説明

磁石成形体およびその製造方法

【課題】高磁気特性(保磁力)を維持しつつ、さらにモータ環境などでの耐熱性にも優れる磁性成形体を提供する。
【解決手段】本発明の希土類磁石成形体は、磁石粒子と当該磁石粒子間に存在する絶縁相とを含む。そして、Dy、Tb、Pr、およびHoからなる群から選択される1種または2種以上の元素が偏析した偏析領域が磁石粒子内部に分散して存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石成形体およびその製造方法に関する。本発明により提供される磁石成形体は、例えばモータなどの用途に用いられうる。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ等に使用される磁石成形体としては、永久磁石であるフェライト磁石が主に用いられてきた。しかし近年、モータの高性能化・小型化に呼応して、より磁石特性に優れる希土類磁石の使用量が増加している。
【0003】
ここで、モータ等に用いられるNd−Fe−B系などの希土類磁石は、耐熱性が低いという問題を有している。これを受けて、絶縁物質により磁石内部の磁石粒子を被覆し、渦電流の流路を3次元的に分断して発熱量を低減する手法が考案され、絶縁物の種類や製造方法で多数の技術が報告されている。
【0004】
この技術は、渦電流の抑制に伴う磁石の自己発熱量の低減を通して、モータ環境などにおける耐熱性の向上に寄与している。しかしながら、この技術では、外部からの加熱に対して高温での磁気特性(保磁力)の上昇効果が十分に得られないという問題があった。
【0005】
これらの問題に対し、特許文献1には、磁石を構成する磁石粒子と絶縁相との界面に高磁気特性(高保磁力)化に関与する元素を効果的に配した磁石と、その製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−49378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、さらに低発熱化の要求に応えるためには、より絶縁性を向上させる必要があり、そのため絶縁相を厚く塗布する必要が生じてきた。ところが、本発明者らの検討によれば、不用意に絶縁相を厚くすると、絶縁物質と磁石粒子との不可避の化学反応により磁気特性が劣化するという問題が顕在化することが判明した。
【0008】
本発明者らは、磁石粒子の粒径を制御することで上記の問題が解決されうることを見出した。すなわち、粒子径が大きい磁石粒子の割合を高くすることで、化学反応を生じる界面面積が低減し、同時に絶縁相内の磁石粒子の磁力が大きくなるため、相対的に磁気特性劣化の影響を軽微なものとできるのである。
【0009】
しかしその一方で、磁石粒子を粗大化しすぎると、磁石粒子の磁気特性を阻害する内部欠陥の存在率が増大したり、結晶粒の方向性のばらつきが大きくなったりする。そうすると、上記特許文献1に記載の手法を用いても、必ずしも高磁気特性(保磁力)化の効果が磁石粒子内部まで及ばず、優れた磁気特性を維持できないという問題が生じることが判明した。
【0010】
そこで本発明は、高磁気特性(保磁力)を維持しつつ、さらにモータ環境などでの耐熱性にも優れる磁石成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その過程で、磁石粒子と当該磁石粒子間に存在する絶縁相とを含む希土類磁石成形体において、所定の元素が偏析した領域(偏析領域)が磁石粒子内部に分散して存在するようにすることを試みた。そしてかような手段によれば、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の希土類磁石成形体は、磁石粒子と当該磁石粒子間に存在する絶縁相とを含む。そして、Dy、Tb、Pr、およびHoからなる群から選択される1種または2種以上の元素が偏析した偏析領域が磁石粒子内部に分散して存在する。
【0013】
また、本発明者らは、上述したような磁石成形体の製造に好適な製造方法をも見出した。具体的には、まず、所定の元素の単体またはその合金を、原料磁粉の表面に被覆して表面修飾原料磁粉を得る。次いで、得られた表面修飾原料磁粉を磁場中で磁気配向しながら加熱雰囲気下で加圧成形することにより、異方性希土類磁石を得る。そして、得られた異方性希土類磁石を粉砕して得られる磁石粒子の表面に絶縁相を被覆することにより、磁石成形前駆体を得る。最終的に、得られた磁石成形前駆体を加圧下で加熱することにより、磁石成形体を得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、異方性磁界係数の大きい元素が偏析した領域が磁石粒子内部に分散して存在する。その結果、高磁気特性(保磁力)を維持しつつ、さらにモータ環境などでの耐熱性にも優れる磁石成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の形態の磁石成形体の一実施形態である希土類磁石成形体の断面写真である。
【図2】第2の形態の磁石成形体の他の実施形態である希土類磁石成形体の断面写真である。
【図3】混合領域が存在する希土類磁石成形体の断面写真である。
【図4】本発明の磁石成形体が適用された集中巻の表面磁石型モータの1/4断面図である。
【図5】実施例1において製造された磁石成形体について、偏析領域をAES法により解析した結果を示す図である。
【図6】比較例2において製造された磁石成形体について、偏析領域が認められないことを確認した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の形態のみには制限されない。
【0017】
本発明の一形態によれば、磁石粒子と前記磁石粒子間に存在する絶縁相とを含む希土類磁石成形体であって、Dy、Tb、Pr、およびHoからなる群から選択される1種または2種以上の元素が偏析した偏析領域が前記磁石粒子内部に分散して存在することを特徴とする、希土類磁石成形体が提供される。
【0018】
図1は、本形態の磁石成形体の一実施形態である希土類磁石成形体の断面写真である。本実施形態の希土類磁石成形体1は、磁石特性を発現する磁性粒子としての希土類磁石粒子2、および絶縁相3を含む。絶縁相3は希土類磁石粒子2の間に存在し、希土類磁石粒子2が絶縁相3によって連結された構造となっている。そして、本発明の希土類磁石成形体1においては、希土類磁石粒子2の内部に、所定元素が偏析した偏析領域4が分散して存在する。この偏析領域4は、偏析元素を含む。ここで「偏析元素」とは、当該偏析領域4における当該元素の平均濃度が、希土類磁石粒子2よりも有意に高い元素を意味する。なお、本願では、ある元素の平均濃度が、希土類磁石粒子2における平均濃度と比較して3%以上高い場合に、「有意に高い」ものと規定した。なお、構成元素の平均濃度の測定は、AES、EPMA、EDX、WDSなどの機器測定による線分析(元素のラインプロファイル)により行われうる。なお、本願の偏析領域において相対的に偏析する(濃度が増加する)元素は、Dy、Tb、Pr、Ho、およびNd、Coである。これに対し、偏析領域において相対的に濃度が減少する元素は、主としてFeである。なお、図1に示す写真は理解の容易のために一例として示したものであり、本発明の技術的範囲が、図示する形態(形状、サイズなど)の磁石に限定されるものではない。
【0019】
「磁石粒子」とは、磁石材料の粉末を意味する。磁石粒子の一例としては、図1に示すような希土類磁石粒子2が挙げられる。磁石粒子を構成する磁石材料としては、フェライト磁石のように、そもそも渦電流損失が小さい材料が用いられてもよい。しかしながら、希土類磁石は導電性に優れ、かつ渦電流が発生しやすい材料である。このため、希土類磁石を用いて本発明の磁石成形体を構成することにより、高性能な磁気特性と低渦電流損失とを両立した磁石成形体を実現することができる。よって以下、磁石成形体を構成する磁石粒子が希土類磁石粒子である場合を例に挙げて説明する。ただし、本発明の技術的範囲がかような形態のみに限定されるわけではない。
【0020】
「希土類磁石粒子」とは、上述した通り磁石粒子の1種であって、図1に示すように磁石成形体を構成する成分である。希土類磁石粒子は、強磁性の主相および他成分からなる。希土類磁石がNd−Fe−B系磁石である場合には、主相はNdFe14B相である。磁石特性の向上を考慮すると、希土類磁石粒子はHDDR法や熱間塑性加工、特にHDDR法を用いて調製された異方性希土類磁石用磁粉から製造された希土類磁石粒子であることが好ましい。特にHDDR法を用いて調製された希土類磁石粒子は融点が低く、加熱加圧成形をより低温で実施することが可能である。その結果、絶縁相と磁石粒子との反応速度を遅らせることができ、高い電気比抵抗が得られ、低発熱性に優れた希土類磁石成形体が提供される。HDDR法や熱間塑性加工を用いて調製された異方性希土類磁石用磁粉を用いて製造された希土類磁石粒子は、多数の結晶粒の集合体となる。この際、希土類磁石粒子を構成する結晶粒が単磁区粒径程度の平均粒径を有していると、保磁力を向上させる上で好適である。希土類磁石粒子は、Nd−Fe−B系磁石の他にも、Sm−Co系磁石などから構成されうる。得られる磁性体成形体の磁石特性や、製造コストなどを考慮すると、希土類磁石粒子は、Nd−Fe−B系磁石から構成されることが好ましい。ただし、本発明の磁石成形体がNd−Fe−B系磁石から構成されたものに限定されるわけではない。場合によっては、磁性体成形体中に基本成分が同じ2種類以上の磁性体が混在していてもよい。例えば、異なる組成比を有するNd−Fe−B系磁石が2種以上含まれていてもよく、あるいは、Sm−Co系磁石を用いてもよい。
【0021】
なお、本願において「Nd−Fe−B系磁石」とは、NdやFeの一部が他の元素で置換されている形態をも包含する概念である。Ndは、その一部または全量をPrに置換されていてもよく、また、Ndの一部をTb、Dy、Ho等の他の希土類元素で置換されていてもよい。置換にはこれらの一方のみを用いてもよく、双方を用いてもよい。置換は、元素合金の配合量を調整することによって行うことができる。かような置換によって、Nd−Fe−B系磁石の保磁力向上を図ることができる。置換されるNdの量は、Ndに対して、0.01〜50atom%であることが好ましい。かような範囲でNdが置換されると、置換による効果を十分に確保しつつ、残留磁束密度を高レベルで維持することが可能である。
【0022】
一方、Feは、Co等の他の遷移金属で置換されていてもよい。かような置換によって、Nd−Fe−B系磁石のキュリー温度(T)を上昇させ、使用温度範囲を拡大させることができる。置換されるFeの量は、Feに対して、0.01〜30atom%であることが好ましい。かような範囲でFeが置換されると、置換による効果を十分に確保しつつ、熱的性質が改善される。
【0023】
なお、本発明の磁石成形体は、場合によっては焼結磁石用の磁粉を磁石粒子として用いて構成されうる。ただし、この場合には、ある程度の大きさを有し、一粒の磁石粉末でも単磁区粒子磁粉の集合体としての磁石挙動が可能な磁石粉末を使用する必要がある。
【0024】
本発明の磁石成形体における希土類磁石粒子の平均粒径は、好ましくは5〜500μmであり、より好ましくは15〜450μmであり、さらに好ましくは20〜400μmである。希土類磁石粒子の平均粒径が5μm以上であれば、磁石の比表面積の増大が抑制され、磁石成形体の磁石特性の低下が防止されうる。一方、希土類磁石粒子の平均粒径が500μm以下であれば、製造時の圧力に起因する磁石粒の破砕やこれに伴う電気抵抗の低下が防止されうる。加えて、例えば、HDDR処理により作製された異方性希土類磁石用磁粉を原料として異方性磁石を製造する場合には、希土類磁石粒子における主相(Nd−Fe−B系磁石においてはNdFe14B相)の配向方向を揃えることが容易となる。希土類磁石粒子の粒径は、磁石の原料である希土類磁石用磁粉の粒径を調整することによって、制御される。なお、希土類磁石粒子の平均粒径は、SEM像から算出されうる。具体的には、50倍および500倍の倍率で各30視野観察し、最長径が1μm以下に相当する粒子は除外して、任意の300個以上の粒子の最短径と最長径の平均値から平均粒径を決定する(本願において以下同じ)。
【0025】
「絶縁相」もまた、図1に示すように希土類磁石成形体を構成する構成成分である。絶縁相は、絶縁性材料から構成される。絶縁相を構成する絶縁性材料としては、例えば、希土類酸化物が挙げられる。かような形態によれば、希土類磁石における絶縁性が十分に確保され、高抵抗の希土類磁石成形体が提供されうる。絶縁性材料は、好ましくは、式(I):
【0026】
【化1】

【0027】
で表される組成を有する希土類酸化物が挙げられる。希土類酸化物は、非晶質であってもよいし、結晶質であってもよい。式(I)において、RはYを含む希土類元素を表す。なお、「Yを含む希土類元素」とは、本願において希土類元素の概念には、イットリウムが含まれることを確認的に明記する記載である。つまり、「Yを含む希土類元素」とは、Yを必須に含む希土類元素を意味しているのではなく、希土類元素としてYが用いられてもよいことを示す。Rの具体例としては、ジスプロシウム(Dy)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)が挙げられる。2種以上の希土類酸化物が含有されていてもよい。なかでも、絶縁相3は酸化ネオジム、酸化ジスプロシウム、酸化テルビウム、酸化プラセオジウム、酸化ホルミウムから構成されることが好ましい。かような形態によれば、磁石成形体1中の磁石粒子、および場合によっては後述する磁石微粒子に含有されるNdの酸化が低減でき、磁気特性に重要なNdFe14B(原子比)相の分解が抑制される。その結果、不要なFeやBリッチ相等の軟磁性相の生成が低減でき、高い磁気特性(保磁力)を維持可能な磁石成形体が提供されうる。なお、経済性の観点からは、絶縁相3は特に好ましくは酸化ジスプロシウムから構成される。
【0028】
このように、希土類酸化物は、希土類元素の酸化物でさえあれば、混合物であっても複合酸化物であっても特に限定されない。また、構成成分としては、絶縁物質であれば特に制限されることはなく、希土類酸化物以外にも、例えば、金属酸化物、フッ化物またはガラスなどがありうる。
【0029】
なお、絶縁相が希土類酸化物からなる場合であっても、これ以外の不純物や製造工程に起因する反応生成物、未反応残存物、微小な空孔等の存在は避けられないことは当然である。これらの不純物の混入量は、電気伝導性や磁気特性の観点からは少ないほど好ましい。ただし、絶縁相における希土類酸化物の含有量が80体積%以上、好ましくは90体積%以上であれば、製品磁石の磁気特性や電気伝導性に実質的には問題ない。
【0030】
絶縁相の含有量については特に制限はないが、本発明の磁性体成形体全体に対する体積比として、好ましくは1〜20%であり、より好ましくは3〜10%である。絶縁相の含有量が1%以上であれば、磁石における高い絶縁性が確保され、高抵抗の磁性体成形体が提供される。また、絶縁相の含有量が20%以下であれば、希土類磁石粒子の含有量が相対的に減少することに伴う磁気特性の低下が防止される。また、従来の樹脂で磁石粉末を固化したいわゆるボンド磁石よりも高い磁気特性を発現することができる。
【0031】
希土類磁石成形体1における絶縁相3の厚みは、磁気特性(保磁力)と電気比抵抗値との比較衡量によって決めることが好適である。以下、具体的に説明する。
【0032】
まず、絶縁相3に求められる電気抵抗は、モータ内の電磁誘導により発生する起電力に起因する磁石粒子および磁石微粒子内の誘導電流が、その内部で還流するように、粒子間での経路を阻害するものであればよい。また、一部の絶縁相の欠陥により、粒子が局所的に短絡したとしても、渦電流は、磁束が透過する垂直断面の断面積に比例するため、磁石成形体内部での局所的短絡は、殆ど発熱に寄与しない。したがって、本実施形態における絶縁相3は、完全な酸化物からなる絶縁相が有すると期待される値ほど高い絶縁性を必要とせず、磁石粒子および磁石微粒子よりも相対的に高い電気抵抗を有すれば、十分に本願所望の目的を果たし、効果を発揮することができる。
【0033】
次に絶縁相3に必要な電気比抵抗値と厚みについて述べる。電気抵抗は絶縁材料の電気比抵抗と厚さの積であり、電気比抵抗値が高い物質ほど厚さは薄くてよい。通常、酸化物化した状態の絶縁相を用いる場合、その絶縁相を構成する酸化物の電気比抵抗値は、金属材料に近い性質である希土類磁石の磁石粒子に比べて10桁以上高い値を有する。そのため、絶縁相3は厚みが数十nmオーダーのでも十分な効果を発揮することができる。
【0034】
ただし、後述するような、希土類元素の有機錯体を原料として熱分解により得られる絶縁相3の場合、不可避的に不純物や残留物を含有する。すなわちXPS(光電子分光法)等を用いて希土類元素の結合形態を解析すると、酸素との結合(酸化物)に混じって炭素や炭化水素との結合が確認される。そして完全に酸化物化した状態と比べて、少なからず電気比抵抗の低下が生じる。発熱量を抑制するという観点からすれば、これらの酸化物以外の上記の結合は、少なければ少ないほど好ましいことは言うまでもない。
【0035】
一方、磁石粒子および後述する磁性微粒子の磁気特性を維持する観点からいえば、磁石特性を損なうような相変態と粒成長を抑制するため、通常は熱分解温度を完全な酸化物の形成に要する高温まで高めることは困難である。そのため、不可避的に残留する不純物や残留物が、絶縁相中に存在することになる。
【0036】
かかる場合においても、主成分として希土類酸化物という電気比抵抗値の高い物質を絶縁材料として用いた絶縁相であれば、50nm以上の厚さを有していれば、上記の電気抵抗の劣化という問題を十分に回避することができる。さらに、100nm以上の厚さを有していれば、上記の電気抵抗の劣化という問題をほぼ確実に回避することができる。
【0037】
ここで、「主成分」とは、体積比で含有量が最も大きいものであり、好ましくは含有量が体積比で50%以上のものである。また、前述したような希土類酸化物以外の絶縁材料を用いた場合でも、その比抵抗を磁石粒子と比較すると、希土類酸化物と同じく、磁石に比較して十分大きい。このため、必要とする絶縁層の厚さは希土類磁石酸化物と同様に考えてよい。
【0038】
一方、絶縁相3が厚すぎると、磁石成形体の正味の体積率が減少し、却って磁気特性を損なうことになる。したがって、結局のところ、原料用の磁石粒子のごく一般的な平均粒径に対して、十分小さい値に留めておくことが好ましい。具体的には、20μm以下であり、より好ましくは10μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である。
【0039】
これらの絶縁相については、磁石粒子の表面に磁石微粒子が吸着した構造を有する粒子の表面に形成させる場合に、磁石微粒子が絶縁相内に巻き込まれた状態になる場合がある。具体的には、磁石粒子の表面に存在する、個々の磁石微粒子やクラスター状態の磁石微粒子が、あたかも接着剤またはバインダーのようにふるまう絶縁相の浸透によって、磁石粒子に固着された状態を形成する。
【0040】
この場合、磁石成形体に加工した後に断面を観察すると、必ずしも磁石微粒子の層と絶縁相の層に、明瞭な層状構造にはならず、絶縁相内に磁石微粒子がとりこまれた構造が観察される。しかしながら、このような構造を有していても、磁石微粒子が連続的に短絡して導体として振舞うことは困難であり、本発明の磁気特性(保磁力)と低発熱を兼ね備えた磁石成形体として特段の問題は生じない。
【0041】
希土類磁石成形体1において、希土類磁石粒子2の間に絶縁相3が存在すると、希土類磁石成形体1の電気抵抗が著しく高まる。なお、希土類磁石粒子2は、完全に絶縁相3によって被覆されていることが好ましいが、電気抵抗を高めて渦電流を抑制する効果が発現するのであれば、絶縁相3によって被覆されていない部分が存在していてもよい。また、絶縁相3の形状は、図示するように連続する壁となって希土類磁石粒子2を取り囲むものであってもよく、粒子状の固まりが連なって希土類磁石粒子2を隔離しているものであってもよい。
【0042】
さらに、本発明の希土類磁石成形体1では、希土類磁石粒子2の内部に、所定元素が偏析した偏析領域4が分散して存在する点に特徴を有する。偏析領域4もまた、図1に示す希土類磁石の構成成分である。図1に示すように、偏析領域4は、希土類磁石粒子2の内部に存在する相である。偏析領域4は、図1に示すように連続する領域とし希土類磁石粒子2の内部に分散していることが好ましい。
【0043】
偏析領域4は、Dy、Tb、Pr、およびHoからなる群から選択される1種または2種以上の元素を必須に含有する。なかでも好ましくは、DyまたはTbが必須に含まれ、Dyが含まれることが最も好ましい。かような形態によれば、従来の手法では回避が困難であった、磁石粒子の粗大化時のDy、Tb、Pr、Hoの添加効果の低減が抑制されうる。その結果、優れた磁気特性(保磁力)と高い電気比抵抗による低発熱性を両立可能な希土類磁石成形体が提供されうる。
【0044】
なお、偏析領域4は、その他の元素を含んでもよい。偏析領域4に含まれうるその他の元素としては、例えば、Coが挙げられる。偏析領域4がCoを含むと、磁石成形体の耐酸化性が向上し、添加した希土類元素による劣化が抑制される。その結果、より磁気特性に優れた希土類磁石成形体が提供されうる。また、偏析領域4がCoを含む場合には、Ndがさらに含まれることが好ましい。偏析領域4がCoに加えてNdをさらに含むと、偏析領域4の融点が降下する。その結果、磁石粒子(原料磁粉)と融着しやすくなるため、磁石粒子内にDy、Tb、Pr、Hoの元素群が効率的に分散されうる。また、原料磁粉内にクラック等の欠陥が存在する場合、欠陥部への浸透が容易で欠陥が修復される効果が発揮されうる。その結果、加圧時における割れ欠けの発生が低減され、磁気特性(保磁力)および低発熱性に優れた希土類磁石成形体が提供されうる。さらには、加熱加圧成形時に液相が存在することで、より低温低圧で高密度化が促進できる効果も存在する。
【0045】
なお、偏析領域4の存在は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察により確認されうる。
【0046】
本発明において、元素の「濃度」とは、当該元素が存在する相における当該元素の原子換算での含有百分率(atom%)を意味する。そして、希土類磁石粒子2における「平均濃度」とは、本発明の磁性体成形体を構成する個々の磁性粒子における元素の濃度の平均値を意味する。例えば、一般的な希土類磁石の主相であるNdFe14B相におけるNd濃度は、2/(2+14+1)=11.8atom%である。
【0047】
希土類磁石粒子2の内部における偏析領域4の含有量については特に制限はない。ただし、内部に偏析領域を有する希土類磁石粒子の個数比率が、200μm以上の粒径を有する希土類磁石粒子の50%以上であることが好ましい。かような希土類磁石粒子の個数比率は、100μm以上の粒径を有する希土類磁石粒子の50%以上であることがより好ましく、100μm以上の粒径を有する希土類磁石粒子の80%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
上述した形態の本発明の磁性成形体1は、低発熱という観点からは、等方性磁石粉末から製造される等方性磁石、異方性磁石粉末をランダム配向させた等方性磁石、および異方性磁石粉末を一定方向に配向させた異方性磁石のいずれであってもよい。しかし、自動車用モータのように高い最大エネルギー積を有する磁石が必要であれば、異方性磁石粉末を原料とし、これを磁場中配向させた異方性磁石が好適である。
【0049】
図2は、本形態の磁石成形体の他の実施形態である希土類磁石成形体の断面写真である。図2に示すように、本実施形態の磁石成形体においては、希土類磁石粒子2の外周部に、磁石微粒子が凝集した凝集領域5が存在する。この凝集領域5を構成する磁石微粒子は、希土類磁石粒子2と同様の組成を有するものの、粒径が極めて小さい。この磁石微粒子の粒径は特に制限されないが、自発磁化可能な粒径であって、希土類磁石粒子2の平均粒径よりも小さい値であることが必要とされる。磁石微粒子の平均粒径は、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは25μm以下である。本実施形態のように凝集領域5が存在すると、希土類磁石粒子2の表面に磁石微粒子が吸着することで、突起を有する尖角状の磁石粒子が球状化する。そのため、磁石成形体1への加工による絶縁相3の破損が抑制され、さらに絶縁相3の連続性が向上する。その結果、より高い電気比抵抗が得られ、低発熱性に優れた希土類磁石成形体1が提供される。
【0050】
凝集領域5が存在する場合、希土類磁石成形体1における凝集領域5の含有量については特に制限はない。用いた希土類磁石粒子の形状によって、好ましい凝集領域5の量は異なるが、機械的に粉砕された磁石粉末であれば、凝集領域5の占める割合が体積比で5%以上であると上述した作用効果が十分に発揮されうる。
【0051】
また、凝集領域5が存在する場合、当該凝集領域5を構成する磁石微粒子が、絶縁相3と混合されてなる領域が存在するとより好ましい。かような形態によれば、絶縁相3および凝集領域5の体積率を抑制しつつ、高い電気比抵抗を維持することが可能となる。このため、磁気特性に優れた希土類磁石成形体が提供されうる。参考までに、図3に、かような混合領域が存在する希土類磁石成形体の断面写真を示す。なお、「凝集領域5を構成する磁石微粒子が絶縁相3と混合されてなる領域が存在する」か否かは、短辺が20μm以上の磁石粒子を対象として、任意の150個以上の磁石粒子について200倍で組織観察を行うことで判断する。かような観察の結果、磁石粒子間に位置する磁石微粒子と絶縁相との境界が明瞭に分離できない混合した状態が、観察した粒子の30%以上に存在する場合に、上記規定を満足するものとする。なお、上述した図2は、凝集領域5が存在するものの混合領域が存在しない場合の例であった。ここで、改めて図2を参照すると、磁石微粒子が焼結した領域(凝集領域5)と絶縁相3との境界を明瞭に分離することができる。換言すれば、磁石微粒子の焼結層と絶縁相3とが連続的なレイヤー構造を有している。このように、磁石微粒子と絶縁相との境界が明瞭に区別できる領域とは、絶縁相が少なくとも3μm以上の断面厚さを有する連続皮膜である領域の長さを意味するものとする。これに対し、混合領域(すなわち、境界が明瞭に区別できない領域)は、絶縁相が磁石微粒子層へ浸透して薄くなり、厚さ3μm未満の絶縁相が磁石微粒子層内に連続的、または不連続に存在する状態のことを意味する。
【0052】
上述した形態の磁石成形体1を製造する手法について特に制限はないが、本発明者らは、本発明の磁石成形体1を製造するための好適な方法を見出した。従って、本発明の第2の形態は、磁石成形体の製造方法に関する。ただし、本発明に係る磁石成形体の技術的範囲は、後述する本発明に係る製造方法により製造されたもののみに限定されることはない。一方、本発明に係る製造方法の技術的範囲が、本発明に係る磁石成形体が得られる形態のみに限定されることもない。
【0053】
本発明の第2の形態に係る製造方法は、Dy、Tb、Pr、およびHoからなる群から選択される1種または2種以上の元素の単体またはその合金を、原料磁粉の表面に被覆して表面修飾原料磁粉を得る工程(第1工程)と、得られた表面修飾原料磁粉を磁場中で磁気配向しながら加熱雰囲気下で加圧成形することにより、異方性希土類磁石を得る工程(第2工程)と、得られた異方性希土類磁石を粉砕して得られる磁石粒子の表面に絶縁相を被覆することにより、磁石成形前駆体を得る工程(第3工程)と、得られた磁石成形前駆体を加圧下で加熱する工程(第4工程)とを含む。かような製造方法によれば、絶縁相3で被覆された磁石粒子2内にも、効率的にDy、Tb、Pr、Hoの元素を分散することができる。このため、高磁気特性(保磁力)な希土類磁石成形体が製造されうる。また、HDDR法で製造された原料磁粉のように、粒子の内部にクラックが多数存在する原料磁粉を用いた場合であっても、クラックが圧着することで、割れが生じにくくなる。その結果、高い電気比抵抗が得られ、低発熱性に優れた希土類磁石成形体が提供される。
【0054】
以下、磁石粉末が希土類磁石粉末である場合を例に挙げて、本形態の製造方法を工程毎に順に説明する。
【0055】
(第1工程)
本工程では、Dy、Tb、Pr、およびHoからなる群から選択される1種または2種以上の元素の単体またはその合金を、原料磁粉の表面に被覆して表面修飾原料磁粉を得る。
【0056】
まず、原料磁粉を準備する。準備する原料磁粉としては、Nd−Fe−B系の希土類磁石の原料粉末であれば種類は問わない。焼結磁石用粉末、HDDR法にて調製された磁石粉末、アップセット法にて製造された磁石粉末等、異方性を有する磁石粉末を用いると磁気特性に優れるため好適である。なお、原料磁粉としては1種のみを単独で用いてもよいが、後述する実施例17のように、2種以上の原料磁粉の混合物を用いてもよい。2種以上の原料磁粉の混合物を用いる場合には、一方の磁粉(第1原料磁粉)の一部の元素をDy、Tb、Pr、またはHoで置換した他の磁粉(第2原料磁粉)との混合磁粉を用いてもよい。このような手法は、いわゆる二合金法と呼ばれている。かような形態によれば、原料磁粉の表面にDy、Tb、Pr、またはHoの元素を含有する合金を被覆する手法よりも、簡便かつ効率的に、これらの元素を磁石粒子内部に分散させることができる。
【0057】
ただし、使用する原料磁粉が大きくなると、元素を磁石粒子内に均一に分散させることが困難になる。さらに、原料磁粉が細かすぎると、保磁力向上のため相対的に高価なDy、Tb等の元素の使用量が増加する問題が生じる。また、焼結磁石用の原料磁粉のように、10μm以下の微細な原料磁粉の表面に異物を被覆した場合、粒子界面のパッシベーション効果の不足により、バルク磁石に加工すると著しく磁気特性を損なう場合がある。
【0058】
したがって、二合金法も含めて、焼結磁石用粉末を用いる場合は、HDDR法の磁粉と同様に、一度、通常の焼結磁石としてバルク化されたものを、再度粉砕して、得られる平均粒径数百μmの粉末を原料磁粉として用いるとよい。これにより、元の原料磁粉の種類や大きさによらず安定した品質が得られるという利点がある。
【0059】
すなわち、焼結磁石用の原料磁粉では、合計3回のバルク化プロセスを有し、HDDR磁石やアップセット磁石用の原料磁粉では、合計2回のバルク化プロセスを有することが好ましい。
【0060】
本工程では、続いて、準備した原料磁粉の表面に、上記所定の元素の単体または合金を被覆する。これにより、表面修飾原料磁粉が得られる。
【0061】
上記所定の元素としては、Dy、Tb、Pr、Hoが用いられる。これらの元素はNd−Fe−B系希土類磁石において結晶磁気異方性を大きくし、保磁力を向上する効果がある。また、上記所定の元素に加えて、Coを添加してもよい。これにより、キュリー温度を上昇する効果が得られる。また、Dy、Ndの希土類元素は融点を低下させ、バルク化プロセスにおいて、加熱加圧条件をより低温低圧にすることができるという利点がある。Nd、Dy、Tb、Pr、Hoの希土類元素とCoとを合金化して、あるいは同時に原料磁粉表面に添加することで、希土類元素の活性度を低減し酸化が抑制されるため、操作性が著しく向上する。また、融点が低下することで均一塗布や緻密化が促進する効果が得られる。
【0062】
上記所定の元素およびその他の元素を原料磁粉の表面に被覆する手法は特に制限されない。例えば、予め合金化した粒子を付着させてもよいし、物理的または化学的蒸着手法を用いることで、粉末表面に直接的に成膜する手法を用いてもよい。低融点の単相合金を表面被覆する場合は、真空チャンバー内で化学蒸着を施す手法が簡便である。
【0063】
(第2工程)
本工程では、上述した第1工程において得られた表面修飾原料磁粉を磁場中で磁気配向しながら加熱雰囲気下で加圧成形する。これにより、異方性希土類磁石が得られる。
【0064】
表面修飾原料磁粉は、原料磁粉の種類によって適したバルク化プロセスを用いることにより、成形されうる。原料磁粉として焼結磁石用の磁石粉末を用いた場合は、加圧を施すことなく1100℃程度の高温での加熱による焼結が可能である。一方、その他の磁石粉末を用いた場合は、組織変化や粒成長による影響のため、高温に加熱することが困難であり、加圧を施す必要がある。
【0065】
加熱加圧成形には、放電プラズマ焼結やホットプレスなどが適用されうる。具体的には、金型に表面修飾原料磁粉を挿入し、後述の磁場中配向処理を施した後、550℃以上の高温で加熱加圧成形を施す。高温側の範囲は、用いた原料磁粉の成分と種類によって異なるが、HDDRやアップセットなど内部組織の変化による磁気特性の劣化が著しい原料粉末については、800℃以下が好ましい。逆に、焼結磁石のように加熱温度が低すぎると磁気特性を発現せず、通常、加圧なしで1200℃まで加熱して用いられる原料磁粉の場合は1200℃程度まで加熱が可能である。ただし、このような高温では、成形型と原料磁粉、または表面修飾原料磁粉が反応して焼きついてしまう場合がある。このため、コーティング等の特殊な成形型の保護処理を施した成形型を用いる必要があり、不経済になる。したがって、加熱加圧成形を施す場合は、800℃以下で処理することが好ましい。加圧圧力については、50MPa以上であることが好ましい。成形圧力は焼きつきを生じない範囲で高いほど好ましく、200MPa以上が好ましく、より好ましくは400MPa以上である。
【0066】
なお、表面修飾原料磁粉には、加熱の前に、予め磁場中にて配向処理を施す必要がある。異方性を有する磁石粉末は、磁場中で配向処理を施すことで磁気方位がそろうため、優れた磁気特性を有する異方性の磁石成形体を得ることができる。なお、加える配向磁場は、通常1.2〜2.2MA/m程度であり、仮成形の圧力は、49〜490MPa程度である。磁場配向の際には、成形型の大きさや材質によって、成形型内の表面修飾原料磁粉が回転して磁化容易軸が磁場方向に配向するよう、配向磁場の調整が必要である。
【0067】
本工程のように、一旦加熱加圧成形を施すことで、HDDR磁石に見られる原料磁粉内部の気孔やクラックを圧着することができる。その結果、絶縁相の破損の起点となる磁石粒子の割れが抑制されうる。特に、HDDR磁石は、水素吸蔵−脱水素処理による体積変化を利用して粉砕された原料磁粉である。このため、内部のクラックが、希土類磁石成形体のバルク化工程で磁石粒子の割れの起点となり、高抵抗化のための絶縁相まで破損する。したがって、HDDR磁粉は希土類磁石成形体の高抵抗化を大きく阻害しているという問題があった。これに対し、本形態の製造方法を用いることで、磁石粒子内の割れを大幅に低減し、高抵抗化に寄与することが可能となる。
【0068】
なお、焼結磁石においても、原料粉末に直接、絶縁相を塗布すると、磁気特性が発現できなくなってしまうという問題があった。このため、従来の手法では、高抵抗化のための原料磁粉への絶縁相の被覆は不可能であった。これに対し、本形態の製造方法によれば、絶縁相を被覆しても磁気特性を維持できる程度のサイズを有する磁石粒子に加工することができる。
【0069】
(第3工程)
本工程では、上述した第2工程において得られた異方性希土類磁石を粉砕して得られる磁石粒子の表面に絶縁相を被覆する。これにより、磁石成形前駆体が得られる。
【0070】
まず、上記で得られた異方性希土類磁石を粉砕する。その後、必要に応じて篩等を用いて分級する。粉砕の具体的な手法について特に制限はないが、不活性ガス中または真空中で実施することが好ましい。磁石粒子の粒度分布についても特に制限はないが、嵩密度が高くなるように適宜調整することが可能である。本発明の特徴の1つは、従来の手法では困難であった、優れた磁気特性を備えた粗大な異方性の磁石粒子が、このように容易に得られるという点にある。
【0071】
本工程では、続いて、得られた磁石粒子の表面に絶縁相を被覆するが、これに先立ち、磁石粒子を磁石微粉末と混合して、これらを一体化させる工程を行ってもよい。かような工程を行った場合には、一体化により得られた磁石粒子が後述する被覆工程に供されることとなる。かような工程を行うと、磁石微粒子が磁石粒子の表面に吸着することで、加熱加圧成形中の絶縁相の破損が低減できる。その結果、より高い電気比抵抗が得られ、低発熱性に優れた希土類磁石成形体を得ることができる。ここではまず、磁石粒子を磁石微粉末と混合して一体化させる工程について、詳細に説明する。
【0072】
本工程は、磁石粒子の外周部に磁石微粒子を配するための処置である。
【0073】
磁石粒子との一体化に用いられる磁石微粒子は、電気比抵抗を向上させるという観点からいえば、原料磁粉であれば特に制限されない。しかし、磁石微粒子が磁石粒子と同一物質の粉砕物であると、不要かつ不利な化学反応による磁石粒子の劣化を伴わないため、好ましい。ここで、前記「同一物質」についてさらにいえば、経済性、作業性の観点では磁石粒子と磁石微粒子とが完全に同一の物質からなることが好ましい。より具体的に言えば、磁石粒子と磁石微粒子とが同一組成であれば、ボールミルやバレル研磨、ジェットミル等で研磨することにより、直ちに微細粒子が吸着して球状化した粉末が得ることができ、製造性に優れるため、好ましいのである。
【0074】
ただし、不要かつ不利な化学反応による磁石粒子の劣化を殆ど伴わない範囲においては、好適に実施されうる。例えば、軟化点の調整、液相の創出、液相の浸透性改善、異方性磁界向上、キュリー点上昇のために調整される成分であれば、残りの成分が互いに異なっている場合でも、本実施形態にかえって有利な効果を与えうる。ここで、前記軟化点の調整のために制御されうるパラメータは、Nd量の増大である。また、液相の創出のために制御されうるパラメータは、例えばDy、Nd量の増大である。さらに、液相の浸透性を改善しうる元素は、Al、Cu、Gaである。また、前記異方性磁界向上のために制御されうる成分は、複数の単磁区粒子(ドメイン)の向きをほぼ一致させて磁場を向上させるような成分であり、具体的には、Dy、Tb、Pr、Ho等である。キュリー点の向上のための元素としてはCoが一般的である。
【0075】
これらの元素は、磁石粒子100質量%に対して、磁石微粒子の60質量%以上が同一組成であることが好ましい。ここで、上記「60質量%以上」、すなわち、磁石粒子に対して磁石微粒子を同一組成60質量%以上とすることが好ましい理由について、より詳細に説明する。
【0076】
これらの元素の添加によって生じる化合物相は、主相であるNdFe14B(原子百分比)の比率を相対的に低減し、磁化や最大エネルギー積が損なわれるため、過度な添加は、不要かつ不利な劣化を生じる問題がある。
【0077】
一方、磁気特性(保磁力)を向上させるには、DyやTb等の元素を含有することが効果的であることが知られている。例えば、焼結磁石では二合金法として、NdFe14Bの主相がリッチな低希土類組成の原料磁粉と、高DyでNdやDyなどの希土類元素を主相化学量論組成より過剰に含有した高希土類組成の原料磁粉とを混合する手法が知られている。また、低希土類組成の原料磁粉から得られた希土類磁石成形体の表面にDyを粒界拡散させる手法が知られている。
【0078】
本形態においても、磁気特性(保磁力)向上の目的で希土類元素、なかでもDyやTbを磁石粒子より過剰に含有した磁石微粒子を用いることで、二合金法や粒界拡散磁石と同様に高磁気特性(保磁力)化の効果が得られる。その上、絶縁相の内部に低融点の合金層が形成されることで、バルク化工程における加圧成形時の割れを低減し、電気比抵抗にも優れた磁石成形体を得ることができるのである。
【0079】
このように、希土類元素を過剰に含有した磁粉を大量に用いた場合、電気比抵抗、磁気特性(保磁力)や耐熱性は向上しうる。その反面、前述のように主相であるNdFe14B(原子百分比)の比率が減少し、磁化性及び最大エネルギー積が低下しうる。そこで、磁石粒子に対する磁石微粒子の含有率を40体積%以下とすると、磁化性や最大エネルギー積を過度に低減させることを回避でき、好適である。
【0080】
本実施形態においては、磁石粒子の表面に吸着する等して磁石粒子と一体化する磁石微粒子における磁石微粒子の平均粒径が、磁石粒子のそれよりも大きすぎると球状化が阻害される。また、磁石微粒子のみならず、原料である磁石粒子まで磁化すると、磁石粒子同士が一体化(吸着)するため、所定の効果を得ることができない。したがって、磁石微粒子を磁化させた状態で、これを原料である磁石粒子に吸着等させることによって、磁石粒子を球状化することが好ましい。加えて、磁石微粒子は独立した粒子として振る舞うため、一体化の程度を一層高める観点から、磁石微粒子の平均粒径は自発磁化可能である限り、小さいほど好ましい。
【0081】
具体的には、磁石粒子の平均粒径に対して磁石微粒子の平均粒径は、1/10以下であることが好ましく、1/20以下がより好ましい。また、磁石粒子が球状化するには、磁石微粒子が磁石として磁石粒子に吸着する必要がある。そのため、磁石微粒子の平均粒径が大きすぎると、多磁区構造をとり、磁石粒子に磁石微粒子が吸着することが困難になる。外部から着磁処理を施さなくても、磁石微粒子が磁石としての特性を発現して、磁石粒子に吸着するには、単磁区構造をとる程度の大きさであることが好ましいため、磁石微粒子の平均粒径は30μm以下が好ましく、さらには20μm以下が好ましい。
【0082】
磁石微粒子、磁石粒子の粒径の計測は、SEMにより得られたイメージより、無作為(但し1μm以上のもの)に選択した50個の磁石微粒子、または磁石粒子の長軸及び短軸を測定し、それらの平均を算出して得られる値を意味する。
【0083】
ここで、吸着、粒径および磁化の相関性についてより詳細に説明する。磁石微粒子は、一定以上の粒径を有している場合には、異なる方向に磁化されたいくつかの磁区に分割されて多磁区化し、磁石粒子全体としては磁化を持たない状態になる。これに対し、磁石粒子が、本実施形態における磁石微粒子のような一定以下の粒径を有する場合、単磁区化することとなり、磁石微粒子が一方向に磁化された1個の磁石となる。かかる磁石微粒子が磁石粒子に磁力によって吸着すれば、磁石粒子に均一に吸着することができ、磁石粒子や磁石微粒子が不均一に吸着、凝集することがない。換言すれば、適度に球状化した磁石粒子と磁石微粒子との一体化構造が得られるのである。
【0084】
なお、磁石粒子と磁石微粒子との一体化の形態については、磁石微粒子がクラスター状に凝集している場合や、絶縁相中に混在している場合もある。
【0085】
磁石粒子と磁石微粒子との一体化の手法については、例えば、単に磁石微粒子を磁石粒子に混合することにより、上述の技術的原理を充足する本願所望の形態が得られる。しかし、前述のように、磁石粒子を表面研磨処理することによって磁石微粒子を得ることがより好ましい。
【0086】
表面研磨処理としては、特に制限されることはないが、単磁区粒子が得られやすいという理由から、ボールミルやバレル研磨処理が好ましい。また、より好ましくは、研磨量をより少なくできるとともに、微粒子の粒径をより小さくできるという点から、ボールミルを用いることが好ましい。この際、生成した磁石微粒子および表面研磨後の磁石粒子における新生面が酸化しないようにするため、処理時の雰囲気を制御することが好ましい。具体的には、真空または不活性ガス中での研磨、あるいは十分に脱水された有機溶剤中での湿式の研磨が好適である。
【0087】
磁石粒子と後述の工程により作製される絶縁相との間に、磁石粒子よりも微細な磁石微粒子が存在すると、以下のような利点がある。すなわち、磁石微粒子が鋭利な突起を多数有する磁石粒子の隙間に入り込み、磁石粒子と磁石微粒子とが一体化し、形状はほぼ球形となるのである。その結果、後述する工程において絶縁相を形成し、これを加熱加圧成形(焼結を含む)する際に、亀裂の伝播を効果的に防ぐことができる。換言すれば、本実施形態における上記の磁石粒子と磁石微粒子との一体化構造が、鋭利な突起に起因した絶縁相の破損および原料である磁石粒子自体の割れを効果的に防止するのである。
【0088】
さらに、上記の一体化工程は、製造される希土類磁石成形体の磁気特性の向上にも貢献する。その原因は、次のように推定される。絶縁相の原料(絶縁被覆材)と磁石成分との化学反応は、絶縁相と磁石成分との間で積極的に進行する。この際、磁石微粒子が磁石粒子との隙間を埋めるように存在するため、上記の化学反応は、少なくとも磁石粒子の内部まで進行することが殆どなくなる。なお、この化学反応は磁石粒子に達する前に、主として、磁石粒子と絶縁相との間の少なくとも一部に存在する磁石微粒子と前記絶縁相とから形成された「反応層」で起こる。したがって、前記反応層は、絶縁被覆材による反応層の磁石粒子内部への浸透を阻害し、磁石粒子内部での絶縁被覆材と磁石粒子との化学反応による磁石粒子の劣化を全体的に抑制する役割も果たす。そのため、磁石粒子本来の優れた磁気特性を、圧密化後であっても維持することができる。さらに、絶縁相の亀裂を防止することにより、磁石粒子間の亀裂の伝播を一層効果的に防止しうると推定される。
【0089】
本工程では、続いて、粉砕により得られた磁石粒子の表面に絶縁相を被覆する。これにより、磁石成形前駆体が得られる。
【0090】
磁石粒子に絶縁性材料(希土類酸化物など)を被覆して絶縁相を形成する手法として、例えば、物理気相蒸着(PVD)法および化学気相蒸着(CVD)法などによる蒸着法、並びに磁石粒子に塗布した希土類錯体を酸化させる方法などを用いることができる。
【0091】
上記の蒸着法によれば、高純度の希土類酸化物からなる理想的な絶縁相を形成できる反面、コストが高くなる場合がある。そのため、前記一体化した磁石粒子及び磁石微粒子を絶縁相で被覆する工程は、希土類錯体を含む溶液を磁石粒子または、磁石粒子と磁石微粒子が一体化した粒子に塗布する段階と、前記希土類錯体を熱分解して酸化物化させて希土類酸化物とする段階とからなる方法を採用することが好ましい。すなわち、上記の2段階からなる方法を用いることにより、溶液を用いることによって均一な厚さの絶縁相が得られる。加えて、磁石粒子に対する密着性及び酸化物に対する濡れ性に優れた絶縁相を有する磁石成形前駆体が得られる。
【0092】
上記の希土類錯体としては、希土類元素を含有し、磁石粒子や磁石微粒子に絶縁相を被覆することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、Rで表される希土類錯体を用いることができる。ここで、Rはイットリウム(Y)を含んでもよい希土類元素を表す。Rの具体例としては、上記イットリウム(Y)の他、ジスプロシウム(Dy)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)が挙げられる。なかでも好ましくはNd、Dy、Tb、Pr、Hoである。
【0093】
一方、Lは有機物の配位子であって、(CO(CO)CHCO(CH))−、(CO(C(CH)CHCO(CCH))−、(CO(C(CH)CHCO(C))−、及び(CO(CF)CHCO(CF))−、並びにβ−ジケトナトイオン等の陰イオンの有機基を表す。なお、例えば、(CO(CO)CHCO(CH))−における「−」は結合手を表し、ここで列挙した他の化合物についても同様である。
【0094】
また、絶縁相の形成の際には、メタノール、エタノール、n−プロパノールや2−プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンやジエチルケトン等のケトン類、またはヘキサン等を用いてもよい。Rを溶解させ得るこれらの低沸点溶媒に溶解させて塗布することができる。
【0095】
なお、希土類磁石は水分により容易に酸化され、磁気特性を損なうので、これらの溶媒においては無水物を使用の上、予めゼオライト等で脱水処理を施すなどして、水分の混入を防止することが好ましい。
【0096】
磁石粒子および磁石微粒子への塗布は、たとえば、酸素濃度と露点が管理されたグローブボックス内で、適宜、ビーカ等の容器に移した粒子を撹拌しながら、上記の希土類錯体溶液を滴下して、全体に行き渡らした後、乾燥することで被覆できる。溶液の滴下と乾燥は、適宜、繰り返してもよい。
【0097】
(第4工程)
本工程では、上述した第3工程において得られた磁石成形前駆体を加圧下で加熱する。これにより、希土類磁石成形体が完成する。
【0098】
第3工程において得られた磁石成形前駆体は、前述の表面修飾磁粉の加熱加圧成形と同様の手法を用いて希土類磁石成形体に加工できる。ただし、磁石成形前駆体には、絶縁相が磁石粒子や磁石微粒子を被覆するように存在する。このため、通常の焼結磁石のように加熱するのみでは、磁石粒子、磁石微粒子同士の液相焼結による高密度化が進行せず、加圧が不可欠である。
【0099】
加熱加圧成形には、放電プラズマ焼結やホットプレスなどが使用できる。金型に磁石成形前駆体を挿入し、磁場中配向処理を施した後、550℃以上の高温で加熱加圧成形を施す。
【0100】
加熱加圧成形中の雰囲気は、原料や成形型の酸化防止のため、高真空か不活性ガス雰囲気が好ましい。真空は0.1Pa以下の高真空が好ましい。
【0101】
加熱温度については、前述の表面修飾磁粉の加熱加圧成形と同様に、高温側の範囲は、用いた原料磁粉の成分と種類によって異なる。一般的には、加熱加圧成形を施す場合は、絶縁相の存在により表面修飾磁粉より緻密化が困難なため、より高温で焼結することが好ましい。ただし、HDDRやアップセットなど内部組織の変化による磁気特性の劣化が著しい原料粉末については、800℃以下に制約される。一方、焼結磁石のように加熱温度が低すぎると磁気特性を発現せず、通常、加圧なしで1200℃まで加熱して用いる原料磁粉の場合は1200℃程度まで加熱が可能である。ただし、コーティング等の特殊な成形型の保護処理を施した成形型を用いる必要が生じる点は、前述の表面修飾磁粉の加熱加圧成形と同様であり、通常は、950℃以下で加熱加圧成形することが好ましい。
【0102】
成形圧力については50MPa以上であることが好ましく、焼きつきを生じない範囲で、高いほど好ましい。具体的には、200MPa以上が好ましく、より好ましくは400MPa以上である。なお、大きすぎると成形型が破損するため、用いた成形型の形状と材質によって上限値はおのずと制約を受ける。加圧は、室温から加熱中に一定の加圧力を維持してもよいし、所定の温度に到達後に加圧力を増減するような、段階的に加圧力を調節するような行為を行ってもよい。
【0103】
通常は、高温に到達してから加圧力を増大した方が、磁石粒子と絶縁物質との反応が抑制されるため、磁気特性(保磁力)や電気比抵抗に優れる傾向があり、室温から大きな加圧力を付与すると高密度化が促進される利点がある。
【0104】
加熱加圧成形により得られた希土類磁石成形体には、磁気特性向上のため熱処理を施すことが好ましい。熱処理は、少なくとも熱処理温度を400〜600℃とし、0.5時間以上実施する熱処理を施すことが好ましい。加圧成形に伴う残留歪の除去や、内部欠陥の修復が促進される効果がある。さらに、用いた原料磁粉によっては、400〜600℃の熱処理に先立って、適宜600〜800℃で10分以上の熱処理を施した、多段階の熱処理にすることで効果が顕著になる場合もある。
【0105】
続いて、本発明のさらに他の形態である、モータについて説明する。具体的には、本発明に係るモータは、上述した本発明に係る磁性体成形体や、同様に上述した本発明に係る製造方法によって製造された磁性体成形体を用いてなるモータである。参考までに図4に、本発明の磁石成形体が適用された集中巻の表面磁石型モータの1/4断面図を示す。図4中、11はu相巻線、12はu相巻線、13はv相巻線、14はv相巻線、15はw相巻線、16はw相巻線、17はアルミケース、18はステータ、19は磁石、20はロータ鉄、21は軸である。本発明により提供される磁石成形体は、高い電気抵抗を有し、その上、保磁力等の磁石特性にも優れる。このため、当該磁石成形体を用いて製造されたモータを利用すれば、モータの連続出力を高めることが容易に可能であり、中出力〜大出力のモータとして好適といえる。また、本発明に係る磁石成形体を用いたモータは、保磁力等の磁石特性が優れるために、製品の小型軽量化が図れる。例えば、自動車用部品に適用した場合には、車体の軽量化に伴う燃費の向上が可能である。さらに、特に電気自動車やハイブリッド電気自動車の駆動用モータとしても有効である。これまではスペースの確保が困難であった場所にも駆動用モータを搭載することが可能となり、電気自動車やハイブリッド電気自動車の汎用化に大きな役割を果たすと考えられる。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、以下の実施例によって本発明の技術的範囲は何ら限定されるものではない。
【0107】
[実施例1]
原料磁粉として、HDDR法を用いて調製したNd−Fe−B系異方性磁石の粉末を用いた。具体的な調製の手順は以下の通りである。
【0108】
まず、「Nd:12.6%、Co:17.4%、B:6.5%、Ga:0.3%、Al:0.5%、Zr:0.1%、Fe:残部(質量%)」の成分組成を有する鋳塊を準備し、この鋳塊を1120℃にて20時間保持して均質化した。さらに、均質化した鋳塊を水素雰囲気下で室温から500℃まで昇温させて保持し、さらに850℃まで昇温させて保持した。
【0109】
引き続いて850℃の真空中に保持した後、冷却して微細な強磁性相の再結晶組織を有する合金を得た。この合金をジョークラッシャーおよびブラウンミルを用いて、アルゴン雰囲気下で粉体化し、平均粒径300μmの希土類磁石原料磁粉を得た。なお、粒径が25μm未満の粒子および粒径が525μm以上の粒子については、篩を用いて除去した。
【0110】
続いて、真空スパッタ装置を用い、DyCoNd合金をターゲット材として、当該合金を得られた原料磁粉の表面に被覆することにより、表面修飾原料磁粉を得た。なお、被覆に用いたDyCoNd合金は、以下のような手法で準備した。すなわち、まず、46.8%Nd−13.2%Dy−20.5%Co−0.5%B−0.3%Al−bal.Fe(質量%)の成分組成を有する鋳塊を準備し、この鋳塊を1120℃にて20時間保持して均質化した。その後、ジョークラッシャーおよびブラウンミルを用い、アルゴン雰囲気下で粉体化した。得られた粉末を約φ50×20mmの円盤ディスク状に成形し、アルゴン雰囲気下で1050℃にて焼結した。なお、均質化後、本合金を直接円盤ディスクに加工して用いても特に問題はない。
【0111】
被覆の際、原料磁粉を円筒状のガラスシャーレに挿入し、ガラスシャーレを断続的に回転させて原料磁粉の全表面にターゲット材からのスパッタ粒子が行き渡るようにした。同時に、ガラスシャーレ内にスクラバーを設けて、シャーレが回転する度に、粉末がスクラバーで掻きあげられる仕組みとし、粉末を撹拌した。この手法によってスパッタ時間を調整することにより、所定の膜厚のDy、Co、およびNdを含有する合金を被覆し、表面修飾原料磁粉を得たのである。本実施例では、20gの原料磁粉をシャーレに投入し、5×10−5Paの真空条件下で、アルゴンガスを用いて合計150分間スパッタを行い、シャーレは1分毎に10秒間、5rpmの速度で断続的に回転させた。得られた表面修飾原料磁粉の表面を、AES解析にて表面から深さ方向の元素分布を解析した。その結果、約0.5μmのDy、Co、およびNdを含有する合金層が形成されていることが確認された。
【0112】
続いて、表面修飾磁粉20gを20mm×20mmのプレス面を有する金型に充填し、室温にて磁場配向させながら仮成形した。この際の配向磁場は1.6MA/mとし、成形圧力は20MPaとした。
【0113】
仮成形された仮成形体を5×10−5Pa台の真空条件下で加熱加圧成形することによって、バルク磁石に加工した。この加熱加圧成形は、放電プラズマ焼結装置等の電磁プロセス技術でも、HIP等の静水圧加圧プロセスでも、加熱と加圧が同時にできるプロセスであれば特に何を用いてもかまわない。ここでは、この成形にはホットプレスを用い、昇温中も一定の成形圧力(200MPa)を保持した。これと同時に、成形温度700℃にて1分間保持し、その後冷却することにより、20mm×20mm×約5mmの寸法を有する希土類磁石に加工した。なお、冷却中も室温まで真空条件を保持した。
【0114】
次いで、得られた希土類磁石(バルク磁石)をハンマーで機械的に粉砕し、25〜525μmの粒径を有する粒子を篩で分級して、磁石粒子として回収した。なお、得られた磁石粒子の平均粒径は、約350μmであった。
【0115】
その後、以下の手法により、得られた磁石粒子の表面に絶縁相を被覆した。
【0116】
磁石粒子の表面に絶縁相を形成する際には、まず、希土類アルコキシドであるジスプロシウムトリイソプロポキシド(株式会社高純度化学研究所製)を塗布した。次いで、ジスプロシウムトリイソプロポキシドを加熱処理することにより重縮合させ、希土類酸化物を表面に固着させることで、絶縁相を被覆した。絶縁相の形成から磁石の成形に至るまでの詳細な手順は、以下の通りである。
【0117】
(1)露点が−80℃以下のアルゴンガスを満たしたグローブボックス内で、希土類アルコキシドであるジスプロシウムトリイソプロポキシド20gに、有機溶媒として脱水ヘキサンを加えて溶解し、全量が100mLのジスプロシウム表面処理液を調製した。ICPにて、溶液残渣中のDy濃度を分析した結果、5.7mg/mLであった。
【0118】
(2)アルゴン雰囲気としたグローブボックス内で、上記で調製したジスプロシウム表面処理液85mLを、上記で得られた磁石粒子10gに添加し、攪拌した。次いで、溶媒を除去し、磁石粒子の表面に、希土類アルコキシド(ジスプロシウムトリイソプロポキシド)を被覆した。
【0119】
(3)上記の操作により得られた皮膜を有する磁石粒子を、真空中で350℃にて30分間熱処理した。引き続き、600℃で60分間熱処理を実施して錯体を熱分解することにより、磁石粒子を絶縁相で被覆した磁石成形前駆体を得た。
【0120】
絶縁相を形成した磁石成形前駆体の断面をSEM観察した結果、希土類酸化物からなる絶縁相の厚さは、厚いところで約4μmであった(図示せず)。また、薄いところでは、AES解析によって表面からの酸素の浸透深さを測定した結果、約100nmであった(図示せず)。
【0121】
次に、上記で得られた磁石成形前駆体4gを10mm×10mmのプレス面を有する金型に充填し、室温で磁場配向させながら仮成形した。この際の配向磁場は1.6MA/mとし、成形圧力は20MPaとした。
【0122】
仮成形された上記磁石成形前駆体を5×10−5Pa台の真空条件下で加熱加圧成形することによって、バルク磁石に加工した。この加熱加圧成形は、加熱と加圧が同時にできるプロセスであれば特に何を用いてもかまわない。ここでは、成形にはホットプレスを用い、昇温中も一定の成形圧力(490MPa)を保持した。これと同時に、成形温度650℃にて3分間保持し、その後冷却することにより、10mm×10mm×約4mmの寸法を有する希土類磁石成形体に加工した。なお、冷却中も室温まで真空を保持した。最後に、得られた希土類磁石成形体に対して、600℃にて1時間の熱処理を施した。
【0123】
このようにして得られた希土類磁石成形体について、磁気特性(保磁力)(iHc)(単位:kA/m)及び電気比抵抗(単位:μΩm)を測定した。なお、磁気特性(保磁力)の測定には、東英工業株式会社製パルス励磁型着磁器MPM−15を用いた。具体的には、着磁磁界10Tにて予め試験片を着磁した後、東英工業株式会社製BH測定器TRF−5AH−25Autoを用いて測定した。また、電気比抵抗の測定には、エヌピイエス株式会社製抵抗率プローブを使用した4探針法によって測定した。ここで、プローブの針材料にはタングステンカーバイドを採用し、針先端半径を40μm、針間隔を1mm、4本の針の総荷重を400gとした。
【0124】
また、得られた磁石成形体を磁場配向方向と平行な面で切り出した断面について、組織観察を行い、さらに、EBSP解析およびWDX解析にて偏析部の線分析を解析して、偏析領域の有無を確認した。なお、ここでいう偏析領域とは、固溶元素のゆらぎ程度の偏析ではなく、AES法やEPMA法といった線分析でのCPSカウントによる線分析にて有意差がとれるレベルである。なお、かような手法により確認される偏析領域は、同時に、光学顕微鏡またはSEMによる観察で、コントラストや色調により十分に識別されうるものである。図1に磁石粒子内部に存在する偏析領域を観察した結果を示し、図5に偏析領域をAES法により解析した結果を示す。本実施例において、偏析領域の存在の有無は、図5に示すように、AES法によるCPSカウントから求めた原子%で偏析領域と磁石粒子内部との間で平均濃度に3%以上の差がみられる場合に、偏析領域が存在するとした。この際、偏析領域の有無の確認には、短辺が20μm以上の磁石粒子を対象として、任意の100個以上の磁石粒子について組織観察を実施した。そして、偏析領域および偏析元素が同定できた部位を含有する磁石粒子の存在割合が、全磁石粒子の30%以上存在する場合に、磁石成形体が偏析領域を有するものとした。
【0125】
以上の評価結果を表1に示す。表1に示す磁気特性(保磁力)および電気比抵抗の値は、後述する比較例1または比較例4の値を1.00とした場合の相対値である。
【0126】
[実施例2]
希土類アルコキシドとして、ジスプロシウムトリイソプロポキシドに代えてプラセオジウムトリイソプロポキシドを用いてPr酸化物からなる絶縁相を形成したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。なお、プラセオジウム表面処理液のPr濃度は、都度ICPにて分析し、磁石粒子10gに対して、合計40mgの塗布量になるように、溶液塗布量を調整した。
【0127】
[実施例3]
原料磁粉として、HDDR法により作製された原料磁粉に代えて、焼結磁石用の原料磁粉を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0128】
なお、原料磁粉は以下の手法により調製した。
【0129】
Nd:31.8、B:0.97、Co:0.92、Cu:0.1、Al:0.24、残部:Fe(質量%)の組成を有するように配合した合金をストリップキャスト法により厚さ0.2〜0.3mmの合金薄帯に加工した。次いで、この合金薄帯を容器内に充填し、水素処理装置内に収容した。そして、水素処理装置内を圧力500kPaの水素ガス雰囲気で満たすことにより、室温で合金薄帯に水素吸蔵させた後、アルゴンガスに置換し、さらに10−5Paまで減圧させて、水素放出させた。このような水素処理を行うことにより、合金薄帯から大きさ約0.15〜0.2mmの不定形粉末に加工した。
【0130】
上記の水素処理により作製した粗粉砕粉末100質量%に対し、粉砕助剤として0.05質量%のステアリン酸亜鉛を添加し混合した後、ジェットミル装置による粉砕工程を行うことにより、平均粒径が約3μmの微粉末を作製した。
【0131】
得られた微粉末をプレス装置により成形し、粉末成形体を作製した。具体的には、印加磁界中で微粉末を磁場配向した状態で圧縮し、プレス成形を行った。配向磁場は1.6MA/mとし、成形圧力は20MPaとした。その後、成形体をプレス装置から抜き出し、真空炉により1020℃にて4時間焼結して、焼結体のバルク磁石を作製した。
【0132】
得られたバルク磁石をハンマーで機械的に粉砕し、25〜355μmの粒径を有する粒子を篩で分級し、原料磁粉として回収した。得られた原料磁粉の平均粒径は、約230μmであった。
【0133】
また、本実施例においては、原料磁粉の変更に伴い、磁石成形前駆体の加熱加圧成形条件を変更した。具体的には、成形圧力を200MPaとし、成形温度を720℃とした。
【0134】
本実施例においては、表面修飾原料磁粉のAES解析は省略したが、原料磁粉の粒径の外観とスパッタ前後の粉末の重量変化より、実施例1と同程度の厚さのDy、Co、およびNdを含有する合金層が形成されているものと判断した。
【0135】
得られた磁石粒子へ絶縁相を被覆し、磁石成形前駆体を作製する工程も、実施例1と同様の手法を採用した。ただし、この際のホットプレスにおける加圧加熱成形条件としては、昇温中も一定の成形圧力(490MPa)を保持するとともに、成形温度870℃にて3分間保持し、その後冷却した。これにより、10mm×10mm×約4mmの寸法を有する希土類磁石成形体に加工した。なお、この際、冷却中も室温まで真空を保持した。また、750℃以上の加熱に際しては、金型と磁石成形体の融着を防止するため離型剤としてカーボンシートを用いた。さらに、最終的に、得られた希土類磁石成形体に対して、600℃にて2時間の熱処理を施した後、800℃にて1時間の熱処理を施した。
【0136】
[実施例4]
原料磁粉を表面修飾して表面修飾原料磁粉を得る際に、合金のスパッタリングに代えて、DyCo合金の水素化物の粉末を原料磁粉と混合して当該粉末を溶融するという手法を採用したこと以外は、上述した実施例3と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0137】
原料磁粉を表面修飾原料磁粉に加工する際には、原料磁粉をDyCo合金(水素化物)の微粒子と混合して真空中で加熱することにより、脱水素による融点低下とともにDyCo合金を溶融させ、原料磁粉の表面に付着させた。
【0138】
DyCo合金の微粉末は、35%Dy−65%Co(質量%)の組成の合金を溶製し、水素吸蔵による体積変化を利用して粗粉砕した後、さらにボールミルで粉砕することにより、調製した。得られたDyCo水素化物の微粉末と原料磁粉とを1:9(質量比)の割合で混合し、約740℃にて真空条件下で加熱することにより、表面修飾原料磁粉を得た。
【0139】
[実施例5]
スパッタリングのターゲット材として、φ100×5t(mm)のDy純金属を用いたこと以外は、上述した実施例3と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0140】
[実施例6]
原料磁粉を表面修飾して表面修飾原料磁粉を得る際に、合金のスパッタリングに代えて、DyCo合金の水素化物の粉末を原料磁粉と混合して当該粉末を溶融するという手法を採用したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。なお、表面修飾原料磁粉を得る具体的な手法については、上述した実施例4において説明したとおりである。
【0141】
[実施例7]
磁石粒子の表面に絶縁相を被覆する際に、真空蒸着により絶縁相を被覆するという手法を採用したこと以外は、上述した実施例6と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0142】
本実施例における具体的な絶縁相の被覆手法は、以下のとおりである。
【0143】
得られた磁石粒子(25〜525μmまでの粒径を有する粒子、平均粒径=約350μm)15gをガラスシャーレに入れた。次いで、ガラス製の攪拌器で磁石粒子を攪拌した。この撹拌と同時に、カソード電極としてDy金属(純度99.9%、φ8mm)を備えたプラズマ発生装置を用い、10−4Paオーダーの真空条件下、真空アーク放電により磁石粒子の表面に、絶縁相として厚さ50nmのDy皮膜を形成した。なお、上記装置を用いて予めシリコン基板上に成膜する実験を行ない、放電回数と膜厚との関係を求めておき、これに基づいて所望の膜厚が得られる放電回数を決定しておいた。
【0144】
その後、上記装置に酸素を流入させて真空度を10−2Paオーダーにまで変化させ、上記で形成したDy皮膜上にさらに厚さ200nmのDy皮膜を形成した。形成された皮膜の結晶構造をX線解析により分析したところ、アモルファス状態であった。
【0145】
Dy皮膜が形成された粉末を、20cc/minのアルゴン気流中で500℃にて15分間加熱した。これにより、結晶化したDyを最外部に有する磁石成形前駆体を得た。得られた被覆粉末をDSCにより700℃まで解析したが、成膜物質の結晶化以外に特に溶融現象は認められなかった。
【0146】
なお、予めSi基板上に同様のDyを形成させた試料を用いて、電気比抵抗を4探針法にて測定し、絶縁性が十分高い皮膜であることを確認した(オーバーレンジで測定不能)。
【0147】
[実施例8]
スパッタリングのターゲット材として、Dy−Tb−Pr−Co合金を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0148】
上記合金については、市販のPr粉末10g、Dy粉末30g、Tb粉末10g、およびCo50gの合計100gを真空アーク溶解にて合金化し、メタルボタンを作製した。そして、得られた合金を水素吸蔵処理して粗粉砕し、水素化物の粉末を得た。さらに、ハンマーおよびボールミルを用いて粉砕した後、ホットプレス焼結にてφ50mmのディスク状のターゲット材に加工した。ここで、水素吸蔵は、体積変化による亀裂の進展と粗粉砕ができればよく、ホットプレスはバルク化ができれば、任意の条件で実施可能である。ターゲット材の組成は、Pr、Tbの酸化抑制のためCoを添加したが、目的とする偏析元素と濃度に応じて、任意の組成が選択されうる。
【0149】
[実施例9]
希土類アルコキシドとして、ジスプロシウムトリイソプロポキシドに代えてイットリウムトリイソプロポキシドを用いてY酸化物からなる絶縁相を形成したこと以外は、上述した実施例6と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0150】
[実施例10]
スパッタリングのターゲット材として、上述した実施例5において用いたDy純金属を用い、磁石粒子への絶縁相の被覆を上述した実施例9と同様の手法により実施したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0151】
[実施例11]
カソード電極として、Dy金属に代えて30%Tb−15%Pr−10%Ho−bal.Co合金を用いたこと以外は、上述した実施例7と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。なお、上記合金については、Tb、Pr、HoのCo合金を真空アーク溶解にて母合金として調製し、ICPにて濃度分析を行った上で、所定の濃度になるように母合金を混合して、高周波真空溶解にて合金を溶製した。得られた鋳造合金から、機械加工にてφ8mmの電極を加工した。
【0152】
[実施例12]
磁石粒子に絶縁相を被覆して磁石成形前駆体へと加工する際に、ボールミルを用いて磁石粒子にバレル研磨を行ったこと以外は、上述した実施例6と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。なお、バレル研磨の具体的な手法は以下のとおりである。
【0153】
まず、得られた磁石粒子を篩にて分級し、100μm以上525μm未満の粒径を有する磁石粒子30gを、研磨砥石(チップトンSC−4)55gとともに、露点−80℃のアルゴン気流中のグローブボックス内で内径φ55×60のSUS製ポットに挿入した。さらに、ヘキサンを30mL加え、挿入物全体を浸漬させた後、ポットの蓋をして遊星ボールミル(フレッチェ製)にて300回転で2時間攪拌し、磁石粒子の表面研磨を実施した。
【0154】
研磨終了後、容器をグローブボックス内に移して開封し、大気に触れないように乾燥させた。研磨中に生成した磁石微粒子は非常に微細であり、直ちに被研磨対象である磁石粒子に吸着するため、ほぼ球状の磁石粒子と磁石微粒子の混合体が得られた。
【0155】
図3は、本実施例における磁石微粒子および絶縁相の拡大図に相当する。本実施例では、短辺が20μm以上の磁石粒子を対象として、任意の150個以上の磁石粒子について、200倍で組織観察を行った。その結果、磁石粒子間に位置する磁石微粒子と絶縁相との境界が明瞭に分離できない混合した状態が、全境界の約40%存在した。
【0156】
[実施例13]
磁石粒子へ絶縁相を被覆して磁石成形前駆体へと加工する前の時点で、上述した実施例12と同様の手法により、磁石粒子にバレル研磨を行ったこと以外は、上述した実施例7と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0157】
[実施例14]
磁石粒子へ絶縁相を被覆して磁石成形前駆体へと加工する前の時点で、上述した実施例12と同様の手法により、磁石粒子にバレル研磨を行ったこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0158】
[実施例15]
磁石粒子へ絶縁相を被覆して磁石成形前駆体へと加工する前の時点で、上述した実施例12と同様の手法により、磁石粒子にバレル研磨を行ったこと以外は、上述した実施例5と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0159】
[実施例16]
磁石粒子へ絶縁相を被覆して磁石成形前駆体へと加工する前の時点で、上述した実施例12と同様の手法により、磁石粒子にバレル研磨を行ったこと以外は、上述した実施例3と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0160】
[実施例17]
Dy濃度の異なる2種類の原料磁粉の混合粉末をバルク化し、粉砕したものを磁石粒子として用いたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0161】
具体的には、まず、「Nd:12.6%、Co:17.4%、B:6.5%、Ga:0.3%、Al:0.5%、Zr:0.1%、Fe:残部」の成分組成を有する鋳塊を準備し、上述した実施例1と同様の手法により原料磁粉と同様の状態に加工した。
【0162】
一方、「Nd:12.0%、Dy:8.5%、Co:17.4%、B:6.5%、Ga:0.3%、Al:0.5%、Zr:0.1%、Fe:残部」の成分組成を有する鋳塊を準備し、同様の手法により原料磁粉と同様の状態に加工した。
【0163】
上記で得られた2種類の原料磁粉を、重量比で1:1に混合し、本実施例における磁石粒子として使用した。
【0164】
[比較例1]
原料磁粉へのDyCoNd合金の塗布による表面修飾、および、磁石粒子への絶縁相の被覆を行わなかったこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0165】
[比較例2]
原料磁粉へのDyCoNd合金の塗布による表面修飾を行わなかったこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。本実施例において得られた希土類磁石成形体の組織観察結果を、偏析領域が認められない例として図6に示す。
【0166】
[比較例3]
DyCo合金の水素化物を用いた原料磁粉の表面修飾を行わなかったこと以外は、上述した実施例6と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0167】
[比較例4]
DyCo合金の水素化物を用いた原料磁粉の表面修飾、および、磁石粒子への絶縁相の被覆を行わなかったこと以外は、上述した実施例4と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0168】
[比較例5]
DyCo合金の水素化物を用いた原料磁粉の表面修飾を行わなかったこと以外は、上述した実施例4と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0169】
[比較例6]
DyCo合金の水素化物を用いた原料磁粉の表面修飾を行わなかったこと以外は、上述した実施例12と同様の手法により、希土類磁石成形体を得た。
【0170】
[比較例7]
DyCoNd合金の被覆による原料磁粉の表面修飾を行わなかったこと以外は、上述した実施例16と同様の手法により、希土類磁石成形体を作製した。
【0171】
【表1】

【0172】
表1に示す結果から、磁石粒子内部に所定の偏析領域が存在すると、高い磁気特性(保磁力)および高い電気比抵抗の両立が可能となり、低発熱な希土類磁石成形体が得られることが示される。また、磁石粒子間に位置する磁石微粒子と絶縁相とが混合した領域が存在すると、より一層電気比抵抗が高く低発熱な磁石成形体が得られる。
【0173】
実施例3〜5と実験例6〜10との比較によれば、原料磁粉としてHDDR磁石粉末を用いた方が、電気比抵抗に優れる希土類磁石粉末が得られることがわかる。
【0174】
また、実施例1、2および実施例6〜11の比較によれば、絶縁相としてNd、Dy、Tb、Pr、Hoを含むと、それ以外の希土類からなる絶縁相と比較して、より電気比抵抗に優れた磁石成形体が得られることがわかる。
【0175】
以上の結果から、本発明によれば、高い磁気特性(保磁力)を備えた低発熱な希土類磁石成形体が得られ、電気自動車等のモータにおいて、より小型で高性能なモータを提供することができる。
【符号の説明】
【0176】
1 希土類磁石成形体、
2 希土類磁石粒子、
3 絶縁相、
4 偏析領域、
5 凝集領域、
11 u相巻線、
12 u相巻線、
13 v相巻線、
14 v相巻線、
15 w相巻線、
16 w相巻線、
17 アルミケース、
18 ステータ、
19 磁石、
20 ロータ鉄、
21 軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石粒子と前記磁石粒子間に存在する絶縁相とを含む希土類磁石成形体であって、
Dy、Tb、Pr、およびHoからなる群から選択される1種または2種以上の元素が偏析した偏析領域が前記磁石粒子内部に分散して存在することを特徴とする、希土類磁石成形体。
【請求項2】
自発磁化可能な粒径を有し、平均粒径が前記磁石粒子の平均粒径よりも小さい磁石微粒子が凝集した凝集領域が、前記磁石粒子の外周部の少なくとも一部に存在する、請求項1に記載の希土類磁石成形体。
【請求項3】
前記磁石微粒子が前記絶縁相と混合されてなる領域が存在する、請求項2に記載の希土類磁石成形体
【請求項4】
前記偏析領域がCoを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の希土類磁石成形体。
【請求項5】
前記偏析領域がNdをさらに含む、請求項4に記載の希土類磁石成形体。
【請求項6】
前記磁石粒子が、HDDR法を用いて製造された原料磁石粉末を加工することにより作製されたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の希土類磁石成形体。
【請求項7】
前記絶縁相が、Nd、Dy、Tb、Pr、およびHoからなる群から選択される1種または2種以上の元素の酸化物を含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の希土類磁石成形体。
【請求項8】
Dy、Tb、Pr、およびHoからなる群から選択される1種または2種以上の元素の単体またはその合金を、原料磁粉の表面に被覆して表面修飾原料磁粉を得る工程と、
得られた表面修飾原料磁粉を磁場中で磁気配向しながら加熱雰囲気下で加圧成形することにより、異方性希土類磁石を得る工程と、
得られた異方性希土類磁石を粉砕して得られる磁石粒子の表面に絶縁相を被覆することにより、磁石成形前駆体を得る工程と、
得られた磁石成形前駆体を加圧下で加熱する工程と、
を含む、希土類磁石成形体の製造方法。
【請求項9】
第1原料磁粉と、前記原料磁粉の一部の元素をDy、Tb、Pr、およびHoからなる群から選択される1種または2種以上の元素で置換した第2原料磁粉との混合磁粉を、磁場中で磁気配向しながら加熱雰囲気下で加圧成形することにより、異方性希土類磁石を得る工程と、
得られた異方性希土類磁石を粉砕して得られる磁石粒子の表面に絶縁相を被覆することにより、磁石成形前駆体を得る工程と、
得られた磁石成形前駆体を加圧下で加熱する工程と、
を含む、希土類磁石成形体の製造方法。
【請求項10】
Dy、Tb、Pr、およびHoからなる群から選択される1種または2種以上の元素の単体またはその合金を、原料磁粉の表面に被覆して表面修飾原料磁粉を得る工程と、
得られた表面修飾原料磁粉を磁場中で磁気配向しながら加熱雰囲気下で加圧成形することにより、異方性希土類磁石を得る工程と、
得られた異方性希土類磁石を粉砕して得られる磁石粒子と磁石微粒子とを混合してこれらを一体化させ、得られた磁石粒子の表面に絶縁相を被覆することにより、磁石成形前駆体を得る工程と、
得られた磁石成形前駆体を加圧下で加熱する工程と、
を含む、希土類磁石成形体の製造方法。
【請求項11】
第1原料磁粉と、前記原料磁粉の一部の元素をDy、Tb、Pr、およびHoからなる群から選択される1種または2種以上の元素で置換した第2原料磁粉との混合磁粉を、磁場中で磁気配向しながら加熱雰囲気下で加圧成形することにより、異方性希土類磁石を得る工程と、
得られた異方性希土類磁石を粉砕して得られる磁石粒子と磁石微粒子とを混合してこれらを一体化させ、得られた磁石粒子の表面に絶縁相を被覆することにより、磁石成形前駆体を得る工程と、
得られた磁石成形前駆体を加圧下で加熱する工程と、
を含む、希土類磁石成形体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁性成形体、または請求項8〜11のいずれか1項に記載の製造方法により製造された磁性成形体を用いたモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−60975(P2011−60975A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208621(P2009−208621)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】