説明

移動体のエリア監視システム

【課題】 農耕地等における野生動物の被害を有効に防止する移動体監視システムを提供する。
【解決手段】 移動体装着体1と移動体監視基地5を有し、前記移動体装着体1は少なくともGPS受信部と無線通信部とコントローラーユニットとを備え、前記移動体監視基地5は少なくとも無線通信部と演算部と警報発信部とを備え、前記移動体装着体1がGPS衛星からの測距信号を受信して、測位情報を算出し、前記移動体監視基地5に測位情報を送信し、前記移動体監視基地5が受信された測位情報に基づき移動体の位置情報を算出し、移動体が所定の地域に出現した時に警報を発することを特徴とする移動体のエリア監視システムであり、好ましくは前記移動体装着体1及び前記移動体監視基地5の双方に送受信可能な無線通信部を有する中継基地3が1以上配置された移動体のエリア監視システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体のエリア監視システムに関し、更に詳しくは野生動物等から農耕地等の保護のためのエリア監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年居住区の拡大、農村地域の過疎化と野生動物の生息域の拡大にともない、熊、鹿、猿等の野生動物の農作物等への被害が増大している。これらの野生動物の生息状況評価方法及び装置並びにプログラムに関しては、地域の植生図に基づき当該地域における野生動物の生息可能性を評価する方法等が提案されている(例えば特許文献1を参照。)。しかし野生動物の出現に対しては、従来有効な監視システムがなく、人海戦術に頼るのが実態であった。
【0003】
一方動物生態学の研究分野では、アメリカ、ヨーロッパを中心に鳥類、陸上哺乳類、魚類等の野生生物の行動形態調査等に、無線テレメトリの技術が応用され、多くの実績がある。野生生物の個体位置を特定することにより、野生生物の行動形態の把握には最も有効な方法と考えられている。しかし、従来の無線テレメトリ調査は、野生動物の出現状況を監視するうえでは多くの問題点を有している。最も深刻な問題は、無線テレメトリ調査自体が人力に頼る部分が多い調査手法であることである。現在の無線テレメトリ調査は、野生生物に発信機を装着し、放した後、人間が探査用アンテナ持って野生生物を追跡し位置を特定するという調査方法である。このような調査方法では位置を特定するのに莫大な時間と労力を必要とし、その位置精度は低く、長期間の継続調査は難しいのが現状である(例えば非特許文献1を参照。)。
【0004】
GPS装置を用いたGPSテレメトリも存在するが、又前記野生生物に装着する発信機は重量が大きく、中・小型の動物に長期に装着させることは困難であった。又、GPS装置の早期結果はGPSテレメトリ内に保存されるが、無線通信による動的な測位実行命令の送信、測位情報の取得等は出来ず、農耕地等における野生動物の被害を有効に防止するための監視システムとして活用するうえでは欠点があった。
【0005】
更に移動体の監視という点では、都市部における徘徊老人等のモニタリングに携帯電話を利用する方法等が提案されているが(例えば特許文献2を参照。)、野生動物に装着させる発信機は常時の充電が不可能であり、又野生生物による農作物被害が多発する中山間地域には携帯電話等の中継局もないこともあるため、このような技術を利用することも不可能であった。
【0006】
【特許文献1】特開2003−102326号公報
【特許文献2】特開2002−209245号公報
【非特許文献1】傳田正利、他著 「野生生物調査のためのマルチテレメトリシステムの開発とその応用」日本生態学会誌、第51号、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、農耕地等における野生動物等の被害を有効に防止する移動体監視システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、移動体装着体と移動体監視基地を有し、前記移動体装着体は少なくともGPS受信部と無線通信部とコントローラーユニットとを備え、前記移動体監視基地は少なくとも無線通信部と演算部と警報発信部とを備え、前記移動体装着体がGPS衛星からの測距信号を受信して測位情報を算出し、前記移動体監視基地に測位情報を送信し、前記移動体監視基地が受信された測位情報に基づき移動体の位置情報を算出し、移動体が所定の地域に出現した時に警報を発することを特徴とする移動体のエリア監視システムであり、好ましくは前記移動体装着体及び前記移動体監視基地の双方に送受信可能な無線通信部を有する中継基地が1以上配置された移動体のエリア監視システムである。
【0009】
更に本発明は前記GPS受信部の起動が、定時的に及び/又は前記移動体監視基地からの命令に応答してされ、又は定時的に及び/又は前記移動体監視基地からの通信可能範囲に入った時にされることが好ましく、前装着体GPS受信部が測位情報を算出すると、前記GPS受信部が一定時間停止することが好ましい。
【0010】
更に本発明は、前記移動体装着体及び前記移動体監視基地の送受信信号は、送受信出力が9〜11mWで、送受信周波数が400MHz帯であり、特定小電力無線局として技術基準適合証明を受けたものが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエリア監視システムは、GPSによる測位情報とGISを利用することにより、移動体の高精度の位置情報を取得することが可能で、あらかじめ設定した農地等の保護対象地域を移動体の被害から有効に保護することができる。また、測位情報の受信、位置情報の算出、警報の発令を自動で行うため、監視作業の省力化が可能であるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の移動体のエリア監視システムは、移動体装着体と移動体監視基地を有し、前記移動体装着体は少なくともGPS受信部と無線通信部とコントローラーユニットとを備え、前記移動体監視基地は少なくとも無線通信部と演算部と警報発信部とを備え、前記移動体装着体に受信されるGPS衛星からの測距信号に基づき算出される測位情報が、必要な場合に中継基地を中継して、前記移動体監視基地に送信され、前記移動体監視基地に受信された測位情報に基づき移動体の位置情報が算出され、移動体が所定の地域に位置した時に警報を発することを特徴とする移動体のエリア監視システムである。
以下本発明の構成について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の移動体エリア監視システムの全体概念図である。図1において、1は移動体装着体、3は中継基地、5は移動体監視基地、7は中継基地又は移動体監視基地からの通信可能範囲を示す。
【0014】
前記移動体装着体1(以下単に装着体という。)は、捕獲された野生動物等に装着される。該装着体が装着された野生動物等は自然状態に戻され、自然状態における存在位置の探知のために供される。該装着体1から送信される測位情報信号が、必要な場合は中継基地3を中継したうえで、最終的に移動体監視基地5(以下単に監視基地という。)に受信され、監視基地5は、受信された装着体1からの測位情報信号を演算し、GIS上に記録をし、移動体が農耕地等の一定のエリアに接近又は侵入するときは、警報部を作動させて警報を発する。
【0015】
前記装着体1は、猿等の集団で行動する野生動物を対象とする場合は、該集団の1頭に装着されることにより本発明の目的を達することができる。熊等のように単独で行動する野生動物に対しては農地周辺に棲息する各個体に装着される必要があり、鹿等のように群の離散集合がある野生動物に対しては5頭程度に装着される必要がある。
【0016】
前記装着体1は、自然状態における野生動物等の行動を阻害しないために、軽量小型で、且つ長期間使用可能であることが好ましい。本発明の装着体の構成説明図を図2に示す。図2において11は移動体装着部、12は装着部留め具、13はGPS受信部、15はコントローラーユニット、17は無線通信部、18はGPS受信部等一体形成体、19はバッテリーを示す。
【0017】
前記移動体装着部11は、自然状態における野生動物等の行動を阻害せず、野生動物等が違和感を有しない首輪またはハーネス形状が好ましく、雨水、衝撃により容易に破損せず、且つ軽量な合成樹脂繊維等によることが好ましい。又、前記GPS受信部、コントローラーユニット、無線通信部は、雨水等により漏水、破損しない合成樹脂等により一体形成されること(以下GPS受信部等一体形成体という。)が好ましい。又装着体が移動体に装着されたときに、前記GPS受信部等一体形成体18が装着体の上部に位置するように、前記GPS受信部等一体形成体18は装着部11のバッテリー19の対面に装置されることが好ましい。
【0018】
前記GPS受信部13は、GPS衛星からの測距信号を受信する。前記受信は、後記のコントローラーユニットの制御により、定時的に及び/又は前記監視基地からの命令に応じて受信すること、又は定時的に及び/又は装着体1が監視基地又は中継基地と通信可能範囲に入った場合に受信することができる。該GPS受信部は、測距信号から測位情報を算出すると、一定時間又は次の監視基地からの命令まで、機能を停止するように制御される。
【0019】
前記GPS受信部13は、軽量、小型であることが好ましい。重量は10g以下が特に好ましく、大きさは25×25×15mm以下が特に好ましい。該GPS受信部は長期の電力寿命を保持することが好ましい。GPS信号受信時の平均消費電流は25mA以下、特には15mA以下が好ましく、待機時の消費電流は10mA以下、特には5mA以下が好ましい。前記GPS受信部11として市販のGPSユニットを用いることができ、古野電気社製GH−80等を好ましく用いることができる。
【0020】
前記無線通信部15は、本発明の野生動物監視用としては、送受信周波数が400MHz帯で、特定小電力無線局テレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備標準規格ARIB STD−T67に適合したものであることが好ましい。該無線通信部15の送受信出力は、10mW以上であることが好ましいが、特定小電力無線局としての使用のためには、電波法第4条3号により10mW以下と規制されているため、10mWを使用することが好ましい。
【0021】
前記無線通信部の待機時の消費電流は5mA以下、特には1.2mA以下が好ましく、送信時の平均消費電流は60mA以下、特には55mA以下が好ましく、受信時の平均消費電流は30mA以下、特には23mA以下が好ましい。又、前記無線通信部は、野生生物等への装着のために、軽量、小型であることが好ましく、重量は7グラム以下が特に好ましく、大きさも20mm×20mm×10mm以下が好ましい。前記無線通信部としては、市販の無線通信機を用いることができ、NTTアドバンステクノロジ社製のMD−429TR1等を好ましく用いることができる。
【0022】
前記コントローラーユニット13は、少なくともMPU、EEPROMメモリ64KB、シリアルインターフェイス(2ch)、アナログ入力(3ch)を備え、更にデジタル入出力(5ch)を備えることが好ましい。前記MPUとしては少なくとも16bitMPUを有することが好ましい。
【0023】
前記コントローラーユニットは、ファームウェアを換えることにより、無線通信部15とGPSユニット11に対して様々な制御を可能とする。以下に具体例を例示する。
1.野生動物等の生態調査
図3に示す流れ図による。図3において、GPSの動作は一定時間毎に行われ、測位情報の算出後は、GPSユニットは待機状態に戻る。
2.監視基地からの測位命令に応じたGPSユニットの起動、送信
図4に示す流れ図による。図4において、GPSの動作は監視基地からの測位命令に応じ命令毎に行われ、測位情報の算出後は、GPSユニットは待機状態に戻る。
3.装着体の定期的な位置確認信号の送信を基地の通信可能範囲内で受信
図5に示す流れ図による。図5において、GPSの動作は装着体が監視基地局もしくは中継基地と通信可能な範囲に入った場合に行われ、測位情報の算出後は、GPSユニットは待機状態に戻る。
【0024】
前記コントローラーユニットは、GPSの動作が一定時間毎で(前記1)且つ監視基地からの測位命令に応じて(前記2)行なわれ、又はGPSの動作が一定時間毎で(前記1)且つ装着体が監視基地局もしくは中継基地と通信可能な範囲に入った場合(前記3)行なわれるように制御することも可能である。
【0025】
前記コントローラーユニットは小型軽量であることが好ましく、該コントローラーユニットの重量、大きさはMPU、インターフェイス部およびそれを搭載する基板によることから、小型軽量とするために、機種の選定に留意する。該コントローラーは稼働時及び待機時の平均消費電流が少ないことが好ましい。稼働時の平均消費電流は15mA以下、より好ましくは10mA以下で、待機時の平均消費電流は0.1mA以下、より好ましくは0.04mA以下であることが好ましい。又前記バッテリーは、軽量で電力寿命の長いリチウム電池が好ましい。
【0026】
前記監視基地5の構成説明図を図6に示す。図6において、51は無線通信部を、53は演算部を、55は警報発信部を示す。
【0027】
前記監視基地の無線通信部51は、前記装着体の無線通信部15の通信機と同様の通信機を用いることができ、送受信周波数は400MHz帯で、特定小電力無線局テレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備標準規格ARIB STD−T67に適合したものであることが好ましい。該無線通信部15の送信出力は、同様に10mWを使用することが好ましい。
【0028】
前記監視基地の無線通信部51は、前記演算部53内の通信制御プログラムにより制御され、装着体11に対する測位状態変更命令、測位命令および測位情報送信命令の送信、および測位情報の受信を行う。
【0029】
前記演算部53は、前記通信制御プログラムの外に、位置情報演算プログラム、被害範囲予測プログラム、および予測結果描画プログラムを有する。
【0030】
前記演算部の動作を示す流れ図を図7に示す。無線通信部51が受信した測位情報は、位置情報演算プログラムにより、測位情報に基づき装着体が装着された野生生物の位置を、shpファイル上に位置情報として演算する。被害範囲予測プログラムは、位置情報に基づき被害発生予測範囲を推定する。予測結果描画プログラムは、位置情報と被害発生予測範囲に基づき、被害の予測範囲を地図化する。
【0031】
前記警報発令部55は、前記被害予測プログラムが推定した被害発生予測範囲結果に基づき、被害が予測される農地の持ち主に事前に登録されたアドレスにE−mailを送信するE−mail自動送信システムと、予測結果描画システムにより地図化された予測結果をWebサーバー上に自動的に送信し、予測結果を更新するWWW自動更新システムからなる。
【0032】
前記中継基地3は、監視基地5からの通信可能範囲が電波出力により限定されることから、該範囲を拡大するために必要に応じて用いられる。前記中継基地3は、コントローラーユニットおよび無線通信部33からなる。該コントローラーユニットは、前記装着体のコントローラーユニット13に用いられるコントローラーユニットと同様のコントローラーユニットを用いることができる。無線通信部は前記装着体の無線通信部15に用いられる通信機と同様の通信機を用いることができる。
【0033】
農耕地等の一定の広さを有する地域の野生生物からの被害を有効に防護するためには、複数の監視基地および中継基地からなる広域エリア監視システムを構築することが好ましい。この場合に、装着体1から監視基地5への信号の送信は、装着体1が中継基地3乃至監視基地5と通信可能範囲に入った場合に装着体1から位置情報が発信され、監視基地5が受信する場合(態様1)と、監視基地5からの信号に応答して装着体1から測位情報が発信され、監視基地5が受信する場合(態様2)のいずれであってもかまわない。
【0034】
装着体を装着した野生生物等の行動範囲が広範囲で、監視対象農耕地等が広範囲の場合は、多数の監視基地および中継基地を設けた広域エリア監視システムを構築することが必要となるが、多数の監視基地および中継基地の設置が容易な点では態様1がより好ましい。
【0035】
一方監視対象地域が比較的狭小のときは、消費電力の低減をはかることが出来、より長期間の観測を可能とする点で態様2が好ましい。
【実施例】
【0036】
以下本発明の内容について、実施例に基づき説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
茨城県つくば市観音台の(独)農業環境技術研究所内に、移動体監視基地(以下監視基地という。)、及び中継基地を設け、野生の猿への装着を想定した図8に示す装着体70を用いて、本発明の動作確認試験を行った。
【0037】
前記装着体70に使用したGPS受信部は、市販のGPSユニット(古野電気社製GH−80)を用いた。該GPSユニットは、重量が10g、大きさが25×25×15mmで、GPS信号受信時の平均消費電流が11mA、待機時の平均消費電流が5mAであった。
【0038】
前記装着体70に使用した無線通信部は、市販の無線通信機(NTTアドバンステクノロジ社製、MD−429TR1)を用いた。該通信機は、送信出力が9mW±2mW、送受信周波数が429.250〜429.7375MHzで、特定小電力無線局テレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備標準規格(ARIB STD−T67)に適合したものである。また、待機時の消費電流が1.2mA、送信時の消費電流が55mA、受信時の消費電流が23mAであった。
【0039】
前記装着体70に使用したコントローラーユニットはNTTアドバンステクノロジ社製のM−LCV3を用いた。本ユニットは、マイクロチップ社製16bitMPU PIC18F6720を搭載し、重量が5g、且つ稼動時の消費電流が10mA、待機時の消費電流が0.04mAであった。又バッテリーとして、ウィルソン・グレートバッチ社製Electrochemリチウム電池BCX72 3B70を使用した。
【0040】
監視基地の無線通信部は、装着体70の無線通信部と同様に、市販の無線通信機(NTTアドバンステクノロジ社製、MD−429TR1)を用いた。又前記監視基地の演算部は市販のPC(DELL社製、DIMENSION 8400)を用い、無線通信部はNTTアドバンステクノロジ社製のMN−600NCを用いた。
【0041】
中継基地の無線通信部は、前記装着体70の無線通信部と同様に、市販の無線通信機(NTTアドバンステクノロジ社製、MD−429TR1)を用い、コントローラーユニットはNTTアドバンステクノロジ社製のM−LCV3を用いた。
【0042】
(動作確認実験I)
前記装着体と前記監視基地を用いて、以下の動作確認実験Iを実施した。前記装着体の位置は固定とし、前記装着体と監視基地との距離は300mとした。装着体はGPS衛星からの測距信号を30分おきに5分間受信し、429.4375MHzの電波により測位情報を監視基地に発信するように設定した。
【0043】
平成16年12月17日12時に装着体の電源をONにし、監視基地において測位情報を収集した。前装着体GPS受信部の測位情報の算出にともない、該GPS受信部の動作は完全に停止し、前記30分おきに5分間の測位は当初設定通り行なわれた。その結果、該装着体は平成16年12月19日20時まで、56時間稼働し、測位情報として111点のデータが記録された。
【0044】
上記結果より、1日当り1回の測距信号の受信および測位情報の送信を110日間継続することが可能である。野生猿が農作物を荒らす時期は、山に餌が不足する冬季12月〜3月中旬の4ヶ月弱であり、又農地の保護は1日当り1回の警報でその目的を達することができることから、本発明は充分に実用に供することができる。
【0045】
(動作確認実験II)
前記動作確認実験Iと同様の装着体と監視基地を用いた他に、中継基地を用いて、動作確認実験IIを行った。中継基地は、無線通信部が市販の無線通信機(NTTアドバンステクノロジ社製、MD−429TR1)、コントローラーユニットがNTTアドバンステクノロジ社製のM−LCV3を用いた。送信電波は前記動作確認実験Iと同様に429.4375MHzに設定した。
【0046】
前記装着体70のGPSの動作を、装着体が監視基地もしくは中継基地と通信可能な範囲に入ったときに起動し、測位情報の送信後は、GPSユニットは待機状態に戻るように設定し、該装着体70は人間の腕に装着し、動作確認実験IIを実施した。
【0047】
中継基地を3基使用して、前記装着体と、中継基地及び監視基地との距離を変えて、送受信の可能性を検討した。その結果、前記装着体と、中継基地及び監視基地との距離が、それぞれ約600mで送受信が可能であった。又前記600mの範囲内においては、中継基地を経由しての情報の送受信に問題は無く、確実に警報装置が作動した。
【0048】
前記結果から、対象となる猿集団の集団数を1、該猿集団の頭数を80頭、保護対象地域の面積を20haと仮定し、送受信可能距離を500mとしたときに、該保護対象地域は、中継基地を4個所農地の縁辺部に配置することにより猿の被害を排除することが可能である。
【0049】
(動作確認実験III)
装着体のGPSの動作を、監視基地からの測位命令が受信されたときに装着体が起動し、測位情報の送信後は、GPSユニットは待機状態に戻るように設定し、前記中継基地と監視基地との距離を500mとした以外は前記動作確認実験IIと同様にして、動作確認実験IIIを実施した。
【0050】
その結果、中継基地を経由しての情報の送受信に問題は無く、確実に警報装置が作動した。
【0051】
前記結果から、食糧事情その他の条件により、猿が農耕地に侵入する可能性のあるときにのみ、猿の位置情報を把握することができ、装着体の電力寿命を延長することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、移動体特に野生動物等が特定地域に侵入したときに、瞬時に有効な警報を発することができ、作物の被害等を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の移動体エリア監視システムの全体概念図である。
【図2】装着体の構成説明図である。
【図3】定期的測位を行う場合の動作概念図である。
【図4】監視基地からの命令に基づき測位を行う場合の動作概念図である。
【図5】装着体が監視基地局もしくは中継基地と通信可能な範囲に測位を行う場合の動作概念図である。
【図6】監視基地局の構成説明図である。
【図7】演算部の動作を示す流れ図である。
【図8】首輪の形状をした移動体装着体である。
【符号の説明】
【0054】
1 移動体装着体
3 中継基地
5 移動体監視基地
7 中継基地又は移動体監視基地からの通信可能範囲
11 移動体装着部
12 装着部留め具
13 GPS受信部
15 コントローラーユニット
17 無線通信部
18 GPS受信部等一体形成体
19 バッテリー
51 無線通信部
53 演算部
55 警報発信部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体装着体と移動体監視基地を有し、前記移動体装着体は少なくともGPS受信部と無線通信部とコントローラーユニットとを備え、前記移動体監視基地は少なくとも無線通信部と演算部と警報発信部とを備え、前記移動体装着体がGPS衛星からの測距信号を受信して測位情報を算出し、前記移動体監視基地に測位情報を送信し、前記移動体監視基地が受信された測位情報に基づき移動体の位置情報を算出し、移動体が所定の地域に出現した時に警報を発することを特徴とする移動体のエリア監視システム。
【請求項2】
前記移動体装着体及び前記移動体監視基地の双方に送受信可能な無線通信部を有する中継基地が1以上配置された請求項1に記載の移動体のエリア監視システム。
【請求項3】
前記GPS受信部が、定時的に及び/又は前記移動体監視基地からの命令に応答して起動する請求項1又は請求項2に記載の移動体のエリア監視システム。
【請求項4】
前記GPS受信部が、定時的に及び/又は前記移動体監視基地又は前記中継基地からの通信可能範囲内に入った時に起動する請求項1又は請求項2に記載の移動体のエリア監視システム。
【請求項5】
前記移動体装着体が測位情報を算出すると、前記GPS受信部が一定時間停止する請求項3又は請求項4に記載の移動体のエリア監視システム。
【請求項6】
前記移動体装着体及び前記移動体監視基地の送受信信号は、送受信出力が7〜11mWで、送受信周波数が400MHz帯であり、特定小電力無線局として技術基準適合証明を受けた請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の移動体のエリア監視システム。
【請求項7】
前記移動体監視基地が、GISに示す地図情報上に描画する描画手段を備えている、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の移動体のエリア監視システム。
【請求項8】
前記移動体が野生動物である請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の移動体のエリア監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−29046(P2007−29046A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220287(P2005−220287)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年1月31日 つくばサイエンス・アカデミー主催の「第4回 つくばテクノロジー・ショーケース アイディア満載:研究の産直フリーマーケット」において文書をもって発表
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】