説明

磁気記録媒体

【課題】記録された磁気信号の安定性に優れ、かつ、熱アシスト磁気記録方式による磁気信号記録の可能な磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】Pt含有量が44at%以上55at%以下であり、かつ、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比が0.64以上0.8以下であるCo−Ni−Pt合金の強磁性結晶粒子を含む磁気記録層50を磁気記録媒体1に適用する。この磁気記録媒体1は、磁気記録層50を構成する上記Co−Ni−Pt合金が常温では非常に高い異方性磁界を有するため、記録された磁気信号の安定性に極めて優れている。また、この磁気記録媒体1は、磁気記録層50を構成する上記Co−Ni−Pt合金が適切な温度範囲のキュリー点をもつため、熱アシスト磁気記録方式での信号記録が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体を局所加熱しながら外部磁界を印加することによって磁気信号を記録する熱アシスト磁気記録方式に適合した磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク装置に代表される磁気記録装置は、パーソナルコンピュータやサーバのみならず、民生用電機製品にも広く搭載されるようになり、その大容量化が強く求められている。磁気記録装置の大容量化、即ち、磁気記録媒体の高記録密度化は、従来、磁気記録媒体の磁気記録層を構成する強磁性結晶粒子の微細化を追求することにより達成されてきた。
【0003】
しかしながら、強磁性結晶粒子が微細化されると、その強磁性結晶粒子のもつ磁気異方性エネルギーが原子の熱振動エネルギーに対して相対的に小さくなり、記録磁化を安定に保持することができなくなる。これは、磁化の熱揺らぎと呼ばれる現象であり、磁気記録媒体の記録密度の物理限界を決める主要因である。
【0004】
磁化の熱揺らぎを抑制するには、磁気記録媒体の磁気記録層が本質的に高い磁気異方性エネルギーをもつ材料からなることが不可欠である。例えば、1.5Tb/in2を超える面記録密度の磁気記録媒体においては、常温で50kOe以上の異方性磁界をもつ材料を磁気記録層に適用することが必要である。
【0005】
磁気記録媒体の磁気記録層の材料には、主としてCo−Cr系合金のものが長らく用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、Co−Cr系合金が50kOe以上の高い異方性磁界を発現することは、Co−Cr系合金の磁気異方性の起源から考えて原理的に不可能である。従って、磁気記録媒体の高記録密度化の要求に対応するためには、Co−Cr系合金より高い異方性磁界をもつ材料を開発することが必要である。
【0006】
この問題を解決するために、Co−Pt合金(例えば、特許文献2、特許文献3、非特許文献1参照)のように、遷移金属元素と貴金属元素とからなる合金であって、遷移金属元素(Co)と貴金属元素(Pt)との原子含有量がほぼ等しい合金が提案されている。これらの合金は、50kOe以上の高い異方性磁界を発現するため、高記録密度の磁気記録媒体の磁気記録層の材料として適している。また、特許文献2によれば、遷移金属元素(Co)と貴金属元素(Pt)との原子含有量がほぼ等しく、かつ、Niの原子含有量が0.1%以上50%以下であるCo−Ni−Pt合金において、高い異方性磁界が発現することが述べられている。さらに、非特許文献2によれば、遷移金属元素(Co及びNi)と貴金属元素(Pt)との原子含有量がほぼ等しいCo−Ni−Pt合金において、高い異方性磁界が発現することが報告されている。
【0007】
一方、磁気記録媒体の磁化を反転させるために必要な磁界(反転磁界)の大きさは異方性磁界の大きさに強く支配されるので、上記のような高い異方性磁界をもつ磁気記録媒体の場合、従来の磁気ヘッドが発生し得る最大磁界(例えば、10kOe程度)では記録が不可能となる問題が生じてしまう。
【0008】
この問題を解決するために、近年、磁気記録層に伝播光のレーザ光や近接場光を照射して局所的に加熱した部分のみの反転磁界を低下させた状態で外部磁界を印加して磁気信号を記録し、磁気抵抗素子等で記録された磁気信号を再生する技術である熱アシスト磁気記録方式が注目されている。これは、加熱に光を用いることから光アシスト磁気記録、あるいは、磁気と光との融合技術であることからハイブリッド記録等とも呼ばれる。以下、本明細書においては、熱アシスト磁気記録という表現を用いる。
【0009】
熱アシスト磁気記録方式では、磁気記録媒体の常温における異方性磁界が大きくても、磁気記録媒体は記録時には局所的に加熱され、局所的に異方性磁界が小さくなり、反転磁界が低下するため、磁気ヘッドが発生可能な磁界で磁気信号の記録が可能となる。従って、熱アシスト磁気記録方式を用いれば、磁気記録媒体に異方性磁界の高い材料を用いることができ、磁気記録媒体のさらなる高記録密度化の要求に対応することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭60−214417号公報
【特許文献2】特開2002−216330号公報
【特許文献3】特開2004−213869号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Sato H.、他6名,「Fabrication of L11 type Co-Pt ordered alloy films by sputter deposition」,J. Appl. Phys.,第103巻,07E114−1〜07E114−3頁,2008年
【非特許文献2】Sato H.、他5名,「Fabrication of L11 type (Co-Ni)-Pt ordered alloy films by sputter deposition」,J. Appl. Phys.,第105巻,07B726−1〜07B726−3頁,2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
熱アシスト磁気記録方式を用いて磁気記録媒体に磁気信号を記録する場合、磁気記録媒体は局所的にキュリー点(強磁性体が自発磁化を失い、強磁性的挙動を示さなくなる温度)近傍まで昇温されることが一般的である。従って、熱アシスト磁気記録方式における磁気記録媒体では、キュリー点は極めて重要な物性値であり、適切なキュリー点をもつ材料を磁気記録層に用いる必要がある。
【0013】
例えば、キュリー点が高すぎると、キュリー点近傍の温度への昇温により磁気記録媒体が損傷を受けたり、さらには磁気記録装置の磁気ヘッドに搭載できる加熱手段ではキュリー点近傍の温度への昇温がそもそも不可能になったりする。ここで、磁気記録媒体が受ける損傷とは、例えば、磁気記録媒体を構成する基板の変形や融解、磁気記録媒体を構成する各層の剥離や微細構造の不可逆変化、潤滑層の蒸発、等が挙げられる。一般に磁気記録媒体が受ける損傷が顕著になる温度を考慮すると、熱アシスト磁気記録方式における磁気記録媒体では、概ね400゜C以下のキュリー点をもつ材料を磁気記録層に用いることが好ましい。
【0014】
また、熱アシスト磁気記録方式においては、磁気信号の記録時には、磁気信号を記録しようとする磁気記録層の局所領域に隣接する領域も多少なりとも加熱されるので、既に磁気信号が記録されている隣接領域の磁気信号が上書き(いわゆる書き滲み)されたり、隣接領域の磁気信号の熱揺らぎ現象が促進されて磁気信号が消失したりすることが起こり得る。また、磁気信号の記録直後には、磁気ヘッドからの磁界が取り去られた時点でも磁気記録層はある程度加熱されていることから、やはり熱揺らぎ現象が促進されて、いったん記録された磁気信号が直ちに消失することが起こり得る。キュリー点が低すぎると、常温付近でも異方性磁界や反転磁界が顕著に変化してしまうため、これらの問題が顕在化する。これらの問題を解決するためには、常温付近では、磁気記録層が高い異方性磁界や反転磁界を維持している必要があり、キュリー点はある程度高い温度である必要がある。一般に磁気信号の記録に要する時間、磁気記録層の比熱や熱容量等を考慮すると、熱アシスト磁気記録方式における磁気記録媒体では、概ね200゜C以上のキュリー点をもつ材料を磁気記録層に用いることが好ましい。以上のことから、熱アシスト磁気記録方式における磁気記録媒体では、概ね200゜C以上400゜C以下のキュリー点をもつ材料を磁気記録層に用いることが特に好ましい。
【0015】
CoとPtとの原子含有量がほぼ等しいCo−Pt合金のキュリー点としては、概ね600゜C乃至700゜Cの値が報告されている。従って、CoとPtとの原子含有量がほぼ等しいCo−Pt合金を磁気記録層の材料に用いれば、異方性磁界が高いことから、記録された磁気信号の熱安定性に優れた磁気記録媒体を作製し得るが、従来の磁気ヘッドが発生し得る磁界では記録が不可能となり、また、キュリー点が高いために、熱アシスト磁気記録方式による記録も不可能となる。
【0016】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、常温における50kOe以上の異方性磁界と200゜C以上400゜C以下のキュリー点とを兼ね備える強磁性材料を磁気記録層に適用することにより、記録された磁気信号の熱安定性と熱アシスト磁気記録方式による可記録性とを具備する磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者は、上記目的を達成するため、前記Co−Pt合金を基に鋭意検討を重ね、CoとPtとの原子含有量がほぼ等しいCo−Pt合金と同様に高い異方性磁界を有するCo及びNiとPtとの原子含有量がほぼ等しいCo−Ni−Pt合金において、高い異方性磁界と熱アシスト磁気記録媒体の磁気記録層として適切なキュリー点とを兼ね備えた強磁性材料が得られることを見出した。
【0018】
ここで、キュリー点は一般には組成敏感な物理量であるが、Co−Ni−Pt合金の組成とキュリー点との関係はこれまでに明らかにされていなかった。本願発明者らは、常温における50kOe以上の異方性磁界と200゜C以上400゜C以下のキュリー点とを兼ね備えるCo−Ni−Pt合金の組成領域を明らかにすることにより、記録された磁気信号の熱安定性と熱アシスト磁気記録方式による可記録性とを具備する磁気記録媒体を作製するために必要な強磁性材料を見出すに至った。
【0019】
即ち、本発明は、次のような手段により上記課題の解決を図ったものである。
(1)記録媒体を局所加熱しながら外部磁界を印加することによって磁気信号を記録する磁気記録媒体であって、
磁気信号を記録するための磁気記録層が、Pt含有量が44at%以上55at%以下であり、かつ、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比が0.64以上0.8以下であるCo−Ni−Pt合金の強磁性結晶粒子を含むものである。
(2)前記(1)の磁気記録媒体において、前記Co−Ni−Pt合金のキュリー点が200゜C以上400゜C以下である。
(3)前記(1)又は(2)の磁気記録媒体において、前記Co−Ni−Pt合金の常温での異方性磁界が50kOe以上である。
【発明の効果】
【0020】
本発明による磁気記録媒体は、磁気記録層を構成するCo−Ni−Pt合金が常温では非常に高い異方性磁界を有するため、記録された磁気信号の熱安定性に極めて優れている。また、本発明による磁気記録媒体は、磁気記録層を構成するCo−Ni−Pt合金が適切な温度範囲のキュリー点をもつため、熱アシスト磁気記録方式での記録が可能である。即ち、本発明によれば、記録された磁気信号の熱安定性と熱アシスト磁気記録方式での可記録性とを具備した高記録密度の磁気記録媒体を作製可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の積層構成について、一例を示す模式断面図である。
【図2】実施例1の磁気記録媒体について、温度と飽和磁化との関係の一例を示す図である。
【図3】実施例1の磁気記録媒体について、キュリー点と磁気記録層のNi/(Co+Ni)の原子含有量比との関係を示す図である。
【図4】実施例1の磁気記録媒体について、異方性磁界と磁気記録層のNi/(Co+Ni)の原子含有量比との関係を示す図である。
【図5】実施例1の磁気記録媒体について、異方性磁界と磁気記録層のPt含有量との関係を示す図である。
【図6】実施例1の磁気記録媒体について、磁気記録層の組成とキュリー点と常温での異方性磁界と、熱アシスト記録方式により記録された磁気信号の信号雑音比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態に係る磁気記録媒体1は、ディスク形状の磁気記録媒体であり、図1に示されるように、基板10上には、密着層20、中間層30、配向制御層40、磁気記録層50、がこの順で堆積されている。磁気記録層50の上面は保護層60で被覆されており、保護層60の上面には潤滑層70が塗布されている。ただし、本発明は、この形態に限定されるものではなく、更に別の材料からなる軟磁性裏打ち層や熱吸収層等を磁気記録媒体1の任意の層間位置に追加して堆積させて用いることもできる。
【0023】
基板10は、材料がガラスである。なお、剛性が高い非磁性材料であれば、基板の材料として、例えばAl、Al、MgO、Si等を用いてもよい。密着層20の材料は、例えばTa、Tiやこれらの元素を含む合金等であり、中間層30及び配向制御層40の材料は、例えばCr、Ni、Pt、Ruやこれらの元素を含む合金等である。
【0024】
磁気記録層50は、Pt含有量が44at%以上55at%以下であり、かつ、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比が0.64以上0.8以下であるCo−Ni−Pt合金の強磁性結晶粒子を含む。磁気記録層50は、前記Co−Ni−Pt合金の強磁性結晶粒子のみで構成されてもよいし、前記Co−Ni−Pt合金の強磁性結晶粒子の粒界に例えばSiO、TiO、Ta、MgO等の酸化物やC、B等の非金属元素が偏析した構造をとってもよい。
【0025】
保護層60の材料は、例えばダイヤモンドライクカーボン、窒化炭素、窒化ケイ素等である。潤滑層70の材料は、例えばパーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸等である。
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施例は発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0027】
[実施例1]
ホウケイ酸ガラスからなる基板10上に密着層20としてTa層を5nm、中間層30としてPt層を10nm、配向制御層40としてRu層を20nm、磁気記録層50として組成を様々に変化させたCo−Ni−Pt合金層を10nm、保護層60として窒化炭素層を4nm、をこの順にスパッタリング法により堆積し、磁気記録層50の材料が相異なる複数の磁気記録媒体を作製した。ここで、Co−Ni−Pt合金層の組成は、Pt含有量を50at%に固定し、CoとNiの原子含有量比を様々に変化させたものである。
【0028】
これらの磁気記録媒体の飽和磁化を、加熱機構を付帯した振動試料型磁力計を用いて常温から600゜Cの範囲の種々の温度で測定した。このようにして得た飽和磁化と温度との関係の一例を図2に示す。飽和磁化と温度との関係をブリュアン関数でフィッティングし、飽和磁化がゼロとなる温度として決定したこれらの磁気記録媒体のキュリー点を図3に示す。図3に示されるように、Co−Ni−Pt合金層のNi/(Co+Ni)の原子含有量比が0.64以上0.8以下である場合に、キュリー点が200゜C以上400゜C以下となった。
【0029】
次に、これらの磁気記録媒体の常温での異方性磁界を振動試料型磁力計及び異常ホール効果測定装置を用いて測定したところ、図4に示されるように、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比が増加するに伴い異方性磁界は低下したが、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比が0.8以下である場合には、異方性磁界の値は50kOe以上であった。一方、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比が0.8を超えると、異方性磁界の値は50kOe未満に著しく減少した。即ち、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比が0.8を超え、キュリー点が200゜C未満になると、常温での異方性磁界の値は50kOe未満に著しく低下することが判明した。
【0030】
次に、これらの磁気記録媒体のCo−Ni−Pt合金層の組成は、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比を0.8に固定し、Pt含有量を様々に変化させてみた。これらの磁気記録媒体の常温での異方性磁界を上記と同様の方法で測定したところ、図5に示されるように、Co−Ni−Pt合金層のPt含有量が概ね50at%の場合に異方性磁界の値は極大となり、Pt含有量が44at%以上55at%以下の場合に異方性磁界の値は50kOe以上であった。一方、Pt含有量が44at%未満になると、異方性磁界の値は50kOe未満に著しく減少した。同様に、Pt含有量が55at%を超えると、異方性磁界の値は50kOe未満に著しく減少した。
【0031】
ここで、図4を用いて説明したように、Co−Ni−Pt合金層のPt含有量が一定であれば、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比が増加するのに伴い、異方性磁界は単調に低下する。従って、Pt含有量が44at%以上55at%以下であるCo−Ni−Pt合金層は、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比が0.8以下であれば、50kOe以上の異方性磁界をもつことになる。
【0032】
次に、これらの磁気記録媒体の、Co−Ni−Pt合金層の組成は、Pt含有量を44at%以上55at%以下の範囲で様々に変化させ、かつ、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比を0.64以上0.8以下の範囲で様々に変化させてみた。これらの磁気記録媒体のキュリー点を上記と同様の方法で決定したところ、これらの磁気記録媒体のキュリー点は何れも200゜C以上400゜C以下であった。
【0033】
[試験例1]
磁気記録層であるCo−Ni−Pt合金層の組成が異なる以外は実施例1と同様の方法で複数の磁気記録媒体を作製した。これらの磁気記録媒体の磁気記録層であるCo−Ni−Pt合金層の組成と、実施例1と同様の方法で測定したキュリー点と異方性磁界を図6に示す。これらの磁気記録媒体に対して、熱アシスト磁気記録方式による磁気信号の記録及び再生を行った。この記録再生試験には静止記録再生実験装置を用いた。静止記録再生実験装置は、静止している磁気記録媒体上で磁気ヘッドを移動させ、所望の位置で磁気信号の記録及び再生を行うものである。この磁気ヘッドには、磁界を発生させるために通常備えられている磁極やコイルの他に、光ディスク用の光ピックアップが備えられており、磁気記録媒体の局所領域をレーザで昇温しながら磁界を印加して磁気信号を記録することができる。また、この磁気ヘッドにはトンネル型磁気抵抗素子が備えられており、磁気記録媒体に記録された磁気信号を再生することができる。
【0034】
図6に示した磁気記録媒体に対して、レーザの照射時間、磁気ヘッドの移動速度、印加磁界の極性反転周波数等を調整して、ビット長が100nmであり、トラック幅が800nmである磁気信号を記録した。このとき、記録時にはキュリー点近傍まで磁気記録媒体が昇温されるようにレーザの発光強度をキュリー点に応じてそれぞれ設定し、印加する記録磁界の大きさは一定とした。このようにして記録された磁気信号を再生して得られた信号雑音比を図6に示す。
【0035】
200゜C以上400゜C以下のキュリー点をもつ図6(2)乃至(4)の磁気記録媒体では、何れも磁気信号の記録及び再生が可能であり、良好な信号雑音比が得られた。一方、200゜C以下のキュリー点をもつ図6(5)の磁気記録媒体では、磁気信号の記録及び再生は可能であったが、隣接ビット記録時の書き滲みや熱揺らぎ現象の促進のために、その信号雑音比は図6(2)乃至(4)の磁気記録媒体と比較して著しく小さかった。また、470゜Cのキュリー点をもつ図6(1)の磁気記録媒体では、キュリー点近傍まで昇温しても磁気信号の記録が不可能であった。常温まで降温した後に図6(1)の磁気記録媒体のレーザ被照射部分の表面形態を原子間力顕微鏡を用いて観察したところ、磁気記録媒体を構成する各層が基板から剥離していた。即ち、図6(1)の磁気記録媒体は、キュリー点が高すぎるために、キュリー点近傍まで昇温すると損傷を受けることが判明した。
【0036】
[試験例2]
試験例1と同様の方法で複数の磁気記録媒体を作製した。図6に示されるこれらの磁気記録媒体に対して、試験例1と同様の方法で、熱アシスト磁気記録方式による磁気信号の記録を同一のトラックに対して100回繰り返して行った後、当該トラックの磁気信号の再生を行った。このようにして得られた信号雑音比を図6に示す。
【0037】
200゜C以上400゜C以下のキュリー点をもつ図6(2)乃至(4)の磁気記録媒体では、試験例1と同様に、良好な信号雑音比が得られた。何れも磁気信号の記録及び再生が可能であり、一方、200゜C以下のキュリー点をもつ図6(5)の磁気記録媒体では、試験例1と同様に、その信号雑音比は図6(2)乃至(4)の磁気記録媒体と比較して著しく小さかった。
【0038】
[試験例3]
試験例1と同様の方法で複数の磁気記録媒体を作製した。図6に示されるこれらの磁気記録媒体に対して、試験例1と同様の方法で、熱アシスト磁気記録方式による磁気信号の記録を同一のトラックに対して100回繰り返して行った。この後、実施例1と同様の方法で当該トラックを含む領域の異方性磁界を測定した。このようにして得られた異方性磁界の値を図6に示す。
【0039】
400゜C以下のキュリー点をもつ図6(2)乃至(5)の磁気記録媒体では、熱アシスト磁気記録方式による磁気信号の記録を同一のトラックに対して100回繰り返して行った後も、異方性磁界の値は磁気信号の記録の前と同等であった。即ち、これらの磁気記録媒体は、常温とキュリー点との間で100回繰り返して昇温及び降温が行われても、その異方性磁界の値は不変であった。
【0040】
一方、400゜C以上のキュリー点をもつ図6(1)の磁気記録媒体では、常温とキュリー点との間で100回繰り返して昇温及び降温が行われると、その異方性磁界の値は著しく低下した。この磁気記録媒体の微細構造を透過型電子顕微鏡用いて観察したところ、昇温及び降温が行われた領域の近傍では、磁気記録媒体を構成する各層が相互に拡散し、混合されていた。即ち、図6(1)の磁気記録媒体は、キュリー点が高すぎるために、常温とキュリー点との間で昇温及び降温が繰り返されると、激しい損傷を受けることが判明した。
【0041】
[試験例4]
試験例1と同様の方法で複数の磁気記録媒体を作製した。図6に示されるこれらの磁気記録媒体に対して、試験例1と同様の方法で、熱アシスト磁気記録方式による磁気信号の記録と記録された磁気信号の再生を行い、信号雑音比を得た。この後、このように記録されたトラックの両隣に隣接するトラックに同様の方法で10回繰り返して磁気信号を記録し、初めに磁気信号を記録したトラックの磁気信号を再度再生した。このようにして得られた信号雑音比及び隣接トラックを記録する前の信号雑音比と比較した信号雑音比の増減を図6に示す。
【0042】
200゜C以上400゜C以下のキュリー点をもつ図6(2)乃至(4)の磁気記録媒体では、隣接トラックを記録することにより、隣接トラックを記録する前の信号雑音比と比較して信号雑音比は低下したが、その低下は僅かであり、隣接トラックを記録した後も良好な信号雑音比が得られた。一方、200゜C以下のキュリー点をもつ図6(5)の磁気記録媒体では、隣接トラック記録時の書き滲みや熱揺らぎ現象の促進のために、隣接トラックを記録する前の信号雑音比と比較して信号雑音比は著しく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、記録媒体を局所加熱しながら外部磁界を印加することによって磁気信号を記録する熱アシスト磁気記録方式に適合した磁気記録媒体に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…磁気記録媒体、
10…基板、
20…密着層、
30…中間層、
40…配向制御層、
50…磁気記録層、
60…保護層、
70…潤滑層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を局所加熱しながら外部磁界を印加することによって磁気信号を記録する磁気記録媒体であって、
磁気信号を記録するための磁気記録層が、Pt含有量が44at%以上55at%以下であり、かつ、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比が0.64以上0.8以下であるCo−Ni−Pt合金の強磁性結晶粒子を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1記載の磁気記録媒体であって、前記Co−Ni−Pt合金のキュリー点が200゜C以上400゜C以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁気記録媒体であって、前記Co−Ni−Pt合金の異方性磁界が50kOe以上であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項4】
基板上に密着層、中間層、配向制御層、磁気記録層を有し、前記磁気記録層を局所加熱しながら外部磁界を印加することにより磁気信号を記録する磁気記録媒体であって、
前記磁気記録層が、Pt含有量が44at%以上55at%以下であり、かつ、Ni/(Co+Ni)の原子含有量比が0.64以上0.8以下であるCo−Ni−Pt合金の強磁性結晶粒子を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項4記載の磁気記録媒体であって、前記Co−Ni−Pt合金のキュリー点が200゜C以上400゜C以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項4又は5記載の磁気記録媒体であって、前記Co−Ni−Pt合金の異方性磁界が50kOe以上であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項7】
請求項4記載の磁気記録媒体であって、前記基板はガラス、Al、Al、MgO、Siの中から選ばれる1種の材料であり、前記密着層はTa又はTi又はこれらの元素を含む合金であり、前記中間層及び配向制御層はCr、Ni、Pt、Ruの中から選ばれる1種の元素又はこれらの元素を含む合金であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項8】
記録媒体を局所加熱しながら外部磁界を印加することによって磁気信号を記録する磁気記録媒体であって、
磁気信号を記録するための磁気記録層が、Co−Ni−Pt合金の強磁性結晶粒子を含み、キュリー点が200゜C以上400゜C以下であり、異方性磁界が50kOe以上であることを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−28809(P2011−28809A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173141(P2009−173141)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願 (平成20年度 文部科学省「高機能・超低消費電力スピンデバイス・ストレージ基盤技術の開発」(「超高感度リーダ技術」および「超テラビット記録方式・記録システム」の開発)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】