説明

移動通信システムとそのゲートウェイ装置、集線装置およびハンドオーバ制御方法

【課題】ハンドオーバに伴うパケットロスを防止した移動通信システムを提供すること。
【解決手段】モバイル端末ごとに確保されるパケットバッファ8と、ダウンリンクパケットをハンドオーバ期間にわたってパケットバッファ8に保持するパケットバッファリング処理部6と、モバイル端末からの要求に応じてパケットを再送信するパケット再送処理部7をIPゲートウェイ装置1に備える。モバイル端末PSに、ハンドオーバに際して未着のパケットの再送信をIPゲートウェイ装置1に要求する送信要求処理部9を備える。パケットバッファリング処理部6はモバイル端末PSからハンドオーバ通知を受信すると、ダウンリンクパケットに連続的な識別番号を付与する。モバイル端末PSは到達したパケットの識別番号の連続性をチェックし、不連続になれば、連続していた最後のパケットの識別番号をIPゲートウェイ装置1に通知する。IPゲートウェイ装置1は、通知された次の番号からのパケットを順次パケットバッファ8から読み出して再送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音声を含む各種マルチメディアデータをIP(Internet Protocol)パケットなどのパケットデータのかたちで伝送する移動通信システムと、この種のシステムに用いられるゲートウェイ装置、集線装置およびハンドオーバ制御方法に関する。特にこの発明は、無線端末装置の移動に伴うハンドオーバ処理の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
PHS(Personal Handy-phone System)、あるいは、いわゆるセルラフォンシステムなどを含む移動通信システムは今後ますます発展しようとしている。通信帯域の拡大はもとより、インターネットなどのIPネットワークとの融合も図られており、近年ではIPパケットをカプセル化やトンネリングなどの手法により伝送することも考えられている。
【0003】
周知のように移動通信システムは複数の基地局を備え、各基地局(CSa〜CSf)は、図8に示すような無線ゾーン(以下エリア、またはセルと称する)を個別に形成する。無線端末装置(以下モバイル端末と称する)はエリア内において、そのエリアを展開する基地局と無線接続される。他のエリアへと移動するモバイル端末は、接続中の基地局から移動先の基地局へと通信の相手先を切り替える。この処理をハンドオーバという。
【0004】
モバイル端末と基地局との通信は、モバイル端末がエリア境界に近づくにつれて劣化する。既存の移動通信システムではこの通信劣化をモバイル端末が検知して、モバイル端末から次の基地局に再接続(発呼)要求を行う方式が採用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
ところで既存の技術では、ハンドオーバの前後における通信環境の一時的な劣化に伴うパケットロスを避けられない。音声通信では少々のパケットロスに耐えうるものの、画像やテキストデータなどの伝送に際しては重要な情報が失われる虞がある。特に、モバイル端末が高速で移動するとハンドオーバも頻繁に行われ、失われるパケットも多くなるので事態は深刻である。
【0006】
パケットロスの防止には、モバイル端末が正常に受信できたか否かを個々のパケットごとにその都度確認するという手法がある。しかしながらこの方法では受信のOK/NGを確認するための応答を待たねばならず、通信速度の低下を招くほか、通信帯域やネットワークリソースも無用に消費されてしまう。上位レイヤ(TCP/IP)による再送処理制御によっても事情は同じである。
【0007】
特許文献2に、このような不具合の解消を目的とする技術が開示されている。この文献には基地局切り替えの瞬間のパケットを予測し、予測したパケットの番号を交換機に通知するシステムが開示される。しかしながら予測演算の負荷があるほか、基地局と交換機との間でのメッセージ授受のための帯域が占有されるので、これに代わる、より効果的な手法が模索されている。
【特許文献1】特開2005−27119号公報
【特許文献2】特開2003−153327号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上述べたように既存の移動通信システムにはハンドオーバに際していくつかのパケットが失われるという不具合があり、これを解決することのできる手法の提供が待たれている。将来の通信システムでは音声通信に比べ、パケットロスへの耐性の低いデータ通信が支配的になるので、より物理層に近い領域で効果的にパケットを救済できる手法が望まれている。
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、ハンドオーバに伴うパケットロスを防止した移動通信システムとそのゲートウェイ装置、集線装置およびハンドオーバ制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様によれば、それぞれ無線ゾーンを形成してモバイル端末を収容する複数の基地局装置と、パケット通信網に接続され、このパケット通信網と前記モバイル端末との間でのパケット通信を中継するゲートウェイ装置と、パケットバッファと、前記モバイル端末にダウンリンクで送信されたパケットを前記パケットバッファに保持するバッファ処理部と、前記モバイル端末から要求されたパケットを前記パケットバッファから読み出して要求元のモバイル端末に再送信する再送処理部とを具備し、前記モバイル端末は、前記無線ゾーン間の移動に伴うハンドオーバに際して未着のパケットの再送信を前記再送処理部に要求する要求処理部を備えることを特徴とする移動通信システムが提供される。
【0010】
パケットバッファ、バッファ処理部、再送処理部はゲートウェイ装置に備えられても良い。または、複数の基地局装置を集線するとともにこれらの基地局装置の管理機能を有する集線装置(基地局制御装置)をシステムが備えていれば、この集線装置にパケットバッファ、バッファ処理部、再送処理部を備えても良い。
【0011】
より具体的にはこの発明によれば、ハンドオーバを契機として、少なくともハンドオーバの開始から終了までの期間におけるパケットに識別番号が付与され、その状態のパケットがバッファされる。識別番号はモバイル端末ごとに区別可能であれば例えば連続番号であって良い。モバイル端末においては識別番号の連続性がチェックされ、不連続を生じれば、その直前のパケットの識別子がシステムに通知される。つまり正常に受信できた最後のパケットの識別番号がシステムに通知される。これに応じてシステムは、通知された識別番号の次の識別番号を持つパケットから順次、通知元のモバイル端末に再送信する。
【0012】
このような手段を講じることにより、ダウンリンクでのパケットが例えばゲートウェイ装置においてバッファされるので、ハンドオーバに際していずれかのパケットがモバイル端末に未着となったとしてもそのパケット自体が失われることが無い。しかもこの発明ではパケットの再送制御に係わる処理がハンドオーバに際してのみ実行され、TCP/IPにおける再送制御フローのように一つ一つのパケットごとに受信の正常/NGを確認する必要がない。よって上位レイヤの負荷を減らせるほか、必要な場合にのみ再送信を行えば良いので物理層における処理も最小限で済む。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、ハンドオーバに伴うパケットロスを防止した移動通信システムとそのゲートウェイ装置、集線装置およびハンドオーバ制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係る移動通信システムの実施の形態を示すシステム図である。図1の移動通信システムSは、それぞれエリアを形成してモバイル端末PSを収容する複数の基地局CS1〜CSnと、基地局制御装置2と、IPゲートウェイ装置1とを備える。モバイル端末PSは音声通話機能に加え、パーソナルコンピュータやPDA(Personal Digital Assistants)に接続されて種々のマルチメディアデータを送受信する機能を持つ。
基地局制御装置2は例えば有線チャネルを介して基地局CS1〜CSnを収容し、IPゲートウェイ装置1に接続する。併せて基地局制御装置2は、基地局CS1〜CSnに対するチャネル割り当てなどの種々の制御機能を有する。
【0015】
IPゲートウェイ装置1は、ISDN(Integrated Service Digital Network)網40と、例えばインターネットサービスプロバイダ(ISP)3を介してインターネット4とに接続される。ISDN網40は時分割データを伝送するコネクション型ネットワークであり、インターネットはIPパケットを伝送するコネクションレス型ネットワークであり、互いに異種のネットワークである。IPゲートウェイ装置1はこれらのプロトコルの違いを吸収し、各ネットワーク4,40とモバイル端末PSとの間でのIPによるパケット通信を中継する。このほか基地局制御装置2には固定電話機5が接続されるケースもある。
【0016】
図2は、図1の移動通信システムSの要部を詳細に示す機能ブロック図である。図2においてIPゲートウェイ装置1は、パケットバッファリング処理部6と、パケット再送処理部7と、パケットバッファ8とを備える。このうちパケットバッファリング処理部6およびパケット再送処理部7は、例えばCPU(Central Processing Unit)の演算処理により実現されるソフトウェア主体の制御機能であり、パケットバッファ8はRAM(Random Access Memory)などのハードウェアメモリである。
【0017】
パケットバッファリング処理部6は、モバイル端末PSにダウンリンクで送信されたパケットをパケットバッファ8に保持する。その保持期間は少なくともモバイル端末PSのエリア移動に伴うハンドオーバ期間よりも長い時間とする。すなわちパケットバッファ8の容量を、ハンドオーバ期間において生じるパケットの総量をバッファするのに足りる容量とする。モバイル端末PSが複数あればパケットバッファ8は各モバイル端末ごとに設けられ、各モバイル端末ごとにダウンリンクパケットを保持する。
【0018】
またパケットバッファリング処理部6は、バッファされるパケットに、端末ごとに区別可能な識別番号を付与する。その形態としては例えば端末固有の識別番号に、連続する通し番号を組み合わせるといった形態が考えられる。要するにこの識別番号は、端末ごとに区別できて、かつパケットの連続性を受信側で判断できる形態のものであれば良い。なおIPゲートウェイ装置1からダウンリンクで送出されるパケットも同じ識別番号が付与されたものになる。つまりIPゲートウェイ装置1において識別番号の付与されたパケットがコピーされて、一方はパケットバッファ8に保持されるとともに他方はダウンリンクでモバイル端末PS宛に送出される。ここでは、IPゲートウェイ装置1はモバイル端末PSからの応答の有無によらず、コピーしたパケットをそのままダウンリンクで即時送信する。
【0019】
パケット再送処理部7は、モバイル端末PSからの要求に応じて、要求されたパケットをパケットバッファ8から読み出して要求元のモバイル端末PSに再送信する。その要求を行うのはモバイル端末PSに新たに備わる機能処理部である、送信要求処理部9である。
【0020】
送信要求処理部9は、モバイル端末PSがハンドオーバしている状態において基地局(CS1,CS2)から到達したパケットの識別番号を読み取り、その連続性をチェックする。識別番号が不連続になれば、未着のパケットがあること、つまりパケットロスを生じたことがわかる。そこで送信要求処理部9はこの不連続を解消すべく、未着のパケットの再送信をIPゲートウェイ装置1に要求する。具体的には送信要求処理部9は、モバイル端末PSに到達したパケットのうち連続する識別番号の最後の識別番号を、IPゲートウェイ装置1のパケット再送処理部7に通知する。つまり受信パケットから読み取った通し番号が(001),(002),(003),(004),(007)という状態なら、送信要求処理部9は(004)をパケット再送処理部7に通知する。これを受けてパケット再送処理部7は、次の(005)のパケットから順次パケットバッファ8から読み出して、再度モバイル端末PSに送信する。次に、上記構成における作用を説明する。
【0021】
図3は、図2のシステムにおけるパケット再送に関わる処理手順を示すシーケンス図である。最初、モバイル端末PSは基地局CS1のエリア内で通信中であるとし、この状態では基地局CS1とモバイル端末PS、基地局CS1と基地局制御装置2、および基地局制御装置2とIPゲートウェイ装置1がそれぞれ呼接続されている(S101、S102、S103)。IPゲートウェイ装置1はパケットの即時送信を行いつつ送信パケットをコピーしてパケットバッファ8に保持する(S104)。バッファ容量はハンドオーバ期間を満たす最小限の容量であり、ハンドオーバ期間以上前のパケットは順次破棄される。
【0022】
モバイル端末PSが移動して基地局CS1のエリアの境界に近づくと、通信品質が規定のレベルから次第に劣化する。モバイル端末PSはこれを検知して、新たな接続先基地局を求めて、例えば、パイロット信号の受信強度が規定範囲内にある基地局CS2に接続要求を出す(S105)。この要求を受信した基地局CS2は接続応答をモバイル端末PSに返信し(S106)、モバイル端末PSと基地局CS2との間で無線リンク(呼)が接続される(S107)。続いてモバイル端末PSはHO(ハンドオーバ)要求を基地局CS2に送信し、基地局制御装置2と基地局CS2の呼接続もされ(S108)、基地局CS2は基地局制御装置2へハンドオーバ成功通知を送信する(S109)。
【0023】
そして、モバイル端末PSと、基地局制御装置2と、IPゲートウェイ装置1との間でのセッションの確立が、基地局CS2を介して開始する。なおその手順には例えばSIP(Session Initiation Protocol)手順を用いることができる。
【0024】
モバイル端末PSとIPゲートウェイ装置1との間でセッションが確立されると、IPゲートウェイ装置1は、基地局CS1を介したモバイル端末PSとの間のセッションおよび通信を維持したまま、さらに、基地局CS2との間でのセッションを確立する。このようにして基地局CS1から基地局CS2へのモバイル端末PSのハンドオーバが実行される。
【0025】
ここまでの過程においてモバイル端末PSは、到達されたパケットに付与された識別番号の連続性をチェックする(ステップS112)。連続性が保たれていればそのままハンドオーバは完了するが、不連続が見つかるとモバイル端末PSは未着のパケットがあるとみなしてパケットの再送を要求する。
【0026】
すなわちモバイル端末PSは、ハンドオーバが正常終了したのち、受信済みパケットのうち最後のパケットの識別番号をIPゲートウェイ装置1に通知する(S110)。IPゲートウェイ装置1は通知された識別番号をもとに、その次の識別番号を持つパケットをモバイル端末PS用のパケットバッファ8から読み出し、順次再送信する(S111)。再送信が完了すると、これ以降は基地局CS2を経由したパケット伝送が開始される。
【0027】
以上説明したようにこの実施形態では、IPゲートウェイ装置1に、モバイル端末ごとに確保されるパケットバッファ8と、ダウンリンクパケットをハンドオーバ期間にわたってパケットバッファ8に保持するパケットバッファリング処理部6と、モバイル端末からの要求に応じてパケットを再送信するパケット再送処理部7を備える。またモバイル端末PSに、ハンドオーバに際して未着のパケットの再送信をIPゲートウェイ装置1に要求する送信要求処理部9を備える。パケットバッファリング処理部6はモバイル端末PSからハンドオーバ通知を受信すると、ダウンリンクパケットに連続的な識別番号を付与する。モバイル端末PSは到達したパケットの識別番号の連続性をチェックし、不連続になれば、連続していた最後のパケットの識別番号をIPゲートウェイ装置1に通知する。そしてIPゲートウェイ装置1は、通知された次の番号からのパケットを順次パケットバッファ8から読み出して再送信するようにしている。
【0028】
このようにしたのでハンドオーバの際にモバイル端末PSで受信できないパケットが生じても、そのパケット自体が失われることは無い。しかも、パケットのバッファリングおよび識別番号の付加をハンドオーバを契機として開始するようにしているので、定常時におけるリソース消費を最小限にできる。さらに、パケットの連続番号をモバイル端末PS側でチェックすることで未着パケットの有無を検出できるので、処理負荷も軽くでき、上位層レベルでの処理も軽減できる。これらのことから、ハンドオーバに伴うパケットロスを簡易に防止することが可能になる。
【0029】
[第2の実施形態]
図4は、図1の移動通信システムSの第2の実施形態を示す機能ブロック図である。図4において図2と共通する部分には同じ符号を付して示し、ここでは異なる部分についてのみ説明する。図4のシステムにおいて、IPゲートウェイ装置1はパケット同報処理部10を備える。パケット同報処理部10は端的に言えば、ハンドオーバの開始から終了までの期間にわたってモバイル端末PSへのダウンリンクパケットをコピーし、ハンドオーバに関わる基地局CS1,CS2の双方に同報でパケットを送信する。
【0030】
この実施形態ではハンドオーバに際して、基地局CS1(ハンドオーバ元)と基地局CS2(ハンドオーバ先)の二つの基地局と、モバイル端末PSとの間に既に無線リンクが形成される。通常ではモバイル端末PSへのパケットは、モバイル端末PSが位置登録される基地局CS1宛てに送信される。モバイル端末PSは基地局CS1を介してIP通信を行っている状態とする。
【0031】
この実施形態においても、通信品質劣化を検出したモバイル端末PSは第1の実施形態と同様にHO要求を基地局CS2に送信する。その後図3と同様の手順を経て、モバイル端末PSとIPゲートウェイ装置1との間に基地局CS2を介するSIP接続が確立されると、IPゲートウェイ装置1のパケット同報処理部10は、モバイル端末PSとリンク接続中の基地局CS1、CS2に同じパケットを送信する。最後に、モバイル端末PSとの間の経路が基地局CS1から基地局CS2経由に切り替えられ、ハンドオーバが完了する。
このように、ハンドオーバに際してモバイル端末PSが接続中の2つの基地局に同じパケットを同報で送信することによっても、ハンドオーバ時のパケットロスを防止することが可能となる。
【0032】
[第3の実施形態]
第2の実施形態では、ハンドオーバに係わる2つの基地局に同じパケットを送出するようにしたが、2つに限らず複数の基地局に同報送信するようにしても良い。
図5は、図1の移動通信システムSの第3の実施形態を示す機能ブロック図である。図5のシステムにおいて、IPゲートウェイ装置1は複数基地局パケット送信処理部11を備える。複数基地局パケット送信処理部11は、モバイル端末PSのハンドオーバに際して複数の基地局CS1〜CSnに、同一のパケットを送信する。
【0033】
この実施形態では、モバイル端末PSからHO要求が生じると、IPゲートウェイ装置1はモバイル端末PSが接続中の基地局CS1と同じ基地局制御装置2の管理下にある、基地局CS2〜CSnにも同じパケットを送信する。つまりIPゲートウェイ装置1において複数の基地局分のパケットをコピーするようにする。あるいは、IPゲートウェイ装置1から送出するパケットは一つとし、それを基地局制御装置2でコピーするようにしても良い。
【0034】
この実施形態では、モバイル端末PSはセッションを確立する基地局を特定すること無く、HO(ハンドオーバ)要求を出す。このHO要求を受信したIPゲートウェイ装置1とモバイル端末PSとは、規定の選択基準に基づいて互いに選定した基地局との間でセッションを確立し、図3と同様のパケット再送手順を実施する。なお複数の基地局からどれを選択するかを決める基準は、今後の技術開発による。
【0035】
このように、同じ基地局制御装置2により管理される基地局の全てに同一のパケットを送信する機能をIPゲートウェイ装置1に持たせることで、モバイル端末PSが基地局CS1のエリアから近接する基地局CS2〜CSnのいずれかのエリアに移動した場合でも、ハンドオーバ後に正常にパケットを受信することが可能となる。すなわちパケットロスを防止することが可能になる。
【0036】
[第4の実施形態]
図6は、図1の移動通信システムSの第4の実施形態を示す機能ブロック図である。この実施形態ではIPゲートウェイ装置1は、図5の構成に加えてさらに基地局マップ12を備える。基地局マップ12は各基地局CS1〜CSnの相対的なロケーションを管理するためのもので、基地局の増設があればその都度更新される。
【0037】
この実施形態では複数の基地局へのパケットの同報送信にあたり、複数基地局パケット送信処理部11は基地局マップ12を参照して送信宛先とする基地局を選定する。つまり全ての基地局を対象とするよりも、モバイル端末PSが位置登録中の基地局CS1に近接するいくつかの基地局を宛先とするほうが、帯域の有効利用などの観点から有利である。基地局CS1に隣接する基地局は、IPゲートウェイ装置1に設定される近接距離閾値で求められ、CS1から近接距離閾値以下の距離にある基地局の全てを基地局CS1の隣接基地局と定義する。
【0038】
図7は、第4の実施形態において想定するシステム環境を示す模式図である。図7では複数のIPゲートウェイ装置1,1′が設置され、IPゲートウェイ装置1には基地局制御装置2および2′、IPゲートウェイ装置1′には基地局制御装置2′′が接続される。基地局制御装置2,2′,2′′はそれぞれ基地局CSa,CSb,CScを収容する。
【0039】
このような環境において、モバイル端末PSが例えば基地局CSaからCSbにハンドオーバする際に、IPゲートウェイ装置1が基地局マップ12を参照することで、パケットを同報すべき基地局を容易に特定することができる。さらに顕著な効果があるのは、モバイル端末PSが基地局CSbからCScにハンドオーバする場合である。これらの基地局はそれぞれ別のIPゲートウェイ装置(1、1′)の配下にあるが、システム敷設にあたり隣接する可能性がある。そこで、他のIPゲートウェイ装置1′に属する基地局の位置を示す基地局マップ12を参IPゲートウェイ装置1に備えることにより、同報送信すべき相手先の基地局CScを特定することが可能になる。
【0040】
このように本実施形態では基地局マップ12をIPゲートウェイ装置に備え、パケットを同報送信すべき基地局の絞込みを行えるようにした。これにより、よりインテリジェントな形態でパケットの同報送信を実施できるようになり、通信リソースの消費を最小限にしつつパケットロスを防止することが可能になる。
【0041】
なお、この発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態ではIPゲートウェイ装置1がパケットバッファリング処理部6と、パケット再送処理部7と、パケットバッファ8とを備えるとしたが、基地局制御装置2がこれらを備えるようにしても良い。基地局マップ12についても、その設置場所は問わない。もちろん、IPゲートウェイ装置1と基地局制御装置2とに分散させて各機能処理部を設けても良い。集線効果、費用対効果、CPU負荷などの様々なシステム要求に応じて種々のインプリメントが考えられる。
【0042】
さらに、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る移動通信システムの実施の形態を示すシステム図。
【図2】図1の移動通信システムSの要部を詳細に示す機能ブロック図。
【図3】図2のシステムにおけるパケット再送に関わる処理手順を示すシーケンス図。
【図4】図1の移動通信システムSの第2の実施形態を示す機能ブロック図。
【図5】図1の移動通信システムSの第3の実施形態を示す機能ブロック図。
【図6】図1の移動通信システムSの第4の実施形態を示す機能ブロック図。
【図7】この発明の第4の実施形態において想定可能なシステム環境を示す模式図。
【図8】複数の基地局CSa〜CSfにより形成されるエリアを示す模式図。
【符号の説明】
【0044】
S…移動通信システム、PS…モバイル端末、CS1〜CSn,CSa〜CSf…基地局、1…IPゲートウェイ装置、2…基地局制御装置、3…インターネットサービスプロバイダ、4…インターネット、5…固定電話機、6…パケットバッファリング処理部、7、パケット再送処理部、8…パケットバッファ、9…送信要求処理部、10…パケット同報処理部、11…複数基地局パケット送信処理部、12…基地局マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ無線ゾーンを形成してモバイル端末を収容する複数の基地局装置と、
パケット通信網に接続され、このパケット通信網と前記モバイル端末との間でのパケット通信を中継するゲートウェイ装置と、
パケットバッファと、
前記モバイル端末にダウンリンクで送信されたパケットを前記パケットバッファに保持するバッファ処理部と、
前記モバイル端末から要求されたパケットを前記パケットバッファから読み出して要求元のモバイル端末に再送信する再送処理部とを具備し、
前記モバイル端末は、
前記無線ゾーン間の移動に伴うハンドオーバに際して未着のパケットの再送信を前記再送処理部に要求する要求処理部を備え、
前記パケットバッファの容量は、少なくとも前記ハンドオーバの開始から終了までの期間において前記ダウンリンクで送信されたパケットを保持するのに必要な容量であり、
前記バッファ処理部は、少なくとも前記ハンドオーバの開始から終了までの期間におけるパケットに連続的な識別番号を付与して当該パケットを前記ダウンリンクで送信するとともに前記パケットバッファに保持し、
前記要求処理部は、前記モバイル端末に到達したパケットの識別番号が不連続であれば、この不連続の解消に要するパケットの再送信を前記再送処理部に要求することを特徴とする移動通信システム。
【請求項2】
前記バッファ処理部は、前記識別番号を付与したパケットを前記ダウンリンクで即時送信することを特徴とする請求項1に記載の移動通信システム。
【請求項3】
前記要求処理部は、前記モバイル端末に到達したパケットのうち連続する識別番号の最後の識別番号を前記再送処理部に通知し、
前記再送処理部は、通知された識別番号の次の識別番号を持つパケットから順次再送信することを特徴とする請求項1に記載の移動通信システム。
【請求項4】
前記パケットバッファは複数のモバイル端末ごとに設けられ、
前記バッファ処理部は、前記パケットを前記複数のモバイル端末ごとにそれぞれのパケットバッファに保持することを特徴とする請求項1に記載の移動通信システム。
【請求項5】
前記ゲートウェイ装置が、前記パケットバッファと、前記バッファ処理部と、前記再送処理部とを備えることを特徴とする請求項1に記載の移動通信システム。
【請求項6】
さらに、前記複数の基地局装置を集線して前記ゲートウェイ装置に接続し、当該複数の基地局装置の管理機能を有する集線装置を具備し、
この集線装置が、前記パケットバッファと、前記バッファ処理部と、前記再送処理部とを備えることを特徴とする請求項1に記載の移動通信システム。
【請求項7】
それぞれ無線ゾーンを形成してモバイル端末を収容する複数の基地局装置を具備する移動通信システムに設けられ、パケット通信網に接続されるゲートウェイ装置において、
前記パケット通信網と前記モバイル端末との間でのパケット通信を中継する中継機能と、
パケットバッファと、
前記モバイル端末にダウンリンクで送信されたパケットを前記パケットバッファに保持するバッファ処理部と、
前記モバイル端末のハンドオーバに際して当該モバイル端末から要求されたパケットを前記パケットバッファから読み出して要求元のモバイル端末に再送信する再送処理部とを具備し、
前記パケットバッファの容量は、少なくとも前記ハンドオーバの開始から終了までの期間において前記ダウンリンクで送信されたパケットを保持するのに必要な容量であり、
前記バッファ処理部は、少なくとも前記ハンドオーバの開始から終了までの期間におけるパケットに連続的な識別番号を付与して当該パケットを前記ダウンリンクで送信するとともに前記パケットバッファに保持することを特徴とするゲートウェイ装置。
【請求項8】
前記バッファ処理部は、前記識別番号を付与したパケットを前記ダウンリンクで即時送信することを特徴とする請求項7に記載のゲートウェイ装置。
【請求項9】
前記再送処理部は、前記モバイル端末から通知された識別番号の次の識別番号を持つパケットから順次再送信することを特徴とする請求項7に記載のゲートウェイ装置。
【請求項10】
前記パケットバッファは複数のモバイル端末ごとに設けられ、
前記バッファ処理部は、前記パケットを前記複数のモバイル端末ごとにそれぞれのパケットバッファに保持することを特徴とする請求項7に記載のゲートウェイ装置。
【請求項11】
それぞれ無線ゾーンを形成してモバイル端末を収容する複数の基地局装置と、パケット通信網に接続されてこのパケット通信網と前記モバイル端末との間でのパケット通信を中継するゲートウェイ装置とを具備する移動通信システムに設けられ、前記複数の基地局装置を集線して前記ゲートウェイ装置に接続する集線装置であって、
前記複数の基地局装置を管理する管理機能と、
パケットバッファと、
前記モバイル端末にダウンリンクで送信されたパケットを前記パケットバッファに保持するバッファ処理部と、
前記モバイル端末のハンドオーバに際して当該モバイル端末から要求されたパケットを前記パケットバッファから読み出して要求元のモバイル端末に再送信する再送処理部とを具備し、
前記パケットバッファの容量は、少なくとも前記ハンドオーバの開始から終了までの期間において前記ダウンリンクで送信されたパケットを保持するのに必要な容量であり、
前記バッファ処理部は、少なくとも前記ハンドオーバの開始から終了までの期間におけるパケットに連続的な識別番号を付与して当該パケットを前記ダウンリンクで送信するとともに前記パケットバッファに保持することを特徴とする集線装置。
【請求項12】
前記バッファ処理部は、前記識別番号を付与したパケットを前記ダウンリンクで即時送信することを特徴とする請求項11に記載の集線装置。
【請求項13】
前記再送処理部は、前記モバイル端末から通知された識別番号の次の識別番号を持つパケットから順次再送信することを特徴とする請求項11に記載の集線装置。
【請求項14】
前記パケットバッファは複数のモバイル端末ごとに設けられ、
前記バッファ処理部は、前記パケットを前記複数のモバイル端末ごとにそれぞれのパケットバッファに保持することを特徴とする請求項11に記載の集線装置。
【請求項15】
それぞれ無線ゾーンを形成してモバイル端末を収容する複数の基地局装置と、パケット通信網に接続されてこのパケット通信網と前記モバイル端末との間でのパケット通信を中継するゲートウェイ装置とを具備する移動通信システムにおける前記モバイル端末のハンドオーバ制御方法であって、
前記モバイル端末にダウンリンクで送信されたパケットをパケットバッファにバッファリングするステップと、
前記無線ゾーン間の移動に伴うハンドオーバに際して未着のパケットの再送信を前記モバイル端末から前記移動通信システムに要求するステップと、
前記モバイル端末から要求されたパケットを前記パケットバッファから読み出して要求元のモバイル端末に再送信するステップと、
少なくとも前記ハンドオーバの開始から終了までの期間におけるパケットに連続的な識別番号を付与するステップとを具備し、
前記モバイル端末は、到達したパケットの識別番号が不連続であれば、この不連続の解消に要するパケットの再送信を要求することを特徴とするハンドオーバ制御方法。
【請求項16】
前記識別番号を付与されたパケットは、前記ダウンリンクで即時送信されることを特徴とする請求項15に記載のハンドオーバ制御方法。
【請求項17】
前記モバイル端末は、到達したパケットのうち連続する識別番号の最後の識別番号を前記移動通信システムに通知し、
前記移動通信システムは、通知された識別番号の次の識別番号を持つパケットから順次再送信することを特徴とする請求項15に記載のハンドオーバ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−141707(P2009−141707A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316364(P2007−316364)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】