説明

移動体の位置設定装置とその位置設定方法

【課題】 目視に加えて機械的な検知によって移動体を母体に非常に近接させることができる位置設定装置を提供すること。
【解決手段】 母体模型10に近接させる移動体模型20に移動体模型近似部201〜205を設定し、この移動体模型近似部201〜205に近接領域211〜215を設定し、前記移動体模型20を移動させる携帯式操作盤30を操作して移動体模型20を前記母体模型10に向けて移動させ、母体模型10の母体模型近似部101,102が前記移動体模型20に設定した移動体模型近似部201〜205に侵入すると、前記携帯式操作盤30に母体模型近似部101,102が近接領域211〜215に侵入したことを表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体を母体に近接させるための位置設定装置に関し、特に、移動体模型を母体模型に近接させて移動体模型の初期位置を教示する位置設定方法と、その機能を有する位置設定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車産業や航空機産業の分野等、種々の分野において、携帯式操作盤を用いて移動体を母体に近接させる場合がある。例えば、航空機産業の分野を例にすると、母体となる航空機の搭載物である投棄物や投下物(以下、総称して「移動体」という)の投下後の軌跡を風洞模型によって模擬する試験装置では、携帯式操作盤を用いて移動体を母体に近接させた後に試験を開始している。この試験装置は、CTS(Captive Trajectory System)と呼ばれ、母機となる母体模型(母体)の位置決め及び支持する母体模型支持装置と、搭載物となる移動体模型(移動体)の位置決め及び支持する移動体模型支持装置と、移動体模型を母体模型に近接させる携帯式操作盤とを備えている。
【0003】
そして、このCTSで搭載物の投下後の挙動軌跡を精度よく解析するために、初期状態で移動体模型を母体模型にできるだけ近接させ、その状態から模擬試験を開始するようにしている。このように移動体模型を母体模型に近接させる場合、操作者が携帯式操作盤を操作して、目視によって移動体模型を母体模型に近接させる境界付近の位置まで移動させ、その位置を初期位置として教示している。この初期位置における移動体模型と母体模型との隙間は、移動体模型の初期位置における隙間の閾値であると共に、投下後の移動体模型が母体模型に近接した場合には移動体模型を停止させる閾値にもなる。
【0004】
しかし、操作者が目視のみでその境界付近の位置を判断するのは難しく、近接させようとして移動体模型を母体模型や母体模型支持装置に衝突させて装置や模型を破損する恐れがある。この場合、非常に高価な模型の修理費用や試験期間延長等が必要となり、非常に大きな損害を生じることとなる。
【0005】
ところで、移動体模型支持装置の動作範囲を十分有しているようにした風洞試験装置において、小型カメラの画像のある領域に異物の侵入が検知されると移動体模型と母体模型との衝突と判断して、移動体模型と母体模型を停止させるか、少なくとも一方を回避させるようにした風洞模型試験装置が本出願人によって提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、他の従来技術として、移動模型が固定模型に接触した場合に、その反力が荷重演算手段で算出され、その反力が所定の設定値以上になったときに停止信号を送って移動模型を停止させるものもある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−20265号公報
【特許文献2】特開平9−257635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1は、小型カメラの画像のある領域に移動体模型か母体模型が侵入したことで移動体模型と母体模型との衝突と判断するものであり、カメラの画像に基く判断では認識できる精度は低く、移動体模型が母体模型と非常に近接した位置まで近づいたことを認識できるようなものではない。また、カメラの画像に隠れた位置は認識できない。
【0008】
そのため、移動体模型を母体模型と非常に近接させた初期位置を教示するには、操作者が目視のみによって行う必要があり、例えば、約1mm以下の隙間となるように非常に近接させるのは困難である。
【0009】
また、上記特許文献2では、移動模型が接触した反力の値によって移動停止信号を送るので、接触時に模型が損傷する場合があり、上記した航空機模型のように非常に高価な模型を用いる場合には多くの損害を生じるおそれがある。
【0010】
上記したような課題は航空機分野のCTSのみならず、他の分野においても移動体を母体に非常に近接させた位置に設定する必要のある装置においても同様である。
【0011】
そこで、本発明は、目視に加えて機械的な検知によって移動体を母体に非常に近接させることができる位置設定装置とその位置設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の移動体の位置設定方法は、前記移動体を移動させる携帯式操作盤を操作して移動体を前記母体に向けて移動させ、該移動体の前記監視対象部分が前記母体又は移動体に設定した前記近接領域に侵入すると、前記携帯式操作盤に該監視対象部分が前記近接領域に侵入したことを表示するようにしている。これにより、移動体を母体に近接させることが可能な近接領域を設定した後、携帯式操作盤で移動体を母体に向けて移動させて監視対象部分が近接領域に侵入すると、その侵入が検知されて携帯式操作盤に侵入したことが表示されるので、目視による移動体の近接状態と携帯式操作盤の表示による移動体の近接状態とを見ながら移動体を母体に非常に近接させて、その位置を教示することが容易にできる。
【0013】
また、前記携帯式操作盤に前記監視対象部分の侵入位置を表示させ、該携帯式操作盤で前記近接領域の近接領域を更に近接可能な近接領域に再設定し、前記携帯式操作盤の操作による前記移動体の母体に向けての移動を繰り返して行うことにより移動体を母体に近接させてもよい。これにより、最初は大きい近接領域に設定して移動体を迅速に母体へ近づけ、その近接領域で侵入が検知されたら更に小さい近接領域に再設定して移動体を徐々に母体へ近づけるようにできる。
【0014】
さらに、前記監視対象部分が前記近接領域に侵入すると前記移動体の移動速度を制限させるようにしてもよい。これにより、移動体の近接領域に母体が侵入すると移動体の移動速度を自動的に減速させたり停止させることができるので、移動体が母体に接触することをより確実に防ぐことができる。
【0015】
また、前記監視対象部分が前記近接領域に侵入すると警告音を発するようにしてもよい。これにより、移動体が近接領域に侵入して母体と近接したことを音で認識することができ、より確実な接触防止を図ることができる。
【0016】
さらに、前記母体が母体模型であり、前記移動体が該母体模型との相対的な移動軌跡を計測する移動体模型であってもよい。これにより、携帯式操作盤で移動体模型を母体模型に向けて移動させて監視対象部分が近接領域に侵入すると、その侵入が検知されて携帯式操作盤に侵入したことが表示されるので、目視と携帯式操作盤の表示とによって移動体模型を母体模型に非常に近接させて、その位置を教示することが容易にできる。
【0017】
一方、本発明の移動体の位置設定装置は、母体と、該母体に近接させる移動体と、該移動体を位置決め及び支持する移動体支持装置と、前記母体と移動体との相対位置を検知する検知装置と、前記移動体の位置決めを行う携帯式操作盤とを備え、前記携帯式操作盤は、前記移動体の監視対象部分を母体に近接させることが可能な近接領域を設定する閾値設定部と、該移動体を母体に向けて移動させる移動操作部と、該移動体の近接領域に母体が侵入したことを前記検知装置で検知するとその侵入を表示する表示部とを有している。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「閾値設定部」は、携帯式操作盤で移動させる移動体を母体に近接させることができる近接領域の値(閾値)を設定する部分をいう。これによれば、移動体を母体に近接させることが可能な近接領域を閾値設定部で設定した後、携帯式操作盤の移動操作部を操作して移動体を母体に向けて移動させ、移動体の監視対象部分が母体と近接領域に侵入したことを検知すると携帯式操作盤にその侵入を表示するので、目視による移動体の近接状態と携帯式操作盤の表示による移動体の近接状態とを見ながら移動体を母体に非常に近接させて、その位置を教示することが容易にできる。
【0018】
また、前記携帯式操作盤は、前記移動体の近接領域に侵入した母体の位置を前記表示部に表示する機能と、前記閾値設定部で更に近接可能な近接領域を再設定可能とする機能とを具備していてもよい。これによれば、最初は大きい近接領域に設定して移動体を迅速に母体へ近づけ、その近接領域で侵入が検知されたら更に小さい近接領域に再設定して移動体を更に母体へ近づけるようにできる。
【0019】
さらに、前記検知装置は、前記移動体の近接領域に母体が侵入したことを検知すると、前記移動体支持装置による移動体の移動を制限する機能を具備していてもよい。これによれば、移動体を母体に向けて移動させて近接領域に侵入すると移動体の移動速度を減速させたり停止させることができるので、移動体が母体に接触することを機械的に抑止することができる。
【0020】
また、前記母体が母体模型であり、前記移動体が該母体模型との相対的な移動軌跡を計測する移動体模型であってもよい。これにより、携帯式操作盤で移動体模型を母体模型に向けて移動させて監視対象部分が近接領域に侵入すると、その侵入が検知されて携帯式操作盤に侵入したことが表示されるので、目視と携帯式操作盤の表示とによって移動体模型を母体模型に非常に近接させて、その位置を教示することが容易にできる。特に、高価な模型を用いる風洞試験装置においても、移動体模型を母体模型と接触させることなく極めて近接させた初期位置に配置して教示することが迅速に行える。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、以上説明したような手段により、操作者による携帯式操作盤の操作によって移動体を母体に非常に近接させて位置を教示する操作を、目視と携帯式操作盤の表示を見ながら容易に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。以下の実施の形態では、風洞模型試験装置における位置設定装置を例に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る風洞模型試験装置を模式的に示す概略構成説明図であり、図2は、図1に示す風洞模型試験装置における主な機能を示すブロック図である。図1に示す風洞模型試験装置1の風洞2は、図示する左方向(上流側)から右方向(下流側)に向けて送風される。また、この風洞模型試験装置1の例では、天地が逆向きに配置された状態で試験する装置となっており、下側に配置された母体模型10(母体;例えば、航空機)から上側に配置された移動体模型20(移動体;例えば、投下物)が上向きに投下されるような装置となっており、この移動体模型20と母体模型10との相対位置変化(投下軌跡)を模擬するようになっている。
【0023】
図1に示すように、風洞模型試験装置1の風洞2内には、この風洞2内を軸方向に移動できるように設けられた母体模型10と、この母体模型10から投下する投下物である移動体模型20と、上記母体模型10を位置決め及び支持する母体模型支持装置11と、上記移動体模型20を位置決め及び支持する移動体模型支持装置21とが備えられている。この母体模型支持装置11は、母体模型10を風洞2の軸方向に移動させる機能を有している。また、移動体模型支持装置21は、移動体模型20を風洞2内で3次元的に移動させる機能を有している。移動体模型の移動は、移動体模型20に備えられた力センサ等(力検出手段)によって検出された力から演算され、この移動体模型支持装置21によって行われる。
【0024】
そして、この風洞模型試験装置1には、上記移動体模型20を移動させてその位置を教示するための携帯式操作盤30が設けられている。この携帯式操作盤30は、操作者50の操作によって移動体模型20を移動させる機能を有している。
【0025】
図2に示すように、上記風洞模型試験装置1の母体模型支持装置11と移動体模型支持装置21とは検知装置の機能を備える制御装置3によって制御されており、母体模型支持装置11によって位置決めされる母体模型10と、移動体模型支持装置21によって位置決めされる移動体模型20との相対位置はこの制御装置3によって常に検知されている。制御装置3の内部には、これら母体模型10の監視対象部分(図4に示す、母体模型近似部101,102)と移動体模型20の監視対象部分(図4に示す、移動体模型近似部201〜205)との相対位置を監視し、移動体模型20の監視対象部分に設定した近接領域(図4に示す、211〜215)が母体模型10の監視対象部分に侵入したことを検知する検知部4が備えられている。
【0026】
一方、上記携帯式操作盤30は、移動体模型20を母体模型10に近接させるための近接領域(図4に示す、211〜215;閾値)を設定するための閾値設定部31と、移動体模型20を移動させる移動操作部32と、移動体模型20の近接領域(211〜215)が母体模型10の監視対象部分(図4に示す、母体模型近似部101,102)に侵入したことを表示する表示部33とを備えている。
【0027】
図3は、図1に示す風洞模型試験装置の移動体模型と母体模型とを近似した基本図形にして示す側面視の説明図であり、図4は、図3に示す移動体模型に設定した母体模型と近接させることが可能な近接領域を示す側面視の説明図である。
【0028】
図3に示すように、この実施の形態では、母体模型10における移動体模型20を近接させる監視対象部分を基本的な形状である直方体に近似させた母体模型近似部101,102とし、移動体模型20の母体模型10と近接させる監視対象部分を基本的な形状である球体に近似させた移動体模型近似部201〜205としている。この実施の形態では、母体模型近似部101,102と、移動体模型近似部201〜205とを複数に分割して、各々に番号を付している。この例では、母体模型10の母体模型近似部101,102を直方体とし、移動体模型20の移動体模型近似部201〜205を球体としているが、この母体模型10と移動体模型20との近接させる部分の基本的な形状への近似は、リアルタイム(例えば、1/100秒毎))で母体模型10と移動体模型20との移動軌跡を演算処理するために行われるものであり、これら母体模型10と移動体模型20の近似形状はこの実施の形態に限定されるものではなく、制御装置3の演算性能等に応じて決定すればよい。
【0029】
そして、図4に示すように、球体で近似させた各移動体模型近似部201〜205に、所定の近接領域211〜215(閾値)が設定させている。この例では、移動体模型20を5個の球体の移動体模型近似部201〜205が連続するような形状に近似しているので、各球体の移動体模型近似部201〜205に対して設定した近接領域211〜215も球体が連続するようになっている。
【0030】
図5は、図4に示す移動体模型を移動させるときの第1フローチャートであり、図6は、図5に示すように移動体模型を移動させて移動体模型の近接領域に母体模型が侵入した状態を示す説明図である。
【0031】
図5に示すように、「スタート(a)」の時には、「母体模型の初期位置を設定する(b)」と共に、「移動体模型の初期位置を設定する(c)」とが行われる。また、制御装置3内においては、母体模型10と移動体模型20との近接させる部分が、直方体や球体等の基本的な形状の組合わせに近似されて記憶される。
【0032】
そして、このように簡単な形状に近似させた移動体模型20に対し、「移動体模型に近接領域を設定する(d)」が行われる。この近接領域211〜215としては、母体模型10に移動体模型20を近づけても移動体模型20のいずれの部分も母体模型10と接触しないような値に設定される。
【0033】
このように移動体模型20に近接領域211〜215が設定された後、「携帯式操作盤で移動体模型を移動させる(e)」が行われる。この操作は、操作者50が携帯式操作盤30を操作しながら目視で移動体模型を母体模型10に近づけることによって行われる。
【0034】
そして、「移動体模型の近接領域に母体模型は侵入したか?(f)」の判断がリアルタイムでなされる。この判断で移動体模型20の近接領域211〜215に母体模型10が侵入したことを検知すると、「携帯式操作盤にメッセージを表示する(g)」と共に、「所定時間 警告音を発する(h)」とが行われる。
【0035】
この時、図6に示すように、この実施の形態では監視対象部分を複数に分割しているので、携帯式操作盤30の表示部33に、移動体模型近似部201〜205の近接領域211〜215のどの位置に母体模型近似部101,102のどの部分が侵入したかが表示される。この例では、移動体模型近似部201,205の近接領域211,215に母体模型近似部101,102が侵入したことが携帯式操作盤30の表示部33に表示され、それを操作者が目視で確認することができる。このように移動体模型20を母体模型10に非常に近接させる時の隙間としては、例えば、約1mm以下の微小隙間まで近づけるので、操作者が目視で確認するのみではなく、上記したように機械的に監視対象部分(101,102)が近接領域211〜215に侵入したことを検知して携帯式操作盤30の表示部33に表示させることにより、移動体模型20を母体模型10に接触させることなく確実に近づけることが可能となる。
【0036】
その後、図5に示すように、「移動体模型に新たな近接領域を再設定可能か?(i)」の判断で操作者が移動体模型10母体模型10との隙間を観察して「YES」と判断すると、上記「移動体模型に近接領域を設定する(d)」に戻って新たな近接領域211〜215が設定される。この新たな近接領域211〜215(閾値)としては、最初に設定された値よりも小さい値で設定される。そして、上記した操作と判断が繰り返されて、近接領域211〜215の小さい値まで移動体模型20が母体模型10に近接させられる。上記「移動体模型に新たな近接領域を再設定可能か?(i)」で操作者が移動体模型10母体模型10との隙間を観察して「NO」と判断すると、「終了(j)」となる。
【0037】
図7は、図5に示すフローチャートの一部の変更した変形例を示す第2フローチャートである。この第2フローチャートは、上記第1フローチャートにおいて、移動体模型20の近接領域211〜215に母体模型10が侵入したことを検知すると携帯式操作盤30による移動体模型20の移動機能を停止(制限)させるものである。この第2フローチャートでは、上記第1フローチャートと同一の構成は、その説明を省略する。
【0038】
図示するように、「携帯式操作盤で移動体模型を移動させる(e)」ことにより、「移動体模型の近接領域に母体模型は侵入したか?(f)」の判断で「YES」と判断された場合、「携帯式操作盤で移動体模型を移動する機能を停止させる(k)」ことが行われる。この携帯式操作盤30での移動体模型20の移動機能停止は、制御装置3で行っても、携帯式操作盤30によって行ってもよい。
【0039】
また、このように携帯式操作盤30で移動体模型20を移動させる機能停止と同時に、「携帯式操作盤にメッセージを表示する(g)」ことが行われる。このようにすれば、移動体模型20が近接領域211〜215の範囲で母体模型10に近づくと移動体模型20を母体模型10に近づけることができなくなるので、移動体模型20が母体模型10と当接するのを確実に防止することができる。
【0040】
そして、上記したように「移動体模型に新たな近接領域を再設定可能か?(i)」の判断で操作者が移動体模型10母体模型10との隙間を観察して「YES」と判断した場合、「携帯式操作盤で移動体模型を移動させる機能を回復させる(l)」ことが行われた後、上記した「移動体模型に近接領域を設定する(d)」に戻って新たな近接領域211〜215を設定し、上記した操作と判断が繰り返される。これらの操作は、携帯式操作盤30で行われる。
【0041】
なお、上記例では、携帯式操作盤30による移動体模型20の移動機能を停止させる例を説明したが、移動速度を減速させるようにしてもよい。
【0042】
図8は、図5に示すフローチャートの一部を変更した他の変形例を示す第3フローチャートである。この第3フローチャートは、上記第1フローチャートにおいて設定する移動体模型20の近接領域211〜215を二段階(上記図4に示す例では、大径円と小径円の二重円となる)にし、その近接領域211〜215への侵入状態によって移動体模型20の移動速度を異ならせるものである。この第3フローチャートでも、上記第1フローチャートと同一の構成は、その説明を省略する。
【0043】
図示するように、「母体模型の初期位置を設定する(b)」と共に、「移動体模型の初期位置を設定する(c)」とが行われた後、「移動体模型に第1近接領域と第2近接領域とを設定する(m)」ことが行われる。第1近接領域は大きな値に、第2近接領域は小さな値に設定される。
【0044】
そして、「携帯式操作盤で移動体模型を移動させる(e)」ことにより、「移動体模型の第1近接領域の範囲に母体模型は侵入したか?(n)」の判断で「YES」と判断された場合、「携帯式操作盤で移動体模型を移動させる速度を減少させる(o)」ことが行われる。この第1近接領域は大きい閾値となっているので、この判断までは迅速に行うことができる。これにより、移動体模型20が母体模型10に近づいたら携帯式操作盤30で移動体模型20を移動させる速度が減少し、移動体模型20のより繊細な移動操作が可能となる。この携帯式操作盤30による移動体模型20の移動速度減少は、制御装置3又は携帯式操作盤30のいずれで行ってもよい。
【0045】
その後、移動体模型20を母体模型10に更に近づけて第2近接領域に母体模型10が侵入すると、「移動体模型の第2近接領域の範囲に母体模型は侵入したか?(p)」の判断で「YES」となり、「携帯式操作盤にメッセージを表示する(g)」がなされる。この時も、上記第1フローチャートと同様に、携帯式操作盤30の表示部33に侵入した位置が表示され、移動体模型20のどの部分が母体模型10に最も近接しているかを容易に知ることができる。また、この判断で、上記したように携帯式操作盤30による移動体模型20の移動操作を停止させてもよい。
【0046】
そして、「移動体模型に新たな近接領域を再設定可能か?(i)」の判断で、「YES」と判断した場合、「携帯式操作盤で移動体模型を移動させる速度を回復させる(q)」ことが行われた後、上記したように「移動体模型に第1近接領域と第2近接領域とを設定する(m)」によって新たな第1,第2近接領域を設定し、上記した操作と判断が繰り返される。なお、この新たな近接領域は、二段階でなくてもよい。また、この第3フローチャートでは、移動体模型の近接領域211〜215を二段階にしているが、三段階以上にしてもよく、この実施の形態に限定されるものではない。
【0047】
以上のように、上記風洞模型試験装置1によれば、操作者が移動体模型20を母体模型10に非常に近接させる初期位置設定を、目視と携帯式操作盤30の表示部33とを見ながら切り返して設定する近接領域211〜215(閾値)の範囲まで繰り返し行うことができるので、移動体模型20を母体模型10に非常に近い位置まで近接させる操作を目視と機械的検知とによって容易に行うことが可能となる。しかも、常に、移動体模型20の位置を現物(移動体模型20)と携帯式操作盤30の表示とで監視しながら携帯式操作盤30を操作して移動体模型20を母体模型10に近接させるので、確実に衝突を防止して非常に近い位置まで近接させることができる。
【0048】
また、母体模型10の配置角度等を変更した場合でも、移動体模型20の近接領域211〜215(閾値)の設定を携帯式操作盤30で変更すれば、容易に移動体模型20を母体模型10に非常に近接させた初期位置を教示することができ、種々の模型試験において精度を向上させた試験を行うことが可能となる。
【0049】
このようにして母体模型10に移動体模型20を非常に近接させて移動体模型20の初期位置を教示した後は、風洞模型試験装置1は自動運転され、母体模型10から投下された移動体模型20の軌跡が解析される。この時、移動体模型20の軌跡が母体模型10に近接するような軌跡となった場合、上記近接領域211〜215を閾値として、この近接領域211〜215に母体模型10が侵入すると、風洞模型試験装置1の自動運転が停止されて、移動体模型20が母体模型10に当接するのが防がれる。
【0050】
また、この風洞模型試験装置1において、上記自動運転開始時には上記近接領域211〜215の小さな閾値として自動運転を開始し、所定時間経過後に閾値を大きくして移動体模型20が母体模型10に接触するのを防止するようにしてもよい。この閾値の変更は、所定時間経過以外の手段で行ってもよい。
【0051】
なお、上記実施の形態では、母体模型10における2つの監視対象部分と、移動体模型20における5つの監視対象部分を監視するようにしているが、監視対象部分の数は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0052】
また、上記説明では航空機からの投下物を例にした風洞模型試験装置1を説明したが、他のロボット等においても、移動体を母体に近づける場合には同様に適用でき、本発明は上述した航空機分野の風洞模型試験装置1に限定されるものではない。
【0053】
さらに、上述した実施の形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る移動体の位置設定方法は、移動体を母体に非常に近接させた位置に配置したい風洞模型試験装置等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施の形態に係る風洞模型試験装置を模式的に示す概略構成説明図である。
【図2】図1に示す風洞模型試験装置における主な機能を示すブロック図である。
【図3】図1に示す風洞模型試験装置の移動体模型と母体模型とを近似した基本図形にして示す側面視の説明図である。
【図4】図3に示す移動体模型に設定した母体模型と近接させることが可能な近接領域を示す側面視の説明図である。
【図5】図4に示す移動体模型を移動させるときの第1フローチャートである。
【図6】図5に示すように移動体模型を移動させて移動体模型の近接領域に母体模型が侵入した状態を示す説明図である。
【図7】図5に示すフローチャートの一部を変更した変形例を示す第2フローチャートである。
【図8】図5に示すフローチャートの一部を変更した他の変形例を示す第3フローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
1 風洞模型試験装置
2 風洞
3 制御装置(検知装置)
10 母体模型(母体)
11 母体模型支持装置
101,102 母体模型近似部(監視対象部分)
20 移動体模型(移動体)
21 移動体模型支持装置
201〜205 移動体模型近似部(監視対象部分)
30 携帯式操作盤
211〜215 近接領域(閾値)
50 操作者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母体に近接させる移動体に監視対象部分を設定し、前記母体又は移動体に該監視対象部分の近接領域を設定し、
前記移動体を移動させる携帯式操作盤を操作して移動体を前記母体に向けて移動させ、
該移動体の前記監視対象部分が前記母体又は移動体に設定した前記近接領域に侵入すると、前記携帯式操作盤に該監視対象部分が前記近接領域に侵入したことを表示するようにしたことを特徴とする移動体の位置設定方法。
【請求項2】
前記携帯式操作盤に前記監視対象部分の侵入位置を表示させ、
該携帯式操作盤で前記近接領域を更に近接可能な近接領域に再設定し、
前記携帯式操作盤の操作による前記移動体の母体に向けての移動を繰り返して行うことにより移動体を母体に近接させる請求項1に記載の移動体の位置設定方法。
【請求項3】
前記監視対象部分が前記近接領域に侵入すると前記移動体の移動速度を制限させるようにした請求項1又は請求項2に記載の移動体の位置設定方法。
【請求項4】
前記監視対象部分が前記近接領域に侵入すると警告音を発するようにした請求項1〜3のいずれか1項に記載の移動体の位置設定方法。
【請求項5】
前記母体が母体模型であり、
前記移動体が該母体模型との相対的な移動軌跡を計測する移動体模型である請求項1〜4のいずれか1項に記載の移動体の位置設定方法。
【請求項6】
母体と、該母体に近接させる移動体と、該移動体を位置決め及び支持する移動体支持装置と、前記母体と移動体との相対位置を検知する検知装置と、前記移動体の位置決めを行う携帯式操作盤とを備え、
前記携帯式操作盤は、前記移動体の監視対象部分を母体に近接させることが可能な近接領域を設定する閾値設定部と、該移動体を母体に向けて移動させる移動操作部と、該移動体の近接領域に母体が侵入したことを前記検知装置で検知するとその侵入を表示する表示部とを有していることを特徴とする移動体の位置設定装置。
【請求項7】
前記携帯式操作盤は、前記移動体の近接領域に侵入した母体の位置を前記表示部に表示する機能と、前記閾値設定部で更に近接可能な近接領域を再設定可能とする機能とを具備している請求項6に記載の移動体の位置設定装置。
【請求項8】
前記検知装置は、前記移動体の近接領域に母体が侵入したことを検知すると、前記移動体支持装置による移動体の移動を制限する機能を具備している請求項6又は請求項7に記載の移動体の位置設定装置。
【請求項9】
前記母体が母体模型であり、
前記移動体が該母体模型との相対的な移動軌跡を計測する移動体模型である請求項6〜8のいずれか1項に記載の移動体の位置設定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−187333(P2009−187333A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27176(P2008−27176)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】