説明

積層ゴム支承体

【課題】積層ゴム支承体の外径を変更することなく、また、免震建物の固有周期については4秒以上を維持し、二次形状係数は5以上として、さらに高面圧化によって座屈特性等が低下しない積層ゴム支承体を提供する。
【解決手段】複数のゴム板1と鋼板のような金属材からなる硬質板2とを交互に積層し加硫接着してなる免震積層体9と、連結鋼板3a、3bの上下両側にそれぞれ重ねられ、ボルト5a、5bを介して連結鋼板3a、3b取付けられるフランジ4a、4bとを備えている。硬質板2およびゴム板1の中央に設けられる中心孔6にはゴム板1と同一のゴム材Rが充填されている。積層ゴム支承体の二次形状係数をS、ゴム板1のせん断弾性率をG〔N/mm〕としたときに、(a)S≧5、(b)G≧0.5の条件を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の免震などに用いられる積層ゴム支承体に係り、特にゴム状弾性体のせん断弾性率を大きくして高面圧化を図ることができる積層ゴム支承体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物等の上部構造体及び基礎等の下部構造体間に設けられ、両構造体間の相対的な水平方向の振動エネルギを吸収して上部構造体への振動加速度を低減するために、積層ゴム支承体が使用されている。
【0003】
このような積層ゴム支承体は、図3に示すように、複数のゴム板1と鋼板のような金属材からなる硬質板(中間鋼板)2とを交互に積層し加硫接着するとともに、上下両側から2枚の硬質板(連結鋼板)3a、3bで挟持して成るものが知られている(例えば、特許文献1等)。なお、図中、符号4a、4bは連結鋼板3a、3bの上下両側にそれぞれ重ねられたフランジ、5a、5bは連結鋼板3a、3bとフランジ4a、4bを連結固定するボルト、符号6は硬質板2およびゴム板1の中央に設けられる製造時の加熱用の中心孔、7はゴム板1と硬質板2の外周面に設けられる保護層、8a、8bは取付ボルト用穴を示している。
【0004】
このような積層ゴム支承体の形状を決定する主なパラメーターは、ゴム板1の直径または一辺の長さDとゴム板1の1層あたりの厚さt、及びゴム板1の積層枚数nであり、これらは一次形状係数Sと二次形状係数Sとしてまとめられる。
【0005】
一次形状係数Sは、ゴム板1の拘束面積と自由表面積(側面積)の比として、二次形状係数Sは、ゴム板1の直径または一辺の長さとゴム層全体の厚さの比としてそれぞれ定義され、以下に示す式で計算される。
【0006】
=(D−D)/4t
=D/nt (式1)
但し、nはゴム板1の積層枚数、Dは硬質板2およびゴム板1の中央に設けられる製造時の加熱用の中心孔6の直径を示す。
【0007】
一次形状係数Sは、ゴム板1の拘束面積と自由表面積(側面積)の比として、二次形状係数Sは、ゴム板1の直径または一辺の長さとゴム層全体の厚さの比としてそれぞれ定義され、以下に示す式で計算される。
【0008】
そして、一次形状係数Sは、鉛直剛性、回転剛性に関するパラメーターであり、Sが大きくなるほど、直径に対するゴム層(ゴム板1)の厚さは薄くなり、鉛直剛性や曲げ剛性が大きくなる。また、二次形状係数Sは、載荷能力や水平剛性に関するパラメーターであり、Sが大きくなるほど、積層ゴム(ゴム板1)は偏平になり座屈や曲げ変形を起こしにくい形状となる。
【0009】
このような観点から、従来の積層ゴム支承体においては、安定した積層ゴム支承体とするため、二次形状係数Sは5以上としている。
【0010】
一方、近年の建築分野では、効果的な免震構造として免震建物の固有周期をより長周期化する方向が指向されており、地震波の入力に対する出力の収束傾向から、4秒以上の振動周期を有する積層ゴム支承体の使用が、免震特性の点で有効であることが確認されている。
【0011】
ここで、積層ゴム支承体の水平剛性に基づく免震建物の固有周期Tは、式2より与えられ、積層ゴム支承体のゴム板1の外径Dを同じとした場合、長周期化を図るには、ゴム板1の面圧(圧縮応力)σを上げるか、ゴム板1を構成するゴム状弾性体のせん断弾性率Gを下げるか、または積層ゴム支承体の二次形状係数Sを小さくすることになる。
【0012】
T=2π√{W/(K・g)}≒2π√{(D・σ)/(S・G・g)} (式2)
但し、Wは建物総重量、Kは積層ゴム支承の水平剛性、gは重力加速度を示している。
【0013】
ところで、長周期化の事例として、例えば特開平8−312704号公報(特許文献1)には、ゴム板1を構成するゴム状弾性体のせん断弾性率Gを小さくすることにより、すなわち、一次形状係数Sを20以上、二次形状係数Sを5以上で、かつゴム板1を構成するゴム状弾性体のせん断弾性率Gを4kgf/cmより小さくすることにより、振動周期が長く、かつ水平ばね定数の面圧依存性が小さくなる積層ゴム支承体が開示され、また、特開2000−65135号公報(特許文献2)には、ゴム状弾性体のせん断弾性率Gを4kgf/cm〜6kgf/cm程度とし(段落「0009」、「表1」)、二次形状係数Sを5より小さくし、さらにゴム板の外径Dと硬質板の厚さtの比(D/t)を150より小さくすることで、長周期化する構成が開示されている。
【0014】
一方、積層ゴム支承体の設計においては、近年、設計荷重(面圧)を高くする傾向になってきている。すなわち、積層ゴム支承体は、工事作業性等を考慮して積層ゴム支承体1個の直径を小さくする傾向にある。このため、積層ゴム支承体にかかる建築物の荷重が同じ条件であっても、積層ゴム支承体の直径が小さくなると、積層ゴム支承体の単位面積当たりにかかる荷重は、すなわち面圧は、より大きなものとなる。従って、高面圧下においても良好な免震特性が得られる積層ゴム支承体が求められている。
【0015】
この点に関し、免震建築物及び免震材料に関する技術基準(平成12年度建設省告示2009号及び2010号)において、積層ゴム支承体の設計にあたり、積層ゴム支承体の鉛直基準強度は、圧縮限界強度を0.9倍した数値以下の値とし、同積層ゴム支承材の水平基準変形は、鉛直基準強度の1/3に相当する面圧で水平方向に変形させた場合の限界の変形と定められている。ここで、圧縮限界強度σは、アイソレータが座屈や破断をすることなく安全に支持できる圧縮応力度と規定されており、式3より算出される。
【0016】
σ=ζ・G・S・S
ζ=π√{k/8(1+2kSG/E)} (式3)
但し、Gはゴム板を構成するゴム状弾性体のせん断弾性率、Sは一次形状係数、Sは積層ゴム支承の二次形状係数、kはゴムの硬度に応じた補正係数、Eは体積弾性係数を示している。
【0017】
この技術基準に基づき、積層ゴム支承体の面圧を高くするには、圧縮限界強度σを大きくする必要がある。具体的には、式3より、せん断弾性率Gを大きくするか、一次形状係数Sを大きくするか、または二次形状係数Sを大きくすることになる。
【0018】
ここで、1次形状係数Sを大きくする場合、式1より、ゴム板の外径Dを大きくするか、ゴム板1の1層あたりの厚みtを薄くすることになるが、ゴム板1の外径Dを大きくする方法については、積層ゴム支承体自体が大型化することになり、材料費等のコストアップにつながってしまう。また、ゴム板1の外径Dを大きくすると、硬質板2の外径も合わせて大きくなることから、積層ゴム支承体の重量が重くなってしまう。さらに、設置するスペースの問題から、積層ゴム支承体の外径(ゴム板1の外径D)に制約が生じることもあるし、積層ゴム支承体1個の直径を小さくする傾向とは逆になる。また、ゴム板1の1層当りの厚さtを薄くした場合、積層ゴム支承体全体として必要となるゴム厚を確保するために、ゴム板1の総数を増やす必要がある。さらに、積層ゴム支承体は、複数のゴム板1と硬質板2を交互に積層することで形成されるところ、ゴム板1の総数を増やすと、硬質板2の総数も増えることになり、全体として積層ゴム支承体の重量が増加し、コストもアップしてしまう。
【0019】
次に、式1より、D=0、すなわち、硬質板2およびゴム板1の中央に設けられる製造時の加熱用の中心孔6を無くすことも考えられるが、加熱用の中心孔6は、加熱の他、加硫時のエア抜きのためにも形成されており、また、積層工程から加硫工程に至る各製造段階における中間鋼板の位置決めにも不可欠となっているため、中心孔6を無くす(D=0とする)ことはできない。また、二次形状係数Sを大きくした場合、座屈や曲げ変形は起こり難くなるが、式2より、免震建屋の固有周期Tが短くなってしまうため、Sを大きくすることにも限度がある。
【0020】
この点に関し、特開平8−312704号公報(特許文献1)に開示される積層ゴム支承体においては、長周期化のため、ゴム板1を構成するゴム状弾性体のせん断弾性率Gを小さくしているが、せん断弾性率Gを小さくした場合、ゴム板1の層が低弾性で柔らかくなり、風揺れ等の影響を受けやすくなり、さらにクリープ量の増加を招く虞がある上、圧縮限界強度σを大きくして高面圧化する方向とは逆行する。また、特開2000−65135号公報(特許文献2)に開示される積層ゴム支承体のように、長周期化のため、二次形状係数Sを5より小さくする構成も、圧縮限界強度σを大きくして高面圧化する方向とは逆行する。
【0021】
このような観点から、座屈や曲げ変形を考慮した積層ゴム支承体の設計においては、二次形状係数Sを5以上とすることが望まれているところ、特開2000−65135号公報(特許文献2)に開示される方法では、固有周期Tを4秒以上とすることは困難になる。
【0022】
一方、積層ゴム支承体の高面圧化に対し、免震建物の固有周期Tの長周期化や積層ゴム支承体の製作コスト等も考慮して設計する必要がある。また、面圧(圧縮応力)σを上げることによって、クリープ量の増加を招き、より小さな水平剪断変形時において座屈が発生しやすくなるなど座屈特性を低下させる懸念があり、座屈特性を考慮した設計とする必要もある。さらに、鉛直方向の面圧(鉛直荷重をゴム板の面積で除した値)が変わっても水平特性の変化が小さい、すなわち面圧依存性が小さくなるように設計することも要求される。
【0023】
従って、これらの各要求に鑑みて、二次形状係数Sを5以上、免震建物の固有周期Tを4秒以上とした上で、ゴム状弾性体のせん断弾性率Gを大きくして高面圧化を図ることは、従来の方法では困難であり、平成12年度建設省告示に基づく、圧縮方向の許容応力度(鉛直基準強度の1/3に相当する面圧で水平方向に変形させた場合の限界の変形)は15N/mmまでであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開平8−312704号公報
【特許文献2】特開2000−65135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、積層ゴム支承体の高面圧化に際し、コストアップ等につながる積層ゴム支承体の外径(ゴム板の外径)を変更することなく、また、免震建物の固有周期については4秒以上を維持し、二次形状係数は5以上として、さらに高面圧化によって座屈特性等が低下しない積層ゴム支承体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の第1の態様である積層ゴム支承体は、複数の硬質板とゴム板とを交互に積層一体化してなる積層ゴム支承体において、硬質板およびゴム板の中央に設けられる中心孔にはゴム板と同一または同質のゴム材が充填されており、積層ゴム支承体の二次形状係数をS、ゴム板のせん断弾性率をG〔N/mm〕としたときに、(a)S≧5、(b)G≧0.5の条件を満足するように構成されているものである。
【0027】
本発明の第2の態様である積層ゴム支承体は、第1の態様である積層ゴム支承体において、(b)の条件におけるGが、0.8≧G≧0.5とされているものである。
【0028】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様である積層ゴム支承体において、硬質板の厚さをT、ゴム板の厚さをTとしたときに、(c)(T/T)>0.5の条件を満足するように構成されているものである。
【0029】
本発明の第4の態様は、第3の態様である積層ゴム支承体において、(c)の条件における(T/T)が、1.0≧(T/T)>0.5とされているものである。
【0030】
本発明の第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様の何れかの態様である積層ゴム支承体において、硬質板の外周縁側は、ゴム板の外周縁側より径方向外方に突出しているものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明の第1の態様乃至第5の態様の積層ゴム支承体によれば、次のような効果がある。
【0032】
第1に、ゴム板を構成するゴム状弾性体のせん断弾性率Gを0.5N/mm以上とすることで、圧縮限界強度σを大きくすることができ、また、圧縮方向の許容応力度(長期面圧)が20N/mmの十分な性能を有する積層ゴム支承体を提供することができ、さらに、圧縮方向の許容応力度(長期面圧)が20N/mmとなることで、固有周期Tが4秒以上の免震建物を提供することができる。
【0033】
第2に、積層ゴム支承体の形成時に、硬質板とゴム板の中央に設けた中心孔にゴム板と同一または同質のゴム材を充填することで、製造時における中心孔は維持したうえで、建築物を支承する際には、中心孔が無い状態を模擬して1次形状係数Sを大きくすることができる。また、中心孔へのゴム材の充填により、積層ゴム支承体の変形時においてゴム状弾性が中心孔内にはみ出すことを抑制し、水平剛性の面圧依存性を改善することができる。
【0034】
第3に、ゴム板の厚さに対する硬質板(中間鋼板)の厚みを0.5超と厚くすることで、硬質板(中間鋼板)に剛性及び強度を持たせ、曲げ変形の抑制と局部的な応力集中の緩和を図り、高面圧化での挙動を安定させ、面圧依存性を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例における積層ゴム支承体の断面図。
【図2】理論式より求めた圧縮限界曲線と圧縮せん断試験及びオフセットせん断圧縮試験の測定結果の比較を示す説明図
【図3】従来における積層ゴム支承体の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の積層ゴム支承体の好ましい実施の形態例について、図面を参照して説明する。
【0037】
図1は本発明における積層ゴム支承体の一実施例の断面図を示している。なお、同図において、図3と同一の部分には同一の符号が付されている。
【0038】
図1において、本発明の積層ゴム支承体は、複数のゴム板1と鋼板のような金属材からなる硬質板(中間鋼板)2とを交互に積層し加硫接着してなる免震積層体9と、免震積層体9の上下両側に当該免震積層体9を挟持するように配置される連結鋼板3a、3bと、連結鋼板3a、3bの上下両側にそれぞれ重ねられ、ボルト5a、5bを介して連結鋼板3a、3b取付けられるフランジ4a、4bとを備えている。
【0039】
なお、図中、符号6は、硬質板2およびゴム板1の中央に設けられる製造時の加熱用の中心孔、8a、8bはフランジ4a、4bの外周縁側に円周方向に沿って等間隔で設けられた取付ボルト穴を示している。
【0040】
このような構成の積層ゴム支承体は、下部側のフランジ4bを介して例えば基礎等の下部構造体10bに取付けられ、上部側のフランジ4aを介して例えば建築物等の上部構造体10aに取付けられる。
【0041】
ここで、本実施例においては、免震積層体9としていわゆる中間鋼板露出型のものが使用されている。具体的には、硬質板2の外周縁側が荷重を支えるゴム板1の外周縁側より径方向外方に突出するように配置されている。このような中間鋼板露出型の免震積層体によれば、各ゴム層(ゴム板1)および中間鋼板(硬質板2)の整列が人目でわかるため、品質管理が容易となり、また、成型時の熱伝導が従来に比べて均一化されるため、各ゴム層(ゴム板1)に加わる熱履歴が均質化され、良好な特性と接着性能を得ることができる。さらに、安定した形状との相乗効果により、積層ゴム(ゴム板1)の命である荷重支承能力、安定した変形、および水平剛性のきわめて少ない依存性を実現させることができる。
【0042】
また、当該免震積層体9の外周には、必要により、長期耐久性に優れた合成ゴムの後巻き等により形成される保護層7を設けることができる。このような保護層7を設けた場合には、酸素、紫外線、オゾンおよび湿度等の劣勢因子から保護し、耐久性を更に向上させることができる。
なお、保護層7は、後から別途取り付けるため、中間鋼板露出型による免震積層体の効果は損なわれない。
【0043】
次に、従来の問題点をクリアし、圧縮特性を改良した高面圧タイプの積層ゴム支承体を提供するための構成について説明する。
【0044】
先ず、本発明においては、積層ゴム支承体の高面圧化に際し、圧縮限界強度σの算出式における各パラメータの調整に加えて、次のような構成が付加されている。
【0045】
第1に、二次形状係数Sを5以上とした上で、ゴムのせん断弾性率Gを0.5N/mm以上、具体的には、免震建物の固有周期T等を考慮してゴムのせん断弾性率Gが0.5N/mm〜0.8N/mmにまで引き上げられている。ここで、ゴムのせん断弾性率Gを0.5N/mm以上としたのは、圧縮方向の許容応力度(長期面圧)20N/mmを確保するためである。また、ゴムのせん断弾性率Gが0.8N/mm以下としたのは、Gが0.8N/mmを超えると、ゴム板1(ばね)が硬くなることで、固有周期Tが短くなり、応答特性が悪くなるからである。
【0046】
このように、ゴム状弾性体のせん断弾性率Gを上げることにより、圧縮限界強度σを大きくすることができる。
【0047】
第2に、本発明においては、免震支承体の中心孔6にゴム板1と同一のゴム材Rが充填されている。すなわち、本発明における免震支承体は円筒状の金型内に、ゴム板1と硬質板2(中間鋼板)を積層し、一体に成型、加硫接着して形成されるところ、上述したように、製造時(加硫)の加熱、積層工程から加硫工程に至る各製造段階における硬質板2(中間鋼板)の位置決めの際に中心孔6が設けられている。そして、ゴム板1と硬質板2(中間鋼板)の位置決め後、中心孔6から金型のスライドピン(不図示)を抜くことにより当該中心孔6にゴム材Rを充填することができる。
【0048】
このように、本発明においては、建築物を支承する際には、中心孔6が無い状態を模擬して1次形状係数Sを大きくしている。また、中心孔6へのゴム材Rの充填により、積層ゴム支承体の変形時においてゴム状弾性が中心孔6内にはみ出すことを抑制し、水平剛性の面圧依存性を改善することができる。
【0049】
第3に、本発明においては、ゴム板1の厚さTに対する硬質板2(中間鋼板)の厚さTの比を大きくすることで、すなわち、硬質板2(中間鋼板)の厚さTを、(T/T)>0.5の条件を満足するように構成することで、硬質板2(中間鋼板)に剛性及び強度を持たせ、曲げ変形の抑制と局部的な応力集中の緩和を図り、高面圧化での挙動を安定させ、面圧依存性を小さくすることができる。ここで、ゴム板1の厚さに対する硬質板2(中間鋼板)の厚さの比が0.5以下の場合、高面圧化での挙動が不安定になり、面圧依存性が大きくなってしまう。
【0050】
上記の(T/T)は、具体的には、1.0≧(T/T)>0.5の条件を満足するように構成することが好ましい。ゴム板1の厚さTに対して硬質板2(中間鋼板)の厚さTの比を1.0超とした場合、硬質板2(中間鋼板)の厚さとゴム板1の厚さの比を1.0以下とした同じ外径の積層ゴム支承体と比べ、積層ゴム支承体の重量が増し、搬送及び据え付け作業効率の低下やコストアップを招いてしまう。特に、ゴム板1と硬質板2(中間鋼板)は20〜30層程度を交互に積層するため、硬質板2(中間鋼板)の厚さ増による重量増の影響は大きく、このため、(T/T)は、0.85以下とすることがより好ましい。
【0051】
このように、硬質板2(中間鋼板)の厚さを1.0≧(T/T)>0.5の条件を満足するように構成することで、座屈特性の低下を抑えるための最低限の硬質板(中間鋼板)の厚さを設定することができる。
【0052】
この点に関し、上記の(T/T)については、「日本建築学会大会学術講演梗概集2010年9月」(福岡大学、昭和電線デバイステクノロジー)において、積層ゴム支承体を15N/mmで、せん断ひずみ±100〜300%まで圧縮せん断試験を実施した結果、硬質板(中間鋼板)の厚さ/ゴム板の厚さ、すなわち(T/T)が0.5超であれば、硬質板(中間鋼板)の厚さが変形性能や座屈性能に影響しないことが報告されている。
【0053】
また、「日本建築学会大会学術講演梗概集1997年9月」(昭和電線電纜)において、硬質板(中間鋼板)の外周縁が露出した積層ゴム支承体と、被覆ゴムで硬質板(中間鋼板)の外周面を被覆した積層ゴム支承体を作製し、水平剛性の面圧依存性を評価し、水平剛性に関して、硬質板(中間鋼板)の外周縁を露出させた構成の方が面圧依存性が小さいことが報告されている。さらに、面圧依存性を改善するには、硬質板(中間鋼板)の外周縁を露出させた構成の積層ゴム支承体が好ましい。
[実施例]
本発明の実施例として、中間鋼板露出型の天然ゴム系積層ゴム支承体を用い、ゴム状弾性体のせん断弾性率Gを0.5N/mmとし、中心孔6にゴム材Rを充填した直径600mmの積層ゴム支承体を作製した。また、比較例として、中間鋼板露出型の天然ゴム系積層ゴム支承体を用い、ゴム状弾性体のせん断弾性率Gを0.44N/mmとし、中心孔6を維持した積層ゴム支承体(中心孔6にゴム材Rを充填しない積層ゴム支承体)を作製した。
【0054】
表1には、実施例および比較例の各積層ゴム支承体の概要が示されている。なお、実施例および比較例とも積層ゴム支承体における硬質板2(中間鋼板)は鋼板からなる金属板で形成し、その厚さは3.2mmとし、硬質板2(中間鋼板)の厚さ/ゴム板1の厚さの比、すなわち、(T/T)を0.71とした。また、平成12年度建設省告示に基づく、圧縮方向の許容応力度(長期面圧)は、実施例が20N/mm、従来例が15N/mmとなる。さらに、免震建物の固有周期Tは実施例が4.3秒、比較例が4秒と要求されている周期時間を満たしている。
【0055】
これらの実施例および比較例について、圧縮せん断試験とオフセットせん断圧縮試験を実施した。
【0056】
表2、3には各試験の条件を示す。なお、圧縮せん断試験においては、一定荷重の圧縮荷重を載荷した状態で座屈するまで(水平剛性が0となる)せん断変形を与えた。また、オフセットせん断圧縮試験においては、せん断変形を一定にした状態で圧縮荷重を水平剛性が0となるまで単調に与えた。いずれの試験も試験体へのダメージを考慮して一定の条件で途中停止させている。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
「試験結果」
圧縮せん断試験及びオフセットせん断圧縮試験による座屈特性の評価を行なった結果、表2より、比較例の積層ゴム支承体においては、60〜80N/mmの高面圧試験において、外観上から座屈の傾向が確認された。一方、実施例の積層ゴム支承体においては、外観上からの座屈傾向は無かった。また、表3より、実施例および比較例とも、せん断ひずみの増加に伴い鉛直面圧は低下する傾向にある。
【0061】
図2は、理論式より求めた圧縮限界曲線と圧縮せん断試験及びオフセットせん断圧縮試験の測定結果の比較を示している。なお、同図において、長期面圧とは常時作用している面圧をいい、短期面圧とは地震時に想定される面圧で、長期面圧の2倍とされている。
【0062】
実施例および比較例とも理論上の圧縮限界曲線よりも座屈面圧が高いことが確認できる。これは、本発明の前記の第1、第2の構成並びに必要により前記の第3の構成を組み合わせた相乗効果によるものと考えられる。また、実施例においては、面圧50N/mmで370%以上のせん断ひずみまで座屈しないことから、圧縮方向の許容応力度(長期面圧)20N/mmの積層ゴム支承体として十分な性能を有していることがわかる。
【0063】
以上のように、本発明によれば、積層ゴム支承体の高面圧化に際し、圧縮限界強度σの算出式における各パラメータの調整に加えて、前記の第1、第2の構成並びに必要により前記の第3の構成を組み合わせることで、ゴム状弾性体のせん断弾性率Gを0.5N/mm以上として、理論上の圧縮限界曲線よりも高い座屈面圧を得ることができる。
【0064】
また、ゴム板を構成するゴム状弾性体のせん断弾性率Gを0.5N/mm以上とすることで、圧縮方向の許容応力度(長期面圧)20N/mmの十分な性能を備える積層ゴム支承体を提供することができる。
【0065】
さらに、圧縮方向の許容応力度(長期面圧)20N/mmとなることで、免震建物の固有周期Tが4秒以上を維持できる積層ゴム支承体を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
前述の実施例においては、図面等に示した特定の形態をもって本発明を説明しているが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、次のように構成してもよい。
【0067】
第1に、前述の実施例においては、硬質板(中間鋼板)の外周縁側が露出したいわゆる中間露出型の積層ゴム支承体について説明しているが、硬質板(中間鋼板)をゴムで被覆したいわゆる被覆型の積層ゴム支承体を用いてもよい。
【0068】
第2に、前述の実施例においては、中心孔にゴム板と同一のゴム材を充填する場合について述べているが、ゴム板と同質のゴム材を充填してもよい。
【0069】
第3に、前述の実施例においては、連結鋼板とフランジとを別体で構成しているが、連結鋼板とフランジは一体に構成してもよい。
【0070】
第4に、硬質板として、前述の実施例においては、鋼板からなる金属板としたが、所要の剛性や耐久性等を有するものであれば、セラミックス、プラスチック等の材料としてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1・・・ゴム板
2・・・硬質板
6・・・中心孔
・・・積層ゴム支承体の二次形状係数
G・・・ゴム板のせん断弾性率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の硬質板とゴム板とを交互に積層一体化してなる積層ゴム支承体において、
前記硬質板および前記ゴム板の中央に設けられる中心孔には前記ゴム板と同一または同質のゴム材が充填されており、
前記積層ゴム支承体の二次形状係数をS、前記ゴム板のせん断弾性率をG〔N/mm〕としたときに、
(a)S≧5
(b)G≧0.5
の条件を満足するように構成されていることを特徴とする積層ゴム支承体。
【請求項2】
前記(b)の条件におけるGが、0.8≧G≧0.5であることを特徴とする請求項1記載の積層ゴム支承体。
【請求項3】
前記硬質板の厚さをT、前記ゴム板の厚さをTとしたときに、
(c)(T/T)>0.5
の条件を満足するように構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の積層ゴム支承体。
【請求項4】
前記(c)の条件における(T/T)が、1.0≧(T/T)>0.5であることを特徴とする請求項3記載の積層ゴム支承体。
【請求項5】
前記硬質板の外周縁側は、前記ゴム板の外周縁側より径方向外方に突出していることを特徴とする請求項1乃至請求項4何れか1項記載の積層ゴム支承体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−2509(P2013−2509A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132690(P2011−132690)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(306013119)昭和電線デバイステクノロジー株式会社 (118)
【Fターム(参考)】