説明

積層ゴムの鉛直荷重測定方法及び積層ゴム

【課題】積層ゴムの構造およびその製造工程をほとんど変えることがなく、積層ゴムに作用する鉛直荷重を測定することができる方法を提供する。
【解決手段】鋼板2,3,4とゴム層5とを交互に積層してなる積層ゴム1に作用する鉛直荷重を測定する方法であって、1つのゴム層5a内部に鋼板3との間に間隔が形成されるように電極板8を平行に埋め込んでおき、この電極板8とこれと対向する鋼板3との間の静電容量を測定し、この静電容量に基づいて鉛直荷重を算出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層ゴムの鉛直荷重測定方法及び積層ゴムに関し、より詳細には橋梁や建築物などの構造物の支承として適用される積層ゴムに作用する鉛直荷重の測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁において上部構造(橋桁)と下部構造(橋脚、橋台)との間に設置される支承として、ゴム支承が知られている。このゴム支承は、一般には、鋼板とゴム層とを交互に積層した積層ゴムからなり、鉛直荷重に対しては高い剛性を示し、水平荷重に対しては低い剛性によってせん断変形する性質を有している。
【0003】
このようなゴム支承は、複数箇所の上下部構造間に、また各上下部構造間に複数個設置されるが、各々の支承に実際に加わっている鉛直荷重を計測し、設計荷重と照合することは施工上またその後の維持管理上、極めて重要である。
【0004】
ゴム支承の内部に荷重センサーを埋め込み、支承に作用する鉛直荷重を計測することも可能である。しかしながら、荷重センサーの埋込みによる場合は、鉛直荷重の反力が荷重センサーに作用するように、積層ゴム自体の構造を改変しなければならず、このような方法は製造工程が複雑になるだけでなく、製造コストにも反映する。
【0005】
なお、非特許文献1には、ゴム支承の回転特性を知るために圧縮応力分布を測定する技術が開示されている。この技術はゴム支承に多数の測定孔を設け、オイルを媒体として圧力計で圧縮応力を測定するものである。
【非特許文献1】「道路橋支承便覧」、平成16年4月、社団法人 日本道路協会、p.392−401
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、積層ゴムの構造およびその製造工程をほとんど変えることがなく、積層ゴムに作用する鉛直荷重を測定することができる方法及びそのための積層ゴム構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねたところ、積層ゴムの構造に着目し、次のような知見を得るに至った。積層ゴムにおける鋼板は導電体であり、鋼板間のゴムは絶縁体である。したがって、鋼板間のゴム層に電極板を平行に埋め込めば、この電極板と対向する鋼板とによりコンデンサーが形成される。そして、その静電容量は次式で表され、静電容量Cは電極板と鋼板との間の距離dに応じて変化する。
C=εS/d(F)・・・(1)
ただし、C:静電容量、ε:ゴムの誘電率(定数)、S:電極板の面積、d:電極板と鋼板との間の距離
【0008】
他方、電極板と鋼板との間の距離dは、積層ゴムに加わる鉛直荷重の大きさに応じて変化し、したがって、電極板と鋼板との間の静電容量を測定することにより、鉛直荷重を測定することができる。
【0009】
この発明は上記のような知見に基づくもので、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は鋼板とゴム層とを交互に積層してなる積層ゴムに作用する鉛直荷重を測定する方法であって、
1つの前記ゴム層内部に該ゴム層を挟む前記鋼板との間に間隔が形成されるように電極板を平行に埋め込んでおき、この電極板とこれと対向する一方の前記鋼板との間の静電容量を測定し、この静電容量に基づいて鉛直荷重を算出することを特徴とする積層ゴムの鉛直荷重測定方法にある。
【0010】
より具体的には、前記鋼板は厚肉の上下部鋼板と薄肉の中間部鋼板とからなり、前記電極板は前記下部鋼板とその直上の前記中間部鋼板との間のゴム層に埋め込まれ、前記電極板と前記下部厚肉鋼板との間の静電容量を測定することを特徴とする。また、前記電極板は前記ゴム層に水平方向に間隔を置いて複数枚配置され、各電極板と鋼板との間のそれぞれの静電容量を測定することを特徴とする。
【0011】
また、この発明は、鋼板とゴム層とを交互に積層してなる積層ゴムであって、
1つの前記ゴム層内部に該ゴム層を挟む前記鋼板との間に間隔が形成されるように電極板が平行に埋め込まれており、この電極板及びこれと対向する一方の前記鋼板に導体がそれぞれ接続され、各導体は積層ゴム外部に引き出されていることを特徴とする積層ゴムにある。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、ゴム層内に電極板を埋め込むという簡単な構造で積層ゴムに作用する鉛直荷重を測定することができる。したがって、積層ゴムの構造およびその製造工程は、従来とほとんど変わるところがなく、製造コストに反映することがない鉛直荷重の測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、この発明の実施形態を示す鉛直方向断面図、図2は水平方向断面図である。図に示される積層ゴム1は、橋梁の支承として適用され、上部構造と下部構造との間に設置される。積層ゴム1は、鋼板2,3,4とゴム層5とを交互に積層して形成される。鋼板は、具体的には、厚肉の上下部鋼板2,3と、薄肉の中間部鋼板4とからなる。これら鋼板2,3,4及びゴム層5は、型内で積層され、加硫接着することによって一体化される。
【0014】
符合6で示す部分は被覆ゴム層である。また、上部鋼板2及び下部鋼板3の中央に設けられた孔7は、それぞれ上部構造及び下部構造との間で水平力を伝達するためのせん断キーを嵌合するためのものである。積層ゴム1は、橋梁に適用される場合は、図示の例のように直方体状であるが、建築物などに適用される場合は円柱状に形成されることもある。
【0015】
最下層のゴム層5(以下、説明の便宜のために符合5aでも示す)には、複数枚の電極板8が埋め込まれている。各電極板8は下部鋼板3との間に間隔が形成されるように平行に埋め込まれている。電極板8は、この実施形態では5枚配置され、ゴム層5aの中央部及び4隅部に配置されている。電極板8と下部鋼板3との間のゴムは絶縁体であることから、各電極板8と下部鋼板3とによって複数のコンデンサーが形成されることになる。
【0016】
電極板8としてはSUS鋼板が用いられるが、導電性を有するものであれば、普通鋼板、銅板などの他の金属板を用いることもできる。電極板8は、厚さが1〜2mmで大きさが5cm角程度のものとするとよい。また、電極板8と下部鋼板3との間隔d(図3参照)は、無荷重時で5〜10mmとするとよい。この電極板8は、積層ゴム1の製造時にゴム層5aと加硫接着される。各電極板8及び下部鋼板3にはリード線9,10が接続され、これらのリード線9,10は積層ゴム1の外部に引き出されている。
【0017】
リード線9,10は図3に示すように静電容量の計測器11に接続可能となっている。計測器11としては、周知のLCRメータを用いることができる。このLCRメータはL(リアクタンス)、C(キャパシタンス)、R(レジスタンス)を測定することができる計測器で、汎用のものである。その測定原理は、被測定物(この実施形態に即して言えば電極板8、下部鋼板3及び両者間のゴムで構成されるコンデンサー)に電流を流し、被測定物両端の電圧を測定して、電圧と電流との関係(インピーダンス=電圧÷電流)からインピーダンスを求めることにある。
【0018】
次に、鉛直荷重の測定方法について説明する。工場で製作された積層ゴム1は、図示しない圧縮試験機にかけられる。その際、図4に示すように、電極板8のそれぞれについて計測器11が用いられ、各電極板8のリード線9及び下部鋼板3のリード線10はそれぞれの計測器11に接続される。また、各計測器11はコンピューター12に接続される。試験中、積層ゴム1に荷重P(図1参照)が徐々に載荷され、荷重値に対応した各電極板8と下部鋼板3との間の静電容量が測定される。すなわち、積層ゴム1に鉛直荷重が加わるとゴム層5aが圧縮変形し、その結果、載荷荷重に応じて電極板8と下部鋼板3との間の距離dが変化する。静電容量は(1)式で示したように、距離dに応じて変化し、結局、測定した静電容量は載荷荷重に応じた値を示すことになる。
【0019】
各電極板8と下部鋼板3との間の静電容量は、各電極板8ごとに設置された計測器11によって測定され、その測定データはコンピューター12に入力されて、測定値の平均値が演算される。このような平均値は載荷荷重ごとに算出され、コンピューター12によって静電容量(平均値)と載荷荷重との関係が演算される。図6は、このようにして得られた荷重−静電容量の関係を示している。
【0020】
一方、支承の設置現場においては積層ゴム1に上部構造の鉛直荷重が載荷され、図5に示すように、圧縮試験の場合と同様にして各電極板8と下部鋼板3との間の静電容量が計測器11によって測定される。測定された静電容量データは、無線機(送信機)13及び無線機14(受信機)を介して現場事務所等の屋内のコンピューター12に伝送され、コンピューター12は静電容量データの平均値を算出し、予め圧縮試験によって得られた荷重−静電容量特性データからその平均静電容量に対応する荷重を演算し表示する。このようにして得られた荷重値と、設計荷重値とを照合することにより、その後の維持管理を適切なものとすることができる。なお、静電容量の測定データは無線によって伝送するに限らず、現場にコンピュータを設置して記録媒体に保存するようにしてもよい。
【0021】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は種々の態様を採ることができる。例えば、上記実施形態では、電極板を複数枚配置したが、単数枚でも測定は可能である。また、電極板を複数枚配置する場合、例えば、積層ゴムの橋軸方向Xの中心線に沿って3枚配置する(図7参照)など、その枚数、配置形態は種々の態様を採ることができる。因みに、電極板を積層ゴムの四隅に配置した上記実施形態によれば、荷重の偏りを検出することができる。
【0022】
また、上記実施形態では電極板を下部鋼板の直上のゴム層に埋め込んだが、電極板を埋め込むゴム層は、複数あるゴム層のうちいずれを選択してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施形態を示す鉛直方向断面図である。
【図2】同実施形態のものの水平方向断面図である。
【図3】電極板の埋込み形態を拡大して示す鉛直方向断面図である。
【図4】圧縮試験時における静電容量の測定方法を示す機器ブロック図である。
【図5】現場での静電容量の測定方法を示す機器ブロック図である。
【図6】荷重−静電容量の関係を示す特性線図である。
【図7】電極板の別の配置例を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 積層ゴム
2 上部鋼板
3 下部鋼板
4 中間部鋼板
5 ゴム層
8 電極板
9 リード線
10 リード線
11 計測器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板とゴム層とを交互に積層してなる積層ゴムに作用する鉛直荷重を測定する方法であって、
1つの前記ゴム層内部に該ゴム層を挟む前記鋼板との間に間隔が形成されるように電極板を平行に埋め込んでおき、この電極板とこれと対向する一方の前記鋼板との間の静電容量を測定し、この静電容量に基づいて鉛直荷重を算出することを特徴とする積層ゴムの鉛直荷重測定方法。
【請求項2】
前記鋼板は厚肉の上下部鋼板と薄肉の中間部鋼板とからなり、前記電極板は前記下部鋼板とその直上の前記中間部鋼板との間のゴム層に埋め込まれ、前記電極板と前記下部厚肉鋼板との間の静電容量を測定することを特徴とする請求項1記載の積層ゴムの鉛直荷重測定方法。
【請求項3】
前記電極板は前記ゴム層に水平方向に間隔を置いて複数枚配置され、各電極板と鋼板との間のそれぞれの静電容量を測定することを特徴とする請求項1又は2記載の積層ゴムの鉛直荷重測定方法。
【請求項4】
鋼板とゴム層とを交互に積層してなる積層ゴムであって、
1つの前記ゴム層内部に該ゴム層を挟む前記鋼板との間に間隔が形成されるように電極板が平行に埋め込まれており、この電極板及びこれと対向する一方の前記鋼板に導体がそれぞれ接続され、各導体は積層ゴム外部に引き出されていることを特徴とする積層ゴム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−47582(P2009−47582A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214703(P2007−214703)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(591037694)川口金属工業株式会社 (36)
【出願人】(597165618)株式会社ネクスコ東日本エンジニアリング (18)
【Fターム(参考)】