説明

積層フィルム及びその使用

【課題】3次元実装された半導体素子間の空間の充填を容易かつ確実に行うことができる積層フィルムを提供する。
【解決手段】積層フィルムは、接続用部材41bを介して電気的に接続された半導体素子間の空間を充填するための積層フィルムであって、基材1上に粘着剤層2が積層されたダイシングシートと、粘着剤層上に積層された硬化性フィルム3とを備え、硬化性フィルムの50〜200℃における最低溶融粘度は、1×10Pa・s以上1×10Pa・s以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置及びそのパッケージの薄型化、小型化がより一層求められている。そのため、半導体装置及びそのパッケージとして、半導体チップ等の半導体素子が基板上にフリップチップボンディングにより実装された(フリップチップ接続された)フリップチップ型の半導体装置が広く利用されている。当該フリップチップ接続は半導体チップの回路面が基板の電極形成面と対向する形態で固定されるものである。フリップチップ接続後には、半導体素子表面の保護や半導体素子と基板との間の接続信頼性を確保するために、半導体素子と基板との間の空間への封止樹脂の充填が行われている。このような封止樹脂としては、液状の封止樹脂が広く用いられているものの、液状の封止樹脂では注入位置や注入量の調節が困難である。そこで、シート状の封止樹脂を用いて半導体素子と基板との間の空間を充填する技術も提案されている(特許文献1)。
【0003】
さらに、半導体素子の高密度集積化を目的として、半導体素子をその厚さ方向に複数段に積層させる3次元実装技術が開発されている。3次元実装に用いられる半導体素子としては、例えば、半導体素子の両面に形成されたバンプ等の接続用部材がビアで電気的に接続されているTSV(Through Silicon Via)形式と呼ばれる半導体素子等が挙げられる。下段(基板側)の半導体素子における接続用部材と上段の半導体素子における接続用部材との位置が対応するように予め接続用部材を形成しておくことにより、3次元実装をより容易かつ確実に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−289969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体素子を3次元実装した場合、半導体素子と基板との間での樹脂封止と同様に、半導体素子間の空間の樹脂封止を行う必要がある。しかしながら、半導体素子間の空間の充填に液状の封止樹脂を用いた場合、半導体素子と基板との間の空間への充填と比較して注入位置や注入量の調節がより困難であり、例えば注入量が過剰になると、半導体素子間の空間からあふれ出して充填空間とは反対側の表面に付着したり、基板に付着したりする。また、3次元実装の場合、シート状の封止樹脂では、半導体素子表面への貼り付けの際に平面方向の位置合わせだけでなく、高さ方向(積層方向)の位置合わせも必要となり、その結果、半導体装置の製造プロセスが煩雑となって効率化を図ることが困難となる。さらに、シート状の封止樹脂では、液状の封止樹脂とは異なり、半導体素子を積層させた後に半導体素子間の空間の充填の度合いを調節することはできないことから、当該空間を十分に充填することができない場合がある。
【0006】
本発明は、3次元実装された半導体素子間の空間の充填を容易かつ確実に行うことができる積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者等は、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより前記目的を達成できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の積層フィルムは、前記の課題を解決するために、接続用部材を介して電気的に接続された半導体素子間の空間を充填するための積層フィルムであって、基材上に粘着剤層が積層されたダイシングシートと、前記粘着剤層上に積層された硬化性フィルムとを備え、前記硬化性フィルムの50〜200℃における最低溶融粘度は、1×10Pa・s以上1×10Pa・s以下である。
【0009】
本発明の積層フィルムでは、硬化性フィルムの50〜200℃における最低溶融粘度を、1×10Pa・s以上1×10Pa・s以下としている。これにより、接続用部材の硬化性フィルムへの進入を容易にすることができる。また、半導体素子の電気的接続の際の硬化性フィルム間でのボイドの発生、及び半導体素子間の空間からの硬化性フィルムのはみ出しを防止することができる。なお、最低溶融粘度の測定は、実施例に記載の手順による。
【0010】
当該積層フィルムにおいて、前記硬化性フィルムは、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂を含む接着剤組成物により構成されていることが好ましい。前記接着剤組成物は、アクリル系共重合体をさらに含むことが好ましい。硬化性フィルムをこのような材料で構成することにより、硬化性フィルムの最低溶融粘度を容易に調整することができる。
【0011】
本発明には、接続用部材を介して電気的に接続された半導体素子間の空間を充填するための前記積層フィルムの使用であって、
半導体ウェハの接続用部材が形成された面と前記積層フィルムの硬化性フィルムとを貼り合わせ、
半導体ウェハをダイシングして半導体素子を形成し、
前記硬化性フィルムと前記半導体との積層体を前記ダイシングシートからピックアップし、
前記接続用部材を介して前記積層体を電気的に接続し、かつ前記硬化性フィルム間を接合して半導体素子間の空間を前記硬化性フィルムで充填し、
前記接続用部材の高さX(μm)と前記硬化フィルムの厚さY(μm)とが、下記の関係を満たす積層フィルムの使用も含まれる。
1.0≦Y/X≦1.7
【0012】
当該積層フィルムの前記使用により、硬化性フィルム間でのボイドや半導体素子間の空間からの硬化性フィルムのはみ出しを生じさせることなく、半導体素子間の空間を良好に充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の一形態に係る積層フィルムを示す断面模式図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係る積層フィルムを示す断面模式図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る半導体装置を示す断面模式図である。
【図4】半導体チップが3次元実装された半導体装置の製造工程を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(積層フィルム)
まず、本実施形態に係る積層フィルムについて、以下に説明する。
【0015】
図1に示すように、積層フィルム10は、基材1上に粘着剤層2が積層されたダイシングシート、及び粘着剤層2上に積層された硬化性フィルム3を備える。また、図2に示すように、半導体ウェハ4の貼り付け部分にのみ硬化性フィルム3’を形成した構成であってもよい。なお、本明細書中、硬化性フィルム3、及び、硬化性フィルム3’は、硬化性フィルムに相当する。
【0016】
(ダイシングシート)
ダイシングシートは、基材1と、この基材上に積層された粘着剤層2とを備える。
【0017】
(基材)
前記基材1は積層フィルム10、11の強度母体となるものである。例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリフェニルスルフィド、アラミド(紙)、ガラス、ガラスクロス、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース系樹脂、シリコーン樹脂、金属(箔)、紙等が挙げられる。なお、粘着剤層2が放射線照射により硬化する場合、基材1は放射線透過性を有するものを採用するのが好ましい。
【0018】
また基材1の材料としては、前記樹脂の架橋体等のポリマーが挙げられる。前記プラスチックフィルムは、無延伸で用いてもよく、必要に応じて一軸又は二軸の延伸処理を施したものを用いてもよい。延伸処理等により熱収縮性を付与した樹脂シートによれば、ダイシング後にその基材1を熱収縮させることにより粘着剤層2と硬化性フィルム3、3’との接着面積を低下させて、半導体チップの回収の容易化を図ることができる。
【0019】
基材1の表面は、隣接する層との密着性、保持性等を高めるため、慣用の表面処理、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的又は物理的処理、下塗剤(例えば、後述する粘着物質)によるコーティング処理を施すことができる。
【0020】
前記基材1は、同種又は異種のものを適宜に選択して使用することができ、必要に応じて数種をブレンドしたものを用いることができる。また、基材1には、帯電防止能を付与するため、前記の基材1上に金属、合金、これらの酸化物等からなる厚さが30〜500Å程度の導電性物質の蒸着層を設けることができる。基材1は単層あるいは2種以上の複層でもよい。
【0021】
基材1の厚さは、特に制限されず適宜に決定できるが、一般的には5〜200μm程度である。
【0022】
(粘着剤層)
粘着剤層の形成に用いる粘着剤としては特に制限されず、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等の一般的な感圧性粘着剤を用いることができる。前記感圧性粘着剤としては、半導体ウェハやガラス等の汚染をきらう電子部品の超純水やアルコール等の有機溶剤による清浄洗浄性等の点から、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤が好ましい。
【0023】
前記アクリル系ポリマーとしては、アクリル酸エステルを主モノマー成分として用いたものが挙げられる。前記アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s−ブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル、トリデシルエステル、テトラデシルエステル、ヘキサデシルエステル、オクタデシルエステル、エイコシルエステル等のアルキル基の炭素数1〜30、特に炭素数4〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキルエステル等)及び(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル(例えば、シクロペンチルエステル、シクロヘキシルエステル等)の1種又は2種以上を単量体成分として用いたアクリル系ポリマー等が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルをいい、本発明の(メタ)とは全て同様の意味である。
【0024】
前記アクリル系ポリマーは、凝集力、耐熱性等の改質を目的として、必要に応じ、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル又はシクロアルキルエステルと共重合可能な他のモノマー成分に対応する単位を含んでいてもよい。この様なモノマー成分として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等のカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー;2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等のリン酸基含有モノマー;アクリルアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。これら共重合可能なモノマー成分は、1種又は2種以上使用できる。これら共重合可能なモノマーの使用量は、全モノマー成分の40重量%以下が好ましい。
【0025】
さらに、前記アクリル系ポリマーは、架橋させるために、多官能性モノマー等も必要に応じて共重合用モノマー成分として含むことができる。この様な多官能性モノマーとして、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの多官能性モノマーも1種又は2種以上用いることができる。多官能性モノマーの使用量は、粘着特性等の点から、全モノマー成分の30重量%以下が好ましい。
【0026】
前記アクリル系ポリマーは、単一モノマー又は2種以上のモノマー混合物を重合に付すことにより得られる。重合は、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等の何れの方式で行うこともできる。清浄な被着体への汚染防止等の点から、低分子量物質の含有量が小さいのが好ましい。この点から、アクリル系ポリマーの数平均分子量は、好ましくは30万以上、さらに好ましくは40万〜300万程度である。
【0027】
また、前記粘着剤には、ベースポリマーであるアクリル系ポリマー等の重量平均分子量を高めるため、外部架橋剤を適宜に採用することもできる。外部架橋方法の具体的手段としては、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、メラミン系架橋剤等のいわゆる架橋剤を添加し反応させる方法が挙げられる。外部架橋剤を使用する場合、その使用量は、架橋すべきベースポリマーとのバランスにより、さらには、粘着剤としての使用用途によって適宜決定される。一般的には、前記ベースポリマー100重量部に対して、5重量部程度以下、さらには0.1〜5重量部配合するのが好ましい。さらに、粘着剤には、必要により、前記成分のほかに、従来公知の各種の粘着付与剤、老化防止剤等の添加剤を用いてもよい。
【0028】
また、粘着剤層2は放射線硬化型粘着剤により形成することができる。放射線硬化型粘着剤層2は、放射線(紫外線、電子線、X線等)の照射により架橋度を増大させてその粘着力を容易に低下させることができ、図2に示す放射線硬化型粘着剤で構成された場合の粘着剤層2の半導体ウェハ貼り付け部分に対応する部分2aのみを放射線照射することにより他の部分2bとの粘着力の差を設けることができる。
【0029】
また、図2に示す硬化性フィルム3’に合わせて粘着剤層2を硬化させることにより、粘着力が著しく低下した前記部分2aを容易に形成できる。硬化し、粘着力の低下した前記部分2aに硬化性フィルム3’が貼付けられるため、粘着剤層2の前記部分2aと硬化性フィルム3’との界面は、ピックアップ時に容易に剥がれる性質を有する。一方、放射線を照射していない部分は十分な粘着力を有しており、前記部分2bを形成する。
【0030】
前述の通り、図1に示す積層フィルム10の粘着剤層2において、未硬化の放射線硬化型粘着剤により形成されている前記部分2bは硬化性フィルム3と粘着し、ダイシングする際の保持力を確保できる。このように粘着剤層は、半導体チップ(半導体チップ等)を基板等の被着体に固着するための硬化性フィルム3を、接着・剥離のバランスよく支持することができる。図2に示す積層フィルム11の粘着剤層2においては、前記部分2bがウェハリングを固定することができる。
【0031】
放射線硬化型粘着剤は、炭素−炭素二重結合等の放射線硬化性の官能基を有し、かつ粘着性を示すものを特に制限なく使用することができる。放射線硬化型粘着剤としては、例えば、前記アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等の一般的な感圧性粘着剤に、放射線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分を配合した添加型の放射線硬化型粘着剤を例示できる。
【0032】
配合する放射線硬化性のモノマー成分としては、例えば、ウレタンオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また放射線硬化性のオリゴマー成分はウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系等種々のオリゴマーがあげられ、その分子量が100〜30000程度の範囲のものが適当である。放射線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分の配合量は、前記粘着剤層の種類に応じて、粘着剤層の粘着力を低下できる量を、適宜に決定することができる。一般的には、粘着剤を構成するアクリル系ポリマー等のベースポリマー100重量部に対して、例えば5〜500重量部、好ましくは40〜150重量部程度である。
【0033】
また、放射線硬化型粘着剤としては、前記説明した添加型の放射線硬化型粘着剤のほかに、ベースポリマーとして、炭素−炭素二重結合をポリマー側鎖又は主鎖中もしくは主鎖末端に有するものを用いた内在型の放射線硬化型粘着剤が挙げられる。内在型の放射線硬化型粘着剤は、低分子成分であるオリゴマー成分等を含有する必要がなく、又は多くは含まないため、経時的にオリゴマー成分等が粘着剤中を移動することなく、安定した層構造の粘着剤層を形成することができるため好ましい。
【0034】
前記炭素−炭素二重結合を有するベースポリマーは、炭素−炭素二重結合を有し、かつ粘着性を有するものを特に制限なく使用できる。この様なベースポリマーとしては、アクリル系ポリマーを基本骨格とするものが好ましい。アクリル系ポリマーの基本骨格としては、前記例示したアクリル系ポリマーが挙げられる。
【0035】
前記アクリル系ポリマーへの炭素−炭素二重結合の導入法は特に制限されず、様々な方法を採用できるが、炭素−炭素二重結合はポリマー側鎖に導入するのが分子設計が容易である。例えば、予め、アクリル系ポリマーに官能基を有するモノマーを共重合した後、この官能基と反応しうる官能基及び炭素−炭素二重結合を有する化合物を、炭素−炭素二重結合の放射線硬化性を維持したまま縮合又は付加反応させる方法が挙げられる。
【0036】
これら官能基の組合せの例としては、カルボン酸基とエポキシ基、カルボン酸基とアジリジル基、ヒドロキシル基とイソシアネート基等が挙げられる。これら官能基の組合せのなかでも反応追跡の容易さから、ヒドロキシル基とイソシアネート基との組合せが好適である。また、これら官能基の組み合わせにより、前記炭素−炭素二重結合を有するアクリル系ポリマーを生成するような組合せであれば、官能基はアクリル系ポリマーと前記化合物のいずれの側にあってもよいが、前記の好ましい組み合わせでは、アクリル系ポリマーがヒドロキシル基を有し、前記化合物がイソシアネート基を有する場合が好適である。この場合、炭素−炭素二重結合を有するイソシアネート化合物としては、例えば、メタクリロイルイソシアネート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。また、アクリル系ポリマーとしては、前記例示のヒドロキシ基含有モノマーや2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングルコールモノビニルエーテルのエーテル系化合物等を共重合したものが用いられる。
【0037】
前記内在型の放射線硬化型粘着剤は、前記炭素−炭素二重結合を有するベースポリマー(特にアクリル系ポリマー)を単独で使用することができるが、特性を悪化させない程度に前記放射線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分を配合することもできる。放射線硬化性のオリゴマー成分等は、通常ベースポリマー100重量部に対して30重量部以下の範囲内であり、好ましくは0〜10重量部の範囲である。
【0038】
前記放射線硬化型粘着剤には、紫外線等により硬化させる場合には光重合開始剤を含有させることが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、α−ヒドロキシ−α,α’−ジメチルアセトフェノン、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のα−ケトール系化合物;メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフエノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−1等のアセトフェノン系化合物;ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アニソインメチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物;ベンジルジメチルケタール等のケタール系化合物;2−ナフタレンスルホニルクロリド等の芳香族スルホニルクロリド系化合物;1−フェノン−1,1―プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム等の光活性オキシム系化合物;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;チオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4−ジクロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等のチオキサンソン系化合物;カンファーキノン;ハロゲン化ケトン;アシルホスフィノキシド;アシルホスフォナート等が挙げられる。光重合開始剤の配合量は、粘着剤を構成するアクリル系ポリマー等のベースポリマー100重量部に対して、例えば0.05〜20重量部程度である。
【0039】
また放射線硬化型粘着剤としては、例えば、特開昭60−196956号公報に開示されている、不飽和結合を2個以上有する付加重合性化合物、エポキシ基を有するアルコキシシラン等の光重合性化合物と、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過酸化物、アミン、オニウム塩系化合物等の光重合開始剤とを含有するゴム系粘着剤やアクリル系粘着剤等が挙げられる。
【0040】
前記粘着剤層2中には、必要に応じて、放射線照射により着色する化合物を含有させることもできる。放射線照射により、着色する化合物を粘着剤層2に含ませることによって、放射線照射された部分のみを着色することができる。すなわち、図1に示す半導体ウェハ貼り付け部分3aに対応する部分2aを着色することができる。従って、粘着剤層2に放射線が照射されたか否かが目視により直ちに判明することができ、半導体ウェハ貼り付け部分3aを認識し易く、半導体ウェハの貼り合せが容易である。また光センサー等によって半導体素子を検出する際に、その検出精度が高まり、半導体素子のピックアップ時に誤動作が生ずることがない。
【0041】
放射線照射により着色する化合物は、放射線照射前には無色又は淡色であるが、放射線照射により有色となる化合物である。かかる化合物の好ましい具体例としてはロイコ染料が挙げられる。ロイコ染料としては、慣用のトリフェニルメタン系、フルオラン系、フェノチアジン系、オーラミン系、スピロピラン系のものが好ましく用いられる。具体的には3−[N−(p−トリルアミノ)]−7−アニリノフルオラン、3−[N−(p−トリル)−N−メチルアミノ]−7−アニリノフルオラン、3−[N−(p−トリル)−N−エチルアミノ]−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、クリスタルバイオレットラクトン、4,4’,4”−トリスジメチルアミノトリフエニルメタノール、4,4’,4”−トリスジメチルアミノトリフェニルメタン等が挙げられる。
【0042】
これらロイコ染料とともに好ましく用いられる顕色剤としては、従来から用いられているフェノールホルマリン樹脂の初期重合体、芳香族カルボン酸誘導体、活性白土等の電子受容体があげられ、さらに、色調を変化させる場合は種々の発色剤を組合せて用いることもできる。
【0043】
この様な放射線照射によって着色する化合物は、一旦有機溶媒等に溶解された後に放射線硬化型接着剤中に含ませてもよく、また微粉末状にして当該粘着剤中に含ませてもよい。この化合物の使用割合は、粘着剤層2中に10重量%以下、好ましくは0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%であるのが望ましい。該化合物の割合が10重量%を超えると、粘着剤層2に照射される放射線がこの化合物に吸収されすぎてしまうため、粘着剤層2の前記部分2aの硬化が不十分となり、十分に粘着力が低下しないことがある。一方、充分に着色させるには、該化合物の割合を0.01重量%以上とするのが好ましい。
【0044】
粘着剤層2では、粘着剤層2における前記部分2aの粘着力<その他の部分2bの粘着力、となるように粘着剤層2の一部を放射線照射してもよい。
【0045】
前記粘着剤層2に前記部分2aを形成する方法としては、基材1に粘着剤層2を形成した後、前記部分2aに部分的に放射線を照射し硬化させる方法が挙げられる。部分的な放射線照射は、半導体ウェハ貼り付け部分3a以外の部分3b等に対応するパターンを形成したフォトマスクを介して行うことができる。また、スポット的に紫外線を照射し硬化させる方法等が挙げられる。粘着剤層2の形成は、セパレータ上に設けたものを基材1上に転写することにより行うことができる。部分的な放射線硬化はセパレータ上に設けた粘着剤層2に行うこともできる。
【0046】
また、基材1の少なくとも片面の、半導体ウェハ貼り付け部分3aに対応する部分以外の部分の全部又は一部が遮光されたものを用い、これに粘着剤層2を形成した後に放射線照射して、半導体ウェハ貼り付け部分3aに対応する部分を硬化させ、粘着力を低下させた前記部分2aを形成することができる。遮光材料としては、支持フィルム上でフォトマスクになりえるものを印刷や蒸着等で作成することができる。かかる製造方法によれば、効率よく本発明の積層フィルム10を製造可能である。
【0047】
なお、放射線照射の際に、酸素による硬化阻害が起こる場合は、粘着剤層2の表面よりなんらかの方法で酸素(空気)を遮断するのが望ましい。例えば、前記粘着剤層2の表面をセパレータで被覆する方法や、窒素ガス雰囲気中で紫外線等の放射線の照射を行う方法等が挙げられる。
【0048】
粘着剤層2の厚さは、特に限定されないが、チップ切断面の欠け防止や硬化性フィルムの固定保持の両立性等の観点から10〜100μm程度であるのが好ましい。好ましくは15〜80μm、さらには好ましくは20〜50μmである。
【0049】
(硬化性フィルム)
本発明における硬化性フィルム3、3’は、フリップチップ接続により形成された半導体素子間の空間を充填する封止用フィルムとして用いることができる。前記硬化性フィルムの構成材料としては、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とを併用したものが挙げられる。又、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂単独でも使用可能である。
【0050】
前記熱可塑性樹脂としては、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、又はフッ素樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。これらの熱可塑性樹脂のうち、イオン性不純物が少なく耐熱性が高く、半導体素子の信頼性を確保できるアクリル樹脂が特に好ましい。
【0051】
前記アクリル樹脂としては、特に限定されるものではなく、炭素数30以下、特に炭素数4〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基を有するアクリル酸又はメタクリル酸のエステルの1種又は2種以上を成分とする重合体等が挙げられる。前記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、へキシル基、へプチル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基、又はドデシル基等が挙げられる。
【0052】
また、前記重合体を形成する他のモノマーとしては、特に限定されるものではなく、例えばアクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸若しくはクロトン酸等の様なカルボキシル基含有モノマー、無水マレイン酸若しくは無水イタコン酸等の様な酸無水物モノマー、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル若しくは(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレート等の様なヒドロキシル基含有モノマー、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート若しくは(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等の様なスルホン酸基含有モノマー、又は2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等の様な燐酸基含有モノマーが挙げられる。
【0053】
前記熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、又は熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。特に、半導体素子を腐食させるイオン性不純物等の含有が少ないエポキシ樹脂が好ましい。また、エポキシ樹脂の硬化剤としてはフェノール樹脂が好ましい。
【0054】
前記エポキシ樹脂は、接着剤組成物として一般に用いられるものであれば特に限定は無く、例えばビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオンレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型等の二官能エポキシ樹脂や多官能エポキシ樹脂、又はヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型若しくはグリシジルアミン型等のエポキシ樹脂が用いられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。これらのエポキシ樹脂のうちノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型樹脂又はテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂が特に好ましい。これらのエポキシ樹脂は、硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み、耐熱性等に優れるからである。
【0055】
さらに、前記フェノール樹脂は、前記エポキシ樹脂の硬化剤として作用するものであり、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。これらのフェノール樹脂のうちフェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂が特に好ましい。半導体装置の接続信頼性を向上させることができるからである。
【0056】
前記エポキシ樹脂とフェノール樹脂の配合割合は、例えば、前記エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たりフェノール樹脂中の水酸基が0.5〜2.0当量になるように配合することが好適である。より好適なのは、0.8〜1.2当量である。すなわち、両者の配合割合が前記範囲を外れると、十分な硬化反応が進まず、エポキシ樹脂硬化物の特性が劣化し易くなるからである。
【0057】
なお、本発明においては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及びアクリル樹脂を用いた硬化性フィルムが特に好ましい。これらの樹脂は、イオン性不純物が少なく耐熱性が高いので、半導体素子の信頼性を確保できる。この場合の配合比は、アクリル樹脂成分100重量部に対して、エポキシ樹脂とフェノール樹脂の混合量が10〜200重量部である。
【0058】
エポキシ樹脂とフェノール樹脂の熱硬化促進触媒としては、特に制限されず、公知の熱硬化促進触媒の中から適宜選択して用いることができる。熱硬化促進触媒は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。熱硬化促進触媒としては、例えば、アミン系硬化促進剤、リン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、ホウ素系硬化促進剤、リン−ホウ素系硬化促進剤などを用いることができる。
【0059】
本発明では、硬化性フィルム3、3’には、必要に応じて着色しても良い。硬化性フィルム3、3’において、着色により呈している色としては特に制限されないが、例えば、黒色、青色、赤色、緑色などが好ましい。着色に際しては、顔料、染料などの公知の着色剤の中から適宜選択して用いることができる。
【0060】
本発明の硬化性フィルム3、3’を予めある程度架橋をさせておく場合には、作製に際し、重合体の分子鎖末端の官能基等と反応する多官能性化合物を架橋剤として添加させておくのがよい。これにより、高温下での接着特性を向上させ、耐熱性の改善を図ることができる。
【0061】
前記架橋剤としては、特に、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、多価アルコールとジイソシアネートの付加物等のポリイソシアネート化合物がより好ましい。架橋剤の添加量としては、前記の重合体100重量部に対し、通常0.05〜7重量部とするのが好ましい。架橋剤の量が7重量部より多いと、接着力が低下するので好ましくない。その一方、0.05重量部より少ないと、凝集力が不足するので好ましくない。また、この様なポリイソシアネート化合物と共に、必要に応じて、エポキシ樹脂等の他の多官能性化合物を一緒に含ませるようにしてもよい。
【0062】
また、硬化性フィルム3、3’には、無機充填剤を適宜配合することができる。無機充填剤の配合は、導電性の付与や熱伝導性の向上、貯蔵弾性率の調節等を可能にする。
【0063】
前記無機充填剤としては、例えば、シリカ、クレー、石膏、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミナ、酸化ベリリウム、炭化珪素、窒化珪素等のセラミック類、アルミニウム、銅、銀、金、ニッケル、クロム、鉛、錫、亜鉛、パラジウム、半田等の金属、又は合金類、その他カーボン等からなる種々の無機粉末が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。なかでも、シリカ、特に溶融シリカが好適に用いられる。
【0064】
無機充填剤の平均粒径は、0.1〜5μmの範囲内であることが好ましく、0.2〜3μmの範囲内であることがより好ましい。無機充填剤の平均粒径が0.1μm未満であると、前記硬化性フィルムのRaを0.15μm以上にすることが困難になる。その一方、前記平均粒径が5μmを超えると、Raを1μm未満にすることが困難になる。なお、本発明においては、平均粒径が相互に異なる無機充填剤同士を組み合わせて使用してもよい。また、平均粒径は、光度式の粒度分布計(HORIBA製、装置名;LA−910)により求めた値である。
【0065】
前記無機充填剤の配合量は、有機樹脂成分100重量部に対し20〜80重量部に設定することが好ましい。特に好ましくは20〜70重量部である。無機充填剤の配合量が20重量部未満であると、耐熱性が低下するため、長時間高温の熱履歴にさらされると硬化性フィルム3、3’が硬化し、流動性や埋め込み性が低下する場合がある。また、80重量部を超えると、硬化性フィルム3、3’の貯蔵弾性率が大きくなる。このため、硬化した接着剤が応力緩和しづらくなり、貼り合わせ工程においてバンプの埋め込み性が低下する場合がある。
【0066】
なお、硬化性フィルム3、3’には、前記無機充填剤以外に、必要に応じて他の添加剤を適宜に配合することができる。他の添加剤としては、例えば難燃剤、シランカップリング剤又はイオントラップ剤等が挙げられる。前記難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。前記シランカップリング剤としては、例えば、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。前記イオントラップ剤としては、例えばハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0067】
前記硬化性フィルムの50〜200℃における最低溶融粘度は、1×10Pa・s以上1×10Pa・s以下である。硬化性フィルムが具体的にこのような最低溶融粘度を有することで、接続用部材の硬化性フィルムへの進入を容易にすることができる、また、半導体素子の電気的接続時の硬化性フィルム間でのボイドの発生、及び半導体素子間の空間からの硬化性フィルムのはみ出しを防止することができる。
【0068】
硬化性フィルム3、3’の厚さ(複層の場合は、総厚)は特に限定されないものの、硬化性フィルムの強度や半導体素子間の空間の充填性を考慮すると5μm以上250μm以下が好ましい。なお、硬化性フィルム3、3’の厚さは、接続用部材の高さを考慮して適宜設定すればよい。
【0069】
前記積層フィルム10、11の硬化性フィルム3、3’は、セパレータにより保護されていることが好ましい(図示せず)。セパレータは、実用に供するまで硬化性フィルム3、3’を保護する保護材としての機能を有している。また、セパレータは、さらに、粘着剤層2に硬化性フィルム3、3’を転写する際の基材1として用いることができる。セパレータは積層フィルムの硬化性フィルム3、3’上に半導体ウェハを貼着する際に剥がされる。セパレータとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレンや、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙等も使用可能である。
【0070】
(積層フィルムの製造方法)
本実施の形態に係る積層フィルムの製造方法は、基材1上に粘着剤層2を形成する工程と、粘着剤層2上に硬化性フィルム3を形成する工程とを有する。
【0071】
前記基材1の製膜方法としては、例えばカレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、共押出し法、ドライラミネート法等が例示できる。
【0072】
次に、粘着剤層2は、基材1上に粘着剤組成物溶液を塗工した後、所定条件下で乾燥させる(必要に応じて加熱架橋させる)ことにより形成することができる。塗工方法としては特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等が挙げられる。塗工の際の塗工厚みとしては、塗布層を乾燥して最終的に得られる粘着剤層2の厚さが10〜100μmの範囲内となる様に適宜設定すればよい。さらに、粘着材組成物溶液の粘度としては特に限定されず、25℃において100〜5000mPa・sが好ましく、200〜3000mPa・sがより好ましい。
【0073】
前記塗布層の乾燥方法としては特に限定されず、例えば、表面が平滑な粘着剤層を形成する場合には、乾燥風を用いずに乾燥させることが好ましい。乾燥時間は粘着材組成物溶液の塗工量に応じて適宜設定され、通常は0.5〜5min、好ましくは2〜4minの範囲内である。乾燥温度は特に限定されず、通常は80〜150℃であり、好ましくは80〜130℃である。
【0074】
なお、粘着剤層2の形成は、セパレータ上に粘着剤組成物を塗工してその塗布膜を形成した後、前記乾燥条件で塗布膜を乾燥させて粘着剤層2を形成してもよい。その後、基材上に粘着剤層2を転写する。
【0075】
前記硬化性フィルム3を形成する工程としては、例えば、離型フィルム上に硬化性フィルムの構成材料である接着剤組成物溶液を塗工して塗布層を形成する工程を行い、その後、前記塗布層を乾燥させる工程を行う方法が挙げられる。
【0076】
前記接着剤組成物溶液の塗工方法としては特に限定されず、例えば、コンマコート法、ファウンテン法、グラビア法などを用いて塗工する方法が挙げられる。塗工厚みとしては、塗布層を乾燥して最終的に得られる硬化性フィルムの厚さが5〜250μmの範囲内となる様に適宜設定すればよい。さらに、接着剤組成物溶液の粘度としては特に限定されず、25℃において400〜2500mPa・sが好ましく、800〜2000mPa・sがより好ましい。
【0077】
前記離型フィルムとしては特に限定されず、例えば、離型フィルムの基材における硬化性フィルムとの貼り合わせ面に、シリコーン層等の離型コート層が形成されたものが挙げられる。また、離型フィルムの基材としては、例えば、グラシン紙のような紙材や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等よりなる樹脂フィルムが挙げられる。
【0078】
前記塗布層の乾燥は、塗布層に乾燥風を吹き付けることにより行う。当該乾燥風の吹き付けは、例えば、その吹き付け方向を離型フィルムの搬送方向と平行となる様に行う方法や、塗布層の表面に垂直となる様に行う方法が挙げられる。乾燥風の風量は特に限定されず、通常は5〜20m/min、好ましくは5〜15m/minである。乾燥風の風量が5m/min以上にすることにより、塗布層の乾燥が不十分になるのを防止することができる。その一方、乾燥風の風量を20m/min以下にすることにより、塗布層の表面近傍における有機溶剤の濃度を均一にするので、その蒸発を均一にすることができる。その結果、表面状態が面内において均一な硬化性フィルムの形成が可能になる。
【0079】
乾燥時間は接着剤組成物溶液の塗工厚みに応じて適宜設定され、通常は1〜5min、好ましくは2〜4minの範囲内である。乾燥時間が1min未満であると、硬化反応が十分に進行せず、未反応の硬化成分や残存する溶媒量が多く、これにより、後工程にてアウトガスやボイドの問題が発生する場合がある。その一方、5minを超えると、硬化反応が進行しすぎる結果、流動性や半導体ウェハのバンプの埋まり込み性が低下する場合がある。
【0080】
乾燥温度は特に限定されず、通常は70〜160℃の範囲内で設定される。但し、本発明においては、乾燥時間の経過と共に、乾燥温度を段階的に上昇させて行うことが好ましい。具体的には、例えば乾燥初期(乾燥直後から1min以下)では70℃〜100℃の範囲内で設定され、乾燥後期(1minを超えて5min以下)では100〜160℃の範囲内で設定される。これにより、塗工直後に乾燥温度を急激に上昇させた場合に生じる塗布層表面のピンホールの発生を防止することができる。
【0081】
続いて、粘着剤層2上に硬化性フィルム3の転写を行う。当該転写は圧着により行われる。貼り合わせ温度は30〜50℃であり、好ましくは35〜45℃である。また、貼り合わせ圧力は0.1〜0.6MPaであり、好ましくは0.2〜0.5MPaである。
【0082】
前記離型フィルムは、粘着剤層2上に硬化性フィルム3を貼り合わせ後に剥離してもよく、あるいは、そのまま積層フィルムの保護フィルムとして使用し、半導体ウェハ等との貼り合わせの際に剥離してもよい。これにより、本実施の形態に係る積層フィルムを製造することができる。
【0083】
(半導体装置)
次に、当該積層フィルムを用いて得られる半導体装置について図面を参照しつつ説明する。図3は、本発明の実施の一形態に係る半導体装置示す断面模式図である。本実施形態に係る半導体装置20では、一方の面にバンプ(接続用部材)41aを有し、かつ他方の面にバンプ41bを有する半導体素子5Aと、この半導体素子5Aと同様の構成を有する半導体素子5Bとが互いにバンプ41a、41a’を介して電気的に接続されている。半導体素子5Aは、バンプ41bを介して基板(被着体)30と電気的に接続している。従って、半導体装置20では、被着体としての基板30上に、2つの半導体素子5A、5Bがバンプを介して電気的に順次接続されていることになる。また、半導体素子5Aと半導体素子5Bとの間には、その空間を充填するように硬化性フィルム3が配置されている。なお、硬化性フィルム3は、後述の半導体装置の製造方法の説明からも分かるように、半導体素子5Aのバンプ41aが形成された面に貼り合わされた硬化性フィルムと、半導体素子5Bのバンプ41a’が形成された面に貼り合わされた硬化性フィルムとが互いに接合又は接着して形成される部材である。また、図示はしていないが、基板30と半導体素子5Aとの間の空間も硬化性フィルムや他の封止樹脂等で充填されていてもよい。
【0084】
半導体装置20における硬化性フィルム3は、硬化していても硬化していなくてもよいが、50〜200℃における最低溶融粘度として、1×10Pa・s以上1×10Pa・s以下である硬化性フィルムを用いる。このような最低溶融粘度を有する硬化性フィルムを用いることで、バンプ等の接続用部材の硬化性フィルムへの進入を容易にして製造効率を向上させることができると共に、半導体素子の電気的接続の際の硬化性フィルム間でのボイドの発生、及び半導体素子間の空間からの硬化性フィルムのはみ出しを効率的に防止することができる。なお、各部材の詳細は以下の半導体装置の製造方法の欄で説明する。
【0085】
(半導体装置の製造方法)
次に、本発明の積層フィルムを用いる半導体装置の製造方法について、以下に説明する。前記半導体装置の製造方法により、前記積層フィルムを用いてフリップチップ3次元実装の半導体装置を効率良く製造することができる。図4は、半導体チップが3次元実装された半導体装置の製造工程を示す断面模式図である。
【0086】
前記半導体装置の製造方法としては、両面に複数の接続用部材が形成された半導体ウェハを準備する工程と、基材上に粘着剤層が積層されたダイシングシートと、前記粘着剤層上に積層され、かつ前記半導体ウェハの第1の面における前記接続用部材の高さに相当する厚さより大きい厚さを有する硬化性フィルムとを備える積層フィルムを準備する工程と、前記積層フィルムの硬化性フィルムと前記半導体ウェハの第1の面とを対向させ、前記硬化性フィルムを前記半導体ウェハに、前記接続用部材が前記硬化性フィルムから前記粘着剤層へ露出しないように貼り合わせる工程と、前記半導体ウェハをダイシングして半導体素子を形成する工程とを具備する製造方法を好適に採用することができる。
【0087】
さらに前記製造方法は、前記粘着剤層を放射線照射により硬化させ、前記半導体素子と前記硬化性フィルムとの積層体Aを剥離する工程と、前記積層体Aの半導体素子を被着体上にフリップチップ接続する工程と、前記積層体Aと、この積層体Aとは異なる積層体Bとを第1の面同士が対向するように電気的に接続する工程とをさらに具備することができる。
【0088】
[半導体ウェハ準備工程]
半導体ウェハ4としては、両面4a、4bに複数の接続用部材41a、41bが形成されていてもよく(図4(a)参照)、半導体ウェハ4の第1の面4a又は第2の面4bのいずれかにのみ接続用部材が形成されていてもよい(図示せず)。バンプや導電材等の接続用部材の材質としては、特に限定されず、例えば、錫−鉛系金属材、錫−銀系金属材、錫−銀−銅系金属材、錫−亜鉛系金属材、錫−亜鉛−ビスマス系金属材等の半田類(合金)や、金系金属材、銅系金属材などが挙げられる。接続用部材の高さも用途に応じて定められ、一般的には5〜100μm程度である。もちろん、半導体ウェハ4の第1の面4a及び第2の面4bにおいて個々の接続用部材の高さは同一でも異なっていてもよい。
【0089】
半導体ウェハの両面の接続用部材同士は電気的に接続されていてもよく、接続されていなくてもよい。接続用部材同士の電気的接続には、TSV形式と呼ばれるビアを介しての接続等が挙げられる。
【0090】
[積層フィルム準備工程]
前記半導体装置の製造方法に用いられる積層フィルムとしては、図1及び図2に示した前記積層フィルムを好適に用いることができる。積層フィルム10、11は、硬化性フィルム3、3’上に任意に設けられたセパレータを適宜に剥離して用いる。
【0091】
本実施形態に係る半導体装置の製造方法において前記積層フィルムを使用する場合、硬化性フィルムの厚さとしては、半導体ウェハ表面に形成された接続用部材の高さX(μm)と前記硬化フィルムの厚さY(μm)とが、下記の関係を満たすことが好ましい。
1.0≦Y/X≦1.7
【0092】
前記接続用部材の高さX(μm)と前記硬化フィルムの厚さY(μm)とが上記関係を満たすことにより、半導体素子間の空間を十分に充填することができると共に、当該空間からの硬化性フィルムの過剰のはみ出しを防止することができ、硬化性フィルムによる半導体素子の汚染等を防止することができる。なお、第1の面において、各接続用部材の高さが異なる場合は、最も高い接続用部材の高さを基準とする。
【0093】
[マウント工程]
図4(a)に示すように、先ず、積層フィルムの硬化性フィルム3上に任意に設けられたセパレータを適宜に剥離し、前記積層フィルムの硬化性フィルム3と前記半導体ウェハ4の第1の面4aとを対向させ、前記硬化性フィルム3を前記半導体ウェハ4に、前記接続用部材41aが前記硬化性フィルム3から前記粘着剤層2へ露出しないように貼り合わせる(マウント工程)。前記硬化性フィルム3は、半導体ウェハ4の第1の面4aにおける前記接続用部材41aの高さに相当する厚さより大きい厚さを有するので、前記接続用部材41aが前記硬化性フィルム3から前記粘着剤層2へ露出することを複雑な手順を踏むことなく防止することができる。このように、半導体ウェハの接続用部材が硬化性フィルム内にとどまっているので、その後のダイシングを経た積層体の接続の際にも半導体素子間の空間を十分に充填することができる。このとき前記硬化性フィルムは未硬化状態又は半硬化状態(硬化性フィルムにおける硬化反応が一定程度進行しているものの完全には進行していない状態)にある。
【0094】
貼着方法は特に限定されないが、圧着による方法が好ましい。圧着は、通常、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行われる。
【0095】
[ダイシング工程」
次に、図4(b)に示すように半導体ウェハのダイシングを行う。これにより、半導体ウェハ4を所定のサイズに切断して個片化(小片化)し、半導体チップ(半導体素子)5を製造する。ダイシングは、半導体ウェハ4の第2の面4b、すなわち硬化性フィルム3を貼り合わせた面と反対側の面から常法に従い行われる。半導体素子5には第2の面4bにも接続用部材41bが形成されているので、接続用部材41bをいわば目印としてダイシングの切断箇所の位置合わせを容易に行うことができる。また、切断箇所の位置合わせを赤外線(IR)を用いた画像認識により行ってもよい。
【0096】
本工程では、例えば、積層フィルムまで切込みを行うフルカットと呼ばれる切断方式等を採用できる。本工程で用いるダイシング装置としては特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。また、半導体ウェハは、硬化性フィルムを有する積層フィルムにより優れた密着性で接着固定されているので、チップ欠けやチップ飛びを抑制できると共に、半導体ウェハの破損も抑制できる。なお、硬化性フィルムがエポキシ樹脂を含む樹脂組成物により形成されていると、ダイシングにより切断されても、その切断面において硬化性フィルムの硬化性フィルムの糊はみ出しが生じるのを抑制又は防止することができる。その結果、切断面同士が再付着(ブロッキング)することを抑制又は防止することができ、後述のピックアップを一層良好に行うことができる。
【0097】
なお、ダイシング工程に続いて積層フィルムのエキスパンドを行う場合、該エキスパンドは従来公知のエキスパンド装置を用いて行うことができる。エキスパンド装置は、ダイシングリングを介して積層フィルムを下方へ押し下げることが可能なドーナッツ状の外リングと、外リングよりも径が小さく積層フィルムを支持する内リングとを有している。このエキスパンド工程により、後述のピックアップ工程において、隣り合う半導体チップ同士が接触して破損するのを防ぐことが出来る。
【0098】
[ピックアップ工程]
積層フィルムに接着固定された半導体チップ5を回収するために、図4(c)に示すように、前記粘着剤層2を放射線照射により硬化させ、半導体チップ5のピックアップを行って、半導体チップ5と硬化性フィルム3との積層体Aをダイシングテープより剥離する(ピックアップ工程)。
【0099】
ピックアップの方法としては特に限定されず、従来公知の種々の方法を採用できる。例えば、個々の半導体チップを積層フィルムの基材側からニードルによって突き上げ、突き上げられた半導体チップをピックアップ装置によってピックアップする方法等が挙げられる。なお、ピックアップされた半導体チップ5は、第1の面4aに貼り合わされた硬化性フィルム3と一体となって積層体Aを構成している。
【0100】
粘着剤層2が放射線硬化型粘着剤により形成されている場合、前記粘着剤層2を放射線照射により硬化させてからピックアップを行うことが好ましい。放射線照射の条件としては粘着剤層2が硬化する限り特に限定されず、例えば紫外線を照射する場合、積算照射量は10〜1000mJ/cm程度であればよい。
【0101】
[フリップチップ接続工程]
ピックアップした半導体チップ(半導体素子)5は、基板等の被着体30に、フリップチップボンディング方式(フリップチップ実装方式)により固定させる(図4(d)参照)。具体的には、積層体Aの半導体チップ5を、半導体チップ5の第2の面4bが被着体30と対向する形態で、被着体30に常法に従い固定させる。例えば、半導体チップ5の第2の面側4bに形成されているバンプ41bを、被着体30の接続パッドに被着された接合用の導電材(半田など)に接触させて押圧しながら導電材を溶融させることにより、半導体チップ5と被着体30との電気的導通を確保し、半導体チップ5を被着体30に固定させることができる(フリップチップボンディング工程)。なお、半導体チップを被着体上にフリップチップボンディング(フリップチップ接続)した後は、半導体チップと被着体との対向面や間隙を洗浄し、該間隙に封止材(封止樹脂など)を充填させて封止することができる。
【0102】
前記被着体30としては、リードフレームや回路基板(配線回路基板など)等の各種基板を用いることができる。このような基板の材質としては、特に限定されるものではないが、セラミック基板や、プラスチック基板が挙げられる。プラスチック基板としては、例えば、エポキシ基板、ビスマレイミドトリアジン基板、ポリイミド基板、ガラスエポキシ基板等が挙げられる。
【0103】
なお、フリップチップボンディング工程では、導電材を溶融させて、半導体チップ5の第2の面側4bのバンプ41bと、被着体30の表面の導電材とを接続させているが、この導電材の溶融時の温度としては、通常、260℃程度(例えば、250℃〜300℃)となっている。本発明の積層フィルムは、硬化性フィルムをエポキシ樹脂等により形成することにより、このフリップチップボンディング工程における高温にも耐えられる耐熱性を有するものとすることができる。
【0104】
本工程では、半導体チップ5と被着体30との対向面(電極形成面)や間隙の洗浄を行うのが好ましい。当該洗浄に用いられる洗浄液としては、特に制限されず、例えば、有機系の洗浄液や、水系の洗浄液が挙げられる。本発明の積層フィルムにおける硬化性フィルムは、洗浄液に対する耐溶剤性を有しており、これらの洗浄液に対して実質的に溶解性を有していない。そのため、前述のように、洗浄液としては、各種洗浄液を用いることができ、特別な洗浄液を必要とせず、従来の方法により洗浄させることができる。
【0105】
[3次元実装工程]
次いで、図4(e)示すように、積層体A及びこの積層体Aとは異なる積層体Bのそれぞれの第1の面同士が対向するように、被着体30に固定した積層体Aと、積層体Bとを電気的に接続する(3次元実装工程)。積層体Bとしては、前記ピックアップ工程で剥離した積層体のうち、積層体Aとは異なる積層体であってもよく、別途、半導体ウェハの種類を変更してこれまでの工程と同様の工程を経て得られた積層体(積層体Aとは半導体素子の種類が異なる)であってもよい。積層体Bにおいても積層体Aと同様、半導体チップ(半導体素子)の第1面側に硬化性フィルムが貼り合わされている。硬化性フィルムを貼り付けてある第1の面同士で積層体を接続するので、積層体の半導体チップ間の空間は硬化性フィルムによって十分に充填されることになる。
【0106】
積層体Aと積層体Bとの電気的接続は公知のフリップチップボンダーを用いて行うことができる。通常、フリップチップ接続は加熱及び加圧条件下で行われる。これにより、接続用部材を覆っていた硬化性フィルムが軟化し、加圧と共に接続用部材が硬化性フィルムを押しのけるようにして進み、積層体A及びBの接続用部材が互いに接触することになる。一般的に、フリップチップ接続の際の加熱条件としては240〜300℃であり、加圧条件としては0.5〜490Nである。
【0107】
積層体Aと積層体Bとの電気的接続を行った後は、硬化性フィルムを加熱により硬化させる。これにより、硬化性フィルム同士を接合して半導体素子の表面を保護することができると共に、半導体素子間の接続信頼性を確保することができる。硬化性フィルムの硬化のための加熱温度としては特に限定されず、120〜200℃程度であればよい。
【0108】
次に、3次元実装された半導体チップを備える半導体装置全体を保護するために封止工程を行ってもよい。封止工程は、封止樹脂を用いて行われる。このときの封止条件としては特に限定されないが、通常、175℃で60秒間〜90秒間の加熱を行うことにより、封止樹脂の熱硬化が行われるが、本発明はこれに限定されず、例えば165℃〜185℃で、数分間キュアすることができる。当該工程における熱処理においては、封止樹脂だけでなく硬化性フィルムの熱硬化も同時に行われる。これにより、封止樹脂及び硬化性フィルムの双方が、熱硬化の進行に伴い硬化収縮をする。その結果、封止樹脂の硬化収縮に起因して半導体チップに加えられる応力は、硬化性フィルムが硬化収縮することにより相殺ないし緩和することができる。また、当該工程により、硬化性フィルムを完全に又はほぼ完全に熱硬化させることができ、優れた密着性で半導体素子の裏面に貼着させることができる。さらに、本発明に係る硬化性フィルムは、未硬化状態であっても当該封止工程の際に、封止材と共に熱硬化させることができるので、硬化性フィルムを熱硬化させるための工程を新たに追加する必要がない。
【0109】
前記封止樹脂としては、絶縁性を有する樹脂(絶縁樹脂)であれば特に制限されず、公知の封止樹脂等の封止材から適宜選択して用いることができるが、弾性を有する絶縁樹脂がより好ましい。封止樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、前記に例示のエポキシ樹脂等が挙げられる。また、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物による封止樹脂としては、樹脂成分として、エポキシ樹脂以外に、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂(フェノール樹脂など)や、熱可塑性樹脂などが含まれていてもよい。なお、フェノール樹脂としては、エポキシ樹脂の硬化剤としても利用することができ、このようなフェノール樹脂としては、前記に例示のフェノール樹脂などが挙げられる。
【0110】
以上のようにして、半導体素子の3次元実装を容易にかつ確実に行うことができる。さらに別途、マウント工程とダイシング工程との間でさらに半導体ウェハの第2の面に硬化性フィルムを貼り合わせておき、その後の工程を行うことにより、半導体素子の両面に硬化性フィルムが貼り合わされた積層体C1を作製することができる。この積層体C1を前記積層体Bの代わりに用いることで、積層体A上に3次元実装された積層体C1の上面(積層体Aとは反対側の面)にも硬化性フィルムが貼り合わされていることになるので、積層体C2(積層体C1と異なり、両面に硬化性フィルムが貼り合わされている)をさらに積層体C1に電気的に接続する際にも積層体C1と積層体C2との間の空間の充填が可能になる。以上の手順を繰り返すことにより、半導体素子を複数段に組み合わせた3次元実装が可能となる。
【0111】
(積層フィルムの使用)
本発明の積層フィルムは、上述のように、接続用部材を介して電気的に接続された半導体素子間の空間を充填するために使用することができる。当該積層フィルムの使用は、半導体ウェハの接続用部材が形成された面と前記積層フィルムの硬化性フィルムとを貼り合わせ、半導体ウェハをダイシングして半導体素子を形成し、前記硬化性フィルムと前記半導体との積層体を前記ダイシングシートからピックアップし、前記接続用部材を介して前記積層体を電気的に接続し、かつ前記硬化性フィルム間を接合して半導体素子間の空間を前記硬化性フィルムで充填し、前記接続用部材の高さX(μm)と前記硬化フィルムの厚さY(μm)とが、下記の関係を満たすようにして行うことができる。
1.0≦Y/X≦1.7
【0112】
前記積層フィルムと半導体ウェハとの貼り合わせ、半導体ウェハのダイシング、積層体のピックアップ、半導体素子の電気的接続及び硬化性フィルムの接合は、前記半導体装置の製造方法の手順に準じて行うことができる。前記半導体装置の製造方法では、半導体ウェハの両面に接続用部材(バンプ等)が形成されているが、片面にのみ接続用部材が形成されていてもよい。
【0113】
当該積層フィルムの使用の際に、前記接続用部材の高さX(μm)と前記硬化フィルムの厚さY(μm)とが、上記関係を満たすようにしているので、半導体チップの電気的接続の際に、硬化性フィルム間でのボイドの発生を防止することができると共に、半導体チップ間からの硬化性フィルムのはみ出しを抑制することができる。
【実施例】
【0114】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、部とあるのは、重量部を意味する。
【0115】
<基材の準備>
基材として、厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)を準備した。
【0116】
<ダイシングシートの作製>
(粘着剤組成物溶液A)
冷却管、窒素導入管、温度計、及び撹拌装置を備えた反応容器に、アクリル酸−2−エチルヘキシル(以下、「2EHA」ともいう。)86.4部、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル(以下、「HEA」ともいう。)13.6部、過酸化ベンゾイル0.2部、及びトルエン65部を入れ、窒素気流中で61℃にて6時間重合処理をし、アクリル系ポリマーAを得た。
【0117】
アクリル系ポリマーAに2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(以下、「MOI」ともいう。)14.6部を加え、空気気流中で50℃にて48時間、付加反応処理をし、アクリル系ポリマーA’を得た。
【0118】
次に、アクリル系ポリマーA’100部に対し、ポリイソシアネート化合物(商品名「コロネートL」、日本ポリウレタン(株)製)8部、及び光重合開始剤(商品名「イルガキュア651」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)5部を加えて、粘着剤組成物溶液Aを得た。
【0119】
実施例及び比較例において、準備した上記基材上に、得られた粘着剤組成物溶液Aを塗布、乾燥して粘着剤層を形成することによりダイシングシートを得た。作製した粘着剤層の厚さは表1に示すとおりである。
【0120】
<硬化性フィルムの作製>
(硬化性フィルムa)
エポキシ当量142g/eqのナフタレン型エポキシ樹脂(DIC社製、製品名:HP4032D)31.6部、エポキシ当量169g/eqのトリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂(大日本インキ社製、製品名:EPPN501HY)7.9部、フェノール当量175g/eqのアラルキル型フェノール樹脂(明和化成(株)社製、製品名:MEHC−7851S)11.8部、フェノール当量175g/eqのアラルキル型フェノール樹脂(明和化成(株)社製、製品名:MEHC−7851H)35.5部、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル−メタクリル酸グリシジル共重合体(ナガセケムテックス(株)社製、製品名:SG−28GM)12部、及び硬化触媒としてのトリフェニルホスフィン(四国化成工業(株)製)1部をメチルエチルケトンに溶解し、無機充填剤((株)アドマテックス社製、製品名:SE2050MC、平均粒径0.5μm)100部を添加して、固形分濃度が35重量%となる接着剤組成物の溶液を調製した。
【0121】
この接着剤組成物の溶液を、剥離ライナー(セパレータ)としてシリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させることにより、表1に記載の厚さを有する硬化性フィルムaを作製した。
【0122】
(硬化性フィルムb)
エポキシ当量169g/eqのトリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂(大日本インキ社製、製品名:EPPN501HY)14.8部、エポキシ当量185g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ社製、製品名:YL−980)34.4部、フェノール当量175g/eqのアラルキル型フェノール樹脂(明和化成(株)社製、製品名:MEHC−7851S)22.6部、フェノール当量105g/eqのフェノールノボラック樹脂(群栄化学(株)製、製品名:GS−180)15.1部、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル−アクリル酸エチル共重合体(ナガセケムテックス(株)社製、製品名:SG−P3)12部、及び硬化触媒としてのトリフェニルホスフィン(四国化成工業(株)製)1部をメチルエチルケトンに溶解し、無機充填剤((株)アドマテックス社製、製品名:SE2050MC、平均粒径0.5μm)100部を添加して、固形分濃度が40重量%となる接着剤組成物の溶液を調製した。
【0123】
この接着剤組成物の溶液を、剥離ライナー(セパレータ)としてシリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させることにより、表1に記載の厚さを有する硬化性フィルムbを作製した。
【0124】
(硬化性フィルムc)
エポキシ当量185g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ社製、製品名:YL−980)5部、エポキシ当量198g/eqのクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(東都化成社製、製品名:KI−3000−4)15部、フェノール当量175g/eqのアラルキル型フェノール樹脂(明和化成(株)社製、製品名:MEHC−7851H)22.3部、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル−アクリル酸エチル共重合体(ナガセケムテックス(株)社製、製品名:SG−70L)146部、及び硬化触媒としてのトリフェニルホスフィン(四国化成工業(株)製)1部をメチルエチルケトンに溶解し、無機充填剤((株)アドマテックス社製、製品名:SE2050MC、平均粒径0.5μm)71部を添加して、固形分濃度が41重量%となる接着剤組成物の溶液を調製した。
【0125】
この接着剤組成物の溶液を、剥離ライナー(セパレータ)としてシリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させることにより、表1に記載の厚さを有する硬化性フィルムcを作製した。
【0126】
(硬化性フィルムd)
エポキシ当量185g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ社製、製品名:YL−980)5部、エポキシ当量198g/eqのクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(東都化成社製、製品名:KI−3000−4)15部、フェノール当量175g/eqのアラルキル型フェノール樹脂(明和化成(株)社製、製品名:MEHC−7851H)22.3部、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル−アクリル酸エチル共重合体(ナガセケムテックス(株)社製、製品名:SG−70L)124.4部、及び硬化触媒としてのトリフェニルホスフィン(四国化成工業(株)製)1部をメチルエチルケトンに溶解し、無機充填剤((株)アドマテックス社製、製品名:SE2050MC、平均粒径0.5μm)124.4部を添加して、固形分濃度が34重量%となる接着剤組成物の溶液を調製した。
【0127】
この接着剤組成物の溶液を、剥離ライナー(セパレータ)としてシリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させることにより、表1に記載の厚さを有する硬化性フィルムdを作製した。
【0128】
(硬化性フィルムe)
エポキシ当量185g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ社製、製品名:YL−980)5部、エポキシ当量198g/eqのクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(東都化成社製、製品名:KI−3000−4)15部、フェノール当量175g/eqのアラルキル型フェノール樹脂(明和化成(株)社製、製品名:MEHC−7851H)22.3部、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル−アクリル酸エチル共重合体(ナガセケムテックス(株)社製、製品名:SG−70L)342部、及び硬化触媒としてのトリフェニルホスフィン(四国化成工業(株)製)1部をメチルエチルケトンに溶解し、無機充填剤((株)アドマテックス社製、製品名:SE2050MC、平均粒径0.5μm)149.5部を添加して、固形分濃度が32重量%となる接着剤組成物の溶液を調製した。
【0129】
この接着剤組成物の溶液を、剥離ライナー(セパレータ)としてシリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させることにより、表1に記載の厚さを有する硬化性フィルムeを作製した。
【0130】
<積層フィルムの作製>
さらに、各硬化性フィルムを上述のダイシングシートの粘着剤層上に転写して、積層フィルムを得た。なお、ラミネートの条件は下記の通りである。
【0131】
<ラミネート条件>
ラミネーター装置:ロールラミネーター
ラミネート速度:1mm/min
ラミネート圧力:0.5MPa
ラミネーター温度:室温(23℃)
【0132】
(最低溶融粘度の測定)
硬化性フィルム(熱硬化前)の最低溶融粘度を測定した。最低溶融粘度の測定は、レオメーター(HAAKE社製、RS−1)を用いて、パラレルプレート法により測定した値である。より詳細には、ギャップ100μm、回転コーン直径20mm、回転速度10s−1の条件にて、50℃から200℃の範囲で溶融粘度を測定し、その際に得られる溶融粘度の最低値を最低溶融粘度とした。結果を表1に示す。
【0133】
(粘着剤層と硬化性フィルムとの剥離力の測定)
片面にバンプが形成されている片面バンプ付きシリコンウェハを用意し、この片面バンプ付きシリコンウェハのバンプが形成されている側の面に、実施例及び比較例の積層フィルムを、硬化性フィルムを貼り合わせ面として貼り合わせた。片面バンプ付きシリコンウェハとしては、以下のものを用いた。また、貼り合わせ条件は以下の通りである。表1には、硬化フィルムの厚さY(μm)の接続用部材の高さX(μm)に対する比(Y/X)も併せて示す。
【0134】
<片面バンプ付きシリコンウェハ>
シリコンウェハの厚さ:200μm
低誘電材料層の材質(バンプ側面):SiN膜
低誘電材料層の厚さ:0.3μm
バンプの高さ:60μm
バンプのピッチ:150μm
バンプの材質:ハンダ
【0135】
<貼り合わせ条件>
貼り合わせ装置:DR−3000II(日東精機(株)社製)
ラミネート速度:0.1mm/min
ラミネート圧力:0.5MPa
ラミネーター温度:75℃
【0136】
次に、粘着剤層と硬化性フィルムとの間での剥離力を測定した。まず、基材側から紫外線を照射し、粘着剤層を硬化させた。紫外線照射には、紫外線照射装置(製品名:UM810、製造元:日東精機(株)製)用い、紫外線放射量は、400mJ/cmとした。その後、粘着剤層と硬化性フィルムとの剥離力(N/20mm)を測定した。具体的には、引張試験として、商品名「オートグラフAGS−H」((株)島津製作所製)を用い、温度23±2℃、剥離角度180°、剥離速度300mm/min、チャック間距離100mmの条件下で、T型剥離試験(JIS K6854−3)を行った。結果を、「紫外線照射後の粘着剤層と硬化性フィルムとの剥離力」として、表1に示す。
【0137】
(ピックアップ性)
上記積層フィルムを用いて、以下の要領で、実際に片面及び両面にバンプが形成されたシリコンウェハのダイシングをそれぞれ行った後、各積層フィルムのピックアップ性能を評価した。
【0138】
上記剥離力評価の手順に従って片面バンプ付きシリコンウェハと積層フィルムとを貼り合わせた後、下記条件にてダイシングを行った。また、ダイシングは10mm角のチップサイズとなる様にフルカットした。また、両面にバンプが形成された両面バンプ付きシリコンウェハについては、いずれかの面と積層フィルムとを貼り合わせた後、同様の手順を行った。両面バンプ付きシリコンウェハとしては、以下のものを用いた。
【0139】
<両面バンプ付きシリコンウェハ>
シリコンウェハの厚さ:200μm
低誘電材料層の材質(両面):SiN膜
低誘電材料層の厚さ:0.3μm
バンプの高さ:60μm
バンプのピッチ:150μm
バンプの材質:ハンダ
【0140】
<ダイシング条件>
ダイシング装置:商品名「DFD−6361」ディスコ社製
ダイシングリング:「2−8−1」(ディスコ社製)
ダイシング速度:30mm/sec
ダイシングブレード:
Z1;ディスコ社製「203O−SE 27HCDD」
Z2;ディスコ社製「203O−SE 27HCBB」
ダイシングブレード回転数:
Z1;40,000rpm
Z2;45,000rpm
カット方式:ステップカット
ウェハチップサイズ:10.0mm角
【0141】
次に、上記剥離力測定手順における紫外線照射条件にて粘着剤層を紫外線硬化した。その後、各ダイシングフィルムの基材側からニードルによる突き上げ方式で、硬化性フィルムと片面バンプ付き半導体チップとの積層体(片面バンプ)、及び硬化性フィルムと両面バンプ付き半導体チップとの積層体(両面バンプ)をピックアップした。ピックアップ条件は下記のとおりである。100個の積層体をそれぞれピックアップし、ピックアップ不良が1つも生じなかった場合を「○」、1つでもピックアップ不良が生じた場合を「×」として評価した。結果を表1に示す。
【0142】
<ピックアップ条件>
ダイボンド装置:(株)新川製、装置名:SPA−300
ニードル本数:9本
ニードル突き上げ量:350μm(0.35mm)
ニードル突き上げ速度:5mm/秒
吸着保持時間:80ms
【0143】
(硬化性フィルムによる半導体チップの接合時のフィルム接合性、フィルム間ボイドの発生の有無、フィルムのはみ出しの評価)
上記ピックアップ性評価に記載の手順にてピックアップした上記積層体(片面バンプ)1組を硬化性フィルムが対向するようにして接合させた。上記積層体(両面バンプ)1組についても同様に接合させた。接合条件としては、接合温度260℃、接合圧力20N、圧力負荷時間5秒であった。その際、硬化性フィルム同士を接合(接着)することができた場合を「○」、接合できなかった場合を「×」として評価した。また、接合の際の硬化性フィルム間におけるボイドの発生の有無を超音波映像装置FS200II(日立建機ファインテック(株)製)を用いて観察し、ボイドが発生しなかった場合を「○」、発生した場合を「×」として評価した。さらに、接合時において硬化性フィルムが半導体チップ間の空間からはみ出したか否かを光学式顕微鏡(倍率:40倍)を用いて観察し、はみ出しがなかったか、又ははみ出しても半導体チップの接合側の面とは反対側の面にまではみ出し部分が到達しなかった場合を「○」、はみ出し部分が半導体チップの接合側の面とは反対側の面にまで到達した場合を「×」として評価した。それぞれの結果を表1に示す。
【0144】
【表1】

【0145】
表1から分かるように、実施例に係る積層フィルムでは、粘着剤層と硬化性フィルムとの間での剥離力が小さくピックアップ性も良好であった。また、硬化性フィルムを介して半導体チップを接合する際の硬化性フィルム同士の接合性が良好であり、硬化性フィルム間でのボイドの発生もなく、半導体チップ間からの硬化性フィルムのはみ出しも抑制されていた。一方、比較例1の積層フィルムでは、硬化性フィルムの最低溶融粘度が1×10Pa・sを超えて高すぎたため、硬化性フィルム同士が接合しなかった。反対に、比較例2の積層フィルムでは、硬化性フィルムの最低溶融粘度が1×10Pa・sを下回り低すぎたため、接合時の硬化性フィルム間のボイドと硬化性フィルムのはみ出しが生じた。比較例3の積層フィルムでは、硬化性フィルムの厚さの値がバンプの高さの値より小さすぎたために、硬化性フィルム同士の接合ができず、その結果、半導体チップ間の空間を充填することができなかった。比較例4の積層フィルムでは、半導体チップ間の空間の充填はできたものの、硬化性フィルムの厚さの値がバンプの高さの値より大きすぎたために、硬化性フィルムのはみ出しが生じた。比較例3及び4の結果より、本発明の積層フィルムを用いて半導体チップを3次元実装する際には、硬化性フィルムの厚さY(μm)のバンプ(接続用部材)の高さX(μm)に対する比(Y/X)が1.0以上1.7以下であることが好ましいことが分かる。以上の点は、片面及び両面バンプ付きチップのいずれについても妥当するといえる。
【符号の説明】
【0146】
1 基材
2 粘着剤層
3、3’ 硬化性フィルム
4 半導体ウェハ
4a (半導体ウェハの)第1の面
4b (半導体ウェハの)第2の面
5、5A、5B 半導体チップ
10、11 積層フィルム
20 半導体装置
30 被着体
41a、41a’ (半導体ウェハの第1の面の)接続用部材
41b、41b’ (半導体ウェハの第2の面の)接続用部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続用部材を介して電気的に接続された半導体素子間の空間を充填するための積層フィルムであって、
基材上に粘着剤層が積層されたダイシングシートと、前記粘着剤層上に積層された硬化性フィルムとを備え、
前記硬化性フィルムの50〜200℃における最低溶融粘度は、1×10Pa・s以上1×10Pa・s以下である積層フィルム。
【請求項2】
前記硬化性フィルムは、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂を含む接着剤組成物により構成されている請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記接着剤組成物は、アクリル系共重合体をさらに含む請求項2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
接続用部材を介して電気的に接続された半導体素子間の空間を充填するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層フィルムの使用であって、
半導体ウェハの接続用部材が形成された面と前記積層フィルムの硬化性フィルムとを貼り合わせ、
半導体ウェハをダイシングして半導体素子を形成し、
前記硬化性フィルムと前記半導体との積層体を前記ダイシングシートからピックアップし、
前記接続用部材を介して前記積層体を電気的に接続し、かつ前記硬化性フィルム間を接合して半導体素子間の空間を前記硬化性フィルムで充填し、
前記接続用部材の高さX(μm)と前記硬化フィルムの厚さY(μm)とが、下記の関係を満たす積層フィルムの使用。
1.0≦Y/X≦1.7


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−30766(P2013−30766A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−141067(P2012−141067)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】