説明

積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト

【課題】 積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ、積層型圧電素子等の積層セラミック電子部品の端子電極を形成するための導体ペースト、特には、ニッケル等の卑金属内部電極を有する積層セラミック電子部品の、端子電極を形成するのに適した銅導体ペーストを提供する。
【解決手段】 少なくとも(A)銅を主成分とし、脂肪族アミンで表面処理された導電性粉末と、(B)ガラス粉末と、(C)有機ビヒクルとを含むことを特徴とする、積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。該ペーストは、これを焼きつけて積層セラミック電子部品の端子電極とするに際し、銅系の導電性粉末の表面処理剤として脂肪族アミンを用いることにより、分散性が良好になるとともに、脱バインダ性が著しく改善され、このため緻密で接着性、導電性の優れた端子電極を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ、積層型圧電素子等の積層セラミック電子部品の端子電極を形成するための導体ペーストに関する。特に、ニッケル等の卑金属内部電極を有する積層セラミック電子部品の、端子電極を形成するのに適した銅導体ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミック電子部品、例えば積層セラミックコンデンサは、一般に次のようにして製造される。チタン酸バリウム系セラミック等の誘電体セラミックグリーンシート上に、内部電極用導体ペーストを所定のパターンで印刷する。このシートを複数枚積み重ね、圧着して、セラミックグリーンシートと内部電極ペースト層とが交互に積層された未焼成の積層体を得る。得られた積層体を所定の形状のチップに切断した後、高温で同時焼成して、積層セラミックコンデンサ素体を得る。次いで、素体の内部電極の露出する端面に、導電性粉末、ガラス粉末、および有機ビヒクルを主成分とする端子電極用導体ペーストを、浸漬法等により塗布し、乾燥した後、高温で焼成することにより端子電極が形成される。この後、端子電極上には、必要に応じてニッケル、スズ等のめっき層が、電気めっき等により形成される。
【0003】
内部電極材料としては、従来、パラジウム、銀−パラジウム、白金等の貴金属が用いられていたが、省資源やコストダウン、またパラジウム、銀−パラジウムの焼成時の酸化膨張に起因するデラミネーション、クラックの発生防止等の要求から、最近ではニッケル、コバルト、銅等の卑金属を用いるのが主流になっている。このため、端子電極材料としても銀や銀−パラジウムに替わり、卑金属内部電極と良好な電気的接続を形成しやすい、銅、ニッケル、コバルト、またはこれらの合金が用いられている。
【0004】
このように内部電極および端子電極に卑金属が使用される場合、端子電極の焼成は、これらの卑金属が焼成中に酸化されないように、通常極力酸素分圧の低い非酸化性雰囲気中、例えば酸素含有量が数ppm〜数十ppmの不活性ガス雰囲気中で、最高温度が700〜900℃の範囲で行われる。
【0005】
しかし、特に銅を主成分とする導体ペーストをこのような酸素の少ない雰囲気で焼成する場合、ビヒクルとして用いられるバインダ樹脂や溶剤等の有機成分が酸化分解しにくいため、これら有機成分の燃焼、分解、飛散(以下「脱バインダ」ということもある。)を適切に行うことが難しい。即ち、焼成初期の比較的低温の段階で、ガラスの流動化と銅粉末の焼結がおこる前に、脱バインダが十分に行われないと、焼結開始後、カーボンやビヒクル分解物等の炭素質の有機物残渣が膜中に閉じ込められてしまう。この閉じ込められたカーボンや炭素質の有機物残渣(以下「残留カーボン」ということもある。)が、その後の高温段階で様々な問題を引き起こし、電子部品の特性を損ない、また信頼性を低下させる。例えば、膜中に残っているカーボンは、高温で銅粉末を焼結させる段階で、ガラスの流動や銅粉末の焼結を阻害するため、電極の緻密性や素体との接着性が損なわれる。また、残留カーボンは、高温下でセラミック誘電体から酸素を奪って、酸素欠損を生じさせ、誘電体特性を劣化させるほか、セラミック素体の強度も低下させる。素体の強度が低下する結果、その後のはんだ付け工程等において、熱衝撃による素体クラック(サーマルクラック)を引起こす。更に、閉じ込められた残留カーボンが高温でガス化すると、ブリスタ(気泡)を生じて焼成膜の緻密性を損う。このため、その後焼成膜にめっき処理を行うと、めっき液が電極膜中に浸入し、絶縁抵抗の低下や素体クラックの発生を招くほか、浸入しためっき液がはんだリフロー時に熱せられてガス化し、溶融したはんだが飛び散る「はんだ爆ぜ現象」を引き起こす。
【0006】
従って、焼成初期の段階でいかに効率よく脱バインダを行い、高温域での銅粉末の焼結が進む前に残留カーボンを低減させるかが、従来、卑金属、特に銅を主成分とする端子電極用導体ペーストの重要な課題であった。
【0007】
この問題を解決するため、従来、バインダ樹脂としてアクリル樹脂等の熱分解性のよい樹脂を用いたり、ガラスとして低温で軟化しにくく、ビヒクルが飛散してから軟化して電極を緻密化させるような特性を有するものを使う等の方法が、試みられている。
【0008】
また、微細な球状銅粉末を用いた端子電極ペーストは、塗布、乾燥したときの膜の充填性が高すぎてしまい、このためビヒクルが飛散しにくく、高温までカーボンが残留しやすいと考えられる。そこで球状銅粉末に代えて、フレーク状銅粉末、またはフレーク状銅粉末と球状銅粉末の混合粉末を用いることも提案されている(特許文献1、2参照。)。フレーク状銅粉末は、ペーストの乾燥膜中に適当なスペースを作るので、これがガスの抜け道となって、構造的に脱バインダをスムーズに行わせることができると考えられている。
【0009】
ところで、導体ペーストに配合される銅粉末には、酸化防止や分散性の改善のため、予め表面処理が行われることが多い。特に前記フレーク状の銅粉末は、一般にペースト中での分散性が極めて悪いため、通常分散剤で表面処理される。従来、このような表面処理剤としては、ステアリン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸やその金属塩が用いられている(特許文献3参照)。
【0010】
一方、球状の金属粉末を粉砕することによってフレーク状の金属粉末を製造する際、滑剤として、前記高級脂肪酸類のほか、脂肪族アミンを用い得る旨を記載した文献がある(特許文献4参照。)。しかしながら、この文献では、高級脂肪酸類も脂肪族アミンも、共に単なる滑剤の一つとしての利用可能性を教唆するにとどまり、両者を同一視しているものであって、これら滑剤は、フレーク状金属粉末を得た後、これを塊状凝集構造とするために、導体ペーストに配合される前に除去される。
【0011】
また、熱硬化型の導体ペースト用の樹枝状銅粉末を特定の脂肪族第一アミンで表面処理することにより、銅粉末の酸化を防止することも知られている(特許文献5参照)。しかしながらこの文献では、脂肪族第一アミンは、高温で焼成を行わない熱硬化型のペーストにおいて、酸化防止効果が得られる材料のひとつであると言う知見が示されているに過ぎず、高温焼成したときの挙動については何ら示唆されていない。
【特許文献1】特開平8−180731号公報
【特許文献2】特開平2002−56717号公報
【特許文献3】特開2002−332502号公報
【特許文献4】特開2003−268402号公報
【特許文献5】特開平7−226110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
近年、積層セラミック電子部品に対する高容量化、高性能化、信頼性の向上の要求はますます厳しくなっている。特に小型大容量の積層セラミックコンデンサにおいては、内部電極の間隔が1〜2μmと狭くなっており、端子電極が緻密でないと容量不良が発生しやすい。このため、脱バインダをよりスムーズに行わせ、かつ最終的には酸化のない、より緻密な焼成膜とすることが求められる。
【0013】
しかし、酸素分圧が数十ppm以下の低酸素雰囲気で脱バインダを行う場合、フレーク状銅粉末を用いて膜をガスが抜け易い構造にしたとしても、低温での脱バインダが不完全になり易い。この傾向は、特に焼成雰囲気中の酸素濃度が数ppm以下の場合、また同時に焼成するチップの数が多い場合、顕著である。さらに、フレーク状金属粉末は、前述のように通常ステアリン酸等の脂肪酸やその金属塩で表面処理されているが、本発明者等の研究によれば、これらの存在はブリスタや素体劣化を助長する。
【0014】
本発明は、積層セラミック電子部品に焼付ける際、低温での脱バインダ性が極めて優れ、ブリスタや素体の劣化を引き起こすことがなく、かつ緻密でめっき液の浸入や内部電極との接合不良のない、高導電性の焼成膜を形成できる、端子電極用銅導体ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記本発明の目的のためになされたものであって、以下に記載する構成よりなる。
【0016】
(1) 少なくとも(A)銅を主成分とし、脂肪族アミンで表面処理された導電性粉末と、(B)ガラス粉末と、(C)有機ビヒクルとを含むことを特徴とする、積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。
【0017】
(2) 前記導電性粉末がフレーク状導電性粉末および/または球状導電性粉末である、前記(1)に記載の積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。
【0018】
(3) 前記フレーク状導電性粉末と球状導電性粉末の重量比率が100:0〜5:95である、前記(2)に記載の積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。
【0019】
(4) 導体ペースト中に存在する前記脂肪族アミンの量が、ペースト中に含まれる導電性粉末の全量に対して0.01〜2.0重量%である、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。
【0020】
(5) 前記脂肪族アミンが、主鎖の炭素数が8〜20のアルキルアミンを主成分とするものである、前記(1)ないし(4)のいずれかに記載の積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。
【0021】
(6) さらに(D)他の導電性粉末を含む、前記(1)ないし(5)のいずれかに記載の積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。
【0022】
(7) 誘電体セラミック層と内部電極層とを交互に積層した積層体の内部電極の露出する端面に、前記(1)ないし(6)のいずれかに記載の導体ペーストを用いて端子電極を形成したことを特徴とするセラミック積層電子部品。
【発明の効果】
【0023】
本発明の端子電極用導体ペーストは、銅系の導電性粉末の表面処理剤として脂肪族アミンを用いることにより、分散性が良好になるとともに、脱バインダ性が著しく改善され、このため緻密で接着性、導電性の優れた端子電極を形成することができる。
【0024】
本発明者等の研究によれば、従来、端子電極用導体ペーストの銅粉末の表面処理剤として従来使用されているステアリン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸やその金属塩は、通常の焼成条件では極めて分解、飛散しにくく、ビヒクル成分が分解を終えた後も700〜800℃の高温まで残ってしまう。これは、これらの高級脂肪酸類は銅と金属石鹸を作ることにより銅粉末表面に強固に付着し、酸素の極めて少ない雰囲気では、低温で分解しにくくなるためと考えられる。従って乾燥膜構造によりガラスの流動化前にビヒクル分解物が膜中に閉じ込められることなく膜外に脱け出れるようにビヒクルの飛散性をいくら向上させても、これが残留カーボンとして膜中に残り、膜が焼結をし始めてから分解をはじめるので、焼結を阻害し、またブリスタや素体劣化の原因となり、またプロセス依存性を大きくする原因となると考えられる。
【0025】
これに対して脂肪族アミンは、分散剤としての効果が優れている上に、銅と強固に結びついた化合物を作ることがなく、非酸化性雰囲気中でも低温で容易に分解されて電極膜から除去される。従って、酸素分圧の低い不活性雰囲気中で焼成する場合にも、残留カーボン等による素体の電気特性の劣化や、機械的強度が劣化することによるサーマルクラックの発生がなく、また高温負荷寿命特性の優れた、信頼性の高い積層セラミック電子部品を製造することができる。またブリスタのない緻密な電極膜が形成されることにより、焼成後のめっき工程でも、めっき液の浸入がなく、絶縁抵抗の低下やクラック、更にははんだ爆ぜ現象を引き起こすことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明において、(A)の銅を主成分とする導電性粉末としては、純銅粉末のほか、銅を主成分とする合金、例えばニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、錫、金、銀、パラジウム、白金等を含む銅合金等も使用される。また、銅粉末や銅合金粉末の表面にニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、錫、金、銀、パラジウム、白金、ロジウム等の抗酸化性金属またはその合金の薄膜をめっき、蒸着等、種々の方法で形成したものや、ガラス質薄膜を形成したものを用いてもよい。このような金属やガラスを被覆することにより、抗酸化性を向上させ、より高い酸素分圧下での焼成を可能にすることができる。以下、これらの粉末を併せて単に「銅粉末」という。
【0027】
銅粉末の形状は、球状、フレーク状、粒状等、特に限定されない。しかし、ペースト乾燥膜をビヒクル分解ガスが膜外に飛散しやすい構造にするためには、フレーク状銅粉末、またはフレーク状銅粉末と球状銅粉末の混合粉末とすることが望ましい。この場合、ペースト中のフレーク状銅粉末と球状銅粉末の比率は、使用材料や焼成条件、要求特性により適宜決定される設計事項であるが、重量で100:0〜5:95の範囲であることが好ましい。フレーク状導電性粉末の比率がこれより少ないと、乾燥膜の充填性が高くなり過ぎ、脱バインダ性が低下する傾向がある。
【0028】
望ましくは、次式で算出されるペーストの乾燥膜密度D(g/cm)が3.0〜4.8g/cmとなるように、導電性粉末を適宜選択、混合して用いる。
D=W/(πT×10
但し、WおよびTは、導体ペーストを膜厚が約250μmとなるようにPETフィルム上に塗布し、150℃で10分間乾燥した後、直径20mmの円形に切出し、PETフィルムを剥がした後の乾燥膜の重量(g)および厚さ(μm)である。
【0029】
フレーク状銅粉末としては、平均粒径1.0〜10.0μmのものを用いるのが好ましい。但し、平均粒径は、フレーク粉末の長径の平均値であり、レーザー式粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布の重量基準の積算分率50%値(D50)である。平均粒径を上記範囲内とすることにより、導体ペーストの乾燥膜を、焼成中ガス化したビヒクル分解物が膜外に抜けやすい構造とすることができ、また良好な塗膜形状とすることができる。平均粒径が1.0μmより小さいと脱バインダが不十分になり、ブリスタが発生しやすくなるほか、耐酸化性が低下する傾向がある。また、平均粒径が10.0μmより大きいと、ペーストの流動性が低下し、良好な形状に塗布することが難しくなるほか、ペースト乾燥時のポーラスな構造がそのまま焼成膜に残ってしまい、電極がポーラスになりやすい。
【0030】
また特に、フレーク状銅粉末の平均粒径(μm)の平均厚み(μm)に対する比を3〜80の範囲、また比表面積が0.3〜2.0m/gとすることにより、極めて優れた脱バインダ効果とともに良好な塗布適性、焼結性を併せ有する端子電極用導体ペーストを得る。平均粒径/平均厚みが3より小さいと、脱バインダ性が十分でなく、また80より大きいとペーストの流動性が低下し、浸漬法により塗布する際に突起が形成される等、良好な形状に塗布することが困難になるほか、電極がポーラスになりやすく、表面が荒れる傾向がある。なお、フレーク粉末の平均厚みは走査型電子顕微鏡(SEM)観察により求められるものである。比表面積は0.3m/gより小さいと焼成により得られた電極膜がポーラスとなり易く、2.0m/gを超えるとペーストの流動性が十分でなく、端子電極の中央部が突起状となりやすい。このようなフレーク状銅粉末は、どのような方法で製造されたものでもよい。例えば球状や粒状の粉末をボールミル等を用いて摩砕する方法や、化学還元法、また銅箔を粉砕する方法等がある。
【0031】
球状銅粉末としては、0.1〜10μm程度の平均粒径を有するものが好ましく使用される。なお平均粒径は、レーザー式粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布の重量基準の積算分率50%値(D50)である。
【0032】
脂肪族アミンとしては、オクチルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、牛脂アミン、牛脂プロピレンジアミン等の1級アミン、ジステアリルアミン等の2級アミン、トリエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルべヘニルアミン、ジメチルラウリルアミン、トリオクチルアミン等の3級アミン等、種々のものが使用できる。これらのアミンを2種以上併用してもよく、通常「脂肪族アミン」として市販されている、数種の脂肪族アミンの混合物を使用することもできる。特に、銅粉末に対する被覆処理のしやすさと、金属との吸着性の点から、主鎖の炭素数が8〜20程度のアルキルアミン、またはこれを主成分とする脂肪族アミンが好ましい。
【0033】
脂肪族アミンは、予め銅粉末の表面に被覆処理し、付着させて用いる。被覆方法には特に限定はないが、例えば、液状のアミン、またはアミンを液状媒体に溶解した溶液に銅粉末を混合し、通常の表面処理剤と同様の方法で、銅粉末表面に被覆処理を行う。また、球状または粒状の銅粉末を摩砕することによりフレーク状銅粉末を製造する場合に、脂肪族アミンを滑剤として使用し、これを粉末表面に付着させたままペーストに配合することもできる。
【0034】
ペースト中の脂肪族アミンの量は、好ましくはペースト中に含まれる導電性粉末の全量に対して、合計で0.01〜2.0重量%である。0.01重量%より少ないと分散剤としての効果が充分でなく、焼成膜の緻密性が低下する傾向がある。また2.0重量%を超えると、焼成時の飛散性が悪くなる傾向がある。
【0035】
ガラス粉末(B)は、端子電極用の銅系ペーストに無機バインダとして用い得るものであれば、特に制限はない。特に、鉛等の還元されやすい成分を含まない耐還元性ガラス、例えばBaO−ZnO−B系、RO−ZnO−B−MnO系、RO−ZnO系、RO−ZnO−MnO系、RO−ZnO−SiO系、ZnO−B系、SiO−B−R’O系、SiO−RO−R’O系(但しRはアルカリ土類金属元素、R’はアルカリ金属元素)等のガラスが好ましく使用される。配合量は、導電性粉末100重量部に対して1〜20重量部程度である。1重量部より少ない場合には、前記素体と端子電極の接着強度が小さくなる。また20重量部より多いと、焼成後の電極表面にガラスが多く分布するようになり、チップ間で融着が生じたり、また端子電極へのめっきが困難となる。
【0036】
ガラス粉末は、各成分の原料化合物を混合、溶融、急冷、粉砕する通常の方法の他、ゾルゲル法、噴霧熱分解法、アトマイズ法等、どのような製法で得られたものでもよい。とりわけ噴霧熱分解法で製造する場合、微細で粒度の揃った球状のガラス粉末を得ることができ、導体ペーストに使用する際粉砕処理を行う必要がないので好ましい。
【0037】
有機ビヒクル(C)も特に限定されず、アクリル系樹脂、セルロ−ス系樹脂等通常使用されるような有機バインダを有機溶剤に溶解または分散させたものを、適宜選択して使用する。必要により可塑剤、粘度調整剤、界面活性剤、酸化剤、金属有機化合物等を添加することができる。ビヒクルの配合比率も限定はなく、無機成分をペースト中に保持し得る適切な量で、塗布方法に応じて適宜調整される。
【0038】
本発明の導体ペーストには、更に、本発明の効果を損わない程度であれば、通常使用される金属酸化物や粘土鉱物、セラミック、酸化剤等種々の無機添加剤や、他の導電性粉末(D)、さらに脂肪族アミン以外の分散剤を配合してもよい。
【0039】
他の導電性粉末(D)としては、前記銅粉末以外の、例えばニッケル、コバルト、鉄、亜鉛、錫等の金属粉末やこれらの合金粉末等、特に限定はない。これらの粉末は、予め脂肪族アミンによる表面処理を行ってもよいが、表面処理しないものでもよい。また導電性粉末(D)は、脂肪族アミンで表面処理されていない銅粉末であってもよく、該銅粉末はガラス質薄膜等を形成したものであってもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
各実施例、比較例において、フレーク状銅粉末としては、平均粒径5μm、平均厚み0.2μmのフレーク状銅粉末(a)、平均粒径3μm、平均厚み0.2μmのフレーク状銅粉末(b)、平均粒径7μm、平均厚み0.2μmのフレーク状銅粉末(c)の3種を使用した。また、ニッケル被覆フレーク状銅粉末としては、平均粒径7μm、平均厚み0.2μmで、かつ平均厚み0.2μmの均一なニッケルめっき被膜を有するフレーク状銅粉末を使用した。
【0042】
これらフレーク状銅粉末の製造および表面処理は、次のようにして行った。
【0043】
ボールミル中に、原料の球状銅粉末と、下記表面処理剤と液状媒体とを投入し、数時間粉砕を行い、球状銅粉末のフレーク化と同時に表面処理を行った。得られたスラリーを濾過、洗浄後、乾燥した。ニッケルめっき被膜を有するフレーク状銅粉末の場合も、ニッケルめっき被膜を有する球状銅粉末を原料に用い、同様に処理して、フレーク化と同時に表面処理を行った。表面処理剤の量はCHN分析により測定した。
【0044】
球状銅粉末、球状ニッケル粉末としては、それぞれ平均粒径1.5μmのものを用いた。これら球状粉末を表面処理する場合は、次のようにして行った。液状媒体中に球状粉末を分散させたスラリーに、下記表面処理剤を添加して攪拌し、濾過、洗浄後、乾燥した。
【0045】
表面処理剤としては、ステアリルアミンを主成分とする脂肪族アミン(花王株式会社製「ファーミン80」、以下「ステアリルアミン」という。)、オクチルアミンを主成分とする脂肪族アミン(同「ファーミン08D」、以下「オクチルアミン」という。)、ラウリルアミンを主成分とする脂肪族アミン(同「ファーミン20D」、以下「ラウリルアミン」という。)、オレイルアミンを主成分とする脂肪族アミン(同「ファーミンO」、以下「オレイルアミン」という。)、ジステアリルアミンを主成分とする脂肪族アミン(同「ファーミンD86」、以下「ジステアリルアミンアミン」という。)、ジメチルステアリルアミンを主成分とする脂肪族アミン(同「ファーミンDM8680」、以下「ジメチルステアリルアミン」という。)、およびステアリン酸を用いた。
【0046】
ガラス粉末としては、平均粒径2μのBaO−ZnO−B系ガラス粉末を、また有機ビヒクルとしては、アクリル樹脂をテルピネオールに溶解した溶液を用いた。
【0047】
実施例1〜16、比較例1〜3
各表面処理剤で表面処理された、または表面処理されない導電性粉末と、ガラス粉末を、表1、表2に示した配合比率(重量部)で混合し、有機ビヒクルと共に三本ロールミルで混練して、導体ペーストを製造した。なお、有機ビヒクルの配合量は、導電性粉末100重量部に対して35重量部である。また表1に示す表面処理剤の量は、ペースト中に含有される表面処理剤の合計量であり、ペースト中に含まれる導電性粉末の全量に対する重量百分率で示した。
【0048】
チタン酸バリウム系セラミック誘電体グリーンシートと、ニッケル内部電極との積層体を、高温で焼結して得られた、平面寸法が2.0mm×1.25mmで厚みが1.2mmのX7R 2.2μF(規格値)の積層セラミックコンデンサ素体を用意し、前記導体ペーストを、コンデンサ素体のニッケル内部電極が露出した両端面に、焼成後の膜厚が60μmとなるように浸漬法により塗布し、熱風式乾燥機中150℃で10分間保持し、乾燥させた。
【0049】
次いで、ベルト式マッフル炉で全域5ppmの酸素を含む窒素雰囲気中、表1に示すピーク温度で、ピーク温度での保持時間が10分間、焼成の開始から終了まで1時間の条件で焼成して端子電極を形成し、積層セラミックコンデンサを得た。
【0050】
各導体ペーストを用いて上記のように端子電極を形成して得た積層セラミックコンデンサのそれぞれの30個の試料についてコンデンサの静電容量を測定し、規格値±10%の範囲外となったものを容量不良品として、その数を調べた。また端子電極膜の表面および断面をSEMで観察し、ブリスタの有無を調べた。
【0051】
また、端子電極膜に電気めっきによりニッケルめっき膜を、更にスズめっき膜を形成し、端子電極の引張り強度、はんだ爆ぜの有無を調べ、また熱衝撃試験を行った。結果を表1、表2に併せて示す。尚、はんだ爆ぜの有無の確認、および熱衝撃試験は、次のようにして行った。
【0052】
はんだ爆ぜ:端子電極にはんだを被覆した試料30個につき、はんだリフロー炉に流し、溶融したはんだが周辺に飛び散る現象が見られたものの個数を調べた。
【0053】
熱衝撃試験:330℃のはんだ浴に7秒間浸漬し、試料30個中、サーマルクラックの発生が認められたものの個数を調べた。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
上記の表の結果から明らかな様に、脂肪族アミンで表面処理された導電性銅粉末を用いた端子電極用導体ペーストを用いた本発明実施例では、ブリスターのない緻密で、接着性に優れた端子電極膜が形成され、サーマルクラック、はんだ爆ぜ等のない規格値を満足する静電容量の積層セラミックコンデンサが得られた。これに対して、ステアリン酸で表面処理された銅粉末を用いた比較例ではブリスター、サーマルクラック、はんだ爆ぜ等の問題が生じ本発明実施例に比較して劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)銅を主成分とし、脂肪族アミンで表面処理された導電性粉末と、(B)ガラス粉末と、(C)有機ビヒクルとを含むことを特徴とする、積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。
【請求項2】
前記導電性粉末がフレーク状導電性粉末および/または球状導電性粉末である、請求項1に記載の積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。
【請求項3】
前記フレーク状導電性粉末と球状導電性粉末の重量比率が100:0〜5:95である、請求項2に記載の積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。
【請求項4】
導体ペースト中に存在する前記脂肪族アミンの量が、ペースト中に含まれる導電性粉末の全量に対して0.01〜2.0重量%である、請求項1ないし3のいずれかに記載の積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。
【請求項5】
前記脂肪族アミンが、主鎖の炭素数が8〜20のアルキルアミンを主成分とするものである、請求項1ないし4のいずれかに記載の積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。
【請求項6】
さらに(D)他の導電性粉末を含む、請求項1ないし5のいずれかに記載の積層セラミック電子部品端子電極用導体ペースト。
【請求項7】
誘電体セラミック層と内部電極層とを交互に積層した積層体の内部電極の露出する端面に、請求項1ないし6のいずれかに記載の導体ペーストを用いて端子電極を形成したことを特徴とするセラミック積層電子部品。

【公開番号】特開2006−4734(P2006−4734A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179372(P2004−179372)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】