合粉末をホットプレス法等により合金の焼結体としたスパッタリングターゲットを用いてDCスパッタ法により作製することが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4175829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、FePtにSiO等の酸化物を入れると、高密度が得難く、特に、上記従来技術のように、FePt合金粉末とSiO粉末との混合粉を、焼結体の高密度化を目的にホットプレス法にて高温の焼結温度(例えば、1350℃)にて焼結すると、焼結体としたターゲットがカーボンモールドに対し付着や融着を生じ、取り出し時に割れが生じたり、取り出した焼結体に反りや変形が生じたりすることがあり、ターゲットの製造歩留まりの向上が求められている。一方、カーボンモールドへの付着や融着を防止するために焼結温度を低下させると、密度が低くなり、その結果スパッタリングした際、異常放電が生じ、スパッタの際のパーティクル発生の原因になる場合がある。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、FePt合金の素地にSiO等の酸化物を含む高密度の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットとしてFePt合金の素地にSiOを含むターゲットについて研究を進めたところ、単一のFePt合金粉とSiO粉との2種類の混合粉末ではなく、原子%比率においてPtよりもFe濃度の高いFePt合金粉とPt粉とSiO粉との混合粉末を用いることにより、高密度なターゲットを形成することができることを突き止めた。
【0008】
本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。即ち、本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットは、一般式:(FePt(100−x)(100−y)(SiO、ここで40≦x≦60(単位:モル%)、5≦y≦30(単位:モル%))で表される組成を有する焼結体からなるターゲットであって、その組織が、SiO相と、FeとPtとの固溶体からなるFePt合金相と、SiO相とFePt合金相との界面において、Si、O、Fe、およびPtの各元素が相互に拡散することによって形成するSi、O、Fe、およびPtを含有する相互拡散相とで構成されていることを特徴とする。
尚、酸素を除いたターゲットの成分組成は、Fe:28〜57(原子%)、Si:5〜30(原子%)、残:Ptおよび不可避不純物、と表示することができる。
【0009】
この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットでは、組織が、SiO相と、FePt合金相と、両者が相互に拡散することにより形成されたSi、O、Fe、およびPtを含有した相互拡散相と、で構成されているので、Si、O、FeおよびPtが相互に拡散した相互拡散相の形成によって密度が高くなると共に異常放電を低減できる。
なお、FeとPtとは、L10構造の規則相(L10規則相)を形成することにより、磁気記録媒体膜の高い磁気異方性を発現し高記録密度を達成する効果を有するが、前記ターゲットのFeの含有量(x)が40モル%未満であったり、60モル%を越えていたりする場合、スパッタにて形成される磁気記録媒体膜に十分なL10規則相を形成することができない。また、SiOは磁気記録媒体膜の磁性粒子間を分断し交換結合相互作用を抑制するために添加するが、SiOの含有量(y)が5モル%未満では前記交換結合相互作用を抑制する効果が見られず、30モル%を越えて添加すると磁気特性に悪影響を及ぼすので、添加量は5モル%以上、30モル%以下とした。
【0010】
また、本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの組織は、SiO相と、FeとPtとの固溶体からなるFePt合金相と、SiO相とFePt合金相との界面においてSi、O、Fe、およびPtの各元素が相互に拡散することによって形成するSi、O、Fe、およびPtを含有する相互拡散相と、で構成されている。特に、本発明のターゲットの特徴は、その組織がSi、O、Fe、およびPtを含有する相互拡散相を含有することに特徴がある。この相互拡散相は、ターゲット組織におけるSiO相と、素地を形成する金属相であるFePt合金相とが、ホットプレス中において、両者の界面にて各元素の相互拡散が生じて形成されるものである。その結果、SiO粉の表面近傍には、Si、O、Fe、およびPtが相互拡散した密着強化層が形成される。この相互拡散相からなる密着強化層の形成は、SiO粉を素地の金属相と強固に結合すると共に、ターゲットの高密度化を促進する。
特に、スパッタ中のパーティクルや異常放電の抑制には、SiO相との界面の密着強化層の形成が有効である。一般に、導電性を有する金属相とSiOのような絶縁物との混合物からなるターゲットにおいては、直流スパッタによるスパッタリング中においてArイオンのプラス電荷が絶縁物上に残留しスパッタの進行と共に集積していく。一方、ターゲット自体はマイナスに印加されているため、絶縁物表面に集積したプラス電荷と金属相とが絶縁物を介して強い電界を生じ、電界強度が絶縁物の耐圧を越えると、絶縁破壊によって絶縁物が破壊され飛散しパーティクルとなったり、あるいは絶縁物が蒸発することにより、その箇所にArイオンを一気に引き込む異常放電を生じる場合がある。
本発明のターゲットは、絶縁物であるSiO相と金属相との界面近傍の相互拡散相が、金属成分であるFeとPtとを含む密着強化層となっているので、前記Arイオンのプラス電荷が、該密着強化層を通して金属層であるFePt合金相内へ移動するので、SiO上でのプラス電荷の集積が生じず、従って絶縁破壊による異常放電の発生が抑制できるのである。前記相互拡散相からなる密着強化層の厚さは、0.2〜0.8μmであることが好ましい。密着強化層の厚さが0.2μm未満では、十分な密着性が得られず異常放電の抑制効果が少なく、1μmを越えても異常放電のさらなる抑制効果が見られないからである。
【0011】
本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法は、上記本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを製造する方法であって、Fe:80〜95原子%を含有するFePt合金粉と、Pt粉と、SiO粉と、の混合粉末を、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程を有していることを特徴とする。
【0012】
すなわち、この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法では、Fe:80〜95原子%を含有するFePt合金粉と、Pt粉と、SiO粉と、の混合粉末を、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程を有しているので、Fe濃度の高いFePt合金粉とPt粉とを用いることでSiO粉との界面において濃度勾配が大きくなり、FeおよびPtとSiとの置換が生じ易くなってSiO相とFePt合金相との界面に上記密着強化相が形成される。また、FePt合金粉の組成は、Feの含有量を80〜95原子%とし、硬さが高い規則合金の組成範囲から外している。これによりFePt合金粉はホットプレス中に十分軟化してPt粉と結合し、その後、相互に拡散して一体化し、高密度化を促進する効果を有する。
【0013】
また、本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法は、前記ホットプレスの保持温度が、1050〜1150℃であることが好ましい。
すなわち、この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法では、ホットプレスの保持温度が、1050〜1150℃であるので、モールドへの付着や融着、反りや変形等を防ぐことができる。
ホットプレスの保持温度が1050℃未満であると、十分に高い密度が得られず、1150℃を超えると、反りや変形等が発生し易く、モールドへの付着や融着等が発生し易くなる。
なお、ホットプレスによる前記温度での保持時間は2〜5時間の範囲で設定できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットによれば、組織が、SiO相と、FePt合金相と、これら相の界面に介在しSi、O、FeおよびPtが相互拡散した相互拡散相と、で構成されているので、相互拡散相の形成によって強度が向上して密度が高くなると共に、パーティクルや異常放電の発生が抑制される。
また、本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法によれば、Fe濃度の高いFePt合金粉を用いることで、SiO相とFePt合金相との界面に相互拡散相からなる密着強化層を形成することができるので、高い密度と共にパーティクルや異常放電の発生を抑制することができる。
したがって、本発明の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングにより磁気記録媒体膜を成膜することで、高い生産性をもってHDD用の高密度磁気記録媒体に適用される磁気記録膜、特に垂直磁気記録媒体に適用される良好な磁気記録膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法の一実施形態において、ターゲットの断面組織をEPMA(電子線マイクロプローブアナライザ)により測定した二次電子像および組成像(COMPO像)である。
【図2】本発明に係る一実施形態において、ターゲットの断面組織をEPMAにより測定した各元素の元素分布像である。
【図3】本発明に係る一実施形態において、ターゲットの断面組織をEPMAによりライン分析を行った箇所を示す二次電子像および組成像(COMPO像)である。
【図4】本発明に係る一実施形態において、ターゲットの断面組織をEPMAによりライン分析を行った箇所の各元素の元素分布像である。
【図5】本発明に係る一実施形態において、ターゲットの断面組織をEPMAによりライン分析を行った際の各元素の濃度を示すグラフである。
【図6】本発明に係る一実施形態の製造フローを示す。
【図7】相互拡散相からなる密着強化層の厚さの測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法の一実施形態を、図1から図7を参照して説明する。
【0017】
本実施形態の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットは、一般式:(FePt(100−x)100−y(SiO、ここで40≦x≦60、5≦y≦30(単位:モル比)で表される組成を有する焼結体からなるターゲットであって、その組織が、SiO相と、FeとPtとの固溶体からなるFePt合金相と、SiO相とFePt合金相との界面において、Si、O、Fe、およびPtの各元素が相互に拡散することによって形成するSi、O、Fe、およびPtを含有する相互拡散相と、で構成されている。また、該相互拡散相の厚さは、0.2〜0.8μmとなっている。
【0018】
この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法では、Fe:80〜95原子%を含有するFePt合金粉と、Pt粉と、SiO粉と、の混合粉末を、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程を有している。
上記FePt合金粉は、平均粒径が10〜20μmのものを用いることが好ましい。また上記Pt粉は、平均粒径が3〜8μmのものを用い、さらにSiO粉は、平均粒径が2〜6μmのものを用いるとよい。
【0019】
なお、FePt合金粉の平均粒径を上記範囲とした理由は、10μm未満であると、収率よく回収することが困難となるためであり、20μmを超えると、粗大なFePt合金粉が混入しやすくなるためである。
【0020】
この製法の一例について詳述すれば、例えば、まず上記所定組成割合となるFePt合金粉をガスアトマイズにより作製し、風力分級法によって平均粒径が10〜20μmとなるように分級して粉末を回収する。
Pt粉とSiO粉については市販のものを用いればよく、例えばPt粉については純度が3N〜4Nで平均粒径3〜8μm、SiO粉については純度が3N〜5Nで平均粒径が2〜6μmの粉末を用意すればよい。尚、SiO粉については、非晶質シリカあるいは結晶質シリカのいずれを用いてもよいが、形状としては球状よりも破砕状のもののほうが、金属相との間でのアンカー効果が得られるので好ましい。
【0021】
次に、このFePt合金粉とPt粉とSiO粉とを上記所定のターゲット組成となるように秤量し、これらをボールミル混合用の容器に混合用の粉砕媒体となる5mmφのジルコニアボール等と共に投入し、容器内をArガスで置換した後蓋を閉め、さらにこの容器を、Arガス雰囲気中で16時間回転させ、原料を混合して混合粉末とする。
【0022】
次に、得られた混合粉末を真空中にてホットプレスにより成型焼結し、得られた焼結体を機械加工により所定のターゲット寸法に加工する。なお、ホットプレスは、1050〜1150℃の比較的低温の範囲で保持時間:3〜5時間、加圧力:300〜350kgf/cmにて行うことが好ましい。
こうして得られた焼結体を、バッキングプレートに接合してターゲットとする。
【0023】
このように本実施形態の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットでは、その組織が、SiO相と、FeとPtとの固溶体からなるFePt合金相と、SiO相とFePt合金相との界面において、Si、O、Fe、及びPtの各元素が相互に拡散することによって形成するSi、O、Fe、及びPtを含有する相互拡散相と、で構成され、該相互拡散相は密着強化層を構成するので、ターゲットの高密度化を促進すると共に、スパッタ中の異常放電やパーティクルの発生を抑制することができる。
【0024】
また、この磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法では、Fe:80〜95原子%を含有するFePt合金粉と、Pt粉と、SiO粉と、の混合粉末を、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程を有しているので、Fe濃度の高いFePt合金粉とPt粉とを用いることでSiO粉との界面において濃度勾配が大きくなり、FeおよびPtとSiとの置換が生じ易くなってSiO相とFePt合金相との界面に上記相互拡散相からなる密着強化層が形成される。またFePt合金粉の組成は、Feの含有量を80〜95原子%とし、硬さが高い規則合金の組成範囲から外している。これによりFePt合金粉はホットプレス中に十分軟化してPt粉と結合し、その後、相互に拡散して一体化し、高密度化を促進する効果を有する。なお、前記FePt合金粉の代わりにFeの含有量が95原子%を超えるFePt合金または純Fe粉を用いると、粉末の保管中あるいは混合中において酸化され易く、取り扱いが難しいという面がある。
【実施例1】
【0025】
次に、本発明に係る磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットを、上記実施形態に基づき作製した実施例により、実際に評価した結果を説明する。
【0026】
まず、図6に本発明のスパッタリングターゲットの製造フローの一例を示す。FePt合金アトマイズ粉は、純度3Nの電解鉄と純度3Nで平均粒径が6μmのPt粉とを原料として、Feの濃度が80原子%、90原子%、および95原子%となるFePt合金のインゴットを真空溶解により作成した後、該インゴットをガスアトマイズ装置内で溶解し、Arガスにてガスアトマイズし、FePt合金アトマイズ粉を作成し回収する。回収した粉末を風力分級にて分級し、平均粒径16μmのFePt合金アトマイズ粉を得る。次に、FeとPtとの比率がターゲット組成におけるFeとPtとの比率となるように、前記FePt合金アトマイズ粉と前記Pt粉とを混合した第一次混合粉末を作成する。作成した第一次混合粉末の配合を表1に示す。尚、表1にはFePt合金アトマイズ粉の合金組成が、所定の範囲から外れる参考ターゲット用第一次混合粉末についても記載した。
【0027】
【表1】

【0028】
次に、ホットプレスによる焼結方法について述べる。図6に従って、第一次混合粉末とSiO粉として純度が4Nで破砕状の結晶質シリカ粉とを目標ターゲット組成となるように配合し、混合して第二次混合粉末を作成する。この第二次混合粉末を黒鉛モールドに充填した状態でホットプレス装置に装入し、到達真空圧力が1×10−3Torr(133×10−3Pa)の真空雰囲気中で加圧力:300〜350kgf/cm、保持温度:1050〜1150℃、保持時間:3〜5時間の条件にて焼結し、本発明ターゲットの焼結体を得た。その結果を、表2に示す。また、FePt合金アトマイズ粉の合金組成が所定の範囲から外れる参考ターゲット用第一次混合粉末を使用した参考ターゲットの製造条件、およびFePt合金アトマイズ粉の合金組成が所定の範囲内であるが、上記本発明ターゲットの製造条件から外れる参考ターゲットの製造条件についても、表2に併記する。
その後、各焼結体を機械加工し、直径:152mm、厚さ:6mmのターゲットを作成した。さらに、Inはんだにて無酸素銅製のバッキングプレートにボンディングし、スパッタ用のターゲットとした。また、同一焼結体より、密度測定用試料と組織観察用の試料とを作成した。
【0029】
ターゲットの密度は前記密度測定用試料を用いてアルキメデス法にて密度測定し、一方、相対密度(%)は次式で示す定義に従って計算により求め、表2に記載した。
相対密度(%)=100×(アルキメデス法による密度)/(理論密度)
理論密度(g/cm)=100/((Feの重量%/Feの密度)+(Ptの重量%/Ptの密度)+(SiOの重量%/SiOの密度))
【0030】
ターゲットの組織観察は、観察面(被スパッタ面に対し平行な面)を研磨して鏡面とした後、高分解能のFE−EPMA(フィールドエミッション型電子線プローブマイクロアナライザ、日本電子製JXA−8500F、以下EPMA)にて、倍率15,000倍にて、二次電子像および反射電子像(COMPO像)、および各元素の組成分布を示す元素分布像を用いて実施した。前記二次電子像およびCOMPO像を図1に、元素分布像を図2に示す。
なお、EPMAによる元素分布像は、本来カラー像であるが、白黒像に変換して記載しているため、濃淡の淡い部分(比較的白い部分)が所定元素の濃度が高い部分となっている。
【0031】
次に、本実施例について、ターゲットの断面組織を前記EPMAによりライン分析を行った箇所を示す。二次電子像および反射電子像(COMPO像)を、図3に示す。なお、ライン分析をした箇所は、図3における二次電子像の画像中に線で示している。また、本実施例について、ターゲットの断面組織をEPMAによりライン分析を行った箇所の各元素の元素分布像を、図4に示す。なお、ライン分析を行った箇所は、図4における反射電子像中(図4において「CP」と表示)に線で示している。そして、このライン分析を行った際の各元素の濃度を示すグラフを、図5に示す。
このライン分析の結果から、Fe、Pt、Siおよび酸素(O)の濃度の各グラフがFePt合金相とSiO相との界面で傾斜しており、FePt合金相とSiO相との界面にSi、O、FeおよびPtが相互に拡散してこれらを含有した相互拡散相が形成されていることがわかる。
【0032】
また、前記相互拡散相にて形成される密着強化層の厚さは、SiOへの拡散速度が最も小さいPtの侵入深さによって求めることが出来る。即ち、EPMAにて前記15,000倍の倍率にて実施した図5に示すライン分析結果を用い、図7に示すようにPt分析値の傾斜部分に沿った線aおよびa’を引き、それぞれと基底線との交点Z、Z’を求める。次に、均一な金属相であるFePt合金相での組成を示す基底線に対し平行な線c及びc’を引き、線a及びa’との交点をX及びX’とし、それぞれの交点から基底線に向けて降ろす垂直な線b及びb’と基底線との交点Y及びY’を求め、基底線上のYZ間およびY’Z’間の距離L及びL’の平均値((L+L’)/2)を密着強化層の厚さとした。このような方法を用いて、ライン分析結果から得られる本発明例および比較例の密着強化層の任意の1箇所での厚さを測定し、その値を表2に示した。尚、線c及びc’については、チャートから判るように分析線は波打っているため、それぞれ最大となる点と最小となる点との平均値となる点を基点に、基底線に平行となる線を引いても構わない。
【0033】
次に、スパッタ用のターゲットを用いてスパッタ中における異常放電の発生状況について観察した。まず、表2に示す本発明ターゲット1〜12および参考ターゲット1〜7を直流マグネトロンスパッタ装置に装着し、到達真空圧力:1×10−6Torr(133×10−6Pa)まで真空排気した後、Arガスを導入して装置内の圧力(スパッタガス圧力)を5×10−3Torr(665×10−3Pa)とした。その後、直流電源にてスパッタ電力:500Wにて30分のプレスパッタを行い、次に、スパッタ電力を800Wとして5時間の連続スパッタを行い、その間で発生する異常放電回数を測定した。その結果を、表2に併記した。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示される結果から、一般式:(FePt(100−x)100−y(SiO、ここで40≦x≦60、5≦y≦30(単位:モル比)で表される組成を有する焼結体からなるターゲットであって、その組織がSiO相と、FePt合金相と、Si、O、FeおよびPtの各元素が相互に拡散することによって形成するSi、O、FeおよびPtを含有する相互拡散相と、で構成される本発明ターゲット1〜12は、相互拡散相からなる密着強化層を形成し、前記相互拡散相からなる密着強化層の厚さが0.2〜0.8μmの範囲内にあり、相対密度はいずれも96%以上の高密度が得られており、また、スパッタ中においても異常放電の発生は見られないことが判る。また、本発明の範囲内であるが、前記相互拡散相からなる密着強化層の厚さが好適な所定範囲から外れる参考ターゲット1〜3においては、スパッタ中において異常放電が発生しているが、従来よりも大幅に発生回数が低減されている。さらに、本発明の範囲内であるが、第一次混合粉末に用いるFePt合金粉末の組成が好適な所定範囲から外れる参考ターゲット4〜7においても、スパッタ中に異常放電が発生しているが、従来よりも大幅に発生回数が低減されている。なお、参考ターゲット6では、黒鉛モールドに一部融着が発生し、参考ターゲット7では、第一次混合粉末の酸化により外観不良が発生していた。
【0036】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:(FePt(100−x)(100−y)(SiO、ここで40≦x≦60(単位:モル%)、5≦y≦30(単位:モル%)で表される組成を有する焼結体からなるターゲットであって、
その組織が、SiO相と、FeとPtとの固溶体からなるFePt合金相と、SiO相とFePt合金相との界面において、Si、O、FeおよびPtの各元素が相互に拡散することによって形成するSi、O、FeおよびPtを含有する相互拡散相と、で構成されていることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットにおいて、
前記相互拡散相の厚さが、0.2〜0.8μmであることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法であって、
Fe:80〜95原子%を含有するFePt合金粉と、Pt粉と、SiO粉と、の混合粉末を、真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程を有していることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法において、
前記ホットプレスの保持温度が、1050〜1150℃であることを特徴とする磁気記録媒体膜形成用スパッタリングターゲットの製造方法。

【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−208167(P2011−208167A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73957(P2010−73957)
【出願日】平成22年3月28日(2010.3.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】