説明

磁気部品の製造方法

【課題】磁化容易軸制御に必要な印加磁場を低減しつつ透磁率を向上させ、磁性粒子の酸化の影響を軽減して高性能化した磁気部品を提供する。
【解決手段】乾式法を用いてパラジウムを含む非磁性材料で磁性粒子を被覆する工程と、非磁性材料で被覆された磁性粒子を、回転磁場、加熱、および振動下でプレスする工程とを含む磁気部品の製造方法である。パラジウムを含む非磁性材料で被覆された磁性粒子を含み、周波数100kHz時の透磁率が150を超えて200以下であり、印加磁場800kA/m時の飽和磁束密度が2.20Tを超えて2.45T以下である、磁気部品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気部品の製造方法に関する。本発明の磁気部品は、たとえばスイッチング電源用トランス、リアクトル、モーター、または発電機向け磁性材料に有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、金属磁性材料は、ノート型パソコン、小型携帯機器、またはフラットパネルディスプレイ等各種電子機器に用いられるスイッチング電源、ブレーカ等の電磁接触器、電気自動車を中心として需要が高まっているモーター、或いは環境負荷軽減という観点から近年脚光を浴びている地熱または風力発電向け発電機等、いたるところで利用されている。
【0003】
近年の小型化または薄型化された電子機器の開発スピードはめざましい。それに伴い、電子機器向けトランス、リアクトル、または磁性コア等の磁気部品は、その特性を維持しつつ小型化および薄型化することが必要とされている。一方、モーターまたは発電機については、Nd−Fe−B合金を代表とするエネルギー積の大きな永久磁石材料の開発が急ピッチで進んでいる。そのため、大きな飽和磁束密度を有し、磁気飽和しにくく、なおかつ渦電流損失の小さい軟磁性コア材料の開発が熱望されている。
【0004】
従来、これらの機器に利用されている磁気部品には、Fe−Al−Si合金(センダスト)、Ni−Fe合金(パーマロイ)、Fe−Co−Si−B合金、Co−Ni−Fe合金、Co−Fe合金などの金属磁性材料、またはフェライトなどの酸化物磁性材料が使用されていた。
【0005】
上記金属磁性材料は、一般に大きい飽和磁化値を有し、大きい飽和磁束密度および透磁率を有する。しかしながら、金属磁性材料は低い電気抵抗率を有するため、特に高周波数領域では渦電流損失が大きくなってしまう。そのため、高周波駆動が必要となる電子機器向けに金属磁性材料を適用することは困難であった。
【0006】
一方、酸化物磁性材料は、金属磁性材料に比べ電気抵抗率が高いため、高周波数領域でも発生する渦電流損失が小さい。しかしながら、酸化物磁性材料は小さい飽和磁化値を有するため、飽和磁束密度が小さく磁気飽和しやすい、つまり小型化に限界があるという欠点があった。
【0007】
この問題を解決するため、1〜10μmの粒子からなる金属磁性材料の表面を、M−Fex4(但しM=Ni、Mn、Zn、Fex≦2)で表わされるスピネル組成の酸化物磁性材料で被覆した高密度焼結磁性体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
さらに、表面に超音波励起フェライトめっきによって形成されたフェライト層の被覆を有する金属または金属酸化物の強磁性体微粒子粉末が圧縮成形され、前記フェライト層を介して強磁性粒子間に磁路を形成する複合磁性材料の提案もある(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
また、高密度で比抵抗が高い軟磁性の成形体を得る方法として、軟磁性の金属粒子と、その表面に被覆された高抵抗物質と、該高抵抗物質の表面に被覆された燐酸系化成処理被膜とからなる軟磁性粒子の提案もある(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
また、近年、金属磁性材料の欠点である低い電気抵抗率を向上させるために、飽和磁束密度および透磁率の高い金属磁性材料の表面に、電気抵抗率の高い(絶縁性の)酸化物非磁性材料の被膜を形成する提案がある(例えば、特許文献4参照)。この手法によると、酸化物非磁性材料の被膜により電気抵抗率が上昇することで渦電流を抑制でき、MHz帯域などの高周波でも使用することが可能となる。
【0011】
上述した磁性材料としては、基本的には球状の粒子が用いられるか、またはボールミルなどで粉砕した異形状の粒子が用いられる。これとは別に、粒子の形状異方性を利用して磁性材料の性能を向上させる方法として、扁平化した粒子を用いて反磁場の影響を軽減することによって透磁率を高める提案もある(例えば、特許文献5、6、7参照)。
【0012】
特許文献5では、扁平磁性粒子を所定の速度より遅く型内に充填することにより、扁平磁性粒子の主面が重力方向と垂直となるように配向した状態としている。特許文献6では、扁平化して形状異方性を発現させた軟磁性合金の粉末を、磁路の方向に対して垂直な方向の磁場により配向させた状態で圧粉成形している。特許文献7の実施例3、9では、針状の粉体や扁平磁性粒子を磁場プレス装置に入れて、磁場を印加する方向に対して垂直方向に加圧プレスして、針状粉体の長軸が一定の方向に並ぶように配列した、もしくは扁平粒子の扁平面が磁化容易軸の方向に配列した磁気部品を得ている。
【0013】
さらに特許文献8では、あらかじめ熱処理を施した扁平および針状金属磁性粒子に振動および磁場を印加しながら圧粉成型を行い、粒子の長軸方向が磁化容易軸の方向に配列した磁気部品を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭56−38402号公報
【特許文献2】国際公開第03/015109号パンフレット
【特許文献3】特開2001−85211号公報
【特許文献4】特開昭53−91397号公報
【特許文献5】特開平6−267723号公報
【特許文献6】特開2001−68365号公報
【特許文献7】特開平3−278407号公報
【特許文献8】特開2008−181923号公報
【特許文献9】特開2005−85967号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】“Effect of Size Distribution on Tapping Properties of Fine Powder” M.Suzuki, H.Sato, M.Hasegawa, M.Hirota: Powder Technology, 118, 53−57(2001)
【非特許文献2】“Depth profile of spin and orbital magnetic moments in a subnanometer Pt film on Co” M.Suzuki, H.Muraoka, Y.Inaba, H.Miyagawa, N.Kawamura, T.Shimatsu, H.Maruyama, N.Ishimatsu, Y.Isohama, andY.Sonobe, Physical Review B, vol.72, 054430(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記特許文献1に代表される、金属磁性材料の表面を酸化物で被覆する方法では、金属磁性材料の熱処理によって酸化物中の酸素が金属磁性材料中へ拡散し、金属磁性材料の持つ特性を劣化させてしまう問題が生じていた。この問題を回避するため、例えば特許文献9は、金属磁性粒子の表面を金属材料被膜で被覆し、さらにその外側を酸化物磁性被膜で被覆する方法を開示している。この方法によれば、上述した酸化物中の酸素が磁性材料へ拡散する影響を小さくすることが可能となる。しかしながら、この方法は金属被膜を湿式法により形成するものであるため、磁性材料の溶液浸漬による、特に酸化による特性劣化が懸念される。さらに、特性向上は比透磁率の観察のみに限定されており、圧粉成型体の小型化に重要である飽和磁束密度の議論はなされておらず、飽和磁束密度および透磁率の両面からの特性向上議論が必要とされる。以上を鑑み、熱処理に際して酸化の影響を軽減して成型体の特性を向上させる方法が必要とされていた。
【0017】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、磁化容易軸制御に必要な印加磁場を低減しつつ透磁率を向上させ、磁性粒子の酸化の影響を軽減して高性能化した磁気部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様である磁気部品の製造方法は、乾式法を用いてパラジウムを含む非磁性材料で磁性粒子を被覆する工程と、非磁性材料で被覆された磁性粒子を、回転磁場、加熱、および振動下でプレスする工程とを含む。ここで、乾式法が、スパッタ法、CVD法、蒸着法、レーザーアブレーション法からなる群から選択された1つであることが好ましい。また、磁性粒子が、Fe、Co、Niからなる群から選択された金属を含むことが好ましい。さらに、磁性粒子の粒子径が、1nm以上100μm以下であることが好ましい。さらに、非磁性材料で被覆された磁性粒子の形状が、球状、扁平状、または針状であることが好ましい。さらに、回転磁場の強さが、5〜8000kA/mであることが好ましい。さらに、加熱の温度が、250℃から500℃であり、加熱の時間が1〜100時間であることが好ましい。さらに、振動の振幅が、0.1〜10mmであり、振動の周波数が、5〜100Hzであることが好ましい。また、磁性粒子および非磁性材料の少なくとも一方が、単一の種類の元素からなることが好ましい。或いは、磁性粒子および非磁性材料の少なくとも一方が、複数の種類の元素からなることが好ましい。
【0019】
本発明の第2の態様である磁気部品は、パラジウムを含む非磁性材料で被覆された磁性粒子を含み、周波数100kHz時の透磁率が150を超えて200以下であり、印加磁場800kA/m時の飽和磁束密度が2.20Tを超えて2.45T以下である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】磁性粒子の粒子径の熱処理温度依存性を示す。
【図2】本発明に用いられる非磁性材料で被覆された磁性粒子の断面模式図である。
【図3】攪拌棒を備えた圧粉成型装置の一例を示す概略断面図である。
【図4】実施例1および比較例1〜3で得られたリングコアにおける透磁率(交流磁界周波数100kHz時)の印加磁場依存性を示す。
【図5】実施例1および比較例3で得られたリングコアにおける透磁率の周波数依存性を示す。
【図6】実施例1において、プレス時の温度を変化させてリングコアを作製し、交流磁界100kHz時の透磁率を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の磁気部品の製造方法は、乾式法を用いてパラジウムを含む非磁性材料で磁性粒子を被覆する工程と、非磁性材料で被覆された磁性粒子を、回転磁場下、加熱下、および振動下でプレスする工程と、を含む。
【0022】
本発明に用いられる磁性粒子は、Fe、Co、Niからなる群から選択された金属を含むことが好ましい。磁性粒子は、単一の種類の元素からなって良く、または複数の種類の元素からなって良い。磁性粒子として例えば純鉄、Fe−Ni系合金、Co−Fe系合金、Fe−Si−Al系合金アモルファス合金など、軟磁気特性を示すものを利用するのが好ましい。磁性粒子の粒子径(楕円形または卵形等の場合は長軸径、球形の場合は直径)は、1nm以上100μm以下であるのが好ましい。微粒子のサイズおよびサイズ分散と充填率との関係に関して、サイズ分散のない単一サイズの微粒子を最密充填する際の充填率は粒子サイズによらず一定であること、およびサイズ分散を有する微粒子を最密充填する際にはサイズ分散が小さいほど充填率が高くなることが知られている(非特許文献1参照)。また、磁性材料固有の交換定数をA(erg/cm)、一軸異方性エネルギーをKu(erg/cc)とした場合、磁化反転に際して磁化がコヒーレントに振舞う長さL(cm)は次式1で表される。
【0023】
【数1】

【0024】
Aの値は材料によって桁が変わるほど大きな変化は無く、おおよそ10-6台の値となる。ここで重要なのは材料の持つ異方性エネルギーの値であり、軟磁気特性の向上に伴いKuの値が減少すると、Lの値はμmオーダーの長さとなる。孤立した軟磁性微粒子ではLの値がコヒーレントに反転できる長さをほぼ規定するが、微粒子の集合体では、静磁気的な相互作用が重畳するため、集合体として見た場合のLの値は計算値よりも大きくなる。微粒子を非磁性体で被覆し、静磁気的な相互作用を低減した状態で圧粉成型体を形成する場合、個々の微粒子はあたかも1つの微小な磁石として振舞うことが高速スイッチングの観点からは重要である。以上のことから、磁性粒子の粒子径が1nm以上であると微粒子作成上の容易性が増すとともに、粒子のサイズ分散の絶対値が小さく、圧粉成型体の微粒子充填率が上げられるという効果が得られるため好ましく、100μm以下であると軟磁性微粒子があたかも1つの磁石として振る舞い、高速なスイッチング動作が可能になるという効果が得られるため好ましい。
【0025】
本発明に用いられる非磁性材料(被膜材料)は、熱に対して安定なパラジウム(Pd)を含む。非磁性材料は、単一の種類の元素からなって良く、または複数の種類の元素からなって良い。非磁性材料は、パラジウムの他に、白金、または抵抗率向上の観点から、パラジウムや白金と、高抵抗率材料との合金からなって良い。
【0026】
本発明においては、乾式法を用いて非磁性材料で磁性粒子を被覆する。乾式法としては、均質な膜を前記金属磁性粒子の表面に均一に(すなわち、表面のどの部分でも等しい厚さで)生成することのできるスパッタ法、蒸着法、レーザーアブレーション法などを挙げることができる。これらのいずれの手法も用いることができるが、被膜形成速度が速く、微粒子量産性の高さを考慮すると、特にスパッタ法が好ましく用いられる。スパッタ法を用いると、合金被膜を形成する際、複数のスパッタリングターゲットを同時放電させて投入電力をコントロールすることで、被膜組成を変更し、被膜の特性変更を容易に行うことができ、スパッタ法が好適である理由の1つである。スパッタ法は、ターゲットとして例えばパラジウムまたは白金等を用い、雰囲気ガスとしてアルゴンまたはクリプトンなどの希ガス等を用いた任意のスパッタ装置を用いることができる。スパッタ圧力は例えば7.5×10-5〜0.1Torrであり、スパッタ電力は例えば10〜1000Wである。非磁性材料で被覆された磁性粒子(以下、被覆磁性粒子ともいう)の形状は、球状、扁平状、または針状であるのが好ましい。被覆磁性粒子として、球状の磁性粒子をプレスで扁平化して得られた扁平状の磁性粒子を用いることができる。或いは、被覆磁性粒子として、不活性ガス中での結晶化や熱処理などの手法で得られた針状の磁性粒子を用いることができる。針状の磁性粒子は、アスペクト比(磁性粒子の長さ/磁性粒子断面の直径)が2以上であるものをいい、回転楕円構造を有するものでもよく、棒状のものでもよい。回転楕円構造を有するものは、ガスアトマイズ加工時の噴射圧力などを適宜選択することによって形成することができる。
【0027】
本発明においては、所定の方向の回転磁場下で被覆磁性粒子をプレスすることで、被覆磁性粒子の磁化容易軸の方向を制御する。扁平状の被覆磁性粒子の場合、扁平状の被覆磁性粒子の面方向に磁化容易軸を誘導することができる。針状の被覆磁性粒子の場合、針状の被覆磁性粒子の長さ方向に磁化容易軸を誘導することができる。回転磁場は、被覆磁性粒子および磁場が相対的に回転することにより形成することができる。例えば、被覆磁性粒子を石英などの容器に入れ、その容器を磁場中に置いて回転させるのが好ましい。回転磁場の回転速度は1〜300rpmが好ましく、回転磁場下での印加磁場の強さは、被覆磁性粒子の磁化容易軸の方向を制御できる効果が得られるため、5kA/m以上であるのが好ましい。また、透磁率を向上させる効果は印加磁界の強さに比例すると考えられるが、後述する実施例から、ある磁界の強さで効果が飽和する。装置の電源容量を小さく抑えるという観点から、印加磁場の強さは1000kA/m以下が好ましい。
【0028】
本発明においては、加熱下で被覆磁性粒子をプレスすることで、被覆磁性粒子同士を相互拡散させて透磁率を増加させる。なお、本願において透磁率は、複素透磁率の実部をいう。加熱の温度は250℃から500℃であることが好ましい。加熱の時間は1〜100時間であるのが好ましい。加熱温度が250℃以上および加熱時間が1時間以上であると被覆磁性粒子同士を相互拡散させ透磁率を増加させる効果が得られるため好ましく、加熱温度が500℃以下および加熱時間が100時間以下であると粒子の著しい平均粒径肥大化を抑制するという効果が得られるため好ましい。加熱時の雰囲気は、大気中、真空中、あるいは窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中等が好ましい。なお、第1表および図1に磁性粒子の粒子径の熱処理温度依存性を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
この磁性粒子の粒子径の熱処理温度依存性は、熱プラズマ法により作成したFe70Co30磁性粒子を熱処理炉に入れて1時間加熱して得られたものである。加熱は全て真空中で行い、加熱前の真空度は10-4Pa以下となっている。粒子径の計測は、XRD(X−ray Diffraction)におけるFeCo bcc(110)の回折ピークの反値幅を周知のScherrerの式に代入することで算出している。
【0031】
本発明においては、被覆磁性粒子を振動下でプレスすることで、被覆磁性粒子が動けるようにし、被覆磁性粒子の方向をそろえている。振動の振幅は0.1〜10mmであるのが好ましく、振動の周波数は5〜100Hzであるのが好ましい。振動の振幅が0.1mm以上および周波数が5Hz以上であると被覆磁性粒子の方向がそろえられるため好ましく、振動の振幅が10mm以下および周波数が100Hz以下であると装置の振動による回転軸のぶれが軽減できるという効果が得られるため好ましい。振動を付加するために、被覆磁性粒子が入れられた容器を振動させてもよく、超音波を用いて被覆磁性粒子を振動させてもよい。被覆磁性粒子を機械的に攪拌すると、被覆磁性粒子が適宜動けるようになって方向がそろうため更に好ましい。
【0032】
本発明の好適な実施形態においては、まず図2に示されるような非磁性材料2で被覆された磁性粒子1を作成する。次に、図3に示すように、被覆磁性粒子7(非磁性材料2で被覆された磁性粒子1)をプレス装置3に入れて圧粉成型を行う。プレス装置3は、加熱用ヒーター(図示せず)を備えた回転機構付きステージ4、金型5、プレス部6等からなる。プレス部6には、シリンダ6a、バネ6b、および粒子攪拌棒6cが具備されており、回転機構付きステージ4の回転に伴い、金型5に入れた被覆磁性粒子7を攪拌しつつプレスすることが可能である。更に、プレス部6には振動機構モーター(図示せず)が取り付けられていて被覆磁性粒子7を振動させながら攪拌することが可能である。また、プレス時に外部に設けられた電磁石(図示せず)により外部から磁場を印加できる構造となっている。なお、図3では一例として扁平形状の被覆磁性粒子7を示しているが、被覆磁性粒子7の形状はこの限りではなく、球状または針状であっても良い。プレスするための金型4として、リングコア形状の型(図示せず)を用いることもできる。プレス時の回転速度は1〜300rpm、印加磁場(磁界)の強さは5〜8000kA/m、加熱の温度は250℃〜500℃、振動の振幅(ストローク)は0.1〜10mm、振動の周波数は5〜100Hzである。プレス圧力は5〜100ton/cm2とすることができ、プレスは大気中、窒素や希ガスなどの不活性ガス雰囲気中、真空中等で行うことができる。
【0033】
本発明により製造された磁気部品は、所定の方向に配向した磁化容易軸を有しており、高い透磁率と高い抵抗率を両立しているため、インダクタまたはトランスのコア材として好適に用いることができ、従来のフェライト製コア材と比較して、同じインダクタンス値を得るのに体積が小さくて済み、小型化および薄型化が可能となっている。これによりノート型パソコン等の小型携帯機器、薄型CRT、テレビ等の電源として、従来にない小型および薄型のインダクタまたはトランスおよびそれらを用いたスイッチング電源を提供することが可能となる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例1〜3および比較例1〜9を参照して本発明を更に説明する。第2表は各例で用いた非磁性材料(被膜材料)、被膜形成方法および(圧粉)成型時の条件を示す。
【0035】
【表2】

【0036】
[実施例1]
平均粒子径40nmのFe70Co30(Feが67重量%、Coが33重量%)原料粒子を用いて熱プラズマ法によりFeCo磁性粒子を作成した。具体的には、Fe70Co30原料粒子をアルゴンガス中で発生させた熱プラズマ内に投入して蒸発させ、それを凝集させる過程を経ることで、FeCo磁性粒子を作成した。このFeCo磁性粒子にPdをスパッタ法により被膜して被覆磁性粒子(Pd被覆FeCo磁性粒子)を形成した。スパッタ法は、多角バレルスパッタ装置(ユーテック社製)を用い、パラジウムターゲットを用いて、アルゴンガス雰囲気中で行われた。スパッタ圧力は2mTorrであり、スパッタ電力は30Wであった。Pdの膜厚は0.5〜10nmの間で変化させた。
【0037】
次に、この被覆磁性粒子をプレス装置(図示せず)に入れて扁平化して扁平形状の被覆磁性粒子を作成し、この被覆磁性粒子を更に別のプレス装置に入れて磁気部品として圧粉成型体を次の手順で作成した。プレスするための金型として、リングコアの型(図示せず)を用いた。プレス時の回転速度は100rpm、加熱温度は500℃、加熱時間は1時間、プレス圧力は20ton/cm2とした。プレス時の外部磁場の強さは0から800kA/mで変化させた。振動の振幅(ストローク)は0.1mmとし、振動の周波数は50Hzとした。プレスは全て大気中で行なった。
【0038】
[実施例2]
実施例1で用いたFeCo微粒子に、真空蒸着法を用いてPd被膜を形成した。蒸着法は高速型真空蒸着装置VPC−1100(ULVAC社製)を用い、真空中で蒸着を行った。圧粉成型体の作成方法は実施例1と同じ手順を繰り返した。
【0039】
[実施例3]
実施例1で用いたFeCo微粒子に、レーザーアブレーション法を用いてPd被膜を形成した。レーザーアブレーション法は日立テクノロジーアンドサービス社製の装置を用い、真空中で被膜を形成した。圧粉成型体の作成方法は実施例1と同じ手順を繰り返した。
【0040】
[比較例1]
加熱しないことを除いて実施例1と同じ手順を繰り返して、圧粉成型体を作成した。
[比較例2]
振動させないことを除いて実施例1と同じ手順を繰り返して、圧粉成型体を作成した。
[比較例3]
加熱せず振動させないことを除いて実施例1と同じ手順を繰り返して、圧粉成型体を作成した。
[比較例4]
非磁性材料2としてC(炭素)を用いたことを除いて実施例1と同じ手順を繰り返して、圧粉成型体を作成した。
[比較例5]
非磁性材料2として磁性粒子1の表面酸化処理物を用いたことを除いて実施例1と同じ手順を繰り返して、圧粉成型体を作成した。
[比較例6]
特許文献9に記載の湿式法にてPd被膜を形成したことを除いて実施例1と同じ手順を繰り返して、圧粉成型体を作成した。
[比較例7]
非磁性材料2としてNiを用いたことを除いて実施例1と同じ手順を繰り返して、圧粉成型体を作成した。
[比較例8]
非磁性材料2としてAuを用いたことを除いて実施例1と同じ手順を繰り返して、圧粉成型体を作成した。
[比較例9]
非磁性材料2としてCrを用いたことを除いて実施例1と同じ手順を繰り返して、圧粉成型体を作成した。
【0041】
図4に、実施例1および比較例1〜3で得られた圧粉成型体(リングコア)の交流磁界周波数100kHz時の透磁率の印加磁場依存性を示す。この結果から、プレス時に加熱しつつ振動させた場合(実施例1)に最も大きな透磁率を示すことがわかる。加熱せず振動もさせない場合(比較例3)には特性が著しく劣化し、印加磁場による透磁率の増大効果が見えにくくなっていることがわかる。ここで、実施例1および比較例2から加熱した状態での振動の影響について見てみると、例えば120程度の透磁率を得るためには、振動させない場合には700kA/mの印加磁場の強さが必要であるのに対し、振動させることで必要な印加磁場の強さは200kA/mにまで減少する。このことから透磁率向上に必要な印加磁場を低減させるためには振動させることが有効であることが明らかとなった。また、比較例1および比較例2を参照すると、加熱よりも振動のほうが被覆磁性粒子の特性向上へ大きく寄与することがわかる。
【0042】
また、被膜形成プロセスが特性に与える影響を見るため、実施例1〜3のそれぞれについて、印加磁界の強さを800kA/mとした場合の透磁率の値を第3表にまとめた。
【0043】
【表3】

【0044】
第3表から、透磁率は被膜形成方法に拠らないことがわかる。以降の検討では、微粒子の量産性を考慮し、スパッタ法を用いた検討について結果を見ていくことにする。
【0045】
次に、非磁性材料(被膜材料)が特性に与える影響を見るため、透磁率向上効果が最も大きい回転磁場、加熱、および振動下で、種々の非磁性材料を用いて磁気部品の特性の変化を観察した。第4表は、各例における印加磁場の強さを800kA/m、振動の振幅(ストローク)を0.1mm、振動の周波数を50Hzとして圧粉成型したリングコアについて、交流磁界周波数が100kHz時の透磁率および印加磁場の強さが800kA/m時の飽和磁束密度(T)の値をそれぞれ示す。
【0046】
【表4】

【0047】
実施例1で形成されたリングコアは、比較例4〜9で形成されたリングコアと比較して、透磁率および飽和磁束密度ともに最高の値を有している。特に比較例6を参照すると、湿式法によってPd被膜を形成したリングコアでは飽和磁束密度が実施例1の場合と比べて大幅に低下しており、被膜形成時の溶液浸漬によるFeCoの酸化の影響を無視できなくなっている。飽和磁束密度の低下がデバイスの最小サイズを決めてしまうため、湿式法で磁気部品の小型化を行うことは困難であることがわかる。
【0048】
一方乾式法(スパッタ法)で被膜を形成した場合(比較例4、7〜9)、湿式法で見られたような飽和磁束密度の大幅な低下は見られない。しかし、実施例1のPdの分極率(1.15)と比較して、比較例4、7〜9の被膜材料の分極率(C=1.0、Ni=1.0、Au=1.0、Cr=1.0)は小さいため、それらの飽和磁束密度は実施例1の場合よりも小さくなっている。ここで言う分極率は、以下の定義とした。すなわち、膜厚1nmのFeに膜厚0.2nmの上述した材料を積層した構造を20回積層した薄膜を作成し、磁化量を測定する。次に、この薄膜に含まれるFeの膜厚は20nmであり、Feあたりの飽和磁化量を算出し、その値を膜厚1nmのFeのみを20回積層した薄膜の飽和磁化量と比較し、両者の比を分極率と定義している。分極率を算出する材料の膜厚を0.2nmとしたのは、強磁性体上のPt薄膜が、強磁性体近傍の数原子層のみが磁性を帯びるという非特許文献2の報告に倣ったものである。
【0049】
また組成分析の結果からCrを被膜とした場合には熱処理後にCrがFeCoへ拡散することが予想され、その結果透磁率および飽和磁束密度はともに劣化している。
【0050】
図5は、実施例1および比較例3において印加磁場の強さを800kA/mとして形成されたリングコアの透磁率の周波数依存性を示す。実施例1のリングコアの透磁率はMHz領域までほぼ一定であるのに対し、比較例3のリングコアの透磁率は50kHz以上の領域で低下し、MHz領域では0となった。この結果から、磁場を印加しただけの(加熱せず振動させない)磁気部品はMHzの高速領域では利用できないことが明らかとなった。一般的に圧粉成型体では原料の磁性粒子の充填率を100%にすることは困難である。しかし、Pdのような分極率の大きな金属で磁性粒子を被覆し、材料の持つ飽和磁束密度をX倍にできたとすると、充填率を1/Xとしても、材料の持つ飽和磁束密度が維持できることになる。充填率を低下させて空隙を作ることは抵抗率の増加に寄与し、渦電流による損失が低下して高周波特性が向上する。また、圧粉成型体の軽量化にも寄与するため、分極率の大きな非磁性材料で被覆した磁性微粒子を用いて磁気部品を形成することは、抵抗率の向上と軽量化を通じた特性の向上に大きく寄与することになる。実施例1では上記効果が組み合わさることで、高周波特性が良好になっており、高効率の磁気部品が得られている。
【0051】
図6および第5表は、プレス時の温度を変化させたことを除いて実施例1と同じ手順を繰り返してリングコアを作製し、交流磁界100kHz時の透磁率を測定した結果を示す。
【0052】
【表5】

【0053】
加熱の効果が顕著に現れるのが250℃であるため、好ましい加熱温度範囲の下限値を250℃に規定した。なお、500℃を超える領域では粒子径肥大化およびPdのFeCo磁性粒子への拡散による高速スイッチングが困難になり、透磁率が減少しているものと思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式法を用いてパラジウムを含む非磁性材料で磁性粒子を被覆する工程と、
非磁性材料で被覆された磁性粒子を、回転磁場、加熱、および振動下でプレスする工程と、
を含む磁気部品の製造方法。
【請求項2】
乾式法が、スパッタ法、CVD法、蒸着法、レーザーアブレーション法からなる群から選択された1つであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
磁性粒子が、Fe、Co、Niからなる群から選択された金属を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
磁性粒子の粒子径が、1nm以上100μm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
非磁性材料で被覆された磁性粒子の形状が、球状、扁平状、または針状であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
回転磁場の強さが、5〜8000kA/mであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
加熱の温度が、250℃から500℃であり、加熱の時間が1〜100時間であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
振動の振幅が、0.1〜10mmであり、振動の周波数が、5〜100Hzであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
磁性粒子および非磁性材料の少なくとも一方が、単一の種類の元素からなることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
磁性粒子および非磁性材料の少なくとも一方が、複数の種類の元素からなることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
パラジウムを含む非磁性材料で被覆された磁性粒子を含み、周波数100kHz時の透磁率が150を超えて200以下であり、印加磁場800kA/m時の飽和磁束密度が2.20Tを超えて2.45T以下である、磁気部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−4657(P2013−4657A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133093(P2011−133093)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】