種卵検査装置
【課題】任意の孵卵工程における任意の種卵に対する生存・非生存を鑑別し、その要因まで分類することができ、さらに1時間あたり数万個の判定処理能力を達成することができる種卵検査装置および種卵検査方法を提供する。
【解決手段】トレイ1の卵座に置かれた卵にLED光源7から光を照射し、吸盤8とともにヘッド9に取り付けられたフォトダイオードPDによって卵の中を透過・散乱した光を受光する。受光した光を受光電圧に変換し、受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるようにLED光源7の光源光量を制御することで、種卵の状態によらず適切なレベルの受光電圧の時系列を得て、受光電圧時系列の平均周りの変動分と卵に対する光の透過率等から種卵の内部状態を判定する。
【解決手段】トレイ1の卵座に置かれた卵にLED光源7から光を照射し、吸盤8とともにヘッド9に取り付けられたフォトダイオードPDによって卵の中を透過・散乱した光を受光する。受光した光を受光電圧に変換し、受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるようにLED光源7の光源光量を制御することで、種卵の状態によらず適切なレベルの受光電圧の時系列を得て、受光電圧時系列の平均周りの変動分と卵に対する光の透過率等から種卵の内部状態を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商業ベースの家禽孵卵場における孵化率の予測や改善を目指した生産管理活動に使用が可能な、種卵の生存・非生存を始めとした内部状態を鑑別する検査装置に関し、より詳細には、種卵の孵卵日数や状態に依存することなく生存胚を含む生存卵において胚の発育状況を推定し、また、生存胚を含まない非生存卵を要因別(初期発育中止、中期発育中止、後期発育中止、腐敗、未受精など)に分類する種卵検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、孵卵工程において任意の時点での卵内情報を非破壊で得ることは、生産管理上、重要な課題となっている。
【0003】
産業としての家禽には、鶏、アヒル、七面鳥、ウズラ、ホロホロ鳥、ガチョウ、ダチョウなどがあり、これらは有用なタンパク資源として食卵、食肉産業ともに世界的に普及している。地域によってばらつきはあるが、鶏は家禽のうち90%以上を占める中心的な存在であることから、ここでは鶏について述べることにする。
【0004】
種卵とは、孵化させることによって雛を生産したり、あるいはワクチン生産を目的としてウイルスを増殖させるために、鶏の雌雄を同じ場所に収容して飼育して自然交配させたり、人工授精の結果、得られた卵のことを指す。この種卵の生産を目的として飼育されている鶏は、種鶏と呼ばれている。
【0005】
一般的な孵卵場における雛の生産工程について図28を用いて示す。種卵の内部では産卵時点においてすでに胚の発生が進行しているが、早期に採卵して28℃以下に保存する貯卵工程に進めることで休眠状態に入る。この性質を利用して一定期間に得られた種卵を貯卵し、休眠状態の種卵を孵卵工程に入れる前に予備加温によって胚の活動を再開させることにより、まとめて同一日に雛が誕生するよう孵卵作業が進められている。
【0006】
汚れやひびがない種卵は消毒後にセッタートレイの卵座に並べられ、セッターと呼ばれる転卵しながら約38℃に加温する装置内での孵卵工程に進む。この孵卵工程を開始する日を入卵日といい、孵卵日数とは入卵日を起点とした経過日数である。
【0007】
孵卵18日目あるいは19日目になると、種卵はハッチャー(雛を発生させるための孵卵をおこなう装置)のバスケットに移動される。この移卵作業に合わせて未受精卵や発育中止卵、腐敗卵といった非生存卵を取り除くための検卵作業が、1日あたり数万個から数十万個程度の卵に対しておこなわれ、引き続き卵内にワクチン等を接種することもある。この後、通常、孵卵21日目には雛が孵化する。
【0008】
以下の説明では、上述した各工程における管理上の要件ごとの課題について、図29を用いて取り上げる。種卵の受精率は決して完全ではなく未受精卵が存在し、たとえば自然交配で得られたブロイラー種卵の未受精卵の割合は5〜25%程度である。ところが、受精卵であっても孵卵工程中に卵内の胚が死亡することがあるため、孵化率は50〜90%程度である。孵卵中に卵内の胚が死亡した卵を発育中止卵と言う。発育中止卵は、胚の死亡した時期によって下記のように分類される。
【0009】
【表1】
【0010】
なお、商業ベースの孵卵場では、所定の期日までに誕生した雛のみが出荷されており、たとえ期日に遅れて孵化したとしても商品として供給されることはない。つまり孵化率とは、入卵数に対する、期日までに誕生した雛の数の割合を表すもので、それ以外の卵の内訳とは、未受精卵、受精卵ではあるが卵内で胚が死亡した発育中止卵、卵内で胚が生存していても期日までに孵化しなかった発育遅延卵である。
【0011】
貯卵期間が長いと孵化するまでの孵卵日数が長くなり期日までに孵化が間に合わない場合があるほか、貯卵条件が孵化率を左右することが知られている。また産卵後、貯卵までの経過時間はさまざまで、孵卵を開始した時点で胚の状態にはすでにばらつきが存在している。
【0012】
適切な雛の生産管理には、孵卵工程にある種卵の孵化率を早期に予測できることが重要であるが、同一ロットであっても胚の発育には孵卵日数から見込まれる発育状態より先行あるいは遅延がある程度含まれることから、期日に誕生する雛の数の予測は不可能である。
【0013】
孵化に供する種卵の管理形態は2種類存在し、図30に示すようにそれぞれシングルステージ方式、マルチステージ方式と呼ばれる。前者は1つのセッターに1ロットの種卵を充填して孵卵する方法であり、セッター内に存在する種卵の発生段階は、基本的にすべて同一である。
【0014】
後者は1つのセッター内に異なる複数ロットの種卵を充填して孵卵する方法であり、セッター内には雛の孵化予定日が様々な段階の種卵が併存している。したがって後者においては、人為的ミスによりロットを取り間違える危険性を伴うが、胚の発育状態を非破壊では読み取れないため、取り違いに気付かず誤った処理を継続する問題が指摘されている。この問題の解決のために、任意の孵卵工程にある種卵の発育状態を機械的に確認し、人為的ミスを排除できることが期待されている。
【0015】
一般に考えられている検卵の目的のひとつは孵卵衛生で、非生存卵を除去せずに孵卵を続けた場合、種卵内部で微生物が増殖することがあり、産生したガスによって内圧が上昇し、卵殻が破裂して内容物の飛散によって雛全体が汚染することを防ぐためである。
【0016】
加えてもうひとつの目的とは孵卵条件の管理で、自温を発生しない非生存卵を適切に除去することによって孵卵温度が安定するためである。検卵作業は移卵時におこなわれることが多いが、より早期に非生存卵を検出・除去することによって他の卵への影響が低減されるため、孵卵時期を問わず種卵の生存・非生存を的確に判別できることが望ましい。
【0017】
これまでに述べたように孵化率は、受精率や貯卵条件、孵卵環境などによって左右されることから、たとえば孵化率が低い場合には、種鶏の入れ替え、貯卵条件や孵卵環境の見直しなどを図らなければならない。専門家からは種卵の破壊検査によって収集した詳細な卵内情報を分析し、受精率・発育中止発生率・腐敗発生率や、発育中止時期の推定などから孵化率改善の諸策を講じることが推奨されており、正確を期するためには相当数のデータの取得が必要とされている。
【0018】
ところが破壊検査は手間がかかるうえ、孵卵に供するための種卵を使用することから経済的ロスが大きい。このため産業界では、種卵の割卵検査はほとんどおこなわれず、雛の生産は経験に頼っているのが実状である。経済性を追求した雛の生産管理の実施には、種卵の内部情報を非破壊で把握できることが望まれている。
【0019】
これらに共通する根源的な課題は、任意の孵卵工程にある任意の発育状態の種卵の内部情報を正確に非破壊判定できないために、工程上の問題をフィードバックできないことである。なお、既存の装置では検査に適した孵卵日数が限定されている、卵内情報の分類範囲が少ない、判定精度が低い、などの問題があるため、生産管理に必要な情報という観点で見ると不足感が否めない。以下、こうした既存技術を問題点も含め紹介する。
【0020】
種卵に光を当てて目視により透視する透光検卵は古くからおこなわれており、透視した血管の存在の有無から胚の生死を判定している。この原理に基づき装置化したものが特開2004−101204号公報に記載されている「有精卵の検査法および装置」、VISIO NERF社(フランス)のOVOCHECK、ECAT社(フランス)のWISECAREであり、種卵に光を照射して卵内部の画像を撮像し、血管の状態から生存卵などを自動判定している。これらは孵卵11日程度の白色卵の胚の観察には適した方法であるが、褐色卵では透視し難く、さらに発生が進んだ後期胚ではほとんど判別できない欠点を有している。
【0021】
人手による透光検卵では前記に掲げた血管の存在のほか、種卵に照射した光が卵内に入射して透過・拡散し、卵より出射した光の明るさから種卵内部の情報を読み取る方法がある。この原理に基づき装置化したものがECAT社のレーザーキャンドリングシステムであり、この原理に基づき照射光の透過率より生存卵・非生存卵の判別をおこなう発明については、特開2005−052156号公報に記載されている。
【0022】
これらの場合、対象卵の透過率が所定の孵卵日数を経た平均的な生存卵と同等の明るさであることを判断の根拠としているものであり、透過率にあまり差異がない非生存卵(たとえば中期発育中止卵、後期発育中止卵や腐敗卵)を誤って生存卵と判定することが認められている。さらに測定対象となる種卵の大きさや孵卵日数などを一定に揃えた上で検卵に供する必要があるが、種卵の状態が均一となることはあり得ず、全ての卵を正確に計測できない問題があった。
【0023】
卵の透過率は、本来、次式で計算されるものであるが、当該発明では、全ての対象卵に対して光源強度一定の光を卵に照射し、卵への入射光量を一定と考え、卵からの出射光量およびこれを光電変換した電圧値を卵の透過率に正比例した量として、卵の透過率の違いを見るのに用いている。
【0024】
【数1】
【0025】
なお、当該発明は外乱光対策として、光源を100Hz以上の周期で点滅させ、光源がON時の受光電圧とOFF時の受光電圧の差を複数回取り、その平均を求めて、受光電圧中の外乱光の影響を除いた光源にのみに由来した卵からの出射光量を求めている。
【0026】
このように光源を点滅させてはいるので、上述の光源強度一定の光を卵に照射しているという記述は、一見正しくないように思われるかも知れないが、ON時の光源強度が全ての対象卵に対して一定であるという事実が当該発明の卵の判別原理の本質であり、ECAT社のレーザーキャンドリングシステムもまた同様である。
【0027】
前記方法を改良した装置としては、特表2002−543804号公報に記載されている装置があり、出射光の明るさを種卵の温度で補正して生存卵の識別精度を改善しているが、透過率にあまり差異がない非生存卵(たとえば中期発育中止卵、後期発育中止卵や腐敗卵)を誤って生存卵と判定することが解消されていない。
【0028】
このほか特表2009−503513号公報では、種卵の透過率の分布範囲を3つの部分に分け、未受精卵・発育中止卵、生存卵、腐敗卵に分類して、生存卵以外を除去する装置について触れているが、後期卵では、腐敗卵と透過率の分布範囲が重なるので適用対象は孵卵11日目に限定される欠点がある。
【0029】
一方、目視検卵の応用による自動化とは異なる原理による検卵方法も提案されている。特開平09−127096号公報には、孵卵過程における種卵の生存・非生存を同定するため、生存卵の場合は種卵内部を透過・拡散した光が経路中の血管の膨張・収縮及び胚の運動性を受けて光の強度が周期的・非周期的に変動するが、非生存卵の場合は光の強度が変動せず一定である性質を利用して胚の生死を判定する装置について記載がある。同様の原理による検卵技術は、古くは米国特許3,540,824号明細書に述べられており、特表2004−528560号公報にも同一原理の記載が見られる。
【0030】
特開平09−127096号公報では、公知例である図31に示されるように、受光部に交流結合を用いている。すなわち、フォトダイオードと電流電圧変換用のOPアンプの接続部分にコンデンサと抵抗からなるハイパスフィルタを挿入する方法を用いている。この方法は、フォトダイオードの受光信号のうちの直流成分を除いた変動分のみを取り出した上で、電流電圧変換する方法であり、鶏卵に限らず医用分野で心拍や脳波などの生体由来の信号中の変動成分を計測する場合に良く用いられる方法である。
【0031】
しかし、一方で最初から直流成分を除去しているので、卵の透過率の情報が失われ、種卵の生存・非生存までは判定できるものの、非生存卵の分類(たとえば、未受精、初期発育中止、中期発育中止、後期発育中止、腐敗など)ができないため、受精率等が把握できず、生産管理情報としては不十分である。
【0032】
生存卵に対して光を照射したとき、卵からの出射光の強度が周期的・非周期的に変動する性質を用いた検卵技術は、他に特表2005−532046号公報が既知であり、変動成分に加えて、直流成分の利用の効用を指摘している。しかし、生体由来の信号中の変動成分は直流成分の1%程度しかないので、未授精卵に対して透過率が数十分の1しかない孵卵18日の卵に対して、生存と非生存の区別を変動成分により精度よく行うためには、全ての対象卵に対して光源強度一定にする公知の方法では、後期卵用の光源光強度に固定しておく必要があるので、非生存胚が判別できても後期卵に比較して透過率の大きい未受精卵、初期発育中止卵、中期発育中止卵では受光部出力が飽和するので正しい直流成分を値が取得できず、非生存卵の分類(たとえば、未受精、初期発育中止、中期発育中止、後期発育中止、腐敗など)ができない問題を残している。
【0033】
種卵が自温を発する原理を利用した検卵方法の提案もなされており、米国特許第4,914,672号明細書、米国特許第4,955,728号明細書では、セッターから出した後の経過時間と種卵温度との関係において、非生存卵の方が生存卵よりも温度低下が大きいことを利用して種卵の生存・非生存を判定する検卵方法が知られている。しかし、温度低下を検知するには時間を要するほか、熱に基づく検卵に有効なのは孵卵17日以降であるなど、この原理では産業界において有効とはいえない。
【0034】
米国特許第6,488,156号明細書は、種卵を電極で保持し心拍を検出する装置について記載している。この方法では種卵の生存・非生存は判定できるものの、非生存卵の分類(たとえば、初期発育中止、中期発育中止、後期発育中止、腐敗など)ができないために受精率等が把握できず、生産管理情報としては不十分である。
【0035】
特表2004−516475号公報には、種卵を通過した光のスペクトルの形状から卵の内部情報を分類する技術の記載がある。非生存卵の要因分類、特に腐敗卵に関しては有効であるが、さまざまな時期における生存卵の識別が困難なため、任意の時期における内部情報測定には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】特開2004−101204号公報
【特許文献2】特開2005−052156号公報
【特許文献3】特表2002−543804号公報
【特許文献4】特表2009−503513号公報
【特許文献5】特開平09−127096号公報
【特許文献6】米国特許第3,540,824号明細書
【特許文献7】特表2004−528560号公報
【特許文献8】特表2005−532046号公報
【特許文献9】米国特許第4,914,672号明細書
【特許文献10】米国特許第4,955,728号明細書
【特許文献11】米国特許第6,488,156号明細書
【特許文献12】特表2004−516475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
このように、従来の種卵検査装置では、任意の孵卵工程における任意の種卵に対する生存・非生存を鑑別し、その要因まで分類する手段としては、いずれの方法も正確さに欠けており、未だ解決に至っていない。
【0038】
また、同種の問題は雛の生産工程のみならず、ワクチン生産工程にも共通するものである。ワクチン生産においては、ウイルスを接種した孵卵11日目ないし12日目の種卵を2〜3日間加温した後に増殖したウイルスを含む培養液を回収する工程が含まれているが、ウイルス接種時および回収時には胚が生存している必要がある。これらの時期における種卵の生存・非生存の鑑別や非生存卵の要因分類、特に腐敗卵の確実な識別がより一層求められているものの、上記既存技術のいずれの方法も正確さに欠けており、未だ解決に至っていない。本発明は、これらの問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0039】
請求項1に記載の発明は、種卵に光を照射する光源と、前記光源から照射された光のうち前記種卵中を透過・散乱した光を受光する受光部と、前記受光部が受光した光を受光電圧に変換する光電変換部と、前記光電変換部が変換した受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を制御する制御部と、前記制御部が決定した前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する記憶部と、前記記憶部が記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分と前記制御部が決定した制御量から前記種卵の内部状態を判定する判定演算部と、を備える種卵検査装置である。
【0040】
請求項2に記載の発明は、種卵に光を照射する光源と、前記光源から照射された光のうち前記種卵中を透過・散乱した光を受光する受光部と、前記受光部が受光した光を受光電圧に変換する光電変換部と、前記光電変換部が変換した受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を制御する制御部と、前記制御部が前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を決定した際の光源光量を測定する測定部と、前記制御部が決定した前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する記憶部と、前記記憶部が記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分と前記測定部が測定した光源光量の測定値から前記種卵の内部状態を判定する判定演算部と、を備える種卵検査装置である。
【0041】
請求項3に記載の発明は、種卵に光を照射する光源を備え、前記光源はLEDであって、LEDの電流制限抵抗の一部を固定化し、その両端の電圧である固定部抵抗電圧を測定する回路を有し、さらに、前記光源から照射された光のうち前記種卵中を透過・散乱した光を受光する受光部と、前記受光部が受光した光を受光電圧に変換する光電変換部と、前記光電変換部が変換した受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲となるように前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を制御する制御部と、前記制御部が決定した前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する記憶部と、前記制御部が前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を決定した際あるいは受光電圧の時系列をサンプリング中の固定部抵抗電圧と受光電圧から計算した透過率と前記記憶部が記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分から前記種卵の内部状態を判定する判定演算部と、を備える種卵検査装置である。
【0042】
請求項4に記載の発明は、前記光源が、発光スペクトルの形状が単一の中心波長を有する単峰性の光源ユニットを複数個用いており、これらの光源ユニットの中心波長の種類が複数である請求項1から請求項3のいずれかに記載の種卵検査装置である。
【0043】
請求項5に記載の発明は、前記光源が、前記種卵を載せるトレイの卵座の中心に対して点対称に配置された複数個の光源である請求項1から請求項4のいずれかに記載の種卵検査装置である。
【0044】
請求項6に記載の発明は、前記記憶部が、14Hz以上のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する請求項1から請求項5のいずれかに記載の種卵検査装置である。
【0045】
請求項7に記載の発明は、前記記憶部が、受光電圧の時系列を500msec以上記憶する請求項1から請求項6のいずれかに記載の種卵検査装置である。
【0046】
請求項8に記載の発明は、種卵に光を照射するステップと、前記種卵中を透過・散乱した光を受光するステップと、前記受光するステップが受光した光を受光電圧に変換するステップと、受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように光源光量および/または受光感度を制御するステップと、前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した際の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶するステップと、前記受光電圧の時系列を記憶するステップで記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分と前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した制御量から前記種卵の内部状態を判定するステップと、を備える種卵の内部状態検査方法である。
【0047】
請求項9に記載の発明は、種卵に光を照射するステップと、前記種卵中を透過・散乱した光を受光するステップと、前記受光するステップが受光した光を受光電圧に変換するステップと、受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように光源光量および/または受光感度を制御するステップと、前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで光源光量および/または受光感度を決定した際の光源光量を測定するステップと、前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した際の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶するステップと、前記光源光量を測定するステップが測定した光源光量の測定値と前記受光電圧の時系列を記憶するステップで記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分から前記種卵の内部状態を判定するステップと、を備える種卵の内部状態検査方法である。
【0048】
請求項10に記載の発明は、種卵に光を照射するステップと、LED光源の電流制限抵抗の一部を固定化し、その両端の電圧である固定部抵抗電圧を測定するステップと、前記種卵中を透過・散乱した光を受光するステップと、前記受光するステップが受光した光を受光電圧に変換するステップと、受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように光源光量および/または受光感度を制御するステップと、前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した際の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶するステップと、前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで光源光量および/または受光感度を決定した際あるいは受光電圧の時系列をサンプリング中の固定部抵抗電圧と受光電圧から計算した透過率と受光電圧の平均周りの変動分から前記種卵の内部状態を判定するステップと、を備える種卵の内部状態検査方法である。
【発明の効果】
【0049】
本発明に係る種卵検査装置によれば、任意の孵卵工程における任意の種卵に対する生存・非生存を鑑別し、その要因まで分類することができ、さらに1時間あたり数万個の判定処理能力を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例に係るトレイを上から眺めた図である。
【図2】トレイの卵座に卵を置いた状態を上から眺めた図である。
【図3】本発明に係る種卵検査装置の搬送台を上から眺めた図である。
【図4】検査ステーション上にトレイを置いて上から眺めた図である。
【図5】卵座の拡大図である。
【図6】検査ステーションへのトレイの搬入の様子を示す図である。
【図7】卵の内部を計測するときの種卵検査装置の状態を示す図である。
【図8】本発明に係る種卵検査装置の構成を示す図である。
【図9】LED光源のONOFF変調の例を示す図である。
【図10】受光電圧取得タイミングを示す図である。
【図11】孵卵18日目の生存卵に対する測定例を示す図である。
【図12】種卵の孵卵日数と波長ごとの透過率の関係を示す図である。
【図13】光源光量決定ステップの処理手順を示すフローチャート図である。
【図14】LED光源のONOFF変調による光量の時間変化を示す図である。
【図15】本発明に係る情報処理手順の全体を示すフローチャート図である。
【図16】13日胚を含む卵の生体信号の測定例を示す図である。
【図17】13日胚を含む卵の生体信号をフーリエ変換した結果を示す図である。
【図18】サンプル卵の平均の帯域別スペクトル強度を示す図である。
【図19】サンプル卵の平均の正規化帯域別スペクトル強度を示す図である。
【図20】本発明に係る種卵検査装置の別の構成を示す図である。
【図21】本発明に係る種卵検査装置のさらに別の構成を示す図である。
【図22】LED光源のONOFF制御シーケンスを示す図である。
【図23】判定指標と非生存卵・腐敗卵の間の関係を示す図である。
【図24】本発明に係る判定手順の全体を示すフローチャート図である。
【図25】複数の卵を同時に計測している状態を示す図である。
【図26】光源光量制御部にD/A変換器を用いた構成を示す図である。
【図27】受光部のOPアンプのゲインを切り替える構成を示す図である。
【図28】一般的な孵卵場における雛の生産工程を示す図である。
【図29】雛の生産工程における管理上の要件ごとの課題を示す図である。
【図30】孵化に供する種卵における2種類の管理形態を示す図である。
【図31】交流結合を用いる従来技術に係る受光部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
商業ベースの孵卵場で、種卵の内部状態の判定を全数行う場合、検査装置1台で1時間あたり数万個の判定処理能力が求められる。一方、種卵の生死判別を心拍や胚の運動など生きた胚の存在に起因する現象の有無に帰着させる方法が知られており、この方法による生死判別は最も正確だが生体の活動速度に依存するが故に判定に時間が掛かる問題がある。
【0052】
この問題の解決法として、孵卵場では、孵卵中の種卵はセッタートレイと呼ばれるトレイに載せて収容されており、個々のトレイ上には、数十個の卵が存在することに着目し、トレイに載せた状態で、トレイ上の卵を全数同時に判定処理すれば、1時間あたり数万個の判定処理能力が達成可能であると考えられる。
【0053】
そこで以下、図を用いて本発明の実施例では孵卵場での処理能力の要求や運用形態を考えた現実的な光学系と搬送系の中で、孵卵場での種卵の管理に必要な「受精卵と未受精卵の区別」、「受精卵の生死判別」、「非生存卵の分類」および「生存胚の発育度合」など卵内情報を非破壊的に取得するための手法を示す。
【0054】
<トレイ>
図1は、本実施例の説明に用いるセッタートレイを上から眺めた図である。以下簡単のために図1のセッタートレイを単にトレイ1と呼ぶ。このトレイ1は、正6角形の卵座2を6行×7列組み合わせて42個の卵を収容可能できる。
【0055】
図2は、トレイ1の卵座2すべてに卵を置いた状態を上から眺めた図である。各卵座2の下は、卵を保持する僅かな突起物3のほかに光を遮るものは存在しない。なお、孵卵場で用いられるセッタートレイには、ここに例示するもの以外に種々の形状のものが存在するが、各卵座の下に卵を保持する突起物のほかに光を遮るものは存在しないなど後述の計測に必要な要件は、共通に満たされており、本発明は、このセッタートレイの形状に限定されるものではない。
【0056】
<検査装置の搬送台上のトレイの移動>
さて、セッターから取り出されたトレイ1は、図3に示す本実施例の検査装置の搬送台4に載せてトレイ搬送方向(第1行から順に行の番号が増える方向)へ移動させることができる。
【0057】
<検査ステーションと内部の光学系の構成>
図3に示す搬送台4の一部の範囲は、検査ステーション5と呼ばれる区画を形成している。詳しくは、検査ステーション5の存在する搬送台4の天板の一部は、ガラス板のような透明物6でできており、搬送台4の下部から搬送台4の上部に向けて光を照射することができる。
【0058】
上記の検査ステーション5の透明部分の下部には、トレイ1の卵座2の位置に対応する形で、LED光源7が6行×7列配置されており、図4は、各卵座2に対応しているLED光源7の真上にトレイ1を置いて上から眺めた図である。
【0059】
各LED光源7は、図5に示すように、複数個のLEDを卵座2上の卵の中心に対して点対称の位置に配置した構成を持つ。これは、卵座2上の卵の姿勢や卵内の胚の存在位置に、計測結果が依存しないようにするためである。
【0060】
また、各LED光源7の上部には、図6に示すように各LED光源7に正対する形で光検出器であるフォトダイオードPDが1個ずつ配置されている。各フォトダイオードPDは、個々に独立した黒色の遮光性と柔軟性を備えた素材でできた吸盤8内に収められ、各吸盤8とともにヘッド9と呼ぶ機構に取り付けられている。ヘッド9は、検査ステーション5の上部で上下できる機構(図示せず)を備えている。
【0061】
<検査装置の動作シーケンス>
図6は、検査ステーション5へのトレイ1の搬入の様子を示している。通常、ヘッド9は、上方に上がって固定されており、トレイ1の進入を妨げない。トレイ1が搬送台4上を移動し、トレイ1上の卵座2の位置が、対応するLED光源7に一致する場所まで来ると、トレイ1は停止し、ヘッド9が下降して吸盤8が卵に重なる位置で停止する。遮光性を持つ吸盤8が卵に接触することによりLED光源7からの光の内、卵内を透過あるいは拡散して来た光のみがフォトダイオードPDに入る。図7の状態にトレイ1が停止しヘッド9の下降が完了すれば、計測の準備が完了である。この状態で卵の内部状態を推定するための計測は、トレイ1上のすべての卵に対して同時になされる。
【0062】
<説明の方針>
(1)基本的には、すべての卵に対して計測の光学系や制御回路や内部状態の推定に用いられる信号処理は同じであるのでまず、セッタートレイ上の1個の卵に対する計測制御回路や光学系および卵の内部状態の推定を行うための信号処理手順を示し、さらにこの部分の説明を3段階に分けて記述する。
(1−1)まず、LED光源の波長が1種類の場合の基本形を示す。
(1−2)続いて、内部状態の推定結果をより精密化するための計測回路の改良やLED光源波長の複数化を述べる。
(1−3)検査装置に外部から強い振動や外乱光や電気的な雑音が加わったときの障害 対応を述べる。
(2)最後にセッタートレイ上に密におかれた卵を同時に計測する場合に注意すべき隣接する卵の間の計測の干渉の問題とその問題の解決の方法を述べる。
【0063】
<計測回路の説明>
図8はトレイ上の1個の卵に対する光学系や計測制御回路およびマイクロコンピュータで実現される判定演算部とのつながりを示しており、光源であるLEDは、流した電流に比例した光量で発光する性質をもつ。また本実施例に用いるLEDは、特定の値を中心波長に持つ単峰性の発光スペクトルを有している。なお、本発明に係る光源は特定の値を中心波長に持つ光源に限られず、白色LEDを用いることもでき、LED以外の光源を使用することもできる。
【0064】
図8のLEDは、近赤外域に中心波長を持つものであり、定格電流が100mAである。したがって,LEDに流す電流を1mAから100mAまで変化させると、光源光量が1mAの時の光源光量の100倍まで変化する。
【0065】
このように、LEDは広い範囲で光量調整が可能な発光素子である。LEDの発光は、通常、一定電圧の直流電源に電流制限抵抗とLEDを直列につないでなされる。この電流制限抵抗の値によってLEDに流れる電流値が決まり光源光量が決まる。
【0066】
本実施例では、24Vの安定化された直流電源にLEDと電流制限抵抗とを直列につないでいるが、この電流制限抵抗を敢えて2つの部分に分けて構成しており、一つは100Ωの固定抵抗であり、もう一方は複数の異なる値を持つ抵抗から特定の抵抗を一つ選択できるようにした抵抗選択部分である。本実施例では、20KΩから100Ωまで16段階で順に抵抗値が小さくなるように抵抗が配置されている。
【0067】
LEDの電流制限抵抗値は、固定抵抗値と選択された抵抗値の和なので、LEDに流れる電流値も16段階で切り替えることができ、結果としてLEDの光源光量も16段階で切り替えられる。16段階の光源光量の最小の段階を光源光量レベル1とし、レベル1からレベル16までレベルの値が大きくなるに従い光源光量が大きくなり、レベル16で最大になる。
【0068】
光源光量レベルの選択は、16種類の抵抗の選択に帰着するので、図8の如く抵抗にスイッチの働きをするトランジスタなどの電子素子を組み合わせることにより、卵の内部検査のためのプログラムを実行するマイクロコンピュータからデジタル出力ボードを介して16ビットのビットパターン信号を出力することによりプログラムから制御することができる。このビットパターン信号を「光源光量制御信号」と呼ぶ。
【0069】
本発明の実施例では、固定抵抗とLEDの間にもスイッチの働きをするトランジスタなどの電子素子を挿入し、卵の内部検査のためのプログラムを実行するマイクロコンピュータからデジタル出力ボードを介して1ビットの信号を出力することにより、LEDの点灯(ON)と消灯(OFF)を制御することができる。この信号を「光源ONOFF信号」と呼ぶ。
【0070】
LEDから卵に照射された光は、卵内に入射する光と卵殻表面で反射する光に分かれる。卵内に入射した光は、卵内を透過あるいは拡散し、卵内の状態の影響を受けた光が再び卵から出射される。出射光の一部が卵に接触した吸盤内に設置されたフォトダイオードPDの受光面に入射する。
【0071】
フォトダイオードPDは、その検出面に入射した光の強度に比例した電流を発生させる光検出器であり、検出された電流は、OPアンプでできた電流電圧変換回路で電圧に変換される。本実施例の電流電圧変換回路のゲインは一定であり、電流電圧変換回路の入力の電流値と出力の電圧値も比例しているので、この電圧値は、フォトダイオードPDの検出面に入射した光の強度に比例している。
【0072】
そこで、本実施例の説明では、フォトダイオードPDに接続された電流電圧変換回路の出力電圧を「受光電圧」と呼ぶが、これは受光した光の強度に比例したものである。この受光電圧は、A/D変換器で数値に変換され、マイクロコンピュータに取り込まれる。本発明の実施例のA/D変換器は、12bitの変換器であり0−10Vのレンジの電圧を0から4095の数値に変換する。
【0073】
10Vを4095段階に分解しているので、A/D変換値の「最小分解能」は約2.5mVである。逆に言えば、入力信号の2.5mV以下の変動は識別できない。また、受光電圧の値がA/D変換器の入力レンジの上限を超えると、上限値になり受光電圧の値の違いが識別できなくなる。たとえば、上限が10Vのとき11Vも12Vも共にAD変換値が4065になり識別できない。この現象を以下「飽和」と呼ぶ。このような最小分解能や飽和の存在は、本実施例のA/D変換器に限らずA/D変換をする場合にともなう不可避な制限である。
【0074】
<受光電圧の内訳と分解の方法>
卵にLEDから光を照射し、受光電圧を観察するとき、受光電圧は大きく分けて、室内照明などの外乱光に由来する外乱光由来部分とLED光源7に由来するLED光源由来部分からなる。
【0075】
外乱光が強いとLED光源7の照射の有無にかかわらず受光電圧が飽和するので、本発明の実施例では、検査ステーション5区画全体が、外乱光を遮蔽する目的でカバー(図示せず)に覆われている。しかし、トレイ1の進入と搬出の目的の開口部が存在するので、外乱光の影響はわずかに残る。そこで、受光信号からLED光源由来部分のみを取り出す必要がある。
【0076】
この方法として、LED光源7に変調を掛けて、これを手がかりに受光信号からLED光源由来部分を分離する「同期検波」の方法が知られている。この検波方式のための最も簡単な光源の変調方法として、LED光源7のONとOFFを一定周期で繰り返す方法があり、本実施例でも、検波方式はこの方法に依っている。以下、本実施例の説明では、LED光源7を一定周期でONとOFFを繰り返すことを「ONOFF変調」と呼ぶ。
【0077】
図9は、本発明の実施例で行っているLED光源7の「ONOFF変調」の例であり、図8の回路図のLED光源7が、マイクロコンピュータからの光源ONOFF信号により、10msecの周期でONとOFFを繰り返している。
【0078】
受光電圧は、LED光源7のONとOFFに対応して、図10のような台形状の波形を繰り返し、LED光源7がONの時の受光電圧は、外乱光由来部分とLED光源由来部分の和であるのに対して、OFFの時の受光電圧は、外乱光のみに由来するので、ON時の受光電圧とOFF時の受光電圧のA/D変換結果をマイクロコンピュータで差をとれば、LED光源由来の部分が取り出せる。
【0079】
卵内に生存胚が有れば、卵内を透過・散乱する光が光路中に存在する胚の血管の膨張や収縮の影響や胚自体の運動の影響を受け、受光した光の強度が1%程度の範囲で平均強度の周りで変動する。本発明の実施例ではこの生存胚の存在に由来する1%程度の変動成分を「生体信号」と呼ぶ。したがって、上記の検波方式で抽出されたLED光源由来の部分にも、生存胚の場合には生体信号が含まれている。
【0080】
本実施例では、ON時とOFF時の受光信号の差を求める周期が、20msecになるので50Hzのサンプリング周期である。したがって、情報理論で周知のシャノン−染谷のサンプリング定理によればLED光源由来の部分に含まれる周波数成分のうち、25Hzまでの周波数成分が有効な情報として取り出せる。鶏胚の生体信号のうち,心拍に由来するものがもっとも周波数が高いが、この心拍由来の周波数成分は7Hz以下なので、50Hzのサンプリング周期で十分計測可能である。なお、本実施例では50Hzのサンプリング周期を用いたが、7Hz以下の周波数の計測なので14Hz以上のサンプリング周期があればよい。
【0081】
また、さらに付言すれば、正確な計測には、LED光源7のON、OFFの周期を十分長くとり受光部分の電流電圧変換回路の過渡応答の整定を待って、A/D変換する必要があり、本実施例では、図10に示すように台形状の波形の整定部分でA/D変換している。図11は孵卵18日目の生存卵に対する本実施例による測定例である。
【0082】
鶏胚の生存胚の心拍数は、孵卵器から取り出して検査工程で検査される時点においては、孵卵日数によらず1分間に120拍以上存在することが知られている。1分間に120拍の周波数は2Hzである。したがって、本実施例では、平均周りの心拍由来の変動をとらえるため500msec以上の時間の生体信号を取得している。
【0083】
<計測対象卵の透過率の違い>
まず、トレイ1の卵座2の一部に卵が載っていない場合があることにも注意する。これは腐敗して卵内の内容物が噴出しているなど目視で腐敗と分かる場合は、検査装置にかける前にこうした卵が取り除かれているからである。トレイ1上に卵が存在しない箇所の卵座2を「卵無し卵座」という。検査結果の統計処理上あるいは生産管理のための情報としても卵無し卵座は、識別しなければならない。
【0084】
トレイ1上の卵には、未受精卵や腐敗卵や生存胚が混在し、これらの卵の光の透過率には大きな差が存在する。たとえば、図12に実験結果を示すように、受精卵の場合は、胚の成長により日を追って透過率が低下して行く。
【0085】
この透過率の低下の度合は、用いる波長によって異なる。たとえば、受精0日目の卵の透過率を1とした場合、波長1の光の透過率は 孵卵4日目で約1/3、孵卵9日目で約1/15、孵卵14日目で約1/50、孵卵19日目で約1/300になる。また、波長3の光の透過率は 孵卵4日目で約1/3、孵卵9日目で約1/6、孵卵14日目で約1/15、孵卵19日目で約1/50になる。
【0086】
一方、未授精卵の透過率は、孵卵0日目と同等であり、内部の胚の発生が無いので日数による変化がない。また、受精卵であっても、内部の胚が途中で発育を中止すれば、それ以降の透過率に変化はない。ただし、未授精卵や発育中止卵に細菌が感染した場合は、腐敗することがある。腐敗が進むと透過率が減少する。腐敗卵の透過率は、腐敗の程度によるが、重度のものの場合、18日目や19日目の生存胚や後期発育中止卵と同程度である。
【0087】
これが透過率のみを手段とした従来の検査装置を18日目の検査に用いた場合、未受精卵や初期発育中止卵を検出できても、後期発育中止卵を見逃す原因となる。本発明によれば、こうした問題を解決すると共に、検卵できる日数の制約を無くし、かつ卵の内部状態に関する制約を無くして、「卵の透過率の情報」、「心拍や胚の運動に由来する生体信号の情報」を両方同時に利用して、卵内状態を非破壊的に推定することができる。
【0088】
従来の卵の透過率のみで卵内情報を推定する方法は、光源強度を一定にし、「卵無し卵座」と「卵有り卵座」を区別するため、透過率の良い未受精卵で受光部が飽和しないような値で受光感度を固定し、受光強度の低下の割合で透過率の減少を知り、卵を判別している。
【0089】
この場合は、受光電圧が飽和をすれば卵無し卵座と判定される。しかし、この方法で後期胚の生死判定のため受光信号中の変動を取り出そうとしても弱い受光信号の1%以下しかない変動分を精度良く分析できず生死判定に困難をきたす。
【0090】
以上のことを数値例で具体的に示す。波長3のLED光源光量を一定に保ち、未受精卵に光を照射したときのLED光源由来の受光電圧が8Vになるように、受光部の感度が調整されているとする。この状態で、19日胚を含む種卵を検査したとき、波長3の光の透過率は、未受精卵の1/50なので、LED光源由来の受光電圧は160mVになる。
【0091】
このとき生体信号(生死判定のため受光信号中の変動部分)は、LED光源由来の受光電圧の1%以下なので、1.6mV程度になり、先に述べたA/D変換器の分解能(2.5mV)より小さく識別できない。逆に、後期胚の生死判定に対象を絞り、受光部のゲイン設定をすると未受精卵や初期中止卵や中期中止卵の場合に飽和し、非生存胚の分類ができない。
【0092】
たとえば、19日胚の種卵に対して、波長3のLED光源光量を一定に保ち、光を照射したときのLED光源由来の受光電圧が8Vになるように、受光部の感度が調整されているとする。
このとき、生体信号は、160mV程度になり、A/D変換後のマイクロコンピュータ上の信号分析で生死の判定が可能である。
【0093】
しかし、未受精卵や初期中止卵や中期中止卵は飽和するので、非生存卵の分類ができない。また、生体信号に基づく生死判別の別の既存技術に交流結合の方法がある。これは、図31に示すように、電流電圧変換回路において、フォトダイオードPDとの接続部分にコンデンサと抵抗からなるハイパスフィルタを挿入した方法である。
【0094】
この方法は、フォトダイオードPDの受光信号のうちの直流成分を除いた変動分のみを取り出した上で、電流電圧変換しているので生体信号のみに着目する場合に良くとられる方法であり、飽和しないで計れる日数の制約を少なくすることができる。しかし、一方で最初から直流成分を除去しているので、透過率の情報が失われ、生死判別の結果、非生存胚と判定された卵に対して未受精卵や中止卵や腐敗卵の識別ができない。以上の従来技術の欠点は、光源光量をすべての卵に対して固定していることによる。
【0095】
本実施例では、検査対象卵の光の透過率が、最も透過率の高い「未受精卵」の透過率を1とした場合、最も低い「後期生存卵」や「重度腐敗卵」の透過率が1/100になるなど非常に広い範囲で変動することを考慮して卵ごとに独立した光源を設け、その光源光量を最小値の最大100倍の範囲で卵ごとに独立に変動させ得る回路構成とし、この範囲での光源光量の強弱の選択をデジタル制御で16段階に分けて、これも卵ごとに独立して行えるようにした。
【0096】
マイクロコンピュータでレベル1からレベル16までの光源光量レベルを選択し、これを光源光量制御信号として出力すれば、選択した光源光量レベルでLED光源が発光させることができる。
【0097】
またさらに、計測動作を「光源光量決定ステップ」と「生体信号計測ステップ」の2段階に分けて、まず光源光量決定ステップにて、卵毎に生体信号を計測するときの光源光量を受光電圧が飽和しない範囲で最も大きくなるように光源光量レベルを決定する。
【0098】
この内の光源光量決定ステップの処理手順を図13に示す。
(1)光源光量レベルを最小のレベルに設定して、光源光を照射し、一定時間内の受光電 圧の平均値を取り平均受光電圧とする。
(2)この平均受光電圧が最小レベルで飽和していれば、当該光源上の卵座部分に「卵が無い」と判断する。
(3)平均受光電圧が予め定められた閾値電圧(本実施例では5V)を下回っていれば、光量レベルを順次上げて行き、閾値電圧を超えるまで繰り返す。
(4)光源光量レベルを最高レベル(本実施例では16)まで上げても、平均受光電圧が閾値電圧を超えなければ、光源光レベルを最高レベルに決定する。
(5)光源光量レベルが、最高レベル以下で閾値電圧を超えて、かつ平均受光電圧が飽和レベル(本実施例では10V)以下ならば、この光源光量レベルに決定する。光源光量レベルが、最高レベル以下で飽和レベル(本実施例では10V)以上ならば、この光源光量レベルを1つさげてこの光源光量レベルに決定する。
【0099】
本実施例では、光源光量決定ステップで決められた光源光量レベルで光源を発光させれば検査対象となる任意の種卵に対して平均受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲、例えば、2V以上9V以下になるように図8の抵抗選択部分の抵抗値が選ばれている。
【0100】
次に、生体信号計測ステップに移り、先に光源光量決定ステップにて決定された光源光量レベルにて、LED光源7を発光させ、LED光源由来部分の受光電圧を一定時間計測した場合の平均電圧からの変動分である生体信号を計測する。
【0101】
LED光源由来部分の受光電圧を求めるのに、本実施例ではLED光源7を10msecのパルス幅でONOFFし、ON時の受光電圧とOFF時の受光電圧の差を取っている。こうしたLED光源にONOFF変調を加えて、計測している場合の、LED光源光量の時間変化を図14に示す。
【0102】
未受精卵のような透過率の高い卵に対しては、光源光量レベルを低く設定するのでパルス高が低く、後期卵のような透過率の低い卵に対しては、光源光量レベルが高く設定されるのでパルス高が高い。
【0103】
従来技術でも、外乱光対策として光源のONOFF変調を行っている例があるが、個々の測定対象卵の透過率に応じて光源光量レベルを変えていないので、すべての卵に対するパルス高は同じである。
【0104】
本発明で言う「光源光量を制御する」あるいは「光源光量を調整する」とは、ONOFF変調の場合は、計測対象卵の光の透過率に合わせて、卵毎にパルス高を変えることであり、単に時間的に光源光量を断続させることではない。
【0105】
また、より一般的な変調のかけ方として正弦波などの周期信号で変調をかける場合も知られており、この場合も本発明で言う「光源光量を制御する」あるいは「光源光量を調整する」とは、計測対象卵の光の透過率に合わせて、LED光源7の周期信号の振幅を変えることであり、単に時間的に光源光量を周期変化させることではない。
【0106】
種卵の生死判別や非生存胚の分類や生存胚の発育度合の推定などの情報処理の手順の全体を図15に示す。「光源光量決定ステップ」と「生体信号計測ステップ」の詳細は前述のとおりである。以下、「決定された光源光量レベル」と「生体信号計測ステップ」で得られた50Hzの周期でサンプリングされたLED光源由来部分の「時系列信号」から種卵の生死判別や非生存胚の分類や生存胚の発育度合の推定する手順を述べる。
【0107】
決定された光源光量レベルは、卵の透過率に合わせて決められたものであるからその値は、卵の透過率の目安を与える。図12に示すように卵の透過率は、発育日数に拠るので、決定された光源レベルは発育日数や発育中止卵の場合は、発育中止時期の推定を与える。本実施例に示す種卵検査装置での実験によれば下記の対応関係が見出せる。
【0108】
【表2】
【0109】
したがって、光源光量レベルが、2より大きくて、「未受精卵」や「卵無し」では無く生存卵の可能性有りと判定された場合は、「生体信号計測ステップ」で得られた50Hzの周期でサンプリングされたLED光源由来部分の「時系列信号」から平均値を除き変動部分、すなわち「生体信号」部分を取り出し、これをフーリエ変換する。フーリエ変換で得られた周波数成分のうち0.3Hzから7Hzの範囲の成分の強度の総和を取り、この総和が予め定められた閾値を越えるとき生存卵と判定する。
【0110】
以上のように、本実施例によれば、検査対象卵の内部状態の違いや孵卵日数の違いに拠らず、卵ごとに生体信号計測期間中の受光電圧が飽和しないような範囲で最も大きくなるように生体信号計測期間中のLED光源光量が予め調整できるので、生体信号(受光電圧の平均周りの変動分)中の生命活動に起因した信号成分の有無をフーリエ変換などの周波数成分の判別でき、確実な卵の生死判定ができる。
【0111】
また、非生存卵に対して光源光量決定ステップで得た光源光量レベルにより卵無し、未受精卵、 初期発育中止卵、中期発育中止卵、後期発育中止卵の識別ができる。さらに、下記の方法で生存卵に対して生体信号をフーリエ変換したときのスペクトル形状の違いから発育日数が識別できる。以下に発育日数の推定の手順を示す。
【0112】
図16は、13日目の生存胚を含む卵の生体信号の時系列の測定事例であり、図17は、この時系列をフーリエ変換した結果を図示したものである。本実施例では、50Hzで信号をサンプリングしているので、25Hzまでの周波数成分が得られるが、ここでは鶏胚の生体信号の周波数帯域0.3Hz〜7.0Hzを考慮して図17は0.3Hzから10Hzの範囲で図示しており、スペクトル形状の違いを簡易に表現するため周波数帯域を3つに分けて考える。
【0113】
【表3】
【0114】
生体信号をフーリエ変換し、各帯域に別に帯域内の周波数成分の強度の和を求めたものを帯域別スペクトル強度と呼ぶ。3つの帯域に分けたので卵毎に3つの帯域別スペクトル強度がもとまる。実験に依れば、3つの帯域別スペクトル強度の組み合わせは、胚の発育によって日毎に明瞭に変化するので、その組み合わせにより日を特定することができる。
【0115】
複数のサンプル卵に対する平均の帯域別スペクトル強度を求め、まとめた表が図18であり、サンプル卵に対する平均の帯域別スペクトル強度を正規化したものが図19の表である。サンプル卵の平均の正規化帯域別スペクトル強度は、下記の手順で作成されている。
【0116】
まず、複数の発育日数の揃ったサンプル卵を用意し、
(1)各生存胚の5日目から19日目までの日毎の帯域別スペクトル強度を測定する。
(2)日毎に複数のサンプル卵の帯域別スペクトル強度の平均を求める。
(3)平均化された各帯域の帯域別スペクトル強度の最大値を帯域別最大スペクトル強度とし、帯域別最大スペクトル強度で他の日の帯域別スペクトル強度を割って正規化する。
【0117】
【数2】
【0118】
図19作成時の図18に示した帯域別最大スペクトル強度を標準帯域別最大スペクトル強度と呼び、図19における第n日目の帯域1、帯域2、帯域3の正規化帯域別スペクトル強度をS1(n),S2(n),S3(n)で表す。実験によれば、図19の表作成に用いた他の複数の生存胚に対しても、図19と同じパターンの変化が認められた。
【0119】
実験に用いたのと異なる未知の生存胚に対しては、次式で帯域1、帯域2、帯域3の正規化帯域別スペクトル強度s1,s2,s3を求める。
【0120】
【数3】
【0121】
この(s1,s2,s3)の組み合わせと図19の第5日から第19日までnを変えながら(S1(n),S2(n),S3(n)との距離|s1−S1(n)|+|s2−S2(n)|+|s3−S3(n)|を求め、この値が最小値を取る日数を推定発育日数とする。
【0122】
このようにして、生存胚と判定された場合は、周波数成分の大きさを3つの帯域別にそれぞれの標準値で割って正規し、これと発育日数別の標準パターンと比較して発育日数を推定でき、さらに、複数の光の相対透過率を組み合わせることで、発育日数の推定精度を向上させることもできる。
【0123】
以上で、本発明によって、種卵の管理に必要な「受精卵と未受精卵の区別」、「受精卵の生死判別」、「非生存胚の分類」および「生存胚の発育度合」など卵内情報を非破壊的に取得することができることが示せた。
【0124】
(1−2)続いて、内部状態の推定結果をより精密化するための計測回路の改良やLED光源波長の複数化を述べる。
【0125】
図15に示す内部状態の推定では、非生存卵の発育中止時期の分類を、光源光量決定ステップで決定された16段階の光源光量レベルに基づき行った。この方法でも未受精卵、初期発育中止卵、中期発育中止卵、後期発育中止卵のような粗い分類が可能である。
【0126】
さらに、図8の回路を改造し、図20のように固定電流制限抵抗の両端の電圧を測定するための回路を付加し、A/D変換器を介してマイクロコンピュータ(判定演算部)が、この電圧を取得できるようにすれば、光源に用いたLEDの波長の光に対する卵の透過率が求められ図12のグラフに基づきより精密な発育中止時期の推定が可能になる。
【0127】
以下、その理由を述べる。説明の便宜のため図20の固定電流制限抵抗の両端の電圧を「固定抵抗部電圧」と呼ぶ。光学的には、透過率は本来、次の(式1)で定義される。
【0128】
【数4】
【0129】
図20の回路図において、受光電圧は、出射光量に比例するので、次の(式2)のように書ける。ここで、AはフォトダイオードPDの感度と電流電圧変換回路の増幅率から決まる比例定数である。
【0130】
【数5】
【0131】
卵への入射光量はLED光源光量に比例し、LED光源光量はLEDに流れる電流に比例するので、卵への入射光量はLEDに流れる電流に比例する。さらに、LEDに流れる電流は、図16の固定部抵抗電圧に比例しているので、固定部抵抗電圧を測定することは光源光量を測定するものである。したがって、次の(式3)のように書ける。
【0132】
【数6】
【0133】
ここでBは、LEDの電流に対する発光効率と固定電流制限抵抗の抵抗値から決まる比例定数である。したがって、(式2)を(式3)で割って、(式1)に注意すれば次の(式4)のようになるので、受光電圧/固定部抵抗電圧は、透過率に比例する量である。
【0134】
【数7】
【0135】
(式4)の右辺(A/B)は、用いた電子部品に依存する装置固有も定数であるが、透過率の既知の標準サンプルを用いれば、予め求めておく事ができるので、受光電圧/固定部抵抗電圧から、透過率が計算できる。
【0136】
図12に示す胚の発育日数と透過率の関係が知られているので、透過率から非生存胚の発育中止時期の推定ができ、光源光量レベルを用いる場合より推定精度が向上でき、図21は、さらにLED光源7と光源ONOFFスイッチをもう一組増やして、LEDの波長の種類を2波長にしている。この2種類のLED光源7を以下、LED光源7αとLED光源7βと呼ぶ。
【0137】
LED光源7αとLED光源7βは、独立にONOFFできるので、LED光源7αの光源光量レベルの決定は、LED光源7βをOFFに固定しLED光源7αに対して図13の光源光量決定ステップを用いれば良く、LED光源7βの場合も同様である。このように、それぞれ他の光源をOFFにしておくことにより、光源が1種類の場合の光源光量決定ステップを用いることができる。
【0138】
LED光源7αとLED光源7βの光源光量レベルは、光源毎に独立に決定される。また、各LED光源7を単独で各々の決定光源光量レベルで発光させ、固定部抵抗電圧を求めておく事ができる。この固定部抵抗電圧もまた、光源毎に独立に決まる量である。2種類のLED光源7を用いた場合の生体信号取得ステップは、各LED光源7のONOFF制御のシーケンスを図22のようにすれば良い。
【0139】
LED光源7αがONのときは、LED光源7βはOFFであり、LED光源7αの光源光量レベルは、先の光源光量決定ステップにてLED光源7αのために決定された値で設定されている。LED光源7αのON時の受光電圧と両LED光源7がOFFの時の受光電圧の差を取りLED光源7αのみに由来した受光電圧が求まる。
【0140】
図22のシーケンスで上記を繰り返せば、LED光源7αのみに由来する受光電圧の時系列が得られる。同様に、LED光源7βがONのときは、LED光源7αはOFFであり、LED光源7βの光源光量レベルは、先の光源光量決定ステップにてLED光源7βのために決定された値で設定されている。
【0141】
LED光源7βのON時の受光電圧と両LED光源7がOFFの時の受光電圧の差を取りLED光源7βのみに由来した受光電圧が求まる。こうして、図22のシーケンスで上記を繰り返せば、LED光源7βのみに由来する受光電圧の時系列が得られる。
【0142】
このように波長の異なる2種類のLED光源7毎に各LED光源7のみに由来する受光電圧の時系列が取得できる。この受光電圧の時系列から平均受光電圧や平均受光電圧周りの変動分すなわち生体信号も波長毎に独立に求められる。
【0143】
光源光量レベルや固定抵抗電圧も波長毎に独立に求められるので、透過率も波長毎に個別に求められる。したがって各LED光源7の波長毎に、独立に「受精卵と未受精卵の判定」や「受精卵の生死判別」や「発育中止胚の中止時期の推定」や「生存卵の発育度合いの推定」が遂行できる。
【0144】
この場合、図12に示すように胚の発育に伴う透過率の変化は、波長毎に異なるので2つの時系列は同じものではない。胚の発育に伴う透過率の変化の大きい波長は、発育中止胚の中止時期の推定に好適であるが、受精卵の生死判別に向いていない。逆に胚の発育に伴う透過率の変化の少ない波長は、受精卵の生死判別に好適であるが、発育中止胚の中止時期の推定に向いていない等判定の内容による適否があるので、利点のみを取るようすれば性能の向上が図れる。
【0145】
以上、LED光源7の種類が、2種類の場合についてデータの取得から判定までの手順を示したが、さらにLED光源7と光源ONOFFスイッチをもう一組増やして、LEDの波長の種類を3波長にすることもできる。
【0146】
図15の全体フローにおいて、透過率に基づく非生存胚の分類部分は単一の波長に対する光源光量レベルの違いや、透過率の違いであったため「発育中止胚」と「腐敗卵」の区別ができない問題があった。しかるに3波長の透過率を用いれば、発育中止胚と腐敗卵の区別が可能である。以下、具体的にその方法を示す。
【0147】
実験によれば波長1と波長2と波長3を適切に選べば、それぞれの透過率から次式で計算される判定指標と、非生存胚と腐敗卵の間に図23の関係が成り立つ。すなわち、判定指標は、腐敗卵で小さく生存胚で大きいので、この大きさの違いにより非生存胚と腐敗卵の区別ができる。
【0148】
【数8】
【0149】
(1−3)検査装置に外部から突発的に強い振動や外乱光や電気的な雑音が加わったときの障害対応を述べる。
【0150】
図15の全体フローの生体信号計測ステップの実行中に検査装置に突発的に外部から機械的な振動が加わった場合、測定中の卵も揺らすので、受光信号にも影響があり振動の周波数によっては、生死判定に影響を与え、特に非生存胚を生存胚と間違える可能性がある。
【0151】
鶏胚の生体信号の帯域(0.3Hz−7Hz)の低周波数の振動に感度を持つ振動センサは市販されており、図21は、A/D変換器を介して、この低周波数振動センサをマイクロコンピュータに接続している。生体信号計測ステップ中に受光信号と同時にこの振動センサの出力をモニターし、閾値を超える大きな振動を検出すれば、計測をやり直すことにすれば、計測中の突発的な機械振動に対処しうる。
【0152】
本実施例では検査ステーション5の遮光と、LED光源由来部分と外乱光由来部分の差をとる同期検波の2つの手段により外乱光の影響を抑えているが、外乱光が突発的に変化したときは、LED光源由来部分と外乱光由来部分の測定タイミングの時間差により外乱光の影響が残りその結果、非生存胚を生存胚と間違える可能性がある。
【0153】
生体信号計測ステップでは、外乱光のみに由来する受光電圧の時系列も取得しているが、この時系列をフーリエ変換などの手段により周波数成分に分解して、生体信号の帯域に重なる周波数成分に予め定められた大きさ以上の大きさの周波数成分があることを検出したときに計測をやり直すことにすれば、計測中の突発的な外乱光の変化に対処しうる。
【0154】
電気的な雑音が突発的に加わった結果、受光電圧に影響が出た場合も同様に外乱光のみに由来する受光電圧の時系列をフーリエ変換などの手段により周波数成分に分解して生体信号の帯域に重なる周波数成分に予め定められた大きさ以上の大きさの周波数成分があることを検出したときに計測をやり直すことにすれば、計測中の突発的な外乱光の変化に対処しうる。
【0155】
図21はLED光源7を2波長にした場合だが、これを3波長にすることもできる。その波長の組み合わせは、図12の3波長としている。波長1、波長2、波長3は波長1が胚の発育による透過率の低下が最も大きく、波長3の透過率が最も小さい。波長2はその中間である。また、透過率計算用の固定抵抗電圧回路と低周波数振動センサを備えている。
【0156】
図24は、判定手順の全体フローである。LED光源光量決定ステップは、光源毎に光源光量決定ステップを順次行っている。生体信号計測ステップでは、波長ごとのLED光源由来の受光電圧の時系列信号と外乱光由来の時系列信号および低周波数振動センサ由来の時系列信号を計測している。
【0157】
信号有効性判定ステップは、突発的な振動の発生を振動センサ出力から検出し外乱光由来の時系列信号から突発的な外乱光の変動や電気的な雑音の影響を検出し、有効でない場合は生体信号計測ステップ全体をやり直す。信号が有効な場合、波長1の透過率と閾値を比較して、未授精卵を区別する。
【0158】
未授精卵でないと判断された場合は、波長3の時系列信号から生体信号部を抽出して、その周波数成分を求めて、鶏胚の生体信号の周波数帯域内の所定強度以上の周波数成分が存在する場合は、生存胚と判定する。
【0159】
生存胚と判定された場合は、周波数成分の大きさを3つの帯域別に合計し3つの合計値を求め、3つの合計値と発育日数別の標準パターンと比較して発育日数を推定し、非生存胚と判断された場合は、波長1、波長2、波長3の透過率から判定指標を計算して、この値が小さい場合は腐敗卵と判定する。また、腐敗卵と判別されなかった場合は、波長1の透過率と発育日数別の標準値と比較して発育中止日数を推定する。
【0160】
(2)最後にセッタートレイ上に密におかれた卵を同時に計測する場合に注意すべき隣接する卵の間の計測の干渉の問題とその問題の解決の方法を述べる。
【0161】
図2に示すようにトレイ1上の卵は、互いの距離ができるだけ短くなるように高い密度で配置されている。図25は、複数個の卵を同時に計測している例である。この例では卵座2xと卵座2yの上に19日目の生存胚を含む卵と未受精卵が並んでいる。
【0162】
LED光源7は、各卵座2の下に卵毎に配置されるが、19日目の生存胚を含む卵の下のLED光源7からの光が19日目の生存胚を含む卵の卵殻表面で反射され、それが更に搬送台4で反射された結果、隣接する未受精卵に入射することがある。また、逆に未受精卵の下のLED光源7からの光が、上記と同じ過程を経て、19日目の生存胚を含む卵に入射することがある。このように、計測のために各卵座2から照射された光は、その光源が計測対象としている卵以外にも照射されることがある。
【0163】
したがって、複数の卵を同時に処理する場合は、卵座2毎のLED光源7のONOFF制御が同期していなければならない。なぜなら、卵座2xでLED光源7がOFFを前提とした処理を行っているときに、卵座2yでLED光源7をONにすると、その光が卵座2xの場所の卵に照射され卵座2xの箇所での処理の前提が満たされないからである。
【0164】
そこで、図21の実施例では、各マイクロコンピュータに対して、1msec周期で発生する共通の外部クロック信号を入力し、この外部クロックに同期して実行するようにしている。したがって、すべての卵座2の下のLED光源7は、同一の波長のLED光源7が同一のタイミングでONOFFしている。
【0165】
図8では、大きさの異なる抵抗を複数個用意し、このうちの一つの抵抗を選択できる回路を設け、マイクロコンピュータからの指令でLEDに直列につなぐ抵抗を切り替えることによりLEDに流す電流を段階的に変化させてLED光源光量を制御する方法を示した。
【0166】
LED光源光量のデジタル制御には、上記の方法以外にも図26のようにD/A変換器を用いて、マイクロコンピュータからのデジタル信号である光源光量制御信号を電圧に変換し、この電圧を固定抵抗の仲介でトランジスタのベース電流に変換することでトランジスタのコレクタ電流を制御して、LEDに流れる電流値、すなわちLED光源光量を制御する方式も考えられる。その他、光源光量を制御する方法としてLED駆動用の電源電圧を変える方式も考えられる。
【0167】
また、LED光源光量を制御する以外にも、LED光源光量を一定にし、対象卵の透過率に合わせて受光部の電流電圧変換用のOPアンプのゲインを切り替えることもできる。図27は、図8の抵抗の選択回路を電流電圧変換用のOPアンプのフィードバック抵抗の切り替えに適用した電流電圧変換用のOPアンプのゲインの切り替え方式を示している。このとき、OPアンプのフィードバック抵抗が大きいほどアンプのゲインが大きくなる。この場合は、マイクロコンピュータからデジタル出力は、受光感度制御信号と呼び、光源光量決定ステップは、受光感度決定ステップになる。
【0168】
すなわち図27の実施例では、LEDのON時の光源光量を一定にし、後期卵や腐敗卵など最も光の透過率の小さい卵に対して受光電圧が飽和でない範囲で大きな電圧値たとえば8Vになるようにフィードバック抵抗の最大値が選ばれており、フィードバック抵抗の最小値は未受精卵で飽和しないように選ばれている。
【0169】
最小値から最大値までは、16段階のレベルに分割されており、受光感度決定ステップは、最初は最小レベルから始めて受光電圧が飽和しない範囲で最大になるようにレベルを順次上げていく方法で、フィードバック抵抗の大きさ、すなわち受光感度レベルを決定する。
【0170】
生体信号計測ステップは、この卵毎に決まる受光感度レベルを用いて行われる。この場合、図15の全体フローにおいて未受精卵判定や非生存卵の発育中止時期の判定を光源光量レベルと比較している部分が、受光感度レベルとの比較になる。
【0171】
受光感度レベル制御の場合は、受光感度レベルに対応したOPアンプのフィードバック抵抗の値は既知であり、LED光源7の電流制限抵抗は固定なので、次式のようになる。
【0172】
【数9】
【0173】
式の右辺の比例定数kは、用いた電子部品に依存する装置固有の定数であるが、透過率の既知の標準サンプルを用いれば、予め求めておく事ができるので、左辺から、透過率が計算できるのである。
【0174】
また、図25の回路を拡張し、複数波長のLEDを用いて時分割で各波長のLED光源由来の受光電圧を取得する方法は、光源光量を制御する場合と同様であり図24に示した判定フローは光源光量決定ステップを受光感度決定ステップに置き換えるだけでそのまま成り立つ。
【0175】
以上、卵に合わせて光源側の光量を多段階に切り替える方式と受光側感度を多段階に切り替える方式の2方式を別々に示したが、両者を組み合わせることもできる。この場合は、光源側のレベルの選択枝と受光側のレベルの選択枝を組み合わせることができるので、より細かいレベル選択を可能にし、個別の卵の生体信号測定時の測定条件をより適した組み合わせにでき判定精度を向上させることができる。
【0176】
なお、本発明の実施例に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施例に記載されたものに限定されない。
【符号の説明】
【0177】
1 トレイ
2 卵座
3 突起物
4 搬送台
5 検査ステーション
6 透明物
7 LED光源
8 吸盤
9 ヘッド
PD フォトダイオード
【技術分野】
【0001】
本発明は、商業ベースの家禽孵卵場における孵化率の予測や改善を目指した生産管理活動に使用が可能な、種卵の生存・非生存を始めとした内部状態を鑑別する検査装置に関し、より詳細には、種卵の孵卵日数や状態に依存することなく生存胚を含む生存卵において胚の発育状況を推定し、また、生存胚を含まない非生存卵を要因別(初期発育中止、中期発育中止、後期発育中止、腐敗、未受精など)に分類する種卵検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、孵卵工程において任意の時点での卵内情報を非破壊で得ることは、生産管理上、重要な課題となっている。
【0003】
産業としての家禽には、鶏、アヒル、七面鳥、ウズラ、ホロホロ鳥、ガチョウ、ダチョウなどがあり、これらは有用なタンパク資源として食卵、食肉産業ともに世界的に普及している。地域によってばらつきはあるが、鶏は家禽のうち90%以上を占める中心的な存在であることから、ここでは鶏について述べることにする。
【0004】
種卵とは、孵化させることによって雛を生産したり、あるいはワクチン生産を目的としてウイルスを増殖させるために、鶏の雌雄を同じ場所に収容して飼育して自然交配させたり、人工授精の結果、得られた卵のことを指す。この種卵の生産を目的として飼育されている鶏は、種鶏と呼ばれている。
【0005】
一般的な孵卵場における雛の生産工程について図28を用いて示す。種卵の内部では産卵時点においてすでに胚の発生が進行しているが、早期に採卵して28℃以下に保存する貯卵工程に進めることで休眠状態に入る。この性質を利用して一定期間に得られた種卵を貯卵し、休眠状態の種卵を孵卵工程に入れる前に予備加温によって胚の活動を再開させることにより、まとめて同一日に雛が誕生するよう孵卵作業が進められている。
【0006】
汚れやひびがない種卵は消毒後にセッタートレイの卵座に並べられ、セッターと呼ばれる転卵しながら約38℃に加温する装置内での孵卵工程に進む。この孵卵工程を開始する日を入卵日といい、孵卵日数とは入卵日を起点とした経過日数である。
【0007】
孵卵18日目あるいは19日目になると、種卵はハッチャー(雛を発生させるための孵卵をおこなう装置)のバスケットに移動される。この移卵作業に合わせて未受精卵や発育中止卵、腐敗卵といった非生存卵を取り除くための検卵作業が、1日あたり数万個から数十万個程度の卵に対しておこなわれ、引き続き卵内にワクチン等を接種することもある。この後、通常、孵卵21日目には雛が孵化する。
【0008】
以下の説明では、上述した各工程における管理上の要件ごとの課題について、図29を用いて取り上げる。種卵の受精率は決して完全ではなく未受精卵が存在し、たとえば自然交配で得られたブロイラー種卵の未受精卵の割合は5〜25%程度である。ところが、受精卵であっても孵卵工程中に卵内の胚が死亡することがあるため、孵化率は50〜90%程度である。孵卵中に卵内の胚が死亡した卵を発育中止卵と言う。発育中止卵は、胚の死亡した時期によって下記のように分類される。
【0009】
【表1】
【0010】
なお、商業ベースの孵卵場では、所定の期日までに誕生した雛のみが出荷されており、たとえ期日に遅れて孵化したとしても商品として供給されることはない。つまり孵化率とは、入卵数に対する、期日までに誕生した雛の数の割合を表すもので、それ以外の卵の内訳とは、未受精卵、受精卵ではあるが卵内で胚が死亡した発育中止卵、卵内で胚が生存していても期日までに孵化しなかった発育遅延卵である。
【0011】
貯卵期間が長いと孵化するまでの孵卵日数が長くなり期日までに孵化が間に合わない場合があるほか、貯卵条件が孵化率を左右することが知られている。また産卵後、貯卵までの経過時間はさまざまで、孵卵を開始した時点で胚の状態にはすでにばらつきが存在している。
【0012】
適切な雛の生産管理には、孵卵工程にある種卵の孵化率を早期に予測できることが重要であるが、同一ロットであっても胚の発育には孵卵日数から見込まれる発育状態より先行あるいは遅延がある程度含まれることから、期日に誕生する雛の数の予測は不可能である。
【0013】
孵化に供する種卵の管理形態は2種類存在し、図30に示すようにそれぞれシングルステージ方式、マルチステージ方式と呼ばれる。前者は1つのセッターに1ロットの種卵を充填して孵卵する方法であり、セッター内に存在する種卵の発生段階は、基本的にすべて同一である。
【0014】
後者は1つのセッター内に異なる複数ロットの種卵を充填して孵卵する方法であり、セッター内には雛の孵化予定日が様々な段階の種卵が併存している。したがって後者においては、人為的ミスによりロットを取り間違える危険性を伴うが、胚の発育状態を非破壊では読み取れないため、取り違いに気付かず誤った処理を継続する問題が指摘されている。この問題の解決のために、任意の孵卵工程にある種卵の発育状態を機械的に確認し、人為的ミスを排除できることが期待されている。
【0015】
一般に考えられている検卵の目的のひとつは孵卵衛生で、非生存卵を除去せずに孵卵を続けた場合、種卵内部で微生物が増殖することがあり、産生したガスによって内圧が上昇し、卵殻が破裂して内容物の飛散によって雛全体が汚染することを防ぐためである。
【0016】
加えてもうひとつの目的とは孵卵条件の管理で、自温を発生しない非生存卵を適切に除去することによって孵卵温度が安定するためである。検卵作業は移卵時におこなわれることが多いが、より早期に非生存卵を検出・除去することによって他の卵への影響が低減されるため、孵卵時期を問わず種卵の生存・非生存を的確に判別できることが望ましい。
【0017】
これまでに述べたように孵化率は、受精率や貯卵条件、孵卵環境などによって左右されることから、たとえば孵化率が低い場合には、種鶏の入れ替え、貯卵条件や孵卵環境の見直しなどを図らなければならない。専門家からは種卵の破壊検査によって収集した詳細な卵内情報を分析し、受精率・発育中止発生率・腐敗発生率や、発育中止時期の推定などから孵化率改善の諸策を講じることが推奨されており、正確を期するためには相当数のデータの取得が必要とされている。
【0018】
ところが破壊検査は手間がかかるうえ、孵卵に供するための種卵を使用することから経済的ロスが大きい。このため産業界では、種卵の割卵検査はほとんどおこなわれず、雛の生産は経験に頼っているのが実状である。経済性を追求した雛の生産管理の実施には、種卵の内部情報を非破壊で把握できることが望まれている。
【0019】
これらに共通する根源的な課題は、任意の孵卵工程にある任意の発育状態の種卵の内部情報を正確に非破壊判定できないために、工程上の問題をフィードバックできないことである。なお、既存の装置では検査に適した孵卵日数が限定されている、卵内情報の分類範囲が少ない、判定精度が低い、などの問題があるため、生産管理に必要な情報という観点で見ると不足感が否めない。以下、こうした既存技術を問題点も含め紹介する。
【0020】
種卵に光を当てて目視により透視する透光検卵は古くからおこなわれており、透視した血管の存在の有無から胚の生死を判定している。この原理に基づき装置化したものが特開2004−101204号公報に記載されている「有精卵の検査法および装置」、VISIO NERF社(フランス)のOVOCHECK、ECAT社(フランス)のWISECAREであり、種卵に光を照射して卵内部の画像を撮像し、血管の状態から生存卵などを自動判定している。これらは孵卵11日程度の白色卵の胚の観察には適した方法であるが、褐色卵では透視し難く、さらに発生が進んだ後期胚ではほとんど判別できない欠点を有している。
【0021】
人手による透光検卵では前記に掲げた血管の存在のほか、種卵に照射した光が卵内に入射して透過・拡散し、卵より出射した光の明るさから種卵内部の情報を読み取る方法がある。この原理に基づき装置化したものがECAT社のレーザーキャンドリングシステムであり、この原理に基づき照射光の透過率より生存卵・非生存卵の判別をおこなう発明については、特開2005−052156号公報に記載されている。
【0022】
これらの場合、対象卵の透過率が所定の孵卵日数を経た平均的な生存卵と同等の明るさであることを判断の根拠としているものであり、透過率にあまり差異がない非生存卵(たとえば中期発育中止卵、後期発育中止卵や腐敗卵)を誤って生存卵と判定することが認められている。さらに測定対象となる種卵の大きさや孵卵日数などを一定に揃えた上で検卵に供する必要があるが、種卵の状態が均一となることはあり得ず、全ての卵を正確に計測できない問題があった。
【0023】
卵の透過率は、本来、次式で計算されるものであるが、当該発明では、全ての対象卵に対して光源強度一定の光を卵に照射し、卵への入射光量を一定と考え、卵からの出射光量およびこれを光電変換した電圧値を卵の透過率に正比例した量として、卵の透過率の違いを見るのに用いている。
【0024】
【数1】
【0025】
なお、当該発明は外乱光対策として、光源を100Hz以上の周期で点滅させ、光源がON時の受光電圧とOFF時の受光電圧の差を複数回取り、その平均を求めて、受光電圧中の外乱光の影響を除いた光源にのみに由来した卵からの出射光量を求めている。
【0026】
このように光源を点滅させてはいるので、上述の光源強度一定の光を卵に照射しているという記述は、一見正しくないように思われるかも知れないが、ON時の光源強度が全ての対象卵に対して一定であるという事実が当該発明の卵の判別原理の本質であり、ECAT社のレーザーキャンドリングシステムもまた同様である。
【0027】
前記方法を改良した装置としては、特表2002−543804号公報に記載されている装置があり、出射光の明るさを種卵の温度で補正して生存卵の識別精度を改善しているが、透過率にあまり差異がない非生存卵(たとえば中期発育中止卵、後期発育中止卵や腐敗卵)を誤って生存卵と判定することが解消されていない。
【0028】
このほか特表2009−503513号公報では、種卵の透過率の分布範囲を3つの部分に分け、未受精卵・発育中止卵、生存卵、腐敗卵に分類して、生存卵以外を除去する装置について触れているが、後期卵では、腐敗卵と透過率の分布範囲が重なるので適用対象は孵卵11日目に限定される欠点がある。
【0029】
一方、目視検卵の応用による自動化とは異なる原理による検卵方法も提案されている。特開平09−127096号公報には、孵卵過程における種卵の生存・非生存を同定するため、生存卵の場合は種卵内部を透過・拡散した光が経路中の血管の膨張・収縮及び胚の運動性を受けて光の強度が周期的・非周期的に変動するが、非生存卵の場合は光の強度が変動せず一定である性質を利用して胚の生死を判定する装置について記載がある。同様の原理による検卵技術は、古くは米国特許3,540,824号明細書に述べられており、特表2004−528560号公報にも同一原理の記載が見られる。
【0030】
特開平09−127096号公報では、公知例である図31に示されるように、受光部に交流結合を用いている。すなわち、フォトダイオードと電流電圧変換用のOPアンプの接続部分にコンデンサと抵抗からなるハイパスフィルタを挿入する方法を用いている。この方法は、フォトダイオードの受光信号のうちの直流成分を除いた変動分のみを取り出した上で、電流電圧変換する方法であり、鶏卵に限らず医用分野で心拍や脳波などの生体由来の信号中の変動成分を計測する場合に良く用いられる方法である。
【0031】
しかし、一方で最初から直流成分を除去しているので、卵の透過率の情報が失われ、種卵の生存・非生存までは判定できるものの、非生存卵の分類(たとえば、未受精、初期発育中止、中期発育中止、後期発育中止、腐敗など)ができないため、受精率等が把握できず、生産管理情報としては不十分である。
【0032】
生存卵に対して光を照射したとき、卵からの出射光の強度が周期的・非周期的に変動する性質を用いた検卵技術は、他に特表2005−532046号公報が既知であり、変動成分に加えて、直流成分の利用の効用を指摘している。しかし、生体由来の信号中の変動成分は直流成分の1%程度しかないので、未授精卵に対して透過率が数十分の1しかない孵卵18日の卵に対して、生存と非生存の区別を変動成分により精度よく行うためには、全ての対象卵に対して光源強度一定にする公知の方法では、後期卵用の光源光強度に固定しておく必要があるので、非生存胚が判別できても後期卵に比較して透過率の大きい未受精卵、初期発育中止卵、中期発育中止卵では受光部出力が飽和するので正しい直流成分を値が取得できず、非生存卵の分類(たとえば、未受精、初期発育中止、中期発育中止、後期発育中止、腐敗など)ができない問題を残している。
【0033】
種卵が自温を発する原理を利用した検卵方法の提案もなされており、米国特許第4,914,672号明細書、米国特許第4,955,728号明細書では、セッターから出した後の経過時間と種卵温度との関係において、非生存卵の方が生存卵よりも温度低下が大きいことを利用して種卵の生存・非生存を判定する検卵方法が知られている。しかし、温度低下を検知するには時間を要するほか、熱に基づく検卵に有効なのは孵卵17日以降であるなど、この原理では産業界において有効とはいえない。
【0034】
米国特許第6,488,156号明細書は、種卵を電極で保持し心拍を検出する装置について記載している。この方法では種卵の生存・非生存は判定できるものの、非生存卵の分類(たとえば、初期発育中止、中期発育中止、後期発育中止、腐敗など)ができないために受精率等が把握できず、生産管理情報としては不十分である。
【0035】
特表2004−516475号公報には、種卵を通過した光のスペクトルの形状から卵の内部情報を分類する技術の記載がある。非生存卵の要因分類、特に腐敗卵に関しては有効であるが、さまざまな時期における生存卵の識別が困難なため、任意の時期における内部情報測定には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】特開2004−101204号公報
【特許文献2】特開2005−052156号公報
【特許文献3】特表2002−543804号公報
【特許文献4】特表2009−503513号公報
【特許文献5】特開平09−127096号公報
【特許文献6】米国特許第3,540,824号明細書
【特許文献7】特表2004−528560号公報
【特許文献8】特表2005−532046号公報
【特許文献9】米国特許第4,914,672号明細書
【特許文献10】米国特許第4,955,728号明細書
【特許文献11】米国特許第6,488,156号明細書
【特許文献12】特表2004−516475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
このように、従来の種卵検査装置では、任意の孵卵工程における任意の種卵に対する生存・非生存を鑑別し、その要因まで分類する手段としては、いずれの方法も正確さに欠けており、未だ解決に至っていない。
【0038】
また、同種の問題は雛の生産工程のみならず、ワクチン生産工程にも共通するものである。ワクチン生産においては、ウイルスを接種した孵卵11日目ないし12日目の種卵を2〜3日間加温した後に増殖したウイルスを含む培養液を回収する工程が含まれているが、ウイルス接種時および回収時には胚が生存している必要がある。これらの時期における種卵の生存・非生存の鑑別や非生存卵の要因分類、特に腐敗卵の確実な識別がより一層求められているものの、上記既存技術のいずれの方法も正確さに欠けており、未だ解決に至っていない。本発明は、これらの問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0039】
請求項1に記載の発明は、種卵に光を照射する光源と、前記光源から照射された光のうち前記種卵中を透過・散乱した光を受光する受光部と、前記受光部が受光した光を受光電圧に変換する光電変換部と、前記光電変換部が変換した受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を制御する制御部と、前記制御部が決定した前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する記憶部と、前記記憶部が記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分と前記制御部が決定した制御量から前記種卵の内部状態を判定する判定演算部と、を備える種卵検査装置である。
【0040】
請求項2に記載の発明は、種卵に光を照射する光源と、前記光源から照射された光のうち前記種卵中を透過・散乱した光を受光する受光部と、前記受光部が受光した光を受光電圧に変換する光電変換部と、前記光電変換部が変換した受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を制御する制御部と、前記制御部が前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を決定した際の光源光量を測定する測定部と、前記制御部が決定した前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する記憶部と、前記記憶部が記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分と前記測定部が測定した光源光量の測定値から前記種卵の内部状態を判定する判定演算部と、を備える種卵検査装置である。
【0041】
請求項3に記載の発明は、種卵に光を照射する光源を備え、前記光源はLEDであって、LEDの電流制限抵抗の一部を固定化し、その両端の電圧である固定部抵抗電圧を測定する回路を有し、さらに、前記光源から照射された光のうち前記種卵中を透過・散乱した光を受光する受光部と、前記受光部が受光した光を受光電圧に変換する光電変換部と、前記光電変換部が変換した受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲となるように前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を制御する制御部と、前記制御部が決定した前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する記憶部と、前記制御部が前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を決定した際あるいは受光電圧の時系列をサンプリング中の固定部抵抗電圧と受光電圧から計算した透過率と前記記憶部が記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分から前記種卵の内部状態を判定する判定演算部と、を備える種卵検査装置である。
【0042】
請求項4に記載の発明は、前記光源が、発光スペクトルの形状が単一の中心波長を有する単峰性の光源ユニットを複数個用いており、これらの光源ユニットの中心波長の種類が複数である請求項1から請求項3のいずれかに記載の種卵検査装置である。
【0043】
請求項5に記載の発明は、前記光源が、前記種卵を載せるトレイの卵座の中心に対して点対称に配置された複数個の光源である請求項1から請求項4のいずれかに記載の種卵検査装置である。
【0044】
請求項6に記載の発明は、前記記憶部が、14Hz以上のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する請求項1から請求項5のいずれかに記載の種卵検査装置である。
【0045】
請求項7に記載の発明は、前記記憶部が、受光電圧の時系列を500msec以上記憶する請求項1から請求項6のいずれかに記載の種卵検査装置である。
【0046】
請求項8に記載の発明は、種卵に光を照射するステップと、前記種卵中を透過・散乱した光を受光するステップと、前記受光するステップが受光した光を受光電圧に変換するステップと、受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように光源光量および/または受光感度を制御するステップと、前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した際の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶するステップと、前記受光電圧の時系列を記憶するステップで記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分と前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した制御量から前記種卵の内部状態を判定するステップと、を備える種卵の内部状態検査方法である。
【0047】
請求項9に記載の発明は、種卵に光を照射するステップと、前記種卵中を透過・散乱した光を受光するステップと、前記受光するステップが受光した光を受光電圧に変換するステップと、受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように光源光量および/または受光感度を制御するステップと、前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで光源光量および/または受光感度を決定した際の光源光量を測定するステップと、前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した際の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶するステップと、前記光源光量を測定するステップが測定した光源光量の測定値と前記受光電圧の時系列を記憶するステップで記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分から前記種卵の内部状態を判定するステップと、を備える種卵の内部状態検査方法である。
【0048】
請求項10に記載の発明は、種卵に光を照射するステップと、LED光源の電流制限抵抗の一部を固定化し、その両端の電圧である固定部抵抗電圧を測定するステップと、前記種卵中を透過・散乱した光を受光するステップと、前記受光するステップが受光した光を受光電圧に変換するステップと、受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように光源光量および/または受光感度を制御するステップと、前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した際の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶するステップと、前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで光源光量および/または受光感度を決定した際あるいは受光電圧の時系列をサンプリング中の固定部抵抗電圧と受光電圧から計算した透過率と受光電圧の平均周りの変動分から前記種卵の内部状態を判定するステップと、を備える種卵の内部状態検査方法である。
【発明の効果】
【0049】
本発明に係る種卵検査装置によれば、任意の孵卵工程における任意の種卵に対する生存・非生存を鑑別し、その要因まで分類することができ、さらに1時間あたり数万個の判定処理能力を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例に係るトレイを上から眺めた図である。
【図2】トレイの卵座に卵を置いた状態を上から眺めた図である。
【図3】本発明に係る種卵検査装置の搬送台を上から眺めた図である。
【図4】検査ステーション上にトレイを置いて上から眺めた図である。
【図5】卵座の拡大図である。
【図6】検査ステーションへのトレイの搬入の様子を示す図である。
【図7】卵の内部を計測するときの種卵検査装置の状態を示す図である。
【図8】本発明に係る種卵検査装置の構成を示す図である。
【図9】LED光源のONOFF変調の例を示す図である。
【図10】受光電圧取得タイミングを示す図である。
【図11】孵卵18日目の生存卵に対する測定例を示す図である。
【図12】種卵の孵卵日数と波長ごとの透過率の関係を示す図である。
【図13】光源光量決定ステップの処理手順を示すフローチャート図である。
【図14】LED光源のONOFF変調による光量の時間変化を示す図である。
【図15】本発明に係る情報処理手順の全体を示すフローチャート図である。
【図16】13日胚を含む卵の生体信号の測定例を示す図である。
【図17】13日胚を含む卵の生体信号をフーリエ変換した結果を示す図である。
【図18】サンプル卵の平均の帯域別スペクトル強度を示す図である。
【図19】サンプル卵の平均の正規化帯域別スペクトル強度を示す図である。
【図20】本発明に係る種卵検査装置の別の構成を示す図である。
【図21】本発明に係る種卵検査装置のさらに別の構成を示す図である。
【図22】LED光源のONOFF制御シーケンスを示す図である。
【図23】判定指標と非生存卵・腐敗卵の間の関係を示す図である。
【図24】本発明に係る判定手順の全体を示すフローチャート図である。
【図25】複数の卵を同時に計測している状態を示す図である。
【図26】光源光量制御部にD/A変換器を用いた構成を示す図である。
【図27】受光部のOPアンプのゲインを切り替える構成を示す図である。
【図28】一般的な孵卵場における雛の生産工程を示す図である。
【図29】雛の生産工程における管理上の要件ごとの課題を示す図である。
【図30】孵化に供する種卵における2種類の管理形態を示す図である。
【図31】交流結合を用いる従来技術に係る受光部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
商業ベースの孵卵場で、種卵の内部状態の判定を全数行う場合、検査装置1台で1時間あたり数万個の判定処理能力が求められる。一方、種卵の生死判別を心拍や胚の運動など生きた胚の存在に起因する現象の有無に帰着させる方法が知られており、この方法による生死判別は最も正確だが生体の活動速度に依存するが故に判定に時間が掛かる問題がある。
【0052】
この問題の解決法として、孵卵場では、孵卵中の種卵はセッタートレイと呼ばれるトレイに載せて収容されており、個々のトレイ上には、数十個の卵が存在することに着目し、トレイに載せた状態で、トレイ上の卵を全数同時に判定処理すれば、1時間あたり数万個の判定処理能力が達成可能であると考えられる。
【0053】
そこで以下、図を用いて本発明の実施例では孵卵場での処理能力の要求や運用形態を考えた現実的な光学系と搬送系の中で、孵卵場での種卵の管理に必要な「受精卵と未受精卵の区別」、「受精卵の生死判別」、「非生存卵の分類」および「生存胚の発育度合」など卵内情報を非破壊的に取得するための手法を示す。
【0054】
<トレイ>
図1は、本実施例の説明に用いるセッタートレイを上から眺めた図である。以下簡単のために図1のセッタートレイを単にトレイ1と呼ぶ。このトレイ1は、正6角形の卵座2を6行×7列組み合わせて42個の卵を収容可能できる。
【0055】
図2は、トレイ1の卵座2すべてに卵を置いた状態を上から眺めた図である。各卵座2の下は、卵を保持する僅かな突起物3のほかに光を遮るものは存在しない。なお、孵卵場で用いられるセッタートレイには、ここに例示するもの以外に種々の形状のものが存在するが、各卵座の下に卵を保持する突起物のほかに光を遮るものは存在しないなど後述の計測に必要な要件は、共通に満たされており、本発明は、このセッタートレイの形状に限定されるものではない。
【0056】
<検査装置の搬送台上のトレイの移動>
さて、セッターから取り出されたトレイ1は、図3に示す本実施例の検査装置の搬送台4に載せてトレイ搬送方向(第1行から順に行の番号が増える方向)へ移動させることができる。
【0057】
<検査ステーションと内部の光学系の構成>
図3に示す搬送台4の一部の範囲は、検査ステーション5と呼ばれる区画を形成している。詳しくは、検査ステーション5の存在する搬送台4の天板の一部は、ガラス板のような透明物6でできており、搬送台4の下部から搬送台4の上部に向けて光を照射することができる。
【0058】
上記の検査ステーション5の透明部分の下部には、トレイ1の卵座2の位置に対応する形で、LED光源7が6行×7列配置されており、図4は、各卵座2に対応しているLED光源7の真上にトレイ1を置いて上から眺めた図である。
【0059】
各LED光源7は、図5に示すように、複数個のLEDを卵座2上の卵の中心に対して点対称の位置に配置した構成を持つ。これは、卵座2上の卵の姿勢や卵内の胚の存在位置に、計測結果が依存しないようにするためである。
【0060】
また、各LED光源7の上部には、図6に示すように各LED光源7に正対する形で光検出器であるフォトダイオードPDが1個ずつ配置されている。各フォトダイオードPDは、個々に独立した黒色の遮光性と柔軟性を備えた素材でできた吸盤8内に収められ、各吸盤8とともにヘッド9と呼ぶ機構に取り付けられている。ヘッド9は、検査ステーション5の上部で上下できる機構(図示せず)を備えている。
【0061】
<検査装置の動作シーケンス>
図6は、検査ステーション5へのトレイ1の搬入の様子を示している。通常、ヘッド9は、上方に上がって固定されており、トレイ1の進入を妨げない。トレイ1が搬送台4上を移動し、トレイ1上の卵座2の位置が、対応するLED光源7に一致する場所まで来ると、トレイ1は停止し、ヘッド9が下降して吸盤8が卵に重なる位置で停止する。遮光性を持つ吸盤8が卵に接触することによりLED光源7からの光の内、卵内を透過あるいは拡散して来た光のみがフォトダイオードPDに入る。図7の状態にトレイ1が停止しヘッド9の下降が完了すれば、計測の準備が完了である。この状態で卵の内部状態を推定するための計測は、トレイ1上のすべての卵に対して同時になされる。
【0062】
<説明の方針>
(1)基本的には、すべての卵に対して計測の光学系や制御回路や内部状態の推定に用いられる信号処理は同じであるのでまず、セッタートレイ上の1個の卵に対する計測制御回路や光学系および卵の内部状態の推定を行うための信号処理手順を示し、さらにこの部分の説明を3段階に分けて記述する。
(1−1)まず、LED光源の波長が1種類の場合の基本形を示す。
(1−2)続いて、内部状態の推定結果をより精密化するための計測回路の改良やLED光源波長の複数化を述べる。
(1−3)検査装置に外部から強い振動や外乱光や電気的な雑音が加わったときの障害 対応を述べる。
(2)最後にセッタートレイ上に密におかれた卵を同時に計測する場合に注意すべき隣接する卵の間の計測の干渉の問題とその問題の解決の方法を述べる。
【0063】
<計測回路の説明>
図8はトレイ上の1個の卵に対する光学系や計測制御回路およびマイクロコンピュータで実現される判定演算部とのつながりを示しており、光源であるLEDは、流した電流に比例した光量で発光する性質をもつ。また本実施例に用いるLEDは、特定の値を中心波長に持つ単峰性の発光スペクトルを有している。なお、本発明に係る光源は特定の値を中心波長に持つ光源に限られず、白色LEDを用いることもでき、LED以外の光源を使用することもできる。
【0064】
図8のLEDは、近赤外域に中心波長を持つものであり、定格電流が100mAである。したがって,LEDに流す電流を1mAから100mAまで変化させると、光源光量が1mAの時の光源光量の100倍まで変化する。
【0065】
このように、LEDは広い範囲で光量調整が可能な発光素子である。LEDの発光は、通常、一定電圧の直流電源に電流制限抵抗とLEDを直列につないでなされる。この電流制限抵抗の値によってLEDに流れる電流値が決まり光源光量が決まる。
【0066】
本実施例では、24Vの安定化された直流電源にLEDと電流制限抵抗とを直列につないでいるが、この電流制限抵抗を敢えて2つの部分に分けて構成しており、一つは100Ωの固定抵抗であり、もう一方は複数の異なる値を持つ抵抗から特定の抵抗を一つ選択できるようにした抵抗選択部分である。本実施例では、20KΩから100Ωまで16段階で順に抵抗値が小さくなるように抵抗が配置されている。
【0067】
LEDの電流制限抵抗値は、固定抵抗値と選択された抵抗値の和なので、LEDに流れる電流値も16段階で切り替えることができ、結果としてLEDの光源光量も16段階で切り替えられる。16段階の光源光量の最小の段階を光源光量レベル1とし、レベル1からレベル16までレベルの値が大きくなるに従い光源光量が大きくなり、レベル16で最大になる。
【0068】
光源光量レベルの選択は、16種類の抵抗の選択に帰着するので、図8の如く抵抗にスイッチの働きをするトランジスタなどの電子素子を組み合わせることにより、卵の内部検査のためのプログラムを実行するマイクロコンピュータからデジタル出力ボードを介して16ビットのビットパターン信号を出力することによりプログラムから制御することができる。このビットパターン信号を「光源光量制御信号」と呼ぶ。
【0069】
本発明の実施例では、固定抵抗とLEDの間にもスイッチの働きをするトランジスタなどの電子素子を挿入し、卵の内部検査のためのプログラムを実行するマイクロコンピュータからデジタル出力ボードを介して1ビットの信号を出力することにより、LEDの点灯(ON)と消灯(OFF)を制御することができる。この信号を「光源ONOFF信号」と呼ぶ。
【0070】
LEDから卵に照射された光は、卵内に入射する光と卵殻表面で反射する光に分かれる。卵内に入射した光は、卵内を透過あるいは拡散し、卵内の状態の影響を受けた光が再び卵から出射される。出射光の一部が卵に接触した吸盤内に設置されたフォトダイオードPDの受光面に入射する。
【0071】
フォトダイオードPDは、その検出面に入射した光の強度に比例した電流を発生させる光検出器であり、検出された電流は、OPアンプでできた電流電圧変換回路で電圧に変換される。本実施例の電流電圧変換回路のゲインは一定であり、電流電圧変換回路の入力の電流値と出力の電圧値も比例しているので、この電圧値は、フォトダイオードPDの検出面に入射した光の強度に比例している。
【0072】
そこで、本実施例の説明では、フォトダイオードPDに接続された電流電圧変換回路の出力電圧を「受光電圧」と呼ぶが、これは受光した光の強度に比例したものである。この受光電圧は、A/D変換器で数値に変換され、マイクロコンピュータに取り込まれる。本発明の実施例のA/D変換器は、12bitの変換器であり0−10Vのレンジの電圧を0から4095の数値に変換する。
【0073】
10Vを4095段階に分解しているので、A/D変換値の「最小分解能」は約2.5mVである。逆に言えば、入力信号の2.5mV以下の変動は識別できない。また、受光電圧の値がA/D変換器の入力レンジの上限を超えると、上限値になり受光電圧の値の違いが識別できなくなる。たとえば、上限が10Vのとき11Vも12Vも共にAD変換値が4065になり識別できない。この現象を以下「飽和」と呼ぶ。このような最小分解能や飽和の存在は、本実施例のA/D変換器に限らずA/D変換をする場合にともなう不可避な制限である。
【0074】
<受光電圧の内訳と分解の方法>
卵にLEDから光を照射し、受光電圧を観察するとき、受光電圧は大きく分けて、室内照明などの外乱光に由来する外乱光由来部分とLED光源7に由来するLED光源由来部分からなる。
【0075】
外乱光が強いとLED光源7の照射の有無にかかわらず受光電圧が飽和するので、本発明の実施例では、検査ステーション5区画全体が、外乱光を遮蔽する目的でカバー(図示せず)に覆われている。しかし、トレイ1の進入と搬出の目的の開口部が存在するので、外乱光の影響はわずかに残る。そこで、受光信号からLED光源由来部分のみを取り出す必要がある。
【0076】
この方法として、LED光源7に変調を掛けて、これを手がかりに受光信号からLED光源由来部分を分離する「同期検波」の方法が知られている。この検波方式のための最も簡単な光源の変調方法として、LED光源7のONとOFFを一定周期で繰り返す方法があり、本実施例でも、検波方式はこの方法に依っている。以下、本実施例の説明では、LED光源7を一定周期でONとOFFを繰り返すことを「ONOFF変調」と呼ぶ。
【0077】
図9は、本発明の実施例で行っているLED光源7の「ONOFF変調」の例であり、図8の回路図のLED光源7が、マイクロコンピュータからの光源ONOFF信号により、10msecの周期でONとOFFを繰り返している。
【0078】
受光電圧は、LED光源7のONとOFFに対応して、図10のような台形状の波形を繰り返し、LED光源7がONの時の受光電圧は、外乱光由来部分とLED光源由来部分の和であるのに対して、OFFの時の受光電圧は、外乱光のみに由来するので、ON時の受光電圧とOFF時の受光電圧のA/D変換結果をマイクロコンピュータで差をとれば、LED光源由来の部分が取り出せる。
【0079】
卵内に生存胚が有れば、卵内を透過・散乱する光が光路中に存在する胚の血管の膨張や収縮の影響や胚自体の運動の影響を受け、受光した光の強度が1%程度の範囲で平均強度の周りで変動する。本発明の実施例ではこの生存胚の存在に由来する1%程度の変動成分を「生体信号」と呼ぶ。したがって、上記の検波方式で抽出されたLED光源由来の部分にも、生存胚の場合には生体信号が含まれている。
【0080】
本実施例では、ON時とOFF時の受光信号の差を求める周期が、20msecになるので50Hzのサンプリング周期である。したがって、情報理論で周知のシャノン−染谷のサンプリング定理によればLED光源由来の部分に含まれる周波数成分のうち、25Hzまでの周波数成分が有効な情報として取り出せる。鶏胚の生体信号のうち,心拍に由来するものがもっとも周波数が高いが、この心拍由来の周波数成分は7Hz以下なので、50Hzのサンプリング周期で十分計測可能である。なお、本実施例では50Hzのサンプリング周期を用いたが、7Hz以下の周波数の計測なので14Hz以上のサンプリング周期があればよい。
【0081】
また、さらに付言すれば、正確な計測には、LED光源7のON、OFFの周期を十分長くとり受光部分の電流電圧変換回路の過渡応答の整定を待って、A/D変換する必要があり、本実施例では、図10に示すように台形状の波形の整定部分でA/D変換している。図11は孵卵18日目の生存卵に対する本実施例による測定例である。
【0082】
鶏胚の生存胚の心拍数は、孵卵器から取り出して検査工程で検査される時点においては、孵卵日数によらず1分間に120拍以上存在することが知られている。1分間に120拍の周波数は2Hzである。したがって、本実施例では、平均周りの心拍由来の変動をとらえるため500msec以上の時間の生体信号を取得している。
【0083】
<計測対象卵の透過率の違い>
まず、トレイ1の卵座2の一部に卵が載っていない場合があることにも注意する。これは腐敗して卵内の内容物が噴出しているなど目視で腐敗と分かる場合は、検査装置にかける前にこうした卵が取り除かれているからである。トレイ1上に卵が存在しない箇所の卵座2を「卵無し卵座」という。検査結果の統計処理上あるいは生産管理のための情報としても卵無し卵座は、識別しなければならない。
【0084】
トレイ1上の卵には、未受精卵や腐敗卵や生存胚が混在し、これらの卵の光の透過率には大きな差が存在する。たとえば、図12に実験結果を示すように、受精卵の場合は、胚の成長により日を追って透過率が低下して行く。
【0085】
この透過率の低下の度合は、用いる波長によって異なる。たとえば、受精0日目の卵の透過率を1とした場合、波長1の光の透過率は 孵卵4日目で約1/3、孵卵9日目で約1/15、孵卵14日目で約1/50、孵卵19日目で約1/300になる。また、波長3の光の透過率は 孵卵4日目で約1/3、孵卵9日目で約1/6、孵卵14日目で約1/15、孵卵19日目で約1/50になる。
【0086】
一方、未授精卵の透過率は、孵卵0日目と同等であり、内部の胚の発生が無いので日数による変化がない。また、受精卵であっても、内部の胚が途中で発育を中止すれば、それ以降の透過率に変化はない。ただし、未授精卵や発育中止卵に細菌が感染した場合は、腐敗することがある。腐敗が進むと透過率が減少する。腐敗卵の透過率は、腐敗の程度によるが、重度のものの場合、18日目や19日目の生存胚や後期発育中止卵と同程度である。
【0087】
これが透過率のみを手段とした従来の検査装置を18日目の検査に用いた場合、未受精卵や初期発育中止卵を検出できても、後期発育中止卵を見逃す原因となる。本発明によれば、こうした問題を解決すると共に、検卵できる日数の制約を無くし、かつ卵の内部状態に関する制約を無くして、「卵の透過率の情報」、「心拍や胚の運動に由来する生体信号の情報」を両方同時に利用して、卵内状態を非破壊的に推定することができる。
【0088】
従来の卵の透過率のみで卵内情報を推定する方法は、光源強度を一定にし、「卵無し卵座」と「卵有り卵座」を区別するため、透過率の良い未受精卵で受光部が飽和しないような値で受光感度を固定し、受光強度の低下の割合で透過率の減少を知り、卵を判別している。
【0089】
この場合は、受光電圧が飽和をすれば卵無し卵座と判定される。しかし、この方法で後期胚の生死判定のため受光信号中の変動を取り出そうとしても弱い受光信号の1%以下しかない変動分を精度良く分析できず生死判定に困難をきたす。
【0090】
以上のことを数値例で具体的に示す。波長3のLED光源光量を一定に保ち、未受精卵に光を照射したときのLED光源由来の受光電圧が8Vになるように、受光部の感度が調整されているとする。この状態で、19日胚を含む種卵を検査したとき、波長3の光の透過率は、未受精卵の1/50なので、LED光源由来の受光電圧は160mVになる。
【0091】
このとき生体信号(生死判定のため受光信号中の変動部分)は、LED光源由来の受光電圧の1%以下なので、1.6mV程度になり、先に述べたA/D変換器の分解能(2.5mV)より小さく識別できない。逆に、後期胚の生死判定に対象を絞り、受光部のゲイン設定をすると未受精卵や初期中止卵や中期中止卵の場合に飽和し、非生存胚の分類ができない。
【0092】
たとえば、19日胚の種卵に対して、波長3のLED光源光量を一定に保ち、光を照射したときのLED光源由来の受光電圧が8Vになるように、受光部の感度が調整されているとする。
このとき、生体信号は、160mV程度になり、A/D変換後のマイクロコンピュータ上の信号分析で生死の判定が可能である。
【0093】
しかし、未受精卵や初期中止卵や中期中止卵は飽和するので、非生存卵の分類ができない。また、生体信号に基づく生死判別の別の既存技術に交流結合の方法がある。これは、図31に示すように、電流電圧変換回路において、フォトダイオードPDとの接続部分にコンデンサと抵抗からなるハイパスフィルタを挿入した方法である。
【0094】
この方法は、フォトダイオードPDの受光信号のうちの直流成分を除いた変動分のみを取り出した上で、電流電圧変換しているので生体信号のみに着目する場合に良くとられる方法であり、飽和しないで計れる日数の制約を少なくすることができる。しかし、一方で最初から直流成分を除去しているので、透過率の情報が失われ、生死判別の結果、非生存胚と判定された卵に対して未受精卵や中止卵や腐敗卵の識別ができない。以上の従来技術の欠点は、光源光量をすべての卵に対して固定していることによる。
【0095】
本実施例では、検査対象卵の光の透過率が、最も透過率の高い「未受精卵」の透過率を1とした場合、最も低い「後期生存卵」や「重度腐敗卵」の透過率が1/100になるなど非常に広い範囲で変動することを考慮して卵ごとに独立した光源を設け、その光源光量を最小値の最大100倍の範囲で卵ごとに独立に変動させ得る回路構成とし、この範囲での光源光量の強弱の選択をデジタル制御で16段階に分けて、これも卵ごとに独立して行えるようにした。
【0096】
マイクロコンピュータでレベル1からレベル16までの光源光量レベルを選択し、これを光源光量制御信号として出力すれば、選択した光源光量レベルでLED光源が発光させることができる。
【0097】
またさらに、計測動作を「光源光量決定ステップ」と「生体信号計測ステップ」の2段階に分けて、まず光源光量決定ステップにて、卵毎に生体信号を計測するときの光源光量を受光電圧が飽和しない範囲で最も大きくなるように光源光量レベルを決定する。
【0098】
この内の光源光量決定ステップの処理手順を図13に示す。
(1)光源光量レベルを最小のレベルに設定して、光源光を照射し、一定時間内の受光電 圧の平均値を取り平均受光電圧とする。
(2)この平均受光電圧が最小レベルで飽和していれば、当該光源上の卵座部分に「卵が無い」と判断する。
(3)平均受光電圧が予め定められた閾値電圧(本実施例では5V)を下回っていれば、光量レベルを順次上げて行き、閾値電圧を超えるまで繰り返す。
(4)光源光量レベルを最高レベル(本実施例では16)まで上げても、平均受光電圧が閾値電圧を超えなければ、光源光レベルを最高レベルに決定する。
(5)光源光量レベルが、最高レベル以下で閾値電圧を超えて、かつ平均受光電圧が飽和レベル(本実施例では10V)以下ならば、この光源光量レベルに決定する。光源光量レベルが、最高レベル以下で飽和レベル(本実施例では10V)以上ならば、この光源光量レベルを1つさげてこの光源光量レベルに決定する。
【0099】
本実施例では、光源光量決定ステップで決められた光源光量レベルで光源を発光させれば検査対象となる任意の種卵に対して平均受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲、例えば、2V以上9V以下になるように図8の抵抗選択部分の抵抗値が選ばれている。
【0100】
次に、生体信号計測ステップに移り、先に光源光量決定ステップにて決定された光源光量レベルにて、LED光源7を発光させ、LED光源由来部分の受光電圧を一定時間計測した場合の平均電圧からの変動分である生体信号を計測する。
【0101】
LED光源由来部分の受光電圧を求めるのに、本実施例ではLED光源7を10msecのパルス幅でONOFFし、ON時の受光電圧とOFF時の受光電圧の差を取っている。こうしたLED光源にONOFF変調を加えて、計測している場合の、LED光源光量の時間変化を図14に示す。
【0102】
未受精卵のような透過率の高い卵に対しては、光源光量レベルを低く設定するのでパルス高が低く、後期卵のような透過率の低い卵に対しては、光源光量レベルが高く設定されるのでパルス高が高い。
【0103】
従来技術でも、外乱光対策として光源のONOFF変調を行っている例があるが、個々の測定対象卵の透過率に応じて光源光量レベルを変えていないので、すべての卵に対するパルス高は同じである。
【0104】
本発明で言う「光源光量を制御する」あるいは「光源光量を調整する」とは、ONOFF変調の場合は、計測対象卵の光の透過率に合わせて、卵毎にパルス高を変えることであり、単に時間的に光源光量を断続させることではない。
【0105】
また、より一般的な変調のかけ方として正弦波などの周期信号で変調をかける場合も知られており、この場合も本発明で言う「光源光量を制御する」あるいは「光源光量を調整する」とは、計測対象卵の光の透過率に合わせて、LED光源7の周期信号の振幅を変えることであり、単に時間的に光源光量を周期変化させることではない。
【0106】
種卵の生死判別や非生存胚の分類や生存胚の発育度合の推定などの情報処理の手順の全体を図15に示す。「光源光量決定ステップ」と「生体信号計測ステップ」の詳細は前述のとおりである。以下、「決定された光源光量レベル」と「生体信号計測ステップ」で得られた50Hzの周期でサンプリングされたLED光源由来部分の「時系列信号」から種卵の生死判別や非生存胚の分類や生存胚の発育度合の推定する手順を述べる。
【0107】
決定された光源光量レベルは、卵の透過率に合わせて決められたものであるからその値は、卵の透過率の目安を与える。図12に示すように卵の透過率は、発育日数に拠るので、決定された光源レベルは発育日数や発育中止卵の場合は、発育中止時期の推定を与える。本実施例に示す種卵検査装置での実験によれば下記の対応関係が見出せる。
【0108】
【表2】
【0109】
したがって、光源光量レベルが、2より大きくて、「未受精卵」や「卵無し」では無く生存卵の可能性有りと判定された場合は、「生体信号計測ステップ」で得られた50Hzの周期でサンプリングされたLED光源由来部分の「時系列信号」から平均値を除き変動部分、すなわち「生体信号」部分を取り出し、これをフーリエ変換する。フーリエ変換で得られた周波数成分のうち0.3Hzから7Hzの範囲の成分の強度の総和を取り、この総和が予め定められた閾値を越えるとき生存卵と判定する。
【0110】
以上のように、本実施例によれば、検査対象卵の内部状態の違いや孵卵日数の違いに拠らず、卵ごとに生体信号計測期間中の受光電圧が飽和しないような範囲で最も大きくなるように生体信号計測期間中のLED光源光量が予め調整できるので、生体信号(受光電圧の平均周りの変動分)中の生命活動に起因した信号成分の有無をフーリエ変換などの周波数成分の判別でき、確実な卵の生死判定ができる。
【0111】
また、非生存卵に対して光源光量決定ステップで得た光源光量レベルにより卵無し、未受精卵、 初期発育中止卵、中期発育中止卵、後期発育中止卵の識別ができる。さらに、下記の方法で生存卵に対して生体信号をフーリエ変換したときのスペクトル形状の違いから発育日数が識別できる。以下に発育日数の推定の手順を示す。
【0112】
図16は、13日目の生存胚を含む卵の生体信号の時系列の測定事例であり、図17は、この時系列をフーリエ変換した結果を図示したものである。本実施例では、50Hzで信号をサンプリングしているので、25Hzまでの周波数成分が得られるが、ここでは鶏胚の生体信号の周波数帯域0.3Hz〜7.0Hzを考慮して図17は0.3Hzから10Hzの範囲で図示しており、スペクトル形状の違いを簡易に表現するため周波数帯域を3つに分けて考える。
【0113】
【表3】
【0114】
生体信号をフーリエ変換し、各帯域に別に帯域内の周波数成分の強度の和を求めたものを帯域別スペクトル強度と呼ぶ。3つの帯域に分けたので卵毎に3つの帯域別スペクトル強度がもとまる。実験に依れば、3つの帯域別スペクトル強度の組み合わせは、胚の発育によって日毎に明瞭に変化するので、その組み合わせにより日を特定することができる。
【0115】
複数のサンプル卵に対する平均の帯域別スペクトル強度を求め、まとめた表が図18であり、サンプル卵に対する平均の帯域別スペクトル強度を正規化したものが図19の表である。サンプル卵の平均の正規化帯域別スペクトル強度は、下記の手順で作成されている。
【0116】
まず、複数の発育日数の揃ったサンプル卵を用意し、
(1)各生存胚の5日目から19日目までの日毎の帯域別スペクトル強度を測定する。
(2)日毎に複数のサンプル卵の帯域別スペクトル強度の平均を求める。
(3)平均化された各帯域の帯域別スペクトル強度の最大値を帯域別最大スペクトル強度とし、帯域別最大スペクトル強度で他の日の帯域別スペクトル強度を割って正規化する。
【0117】
【数2】
【0118】
図19作成時の図18に示した帯域別最大スペクトル強度を標準帯域別最大スペクトル強度と呼び、図19における第n日目の帯域1、帯域2、帯域3の正規化帯域別スペクトル強度をS1(n),S2(n),S3(n)で表す。実験によれば、図19の表作成に用いた他の複数の生存胚に対しても、図19と同じパターンの変化が認められた。
【0119】
実験に用いたのと異なる未知の生存胚に対しては、次式で帯域1、帯域2、帯域3の正規化帯域別スペクトル強度s1,s2,s3を求める。
【0120】
【数3】
【0121】
この(s1,s2,s3)の組み合わせと図19の第5日から第19日までnを変えながら(S1(n),S2(n),S3(n)との距離|s1−S1(n)|+|s2−S2(n)|+|s3−S3(n)|を求め、この値が最小値を取る日数を推定発育日数とする。
【0122】
このようにして、生存胚と判定された場合は、周波数成分の大きさを3つの帯域別にそれぞれの標準値で割って正規し、これと発育日数別の標準パターンと比較して発育日数を推定でき、さらに、複数の光の相対透過率を組み合わせることで、発育日数の推定精度を向上させることもできる。
【0123】
以上で、本発明によって、種卵の管理に必要な「受精卵と未受精卵の区別」、「受精卵の生死判別」、「非生存胚の分類」および「生存胚の発育度合」など卵内情報を非破壊的に取得することができることが示せた。
【0124】
(1−2)続いて、内部状態の推定結果をより精密化するための計測回路の改良やLED光源波長の複数化を述べる。
【0125】
図15に示す内部状態の推定では、非生存卵の発育中止時期の分類を、光源光量決定ステップで決定された16段階の光源光量レベルに基づき行った。この方法でも未受精卵、初期発育中止卵、中期発育中止卵、後期発育中止卵のような粗い分類が可能である。
【0126】
さらに、図8の回路を改造し、図20のように固定電流制限抵抗の両端の電圧を測定するための回路を付加し、A/D変換器を介してマイクロコンピュータ(判定演算部)が、この電圧を取得できるようにすれば、光源に用いたLEDの波長の光に対する卵の透過率が求められ図12のグラフに基づきより精密な発育中止時期の推定が可能になる。
【0127】
以下、その理由を述べる。説明の便宜のため図20の固定電流制限抵抗の両端の電圧を「固定抵抗部電圧」と呼ぶ。光学的には、透過率は本来、次の(式1)で定義される。
【0128】
【数4】
【0129】
図20の回路図において、受光電圧は、出射光量に比例するので、次の(式2)のように書ける。ここで、AはフォトダイオードPDの感度と電流電圧変換回路の増幅率から決まる比例定数である。
【0130】
【数5】
【0131】
卵への入射光量はLED光源光量に比例し、LED光源光量はLEDに流れる電流に比例するので、卵への入射光量はLEDに流れる電流に比例する。さらに、LEDに流れる電流は、図16の固定部抵抗電圧に比例しているので、固定部抵抗電圧を測定することは光源光量を測定するものである。したがって、次の(式3)のように書ける。
【0132】
【数6】
【0133】
ここでBは、LEDの電流に対する発光効率と固定電流制限抵抗の抵抗値から決まる比例定数である。したがって、(式2)を(式3)で割って、(式1)に注意すれば次の(式4)のようになるので、受光電圧/固定部抵抗電圧は、透過率に比例する量である。
【0134】
【数7】
【0135】
(式4)の右辺(A/B)は、用いた電子部品に依存する装置固有も定数であるが、透過率の既知の標準サンプルを用いれば、予め求めておく事ができるので、受光電圧/固定部抵抗電圧から、透過率が計算できる。
【0136】
図12に示す胚の発育日数と透過率の関係が知られているので、透過率から非生存胚の発育中止時期の推定ができ、光源光量レベルを用いる場合より推定精度が向上でき、図21は、さらにLED光源7と光源ONOFFスイッチをもう一組増やして、LEDの波長の種類を2波長にしている。この2種類のLED光源7を以下、LED光源7αとLED光源7βと呼ぶ。
【0137】
LED光源7αとLED光源7βは、独立にONOFFできるので、LED光源7αの光源光量レベルの決定は、LED光源7βをOFFに固定しLED光源7αに対して図13の光源光量決定ステップを用いれば良く、LED光源7βの場合も同様である。このように、それぞれ他の光源をOFFにしておくことにより、光源が1種類の場合の光源光量決定ステップを用いることができる。
【0138】
LED光源7αとLED光源7βの光源光量レベルは、光源毎に独立に決定される。また、各LED光源7を単独で各々の決定光源光量レベルで発光させ、固定部抵抗電圧を求めておく事ができる。この固定部抵抗電圧もまた、光源毎に独立に決まる量である。2種類のLED光源7を用いた場合の生体信号取得ステップは、各LED光源7のONOFF制御のシーケンスを図22のようにすれば良い。
【0139】
LED光源7αがONのときは、LED光源7βはOFFであり、LED光源7αの光源光量レベルは、先の光源光量決定ステップにてLED光源7αのために決定された値で設定されている。LED光源7αのON時の受光電圧と両LED光源7がOFFの時の受光電圧の差を取りLED光源7αのみに由来した受光電圧が求まる。
【0140】
図22のシーケンスで上記を繰り返せば、LED光源7αのみに由来する受光電圧の時系列が得られる。同様に、LED光源7βがONのときは、LED光源7αはOFFであり、LED光源7βの光源光量レベルは、先の光源光量決定ステップにてLED光源7βのために決定された値で設定されている。
【0141】
LED光源7βのON時の受光電圧と両LED光源7がOFFの時の受光電圧の差を取りLED光源7βのみに由来した受光電圧が求まる。こうして、図22のシーケンスで上記を繰り返せば、LED光源7βのみに由来する受光電圧の時系列が得られる。
【0142】
このように波長の異なる2種類のLED光源7毎に各LED光源7のみに由来する受光電圧の時系列が取得できる。この受光電圧の時系列から平均受光電圧や平均受光電圧周りの変動分すなわち生体信号も波長毎に独立に求められる。
【0143】
光源光量レベルや固定抵抗電圧も波長毎に独立に求められるので、透過率も波長毎に個別に求められる。したがって各LED光源7の波長毎に、独立に「受精卵と未受精卵の判定」や「受精卵の生死判別」や「発育中止胚の中止時期の推定」や「生存卵の発育度合いの推定」が遂行できる。
【0144】
この場合、図12に示すように胚の発育に伴う透過率の変化は、波長毎に異なるので2つの時系列は同じものではない。胚の発育に伴う透過率の変化の大きい波長は、発育中止胚の中止時期の推定に好適であるが、受精卵の生死判別に向いていない。逆に胚の発育に伴う透過率の変化の少ない波長は、受精卵の生死判別に好適であるが、発育中止胚の中止時期の推定に向いていない等判定の内容による適否があるので、利点のみを取るようすれば性能の向上が図れる。
【0145】
以上、LED光源7の種類が、2種類の場合についてデータの取得から判定までの手順を示したが、さらにLED光源7と光源ONOFFスイッチをもう一組増やして、LEDの波長の種類を3波長にすることもできる。
【0146】
図15の全体フローにおいて、透過率に基づく非生存胚の分類部分は単一の波長に対する光源光量レベルの違いや、透過率の違いであったため「発育中止胚」と「腐敗卵」の区別ができない問題があった。しかるに3波長の透過率を用いれば、発育中止胚と腐敗卵の区別が可能である。以下、具体的にその方法を示す。
【0147】
実験によれば波長1と波長2と波長3を適切に選べば、それぞれの透過率から次式で計算される判定指標と、非生存胚と腐敗卵の間に図23の関係が成り立つ。すなわち、判定指標は、腐敗卵で小さく生存胚で大きいので、この大きさの違いにより非生存胚と腐敗卵の区別ができる。
【0148】
【数8】
【0149】
(1−3)検査装置に外部から突発的に強い振動や外乱光や電気的な雑音が加わったときの障害対応を述べる。
【0150】
図15の全体フローの生体信号計測ステップの実行中に検査装置に突発的に外部から機械的な振動が加わった場合、測定中の卵も揺らすので、受光信号にも影響があり振動の周波数によっては、生死判定に影響を与え、特に非生存胚を生存胚と間違える可能性がある。
【0151】
鶏胚の生体信号の帯域(0.3Hz−7Hz)の低周波数の振動に感度を持つ振動センサは市販されており、図21は、A/D変換器を介して、この低周波数振動センサをマイクロコンピュータに接続している。生体信号計測ステップ中に受光信号と同時にこの振動センサの出力をモニターし、閾値を超える大きな振動を検出すれば、計測をやり直すことにすれば、計測中の突発的な機械振動に対処しうる。
【0152】
本実施例では検査ステーション5の遮光と、LED光源由来部分と外乱光由来部分の差をとる同期検波の2つの手段により外乱光の影響を抑えているが、外乱光が突発的に変化したときは、LED光源由来部分と外乱光由来部分の測定タイミングの時間差により外乱光の影響が残りその結果、非生存胚を生存胚と間違える可能性がある。
【0153】
生体信号計測ステップでは、外乱光のみに由来する受光電圧の時系列も取得しているが、この時系列をフーリエ変換などの手段により周波数成分に分解して、生体信号の帯域に重なる周波数成分に予め定められた大きさ以上の大きさの周波数成分があることを検出したときに計測をやり直すことにすれば、計測中の突発的な外乱光の変化に対処しうる。
【0154】
電気的な雑音が突発的に加わった結果、受光電圧に影響が出た場合も同様に外乱光のみに由来する受光電圧の時系列をフーリエ変換などの手段により周波数成分に分解して生体信号の帯域に重なる周波数成分に予め定められた大きさ以上の大きさの周波数成分があることを検出したときに計測をやり直すことにすれば、計測中の突発的な外乱光の変化に対処しうる。
【0155】
図21はLED光源7を2波長にした場合だが、これを3波長にすることもできる。その波長の組み合わせは、図12の3波長としている。波長1、波長2、波長3は波長1が胚の発育による透過率の低下が最も大きく、波長3の透過率が最も小さい。波長2はその中間である。また、透過率計算用の固定抵抗電圧回路と低周波数振動センサを備えている。
【0156】
図24は、判定手順の全体フローである。LED光源光量決定ステップは、光源毎に光源光量決定ステップを順次行っている。生体信号計測ステップでは、波長ごとのLED光源由来の受光電圧の時系列信号と外乱光由来の時系列信号および低周波数振動センサ由来の時系列信号を計測している。
【0157】
信号有効性判定ステップは、突発的な振動の発生を振動センサ出力から検出し外乱光由来の時系列信号から突発的な外乱光の変動や電気的な雑音の影響を検出し、有効でない場合は生体信号計測ステップ全体をやり直す。信号が有効な場合、波長1の透過率と閾値を比較して、未授精卵を区別する。
【0158】
未授精卵でないと判断された場合は、波長3の時系列信号から生体信号部を抽出して、その周波数成分を求めて、鶏胚の生体信号の周波数帯域内の所定強度以上の周波数成分が存在する場合は、生存胚と判定する。
【0159】
生存胚と判定された場合は、周波数成分の大きさを3つの帯域別に合計し3つの合計値を求め、3つの合計値と発育日数別の標準パターンと比較して発育日数を推定し、非生存胚と判断された場合は、波長1、波長2、波長3の透過率から判定指標を計算して、この値が小さい場合は腐敗卵と判定する。また、腐敗卵と判別されなかった場合は、波長1の透過率と発育日数別の標準値と比較して発育中止日数を推定する。
【0160】
(2)最後にセッタートレイ上に密におかれた卵を同時に計測する場合に注意すべき隣接する卵の間の計測の干渉の問題とその問題の解決の方法を述べる。
【0161】
図2に示すようにトレイ1上の卵は、互いの距離ができるだけ短くなるように高い密度で配置されている。図25は、複数個の卵を同時に計測している例である。この例では卵座2xと卵座2yの上に19日目の生存胚を含む卵と未受精卵が並んでいる。
【0162】
LED光源7は、各卵座2の下に卵毎に配置されるが、19日目の生存胚を含む卵の下のLED光源7からの光が19日目の生存胚を含む卵の卵殻表面で反射され、それが更に搬送台4で反射された結果、隣接する未受精卵に入射することがある。また、逆に未受精卵の下のLED光源7からの光が、上記と同じ過程を経て、19日目の生存胚を含む卵に入射することがある。このように、計測のために各卵座2から照射された光は、その光源が計測対象としている卵以外にも照射されることがある。
【0163】
したがって、複数の卵を同時に処理する場合は、卵座2毎のLED光源7のONOFF制御が同期していなければならない。なぜなら、卵座2xでLED光源7がOFFを前提とした処理を行っているときに、卵座2yでLED光源7をONにすると、その光が卵座2xの場所の卵に照射され卵座2xの箇所での処理の前提が満たされないからである。
【0164】
そこで、図21の実施例では、各マイクロコンピュータに対して、1msec周期で発生する共通の外部クロック信号を入力し、この外部クロックに同期して実行するようにしている。したがって、すべての卵座2の下のLED光源7は、同一の波長のLED光源7が同一のタイミングでONOFFしている。
【0165】
図8では、大きさの異なる抵抗を複数個用意し、このうちの一つの抵抗を選択できる回路を設け、マイクロコンピュータからの指令でLEDに直列につなぐ抵抗を切り替えることによりLEDに流す電流を段階的に変化させてLED光源光量を制御する方法を示した。
【0166】
LED光源光量のデジタル制御には、上記の方法以外にも図26のようにD/A変換器を用いて、マイクロコンピュータからのデジタル信号である光源光量制御信号を電圧に変換し、この電圧を固定抵抗の仲介でトランジスタのベース電流に変換することでトランジスタのコレクタ電流を制御して、LEDに流れる電流値、すなわちLED光源光量を制御する方式も考えられる。その他、光源光量を制御する方法としてLED駆動用の電源電圧を変える方式も考えられる。
【0167】
また、LED光源光量を制御する以外にも、LED光源光量を一定にし、対象卵の透過率に合わせて受光部の電流電圧変換用のOPアンプのゲインを切り替えることもできる。図27は、図8の抵抗の選択回路を電流電圧変換用のOPアンプのフィードバック抵抗の切り替えに適用した電流電圧変換用のOPアンプのゲインの切り替え方式を示している。このとき、OPアンプのフィードバック抵抗が大きいほどアンプのゲインが大きくなる。この場合は、マイクロコンピュータからデジタル出力は、受光感度制御信号と呼び、光源光量決定ステップは、受光感度決定ステップになる。
【0168】
すなわち図27の実施例では、LEDのON時の光源光量を一定にし、後期卵や腐敗卵など最も光の透過率の小さい卵に対して受光電圧が飽和でない範囲で大きな電圧値たとえば8Vになるようにフィードバック抵抗の最大値が選ばれており、フィードバック抵抗の最小値は未受精卵で飽和しないように選ばれている。
【0169】
最小値から最大値までは、16段階のレベルに分割されており、受光感度決定ステップは、最初は最小レベルから始めて受光電圧が飽和しない範囲で最大になるようにレベルを順次上げていく方法で、フィードバック抵抗の大きさ、すなわち受光感度レベルを決定する。
【0170】
生体信号計測ステップは、この卵毎に決まる受光感度レベルを用いて行われる。この場合、図15の全体フローにおいて未受精卵判定や非生存卵の発育中止時期の判定を光源光量レベルと比較している部分が、受光感度レベルとの比較になる。
【0171】
受光感度レベル制御の場合は、受光感度レベルに対応したOPアンプのフィードバック抵抗の値は既知であり、LED光源7の電流制限抵抗は固定なので、次式のようになる。
【0172】
【数9】
【0173】
式の右辺の比例定数kは、用いた電子部品に依存する装置固有の定数であるが、透過率の既知の標準サンプルを用いれば、予め求めておく事ができるので、左辺から、透過率が計算できるのである。
【0174】
また、図25の回路を拡張し、複数波長のLEDを用いて時分割で各波長のLED光源由来の受光電圧を取得する方法は、光源光量を制御する場合と同様であり図24に示した判定フローは光源光量決定ステップを受光感度決定ステップに置き換えるだけでそのまま成り立つ。
【0175】
以上、卵に合わせて光源側の光量を多段階に切り替える方式と受光側感度を多段階に切り替える方式の2方式を別々に示したが、両者を組み合わせることもできる。この場合は、光源側のレベルの選択枝と受光側のレベルの選択枝を組み合わせることができるので、より細かいレベル選択を可能にし、個別の卵の生体信号測定時の測定条件をより適した組み合わせにでき判定精度を向上させることができる。
【0176】
なお、本発明の実施例に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施例に記載されたものに限定されない。
【符号の説明】
【0177】
1 トレイ
2 卵座
3 突起物
4 搬送台
5 検査ステーション
6 透明物
7 LED光源
8 吸盤
9 ヘッド
PD フォトダイオード
【特許請求の範囲】
【請求項1】
種卵の内部状態を検査する種卵検査装置であって、
種卵に光を照射する光源と、
前記光源から照射された光のうち前記種卵中を透過・散乱した光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した光を受光電圧に変換する光電変換部と、
前記光電変換部が変換した受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を制御する制御部と、
前記制御部が決定した前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する記憶部と、
前記記憶部が記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分と前記制御部が決定した制御量から前記種卵の内部状態を判定する判定演算部と、を備える種卵検査装置。
【請求項2】
種卵の内部状態を検査する種卵検査装置であって、
種卵に光を照射する光源と、
前記光源から照射された光のうち前記種卵中を透過・散乱した光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した光を受光電圧に変換する光電変換部と、
前記光電変換部が変換した受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を制御する制御部と、
前記制御部が前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を決定した際の光源光量を測定する測定部と、
前記制御部が決定した前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する記憶部と、
前記記憶部が記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分と前記測定部が測定した光源光量の測定値から前記種卵の内部状態を判定する判定演算部と、を備える種卵検査装置。
【請求項3】
種卵の内部状態を検査する種卵検査装置であって、
種卵に光を照射する光源を備え、
前記光源はLEDであって、LEDの電流制限抵抗の一部を固定化し、その両端の電圧である固定部抵抗電圧を測定する回路を有し、さらに、
前記光源から照射された光のうち前記種卵中を透過・散乱した光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した光を受光電圧に変換する光電変換部と、
前記光電変換部が変換した受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲となるように前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を制御する制御部と、
前記制御部が決定した前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する記憶部と、
前記制御部が前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を決定した際あるいは受光電圧の時系列をサンプリング中の固定部抵抗電圧と受光電圧から計算した透過率と前記記憶部が記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分から前記種卵の内部状態を判定する判定演算部と、を備える種卵検査装置。
【請求項4】
前記光源は、発光スペクトルの形状が単一の中心波長を有する単峰性の光源ユニットを複数個用いており、これらの光源ユニットの中心波長の種類が複数である請求項1から請求項3のいずれかに記載の種卵検査装置。
【請求項5】
前記光源は、前記種卵を載せるトレイの卵座の中心に対して点対称に配置された複数個の光源である請求項1から請求項4のいずれかに記載の種卵検査装置。
【請求項6】
前記記憶部は、14Hz以上のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する請求項1から請求項5のいずれかに記載の種卵検査装置。
【請求項7】
前記記憶部は、受光電圧の時系列を500msec以上記憶する請求項1から請求項6のいずれかに記載の種卵検査装置。
【請求項8】
種卵の内部状態検査方法であって、
種卵に光を照射するステップと、
前記種卵中を透過・散乱した光を受光するステップと、
前記受光するステップが受光した光を受光電圧に変換するステップと、
受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように光源光量および/または受光感度を制御するステップと、
前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した際の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶するステップと、
前記受光電圧の時系列を記憶するステップで記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分と前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した制御量から前記種卵の内部状態を判定するステップと、を備える種卵の内部状態検査方法。
【請求項9】
種卵の内部状態検査方法であって、
種卵に光を照射するステップと、
前記種卵中を透過・散乱した光を受光するステップと、
前記受光するステップが受光した光を受光電圧に変換するステップと、
受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように光源光量および/または受光感度を制御するステップと、
前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで光源光量および/または受光感度を決定した際の光源光量を測定するステップと、
前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した際の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶するステップと、
前記光源光量を測定するステップが測定した光源光量の測定値と前記受光電圧の時系列を記憶するステップで記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分から前記種卵の内部状態を判定するステップと、を備える種卵の内部状態検査方法。
【請求項10】
種卵の内部状態検査方法であって、
種卵に光を照射するステップと、
LED光源の電流制限抵抗の一部を固定化し、その両端の電圧である固定部抵抗電圧を測定するステップと、
前記種卵中を透過・散乱した光を受光するステップと、
前記受光するステップが受光した光を受光電圧に変換するステップと、
受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように光源光量および/または受光感度を制御するステップと、
前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した際の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶するステップと、
前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで光源光量および/または受光感度を決定した際あるいは受光電圧の時系列をサンプリング中の固定部抵抗電圧と受光電圧から計算した透過率と受光電圧の平均周りの変動分から前記種卵の内部状態を判定するステップと、を備える種卵の内部状態検査方法。
【請求項1】
種卵の内部状態を検査する種卵検査装置であって、
種卵に光を照射する光源と、
前記光源から照射された光のうち前記種卵中を透過・散乱した光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した光を受光電圧に変換する光電変換部と、
前記光電変換部が変換した受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を制御する制御部と、
前記制御部が決定した前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する記憶部と、
前記記憶部が記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分と前記制御部が決定した制御量から前記種卵の内部状態を判定する判定演算部と、を備える種卵検査装置。
【請求項2】
種卵の内部状態を検査する種卵検査装置であって、
種卵に光を照射する光源と、
前記光源から照射された光のうち前記種卵中を透過・散乱した光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した光を受光電圧に変換する光電変換部と、
前記光電変換部が変換した受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を制御する制御部と、
前記制御部が前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を決定した際の光源光量を測定する測定部と、
前記制御部が決定した前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する記憶部と、
前記記憶部が記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分と前記測定部が測定した光源光量の測定値から前記種卵の内部状態を判定する判定演算部と、を備える種卵検査装置。
【請求項3】
種卵の内部状態を検査する種卵検査装置であって、
種卵に光を照射する光源を備え、
前記光源はLEDであって、LEDの電流制限抵抗の一部を固定化し、その両端の電圧である固定部抵抗電圧を測定する回路を有し、さらに、
前記光源から照射された光のうち前記種卵中を透過・散乱した光を受光する受光部と、
前記受光部が受光した光を受光電圧に変換する光電変換部と、
前記光電変換部が変換した受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲となるように前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を制御する制御部と、
前記制御部が決定した前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する記憶部と、
前記制御部が前記光源光量および/または前記光電変換部の受光感度を決定した際あるいは受光電圧の時系列をサンプリング中の固定部抵抗電圧と受光電圧から計算した透過率と前記記憶部が記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分から前記種卵の内部状態を判定する判定演算部と、を備える種卵検査装置。
【請求項4】
前記光源は、発光スペクトルの形状が単一の中心波長を有する単峰性の光源ユニットを複数個用いており、これらの光源ユニットの中心波長の種類が複数である請求項1から請求項3のいずれかに記載の種卵検査装置。
【請求項5】
前記光源は、前記種卵を載せるトレイの卵座の中心に対して点対称に配置された複数個の光源である請求項1から請求項4のいずれかに記載の種卵検査装置。
【請求項6】
前記記憶部は、14Hz以上のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶する請求項1から請求項5のいずれかに記載の種卵検査装置。
【請求項7】
前記記憶部は、受光電圧の時系列を500msec以上記憶する請求項1から請求項6のいずれかに記載の種卵検査装置。
【請求項8】
種卵の内部状態検査方法であって、
種卵に光を照射するステップと、
前記種卵中を透過・散乱した光を受光するステップと、
前記受光するステップが受光した光を受光電圧に変換するステップと、
受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように光源光量および/または受光感度を制御するステップと、
前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した際の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶するステップと、
前記受光電圧の時系列を記憶するステップで記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分と前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した制御量から前記種卵の内部状態を判定するステップと、を備える種卵の内部状態検査方法。
【請求項9】
種卵の内部状態検査方法であって、
種卵に光を照射するステップと、
前記種卵中を透過・散乱した光を受光するステップと、
前記受光するステップが受光した光を受光電圧に変換するステップと、
受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように光源光量および/または受光感度を制御するステップと、
前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで光源光量および/または受光感度を決定した際の光源光量を測定するステップと、
前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した際の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶するステップと、
前記光源光量を測定するステップが測定した光源光量の測定値と前記受光電圧の時系列を記憶するステップで記憶した時系列に含まれる受光電圧の平均周りの変動分から前記種卵の内部状態を判定するステップと、を備える種卵の内部状態検査方法。
【請求項10】
種卵の内部状態検査方法であって、
種卵に光を照射するステップと、
LED光源の電流制限抵抗の一部を固定化し、その両端の電圧である固定部抵抗電圧を測定するステップと、
前記種卵中を透過・散乱した光を受光するステップと、
前記受光するステップが受光した光を受光電圧に変換するステップと、
受光電圧があらかじめ与えられた設定範囲に収まるように光源光量および/または受光感度を制御するステップと、
前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで決定した際の制御量の下で所定のサンプリング周期で一定時間以上サンプリングされた受光電圧の時系列を記憶するステップと、
前記光源光量および/または受光感度を制御するステップで光源光量および/または受光感度を決定した際あるいは受光電圧の時系列をサンプリング中の固定部抵抗電圧と受光電圧から計算した透過率と受光電圧の平均周りの変動分から前記種卵の内部状態を判定するステップと、を備える種卵の内部状態検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2011−106892(P2011−106892A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260535(P2009−260535)
【出願日】平成21年11月14日(2009.11.14)
【出願人】(597017812)株式会社ナベル (56)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月14日(2009.11.14)
【出願人】(597017812)株式会社ナベル (56)
【Fターム(参考)】
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